説明

索条ケース

【課題】ダストの侵入を防止することが可能なダスト侵入防止構造を備えたチェーンケースなどの索条ケースを提供する。
【解決手段】エンジンの側面に固定されて、クランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達する無端のチェーンを覆い、且つ、クランクシャフト孔11に挿通されたクランクシャフトの端部に固定されているクランクプーリ2が、表面側に配設されているチェーンケース1において、クランクプーリ2とチェーンケース1の表面側との間にクランクプーリ2の回転方向に対向してダストがクランクシャフト孔11からチェーンケース1内に侵入するのを防止するダスト侵入防止部(メンテナンスカバー13の下端部、折り返し部13a、ボルト14a)を設ける。また、メンテナンスカバー13の一部13b及びボルト14aは、ダスト侵入防止用のリブ21の切り欠き部21aに位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチェーンケースなどの索条ケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チェーンケースは車両のエンジン(シリンダヘッド及びシリンダブロック)の側面に固定され、クランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達するための無端のチェーンを覆っている。一方、チェーンケースの表面側にはクランクプーリが設けられている。クランクプーリは、クランクシャフト孔に挿通されたクランクシャフトの端部に固定されている。クランクプーリには補機ベルトが巻回されており、この補機ベルトを介してクランクシャフトの回転力を、オルタネータや空調のコンプレッサなどの補機に伝達するようになっている。
【0003】
詳述すると、前記クランクシャフトはオイルシールに挿通されており、クランクシャフトの回転停止時はオイルシールの緊迫力によって、クランクシャフトの回転時はクランクシャフトとオイルシールの間の僅かな隙間からエンジン内に空気が吸い込まれることによって、エンジン内からのオイル漏れを確実に防止することができるようになっている。しかし、クランクプーリの回転によって巻き込まれたダストが、前記隙間に詰まったり、ダストによってシール部位に傷や摩耗が生じると、オイル漏れを確実に防止することができなくなってしまう。
【0004】
なお、チェーンケースについて記載されている先行技術文献としては、例えば下記の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−48612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来のチェーンケースにおいて、オイル漏れを確実に防止するためにチェーンケース内へのダストの侵入を、できる限り少なくすることが望ましい。このため、ダスト侵入防止構造の開発が望まれていた。
【0007】
従って本発明は上記の事情に鑑み、ダストの侵入を防止することが可能なダスト侵入防止構造を備えたチェーンケースなどの索条ケースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する第1発明の索条ケースは、エンジンの側面に固定されて、クランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達する無端の索条を覆い、且つ、クランクシャフト孔に挿通されたクランクシャフトの端部に固定されているクランクプーリが、表面側に配設されている索条ケースにおいて、
前記クランクプーリと前記索条ケースの表面側との間に前記クランクプーリの回転方向に対向してダストが前記クランクシャフト孔から前記索条ケース内に侵入するのを防止するダスト侵入防止部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、第2発明の索条ケースは、第1発明の索条ケースにおいて、
前記ダスト侵入防止部は、メンテナンス用の孔を塞ぐメンテナンスカバーに形成されたことを特徴とする。
【0010】
また、第3発明の索条ケースは、第2発明の索条ケースにおいて、
前記ダスト侵入防止部は、メンテナンス用の孔を塞ぐメンテナンスカバーに形成された突起部と、前記クランクプーリと重なり合う前記メンテナンスカバーの一部に設けられて前記メンテナンスカバーを索条ケースに固定するボルトであることを特徴とする。
【0011】
また、第4発明の索条ケースは、第3発明の索条ケースにおいて、
前記クランクシャフト孔の周囲を切り欠き部を備えて囲むように形成されたダスト侵入防止用のリブを有し、
前記メンテナンスカバーの一部及び前記ボルトが、前記切り欠き部に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明の索条ケースによれば、前記クランクプーリの回転によってダストが巻き上げられたとしても、前記クランクプーリと前記索条ケースの表面側との間に前記クランクプーリの回転方向に対向してダストが前記クランクシャフト孔から索条ケース内に侵入するのを防止(抑制)するダスト侵入防止部が設けられていることを特徴としているため、クランクプーリの回転によって空気とともに巻き上げられたダストが、ダスト侵入防止部に当たって分離され、このダスト分離後の空気が、クランクシャフト孔から索条ケース内へ導入される。
【0013】
第2発明の索条ケースによれば、前記ダスト侵入防止部は、メンテナンス用の孔を塞ぐメンテナンスカバーに形成されたことを特徴としており、メンテナンスカバーをダスト侵入防止部として利用するため、新たな部材をダスト侵入防止部材として設ける必要がない。従って、部品点数の増加などを招くことなくダストの侵入防止構造を実現することができるため、製造コストの増加を抑えることができる。
【0014】
第3発明の索条ケースによれば、前記ダスト侵入防止部は、メンテナンス用の孔を塞ぐメンテナンスカバーに形成された突起部と、前記クランクプーリと重なり合う前記メンテナンスカバーの一部に設けられて前記メンテナンスカバーを索条ケースに固定するボルトであることを特徴としているため、第2発明と同様の効果を得ることがき、しかも、メンテナンスカバーの突起部によって分離されなかったダストが、クランクシャフト孔から索条ケース内へ導入されるのを、ボルトによって防止することができるため、より確実にダストの侵入を防止することができる。
【0015】
第4発明の索条ケースによれば、前記クランクシャフト孔の周囲を切り欠き部を備えて囲むように形成されたダスト侵入防止用のリブを有し、前記メンテナンスカバーの一部及び前記ボルトが、前記切り欠き部に位置していることを特徴としているため、切り欠き部からの空気の導入と、切り欠き部からのダスト侵入の防止とを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明の実施の形態例に係るチェーンケースの表面図、(b)は前記チェーンケースの裏面図である。
【図2】(a)はクランクプーリを取り外した状態を示す前記チェーンケースの表面図、(b)はクランクプーリ及びメンテナンスカバーを取り外した状態を示す前記チェーンケースの表面図である。
【図3】(a)は前記チェーンケースにおけるクランクプーリ及びメンテナンスカバーの部分を拡大して示す斜視図、(b)は(a)のA−A線矢視断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1(a)に示すようにチェーンケース1の表面側にはクランクプーリ2が設けられている一方、図1(b)に示すようにチェーンケース1の裏面側には無端のチェーン3が設けられている。
【0019】
図1(b)に示すようにチェーン3は、エンジン4(図3参照)の下部(シリンダブロック側)に設けられたクランクシャフト5に固定されているスプロケット6と、エンジン4(図3参照)の上部(シリンダヘッド側)に設けられたカムシャフト7に固定されているスプロケット8とに巻回されており、クランクシャフト6の回転力をカムシャフト8に伝達する。チェーンケース1は、図3に示すようにボルト(図示省略)によってエンジン(シリンダヘッド及びシリンダブロック)4の側面に固定されることにより、チェーン3を覆う。
【0020】
図2(a),(b)に示すように、チェーンケース1の下部にはクランクシャフト孔11と、テンショナー(図示省略)などのメンテナンス用である孔12とが形成されている。クランクシャフト孔11はチェーンケース1の幅方向(左右方向)の中央部に形成され、メンテナンス用の孔12はクランクシャフト孔11の側方に形成されている。メンテナンス用の孔12は、通常、図2(a)に示すようにメンテナンスカバー13によって覆われている。メンテナンスカバー13は、メンテナンス用の孔12の周縁部に形成されたねじ穴15a,15b,15cのそれぞれにボルト14a,14b,14cをねじ込むことにより、チェーンケース1に固定される。なお、図示例ではメンテナンス用の孔12が略三角形状であるのに合せて、メンテナンスカバー13も略三角形状となっている。
【0021】
図1(a)及び図3(a),(b)に示すように、クランクプーリ2はクランクシャフト孔11に挿通されたクランクシャフト5の端部5aにボルト16で固定されており、カムシャフト5とともに回転する。クランクプーリ2は、図1(a)のようにクランクプーリ2を表面側から見て、矢印B1,B2のように時計回り(右回り)に回転する。クランクプーリ2には補機ベルト17が巻回されており、この補機ベルト17を介してクランクシャフト5の回転力が、オルタネータや空調のコンプレッサなどの補機(図示省略)に伝達されるようになっている。
【0022】
また、図示は省略するが、クランクシャフト5はオイルシールに挿通されており、クランクシャフト5の回転時はクランクシャフト孔11からチェーンケース1内に導入された空気が、クランクシャフト5とオイルシールの間の隙間からエンジン4内に吸い込まれることによって、エンジン4内からのオイル漏れを確実に防止することができるようになっている。しかし、クランクプーリ2の回転によって巻き込まれたダストが、空気とともにクランクシャフト孔11からチェーンケース1内に侵入してしまうと、この侵入ダストが前記隙間に詰まったり、シール部位に傷や摩耗が生じることによって、クランクシャフト5の回転停止時はオイルシールが軸まわり一部で隙間が発生したり、クランクシャフト5の回転時は前記隙間から空気が十分に吸い込まれなくなるため、オイル漏れを確実に防止することができなくなってしまう。
【0023】
従って、ダストの侵入を防止するため、図2(a),(b)に示すようにチェーンケース1にはダスト侵入防止用のリブ21が、クランクシャフト孔11の周囲を囲むように形成されている。また、リブ21は、周方向の一部が切り欠かれることにより、左右両側に切り欠き部21aと切り欠き部21bとが設けられている。これらの切り欠き部21a,21bは、クランクプーリ2に引きずられて回転する空気とそれに含まれるダストの流れを乱すことでダストを分離し、クランクシャフト孔11へのダスト巻き込みを防止するとともにクランクシャフト孔11への空気の導入路を確保するために設けられている。
【0024】
しかしながら、切り欠き部21a,21bを通じてダストをクランクシャフト孔11へ導いてしまうおそれがある。特に切り欠き部21aでは、矢印B1のようにクランクプーリ2が下から上に向かって回転する側に位置するため、クランクプーリ2の回転によって下方にあるダストが巻き上げられ空気とともにクランクシャフト孔11へ導いてしまうおそれがある。
【0025】
このため、図1(a)、図2(a)、図3(a),(b)に示すように本実施の形態例では、ダスト侵入防止部材(ダスト侵入防止部)としてメンテナンスカバー13をチェーンケース1の表面側とクランクプーリ2との間に設け、このメンテナンスカバー13の下端部をクランクプーリ2の回転方向B1に対向させている。
【0026】
従って、図2(a)及び図3(b)に示すように、矢印B1のようなクランクプーリ2の回転によって形成される空気流(矢印C1)に対し、メンテナンスカバー13の下端部が正対することにより、空気とともに巻き上げられたダストが、矢印C2の如くメンテナンスカバー13の下端部に当たって分離される。このダスト分離後の空気が、矢印C3の如く切り欠き部21aを介してクランクシャフト孔11へ流れることにより、このクランクシャフト孔11からチェーンケース1内へ導入される。なお、メンテナンスカバー13の下端部に折り返し部13aを設けることにより、更にダスト分離の効果が向上する。
【0027】
また、図1(a)及び図2(a)に示すように、メンテナンスカバー13の一部(クランクプーリ2側の部分)13bは、クランクプーリ2と重なり合う(即ちクランクプーリ2の裏面側に位置する)ため、折り返し部13aを設けることは難しいが、クランクプーリ2と干渉しない部分にメンテナンスカバー13の取り付け用のボルト14aが設けられている。また、メンテナンスカバー13の一部13b及びメンテナンスカバー13の一部13bに設けられたボルト14aは、切り欠き部21aに位置している。
【0028】
従って、図2(a)及び図3(b)に示すように、メンテナンスカバー13の下端部や折り返し部13aで分離されなかったダストが、矢印C3の如く切り欠き部21へと流れる空気に含まれていた場合、この空気に含まれているダストが、クランクシャフト孔11からチェーンケース1内へ導入されるのを、ボルト14aによって防止する。
【0029】
以上のように、本実施の形態例のチェーンケース1によれば、クランクプーリ2の回転によってダストが巻き上げられる側で且つクランクシャフト孔11の近傍には、前記ダストがクランクシャフト孔11からチェーンケース1内に侵入するのを防止するダスト侵入防止部材(メンテナンスカバー13の下端部、折り返し部13a、ボルト14a)が設けられていることを特徴としているため、即ち、クランクプーリ2とチェーンケース1の表面側との間にクランクプーリ2の回転方向B1に対向してダストがクランクシャフト孔11からチェーンケース1内に侵入するのを防止するダスト侵入防止部(メンテナンスカバー13の下端部、折り返し部13a、ボルト14a)が設けられていることを特徴としてるため、クランクプーリ2の回転によって空気とともに巻き上げられたダストが、ダスト侵入防止部材(メンテナンスカバー13の下端部、折り返し部13a、ボルト14a)に当たって分離され、このダスト分離後の空気が、クランクシャフト孔11からチェーンケース1内へ導入される。
【0030】
また、本実施の形態例のチェーンケース1によれば、ダスト侵入防止部材は、メンテナンス用の孔12を塞ぐメンテナンスカバー13の下端部やメンテナンスカバー13に形成された折り返し部13aと、クランクプーリ2と重なり合うメンテナンスカバー13の一部13bに設けられてメンテナンスカバー13をチェーンケース1に固定するボルト14aであることを特徴としており、メンテナンスカバー13の下端部や折り返し部13aをダスト侵入防止部材として利用するため、新たな部材をダスト侵入防止部材として設ける必要がない。従って、部品点数の増加などを招くことなくダストの侵入防止構造を実現することができるため、製造コストの増加を抑えることができる。しかも、メンテナンスカバー13の下端部や折り返し部13aによって分離されてかったダストが、クランクシャフト孔11からチェーンケース1内へ導入されるのを、ボルト14aによって防止することができるため、より確実にダストの侵入を防止することができる。
【0031】
また、本実施の形態例のチェーンケース1によれば、クランクシャフト孔11の周囲を囲むように形成され、且つ、少なくとも前記ダストが巻き上げられる側には切り欠き部21aを有するダスト侵入防止用のリブ21(即ち、クランクシャフト孔11の周囲を切り欠き部21aを備えて囲むように形成されたダスト侵入防止用のリブ21)を有し、メンテナンスカバー13の一部13b及びボルト14aが、切り欠き部21aに位置していることを特徴としているため、切り欠き部21aからの空気の導入と、切り欠き部21aからのダスト侵入の防止とを実現することができる。
【0032】
なお、上記ではダスト侵入防止部としてメンテナンスカバー13について説明したが、必ずしもメンテナンスカバー13の下端部や折り返し部13aなどの突起部に限定するものでなく、クランクプーリ2の回転方向に対向して設けられ、クランクプーリ2の回転により形成される空気流に対し正対する部材、例えばチェーンケース1の表面に直接形成した突起部であってもよい。
【0033】
また、上記ではチェーン3によってクランクシャフト5の回転力をカムシャフト7に伝達する場合について説明したが、これに限定するものでなく、チェーン以外の索条(例えばベルト)によってクランクシャフト5の回転力をカムシャフト7に伝達する場合にも本発明を適用することができる。即ち、本発明はチェーンケースだけでなく、チェーンケース以外の索条ケース(例えばベルトケース)にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明はチェーンケースなどの索条ケースに関するものであり、チェーンケースなどの索条ケース内へのダストの侵入を防止することが可能なダスト侵入防止構造を、索条ケースに設ける場合に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0035】
1 チェーンケース
2 クランクプーリ
3 チェーン
4 エンジン
5 クランクシャフト
5a クランクシャフトの端部
6 スプロケット
7 カムシャフト
8 スプロケット
11 クランクシャフト孔
12 メンテナンス用の孔
13 メンテナンスカバー
13a メンテナンスカバーの折り返し部(突起部)
13b メンテナンスカバーの一部
14a,14b,14c ボルト
15a,15b,15c ねじ穴
16 ボルト
17 補機ベルト
21 ダスト侵入防止用のリブ
21a,21b 切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの側面に固定されて、クランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達する無端の索条を覆い、且つ、クランクシャフト孔に挿通されたクランクシャフトの端部に固定されているクランクプーリが、表面側に配設されている索条ケースにおいて、
前記クランクプーリと前記索条ケースの表面側との間に前記クランクプーリの回転方向に対向してダストが前記クランクシャフト孔から前記索条ケース内に侵入するのを防止するダスト侵入防止部が設けられていることを特徴とする索条ケース。
【請求項2】
請求項1に記載の索条ケースにおいて、
前記ダスト侵入防止部は、メンテナンス用の孔を塞ぐメンテナンスカバーに形成されたことを特徴とする索条ケース。
【請求項3】
請求項2に記載の索条ケースにおいて、
前記ダスト侵入防止部は、メンテナンス用の孔を塞ぐメンテナンスカバーに形成された突起部と、前記クランクプーリと重なり合う前記メンテナンスカバーの一部に設けられて前記メンテナンスカバーを索条ケースに固定するボルトであることを特徴とする索条ケース。
【請求項4】
請求項3に記載の索条ケースにおいて、
前記クランクシャフト孔の周囲を切り欠き部を備えて囲むように形成されたダスト侵入防止用のリブを有し、
前記メンテナンスカバーの一部及び前記ボルトが、前記切り欠き部に位置していることを特徴とする索条ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−76351(P2013−76351A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216035(P2011−216035)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】