説明

累進屈折力レンズの設計方法、累進屈折力レンズ設計システム、および累進屈折力レンズ

【課題】特定の作業環境に最適な累進屈折力レンズの設計方法、および累進屈折力レンズ設計システムを提供すること。
【解決手段】累進屈折力レンズ設計システム1は、レンズメーカーに設置されたメーカー側端末100と眼鏡店等に設置された店側端末200とがインターネット300を介して接続されている。メーカー側端末100は、店側端末200から受信した各種データを用いて特定作業における各対象物の最適化係数をそれぞれ設定する最適化係数設定部122と、各対象物に対する狙い度数を演算する度数演算部123と、レンズ設計を行うレンズ設計部124と、店側端末200から発注を受けると受注処理を行う受注処理部125と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定作業時に使用される累進屈折力レンズの設計方法、累進屈折力レンズ設計システム、および累進屈折力レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、累進屈折力レンズは、近方視に対応する近用領域と、この近用領域の上に遠方視に対応する遠用領域と、この遠用領域と近用領域との間の中間位置に屈折力が連続的に変化する累進領域と、この累進領域の両側に設けられた中間側方領域とを備えている。
【0003】
近用領域、遠用領域及び累進領域とは、対象物を明視するための明視領域であって、累進領域の両側に位置する中間側方領域は対象物を明視するために利用されない領域である。そのため、中間側方領域に眼鏡装用者が視線を移すと、非点収差や度数誤差の影響によりボケを感じることになる。
このような累進屈折力レンズでは、自動車運転に適しているタイプやパソコン操作に適しているタイプ等、用途に応じた専用の眼鏡レンズが提案されているが、これらの眼鏡レンズは遠用領域や近用領域の広さや累進帯長、非球面係数を調整することで設計される。
【0004】
そして、眼鏡装用者が知覚する視野の幅を広げるために、標準矢状面に対する眼鏡装用者の矢状面の偏位を求め、この偏位の関数として最適化目標を選び、この目標での最適化によってレンズを決定する眼鏡レンズがある(特許文献1)。
また、遠い視界と近い視界における物体距離とその物体に対する遠近調節能力を設定することで特定の用途に適した累進屈折力レンズを設計する方法が知られている(特許文献2参照)。
さらに、使用目的に合ったシーンオブジェクト画像を用いてレンズの装用感を確認しながら最適なレンズを選択することで、特定の用途において使用者に適した累進屈折力レンズを提供する方法が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−511033号公報
【特許文献2】特表2005−500585号公報
【特許文献3】特開2008−39997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の累進屈折力レンズでは、対象物を明視するために遠用領域と近用領域とが利用されるので、これらの領域から左右に外れた中間側方領域に眼鏡装用者の視線が向けられると、眼鏡装用者は、非点収差や度数誤差の影響によりボケて見える。例えば、自動車を運転している眼鏡装用者は、その視線を前方の自動車や信号等に向ける場合には遠方領域が利用され、手元の車載メーターに向ける場合には近方領域が利用されるが、車側部に設けられたサイドミラーに視線を移動させると、この視線が中間側方領域を通過するため、ボケて見えることになる。このボケをなくすには、サイドミラーに向けて頭を左又は右に振らなければならない。
そこで、累進屈折力レンズには、近用領域や遠用領域の広さや、非球面係数を調整した自動車用のものがあるが、このレンズにおいても、明視域を拡大するには限界があり、中間側方領域に視線を移動させた場合では、ボケが生じることになり、明視することが困難である。
【0007】
特許文献1で示される従来例は、あくまで優位眼を考慮するものであって、特定用途向けに明視域を拡大するものではない。つまり、前述の従来の累進屈折力レンズと同様に、頭を動かさないで視線を移動させた場合、ボケが生じることになる。
また、特許文献2および3で示された累進屈折力レンズでも同様に、頭を動かさないで視線を移動させた場合、ボケが生じることになる。
以上の眼鏡レンズの課題は、自動車運転用以外の用途、例えば、パソコン操作用、その
他の用途についてもある。
【0008】
本発明の目的は、特定の作業環境に最適な累進屈折力レンズの設計方法、累進屈折力レンズ設計システム、および累進屈折力レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の累進屈折力レンズの設計方法は、二点の明視ポイントと少なくとも一つの準明視ポイントとを有する累進屈折力レンズを設計する累進屈折力レンズの設計方法であって、前記累進屈折力レンズを通して見る少なくとも三つ以上の対象物の優先順位を設定し、前記優先順位が三位以下の対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを前記準明視ポイントとし、この準明視ポイントと前記対象物との距離およびこの距離の変動の大きさに基づいて前記対象物に対する最適化係数を設定し、前記準明視ポイントに必要な度数を所定の方法により設定し、前記最適化係数および前記度数に基づいて、前記準明視ポイントにおける収差および度数誤差を最適化することを特徴とする。
【0010】
この発明における累進屈折力レンズは、眼鏡装用者が、二点の明視ポイントを通じて二点の対象物を明視するほか、特定作業のために準明視ポイントを通じて準明視ポイントの対象物を明視するものである。
この発明では、特定の作業環境において眼鏡装用者が注視する少なくとも三つ以上の対象物に対して優先順位を設定し、優先順位が三位以下の対象物を見るときの視線が累進屈折力レンズを通る位置を準明視ポイントとする。そして、各準明視ポイントに対する最適化係数を設定するとともに、各準明視ポイントを通して対象物を見るために必要な度数を所定の方法により設定し、最適化係数および設定された度数に基づいて各準明視ポイントを最適化する。ここで、度数を設定する所定の方法とは、例えば、眼鏡装用者の遠用処方度数、および準明視ポイントと対象物との距離に基づいて計算してもよいし、準明視ポイントの度数として予め設定された度数を用いてもよい。
【0011】
通常の累進屈折力レンズでは、遠用領域と近方領域の二つの明視ポイントにおいて、必要な度数が得られるように設計することが可能である。しかし、任意の三つ以上のポイントで必要な度数を得ることは、困難である。したがって、まず優先順位が二位以上の対象物を見るための明視ポイントの設計では必要な度数が得られるようにする。次に、準明視ポイントの設計を行う場合、必要な度数に対する収差と度数誤差とを調整することが行われる。準明視ポイントでは、対象物との距離およびこの距離の変動の大きさに基づいて最適化係数を設定している。例えば、対象物との距離が遠い場合は度数を重視する必要がある。また、対象物との距離の変動が大きい場合というのは対象物が移動している状態であり、この変動が大きい場合は、距離に応じた度数が定まらないため、度数を重視しなくてもよいということになる。このような場合は収差を重視して設計する。
以上のように、従来の累進屈折力レンズでは明視することができなかった非明視域に準明視ポイントを設定し、この準明視ポイントを通してみる対象物の特性に応じてレンズ設計を行っている。したがって、特定作業専用の準明視ポイントが明視ポイント以外であって従来の非明視域に設けられることで、当該特定作業時におけるボケが少なくなり快適に見ることができる。
また、最適化係数という指標を用いて設計を行うので、容易にレンズ設計を行うことができる。
なお、この発明では、優先順位一位および二位の対象物は、累進屈折力レンズの二つの明視ポイントを通して見るため、従来と同様の方法で設計されるものである。
【0012】
本発明の累進屈折力レンズの設計方法において、前記累進屈折力レンズは自動車運転用の眼鏡レンズであり、前記優先順位が三位以下の対象物は自動車のサイドミラーであり、前記準明視ポイントにおける収差を重視して最適化することが好ましい。
【0013】
自動車運転時に運転手がサイドミラーを見るときは、サイドミラーに映る像を見ている。サイドミラーに映っている像は景色であり常に変化している。すなわち、サイドミラー
に映った景色の中にある物体との距離は大きく変動する。したがって、サイドミラーを見るときのレンズ面における準明視ポイントでは、準明視ポイントからサイドミラーまでの距離とは関係なく、収差を重視した最適化を図る。これは、サイドミラーを見るための準明視ポイントにおいて度数誤差を最適化したとしても視認性が向上しないからである。このように、収差を重視した最適化を図ることによって、眼鏡装用者はより快適にサイドミラーを見ることができる。したがって、自動車運転という特定の作業環境に最適なレンズを設計することができる。
【0014】
本発明の累進屈折力レンズの設計方法において、視線方向測定装置を用いて前記対象物を見る頻度を測定し、頻度の多い順に対象物の優先順位を決定することが好ましい。
この発明では、視線方向測定装置を用いるため、特定の作業環境における視線の方向を簡単に測定することができるとともに、この測定結果に基づいて簡単に優先順位を決定することができる。
【0015】
本発明の累進屈折力レンズの設計方法において、店側端末と、レンズメーカー側に設置されたメーカー側端末とがネットワークを介して接続された累進屈折力レンズ設計システムで実施される上述の累進屈折力レンズの設計方法において、前記店側端末が、眼鏡装用者の遠用処方度数を含む前記累進屈折力レンズに関する基本情報と、特定の作業環境において注視する少なくとも三つ以上の対象物の方向、距離、当該距離の変動の大きさ、および前記対象物の優先順位を含む特定の作業環境に関する情報を入力させる入力工程と、前記基本情報および前記特定の作業環境に関する情報を前記店側端末から前記メーカー側端末へ送信する送受信工程と、前記メーカー側端末が、前記優先順位が二位以上の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを明視ポイントとし、前記優先順位が三位以下の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを準明視ポイントとし、この準明視ポイントに対して前記距離および前記距離の変動の大きさに基づいて最適化係数を設定する最適化係数設定工程と、前記対象物の方向に基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントの位置を決定し、前記遠用処方度数と前記対象物の距離とに基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントに必要な度数を計算する度数演算工程と、前記最適化係数および前記度数に基づいて、前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントにおける収差および度数誤差を最適化することでレンズ設計を行うレンズ設計工程と、前記レンズ設計により得られる設計データを前記メーカー側端末から前記店側端末へ送信する送受信工程と、前記店側端末が、前記設計データを画面出力する結果処理工程と、を備えることが好ましい。
【0016】
店側端末は通常眼鏡店に設置され、この眼鏡店は、眼鏡レンズの販売を行う店を意味する。眼鏡店では、店員が顧客に関する情報を得たり、顧客の眼鏡レンズに関する各種データを測定したりする。
また、累進屈折力レンズに関する基本情報とは、累進屈折力レンズを設計するために必要なパラメーターを含んでいる。例えば、遠用処方度数、球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム度数および基底方向、加入度、遠用瞳孔間距離等のレンズの処方データの他に、顧客が選択したフレームのメーカー名、フレーム種類、フレームの玉型幅、フレームの鼻幅、フレームの天地幅等のフレームデータや、顧客が選択したフレームによる遠用アイポイントの高さ、装用距離、前傾角等のフィッティングデータ等が挙げられる。
この発明では、店側端末とメーカー側端末とがネットワークを介して接続され、店側端末とメーカー側端末との間でデータの送受信を行う。このため、店側端末で入力された各種データに基づいてメーカー側端末でレンズ設計を行い、その結果を店側端末に送信して画面等に表示させる処理を迅速に行うことができる。したがって、顧客にレンズの設計データを迅速に提示することができ、店員と顧客とのコミュニケーションが向上する。このように、眼鏡店、レンズメーカー、顧客との連携が容易となるため、顧客に対して幅広いサービスを提供することができる。
また、ネットワークを介して複数の店側端末とメーカー側端末とを接続し、レンズ設計をメーカー側端末で行うことにより、各店舗の各種データを1箇所に集約させることができるためセキュリティ性が向上する。また、各種データの更新をする場合でも、1箇所にデータが集約されているため、更新が容易である。さらに、レンズ設計をメーカー側端末で行うことにより、レンズ設計のプログラムを各店側端末に配布するなどの作業を省略でき、各店によるレンズ設計のばらつきを防止することができる。
【0017】
本発明の累進屈折力レンズシステムは、店側端末と、レンズメーカー側に設置されたメーカー側端末とがネットワークを介して接続された累進屈折力レンズ設計システムであって、前記店側端末は、眼鏡装用者の遠用処方度数を含む前記累進屈折力レンズに関する基本情報と、特定の作業環境において注視する少なくとも三つ以上の対象物の方向、距離、当該距離の変動の大きさ、および前記対象物の優先順位を含む特定の作業環境に関する情報と、を入力可能な入力手段と、前記基本情報および前記特定の作業環境に関する情報を前記メーカー側端末に送信し、前記メーカー側端末からの設計データを受信する店側送受信手段と、前記メーカー側端末から受信したレンズ設計の前記設計データを出力させる結果処理手段と、を備え、前記メーカー側端末は、前記基本情報および前記特定の作業環境に関する情報を前記店側端末から受信し、前記設計データを前記店側端末へ送信するメーカー側送受信手段と、前記優先順位が二位以上の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを明視ポイントとし、前記優先順位が三位以下の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを準明視ポイントとし、この準明視ポイントに対して前記距離および前記距離の変動の大きさに基づいて最適化係数を設定する最適化係数処理手段と、前記対象物の方向に基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントの位置を決定し、前記遠用処方度数と前記対象物の距離とに基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントに必要な度数を計算する度数演算手段と、前記最適化係数および前記度数に基づいて、前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントにおける収差および度数誤差を最適化することでレンズ設計を行うレンズ設計手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
この発明では、累進屈折力レンズの設計方法と同様の作用効果を奏することができる。
すなわち、従来の累進屈折力レンズでは明視することができなかった非明視域に準明視ポイントを設定し、この準明視ポイントを通してみる対象物の特性に応じてレンズ設計を行っている。したがって、特定作業専用の準明視ポイントが明視ポイント以外であって従来の非明視域に設けられることで、当該特定作業時におけるボケが少なくなり、眼鏡装用者は快適に見ることができる。
また、最適化係数という指標を用いて自動設計を行うので、容易にレンズ設計を行うことができる。
さらに、店側端末とメーカー側端末とがネットワークを介して接続されているため、眼鏡点において顧客にレンズの設計データを迅速に提示することができ、店員と顧客とのコミュニケーションが向上する。このように、眼鏡店、レンズメーカー、顧客との連携が容易となるため、顧客に対して幅広いサービスを提供することができる。
【0019】
本発明の累進屈折力レンズシステムにおいて、前記結果処理手段により出力された前記設計データに基づいた累進屈折力レンズを前記店側端末から前記メーカー側端末へ発注し、前記発注に応じて受注処理を行う受発注処理手段をさらに備えることが好ましい。
【0020】
この発明では、受発注処理手段により、店側端末からメーカー側端末へ累進屈折力レンズの発注を行い、メーカー側端末ではこの発注に対する受注処理を行うことができる。例えば、店側端末は発注手段を備え、メーカー側端末に受注処理手段を備え、これらを合わせて受発注処理手段とする。
これによれば、店側端末に画面出力された設計データを眼鏡店の店員や顧客が確認し、
この設計データに基づいた累進屈折力レンズをそのまま発注することができる。このように、特定の作業環境やレンズに関する各種データを入力するところから、レンズ設計、および発注までの一貫した処理を迅速かつ簡単に行うことができる。
【0021】
本発明の累進屈折力レンズシステムにおいて、視線方向測定装置を用いて前記対象物を見る頻度を測定し、頻度の多い順に対象物の優先順位を決定する優先順位決定手段をさらに備えることが好ましい。
この発明では、視線方向測定装置を用いるため、特定の作業環境における視線の方向を簡単に測定することができるとともに、この測定結果に基づいて簡単に優先順位を決定することができる。
【0022】
本発明の累進屈折力レンズは、二点の明視ポイントを有し、その間に累進帯が設けられた累進屈折力レンズであって、前記明視ポイントとは異なる位置に少なくとも一つの準明視ポイントを有し、前記準明視ポイントにおいて非点収差を許容値以内にしたことを特徴とする。
【0023】
この構成の本発明では、眼鏡装用者は、通常、二点の明視ポイントを通じて二点の対象物を明視するとともに、特定作業のために準明視ポイントを通じて準明視ポイントの対象物を明視する。そのため、特定作業専用の準明視ポイントが明視ポイント以外であって従来の非明視域に設けられることで、当該特定作業時におけるボケが少なくなる。
【0024】
ここで、本発明では、前記準明視ポイントは、遠用処方度数、予め設定された対象物と前記準明視ポイントとの距離、処方加入度、および前記処方加入度に対する近用作業距離に基づいて度数が決定される構成が好ましい。
この構成の本発明では、特定作業の種類に応じて準明視ポイントの度数が決定されるので、より用途に適した累進屈折力レンズを提供することができる。
【0025】
ここで、本発明では、前記準明視ポイントの位置は、予め設定された対象物の方向によって決定される構成が好ましい。
この構成の本発明では、特定作業の種類に応じて準明視ポイントの位置が決定されるので、より用途に適した累進屈折力レンズを提供することができる。
【0026】
前記二点の明視ポイントの一点は車窓から外を明視するための明視ポイントであり、もう一点は車載メーターを明視するための明視ポイントであり、前記準明視ポイントは車側部に設けられた左右のサイドミラーを明視するためのミラー専用ポイントである構成が好ましい。例えば、車載メーターを明視するための明視ポイントは眼鏡装用者の眼球中心から車載メーターまでの距離と方向、正面から右に約18度、距離約60cmの位置である。
この構成の本発明では、二点の明視ポイントの一点によって前方を走行する自動車や信号等を見ることができ、もう一点によって手前にある車載メーターを見ることができ、準明視ポイントによって、左右のサイドミラーを見ることができる。
そのため、本発明では、自動車運転に適した累進屈折力レンズを提供することができる。
【0027】
前記二点の明視ポイントの一点は眼鏡装用者の前方に配置されたディスプレイを明視するための明視ポイントであり、もう一点は眼鏡装用者の手元に配置されたキーボードを明視するための明視ポイントであり、前記準明視ポイントは前記キーボードの左右隣に配置された資料を明視するための資料専用ポイントである構成が好ましい。ここで、本発明では、二点の明視ポイントの一点は眼鏡装用者の眼球中心から机上のディスプレイまでの距離、例えば、50cmを明視できるポイントであり、もう一点は眼鏡装用者の眼球中心から机上のキーボードまでの距離、例えば、30cmを明視できるポイントである。
この構成の本発明では、二点の明視ポイントの一点によって眼鏡装用者の前方に位置するディスプレイを見ることができ、もう一点によって眼鏡装用者の手元にあるキーボードを見ることができ、準明視ポイントによってキーボードの左右いずれかに配置された資料を見ることができる。
そのため、本発明では、パソコン操作に適した累進屈折力レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる累進屈折力レンズが利用される例の概略図である。
【図2】第1実施形態にかかる累進屈折力レンズの概略平面図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図3】第1実施形態にかかる累進屈折力レンズ設計システムを示す通信回線図である。
【図4】第1実施形態にかかる累進屈折力レンズ設計システムの全体構成を示すブロック図である。
【図5】視線の移動範囲を説明するための概略図である。
【図6】視線の高さ位置を説明するための概略図である。
【図7】両眼視を考慮した視線の位置を説明する概略図である。
【図8】第1実施形態において対象物の優先順位を自動的に決定する方法を示す説明図である。
【図9】第1実施形態にかかる累進屈折力レンズ設計システムの動作を示すフローチャートである。
【図10】実施例1の非点収差図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図11】従来例の非点収差図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図12】実施例1の平均度数分布図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図13】従来例の平均度数分布図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図14】本発明の第2実施形態にかかる累進屈折力レンズが利用される例の概略図である。
【図15】第2実施形態にかかる累進屈折力レンズの概略平面図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図16】第2実施形態において対象物の優先順位を自動的に決定する方法を示す説明図である。
【図17】実施例2の非点収差図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図18】従来例の非点収差図であり、(A)は左眼用、(B)は右眼用を示す。
【図19】本発明の変形例にかかる累進屈折力レンズが利用される例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、各実施形態において、同一構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
〔第1実施形態〕
第1実施形態では、図1に示される通り、累進屈折力レンズ10L,10Rは自動車運転専用のレンズである。この累進屈折力レンズ10L,10Rは、主に、車窓VWから外
、例えば、前方を走行する車両OVを明視し、車内の運転席前方に設けられた車載メーターVMを明視し、車側部に設けられたサイドミラーML,MRを明視するためのレンズである。
【0030】
[1.累進屈折力レンズ]
図2は、第1実施形態で使用される累進屈折力レンズ10L,10Rの概略平面図であり、(A)は左眼用の累進屈折力レンズ10Lを示し、(B)は右眼用の累進屈折力レンズ10Rを示す。なお、図中、符号Fはフレームを示す。
図2(A)において、左眼用の累進屈折力レンズ10Lは、遠方視に用いられ上部に設けられる遠用領域2と、近用視に用いられ下部に設けられる近用領域3と、遠用領域2から近用領域3にかけて屈折力が連続的に変化し中間位置に設けられる累進領域4と、累進領域4の両側にそれぞれ設けられる中間側方領域5と、これらの中間側方領域5の端部にそれぞれ設けられたミラー専用領域6L,6Rとを備えている。
図2(B)において、右眼用の累進屈折力レンズ10Rは、左眼用の累進屈折力レンズ10Lとほぼ同様に、遠用領域2と、近用領域3と、累進領域4と、中間側方領域5と、ミラー専用領域6L、6Rとを備えた構成であるが、左眼用の累進屈折力レンズ10Lとは、各領域の広さや位置が相違している。
これらの遠用領域2、近用領域3、累進領域4、ミラー専用領域6L,6Rはレンズの内面(眼球側)あるいは外面(反眼球側)に形成されている。
【0031】
主子午線7は、明視ポイントDPを通過する遠用線部7Aと、累進領域4を通過する累進線部7Bと、明視ポイントNPを通過する近用線部7Cとからなる。
遠用線部7Aは、明視ポイントDPを通り眼鏡装用時における鉛直方向に沿って形成されている。この明視ポイントDPは、遠用領域2において屈折力が加えられる遠用測定領域にある。
近用線部7Cは明視ポイントNPを通過するとともに眼鏡装用時における鉛直方向に沿って形成されている。明視ポイントNPは、近用領域3において屈折力が加えられる近用測定領域にある。
累進線部7Bは遠用線部7Aの下端と近用線部7Cの上端とを接続するもので、これらの線分に対して斜めに形成されている。なお、符号7Dで示される線分は従来例における主子午線である。
【0032】
[2.累進屈折力レンズ設計システムの構成]
次に、使用者の自動車運転に最適な上述の累進屈折力レンズ10L,10Rを設計し、設計されたレンズを発注するシステムについて説明する。
累進屈折力レンズ設計システム1は、図3に示すように、レンズメーカーに設置されたメーカー側端末100と、眼鏡店等に設置され、メーカー側端末100にインターネット300を介して接続された複数の店側端末200と、を備えている。累進屈折力レンズ設計システム1は、眼鏡店等で測定された各種データを店側端末200からメーカー側端末100に送信し、メーカー側端末100は受信した各種データを用いて特定の作業環境に最適なレンズを設計し、その結果を店側端末200に送信する。また、店側端末200から発注を行うこともできる。
【0033】
インターネット300はTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)などのプロトコルに基づくネットワークであるが、これに限られない。例えば、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)などのイントラネット、無線媒体により情報が送受信可能な複数の基地局がネットワークを構成する通信回線網や放送網などのネットワーク、さらには、データを直接受信するための媒体となる無線媒体自体など、データを送受信させるいずれの構成を利用できる。
【0034】
[2−1.メーカー側端末の構成]
メーカー側端末100は、図4に示すように、各種データが記憶される記憶部110、演算処理部120、送受信部130、各種画面を出力させるディスプレイ等の出力部140、およびキーボードなどの入力部150を備えた端末装置であり、店側端末200にネットワーク接続されている。メーカー側端末100としては、例えばパーソナルコンピューターを使用することができる。
【0035】
記憶部110としては、店側端末200から受信した各種データを記憶する眼鏡情報記憶部111を備えている。また、図示しないが、後述の演算処理手段が各種演算を実行するためのプログラムが記憶された記憶部等も有している。
【0036】
眼鏡情報記憶部111は、顧客と、顧客に関する情報、眼鏡レンズに関する基本情報(レンズの処方データ、フレームデータ、フィッティングデータ等)、および作業環境に関する情報と、が関連付けられて1つのレコードとして記憶されている。顧客に関する情報とは、例えば、顧客の氏名、年齢、性別、店舗名等が挙げられる。眼鏡レンズに関する基本情報としては、例えば、遠用処方度数、球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム度数および基底方向、処方加入度(以降、ADDと表記することもある。)、遠用瞳孔間距離等のレンズの処方データの他に、顧客が選択したフレームのメーカー名、フレーム種類、フレームの玉型幅、フレームの鼻幅、フレームの天地幅等のフレームデータや、顧客が選択したフレームによる遠用アイポイントの高さ、装用距離、前傾角等のフィッティングデータ等が挙げられる。作業環境に関する情報としては、例えば、対象物の名称、対象物の方向および距離、対象物の優先順位等が挙げられる。
【0037】
演算処理部120は、情報の演算および処理を行う演算処理装置(CPU、Central Processing Unit)であり、メーカー側端末100全体の制御を行う。演算処理手段は、記憶部110に記憶された各種プログラムを適宜読み出して実行することにより、上述のハードウェア(記憶部110、出力部140、入力部150)と協働し、各種機能を実現している。
演算処理部120としては、図4に示すように、店側端末200から受信した各種データを処理するデータ処理部121と、特定作業における各対象物の最適化係数をそれぞれ設定する最適化係数設定部122と、各対象物を見るのに必要な度数(以降、狙い度数と表記することもある。)を演算する度数演算部123と、レンズ設計を行うレンズ設計部124と、店側端末200から発注を受けると受注処理を行う受注処理部125と、を備えている。
【0038】
データ処理部121は、送受信部130で受信した店側端末200からの情報を、眼鏡情報記憶部111に記憶させる。また、データ処理部121は、後述の各処理において必要な情報を眼鏡情報記憶部111から取得する。
【0039】
最適化係数設定部122は、特定作業環境における各対象物に対して最適化係数を設定する。最適化係数とは、累進屈折力レンズを通して各対象物を見る際に、収差および度数誤差のいずれを重視して最適化するかを表す指標である。累進屈折力レンズにおいては、収差と度数誤差の両方を完全に最適化することができない。このため、通常の累進屈折力レンズでは、遠用領域と近用領域の二つの明視ポイントにおいて、収差と度数誤差とのバランスを取った状態に設計している。一方、これらの二つの明視ポイント以外の準明視ポイントで、例えば、文字や記号等を注視する際は度数誤差を最適化する必要があるが、文字や記号等がない場合は度数誤差を最適化しても視認性が向上しないため、収差を最適化することになる。このように、対象物の特性に応じて、最適化係数を設定する。本実施形態では、対象物の特性を対象物までの距離の変動の大きさとし、対象物までの距離とこの距離の変動の大きさに基づいて最適化計数を設定する。具体的な最適化係数の値は0〜1であり、0は収差重視で最適化し、1は度数誤差重視で最適化し、0.5は収差と度数誤差のバランスを取って最適化することを意味する。
【0040】
最適化係数は、以下に示す表1を用いて設定される。表1によれば、物体距離の変動が大きい場合は、度数誤差を最適化する意味が小さいため、収差重視の最適化を行う。また、物体距離の変動が小さい場合において、物体距離が遠用と中間の場合は、収差と度数誤差の両方のバランスを取った最適化を行う。そして、物体距離の変動が小さい場合において、物体距離が近用の場合は、度数誤差重視の最適化を行う。これは、物体距離が近用の対象物は、遠用の対象物より倍率が大きくなるため、収差が多少あったとしても分解能を確保することができるためである。したがって、目の調節の軽減を図る目的で度数誤差重視の最適化を行うものである。
ここで、物体距離の変動が大きい場合というのは、例えば、自動車運転時にサイドミラーに映る像が挙げられる。人は、自動車運転時には、サイドミラーに反射する像を見ている。これらの像は常に動いているため、その距離の変動は大きい。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に基づくと、本実施形態の自動車運転という作業環境における最適化係数は、以下の表2に示すように設定される。すなわち、自動車運転時の景色は、その距離が大きく変動するため、収差重視の最適化を行う。また、車載メーターは、その距離の変動が小さく、距離が近いため、度数誤差重視の最適化を行う。カーナビゲーションについても同様に、度数誤差重視の最適化を行う。さらに、ルームミラーおよびサイドミラーを注視する際はミラーで反射された像を見ている。自動車運転時のルームミラーおよびサイドミラーに映る像の距離は大きく変動するため、収差重視の最適化を行う。
【0043】
【表2】

【0044】
度数演算部123は、特定作業環境における明視ポイントおよび準明視ポイントの位置を設定し、準明視ポイントにおける狙い度数を演算する。
明視ポイントの位置を設定するには、まず、遠方視に合わせた明視ポイントDPの位置と、車載メーターVMの距離と方向に合わせた明視ポイントNPの位置を設定する。そし
て、明視ポイントDPと明視ポイントNPとを結ぶ主子午線7を設定する。さらに、明視ポイントの位置に合わせることで、遠用領域2と近用領域3を設定する。
【0045】
次に、ミラー専用の準明視ポイント6LP,6RPの設定方法について図5から図7に基づいて説明する。図5は視線の移動範囲を説明するための図である。
図5において、頭部を固定した状態で、対象物Oとして、左側のサイドミラーMLに視線を合わせようとすると、視線は累進屈折力レンズ10Lの左端より外側の線L0を通ることになる。
第1実施形態では、第三の対象物Oとして左側のサイドミラーMLを見るために、頭部を水平に回転移動させる。その結果、線LAの通る位置をミラー専用の準明視ポイント6LPの水平位置と決める。同様に、第三の対象物Oとして右側のサイドミラーMRを見るために、頭部を水平に回転移動させる。その結果、線LBの通る位置をミラー専用の準明視ポイント6RPの水平位置と決める。
図6は視線の高さ位置を説明するための図である。ミラー専用の準明視ポイント6LPにおける鉛直方向の座標h2は、眼球Eの中心Cから第三の対象物Oまでの水平距離X1に対するフィッティングポイントFPから対象物Oまでの高さh1の比に、眼球中心Cからレンズ裏面までの水平距離X2を乗ずることで求めることができる。
【0046】
ミラー専用の準明視ポイント6RPにおける鉛直方向の座標h2は、眼球Eの中心Cから対象物Oまでの水平距離X1に対するフィッティングポイントFPから対象物Oまでの高さh1の比に、眼球中心Cからレンズ裏面までの水平距離X2を乗ずることで求めることができる。
【0047】
以上において、両眼視を考慮して準明視ポイント6LP,6RPを設定する方法を図7に基づいて説明する。図7は両眼視を考慮した視線の位置を説明する図である。
図7において、頭部を動かさないで左側の第三の対象物Oを見る場合、両眼とも視線L0が累進屈折力レンズ10L,10Rの左端を外れることになる。頭部を動かして両眼の視線L1が累進屈折力レンズ10L,10Rを通過する位置、特に、視線L1が右眼用の累進屈折力レンズ10Rの左部側の所定位置になった場合に、その点を準明視ポイント6LPとする。同様に、頭部を動かして両眼の視線L1が累進屈折力レンズ10L,10Rを通過する位置、特に、左眼用の累進屈折力レンズ10Lの右部側の所定位置になった場合に、その点を準明視ポイント6RPとする。
【0048】
次に、狙い度数について説明する。狙い度数とは、累進屈折力レンズの明視ポイントおよび準明視ポイントにおいて必要とされる調節力であり、例えば、顧客の処方データに基づいて以下の式(1)により算出する。
狙い度数=Df+k/L …(1)
ここで、Dfは顧客の遠用処方度数(D:ディオプター)、Lはレンズと対象物との距離(m)である。乱視処方の場合、各主経線毎に式(1)を適用する。kは、累進屈折力レンズを装着して対象物を見る場合に累進屈折力レンズで負担する調節力の割合を示す。kの値は、通常の累進レンズの処方加入度ADDに基づいて決定し、以下の式(2)により算出する。
k=ADD*Ln …(2)
ここで、Lnは処方加入度に対する近用作業距離である。前者の方法では、累進屈折力レンズの処方加入度ADDがあれば簡単に中間距離を見るための最適な度数を算出することができる。
【0049】
レンズ設計部124は、店側端末200から受信した各種情報、最適化係数、明視ポイントおよび準明視ポイントの位置、および狙い度数に基づいて、累進屈折力レンズの設計を行う。
遠用領域2及び近用領域3に対して、度数演算部123において設定された明視ポイントDPと明視ポイントNPに対象物の距離を明視できる屈折力を付与する。その後、度数演算部123で位置が決定された準明視ポイント6LP、6RPに基づいて、中間側方領域5の端部にある方向の非球面(回転対称非球面の非球面係数)を変更することで、準明視ポイント6LP,6RPでの最適な平均度数(屈折力)を付与する。また、非点収差の最適化を図ってミラー専用領域6L,6Rを設定する。
【0050】
ここで、準明視ポイント6LP,6RPにおける平均度数(屈折力)を対象物OであるサイドミラーML,MRまでの距離に合わせて最適化を図る。すなわち、準明視ポイント6LP,6RPにおける最適化は、最適化係数および狙い度数に基づく。最適化係数1の場合は、収差が0に近づくように最適化を行う。その結果、狙い度数からの誤差が大きくなったとしても構わない。また、最適化係数0の場合は、度数が狙い度数に近づくように(度数誤差が0に近づくように)最適化を行う。その結果、収差が大きくなったとしても構わない。さらに、最適化係数0.5の場合は、収差と度数誤差とのバランスをとって最適化する。
【0051】
受注処理部125は、店側端末200からの発注依頼を送受信部130で受信すると、受注処理を行う。受注処理としては、例えば、図示しない他の端末に対して受注内容を送信し、受注処理を他の端末で行うようにしてもよい。また、累進屈折力レンズの製造を指示し、納品管理まで行うような構成としてもよい。
【0052】
送受信部130は、店側端末200との通信により各種データを送受信する。
出力部140は、設計されたレンズのデータを表示できるものであれば特に限定されず、ディスプレイ、プリンター等の機器が挙げられる。
入力部150は、各種データを入力可能であればよく、キーボード、マウス等が挙げられる。
【0053】
[2−2.店側端末の構成]
店側端末200は、図4に示すように、各種データが記憶される記憶部210、各種演算を行う演算処理部220、送受信部230、各種画面を出力させるディスプレイ等の出力部240、およびキーボードなどの入力部250を備えた端末装置であり、メーカー側端末100にネットワーク接続されている。店側端末200としては、例えばパーソナルコンピューターを使用することができる。
【0054】
記憶部210には、入力された各種データや、メーカー側端末から受信した結果データ等が記憶されている。また、眼鏡レンズに関する各種データを入力させてメーカー側端末100に送信する処理、メーカー側端末100から受信した結果データを表示する処理、および特定作業環境における対象物の優先順位を決定する処理が記述されたプログラム等が記憶されている。さらに、画面表示するための各種フォーム等も記憶されている。
【0055】
演算処理部220は、情報の演算および処理を行う演算処理装置(CPU、Central Processing Unit)であり、店側端末200全体の制御を行う。演算処理部220は、記憶部210に記憶された各種プログラムを適宜読み出して実行することにより、上述のハードウェア(記憶部210、出力部240、入力部250)と協働し、各種機能を実現している。
演算処理部220としては、眼鏡レンズに関する情報を入力させる入力処理部221と、特定の作業環境における対象物の優先順位を決定する優先順位決定部222と、メーカー側端末100から受信した結果データを出力する結果処理部223と、を備えている。
【0056】
入力処理部221は、各種データを入力させるための入力画面を作成してディスプレイ
などの出力部240に画面表示させ、入力画面に入力されたデータを送受信部230を介してメーカー側端末100に送信する。
入力させる情報は、レンズ設計を行うために必要なデータ、眼鏡レンズを使用する時の作業環境、および視線方向測定装置による画像データと、がある。
レンズ設計を行うために必要なデータとしては、例えば、レンズの処方データ、フレームデータ、フィッティングデータ等が挙げられる。特に、レンズの処方データの遠用処方度数およびフレーム形状等の情報は重要である。
眼鏡レンズを使用するときの作業環境としては、例えば、自動車運転時、パソコン作業時等があり、各作業環境において注視する対象物、その対象物までの距離、および方向等の情報も含まれる。
【0057】
視線方向測定装置による画像データは、優先順位決定部222で自動車運転時の対象物の優先順位を決定するために用いられるものである。視線方向測定装置は、人が注視している領域を定量的に計測する装置であり、一般的には、アイマークレコーダーと呼ばれている。アイマークレコーダーとしては、例えば、株式会社ナックイメージテクノロジー製の「EMR−9(商品名)」を使用することができる。顧客がこのアイマークレコーダーを装着した状態で自動車を運転し、所定時間ごとの注視点をマークすることで、対象物に対する注視頻度を測定する。このようなアイマークレコーダーによる画像を図8に示す。図8では、前方を走行する車両OV、車載メーターVM、左側のサイドミラーML、右側のサイドミラーMRに「×」マークが付与されており、これらの対象物を注視していることを示す。
【0058】
優先順位決定部222は、入力されたアイメーターによる画像データに基づいて、対象物を抽出し、抽出された各対象物の優先順位を決定する。すなわち、図8に示す画像において、「×」マークが付与されている対象物を抽出するとともに、「×」マークの数に応じて優先順位を決定する。優先順位は、対象物を見る回数が多いほど高いため、図8に示す画像データにおける対象物の優先順位は高い方から、前方を走行する車両OV、車載メーターVM、左側のサイドミラーML、右側のサイドミラーMRである。
【0059】
結果処理部223は、送受信部230で受信した結果データを表示させた結果画面を作成し、ディスプレイなどの出力部240に画面表示させる。
【0060】
送受信部230は、メーカー側端末100との通信により、入力部250で入力された入力情報をメーカー側端末100に送信し、メーカー側端末100から送信される結果データを受信する。
出力部240は、設計されたレンズのデータを表示できるものであれば特に限定されず、ディスプレイ、プリンター等の機器が挙げられる。
入力部250は、各種データを入力可能であればよく、キーボード、マウス等が挙げられる。
【0061】
[3.累進屈折力レンズ設計システムの動作]
次に、累進屈折力レンズ設計システム1の動作を、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0062】
[3−1.アイマークレコーダーによる測定方法]
累進屈折力レンズ設計システム1を動作させる前に、販売店では、個々人の特定の作業環境においてアイマークレコーダーによる測定を行う。
本実施形態では、図1に示すような自動車運転という作業環境で測定を行う。具体的には、顧客がアイマークレコーダーを装着した状態で自動車を運転し、1秒毎の視線の方向を15秒間測定する。なお、測定時間等はこれに限られず、適宜変更することができる。図8に測定結果を示す。図8において、「×」マークが多く付いているものが対象物となり、「×」マークの多い順に対象物の優先順位が決まる。すなわち、対象物の優先順位は、前方を走行する車両OV、車載メーターVM、左側のサイドミラーML、右側のサイドミラーMRである。
【0063】
[3−2.累進屈折力レンズ設計システムの動作]
アイマークレコーダーによる測定が終了すると、販売店の店員は、店側端末200の入力部250を操作して、出力部240に各種データの入力画面を表示させ、必要な情報を入力する。まず、第1の入力項目としては、顧客の氏名、年齢、性別、店舗名等の顧客情報と、遠用処方度数を含むレンズの処方データ、フレームデータ、フィッティングデータ等の基本情報が入力可能とされており、店員はこの入力画面にしたがって情報を入力する(S11)。
次に、店員は、顧客の眼鏡レンズの使用環境を入力する(S12)。本実施形態の眼鏡レンズの使用環境は自動車運転であり、アイマークレコーダーによる画像データ、対象物の名称、対象物の方向及び距離を入力する。
【0064】
優先順位決定部222は、入力されたアイマークレコーダーによる画像データを解析して、画像データにおける対象物に対して優先順位を決定する(S13)。図8における優先順位は高いほうから、前方を走行する車両OV、車載メーターVM、左側のサイドミラーML、右側のサイドミラーMRである。
次に、入力処理部221は、S11で入力された顧客情報、基本情報、および作業環境に関する情報(対象物、対象物の方向および距離、対象物の優先順位)を、送受信部230を介してメーカー側端末100に送信する(S14)。
【0065】
メーカー側端末100は、送受信部130で各種データを受信すると、データ処理部121は、この各種データを顧客ごとに眼鏡情報記憶部111に記憶させる(S21)。
次に、最適化係数設定部122は、作業環境に関するデータに基づいて、各対象物の最適化係数を求める(S22)。
具体的には、上述したように求めることができるが、本実施形態では、対象物として、前方を走行する車両OV、車載メーターVM、左側のサイドミラーML、右側のサイドミラーMRが挙げられるので、これらについて説明する。4つの対象物について累進屈折力レンズの設計を行う場合、優先順位の高い2つの対象物については従来どおりの設計を行う。したがって、ここでは、優先順位が第三位および第四位の対象物、すなわち左側のサイドミラーML、右側のサイドミラーMRの最適化係数を設定する。上述した表1および表2から、左側のサイドミラーMLおよび右側のサイドミラーMRの最適化係数は0であり、収差重視で最適化することになる。
【0066】
次に、度数演算部123は、レンズの明視ポイントおよび準明視ポイントの位置を設定し、各明視ポイントにおける狙い度数を演算する(S23)。ここで、前方を走行する車両OVを見るときのレンズ上の視線の位置が明視ポイントDPであり、車載メーターVMを見るときのレンズ上の視線の位置が明視ポイントNPであり、左側のサイドミラーMLおよび右側のサイドミラーMRを見るときのレンズ上の視線の位置が準明視ポイント6LP、6RPである。
具体的には、上述したように、各対象物の方向から、レンズ面において各対象物に対する明視ポイントおよび準明視ポイントの位置を設定する。また、遠用処方度数と各対象物までの距離とから、各準明視ポイントにおける狙い度数を計算する。例えば、遠用処方度数Sを0.00D、処方加入度ADDを2.00D、処方加入度に対する近用作業距離Lnを30cm、左側のサイドミラーMLまでの距離を140cmとすると、狙い度数は、式(1)(2)を用いて以下のように計算できる。
狙い度数=0.00+2.00×0.30/1.40=+0.43(D)
【0067】
そして、レンズ設計部124は、顧客が選択したフレームに関するフレームデータに基づいて、S23で設定された明視ポイントおよび準明視ポイントの位置が、該フレームの枠内に収まるか否かを判定する(S24)。
全ての明視ポイントおよび準明視ポイントの位置がフレームの枠内に収まらない場合は、全ての明視ポイントおよび準明視ポイントの位置がフレームの枠内に収まるように明視ポイントおよび準明視ポイントの位置を調整し(S25)、S24に戻って、度数演算部123が、再度狙い度数の計算を行う。
【0068】
一方、全ての明視ポイントおよび準明視ポイントの位置がフレームの枠内に収まっている場合は、レンズ設計部124は、該顧客の眼鏡レンズに関する基本情報、各対象物の最適化係数、および狙い度数に基づいてレンズ設計を行う(S26)。
具体的には、上述したように、まず、明視ポイントDP,NPに対象物の距離を明視できる屈折力を付与する。その後、準明視ポイント6LP、6RPに最適な平均度数(屈折力)を付与する。これは、中間側方領域5の端部にある方向の非球面(回転対称非球面の非球面係数)を変更することにより行う。次に、非点収差の最適化を図ってミラー専用領域6L,6Rを設定する。そして、準明視ポイント6LP,6RPにおける狙い度数と最適化係数とに基づいて、最適化を図る。本実施形態では、左側のサイドミラーMLの狙い度数は+0.43(D)であるが、最適化係数が0であるため、収差が0に近づくように最適化を行う。
【0069】
次に、レンズ設計部124は、設計後の結果データを、送受信部130を介して店側端末200に送信する(S27)。
【0070】
店側端末200は、送受信部230で結果データを受信する(S15)と、結果処理部223が結果画面を作成し、出力部240に結果データを画面表示させる(S16)。
店員または顧客は、この結果画面を見てレンズ設計の内容を確認し、当該レンズの発注をするか否かを判断する(S17)。
発注しない場合は、そのままシステムを終了してもよいし、S13に戻って作業環境の情報の入力からやりなおしてもよい。この場合、新しいデータに基づいて、メーカー側端末100で再設計される。
発注する場合は、結果画面に表示される発注ボタン(図示しない)を押す。これにより、結果処理部223は、送受信部230を介して発注データをメーカー側端末100に送信する(S18)。
【0071】
メーカー側端末100は、送受信部130で発注データを受信する(S28)と、受注処理部125が受注処理を行う(S29)。
【0072】
[4.実施例]
次に、第1実施形態の累進屈折力レンズ10L,10Rの具体的な実施例1について図10から図13に基づいて説明する。
実施例1において、眼鏡装用者の頭部正面と車載メーターVMとの距離を60cmとし、眼鏡装用者の頭部正面と右側のサイドミラーMRとの距離を80cmとし、眼鏡装用者の頭部正面と左側のサイドミラーMLとの距離を140cmとした。そして、前述の条件に従って、累進屈折力レンズ10L,10Rの実施例1を設計した。
図10は実施例1の非点収差図であり、図11はミラー専用の準明視ポイントのない従来例の非点収差図である。
【0073】
左眼用に関して、図10(A)と図11(A)との非点収差図同士を対比すると、実施例1と従来例とは、明視ポイントDPでは非点収差の相違があまり見受けられないが、実
施例1の明視ポイントNPの位置が従来例の明視ポイントNP´よりも左に2.5mmずれたNPにすることで、メーター方向の視線が近用領域3の中心を通るためメーター方向を明視できる。実施例1では、非点収差が0.5D以内を、許容値とする。
また、実施例1のミラー専用の準明視ポイント6LP,6RPと従来例のミラー専用の準明視ポイント6LP,6RPに対応するポイント6Lo,6Roとの非点収差において大きな相違がある。つまり、実施例1では、ミラー専用の準明視ポイント6LP,6RPは非点収差が少なく、眼鏡装用者にボケを感じさせないのに対して、従来例では、ポイント6Lo,6Roは非点収差が大きく、眼鏡装用者にボケを感じさせることになる。
【0074】
右眼用に関して、図10(B)と図11(B)との非点収差図同士を対比すると、左眼用と同様に、実施例1と従来例とは、明視ポイントDPでは非点収差の相違があまり見受けられないが、実施例1のミラー専用の準明視ポイント6LP.6RPと従来例のポイント6Lo,6Roとの非点収差において大きな相違がある。
実施例1のミラー専用の準明視ポイント6LPと、従来例のポイント6Loでの非点収差を対比すると、実施例1では0.3Dであるのに対して、従来例では、1.8Dであり、実施例1が目標値の0Dに近い。つまり、実施例1は従来例に比べて約8割の非点収差を低減することができた。
【0075】
図12は実施例1の平均度数分布図であり、図13は従来例の平均度数分布図である。これらの図において、(A)は左眼用を示し、(B)は右眼用を示す。左眼用に関して、図12(A)と図13(A)との平均度数分布図同士を対比すると、実施例1と従来例とは、明視ポイントDPでは平均度数の相違があまり見受けられないが、実施例1の明視ポイントNPの位置は従来例の明視ポイントNP´よりもメーター方向の視線位置に合わせて左に2.5mmずれたNPにすることで、近用領域3の中心を通してメーターを明視できるようになった。右眼用に関して、図12(B)と図13(B)との平均度数分布図同士を対比すると、左眼用と同様な結果が得られた。
【0076】
[5.第1実施形態の作用効果]
以上より、第1実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)アイマークレコーダーによる測定結果に基づき注視頻度の高い対象物から優先順位を付与し、優先順位三位以下の対象物を見るときのレンズ上の視線の位置を準明視ポイントとして設定する。そして、設定された準明視ポイントにおける最適化係数と狙い度数とを求め、これら最適化係数と狙い度数とに基づいてレンズの最適化を行うことでレンズ設計を行う。このため、特定の作業環境において特定の対象物を見るために最適なレンズ設計を行うことができる。
特に、対象物までの距離と対象物の特性(距離の変動の大きさ)に基づいて最適化係数を設定するため、その対象物を見る準明視ポイント6LP,6RPでは、その対象物を快適に注視することができる。具体的には、左側のサイドミラーMLに映る像を見る際は、収差を重視して最適化している。これは、左側のサイドミラーMLに映る像(景色)は距離の変動が大きいために、度数を調整したとしても視認性が向上する可能性は低いからである。このように、各対象物の特性に応じて最適化を図るため、特定の作業環境、上記実施形態では自動車運転に最適な累進屈折力レンズを提供することができる。
【0077】
(2)以上のように、累進屈折力レンズ設計システム1によれば、準明視ポイントにおける最適化を自動的に行うことができるため、特定の作業環境に最適な累進屈折力レンズを迅速かつ簡単に設計および発注することができる。
したがって、レンズメーカーと眼鏡店との連携が容易となるため、店側端末200からの眼鏡レンズの発注も円滑に行うことができ、顧客に対して幅広いサービスを提供することができる。
【0078】
(3)また、店側端末200が設置された眼鏡店では、各顧客の特定の作業環境における視線の方向をアイマークレコーダーにより測定し、対象物の優先順位を決定している。これによれば、特定の作業環境において顧客が注視する物およびその頻度を特定でき、またその優先順位に基づいたレンズ設計を自動的に行うことができる。具体的には、明視ポイントDPと明視ポイントNPとを設定した後、ボケやゆがみが生じる非球面を変更してミラー専用領域6L,6Rを設定するので、明視ポイントDPや明視ポイントNPの設定を従来と同様に行えるので、レンズ設計が容易となる。
【0079】
(4)累進屈折力レンズ設計システム1により設計された累進屈折力レンズは、二点の明視ポイントである明視ポイントDPと明視ポイントNPとから外れたポイントで第三の対象物を明視するとともに屈折力を加えたミラー専用の準明視ポイント6LP,6RPとしたので、サイドミラーML,MRを見る場合におけるレンズのボケが少なくなり、快適な自動車運転を行うことができる。
【0080】
(5)また、ミラー専用の準明視ポイント6LP,6RPは、予め設定されたサイドミラーML,MRと眼鏡装用者との距離に対応して屈折力が決定されるから、サイドミラーML,MRを見るという用途に適した累進屈折力レンズ10L,10Rを提供することができる。
【0081】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を図14から図18に基づいて説明する。
第2実施形態では、図14に示される通り、第2実施形態の累進屈折力レンズ20L,20Rは、パソコン操作専用のレンズであり、主に、パソコンのディスプレイDSを明視し、このディスプレイDSの手前に配置されたキーボードKBを明視し、このキーボードKBの左隣に配置された書類DOCを明視するためのレンズである。
【0082】
[1.累進屈折力レンズ]
図15は、累進屈折力レンズ20L,20Rの概略平面図であり、(A)は左眼用の累進屈折力レンズ20Lを示し、(B)は右眼用の累進屈折力レンズ20Rを示す。
図15(A)において、左眼用の累進屈折力レンズ20Lは、明視ポイントDPがある遠用領域2と、明視ポイントNPがある近用領域3と、累進領域4と、中間側方領域5と、近用領域3と左側の中間側方領域5との間に設けられた資料専用の準明視ポイント8とを備えている。
図15(B)において、右眼用の累進屈折力レンズ20Rは、左眼用の累進屈折力レンズ20Lとほぼ同様に、明視ポイントDPがある遠用領域2と、明視ポイントNPがある近用領域3と、累進領域4と、中間側方領域5と、資料専用の準明視ポイント8とを備えた構成であるが、左眼用の累進屈折力レンズ20Lとは、各領域の大きさが相違する。
これらの明視ポイントDPがある遠用領域2と、明視ポイントNPがある近用領域3と、累進領域4、資料専用の準明視ポイント8はレンズの内面(眼球側)あるいは外面(反眼球側)に形成されている。
【0083】
図15では、資料専用の準明視ポイント8は明視ポイントNPの左側に隣接して設けられているが、これは、図14において、キーボードKBの左隣に配置された書類DOCを明視するためのものであり、主に、マウスを右手で操作する場合を考慮したものである。本実施形態では、マウスを左手で操作する場合を考慮し、キーボードKBの右隣に配置された書類DOCを明視する資料専用の準明視ポイントを明視ポイントNPの右側に隣接して設けるものであってもよい。
【0084】
遠用領域2及び近用領域3は従来と同様に、明視ポイントDPと明視ポイントNPとを
中心に屈折力が付与される。
中間側方領域5の明視ポイントNPに近接する領域にある明視できる広さを変更することで、資料専用の準明視ポイント8での最適な平均度数(屈折力)を付与し、非点収差の最適化を図っている。
【0085】
[2.累進屈折力レンズ設計システムの構成]
第2実施形態における累進屈折力レンズ設計システムは、第1実施形態と同様の構成である。ここでは、最適化係数設定部122において、第2実施形態におけるパソコンを使用したデスクワークという作業環境での最適化係数の設定について具体的に説明する。
最適化係数設定部122は、第2実施形態のパソコンでの作業環境において、上述した表1に基づいて、以下の表3に示すような最適化係数を設定する。すなわち、デスクワークにおいては、各対象物との距離の変動が小さいため、その距離に基づいて最適化係数を設定する。ノートPC、キーボード、および手元の書類は距離が小さいため、最適化係数を1とし、度数誤差を重視した最適化を行う。部屋の掛け時計は距離が大きいため、度数誤差と収差とのバランスのとれた最適化を行う。また、デスクトップPCおよび机上のカレンダーは距離が中間くらいであり、この場合も度数誤差と収差とのバランスのとれた最適化を行う。
【0086】
【表3】

【0087】
[3.累進屈折力レンズ設計システムの動作]
次に、第2実施形態における累進屈折力レンズ設計システム1の動作を図9に示すフローチャートに基づいて説明するが、第1実施形態と同様の動作については説明を省略する。
[3−1.アイマークレコーダーによる測定方法]
累進屈折力レンズ設計システム1を動作させる前に、販売店では、個々人の特定の作業環境においてアイマークレコーダーによる測定を行う。
第2実施形態では、図14に示すようなパソコンを使用したデスクワークという作業環境で測定を行う。具体的には、顧客がアイマークレコーダーを装着した状態でデスクワークを行い、10秒毎の視線の方向を90秒間測定する。なお、測定時間等はこれに限られず、適宜変更することができる。図16に測定結果を示す。図16において、「×」マークが多く付いているものが対象物となり、「×」マークの多い順に対象物の優先順位が決まる。すなわち、対象物の優先順位は、PCのディスプレイDS、キーボードKB、書類DOCである。
【0088】
[3−2.累進屈折力レンズ設計システムの動作]
アイマークレコーダーによる測定が終了すると、眼鏡店の店員は、店側端末200の入力部250を操作して、出力部240に各種データの入力画面を表示させ、必要な情報を入力する(S11、S12)。ここで、第2実施形態では、S12において、眼鏡レンズの使用環境はパソコンを用いたデスクワークであり、この環境におけるアイマークレコーダーによる画像データ、対象物の名称、対象物の方向及び距離を入力する。
S13においては、優先順位決定部222は、アイマークレコーダーによる画像データに基づいて、優先順位を決定する。図16によれば、優先順位は、高いほうからPCのディスプレイDS、キーボードKB、書類DOCである。
【0089】
第2実施形態では、S22における最適化係数の設定方法およびS23における狙い度数の計算について説明する。
S22において、最適化係数設定部122は、PCのディスプレイDS、キーボードKB、書類DOCの3つの対象物のうち、優先順位が三位以下の書類DOCを見るときのレンズ上の視線の位置を準明視ポイント8として設定し、この準明視ポイント8について最適化係数を設定する。上述した表3によれば、書類DOCの最適化係数は1であり、度数誤差を小さくすることを重視して最適化することになる。
【0090】
S23において、度数演算部123は、まず、各対象物の方向から、レンズ面における明視ポイントDP,NPおよび準明視ポイント8の位置を設定する。また、遠用処方度数と各対象物までの距離とから、準明視ポイント8における狙い度数を計算する。例えば、遠用処方度数Sを0.00D、処方加入度ADDを3.00D、処方加入度に対する近用作業距離Lnを30cm、書類DOCまでの距離を45cmとすると、書類DOCに対する狙い度数は、式(1)を用いて以下のように計算できる。
狙い度数=0.00+3.00×0.30/0.45=+2.00(D)
【0091】
S26のレンズ設計では、レンズ設計部124は、まず、優先順位の高い明視ポイントDP,NPに対象物の距離を明視できる屈折力を付与する。その後、準明視ポイント8に最適な平均度数(屈折力)を付与する。そして、準明視ポイント8における狙い度数と最適化係数とに基づいて、最適化を図る。本実施形態では、書類DOCの狙い度数は0.311であり、最適化係数が1であるため、狙い度数との度数誤差が0に近づくように最適化を行う。
以降は、第1実施形態と同様に動作する。
【0092】
[4.実施例]
次に、第2実施形態の累進屈折力レンズ20L,20Rの具体的な実施例2について図17及び図18に基づいて説明する。
実施例2において、眼鏡装用者の頭部正面とディスプレイDSとの距離を50cmとし、眼鏡装用者の頭部正面とキーボードKBとの距離を40cmとし、眼鏡装用者の頭部正面と左側の書類DOCとの距離を45cmとした。そして、前述の条件に従って、累進屈折力レンズ20L,20Rの実施例2を設計した。
図17は実施例2の非点収差図であり、図18は資料専用領域のない従来例の非点収差図である。この図において、(A)は左眼用を示し、(B)は右眼用を示す。
【0093】
左眼用に関して、図17(A)と図18(A)とを対比すると、実施例2と従来例とは、明視ポイントDPと明視ポイントNPとでは非点収差の相違があまり見受けられないが、実施例2の資料専用の準明視ポイント8と従来例のポイント8oとの非点収差において大きな相違がある。
実施例2では、資料専用の準明視ポイント8は非点収差が少なく、眼鏡装用者にボケを感じさせないのに対して、従来例では、ポイント8oは非点収差が大きく、眼鏡装用者はボケを感じるために資料を明視することができない。
つまり、実施例2では、明視ポイントNPと資料専用の準明視ポイント8とが並んで配置され大きな明視領域を構成しているのに対して、従来例では、明視ポイントNPのみが明視領域であるため、この明視ポイントNPから水平方向に外れた領域は中間側方領域5となって非点収差が大きくなる。
右眼用に関して、図17(B)と図18(B)とを対比すると、左眼用と同様に、実施例2と従来例とは、明視ポイントDPと明視ポイントNPとでは非点収差の相違があまり見受けられないが、実施例2の資料専用の準明視ポイント8と従来例のポイント8oとの非点収差において大きな相違がある。
【0094】
[5.第2実施形態の作用効果]
従って、第2実施形態では、第1実施形態で示される作用効果の他に、次の作用効果を奏することができる。
(6)明視ポイントである明視ポイントDPと明視ポイントNPとから外れたポイントで第三の対象物を明視するとともに屈折力を加えた資料専用の準明視ポイント8としたので、パソコンの操作において、ディスプレイDSとキーボードKBと以外に、書類DOCを見る場合でも、レンズのボケが少なくなり、快適なデスクワークを行うことができる。
累進屈折力レンズ設計システム1によれば、上述のように特定の作業環境に最適な累進屈折力レンズを簡単に設計することができる。
【0095】
〔変形例〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
前記実施形態では、自動車運転専用の累進屈折力レンズ10L,10Rと、パソコン操作専用の累進屈折力レンズ20L,20Rと、を例示して説明したが、本発明では、これら以外の用途についても適用することができる。
例えば、図19において、累進屈折力レンズ30L,30Rは、警備員・受付専用のレンズであり、主に、外部にいる外来者OPを明視し、手元にある書類DOCを明視し、この書類DOCの左隣に配置されたディスプレイDSを明視するためのレンズである。ここで、ディスプレイDSはパソコンの画面でもよい。そして、書類DOCは受付名簿、その他の書類である。
このレンズは、第2実施形態と同様に、二点の明視ポイントの一点は外来者OPを明視するポイントと、もう一点は書類DOCを明視するポイントと、累進領域4と、中間側方領域5とを備え、書類DOCを明視するポイントと左側の中間側方領域5との間に設けられた準明視ポイントとして資料専用の準明視ポイント8と同様の位置にモニター専用の準明視ポイントが設けられている。
【0096】
本発明では、累進屈折力レンズを自動車専用とした場合、準明視ポイントを、運転席より斜め前方に配置されるカーナビゲーションのモニターを見るためのものや、車内の天
井部分の前方中央に設けられたルームミラーを見るものとしてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、店側端末200の優先順位決定部222が、アイマークレコーダーによる画像データの「×」マークの数を認識することで、自動的に優先順位を決定することとしたが、これに限られない。例えば、販売店の店員が、アイマークレコーダーによる画像を見て、「×」マークの付いている割合に応じて優先順位を判断し、各対象物の優先順位を店側端末200の入力部250から入力する構成としてもよい。
【0098】
さらに、上記実施形態では、準明視ポイントの最適化係数をメーカー側端末100で自動的に設定することとしたが、これに限られない。例えば、店側端末200で各種データを入力する際に、予め用意されたマニュアル等に基づいて、特定の作業環境における各対象物の最適化係数を入力するようにしてもよい。これによれば、メーカー側端末100で最適化係数を設定する処理が省略できるため、より高速化を図ることができる。
【0099】
また、上記実施形態では、累進屈折力レンズ設計システム1はメーカー側端末100と
店側端末200とをインターネット300を介して接続する構成としたが、これに限られない。例えば、眼鏡店に配置した1台の端末に上述した累進屈折力レンズ設計システム1の構成を全て含む構成としてもよい。これによれば、インターネット300による通信を行う必要がないため、より迅速に処理結果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、眼鏡の販売店等で累進屈折力レンズを販売する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…累進屈折力レンズ設計システム、100…メーカー側端末、200…店側端末、300…インターネット、10L,10R,20L,20R,30L,30R…累進屈折力レンズ、2…遠用領域、3…近用領域、4…累進領域、6LP,6RP…ミラー専用の準明視ポイント、7…主子午線、8…資料専用の準明視ポイント、NP…明視ポイント(近用測定ポイント)、DP…明視ポイント、FP…フィッティングポイント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二点の明視ポイントと少なくとも一つの準明視ポイントとを有する累進屈折力レンズを設計する累進屈折力レンズの設計方法であって、
前記累進屈折力レンズを通して見る少なくとも三つ以上の対象物の優先順位を設定し、
前記優先順位が三位以下の対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを前記準明視ポイントとし、この準明視ポイントと前記対象物との距離およびこの距離の変動の大きさに基づいて前記対象物に対する最適化係数を設定し、
前記準明視ポイントに必要な度数を所定の方法により設定し、
前記最適化係数および前記度数に基づいて、前記準明視ポイントにおける収差および度数誤差を最適化することを特徴とする累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の累進屈折力レンズの設計方法において、
前記累進屈折力レンズは自動車運転用の眼鏡レンズであり、
前記優先順位が三位以下の対象物は自動車のサイドミラーであり、
前記準明視ポイントにおける収差を重視して最適化することを特徴とする累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の累進屈折力レンズの設計方法において、
視線方向測定装置を用いて前記対象物を見る頻度を測定し、頻度の多い順に対象物の優先順位を決定することを特徴とする累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項4】
店側端末と、レンズメーカー側に設置されたメーカー側端末とがネットワークを介して接続された累進屈折力レンズ設計システムで実施される請求項1から請求項3のいずれかに記載の累進屈折力レンズの設計方法において、
前記店側端末が、眼鏡装用者の遠用処方度数を含む前記累進屈折力レンズに関する基本情報と、特定の作業環境において注視する少なくとも三つ以上の対象物の方向、距離、当該距離の変動の大きさ、および前記対象物の優先順位を含む特定の作業環境に関する情報を入力させる入力工程と、
前記基本情報および前記特定の作業環境に関する情報を前記店側端末から前記メーカー側端末へ送信する送受信工程と、
前記メーカー側端末が、前記優先順位が二位以上の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを明視ポイントとし、前記優先順位が三位以下の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを準明視ポイントとし、この準明視ポイントに対して前記距離および前記距離の変動の大きさに基づいて最適化係数を設定する最適化係数設定工程と、
前記対象物の方向に基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントの位置を決定し、前記遠用処方度数と前記対象物の距離とに基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントに必要な度数を計算する度数演算工程と、
前記最適化係数および前記度数に基づいて、前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントにおける収差および度数誤差を最適化することでレンズ設計を行うレンズ設計工程と、
前記レンズ設計により得られる設計データを前記メーカー側端末から前記店側端末へ送信する送受信工程と、
前記店側端末が、前記設計データを画面出力する結果処理工程と、を備えることを特徴とする累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項5】
店側端末と、レンズメーカー側に設置されたメーカー側端末とがネットワークを介して接続された累進屈折力レンズ設計システムであって、
前記店側端末は、
眼鏡装用者の遠用処方度数を含む前記累進屈折力レンズに関する基本情報と、特定の作
業環境において注視する少なくとも三つ以上の対象物の方向、距離、当該距離の変動の大きさ、および前記対象物の優先順位を含む特定の作業環境に関する情報と、を入力可能な入力手段と、
前記基本情報および前記特定の作業環境に関する情報を前記メーカー側端末に送信し、前記メーカー側端末からの設計データを受信する店側送受信手段と、
前記メーカー側端末から受信したレンズ設計の前記設計データを出力させる結果処理手段と、を備え、
前記メーカー側端末は、
前記基本情報および前記特定の作業環境に関する情報を前記店側端末から受信し、前記設計データを前記店側端末へ送信するメーカー側送受信手段と、
前記優先順位が二位以上の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを明視ポイントとし、前記優先順位が三位以下の前記対象物を見るときの前記累進屈折力レンズ上のポイントを準明視ポイントとし、この準明視ポイントに対して前記距離および前記距離の変動の大きさに基づいて最適化係数を設定する最適化係数処理手段と、
前記対象物の方向に基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントの位置を決定し、前記遠用処方度数と前記対象物の距離とに基づいて前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントに必要な度数を計算する度数演算手段と、
前記最適化係数および前記度数に基づいて、前記明視ポイントおよび前記準明視ポイントにおける収差および度数誤差を最適化することでレンズ設計を行うレンズ設計手段と、を備えることを特徴とする累進屈折力レンズ設計システム。
【請求項6】
請求項5に記載の累進屈折力レンズ設計システムにおいて、
前記結果処理手段により出力された前記設計データに基づいた累進屈折力レンズを前記店側端末から前記メーカー側端末へ発注し、前記発注に応じて受注処理を行う受発注処理手段をさらに備えることを特徴とする累進屈折力レンズ設計システム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の累進屈折力レンズ設計システムにおいて、
視線方向測定装置を用いて前記対象物を見る頻度を測定し、頻度の多い順に対象物の優先順位を決定する優先順位決定手段をさらに備えることを特徴とする累進屈折力レンズ設計システム。
【請求項8】
二点の明視ポイントを有し、その間に累進帯が設けられた累進屈折力レンズであって、
前記明視ポイントとは異なる位置に少なくとも一つの準明視ポイントを有し、前記準明視ポイントにおいて非点収差を許容値以内にしたことを特徴とする累進屈折力レンズ。
【請求項9】
請求項8に記載された累進屈折力レンズにおいて、
前記準明視ポイントは、遠用処方度数、予め設定された対象物と前記準明視ポイントとの距離、処方加入度、および前記処方加入度に対する近用作業距離に基づいて度数が決定されることを特徴とする累進屈折力レンズ。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載された累進屈折力レンズにおいて、
前記準明視ポイントの位置は、予め設定された対象物の方向によって決定されることを特徴とする累進屈折力レンズ。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれかに記載された累進屈折力レンズにおいて、
前記二点の明視ポイントの一点は車窓から外を明視するための明視ポイントであり、もう一点は車載メーターを明視するための明視ポイントであり、前記準明視ポイントは車側部に設けられた左右のサイドミラーを明視するためのミラー専用ポイントであることを特徴とする累進屈折力レンズ。
【請求項12】
請求項8から請求項10のいずれかに記載された累進屈折力レンズにおいて、
前記二点の明視ポイントの一点は眼鏡装用者の前方に配置されたディスプレイを明視するための明視ポイントであり、もう一点は眼鏡装用者の手元に配置されたキーボードを明視するための明視ポイントであり、前記準明視ポイントは前記キーボードの左右隣に配置された資料を明視するための資料専用ポイントであることを特徴とする累進屈折力レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−22288(P2012−22288A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279311(P2010−279311)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】