説明

終減速装置の潤滑構造

【課題】簡単な構造で、ハウジングの底部に貯留された潤滑油を効果的にデフケース内に取り込むことができる終減速装置の潤滑構造を提供する。
【解決手段】入力軸25に連結するデフリングギヤ2と、ドライブシャフト12と一体に回転するサイドギヤ4およびこのサイドギヤ4に噛合するピニオンギヤ5を収納するギヤ収納室6を有し、デフリングギヤ2と一体に回転するデフケース3と、デフケース3およびデフリングギヤ2を収納するハウジング58と、を備えた終減速装置1において、デフリングギヤ2の側面に、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油を取り込む流入口34を形成し、デフリングギヤ2の内部に、流入口34から流入した潤滑油をギヤ収納室6に導く潤滑油流入路33を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、終減速装置の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪車の終減速装置内の差動機構はデフケース内においてピニオンギヤとサイドギヤとの噛み合い構造を有する。ピニオンギヤとサイドギヤは共にギヤの背面あるいは中央に設けた貫通孔が摺接しながら噛み合いを行うので、その摺接部位に充分な潤滑油を供給することが必要となる。
【0003】
デフケースとして、軸方向両端が閉塞した形状であって円筒面にギヤを組み込むための開口部が設けられ、デフケースを収容するハウジングの底部に貯留された潤滑油を開口部から取り込むことで前記摺接部位に供給するものがある。
【0004】
デフケースの円筒面に形成した開口部は半径方向外方に開口していることから、回転しながらハウジングの底部の潤滑油を大量に取り込むことは困難となりやすい。この問題について、開口部周りを潤滑油を取り込みやすい形状にしたもの(例えば特許文献1参照)や、潤滑油を取り込み部材を開口部に取り付けたもの(例えば特許文献2〜5参照)が開示されている。
【0005】
特許文献1には、潤滑油の流入用の開口部に対してデフケースの外郭に形成されたピニオンシャフト支持用の凸部が逆転方向側に位置し、この凸部の正転方向側の側面がデフケースの外周面に対して鋭角に形成された構造が記載され、当該構造によれば鋭角の側面によって掻き上げられた潤滑油が積極的に開口部に導入される旨記載されている。
【0006】
特許文献2には、金属板からなるオイル掻込部材をデフケースに取り付け、オイル掻込部材によって掻き上げた潤滑油をオイル導入孔に流す技術が記載されている。
特許文献3には、金属板からなるデフオイルはねかけ部材をデフケースに取り付け、デフオイルはねかけ部材でハウジングに貯留された潤滑油の油面をたたき、はねた潤滑油を開口部を通してギヤに供給する技術が記載されている。
特許文献4には、デフケースの開口部の縁に内向きの潤滑油保持リップを設ける技術が記載され、この潤滑油保持リップによれば開口部が上向きとなったときには滴り落ちる潤滑油の流入の妨げとならず、開口部が下向きとなったときには潤滑油のデフケース内からの流出を抑制して、デフケース内の潤滑油の量を確保する旨記載されている。
特許文献5には、ピニオンシャフトの抜け落ちを防止する脱落防止プレートを設け、この脱落防止プレートとデフケースとの間に潤滑油の導入空間を形成し、この導入空間からピニオンシャフトの外周側に設けた誘導路を介して潤滑油を供給する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3915719号公報
【特許文献2】実公平4−52525号公報
【特許文献3】実開平4−19943号公報
【特許文献4】特開2008−128265号公報
【特許文献5】実公平7−44844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜5の技術はいずれも潤滑油流入用の開口部がデフケースの径方向外周において形成されているため、取り込んだ潤滑油が遠心力によって再び開口部から排出されやすいという問題がある。特許文献4には潤滑油の流出を抑制する潤滑油保持リップについて記載されているものの、遠心力により勢いのついた潤滑油の排出の抑制効果はさほど期待できない。
【0009】
また特許文献1〜5の技術では、潤滑油導入用の開口部がデフケースのシェル部に形成されている。ここで一般にデフケースにはシェル部よりも大径のデフリングギヤが一体に設けられており、ハウジングの底部に貯留される潤滑油の油面の高さは主にデフリングギヤの歯を浸漬させることを目的として設定されており、シェル部の浸漬深さはほとんど考慮されていない。したがって、潤滑油流入用の開口部がデフリングギヤに比して小径のデフケースに形成された構造では、キャリアの底部に貯留された潤滑油内での、開口部或いはこの開口部周りに取り付けた潤滑油取り込み用の部材の移動距離が小さなものとなり、充分な潤滑油量の確保はさほど期待できない。
【0010】
さらに特許文献1の技術では、デフケースの外郭にピニオンシャフト支持用の凸部を形成し、かつこの凸部の正転方向側の側面をデフケースの外周面に対して鋭角に形成することから、デフケースの形状が複雑なものとなって成形型のコスト高につながり、デフケースの重量も増加するという問題がある。
【0011】
また特許文献2〜5の技術では、潤滑油導入用の部材をデフケースに取り付けるにあたりボルトやリベット等を利用することから、デフケースの組み付け工数が増えるという問題がある。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するために創案されたものであり、簡単な構造で、ハウジングの底部に貯留された潤滑油を効果的にデフケース内に取り込むことができる終減速装置の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、入力軸に連結するデフリングギヤと、ドライブシャフトと一体に回転するサイドギヤおよび該サイドギヤに噛合するピニオンギヤを収納するギヤ収納室を有し、前記デフリングギヤと一体に回転するデフケースと、前記デフケースおよびデフリングギヤを収納するハウジングと、を備えた終減速装置において、前記デフリングギヤの側面に、前記ハウジングの底部に貯留された潤滑油を取り込む流入口が形成され、前記デフリングギヤの内部に、前記流入口から流入した潤滑油を前記ギヤ収納室に導く潤滑油流入路が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、流入口を大径であるデフリングギヤの側面に形成したことで、ハウジングの底部に貯留された潤滑油内における流入口の円弧状の移動距離をかせぐことが可能となり、シェル部に潤滑油流入用の開口部を設けた従来構造に比して潤滑油の流入量を確保しやすくなる。
【0015】
また、本発明は、前記潤滑油流入路は、前記デフリングギヤの軸回り360度にわたって前記ギヤ収納室に連通する環状空間と、該環状空間と前記流入口とを連通する流入孔路と、からなることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、環状空間を通して潤滑油を効果的にギヤ収納室に導くことができる。
【0017】
また、本発明は、前記潤滑油流入路は、局所的に開口形成されて前記ギヤ収納室に臨む連通口と前記流入口とを線状に連通する流路からなることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、流入口から流入した潤滑油を線状の潤滑油流入路により分散させることなく効果的にギヤ収納室まで流すことができる。また、比較的大きな空洞部をデフリングギヤの内部に形成する必要もなくなり、デフリングギヤの強度を確保しやすくなる。
【0019】
また、本発明は、前記連通口は、前記流入口を通過する前記デフリングギヤの法線よりも後進回転方向寄りに位置することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、前進回転時の円周方向の慣性力が効果的に働いて潤滑油流入路内の潤滑油をスムーズに連通口に向けて流すことができる。
【0021】
また、本発明は、一部が前記デフリングギヤの側面から突出するように前記流入口に挿入固定され、その突出部に前記デフリングギヤの前進回転方向に向けて潤滑油取込口が開口形成された潤滑油取込部材を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、前進回転方向に向けて開口形成された潤滑油取込口によりハウジングの底部に貯留された潤滑油を効果的に潤滑油流入路に取り込むことができる。
【0023】
また、本発明は、前記潤滑油取込部材は、その下流端に形成された潤滑油排出口の方が前記潤滑油取込口よりも開口面積が小さく形成されていることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、潤滑油排出口における潤滑油の流速を高めることができ、デフリングギヤ内の潤滑油流入路から潤滑油取込部材への潤滑油の逆流を抑制できる。
【0025】
また、本発明は、前記デフリングギヤの側面における前記流入口の後進回転方向寄りに、前記ハウジングの底部に貯留された潤滑油を受け止めてその一部を前記流入口に流入させるリブが形成されていることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、ハウジングの底部に貯留された潤滑油がリブからの抵抗を受けて向きを変えるため、その一部を流入口に流入させることができる。
【0027】
また、本発明は、前記デフリングギヤと前記デフケースとが鋳造により一体成形されていることを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、潤滑油流入路を鋳造時に形成することができ、別途の機械加工工程を要することがなくなり、デフリングギヤの製造コスト高を抑えることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、簡単な構造で、ハウジングの底部に貯留された潤滑油を効果的にデフケース内に取り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は終減速装置を模式的に示した構成図であり、(b)は車幅方向から見た終減速装置における入力軸と出力軸の位置関係を示す概略説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す側断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における潤滑構造の要部を車幅方向から見た説明図である。
【図4】図3におけるA−A断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示す側断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態における潤滑構造の要部を車幅方向から見た説明図である。
【図7】本発明の第3実施形態を示す側断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態における潤滑構造の要部を車幅方向から見た説明図である。
【図9】潤滑油取込部材の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る潤滑構造を終減速装置に適用した形態について説明する。図1(a)は終減速装置を模式的に示した構成図である。本図において終減速装置1は、例えば電動機Eの出力軸に連結する入力軸25上に形成された入力ギヤ24と、入力ギヤ24に噛合するアイドラドリブンギヤ23と、アイドラドリブンギヤ23と一体に回転する中間軸21と、中間軸21上に形成されたアイドラドライブギヤ22と噛合しドライブシャフト12と同軸に軸支されたデフリングギヤ2と、該デフリングギヤ2と一体に形成された差動装置とから構成されている。
【0032】
以上の終減速装置1は、概ね図1(b)に示すように車幅方向から見て、終減速装置1のハウジング58内に入力軸25、中間軸21、差動装置が略水平に配置される。以下に本発明の3つの実施形態を示す。
【0033】
「第1実施形態」
図2において、終減速装置1は、入力軸25の入力ギヤ24と噛合するアイドラドリブンギヤ23と、アイドラドリブンギヤ23と一体に形成された中間軸21と、中間軸21に形成されたアイドラドライブギヤ22と、アイドラドライブギヤ22に噛合するデフリングギヤ2と、デフリングギヤ2と一体に回転し、ドライブシャフト12と一体に回転するサイドギヤ4およびこのサイドギヤ4に噛合するピニオンギヤ5を収納するデフケース3と、デフケース3およびデフリングギヤ2を収納するハウジング58とを備える。
なお、図2は概ね図1(b)におけるA−A線に沿った断面図として示されている。
【0034】
デフケース3は、ギヤ収納室6を構成して車幅方向を回転軸Oとして回転する略球殻形状のシェル部7と、回転軸Oを軸心としてシェル部7の車幅方向両端に形成される一対の円筒形状のボス部8とを有する。ギヤ収納室6には、回転軸Oとの直交面に沿うようにしてピニオンシャフト9が配される。ピニオンシャフト9の両端はシェル部7に形成されたシャフト取付孔10に差し込まれ、一方のシャフト取付孔10において固定ピン11によりピニオンシャフト9とシェル部7とが一体化される。
【0035】
ピニオンシャフト9の両端寄りにはピニオンギヤ5がピニオンシャフト9に対し回転自在に取り付けられる。各ボス部8にはドライブシャフト12が挿入され、ギヤ収納室6において、ドライブシャフト12の端部にスプライン結合によりドライブシャフト12と一体回転かつ回転軸Oに沿って摺動可能に取り付けられたサイドギヤ4がピニオンギヤ5に噛合する。サイドギヤ4の背面とギヤ収納室6の内面との間にはスラストワッシャ13が介設される。ボス部8の内周面には、ドライブシャフト12が前進回転方向に回転したときにドライブシャフト12の表面上の潤滑油をギヤ収納室6側に導くための螺旋溝14が形成されている。
【0036】
デフケース3は各ボス部8にて軸受15によりハウジング58に回転自在に支承されている。
【0037】
ハウジング58におけるドライブシャフト12の挿通孔とドライブシャフト12との間にはシール部材17が介設される。そして、シール部材17と前記軸受15との間において、ハウジング58には、シール部材17が取り付けられるドライブシャフト12の挿通孔の径よりも大径の空間である油路空間18が形成される。ハウジング58の内壁を伝って落ちる潤滑油の一部は油路空間18を経由し前記螺旋溝14を通ってデフケース3のギヤ収納室6に供給される。
【0038】
デフケース3のシェル部7の回転軸O方向一方寄りには、デフケース3と一体となって回転軸O回りに回転するデフリングギヤ2が設けられている。本実施形態では、デフリングギヤ2はデフケース3と一体成形により形成されており、回転軸Oとの直交面に沿って延在し、外周部に歯が形成されている。
【0039】
デフリングギヤ2と略水平位置には、回転軸Oと平行に中間軸21が配置されている。中間軸21は両端が開口した筒状の軸部材からなり、外周上にアイドラドライブギヤ22およびアイドラドリブンギヤ23が設けられている。アイドラドライブギヤ22はデフリングギヤ2と噛合し、アイドラドリブンギヤ23は入力軸25の入力ギヤ24に噛合する。中間軸21は両端において軸受26、27に支承され、入力軸25は軸受30、31に支承されている。各軸受26、27、31とハウジング58の内面との間にはそれぞれ油路空間28、29、32が形成される。
【0040】
前記したように、ハウジング58の内壁に付着した潤滑油の一部は、油路空間18を経由し螺旋溝14を通ってデフケース3のギヤ収納室6に入り込み、サイドギヤ4とピニオンギヤ5との噛合部19に供給される。しかし、この構造はハウジング58の内壁を潤滑油の流路として利用することから、ハウジング58の内壁の形状によっては潤滑油を効果的に油路空間18まで導くことができないという問題や、これを解決するためにハウジング58の内壁の形状を複雑にせざるを得ないという問題が生じ得る。
【0041】
これに対し、本発明に係る潤滑構造は、デフリングギヤ2の側面に、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油を取り込む流入口34が形成され、デフリングギヤ2の内部に、流入口34から流入した潤滑油をギヤ収納室6に導く潤滑油流入路33が形成される。本実施形態の潤滑油流入路33は、デフリングギヤ2の軸(すなわち回転軸O)回り360度にわたってギヤ収納室6に連通する環状空間35と、この環状空間35と流入口34とを連通する局所的に穿孔された流入孔路36とからなる。環状空間35はサイドギヤ4とピニオンギヤ5との噛合部19に臨むようにギヤ収納室6と連通する。
【0042】
ハウジング58の底部に貯留された潤滑油の油面Hの高さは、概ねシェル部7の下端近傍に位置しており、デフリングギヤ2の下側の歯を充分に浸漬する高さである。デフリングギヤ2はシェル部7よりも大径であり、流入口34はこの大径のデフリングギヤ2の歯の根元近傍に位置している。したがって、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油内における流入口34の移動距離は大きなものとなり、シェル部に潤滑油流入用の開口部を設ける従来構造に比して潤滑油の流入量を確保しやすくなる。
【0043】
流入口34(流入孔路36)の個数や孔径は潤滑油量に応じて適宜に決定される。流入口34が複数形成される場合は、デフリングギヤ2の円周方向に等間隔で設けられる。図3では6つの流入口34が形成された場合を示している。流入孔路36はその孔軸が概ね回転軸Oと平行となるように形成される。
【0044】
流入口34には、一部がデフリングギヤ2の側面から突出するようにして、その突出部にデフリングギヤ2の前進回転方向に向けて潤滑油取込口37aが開口形成された潤滑油取込部材37が挿入固定される。図4、図9に示すように、潤滑油取込部材37には環状のフランジ37bが形成され、このフランジ37bがデフリングギヤ2の側面にあてがわれる態様で潤滑油取込部材37が流入口34に挿入される。潤滑油取込部材37は例えば圧入等の態様で流入口34に差し込まれて流入孔路36内に挿入固定される。
【0045】
本実施形態ではデフリングギヤ2の側面の外周縁周りは図2に示すように回転軸O方向に若干量突設されており、これにより流入口34の位置よりもデフリングギヤ2の径方向外方の位置においてデフリングギヤ2には、図3に示すように回転軸O方向に沿って立ち上がる環状の段差面20が形成されている。図9に示すように潤滑油取込部材37のフランジ37bの一部には位置決め壁37eが形成されており、この位置決め壁37eが図3に示すように段差面20に当接することで、潤滑油取込部材37は潤滑油取込口37aがデフリングギヤ2の前進回転方向に向けて開口するように位置決めされて流入口34に挿入固定される。
【0046】
また、図4に示すように潤滑油取込部材37の内部には傾斜面37cが形成され、この傾斜面37cにより潤滑油取込部材37内の流路は下流側が狭小となり、下流端に形成される潤滑油排出口37dの開口面積の方が潤滑油取込口37aの開口面積よりも小さく形成されている。潤滑油排出口37dは回転軸O(図2)方向に向けて開口形成されて環状空間35(図2)に臨む。以上の潤滑油取込部材37は例えば樹脂成形品や鋼材品等からなる。
【0047】
潤滑油流入路33は、デフリングギヤ2を鋳造により成形することで容易に形成可能である。本実施形態ではデフリングギヤ2とデフケース3とを鋳造により一体に成形している。従来、デフケースとデフリングギヤの構造として、環状のフランジを形成した鋳造製のデフケースに対し、浸炭処理等を施した鋼材からなるデフリングギヤを前記フランジにボルトにより締結固定する構造が一般的である。デフリングギヤとしては歯の強度等の点から炭素鋼が多く用いられているが、この炭素鋼に潤滑油流入路33とりわけ環状空間35を形成することは、その分の機械加工工程が増えるためコスト高につながりやすい。
【0048】
これに対しデフリングギヤ2とデフケース3とを鋳造により一体成形することで、環状空間35をその鋳造時に形成することができ、別途の機械加工工程を要することがなくなりコスト高を抑えることができる。鋳鉄としては、例えば熱処理により疲労強度を向上させた球状黒鉛鋳鉄を用いることにより、環状空間35のような大きな空洞部を形成する場合であってもデフリングギヤ2の強度を確保できる。したがって、例えば環状空間35を歯の根元近傍まで形成することによる環状空間35内の容積の確保とデフリングギヤ2の強度の確保の両立を図ることができる。球状黒鉛鋳鉄の熱処理手法としては例えば特公昭61−19698号公報、特許第3723706号等に記載されたものを好適に利用することができる。
【0049】
「作用」
電動機Eからの回転入力により中間軸21を介してデフリングギヤ2およびデフケース3が一体に前進回転方向に回転すると、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油の一部が、前進回転方向に向けて開口形成された潤滑油取込部材37の潤滑油取込口37aに効果的に取り込まれる。潤滑油取込部材37は、潤滑油排出口37dの開口面積の方が潤滑油取込口37aの開口面積よりも小さく形成されているため、潤滑油排出口37dにおける潤滑油の流速が高まり、潤滑油は潤滑油排出口37dから環状空間35に勢いをつけて排出される。したがって、環状空間35側から潤滑油排出口37dへの潤滑油の逆流も抑制される。環状空間35に排出された潤滑油は主に環状空間35の内壁を伝ってギヤ収納室6に流れ、サイドギヤ4とピニオンギヤ5との噛合部19に供給される。
【0050】
以上のように、デフリングギヤ2の側面に、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油を取り込む流入口34を形成し、デフリングギヤ2の内部に、流入口34から流入した潤滑油をギヤ収納室6に導く潤滑油流入路33を形成すれば、流入口34を大径であるデフリングギヤ2の側面に形成したことで、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油内における流入口34の移動距離をかせぐことが可能となり、シェル部に潤滑油流入用の開口部を設けた従来構造に比して潤滑油の流入量を確保しやすくなる。これにより、仮に螺旋溝14を経由するギヤ収納室6への潤滑油の量が不足する場合には、その不足分を潤滑油流入路33経由の潤滑油で補うことができる。
【0051】
また、潤滑油流入路33を、デフリングギヤ2の軸(回転軸O)回り360度にわたってギヤ収納室6に連通する環状空間35と、環状空間35と流入口34とを連通する流入孔路36とから構成すれば、環状空間35を通して潤滑油を効果的にギヤ収納室6に導くことができる。
【0052】
さらに、一部がデフリングギヤ2の側面から突出するように流入口34に挿入固定され、その突出部にデフリングギヤ2の前進回転方向に向けて潤滑油取込口37aが開口形成された潤滑油取込部材37を備える構成とすれば、前進回転方向に向けて開口形成された潤滑油取込口37aによりハウジング58の底部に貯留された潤滑油を効果的に潤滑油流入路33に取り込むことができる。そして、この潤滑油取込部材37において、その下流端に形成された潤滑油排出口37dの開口面積を潤滑油取込口37aの開口面積よりも小さく形成することで、潤滑油排出口37dにおける潤滑油の流速を高めることができ、デフリングギヤ2内の潤滑油流入路33から潤滑油取込部材37への潤滑油の逆流を抑制できる。
【0053】
「第2実施形態」
図5および図6は第2実施形態にかかる図面であり、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。なお、図5は概ね図1(b)におけるA−A線に沿った断面図として示されている。
第2実施形態は、潤滑油流入路33が、局所的に開口形成されてギヤ収納室6に臨む連通口38と流入口34とを線状に連通する流路からなる。つまり、第1実施形態では、流入口34からギヤ収納室6までにわたる流路の内、ギヤ収納室6と回転軸O回り360度にわたって連通する環状空間35が介在しており、流入口34と環状空間35との間のみ線状の流入孔路36が形成された構造であるのに対し、第2実施形態の潤滑油流入路33は、流入口34からギヤ収納室6に臨む連通口38までにわたり概ね1本の線状の流路として形成される。
【0054】
潤滑油流入路33は、第1実施形態と同様の流入孔路36、すなわちデフリングギヤ2の歯の根元近傍において回転軸Oと平行の孔軸を有するように形成される流入孔路36と、この流入孔路36と連通口38とを連通する比較的流路断面積の大きい下流路39とからなる。流入孔路36の流路断面積は下流路39のそれよりも小さい。
【0055】
流入口34(流入孔路36)の個数や孔径は潤滑油量に応じて適宜に決定される。流入口34が複数形成される場合は、デフリングギヤ2の円周方向に等間隔で設けられる。図6では回転軸Oを挟んで180度正対する位置に一対の流入口34が形成された場合を示している。回転軸O方向から見た下流路39の向きとしては、例えばデフリングギヤ2の径方向に沿って形成し、流入口34と連通口38とを同じ法線上に位置させてもよいが、図6に示されるように、連通口38を、流入口34を通過するデフリングギヤ2の法線Nよりも後進回転方向寄りに位置させることで、前進回転時の円周方向の慣性力が効果的に働いて下流路39内の潤滑油がスムーズに径内方向に向けて流れ、潤滑油が連通口38からギヤ収納室6(図5)に供給される。回転軸O方向から見て、下流路39は下流に向かうにしたがい前記法線Nから漸次離間するように形成される。
【0056】
次に本実施形態では、デフリングギヤ2の側面における流入口34の後進回転方向寄りに、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油を受け止めてその一部を流入口34に流入させるリブ40が形成されている。リブ40はデフリングギヤ2の径方向に沿って形成されており、径方向外側の端部は環状の段差面20に連なる。図6から判るように、流入口34は概ねリブ40と段差面20とのコーナー部の近傍に位置する。
【0057】
本実施形態の潤滑油流入路33についてもデフリングギヤ2を鋳造により成形することで容易に形成可能であり、本実施形態でもデフリングギヤ2とデフケース3とが鋳造により一体に成形されている。
【0058】
「作用」
電動機Eからの回転入力により中間軸21を介してデフリングギヤ2およびデフケース3が一体に前進回転方向に回転すると、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油がリブ40の壁面による抵抗を受けて向きを変え、その一部がリブ40よりも前進回転方向側に位置している流入口34に効果的に流入する。特に本実施形態の場合、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油がリブ40の壁面に当たると、潤滑油はリブ40に沿って流れてリブ40と段差面20とのコーナー部に集まるので、このコーナー部に位置した流入口34に潤滑油が一層効果的に流入する。流入口34から潤滑油流入路33内に流入した潤滑油は下流路39を通って連通口38からギヤ収納室6に流れ、サイドギヤ4とピニオンギヤ5との噛合部19に供給される。
【0059】
以上のように、潤滑油流入路33を、局所的に開口形成されてギヤ収納室6に臨む連通口38と流入口34とを線状に連通する流路から構成した第2実施形態の潤滑構造によれば、流入口34から流入した潤滑油を線状の潤滑油流入路33により分散させることなく効果的にギヤ収納室6まで流すことができる。また、第1実施形態の環状空間35のような比較的大きな空洞部がデフリングギヤ2の内部に形成されることがないため、デフリングギヤ2の強度を確保しやすくなる。
【0060】
また、デフリングギヤ2の側面における流入口34の後進回転方向寄りに、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油を受け止めてその一部を流入口34に流入させるリブ40を形成すれば、潤滑油を効果的に流入口34に流入させることができる。
【0061】
「第3実施形態」
図7および図8は第3実施形態にかかる図面であり、第1実施形態または第2実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。なお、図7は概ね図1(b)におけるA−A線に沿った断面図として示されている。
第3実施形態は、第2実施形態に対し、リブ40の形成に代えて潤滑油取込部材37を第1実施形態と同様の取り付け態様により流入口34に取り付けた形態である。その他の構成は第2実施形態と同様である。
【0062】
「作用」
電動機Eからの回転入力により中間軸21を介してデフリングギヤ2およびデフケース3が一体に前進回転方向に回転すると、ハウジング58の底部に貯留された潤滑油の一部が、前進回転方向に向けて開口形成された潤滑油取込部材37の潤滑油取込口37aに効果的に取り込まれる。潤滑油取込部材37は、潤滑油排出口37dの開口面積の方が潤滑油取込口37aの開口面積よりも小さく形成されているため、潤滑油排出口37dにおける潤滑油の流速が高まり、潤滑油は潤滑油排出口37dから下流路39に勢いをつけて排出される。したがって、下流路39側から潤滑油排出口37dへの潤滑油の逆流も抑制される。下流路39に排出された潤滑油は連通口38からギヤ収納室6に流れ、サイドギヤ4とピニオンギヤ5との噛合部19に供給される。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。第1実施形態においては、潤滑油取込部材37の代わりに第2実施形態におけるリブ40を形成する構造としてもよい。
また、第2実施形態および第3実施形態における下流路39は、図6や図8に示すように回転軸O方向から見て直線状に形成されることに限定されず、例えば径外方向或いは径内方向に凸となる緩やかな円弧状の流路とすることも可能である。
また、入力軸25としては電動機Eに連結したものに限られず、変速装置等に連結したものであってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 終減速装置
2 デフリングギヤ
3 デフケース
4 サイドギヤ
5 ピニオンギヤ
6 ギヤ収納室
12 ドライブシャフト
21 中間軸
22 アイドラドライブギヤ
23 アイドラドリブンギヤ
25 入力軸
33 潤滑油流入路
34 流入口
35 環状空間
36 流入孔路
37 潤滑油取込部材
38 連通口
39 下流路
40 リブ
58 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に連結するデフリングギヤと、
ドライブシャフトと一体に回転するサイドギヤおよび該サイドギヤに噛合するピニオンギヤを収納するギヤ収納室を有し、前記デフリングギヤと一体に回転するデフケースと、
前記デフケースおよびデフリングギヤを収納するハウジングと、
を備えた終減速装置において、
前記デフリングギヤの側面に、前記ハウジングの底部に貯留された潤滑油を取り込む流入口が形成され、
前記デフリングギヤの内部に、前記流入口から流入した潤滑油を前記ギヤ収納室に導く潤滑油流入路が形成されていることを特徴とする終減速装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記潤滑油流入路は、前記デフリングギヤの軸回り360度にわたって前記ギヤ収納室に連通する環状空間と、該環状空間と前記流入口とを連通する流入孔路と、からなることを特徴とする請求項1に記載の終減速装置の潤滑構造。
【請求項3】
前記潤滑油流入路は、局所的に開口形成されて前記ギヤ収納室に臨む連通口と前記流入口とを線状に連通する流路からなることを特徴とする請求項1に記載の終減速装置の潤滑構造。
【請求項4】
前記連通口は、前記流入口を通過する前記デフリングギヤの法線よりも後進回転方向寄りに位置することを特徴とする請求項3に記載の終減速装置の潤滑構造。
【請求項5】
一部が前記デフリングギヤの側面から突出するように前記流入口に挿入固定され、その突出部に前記デフリングギヤの前進回転方向に向けて潤滑油取込口が開口形成された潤滑油取込部材を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の終減速装置の潤滑構造。
【請求項6】
前記潤滑油取込部材は、その下流端に形成された潤滑油排出口の方が前記潤滑油取込口よりも開口面積が小さく形成されていることを特徴とする請求項5に記載の終減速装置の潤滑構造。
【請求項7】
前記デフリングギヤの側面における前記流入口の後進回転方向寄りに、前記ハウジングの底部に貯留された潤滑油を受け止めてその一部を前記流入口に流入させるリブが形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の終減速装置の潤滑構造。
【請求項8】
前記デフリングギヤと前記デフケースとが鋳造により一体成形されていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の終減速装置の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−60977(P2013−60977A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198363(P2011−198363)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】