説明

細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤及びメラニン産生抑制剤

【課題】天然物に由来して安全性が高く、皮膚の老化防止に有用な細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤及びメラニン産生抑制剤を提供する。
【解決手段】カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とする細胞賦活剤、カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とする紫外線障害緩和剤、及び、カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とするメラニン産生抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤及びメラニン産生抑制剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、天然物に由来して安全性が高く、皮膚の老化防止に有用な細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤及びメラニン産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚真皮の線維芽細胞の機能低下、紫外線によるメラニンの産生などにより、皮膚の弾性の低下、しわ、しみの発生などの皮膚の老化症状が現れる。このような皮膚の老化症状を防止し、改善するために、ビタミン類、コラーゲン、合成高分子などを配合した化粧料が用いられているが、十分な効果は得られていない。このために、効果的に皮膚の老化を防止することができる成分の探索が行われ、提案されている。
例えば、真皮線維芽細胞の代謝活性を向上させ、紫外線などの外来ストレスによる皮膚の障害や老化を有効に防止あるいは改善する作用に優れる老化防止用皮膚外用剤として、ハナビラタケ子実体から極性溶媒により抽出された抽出物を含有する老化防止用皮膚外用剤が提案されている(特許文献1)。しかし、ハナビラタケは、針葉樹の切り株や樹皮の割れ目に生じるキノコであって、大量に採取することは容易ではない。また、皮膚の障壁機能を増強させる化粧品用組成物として、ココア豆の殻の水性−アルコール性抽出物からなるβ−エンドルフィン模倣性の植物抽出物の使用が提案され、ココア豆の殻の水/ブチレングリコール抽出物が例示されている(特許文献2)。しかし、カカオ殻の水性−アルコール性抽出物は、細胞賦活剤として十分な効果を有しない。
【特許文献1】特開2004−307437号公報
【特許文献2】特開2005−47914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、天然物に由来して安全性が高く、皮膚の老化防止に有用な細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤及びメラニン産生抑制剤を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、カカオ脂が多量のオレイン酸を含みながらカカオ豆中に安定に存在することから、カカオ殻中には抗酸化作用を有する成分が含まれると推定し、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カカオ殻のアルコール抽出物はほとんど薬効を有しないが、カカオ殻の水抽出物は優れた細胞賦活作用、紫外線障害緩和作用、メラニン産生抑制作用を有することを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とする細胞賦活剤、
(2)カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とする紫外線障害緩和剤、及び、
(3)カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とするメラニン産生抑制剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の薬剤は、カカオ殻の水抽出物を含有し、優れた細胞賦活作用、紫外線障害緩和作用、メラニン産生抑制作用を有する。本発明の薬剤が有効成分として含有するカカオ殻の水抽出物は、天然物に由来するので、安全性が極めて高い。カカオ殻は、チョコレート菓子などの原料として用いられるカカオ豆の加工工程において、副生物として発生するので、容易に大量かつ経済的に入手することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤及びメラニン産生抑制剤は、カカオ殻の水抽出物を含有する。本発明の薬剤は、優れた細胞賦活作用、優れた紫外線障害緩和作用及び良好なメラニン産生抑制効果を有するので、老化防止用皮膚外用剤、美白化粧料などとして好適に用いることができる。
本発明に用いるカカオ殻は、ココア、チョコレート菓子などの原料を採取するために栽培されるアオギリ科の植物であるテオブロマ・カカオ(Theobroma cacao)の種子の殻である。テオブロマ・カカオは、ガーナ、ブラジル、トリニダード、スリ・ランカなどで大量に栽培され、その果実は食品の原料として安全衛生的に厳重な管理の下に処理されるので、カカオ殻は薬剤の原料として安全な状態で大量かつ経済的に入手することができる。
【0007】
本発明の薬剤に用いるカカオ殻の抽出物は、水を溶媒とする抽出物である。カカオ殻をエタノールなどのアルコールを溶媒として抽出しても、抽出物が得られる。しかし、カカオ殻の水抽出物が優れた細胞賦活作用と紫外線障害緩和作用を有するのに対して、カカオ殻のアルコール抽出物は、細胞賦活作用も紫外線障害緩和作用も全く有しない。さらに、カカオ殻の水抽出物がメラニン産生抑制作用を有するのに対して、カカオ殻のアルコール抽出物は逆にメラニン産生促進作用を有する。カカオ殻の水抽出物とアルコール抽出物は、カカオ殻からの抽出量が同程度であっても、全く異なる作用を有する成分が含有されると推定される。カカオ殻の水抽出物は、細胞賦活作用、紫外線障害緩和作用及びメラニン産生抑制作用以外の他の薬効をも有することが期待される。
本発明に用いるカカオ殻の水抽出物は、カカオ殻を水で処理して、カカオ殻中に含まれる水に可溶性の成分を、水に不溶性又は難溶性の成分と分離することにより得ることができる。カカオ殻の水抽出に用いる装置に特に制限はなく、例えば、ソックスレー抽出器、バッテリー抽出機、ボールマン抽出機、ロトセル抽出機、ルルギ抽出機、ケネディー抽出機などの浸透貫流型固液抽出装置、パチューカタンク、ボノトー抽出機、ヒルデブランド抽出機などの固体分散型固液抽出装置、千代田式L型抽出機、ミアグ抽出機などの貫流−浸漬併用型固液抽出装置などを挙げることができる。
【0008】
本発明において、カカオ殻の水抽出温度に特に制限はなく、例えば、5〜100℃の任意の温度で抽出することができ、あるいは、加圧下に100℃を超える温度で抽出することもできる。カカオ殻から取得する水抽出物の量は、カカオ殻の3〜11重量%であることが好ましく、5〜9重量%であることがより好ましい。水抽出物の量がカカオ殻の3重量%未満であると、カカオ殻が含有する有効成分を十分に利用し得ないおそれがある。水抽出物の量がカカオ殻の11重量%を超えると、抽出が困難になるのみならず、薬効の乏しい成分まで抽出されるおそれがある。カカオ殻から水抽出により得られた抽出液は、水分を蒸発させたのち凍結乾燥することにより、水抽出物を乾固物とすることができる。
【0009】
本発明の細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤又はメラニン産生抑制剤において、カカオ殻の水抽出物の含有量に特に制限はないが、0.0001〜5重量%であることが好ましい。カカオ殻の水抽出物の含有量が0.0001重量%未満であると、十分な薬効が発現しないおそれがある。カカオ殻の水抽出物の含有量が5重量%を超えると、カカオ殻の水抽出物が有する薬効が十分に利用されないおそれがある。
本発明の細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤又はメラニン産生抑制剤においては、必要に応じて、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、酸化防止剤、防腐剤、香料、着色料、皮膚栄養剤などを配合することができる。
【実施例】
【0010】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
カカオ殻30gを粉砕し、ソックスレー抽出器を用いて精製水300mLで7時間抽出を行った。抽出液から水分を留去したのち、残渣を凍結乾燥してカカオ殻の水抽出物2.0gを得た。
5重量%ウシ血清[FBS,EQUITECH−BIO INC.]を添加したダルベッコ改変イーグル培地[DMEM、(株)医学生物学研究所]を用いて維持した正常ヒト線維芽細胞[クラボウ(株)]を、細胞賦活作用の試験に供した。
臭化3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム(MTT)は、ミトコンドリアにおいて細胞内のエネルギー代謝過程で生じるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADPH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)により開裂し、ホルマザンを生成する。このために、ホルマザンの生成量を、細胞賦活作用の指標とした。
正常ヒト線維芽細胞を、1ウェルあたり2.0×104個の細胞密度で、96穴マイクロプレートに播種した。1重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて24時間培養したのち、所定の濃度のカカオ殻の水抽出物を含有した1重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に交換した。さらに48時間培養したのち、臭化3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム[MTT、ナカライテスク(株)]0.4mg/mLを含有する1重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に交換して2時間培養した。細胞を洗浄したのち、2−プロパノールにて細胞内に生成したホルマザンを溶解し、マイクロプレートリーダーを用いて560nm及び660nmの吸光度を測定し、両者の差をもって、細胞内に生成したホルマザン量として評価した。細胞賦活作用は、抽出物無添加培養細胞(コントロール)の吸光度(ABS)を100とした賦活指数(%)で表した。なお、試験ごとの陽性コントロール(PC)として、5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて培養した細胞を用いた。
賦活指数(%)
={ABS(抽出物添加培養細胞)/ABS(抽出物無添加培養細胞)}×100
比較例1
カカオ殻30gを粉砕し、エタノール300gに浸漬して撹拌しながら7日間抽出を行った。固形分をろ別したのち、エタノールを留去し、カカオ殻のエタノール抽出物2.3gを得た。
カカオ殻の水抽出物の代わりに、カカオ殻のエタノール抽出物を用いた以外は実施例1と同様にして、細胞賦活作用を評価した。
実施例1及び比較例1の結果を、第1表に示す。すべての結果は、平均値±標準偏差で表した。有意差検定にはStudentのt−検定を用い、p値が0.05未満のとき有意であると判定した。
【0011】
【表1】

【0012】
第1表に見られるように、実施例1のカカオ殻の水抽出物は、濃度125.0〜1,000.0μg/mLにおいて細胞賦活作用が認められるが、比較例1のカカオ殻のエタノール抽出物には細胞賦活作用が認められない。
実施例2
実施例1で調製したカカオ殻の水抽出物で正常ヒト線維芽細胞を処理したのち紫外線を照射し、細胞生存率をニュートラルレッド法で測定することにより、紫外線障害緩和作用を評価した。
正常ヒト線維芽細胞を、1ウェルあたり2.0×104個の細胞密度で、96穴マイクロプレートに播種した。5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて24時間培養したのち、所定の濃度のカカオ殻の水抽出物を含有した5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に交換した。さらに24時間培養したのち細胞を洗浄し、所定の濃度のカカオ殻の水抽出物を含有したHank's緩衝液(カルシウム、マグネシウム含有)に交換し、紫外線75mJ/cm2[(株)東芝、FL20SEランプ]を照射した。照射後、緩衝液を所定の濃度のカカオ殻の水抽物を含有した5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に交換し、さらに24時間培養したのち、細胞を30μg/mLのニュートラルレッド及び5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に交換し2時間培養した。細胞を洗浄したのち、細胞に取り込まれたニュートラルレッドをニュートラルレッド用細胞溶解液(30重量%のエタノールを含有する0.1モル/L塩酸)を用いて溶解し、マイクロプレートリーダーを用いて560nm及び660nmの吸光度を測定し、両者の差をもってニュートラルレッド量として評価した。細胞生存率は、紫外線未照射細胞(コントロール)の吸光度(ABS)を100として、細胞生存率(%)で表した。
細胞生存率(%)
=(紫外線照射細胞のABS/紫外線未照射細胞のABS)×100
比較例2
カカオ殻の水抽出物の代わりに、比較例1で調製したカカオ殻のエタノール抽出物を用いた以外は実施例2と同様にして、紫外線障害緩和作用を評価した。
実施例2及び比較例2の結果を、第2表に示す。すべての結果は、平均値±標準偏差で表した。有意差検定にはStudentのt−検定を用い、p値が0.05未満のとき有意であると判定した。
【0013】
【表2】

【0014】
【表3】

【0015】
第2表に見られるように、実施例2のカカオ殻の水抽出物は、濃度62.5〜1,000.0μg/mLにおいて紫外線障害緩和作用が認められるが、比較例2のカカオ殻のエタノール抽出物には紫外線障害緩和作用が認められない。
実施例3
実施例1で調製したカカオ殻の水抽出物について、B16メラノーマ細胞のトータルメラニン産生に対する作用を評価した。
5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて維持したB16マウスメラノーマF0株[B16F0、大日本製薬(株)]を、1ウェルあたり1.8×104個の細胞密度で、6穴プレートに播種した。5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて24時間培養したのち、所定の濃度のカカオ殻の水抽出物を含有する5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に交換した。さらに5日間培養したのち、細胞をトリプシン処理にて剥離し、タンパク量を測定するとともに、細胞ペレットを作製し、目視判定により細胞ペレットの色調を、1白−5黒の5段階スコアで評価した。なお、陽性コントロール(PC)として、50ミリモル/L乳酸ナトリウムと5重量%ウシ血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にて培養した細胞を用いた。
比較例3
カカオ殻の水抽出物の代わりに、比較例1で調製したカカオ殻のエタノール抽出物を用いた以外は実施例3と同様にして、B16メラノーマ細胞のトータルメラニン産生に対する作用を評価した。
実施例3及び比較例3の結果を、第3表に示す。すべての結果は、平均値±標準偏差で表した。有意差検定にはStudentのt−検定を用い、p値が0.05未満のとき有意であると判定した。
【0016】
【表4】

【0017】
第3表に見られるように、実施例3のカカオ殻の水抽出物は、濃度62.5〜125.0μg/mLにおいて、タンパク量がコントロールより少なく、色調スコアがコントロールより低く、B16メラノーマ細胞のトータルメラニン産生抑制作用が認められる。これに対して、比較例3のカカオ殻のエタノール抽出物は、タンパク量がコントロールより多く、色調スコアがコントロールより高く、B16メラノーマ細胞のトータルメラニン産生促進作用が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の細胞賦活剤、紫外線障害緩和剤及びメラニン産生抑制剤は、カカオ殻の水抽出物を有効成分とするので、ココアやチョコレート菓子などの製造に際して大量に発生するカカオ殻を活用することができる。カカオの種子は、天然物であり、食品の原料として衛生的に管理されているので、副生物としてのカカオ殻も、薬剤の原料として安全に使用することができる。カカオ殻の水抽出は、有機溶媒を使用することなく、安全かつ経済的に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とする細胞賦活剤。
【請求項2】
カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とする紫外線障害緩和剤。
【請求項3】
カカオ殻の水抽出物を含有することを特徴とするメラニン産生抑制剤。

【公開番号】特開2006−342120(P2006−342120A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170618(P2005−170618)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(596137036)株式会社  ワイズコネクション (1)
【Fターム(参考)】