説明

細胞および/または組織の保護のための物質

本発明は、細胞および/または組織の保護に適した物質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞および/または組織の保護に適した物質に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類または他の真核細胞の器官および組織は、多種多様な不利な影響にさらされる可能性がある。まさに高等生物の細胞は特に影響を受けやすく、特に、細胞または組織が生物から取り除かれた場合(例えば、細胞培養または移植の間など)に損傷が頻発する。さらに、損傷はまた、細胞または器官の本来の環境が変化した場合、例えば、外科的介入または病理過程によって生じる。
【0003】
特に、哺乳類における細胞または組織に対する重篤な損傷は、虚血性条件下で生じる。用語、虚血は、不適切な動脈血の供給の結果として、病理学的に制限または遮断された、組織を流れる血流を意味し、これは細胞または組織への酸素の供給不足をもたらす。減少した酸素供給に関わらず、細胞または組織に対する矛盾した酸化障害がしばしば本症例において見出される。虚血によってもたらされる細胞または組織への損傷は、外科的手術の間にしばしば生じる可能性があり、高い合併症の発生率に関与する。このリスクに対抗することが本発明の目的である。
【0004】
移植手術の分野における細胞および組織の保護が特に重要である。器官の除去から移植患者へのその挿入まで、可能な限り、その機能を保護することが重要である。
【0005】
細胞または組織は、最もまれな場合において、生体内原位置ですみやかに移植できるのみであるため、常に細胞または組織を保存する必要がある。しばしば、この場合では、組織は除去の後、低温で保存され、代謝の減少がもたらされる。しかし、これは寒冷自体の作用を通じて、組織への重篤な損傷をもたらす可能性がある。これは、特に、低温で保存される内臓器官に当てはまる。1つの例は腎臓であり、寒冷は腎臓の内皮細胞を損傷させ、バリア機能の減少をもたらし、これは免疫学的な合併症または機能障害の顕著に増加したリスクに関連する。寒冷症の予防のための研究または実験に関連してこれまで使用されてきた活性な物質(ドーパミンまたはドブタミンなど)が、保護的効果を示すことが事実である一方で、しかし、非常に高い濃度がこの目的のために必要とされる。従って、動物またはヒトで使用される場合、ほんの短い期間の後で、非常に顕著な血行動態効果が認められ、これは一般的に合併症をもたらし、従って、望ましくない。ドーパミンまたはドブタミンが細胞培養物に作用する場合、その代謝は、細胞がもはやその適切な機能性を示さないような方法で顕著に変化し、従って、移植に適さない。
【0006】
特に移植の間に、細胞または組織を保存する別の方法は、保存剤を含んでいる溶液を用いた組織または細胞の灌流である。従って、PHBおよびPHB−葉酸拮抗薬の組み合わせを含む移植組織の寿命を延ばす溶液が記載される。さらに、特許文献1には、他の活性な物質と任意に組み合わせた、安息香酸およびその誘導体の、この目的のための使用が記載されている。他に、アドレナリンまたはカルベジロールの使用への参照がなされる。
【0007】
一方で細胞または組織を虚血性損傷から適切に保護し、他方で血行動態効果が生じないように所望の保護的効果を低い濃度で達成する最適な物質であって、健康に有害ではなく、かつ、環境に損害を与えない物質は、これまで見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国実用新案第295 04 589(U1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、in vivoで細胞および組織を(しかし、特に保存および輸送の間、すなわちex−vivoで)保護し、特に移植される組織、または取り出された細胞を虚血性損傷または寒冷症から維持し、またはこれらを減少させる物質を発見することである。さらに、当該物質は低い濃度で使用できる必要があり、かつ、血行動態または他の望ましくない活性が生じない必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は、請求項1記載の特徴を有する物質によって達成される。下位クレームは、有利な展開を含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
驚くべきことに、本発明において、還元効果を有する2つの置換基RおよびR、ならびにさらなる置換基Rを有する少なくとも1つの芳香環を含む芳香族系(分子のlog Pは少なくとも2.5)は、細胞または組織を保護することができることが見出された。本発明の物質は、下記の一般式(1)に示される:
【化1】

式中、二重の円は6〜18個のC原子を有する芳香族系を表わし、これは少なくとも置換基R、RおよびRを有し、RおよびRはOH、SHおよびNHからなる群からそれぞれ選択され、これはまた保護された形態で存在する可能性があり、Rは疎水性基であり、当該物質のlog Pは少なくとも2.5である。
【0012】
当該芳香族系は、もっぱら炭素を環原子として有する芳香環、およびヘテロ原子も有するものの両方から構築できる(ただしこれらは生物学的に適合している)。適した例は、カルバゾールおよびその誘導体をヘテロ原子として含む芳香族系の芳香環であり、炭素のみを含む芳香族化合物が好ましい。
【0013】
当該芳香族系は、共に縮合される可能性がある1以上の芳香環を有する。好ましい例は、フェニル、ナフタレンおよびアントラセンである。当該芳香族系は、置換基R、RおよびRに加えてさらなる置換基を有することができ、これらは所望の特性に関して不活性であり、当該系を任意に安定化、または活性化させてもよい。好ましくは、R、RおよびR以外に、他の置換基が結合していない。
【0014】
少なくとも置換基R、RおよびRを有する芳香族系は、好ましくは、これが5、6または7員環を含むという事実によって区別される。5〜7原子の大きさを有する環は、高い環の安定性を有するため、これらは、芳香環の高度な置換を有する場合であっても、減少した内部応力を示す。さらに、これらの芳香族系は、容易に入手でき、良好に試験され、従って、健康に対して有害ではない、または環境に損害を与えないという意味で安全である。
【0015】
1〜3の環を有する芳香族系もまた好ましい。原則的に、より多くの環を含む芳香族系の化合物もまた使用できることも事実であるが、1〜3の環のみを有する特に小さい芳香族系は、それらの小さい大きさのために、より容易に細胞壁を透過できることが示された。
【0016】
置換基RおよびRは、OH、SHおよびNHからなる群から選択され、任意に保護された形態であり、これらの残基のいずれかの組み合わせも存在することが可能である。好ましくは、RおよびRはそれぞれOHである。当該基は、これらを保存の間の有害な反応から保護するために、保護基で保護することができる。
【0017】
残基RおよびRは、それぞれ芳香族系の芳香環に、互いにオルト位またはパラ位のいずれかで結合する。2つの官能基の還元作用、従って酸化障害からの組織の保護は、2つの置換基RおよびRのこの互いに選択的な位置によって、正確に強化されることが推定される。オルト位またはパラ位の芳香環の構造のために、2つの官能基、すなわち置換基RおよびRは、同じ方向を向き、従って、それらの機能は相乗的に強化されることが推定される。芳香族系は、特に好ましくは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシフェネチルアミンまたは3,4−ジヒドロキシフェネチルアミンに誘導される。
【0018】
しかし、本発明の物質は、当該物質が、当該物質のlog Pが少なくとも2.5となるように形成される場合は、不利な影響から細胞または組織を保護できるのみである。log Pは、経験的に算出されたパラメータであり、物質の構造から数学的に算出することができ、Pは、n−オクタノールと水との間の、問題になっている物質の分配係数、すなわち物質の疎水性の基準を表わす。小さい値のlog Pは、分子の増加した親水性を意味し、一方、大きい値は増加した親油性を意味する。
【0019】
少なくとも2.5のlog Pを有する分子は非常に良好な親油性または疎水性を有するので、当該分子は、より低いlog Pを有する従来の物質よりも良好に細胞壁から細胞に移動することができ、そこでその保護を生じることが見出された。一方、2.5未満のlog Pを有する非常に親水性の分子は、半透過性の細胞壁を通らないため、これらの作用は減少する。2.5のlog P値については、閾値に達していると思われ、この値は酸化因子の還元または防止によって組織への虚血性損傷を防ぐために、組織の細胞に透過するのに適した物質を示す。
【0020】
log P値の調整のため、還元作用を有する2つの置換基RおよびRに加え、本発明の調製物はまた、さらに置換基Rを有する。これは、標的とされた様式で、当該物質の適合特性を調整するのに役立ち、特に、log P値を調整するために適切に変化する。詳細については、Rの構造は制限されないが、ただし、これは生物学的に適合し、疎水性に寄与する。従って、Rは、ホモアルキル残基またはヘテロアルキル残基、直鎖または分岐のいずれであってもよい。Rの定義は、置換および非置換の、ホモ原子(homoatomare)またはヘテロ原子の「残基」を化学的な意味で含む。好ましい実施態様では、置換基Rは、C6〜C26(好ましくはC8〜C18)の鎖長を有するアルキル置換基である。換言すると、Rは、好ましくは炭素原子からなる飽和アルキル残基であり、これは直鎖状または分岐であってもよく、6〜26(好ましくは8〜18)の炭素原子を含む。アルキル残基のうち、直鎖アルキル鎖は、分岐アルキル鎖よりも好ましい。より多くの親水性置換基RおよびRを有する芳香環上の6〜26の炭素原子の炭素鎖を有するこれらのアルキル置換基は、当該芳香環の疎水性を顕著に増加させるため、細胞への透過が再度促進され、従って、本発明の物質は、これらの細胞、従って、組織または器官を保護することができると推定される。従って、親水性の、強力に還元性の置換基RおよびRは、言わば「遮蔽され」、当該物質は細胞に移動し、これらはその作用を発生させる。この作用は、親油性を増加させ、少なくとも6の炭素原子の鎖長からのみ生じる可能性があり、8〜18の炭素原子の炭化水素残基で最も顕著である。26超の炭素原子の炭素数から、置換基Rは顕著すぎる遮蔽効果を有するため、当該物質は細胞中でその保護的作用を発生させることができない。なぜなら、活性な、強力に還元性の官能基RおよびRは立体的に妨げられるためである。
【0021】
置換基Rは、芳香族系に直接的に結合することができる。好ましい実施態様では、当該結合は、架橋メンバーを介して起こり、これは化学原子団 Y−NHCO(Yは、芳香族系とNHCO基との間の直接結合、またはC1〜C8(好ましくはC1〜C3)の炭素鎖を有するアルキル基のいずれかを表わす)であってもよい。この場合、Rは、カルボニル炭素に結合する。従って、Rと共に、これはアミドを表わす。
【0022】
アミド、すなわちペプチド結合を有する物質は、自然において頻繁に見出される。これらは、ポリペプチド、タンパク質の構成要素である。従って、アミド基を有する物質は、原則的に、細胞へ非常に容易に移動できることが推定される。
【0023】
発明者らは、本発明において、窒素原子上に1〜8の炭素原子(好ましくは1〜3の炭素原子)を有するアルキル残基およびカルボニル炭素上に2の、好ましくは6〜26の炭素原子を有するアルキル鎖を有するアミドは、細胞壁から細胞内部への本発明の物質の透過性を増加させ、従って細胞内部への流入を促進させるために、本発明に非常に適しているため、当該物質は、その細胞保護作用または器官保護作用をインサイツで非常によく発生させることができることを見出した。従って、架橋メンバーを介した結合の場合、Rのアルキル鎖が架橋メンバーの分だけ伸張するため、Rのアルキル鎖は短くてもよい。窒素原子上のより長いアルキル鎖もまた適していることは事実であるが、特に短いアルキル鎖(すなわち、最大3炭素原子を含むもの)が、特に適していることが示されている。これは芳香環上の立体配置と、または窒素原子上の自由電子対の電子雲とも結合することが想定され、これは遮蔽効果をもたらす可能性がある。同様のことがカルボニル炭素に結合するアルキル残基に当てはまる。しかし、本発明において、立体的遮蔽の効果は、重要な遮蔽は既に窒素によって与えられるため、それほど重要ではなく、原則的に、最大26のC原子のより長い炭素鎖もまた可能である。
【0024】
別の好ましい実施態様では、Rは、構造 Y‑COOを有する基(Yは、芳香族系とCOO原子団との間の直接結合を再度表わすが、また、C1〜C8アルキル基、好ましくはC1〜C3アルキル基であってもよい)を介して結合する。R、すなわち好ましくはC2〜C26の鎖長を有するアルキル残基は酸素原子に結合し、この代表的な実施態様では、これはエステル原子団を与える。
【0025】
既に使用されているものに類似する立体的アプローチは、アミドにおいて既に詳細に記載されているように、このタイプのエステル原子団に適用可能である。さらに、エステルおよびアミドは、類似する極性を有するため、これらは、代替物として、または組み合わせて使用できる。しかし、当該ペプチド結合は、エステルと比較して、細胞または組織におけるいくらか改善された許容性に寄与する。さらに、化学的観点からすると、エステルはペプチドほどには安定ではなく、わずかに変化したpH値においてさえも酸とアルコールとに分かれ、その結果として、本発明の物質の作用は、少なくとも部分的に失われる。
【0026】
別の好ましい実施態様では、Rは、構造 Y−CHOを有する基を介して結合し、式中、Yは芳香族系とCHO原子団との間の直接結合を再度表わし、あるいはまた、C1〜C8アルキル基(好ましくはC1〜C3アルキル基)であってもよい。R、すなわち、好ましくはC2〜C26の鎖長のアルキル残基は酸素に結合し、これは、この代表的な実施態様においては、エーテル原子団をもたらす。
【0027】
上記の式のエーテルはまた、置換基Rと考えられるかも知れない。当該エーテル基を通じて、分子は一定の割合の親水性を得るが、これはエステルまたはアミドに対して顕著に減少する。それにも関わらず、遊離のエーテルは、哺乳類の身体においてかなり少ない頻度で見出されており、従って、これらの物質の許容性は、アミドおよびエステルと比較して、いくらか減少している。しかし、この効果は、顕著に増加した親油性によって、少なくとも部分的に再度差し引かれるため、上記構造のエーテルもまた、置換基Rの代替を表わす。
【0028】
別の好ましい実施態様では、2つの置換基RまたはRのうち少なくとも1つは、保護基を有する。官能基の保護基は、特定の官能基が早期反応から保護されるべき場合に、化学において常に使用される。保護基が分離された後、反応性官能基は再度遊離し、所望のように反応できる。OH、SHおよびNH基のための保護基は、従来から有機化学で使用され、これらは当業者に周知であり、保護基として適している。一般的に当業者に知られているように、当該保護基は、保存の間にこれらを保護するために、官能基RおよびRに、適切な様式で結合していなければならないが、この結合は、当該保護基が生理的環境で再度外れるような方法で形成されなければならない。
【0029】
OHに適した保護基は、アシル基、好ましくはアセチル基またはスクシニル基、またはリン酸基である。従って、本発明の物質は、残基RまたはRのうちの1つの保護が所望である場合、適した酸(例えば酢酸またはリン酸など)と適切に反応する。これは、還元作用を有する置換基に依存して、エステル、アミドまたはチオエステルをもたらす。これらの保護基は、細胞内部のわずかに改変された条件(例えば改変されたpH)の大部分の下で、非常に容易に再分離できる。保護基の切断の結果として、強力な還元作用を有する官能基、すなわち、OH、SHまたはNHのいずれかが回復し、これは、細胞を、当該細胞内部の酸化障害から保護する。アセチル保護基は特に適している。これらは容易に入手でき、周知であり、当該保護基が除かれた場合にいずれの有害物質も生じず、安価でもある。
【0030】
あるいは、スクシニル保護基またはリン酸保護基を使用することもまた可能である。これらは、置換基(単数または複数)Rおよび/またはRと、コハク酸またはリン酸との反応によって得られる。スクシニル基またはリン酸基は、細胞内部に存在する条件下で容易に再度分離することもでき、そのため、OH、SHまたはNH基の還元作用は、再度顕在化するようになる。保護基の切断後に回復するコハク酸およびリン酸はまた、単純に再度流される可能性がある身体に無害な物質である。
【0031】
理論に縛られることなく、OH、SHおよびNHから選択される少なくとも2つの置換基RおよびRを環上に有する芳香族系は、強力な還元作用を有し、従って、虚血性条件によってもたらされるような、細胞または組織への酸化障害に対抗することが想定される。
【0032】
この損傷を防ぐためには非常に低い濃度(すなわち、約0.5〜200μM、好ましくは1〜100μMの物質の濃度)で十分である。
【0033】
所望の保護的作用を発生させることができるようにするため、本発明の物質は、様々な方法で投与できる。非経口投与または経口投与など、投与の全ての方法が本発明において適しており、非経口投与が好ましい。重要事項は、活性な物質の蓄積が十分な量で生じることができるように、物質が保護される組織または細胞の血液循環に入ることである。これは、通常、ドナーの血流への注射または注入によって達成される。
【0034】
本発明の物質は、注射可能な調製物の形態でのドナーへの投与に特に適している。この場合、当該調製物は、少なくとも本発明の物質、および少なくとも1つの薬剤的に許容できる担体からなる。最も単純な場合では、当該担体は水であってもよい。当該物質は、通常、適した薬剤的に許容できる溶剤(例えばPEG誘導体など)にあらかじめ溶解し、次いで、処理の後、液剤もしくは分散剤のいずれかとして、またはリポソームもしくはミセルの形態で投与される。よりよい処理のために、生物学的に、かつ生理学的に適合する界面活性剤を使用することもまた可能である。医薬製品のためにも使用される界面活性剤も、この目的に適している(例えば、「プルロニック」という名称で市販されている物質)。
【0035】
当該調製物はドナーへの注射に適しており、好ましくは、移植される関連器官を流れるフラッシング溶液として使用でき、そのため、本発明の物質は器官の全ての細胞に入る。ほぼ完全な潅注は、約30分〜2時間後に達成される。当該調製物は、好ましくは、0.5〜20μMのレベルで物質を含み、これは本発明の物質の適切で有効な濃度、すなわち、細胞または器官を保護する濃度を表わす。
【0036】
上記の本発明の物質は、細胞または、組織および器官も保護するために使用される。当該保護は、特に、細胞/組織、特に移植のための組織または取り出された細胞に対する酸素の供給不足(虚血性条件)による損傷に関連する。本発明の物質は、本発明においては非常に低い濃度で使用され、血行動態活性を示さない。従って、これは非常に良好な耐容性を示し、移植を意図した細胞または組織の寿命を、移植の前に生じる組織への損傷を減少させ、または完全に防ぐのに十分なほど延ばすため、移植の成功の可能性は顕著に増加する。
【0037】
本発明の代表的な実施態様は、下記において、より詳細に記載される。
【0038】
活性な物質は下記のように合成される。細胞に対する低温誘導性の損傷への当該物質の作用は、モデル系において定量化される。この目的のため、内皮細胞、例えば、ヒト臍帯静脈の内皮細胞が培養される。当該細胞は、様々な濃度の試験物質と可変の期間でインキュベーションされ、次いで、培地は、試験物質が含まれない新鮮な培地によって置き換えられる。次に、当該細胞は、例えば、24時間、0℃でインキュベーションされる。インキュベーション期間の終了時に、放出されたラクテートデヒドロゲナーゼが培養容器の上清中で、公知の方法によって測定され、この濃度は細胞損傷の尺度である。個々の化合物の有効性は、ラクテートデヒドロゲナーゼの放出の50%が阻害された濃度(EC50)によって決定される。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
(N−オクタノイルドーパミン)
1グラム N−オクタン酸を10ml テトラヒドロフランに溶解させ、0.90グラム N−エチルジイソプロピルアミンを加えた。撹拌の間に、0.75グラム(0.658ml)のクロロ炭酸エチルを加えた。3時間後、当該混合物を15ml 酢酸エチルおよび10ml 水と混合した。その有機相を分離し、硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0040】
窒素雰囲気下で、1.24グラム ドーパミン塩酸塩を10ml ジメチルホルムアミドに溶解させた。この目的のため、酢酸エチルに溶解された化学量論量のエトキシカルボニルオクタノエートを撹拌しながら加えた。この操作の間に形成される濁りは、化学量論量のN−エチルジイソプロピルアミンの添加後に再度消えた。遮光下で一晩撹拌した後、20mlの5% 炭酸水素ナトリウム/1% 亜硫酸ナトリウムの水溶液を加え、その有機相を分離した。その水層を10ml 酢酸エチルで再度抽出した。合わせた有機相を10ml 飽和食塩水溶液、10ml 0.5M 硫酸および10ml 食塩水溶液で連続的に洗浄した。その有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶剤を真空中で除去した(ロータリーエバポレーター)。1.74グラム(96%)の非常に粘稠性の、ほぼ無色の油状物を得た。
【0041】
(実施例2)
(O−サクシニル−N−オクタノイルドーパミン)
0.66グラム N−オクタノイルドーパミンを3ml テトラヒドロフランに、窒素下で溶解させ、これに236mg 無水コハク酸(4ml テトラヒドロフラン中)を加えた。一晩の撹拌後、溶剤を真空中で除去し、固形残渣を5ml 5% 炭酸水素ナトリウムおよび5ml 酢酸エチルで回収した。その有機相を廃棄し、水相を10ml 酢酸エチルと混合し、10ml 0.5M 硫酸で酸性化した。その有機相を飽和食塩水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶剤を真空中で除去した。粗のO−サクシニル−N−オクタノイルドーパミンが入手でき、これを再結晶化によってさらに精製した。
【0042】
(実施例3)
(N−デカノイルドーパミン)
1.72グラム n−デカン酸を10ml テトラヒドロフランに溶解させ、1.2グラム 塩化チオニルを加えた。1滴のジメチルホルムアミドを加えた後、当該混合物を還流まで撹拌しながら加熱した。5時間後、溶剤を蒸留した。0.95グラム ドーパミン塩酸塩を6ml ジメチルホルムアミドに溶解させ、化学量論量のデカン酸塩化物を氷浴中で、窒素下で、ゆっくりと滴下した。3時間後、実施例1のようにワークアップを行った。
【0043】
(実施例4)
(N−オクタデカノイルドーパミン)
1.42グラム ステアリン酸を10ml テトラヒドロフランに溶解させ、0.57g N−ヒドロキシコハク酸イミドおよび1.03グラム ジシクロヘキシルカルボジイミドを加えた。一晩の撹拌後、沈殿物を濾過によって分離し、テトラヒドロフランで洗浄し、合わせた濾過物から溶剤を真空中で除いた。窒素雰囲気下で、こうして得られたN−オクタノイルオキシコハク酸イミドを、化学量論量のドーパミン塩酸塩およびトリエチルアミン(ジメチルホルムアミド中に溶解させた)と反応させた。遮光で一晩撹拌後、N−オクタノイルドーパミンをワークアップの後に得た。
【0044】
(実施例5)
(2,5−ジヒドロキシベンゾイルアミドオクタン)
2.38グラム 2,5−ジヒドロキシ安息香酸から、酸塩化物を、公知の様式で三塩化リンを使用して調製した。20ml テトラヒドロフランに溶解させ、これに化学量論量のN−オクチルアミンを窒素雰囲気下で、氷浴中で、激しく撹拌しながら、ゆっくりと加えた。添加が完了した後、当該氷浴を除き、撹拌を一晩、遮光しながら続けた。溶剤を真空中で除き、有機相を、炭酸水素ナトリウム/亜硫酸ナトリウム溶液、水、希リン酸および食塩水溶液によって連続的に洗浄し、最後にモレキュラーシーブで乾燥した。溶剤の除去後、2,5−ジヒドロキシベンゾイルアミドオクタンを実質的に白色の固形物として得た。
【0045】
(実施例6)
(3,4−ジヒドロキシベンゾイルアミドオクタン)
1.19グラム 3,4−ジヒドロキシ安息香酸を10ml テトラヒドロフランに溶解させ、0.57グラム N−ヒドロキシコハク酸イミド、1.03グラム ジシクロヘキシルカルボジイミドおよび0.65グラム オクチルアミンを窒素下で加えた。遮光しながら一晩撹拌した後、沈殿物をろ過し、有機相を15ml 酢酸エチルで希釈し、10ml 5% 炭酸水素ナトリウム/1% 亜硫酸ナトリウムで洗浄した。食塩水溶液、0.5M 硫酸および食塩水溶液と振とうした後、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶剤を除いた。1.44グラム(83%)のベージュ色の固形物を得た。
【0046】
(実施例7)
(2,5−ビスアセトキシベンゾイルアミドヘキサン)
2,5−ジヒドロキシ安息香酸から、2,5−ビスアセトキシ安息香酸を、公知の方法によって、無水酢酸および酢酸ナトリウムで調製した。10ml ジエチルエーテルに溶解させた1.19グラムのこの化合物から、0.68グラム N−ヒドロキシベンゾトリアゾールおよび0.96グラム N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミドを加えることによって、活性なエステルを合成した。一晩の撹拌後、溶剤を除き、残渣を10ml 酢酸エチルおよび10ml 水で回収した。その有機相を乾燥し、0.5グラム ヘキシルアミンを加えた。一晩の撹拌後、炭酸水素ナトリウム溶液、食塩水溶液および希リン酸で連続的に洗浄し、有機相を乾燥した。溶剤の除去後、1.3グラム(81%)の粗の2,5−ビスアセトキシベンゾイルアミドヘキサンを得た。
【0047】
本発明のいくつかの物質の保護的作用は、それらのEC50値(ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンおよびドブタミン(比較目的のみのため))によって示される。
【0048】
【表1】

【0049】
(実施例8)
0.5グラム N−オクタノイルドーパミンを9.5グラムの60%(体積/体積)1,2−プロピレングリコールと40%(体積/体積)水との混合物に溶解させ、混合した。透明な、安定な溶液が得られ、これは、薬事関係法規認可のもとで滅菌後、哺乳類における非経口の投与に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または組織の保護のための物質であって、前記物質はOH、SHおよびNHからなる群から選択される2つの置換基RおよびR(RおよびRは互いにオルト位またはパラ位である)、ならびに少なくとも2.5の分子のlog Pをもたらす別の置換基Rを有する少なくとも1つの式1の芳香環を有することを特徴とする物質。
【化1】

【請求項2】
前記芳香族系は、縮合していてもよい1〜3の環を有することを特徴とする請求項1記載の物質。
【請求項3】
前記芳香族系は、5、6または7の炭素を有する芳香環を含むことを特徴とする請求項1記載の物質。
【請求項4】
はC6〜C26、好ましくはC8〜C18の鎖長を有する置換または非置換のアルキル残基であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の物質。
【請求項5】
は、Y−CHO−、Y−COO−またはY−NHC(O)−を介して結合し、Yは、直接結合またはC1〜C8アルキル基、好ましくはC1〜C3アルキル基であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の物質。
【請求項6】
前記2つの置換基RまたはRのうち少なくとも1つは、保護基を有することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の物質。
【請求項7】
前記保護基は、アシル基、好ましくはアセチル基、リン酸基またはスクシニル基であることを特徴とする請求項6記載の物質。
【請求項8】
生理学的に許容できる担体に溶解した活性な量の請求項1〜7いずれか1項に記載の物質を含む調製物であって、前記担体は水または有機溶剤、および任意に界面活性剤に基づく担体である調製物。
【請求項9】
前記担体は水であり、かつ、前記物質は、任意に可溶化剤にあらかじめ溶解していることを特徴とする請求項8記載の調製物。
【請求項10】
0.5〜200μMのレベルで前記物質を含むことを特徴とする請求項8または請求項9記載の調製物。
【請求項11】
注射可能な形態であることを特徴とする請求項8〜10いずれか1項に記載の調製物。
【請求項12】
分散形態で存在し、かつ、前記物質はミセルまたはリポソームの形態で含まれることを特徴とする請求項8〜11いずれか1項に記載の調製物。
【請求項13】
器官の保護のための注射液の製造のための請求項1〜7いずれか1項に記載の物質の使用。

【公表番号】特表2010−534691(P2010−534691A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518519(P2010−518519)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005651
【国際公開番号】WO2009/015752
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(510020206)
【出願人】(510020181)
【出願人】(510020192)
【Fターム(参考)】