説明

紫外線遮蔽膜付きガラス板およびその製造方法

【課題】紫外線遮蔽能が高く、機械的耐久性、薬品耐性および耐光性に優れる紫外線遮蔽膜付きガラス板およびその製造法を提供することを課題とする。
【解決手段】ガラス基板と該ガラス基板の少なくとも片面に設けられた紫外線遮蔽膜とを有し、前記紫外線遮蔽膜が、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料を含有する酸化ケイ素系マトリクスで構成された、紫外線遮蔽膜付きガラス板および
ガラス基板の少なくとも片面に、加水分解縮合反応により酸化ケイ素ゲルとなりうるケイ素化合物、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料、水、有機溶媒、および酸を含む組成物を塗布しその塗膜を形成する工程と、前記組成物の塗膜から前記有機溶媒を除去するとともに前記ケイ素化合物から酸化ケイ素系マトリクスを形成して紫外線遮蔽膜を形成する工程とを含む紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮蔽膜付きガラス板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用ガラスや建築用ガラスを通して車内や建物内に流入する紫外線の人体や内装材に対する影響が問題視されるようになってきている。なかでも、UV−Aと呼ばれる比較的波長の長い(320〜400nm)紫外線は、地表に到達する太陽光に含まれる紫外線としてはもっとも多く含まれるが、人体にとっては皮膚への浸透程度が深いため、長時間の曝露が色素沈着(シミ)やシワを引き起こすことが知られている。
【0003】
これらの背景より、これまでにも数々の紫外線を遮蔽するガラスが提案されてきている(例えば、特許文献1〜特許文献4参照)。
【0004】
特許文献1はガラス溶融素地にセリウム、チタンといった紫外線遮蔽性の金属イオンを添加することによりガラス板そのものに紫外線遮蔽性能を付加しようとしたものであり、特許文献2はガラス基板上に酸化亜鉛とシリカからなる紫外線遮蔽層を成膜したものであるが、これら技術によってはUV−Aを充分に遮蔽できない。
【0005】
一方、特許文献3、特許文献4に示される紫外線遮蔽層付きガラス板は、いずれもUV−Aをほぼ完全に遮蔽することができるものの、紫外線遮蔽層の機械的耐久性の点で問題があった。紫外線遮蔽層の耐久性を発現させるために、特許文献3においては紫外線遮蔽層上にさらに厚膜状の保護層を積層しており、特許文献4においてはアミド結合およびSi−O結合を有するマトリックス材料を用いて紫外線遮蔽層を形成しているが、これらの方法によっては、自動車のドアガラスやルーフガラスといった高い耐摩耗性が要求される部位で使用できるほどに耐久性の優れた被膜を製造することはできないという問題があった。
【0006】
このように、UV−Aを充分に遮蔽可能な紫外線遮蔽層付きガラス板を簡便かつ安価な方法で、特に、1回の成膜プロセスにより製造する方法はこれまで見出されていなかった。特に、自動車用窓ガラス板などの高い機械的耐久性を要求される部位へ適用できる紫外線遮蔽層付きガラス板及びその製造方法はこれまで見出されていなかった。
【0007】
さらに、特許文献5には、シリコンアルコキシドと、ポリエチレングリコール等の水溶性有機ポリマーとを含み、さらに紫外線吸収剤や有機色素を含有する塗布液をガラス板上に塗布し、硬化させて、有機無機複合膜からなる紫外線遮蔽層を得ることが開示されている。特許文献5における紫外線遮蔽層は、機械的、化学的耐久性にきわめて優れているとされている。
【0008】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献5に記載の紫外線遮蔽層付きガラス板は、充分に高いUV−Aの遮蔽性能を有しておらず、また長期間の露光に対応できる耐光性も充分ではないことが判明した。
【特許文献1】特開平8−208266号公報
【特許文献2】特開平6−329989号公報
【特許文献3】特許第2972827号公報
【特許文献4】特開平10−265241号公報
【特許文献5】国際公開第2006/137454号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域において紫外線遮蔽能が高く、機械的耐久性、薬品耐性および耐光性に優れる紫外線遮蔽膜付きガラス板を提供することを目的とする。また、本発明は、簡便かつ安価な1回の成膜プロセスによって、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域において紫外線遮蔽能が高く、かつ機械的、化学的耐久性に優れた紫外線遮蔽膜付きガラスが得られる紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、ガラス基板と該ガラス基板の少なくとも片面に設けられた紫外線遮蔽膜とを有し、前記紫外線遮蔽膜が光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料を含有する酸化ケイ素系マトリクスで構成された、紫外線遮蔽膜付きガラス板であって、
前記紫外線遮蔽性材料がそれぞれ波長325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有し、かつ前記紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長のうちそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下であり、
前記紫外線遮蔽膜の表面に対して、JIS−R3212(1998年)によるCS−10F磨耗ホイールでの1000回転磨耗試験を行った場合に、試験前に対する試験後の曇価の増加量が5%以下であり、
波長300〜400nmまでの光について、ISO9845−1(1992年)により5nm毎に示される重価係数のそれぞれに、同波長の光の前記紫外線遮蔽膜付きガラス板に対する透過率を乗じた値の総和が1%以下である
ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法は、ガラス基板の少なくとも片面に、加水分解縮合反応により酸化ケイ素ゲルとなりうるケイ素化合物、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料、水、有機溶媒、および酸を含む組成物を塗布し、組成物の塗膜を形成する工程と、前記組成物の塗膜から前記有機溶媒を除去するとともに前記ケイ素化合物から酸化ケイ素系マトリクスを形成して紫外線遮蔽膜を形成する工程とを含む紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法であって、
前記紫外線遮蔽性材料がそれぞれ波長325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有し、かつ前記紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長のうちそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域において紫外線遮蔽能が高く、機械的耐久性、薬品耐性および耐光性に優れる。また、本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法によれば、簡便かつ安価な1回の成膜プロセスによって、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域において紫外線遮蔽能が高く、かつ機械的、化学的耐久性に優れた紫外線遮蔽膜付きガラスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、ガラス基板と該ガラス基板の少なくとも片面に設けられた紫外線遮蔽膜とを有するものであり、前記紫外線遮蔽膜は、波長325〜425nmの領域にそれぞれ光の極大吸収波長を有し、かつそれらの光の極大吸収波長のうちそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下である光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料を含有する酸化ケイ素系マトリクスから構成されるものであって、このような構成の本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、以下の性能を有するものである。
【0014】
前記紫外線遮蔽膜の表面に対して、JIS−R3212(1998年)によるCS−10F磨耗ホイールでの1000回転磨耗試験を行った場合に、試験前に対する試験後の曇価の増加量が5%以下である。これは、本発明のガラス板上に設けられた紫外線遮蔽膜が、高い耐摩耗性を有することを意味する。なお、曇価の増加量が5%以下であれば、本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板を自動車用の窓ガラスに用いた場合、実用に充分な耐摩耗性を有する。
【0015】
また、波長300〜400nmまでの光について、表1に示すISO9845−1(1992年)により規定された5nm毎の重価係数のそれぞれに、同波長の光の前記紫外線遮蔽膜付きガラス板に対する透過率を乗じた値の総和、すなわち下記数1で示されるTuv400が、1%以下である。
【0016】
【数1】

ただし、数1中、重価係数は表1の通り、(透過率)Δλは、検体(紫外線遮蔽膜付きガラス板)についての5nm毎の波長(nm)における光透過率(%)測定値である。
【0017】
【表1】

【0018】
ここで、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域、300〜400nmまでの光について紫外線遮蔽性を総合的に評価する指標はISO9845−1(1992年)で求められた重価係数の概念が取込まれているが、これは、波長毎(5nm)に人体への影響度、遮蔽が必要とされる度合いを基準に求められた重価係数であり、重価係数が高い波長ほど、人体への影響度、遮蔽が必要とされる度合いが高いことを示す。Tuv400では、各波長の光を一律に透過率のみで評価するのではなく、前記重価係数を式に取り入れることにより、人体への影響度の観点からの紫外線遮蔽性の評価を可能にしたものである。
【0019】
上述のように、本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板においてはTuv400が1%以下であり、これは、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域、300〜400nmまでの光において、人体への影響度の高い紫外線を効果的に遮蔽する性能を有することを意味する。
【0020】
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板の紫外線遮蔽性について、さらにいえば、前記紫外線遮蔽膜付きガラス板に対する波長390nmの光の透過率が1%以下であることが好ましく、また、400nmの光についても透過率が1%以下であることが好ましい。より好ましくは、波長390nmおよび400nm双方の光の透過率が1%以下である。本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板の好ましい態様によれば、Tuv400が1%以下であることに加えて、UV−Aのうちでも、最も長波長側の光の透過率が1%以下であり、高い紫外線遮蔽性を有するものである。
【0021】
紫外線遮蔽膜付きガラス板の「紫外線遮蔽性」は、紫外線遮蔽膜の紫外線遮蔽性とガラス基板の紫外線遮蔽性とを合わせて得られる紫外線遮蔽性を示すものであるが、本発明において、紫外線遮蔽膜付きガラス板の高い紫外線遮蔽性は、紫外線遮蔽膜の高い紫外線遮蔽性に起因するものである。
【0022】
本発明における前記紫外線遮蔽膜は、Tuv400が1%以下という高い紫外線遮蔽性を発現させるために、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料を含有する酸化ケイ素系マトリクスで構成されており、前記紫外線遮蔽性材料は、それぞれ波長325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有し、かつ前記紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長のうちそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下である。
【0023】
本発明には紫外線遮蔽性材料を、それぞれ隣り合う光の極大吸収波長同士の波長差が20nm以下となるように光の極大吸収波長の異なる2種以上を組み合わせて用いるが、以下に個々の紫外線遮蔽性材料として先ず説明し、次いで組み合わせについて説明する。
【0024】
本発明に用いる紫外線遮蔽性材料は、UV−A領域(320〜400nm)での高い吸光度特性の要求を考慮して、325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有するものであり、さらに、紫外線遮蔽膜の酸化ケイ素系マトリクスを形成するために用いる後述の組成物に溶解または分散できるものであれば、特に限定されない。「後述の組成物に分散できる」とは、紫外線遮蔽性材料が組成物中で適切なエマルジョンを形成でき、膜とした場合に膜のヘイズが目立たず、透明性が担保できる材料であることを意味する。
【0025】
このような紫外線遮蔽性材料としては、例えば、325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有する、無機系、有機系の紫外線吸収剤や、蛍光増白剤が好適に挙げられる。
【0026】
無機系紫外線吸収剤として、具体的には、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化インジウム(InやITO:Indium Tin Oxide)などの無機酸化物やチタン酸塩、炭化珪素などが挙げられる。なお、これら例示した無機系紫外線吸収剤の光の極大吸収波長は、320〜350nmの範囲にあるものである。
【0027】
なお、紫外線遮蔽性材料として無機系の紫外線吸収剤を用いた場合、紫外線吸収剤は微粒子状であることが好ましい。なお、紫外線吸収剤の平均粒子径は、200nm以下であることが好ましい。ここで、平均粒子径とは分散液中に存在する紫外線遮蔽性材料の分散粒子径を指しており、動的光散乱方式粒度分布計で測定されるメジアン径を用いている。紫外線吸収剤の平均粒子径が200nm以下であることで、紫外線遮蔽膜付きガラス板の透明性を高く維持できる。より好ましくは、平均粒子径が150nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。一方、紫外線吸収剤の平均粒子径は5nm以上であることが、紫外線遮蔽性維持の点で好ましい。
【0028】
有機系紫外線吸収剤として、具体的には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、アントラセン系紫外線吸収剤、およびこれらの化合物を用いて作製された水分散体、エマルジョン、さらに、これらの化合物と金属との錯体が挙げられる。
【0029】
より具体的には、2−〔5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル〕−4−メチル−6−(tert-ブチル)フェノール、オクチル−3−[3−tert−4−ヒドロキシ−5−[5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]プロピオネート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(2H−ベンゾチリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチルー1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン、TINUVIN477(チバ・ジャパン株式会社製)等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−2’,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、UVINUL3008(BASFジャパン株式会社製)等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等のサリシレート系紫外線吸収剤、アントラセン系紫外線吸収剤が挙げられる。これら例示した有機系紫外線吸収剤の光の極大吸収波長は、上記325〜425nmの範囲にあり、概ね325〜390nmの範囲にあるものが多い。
【0030】
蛍光増白剤は、360〜400nmの光を吸収し420nm前後の蛍光に変換する化合物であり、具体的には、チオフェン系蛍光増白剤、スチルベン系蛍光増白剤、クマリン系蛍光増白剤、ナフタレン系蛍光増白剤、ベンズイミダゾール系蛍光増白剤等が挙げられる。特に、2,5−ビス(5−t−ブチル−2−ベンズオキサゾリル)チオフェン(2,5−bis(5−tert−butyl−2−benzoxazolyl)thiophene)などのチオフェン系蛍光増白剤や、4,4’−ビス(2−ベンズオキサゾリル)スチルベン(4,4’−bis(2−benzoxazolyl)stilbene)、4−(2H−ナフト[1,2−d]トリアゾール−2−イル)スチルベン−2−スルホン酸ナトリウム、4,4’−ビス[(1,4−ジヒドロ−4−オキソ−6−フェニルアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)アミノ]スチルベン−2,2’−ジスルホン酸二ナトリウム、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−(3−フェニルウレイド)ベンゼンスルホン酸ナトリウム]、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−[(4−アミノ−6−クロロ−1,3,5−トリアジン−2−イル)アミノ]ベンゼンスルホン酸ナトリウム]、4,4’−ビス[[4−アニリノ−6−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イル]アミノ]スチルベン−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、2,2’−[1,2−エテンジイルビス(3−ソジオスルホ−4,1−フェニレン)]ビス(2H−ナフト[1,2−d]トリアゾール−6−スルホン酸ナトリウム)、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−[(2,4−ジメトキシベンゾイル)アミノ]ベンゼンスルホン酸ナトリウム]、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−[[4−メトキシ−6−[フェニルアミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イル]アミノ]ベンゼンスルホン酸]ジナトリウム、4,4’−ビス[(6−アミノ−1,4−ジヒドロ−オキソ−1,3,5−トリアジン−2−イル)アミノ]スチルベン−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム、2,2’−([1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジイルジビニレン)ビス(ベンゼンスルフォネート)ジナトリウムなどのスチルベン系蛍光増白剤、1,4−ビス(2−ベンズオキサゾリル)ナフタレン(1,4−bis(2−benzoxazolyl)naphtalene)などのナフタレン系蛍光増白剤が好ましい。このほか、ベンズイミダゾール系蛍光増白剤(たとえば、クラリアント・ジャパン社製のHOSTALUX ACK LIQ)や昭和化学工業社製のTW−2、日本化薬株式会社製のKayalight Bなどが好ましい。
【0031】
このような紫外線遮蔽性材料から、例えば、光の極大吸収波長が異なり、かつこれらの波長差が20nm以下となるように2種の紫外線遮蔽性材料を選択して本発明に用いる。3種以上の紫外線遮蔽性材料を用いる場合は、波長差については、用いる全紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長のうちのそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下となるように選択する。より具体的に説明すると、3種の紫外線遮蔽性材料を選択して本発明に用いる場合、これらの光の極大吸収波長が短い順に、λa、λb、λcであったとすれば、λaとλbの波長差およびλbとλcの波長差がそれぞれ20nm以下であることがこれらを選択する際の必須条件となる。λa、λb、λcが前記関係を示せば、λaとλcの関係は特に問わない。ここで、Tuv400を1%以下とすることが可能であれば、紫外線遮蔽性材料は2種であることが、紫外線遮蔽膜付きガラス板製造時の操作性や経済性から勘案して好ましい。
【0032】
なお、紫外線遮蔽性材料1種では、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域、300〜400nmまでの光のすべてに高い遮蔽能を有することは難しい。そこで本発明においては光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料を用い、これらの光の極大吸収波長のうちのそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下となるように紫外線遮蔽性材料を組み合わることで、広範囲の波長域で紫外線を平均的に遮蔽するようにし、特に、表1に示す光の重価係数が大きな値をとる範囲を考慮して、325〜425nmの波長領域に光の極大吸収波長を有するものを用いることで、効果的に紫外線遮蔽性を発現させることを可能とした。
【0033】
また、2種以上の紫外線遮蔽性材料の配合割合は、紫外線遮蔽性材料の種類やその光の極大吸収波長等を勘案して、最終的に得られる紫外線遮蔽膜付きガラス板のTuv400が1%以下となるように適宜調整すればよい。
【0034】
さらに、光の重価係数の値を重視すれば、紫外線遮蔽性材料は、λで表す当該紫外線遮蔽性材料(1)の光の極大吸収波長が、325nm<λ≦350nmの領域にある紫外線遮蔽性材料(1)から選ばれる少なくとも1種と、λで表す当該紫外線遮蔽性材料(2)の光の極大吸収波長が350nm<λ≦425nmの領域にある紫外線遮蔽性材料(2)から選ばれる少なくとも1種を含む構成とすることが好ましい。また、紫外線遮蔽性材料(1)が、光の極大吸収波長λを340nm<λ≦350nmの領域に有する紫外線遮蔽性材料から選ばれる少なくとも1種であり、紫外線遮蔽性材料(2)が光の極大吸収波長λを350nm<λ≦400nmの領域に有する紫外線遮蔽性材料から選ばれる少なくとも1種である組み合わせが、本発明においてはより好ましい。
【0035】
紫外線遮蔽性材料(1)としては、具体的に、上記で説明した無機系紫外線吸収剤(極大吸収波長が325nmを超えるもの)、オクチル−3−[3−tert−4−ヒドロキシ−5−[5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]プロピオネート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(2H−ベンゾチリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1-メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチルー1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン、等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、UVINUL3008(BASFジャパン株式会社製)等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等のサリシレート系紫外線吸収剤2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(350nm)、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(345nm)、等の有機系紫外線吸収剤の一部等が挙げられる。これらのうちで、好ましくは、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(350nm)が用いられる。
【0036】
紫外線遮蔽性材料(2)としては、具体的には、2,5−ビス(5−t−ブチル−2−ベンズオキサゾリル)チオフェン(2,5−bis(5−tert−butyl−2−benzoxazolyl)thiophene)などのチオフェン系蛍光増白剤や、4,4’−ビス(2−ベンズオキサゾリル)スチルベン(4,4’−bis(2−benzoxazolyl)stilbene)、4−(2H−ナフト[1,2−d]トリアゾール−2−イル)スチルベン−2−スルホン酸ナトリウム、4,4’−ビス[(1,4−ジヒドロ−4−オキソ−6−フェニルアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イル)アミノ]スチルベン−2,2’−ジスルホン酸二ナトリウム、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−(3−フェニルウレイド)ベンゼンスルホン酸ナトリウム]、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−[(4−アミノ−6−クロロ−1,3,5−トリアジン−2−イル)アミノ]ベンゼンスルホン酸ナトリウム]、4,4’−ビス[[4−アニリノ−6−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イル]アミノ]スチルベン−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、2,2’−[1,2-エテンジイルビス(3−ソジオスルホ−4,1-フェニレン)]ビス(2H−ナフト[1,2−d]トリアゾール−6−スルホン酸ナトリウム)、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−[(2,4−ジメトキシベンゾイル)アミノ]ベンゼンスルホン酸ナトリウム]、2,2’−(1,2−エテンジイル)ビス[5−[[4−メトキシ−6−[フェニルアミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イル]アミノ]ベンゼンスルホン酸]ジナトリウム、4,4’−ビス[(6−アミノ−1,4−ジヒドロ−オキソ−1,3,5−トリアジン−2−イル)アミノ]スチルベン−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム、2,2’−([1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジイルジビニレン)ビス(ベンゼンスルフォネート)ジナトリウム(352nm)などのスチルベン系蛍光増白剤、1,4−ビス(2−ベンズオキサゾリル)ナフタレン(1,4−bis(2−benzoxazolyl)naphtalene)などのナフタレン系蛍光増白剤、ベンズイミダゾール系蛍光増白剤(たとえば、クラリアント・ジャパン社製のHOSTALUX ACK LIQ)(367nm)や昭和化学工業社製の蛍光増白剤TW−2(375nm)、日本化薬株式会社製の蛍光増白剤Kayalight B(363nm)、2−〔5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル〕−4−メチル−6−(tert-ブチル)フェノール、TINUVIN477(チバ・ジャパン株式会社製)(354nm)、2,4−ジヒドロキシ−2’,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−2’,4’−ジメトキシベンゾフェノン(352nm)、アントラセン系紫外線吸収剤(385nm)等の有機系紫外線吸収剤の一部、蛍光増白剤等が挙げられるが、本発明において好ましくは、蛍光増白剤が用いられ、より好ましくは、ベンズイミダゾール系蛍光増白剤(クラリアント・ジャパン社製のHOSTALUX ACK LIQ)(367nm)、日本化薬株式会社の蛍光増白剤Kayalight B(363nm)等が用いられる。
なお上記一部の紫外線遮蔽性材料については化合物名の後の括弧内にその紫外線遮蔽性材料が有する光の極大吸収波長を記載した。
【0037】
前記紫外線遮蔽性材料(1)と前記紫外線遮蔽性材料(2)とを用いて、ガラス基板上に紫外線遮蔽膜を形成させて本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板を製造するにあたっての紫外線遮蔽性材料(1)と紫外線遮蔽性材料(2)との配合比率については、質量比で[紫外線遮蔽性材料(1)]/[紫外線遮蔽性材料(2)]として、99/1〜50/50であることが好ましい。本発明においては、両紫外線遮蔽性材料の配合割合をこの範囲とすることで、紫外線のうち、より大きなエネルギーをもつ短波長側の紫外線を効果的に遮蔽することができることから、紫外線遮蔽膜の耐光性が向上する利点があり好ましい。また、紫外線遮蔽性材料(2)として蛍光増白剤を使用した場合、紫外線を受光した際の発光を抑えることができる。よって、本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板を自動車等の車両窓や建材向けの窓ガラスに用いた場合、視認性に影響を及ぼさず好適である。
【0038】
特に、紫外線遮蔽性材料(2)として蛍光増白剤を用いる場合には、蛍光増白剤の配合量が紫外線遮蔽性材料(1)の配合量より多くなると、紫外線から変換される420nm付近の蛍光量が相対的に多くなり、得られる紫外線遮蔽膜付きガラス板の用途によっては視認性に影響を与えるなど好ましくないことがある。
【0039】
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、このような紫外線遮蔽性材料が酸化ケイ素系マトリクス中に包含された構成の紫外線遮蔽膜をガラス基板上に形成したものである。
前記紫外線遮蔽膜中の酸化ケイ素系マトリクスと紫外線遮蔽性材料との含有比率は、質量比で[SiO換算の酸化ケイ素系マトリクス]/[紫外線遮蔽性材料の総量]として、100/5〜100/50であることが好ましい。本発明においては、配合割合をこの範囲とすることで、紫外線遮蔽膜の紫外線遮蔽能を高くしつつつ、紫外線遮蔽膜に所望の硬さ、耐摩耗性を付与することができるため好ましい。
【0040】
以下に、本発明において紫外線遮蔽性材料とともに紫外線遮蔽膜を構成する酸化ケイ素系マトリクスについて説明する。
【0041】
本発明において紫外線遮蔽膜中に含まれる酸化ケイ素系マトリクスは、紫外線遮蔽性材料の結合剤又は分散媒として働いて被膜硬度を高め、紫外線遮蔽膜の高い機械的、化学的耐久性を発現させるとともに、ガラス基板の表面への紫外線遮蔽膜の密着性を付与する構成因子である。無機質の酸化ケイ素を主体とするマトリクスであることで、本発明における紫外線遮蔽膜は非常に高い機械的、化学的耐久性を具備できる。特に、耐摩耗性の点では、前記紫外線遮蔽膜の表面に対して、JIS−R3212(1998年)によるCS−10F磨耗ホイールでの1000回転磨耗試験を行った場合に、試験前に対する試験後の曇価の増加量が5%以下という高い耐摩耗性を有するものである。
【0042】
ここで、酸化ケイ素を主体とするとは、酸化ケイ素よりモル比で多くの量を含む他の成分が該マトリックス中に含まれないことを表しており、厳密な意味でのSiOとなっている必要はない。具体的には、ガラス質を維持できる他の金属原子、たとえばガラス網目形成成分、もしくは中間成分であるホウ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンなどがケイ素のモル量よりも少ない量で入っていてもよい。これら少量成分の含有割合は、酸化物換算で酸化ケイ素系マトリクス全量に対して質量比で5%程度であることが好ましい。
【0043】
さらに、マトリクス中に窒素、炭素などの陰イオン成分が酸素のモル量よりも少ない量で含まれていてもよい。なかでも、マトリックス中にSiに対して1原子%以上の窒素を含むと、機械的耐久性が高まることがあるため好ましい。一方、マトリックス中の窒素の含有量を20原子%以下とすると、ガラス基板の表面への紫外線遮蔽膜の密着性を充分に保持できるため好ましい。
【0044】
本発明における紫外線遮蔽膜は、ガラス基板の少なくとも一方の表面に、加水分解縮合反応により酸化ケイ素ゲルとなりうるケイ素化合物、前記光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料、水、有機溶媒、および酸を含む組成物を塗布し、前記ケイ素化合物および/またはそのゲル化合物を含む被膜を形成し、該被膜を硬化させることによって形成される。
【0045】
ケイ素化合物とは、加熱によってシロキサン結合を有する酸化ケイ素マトリックスとなりうる材料(以下、シロキサンマトリックス材料ともいう。)をいう。シロキサンマトリックス材料は、加熱によってシロキサン結合(Si−O−Si)が形成されて3次元ネットワーク化し、酸化ケイ素を主体とする硬質、透明なガラス質マトリックスとなりうる化合物であり、具体的にはゾルゲル法で利用されるアルコキシシラン類や該アルコキシシラン類の部分加水分解物、該アルコキシシランの部分加水分解縮合物、シリコーン、含窒素シリコーン、含窒素シランカップリング剤(アミノシラン等)、水ガラス、ポリシラザンなどが挙げられるが、本発明においてはアルコキシシラン類や該アルコキシシランの部分加水分解縮合物が好ましく用いられる。
【0046】
アルコキシシラン類としては、一般式RSiX4−a(aは0〜2の整数を示す。Xは炭素数4以下のアルコキシ基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。Rは炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基であり、aが2の場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。)で表されるアルコキシシランが好ましい。前記アルコキシ基としては、メトキシ基およびエトキシ基が好ましく、前記アルキル基としては、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0047】
具体的には、一般式中aが0である4官能のアルコキシシランとして、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が、一般式中aが1である3官能のアルコキシシランとして、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等が、一般式中aが2である2官能のアルコキシシランとして、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
これらアルコキシシラン類のうちでも、シロキサン結合が3次元的に形成されたマトリックスを得るという観点から、本発明においては前記酸化ケイ素系マトリクスの原料成分として4官能のアルコキシシランおよび/または3官能のアルコキシシランが好ましく用いられる。
【0049】
ここで、本発明における前記酸化ケイ素系マトリクスの好ましい態様を挙げると、例えば、下記ケイ素含有成分(1)と下記ケイ素含有成分(2)とを、加水分解縮合反応することによって得られる酸化ケイ素系化合物を主成分とする酸化ケイ素系マトリクスを挙げることができる。
【0050】
ケイ素含有成分(1)は、4官能の加水分解性ケイ素モノマーおよび該ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、3官能の加水分解性ケイ素モノマーおよび該ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいケイ素含有成分である。
【0051】
ケイ素含有成分(2)は、1〜3個の1価有機官能基(ただし、1価炭化水素基を除く)がケイ素原子に結合したアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種からなるケイ素含有成分である。
【0052】
前記ケイ素含有成分(1)は、酸化ケイ素系マトリクスの基本骨格をなす成分である。ケイ素含有成分(1)の主成分となる4官能の加水分解性ケイ素モノマーとして、具体的には、アルコキシ基、ハロゲン基、アシル基、イソシアネート基、アミン化合物からアミノ基の水素原子を除いた有機基等の加水分解性基の4個がケイ素原子に結合した4官能ケイ素モノマーを挙げることができる。加水分解性基の4個は互いに同一であっても異なっていてもよい。本発明においては、前記加水分解性基は、好ましくはアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数4以下のアルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基、エトキシ基等である。このような本発明において好ましく用いられる4官能の加水分解性ケイ素モノマーとして、具体的には、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。
【0053】
また、4官能の加水分解性ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物としては、該ケイ素モノマーの好ましくは3〜10個程度、より好ましくは3〜5個程度が部分加水分解縮合したオリゴマが挙げられる。
【0054】
ケイ素含有成分(1)が含んでいてもよい3官能の加水分解性ケイ素モノマーとしては、上記4官能の加水分解性ケイ素モノマーに結合するのと同様な加水分解性基の3個と炭化水素基1個がケイ素原子に結合した3官能ケイ素モノマーを挙げることができる。加水分解性基の3個は互いに同一であっても異なっていてもよい。前記加水分解性基は、好ましくはアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数4以下のアルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基、エトキシ基等である。ケイ素原子に結合する炭化水素基としては、メチル基、エチル基、フェニル基等の鎖長の短い炭化水素基が好ましく挙げられる。このような本発明において好ましく用いられる3官能の加水分解性ケイ素モノマーとして、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。また、前記3官能ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物、好ましくは3〜5個程度が縮合したオリゴマも4官能加水分解性ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物同様に本発明に用いることが可能である。
【0055】
ケイ素含有成分(2)は、酸化ケイ素系マトリクスの一部として取り込まれることにより紫外線遮蔽膜に可撓性を与え、紫外線遮蔽性材料と酸化ケイ素系マトリクスとの馴染みを良くする成分である。ケイ素含有成分(2)としては、一般にシランカップリング剤として知られる成分を用いることが可能であり、具体的には一般式YSiZ4−b(式中bは、1〜3の整数を示す。Zはアルコキシ基であり、bが1または2の場合、Zは互いに同一であっても異なっていてもよい。Yは、炭化水素基を除く有機官能基であり、bが2または3の場合、Yは互いに同一であっても異なっていてもよい。)で示されるアルコキシシランであることが好ましい。
【0056】
前記Zとして具体的には、炭素数4以下のアルコキシ基、好ましくはメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、前記Yとして具体的には、アクリルロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、オキセタン基、アミノ基等を含む有機基が挙げられ、式W−(CH−で表される基であることが好ましい。Wは、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、グリシジルオキシ基、オキセタニルオキシ基、アミノ基からなる群から選ばれる1種以上の基であり、aは2〜4の整数である。aは3が好ましい。Yが示す基としては、3−グリシドキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基、および3−アクリロキシプロピル基が好ましく、特に3−グリシドキシプロピル基および3−メタクリロキシプロピル基が好ましい。
【0057】
ケイ素含有成分(2)について上記に説明したが、具体的な化合物名としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、ジ−(3−グリシドキシプロピル)プロピルジメトキシシラン、ジ−(3−グリシドキシプロピル)プロピルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ジ−(3−メタクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0058】
上記説明した、本発明において酸化ケイ素系マトリクスを形成させる原料として、加水分解縮合反応に用いる前記ケイ素含有成分(1)と前記ケイ素含有成分(2)との配合比率については、SiO換算の質量比で、[ケイ素含有成分(1)]/[ケイ素含有成分(2)]として、9.5/0.5〜7/3であることが好ましい。本発明においては、ケイ素含有成分(1)および(2)の配合割合をこの範囲とすることで、紫外線遮蔽膜の所望の硬さを維持しつつ、膜に耐クラック性や耐摩耗性を付与できるため好ましい。
【0059】
本発明において紫外線遮蔽膜を、紫外線遮蔽性材料を包含する形で構成する酸化ケイ素系マトリクスは、前記酸化ケイ素化合物を主成分とするが、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意成分を含有することができる。なお、用いる成分の種類にもよるが、本発明の効果を損なわないこれら任意成分の含有割合としては、酸化ケイ素系マトリクス全量に対して質量比で概ね5%までの割合を挙げることができる。
このような任意成分として酸化ケイ素系マトリクスに可撓性を付与する成分、酸化ケイ素系マトリクスのクラックを防止し硬さを向上させる成分等を挙げることができる。
【0060】
可撓性を付与する成分としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオキシアルキレン基を含む親水性有機樹脂、エポキシ樹脂などの各種有機樹脂を挙げることができる。なお、本明細書においては、酸化ケイ素系マトリクスに可撓性を付与することが可能な樹脂を総称して「可撓性付与樹脂」という。
可撓性付与樹脂のうちシリコーン樹脂として好ましくは、各種変性シリコーンオイルを含むシリコーンオイル、末端が加水分解性シリル基もしくは重合性基含有有機基を含有するジオルガノシリコーンを一部あるいは全部架橋させたシリコーンゴム等が挙げられる。
【0061】
ポリオキシアルキレン基を含む親水性有機樹脂として好ましくは、ポリエチレングリコール、ポリエーテルリン酸エステル系ポリマー等が挙げられる。
【0062】
その他、ポリウレタン樹脂としてはポリウレタンゴム等を、アクリル系樹脂としてはアクリロニトリルゴム、アクリル酸アルキルエステルの単独重合体、メタアクリル酸アルキルエステルの単独重合体、アクリル酸アルキルエステルと該アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なモノマーとの共重合体、メタアクリル酸アルキルエステルと該メタアクリル酸アルキルエステルと共重合可能なモノマーとの共重合体等を好ましく挙げることができる。以下、アクリル酸とメタクリル酸との両方を含む表現として、「(メタ)アクリル酸」と記載する。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸エステル、紫外線吸収剤の部分構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、ケイ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステル等を使用できる。また、用いる有機樹脂の形態としては、液状、微粒子などが好ましい。これらのうちでも本発明においては、酸化ケイ素系マトリックスに可撓性を付与する樹脂、可撓性付与樹脂として、アクリル系樹脂が好ましい。
【0063】
また、前記酸化ケイ素系マトリクスのクラックを防止し硬さを向上させる成分として、具体的には、金属酸化物微粒子、例えば、コロイダルシリカ、酸化亜鉛粒子、酸化チタン粒子などが挙げられる。
さらに、酸化ケイ素系マトリクスは、その製造工程で用いられる各種成分、例えば、酸や有機溶媒由来の成分、塗布性やレベリング性、乾燥性の制御のために用いられる各種界面活性剤等を少量含んでいてもよい。
【0064】
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、上記のような酸化ケイ素系マトリクス中に前述の紫外線遮蔽性材料が包含された構成の紫外線遮蔽膜を、以下に説明するガラス基板の少なくとも片面に形成させたものである。ガラス基板上に紫外線遮蔽膜を形成する方法については後述するが、前記紫外線遮蔽膜の膜厚は、1〜10μmであることが、クラック耐性の点で好ましい。
【0065】
本発明に用いるガラス基板は特に限定されず、無機系のガラス材料からなるガラス板や、有機系のガラス材料からなるガラス板を例示できる。自動車の窓用、特にウインドシールドや摺動窓用には無機系のガラス材料からなるガラス板を用いることが好ましい。無機系のガラス材料としては、通常のソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス材料が挙げられる。有機系のガラス材料としては、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂やポリフェニレンカーボネートなどの芳香族ポリカーボネート系樹脂がある。
【0066】
ガラス基板として、紫外線や赤外線を吸収するガラス板を用いることもできる。ガラス基板としては、波長400nmの光の透過率が5%以上であることが好ましく、紫外線遮蔽膜の効果をより発揮するためには20%以上が好ましい。さらに、波長400nmの光の透過率は80%以下であることが好ましく、特に65%以下であることが好ましい。また、ガラス基板のJIS−R3106(1998年)の日射透過率は75%以下が好ましく、特に65%以下が好ましい。さらに、可視光透過率は50%以上が好ましく、特に70%以上が好ましい。
【0067】
本発明の効果をより発揮できるガラス基板としては、波長400nmの光の透過率が5〜80%、JIS−R3106(1998年)の日射透過率が65%以下、可視光透過率が70%以上である、無機系のガラス材料からなるガラス基板が好ましい。このようなガラス基板の材料としては、具体的には、ソーダライムガラス素地にチタンイオン、セリウムイオン、鉄イオンなどの金属イオンを含む、グリーン系のガラス材料が好適に用いられる。このようなガラス基板を用いると、より高い紫外線遮蔽性を具備できるだけでなく、1μm近傍の近赤外領域の遮蔽も行えるため、断熱性も具備させることができるという利点がある。
【0068】
また、無機系ガラス材料からなるガラス板を大気中、650〜700℃近い温度まで昇温し、急冷して強化処理を行って得られる強化ガラスをガラス基板として用いることができる。さらに、この熱処理においてガラス基板を曲げ加工することにより、曲げ加工されたガラス基板が得られる。このような加工が施されたガラス基板を用いることにより、高い耐久性を備えた紫外線遮蔽膜付きの加工ガラス板が得られ、これは自動車用及び建築用の窓材として特に有用である。
【0069】
次に、本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法、すなわち、上記構成の紫外線遮蔽膜をガラス基板上に形成させる方法について説明する。
【0070】
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法の具体的な態様としては、(1)ガラス基板の少なくとも片面に、加水分解縮合反応により酸化ケイ素ゲルとなりうるケイ素化合物、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料、水、有機溶媒、および酸を含む組成物を塗布し、組成物の塗膜を形成する工程と、(2)前記組成物の塗膜から前記有機溶媒を除去するとともに前記ケイ素化合物から酸化ケイ素系マトリクスを形成して紫外線遮蔽膜を形成する工程を含む製造方法が挙げられる。
なお、上述の如く前記光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料は、それぞれ波長325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有し、かつ前記紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長のうちそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下である。
【0071】
(1)の工程では、まず紫外線遮蔽膜形成用の組成物を調製する。前記組成物が含有する加水分解縮合反応により酸化ケイ素ゲルとなりうるケイ素化合物、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料については、配合割合を含め上記説明した通りである。
【0072】
前記組成物が含有する水は、前記酸化ケイ素ゲルとなりうるケイ素化合物の加水分解縮合反応に必須の成分として用いられる。組成物における水の配合量として具体的には、ケイ素含有成分中の全ケイ素原子に対してモル比で4〜15当量程度を挙げることができる。
【0073】
有機溶剤は、組成物中に紫外線遮蔽膜構成原料成分を均一に分散、溶解させてガラス基板への塗膜加工性を持たせる、組成物にレベリング性を持たせる等の役割を果たす。なお、有機溶媒自体は紫外線遮蔽膜形成の工程で除去されるため基本的には最終製品としての該膜には残存しない成分である。組成物における有機溶媒の含有量は、前記役割が果たせる範囲で特に限定なく設定できるが、組成物全量に対して質量比で3〜95%程度とすることが好ましい。
【0074】
このような有機溶媒としては、前記ケイ素化合物、および、紫外線遮蔽性材料を分散および/または溶解できるものであれば特に限定されない。具体的には、ヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル類、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール類、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、ピリジン、アセトニトリル等の含窒素有機溶媒、などが挙げられる。もちろん、これらの有機溶媒は、1種を単独でも、2種以上を混合しても用いることが可能である。またこれらのうちでも、2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルのようなアルコール類、エーテルアルコール類が溶解力や安定性等の点で好ましく用いられる。
【0075】
前記組成物が含有する酸は、加水分解性ケイ素モノマーおよび該ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物の加水分解を促進させる触媒の役割を果たす。酸として、具体的には、硝酸、塩酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸等を例示できる。揮発性の酸は加熱時に揮発して硬化後の膜中に残存することがなく好ましい。組成物における酸の含有量は、前記役割が果たせる範囲で特に限定なく設定できるが、組成物全量に対して容量比で0.001〜0.1mol/L程度とすることが好ましい。
【0076】
また、前記組成物は、ガラス基板上に紫外線遮蔽膜を形成させる各工程の作業性を向上させる成分、例えば、塗布性やレベリング性、乾燥性の制御のために用いる各種界面活性剤等を少量含んでいてもよい。さらに、前記組成物は、前述の酸化ケイ素系マトリクスが含有してもよいその他成分を含有することができる。
【0077】
組成物の調製は、上記各成分の所定量を秤量し、一般的な方法で混合することで行われる。この際、必要に応じて各成分の添加順を調整することも可能である。なお、前記組成物としては、紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造時に調製されたものに制限されず、時もしくは場所が異なって調製されたものを使用しても構わない。
【0078】
次いで、このようにして調製された組成物を、ガラス基板の少なくとも片面に塗布して、ガラス基板上に塗布用組成物の被膜を形成する。用いるガラス基板は上述の通りであるが、組成物を塗布する前に塗布面を十分に清浄することが好ましい。なお、ここで形成される被膜は有機溶媒を含む被膜である。ガラス基板への組成物の塗布方法は、均一に塗布される方法であれば特に限定されず、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法、ダイコート法など、公知の方法を用いることができる。組成物の被膜の厚さは、最終的に得られる紫外線遮蔽膜の厚さを考慮して決められる。
【0079】
次に(2)の工程:ガラス基板上の組成物の被膜から有機溶媒を除去するとともにケイ素化合物から酸化ケイ素系マトリックスを形成して紫外線遮蔽膜を形成する工程が実施される。
【0080】
前記組成物の被膜は揮発性の有機溶媒などを含んでいるため、組成物による被膜形成後、まずこの揮発性成分を蒸発させて除去する。この揮発性成分の除去は加熱によって行うことが好ましい。ガラス基板上に組成物の被膜を形成した後、室温〜50℃程度の温度下でセッティングを行うことが塗膜のレベリング性向上の観点から好ましく、一般的に実施される操作であるが、通常の場合このセッティングの操作中に、これと並行して揮発成分が気化して除去されるため、揮発成分除去の操作はセッティングに含まれることになる。言い換えれば、揮発成分除去の操作にセッティングが含まれることになる。セッティングの時間、すなわち揮発成分除去の操作の時間は、被膜形成に用いる組成物にもよるが30秒〜2時間程度であることが好ましい。
【0081】
なお、この際、揮発成分が充分除去されることが好ましいが、完全に除去されなくてもよい。つまり、紫外線遮蔽膜の性能に影響を与えない範囲で該膜に有機溶媒等が残存することも可能である。また、前記揮発性成分の除去のために加熱を行う場合には、その後必要に応じて行われる酸化ケイ素系マトリックスの形成のための加熱と、前記揮発性成分の除去のための加熱、すなわち一般的にはセッティングと、は連続して実施してもよい。
【0082】
上記の様にして塗膜から揮発成分を除去した後、ケイ素化合物から酸化ケイ素系マトリックスを形成させる。この反応は、常温下ないし加熱下に行うことができる。加熱下に酸化ケイ素系マトリックスを形成する場合、マトリックスが有機成分を含むことより、その加熱温度の上限は200℃が好ましく、特に170℃が好ましい。常温においてもマトリックスを形成することができることより、その加熱温度の下限は特に限定されるものではない。ただし、加熱による反応の促進を意図する場合は、加熱温度の下限は60℃が好ましく、100℃がより好ましい。したがって、この加熱温度は60〜200℃が好ましく、100〜170℃がより好ましい。加熱時間は、被膜形成に用いる組成物にもよるが、数分〜数時間であることが好ましい。
【0083】
以上の製造方法によれば、1回の簡便な成膜プロセスにより、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域において紫外線遮蔽能が高く、かつ機械的、化学的耐久性に優れた紫外線遮蔽膜付きガラスを、効率よく経済的に製造できる。
【実施例1】
【0084】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
[実施例1]
【0085】
2−プロピルアルコール(51g)、1−メトキシ−2−プロパノール(51g)、テトラメトキシシラン(関東化学製)(71g)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製)(47g)、0.1モル/リットルの硝酸(180g)を秤量して、反応容器に導入し、これらを25℃で1時間撹拌した。つぎに、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(8.3g)、ベンズイミダゾール系蛍光増白剤(クラリアント・ジャパン社製、HOSTALUX ACK LIQ(15wt%水溶液)、以下、単に「ベンズイミダゾール系蛍光増白剤」という。)(5.5g)を添加し、撹拌しながら溶解させ、組成物Aを得た。
【0086】
用いた2種の紫外線遮蔽性材料、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンおよびベンズイミダゾール系蛍光増白剤について、分光光度計(日立製作所製:U−4100)で測定した波長250nm〜450nmにおける光の透過率(%)を図1に示す。ここで、図1において「HBP」は、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンを示し、「ベンズイミダゾール」はベンズイミダゾール系蛍光増白剤を示す。図1に示す通り2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンの光の極大吸収波長は350nm、ベンズイミダゾール系蛍光増白剤の光の極大吸収波長は367nmであり、両者の波長差は17nmである。
【0087】
得られた組成物Aを、表面を清浄にした高熱線吸収グリーンガラス(縦10cm、横10cm、厚さ4mm、旭硝子社製、通称UVFL)の表面に、スピンコート法によって塗布した。レベリングのため、室温で5分間静置した後、大気中、150℃で30分間硬化させて紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。得られた紫外線遮蔽膜付きガラス板について、下記1)〜8)の評価を行った。結果を表2に示す。なお、高熱線吸収グリーンガラスは、下記評価2)と同様の方法によるに可視光透過率(Tv)が73%、下記評価3)と同様の方法によるによる日射透過率(Te)が45%、波長400nmの光の透過率が61%のガラス板である。
【0088】
また、得られた紫外線遮蔽膜付きガラス板について、分光光度計(日立製作所製:U−4100)で測定した波長300nm〜600nmにおける光の透過率(%)を図2に示す。
<評価方法>
【0089】
1)膜厚:コート液を塗布し、硬化する前に塗膜の一部を剃刀を用いて剥離させておき、膜を形成させた後に触針式表面粗さ計(Sloan社製:DEKTAK3)を用いて段差を測定して膜厚(μm)を得た。
【0090】
2)可視光透過率(Tv):分光光度計(日立製作所製:U−4100)により300〜2100nmの紫外線遮蔽膜付きガラス板の透過率を測定し、JIS−R3106(1998年)により可視光透過率(%)を算出した。
【0091】
3)日射透過率(Te):分光光度計(日立製作所製:U−4100)により300〜2100nmの紫外線遮蔽膜付きガラス板の透過率を測定し、JIS−R3106(1998年)により日射透過率(%)を算出した。
【0092】
4)紫外線透過率(Tuv400):分光光度計(日立製作所製:U−4100)により300〜2100nmの紫外線遮蔽膜付きガラス板の紫外線透過率を測定し、波長300〜400nmまでの光について、ISO9845−1(1992年)により5nm毎に示される重価係数(表1)のそれぞれに、同波長の光の前記紫外線遮蔽膜付きガラス板に対する前記透過率測定値を乗じた値の総和(%)を算出した。
【0093】
5)耐摩耗性試験:紫外線遮蔽膜に対して、テーバー式耐摩耗試験機を用い、JIS−R3212(1998年)に記載の方法によって、CS−10F磨耗ホイールで1000回転の摩耗試験を行い、試験前と試験後の傷の程度を曇価(ヘイズ値)によって測定し、曇価の増加量(%)で評価した。なお、曇価の増加量が5%以下であれば、紫外線遮蔽膜付きガラス板を、自動車等の車両窓として充分に用いることができる。
【0094】
6)波長390nmの光の透過率(T390):分光光度計(日立製作所製:U−4100)により波長390nmでの紫外線遮蔽膜付きガラス板の透過率(%)を測定した。
【0095】
7)波長400nmの光の透過率(T400):分光光度計(日立製作所製:U−4100)により波長400nmでの紫外線遮蔽膜付きガラス板の透過率(%)を測定した。
【0096】
8)耐薬品性試験:紫外線遮蔽膜の表面に、0.05モル/リットルの硫酸溶液および0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ滴下し、25℃で24時間放置したのち水洗した。試験前後での外観、前記紫外線透過率(Tuv400)の変化を追跡した。外観、前記紫外線透過率(Tuv400)の変化がみられないものを合格とした。
[実施例2]
【0097】
2−プロピルアルコール(51g)、1−メトキシ−2−プロパノール(51g)、テトラメトキシシラン(関東化学製)(71g)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製)(47g)、0.1モル/リットルの硝酸(180g)を秤量して、反応容器に導入し、これらを25℃で1時間撹拌した。つぎに、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(12.8g)、蛍光増白剤(日本化薬株式会社製 Kayalight B)(3.2g)を添加し、撹拌しながら溶解させ、組成物Bを得た。
【0098】
2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンの光の極大吸収波長は350nmであり、Kayalight Bの光の極大吸収波長は363nmであり、両者の波長差は13nmである。
【0099】
得られた組成物Bを、上記実施例1と同様にして、実施例1で用いたのと同様の表面を清浄にした高熱線吸収グリーンガラス(縦10cm、横10cm、厚さ4mm、旭硝子社製、通称UVFL)の表面に、スピンコート法によって塗布した。レベリングのため、室温で5分間静置した後、大気中、150℃で30分間硬化させて紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。得られた紫外線遮蔽膜付きガラス板について、上記1)〜8)の評価を行った。結果を表2に示す。
[比較例]
【0100】
シクロヘキサノン(50g)、メチルイソブチルケトン(30g)、ビーズ状アクリル樹脂(三菱レイヨン製、BR−88)(5g)、蛍光増白剤として2,5−ビス(5−t−ブチル−2−ベンズオキサゾリル)チオフェン(0.5g)、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(旭電化工業社製、アデカスタブLA−36)(0.5g)を秤量して、反応容器に導入し撹拌してこれらの混合物を得た。得られた混合物を、オイルバスを用いて80℃程度に昇温させて完全に溶解させたのち、常温まで冷却した。ついで、これにγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(0.1g)を添加し、撹拌して組成物Cを得た。
2,5−ビス(5−t−ブチル−2−ベンズオキサゾリル)チオフェンの光の極大吸収波長は372nmであり、アデカスタブLA−36の光の極大吸収波長は354nmであり、両者の波長差は18nmである。
【0101】
得られた組成物Cを、上記実施例と同様にして、実施例1で用いたのと同様の高熱線吸収グリーンガラスの表面に塗布し、120℃で30分間硬化して、紫外線遮蔽層付きガラス板を得た。得られた紫外線遮蔽層は、アクリル樹脂をマトリックスとする厚さ5.1μmの紫外線遮蔽層である。ついで、シリコーンハードコート材料(GE東芝シリコーン社製、トスガード510)を前記紫外線吸収層の表面に塗布し、150℃で1時間硬化させて、保護層を形成した。得られた保護層の厚さは3.3μmであった。
【0102】
このようにして得られた比較例の紫外線遮蔽膜(2層型)付きガラス板について、上記1)〜8)の評価を行った。なお、5)耐摩耗性試験(曇価の増加量(%))は、表面保護層に対して実施したものである。アクリル樹脂をマトリックスとする紫外線吸収層の耐摩耗性について十分でないことは周知の事実であり、シリコーンハードコート材料による保護層は、それを補う目的で設けられることが通常に行われている。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
この結果からわかるように、本発明による実施例の紫外線遮蔽膜付きガラス板が、UV−Aを含む地表に到達する太陽光に含まれる紫外線の全波長域において紫外線遮蔽能が高く、機械的耐久性、薬品耐性および耐光性に優れるのに比較して、比較例の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、紫外線遮蔽能は本発明のレベルに達しているものの、耐摩耗性試験による曇価増加量が9.3%であり、高度な耐摩耗性を要求される部位などには使用できないレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、優れた紫外線遮蔽性及び耐久性、耐光性を有しており、自動車用のドアガラス板など、機械的及び化学的耐久性が高度に要求される部位への適用も可能である。また、本発明の製造方法によれば、優れた紫外線遮蔽性と耐久性とを兼ね備えた紫外線遮蔽層付きガラスを1回の成膜プロセスにより低コストで製造できるので、特に自動車用ガラス板、建材用ガラス板等の作製に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施例1に用いた紫外線遮蔽性材料の250〜450nmの光の透過率(%)を示す図である。
【図2】実施例1で得られた紫外線遮蔽膜付きガラス板の300〜600nmの光の透過率(%)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と該ガラス基板の少なくとも片面に設けられた紫外線遮蔽膜とを有し、前記紫外線遮蔽膜が、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料を含有する酸化ケイ素系マトリクスで構成された、紫外線遮蔽膜付きガラス板であって、
前記紫外線遮蔽性材料がそれぞれ波長325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有し、かつ前記紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長のうちそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下であり、
前記紫外線遮蔽膜の表面に対して、JIS−R3212(1998年)によるCS−10F磨耗ホイールでの1000回転磨耗試験を行った場合に、試験前に対する試験後の曇価の増加量が5%以下であり、
波長300〜400nmまでの光について、ISO9845−1(1992年)により5nm毎に示される重価係数のそれぞれに、同波長の光の前記紫外線遮蔽膜付きガラス板に対する透過率を乗じた値の総和が1%以下である
ことを特徴とする紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項2】
前記紫外線遮蔽性材料が、下記紫外線遮蔽性材料(1)から選ばれる少なくとも1種と、下記紫外線遮蔽性材料(2)から選ばれる少なくとも1種とを含む請求項1に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
紫外線遮蔽性材料(1):λで表す当該紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長が、325nm<λ≦350nmの領域にある紫外線遮蔽性材料、
紫外線遮蔽性材料(2):λで表す当該紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長が350nm<λ≦425nmの領域にある紫外線遮蔽性材料。
【請求項3】
前記紫外線遮蔽性材料が、紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種と蛍光増白剤から選ばれる少なくとも1種とを含む請求項1または2に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項4】
前記紫外線遮蔽膜中の酸化ケイ素系マトリクスと紫外線遮蔽性材料との含有比率が、質量比で[SiO換算の酸化ケイ素系マトリクス]/[紫外線遮蔽性材料の総量]として、100/5〜100/50である請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項5】
前記紫外線遮蔽性材料(1)と前記紫外線遮蔽性材料(2)との含有比率が、質量比で[紫外線遮蔽性材料(1)]/[紫外線遮蔽性材料(2)]として、99/1〜50/50である請求項2〜4のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項6】
前記酸化ケイ素系マトリクスが、下記ケイ素含有成分(1)と下記ケイ素含有成分(2)とを、加水分解縮合反応することによって得られる酸化ケイ素系化合物を主成分とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
ケイ素含有成分(1):4官能の加水分解性ケイ素モノマーおよび該ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、3官能の加水分解性ケイ素モノマーおよび該ケイ素モノマーの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいケイ素含有成分、
ケイ素含有成分(2):1〜3個の1価有機官能基(ただし、1価炭化水素基を除く)がケイ素原子に結合したアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種からなるケイ素含有成分。
【請求項7】
前記加水分解縮合反応に用いる前記ケイ素含有成分(1)と前記ケイ素含有成分(2)との配合比率が、SiO換算の質量比で、[ケイ素含有成分(1)]/[ケイ素含有成分(2)]として、9.5/0.5〜7/3である請求項6に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項8】
前記酸化ケイ素系マトリクスが、さらに可撓性付与樹脂を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項9】
前記紫外線遮蔽膜付きガラス板に対する波長390nmの光の透過率が1%以下である請求項1〜8のいずれか1項記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項10】
前記紫外線遮蔽膜付きガラス板に対する波長400nmの光の透過率が1%以下である請求項1〜9のいずれか1項記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項11】
前記ガラス基板の光透過特性が、波長400nmの光の透過率については5〜80%であり、JIS−R3106(1998年)により定められる日射透過率については65%以下であり、かつ可視光透過率については70%以上である請求項1〜10のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項12】
前記紫外線遮蔽膜の膜厚が1〜10μmである請求項1〜11のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽膜付きガラス板。
【請求項13】
ガラス基板の少なくとも片面に、加水分解縮合反応により酸化ケイ素ゲルとなりうるケイ素化合物、光の極大吸収波長の異なる2種以上の紫外線遮蔽性材料、水、有機溶媒、および酸を含む組成物を塗布し、組成物の塗膜を形成する工程と、前記組成物の塗膜から前記有機溶媒を除去するとともに前記ケイ素化合物から酸化ケイ素系マトリクスを形成して紫外線遮蔽膜を形成する工程とを含む紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法であって、
前記紫外線遮蔽性材料がそれぞれ波長325〜425nmの領域に光の極大吸収波長を有し、かつ前記紫外線遮蔽性材料の光の極大吸収波長のうちそれぞれ隣り合う極大吸収波長同士の波長差が20nm以下であることを特徴とする紫外線遮蔽膜付きガラス板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−30792(P2010−30792A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191681(P2008−191681)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】