説明

細胞膜透過ペプチドを提示したナノ粒子による細胞への物質導入

【課題】標的細胞や標的組織への目的物質の導入効率をさらに高める。
【解決手段】タンパク質、脂質及び有機ポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種を構成要素とする、導入物質を内包可能なナノ粒子であって、該構成要素の少なくとも1種に細胞透過性ペプチドを共有結合し、該ナノ粒子表面に細胞透過性ペプチドを提示させてなるナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜透過ペプチドを提示したナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、これまでに、B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質から構成される粒子(HBsAg粒子)に生体認識分子が導入されたものが、目的箇所へ導入物質を特異的、かつ安全に運搬し、導入するためのDDS運搬体として有効であることを見出している(特許文献1〜3)。
【0003】
また、細胞内に物質を導入する他の手段としてリポソームが広く知られている。
【0004】
一方、HBsAg粒子やリポソームなどの、タンパク質ないし脂質から構成される粒子は、生体にとって異物であって抗原性等の問題があり、その投与量はできるだけ少なくすべきであるため、導入物質の細胞内への導入効率をさらに高めることが求められている。
【特許文献1】WO01/64930
【特許文献2】WO03/082330
【特許文献3】WO03/082344
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、標的細胞や標的組織への目的物質の導入効率をさらに高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、ウイルスナノ粒子やリポソームなどのナノ粒子に特定の細胞導入ペプチドを導入して粒子表面に提示させることで、細胞ないし組織への物質の導入効率を格段に高めることが可能であることを見出した。
本発明は、以下のB型肝炎ウイルスナノ粒子に関する。
1. タンパク質、脂質及び有機ポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種を構成要素とする、導入物質を内包可能なナノ粒子であって、該構成要素の少なくとも1種に細胞透過性ペプチドを共有結合し、該ナノ粒子表面に細胞透過性ペプチドを提示させてなるナノ粒子。
2. 前記ナノ粒子がウイルスタンパク質を含むウイルス粒子或いはリン脂質を含むリポソームである、項1に記載のナノ粒子。
3. 前記構成要素がB型肝炎ウイルスタンパク質を含む、項1に記載のナノ粒子。
4. 細胞透過性ペプチドが、PLSSIFSRIGDPのアミノ酸配列を有する、項1〜3のいずれかに記載のナノ粒子。
5. 粒子内に導入物質を有する、項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子。
6. B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質において、肝細胞結合領域の一部又は全部が欠損し、かつ、細胞透過性ペプチドを有するB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質改変体。
7. 配列番号4で表される配列を有する、項6に記載の改変体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば物質の細胞・組織への導入効率を大幅に高めることができ、物質導入のためのナノ粒子の投与量を低減できるだけでなく、タンパク質、遺伝子などの巨大分子も容易に細胞/組織内に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書において、導入物質を内包するナノ粒子としては、ウイルスタンパク質粒子などのウイルス由来のタンパク質を構成要素とするウイルス粒子、リン脂質などの脂質を主成分とするリポソーム、或いは、有機ポリマーを構成要素とするナノキャリアー(Kakizawa Y, Kataoka K. Block copolymer micelles for delivery of gene and related compounds. Adv Drug Deliv Rev. 2002 Feb 21;54(2):203-22. Review;Otsuka H, Nagasaki Y, Kataoka K. PEGylated nanoparticles for biological and pharmaceutical applications. Adv Drug Deliv Rev. 2003 Feb 24;55(3):403-19. Review;Nishiyama N, Kataoka K. Polymeric micelle drug carrier systems: PEG-PAsp(Dox) and second generation of micellar drugs. Adv Exp Med Biol. 2003;519:155-77. Review.)が挙げられる。
【0009】
ウイルス粒子としては、ナノサイズであって、導入物質を内包できる粒子である限り特に限定されないが、例えばB型肝炎ウイルス、センダイウイルスなどのウイルスのタンパク質を含むナノ粒子が挙げられ、B型肝炎ウイルスのタンパク質を含むナノ粒子が特に好ましい。B型肝炎ウイルスのタンパク質としては、表面抗原タンパク質(HBsAg)、コアタンパク質が挙げられ、HBsAgが好ましく例示される。HBsAgは天然型のタンパク質(配列番号5;血清型yタイプ))を使用してもよく、N末端側のpreS1領域(108アミノ酸)、preS2領域(55アミノ酸)の一部が欠失していてもよい。血清型yタイプにおいて、preS1領域とpreS2領域にまたがる領域、例えば21-153、33-153、50-153を欠失させることができる。ウイルス粒子の平均粒径としては、50〜600nm程度、好ましくは100〜500nm程度、より好ましく100〜400nm程度である。
【0010】
HBVは各種血清型が知られているが、それらは高いアミノ酸相同性を有しているので、容易に各血清型のHBVの該当部位を特定する事ができる。本明細書の配列番号5は、adr型のN末端側の11個のアミノ酸を削除したHBsAgの全アミノ酸配列を示しており、ayw型のHBsAgに対応している。本明細書では、配列番号5に対応するHBsAg(ayw型に対応)のアミノ酸番号を用いて記載するが、他の血清型或いは亜種のHBsAgの場合には、各々対応するアミノ酸位置が該当し、その位置は、当業者であれば、容易に認識可能である。
リポソームとしては、多重層リポソーム、一枚膜リポソームのいずれであってもよい。リポソームの大きさは平均粒径が50〜500nm程度、好ましくは80〜400nm程度、より好ましくは100〜200nm程度である。リポソームは超音波処理法、逆相蒸発法、凍結融解法、脂質溶解法、噴霧乾燥法などにより製造することができる。リポソームの構成成分としては、リン脂質、コレステロール類、脂肪酸などが挙げられ、具体的にはホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを常法によって水素添加したものの他、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質が挙げられる。
【0011】
有機ポリマーを構成要素とするナノ粒子としては、前記のナノキャリアーが挙げられる。
【0012】
ナノキャリアーとしては、ポリエチレングリコールとリジン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸、乳酸、グリコール酸、ε−カプロラクトンなどのポリマーのブロック共重合体が挙げられ、例えばポリエチレングリコールとポリ−L−リジンのブロック共重合体{PEG-PLL}、alpha-acetal-poly-(ethylene glycol)-block-poly(D,L-lactide) {PEG-PLA}、ポリエチレングリコールとポリ−L−グルタミン酸のブロック共重合体、ポリエチレングリコールとポリ−L−アスパラギン酸のブロック共重合体等が例示される。
【0013】
ナノ粒子表面に提示される細胞透過性ペプチドの導入は以下のようにして行うことができる。
【0014】
ナノ粒子がタンパク質を構成要素とする場合、該タンパク質の内部又はN末端もしくはC末端に細胞透過性ペプチドを連結すればよい。細胞透過性ペプチドは主鎖に好ましく結合できるが、アミノ酸の側鎖に連結することもできる。なお、細胞透過性ペプチドはナノ粒子の表面に提示される必要があるので、粒子の内部又は中空ナノ粒子の内表面に連結するよりも、ナノ粒子の外表面に連結して表面に提示させるのが好ましい。例えばHBsAgの場合には、Pre−S1(108アミノ酸残基)、Pre−S2(55アミノ酸残基)、S領域(226アミノ酸残基)の中間にあるa抗原決定部位(aエピトープ)が粒子外に露出している領域に細胞透過性ペプチドを挿入してナノ粒子外に提示することが可能である。S領域の外部に露出している部位としては、具体的にはS領域の105番目−155番目のアミノ酸残基が挙げられる。
【0015】
ナノ粒子が脂質(特にリン脂質)を構成要素とする場合、例えばホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン等のリン脂質と細胞透過性ペプチドを連結してもよく、コレステロールのような他の脂質に細胞透過性ペプチドを連結して、リポソーム表面に細胞透過性ペプチドを提示させてもよい。
【0016】
ナノ粒子が有機ポリマーを構成要素とする(例えばナノキャリアー等の高分子ミセルの)場合、細胞透過性ペプチドは、有機ポリマーに存在するアミノ酸(リシン、グルタミン酸、アスパラギン酸など)或いはヒドロキシカルボン酸(乳酸、グリコール酸など)に由来するCOOH,NH,OH等の官能基とアミド結合またはエステル結合を介して連結することができる。
【0017】
細胞透過性ペプチド(TLM)としては、ナノ粒子の構造を破壊することなく、表面に提示されるものであれば特に限定されず、例えば、以下のものが挙げられる:
1) HBV由来あるいはHBVの改変体として設計可能な細胞透過性ペプチド(TLM):
PLSSIFSRIGDP;
PISSIFSRTGDP;
AISSILSKTGDP;
PILSIFSKIGDL;
PLSSIFSKIGDP;
PLSSIFSHIGDP;及び
PLSSIFSSIGDP。
2) タンパク質に由来する細胞透過性ペプチド:
RKKRRQRRR (Tat(49-57));
RQIKIWFQNRRMKWKK (Penetrarin(43-58));
DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVD (VP22);
AAVALLPAVLLALLAP, AAVLLPVLLAAP (Kaposi FGF signal sequences);
VTVLALGALAGVGVG (Human beta3 integrin signal sequence);
GALFLGWLGAAGSTMGA (gp41 fusion sequence);
MGLGLHLLVLAAALQGA (Caiman crocodylus Ig(v) light chain);及び
LGTYTQDFNKFHTFPQTAIGVGAP (hCT derived peptide)。
3) 合成/キメラ細胞透過性ペプチド
GWTLNSAGYLLKINLKALAALAKKIL (Transportan);
(TPPKKKRKVEDPKKKKK)8− (Loligomer);
RRRRRRR (Arginine peptide);及び
KLALKLALKALKAALKLA (Amphiphilic model peptide)。
【0018】
B型肝炎ウイルスタンパク質またはその改変体を含むウイルス中空ナノ粒子としては、HBsAgタンパク質粒子などが例示される。HBsAgタンパク質は、B型肝炎ウィルス内部コア抗原タンパク質と組み合わせて粒子を形成してもよい。
【0019】
本発明で導入物質を内包するためのウイルスナノ粒子は、B型肝炎ウイルスタンパク質又はその改変体を主成分として包含し、該タンパク質は糖鎖を有していてもよい。また、該ナノ粒子には脂質成分が含まれていてもよい。
【0020】
本発明の1つの好ましい実施形態において、ウイルスナノ粒子は、75〜85重量部のB型肝炎ウイルスタンパク質改変体、5〜15重量部の脂質、5〜15重量部の糖鎖から構成される。本願の実施例で使用されているウイルス中空ナノ粒子は、B型肝炎ウイルスタンパク質改変体80重量部、糖鎖10重量部、脂質10重量部%からなる(J Biotechnol. 1992 Nov;26(2-3):155-62. Characterization of two differently glycosylated molecular species of yeast-derived hepatitis B vaccine carrying the pre-S2 region. Kobayashi M, Asano T, Ohfune K, Kato K.)。
【0021】
本発明の改変体は、上記のpreS領域の欠失及び細胞透過性ペプチドの導入に加えて、ウイルスナノ粒子を形成する能力を有する限り種々の変異がさらに導入されていてもよい。例えば、B型肝炎ウイルスタンパク質の1又は数個もしくは複数個、例えば1〜50個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に1〜3個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されていてもよい。置換、付加、欠失、挿入などの変異を導入する方法としては、該タンパク質をコードするDNAにおいて、例えばサイトスペシフィック・ミュータジェネシス(Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382 (1987);同 100, 468 (1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984))などの遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法などの化学合成手段(例えばDNA合成機を使用する)(J. Am. Chem. Soc., 89, 4801(1967);同 91, 3350 (1969);Science, 150, 178 (1968);Tetrahedron Lett.,22, 1859 (1981))などが挙げられる。コドンの選択は、宿主のコドンユーセージを考慮して決定できる。
【0022】
ウイルス中空粒子への物質の内包化は、エレクトロポレーション法により行ってもよく、リポソーム内に導入物質を内包化し、このリポソームとB型肝炎ウイルスナノ粒子を誘導させることにより、該ナノ粒子内に導入物質を内包させてもよい。ウイルスナノ粒子とリポソームの融合は、水又は水性媒体中でリポソームとウイルス粒子を混合し、必要に応じて攪拌ないし振盪することにより容易に実施できる。
【0023】
以下、本発明のナノ粒子としてHBsAg改変体(配列番号4に記載されるような、細胞透過性ペプチドを含み、肝細胞特異性に関与するpreS1部位の一部又は全部を欠損した改変体)を主成分とするウイルス粒子を主に例に取り説明するが、他のウイルス粒子、リポソーム或いはナノキャリアーなどについても同様に実施することができる。
【0024】
HBsAg改変体などの粒子の構成要素には、特定の細胞を認識する分子をさらに導入することによって、物質の導入効率の向上に加えて、標的細胞あるいは標的組織に特異的に物質を導入することもできる。このような特定の細胞を認識する分子としては、例えば成長因子、サイトカイン等の細胞機能調節分子、細胞表面抗原、組織特異的抗原、レセプターなどの細胞および組織を識別するための分子、ウィルスおよび微生物に由来する分子、抗体、糖鎖、脂質などが好ましく用いられる。具体的には、癌細胞に特異的に現れるEGF受容体やIL−2受容体に対する抗体やEGF、またHBVの提示するレセプターも含まれる。或いは、抗体Fcドメインを結合可能なタンパク質(例えば、ZZタグ)、ストレプトアビジンを介してビオチン標識した生体認識分子を提示するためにビオチン様活性を示すストレプトタグなどを使用することもできる。これらは、目的とする細胞、あるいは組織に応じて適宜選択される。細胞認識分子は、公知の方法に従いHBsAg改変体などのナノ粒子の構成要素に導入できる。
【0025】
真核細胞でHBsAg改変体を発現させると、該タンパク質は、小胞体膜上に膜蛋白として発現、蓄積され、ナノ粒子として放出されるので好ましい。真核細胞としては、哺乳類等の動物細胞、酵母等が適用できる。このような粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、人体への安全性が極めて高い。また、必要に応じて細胞認識分子を粒子を構成するタンパク質の少なくとも一部に導入することにより、肝細胞或いは他の細胞に対する本発明のナノ粒子の細胞選択性を高めることができる。
【0026】
導入物質を内包した本発明のナノ粒子は、細胞/組織内で機能を発現するが、細胞/組織内への移行が困難な物質を導入するのに好ましく使用できる。例えば、本発明のナノ粒子を静脈注射などによって体内に投与すれば、当該粒子は体内を循環し、各種細胞に物質を効率的に導入することができる。また、生体内での半減期が短い物質であっても、細胞/組織内に導入されるまで物質は本発明のナノ粒子内で保護されているので、有効に作用し得る。
【0027】
また、本発明のナノ粒子は、標的細胞とin vitroで混合することにより細胞導入試薬としても好ましく使用できる。
【0028】
導入物質としては、特に限定されず、例えば細胞内に導入されて生理作用を生じる各種薬物、例えばホルモン、リンホカイン、酵素などの生理活性蛋白質;ワクチンとして作用する抗原性蛋白質;細胞内で発現する遺伝子、プラスミド等の遺伝子、又は発現を誘発又は誘導する特定の遺伝子発現に関与する遺伝子;さらに遺伝子治療のために導入される各種遺伝子及びアンチセンス等を挙げることができる。なお、導入される「遺伝子」には、DNAだけでなくRNAも含まれる。また、導入物質は蛋白質、遺伝子などの高分子の生理活性物質が好ましく例示できるが、低分子量の各種薬物に適用しても好ましい結果を得ることができる。また、遺伝子、タンパク質などは天然のものでも合成されたものでもよく、改変された遺伝子、タンパク質であってもよい。
【実施例】
【0029】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものでなく、細部についてはさまざまな態様が可能であることは言うまでもない。
【0030】
以下の実施例において、HBsAgとは、B型肝炎ウイルス表面抗原(Hepatitis B virus surface antigen)を示す。HBsAgは真核細胞で発現させると、小胞体膜上に膜タンパク質として発現、蓄積される。その後、分子間で凝集を起こし、小胞体膜を取り込みながら出芽様式でルーメン側にHBsAg粒子として放出される。
【0031】
なお、HBsAg粒子は、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞などの真核細胞を利用して発現させ、これを精製した後に得たものである(特許文献1〜3)。
実施例1
プラスミド構築
B型肝炎ウイルスのLタンパク質(配列番号5)をもとに遺伝子工学的手法により構築した3種類の欠失変異導入タンパク質(21-153,Δ33-153,Δ50-153)に、TLMを挿入したタンパク質を発現させるためのプラスミドの構築を行った。
1. TLMをコードしたオリゴDNAを合成した。
【0032】
PreS2-TLM (F)(配列番号1)
5’- ggg ggc ggc cgc ccc tta tcg tca atc ttc tcg agg att ggg gac cct ggc ggc cgc ggg -3’
PreS2-TLM (R)(配列番号2)
5’- ccc gcg gcc gcc agg gtc ccc aat cct cga gaa gat tga cga taa ggg gcg gcc gcc ccc -3’

2. 二種類のオリゴDNA(100μM)をそれぞれ10μlずつ下記条件でアニーリングさせた。
【0033】
【表1】

【0034】
3. ベクターpGLDLII-P39-RcT(Δ21-153,Δ33-153, Δ50-153)並びに上記インサートをNotIで消化し、ライゲーションした。
【0035】
酵母による生産
構築した遺伝子を酵母Saccharomyces cerevisiae AH22R株へスフェロプラスト法により形質転換し、高生産株をスクリーニングした。得られた高生産株を工業用培地により大量培養し、菌体を回収した。酵母をガラスビーズにより破砕し、細胞抽出液を回収、塩化セシウム密度勾配超遠心分離2回、スクロース密度勾配超遠心分離1回行うことによって粒子の精製を行った。
【0036】
粒子の解析
糖鎖処理
糖鎖修飾を調べるためにPNGaseFによる処理を行った。

トリプシン処理
粒子表面に存在するドメインをトリプシンにより消化し、タンパク質の分子量変化を調べることで、TLMが粒子表面に存在していることを確認した。
実施例2
カルセイン導入実験
この精製粒子を用いて粒子の解析及び各種細胞への導入実験を行った。導入実験では薬剤のモデルとして蛍光物質カルセイン用いた。まず、TLM提示粒子(約30μg)、カルセイン(終濃度0.5mM)、BufferB(200μl)を混合し、D.W.により500μlにした。これを4mmキュベットに加え、エレクトロポレーション法(160V,950μF)によりカルセインを粒子内に封入した。各種細胞へ添加、約8時間後に蛍光顕微鏡による観察およびFACSによる解析を行った。
プラスミド構築
B型肝炎ウイルスのLタンパク質を遺伝子改変した欠失変異体にTLMを挿入したタンパク質の発現用プラスミドを3種類構築した(図2)。

酵母による生産
3種類のプラスミドを酵母に形質転換を行った結果、Δ21-TLMは形質転換体が得られなかった。Δ33-TLMは、形質転換体は得られたが、粒子の生産量がごくわずかであった。一方、Δ50-TLMは、多数の形質転換体が得られ、粒子の生産量も高かった。Δ50-TLMの形質転換体のセレクションを行い、高生産株を得た。セレクション方法は、試験管で工業用培地3mlにより形質転換体を培養し、その内1ml中の菌体を回収、250mlのBufferAに溶解させ、ガラスビーズで細胞破砕、酵母抽出液をPBSにより100倍希釈し、酵素免疫測定装置IMxにより粒子量を測定した。また、高生産株のウエスタンブロット解析も行った。その結果、Δ50-TLMが最も生産量が高たったため、以降の実験にはこれを用いた。

粒子の解析
銀染色・ウエスタンブロット解析
複数のバンドが見られるが精製粒子が得られた(図3)。

糖鎖処理
ウエスタンブロット解析の結果、N型糖鎖が一つ付加していることが確認された(図4)。

トリプシン処理
ウエスタンブロット解析の結果、主要バンドが低分子側にシフトしたことから、TLMが粒子表面に提示されていることが確認された(図5)。

以上の事を踏まえると、銀染色で確認された複数のバンドは、糖鎖及び、プロテアーゼによる分解産物であると言える。

カルセイン導入実験
接着細胞
HepG2とA431について、Δ50-153とΔ50-153+TLMの比較を行った(図6)。
次に、NuE(ヒト肝癌細胞)、NA(ヒト扁平上皮癌細胞)、Cos7(サル腎細胞)、PC12(ラット副腎褐色細胞腫)への導入実験を行った(図7〜図10)。コントロールのL粒子と比べ、明らかな蛍光強度の差が確認された。

浮遊細胞
H69(ヒト肺癌細胞)、MOLT4(ヒトリンパ芽球細胞)への導入実験を行った(図11,図12)。カルセインとTLM提示粒子を混ぜただけのコントロールと比べ、わずかではあるが蛍光強度の差が確認された。一般に浮遊細胞への導入は困難とされており、本発明のナノ粒子の有用性が明らかにされた。

参考文献
1.Gene Ther. 2000 May; 7(9):750-8.
Oess S, Hildt E
Novel cell permeable motif derived from the PreS2-domain of hepatitis-B
virus surface antigens.

2.EMBO Rep. 2003 Aug; 4(8):767-73.
Hafner A, Brandenburg B, Hildt E
Reconstitution of gene expression from a regulatory-protein-deficient
hepatitis B virus genome by cell-permeable HBx protein.

3.J Hepatol. 2005 Sep; 43(3):442-50.
Hillemann A, Brandenburg B, Schmidt U, Roos M, Smirnow I, Lemken ML, Lauer
UM, Hildt E.
Protein transduction with bacterial cytosine deaminase fused to the TLM intercellular transport motif induces profound chemosensitivity to 5-
fluorocytosine in human hepatoma cells.
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】HBsAgから構成される本発明のナノ粒子の構造を模式的に示す。
【図2】実施例で使用したプラスミドの構造を示す。
【図3】精製粒子の銀染・WBの結果を示す。
【図4】糖鎖処理(PNGase F処理)の結果を示す。
【図5】トリプシン処理の結果を示す。
【図6】Δ50-153とΔ50-153+TLMの比較を示す。
【図7】NuE細胞への導入実験の結果を示す。
【図8】NA細胞への導入実験の結果を示す。
【図9】Cos7細胞への導入実験の結果を示す。
【図10】PC12細胞への導入実験の結果を示す。
【図11】H69細胞への導入実験の結果を示す。
【図12】MOLT4細胞への導入実験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質、脂質及び有機ポリマーから成る群から選ばれる少なくとも1種を構成要素とする、導入物質を内包可能なナノ粒子であって、該構成要素の少なくとも1種に細胞透過性ペプチドを共有結合し、該ナノ粒子表面に細胞透過性ペプチドを提示させてなるナノ粒子。
【請求項2】
前記ナノ粒子がウイルスタンパク質を含むウイルス粒子或いはリン脂質を含むリポソームである、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記構成要素がB型肝炎ウイルスタンパク質を含む、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項4】
細胞透過性ペプチドが、PLSSIFSRIGDPのアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項5】
粒子内に導入物質を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項6】
B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質において、肝細胞結合領域の一部又は全部が欠損し、かつ、細胞透過性ペプチドを有するB型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質改変体。
【請求項7】
配列番号4で表される配列を有する、請求項6に記載の改変体。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−89440(P2007−89440A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281443(P2005−281443)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(503100821)株式会社ビークル (12)
【Fターム(参考)】