説明

細胞培養のための表面

【課題】細胞/組織の培養および患者への転移のために理想的なビヒクルの全ての必要条件を満たし得る基板を提供すること。
【解決手段】本発明は、細胞が接着し、そして増殖する細胞培養表面に関し、そしてこれは、種々の治療的および美容的な組織工学/外科的手順のために、この表面からの接着細胞の脱着を可能にする。本発明はまた、組織工学で使用する治療的ビヒクルであって、このビヒクルはプラズマ重合によって得られる細胞培養表面に一体化、または適用され、それに対して少なくとも1つの細胞が可逆的に接着され得、該表面は少なくとも5%の酸性官能基を含むことで特徴付けられるビヒクルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、好ましくは哺乳動物細胞が接着および増殖し、そして上記接着細胞が表面から脱離することを可能にする表面に関連し、それは様々な治療的および美容組織工学/外科処置に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、臨床および美容外科の多くの領域に関して密接な関係を有する新興の科学である。より具体的には、組織工学は、組織および/または器官を機能的な状態に戻すための、損傷したおよび/または病的な組織の置換および/または復元(restoration)および/または修復(repair)に関連する。例えば、そして制限のためでなく、組織工学は挫傷、または熱傷、または静脈または糖尿病性潰瘍による組織の治癒の失敗の結果として起こる創傷を修復するための皮膚移植片の供給に有用である。さらに、組織工学はまた、関節炎のような変性疾患による関節の置換;様々な環境要因(例えば喫煙、食事)および/または動脈/心臓弁の置換を含む先天的な心疾患の結果としての損傷による冠動脈の置換;臓器移植;消化性潰瘍の修復;骨粗鬆症のような疾患によって起こる骨組織の置換;神経筋疾患または傷害による損傷の結果としての筋肉および神経の置換、および泌尿器科学の疾患を阻止するための膀胱材料の置換の間に実施される。
【0003】
残念ながら、インビトロで細胞/組織を培養することは、組織工学が直面する問題の一部分のみをあらわす。多くの例で、培養中の細胞の増殖は主な障害ではない。さらにより面倒な問題は、細胞/組織が治療される患者に組み込まれるように、適当なビヒクル(例えば、そして制限のためでなく、培養ウェア(culture wear)、人工器官、移植片、三次元マトリックス支持体、細胞外マトリックスタンパク質をコートした包帯剤(dressing)、包帯、硬膏)を介する細胞/組織の転移である。置換組織の転移に適切なビヒクルは、それらが組織工学で有用である場合、ある必要条件を満たさなければならない。例えば、転移ビヒクルは任意で以下の特徴を有する;
i)それらは細胞がしっかりと接着し得る表面を提供する;
ii)それらは接着細胞が接着表面に妨害されずに増殖および分裂することを可能にする;
iii)適当な場合、それらは接着細胞の分化(または未分化)状態に影響を与えない接着表面を提供する;
iv)それらは細胞を滅菌および免疫学的に無症候性状態に維持する;
v)それらは患者に対して最小限に毒性である;
vi)それらは細菌またはウイルス性疾患を伝達しない;そして
vii)それらは接着細胞が容易に脱離し、そして続いて置換、復元または修復が必要な組織部位に侵入する表面を提供する。
【0004】
細胞が接着、成長、および培養中で増殖する基板を提供する多くの表面が同定され、そして前述の特徴を発現する細胞型のすぐれた例はケラチノサイトである。
【0005】
細胞の接着および増殖および成長を支持する好ましい基板はコラーゲンIであるが、他のものも調査された(1)。例えば、コラーゲン−グリコサミノグリカン(C−GAG)基板に播種または沈着させ、そして熱傷に移植して培養代用皮膚(CSS)を形成して、14−28日後に永続する皮膚組織に発展した(2)。ケラチノサイトはまた、インビトロで、合成親水性ポリマー支持体上で成長し得る(3)。ケラチノサイトは、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)支持体上に移植され、そしてこれらは再構築されていない表皮および正常ヒト皮膚のサイトケラチンパターンにおいて違いのない、改善した創傷床の治癒を示した(4)。以前の研究が、どのようにカルボン酸含有プラズマコポリマーが7日間ケラチノサイトの接着および増殖を促進するのか示した(5)。
【0006】
細胞外マトリックスタンパク質の、ヒトケラチノサイトの接着、増殖および皮膚創傷床モデルへの転移に対する影響も研究された(6)。Matrigel、コラーゲンIおよびIVは、最初の接着を増強し、RGD、ビトロネクチン、フィブロネクチン、および照射3T3線維芽細胞はしないことが見出された。細胞の増殖はまた、matrigel、コラーゲンIおよびIV、および照射3T3線維芽細胞上で積極的に影響される(最初の接着より低い程度であるが)ことが見出された。後者の基板上で増殖するケラチノサイトは、単純なインビトロ創傷床モデルへ転移する能力を維持していた。
【0007】
限定された表面における細胞の培養は、分化した細胞の課題に的をしぼらなかった。例えば、分化した細胞型の研究に通常使用される線維芽細胞は、培養中でかなりの多形質発現を維持し、そして比較的培養しやすい。対照的に、ケラチノサイトは通常、インビボで基底表皮層(ここでケラチノサイトは、下にある真皮と接着している基底膜と接触している)から上部表皮層へ、上向きに移動しながらプログラムされた分化を受ける。後者の層で、ケラチノサイトは核を失い、そして最終分化を受ける。一旦ある分化のポイントを通過すると、それらは移動または増殖できず、そして主に皮膚のバリア機能を果たす。
【0008】
培養中のケラチノサイトは、ほとんどの培養条件で最終分化を受け、そして不利な条件には未熟な分化によって反応する。従って、課題は、理想的にはそれ自身は分化を促進せず、そして理想的には適当な培地と共に、ケラチノサイトのような細胞を増殖する表現型に維持し得る表面を確立することである。そこでそれらは接着、そして続いてインビトロ創傷床モデルに転移することが可能である。
【0009】
組織工学および創傷修復を考える場合、いくつかの異なるアプローチが可能である。現在調査されている製品および可能性のある治療は、一般的に3つのカテゴリーに入る:表皮置換、真皮置換および代用皮膚である。
【0010】
表皮置換は、シート単独として、またはビヒクルとともに培養したケラチノサイトからなり、そして通常インビトロでコンフルエントになるまで増殖した自己由来(患者自身の)上皮細胞を培養することを含む。「既成の」解決として非自己由来のバージョンが利用可能であるが、非自己由来細胞が適合性である証拠はない。しかし、それらは生物学的包帯として作用し得る。これらの理由のために、非自己由来の製品(EpiceltmおよびActiceltm)の臨床的成功は、まちまちであった。調査中の別の製品、Laserskinは、ケラチノサイト送達システムとしてヒアルロン酸を使用するが、当業者が使用する場合、そのキャリアを照射3T3線維芽細胞の層と共にプライムしてケラチノサイトの増殖を促進する。他もまた、インタクトなシートを形成する前のケラチノサイト転移のためのフィルムキャリアを調査している。
【0011】
真皮置換は、線維芽細胞(およびいくつかの場合には内皮細胞)による浸入、接着、増殖および新マトリックス産生のための、支持構造または埋め込まれたマトリックスを含む。Integratmは、シリコンで裏打ちしたシート上でコンドロイチン−6−硫酸と架橋したウシ真皮コラーゲンIの真皮成分を使用する。線維芽細胞および表皮細胞と共に播種された改変体も検討中である。合成マトリックスは3/4週後に分解し、そして分層メッシュ移植の前の新真皮形成を促進する。Allodermtmは、ドナーの線維芽細胞(スクリーニングした皮膚バンクドナー由来)を含む、凍結乾燥ヒト脱表皮化(de−epidermised)真皮である。Xenodermtmは、同様に、ブタ真皮を利用する。それはマトリックスの創傷床への組み込みを可能にし、低い免疫原性を示し、そして宿主細胞との再集合(re−population)を可能にする。他はまた、支持体としてコラーゲンを基にしたポリマー、または合成マトリックスを、実験的創傷に播種されないで(unseeded)埋め込まれた場合に細胞内への成長を支持することが示された、ケラチノサイトおよび線維芽細胞の伝達のために開発中である。
【0012】
現在検討されている最も有望な製品、Dermagrafttmは、同種線維芽細胞と共に播種されたPGA/PLAマトリックスを利用する。4週後に埋め込まれたマトリックスの完全な吸収が見られ、そして細胞はコラーゲンI−III−VI、エラスチン、フィブロネクチン、およびデコリンを沈着させる。播種されないバージョンは、移植片のつきを支持しなかった。この製品の利点は、ケラチノサイトと共に播種された場合、創傷の収縮を遅らせることができることであり、そして非コラーゲン性のマトリックスは免疫原性/BSE転移に関連する問題を克服する。
【0013】
代用皮膚は、真皮および表皮置換を両方組み合わせる。Appligraftmは、同種異系の線維芽細胞を播種したコラーゲンIゲルを同種異系のケラチノサイトのコンフルエントなシートと組み合わせる。真皮病変(lesion)における同種異系のケラチノサイトおよび線維芽細胞の長期生存率について疑問があるが、生存能力のある同種細胞が修復過程を促進し得る生物学的メディエーター(例えば成長因子)を伝達し得ることが可能である。
【0014】
創傷治癒システムを提供する上記の解決(患者組織、すなわち自己組織由来の材料を使用するもの以外)は、感染性薬剤を寄付供給源から治療される患者へ転移させる可能性に悩むことが、当業者に明らかである。さらに、異種移植は依然として、組織工学においてヒト組織の使用の代替として、一般社会による一般的な受け入れが必要である。
【0015】
創傷の前治療、マトリックス支持体の選択(細胞増殖のための)、および同種異系の細胞の使用に関するいくつかの問題はまた完全に解決されていないが、創傷修復に対する組織工学アプローチは、存在する治療に比べて有意な治療的有用性を示すことに疑いはほとんどない。上記の記述から、ケラチノサイトは組織工学で使用する組織の研究にすぐれたモデルシステムを提供することが明らかである。しかし、組織工学が直面する最も重要な問題は、細胞/組織の培養および患者への転移のために理想的なビヒクルの、全ての必要条件を満たし得る基板の供給である。
【0016】
細胞培養ウェアおよび生物学的移植片またはビヒクルは、典型的には細胞の接着、成長および増殖を可能にするポリマーから製造、またはそれでコートされる。多くの場合、その基板/ビヒクルが培養細胞/組織を埋め込む手段として使用される場合、それと結合して使用される埋め込みマトリックスは生物分解性であり得る(第WO90/12603号を参照のこと)。さらに、細胞の接着および増殖を促進する基板の処理は、上記分野で周知である。例えば第WO89/02457号および第WO90/02145号は、細胞の接着を促進する表面の化学的修飾を開示している。第WO89/02457号は、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標)tm)および他のフルオロカーボンポリマーの化学的修飾およびその内皮細胞培養における使用に関連する。第WO90/02145号は、細胞/組織培養に使用する様々な型の基板をコートするのに使用する、中和されたパーフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフッ化物のコポリマーおよびモノマーテトラフルオロエチレンの使用を記載している。
【0017】
米国特許第4,919,659号は、細胞が接着および増殖する表面をコートするための、プラズマ重合可能ガス(例えば、アセトン、メタノール、エチレンオキシド)の使用を記載している。コートした表面は、増強されたフィブロネクチン(細胞接着ポリペプチド)の結合を示し、そして従って処理表面への細胞の接着を促進する。このように処理した表面は、生物学的移植片および細胞培養ウェアのための品物を提供するのに有用である。典型的には、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリウレタンのような材料を、プラズマ重合ガスでコートし、そして次いでフィブロネクチンと接触させる。フィブロネクチン吸着表面は、コントロール表面と比べた場合、増強されたマウス3T3細胞の接着を示す。
【0018】
プラズマは通常電場によって活性化されたイオン化ガスである。それらはイオン、電子、中性のもの(neutrals)(ラジカル、準安定のもの、基底および励起状態の種)および電磁放射を含む、高度に反応性の化学的環境である。減圧下でレジメが達成され得、ここで電子の温度はイオンおよび中性のものの温度と実質的に異なる。このようなプラズマは、「コールド」または「非平衡」プラズマと呼ばれる。そのような環境において、多くの揮発性有機化合物(ニート、または他のガス(例えば、Ar)と共に)は、重合化してプラズマおよびその放電の下流と接触して両方の表面をコートすることが示された(H.K.Yasuda、Plasma Polymerisation、Academic Press、London、1985)。その有機化合物は、多くの場合「モノマー」と呼ばれる。沈着物は多くの場合「プラズマポリマー」と呼ばれる。そのような重合の様式の利点は、以下のものを含む:超薄層のピンホールのないフィルム沈着;プラズマポリマーは広い範囲の基板に沈着し得る;その過程は溶媒を含まず、そしてプラズマポリマーは夾雑物を含まない。
【0019】
本発明者らは、細胞/組織培養に使用するのに適当な基板をコートするための、プラズマポリマー沈着を開発した(5、7、8)。薄いポリマーフィルムは揮発性有機化合物のプラズマから得ることができる(10-2mmbarの減圧下、そして理想的には<100℃)。プラズマポリマー沈着において、一般的に出発化合物またはイオン化ガスの広範囲のフラグメンテーションおよび広い範囲の得られたフラグメントが存在し、または官能基が望ましくなく沈着に組み込まれる。本発明者らは、低いプラズマ入力パワー(低いプラズマパワー/モノマー流速比)を採用することによって、高い程度の官能基保持を有するフィルムを作ることが可能であることを示した。そのような低いパワー/速度比の例は、2W/2.0sccmである。しかし、他の比較的低い比が使用され得、そして当業者に公知である。
【0020】
これはアクリル酸に関して示された(9)。炭化水素(例えば1,7−オクタジエン)とアクリル酸の共重合は、得られたプラズマコポリマー(PCP)における表面官能基の濃度に対してある程度のコントロールを可能にする(7)。PCPは、ジオメトリーに関係なくほとんどの表面に直接沈着し得、これはPCPを、ガーゼおよび線維、ならびに細胞培養のためのプラスチックウェアのような表面を処理するのに理想的にさせる。これは明らかに、PCPを臨床的適用のために有用にする。ここで細胞は、創傷床または組織修復/復元の部位へ適用する前に、PCPでコートした2次元または3次元支持体上で増殖し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、プラズマポリマー/コポリマーでコートした表面上でヒトケラチノサイトを培養した。低いパワー/モノマー流速比の使用は、酸を含むモノマー(この例ではアクリル酸)の酸性官能基が、プラズマ−ガスからプラズマポリマー/コポリマー沈着までほとんど完全に保存される(保持される)プラズマポリマー/コポリマーを産生する。これらの沈着は他の官能基(例えば、後プラズマ酸化によって起こるヒドロキシル基)を含むが、「高酸性官能基」と記載され、プラズマガスからプラズマポリマーフィルムまでの高い程度の酸保持の程度を反映する。「高酸性官能基」は、酸を含むモノマー/炭化水素の共重合化比に依存する、プラズマポリマー/コポリマー中の酸性官能基の量(濃度/密度)をいわない。
【0022】
これらの表面上で培養したケラチノサイトは、未分化の状態で接着、成長、および増殖するだけでなく、表面から脱離してそして創傷床モデルに転移する。この方法でケラチノサイトの転移を促進する表面は、創傷治癒の分野で非常に有望であることを示す。本発明者らは、これらの好ましい特徴を、本発明者らの処理表面の高酸性官能基および細胞の脱離を促進する接着表面の性質に帰する。
【0023】
本明細書中における高酸性官能基への言及は、5−20%の表面酸性官能基、およびより理想的には20%より多い表面酸性官能基の量を有する表面を含むよう意図される。そのパーセンテージは、この型の環境における炭素原子のパーセントをいう。例えば、20%の酸性官能基は、プラズマポリマー中100個の炭素中20個が酸性型環境にあることを意味する。
【0024】
本発明の最初の局面によって、少なくとも1つの細胞が放出可能に接着し得、そして高酸性官能基を有する少なくとも1つの細胞培養表面が提供される。
【0025】
本明細書中において、高酸性官能基への言及は、5−20%の間または20%より多い表面酸性官能基を含む表面に関連する。
【0026】
接着表面における酸性官能基は、増強された細胞の接着を引き起こすことが当業者に明らかである(5、7、10−12)。本発明者らは、低いプラズマパワー/モノマー流速比における細胞培養表面のプラズマ重合が、ポリマーでコートされた表面における高酸性官能基の保持を生じることを見出した。100%のアクリル酸で処理した細胞培養表面で培養された細胞は、増強された処理表面からの脱離を示し、それによって脱上皮化(de−epidermised)真皮(DED)のケラチノサイトの浸透を促進する。100%のアクリル酸から産生されたプラズマポリマーは、細胞接着のために最適な酸性官能基の割合を含まないかもしれない。しかし、アクリル酸と炭化水素のプラズマ共重合(例えば、そして制限のためでなく、1,7−オクタジエン)は、沈着過程に対してある程度のコントロールを可能にし、およびケラチノサイトが接着、増殖、およびそれから脱離する表面の供給を可能にする。典型的には、モノマーフロー中50%を超えるアクリル酸で処理した細胞培養表面は、使用した酸の濃度に依存して、5−21%の間の酸性官能基を有するプラズマポリマー表面を産生する。例えば、100%のアクリル酸で処理した表面は、約21%の酸性表面官能基を産生する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、上記表面は、少なくとも1つの細胞が成長および増殖し得る基板を提供する。好ましくは、上記表面は、上記細胞の成長および増殖を未分化状態で促進する。あるいは、上記表面は、組織の型に依存して、上記細胞の成長および増殖を分化状態において促進する。
【0028】
本発明のなおさらなる好ましい実施形態では、上記表面は、それに接着する細胞に免疫反応を誘発せず、その結果これらは、患者に伝達された場合に、免疫反応を引き起こさない。
【0029】
本発明のなおさらなる好ましい実施形態では、上記表面は、最低限の患者毒性を有し、そしてそのためそれに接着した細胞が患者に伝達される場合、好ましくない反応を誘発しない。
【0030】
本発明のなおさらなる好ましい実施形態では、上記表面は、哺乳類由来の細胞、そしてより好ましくはヒト由来の細胞とともに使用するのに適当である。
【0031】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、上記表面は、以下の細胞型のいずれか1つと共に使用するのに適当である;ケラチノサイト;軟骨細胞;骨芽細胞;内皮細胞。理想的には、上記細胞はケラチノサイトである。
【0032】
本発明のなおさらなる好ましい実施形態では、上記表面酸性官能基は、カルボン酸官能基によって提供される。
【0033】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、上記表面酸性官能基は、少なくとも5%、そしてより通常には5〜20%の間の表面酸性官能基である。より理想的には、まだ上記表面酸性官能基は、20%より多い。理想的には上記酸性官能基は、アクリル酸によって提供される。あるいは、上記酸性官能基は、プロピオン酸によって提供される。
【0034】
本発明のなおまたさらなる好ましい実施形態では、典型的には上記表面は、基板を酸性モノマーのプラズマコポリマーでコートすることによって提供される。例えば、そして制限のためでなく、アクリル酸および炭化水素、例えば、そして制限のためでなく、1,7−オクタジエンである。理想的には、アクリル酸は、50〜100%で提供され、そして1,7−オクタジエンはガスフィード中で0〜50%で提供される。
【0035】
本発明の細胞培養表面は、例えば、そして制限のためでなく、急性および/または慢性および/または軽度のおよび/または重度の皮膚創傷(静脈および糖尿病性潰瘍を含む);および/または軟骨修復;および/または骨修復;および/または筋肉修復;および/または神経修復;および/または結合組織修復;および/または血管修復;および/または膀胱修復に対する適用の前に、コートした基板上で細胞が増殖し得る臨床的適用に有用であることが、当業者に明らかである。本発明はまた、組織工学ビヒクルの不可欠の部分として上記表面を提供することによって、任意の前述の細胞培養表面を提供する。
【0036】
本発明の2番目の局面に従って、組織工学で使用するビヒクルが提供され、ここで上記ビヒクルは、上記表面が高酸性官能基を有することで特徴付けられる、少なくとも1つの細胞が可逆的に接着し得る細胞培養表面と一体化、またはそれに適用される。
【0037】
ビヒクルは、本発明によって表面で培養された細胞を組織工学で使用し得る、あらゆる構造として定義され得る。例えば、そして制限のためでなく、人工器官、移植片、マトリックス、ステント、細胞培養皿、ガーゼ、包帯、硬膏、生物分解性マトリックスおよびポリマーフィルム。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、選択された細胞が接着する本発明による表面を含む治療的ビヒクルが提供される。ここで上記治療的ビヒクルは、治療的組織工学を必要とする患者に適用および/または埋め込むために適合させられる。
【0039】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、外科的埋め込み処置で使用するために細胞が接着した本発明による表面を含むマトリックス材料(例えば、そして制限のためでなく、合成または天然に存在する、および長期間有効な、または生物分解性のマトリックス材料)を含む治療的ビヒクルが提供される。
【0040】
本発明のなおまたさらなる好ましい実施形態では、上記ビヒクルは以下の細胞型のいずれか1つと共に使用するのに適当である:ケラチノサイト、軟骨細胞、骨芽細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、上皮細胞。
【0041】
本発明のなおさらなる好ましい実施形態では、上記治療的ビヒクルはケラチノサイトを含む。
【0042】
本発明の第3の局面によって、美容組織工学で使用するための、本発明の任意の局面または実施形態による細胞培養表面を含む美容ビヒクルが提供される。
【0043】
本発明の第4の局面によって、本発明の任意の以前の局面または実施形態による表面を調製する方法が提供され、この方法は以下を包含する:
i)選択された比の酸を含むモノマーおよび炭化水素をガスフィード中で混合する工程;
ii)この混合物のプラズマを産生する工程;および
iii)適当な基板をこのプラズマでコーティングして高酸性官能基を保持する表面ポリマー/コポリマーを提供する工程。
【0044】
プラズマの産生は、低いかまたは高いパワーのいずれか、そして持続波またはパルスプラズマのいずれかを使用し得ることが、当業者に明らかである。
【0045】
好ましくは、このプラズマパワーは0〜50Wのプラズマパワーおよび0〜20sccmの流速を用いて、通常は持続波条件下で産生される。しかし、パルス波が使用される場合、当業者に公知であるようにプラズマパワーおよび流速について対応する補正が行われる。
【0046】
本発明の好ましい方法では、酸はアクリル酸であり、そして炭化水素はジエン、そして特にジ−不飽和アルケン、例えば1,7−オクタジエンである。
【0047】
本発明のさらなる好ましい方法では、プラズマはガスフィード中に50〜100%の不飽和酸(例えばアクリル酸)、および0〜50%のヘキサンまたはジエン(例えば1,7−オクタジエン)を含む。
【0048】
本発明のなおさらなる好ましい実施形態では、プラズマは、ガスフィード中に以下の比;
酸(例えばアクリル酸)% アルケン(例えば1,7−オクタジエン)%
50 50
60 40
70 30
80 20
90 10
100 0
の酸(例えばアクリル酸)およびヘキサンまたはジエン(例えば1,7−オクタジエン)を含む。
本発明は例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)少なくとも1つの細胞が放出可能に接着し得る細胞培養表面であって、該表面は、高酸性官能基を有する、細胞培養表面。
(項目2)前記表面が、少なくとも1つの細胞が成長および増殖し得る基板を提供する、項目1に記載の細胞培養表面。
(項目3)前記表面は、前記細胞の成長および増殖を未分化状態で促進する、項目1または2に記載の細胞培養表面。
(項目4)前記表面は、前記細胞の成長および増殖を分化状態において促進する、項目1または2に記載の細胞培養表面。
(項目5)前記表面は、それに接着する細胞に免疫反応を誘発しない、項目1〜4のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目6)前記表面は、最低限の患者毒性を有する、項目1〜5のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目7)前記表面が哺乳類起源の細胞と使用するのに適当である、項目1〜6のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目8)前記哺乳類細胞がヒトである、項目7に記載の細胞培養表面。
(項目9)前記表面が以下の細胞型のいずれか1つと使用するのに適当である、項目1〜8のいずれかに記載の細胞培養表面:ケラチノサイト;軟骨細胞;骨芽細胞;内皮細胞;尿路上皮細胞;上皮細胞。
(項目10)前記細胞型がケラチノサイトである、項目9に記載の細胞培養表面。
(項目11)前記表面の酸性官能基がカルボン酸によって提供される、項目1〜10のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目12)カルボン酸のプラズマ重合によって得られる細胞培養表面。
(項目13)前記表面の酸性官能基が5〜20%の間の酸性官能基である、項目1〜12のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目14)前記表面の酸性官能基が20%より多い酸性官能基である、項目1〜12のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目15)前記酸性官能基がプロピオン酸によって提供される、項目1〜14のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目16)前記酸性官能基がアクリル酸によって提供される、項目1〜14のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目17)前記表面が、酸含有モノマーのプラズマコポリマーで基板をコーティングすることによって提供される、項目1〜16のいずれかに記載の細胞培養表面。
(項目18)前記コポリマーがアクリル酸および炭化水素の混合物である、項目17に記載の細胞培養表面。
(項目19)前記炭化水素が1,7−オクタジエンである、項目18に記載の細胞培養表面。
(項目20)ガスフィード中でアクリル酸が50〜100%で提供され、そして1,7−オクタジエンが0〜50%で提供される、項目18または19に記載の細胞培養表面。
(項目21)項目1〜20のいずれかに記載の細胞培養表面を含む、組織工学において使用するためのビヒクル。
(項目22)項目21に記載のビヒクルであって、該ビヒクルが、選択された細胞が接着する項目1〜20のいずれかに記載の細胞培養表面を含む治療的ビヒクルであり、該治療的ビヒクルが、治療的組織工学を必要とする患者に適用および/または埋め込むために適合させられる、ビヒクル。
(項目23)前記治療的ビヒクルがマトリックス材料を含み、そして、前記細胞が外科的埋め込み処置で使用するためのものである、項目22に記載の治療的ビヒクル。
(項目24)項目22または23に記載の治療的ビヒクルであって、該ビヒクルが以下の細胞型のいずれか1つと共に使用するのに適当である:ケラチノサイト、軟骨細胞、骨芽細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、上皮細胞。
(項目25)項目1〜20のいずれかに記載の細胞培養表面を含む美容ビヒクル。
(項目26)項目1〜20のいずれかに記載の細胞培養表面を調製する方法であって、以下:
i)酸を提供する工程;
ii)該酸のプラズマを産生する工程;および
iii)基板を該プラズマでコーティングして、高い酸性官能基を有する表面ポリマーを提供する工程
を包含する、方法。
(項目27)前記酸がアクリル酸またはプロピオン酸である、項目27に記載の方法。
(項目28)項目1〜20のいずれかに記載の細胞培養表面を調製する方法であって、以下:
i.ガスフィード中で選択された比の酸を含むモノマーおよび炭化水素を混合する工程;
ii.該混合物のプラズマを産生する工程;および
iii.適当な基板を該プラズマでコーティングして、高い酸性官能基を有する表面ポリマー/コポリマーを提供する工程、
を包含する、方法。
(項目29)前記プラズマが0〜50Wのプラズマパワーおよび0〜20sccmの流速を用いて持続波条件下で産生される、項目26〜28のいずれかに記載の方法。
(項目30)前記プラズマがパルス波条件を用いて産生される、項目26〜28のいずれかに記載の方法。
(項目31)前記酸がアクリル酸であり、そして前記炭化水素が1,7−オクタジエンである、項目28〜30のいずれかに記載の方法。
(項目32)前記プラズマが前記ガスフィード中で50〜100%のアクリル酸および0〜50%の1,7−オクタジエンを含む、項目31に記載の方法。
(項目33)前記プラズマが以下の比:
アクリル酸% 1,7−オクタジエン%
50 50
60 40
70 30
80 20
90 10
100 0
のアクリル酸および1,7−オクタジエンを含む、項目31に記載の方法。
(項目34)前記プラズマが以下の比:
酸% 炭化水素%
50 50
60 40
70 30
80 20
90 10
100 0
の酸および炭化水素を含む、項目28に記載の方法。
【0049】
本発明の実施形態が、例示のみによって、そして以下の表および図への参照と共にここで記載される;
表1は、アクリル酸および1,7−オクタジエンから形成されたPCPのXPS結果のまとめを示す;
表2は、プロピオン酸から調製したPPのXPS結果のまとめを示す;
表3は、パルス(pulsed)アクリル酸から調製されたPPのXPS結果のまとめを示す;
表4は、高パワーアクリル酸から調製されたPPのXPS結果のまとめを示す;
表5は、接触して4日後の、種々の表面のDEDに対する接着を示す。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、種々の表面へのケラチノサイトの接着を示す。
【図2】図2は、高パワーアクリル酸、パルスアクリル酸、およびプロピオン酸の表面へのケラチノサイトの接着を示す。
【図3】図3は、転移後のDEDにおけるケラチノサイト保持の測定である。
【図4a】図4aは、DEDとの接触から4日後の、コラーゲンI、キャリアおよび炭化水素の表面からDEDへのケラチノサイト転移による染色を示す。
【図4b】図4bは、DEDとの接触から4日後の、酸を含む表面からDEDへのケラチノサイト転移による染色を示す。
【図5】図5は、DEDとの接触から4日後の、パルスアクリル酸表面からDEDへのケラチノサイト転移による染色を示す。
【図6】図6は、DEDとの接触から4日後の、プロピオン酸表面からDEDへのケラチノサイト転移による染色を示す。
【図7】図7は、DEDとの接触から4日後の、高パワーアクリル酸表面からのケラチノサイト転移による染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
(材料および方法)
(プラズマ共重合)
アクリル酸および1,7−オクタジエンおよびプロピオン酸を、Aldrich Chemical Co.(UK)から得た。全てのモノマーは、数回の凍結−ポンプ/解凍サイクルの後、一般に認められたように使用した。2段階回転ポンプによって排出される円筒形の反応容器(直径8cmおよび長さ50cm)で重合を行った。プラズマを、反応容器に誘導的に連結した無線周波数(13.56MHz)シグナル発生器および増幅器によって維持した。反応器中の基礎圧は3×10-3mbarであった。
【0052】
アクリル酸および1,7−オクタジエンを、2Wのプラズマパワーおよび2.0sccmの全流速で共重合した。プラズマコポリマーを、キャリアポリマー、ポリヒドロキシブチレート(Goodfellow、Cambridge、UK)および清潔なアルミホイル(XPS分析のために)に沈着させた。共重合中の圧は、典型的には4.0×10-2mbarであった。プロピオン酸を沈着させるためのさらなる重合を、同じ条件を用いて行った。それに加えて、アクリル酸を、パルスプラズマ条件を用いて沈着させた。プラズマパワーは50Wであり、5msのプラズマオンタイムおよび40msのプラズマオフタイムのデューティーサイクルを用いた。モノマー流速は2.0sccmであった。最後に、アクリル酸を持続波高パワー条件下で沈着させた。使用したパワーは7.5W、流速2.0sccmであった。
【0053】
全ての共重合に関して、20分の沈着時間を用いた。プラズマをスイッチオフした後、モノマー混合物を、さらに20分間流れさせた。これは、研究室の大気に曝露された時に沈着による大気酸素の取り込みを最低限にするために行った。
【0054】
(X線光電子分光学)
XPスペクトルを、MgKαX線を採用するVG CLAM2光電子分光計で得た。各試料についての調査スキャンスペクトル(0〜1100eV)および狭スペクトル(narrow spectra)を、それぞれ50および20evの分析器通過エネルギーを用いて得た。スペクトルをSpectra6.0ソフトウェア(R.Unwin Software、Cheshire、UK)を用いて得た。続く処理を、Scientaデータ処理ソフトウェア(Scienta Instruments、Uppsala、Sweden)を用いて行った。分光計を、84.00eVにおけるAu4f7/2ピークポジション、および397.2eVで測定したPTFEの試料中のClsとFlsとの間のピークポジションの分離を用いて較正した。これはBeamsonおよびBriggs(13)によって報告された397.19eVの値とよく匹敵する。
【0055】
(細胞培養)
正常ヒト成人ケラチノサイト(乳房整復および腹壁形成術から得た)を、以前に記載されたように(14)真皮/表皮接合部から単離した。細胞を完全Green培地で培養した。これはコレラ毒素(0.1nM)、ヒドロコルチゾン(0.4μg/ml)、EGF(10ng/ml)、アデニン(1.8×10-4M)、トリヨード−l−チロニン(2×10-7M)、インスリン(5mg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml)、グルタミン(2×10-3M)、ファンギゾン(0.625μg/ml)、ペニシリン(1000IU/ml)、ストレプトマイシン(1000μg/ml)および10%胎児ウシ血清を含んでいた。細胞を37℃、5%CO2雰囲気で培養した。全細胞計測および生存能力のある細胞の数を、トリパンブルー染色および標準的な血球計算器箱(hemocytometer chamber)を用いて決定した。
【0056】
細胞培養実験のために新しく単離した細胞のみを使用した。コラーゲンでコーティングしたキャリアポリマー試料を、0.1Mの酢酸(200μg/ml)中のコラーゲンI溶液(32μg/cm2)を、層流キャビネット中で一晩空気乾燥させることによって調製した。
【0057】
細胞を、12.0×106細胞/mlの密度で、6ウェル組織培養皿中で試料を平らに保つために直径10mmのステンレススチール環を用いて、3組の表面に播種した。培養24時間後、各3組からの1つの試料におけるケラチノサイトの接着を、MTT−ESTAアッセイ(15)を用いて決定した。これは、生存可能な細胞数を見積もり、以前にヒトケラチノサイトの細胞数の増加と相関することを示したアッセイである(16)。細胞をPBS中0.5mg ml-1のMTTで40分間インキュベートした。染色を次いで酸性化イソプロピルアルコールで溶出した。次いで光学密度測定を540nmで、630nmのタンパク質参照波長を引いて行った。
【0058】
各3組の残る2つの試料を、DEDと接触させて置き、表面が空気/液体界面にくるようにGreen培地を加えた。DED/表面創傷床モデルを37℃のインキュベーターに4日間置き、その後表面をDEDから分離して、そして表面からDEDへの細胞転移のレベルを、上記で記載したようにMTTアッセイを用いて評価した。DEDのMTTは、染色の溶出の前にDEDをMTTと120分間インキュベートすることを必要とした。
【0059】
(結果)
(XPS特徴付け)
アクリル酸および1,7−オクタジエンから調製したPCPのXP調査スキャンスペクトルは、沈着物における炭素および酸素のみを示した。O/C比を表1に示す。O/C比はモノマーフィード中のアクリル酸のモル画分が増加するにつれて増加した。PCPのClsコアレベルスペクトルを、様々な酸素を含む官能基に関してピークフィット(peak fitted)させた。最初に、炭化水素シグナルを285eVにセットして試料荷電に関してスペクトルを補正した。次いで以下の官能基をフィットさせた:+1.5eVのシフトでアルコール/エーテル(C−OH/R);+3.0eVでカルボニル(C=O);+4.0eVでカルボン酸/エステル(COOH/R);および+0.7eVでカルボキシレートに結合したβシフトした炭素(C−COOH/R)。ピークフィッティングの結果および例のピークフィット(Faa/Ftot=1)を表1に示した。ピークフィットにおいて成分ピークのFWHMを等しく保ち、そしてそれは1.4〜1.6eVの範囲であった。成分ピークのGaussian対Lorentzian比(G/L比)も一定に保ち、そしてそれは0.8〜0.9の範囲であった。XPSはカルボン酸とエステル基との間を区別できないが、プラズマ重合アクリル酸のかすめ角赤外分光学は、この研究で採用された低パワーでは、XPスペクトルのカルボキシレートピークは、エステルよりもむしろカルボン酸に割り当てられ得ることを示した(10)。PCPに存在する他の炭素−酸素官能基としては(カルボン酸以外に)、カルボニルおよびアルコール/エーテルが挙げられる。これらは、プラズマにおけるモノマーのフラグメンテーションの結果として起こる。沈着物と水との間の反応がプラズマ容器の壁から脱着し(重合中)、そして大気酸素および水(重合後)もまた寄与する。C−OH/Rピークは、主にヒドロキシル基であると考えられる。以前の研究で、本発明者らは、アクリル酸/1,7−オクタジエンのPCP(モノマーフィード中アクリル酸の様々なモル画分を用いて調製した)における酸素を含む官能基の同一性について、より詳しく調査した(11)。この研究に基づいて、本発明者らは、PCP表面において、ケラチノサイトはC−OHでなくカルボン酸官能基に対して反応すると考える。C−OHは、細胞接着を促進するためには高い濃度(25%)で存在しなければならない(8)。
【0060】
i)プロピオン酸の持続波沈着、ii)パルスアクリル酸、およびiii)高パワーアクリル酸からのXPスペクトルもまた、沈着中に炭素および酸素のみを示し、そして上記でアクリル酸について概略を述べた同じ基準を用いてフィットさせた。プロピオン酸、パルスアクリル酸、および高パワーアクリル酸に関するカーブフィッティングの結果をそれぞれ表2、3、および4に示す。本発明者らの研究室におけるパルスプラズマの以前の研究に基づいて、パルスプラズマにおけるより低いデューティーサイクル(duty cycle)が、より高いカルボキシル保持の値を産生することが予期される(21)。表1および4を比較することによって、プラズマパワーの増加は、約50%のカルボキシル官能基保持の低下、およびアルコール/エーテルおよびカルボニル官能基の対応する増加をもたらすことが明らかである。
【0061】
表1 アクリル酸および1,7−オクタジエンから調製したPCPについてのXPS結果のまとめ
Clsコアレベルにおける官能基%
【0062】
【表1】

カルボキシレートと同じ大きさの、カルボキシレートに結合したβシフト炭素(炭化水素由来の+0.7eVにおける(C−COOH/R))をピークフィットに加えた。
【0063】
表2 プロピオン酸から調製したPPについてのXPS結果のまとめ
Clsコアレベルにおける官能基%
【0064】
【表2】

カルボキシレートと同じ大きさの、カルボキシレートに結合したβシフト炭素(炭化水素由来の+0.7eVにおける(C−COOH/R))をピークフィットに加えた。
【0065】
表3 アクリル酸のパルスPPについてのXPS結果のまとめ
Clsコアレベルにおける官能基%
【0066】
【表3】

カルボキシレートと同じ大きさの、カルボキシレートに結合したβシフト炭素(炭化水素由来の+0.7eVにおける(C−COOH/R))をピークフィットに加えた。
【0067】
表4 高パワーアクリル酸のPPに関するXPS結果のまとめ
Clsコアレベルにおける官能基%
【0068】
【表4】

カルボキシレートと同じ大きさの、カルボキシレートに結合したβシフト炭素(炭化水素由来の+0.7eVにおける(C−COOH/R))をピークフィットに加えた。
【0069】
(表面における細胞接着)
全ての表面に関して、ケラチノサイトの単離後、血球計算器を用いて細胞計測を行った。それは97%の細胞生存(2.5×107全細胞)を示した。24時間後に表面を、MTTアッセイを用いて調査した。
i)アクリル酸/1,7−オクタジエン
結果を図1に示す。データは、モノマーフロー中50%および100%のアクリル酸で調製した酸含有表面は、コラーゲンIよりわずかによく機能したことを示す。フロー中25%の酸で作成した表面はTCPSに匹敵したが、炭化水素表面におけるケラチノサイトの接着は不十分であった。
【0070】
(ii)プロピオン酸、高パワーアクリル酸、パルスアクリル酸)
結果を図2に示す。全ての表面に対して細胞が接着したが、コラーゲンIが最も高いレベルの接着を示した。細胞接着のレベルは表面からDEDへのその後の転移の程度についての予測変数ではないが、異なる前駆体モノマーおよび/またはプラズマ条件を用いて産生した表面が、ケラチノサイトの接着を支持することを記載することは重要である。細胞接着は明らかに、続く転移が成功するための必要条件である。
【0071】
(DEDへの細胞の転移)
表5は、キャリアポリマー表面をDEDから分離した結果をまとめる。コラーゲンI表面およびガスフロー中100%で調製した表面は、DEDによく接着し、ケラチノサイトの表面からDEDへの実質的な転移が起こったことを示す。モノマーフロー中より少ない量の酸を含有する表面は、よりよく接着しなかったが、キャリアおよび炭化水素表面は容易にDEDからはがれ、より低い程度の細胞転移が起こったことを示す。
【0072】
【表5】

表面およびDEDの並置から4日後、2つを分離し、そして図2は表面におけるMTTアッセイの結果を示し、そして図3はDEDにおけるMTTアッセイを示す。表面に残る細胞の光学密度は、DEDに転移した細胞でみられるものと比べて、全ての場合で非常に低かった。コラーゲンI上で増殖した細胞は、DEDへの転移に関して調査した場合最も高い値を示し、キャリア単独でみられるものよりも約4倍高かった。25%の酸で処理した表面で増殖した細胞について、転移は、キャリア単独で増殖した細胞でみられるものと同程度であった。しかし、50%および100%の酸で処理した表面で増殖した細胞は、有意に高いDEDへの転移を示した。炭化水素で処理した表面で増殖した細胞は、非常に低いDEDへの転移しか示さなかった。
【0073】
アクリル酸/1,7−オクタジエンPPからDEDへのケラチノサイト転移の写真の証拠を図4aおよび図4bに示す。炭化水素(1,7−オクタジエン)およびキャリア(biopol)表面は染色されないが、コラーゲンIおよび酸を含む表面は、DED上のケラチノサイトによる特徴的な紫の染色を示す。図5は、パルスアクリル酸PPからの細胞転移によるDED染色を示す。図6は、プロピオン酸PPを用いた同じ結果を示す。図7に示したのは、高パワーアクリル酸PP(不織布に沈着)からの転移によるDED染色である。
【0074】
(考察)
この研究の目的は、この研究室からの以前の研究を発展させることである。それは、ケラチノサイトの接着および増殖のためのPCP表面の使用を開示したが、これらの細胞のDEDへの転移を扱わなかった。ケラチノサイトは、多くの基盤上で不可逆的な最終分化を受けるので、そのような研究に特に難題となる。そのような細胞は、移動またはコロニーを形成する能力−再上皮形成を達成するためにケラチノサイトの支持表面から創傷床への転移を考える時に必要な特性を失う。したがって、本発明者らの目的は、接着を促進する表面が、単純なインビトロ創傷モデルにおいて細胞の転移を促進する程度を調査することである。
【0075】
ヒトケラチノサイトを、様々な濃度のカルボン酸基を含むPCP表面でうまく培養した。接着した細胞の数は、ケラチノサイト培養の好ましい基盤であるコラーゲンI上での細胞の能力に匹敵した。
【0076】
以前の研究がTCPSのコントロールとしての安定性に疑いを生じさせたので、炭化水素プラズマポリマーをネガティブコントロールとして使用することが重要である(17)。これらの心配は、製造中にTCPSに与えられる表面処理のために生じた。それは、表面における酸化レベルに依存して、TCPSを水性溶液に対して不安定にし得る。異なるバッチのTCPSが正確に同じ量の表面酸化を受けるかどうか、またはこの表面酸化が経年変化を受けやすいかどうかは不明である。
【0077】
細胞接着の官能基濃度に対する依存性はまだ完全に調査されていないが、ケラチノサイトは以前に、低い2〜3%量の酸性官能基を有する表面上で接着が増強されることが示された(11)。しかし、この研究で21%の酸を含む表面でも接着が高いことが示された。酸性PCPは他のO−C官能基、主にC−OHも含むことを思い出すべきである。そうとしても、本発明者らの以前の研究は、酸性PCPが、コンフルエンシーの程度および細胞数(DNAアッセイによって決定された)に関してコラーゲンIと匹敵することを示した。
【0078】
本発明者らが他で示すように、水性溶媒中で、酸性PCPは水和し得る(18)。酸性PCPの安定性は、モノマーフロー中のアクリル酸濃度に依存することが示された。高濃度の酸(全フローの>60%)は、より安定でない表面を生じる。この必要条件は、接着およびその後の増殖を促進するのに「理想的」であるといわれるような低濃度酸性表面(<5%)の開発を導いた。しかし、酸性表面からの細胞転移に関しては、異なる基準が適用されるようである。酸性基の低濃度は表面に安定性を与えるが、ケラチノサイトは十分によく接着し得て、転移が阻害される。この主張は、転移実験の結果において支持される。ここでモノマーフィード中25%の酸フロー(PCP表面において2.6%のカルボン酸)は、最も低い程度のDEDへの転移を示した。対照的に、モノマー中100%の酸フロー(PCP表面において>20%のカルボン酸)は、細胞の転移は有意により高かった。コラーゲンIのみがこれらの表面よりすぐれていた。モノマーフロー中50%の酸では、予期されたように、転移は高および低酸性官能基表面の中間であった。これらの結果は、接着および増殖を促進する最適な表面は、最も高い程度のPCPからDEDへのケラチノサイト転移を引き起こすものではないかもしれないことを示す。炭化水素PPからの少ない量の転移は、そのような表面がケラチノサイトを増殖状態で支持できないことを確認する。官能基濃度に対する細胞転移の依存は、まだ完全に調査されていないが、ケラチノサイトは多量の酸性官能基を有する表面から増強された転移を示す。従って、増殖を促進する表面(低酸性官能基)と転移を促進する表面(高酸性官能基)との間に妥協点が存在することが明らかである。
【0079】
血清を含む培地で、細胞は、基盤自体に対して直接より、タンパク質の吸着層に反応することが示された(19)。この界面のタンパク質層は、(ほとんど)自然に吸着する。調査している基盤に対する細胞反応の違いは、吸着するタンパク質の組成、またはこれらタンパク質の吸着後の活性のいずれか、あるいはこれら両方の組み合わせに変化が存在することを示唆する。細胞接着は、フィブロネクチンおよびビトロネクチンのような、多くの接着性タンパク質によって支持されることが示された。Tidwellら(12)は、異なる末端化学的性質のアルカンチオレートを用いるSAMに発達するタンパク質層における違い、およびそれらは今度異なるレベルのウシ大動脈内皮細胞接着を支持することを示した。細胞接着および拡散は、細胞増殖のための重要な条件であるが、それらは排他的条件ではない。血清はまた、成長因子の供給源であり、そしてこれらは一次哺乳類細胞の増殖に不可欠であることが示された。成長因子の細胞外マトリックス材料への吸着が、その活性化に役割を果たすことが示唆された(20)。
【0080】
結果は、カルボン酸官能基が広い範囲の開始モノマーから提供され得ることを示す。アクリル酸は、有機酸の不飽和ファミリーのメンバーであるが、プロピオン酸は飽和有機酸である。従って、モノマーがプラズマ容器を流れるのに十分揮発性であるなら、任意の有機酸を、ケラチノサイト接着および続くDEDへの転移を示し得るPP表面の製造に使用し得ることが予期される。さらに、その結果は広い範囲のプラズマ条件が、必要な細胞接着および転移を促進する表面を調製することができることを示す。本発明者らは、持続波条件下で、望ましい特徴を有するPPをうまく調製するために、低および高パワーレジメを両方使用し得ることを示した。それに加えて、プラズマをパルスすることは酸性官能基を表面に沈着させる別の経路を提供する。他の考慮すべき事は、ある範囲のキャリア表面をプラズマ沈着のために使用し得ることである。この研究で、生物分解性キャリア(biopol)、および非生物分解性キャリア(ポリプロピレン、Delnet−AET Specialty Netsから提供)はいずれも、それらがDEDへのケラチノサイト細胞転移を促進するPPでコートされ得ることを示した。データは、キャリアフィルムがその性質が異なり得るが(例えば溶解性、吸収性)、細胞の挙動に影響するのは主にこれらキャリア上のPP沈着であることを示唆する(しかし織り方/孔径のような形態学的効果が、PPコーティングは均一な「平らな」表面ではなく、キャリアの外形に沈着することを意味し得る。従って、細胞は、PPコートキャリアをそれに適用した時にDEDと接触しないかもしれない場所に接着し得る)。転移現象のあらゆる外科的使用は、キャリア材料のコートされた外形内よりも、PP表面における細胞の最大限の接着を保証するために、メッシュよりもフィルム様のキャリアを必要とすることが認識される。
【0081】
上記の考察に基づいて、ケラチノサイト接着および転移を支持することにおける酸性PCPの成功は多因子であることが明らかである。しかし、本発明者らの結果は、ケラチノサイト接着および転移は、カルボン酸官能基によって特異的に促進されることを示す。これはおそらく血清から形成する界面タンパク質層の調節による。
【0082】
高濃度の酸性基(典型的にはカルボキシル)を含むPCP表面は、炭化水素表面と比べて、ケラチノサイト接着およびDEDへの転移を促進した。約20%の酸性基を含む表面における最初の細胞接着は、培養中24時間後に、コラーゲンI基盤における細胞接着と匹敵した。
【0083】
PCPからDEDへの細胞転移は、高濃度のカルボン酸官能基を含む表面で最も高かったが、転移はまた低酸性官能基濃度を有する表面からも観察された。細胞転移は、飽和および不飽和有機酸から沈着されたPPを用いて達成された。持続波条件下で、低および高パワーレジメはいずれも、細胞転移を促進するPPを産生することができた。パルスされたプラズマもまた、転移を促進するPP表面を製造する経路を提供した。
【0084】
【表6】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−125351(P2011−125351A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−73421(P2011−73421)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【分割の表示】特願2001−505672(P2001−505672)の分割
【原出願日】平成12年6月23日(2000.6.23)
【出願人】(511069172)アルトリカ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】