説明

細胞賦活剤

【課題】繊維芽細胞に対してその代謝を活性化し又は/及び増殖を促進し、かつ副作用の少ない物質を提供することを目的としている。特に、繊維芽細胞に対して優れた細胞賦活効果を有し、かつ内用剤あるいは外用剤への配合の面で優れたケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物からなる細胞賦活剤を提供する。
【解決手段】 ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物を含有することを特徴とする細胞賦活剤、さらに該細胞賦活剤を含有する内用剤若しくは外用剤又は創傷治癒治療剤若しくは化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の代謝を活性化し又は/及び増殖を促進する剤(以下、本作用を「細胞賦活」ともいい、同作用を有する剤を「細胞賦活剤」ともいう)に関する。並びに、該細胞賦活剤を含む内用剤若しくは外用剤又は創傷治癒促進剤若しくは化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は表面から順に表皮、真皮及び皮下組織の3つの層を形成している。そのうち、真皮の細胞成分は、繊維芽細胞、組織球・マクロファージ、肥満細胞及び形質細胞から構成されている。
【0003】
繊維芽細胞は、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などを産生する細胞であって、コラーゲンを繊維束にし、真皮構造を形成する機能をもつ。
【0004】
また繊維芽細胞は、皮膚組織に損傷が加わると損傷部に遊走し、コラーゲンなどの細胞外マトリックスの産生を始める細胞でもあり、細胞外マトリックスを更新する、細胞及び細胞外マトリックスと相互作用を行う、創の収縮を起こすなど、創傷治癒過程の中で重要な働きを有している。
【0005】
この繊維芽細胞は紫外線、乾燥、ストレスや老化により、細胞の増殖が遅くなること、規則性をもって分裂しなくなることなどが知られている。従って、繊維芽細胞に異常が起きた場合には、シワやシミの発生、皮膚の弾性の低下といった皮膚の老化現象の進行、創傷治癒の速度が遅くなる、などの問題が生じる。
【0006】
そこで、繊維芽細胞の増殖を活性化するために、種々の生理活性物質の探索がなされてきた(特許文献1、特許文献2)。また、安全性等の観点より植物系由来の細胞賦活剤の探索もなされている(特許文献3、特許文献4)。しかし、これまでにケール又はその抽出物が繊維芽細胞の代謝を活性化し又は/及び増殖を促進するといった報告はされていない。
【特許文献1】特開平4−305528号公報
【特許文献2】特開2004−331543号公報
【特許文献3】特開平10−36279号公報
【特許文献4】特開2002−3390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明者は、繊維芽細胞に対してその代謝を活性化し又は/及び増殖を促進し、かつ副作用の少ない物質を検討してきた。本発明では前記物質の素材として、副作用が低いと考えられる植物に注目した。
本発明は細胞賦活効果を有する植物またはその抽出物を提供することを目的としている。特に、繊維芽細胞に対して優れた細胞賦活効果を有し、かつ内用剤あるいは外用剤への配合の面で優れたケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物からなる細胞賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、こうした課題に対して鋭意研究を重ねた結果、ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物に注目し、細胞賦活効果に優れることを認め、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物を含有することを特徴とする細胞賦活剤に関する。
【0010】
好ましくは、本発明は、前記細胞が繊維芽細胞である細胞賦活剤に関する。
【0011】
また、本発明は、前記細胞賦活剤を含む内用剤に関する。
【0012】
さらに、本発明は、前記細胞賦活剤を含む外用剤に関する。
【0013】
好ましくは、本発明は前記細胞賦活剤又は内用剤若しくは外用剤を含む外用剤を含むことを特徴とする創傷治癒促進剤に関する。
【0014】
また、好ましくは、本発明は前記細胞賦活剤又は内用剤若しくは外用剤を含む外用剤を含むことを特徴とする化粧料に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、繊維芽細胞の代謝を活性化し又は/及び増殖を促進させることができる細胞賦活剤を提供することができる。さらに、繊維芽細胞の賦活化を通じて創傷治癒の促進や皮膚の老化防止を図ることのできる内用剤若しくは外用剤又は創傷治癒促進剤若しくは化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明の細胞賦活剤は、ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物を含有することを特徴とする。
【0018】
本発明の原料としてのケールの種類は特に制限されず、キッチンケール、ツリーケール、ブッシュケール、マローケール、シベリアンケール、スコッチケール、コラードおよび緑葉カンラン等の様々な種類のケールを使用することができる。
【0019】
本発明においては、ケールの葉部や茎部のいずれの部位にも適用することができる。
【0020】
また、本発明においては、ケールスプラウトをも適用することができる。ここで、ケールスプラウトとは上述の各種ケールの新芽をいい、具体的には発芽後、本葉展開前に収穫した幼植物体をいう。
【0021】
ケール又ケールスプラウトは、収穫後直ちに、処理することが好ましく、処理までに時間を要する場合、その変質を防ぐために、低温貯蔵などの当業者が通常用いる手段により貯蔵され得る。
【0022】
本発明によれば、ケール又はケールスプラウトは、水などで付着物を洗浄した後、必要に応じて、適当な大きさに細片化される。
【0023】
細片化は、当業者が通常使用するスライス、破砕、細断などの植物体を細片化する方法で行われる。
【0024】
本発明の細胞賦活剤に用い得る抽出物には、抽出処理によって抽出原料から得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のすべてが含まれる。
【0025】
好適な抽出溶媒の例としては水があげられる。
【0026】
抽出溶媒として使用し得る水には、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。
【0027】
抽出に用いる水に施す処理としては、例えば加熱、殺菌、滅菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、抽出溶媒として使用し得る水には、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0028】
抽出処理は、ケールに含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定されず、常法に従って行うことができる。抽出処理の際には、特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温ないし還流加熱下において任意の装置を使用することができる。
【0029】
抽出処理により可溶性成分を溶出させた後、ろ過して抽出残渣を除くことにより、抽出液を得ることができる。
【0030】
得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0031】
抽出液の乾燥物を得るに当たっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。
【0032】
以上のようにして得られるケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物は、細胞賦活作用を有する。
【0033】
ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物が有する細胞賦活作用の作用機序は、現在までのところ判明していないが、この抽出物が細胞賦活作用を有することは後述する実施例から明らかであり、本発明の細胞賦活剤は、ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物が有する細胞賦活作用を利用したものである。
【0034】
ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物は、そのまま細胞賦活剤として利用できるほか、更に内用剤又は外用剤若しくは創傷治癒促進剤又は化粧料へ配合できるが、その配合量としては特に規定するものではない。
【0035】
尚、本発明の細胞賦活剤、内用剤又は外用剤若しくは創傷治癒促進剤又は化粧料は、前記の必須成分に加え必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品類、医薬部外品類、化粧品、飲食品類などの製剤に使用される成分や添加剤を任意に選択・併用して製造することができる。
【0036】
内用剤としては、アンプル状、カプセル状、粉末状、顆粒状、丸剤、錠剤状、固形状、液状、シート状などの種々の形態で、又はそれらを飲食品、医薬品・医薬部外品類等としても提供することができる。
【0037】
外用剤としては、ローション、乳剤、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒等の種々の形態で、又は医薬品・医薬部外品類、皮膚・頭髪用化粧品類、浴用剤等としても提供することができる。
【0038】
創傷治癒促進剤としては、ヒトの皮膚のみならず動物の皮膚においても同様に適用することができるものであり、健康な皮膚に塗布して皮膚の老化防止などに寄与するもののみならず、切り傷の治療、火傷等のひび割れ、あかぎれ、ただれといった創傷等の傷害に対して細胞遊走を促進することで素早く創傷部に細胞を密集させ、さらには、コラーゲン産生、細胞増殖、分化といった細胞賦活作用を高めることができる。
【0039】
化粧料としては、柔軟性化粧水、収れん性化粧水、洗浄用化粧水等の化粧水類、エモリエントクリーム、モイスチュアクリーム、マッサージクリーム、クレンジングクリーム、メイクアップクリーム等のクリーム類、エモリエント乳液、モイスチュア乳液、ナリシング乳液、クレンジング乳液等の乳液類、ゼリー状パック、ピールオフパック、洗い流しパック、粉末パック等のパック類、美容液、洗顔料、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、ファンデーション、ションプー、リンス、トリートメント、及び浴用剤といった種々の製剤形態で提供することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)繊維芽細胞代謝活性促進試験
本発明者らは、ヒト正常繊維芽細胞株(HFSKF−II)をもとにし、Cell Counting Kit−8(株式会社同仁化学研究所)を用いて繊維芽細胞代謝活性促進作用を試験評価した。試験方法は以下の通りである。
【0042】
(1)を、96ウェルプレートに1×10個/ウェルのHFSKF−IIを播種し、37℃、5%二酸化炭素下で24時間前培養した。
【0043】
(2)ケールの細片を培地(15%FBS(ウシ胎児血清)含有Ham’s F12培地)に1mg/ml、10mg/mlの濃度になるように懸濁し、室温で1時間静置した後、遠心分離し、上清を濾過滅菌したものをケール抽出液含有培地とした。陰性対照培地としては、ケールの細片を添加しない培地を用いた。
【0044】
(3)培地を除去した後、(2)に記載の各ケール抽出液含有培地、及び陰性対照培地を添加し、24、48、72時間培養した。
【0045】
(4)細胞の代謝活性の算出には高感度水溶性ホルマザンを生成するテトラゾリウム塩(WST−8)の還元による発色を利用したCell Counting Kit−8を用いた。WST−8は細胞内脱水素酵素により還元され、水溶性のホルマザンを生成する。細胞数と生成するホルマザンの量は直線的な比例関係にあるため、このホルマザンの450nmの吸光度を直接測定することにより、容易に生細胞数を計測することができる。
【0046】
(5)上記(3)と同様に、24、48、72時間培養した細胞をそれぞれ無血清培地(Ham’s F12培地)で1回洗浄し、その後培地で希釈したCell Counting Kit−8溶液を100μl/ウェルで添加し、さらに1時間、37℃、5%二酸化炭素下で培養した。その後、450nmでの吸光度を測定した。
【0047】
(6)代謝活性は、ブランクを差し引いた陰性対照培地の吸光度の値を100%として、相対値で算出した。すなわち、次式に基づいて各試料の相対値(%)を求めた。
【0048】
相対値(%)={(A−B)/(C−B)}×100
A:各試料を添加した、細胞における吸光度
B:培地(Ham’s F12培地)で希釈したCell Counting Kit−8溶液を添加した、細胞が入っていないウェルにおける吸光度
C:陰性対照培地を添加した細胞における吸光度
(結果)結果を図1に示す。
【0049】
図1に示すように、本発明のケール抽出液は濃度依存的にヒト正常繊維芽細胞の代謝活性を促進することが確認できた。
【0050】
(実施例2)創傷治癒促進試験
本発明者らは、実施例1と同様にHFSKF−IIを用いて、創傷治癒促進作用を試験評価した。試験方法は以下の通りである。
【0051】
(1)24ウェルプレートに8×10個/ウェルのHFSKF−II細胞を播種し、ほぼコンフルエントになるまで、37℃、5%二酸化炭素下で24時間前培養した。単層でほぼコンフルエントになった細胞にチップの先端を用いて傷を入れ、これを第0日目とした(図2A)。
【0052】
(2)ケールの細片を培地(15%FBS含有Ham’s F12培地)に1mg/ml、3mg/ml、10mg/mlの濃度になるように懸濁し、室温で1時間静置した後、遠心分離し、上清を濾過滅菌したものをケール抽出液含有培地とした。陰性対照培地としては、ケールの細片を添加しない培地を用いた。
【0053】
(3)前培養に用いた培地を除去し、(2)に記載の各ケール抽出液含有培地、及び陰性対照培地を添加し、さらに24時間培養した後、それぞれを観察した。
【0054】
(結果)結果を図2B〜図2Eに示す。
【0055】
第0日目の空隙に比して(図2A)、陰性対照培地では空隙部分にわずかに繊維芽細胞が確認される程度である(図2E)。一方、各ケール抽出液含有培地においては、濃度依存的に細胞の増殖が認められ(図2B、図2C)、特に10mg/mlのケール抽出液含有培地において、空隙はほぼ増殖した繊維芽細胞によって修復された(図2D)。このことから、ケールには濃度依存的に繊維芽細胞の創傷治癒促進作用があることが確認できた。
【0056】
(実施例3)繊維芽細胞代謝活性促進試験
本発明者らは、実施例1と同様にHFSKF−IIを用いてケール及びケールスプラウトの繊維芽細胞代謝活性促進作用を試験評価した。試験方法は以下の通りである。
【0057】
(1)ケール抽出物及びケールスプラウト抽出物の調製
ケール抽出物及びケールスプラウト抽出物は50gのケールスプラウト及びケールの細片を50%エタノールにて抽出後濃縮し、調整した。
【0058】
(2)96ウェルプレートに1×10個/ウェルのHFSKF−II細胞を播種し、24時間前培養した。
【0059】
(3)上記(1)に記載の方法で抽出したケールスプラウト抽出物及びケール抽出物を1mg/mlの濃度で含有する15%FBS含有Ham’s F12培地、並びに対照として15%FBS含有Ham’s F12培地を添加し72時間培養した。
【0060】
(4)無血清Ham’s F12培地で2回洗浄した後、無血清Ham’s F12培地で希釈したWST−8溶液を100μl/ウェルで添加した。
【0061】
(5)さらに1時間、37℃、5%二酸化炭素下で培養した。その後、450nmでの吸光度を測定した。
【0062】
(6)代謝活性は、ブランクを差し引いた陰性対照培地の吸光度の値を100%として、相対値で算出した。すなわち、次式に基づいて各試料の相対値(%)を求めた。
【0063】
相対値(%)={(A−B)/(C−B)}×100
A:各試料を添加した、細胞における吸光度
B:培地(Ham’s F12培地)で希釈したCell Counting Kit−8溶液を添加した、細胞が入っていないウェルにおける吸光度
C:陰性対照培地を添加した細胞における吸光度
(結果)結果を図3に示す。
【0064】
図3に示すように陰性対照に比べ、ケール抽出物及びケールスプラウト抽出物はともに繊維芽細胞代謝活性促進作用を示した。また、ケールスプラウト抽出物はケール抽出物よりも高い繊維芽細胞代謝活性促進作用を示した。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】ケールがヒト正常繊維芽細胞の代謝活性に与える影響
【図2A】傷をつけた直後の写真(第0日目)
【図2B】培養24時間後の写真(ケール抽出液含有培地;1mg/ml)
【図2C】培養24時間後の写真(ケール抽出液含有培地;3mg/ml)
【図2D】培養24時間後の写真(ケール抽出液含有培地;10mg/ml)
【図2E】培養24時間後の写真(陰性対照培地)
【図3】ケールスプラウト抽出物及びケール抽出物がヒト正常繊維芽細胞の代謝活性に与える影響

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケール若しくはその抽出物又はケールスプラウト若しくはその抽出物を含有することを特徴とする細胞賦活剤。
【請求項2】
該細胞が繊維芽細胞である、請求項1記載の細胞賦活剤。
【請求項3】
請求項1または2の何れかに記載の細胞賦活剤を含む内用剤。
【請求項4】
請求項1または2の何れかに記載の細胞賦活剤を含む外用剤。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の細胞賦活剤又は内用剤若しくは外用剤を含むことを特徴とする創傷治癒促進剤。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れかに記載の細胞賦活剤又は内用剤若しくは外用剤を含むことを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図3】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【公開番号】特開2009−84210(P2009−84210A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256127(P2007−256127)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】