説明

細胞障害性タンパク質コンフォーマーの抑制

多環式化合物、関連するスクリーニング法、および開示された方法を使用してプロトフィブリル形成を防ぐことを含む、アミロイド関連疾患の予防方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環式化合物に関し、また、1つ以上の多環式化合物、好ましくは3〜5個の環を有する置換または非置換ポリアセン化合物を使用する、種々のアミロイドに基づく症状の治療および予防方法に関する。具体的な態様において本発明は、アミリンの可溶性型から不溶性型への移行を防ぐ方法に関する。他の態様において本発明は、アミロイドプレフィブリルまたはプロトフィブリルおよびフィブリルの凝集を阻害する方法、およびアミロイドβ−フィブリルおよびβ−シート形成の移行誘導型毒性を阻害する方法に関する。本発明は、2型糖尿病患者の膵島アミロイドを破壊する方法、およびアミロイド関連疾患の予防または治療で使用される多環式化合物を同定および評価する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で言及されるすべての文書は、すべてが優先出願であるように、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
1854年にRudolph Virchowは、陽性のヨウ素染色反応を示す肉眼で見える組織異常を示すアミロイドという用語を導入し広めた。偏光光学を使用する以後の光学顕微鏡による研究は、アミロイド沈着物の固有の複屈折(コンゴーレッド色素で染色後に強く上昇する性質)を証明した。1959年にアミロイド組織の超薄切片の電子顕微鏡観察は、長さが不確定で幅が必ず80〜100Åのフィブリルの存在を明らかにした。Congophiliaとフィブリル形態の基準を使用して、20個以上の生化学的に異なる型のアミロイドが動物界で同定されている;それぞれは、ユニークな臨床症状に特異的に関連している。幅が80〜100Åのフィブリルもまた、示差的沈降または溶解度を使用して組織ホモジネートから単離されている。X線回折分析は、フィブリルがベータシートプリーツのコンフォメーションで並んでおり、ポリペプチド骨格の方向はフィブリル軸と直角である(クロスベータ構造)ことを明らかにしている。
【0004】
アミロイドーシスは、通常は可溶性のタンパク質が重合して不溶性のアミロイドフィブリルとアミロイド沈着物とを生成する病態群である。現在15を超えるタンパク質が、多様な臨床症状と関連しているアミロイドフィブリルを形成している。アミロイドーシスは通常、全身性アミロイドーシスと局所性アミロイドーシスに分類される。全身性アミロイドーシス(およびちなみに、これらを引き起こすと考えられるタンパク質)には、ALアミロイドーシス(ALアミロイド)、アミロイドAアミロイドーシス(アミロイドAタンパク質)、および家族性トランスチレティン(transthyretin)アミロイドーシス(トランスチレティン)がある。局所性アミロイドーシス(およびちなみに、これらを引き起こすと考えられるタンパク質)には、アルツハイマー病(アミロイドβ−ペプチド)、プリオン疾患(スクレーピープリオンタンパク質)、および2型糖尿病(ヒトアミリン)がある。
【0005】
アミロイドまたはアミロイドタンパク質とは、いくつかの形態的、構造的、および化学的性質を有するアミロイド沈着物を形成する細胞外タンパク質の群を意味する。種々のアミロイド沈着物は、いくつかの色素に対する類似の親和性と偏光下での特徴的な外観を有する。これらはアミノ酸配列が異なるが、アミロイド沈着物中のアミロイドタンパク質は、フィブリルの平行アレイのからみあった束を含有する凝集物からなり、ここでフィブリル中のタンパク質はβ−プリーツシート構造で構築されている。アミロイド沈着物中の多くのアミロイドタンパク質にβ−プリーツシートコンフォメーションが豊富にあるという事実が、コンゴーレッド染色後のアミロイドフィブリルの複屈折の大きな上昇の原因である(Glennerら、J. Histochem. Cytochem 22:1141-1158 (1974);GlennerとPage, Int. Rev. Exp. Pathol. 15:1-92 (1976);Glenner, New Engl. J. Med. 302:1283-1292 (Pt. 1)および133-1343 (Pt. 2) (1980))。
【0006】
アミロイドフィブリルは、そこからこれらが形成されるアミロイドタンパク質とは無関係に、初代培養海馬ニューロン(Yanknerら、Science 250:279-282 (1990))、膵島B細胞(Lorenzoら、Nature 368:756-760 (1994))、およびクローン性細胞株(Behlら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 186:944-952 (1992);O'Brienら、Am. J. Pathol. 147:609-616 (1995))を含む種々のタイプの細胞に対して細胞障害性を有すると考えられている。実際、フィブリル型のアミロイドタンパク質のみが細胞障害性であることが証明されている(Pikeら、Brain Res. 563:311-314 (1991);LorenzoとYankner, Proc. Natl. Acad. Sci. 91:12243-12247 (1994))。フィブリルの細胞障害作用は共通の機構により媒介されると推定されている(LorenzoとYankner、同上 (1994);Schubertら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1989-1993 (1995))。アミロイドペプチドの可溶性モノマーからの不溶性フィブリル沈殿物への自発的変換は、アルツハイマー病に関連する神経変性の基礎かも知れない。膵臓中のフィブリルヒトアミリンのアミロイド沈着物は、2型糖尿病の原因因子かも知れない。
【0007】
糖尿病は、血中グルコースの上昇(高血糖)を特徴とし、インスリンの分泌または作用の不足に関連し、および慢性の血管合併症を伴う疾患であり、最終的に高い罹患率と死亡率を引き起こす(Zimmetら、Nature, 414:782-787 (2001))。糖尿病には1型と2型の2つの主要な型がある。1型糖尿病は、膵臓β−細胞の漸進性破壊(これは、異常な細胞性免疫により引き起こされる)により引き起こされる自己免疫疾患である。この疾患は、生存のためにインスリン療法が絶対的に必要なことと、疾患の急性期の膵島のリンパ球浸潤が特徴である。一方2型糖尿病は、進行性膵島β−細胞不全の存在、細胞障害性膵島アミロイド(可溶性型または不溶性型)の形成、およびインスリン抵抗性を特徴とする疾患である。これらの事象は、血中グルコースの進行性制御不全に至り、これは高グルコース(高血糖)になり、最終的に目、腎臓、神経、および動脈疾患(これは特に、心臓発作、卒中、および壊疽に至るを引き起こす)の糖尿病性疾患を含む合併症に至る。これらの3つの主要な事象について現在認められた分子的基礎はないが、末梢インスリン抵抗性が疾患の進行を開始させる主要な病因である可能性がある。
【0008】
2型糖尿病の早期では、末梢インスリン抵抗性は、膵島β−細胞のインスリン産生の増加と過形成により補償され、症状が弱くなることがある(BellとPolonsky, Nature 414:788-791 (2001))。しかしインスリン産生の上昇はまた、膵島アミロイド形成と、膵島β−細胞の近傍での以後の細胞外沈着傾向を上昇させる(MacArthurら、Diabetologia 42:1219-1227 (1999);Hoppenerら、New Engl. J. Med.、343:411-419 (2000);JaikaranとClark, Biochim. Biophys. Acta 1537:179-203 (2001))。
【0009】
2型糖尿病中の膵島アミロイドの存在は、1世紀以上前に確認された。最初は1869年に、Paul Langerhansが初めて膵臓内分泌腺を記載し、束になった細胞が如何に腺房細胞の海の中に懸濁され独立しているかを記載した。1893年にLangerhansは、これらの不思議な細胞を膵島またはLangerhansの小島と名付けた。1889年にOskar Minkowskiは、膵臓を除いたイヌで膵臓と糖尿病を結びつける発見をした。Bliss, M. 「インスリンの発見」、C.J. Pathol. 19:873-82 (1943)。1901年にジョンズポプキンズ大学でEugene Opieは、糖尿病とランゲルハンス島内のヒアリン変性の病態的関係を示して、失われた環(missing link)を提供した。彼は、現在膵島アミロイドと呼ばれるヒアリン染色物質の存在を記載し、糖尿病との関係を認めた。Opie, E.L.、「糖尿病と膵臓病変の関係:膵島のヒアリン変性」、J. Exp. Med. 5:527-40 (1901)。このヒアリン物質のアミロイド的性質は1943年にAhronheimにより確立され、EhrlickとRatnerにより1961年にアルカリ性コンゴーレッド染色により確認された。Ahronheim, J.H.、「糖尿病における膵島中のヒアリン物質の性質」、Am. J. Pathol. 19:873-82 (1943);Ehrlich J.C., Ratner I.M., 「ランゲルハンス島のアミロイドーシス、糖尿病および非糖尿病者の膵島ヒアリンの再研究」、Am. J. Pathol. 38:49-59 (1961)。
【0010】
1987年にCooperらは初めて、このヒアリン染色物質がアミリンと呼ぶ37アミノ酸のモノマーからなることを発見したと報告した。Cooper G.J.S.、「2型糖尿病患者のアミロイドリッチな膵臓からのペプチドの精製と性状解析」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:8628-32 (1987)。アミロイドと2型糖尿病は、Melvin R HaydenとSuresh C Tyagi、「Aは2型糖尿病のアミリンとアミロイドのAである」、JOP. J. Pancreas (オンライン) 2(4):124-139 (2001)の総説がある。すなわち、膵島アミロイドの主要な成分は37アミノ酸のペプチドホルモンであるアミリンであり、これは通常膵臓内のβ−細胞により分泌される(Cooperら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:8628-8632 (1987);Cooperら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:7763-7766 (1988);Cooperら、Biochim. Biophys. Acta 1014:247-258 (1989);Cooper, Endocr. Rev., 15:163-201 (1994);CooperとTse, Drugs & Aging 9:202-212 (1996))。アミリン分泌は通常インスリン産生と同時制御かつ同時産生され、同様のプロモーターと転写要素の制御下にある。しかし、あまりよく理解されていないがおそらく過剰分泌が原因の機構により、アミリンペプチドは相互作用して、膵島アミロイドと呼ばれる繊維性凝集物を形成する(Cooper, Endocr. Rev., 15:163-201 (1994))。他の特異的アミリン分子(例えばサルやネコ由来のもの)は、アミロイドフィブリルの形成にも至るアミノ酸配列を有する(Cooper, Endocr. Rev. 15:163-201 (1994);Goldsburyら、J. Struct. Biol. 119:17-27 (1997);Goldsburyら、J. Mol. Biol. 285:33-39 (1999))。完全長ヒトアミリン(1〜37)に対するこのペプチドの断片[ヒトアミリン(8〜37)とヒトアミリン(20〜29)]によるインビトロのフィブリル形成の詳細な比較がなされている。円偏光二色性分光分析は、フィブリル形成は、ランダムコイルからβ−シート/α−らせん構造へのコンフォメーション変化を伴うことを明らかにしたと報告されている。フィブリルの形態は電子顕微鏡により視覚化され、異なる幅と数のプロトフィブリルの形成を示した。Goldsburyら「アミリンの完全長と断片からのアミロイドフィブリル形成”、J. Structural Biol. 130(2-3):352-362 (June 2000)。またWalshら「アミロイドベータタンパク質フィブリル形成」、J. Biol. Chem. 274(36):25945-25952 (1999)も参照されたい。
【0011】
膵島アミロイドは、アルツハイマー病、免疫グロブリンリソ軽鎖アミロイドーシス、種々の臓器および全身性アミロイドーシス、およびプリオン脳症のようないくつかの疾患に関係している、より大きなクラスのアミロイド病態に関連している(Tjernbergら、J. Biol. Chem. 274:12619-12625 (1999);Sipe & Cohen, J. Struct. Biol. 130:88-98 (2000);Collinge, Annu Rev Neurosci 24:519-550 (2001);Jaikaran & Clark, Biochim. Biophys. Acta 1537:179-203 (2001);Prusiner, New Engl. J. Med. 344:1516-1526 (2001))。アルツハイマー病は、ニューロン喪失と細胞外老人班の神経原線維濃縮体の関連する発生を特徴とする神経変性症状である(Lanzaら、Nature Biotechnology 14:1107-1111 (1996);Yankner, Nature Medicien 2:850-852 (1996);Slkoe, Natue 399:A23-31 (1999))。アミロイド沈着物は、主にβ−アミロイドペプチドのポリマー型(Aβ)からなる(Glodsburyら、Trends Mol. Med. 7:582 (2001))。プリオン疾患もまた、主に正常細胞宿主プリオンタンパク質の変性型(PrPc)からなる神経変性症状である(Collinge, Annual Rev. Neurosci. 24:519-550 (2001))。これらの種々のアミロイドーシスを構成するタンパク質の間の構造相同性は知られていない(Sipe & Cohen, J. Struct. Biol. 130:88-98 (2000)が、特にアルツハイマー病やプリオン脳症で見られる膵島アミロイドとアミロイド構造の間に基本的な差がある(Tjernbergら、J. Biol. Chem. 274:12619-12625 (1999);Goldsburyら、J. Struct. Biol. 130:217-231 (2000);Baskakovら、J. Biol. Chem. 276:19687-19690 (2001);Collinge, Annual Rev. Neurosci. 24:519-550 (2001);Goldsburyら、Trends Mol. Med. 7:582 (2001);Kallbergら、J. Biol. Chem. 276:12945-12950 (2001;Yangら、Amyloid 8:10-19 (2001));(Goldsburyら、J. Struct. Biol. 130:217-231 (2000);Jaikaran & Clark, Biochim. Biophys. Acta 1537:179-203 (2001))。
【0012】
円偏光二色性分光分析は、膵島アミロイドフィブリル形成には、ランダムコイルからβ−シート/α−らせん構造へのコンフォメーション変化を伴うことを証明した(Goldsburyら、J. Struct. Biol. 130:217-231 (2000))。これに対して、アルツハイマー病とプリオンアミロイドーシスの両方とも、明確なクラスのアミロイド形成タンパク質(ここでアミロイド形成には、α−らせん含量の低下とβ−シート構造の上昇を伴う)を含む(Barrowら、J. Mol. Biol. 225:1075-1093 (1992);Panら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10962-10966 (1993))。特にAβとPrPは、β−鎖を生成するポリペプチドセグメント中にα−らせんを有する(Kallbergら、J. Biol. Chem. 276:12945-12950 (2001))。PrPではこの領域は、ラセン2(179〜191位)にあり、一方アルツハイマーAβ−ペプチドではこの不一致は16〜23位に存在する。残基14〜23が除去されるかまたは非不一致配列に変化すると、Aβフィブリルはもう生成されない(Kallbergら、J. Biol. Chem. 276:12945-12950 (2001))。Aβを残基16〜20に相当するペンタペプチドとインキュベートすると同じ阻害作用が得られる(Tjernbergら、J. Biol. Chem. 271:8545-8548 (1996))。従ってα−らせん/β-鎖不一致ストレッチは、このクラスのアミロイドフィブリル形成に関連し、AβとPrPcの場合には、α−らせん構造からβ-鎖生成への移行を伴う(Kallbergら、J. Biol. Chem. 276:12945-12950 (2001))。これらの知見は、膵島アミロイドと他のアミロイド病態との間に明確な構造/機能相関が存在するという考えを支持している。
【0013】
アルツハイマー病とプリオン脳症に関する従来の研究は、それぞれAβの重合性(Mazziotti & Perlmutter, Biochem. J. 332 (Pt 2):517-524 (1998);Bohrmannら、J. Biol. Chem. 274:15990-15995 (1999);Tjernbergら、J. Biol. Chem. 274:12619-12625 (1999);Tjernbergら、Chem. Biol. 6:53-62 (1999);Goldsburyら、J. Struct. Biol. 130:217-231 (2000);Jensenら、Mol. Med. 6:291-302 (2000);Lannfelt & Nordstedt, J. Neural. Transm. Suppl. 59:155-161 (2000);Nunomuraら、J. Neuropathol. Exp. Neurol. 59:1011-1017 (2000);Chishtiら、J. Biol. Chem. 276:21562-21570 (2001);Yangら、Amyloid 8:10-19 (2001))、および正常な細胞プリオンタンパク質(PrPc)から対応するスクレーピーアイソフォームPrPScへの変換(Hillら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:10248-10253 (2000);Kourie & Shorthouse, Am. J. Physiol. Cell. Physiol. 278:C1063-1087 (2000);Thellungら、Int. J. Dev. Neurosci. 18:481-492 (2000);Baskakovら、J. Biol. Chem. 276:19687-19690 (2001);Jackson & Collinge, Mol. Pathol. 54:393-399 (2001);Jansenら、Biol. Chem. 382:683-691 (2001);Prusiner, New Engl. J. Med. 344:1516-1526 (2001);Ruddら、Biochemistry 40:3759-3766 (2001);Tagliaviniら、Adv. Protein Chem. 57:171-201 (2001))に注目してきた。これらのアミロイドーシスは、疾患の病態に関連しているかまたはその原因であるため、インビボでアミロイド形成を阻止するための方策について多くの研究がなされている。Aβについては、種々のインビトロ測定法で測定した時フィブリル形成を調節するために、いくつかのペプチドおよび非ペプチド化合物が研究されている(Tjernbergら、J. Biol. Chem. 271:8545-8548 (1996);Bohrmannら、J. Biol. Chem. 274:15990-15995 (1999);Chyanら、J. Biol. Chem. 274:21937-21942 (1999);Findeis & Molineaux, Methods Enzymol 209:476-488 (1999);Findeisら、Biochemistry 38:6791-6800 (1999);Bohrmannら、J. Struct. Biol. 130:232-246 (2000);Findeis、Biochim. Biophys. Acta 1502:76-84 (2000);Kunerら、J. Biol. Chem. 275:1673-1678 (2000);Forloniら、FEBS Lett. 487:404-407 (2001);Poeggelerら、Biochemistry 40:14995-15001 (2001))。
【0014】
電子顕微鏡を使用して、チオフラビン-T結合測定法、およびトリプシン疾患、古典的抗生物質(テトラサイクリンとドキシサイクリン)に対する感受性は、Aβ生成を調節し、既存のアミロイドのフィブリル除去をするらしいと報告されている(Forloniら、FEBS Lett. 487:404-407 (2001))。別のタイプのアントラサイクリンである4'ヨード-4'-デオキシドキソルビシン(IDOX)もまた、Aβアミロイド形成、ならびに他のアミロイド形成タンパク質の生成をインビトロとインビボの両方で阻害したと報告されている(Merliniら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:2959-2963 (1995))。研究者らは、IDOXがAβアミロイド形成を低下させ、既存のプラークの溶解度を上昇させ、こうして正常な細胞の機構によるクリアランスを促進したと推定している(Merliniら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:2959-2963 (1995))。Szarekら(米国特許出願20010027186号(2001年5月17日)は、ホスホネート基とカルボン酸塩基を含有する化合物によるAβアミロイドの破壊であると主張している。また、ホスホネート基とカルボキシレート基を含有する化合物、またはその薬剤学的に許容される塩もしくはエステルの投与による、対象のアミロイド沈着を調節する方法に関するといわれる「アミロイドーシスを治療するためのホスホノカルボン酸化合物」については、Szarekら、米国特許第5,869,469号(1999年2月9日発行)も参照されたい。この特許は、好適な実施態様において、アミロイド形成タンパク質と基底膜成分との相互作用が調節されていると主張している。
【0015】
一般的にアミロイド染色剤として使用されるコンゴーレッド(Khuranaら、J. Biol. Chem. 276:22715-22721 (2001))および種々の誘導体もまた、おそらくAβプレアミロイドモノマーの安定化により、細胞培養物中のAβアミロイド神経毒性を抑制すると言われている(LorenzoとYankner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:12243-12247 (1994);Findeis, Biochim. Biophys. Acta 1502:76-84 (2000))。また「アミロイド形成に関連する疾患の抑制」については、CaugheyとRaceの米国特許第5,276,059号(1994年1月4日発行)を参照されたい。この特許は、コンゴーレッドが、プラーク中のアミロイド形成性タンパク質の沈着に関連する症状を有する哺乳動物を同定する方法、および「哺乳動物でアミロイド形成性タンパク質生成を防ぐのに、またはすでに形成されたアミロイド形成性タンパク質構造を不安定化するのに充分な量のその薬剤学的に許容される塩もしくは誘導体の薬理学的有効量を哺乳動物に投与する」方法に使用できると主張する。この特許はさらに、多数のそのようなアミロイド形成性疾患の治療を企図すると記載し、「本発明の好適な型」は、「中枢神経系の組織で起きるプラークに関連する疾患」の治療、抑制であると言われている。別の型においてこの方法は、アミロイドプラーク形成(膵臓のプラークを含む)に関連する内蔵の疾患、および「膵臓中にプラークが存在する成人性2型糖尿病の治療」に対して有効であるとされる。
【0016】
プリオン脳症の他の方策はまた最近報告された(Aguzziら、Nat. Rev. Neurosci. 2:745-749 (2001))。プリオンは、正常な宿主にコードされる糖脂質固定タンパク質であるPrPcの大きなコンフォメーション変化により生じる、折り畳みミスのあるプリオンタンパク質アイソフォームPrPscのみからなる(Collinge, Annual Rev. Neurosci. 24:519-550 (2001))。アクリジンとフェノチアジン誘導体を用いて報告された知見から著者らは、種々の化合物が、クロイツフェルトヤコブ病および他のプリオン疾患の治療のための中間体候補であることを示唆している(Korthら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:9836-9841 (2001))。ある範囲の3環式化合物を試験し、クロルプロマジンとキナクリンもまた、スクレーピー感染マウス細胞培養物の疾患形成性プリオンプラークの逆転に有効であることが報告された(Korthら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:9836-9841 (2001))。著者は、中央の3環式環上の脂肪族側鎖が、プリオンプラーク形成の最大抑制に必要であることに注目した。別の研究においてテトラサイクリンは、(i) ヒトPrPcの残基106〜126および82〜146に対応する合成ペプチドにより生成されるアミロイドフィブリルに結合し、この集合を阻害する;(ii)クロイツフェルトヤコブ病患者の脳組織から抽出されるPrPペプチド凝集物およびPrPScのプロテアーゼ耐性を排除する;(iii)インビトロでPrPペプチドに誘導される神経死滅と星状細胞増殖を防ぐことが報告された。NMR分光分析はまた、テトラサイクリンの芳香族プロトンとPrP106-126のAla(117-119)、Val(121-122)およびLeu(125)の側鎖プロトンとのいくつかの空間相互作用を明らかにしたと報告されている(Tagliaviniら、J. Mol. Biol. 300:1309-1322 (2000))。
【0017】
2型糖尿病の病態における膵島アミロイドの役割が議論されているが、いまだに不明である(Cooper、Endocr. Rev. 15:163-201 (1994);Cooper & Tse, Drugs & Aging 9:202-212 (1996);Cooper、Handbook of Physiology, Section 7:The Endocrine system. Volume II:内分泌膵臓と代謝制御(2001))。しかし、膵島アミロイドの慢性の沈着はβ−細胞喪失を促進し、後期の2型糖尿病のβ−細胞機能不全に寄与する大きな要因であることが記載されている。これは、最近出てきているいくつかの証拠により支持される。まず、ヒトアミリンは、2型糖尿病のほとんどの患者で膵島アミロイドを形成する(Hoppenerら、New Engl. J. Med. 343:411-419 (2000);Jaikaran & Clark, Biochim. Biophys. Acta 1537:179-203 (2001))。第2に、ヒトアミリン(非フィブリル形成性変異体ではない)は、培養物中の膵島β−細胞の死を引き起こす(LorenzoとYankner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:12243-12247 (1994);Baiら、Biochem. J. 343 Pt 1:53-61 (1999))。第3に、トランスジェニックマウスの膵臓中のヒトアミリンの部位特異的発現は、β−細胞阻止を介して糖尿病様症状を再現する(Verchereら、hormone & Metabolic Research 29:311-316 (1997);Soellerら、Diabetes, 47:743-750 (1998);Hoppenerら、Diabetologia 42:427-434 (1999))。
【0018】
他の研究者らは、上記および本明細書に記載のものとは異なる、アミロイド関連疾患の治療アプローチを試みている。「β−アミロイド凝集を調節するαβペプチド」についての米国特許第5,854,204号(Findeisら)は、天然のアミロイド形成性タンパク質またはペプチドに接触した時、天然のアミロイドタンパク質もしくはペプチドの凝集を化合物が調節するように、少なくとも1つの修飾基に直接または間接に結合したアミロイド形成性タンパク質またはその断片の使用を提唱している。この特許は、アミロイド形成性タンパク質またはその断片が、トランスチレティン(TTR)、プリオンタンパク質(PrP)、膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)、心房性ナトリウム利尿因子(ANF)、カッパ軽鎖、ラムダ軽鎖、アミロイドA、プロカルシトニン、シスタチンC、β2マイクログロブリン、ApoA-I、ゲルソリン、カルシトニン、フィブリノゲンまたはリゾチームでもよいことを記載している。
【0019】
「多環式フェノール性化合物の神経保護作用」についてのSimpkinsらの米国特許第5,859,001号(1999年1月12日発行)は、細胞に神経保護を付与するためのおよび神経変性疾患の治療のための、4環式シクロペンタノフェナトレン化合物構造中に末端フェノール基を有する非エストロゲン化合物の使用に関するとされる。また「多環式フェノール性化合物の神経保護作用」についてのSimpkinsらの米国特許第6,197,833号(2001年3月6日発行)も参照されたい。
【0020】
「アミロイドーシスを調整するための方法と組成物」についてのReinerらの米国特許第6,221,667号(2001年4月24日)は、アミロイド沈着が存在する疾患においてアミロイドーシスを抑制するのに使用される、アミロイドーシス前駆体タンパク質の異化作用およびアミロイド沈着を調節する物質の投与による、アミロイドーシスおよびこれに関連する症状や疾患(例えばアルツハイマー病)の治療に有用であるとされている方法と組成物に関する。この方法は、移動性イオノフォア(例えば、カルボニルシアニドp-(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン)の使用による、アミロイドーシス前駆体タンパク質含有細胞中のアミロイドーシス前駆体タンパク質の異化作用を調節することに基づく。
【0021】
「D-アミノ酸を含むβ−アミロイドペプチド凝集の調節物質」についてのFindeisらの米国特許第6,277,826号(2001年8月21日発行)は、天然のβアミロイドペプチド凝集を調節するD-アミノ酸から完全になるペプチドに関する。このペプチドは、好ましくはβアミロイドペプチド上に存在し、および好ましくは3〜5のD-アミノ酸残基を含有し、D-ロイシン、D-フェニルアラニン、およびD-バリンから独立に選択される少なくとも2つのD-アミノ酸残基を含む。特に好適な実施態様においてこの特許は、ペプチドがβアミロイドペプチドのretro-inverswo異性体であり、ある実施態様においてこのペプチドはアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で修飾されていると説明している。好適なアミノ末端修飾基には、環状、複素環式、多環式および分岐アルキル基があり、好適なカルボキシ末端修飾基には、アミド基、アルキルアミド基、アリールアミド基またはヒドロキシ基があるとされる。「D-アミノ酸を含むβアミロイドペプチド凝集の調節物質」についてのFindeisらの米国特許第6,303,567号(2001年10月16日発行)も参照されたい。
【0022】
現在、膵島アミロイド形成を防ぐかまたは存在する膵島アミロイドを破壊する化合物は実証されていない。コンゴーレッドは、インビトロで膵臓細胞中のヒトアミリン毒性を阻害するが、アミリンフィブリル形成は阻害しないと報告されている(LorenzoとYankner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:12243-12247 (1994))。これに対してコンゴーレッドは、フィブリル形成を阻害することによりまたはあらかじめ形成されたAβフィブリルに結合することにより、Aβアミロイド神経毒性を阻害すると報告されている。同上。
【0023】
アミロイドタンパク質産生を阻止するため、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行による毒性を阻止するため、およびプロトフィブリルの形成を阻止するための追加の方法に対するニーズがある。また、ニューロンのアミロイドβ−ペプチド毒性を阻止するため、アミロイドベータペプチドの産生を阻害するため、および疾患を引き起こす種々の他の細胞障害性アミロイドタンパク質の産生を阻止するためのニーズがある。
【発明の開示】
【0024】
本発明は、1つ以上の規定のクラスの多環式化合物を使用して細胞のアミロイドタンパク質の毒性を阻止する方法を提供する。また細胞中のアミロイドタンパク質産生を低下させる方法が提供される。本発明の化合物と方法は、すべてアミロイドタンパク質沈着の結果であるアミロイドーシスとして知られている多様なクラスの症状を予防および治療するのに使用することができる。
【0025】
本発明の別の態様において、通常可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行およびプロトフィブリルの形成による毒性を阻止することができる化合物の同定方法が提供される。
【0026】
また、種々のアミロイドーシスペプチドの活性で細胞障害性のコンフォーマーを同定し、その生成を防ぐ方法が提供される。また、アミリンの可溶性型から不溶性型への移行を破壊し、アミロイドプレフィブリルおよびフィブリルの凝集を抑制し、アミロイドβ−フィブリルとβ−シート形成の移行誘導性毒性を阻害するのに有用な化合物を含む、本発明の方法に有用な化合物のスクリーニング法が提供される。
【0027】
本発明はさらに、2型糖尿病の治療とそこで使用される薬剤とに関する。すなわちある態様において本発明は、本発明の適当な多環式化合物の投与により、膵島β−細胞内または細胞外の膵島アミロイドの破壊を含む、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、またはニーズがある他の適当な個体における、2型糖尿病を治療する方法からなる。さらなる態様において本発明は、本発明の適当な多環式化合物の投与により、膵島β−細胞内または細胞外のアミリンプロトフィブリル形成の破壊を含む、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、またはニーズがある他の適当な個体中の、2型糖尿病を治療する方法からなる。さらに別の態様において本発明は、死亡に対する患者の膵島β−細胞の保護により、ヒト膵島アミロイドの破壊により、またはβ−細胞内または細胞外のアミリンプロトフィブリル形成の破壊により、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、またはニーズがある他の適当な個体を治療する方法からなる。さらに別の態様において本発明は、本明細書に記載され特許請求された多環式化合物による治療後の、膵島β−細胞機能の悪化の改善または低下を引き起こす、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、または特に限定されないが2型糖尿病を有するかまたはそのリスクのある対象を含む、ニーズがある他の適当な個体を治療する方法からなる。さらに別の態様において本発明は、β−細胞内または細胞外の膵島アミロイドの破壊を含み、膵島アミロイドのクリアランスを助けることを含む、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、または特に限定されないが、2型糖尿病を有するかまたはそのリスクのある対象を含む、ニーズがある他の適当な個体を治療する方法からなる。さらに別の態様において本発明は、ヒト膵島アミロイドの破壊を含み、膵島アミロイドの免疫応答とクリアランスを助けることを含む、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、または特に限定されないが、2型糖尿病を有するかまたはそのリスクのある対象を含む、ニーズがある他の適当な個体を治療する方法からなる。さらに別の態様において本発明は、膵島アミロイドまたは膵島アミロイド前駆体または膵島アミロイドプロトフィブリルのインビボクリアランスを促進する、補助的治療法(例えば免疫療法)と組合せて本発明の多環式化合物を用いて対象を同時治療することを含む、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、または特に限定されないが、2型糖尿病を有するかまたはそのリスクのある対象を含む、ニーズがある他の適当な個体を治療する方法からなる。さらに別の態様において本発明は、膵島アミロイドまたは膵島アミロイド前駆体または膵島アミロイドプロトフィブリルのインビボクリアランス機構を刺激する、補助的治療法(例えば免疫療法)と組合せて本発明の多環式化合物を用いて同時治療後の、膵島β−細胞機能の悪化の改善または低下を引き起こす2型糖尿病を有するかまたはそのリスクのある対象を含む、ニーズがある他の適当な個体を治療する方法からなる。さらに別の態様において本発明は、一緒になってあらかじめ形成されたヒト膵島アミロイドの破壊を引き起こし、および/または該β−細胞内のアミリンからの膵島アミロイドの形成を阻害する、本発明の多環式化合物と補助的治療法(例えば免疫療法)により、該患者を同時治療することを含む、ある対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、または特に限定されないが、2型糖尿病を有するかまたはそのリスクのある対象を含む、ニーズがある他の適当な個体を治療する方法からなる。
【0028】
さらに別の態様において本発明は、チオフラビン-T増強蛍光、放射活性アミロイド沈降測定法、電子顕微鏡、および培養膵島β−細胞中の膵島アミロイド細胞障害性の測定、および円偏光二色性を使用する、多環式化合物によるインビトロの膵島アミロイド破壊の測定のための方法からなる。さらに別の態様において本発明は、プロトフィブリル形成の妨害および/または存在するプロトフィブリル沈着物の減少を含む、アミロイド関連疾患の予防方法に関する。
【0029】
さらに別の態様において本発明は、チオフラビン-T増強蛍光、放射活性アミロイド沈降測定法、電子顕微鏡、および培養膵島β−細胞中の膵島アミロイド細胞障害性の測定、および円偏光二色性を使用して、インビトロの膵島アミロイド破壊のための薬物候補として多環式化合物をスクリーニングする方法からなる。
【0030】
さらに別の態様において本発明は、多環式化合物およびその適当な薬剤学的担体を含む医薬組成物であり、以下の1つ以上:(i)あらかじめ形成されたヒト膵島アミロイドの破壊;(ii)アミリンからの以後の膵島アミロイド形成の阻害;(iii)膵島β−細胞機能の改善;および/または(iv)膵島β細胞機能の悪化の減少、により、対象、好ましくはヒトまたは他の哺乳動物対象、または特に限定されないが2型糖尿病に罹っているかまたは2型糖尿病を発症するリスクのある対象を含むニーズのある他の適当な個体を治療するのに有用である医薬組成物の製造における、本発明の多環式化合物の使用からなる。
【0031】
本発明は、2型糖尿病を有するすべての哺乳動物種、または2型糖尿病もしくは膵島アミロイドもしくは膵島β細胞機能不全を発症するリスクのあるものの、前述のおよび/または本明細書に記載の治療法を含むが、特に限定されない。
【0032】
本出願人の発明は、本明細書に記載の1つ以上の障害、疾患、症状の治療、および/または目的のための、開示され、特定され、および/または特許請求された1つ以上の化合物を使用する、医薬の調製および/または製造法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本出願人らは、いくつかの多環式化合物が、膵島アミロイド形成を破壊するのに、かつ2型糖尿病の治療に使用できることを発見した。この方法は、受容体介在機構に媒介されるアミリン作用の阻止には依存しない。その代わりに、膵島アミロイドの細胞障害性成分についての特定の機構には拘束されないが、この方法は、膵島アミロイド形成の破壊を標的とする。臨床の場では内因性クリアランス機構と組合せたインビボの膵島アミロイドの調節は、β−細胞機能を改善するかまたはさらなるβ−細胞機能不全の低下および喪失を防ぐ可能性がある。
【0034】
本出願は、細胞障害作用が、可溶性から不溶性アミリンへの移行と、実際のフィブリル形成に無関係に共通のβ−プリーツシートに至るβ-鎖の形成とに起因することを開示する。さらにこの移行の破壊は、細胞死からβ−膵島細胞を保護することができる。
【0035】
膵島アミロイドは、モノマー性ヒトアミリンの凝集により形成される不溶性膵島アミロイドとしてまたは可溶性アミロイド前駆体として、または膵島β−細胞に細胞障害性のヒトアミリンの任意の型としてのヒトアミリンを含むとして定義される。本文に関して、ヒトアミリンフィブリルはまた、膵島アミロイドの成分として本明細書で定義される。
【0036】
多環式化合物による膵島アミロイドの破壊は、本明細書において不溶性ヒト膵島アミロイドの可溶性前駆体への完全なもしくは部分的変換として、および/またはヒトアミリンから膵島アミロイドの形成の速度の低下、もしくはその妨害として定義される。この定義には、多環式化合物と、膵島β−細胞に対する膵島アミロイドの細胞障害性への変化を引き起こす膵島アミロイドとの相互作用が含まれる。本出願は、(i)ヒト膵島アミロイド形成速度の低下させるかもしくは形成を阻害する、(ii)ヒト膵島アミロイドの存在する型を破壊するために、非ペプチド分子を有効に使用できる可能性を認識する。我々は、非ペプチド多環式化合物を使用する方法が、唯一の治療法としてまたは他の治療法と組合せて、(i)と(ii)の両方を達成することができると考えている。
【0037】
本発明は、多環式化合物が一般的な疾患の単回投与処方による応用ができると認識している(Drisko, J. Clin. Periodontol. 25:947-952 (1998);Klein & Cunha, Med. Clin. North Am. 85:125-132 (2001))。特に適したものは、これらの化合物を、2型糖尿病のリスクがあるかまたはすでに罹っている患者で慢性応用できるようにする便利な経路、例えば経口もしくは非経口でヒトに投与される組成物である。
【0038】
本明細書において「多環式化合物」はまた、適切な多環式化合物の組合せを含む。膵島アミロイドを破壊する多環式化合物には、キナクリン(抗マラリア化合物)、クロルプロマジン(抗精神病化合物)、およびテトラサイクリン(抗生物質)のような化合物がある。テトラサイクリン、キナクリン、クロルプロマジンおよびコンゴーレッドのコア構造を有する他の構造体(例えば、アクリジン、フェノチアジン、アントラサイクリン、および縮合リガンドとビフェニル構造の組合せ)もまた、本発明の多環式化合物である。
【0039】
本発明において、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行、および細胞中のプロトフィブリルの形成により生じる、通常アミロイドに関連する毒性を阻止する方法であって、本明細書に記載の多環式化合物の群からから選択される少なくとも1つの多環式化合物の有効量を、該細胞に接触させることを含む方法が提供される。特に多環式化合物の群には、アントラセン、フェナレン、フェナトレン、キナクリン、アクリジン、アクリジンオレンジ、ニュートラルレッド、クロルプロマジン、メチレンブルー、フェノチアジン、ピレン、クリセン、ベンズ[a]アントラセン、ベンズ[m]アントラセン、ベンズ[c]フェナントレン、およびテトラセンがある。これらの分子は、複数の環構造の共通構造を共有する。同様の複数の環構造を有する分子もまた使用される。
【0040】
本発明の方法は、上記化合物の薬剤学的に許容される塩を使用して行うことができる。そのような塩は一般的に、化合物に適当な有機もしくは無機酸もしくは塩基を反応させて調製される。代表的な有機塩には、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、バレリン酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、リン酸塩、トルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)、クエン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ウンデカン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩などがある。代表的な無機塩は、硫酸塩、重硫酸塩、ヘミ硫酸塩、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などの無機酸から生成することができる。塩基塩の例には、アンモニウム塩;アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩など;アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩など;有機塩基との塩、例えばジシクロヘキシルアミン、N-メチル-D-グルカミン、フェニルエチルアミンなど;およびアルギニン、リジンなどのアミノ酸との塩がある。そのような塩は、当該分野で公知の方法を使用して容易に調製することができる。
【0041】
本明細書において「通常アミロイドに関連する毒性を阻止する」という用語は、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行およびプロトフィブリルの形成により引き起こされる、細胞や組織への有害かつ致死的作用を防ぐかまたは阻害することを意味する。
【0042】
本明細書において「β−コンフォーマー」という用語は、ある程度のβ−シート構造を有する非モノマー性アミリンを意味する。
【0043】
本明細書において「プロトフィブリル」という用語は、個々のプロトフィブリル、およびヒトアミリンもしくはある量のβ−コンフォーマーを示しモノマーではない他の哺乳動物アミリン変異体のオリゴマー型を含む高次プロトフィブリル構造体を意味する。
【0044】
1つの機構には拘束されるつもりは無いが、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行およびプロトフィブリルの形成を防ぐことができる組成物は、通常アミロイドに関連する毒性を阻止することができると認識される。これらの化合物には、本明細書に記載のような多環式化合物がある。
【0045】
さらに、アミロイドペプチドの産生を防ぐかまたは阻害する組成物およびアミロイドフィブリルの形成を防ぐかまたは阻害する化合物は、通常アミロイドに関連する毒性を阻止することができる。
【0046】
過剰レベルではアミロイドタンパク質は細胞に対する細胞障害作用を有し、細胞死を引き起こすと従来から考えられている。本出願人らは、コンフォメーション変化(例えば、可溶性アミリンから不溶性アミリン、β−コンフォーマー、および/またはプロトフィブリル形成)が、治療の好適な標的であることを発見した。
【0047】
さらに以前は、アミロイドタンパク質が凝集してアミロイドフィブリルになることがその細胞障害作用に必要であると考えられていたが、アミロイド毒性の基礎となる生化学的機構は充分理解されていなかった。本出願人らは、細胞障害性を示すのに凝集が必要ではないが、アミロイドタンパク質の凝集を阻害することは、細胞障害性を低下させる1つの手段であることを証明する。
【0048】
本明細書において「アミロイド毒性」とは、特に該コンフォメーション移行またはプレフィブリル形成が有害な作用を引き起こすような、細胞に対するアミロイドタンパク質の有害作用を意味する。
【0049】
本明細書において「接触させる」という用語は、細胞または細胞標的に化合物を提供することを意味する。接触させることは、固相、液相または気相で起き、細胞外および細胞内で起きる事象を意味する。インビボで細胞に化合物を提供することは、多くの投与モード(経口、舌下、静脈内、皮下、経皮、筋肉内、皮内、くも膜下、硬膜外、眼内、頭蓋内、吸入、直腸内、膣内などを含む)により達成されることを、当業者は理解するであろう。
【0050】
本明細書において「有効量」とは、多環式化合物を使用する本発明の方法に関して使用される時、所望の結果を得るのに充分に高い濃度を提供するのに充分な化合物の用量を意味する。ある化合物の具体的な有効量は、細胞の種類、投与のタイミング、疾患の重症度、使用される具体的な化合物の活性、投与経路、具体的な化合物のクリアランス速度、細胞の化合物への暴露時間、具体的な化合物とともに組合せてまたは偶然使用される薬物などを含む種々の要因に依存する。
【0051】
本発明のある実施態様において、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行およびプロトフィブリルの形成を防ぐことにより、アミロイド毒性を阻止する方法が提供され、ここでアミロイド毒性はアミロイドベータペプチド毒性である。本明細書において「アミロイドベータペプチド」(Aβ)とは、約40〜43アミノ酸残基のタンパク質を意味する。アミロイドベータペプチドは主に、40アミノ酸型、すなわちアミロイドベータ1〜40であるが、アミロイドベータ1〜42およびアミロイドベータ1〜43もまたアミロイドフィブリルおよび沈着物に関連している。タンパク質は、アミロイドベータ前駆体タンパク質(AβPP)として知られているはるかに大きな前駆体からタンパク質分解切断により得られる。AβPP(アミロイド前駆体様タンパク質のファミリーのメンバー)は、695、751および770アミノ酸残基の3つの主要なアイソフォームで存在し、その各々がアミロイドベータペプチドのアミノ酸配列を含有する。AβPPは粗面小胞体中で合成され、重要な膜タンパク質として細胞表面に送られる。AβPPは樹状突起、ニューロンの細胞体と軸索中に存在するが、その正常な神経機能は理解されていない。原形質膜中のAβPPの一部は、細胞内にインターナライズされ、ここで酵素的に処理されてアミロイドベータペプチドとなる。
【0052】
AβPPは、いくつかのセクレターゼ(secretase)によりタンパク質分解を受けて、種々の型のアミロイドベータペプチドを生じる。1つの型のセクレターゼ(ガンマセクレターゼ)は、AβPPを前駆体のカルボキシ末端で切断して、各前駆体分子からアミロイドベータペプチドの単一のコピーを生成する。別のタイプのセクレターゼ(アルファセクレターゼ)はアミロイドベータ配列内で前駆体を切断し、従ってこのセクレターゼによる切断はアミロイドベータペプチドを生じない。
【0053】
アミロイドベータペプチドは、アルツハイマー病患者の中枢神経系中に存在する老人班の主要成分である。アミロイドベータペプチドの細胞外沈着物、異栄養性軸索、および星状細胞と小グリア細胞の突起を含む老人班(または神経炎プラーク)は、好中球全体および脳血管壁に分布している。
【0054】
本発明の別の実施態様において、アミロイド毒性がプリオンタンパク質毒性であるアミロイド毒性を阻止する方法が提供される。本明細書において「プリオンタンパク質」は、第20染色体の短腕上に位置し、254残基をコードする単一のエキソンからなるオープンリーディングフレームを有するヒトプリオン遺伝子の生成物(PRNPと呼ぶ)を意味する。正常プリオン遺伝子産物であるプリオンタンパク質(PrP)は、糖脂質アンカーにより原形質膜に結合した構成的に発現される細胞表面糖タンパク質である。最も高レベルのPrPメッセンジャーRNAは、中枢神経系のニューロン中に存在するが、タンパク質の機能は不明である。正常な細胞性プリオンタンパク質および感染性プリオンタンパク質はアミノ酸配列は異ならないが、アミロイドタンパク質と同様に、正常および感染性タンパク質は、異なる3次元構造を有する。正常なプリオンタンパク質は、4つの推定ドメインを有するα−らせんが豊富であり、ベータプリーツシート構造はほとんど無い。これに対して感染性タンパク質は、ベータプリーツシート構造が増加している。正常および感染性タンパク質はまた、異なるグリコシル化パターンを有する(Pathology, 3. sup.rd ed. (1999) RubinとFarber編、Lippincott-Raven、pp. 1492-1496を参照されたい)。
【0055】
本発明の別の実施態様において、アミロイド毒性がアミリン毒性である、アミロイド毒性を阻止する方法が提供される。本明細書において「アミリン」とは、ランゲルハンス島中のβ−細胞によりインスリンとともに分泌されるポリペプチドを意味する。アミリンは、37残基のC末端アミド化ペプチドであり、残基2と残基7のシステインの間でジスルフィド結合を有し、配列内の種々のセグメントは、β−シート含有アミロイドフィブリルを形成するのに充分である(例えば、NilssonとRaleigh, J. Mol. Biol. 294:1375-85;Rhoadesら、Biochim. Biophys. Acta 1476:230-8 (2000);およびTenidisら、J. Mol. Biol. 295:1055-1071 (2000))。膵臓アミロイドは、2型糖尿病患者の95%以上に存在し、アミリンの凝集により形成される。
【0056】
本発明のさらに別の実施態様において、アミロイド毒性がアミロイドAタンパク質毒性である、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行およびプロトフィブリルの形成により生じるアミロイド毒性を阻止する方法が提供される。本明細書において「アミロイドAタンパク質」とは、主に肝臓で合成され、血清アミロイドA(SAA)と呼ばれる大きな前駆体から得られる約76アミノ酸のポリペプチドを意味する。SAA合成の刺激後SAAは変性され、こうしてapoSAAと呼ぶサブユニットが循環中に放出され、これは細網内皮細胞によりイナターナライズされる。細網内皮細胞から、グリコサミノグリカン、血清アミロイドP、ラミニン、コラーゲンIVおよびアポEを含有するフィブリル形成性環境中に放出されると、アミロイドフィブリルが生成し、アミロイド沈着物が形成される(Pathology, 3. sup.rd ed. 前出、pp. 1228-1229を参照されたい)。
【0057】
本発明のさらに別の実施態様において、アミロイド毒性がトランスチレティン毒性である、アミロイド毒性を阻止する方法が提供される。本明細書において「トランスチレティン」(TTR)は、肝臓から血漿中に分泌されるタンパク質の変異型を意味し、その正常な機能は甲状腺ホルモンの担体としてかつレチノール結合タンパク質として機能することである。タンパク質の少なくとも60の変異型が記載されており、それぞれが家族性アミロイド性多発性神経障害(FAP)の臨床変異体を与える。FAPの最も一般的な変異体はトランスチレティンによるものであり、ここでは30位でバリンの代わりにメチオニンのアミノ酸置換がある。配列の修飾は、テトラマーTTRの安定性を低下させ、変化したコンフォメーションを有するモノマー性中間体の生成を可能にする(Pathology, 3. sup.rd ed. 前出、pp. 1228を参照されたい)。
【0058】
本発明のさらに別の実施態様において、アミロイド毒性がALアミロイド毒性である、アミロイド毒性を阻止する方法が提供される。本明細書において「ALアミロイド」は、免疫グロブリン軽鎖の可変領域からなるタンパク質を意味し、カッパまたはラムダ残基から得られる。免疫グロブリンの過剰産生により、これが循環系に分泌され、これは、グリコサミノグリカン、血清アミロイドP、ラミニン、コラーゲンIVおよびアポEの存在によりフィブリル形成性環境を提供する。これが形成するアミロイドフィブリルは次に、種々の種類の細胞(マクロファージ、クプファー細胞、および内皮細胞)でタンパク質分解的に処理され、アミロイド沈着物が形成される(Pathology, 3. sup.rd ed. 前出、pp. 1226-1227を参照されたい)。
【0059】
本発明のさらに別の実施態様において、細胞中のアミロイドタンパク質産生を低下させる方法であって、少なくとも本明細書に記載の化合物、またはそのエナンチオマー、ジアステレオ異性体、もしくはこれらの任意の2つ以上の混合物、またはその薬剤学的に許容される塩の有効量を、細胞に接触させることを含む方法が提供される。
【0060】
アミロイドタンパク質産生を低下させることは、過剰レベルのアミロイドタンパク質の細胞に対する細胞障害作用を阻止または防ぎ、かつアミロイドプラーク(例えばアミロイド関連疾患に関連するもの)の形成を阻止または防ぐ。アミロイド前駆体タンパク質の産生を低下させるかまたは防止する、アミロイドタンパク質を生成するタンパク質分解的切断を低下させるかまたは防止する、アミロイドタンパク質の翻訳後修飾を低下させるかまたは防止する、膜安定化を上昇させてアミロイド前駆体タンパク質のインターナリゼーションを低下させるかまたは防止するなどを含む、アミロイドタンパク質産生を低下させるための種々の手段が包含される。
【0061】
本発明の好適な実施態様においてアミロイドタンパク質産生は、アミロイドベータペプチド、アミロイドプリオンタンパク質、膵島アミロイドタンパク質(アミリン)、アミロイドAタンパク質、トランスチレティンまたはALアミロイドを低下させることにより、阻止または防止される。
【0062】
本発明のさらに別の実施態様において、本明細書に記載のまたは同定された少なくとも1つの化合物の有効量を神経細胞に接触させることを含む、神経細胞死を抑制する方法が提供される。
【0063】
本明細書において「神経細胞死」とは、神経細胞数の低下または神経細胞機能の喪失を意味する。神経細胞死は、アポトーシス経路(すなわちプログラムされた細胞死)の活性化もしくは加速により、または内因性細胞死プログラムの活性化を伴わない壊死性細胞死により起きる。壊死性細胞死は、急性外傷から生じ、一般的に細胞膜の迅速な溶解を伴う。神経細胞死を抑制することは、両方のタイプの神経細胞死に関連する、神経細胞の喪失または神経細胞機能の喪失を低下させることができる。
【0064】
本発明のさらに別の実施態様において、本明細書に記載のまたは同定された化合物の治療的有効量を対象に投与することを含む、治療の必要な対象の症状を治療するための方法が提供される。
【0065】
本明細書において「治療する」とは、疾患、障害または症状の進展を抑制または停止、および/または疾患、障害または症状の低下、軽減、もしくは退行を引き起こすことを意味する。疾患、障害または症状の進展を評価するのに種々の方法および測定法が使用されること、および同様に疾患、障害または症状の低下、軽減、もしくは退行を評価するのに種々の方法および測定法が使用されることを、当業者は理解するであろう。
【0066】
基本的に、アミロイドの形成および/または沈着に病因的に関連する任意の疾患が、本発明の治療について企図される。本明細書において「症状」とは、アルツハイマー病、全身性老人性アミロイドーシス、プリオン疾患、スクレーピー、ウシ海綿状脳症、クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン−ストラウスラー−シェインカー症候群、2型糖尿病(または、膵島アミロイドを特徴とする、またはこの進展もしくは量の上昇のリスクのある任意の糖尿病性もしくは他の症状、インスリノーマを含む)、アミロイドAアミロイドーシス、ALアミロイドーシス、家族性アミロイド性多発性神経障害(ポルトガル型、日本型およびスエーデン型)、遺伝性トランスチレティンアミロイドーシス、家族制地中海熱、蓴麻疹および聴力障害を伴う家族性アミロイドネフロパチー、家族性地中海熱、家族性アミロイドネフロパシー(マックル‐ウェルズ症候群)、遺伝性非神経性全身性アミロイドーシス(家族性アミロイド性多発性神経障害III)、フィランド型の家族性アミロイドーシス、家族性アミロイド心筋症(デンマーク型)、単離型心臓アミロイド、単離型心房性アミロイドーシス、特発性(原発性)アミロイドーシス、骨髄腫もしくはマクログロブリン血症関連アミロイドーシス、シェーグレン症候群に関連した原発性局所皮下結節アミロイドーシス、反応性(続発性)アミロイドーシス、アイスランド型アミロイドーシスを有する遺伝性脳出血、長期血液透析に関連するアミロイドーシス、フィブリノゲン関連遺伝性腎アミロイドーシス、甲状腺の髄様癌に関連するアミロイドーシス、リゾチーム関連遺伝性全身性アミロイドなどの障害を意味する。
【0067】
アミロイド沈着物は、アルツハイマー病、脳皮質、皮質下領域、および海馬中の神経細胞の萎縮、およびプラーク、異栄養性神経突起、神経原線維濃縮体の存在とを特徴とする神経変性疾患を有すると診断された対象中に存在する。アルツハイマー病では、異栄養性または異常神経突起増殖、シナプスの喪失、および神経原線維濃縮体形成が、疾患重症度との強い相関因子である。異栄養性ニューロンは、神経突起の細胞質中の豊富な電子密度の高い多層体を含有し、シナプス結合の破壊を有することが特徴である。異栄養性ニューロンは、アミロイドの沈着物を取り囲み、こうして脳神経網ならびに脳血管壁中に存在する老人班を形成する。アルツハイマー病を治療するための本発明の方法は、神経細胞の萎縮を低下もしくは阻止し、老人班または神経原線維濃縮体などの形成を低下もしくは阻止し、その結果疾患の進展を遅延させるかまたは停止させる。
【0068】
アミロイド沈着物はまた、2型糖尿病を診断された患者のランゲルハンス島中に見いだされる。この沈着物は、正常な動物ではホルモン的役割を有するアミリンと呼ぶより大きな前駆体から得られるアミロイドタンパク質を含有する。アミリンは膵島のベータ細胞により産生され、肝臓と横紋筋細胞によるグルコース取り込みに対して大きな作用を有する。ヒトアミリンに対するトランス遺伝子を有し高脂肪食を与えられたトランスジェニックマウスでは、アミリンの過剰産生により、膵島アミロイド沈着が起きる(Pathology, 3. sup.rd ed. (1999) 前出、pp. 1226を参照されたい)。2型糖尿病を有する患者のランゲルハンス島中のアミロイド沈着を治療するための本発明の方法は、アミロイドタンパク質の形成を低下または防止し、アミロイド沈着物へのアミロイドタンパク質の沈着などを低下または防止する。
【0069】
アミロイド沈着物が認められるさらに別の疾患は、海綿状脳症の1種であるプリオン疾患である。プリオン疾患は、臨床的には進行性運動失調と痴呆を特徴とし、病態的には海綿状脳組織の空胞化を特徴とする神経変性症状である。アミロイド沈着物は、クールーとして知られている少なくとも1つのプリオン疾患に関連する。クールーでは約70%のプリオンタンパク質が細胞外に蓄積してプラークを形成し、これに対して正常なプリオンタンパク質は構成的に発現される細胞表面糖タンパク質である(Pathology, 3. sup.rd ed. 前出、pp. 1492-1496を参照されたい)。プリオン疾患を治療するための本発明の方法は、アミロイドタンパク質の産生を低下または防止し、アミロイドプラークの沈着などを低下または防止する。
【0070】
アミロイド沈着物が認められるさらに別の疾患は、アミロイドAアミロイドーシスである。アミロイドAアミロイドーシスは、見かけ上無関係の疾患(例えば、慢性炎症性疾患、新生物疾患、および遺伝性疾患)からのアミロイドーシスを意味する。アミロイドタンパク質の沈着は、基礎的な症状に続発性に起きる。前駆体分子は、血清アミロイドA(SAA)(急性期反応物)であり、これは多くの疾患において炎症の代理マーカーとして使用することができる。アミロイドAアミロイドーシスを治療するための本発明の方法は、アミロイドタンパク質の産生を低下または防止し、アミロイドタンパク質への前駆体の産生を低下または防止し、活性なアミロイドタンパク質を生成するのに必要ないくつかのステップの1つを防止または低下し、アミロイドプラークの沈着などを低下または防止する。
【0071】
アミロイド沈着物が認められるさらに別の疾患は、家族性トランスチレティンアミロイドーシスであり、これは家族性アミロイド性多発性神経障害(FAP)の最も一般的な型である。ヒトアミロイド疾患、家族性アミロイド性多発性神経障害、家族性アミロイド性心筋症および老人性全身性アミロイドーシスは、不溶性トランスチレティン(TTR)フィブリルにより引き起こされ、これは末梢神経および心臓組織に沈着する。トランスチレティンは、チロキシンやレチノールの輸送に関与するとされているホモテトラマー性血漿タンパク質である。最も一般的なアミロイド形成性TTR変異体はV30M-TTRであり、L55P-TTRは最も攻撃的な型のFAPに関連する変異体である。トランスチレティンにより引き起こされるアミロイドーシスを治療するための本発明の方法は、アミロイドタンパク質の産生を低下または防止し、アミロイドタンパク質への前駆体の産生を低下または防止し、活性なアミロイドタンパク質を生成するのに必要ないくつかのステップの1つを防止または低下し、アミロイドプラークの沈着などを低下または防止する。
【0072】
アミロイド沈着物が認められるさらに別の疾患は、ALアミロイドーシスである。ALアミロイドーシスは、免疫グロブリン産生の原発性疾患であり、これは原発性アミロイドーシス、形質細胞悪液質、免疫芽球性リンパ腫、多発性骨髄腫などに関連する疾患クラスである。原発性全身性AL(アミロイド軽鎖)アミロイドーシスは、アミロイド軽鎖タンパク質の沈着が進行性臓器不全を引き起こす形質細胞疾患である。原発性アミロイドーシスの予後は一般的に悪く、平均生存期間は1〜2年である。前駆体タンパク質は、局所性および全身性ALアミロイドーシスの両方で免疫グロブリン軽鎖であり、これは同じパターンの断片化と1次構造の変化を示す。ALアミロイドタンパク質により引き起こされるアミロイドーシスを治療するための本発明の方法は、アミロイドタンパク質の産生を低下または防止し、アミロイドタンパク質への前駆体の産生を低下または防止し、活性なアミロイドタンパク質を生成するのに必要ないくつかのステップの1つを防止または低下し、アミロイドプラークの沈着などを低下または防止する。
【0073】
本明細書において「投与する」とは、治療的有効量の化合物を、経口舌下、静脈内、皮下、経皮、筋肉内、皮内、くも膜下、硬膜外、眼内、頭蓋内、吸入、直腸内、膣内などを含む投与を使用して、対象に提供することを意味する。クリーム剤、ローション剤、錠剤、カプセル剤、ペレット剤、分散性粉末、顆粒剤、坐剤、シロップ剤、エリキシル剤、トローチ剤、注射剤、無菌水性もしくは非水性液剤、懸濁剤もしくは乳剤、パッチ剤などの形での投与も企図される。活性成分は、グルコース、乳糖、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンペースト、3ケイ酸マグネシウム、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、バレイショデンプン、尿素、デキストランなどを含む非毒性の薬剤学的に許容される担体と混合される。
【0074】
好適な投与経路は、臨床症状により変化するであろう。治療される患者の症状に依存して当然投与量は少し変化し、いずれにしても個々の患者に適した用量は医師が決定するであろう。1回投与当たりの化合物の有効量は、特に体重、生理、および選択された投与処方に依存する。化合物の単位服用量とは、担体(担体が使用される時)の重量を考慮せず、1回の投与当たりに使用される化合物の重量を意味する。
【0075】
標的化送達系(例えば、ポリマーマトリックス、リポソーム、および微小球)は、治療薬が必要な部位での治療薬の有効濃度を上昇させ、治療薬の好ましくない作用を低下させる。治療薬の送達がより効率的なら、より少量の投与で同じかまたはより良好な治療結果が得られるため、その全身の濃度は低下する。治療薬の送達効率の上昇に適用可能な方法は、一般的に標的化残基を治療薬に結合させるか、または以後治療薬を充填する担体に結合させることに注目する。
【0076】
タンパク質、ペプチド、多糖、合成ポリマー、コロイド粒子(すなわち、リポソーム、小胞またはミセル)、マイクロエマルジョン、微小球およびナノ粒子のような担体を使用して、種々の薬剤送達系が設計されている。これらの担体(捕捉された薬剤学的に有用な物質を含む)は、制御細胞特異的または組織特異的薬剤放出を行うように企図される。
【0077】
本明細書に記載の化合物は、リポソームの形で投与することができる。当該分野で公知のようにリポソームは一般に、リン脂質または他の脂質物質から得られる。リポソームは、水性媒体に分散されるモノ−またはマルチラメラ水和液体結晶により形成される。リポソームを形成できる任意の非毒性の薬剤学的に許容されかつ代謝される液体を使用することができる。本明細書に記載の化合物はリポソーム型の時は、本明細書に記載の化合物以外に、安定剤、保存剤、賦形剤などを含有することができる。好適な脂質は、いずれも天然および合成のリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームの作成法は当該分野で公知である(例えば、Prescott編、Methods in Cell Biology, 第XIV巻、アカデミックプレス(Academic Press)、ニューヨーク、ニューヨーク州(1976)、33頁、以下参照)。
【0078】
脳血液関門を避けることにより、脳へ治療薬を送達するのにいくつかの送達アプローチを使用することができる。そのようなアプローチは、くも膜下注入、外科的インプラント(Ommaya、Cancer Drug Delivery 1:169-178 (1984)および米国特許第5,222,982号)、組織間注入(Boboら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:2076-2080 (1994))などを利用する。これらの方策は、脳脊髄液(CSF)中へまたは脳実質(ECF)中への直接投与により、薬剤をCNSに送達する。
【0079】
脳脊髄液を介する中枢神経系への薬剤送達は、例えば、発明者の名前を取った「Ommayaレザーバー」と呼ぶ硬膜下に移植可能な器具を使用して行われる。薬剤は器具中に注入され、次に脳の周りの脳脊髄液中に放出される。これは、露出した脳組織の特異的部位に向かい、これが次に薬剤を吸収する。薬剤が自由に移動できないため、この吸収は限定される。薬剤の投与のために、改良した装置[これにより、レザーバーが腹腔内に移植され、注入された薬剤が脳脊髄液(脊髄から採取されそして戻される)により脳の脳室スペースに輸送される]が使用される。オメガ-3誘導体化により、部位特異的2分子複合体は、脳組織を介する治療薬の限定された吸着と移動を克服することができる。
【0080】
CNSへの薬剤送達を改良する別の方策は、脳血液関門を介する薬剤の吸収(吸着と輸送)の上昇と細胞による治療薬の取り込みの上昇である(Broadwell, Acta Neuropathol. 79:117-128 (1989);Pardridgeら、J. Pharmacol. Experim. Therapeutics 255:893-899 (1990);Banksら、Progress in Brain Research 91:139-148 (1992);Pardridge, Fuel Homeostasis and the Nervous System、Vranicら編、プレヌムプレス(Plenum Press)、ニューヨーク、43-53 (1991))。脳血液関門を介する脳への薬剤の通過は、薬剤自体の透過性を上昇させるかまたは脳血液関門の特性を変えることにより、上昇させることができる。すなわち薬剤の通過は、化学修飾および/または陽イオン性担体への結合、または脳血液関門を介して薬剤を輸送することができるペプチドベクターへの共有結合により、脂質溶解性を上昇させることにより促進することができる。ペプチド輸送ベクターはまた、脳血液関門透過性化化合物として知られている(米国特許第5,268,164号)。脳への送達に有用な親油性特性を有する部位特異的巨大分子は、米国特許第6,005,004号に記載されている。
【0081】
他の例(米国特許第4,701,521号、および米国特許第4,847,240号)は、比較的高速で細胞内に入る陽イオン性巨大分子担体への薬剤の共有結合法を記載する。これらの特許は、陽イオン性樹脂に共有結合した時、細胞中への生体分子の細胞性取り込みを増強することを教示する。
【0082】
米国特許第4,046,722号は、特異的抗原を有する細胞へ向けるために、陽イオン性ポリマーに共有結合した抗癌剤を開示する。このポリマー性担体は、約5,000〜500,000の分子量を有する。そのようなポリマー性担体は、標的化して本明細書に記載の化合物を送達するのに使用することができる。
【0083】
酸感受性中間体(スペーサーとしても知られている)を介する陽イオン性ポリマーへの薬剤の共有結合を含むさらなる研究は、米国特許第4,631,190号および米国特許第5,144,011号に記載されている。種々のスペーサー分子(例えばシスアコニット酸)が薬剤およびポリマー性担体に共有結合されている。これらは、例えばおそらく細胞のリソソーム内に起きるような穏やかな酸性の上昇に付した時、巨大分子担体からの薬剤の放出を制御する。薬剤は、分子結合体から選択的に加水分解され、非修飾型および活性型で細胞中に放出される。分子結合体はリソソームに輸送され、ここで、細胞または体の他のコンパートメントもしくは液体より実質的により酸性のpHで、リソソーム酵素の作用により代謝される。リソソームのpHは約4.8であることが証明されており、結合体消化の初期段階ではpHはおそらく3.8と低い。
【0084】
本明細書において用語「治療的有効量」とは、多環式化合物を使用する本発明の方法に関して使用される時、受容者に有効な作用を与えるのに充分に高い循環濃度を提供するのに充分な用量を意味する。特定の患者の有効な特定の用量レベルは、治療すべき疾患、その疾患の重症度、使用される具体的な化合物の活性、投与経路、具体的な化合物のクリアランス速度、治療期間、具体的な化合物と組合せてまたは偶然使用される薬剤、年齢、体重、性、食餌、および患者の全身的健康、および医学や科学分野で公知の同様の要因を含む種々の要因に依存する。投与レベルは一般には、約0.001〜100mg/kg/日の範囲であり、約0.05〜10mg/kg/日の範囲のレベルが好ましい。
【0085】
本発明のさらに別の実施態様において、疾患リスクのある対象の症状を予防する方法であって、本明細書に記載の化合物の少なくとも1つの治療的有効量を該対象に投与することを含む方法が提供される。
【0086】
本明細書において用語「症状を予防する」とは、疾患のリスクがあるがまだ疾患を有するとは診断されていない対象で、疾患、障害または症状が起きることを避けることを意味する。疾患リスクのある対象を決定するのに種々の方法が使用され、ある対象が疾患のリスクがあるか否かは、当業者に公知の種々の要因(対象の遺伝的構成、年齢、体重、性、食餌、全身的健康、職業、環境条件への暴露、既婚か未婚かなどを含む)に依存することを、当業者は理解するであろう。
【0087】
本明細書において「インキュベートする」とは、試験化合物と目的の細胞とを接触させることを意味する。細胞は、神経細胞、グリア細胞、心細胞、気管支細胞、子宮細胞、睾丸細胞、肝細胞、腎細胞、小腸細胞、胸腺と脾臓の細胞、胎盤細胞、内皮細胞、内分泌細胞(甲状腺、副甲状腺、下垂体などを含む)、平滑筋細胞、骨格筋細胞などの任意の細胞である。
【0088】
候補化合物は、合成または天然の化合物のライブラリーを含む広範囲の供給源から得ることができる。例えば、広範囲の有機化合物および生体分子のランダムおよび指向性合成(ランダム化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む)のために、多数の手段が利用可能である。あるいは、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形の天然の化合物のライブラリーが、利用可能であるかまたは容易に産生される。さらに、天然のまたは合成されたライブラリーおよび化合物は、通常化学的、物理的、および生化学的手段により容易に修飾でき、コンビナトリアルライブラリーを産生するのに使用される。既知の薬剤を、指向性またはランダム化学修飾(例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化など)に付して構造類似体を産生してもよい。
【0089】
スクリーニングアッセイには種々の他の物質が含まれる。これらには、最適な結合を促進するか、非特異的相互作用またはバックグランド相互作用を低下させるのに使用される塩、天然のタンパク質(例えばアルブミン)、界面活性剤などがある。アッセイの効率を改良する試薬(例えば、プロテアーゼインヒビター、ヌクレアーゼインヒビター、抗菌剤など)を使用してもよい。必要な結合を提供する成分の混合物を任意の順序で加えることができる。インキュベーションは任意の適当な温度、典型的には4〜40℃で行われる。インキュベーション期間は最適活性について選択されるが、迅速高処理スクリーニングを促進するために最適化してもよい。典型的には0.1〜10時間で充分であろう。
【0090】
本発明のさらに別の実施態様において、アミロイドタンパク質(特にアミリン)の凝集を調節する方法が提供される。アミロイドタンパク質凝集の調節は、アミロイド沈着物に関連する疾患の発症を防止または遅延することができる。アミロイドタンパク質の凝集を調節する方法において、アミロイドタンパク質の凝集が変化するようにアミロイドタンパク質は本明細書に記載の化合物と接触される。本明細書において用語「調節する」とは、アミロイド凝集の阻害とアミロイド凝集の促進の両方を意味する。同じ1つ以上の化合物の非存在下でのアミロイド凝集の量および/または速度と比較して、本明細書に記載の1つ以上の化合物の存在下でのアミロイド凝集の量および/または速度の低下がある時、アミロイドタンパク質の凝集は、本明細書に記載の1つ以上の化合物により阻害される。凝集の阻害は、アミロイドタンパク質の完全な阻害と部分的阻害の両方を含む。凝集の阻害は、当業者に公知の凝集アッセイを使用して、凝集の遅延時間の上昇倍率として、または凝集の全体のプラトーレベルの低下(すなわち凝集の総量)として定量することができる。あるいは、本明細書に記載の化合物の1つ以上の非存在下でのアミロイド凝集量および/または速度と比較して、同じ化合物の1つ以上の存在下でのアミロイド凝集の量および/または速度の上昇がある時、アミロイドタンパク質の凝集は本明細書に記載の1つ以上の化合物により促進される。
【0091】
従って本明細書において用語「多環式化合物」とは、そのような作用を有する任意の多環式化合物を意味する。適当な多環式化合物(特に限定されないが)の例には、縮合3環式化合物、縮合4環式化合物、縮合5環式化合物または他の縮合多環式化合物、および平面または非平面構造の縮合環およびビフェニル構造の組合せがある。種々の化合物は後述される。
【0092】
用語「ポリアセン」とは、一般に2つ以上の縮合芳香環を含む分子構造を意味する。3、4、または5つの縮合芳香環を有するポリアセンが好適である。ポリアセンの環原子は一般に炭素ベースであるが、1つ以上の窒素、酸素および/またはイオウを含有してもよい。ポリアセンのコア構造は実質的に平面(コア原子間のπ電子の広範な重なりを可能にする特徴)である。本発明のポリアセンは、例えば溶解度を上昇させる置換基、π重なり作用を増強する置換基、または薬剤の効力を増強または治療の効果を改良する置換基で随時置換される。
【0093】
本明細書において用語「3、4および5員環ポリアセン」とは、3、4および5つの縮合芳香環を含む分子構造を意味する。3、4および5員環ポリアセンの環原子は一般に炭素であるが、1つ以上の窒素、酸素および/またはイオウを含有してもよい。3員環ポリアセンの例には、特に限定されないが、アントラセン、フェナレン、フェントレン、キナクリン、ニュートラルレッド、クロルプロマジン、アクリジン、アクリジンオレンジ、メチレンブルー、フェントロリン、フェナジンおよびフェノチアジンがある。4員環ポリアセンの例には、ピレン、クリセン、ベンズ[a]アントラセン、ベンズ[m]アントラセン、およびテトラセンがある。5員環ポリアセンの代表例は、ベンズ[c]アントラセンである。
【0094】
ポリアセンのコア構造は、好ましくは実質的に平面であり、これはコア原子の間のπ電子の広範な重なりを可能にする特徴である。本発明のポリアセンは、例えば水性溶解度を上昇させる置換基、π重なり作用を増強する置換基、または薬剤の効力を増強または治療の効果を改良する置換基で随時置換される。
【0095】
多数の置換された3、4および5員環ポリアセンが市販されている。他のものは当業者に公知の方法を使用して調製される。3、4および5員環ポリアセン上に置換基を導入するための特に有用な反応は、求電子性芳香族置換として知られているクラスの反応である。求電子性芳香族置換の例には以下がある:フリーデル−クラフツアルキル化(3、4および/または5員環ポリアセン上の1つ以上の部位にアルキル基を結合させるのに有用);フリーデル−クラフツアシル化(3、4および/または5員環ポリアセン上の1つ以上の部位にカルボン酸基を結合させるのに有用);ニトロソ化(3、4および/または5員環ポリアセン上の1つ以上の部位にニトロソ残基(-NO)を結合させるのに有用);スルホン酸化(3、4および/または5員環ポリアセン上の1つ以上の部位に硫酸基(-SO3-)を結合させるのに有用);ニトロ化、硝酸塩(-NO2)残基を導入するのに有用であり、これはまた還元することができる;ハロゲン化、F、Cl、BrおよびIを導入するのに有用である;ジアゾカプリング、例えばコンゴーレッド、クリサミンG、およびアマランス中に存在するジアゾ(-N=N-)残基により結合した芳香環を結合するのに有用である。
【0096】
求電子性芳香族置換法により3、4および/または5員環ポリアセンに導入されたいくつかの残基は還元できることを、当業者は理解するであろう。例えばニトロ基およびニトロソ基は還元されてアミノ基になり、スルホン酸基は還元されてチオールになる。さらに、3、4および/または5員環ポリアセン中に導入されたいくつかのそのような残基は、それ自体が反応性であり、有用な官能基であることを当業者は理解するであろう。例えばアミノ基およびカルボン酸基は、アミド結合の有用な前駆体であり、チオール残基は特に有用なリンカー残基である。
【0097】
当業者はまた、本発明の他の実施態様の部分的に還元されたポリアセン、例えばテトラサイクリンおよびドキシサイクリン内のテトラセンフレームワークを理解するであろう。
【0098】
【化1】

【0099】
R(これは任意の化合物中で同じかまたは異なり、Hを含有してもよい)は、当業者に公知の方法(例えば求電子性芳香族置換として知られている方法)を使用して導入された残基を示す。上記構造はまた、化合物の1つ、数個またはすべてのRが水素である場合を示す。縮合3環式化合物はまた、上記の数字を付けたコア原子の任意の位置で置換を有する誘導体を含む。また、コア3環式構造内の2重結合構造の修飾、および以後のコア原子または側鎖の修飾(アントラセンとフェナントレンについて例示されるように4a、4b、5a、8a、9aおよび10aの原子を含む)も含まれる。代表的な例は、キナクリン、ニュートラルレッド、クロルプロマジン、アクリジン、アクリジンオレンジ、メチレンブルー、およびフェノチアジンがある(下記)。ポリアセン分子は一般に実質的に平面であるが、ポリアセンの部分的還元により非平面性が導入されることを当業者は理解するであろう。すなわち本発明の縮合環化合物は平面でも非平面でもよく、飽和または不飽和環構造の任意の組合せを有してもよい。構造はまた、記載の代替構造中に任意のフェニル環を含有してもよい。
【0100】
【化2】

【0101】
【化3】

【0102】
R(これは任意の化合物中で同じかまたは異なり、Hを含有してもよい)は、当業者に公知の方法(例えば求電子性芳香族置換として知られている方法)を使用して導入された残基を示す。上記構造はまた、化合物の1つ、数個またはすべてのRが水素である場合を示す。縮合アントラ環状構造はまた、上記の数字を付けたコア原子の任意の位置で置換を有する誘導体を含む。また、コアアントラ環状構造の2重結合構造の修飾および以後のコア原子または側鎖修飾(上記テトラセンについて例示されるように4a、5a、6a、10a、11aおよび12aの原子を含む)も含まれる。ポリアセン分子は一般に平面であるが、ポリアセンの部分的還元により非平面性が導入されることを当業者は理解するであろう。すなわち本発明の縮合環化合物は平面でも非平面でもよく、飽和または不飽和環構造の任意の組合せを有してもよい。構造はまた、記載の代替構造中の任意のフェニル環を含有してもよい。代表例はテトラサイクリンとドキシサイクリンである。
【0103】
【化4】

【0104】
【化5】

【0105】
構造はまた、縮合およびビフェニル環と、記載のものと別の配置で置かれた任意のフェニル環の任意の組合せを有する。これらの構造は、平面または非平面、対掌または非対掌でもよく、飽和または不飽和環構造の任意の組合せを有してもよい。構造は、記載のものと別の配置で置かれた任意のフェニル環を有してもよい。これらの構造はまた、任意の芳香環原子で置換を有する誘導体も含む。また、環構造内の2重結合構造の修飾および以後のコア原子または側鎖修飾も含まれる。
【0106】
以下の例は、本発明を例示するためであって、明示的または暗示的にも、本発明をその方法、形または型で限定するものではない。これらは使用されるものに典型的であるが、当業者に公知の他の操作、方法、または技術を代替して使用してもよい。
【0107】
実施例1
材料と方法
材料。合成ヒトアミリン(ロット5429559とロット0551805)およびラットアミリン(ロット0542554とロット0542554)は、バッケムカリホルニア(Bachem California)(トランス(Torrance)、カリホルニア州)からのHPLC産物であった。ペプチドを無菌ミリQ水に新に溶解し、次に適切な緩衝液で最終濃度まで希釈した。トリチウム化したヒトアミリン(145.3 MBq/mmol)とラットアミリン(22.6 GBq/mmol)を、既に記載されているプロトコール(25)に従って合成した。すべての多環式化合物とチオフラビン-Tは、シグマ(Sigma)(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。各実験についてストック溶液を無菌ミリQ水で新に作成した。カルセイン(Calcein)-AMとエチジウムホモダイマー-1(EthD-1)は、モレキュラープローブズ(Molecular Probes)(ユージーン、オレゴン州、アメリカ合衆国)から得た。ラットインスリノーマ細胞株RINm5Fを国立衛生研究所(National Institutes of Health)(ベセスダ、メリーランド州)から得て、37℃で5%CO2含有加湿雰囲気中で培養した。細胞培養培地とその付属物はギブコビーアールエル−ライフテクノロジーズ(GibcoBRL-Life Technologies)(オークランド、ニュージーランド)から購入した。
【0108】
チオフラビン-T結合蛍光測定。膵島アミロイド形成に対する種々の多環式化合物の作用を、スペクトラマックス・ジェミニXS(SpectraMAX Gemini XS)蛍光分光光度計(モレキュラーデバイシーズ社(Molecular Devices Corporation)、サニーベール(Sunnyvale)、カリホルニア州)を使用して測定した。励起と発光極大は、495nmのカットオフフィルターを使用してそれぞれ450nmと510nmに設定した。チオフラビン-Tはアミリンフィブリルに結合するが、モノマー性アミリンには結合しない(Goldsburyら、J. Mol. Biol. 285:33-39)。アミリンフィブリルに結合すると、チオフラビン-Tは蛍光の顕著な増加を示し、これは蛍光分光光度計を使用して定量することができる(Goldsburyら、(1999) J. Mol. Biol. 285:33-39)。アミリンフィブリル形成速度は、阻害薬剤候補の存在下または非存在下でチオフラビン-Tの蛍光を追跡することにより測定した。多環式化合物であるテトラサイクリン、コンゴーレッド、ニュートラルレッド、メチレンブルー、およびクロルプロマジンは、これらの条件下で固有の蛍光は無い。アミリンの非存在下でのアクリジンとアクリジンオレンジによるバックグランド蛍光を、実験結果から引いた。対照調製物は、薬剤の非存在下でヒトアミリンとチオフラビン-Tを含有した。これらの条件下での蛍光増強速度を、薬剤の非存在下および存在下でのアミリンフィブリル形成と比較するのに使用した。すべての他の実験条件は同一であった。
【0109】
トリプロリルアミリンとチオフラビン-Tを有するラットアミリンはまた、追加の対照として使用した。トリプロリルアミリンはアミリンの修飾型であり、これはもうアミロイド形成性領域を含有せず、フィブリルを形成できず(Evans & Krentz (1999), Drugs RD 2:75-94)、ラットアミリンは自然にフィブリルを形成しない(Cooper (1994)、Endocr. Rev. 15:163-201)。
【0110】
電子顕微鏡。ヒトアミリンを、キナクリンまたはテトラサイクリンの存在下または非存在下で10mMのトリス(pH7.4)溶液中でインキュベートした。異なる時点で試料を取りだし、電子顕微鏡のために調製した。アミリンフィブリル調製物のアリコート(8μl)を200メッシュの銅格子上のグロー放電炭素被覆コロジオン膜に1分間吸着させた。格子の水分を吸い取り、脱イオン水の液滴中で2回洗浄し、2%(w/v)酢酸ウラニル中で染色した。格子を、120kVで運転したフィリップステクナイ(Phillips Technai)透過電子顕微鏡で観察した。
【0111】
放射能標識沈降測定。アミリンフィブリル形成のインヒビター候補の存在下または非存在下でのアミリンフィブリルの集合を追跡するための独立の方法として、放射能標識したヒトおよびラットアミリンフィブリルの沈降を使用した。100μMのテトラサイクリン(本明細書の実施例5)または200μMの阻害薬剤候補(本明細書の実施例5)の非存在下または存在下で、10μMのアミリン溶液に、異なる時間に微量の[3H]ヒトアミリンを加えた。次にインキュベーション混合物を16,000×gまたは100,000×gで20分間遠心分離し、遠心分離後の上清中に残存している[3H]ヒトアミリンの量を測定した(ベックマン(Beckman)LSW3801 β−カウンター、アメリカ合衆国)。結果を、上清中の総放射活性に対する、1分当たりの沈降性カウントのパーセントとして表わした。
【0112】
モノマー性ヒトアミリンの調製。ヒトアミリン(バッチ0551805)はバッケム(Bachem)(トランス(Torrance)、カリホルニア州)から得た。アミリンのストック溶液を、PadrickとMiranker、2002が記載使用ように調製した。ヒトアミリンを6M塩酸グアニジン/50mMリン酸カリウム(pH6.0)中で可溶化し、C18逆相スピンカラム(ハーバードバイオサイエンシーズ(Harvard Biosciences))に充填した。次にカラムを10%アセトニトリル、0.2%トリフルオロ酢酸および水で順番に洗浄した。モノマー性アミリンを100%HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)で溶出した。アミリンのこのストック溶液を次に、円偏光二色性実験のために使用した。
【0113】
円偏光二色性測定。円偏光二色性スペクトルをパイ−スター180(Pi-Star 180)分光光度計(アプライドフォトフィジックス(Applied Photophysics)、レザーヘッド(Leatherhead)、英国)で測定した。測定は、100%HFIPまたは100mM塩化カリウム/50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)および2.5%HFIP中で25℃で行った。モノマー性ヒトアミリンのストック溶液を緩衝液で、最終濃度2.5%HFIPと約5μMアミリンに希釈してアミリンフィブリル形成を開始させた。スペクトルは、1nmの間隔でサンプル時間25μsで適応サンプリング±0.01mdegで取った。コンゴーレッドまたはアマランスの存在下または非存在下でリン酸緩衝液にヒトアミリンストック溶液を加えた直後に、測定値を記録した。
【0114】
細胞培養と細胞障害性測定。RINm5F細胞を、10%胎児牛血清、290μg/ml L-グルタミン、100 IU/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するRPMI1640培地中で培養した。細胞を15×104細胞/ウェルで蒔き、48時間インキュベートし、PBSで洗浄し、コンゴーレッドを含有する新鮮な培地に入れた。ミリQ水中の新に調製したヒトアミリンをコンゴーレッドと30分インキュベートし、次に細胞培養培地に加えて最終濃度30μMとした。100μMのコンゴーレッドの存在下または非存在下で、細胞をヒトアミリンで22時間処理した。カルセイン-AMとエチジウムホモダイマー-1を用いる2重染色により、細胞生存活性を測定した。生きた細胞の緑の蛍光と死滅した細胞の核を示す赤の蛍光を、ツァイス(Zeiss)フィルターセット#9と取り付けたツァイスアキシオベルト(Zeiss Axiovert)S100顕微鏡を使用して、同時に視覚化した。ツァイスアキシオカム(Zeiss AxioCam)デジタルカメラを使用して400×で写真を撮った。
【0115】
実施例2
ヒトアミリンによるチオフラビン-T蛍光の増強に対する多環式化合物の作用
ヒトアミリンによるチオフラビン-T蛍光の増強に対するテトラサイクリンとコンゴーレッドの作用(図1)。テトラサイクリン(700μM)(黒三角(上向き))またはコンゴーレッド(700μM)(●)を、チオフラビン-T(10μM)の存在下で10mMトリス(pH7.4)中でモノマー性ヒトアミリン(70μM)とともにインキュベートした。反応の蛍光を72時間にわたって、方法に記載のように追跡した。ヒトアミリンとチオフラビン-Tのみを含有する対照調製物(黒四角)を使用して、薬剤の非存在下でアミリンフィブリル形成を、テトラサイクリンまたはコンゴーレッドが存在する時のフィブリル形成と比較した。トリ−プロリルアミリンもラットアミリンもこれらの条件下では自然にフィブリルを形成することは無いため、トリ−プロリルアミリン(黒三角(下向き))とチオフラビン-Tを有するラットアミリン(◆)を追加の対照とした。各データ点は、これらの別々の反応の平均±s.e.mである。
【0116】
テトラサイクリンの存在下では、最大2時間まではアミリンフィブリルに関連した蛍光の初期のしかし顕著な低下があり、この後70時間にわたって蛍光の漸進的な低下がある(図1A)。この蛍光の低下は、電子顕微鏡によりわかるようにアミリンフィブリルの分解と相関する。テトラサイクリンの存在下でのヒトアミリンとのチオフラビン-Tの結合の初期相(図1B)は、ヒトアミリンとのチオフラビン-T単独との結合と似ている。しかしテトラサイクリンの存在下ではアミリンフィブリルからのチオフラビン-Tの顕著な第2の解離相があり、これは対照反応では見られない(図1C)。これは、電子顕微鏡から明らかなように、24時間目およびそれ以後のアミリンフィブリルの破壊と相関する。コンゴーレッドとチオフラビン-Tの存在下でヒトアミリンは、ラット対照調製物以上の蛍光の上昇は示さず、コンゴーレッドがアミリンフィブリル形成を阻害するかまたはアミリンフィブリルへのチオフラビン-Tの結合を阻害することを示唆する。
【0117】
ヒトアミリンによるチオフラビン-T蛍光の増強に対するクロルプロマジンの作用(図2)。クロルプロマジン(700μM)(黒三角(上向き))を、チオフラビン-T(10μM)の存在下で10mMトリス(pH7.4)中でモノマー性ヒトアミリン(70μM)とともにインキュベートした。反応の蛍光を24時間にわたって、方法に記載のように追跡した。ヒトアミリンとチオフラビン-Tのみを含有する対照を示す曲線(黒四角)を一相結合に従ってフィッティングして、クロルプロマジンの存在下のヒトアミリンとチオフラビン-Tの曲線を2相指数結合を用いてフィッティングさせた。各データ点は、3つの別々の反応の平均±s.e.mである。
【0118】
クロルプロマジンの存在下では、アミリンフィブリル形成の約60%の阻害がある。ヒトアミリン、チオフラビン-Tおよびクロルプロマジンを含む実験結果の最も適合する曲線は、ヒトアミリンとチオフラビン-Tのみを含む対照で見られたものと同様の、ヒトアミリンに対するチオフラビン-Tの初期の指数結合相を示す。しかしこの後に、対照では見られない第2のより遅い指数結合相があり、これはアミリンフィブリル形成に対するクロルプロマジンの阻害作用を示す。
【0119】
ヒトアミリンによるチオフラビン-T蛍光の増強に対する選択された多環式化合物の作用(図3)。アクリジン、アクリジンオレンジ、ニュートラルレッドおよびメチレンブルーは、縮合3環式化合物の選択された例である。テトラサイクリンは縮合4環式化合物であり、コンゴーレッドはビフェニル構造が介在する2つの対になった縮合環の組合せである。化合物構造は適切なグラフに隣接して示す。最終濃度1200μMのアクリジンオレンジ(◇)、ニュートラルレッド(◆)、メチレンブルー(□)、コンゴーレッド(黒三角(上向き))、アクリジン(△)、クロルプロマジン(黒三角(下向き))、およびテトラサイクリン(●)を、チオフラビン-T(10μM)の存在下で10mMトリス(pH7.4)中でモノマー性ヒトアミリン(60μM)とともにインキュベートした。蛍光を24時間にわたって、方法に記載のように追跡した。ヒトアミリンとチオフラビン-Tのみを含有する調製物(黒四角)を、薬剤の非存在下で比較として含めた。ラットアミリンは自然にフィブリルは形成しないため、チオフラビン-Tを有するラットアミリン(○)を各実験で陰性対照とした。各データ点は、3つの独立した実験の平均±s.e.mである。
【0120】
20倍モル過剰のアクリジンオレンジ、ニュートラルレッド、メチレンブルーまたはコンゴーレッドの存在下でヒトアミリンをチオフラビン-Tとインキュベートすると、ヒトアミリンをチオフラビン-Tのみとインキュベートした時の蛍光の即時的および持続的上昇と比較して、チオフラビン-T増強蛍光の上昇はなかった。この蛍光の相対的低下は、存在するアミロイドのチオフラビン-T結合の排除、またはこれらの多環式化合物の存在により引き起こされるアミロイド含量の直接的低下によるのかも知れない。
【0121】
テトラサイクリンをヒトアミリンおよびチオフラビン-Tとインキュベートすると、蛍光の即時的上昇が起き、次に24時間かけて蛍光の漸進的な低下があった。テトラサイクリンの存在下でのヒトアミリンとのチオフラビン-Tの結合の初期相は、チオフラビン-Tとヒトアミリン単独と結合と同様であったが、有意に低かった。しかしテトラサイクリンが存在すると、対照反応では見られない半減期3.4時間の顕著な第2の解離相があった。
【0122】
この変化は沈降性のアミロイド含量の低下(図7と8)および電子顕微鏡により観察されるように24時間目のアミロイドフィブリルの形態の変化(図4C、図4D、図6Cおよび6D)と相関する。中央の芳香環上に脂肪族側鎖を含有する3環式化合物であるクロルプロマジンは、アミリンフィブリルに関連するチオフラビン-T蛍光増強の阻害はほとんどなく、この化合物が、アクリジンオレンジ、ニュートラルレッド、メチレンブルー、コンゴーレッドおよびテトラサイクリンと比較して、チオフラビン-Tを有効に排除せずアミロイド形成も抑制しないことを示す。これに比較して、親フェナジン構造のみを含有するアクリジンはチオフラビン-T増強蛍光の穏やかな低下を示した。
【0123】
実施例3
電子顕微鏡で測定したヒト膵島アミロイド形成に対する多環式化合物の作用
テトラサイクリンの存在下および非存在下でのヒトアミリンフィブリルの電子顕微鏡(図4)。10倍モル過剰のテトラサイクリンをヒトアミリンとインキュベートした。試料を種々の時点で取り、方法で記載した手順に従って電子顕微鏡のために調製した。
1. 1.5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×20,500。
2. 1.5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+700μMのテトラサイクリン。倍率:×20,500。
3. 5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×20,500。
4. 5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+700μMのテトラサイクリン。倍率:×20,500。
5. 29時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×20,500。
6. 29時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+700μMのテトラサイクリン。倍率:×20,500。
7. 48時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×20,500。
8. 48時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+700μMのテトラサイクリン。倍率:×20,500。
9. 29時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×220,000。
10. 29時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+700μMのテトラサイクリン。倍率:×220,000。。
11. 48時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+700μMのテトラサイクリン。倍率:×105,000。
12. 48時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+700μMのテトラサイクリン。倍率:×220,000。
【0124】
テトラサイクリンの存在は、テトラサイクリン無しでインキュベートしたヒトアミリン対照(4A、4C)と比較して、1.5時間と5時間のインキュベーション(4B、4D)の速い時点でのヒトアミリンフィブリルの形成速度を遅くするようである。29時間と48時間の遅い時点では、ヒトアミリンフィブリルの形態、ならびにテトラサイクリンの存在下フィブリルが形成される速度に変化があるようである。各対照のより長く高密度の特徴的なアミリンフィブリル外観(4E、4G)と比較すると、この形態は短い断片化したフィブリル(4F、FH)が特徴である。高倍率では、フィブリルの短い断片(4J〜4L)に沿って、異なる種類のフィブリル構造[これを我々はプロトフィブリル(弱く染色されたフィブリル)と呼ぶ]が見られる。これらのプロトフィブリルは、アミリン対照(4I)の高倍率では見られない。これらのプロトフィブリルの存在は、存在する不溶性アミリンフィブリルの破壊を示唆する。
【0125】
キナクリンの存在下および非存在下でのヒトアミリンフィブリルの電子顕微鏡(図5)。100倍モル過剰のキナクリンをヒトアミリンとインキュベートした。異なる時点で試料を取りだし、方法に記載の手順に従って電子顕微鏡のために調製した。
A. 1.5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×20,500。
B. 1.5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+7000μMのキナクリン。倍率:×20,500。
C. 5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×20,500。
D. 5時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+7000μMのキナクリン。倍率:×20,500。
E. 26時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン。倍率:×20,500。
F. 26時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+7000μMのキナクリン。倍率:×20,500。
G. 26時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+7000μMのキナクリン。倍率:×20,500。
H. 26時間インキュベーション後の70μMのヒトアミリン+7000μMのキナクリン。
I. 倍率:×220,000。
【0126】
キナクリンの存在は、キナクリン無しでインキュベートしたヒトアミリン対照(4A、4C、4E)と比較して、1.5時間、5時間および26時間インキュベーションの3つすべての時点(4B、4D、4F)でヒトアミリンフィブリル形成速度を遅らせるようである。また、5時間と26時間(4D、4E、4F)ではフィブリルの形態に差があるようであり、ここではアミリンフィブリルは、対照(4E)で見られる特徴的な長いフィブリルではなく、明確なフィブリル(4F、4G)のほとんど無い大きな凝集物を形成している。テトラサイクリンの存在下のヒトアミリンで見られる短い断片化したフィブリルは、ヒトアミリンとキナクリンでは観察されなかった。しかし26時間のインキュベーション時点で、プロトフィブリルは存在することがある(4Hで弱く染色されたフィブリル)。これらのプロトフィブリルはまた、テトラサイクリンとともにインキュベートしたアミリンの電子顕微鏡でも見られる。
【0127】
選択された多環式化合物の存在下と非存在下でのヒトアミリンフィブリルの電子顕微鏡(図6)。ヒトアミリン(60μM)をテトラサイクリン、コンゴーレッド、ニュートラルレッドまたはクロルプロマジン(1200μM)のいずれかの存在下または非存在下で、10mMトリス(pH7.4)中で24時間インキュベートした。試料を取りだし、方法に記載の手順に従って電子顕微鏡のために調製した。すべての実験は三重測定で行い、上記写真は、各倍率で撮った少なくとも6枚の写真の代表的なものである。ヒトアミリン(A ×20,500、B ×105,000);テトラサイクリンとインキュベートしたヒトアミリン(C ×20,500、D ×105,000);コンゴーレッドとインキュベートしたヒトアミリン(E ×20,500);ニュートラルレッドとインキュベートしたヒトアミリン(F ×20,500);クロルプロマジンとインキュベートしたヒトアミリン(G ×20,500)。
【0128】
テトラサイクリンと24時間インキュベートしたヒトアミリンの透過電子顕微鏡は、得られるアミロイドフィブリルの形態の顕著な変化を示した(図6)。ここでフィブリルの形態は、各対照のより長く高密度の特徴的なアミリンフィブリル外観(図6A)と比較すると、短い断片化した構造(図6C)が特徴である。高倍率では、フィブリルの短い断片(図6D)に沿って、小さい球状の弱く染色される構造が見られた。これらの球状構造は、アミリン対照(図6B)の高倍率では見られなかった。これらの構造の存在は、テトラサイクリンとのインキュベーション後の存在するアミリンフィブリルの破壊を示唆する。興味深いことに球状構造は、ヒトアミリンを他の多環式化合物とインキュベートした時は観察されなかった。ヒトアミリンは、コンゴーレッド(図6E)、ニュートラルレッド(図6F)、またはクロルプロマジン(図6G)とインキュベートした時も、特徴的なアミリンフィブリルを形成した。ヒトアミリン調製物を20時間プレインキュベートし、次にテトラサイクリンと48時間インキュベートした追加の実験もまた、図6C,図6Dで見られたものと類似の小さいフィブリルが中に分散したアミリンフィブリルの断片を明らかにした。
【0129】
実施例4
放射活性沈降により測定したヒト膵島アミロイド形成に対する多環式化合物の作用
放射能標識沈降によるアミリンフィブリル形成に対するテトラサイクリンの作用(図7)。10mMトリス(pH7.4)中の10μMのヒトアミリンを、100μMのテトラサイクリンの非存在下(黒三角(上向き))または存在下(●)で、微量の[3H]ヒトアミリンとインキュベートした。[3H]アミリンのアミリンフィブリルへの取り込みを24時間追跡した。ヒトアミリンフィブリルは、16,000×g(図7A)または100,000×g(図7B)で遠心分離すると沈殿した。[3H]ラットアミリンの存在下のラットアミリン(10μM)を非フィブリル形成対照(◆)として使用した。結果は、各時点での上清中の総放射活性に対する沈降性の放射活性アミリンのパーセントとして示す。各データ点は、3つの別々の反応の平均±s.e.mである。
【0130】
形成中のヒトアミリンフィブリルへの放射活性モノマー性アミリンの取り込みは、阻害薬剤候補の存在下または非存在下でアミリンフィブリルが形成する速度を測定するために使用することができる。アミリンフィブリルは遠心分離により溶液から分離することができ、アミリンフィブリルペレット中に沈降した放射性アミリンの量は、その時に存在するアミリンフィブリルの量の尺度として使用することができる。
【0131】
図5Aは、もしテトラサイクリンが存在しないなら、利用可能な総放射性ヒトアミリンの約75%が、2時間のインキュベーション後に沈降性のアミリンフィブリル中に取り込まれることを示す。しかしテトラサイクリンの存在下では、沈降性のアミリンフィブリル中への放射性ヒトアミリンの取り込みは約50%低下する。さらに、この低下は経時的に上昇しない。テトラサイクリン沈降性アミリンフィブリルのパーセントはまた、100,000×gで反応混合物を遠心分離しても影響を受けなかった(図7B)。これらの観察結果は、テトラサイクリンの存在下での膵島アミロイド形成が不溶性アミリン凝集物の低下によるものであることを示す。
【0132】
放射能標識沈降によるアミリンフィブリル形成に対する選択された多環式化合物の作用(図8)。10mMトリス(pH7.4)中の[3H]ヒトアミリンを添加した10μMのヒトアミリンを、200μMアクリジン(△)、クロルプロマジン(黒三角(下向き))、メチレンブルー(□)、チオフラビン-T(▽)、コンゴーレッド(黒三角(上向き))、テトラサイクリン(●)、アクリジンオレンジ(◇)、またはニュートラルレッド(◆)の非存在下または存在下でインキュベートした。適切なグラフに隣接して、パウンド構造が見られる。チオフラビン-Tは多環式ではないが、アミリンフィブリル形成を測定するのに蛍光測定で広く使用される。16,000×gで20分遠心分離した反応混合物のアリコートのペレットへの放射活性の取り込みを、記載の時間追跡した。[3H]ラットアミリンを添加したラットアミリン(10μM)を、各実験の非フィブリル形成対照(○)として使用した。結果は、各時点での上清中の総放射活性に対する、沈降性の放射活性アミロイドのパーセントとして示す。各データ点は、3つの別々の実験の平均±s.e.mである。
【0133】
これらの沈降実験は、3環式化合物であるアクリジン、クロルプロマジンおよびメチレンブルーが、チオフラビン-Tと同様にアミロイド形成に対して何の作用の無いことを明確に示した。逆にコンゴーレッドは顕著で迅速な阻害を示し、5時間後にアミロイド含量が約3倍低下し、これはインキュベーション期間にわたって維持された。コンゴーレッドが無い場合ヒトアミリンは、5時間のインキュベーションで沈降性のアミロイド中への放射能標識アミリンの75%を超える取り込みを示した。
【0134】
アクリジンオレンジもまた、72時間後に50%レベルまでの沈降性アミロイドの顕著な低下を示し、全体で30%の低下を与えた。アクリジンオレンジに構造の似た別の3環式分子であるニュートラルレッドは、小さいが明らかな低下を示した。テトラサイクリンもまた、50時間インキュベーション期間より後のみであったが有意な阻害を示し、その間パーセントは約85%から60%まで低下した。この場合阻害モードは、チオフラビン-T蛍光実験で見られたものを反映し、アミロイドの初期形成の後に時間とともにテトラサイクリン依存性解離相が次に続いた。
【0135】
メチレンブルーは、チオフラビン-T蛍光に関連したフィブリルの完全な阻害を示す化合物の例であるが、沈降性のアミロイド含量には何の作用も無く、既存のアミロイドへの結合および/またはチオフラビン-Tの置換は、必ずしもアミロイド形成の阻害に相関しないことを示す。
【0136】
実施例5
円偏光二色性で測定した多環式化合物によるヒトアミリンフィブリル形成の阻害
円偏光二色性によるアミリンフィブリル形成に対するコンゴーレッドの作用(図9−1〜図9−3)。以下に概説するデータは、円偏光二色性の分光光学的方法を使用して、比較のために純粋な2次構造の円偏光二色性スペクトルを使用して、アミリンフィブリル形成の阻害に対する多環式化合物コンゴーレッドの作用を示す(図9A)。方法に記載のようにヒトアミリン(100μg)をC18スピンカラムで精製して100% HFIPのストック溶液を得た。このストック溶液のスペクトルを、0.1cm光路長の石英セルで1nm間隔で採った(図9B)。100% HFIP中のモノマー性アミリンのストック溶液を、100mM塩化カリウム/50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で2.5% HFIPに希釈した。ヒトアミリン濃度は約5μMであった。ヒトアミリンに対して20倍モル過剰のコンゴーレッドの非存在下(図9C)または存在下(図9D)で、0.5cm光路長の石英セルで1nm間隔でスペクトルを採った。図に示したように、低下する濃度のコンゴーレッドを含有する100mM塩化カリウム/50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で、100% HFIP中のモノマー性アミリンのストック溶液を4% HFIPに希釈した。ヒトアミリン濃度は約4μMであった。スペクトルを、0.1cm光路長の石英セルで1nm間隔で採った(図9E)。200μMのアマランスを含有する100mM塩化カリウム/50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で、100% HFIP中のモノマー性アミリンのストック溶液を4% HFIPに希釈した。ヒトアミリン濃度は約4μMであった。スペクトルを、0.1cm光路長の石英セルで1nm間隔で採った(図9F)。
【0137】
精製したアミリンは、100% HFIPの溶液中で維持するとランダムコイルコンフォメーションで安定化される(図9B)。この溶液は、室温で数日間にわたってこのコンフォメーションで安定である。フィブリルを形成しないラットフィブリルは、水溶液中で同様のスペクトルを示す。しかしストック溶液からヒトアミリンをリン酸塩緩衝液中に希釈すると、217nmの特徴的な極小で見られるように直ちにβ−シート形成が起きる(図9C)。ヒトアミリンのβ−シートコンフォーマーの形成は、不溶性アミリンフィブリル形成の第1段階である。
【0138】
これに対して、過剰のコンゴーレッドを含有する緩衝液へのアミリンの希釈は、β−シートコンフォーマーの形成を防ぎ(図9D)、代わりにアミリンペプチドをα−らせんコンフォメーションで停止させる(205と223nmで極小)。アミリンはα−らせん構造で少なくとも24時間安定であり、不溶性フィブリル形成に進まない。ヒトアミリンに対する低下する濃度のコンゴーレッドの力価測定(図9E)は、化学量論量以下のコンゴーレッドへで、α−らせん(200μMと4μMのコンゴーレッド)からランダムコイル(0.8μMのコンゴーレッド)への変化を示し、これは次にβ−シートを形成する(1時間後0.8μMのコンゴーレッド)。コンゴーレッドは化学量論量のアミリンに結合して、β−シート形成を防ぐようである。
【0139】
コンゴーレッドは多環式化合物の例であり、これは記載の条件下では、アミリンをα−らせんコンフォメーション状態で停止させ、β−コンフォーマー形成への進行、次に不溶性フィブリル形成を防ぐようである。
【0140】
アマランスは、コンゴーレッドに構造が関連した食物色素であり、アミリンに対してコンゴーレッドと類似の作用を有し、過剰のアマランスはβ−コンフォーマーの形成を防ぎ、代わりにアミリンペプチドをα−らせんコンフォメーションで停止させる。
【0141】
実施例6
アミリンフィブリル介在毒性に対する多環式化合物の防御作用
RINm5F細胞中のアミリンフィブリル介在毒性に対する多環式化合物の防御作用(図10)。アミロイド形成の抑制を示した化合物を、培養RINm5F β細胞中でアミロイド誘導性細胞障害性に対する作用の可能性についてさらに調べた。
A. 生存細胞(緑)と死滅細胞(赤)を示す、30μMのヒトアミリンで22時間処理し、カルセイン-AMとエチジウムホモダイマー-1で染色したRINm5F細胞の代表的蛍光顕微鏡写真。矢印は死滅細胞の例である。B. 上記のように30μMのヒトアミリンで処理し100μMのコンゴーレッドで染色したRINm5F細胞の代表的顕微鏡写真。C. ビヒクル;30μMのヒトアミリン;100μMのコンゴーレッドの存在下の30μMのヒトアミリン;30μMのラットアミリンで22時間処理した細胞について、生存細胞のパーセントを測定した。実験は独立に10回繰り返したが、ヒトアミリン+コンゴーレッド(A+CR)については5回繰り返した。誤差棒は、1つの条件について6〜12視野を数えた生存細胞と死滅細胞のs.e.mを示す。統計的有意性は、一元配置分散分析で、次にDunnett検定を使用してpos-hoc分析により検定した。*** p<0.001、## p<0.01。
【0142】
化合物、ニュートラルレッド、アクリジンオレンジ、およびテトラサイクリンは、アミロイド凝集の抑制を引き起こす相対的モル比(低μM)で、RINm5F β細胞に対して細胞障害性であった。従って、これらの実験条件下で内因性ではない細胞障害作用を示したコンゴーレッドに研究を限定した。結果は、RINm5F細胞を30μMのアミリンと22時間インキュベートすると、ビヒクル対照と比較して細胞死が顕著に上昇することを示した(図10C)。これに対して、同一の条件下でラットアミリン調製物は細胞障害性ではなかった。死滅細胞は、緑の生存細胞のバックグランドに対して赤い細胞として見える(図10A)。ヒトアミリンを3倍モル過剰のコンゴーレッドと同時インキュベーションすると、アミリンの細胞障害作用を阻害した(図10B,10C)。コンゴーレッドによるアミリンフィブリルの赤い染色(図10B)がバックグランド中に見える。これらの実験は、アミリンの3つの異なる市販のバッチについて行い、各場合にコンゴーレッドの存在下で有意な防御が観察された。
【0143】
この試験で、アミロイド形成のサプレッサーとしての小さい多環式化合物の使用を調べた。構造/活性相関の可能性を探るために、代表的シリーズの小さい多環式化合物を、その芳香環形態と側鎖成分について、またはすでに報告されている他のアミロイド関連プロセスの阻害に基づいて選択した。コンゴーレッドは、組織病理学で診断的非特異的アミロイド染色としてルーチンに使用される共役ビフェニル構造体である(Khuranaら、J. Biol. Chem. 276:22715-22721 (2001))。この化合物はまた、初代ラット海馬培養物中の繊維性β−アミロイド神経毒性を、おそらくプレアミロイドモノマーの安定化を介して阻害すると報告されている(Lorenzoら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:12243-12247 (1994))。4員環テトラセン誘導体であるテトラサイクリン、およびβ−アミロイド形成の阻害、およびあらかじめ形成されたβ−アミロイドの破壊については、Forloni G.ら、FEBS Lett. 487:404-407 (2001)も参照されたい。フェノチアジン誘導体であるクロルプロマジンは、スクレーピーに感染したマウス細胞培養物の疾患形成性プリオンプラークを消滅させ、細胞生存を延長させると報告されている(Korthら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:9836-9841 (2001))。その異性体であるチオフラビン-Tは、アミロイド形成を測定するための蛍光プローブとして広く使用されている(Goldsburyら、J. Struct. Biol. 130:217-231 (2000))。クロルプロマジンと同様にメチレンブルーは3環式コア構造を有し、臨床的にメトヘモグロビン血症の治療に、および組織病理学で組織を染色するための色素として使用される(Wright ROら (1999) Ann. Emerg. Med. 34:646-656)。3環式フェナジン誘導体であるニュートラルレッドは、膵島を同定し単離するための特異的蛍光色素マーカーとしてルーチンに使用されている(Jager Sら、1990、Eur. Surg. Res. 22:8-13)。アクリジンとアクリジンオレンジは、それぞれコアと誘導体化フェナジン構造体の例である。
【0144】
本試験は、本発明の多環式化合物がインビトロでアミロイド形成を抑制できることを示す。芳香族フェナジンコアは、化合物アクリジンにより示されるように、フィブリル結合を可能にするのに充分であった。このコア構造に2位と8位に2つのジメチルアミン残基を添加するとアクリジンオレンジが得られ、これは不溶性アミロイド形成の強力インヒビターとして作用した。フェナジン誘導体であるニュートラルレッドもまたアミロイド形成を阻害したが、アクリジンオレンジよりは有意に遅い速度であった。これに対して、フェノチアジンコア以外はアクリジンオレンジと構造が同一のメチレンブルーは、何の作用も無かった。
【0145】
放射活性沈降試験により証明されるように、アミロイド形成に対するこれらの3環式化合物の有意な差は、アミロイド結合を可能にする有意な構造相関の存在と、アミロイド形成を抑制する能力とを明瞭に示す。特に、コア環構造はおそらく芳香族π−π相互作用(Gazit E FASEB J 16:77-83 (2002))によりアミロイド結合に充分であるが、環から出ているジメチルアミン側鎖の存在はアミロイド形成の抑制に重要である。同様に、荷電または非荷電フェノチアジン誘導体は、各フェナジン誘導体より有意に有効性は低かった。側鎖基相互作用の重要性はまた、それぞれコンゴーレッドとテトラサイクリンにより示されるように、伸長したビフェニル構造とテトラセン誘導体にも適用される。
【0146】
アミロイド含量の観察された低下の基礎である分子機序は不明である。α−らせん/β−鎖不一致ストレッチがアミロイド形成に関連すると思われるアルツハイマーβ−アミロイドおよびプリオンタンパク質PrPcを含む他のアミロイドーシス(Kallberg Yら、J. Biol. Chem. 276:12945-12950 (2001))とは異なり、アミリンの場合のアミロイド形成は、比較的折り畳まれていないアミロイド形成性領域の凝集を含む経路を介して進む可能性がある。関係する折り畳みアセンブリーの正確な本体については不明であるが、これらの凝集物により、伸長したβ−シート構造と長軸に垂直のβ-鎖配向からなるプロトフィブリルが形成される。特に関係するものは、残基20〜29により規定されるアミロイド形成性領域であり、これは配列NFGAIL(Tenidis Kら、J. Mol. Biol. 295:1055-1071 (2000))を含む。この領域内で25位、28位、および29位でプロリル残基で置換することは、完全な分子によりアミロイド形成を実質的に低下させるのに充分である。本試験で調べた多環式化合物の一部により観察される沈降性のアミロイド含量の低下は、これらのアミロイド形成性領域内の破壊性相互作用が原因である。
【0147】
コンゴーレッドとヒトアミリンを含有する調製物は、ヒトアミリン単独とインキュベートするよりも、培養膵島β−細胞に対する細胞障害性が小さかった。従って多環式化合物によるアミロイドの破壊は必ずしも細胞障害性ではなく、細胞防御性でもある。またインビボで膵島アミロイド形成に対するわずかな阻害作用は、アミロイド除去を支配し促進するための補償性内因性クリアランス機構に充分であるかも知れない。
【0148】
これらの知見は、膵島アミロイド形成のサプレッサー候補としての小さい多環式化合物の有用性を示している。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】ヒトアミリンによるチオフラビン-T蛍光の増強に対する、テトラサイクリンとコンゴーレッドの作用を示す図である。
【図2】ヒトアミリンによるチオフラビン-T蛍光の増強に対する、クロルプロマジンの作用を示す図である。
【図3】ヒトアミリンによるチオフラビン-T蛍光の増強に対する、選択された多環式化合物の作用を示す図である。
【図4】テトラサイクリンの存在下および非存在下でのヒトアミリンフィブリルの電子顕微鏡写真である。
【図5】キナクリンの存在下および非存在下でのヒトアミリンフィブリルの電子顕微鏡写真である。
【図6】選択された多環式化合物の存在下および非存在下でのヒトアミリンフィブリルの電子顕微鏡写真である。
【図7】放射能標識沈降によるアミリンフィブリル形成に対するテトラサイクリンの作用を示す図である。
【図8】放射能標識沈降によるアミリンフィブリル形成に対する選択された多環式化合物の作用を示す図である。
【図9−1】円偏光二色性によるアミリンフィブリル形成へのコンゴーレッドの作用を示す図である。
【図9−2】円偏光二色性によるアミリンフィブリル形成へのコンゴーレッドの作用を示す図である。
【図9−3】円偏光二色性によるアミリンフィブリル形成へのコンゴーレッドの作用を示す図である。
【図10】RINm5F細胞のアミリンフィブリル介在毒性に対するコンゴーレッドの作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、または縮合環およびビフェニル化合物を投与することを含む、細胞障害性タンパク質コンフォーマーの抑制方法。
【請求項2】
プロトフィブリル形成を防止することおよび/または既存のプロトフィブリル沈着物を低下することを含む、アミロイド関連疾患の予防方法。
【請求項3】
哺乳動物で疾患が予防される、請求項2の方法。
【請求項4】
ヒトで疾患が予防される、請求項2の方法。
【請求項5】
疾患は、ALアミロイドーシス、アミロイドAアミロイドーシス、家族性トランスチレティンアミロイドーシス、アルツハイマー病、プリオン疾患、または2型糖尿病よりなる群から選択される、請求項2の方法。
【請求項6】
該疾患はALアミロイドーシスである、請求項2の方法。
【請求項7】
該疾患はアミロイドAアミロイドーシスである、請求項2の方法。
【請求項8】
該疾患は家族性トランスチレティンアミロイドーシスである、請求項2の方法。
【請求項9】
該疾患はアルツハイマー病である、請求項2の方法。
【請求項10】
該疾患はプリオン疾患である、請求項2の方法。
【請求項11】
該疾患は2型糖尿病である、請求項2の方法。
【請求項12】
該プロトフィブリル形成は、有効量の3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、または縮合環およびビフェニル化合物の投与により阻止される、請求項2の方法。
【請求項13】
該3員環ポリアセンはアントラセン、フェナレンまたはフェナントレンを含む、請求項12の方法。
【請求項14】
該置換3員環ポリアセンはキナクリン、ニュートラルレッド、クロルプロマジン、アクリジン、アクリジンオレンジ、メチレンブルー、またはフェノチアジンを含む、請求項12の方法。
【請求項15】
該4員環ポリアセンはピレン、クリセン、ベンズ[a]アントラセン、ベンズ[m]アントラセン、またはテトラセンを含む、請求項12の方法。
【請求項16】
該5員環ポリアセンはベンゾ[c]フェナントレンを含む、請求項12の方法。
【請求項17】
該縮合した4環式化合物はテトラサイクリンまたはドキシサイクリンを含む、請求項12の方法。
【請求項18】
該縮合環およびビフェニル化合物はコンゴーレッドまたはクリサミンGまたはアマランスを含む、請求項12の方法。
【請求項19】
該3員環ポリアセンはアントラセンである、請求項12の方法。
【請求項20】
該3員環ポリアセンはフェナレンである、請求項12の方法。
【請求項21】
該3員環ポリアセンはフェナントレンである、請求項12の方法。
【請求項22】
該置換された3員環ポリアセンはキナクリンである、請求項13の方法。
【請求項23】
該置換された3員環ポリアセンはニュートラルレッドである、請求項13の方法。
【請求項24】
該置換された3員環ポリアセンはクロルプロマジンである、請求項13の方法。
【請求項25】
該置換された3員環ポリアセンはアクリジンである、請求項13の方法。
【請求項26】
該置換された3員環ポリアセンはアクリジンオレンジである、請求項13の方法。
【請求項27】
該置換された3員環ポリアセンはメチレンブルーである、請求項13の方法。
【請求項28】
該置換された3員環ポリアセンはフェノチアジンである、請求項13の方法。
【請求項29】
該4員環ポリアセンはピレンである、請求項14の方法。
【請求項30】
該4員環ポリアセンはクリセンである、請求項14の方法。
【請求項31】
該4員環ポリアセンはベンズ[a]アントラセンである、請求項14の方法。
【請求項32】
該4員環ポリアセンはベンズ[m]アントラセンである、請求項14の方法。
【請求項33】
該4員環ポリアセンはベンゾ[c]フェナントレンである、請求項14の方法。
【請求項34】
該4員環ポリアセンはテトラセンである、請求項14の方法。
【請求項35】
該縮合した4環式化合物はテトラサイクリンである、請求項16の方法。
【請求項36】
該縮合した4環式化合物はドキシサイクリンである、請求項16の方法。
【請求項37】
該縮合環およびビフェニル化合物はコンゴーレッドである、請求項17の方法。
【請求項38】
該縮合環およびビフェニル化合物はクリサミンGである、請求項17の方法。
【請求項39】
該投与される化合物は、基本的にアントラセン、フェナントレン、キナクリン、ニュートラルレッド、クロルプロマジン、アクリジン、アクリジンオレンジ、メチレンブルー、フェノジアジン、フェノチアジン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、コンゴーレッド、ピレン、クリセン、ベンズ[a]アントラセン、ベンズ[m]アントラセン、ベンゾ[c]フェナントレン、およびテトラセンよりなる群から選択される、請求項12の方法。
【請求項40】
該プロトフィブリル形成は、3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、および/または縮合環およびビフェニル化合物の組合せの投与により妨害される、請求項12の方法。
【請求項41】
有効量の3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、または縮合環およびビフェニル化合物を投与することを含む、プロトフィブリル形成を防ぐかまたは阻害する方法。
【請求項42】
該3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、または縮合環およびビフェニル化合物は、アントラセン、フェナントレン、キナクリン、ニュートラルレッド、クロルプロマジン、アクリジン、アクリジンオレンジ、メチレンブルー、フェノジアジン、フェノチアジン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、コンゴーレッド、ピレン、クリセン、ベンズ[a]アントラセン、ベンズ[m]アントラセン、ベンゾ[c]フェナントレン、およびテトラセンを含む、請求項41の方法。
【請求項43】
プロトフィブリル形成を防ぐことを含む、アミロイド関連疾患を改善する方法。
【請求項44】
プロトフィブリル形成を防ぐことを含む、膵島β−細胞死を防ぐ方法。
【請求項45】
プロトフィブリル形成を防ぐことを含む、アミロイド関連疾患に罹りやすいヒトでアミロイド関連疾患を防ぐ方法。
【請求項46】
3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、または縮合環およびビフェニル化合物の適切なものの有効量を投与することを含む、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行を防ぐ方法。
【請求項47】
3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、または縮合環およびビフェニル化合物の適切なものの有効量を投与することを含む、細胞障害性β−コンフォーマー形成を防ぐ方法。
【請求項48】
プロトフィブリル形成前に、3員環ポリアセン、置換された3員環ポリアセン、4員環ポリアセン、5員環ポリアセン、縮合した4環式化合物、または縮合環およびビフェニル化合物の有効量を投与することを含む、アミロイドーシスに関連する疾患を予防または改善する方法。
【請求項49】
アミリン(例えばヒトアミリン)のβ−コンフォーマーをダウンレギュレートするのに有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)β−コンフォーマーが存在するかまたは存在しないアミリン調製物に化合物を投与するステップ;
(ii)β−コンフォーマーのレベルを同定および/または測定し、これにより有効性を決定するステップ、を含む上記方法。
【請求項50】
アミリンの調製物に化合物を投与し、β−コンフォーマー形成を観察することを含む、可溶性アミリンから不溶性アミリンへの移行またはプロトフィブリルの形成により生じるアミロイドに通常関連する毒性を阻止することができる化合物の同定方法。
【請求項51】
ヒトアミリンのβ−コンフォーマーをダウンレギュレートするのに有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)β−コンフォーマーが存在するかまたは存在しないアミリン調製物に化合物を投与するステップ;
(ii)β−コンフォーマーのレベルを同定および/または測定し、これにより有効性を決定するステップ、を含む上記方法。
【請求項52】
化合物は多環式である、請求項51の方法。
【請求項53】
物理的分離、精製、単離および/または沈降により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項51の方法。
【請求項54】
アミリンは少なくとも部分的に標識および/またはタグ付けされている、請求項51の方法。
【請求項55】
標識またはタグは、以下:ラジオアイソトープ、蛍光タグ、酵素的または光学的に検出可能な抗体、の1つ以上を含む請求項51の方法。
【請求項56】
親和性標識の結合または放出により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項51の方法。
【請求項57】
親和性標識はチオフラビン-Tである、請求項51の方法。
【請求項58】
親和性標識はヘパリンまたはその機能性変異体である、請求項51の方法。
【請求項59】
円偏光二色性により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項51の方法。
【請求項60】
電子顕微鏡により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項51の方法。
【請求項61】
請求項51の方法により同定される化合物。
【請求項62】
ランダムコイルおよび/またはα−らせんを含むコンフォメーションから、β−シートを含むコンフォメーションへのアミリンへの移行を阻害、および/または移行速度を低下させるのに有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)β−コンフォーマーが存在するかまたは存在しないアミリン調製物に化合物を投与するステップ;
(ii)β−コンフォーマーのレベルを同定および/または測定し、これにより有効性を決定するステップ、を含む上記方法。
【請求項63】
化合物は多環式である、請求項62の方法。
【請求項64】
物理的分離、精製、単離および/または沈降により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項62の方法。
【請求項65】
アミリンは少なくとも部分的に標識および/またはタグ付けされている、請求項62の方法。
【請求項66】
標識またはタグは、以下:ラジオアイソトープ、蛍光タグ、酵素的または光学的に検出可能な抗体、の1つ以上を含む請求項62の方法。
【請求項67】
親和性標識の結合または放出により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項62の方法。
【請求項68】
親和性標識はチオフラビン-Tである、請求項62の方法。
【請求項69】
親和性標識はヘパリンまたはその機能性変異体である、請求項62の方法。
【請求項70】
円偏光二色性により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項62の方法。
【請求項71】
電子顕微鏡により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項62の方法。
【請求項72】
請求項62の方法により同定される化合物。
【請求項73】
膵島β−細胞変性の抑制、および/または症状の消滅に有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)β−コンフォーマーが存在するかまたは存在しないアミリン調製物に化合物を投与するステップ;
(ii)β−コンフォーマーのレベルを同定および/または測定し、これにより有効性を決定するステップ、を含む上記方法。
【請求項74】
化合物は多環式である、請求項73の方法。
【請求項75】
物理的分離、精製、単離および/または沈降により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項73の方法。
【請求項76】
アミリンは少なくとも部分的に標識および/またはタグ付けされている、請求項73の方法。
【請求項77】
標識またはタグは、以下:ラジオアイソトープ、蛍光タグ、酵素的または光学的に検出可能な抗体、の1つ以上を含む請求項73の方法。
【請求項78】
親和性標識の結合または放出により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項73の方法。
【請求項79】
親和性標識はチオフラビン-Tである、請求項73の方法。
【請求項80】
親和性標識はヘパリンまたはその機能性変異体である、請求項73の方法。
【請求項81】
円偏光二色性により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項73の方法。
【請求項82】
電子顕微鏡により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項73の方法。
【請求項83】
膵島β−細胞変性の抑制、および/または症状の消滅に有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)ヒトアミリンのβ−コンフォーマーを産生できる細胞に化合物を投与するステップ;
(ii)細胞内のまたは細胞外のβ−コンフォーマーを同定および/またはβ−コンフォーマーのレベルを測定し、これにより有効性を決定するステップ;
(iii)細胞に対して細胞障害性のβ−コンフォーマーを形成できる外因性ヒトアミリンとともに化合物を同時投与して、細胞死測定法により細胞の生存能力についての作用を測定するステップ、を含む上記方法。
【請求項84】
化合物は多環式である、請求項83の方法。
【請求項85】
物理的分離、精製、単離および/または沈降により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項83の方法。
【請求項86】
アミリンは少なくとも部分的に標識および/またはタグ付けされている、請求項83の方法。
【請求項87】
標識またはタグは、以下:ラジオアイソトープ、蛍光タグ、酵素的または光学的に検出可能な抗体、の1つ以上を含む請求項83の方法。
【請求項88】
親和性標識の結合または放出により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項83の方法。
【請求項89】
親和性標識はチオフラビン-Tである、請求項83の方法。
【請求項90】
親和性標識はヘパリンまたはその機能性変異体である、請求項83の方法。
【請求項91】
円偏光二色性により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項83の方法。
【請求項92】
電子顕微鏡により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項83の方法。
【請求項93】
請求項83の方法により同定される化合物。
【請求項94】
ヒトアミリンのβ−コンフォーマーをダウンレギュレートするのに有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)ヒトアミリンのβ−コンフォーマーを産生できる細胞に化合物を投与するステップ;
(ii)細胞内のまたは細胞外のβ−コンフォーマーを同定および/またはβ−コンフォーマーのレベルを測定し、これにより有効性を決定するステップ;
(iii)細胞に対して細胞障害性のβ−コンフォーマーを形成できる外因性ヒトアミリンとともに化合物を同時投与して、細胞死測定法により細胞の生存能力についての作用を測定するステップ、を含む上記方法。
【請求項95】
化合物は多環式である、請求項94の方法。
【請求項96】
物理的分離、精製、単離および/または沈降により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項94の方法。
【請求項97】
アミリンは少なくとも部分的に標識および/またはタグ付けされている、請求項94の方法。
【請求項98】
標識またはタグは、以下:ラジオアイソトープ、蛍光タグ、酵素的または光学的に検出可能な抗体、の1つ以上を含む請求項94の方法。
【請求項99】
親和性標識の結合または放出により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項94の方法。
【請求項100】
親和性標識はチオフラビン-Tである、請求項94の方法。
【請求項101】
親和性標識はヘパリンまたはその機能性変異体である、請求項94の方法。
【請求項102】
円偏光二色性により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項94の方法。
【請求項103】
電子顕微鏡により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項94の方法。
【請求項104】
請求項94の方法により同定される化合物。
【請求項105】
ランダムコイルおよび/またはα−らせんを含むコンフォメーションから、β−シートを含むコンフォメーションへのヒトアミリンの移行を阻害、および/または移行速度を低下させるのに有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)ヒトアミリンのβ−コンフォーマーを産生できる細胞に化合物を投与するステップ;
(ii)細胞内のまたは細胞外のβ−コンフォーマーを同定および/またはβ−コンフォーマーのレベルを測定し、これにより有効性を決定するステップ;
(iii)細胞に対して細胞障害性のβ−コンフォーマーを形成できる外因性ヒトアミリンとともに化合物を同時投与して、細胞死測定法により細胞の生存能力についての作用を測定するステップ、を含む上記方法。
【請求項106】
化合物は多環式である、請求項105の方法。
【請求項107】
物理的分離、精製、単離および/または沈降により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項105の方法。
【請求項108】
アミリンは少なくとも部分的に標識および/またはタグ付けされている、請求項105の方法。
【請求項109】
標識またはタグは、以下:ラジオアイソトープ、蛍光タグ、酵素的または光学的に検出可能な抗体、の1つ以上を含む請求項105の方法。
【請求項110】
親和性標識の結合または放出により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項105の方法。
【請求項111】
親和性標識はチオフラビン-Tである、請求項105の方法。
【請求項112】
親和性標識はヘパリンまたはその機能性変異体である、請求項105の方法。
【請求項113】
円偏光二色性により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項105の方法。
【請求項114】
電子顕微鏡により、β−コンフォーマーが同定され、および/またはβ−コンフォーマーのレベルが決定される、請求項105の方法。
【請求項115】
請求項105の方法により同定される化合物。
【請求項116】
ヒトアミリンのβ−コンフォーマーをダウンレギュレートするのに有効な化合物のスクリーニング方法であって、
(i)ヒトアミリンのβ−コンフォーマーを産生できる細胞に化合物を投与するステップ;
(ii)非有効性の指標として細胞死の細胞マーカーの活性化および/またはアップレギュレーションを性状解析および/または測定し、これにより有効性を決定するステップ、を含む上記方法。
【請求項117】
化合物は多環式である、請求項116の方法。
【請求項118】
細胞マーカーはアポトーシスマーカーである、請求項116の方法。
【請求項119】
細胞マーカーは壊死マーカーである、請求項116の方法。
【請求項120】
細胞マーカーは、以下:カスパーゼ8、カスパーゼ3、cJun、JNK、p21、AF1、p53、の1つ以上から選択される請求項116の方法。
【請求項121】
性状解析または測定は、以下:カスパーゼ8、カスパーゼ3、cJun、JNK、p21、WAF1、p53、の1つ以上をコードし得る少なくとも1つのmRNA種を利用する請求項116の方法。
【請求項122】
性状解析または測定は、RT-PCR、ノーザン解析、ハイブリダイゼーション、またはマイクロアレイを利用する、請求項116の方法。
【請求項123】
性状解析または測定は、以下:カスパーゼ8、カスパーゼ3、cJun、JNK、p21、WAF1、p53、の1つ以上のポリペプチドを利用する、請求項116の方法。
【請求項124】
請求項116の方法により同定される化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4】
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【図5】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−510722(P2006−510722A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567079(P2004−567079)
【出願日】平成15年1月29日(2003.1.29)
【国際出願番号】PCT/IB2003/006467
【国際公開番号】WO2004/065614
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(501487003)プロテミックス コーポレイション リミティド (5)
【Fターム(参考)】