説明

細胞識別装置、細胞識別用プログラム、細胞解析装置、および細胞解析用プログラム

【課題】 撮像した細胞の画像から個々の細胞を識別すること。
【解決手段】 細胞の位相差画像において、使用者によって指定された画像内に存在する任意の1つの細胞を含む領域内に対してエッジ抽出処理し(ステップS20)、細胞の輪郭を得る(ステップS30)。そして、抽出した細胞の輪郭を1つの細胞と識別する(ステップS40)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像した細胞の画像から細胞の輪郭を抽出して細胞を識別する細胞識別装置、細胞識別用プログラム、および識別した細胞の画像を撮像し、撮像した画像を画像処理して解析する細胞解析装置、細胞解析用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を撮像した画像を2値化することによって、細胞の輪郭を抽出する細胞画像処理方法が特許文献1によって知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−274422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の細胞画像処理方法においては、画像上で隣同士つながった2つ以上の細胞は、1つの細胞として誤って抽出されてしまう可能性があるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、観察対象を撮像して得られた画像内に存在する個々の細胞を識別する細胞識別装置において、撮像した細胞の画像を表示する表示手段と、表示手段に表示された細胞の画像中に領域を指定する指定手段と、指定手段で指定された領域内に一つの細胞が存在するものとみなして細胞を識別する識別手段とを有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の細胞識別装置において、識別手段は、指定手段で指定された領域内の画像に対してエッジ抽出を行って一つの細胞の輪郭を抽出し、抽出された細胞の輪郭を一つの細胞と識別することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の細胞識別装置において、観察対象を撮像して得られた画像は細胞の位相差画像または微分干渉画像であることを特徴とする。
請求項4に記載の細胞解析装置は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞識別装置と、細胞の画像を所定時間間隔で複数枚撮像し、撮像した複数枚の画像に対して画像処理を実行して、個々の細胞の時系列変化を解析する解析手段とを有することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、観察対象を撮像して得られた画像内に存在する個々の細胞を識別する細胞識別処理をコンピュータにより実行するための細胞識別用プログラムであって、撮像した細胞の画像を表示する表示処理と、表示された細胞の画像中に領域を描画する描画処理と、描画処理で描画された領域内に一つの細胞が存在するものとみなして細胞を識別する識別処理とを有することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の細胞識別用プログラムにおいて、識別処理は、描画された領域内の画像に対してエッジ抽出を行って一つの細胞の輪郭を抽出し、抽出された細胞の輪郭を一つの細胞と識別することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の細胞識別用プログラムにおいて、観察対象を撮像して得られた画像は細胞の位相差画像または微分干渉画像であることを特徴とする。
請求項8に記載の細胞解析用プログラムは、請求項5〜7のいずれか一項に記載の細胞識別用プログラムの各処理と、細胞の画像を所定時間間隔で複数枚撮像し、撮像した複数枚の画像に対して画像処理を実行して、個々の細胞の時系列変化を解析する解析処理とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、1つの細胞を的確に抽出することができ、複数の細胞を1つの細胞であると誤って抽出されるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、本発明による細胞識別装置の一実施の形態の構成を示すブロック図である。細胞識別装置100は、入力装置110と、制御装置120と、モニタ130と、画像メモリ140とを備えている。また、細胞識別装置100には細胞の拡大画像を撮像するカメラ付き顕微鏡200が接続されており、使用者によって観察され、顕微鏡200で撮像された任意の細胞の画像は、制御装置120へ転送され、画像メモリ140に格納されるとともにモニタ130に表示される。入力装置110は、使用者がモニタ130に表示された細胞の画像に閉曲線で囲まれた領域を入力できるように構成されており、例えば使用者がドラッグ操作することにより閉曲線で囲まれた領域を入力できるようになっている。
【0008】
顕微鏡200は、CCD210を撮像素子とし、透過光による位相差観察光学系と、落射蛍光による蛍光観察光学系とを有する。本実施の形態では、位相差観察光学系で撮像した位相差画像に基づいて細胞を識別し、識別した細胞を蛍光観察光学系で観察する。
【0009】
本実施の形態における細胞識別装置100は、顕微鏡200で撮像した細胞の画像内に含まれる個々の細胞を識別する。顕微鏡200で細胞を撮像するに当たっては、あらかじめ細胞を蛍光染色するため蛍光色素、例えばDiBACで細胞を染色しておく。そして、染色した細胞の拡大画像を顕微鏡200で撮像する。このとき、照明光学系や細胞に照射する励起光の波長を変化させることによって、位相差画像、および蛍光色素により細胞を蛍光染色した蛍光画像のいずれかを撮像することができる。
【0010】
本実施の形態では、顕微鏡200として倒立顕微鏡を使用し、上部の照明系から所定波長の光を照射し、細胞の位相差画像を撮像する。そして、使用者はモニタ130に表示された細胞の位相差画像内に存在する任意の1つの細胞を含む領域を入力装置110を使用して指定する。図2は、細胞の位相差画像内に存在する任意の1つの細胞を含む領域が使用者によって指定されたときの具体例を示す図である。図2では、使用者は入力装置110のドラッグ操作により、1つの細胞を含む領域2aを指定している。制御装置120は、使用者によって指定された領域を細胞の識別領域と設定し、当該細胞識別領域内において、対象画像に対してエッジ抽出処理を行い、抽出したエッジの隣り合うもの同士を直線で結ぶことによって細胞の輪郭を抽出する。
【0011】
図3は、エッジ抽出処理を行った結果に基づいて、細胞の輪郭を抽出するアルゴリズムの具体例を図示したものである。図3における各点は、エッジ抽出処理によって抽出された細胞のエッジを表している。図3(a)において、任意の2つのエッジAおよびBを直線4aで結び、直線4aから垂直方向に最も離れたエッジCと、直線4aの端点、すなわちエッジAおよびBとをそれぞれ直線4bおよび4cで結ぶ。
【0012】
次に、図3(b)に示すように、直線4bと直線4cのそれぞれから垂直方向に最も離れたエッジDおよびEと、直線4bと直線4cのそれぞれの端点とを直線で結ぶ。これによって、エッジA,D,C、EおよびBが直線で結ばれ、その輪郭が抽出されていく。そして、図3(c)において、上述した図3(b)で示した処理を行い、その後、全ての点が直線で結ばれるまで処理を繰り返すことによって、図4に示すように使用者によって指定された領域内に存在する1つの細胞の輪郭を抽出することができる。図4においては、図3に示した領域2a内に存在する1つの細胞の輪郭4aを抽出している。
【0013】
以上説明したように、使用者によって指定された任意の細胞を1つ含む領域内に存在する細胞の輪郭を抽出することによって、撮像した位相差画像内に存在する個々の細胞を識別する。なお、識別した個々の細胞には、個々の細胞を一意に識別するためのID(識別符号)が付与され、付与されたIDは、識別した細胞の輪郭、すなわち形状、および画像内における細胞の位置、例えば画像内をXY座標系としたときの細胞の重心の座標値とともに個々の細胞の識別データとして不図示のメモリに格納される。そして識別した個々の細胞の観察画像は、細胞の識別データに基づいて細胞単位に画像処理することができる。
【0014】
本実施の形態においては、例えば図5および図6に示すように、顕微鏡200を使用して個々の細胞の観察画像に対して画像処理を行い、その観察結果を得る。すなわち、顕微鏡200において、細胞に照射する励起光の波長を、細胞を蛍光染色している色素(例えばDiBAC)を励起する波長に変化させ、図5に示す細胞の蛍光画像を所定の時間間隔で撮像する。そして、蛍光画像における各細胞の蛍光強度を計測して、図6に示すようにその時系列変化を示すグラフをモニタ130に表示する。
【0015】
なお、図6は、図5で識別した2つの細胞5aおよび5bの輪郭内における蛍光強度の平均値の時系列変化を示すグラフを示す図である。図6においては、時点t1で試薬を添加すると、細胞5aおよび5bの輪郭内における蛍光強度の平均値が増加していることがわかる。例えば細胞を蛍光染色している色素がDiBACの場合には、細胞の膜電位が変化していることがわかる。
【0016】
図7は、本実施の形態における細胞識別装置100の動作を示すフローチャートである。顕微鏡200を使用して細胞の観察を開始するにあたり、使用者は観察対象の細胞に上述した蛍光色素を加えて予め蛍光染色した細胞を含むシャーレを顕微鏡200にセットし、観察倍率の設定などの前準備を行う。図7に示す処理は、これらの前準備が完了し、使用者によって細胞識別処理の実行が指示されると起動するプログラムとして制御装置120により実行される。
【0017】
ステップS10において、顕微鏡200で拡大撮像された画像を画像メモリ140に格納するとともにモニタ130に表示する。その後、ステップS20へ進み、使用者によって入力装置110を介して細胞の位相差画像内に存在する任意の1つの細胞を含む領域が指定された否かを判断する。使用者によって領域が指定されたと判断した場合には、ステップS30へ進む。
【0018】
ステップS30では、使用者によって指定された領域を細胞識別領域として設定し、当該細胞識別領域内に存在する細胞のエッジ抽出処理を行う。その後、ステップS40へ進み、抽出したエッジをつなぎ合わせて細胞の輪郭を得る。その後、ステップS50へ進む。ステップS50では、抽出した細胞の輪郭を1つの細胞と認識して、認識した個々の細胞にID番号を付与して、上述した細胞の識別データをメモリに記憶する。その後、処理を終了する。
【0019】
以上説明した本実施の形態によれば、以下のような作用効果が得られる。すなわち、顕微鏡200で撮像した細胞の位相差画像において、使用者によって指定された画像内に存在する任意の1つの細胞を含む領域内に対してエッジ抽出処理して細胞の輪郭を抽出し、抽出した細胞の輪郭を1つの細胞と識別することとした。これによって、撮像した位相差画像内に存在する個々の細胞を的確に認識することができる。
【0020】
なお、上述した実施の形態では、エッジ抽出処理によって抽出したエッジを図3にて説明したアルゴリズムによってつなぎ合わせて、細胞、および核の輪郭を得ることとした、これに限定されず、その他のアルゴリズムによってエッジをつなぎ合わせてもよい。
【0021】
上述した実施の形態では、顕微鏡200で撮像した拡大画像を細胞識別装置100へ取り込んで画像処理を行い、画像内に存在する個々の細胞を識別することとしたが、顕微鏡200で撮像した拡大画像を細胞識別用プログラムを備えた汎用PCへ取り込んで、汎用PC上で画像内に存在する個々の細胞を識別してもよい。
【0022】
上述した実施の形態では、顕微鏡200で撮像した細胞の位相差画像に基づいて細胞の輪郭を抽出することとした。しかし、顕微鏡200によって細胞の微分干渉画像を撮像し、撮像した細胞の微分干渉画像に基づいて細胞の輪郭を抽出してもよい。
【0023】
特許請求の範囲の構成要素と実施の形態との対応関係について説明する。入力装置110は指定手段に、制御装置120は識別手段に、モニタ130は表示手段に相当する。なお、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態における構成に何ら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による細胞識別装置の一実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図2】細胞の位相差画像内に存在する任意の1つの細胞を含む領域が使用者によって設定されたときの具体例を示す図である。
【図3】エッジ抽出処理を行った結果に基づいて、細胞の輪郭を抽出するアルゴリズムの具体例を図示したものである。
【図4】使用者によって指定された領域内に存在する1つの細胞の輪郭を抽出した結果の具体例を示す図である。
【図5】細胞の観察方法の具体例を示す第1の図である。
【図6】細胞の観察方法の具体例を示す第2の図である。
【図7】本実施の形態における細胞識別装置100の動作を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0025】
100 細胞識別装置
110 入力装置
120 制御装置
130 モニタ
140 画像メモリ
200 顕微鏡
210 CCD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象を撮像して得られた画像内に存在する個々の細胞を識別する細胞識別装置において、
前記撮像した細胞の画像を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された細胞の画像中に領域を指定する指定手段と、
前記指定手段で指定された領域内に一つの細胞が存在するものとみなして細胞を識別する識別手段とを有することを特徴とする細胞識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞識別装置において、
前記識別手段は、前記指定手段で指定された領域内の画像に対してエッジ抽出を行って一つの細胞の輪郭を抽出し、抽出された細胞の輪郭を一つの細胞と識別することを特徴とする細胞識別装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞識別装置において、
前記観察対象を撮像して得られた画像は細胞の位相差画像または微分干渉画像であることを特徴とする細胞識別装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞識別装置と、
細胞の画像を所定時間間隔で複数枚撮像し、撮像した複数枚の画像に対して画像処理を実行して、個々の細胞の時系列変化を解析する解析手段とを有することを特徴とする細胞解析装置。
【請求項5】
観察対象を撮像して得られた画像内に存在する個々の細胞を識別する細胞識別処理をコンピュータにより実行するための細胞識別用プログラムであって、
撮像した細胞の画像を表示する表示処理と、
表示された細胞の画像中に領域を描画する描画処理と、
前記描画処理で描画された領域内に一つの細胞が存在するものとみなして細胞を識別する識別処理とを有することを特徴とする細胞識別用プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の細胞識別用プログラムにおいて、
前記識別処理は、描画された領域内の画像に対してエッジ抽出を行って一つの細胞の輪郭を抽出し、抽出された細胞の輪郭を一つの細胞と識別することを特徴とする細胞識別用プログラム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の細胞識別用プログラムにおいて、
前記観察対象を撮像して得られた画像は細胞の位相差画像または微分干渉画像であることを特徴とする細胞識別用プログラム。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の細胞識別用プログラムの各処理と、
細胞の画像を所定時間間隔で複数枚撮像し、撮像した複数枚の画像に対して画像処理を実行して、個々の細胞の時系列変化を解析する解析処理とを有することを特徴とするコンピュータで実行される細胞解析用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−17489(P2006−17489A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193333(P2004−193333)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】