説明

紫外線防御効果の評価方法、評価装置、評価プログラム、及び該プログラムが記録された記録媒体

【課題】実生活の利用条件及び利用環境で照射される太陽光源に含まれる紫外線に対する防御効果の高精度な評価を実現する。
【解決手段】塗布対象部材に塗布された測定試料における紫外線防御効果の評価を行う評価方法において、予め設定された光照射条件による紫外線、可視光線、赤外線を含む光源の光照射により所定の波長領域における前記測定試料の分光透過スペクトルの経時変化を所定の波長間隔で測定する第1のステップと、前記分光透過スペクトルの経時変化に基づき、光照射時間と前記測定試料の紅斑効果量から1MEDあたりの紅斑効果量を除算することで得られる所定時間単位の紅斑効果量との相関関係を設定する第2のステップと、前記相関関係から時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出する第3のステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線防御効果の評価方法、評価装置、評価プログラム、及び該プログラムが記録された記録媒体に係り、特に実生活の利用条件や利用環境で照射される紫外線に対する防御効果の高精度な評価を実現するための紫外線防御効果の評価方法、評価装置、評価プログラム、及び該プログラムが記録された記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線による日焼けを防止するための化粧品(いわゆるサンケア商品等)の紫外線防御効果を表わす尺度としてSPF(Sun Protection Factor)値が用いられている。そして、例えば世界的に利用されている「International Sun Protection Factor Test Method,(C.O.L.I.P.A.−J.C.I.A.−C.T.F.A.S.A.−C.T.F.A.),May 2006.」等のin vivo SPF法に基づいて、ヒトの皮膚の紅斑反応からSPF値が求められている。このSPF値は、紫外線による日焼けから肌を守り、日焼けを防ぐ効果を示す指数であり、サンケア商品を使用した場合に、かすかに赤みを起こさせるために必要な紫外線量を、サンケア商品を使用しない場合に、かすかに赤みを起こさせるために必要な紫外線量で除した値により定義される。例えば、SPF値が10のサンケア化粧品を使用すると、全く同一条件の紫外線を用いた場合であれば、素肌で日焼けする場合の10倍の紫外線を浴びる時に、素肌と同じような日焼け(紅斑)をするという意味である。
【0003】
SPF値の測定には、季節や場所によって強度等が異なる可能性がある太陽光ではなく、人工太陽光(ソーラシミュレーター)を採用している。また、その測定法は、製品を塗らない肌と塗った肌とにそれぞれ一定量の紫外線を照射し、翌日、紅斑を起こしたかどうかを調べることによる。
【0004】
上述の方法に準拠して測定したSPF値を用いれば、サンケア商品の紫外線防御効果の容観的な評価が可能となる。しかし、上述の方法は多数の特定の肌タイプの被験者の協力が不可欠であるため、多大な費用と日数とを必要とする。したがって、例えば開発段階にある製品の紫外線防御効果の評価のため等に、倫理的な観点からも人を用いることなく測定するin vitroの方法で、簡便に、上述のようなin vivo SPF法を原理、原則的に再現し、上述の方法で得られたin vivo SPF値との相関が高いin vitro SPF予測値の算出方法の関発が近年加速しており、そのための技術が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4365452号公報
【特許文献2】特許第4454695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに利用されているin vivo SPFの測定条件は、被験者である人の負荷を軽減するために、種々の工夫がなされていた。
【0007】
例えば、測定時間の短縮化のために、紅斑反応が短時間で生じるように実際の太陽光の数十倍の強度で照射したり、皮膚の紅斑反応のみを目視で判定しやすくするために、熱効果に由来する皮膚の赤みが生じないようにソーラーシミュレーターの照射スペクトルから可視光線や赤外線をカットする等の各種設定を行っていた。しかしながら、これらの測定条件は、実生活上で太陽光が照射される利用環境とは大きく異なっていた。
【0008】
また、in vivo SPFの測定条件では、サンプルの塗布量を一律に2.00mg/cmに統一しているが、実際のユーザの利用条件では、ばらつきが非常に大きく、概ね平均的に0.5〜1.5mg/cmであるとする論文が公知化されている(例えば、非特許文献:Sunscreen isn’t enough. Journal of Photochemistry and Photobiology B:Biology 64(2001)105−108)。
【0009】
そのため、これまでに利用されているin vivo SPF測定法で得られたSPFの数値は、異なる製品の紫外線防御効果を横並びで「相対的」に比較することはできても、各個人の「実際の利用環境や利用条件における紫外線防御効果」を「絶対的」な尺度で定量的に予測しているものではなかった。
【0010】
それゆえ、消費者が利用するシーンに応じて適正な数値のSPFが表示された製品を用いた場合でも、日焼けをしてしまうことがあったが、このことは、消費者が利用する際のサンプル塗布量がin vivo SPF測定法の条件よりも少ないことや、塗布の際にムラ(不均一性)が生じていること等、主として消費者の利用条件によって大きく異なることに起因すると考えられていた。
【0011】
本来、消費者保護の観点からも、実際の利用環境や利用条件における紫外線防御効果を予測した情報を提供することこそが重要であると考えられるが、実際のユーザの生活シーンにおける利用環境や利用条件に基づいて、紫外線防御効果(以下、「real−life SPF」又は「rSPF」という)を予測するin vitro SPF評価法は、これまでに存在しなかった。
【0012】
その理由として、一つ目には、これまでのin vivo SPF測定法で得られた数値がそのまま「絶対値」的な紫外線防御効果の尺度として解釈されていた側面があることが挙げられる。
【0013】
しかしながら、近年、ユーザの利用条件として、特にサンプルの塗布量がin vivo SPF値に与える影響について、上述のような論文等が公知化されるにつれ、利用条件が「絶対値」的な紫外線防御効果の尺度に与える影響については認知されつつある。
【0014】
一方、ユーザの利用環境として、太陽光スペクトルの形状や強度が「絶対値」的な紫外線防御効果の尺度に与える影響について検討された前例はなかった。
【0015】
更に、二つ目には、「real−life SPF」をin vitroによる試験で評価するための高感度な紫外線検出評価装置や経時で皮膚が紫外線を浴びる量を蓄積し、検出した紫外線から評価結果を解析するアルゴリズムを有する評価プログラムも存在しなかったためと考えられる。
【0016】
また、この「real−life SPF」について、被験者を用いてin vivoで評価することも、長時間に及ぶ被験者の拘束の負荷や、太陽光中に含まれる赤外線に由来する熱効果による赤みと紫外線による紅斑反応とを分離評価することが困難であるため、現実的には不可能であった。
【0017】
こうしたことから、「real−life SPF」を予測するためには、熱効果による赤みが生じることもなく、被験者に対する負荷もない、in vitroによる試験が最も相応しいことが分かる。
【0018】
ところで、これまでのin vitro SPF評価法は、例えば世界的に利用されている「International Sun Protection Factor Test Method,(C.O.L.I.P.A.−J.C.I.A.−C.T.F.A.S.A.−C.T.F.A.),May 2006.」等のin vivo SPF法を原理、原則的に再現することを目的として、施設内再現性および施設間再現性の高さ、更に、最終的にはin vivo SPF評価法で得られるSPF値を精度良く予測することに主眼が置かれているため、in vivo SPF値との相関性の高さで、そのin vitro SPF評価法の信頼性が議論されていた。
【0019】
つまり、従来のin vitro SPF評価法、更にはin vivo SPF評価法も含めて、従来では実際のユーザの利用環境や利用条件に基づく紫外線に対する防御効果を反映していなかったため、消費者保護の観点及び製品に付随する情報としての面から見れば、決して十分ではあるとは言えなかった。そのため、例えば、これまでのin vitro SPF評価法及びin vivo SPF評価法で評価された紫外線防御効果の数値を得た条件とは、異なる条件や環境でサンケア商品等を利用したユーザが日焼けしてしまう可能性もある。
【0020】
こうしたことから、各個人の「実際の利用環境や利用条件における紫外線防御効果」を定量的にin vitroで予測する技術が待望されていた。
【0021】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、実生活の利用条件や利用環境で照射される紫外線に対する防御効果の高精度な評価を実現するための紫外線防御効果の評価方法、評価装置、評価プログラム、及び該プログラムが記録された記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を達成するために本発明では、次に述べる各ステップ及び各手段を講じたことを特徴とする。
【0023】
請求項1に記載された発明は、塗布対象部材に塗布された測定試料における紫外線防御効果の評価を行う評価方法において、予め設定された光照射条件による紫外線、可視光線、赤外線を含む光源の光照射により、所定の波長領域における前記測定試料の分光透過スペクトルの経時変化を所定の波長間隔で測定する第1のステップと、前記第1のステップにより得られる前記分光透過スペクトルの経時変化に基づき、光照射時間と、前記測定試料の紅斑効果量から1MEDあたりの紅斑効果量を除算することで得られる所定時間単位の紅斑効果量との相関関係を設定する第2のステップと、前記第2のステップにより得られる前記相関関係から時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出する第3のステップとを有することを特徴とする。
【0024】
請求項2に記載された発明は、前記光照射される光源の強度範囲は、0.001〜20.0MED/minであることを特徴とする。
【0025】
請求項3に記載された発明は、前記測定試料の塗布量の範囲は、0.01〜10.0mg/cmであることを特徴とする。
【0026】
請求項4に記載された発明は、前記塗布対象部材の算術平均粗さ(Sa値)の範囲は、0.01〜400μmであることを特徴とする。
【0027】
請求項5に記載された発明は、塗布対象部材に塗布された測定試料における紫外線防御効果の評価を行う評価装置において、予め設定された光照射条件による紫外線、可視光線、赤外線を含む光源の光照射により、所定の波長領域における前記測定試料の分光透過スペクトルの経時変化を所定の波長間隔で測定する経時変化測定手段と、前記経時変化測定手段により得られる前記分光透過スペクトルの経時変化に基づき、光照射時間と、前記測定試料の紅斑効果量から1MEDあたりの紅斑効果量を除算することで得られる所定時間単位の紅斑効果量との相関関係を設定する相関関係設定手段と、前記相関関係設定手段により得られる前記相関関係から時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出するSPF予測値算出手段とを有することを特徴とする。
【0028】
請求項6に記載された発明は、前記経時変化測定手段は、任意の時間間隔で経時変化における分光透過スペクトルを測定することを特徴とする。
【0029】
請求項7に記載された発明は、前記経時変化測定手段は、前記測定試料における分光透過スペクトルの光劣化による経時変化を測定することを特徴とする。
【0030】
請求項8に記載された発明は、前記SPF予測値算出手段は、前記相関関係設定手段により得られる前記相関関係から時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって、前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出し、更に予め設定された参照試料から得られる前記参照試料におけるin vitro rSPF予測値、光源強度、及び皮膚代替膜に塗布された試料塗布量のうち、少なくとも1つのデータを用いて、前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を補正することを特徴とする。
【0031】
請求項9に記載された発明は、前記光照射される光源の強度範囲は、0.001〜20.0MED/minであることを特徴とする。
【0032】
請求項10に記載された発明は、前記測定試料の塗布量の範囲は、0.01〜10.0mg/cmであることを特徴とする。
【0033】
請求項11に記載された発明は、前記塗布対象部材の算術平均粗さ(Sa値)の範囲は、0.01〜400μmであることを特徴とする。
【0034】
請求項12に記載された発明は、コンピュータを、請求項5乃至請求項11の何れか1項に記載の評価装置として機能させることを特徴とする評価プログラムである。
【0035】
請求項13に記載された発明は、請求項12に記載の評価プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、実生活のシーンで照射される紫外線環境や利用条件に対する紫外線防御効果の高精度な評価を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施形態における紫外線防御効果の評価装置の概略構成の一例を示す図である。
【図2】本実施形態における紫外線防御効果の評価装置の機能構成の一例を示す図である。
【図3】本発明における評価処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
【図4】本発明における紫外線防御効果の評価処理手順の一例を示す図である。
【図5】光源スペクトルの一例を示す図である。
【図6】試料の例を示す図である。
【図7】本実施形態における評価で使用される塗布基板の一部を拡大した三次元イメージ図である。
【図8】波長と光源スペクトルとの関係を示す図である。
【図9】評価結果における光劣化を説明する吸光度スペクトルの一例を示す図である。
【図10】本実施形態における光劣化を説明するための他の例を示す図である。
【図11】人工太陽シミュレータと擬似自然太陽光により照射された場合における光不安定なサンプルAの360nmにおける吸光度の低下割合の違いを示す図である。
【図12】擬似自然太陽光により光不安定なサンプルAが3種の試料塗布基板において光劣化を起こした結果を示す図である。
【図13】SMSにおける0.05MED/min(真夏の日本における実際の太陽光の強度程度)から4MED/minまでの強度でサンプルAの光劣化挙動の一例を示す図である。
【図14】SMSに異なるサンプル塗布量を適用した際の光不安定なサンプルAの360nmにおける吸光度の低下の違いを示す図である。
【図15】サンプルAを様々な塗布量で3つの塗布基板へ塗布した際の再現性を308nmにおける吸光度で評価した図の一例を示す図である。
【図16】光不安定なサンプルA及び光安定なサンプルBについて異なる塗布量におけるin vitro SPF値に対する光源の影響を説明するための図である。
【図17】3種のサンプル基剤を用いて、3つの異なる部位でin vitro rSPF値を求めた結果について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<本発明について>
本発明の基本的な考え方は、「光照射スペクトル」を実際の太陽光スペクトルに近似させると共に、「光照射強度」も同様に実際の太陽光強度付近に設定して実際の太陽光下における紫外線防御効果を数値で予測する。本発明では、「皮膚に近い塗布膜」として皮膚の平均粗さデータ(例えばSa=約17ミクロン程度)に近く、また皮膚レプリカの形状に基づき単純化した表面プロファイルを有するプレートを用いて、「実際に塗布するサンプル量」を評価の際の塗布量に採用し、「実際のユーザが行うサンプル塗布方法」に従ってサンプルを塗布する。
【0039】
つまり、本発明では、「光源スペクトル」、「光源強度」、「サンプル塗布量」、「塗布プレートの算術平均粗さ(Sa値)」のうち、少なくとも1つを日常生活の条件に対応させた適切な値に設定する。具体的には、光源スペクトルでは、自然太陽光と同様の光となるように、紫外線だけでなく、可視光線及び赤外線も含めた光源スペクトル波形の光をサンプルに照射する。また、光源強度は、実際の太陽光強度付近に設定する必要があるが、後述するように光源強度は一定の範囲で「real−life SPF」の予測値に影響しないため、約0.001〜20.0MED/min程度とするのが好ましい。また、サンプル塗布量は、約0.01〜10.0mg/cm程度とするのが好ましい。また、塗布プレートの算出平均粗さ(Sa値)は、約0.01〜400μm程度とするのが好ましい。
【0040】
以下に、本発明における紫外線防御効果の評価方法、評価装置、評価プログラム、及び該プログラムが記録された記録媒体を好適に実施した形態について、図面を用いて説明する。
【0041】
<評価装置:装置構成例>
図1は、本実施形態における紫外線防御効果の評価装置の概略構成の一例を示す図である。図1に示す評価装置10は、試料(サンプル(Sample))1(参照試料又は測定試料(試験試料))を測定するための装置であり、光源11と、電源供給手段12と、フィルタ13と、光ファイバ14と、積分球15と、ステージ16と、ステージ駆動手段17と、オプティカルチョッパー18と、分光手段であるモノクロメーター19と、光検出手段であるUV−PMT(Photo Multiplier Tube;光電子増倍管)20と、PMT電圧コントローラ21と、信号増幅手段(Amp)22と、主制御手段であるPC(Personal Computer)23とを有するよう構成されている。
【0042】
光源11は、紫外線、可視光線、及び赤外線を含む白色光源であるキセノンランプが好適に用いられるが、これに限定されるものではない。また、白色光源であるキセノンランプは、擬似的な太陽光線として用いることができる。
【0043】
つまり、本実施形態で用いられる光源スペクトルは、紫外線領域、可視光線領域、赤外線領域を含むことができ、具体的には、後述するように、例えば約200〜1000nm程度の波長形状の光源を用いる。
【0044】
電源供給手段12は、PC23からの制御信号に基づいて、光源11に対して所定のタイミングで所定の強さの電源を供給して、光源を適宜調整し光源強度の設定を行う。つまり、電源供給手段12における光源強度の設定では、具体的には、ソーラーシミュレーター(擬似太陽光源)の光量を市販のラジオメーター(Solar Light社製 型番3D−600やPMA−2100等)を用いて調整する。
【0045】
フィルタ13は、光源11からの光の進行方向近傍にあり、光源11から発せられた光線の紫外線スペクトルを補正するフィルタである。なお、フィルタ13については、光源11から照射される光照射スペクトルに対して、短波長カットフィルタ、長波長カットフィルタ、バンドパスフィルタ、NDフィルタ等の光学フィルタを1又は複数のフィルタ13の組み合わせにより、実際の太陽光スペクトル波形の形状に近似させる。
【0046】
その結果、得られたスペクトル形状(Simulated natural sunlight(擬似自然太陽光))は、Natural sunlight(自然太陽光、文献値)に近似して得られ、in vivo SPF測定法で用いられているArtificial solar simulator(人工太陽光シミュレータ)のスペクトル形状とは大きく異なる。なお、上述したスペクトル形状については、後述する。
【0047】
また、フィルタ13は、光源11の種類や照射する試料1の種類等に応じて変更することができる。なお、フィルタ13は、自動で変更ができるように、左右移動又は円回転移動等によるスライド機構が設けられていてもよい。
【0048】
光ファイバ14は、フィルタ13からの光の進行方向近傍にあり、フィルタ13を透過した光線を試料1近傍へ、更には積分球15へと導く。
【0049】
積分球15は、試料1を透過した光線を受光し、光線を集光し、空間的に積分して均一にする。つまり、積分球15は、光ファイバ14から照射され、試料1を通過した光を球体内に導入し、球内壁面で拡散反射を繰り返して均一な強度分布を得ることができる。なお、均一強度分布は、光源の強度に比例した分布となる。なお、本実施形態では、積分球15を省略することも可能である。
【0050】
ステージ16は、ステージ駆動手段17による駆動制御により、所定のタイミングで、積分球15を上下又は左右に水平又は垂直に移動させることができ、更には、所定の角度に傾斜させて移動させることもできる。これにより、光ファイバ14からの光線が通過する試料1の位置を移動させることができ、試料1の所定の位置で通過させた光線を積分球15内に入れることができる。
【0051】
なお、ステージ16は、試料1が載せられる試料台を有していてもよく、例えば試料1の外周や一部を固定し保持する構造を有することが好ましい。これにより、試料1に光が照射される場所を任意に移動することができる。
【0052】
ステージ駆動手段17は、PC23からの制御信号に基づいて所定のタイミングで所定の位置にステージを移動させる。
【0053】
オプティカルチョッパー18は、積分球15からの光線を、紫外線・可視光線・赤外線の連続光を任意の周波数のパルス光に変換する。例えば、なお、オプティカルチョッパー18は、例えば5Hz〜2万Hzの周波数まで変換することができ、入力される光源11やフィルタ12、積分球15の性能、各種条件等に応じて設定することができる。
【0054】
モノクロメーター19は、広範囲の波長の光を空間的に分散させ、分散させた光に対してスリット等を用いて狭い範囲の波長のみを取り出すことができる分光手段である。モノクロメーター19は、オプティカルチョッパー18からの光線を、紫外線領域だけでなく、可視光線領域や赤外線を含む、少なくとも約200乃至1000nm程度の範囲において所定の波長間隔で分光することができる。
【0055】
なお、所定の波長間隔としては、例えば0.5nm毎や1nm毎、5nm毎等があるが、本発明においては特に限定されるものではない。したがって、以下の説明では、一例として1nm毎に測定するものとする。分光手段18によって分光された光は、UV−PMT20に出力される。
【0056】
なお、本実施形態におけるモノクロメーター19としては、例えば迷光を減少させるためにダブルモノクロメーターを用いるのが好ましいが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、例えばシングルモノクロメーターやトリプルモノクロメーター等を用いることができる。
【0057】
なお、モノクロメーター19である分光手段は、例えば紫外線に感度特性が調整されており、例えば200乃至400nmの紫外線領域に感度特性のすぐれた回折格子を用いることにより高感度な分光性能を実現している。具体的には、島津製作所製凹面回折格子(型番10−015)等を用いることができるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0058】
光検出手段であるUV−PMT20は、分光手段であるモノクロメーター19により分光された紫外線領域(UV領域)の光線を、光センサーにより検出し、それぞれの波長の光線の強度を電流又は電圧による信号に変換する。なお、これらの信号は、PMT電圧コントローラ21により制御されて所定の信号が生成される。つまり、UV−PMT20は、光電効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する際、電流増幅機能を付加することができる高感度光検出手段である。
【0059】
PMT電圧コントローラ21は、PC23からの制御信号に基づいて、UV−PMT20に対して所定の電圧制御を行い、波長の強度に対する電流又は電圧による信号に変換させる。
【0060】
また、UV−PMT20から出力された信号は、信号増幅手段(Amp)22により増幅され、PC23に出力される。なお、上述のUV−PMT20については、光電子増倍管を用いるだけでなく、In、Ga、N、Al、及びO等からなる半導体光検出手段も同様にUV−PMT20として用いることができる。
【0061】
PC23は、評価装置10の各構成全体を制御する主制御手段である。具体的には、PC23は、電源供給手段12やステージ駆動手段17、PMT電圧コントローラ21に対して所定のタイミングで所定条件の動作が行われるように制御信号を生成して各構成に出力する。
【0062】
例えば、PC23は、光源11のオン/オフを制御する。また、PC23は、UV−PMT20から所定の波長間隔(例えば、1nm等)毎の分光強度等を設定し、測定試料における最終的なin vitro rSPF予測値を算出する。また、PC23は、UV−PMT20からのデータを受信し、ユーザにわかりやすい形にデータを処理し、その結果を表示する画面を生成して表示したり、その結果を記録紙に打ち出したり、その結果を記憶媒体に保存したりできるようにする。また、PC23は、取得した結果に基づいて実生活の利用条件や利用環境等で照射される紫外線に対する防御効果の高精度な評価を実現することができる。
【0063】
なお、PC23は、例えば汎用のパーソナルコンピュータ等を用いることができ、入力手段等によるユーザからの指示等により上述した評価装置10における各機能を実行させることができる。
【0064】
<評価装置:機能構成例>
次に、評価装置10の機構構成例について図を用いて説明する。図2は、本実施形態における紫外線防御効果の評価装置の機能構成の一例を示す図である。
【0065】
図2に示す評価装置10は、入力手段31と、出力手段32と、蓄積手段33と、経時変化測定手段34と、相関関係設定手段35と、SPF予測値算出手段36と、評価手段37と、画面生成手段38と、制御手段39とを有するよう構成されている。
【0066】
入力手段31は、例えばPC23に設けられ、ユーザ等からの評価開始指示や、測定結果を出力手段32により出力させる等の各種データの入力を受け付ける。なお、入力手段31は、例えばキーボードや、マウス等のポインティングデバイス等からなる。
【0067】
また、出力手段32は、例えばPC23に設けられ、入力手段31により入力された内容や、入力内容に基づいて実行された内容等の表示・出力を行う。なお、出力手段32は、ディスプレイやスピーカ等からなる。更に、出力手段32としてプリンタ等の機能を有していてもよく、その場合には、簡単な測定結果や算出結果、評価結果等を紙等の印刷媒体に印刷して、ユーザ等に提供することもできる。
【0068】
また、蓄積手段33は、例えばPC23に設けられ、経時変化測定手段34による測定結果、相関関係設定手段35による設定内容、及びSPF予測値算出手段36による算出結果、評価手段37における評価結果、画面生成手段38において生成された画面等の各種データを蓄積する。また、蓄積手段33は、必要に応じて蓄積されている上述した各種データや予め設定される各構成を実行するための各種設定情報(パラメータ)等を読み出すことができる。
【0069】
また、経時変化測定手段34は、予め設定された光照射条件による紫外線、可視光線、赤外線を含む光源(例えば、波長が約200乃至1000nm程度)の光照射により、所定の波長領域における試料1(参照試料又は測定試料(試験試料))の分光透過スペクトルの経時変化を所定の波長間隔で測定する。具体的には、経時変化測定手段34は、例えば光検出手段20等により、例えば290乃至400nmの紫外線を含む光源により、試料1(参照試料又は測定試料(試験試料))の分光透過スペクトルを所定の波長間隔(例えば、1nm)毎に測定する。また、経時変化測定手段34は、予め設定された光照射時間による光照射により試料1の分光透過スペクトルの経時変化を測定する。
【0070】
なお、経時変化測定手段34は、任意の時間間隔で経時変化における分光透過スペクトルを測定することで、処理時間等の調整を容易に行うことができる。したがって、必要に応じて評価処理時間等を短縮することができる。また、経時変化測定手段34は、試料1における分光透過スペクトルの光劣化による経時変化を測定する。これにより、照射光による試料の光劣化現象を反映したin vitro rSPF予測値を算出することができる。
【0071】
また、相関関係設定手段35は、PC23の機能として経時変化測定手段34により得られる試料1における分光透過スペクトルの経時変化に基づき、光照射時間と所定時間単位の紅斑効果量との相関関係を設定する。
【0072】
つまり、相関関係設定手段35は、経時変化測定結果に基づいて、分光透過スペクトルの時間変化に基づく紅斑効果量(経時紅斑効果量)の相関関係を設定する。具体的には、相関関係設定手段35は、経時変化測定手段34により得られる分光透過スペクトルの経時変化に基づき、光照射時間と、試料1の紅斑効果量から1MEDあたりの紅斑効果量を除算することで得られる所定時間単位の紅斑効果量との相関関係を設定する。
【0073】
また、相関関係設定手段35における紅斑効果量は、波長毎の透過光強度に予め設定される紅斑係数(赤くなり易さ)を乗じて算出する。これにより、高精度に紅斑効果量を算出することができる。なお、紅斑係数としては、例えば非特許文献である「CIE Journal (1987) 6:1,17−22」に記載されたCIEの文献値を採用することができるが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、類似の文献値等を採用することができる。また、上述した相関関係の設定手法は、例えば特許文献1等に示されているが、本発明における設定手法についてはこれに限定されるものではない。
【0074】
SPF予測値算出手段36は、PC23の機能として相関関係設定手段35により設定された相関関係に基づいて時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって試料1におけるin vitro rSPF予測値を算出する。ここで、1MEDとは、in vivo SPF値の測定現場において、被験者の被験部位における最小紅斑量を惹起するのに要する紫外線光量のことである。
【0075】
また、SPF予測値算出手段36は、予め設定された試料から得られるin vitro rSPF予測値、光源強度、及び皮膚代替膜に塗布された試料塗布量のうち、少なくとも1つのデータを用いて、試料におけるin vitro rSPF予測値を補正することができる。
【0076】
具体的には、SPF予測値算出手段36は、まず予め設定される参照試料を用いて、上述の経時変化測定手段34及び相関関係設定手段35における処理を行い、相関関係設定手段35により設定された相関関係に基づいて時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって参照試料におけるin vitro rSPF予測値を算出する。なお、算出されたin vitro rSPF予測値は、使用した光源強度、皮膚代替膜に塗布された参照試料の塗布量等のデータと共に蓄積手段33に蓄積しておいてもよい。
【0077】
次に、SPF予測値算出手段36は、測定試料を用いて、上述した処理により測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出し、算出した予測値に対して、上述した参照試料におけるin vitro rSPF予測値、光源強度、及び試料塗布量等のうち少なくとも1つを用いて測定試料におけるin vitro rSPF予測値の補正を行う。
【0078】
これにより、in vivo SPFの数値に見合う高精度なin vitro rSPF予測値を算出することができる。なお、参照試料におけるin vitro rSPF予測値、光源強度、及び試料塗布量等を用いて、他の参照試料におけるin vitro rSPF予測値を取得する際にも上述のデータを用いて予測値を補正してもよい。
【0079】
また、評価手段37は、上述した経時変化測定手段34による測定結果や、SPF予測値算出手段36による算出結果等に基づいて、例えば、実生活の利用条件や利用環境等で照射される紫外線に対する防御効果の高精度な評価を実現する。
【0080】
また、画面生成手段38は、上述した各構成により得られる結果や、条件設定等を行う設定画面等を生成し、生成した画面を出力手段32に出力させる。なお、画面生成手段38において生成される画面例については後述する。
【0081】
更に、制御手段39は、PC23の機能として評価装置10の各構成部全体の制御を行う。具体的には、例えばユーザ等による入力手段31からの指示等に基づいて、分光透過スペクトルの経時変化の測定や、相関関係の設定、in vitro rSPF予測値の算出、補正等の制御を行う。また、制御手段39は、PC23による光源11のオン/オフの制御等を行う。
【0082】
<評価装置10:ハードウェア構成>
ここで、上述した紫外線防御効果の評価装置10においては、各機能をコンピュータに実行させることができる実行プログラム(評価プログラム)を生成し、PC23として、例えば汎用のパーソナルコンピュータ、サーバ等にその実行プログラムをインストールすることにより、本発明における評価処理等を実現することができる。
【0083】
ここで、本発明における評価処理が実現可能なコンピュータのハードウェア構成例について図を用いて説明する。図3は、本発明における評価処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
【0084】
図3におけるコンピュータ本体には、入力装置41と、出力装置42と、ドライブ装置43と、補助記憶装置44と、メモリ装置45と、各種制御を行うCPU(Central Processing Unit)46と、ネットワーク接続装置47とを有するよう構成されており、これらはシステムバスBで相互に接続されている。
【0085】
入力装置41は、ユーザ等が操作するキーボード及びマウス等のポインティングデバイスを有しており、ユーザ等からのプログラムの実行等、各種操作信号を入力する。出力装置42は、本発明における処理を行うためのコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイを有し、CPU46が有する制御プログラムによりプログラムの実行経過や結果等を表示することができる。
【0086】
ここで、本発明においてコンピュータ本体にインストールされる実行プログラムは、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリやCD−ROM等の可搬型の記録媒体48等により提供される。プログラムを記録した記録媒体48は、ドライブ装置43にセット可能であり、記録媒体48に含まれる実行プログラムが、記録媒体48からドライブ装置43を介して補助記憶装置44にインストールされる。
【0087】
補助記憶装置44は、ハードディスク等のストレージ手段であり、本発明における実行プログラムや、コンピュータに設けられた制御プログラム等を蓄積し必要に応じて入出力を行うことができる。
【0088】
メモリ装置45は、CPU46により補助記憶装置44から読み出された実行プログラム等を格納する。なお、メモリ装置45は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなる。
【0089】
CPU46は、OS(Operating System)等の制御プログラム、及びメモリ装置45に格納されている実行プログラムに基づいて、各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等、コンピュータ全体の処理を制御して、紫外線防御効果の評価等における各処理を実現することができる。プログラムの実行中に必要な各種情報等は、補助記憶装置44から取得することができ、また実行結果等を格納することもできる。
【0090】
ネットワーク接続装置47は、通信ネットワーク等と接続することにより、実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の端末等から取得したり、プログラムを実行することで得られた実行結果又は本発明における実行プログラム自体を他の端末等に提供することができる。
【0091】
上述したようなハードウェア構成により、本発明における紫外線防御効果の評価処理を実行することができる。また、プログラムをインストールすることにより、汎用のパーソナルコンピュータ等で本発明における紫外線防御効果の評価処理を容易に実現することができる。
【0092】
<紫外線防御効果の評価処理手順>
次に、本実施形態における紫外線防御効果の評価処理手順について具体的に説明する。図4は、本発明における紫外線防御効果の評価処理手順の一例を示す図である。図4に示す評価処理では、まず光源強度の設定を行う(S01)。なお、光源強度の設定では、具体的には、ソーラーシミュレーター(擬似太陽光源)の光量を市販のラジオメーター(Solar Light社製 型番3D−600やPMA−2100等)を用いて調整する。また、光源強度としては、後述するように一定の範囲で「real−life SPF」の予測値に影響しないため、例えばin vivo SPF測定の現場に準じて、約0.5〜15MED/Minの範囲が好ましく、更に好ましくは1〜5MED/Minの範囲がよい。
【0093】
次に、参照サンプル(参照試料)の透過光計測を行う(S02)。なお、計測時の具体的な構成としては、例えば皮膚代替膜等のみのブランクの場合、グリセリン等の紫外線吸収のない素材を皮膚代替膜等に塗布する場合、任意の参照サンプルが塗布されている場合等が挙げられる。ここで、皮膚代替膜としては、市販のPMMA(Polymethyl methacrylate)板(例えば、50mm×50mm)等を用いることができるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。更に、PMMA板の表面には、算術平均表面粗さ(Sa値)が0.01〜400μm程度になるように、サンドブラスト等の加工が施されていたり、皮膚を模した形状等が施されて金型成形されていることが好ましい。
【0094】
これを用いて、参照サンプル(グリセリン)を例えば0.75mg/cmとなるように秤量し、その後、例えば指もしくは指サックをした指でPMMA板の面内が均一になるように1分程度をかけて塗布する。なお、具体的な塗布方法については、例えば、本出願人により出願された特願2009−081400号等を用いることができるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
なお、指等を使用せずに皮膚代替膜にサンプルを塗布するための塗布装置を用いてもよい。なお、本実施形態における参照サンプルの塗布量は特に限定されるものではない。
【0095】
また、塗布する参照サンプルは、皮膚代替膜のみでなく測定試料の場合のブランクとして扱うために、少なくとも290〜400nmの波長領域における透過率が50%以上の液状物等を皮膚代替膜の上に塗布することが好ましい。
【0096】
また、塗布後は、測定を行うまでには所定の乾燥時間(例えば、約15分程度)を設けることが好ましい。
【0097】
なお、参照サンプルとしては、いわゆるブランク測定として皮膚代替膜の紫外線防御効果を予測するため、グリセリン等の液状物等を塗布して用いる場合もあるが、in vivo SPF測定に準じて、標準サンプル(数値が決められており、毎回同じ値が得られる標準サンプル)としてSPF4やSPF15のサンプルを用いてもよい。つまり、所定の波長領域における透過光計測を行う際、予めin vivo SPF値が既知の任意のサンプルを参照サンプルとして用いてもよい。これにより、評価の精度を向上させることができる。
【0098】
なお、上述の構成によるS02におけるサンプルの透過光計測の具体例については後述する。
【0099】
次に、S02の処理により得られた透過光計測結果に基づいて、得られた経時変化における分光透過スペクトル(経時スペクトル)毎に、その時間における紅斑効果量への変換を行い、紅斑効果量と経過時間との相関関係の設定を行う(S03)。具体的には、例えば複数の経時スペクトルから得られる紅斑効果量と経過時間の関係から相関式等の相関関係を設定する。
【0100】
次に、S03の処理にて設定された相関式等の相関関係に基づいて、所定時間毎の紅斑効果量を算出し、算出結果から累積紅斑効果量と経過時間との相関関係の設定を行う(S04)。なお、S03,S04における相関関係の設定内容については後述する。
【0101】
また、上述したS04にて得られた累積紅斑効果量と経過時間との相関関係から参照サンプルにおけるrSPF予測値の算出を行う(S05)。なお、S05の処理では、算出された参照サンプルにおけるrSPF予測値に対して、以前に測定したin vitro rSPF予測値、光源強度、及び皮膚代替膜に塗布された試料塗布量のうち、少なくとも1つを用いて補正を行ってもよい。なお、S05の処理については、例えば特許文献1に示す設定内容を適用することができるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0102】
次に、皮膚代替膜に試験サンプル(測定サンプル)を塗布し、試験サンプルの透過光計測を行う(S06)。なお、具体的には、上述した参照サンプルと同様に皮膚代替膜に試験サンプルが塗布されている。
【0103】
これを用いて、例えば上述した参照サンプルと同等の0.75mg/cmとなるように試験サンプルを秤量し、その後、例えば指もしくは指サックをした指でPMMA板の面内が均一になるように1分程度をかけて塗布する。なお、指等を使用せずに皮膚代替膜にサンプルを塗布するための塗布装置を用いてもよい。また塗布後は、測定を行うまでには所定の乾燥時間(例えば、約15分程度)を設けることが好ましい。なお、S06におけるサンプルの透過光計測の具体例については後述する。また、試験サンプルの塗布量は0.75mg/cmに限らず、実生活のシーンにおける利用条件の塗布量に基づき、測定装置の検出感度の範囲内において増減しても構わない。
【0104】
次に、S06の処理により得られた透過光計測結果に基づいて、得られた経時変化における分光透過スペクトル(経時スペクトル)毎に、その時間における紅斑効果量への変換を行い、紅斑効果量と経過時間との相関関係の設定を行う(S07)。具体的には、例えば上述したS03の処理と同様に複数の経時スペクトルから得られる紅斑効果量と経過時間の関係から相関式等の相関関係を設定する。
【0105】
次に、S07の処理にて設定された相関式等の相関関係に基づいて、所定時間毎の紅斑効果量を算出し、算出結果から累積紅斑効果量と経過時間との相関関係の設定を行う(S08)。なお、S07,S08における相関関係の設定内容については、例えば特許文献1に示す設定内容を適用することができるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0106】
また、上述したS08にて得られた累積紅斑効果量と経過時間との相関関係から試験サンプルにおけるrSPF予測値の算出を行う(S09)。なお、S09の処理では、相関関係から時間積分した紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によってin vitro rSPF予測値を算出する。
【0107】
また、S09の処理では、S05の処理により得られるin vitro rSPF予測値、光源強度、及び皮膚代替膜に塗布された試料塗布量のうち、少なくとも1つを用いて試験サンプルにおけるrSPF予測値の補正を行ってもよい。なお、S09の処理については、例えば特許文献1に示す設定内容を適用することができるが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0108】
また、S09の処理が終了後、算出された結果や補正された結果等に基づいて評価を行い(S10)、その評価結果等を出力手段32に出力するための画面を生成し(S11)、生成した画面を出力手段32により出力する(S12)。
【0109】
<本実施形態で適用される光源について>
ここで、本実施形態で適用される光源について、図を用いて説明する。図5は、光源スペクトルの一例を示す図である。なお、図5では、自然太陽光(Natural sunlight)と、SPF試験用人工ソーラーシミュレーター(Artificial solar simulator)の、スペクトル分布の違いを示す図である。なお、図5において、横軸は波長を示し、縦軸は相対強度を示している。
【0110】
図5に示すように、自然太陽光とSPF試験用人工ソーラーシミュレーターのスペクトルには、実際には大きな違いがあるため、従来では実際のユーザの実生活の利用環境という条件に基づく紫外線に対する防御効果を反映していなかったため、消費者保護の観点及び製品に付随する情報としての面から見れば、決して十分ではあるとは言えなかった。そのため、例えば、これまでのin vitro SPF評価法及びin vivo SPF評価法で評価された紫外線防御効果の数値を異なる条件で利用したユーザが日焼けしてしまう可能性もある。
【0111】
したがって、本発明では、図5に示す自然太陽光に示すような紫外線、可視光線、赤外線の各領域も含めた光源スペクトルを用いて評価を行う。
【0112】
次に、上述した構成及び評価手順による本実施形態における具体的な評価内容について説明する。
【0113】
<試料1の材料及び方法について>
ここで、本実施形態における評価に用いられる試料1について説明する。図6は、試料の例を示す図である。図6に示す例では、サンスクリーン(日焼け止め)に対するサンプルA,Bの2種類の試料を用いて評価を行う。なお、後述するような光安定性の評価を行い、サンプルAは光不安定な試料であり、サンプルBは光安定性な試料である。
【0114】
また、図7は、本実施形態における評価で使用される塗布基板の一部を拡大した三次元イメージ図である。なお、図7(a)は、プレキシグラス(Plexiglas)であり、図7(b)は、へリオプレート(HELIOPLATE) HD6であり、図7(c)は、Skin−Mimicking Substrate(SMS)(皮膚を模した塗布基板)である。また、図7(a)〜(c)における各名称の下部の[ ]内は、それぞれの塗布基板の推奨サンプル塗布量を示している。
【0115】
また、本実施形態におけるサンスクリーンの塗布は、上述した図7(a)〜(c)のうち、PMMA(polymethylmethacrylate)プレートの粗く処理された側で行われた。ここで、市販品プレキシグラスの算術平均表面粗さは2μm、大きさは約50mm×50mm×2mm程度としている。また、HELIOPLATE HD6の算術平均表面粗さは6μm、大きさは約47mm×47mm×3mm程度としている。更に皮膚の表面形状を模倣した塗布基板(SMS)は、金型成型によって得られ、算術平均表面粗さは17μm、大きさは約50mm×50mm×0.8mm程度としている。なお、SMSは、皮膚の表面形態を単純化したモデルとして、皮膚表面プロファイルを再現するために開発されたものである。
【0116】
また、表面のプロファイル測定は、三次元共焦点顕微鏡(HD100D、レーザーテック株式会社製)を用いて行われた。また、サンプルの塗布量は、約0.75mg/cmから約2.00mg/cm程度までの範囲内でサンプルAの吸光度スペクトルの変化を測定することにより確認された。
【0117】
なお、サンプルへのサンスクリーン塗布は、指を用いて図7(a)〜(c)に示す各プレート表面に均一になるように広げられた。また、日焼け止めサンプル1品当たりそれぞれ3枚のプレートを用いて評価を行った。
【0118】
<in vivo SPF評価>
in vivo SPF評価は、例えば、上述した「International Sun Protection Factor Test Method,(C.O.L.I.P.A.−J.C.I.A.−C.T.F.A.S.A.−C.T.F.A.),May 2006.」によって測定されている。評価は全て、2MED/min付近の強度でMultiportの601−300Wのソーラーシミュレーター(Solar Light社(アメリカ))を使用して行われた。
【0119】
<光安定性評価>
プレート上の日焼け止めサンプルによる透過光スペクトルの評価は、U−4100分光光度計(島津製作所株式会社製)を用いて行った。適切なフィルタ・コンビネーションを備えたLC8 L9566光源(浜松ホトニクス株式会社製)は、人工太陽シミュレータとして使用され、光安定性評価に用いた。
【0120】
また、プレート上の日焼け止めサンプルは、光源で連続的に照射され、透過スペクトルは光安定性を評価するために連続的にモニターされている。
【0121】
UV光源の強度はPMA−2100放射計(Solar Light社(アメリカ))を使用して、0.05MED/min(0.105SED/min)から4MED/min(8.4SED/min)までの範囲で変えられた。なお、光照射は連続して行われ、照射及び透過スペクトルの測定は全て同じ部位で行われ、ここでは、光の照射を受けて急光度が低下する場合を光不安定なサンプル、吸光度が一定の場合を光安定なサンプルと評価した。
【0122】
<評価装置10を用いた透過スペクトル測定>
上述した図1に示す評価装置10を用いて評価を行う際、in vivo SPF測定法で用いられる人工太陽シミュレータをシミュレートする場合に、適切なフィルタを装備したキセノンランプは、可変光源として使用された。
【0123】
UV光源の強度は、PMA−2100放射計で、2MED/min(4.2SED/min)(それは、in vivo SPF試験で使用される強度と同一である)に調節された。このシステムはreal-life SPF(rSPF)のin vitro評価のために使用された。
【0124】
<in vitro SPFアルゴリズム>
次に、評価装置10を用いて種々の塗布量で、上述したPMMA基板に塗布された日焼け止め剤について290nmから400nmの波長領域の透過光スペクトルを測定した。なお、放射中に、透過スペクトルから得られた量のUV光は、光劣化現象が透過測定によって連続的にモニターされたのと同じ場所でモニターした。
【0125】
相対紅斑効果量は、CIE−1987紅斑作用スペクトルの使用により透過光スペクトルから決定された。また、CREE(累積相対紅斑効果量(つまり、紅斑作用スペクトルによって重み付けられた紅斑効果の累積値))は各透過スペクトルに基づいた相対紅斑効果量の合計として決定された。
【0126】
rSPFを評価するために、アルゴリズムのエンドポイントは、CREEが、1MED(2.1SED)と等価なところに達した時点で設定された。なお、この値は、紅斑反応をin vivo SPF測定法で評価する際と同じである。
【0127】
<評価結果について>
次に、本実施形態における評価結果について図を用いて説明する。なお、以下に示す評価結果の図面は、上述した評価手段37により評価され、画面生成手段38により生成され、出力手段32により出力された画面である。
【0128】
図8は、波長と光源スペクトルとの関係を示す図である。つまり、図8では、人工太陽シミュレータ、擬似自然太陽光、自然太陽光(何れも360nmで標準化)のスペクトル比較を示している。
【0129】
図8に示すように、擬似自然太陽光スペクトルは適切にフィルタ・コンビネーションを調節することにより再現される。また、人工太陽シミュレータのスペクトルは、UV領域の太陽光のための%RCEE(累積相対紅斑効果量)の許容範囲に合致するように調節を行った。なお、in vivo SPF試験で一般に使用される人工太陽シミュレータのスペクトルと比較して、擬似自然太陽光スペクトルは約370nm(それは自然太陽光スペクトルの重要な特性である)以上の部分に違いがあるため、約370nm以上の波長を除去しないで評価に用いることが重要であることがわかる。
【0130】
<吸光度スペクトルについて>
ここで、図9は、評価結果における光劣化を説明する吸光度スペクトルの一例を示す図である。なお、図9では、2MED/minにおける光源強度で擬似自然太陽光を照射した際の光不安定なサンプルAのスペクトルの変化の例を示している。
【0131】
図9に示すように、例えば波長308nmと波長360nmの何れにおいても吸光度の低下が見られているが、比較すると、360nmでは大きく吸光度の低下が見られている。つまり、この評価結果によれば、サンプルAに含まれるUVB及びUVA吸収剤が光照射の下で光劣化することを示している。
【0132】
<光劣化の他の例>
図9では、光劣化する紫外線吸収剤として「Ethylhexyl methoxycinnamate」と「Butyl methoxydibenzoyl methane」を含む場合の例を示したが、ここで、他の例についても具体的に説明する。図10は、本実施形態における光劣化を説明するための他の例を示す図である。ここで、図10(a)では、光劣化する紫外線吸収剤として「Ethylhexyl methoxycinnamate」を含む場合を示し、図10(b)では、光劣化する紫外線吸収剤「Butyl methoxydibenzoyl methane」を含む場合を示している。図9及び図10(a),(b)に示すように、それぞれの吸収剤に対して光劣化の特性が異なる。
【0133】
つまり、日焼け止め化粧品等に配合されている有機系の紫外線吸収剤の中には、紫外線が照射されると光劣化する現象を起こすものがある。光劣化は、紫外線吸収剤が紫外線を受けて、単純に破壊される場合もあれば、異性化する場合等もあり、基本的には、本来の紫外線防御能が低下する現象である。
【0134】
光劣化現象を起こす代表的な紫外線吸収剤(カッコ内は、吸収極大波長を示す)としては、(1)Ethylhexyl methoxycinnamate(308nm)と、(2)Butyl methoxydibenzoyl methane(360nm)が挙げられる。なお、紫外線の照射を受けて、光劣化するパターンのうち、上記(1)と(2)をそれぞれ図10(a)と図10(b)に示し、上記(1)と(2)とを両方含むものを図9に示している。
【0135】
それぞれの例に見られるように、紫外線照射を受けると、それぞれの紫外線吸収剤の吸収極大波長付近を中心に、吸光度(Absorbance)の低下、すなわち紫外線防御効果の低下が見られる。また、上述した(1)及び(2)以外の光劣化現象を起こす紫外線吸収剤が含まれる場合には、更に異なる劣化パターンが見られることになる。
【0136】
次に、図11は、人工太陽シミュレータと擬似自然太陽光により照射された場合における光不安定なサンプルAの360nmにおける吸光度の低下割合の違いを示す図である。
【0137】
図11は、2MED/minの光源強度で、光不安定なサンプルAが人工太陽シミュレータと擬似自然太陽光により照射された場合における吸光度の低下に差があることを示している。両方の場合で著しい光劣化現象が見られたが、人工太陽シミュレータと比較して擬似自然太陽光の方が更に著しい光劣化を示していた。この結果は、サンプルの光劣化現象が光源のスペクトルの形状に依存することを示している。
【0138】
更に、異なる3種の塗布基板を用い、日焼け止めの光安定性を確認した。これらのテストは、各塗布基板の推奨されたサンプル塗布量で行われた。したがって、SMS、HD6及びプレキシグラスの上のサンプル塗布量は、それぞれ約2.00mg/cm、約1.30mg/cm及び約0.75mg/cmであった。上述した図9に示すように、光不安定なサンプルAは約308nm及び360nmに2つの主要な吸収極大波長(それらは含まれたUV吸収剤の特性である)を持っている。
【0139】
ここで、図12は、擬似自然太陽光により光不安定なサンプルAが3種の試料塗布基板において光劣化を起こした結果を示す図である。なお、図12では、3つのプレート基板((a)SMS、(b)HD6、(c)プレキシグラス)上のサンプルAの光劣化現象に対する照射強度の影響を示している。なお、図12中のエラーバーは、標準偏差を示している。
【0140】
また、図12(a)におけるプレート粗さは約17μm、サンプル塗布量は約2.00mg/cmであり、図12(b)における、プレート粗さは約6μm、サンプル塗布量は約1.30mg/cmであり、図12(c)における、プレート粗さは約2μm、サンプル塗布量は約0.75mg/cmである。
【0141】
サンプルの光劣化現象は、使用された基板の種類及び日焼け止めの塗布量に依存し、サンプル塗布量が最も少ないプレキシグラスの場合に、最も吸光度変化の比率(光劣化後/光劣化前)が著しかった。
【0142】
つまり、図12では、プレート(塗布量も異なる)に依存して光劣化現象も異なることがわかる。
【0143】
更に、光劣化現象は、何れの塗布基板の場合でも、1MED/minから4MED/minの強度範囲で類似していた。このことから、この強度範囲でサンプルAとして光相反則が成立していることが分かる。
【0144】
また、図13は、SMSにおける0.05MED/min(真夏の日本における実際の太陽光の強度程度)から4MED/minまでの強度でサンプルAの光劣化挙動の一例を示す図である。
【0145】
図13に示すように、サンプルAの光劣化の挙動を真夏の日本における実際の太陽光の強度程度である0.05MED/minの強度でも確認したところ、1〜4MED/minの時と同様な挙動を示した。このことは、この強度範囲でサンプルAの光相反則が確認されたことを意味する。
【0146】
つまり、本実施形態では、In vitro rSPFを評価する際の光源強度は、0.05〜4MED/minのうちの何れを用いても予測値が変わらないため、例えば、強度を高くすることで、測定時間の短縮が可能となる。図13によれば、実際の太陽光の強度(0.05MED/min)におけるin vitro rSPF値の予測を、強い光強度を用いて行っても正しく予測ができる。
【0147】
次に、図14は、SMSに異なるサンプル塗布量を適用した際の光不安定なサンプルAの360nmにおける吸光度の低下の違いを示す図である。なお、図14において、エラーバーは標準偏差を示している。図14では、上述したサンプル塗布基板、SMSを用いて光劣化現象の光照射前後における360nmにおける吸光度の変化率に対する塗布量の影響を検討した。
【0148】
図14に示すように、光劣化現象はサンプル塗布量に依存している。つまり、光劣化現象に影響を及ぼすと考えられる評価要因は、光源スペクトル、サンプル塗布基板及びサンプル塗布量であり、in vitro rSPF評価を行う上では、これらを考慮することが重要であるとわかった。
【0149】
<各サンプル塗布基板を用いた塗布再現性の評価>
次に、各サンプル塗布基板を用いた塗布再現性の比較実験について説明する。ここで、図15は、サンプルAを様々な塗布量で3つの塗布基板へ塗布した際の再現性を308nmにおける吸光度で評価した図の一例を示す図である。なお、図15に示すエラーバーは標準偏差を示している。
【0150】
ここで、実験は、日焼け止めサンプルのrSPFの評価用に最適な塗布基板を選定するために行われた。また、上記の目的のために、吸光度は3つの異なる塗布基板を用いてそれぞれ3回測定された。
【0151】
図15(a)、(b)に示すように、SMSは塗布の再現性が高く、ユーザの実際の塗布量としても想定される0.75mg/cmから2.00mg/cmまで広い範囲のサンプル塗布量を可能にしたことから、最適な特性を示し、塗布基板として選定した。また、塗布基板毎に異なる推奨塗布量で測定した際のサンプルの吸光度(SMS:2.00mg/cm、HD6:1.30mg/cm、プレキシグラス:0.75mg/cm)は、ほとんど同じであった。
【0152】
<in vitro SPF評価>
図16は、光不安定なサンプルA及び光安定なサンプルBについて異なる塗布量におけるin vitro SPF値に対する光源の影響を説明するための図である。
【0153】
なお、図16(a)に示すサンプルAのin vivo SPF値は、8.5±1.2を示し、図16(b)に示すサンプルBのin vivo SPF値は、31.5±3.7を示している。また、図16のエラーバーは標準偏差を示している。
【0154】
光安定なサンプルのin vitro SPF値に対する塗布量及び光源の影響について、サンプルA,Bを用いて評価したところ、塗布基板にはSMSを用いることで、実使用での塗布量を再現する0.50mg/cmから2.00mg/cmの条件で、in vitro SPF値は予測することができた。図16の中で示されるように、そのin vitro SPF値はサンプルの塗布量に依存する。
【0155】
また、人工太陽シミュレータを、光源(in vivo SPF評価のために使用されるもの)として使用した際、SMSに2.00mg/cmの塗布量を用いることで、サンプルA及びBの何れにおいても、それらのin vivo SPF値と等価な値を示した。他方では、異なる光源スペクトルの使用は異なる結果を得ることができた。
【0156】
つまり、光不安定なサンプルAについて、in vitro SPF値を求める時、光源に擬似自然太陽光を用いると、人工太陽シミュレータを使用して得られた結果よりも低かった。なお、これらの結果は、図11で見られるのと同じ傾向を示した。つまり、擬似自然太陽光を用いると光劣化が加速されることを意味している。一方で、光安定なサンプルBは、光源の影響を受けないため、異なる光源(図16(b))を用いても同じin vitro SPF値を示した。
【0157】
<異なるサンプル基剤を用いた結果について>
ここで、上述した異なるサンプル基剤を用いた結果について説明する。図17は、3種のサンプル基剤を用いて、3つの異なる部位でin vitro rSPF値を求めた結果について説明するための図である。なお、図17では、A,B,Cの3つのパネルについて、塗布部位を頬、腕、背中として計測した結果を示している。なお、図17に示す「実際の平均塗布量」は、それぞれ約5cm×5cmの塗布部位に対して実際にサンプルを塗布した際の塗布量の5回平均をとっている。
【0158】
図17に示すように、本実施形態で使用されるサンプル(X,Y,Z)については、実際の利用条件に近づけるように、例えば皮膚に近い塗布膜として皮膚の平均粗さデータに基づいて設定することもできる。
【0159】
また、本実施形態では、皮膚レプリカの形状に基づき単純化した表面プロファイルを有するプレートを用いて、「実際に塗布するサンプル量」を、評価の際の塗布量として、実際のユーザが日常生活で行う「サンプル塗布方法」に従ってサンプルを塗布することにより、実際の太陽光下における紫外線防御効果を数値で予測することができる。
【0160】
つまり、上述した本実施形態においては、例えばSMSを設計した背中部位等の特定の部位に基づいた皮膚の表面粗さを用いることができるが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、例えば対象となる測定部位(例えば、頬、腕、背中等)に応じて皮膚の表面粗さは異なるため、対象となる測定部位に基づいて表面粗さ値を適宜設定することもできる。
【0161】
例えば、人間の皮膚の粗さには、SMSを設計した背中部位(粗さ約17μm程度)以外にも、サンスクリーンを塗布する部位には、頬(粗さ約9ミクロン程度)や首(粗さ約25ミクロン程度)があることから、塗布する皮膚部位の粗さに応じて塗布プレートも種々選択して利用できる。これにより、その部位のrSPF値をより高精度に予測することができる。
【0162】
つまり、サンプルをどの粗さの部位に対して、どの塗布量で塗布するかが、予測値算出に重要なファクターの1つであり、本実施形態では、この情報に基づいて物理計測することにより、個々の部位毎に精度よく紫外線防御効果を予測できるようになる。
【0163】
<評価結果のまとめ>
これまでに、in vivo SPF測定法として標準化されたSPFプロトコルは、上述した現在の国際的なSPFテスト方法に示すように、すでに存在し、そのin vivo SPF試験法はそれを基準に長い間実施されていた。しかしながら、上述の標準化された手法は、例えば、光源は可視光線や赤外線を含むような自然太陽光ではなく可視光線や赤外線をカットされて自然太陽光とは大きく異なる太陽光シミュレータである。
【0164】
実際のユーザの利用環境や利用条件に基づく評価は、人(ヒト)被験者を用いると太陽光に照らされる時間が相当かかるために現実的ではないことから、これまでに十分な実験事実や報告例はない。したがって、本実施形態を適用することで、被験者を用いることなく、物性計測によって、rSPFを予測可能な信頼できるin vitro評価方法を提案することができる。
【0165】
つまり、本実施形態によれば、光不安定なサンプルAのスペクトルの変化は、光源のスペクトル形状によって影響を受け、これは、370nm以上の波長が光不安定なサンプルの光劣化現象に影響を及ぼすと考えられた。また、光安定性の評価を考慮し、透過スペクトルを連続で測定するアルゴリズムを用いることで日焼け止めサンプルの光安定性に関わらず、in vitroでrSPFを正確に予測することができる。
【0166】
また、上述したように本実施形態によれば、図12及び図14の中で示されるように、光不安定性は塗布量に依存した、そして、塗布量が少ないほど、サンプルBの光劣化現象は、より加速された。これは、サンプルの紫外線防御効果の評価に光劣化現象が大きな影響を及ぼすことを意味する。また、正確に紫外線防御効果を評価するためにサンプルの光安定性を考慮に入れることが必要であることがわかる。また、本実施形態では、塗布量の許容範囲及び塗布再現性の高さの観点からすると、皮膚のそれと等価な高い粗さを備えたSMS(PMMA)が、in vitro rSPFの決定(図15、図16)のために使用される最良の基板であるとわかった。
【0167】
更に、1.00mg/cmの塗布量で太陽光シミュレータを使用して得られた光不安定なサンプルAのin vitro rSPFが、in vivo SPF値の半分未満であったことは注目すべきである。上述したように、日焼け止めの典型的な塗布量は存在し、一般的には0.50〜1.50mg/cmであるといわれている。したがって、サンスクリーン剤等にラベルされたSPF値は、2.00mg/cmの塗布量を使用して得られた値に基づいていることを考えると、そのSPF値が実生活の利用条件や利用環境における紫外線防御の絶対値的な尺度ではないことが理解できると共に、注意が必要であることが分かる。そこで、上述した本実施形態等で示された知見に基づけば、紫外線防御の実際的な手段として「rSPF」を使用することが必要であると示唆される。このように、消費者が実際に照射を受ける太陽光やサンプル塗布量を反映する条件の下でrSPF値を予測することが消費者保護の観点からも不可欠である。なお、上述の評価結果で得られたrSPFのための評価条件は、以下のようになる。
1.ユーザによる通常のサンプル塗布量の評価を行う。
2.皮膚を模した塗布基板(SMS)に上記1で決定したサンプル塗布量を適用する。
3.次の測定条件のもとで、in vitro rSPF値を測定する。
(1)光源スペクトルは、擬似自然太陽光を用いる。
(2)光源強度は1〜4MED/min
(3)アルゴリズムのエンドポイントは、累積紅斑効果量が、1MED(最小紅斑量)(すなわち、in vivo SPF評価法における紅斑反応の判定にあわせる)と等価な量に達する時点で設定される。
【0168】
また、上述したように本実施形態における光源強度は約0.001〜20.0MED/min程度とし、サンプル塗布量は約0.01〜10.0mg/cm程度とし、塗布プレートの算術平均粗さ(Sa値)は、約0.01〜400μm程度とすることが好ましい。
【0169】
上述したように、本発明によれば、実生活のシーンで照射される紫外線環境や利用条件に対する紫外線防御効果の高精度な評価を実現することができる。また、高感度評価装置を用いることにより、光劣化現象をin vitro rSPF値の予測にも反映することができる。更に、in vitro rSPF評価法は、皮膚を模した表面形状を有する擬似皮膚代替膜(SMS)の上に、サンスクリーン剤等を実際の塗布量で塗布した際の皮膚上における紫外線暴露をリアルに再現することができる。
【0170】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0171】
1 試料
10 評価装置
11 光源
12 電源供給手段
13 フィルタ
14 光ファイバ
15 積分球
16 ステージ
17 ステージ駆動手段
18 オプティカルチョッパー
19 モノクロメーター(分光手段)
20 UV−PMT(光検出手段)
21 PMT電圧コントローラ
22 信号増幅手段(Amp)
23 PC
31 入力手段
32 出力手段
33 蓄積手段
34 経時変化測定手段
35 相関関係設定手段
36 SPF予測値算出手段
37 評価手段
38 画面生成手段
39 制御手段
41 入力装置
42 出力装置
43 ドライブ装置
44 補助記憶装置
45 メモリ装置
46 CPU
47 ネットワーク接続装置
48 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象部材に塗布された測定試料における紫外線防御効果の評価を行う評価方法において、
予め設定された光照射条件による紫外線、可視光線、赤外線を含む光源の光照射により、所定の波長領域における前記測定試料の分光透過スペクトルの経時変化を所定の波長間隔で測定する第1のステップと、
前記第1のステップにより得られる前記分光透過スペクトルの経時変化に基づき、光照射時間と、前記測定試料の紅斑効果量から1MEDあたりの紅斑効果量を除算することで得られる所定時間単位の紅斑効果量との相関関係を設定する第2のステップと、
前記第2のステップにより得られる前記相関関係から時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出する第3のステップとを有することを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記光照射される光源の強度範囲は、0.001〜20.0MED/minであることを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記測定試料の塗布量の範囲は、0.01〜10.0mg/cmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記塗布対象部材の算術平均粗さ(Sa値)の範囲は、0.01〜400μmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
塗布対象部材に塗布された測定試料における紫外線防御効果の評価を行う評価装置において、
予め設定された光照射条件による紫外線、可視光線、赤外線を含む光源の光照射により、所定の波長領域における前記測定試料の分光透過スペクトルの経時変化を所定の波長間隔で測定する経時変化測定手段と、
前記経時変化測定手段により得られる前記分光透過スペクトルの経時変化に基づき、光照射時間と、前記測定試料の紅斑効果量から1MEDあたりの紅斑効果量を除算することで得られる所定時間単位の紅斑効果量との相関関係を設定する相関関係設定手段と、
前記相関関係設定手段により得られる前記相関関係から時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出するSPF予測値算出手段とを有することを特徴とする評価装置。
【請求項6】
前記経時変化測定手段は、
任意の時間間隔で経時変化における分光透過スペクトルを測定することを特徴とする請求項5に記載の評価装置。
【請求項7】
前記経時変化測定手段は、
前記測定試料における分光透過スペクトルの光劣化による経時変化を測定することを特徴とする請求項5又は6に記載の評価装置。
【請求項8】
前記SPF予測値算出手段は、
前記相関関係設定手段により得られる前記相関関係から時間積分した累積紅斑効果量が1MEDに到達するまでの時間によって、前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を算出し、更に予め設定された参照試料から得られる前記参照試料におけるin vitro rSPF予測値、光源強度、及び皮膚代替膜に塗布された試料塗布量のうち、少なくとも1つのデータを用いて、前記測定試料におけるin vitro rSPF予測値を補正することを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項9】
前記光照射される光源の強度範囲は、0.001〜20.0MED/minであることを特徴とする請求項5乃至8の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項10】
前記測定試料の塗布量の範囲は、0.01〜10.0mg/cmであることを特徴とする請求項5乃至9の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項11】
前記塗布対象部材の算術平均粗さ(Sa値)の範囲は、0.01〜400μmであることを特徴とする請求項5乃至10の何れか1項に記載の評価装置。
【請求項12】
コンピュータを、請求項5乃至請求項11の何れか1項に記載の評価装置として機能させることを特徴とする評価プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の評価プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−63323(P2012−63323A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209818(P2010−209818)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】