組換えアデノウイルスベクターおよび使用方法
【課題】安全で、かつ効果的な遺伝子治療処置を提供するために高レベルの遺伝子導入効率およびタンパク質発現を供給するベクターおよび方法の提供。
【解決手段】組換えアデノウイルス発現ベクターを包含する薬学的組成物であって、該組換えアデノウイルス発現ベクターが、さらに部分的または全体的に欠失したタンパク質IXDNAおよび外来タンパク質をコードする遺伝子を包含する薬学的組成物であり、1つの局面において、上記タンパク質IX 遺伝子配列の欠失が5'ウイルス末端の約3500bpから5'ウイルス末端の約4000bpに広がっており、または、他の実施形態においては、アデノウイルスの初期領域3および/または初期領域4の非必須DNA配列の欠失をさらに包含する、薬学的組成物。
【解決手段】組換えアデノウイルス発現ベクターを包含する薬学的組成物であって、該組換えアデノウイルス発現ベクターが、さらに部分的または全体的に欠失したタンパク質IXDNAおよび外来タンパク質をコードする遺伝子を包含する薬学的組成物であり、1つの局面において、上記タンパク質IX 遺伝子配列の欠失が5'ウイルス末端の約3500bpから5'ウイルス末端の約4000bpに広がっており、または、他の実施形態においては、アデノウイルスの初期領域3および/または初期領域4の非必須DNA配列の欠失をさらに包含する、薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本出願は、1994年5月19日に出願された米国特許出願第08/233,777号の一部継続出願であり、これは1993年10月25日に出願された米国特許出願第08/142,669号の一部継続出願である。その内容は本明細書に参考として援用されている。
【0002】
本出願は、全体を通して請求項の直前の括弧内および引用文献の記載の引例によって種々の刊行物を参照している。ここでは、これらの刊行物の開示は、本明細に参照することにより、本発明特許の当該分野の状態をより完全に記載するために、援用されている。
【0003】
遺伝子治療に有効な組換えアデノウイルスの生産は、これらの組換えウイルスが欠失しているウイルスのE1領域の遺伝子産物をトランスで供給し得る細胞株の使用を必要とす
る。現在では、唯一の有効な入手可能な細胞株は、1977年にGrahamらによって最初に記載された293細胞株である。293細胞は、アデノウイルス5型ゲノム(Aiello(1979)およびSpector(1983))の左側の約12%(4.3kb)を含む。
【0004】
現在遺伝子治療の適用が試みられているアデノウイルスベクターは、代表的には、ウイルスゲノムの5'末端の約400塩基対から5'末端の約3.3 kbに広がるAd2またはAd5DNAを欠失し、合計2.9kbのE1を欠失している。それゆえ、組換えウイルスのDNA配列と細胞株内のAd5DNAとの間には、約1kbの相同な限定領域が存在する。この相同性は、ウイルス性と細胞性のアデノウイルス配列間での可能な組換え領域を定義している。このような組換えは、表現型的には、293細胞由来のAd5E1領域を有する野生型ウイルスを生じる。この組換え事象は、おそらく組換えウイルスの調製物中に野生型アデノウイルスを頻繁に検出する原因であり、そしてAd2を基礎とした組換えウイルスAd2/CFTR−1への野生型の混入の原因として、直接示された(Richら(1993))。
【0005】
C群アデノウイルス亜群内での高度な配列相同性のために、このような組換えは、ベクターがC群アデノウイルス(1、2、5、6型)のいずれかを基礎としている場合、おそらく生じる。
【0006】
組換えアデノウイルスの小規模な生産では、野生型ウイルスの混入の発生は、混入が見つかったこれらのウイルス調製物を捨てるというスクリーニングプロセスによって管理され得る。ウイルス生産の規模が遺伝子治療の予期される需要に見合うように拡大すると、1つのロットに野生型ウイルスが混入している可能性はまた、非混入組換え調製物の供給の困難性と同様に生じ得る。
【0007】
今年初めてガンと診断された百万以上の事例があり、そしてその半数がガンに関連して死んでいる(American Cancer Society、1993)。ヒトのガンに関係した最も一般的な遺伝
変化はp53変異である(Hollsteinら、(1991);Bartekら、(1991);Levine(1993))。p53欠
失腫瘍を治療する遺伝子治療の目的は、例えば、細胞増殖の制御を回復させるために、正常で機能的な野生型p53遺伝子のコピーを回復させることである。p53が、細胞周期進行に中心的な役割を果たし、成長を停止することにより、修復またはアポトーシスがDNA損傷
に応答して起こり得る。最近、野生型p53は、放射線照射またはいくつかの化学治療剤で
の治療により誘導されるアポトーシスの必須成分であると同定された(Loweら(1993)AおよびB)。ヒト腫瘍のp53変異の高い罹患率のために、化学療法および放射線照射治療に難治
性になった腫瘍が、部分的には野生型p53を欠損することはあり得る。機能的なp53をこれらの腫瘍に再供給することにより、腫瘍が、放射線照射および化学療法で誘導されるDNA損傷に正常に関係したアポトーシスし得ることは理論にあっている。
【0008】
好結果のヒト腫瘍抑制遺伝子治療の臨界点の1つは、ガン細胞の有意な割合に影響する能力である。レトロウイルスベクターの使用は、種々の腫瘍モデルでこの目的のために広く探索されてきた。例えば、悪性肝腫瘍の治療のために、レトロウイルスベクターが用いられたが、これらのベクターではインビボでの遺伝子治療に必要な高レベルの遺伝子導入が得られなかったために、ほとんど成功しなかった(Huber、B.E.ら、1991;CarusoM.ら
、1993)。
【0009】
ウイルス生産のより適切な供給源を得るために、研究者は、固形腫瘍にレトロウイルス充填細胞株を直接注入することにより、低レベルの遺伝子導入に関する問題を克服しようと試みた(CarusoM.ら、1993;Ezzidine、Z.D.ら、1991;Culver、K.W.ら、1992)。しか
し、これらの方法は、ヒト患者に使用するには不十分である。なぜなら、この方法は困難であり、そして患者の充填細胞株に対して炎症反応を誘導するからである。レトロウイルスベクターの他の不利益は、レトロウイルスベクターが効率的に組み込まれて、目的の組換え遺伝子が発現するためには、分裂細胞を必要とすることである(Huber,B.E.1991)。必須宿主遺伝子への安定な組み込みによって、発病性病状の発達または遺伝を導き得る。
【0010】
組換えアデノウイルスは、レトロウイルスまたは他の遺伝子の送達法より明確な有利性がある(論評はSiegfried(1993)参照)。アデノウイルスは今までヒトに腫瘍を誘導したことを示されたことがなく、そして安全な生ワクチンとして使用されてきた(Straus(1984))。複製欠損組換えアデノウイルスは、複製に必要なE1領域を標的遺伝子に置換することにより生産され得る。アデノウイルスは、感染の正常な結果としてヒトゲノムに組み込まず、それによりレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで起き得
る挿入変異の危険性を大幅に減少し得る。染色体外DNAが、正常細胞の連続的な分裂で徐
々に失われるため、この安定な組み込みの欠損はまた、別の安全性をもたらす、すなわち形トランスフェクトされた遺伝子の効果は一時的である。安定的で高力価の組換えアデノウイルスは、レトロウイルスやAAVで得られないレベルで生産され得るので、大きな患者
人口を治療するために十分量の物質が生産され得る。さらに、アデノウイルスベクターは、広範囲の組織および腫瘍細胞型へのインビボの遺伝子導入に大変効率的であり得る。例えば、他の人々は、アデノウイルス媒介遺伝子送達は、膀胱線維症(Rosenfeldら、(1992);Richら、(1993))、およびα1−抗トリプシン欠損症(Lemarchandら(1992))のような疾患の遺伝子治療に強い可能性を持つことを示した。現在、遺伝子送達の別の代替法(例えば、カチオン化リポソーム/DNA複合体)が探索されているが、アデノウイルス媒介遺伝子送達ほど効果的なものはまだない。
【0011】
p53欠損腫瘍を治療すると同様に、他の腫瘍のための遺伝子治療の目標は、細胞増殖の
制御を回復することである。p53の場合、機能的な遺伝子の導入は、治療剤に誘導される
アポトーシス細胞死を可能にする細胞周期の制御を回復する。同様に、遺伝子治療は、腫瘍細胞の細胞周期進行を制御し、そして/または細胞死を誘導するために、単独または治療剤と併用して使用し得る他の腫瘍抑制遺伝子に対しても同等に適用し得る。さらに、細胞周期調節タンパク質をコードしないが、自殺遺伝子のように細胞死を直接誘導する遺伝子、または細胞に直接細胞障害性である遺伝子が、腫瘍細胞の細胞周期進行を直接排除するための遺伝子治療プロトコルに使用され得る。
【0012】
遺伝子が、細胞周期進行の制御を回復するために使用されるにもかかわらず、このアプローチの原理および実際の適用性は同一である。すなわち、高い効率の遺伝子導入を得、治療量の組換え産物を発現する。従って、患者に最小限の危険性で、高い効率の遺伝子導入を可能にするために、どのベクターを使用するかという選択は、遺伝子治療処置の成功レベルに重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、安全で、かつ効果的な遺伝子治療処置を提供するために高レベルの遺伝子導入効率およびタンパク質発現を供給するベクターおよび方法の必要性がある。本発明は、この必要性を満たし、そのうえ関連の有利性を供給する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(項目1) 組換えアデノウイルス発現ベクターを包含する薬学的組成物であって、該組換えアデノウイルス発現ベクターが、さらに部分的または全体的に欠失したタンパク質IX
DNAおよび外来タンパク質をコードする遺伝子を包含する薬学的組成物。
(項目2) 前記タンパク質IX 遺伝子配列の欠失が5'ウイルス末端の約3500bpから5'ウイルス末端の約4000bpに広がる項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3) アデノウイルスの初期領域3および/または初期領域4の非必須DNA配列の
欠失をさらに包含する、項目2に記載の薬学的組成物。
(項目4) アデノウイルスE1aおよびE1bと称されるDNA配列の欠失をさらに包含する、
項目2に記載の薬学的組成物。
(項目5) 初期領域3および/または初期領域4、ならびにアデノウイルスE1aおよびE1bと称されるDNA配列の欠失をさらに包含する、項目2に記載の薬学的組成物。
(項目6) E1aおよびE1bの3'位置の40までのヌクレオチドの欠失、タンパク質IXの欠失、およびポリアデニル化シグナルをコードする外来DNA分子を包含する、項目4または5に記載の薬学的組成物。
(項目7) 前記アデノウイルスが血清型1、2、5、または6から選択されるC群アデノウイルスである、項目1から6に記載の薬学的組成物。
(項目8) 前記遺伝子が2) 6キロベースまでのDNA分子である、項目1に記載の薬学
的組成物。
(項目9) 前記遺伝子が4) 5キロベースまでのDNA分子である、項目6に記載の薬学
的組成物。
(項目10) 前記遺伝子が外来性機能タンパク質または生物学的に活性なそのフラグメントをコードする、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目11) 前記遺伝子が外来性機能腫瘍抑制タンパク質または生物学的に活性なそのフラグメントをコードする、項目10に記載の薬学的組成物。
(項目12) 前記遺伝子が自殺タンパク質または機能的にそれと等価のタンパク質をコードする、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目13) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および外来タンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびに遺伝子治療のための1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目14) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および外来性機能タンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびに過剰増殖哺乳類細胞を形質転換するための1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目15) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および外来性機能タンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびにガンを治療するための1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目16) 前記遺伝子にコードされる前記外来性機能タンパク質が腫瘍抑制タンパク質であり、そして前記ガンが内因性野生型腫瘍抑制タンパク質の不足に関する、項目15に記載の使用。
(項目17) 前記腫瘍が非小細胞肺ガン、小細胞肺ガン、肝ガン、黒色腫、網膜芽腫、乳ガン、結腸直腸ガン、白血病、リンパ腫、脳腫瘍、頚ガン、肉腫、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、網内細胞組織の腫瘍、ウィルムス腫瘍、星状細胞腫、膠芽腫、神経芽腫、卵巣腫瘍、骨肉腫、および腎ガンである、項目16に記載の使用。
(項目18) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および自殺タンパク質または機能的にそれと等価のタンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびに動物体内の腫瘍の増殖を阻害する1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目19) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および自殺タンパク質または機能的にそれと等価のタンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、有効量のチミジンキナーゼ代謝産物またはその機能的等価物、ならびに被験体内の腫瘍細胞の増殖を阻害する1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目20) チミジンキナーゼ代謝産物がガンシクロビル、または6−メトキシプリンアラビノヌクレオチド、またはその機能的等価物である、項目19に記載の使用。
(項目21) 腫瘍細胞が肝細胞ガンである、項目19に記載の使用。
(項目22) 腫瘍細胞の増殖を減少させるキットであって、項目12の薬学的組成物の成分、チミジンキナーゼ代謝産物またはその機能的等価物、薬学的キャリア、および該キットを用いる肝細胞ガンの治療用の使用説明書を包含する、キット。
【0015】
発明の要旨
本発明は、部分的または全体的に欠失したアデノウイルスのタンパク質IX DNA、および外来タンパク質またはその機能的フラグメントまたは変異体をコードする遺伝子を有することで特徴付けられる組換えアデノウイルス発現ベクターを提供する。形質転換した宿主細胞、および組換えタンパク質の生産方法、および遺伝子治療はまた、本発明の範囲内に包含されている。従って、例えば、本発明のアデノウイルスベクターは、細胞周期の調節に効果的なタンパク質(例えば、p53、Rb、またはミトシン(mitosin))または細胞死の誘導に効果的なタンパク質(例えば、条件的自殺遺伝子チミジンキナーゼ)の発現のための外来遺伝子を含有し得る。(後者は、効果的にするために、チミジンキナーゼ代謝産物とともに使用しなければならない。)
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】図1は、本発明の組換えアデノウイルスベクターを示す。この構築物は、図1に示したように組み立てられた。生じたウイルスは、ヌクレオチド356から4020に広がるアデノウイルス塩基配列の5'欠失を有し、そして所望の遺伝子の転写を終えるのに用いるE1bおよびpIX遺伝子に共有されるポリアデニル化部位を完全に残して、E1aおよびE1b遺伝子ならびに完全なタンパク質IXコーディング配列を削除する。
【図1B】図1は、本発明の組換えアデノウイルスベクターを示す。この構築物は、図1に示したように組み立てられた。生じたウイルスは、ヌクレオチド356から4020に広がるアデノウイルス塩基配列の5'欠失を有し、そして所望の遺伝子の転写を終えるのに用いるE1bおよびpIX遺伝子に共有されるポリアデニル化部位を完全に残して、E1aおよびE1b遺伝子ならびに完全なタンパク質IXコーディング配列を削除する。
【図2A】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図2B】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図2C】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図2D】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図3A】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図3B】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図3C】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図3D】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図4】図4は、本発明の範囲内の組換えp53/アデノウイルス構築物を模式的に示す。p53組換え体は、Ad5に基づき、そして、Ad2MLP(A/M/53)またはヒトCMV(A/C/53)プロモーターに続くAd2トリパータイトリーダーcDNAにより駆動される全長1.4kbのp53cDNAで置換したヌクレオチド360〜3325のE1領域を持っていた。コントロールウイルスA/Mは、A/M/53ウイルスと同一のAd5の欠失を有するが、1.4kbのp53cDNA挿入物を欠く。残存E1b配列(705ヌクレオチド)は、タンパク質IX欠失構築物A/M/N/53およびA/C/N/53を作製するために欠失された。これらの構築物はまた、アデノウイルス5型領域E3内に1.9kbのXbaI欠失を有する。
【図5】図5Aおよび5Bは、A/M/53およびA/C/53に感染した腫瘍細胞内でのp53タンパク質の発現を示す。図5A)Saos−2(骨肉腫)細胞は、A/M/53またはA/C/53のいずれかの精製されたウイルスで記載の感染多重度(MOI)で感染され、そして24時間後に回収された。p53抗体pAb1801は、等量の総タンパク質濃度を流したサンプルのイムノブロット染色に使用された。等量のタンパク質濃度のSW480細胞(これは、変異p53タンパク質を過剰発現する)の抽出物は、p53のサイズマーカーとして使用された。A/C/53の見出しの下の「0」は、未処理Saos−2溶解物を含む偽感染を示す。図5B)Hep3B(肝細胞ガン)細胞は、A/M/53またはA/C/53のウイルスで記載のMOIで感染され、そしてパートA)と同様に解析した。矢印は、p53タンパク質の位置を示す。
【図6】図6Aから6Cは、p53依存性Saos−2の形態変化を示す。密集以下のSaosー2細胞(1×105細胞/10cmプレート)は、非感染(A)、MOI=50のコントロールA/Mウイルスで感染(B)、またはMOI=50のA/C/53ウイルスで感染(C)された。細胞は、感染後72時間で撮影された。
【図7−1】図7は、A/M/N/53およびA/C/N/53によるヒト腫瘍細胞株でのp53依存性DNA合成阻害を示す。9つの異なる腫瘍細胞株は、コントロールアデノウイルスA/M(−×−×−)、またはp53を発現するA/M/N/53(−△−△−)、またはA/C/N/53(−○−○−)ウイルスのいずれかで、記載のようにMOIを増加しながら感染された。腫瘍の型およびp53の状態は、それぞれの細胞株について記された(wt=野生型、null=タンパク質発現なし、mut=発現した変異タンパク質)。DNA合成は、以下の実施例IIに記載したように感染72時間後に測定された。結果は、各量での3回の測定値からなり(平均+/−SD)、そしてMOIに対する培地コントロールの%としてプロットする。*H69細胞は、A/MおよびA/M/N/53のウイルスのみで試験された。
【図7−2】図7−2は、図7−1のつづきである。
【図7−3】図7−3は、図7−2のつづきである。
【図8】図8は、ヌードマウス中のp53感染Saos−2細胞の腫瘍形成を示す。 Saosー2細胞は、コントロールA/Mウイルス、またはp53組換えA/M/N/53のいずれかでMOI=30で感染された。処理細胞は、ヌードマウスの側腹に皮下注射され、そして腫瘍の大きさが(実施例IIに記載したように)週2回で8週間測定された。結果は、コントロールA/M(−×−×−)およびA/M/N/53(−△−△−)で処理した両方の細胞について、腫瘍細胞移植後の日数に対する腫瘍細胞の大きさをプロットする。エラーバーは、各時点での4匹の動物の各群に関する腫瘍大きさの平均+/−SEMを表す。
【図9】図9は、定着した腫瘍のrAd/p53 RNAの発現である。H69(SCLC)細胞は、ヌードマウスに皮下注射され、そして約25〜50mm3の大きさとなるまで、32日間腫瘍を発達させた。マウスは、無作為化し、そして腫瘍周辺に2×109pfuのコントロールA/C/β−galウイルス、またはA/C/53ウイルスのいずれかを注射した。腫瘍は、注射後2日目および7日目に摘出され、そして各腫瘍サンプルからpolyARNAを調製した。RT−PCRは、等量のRNA濃縮物および組換えp53メッセージに特異的なプライマーを用いて行われた。PCR増幅は、Omnigenthermalcycler(Hybaid)で、94℃1分、55℃1.5分、72℃2分で30サイクル、および最終伸長期間は72℃10分であった。使用したPCRプライマーは、5'側のトリパータイトリーダーcDNA(5'−CGCCACCGAGGGACCTGAGCGAGTC−3')、および3'側のp53プライマー(5'−TTCTGGGAAGGGACAGAAGA−3')であった。レーン1、2、4、および5は、示したように2日または7日で摘出したp53処理サンプルである。レーン3および6は、β−gal処理腫瘍由来である。レーン7、8、および9は、それぞれレーン4、5、および6の複製物であり、等量流していることを証明するためにアクチンプライマーを用いて増幅した。レーン10は、トリパータイト/p53含有プラスミドを用いたポジティブコントロールである。
【図10】図10Aおよび10Bは、インビボでのA/M/N/53の腫瘍抑制および生存期間の増加を示す。H69(SCLC)腫瘍細胞は、ヌードマウスに皮下注射され、2週間生育させた。緩衝液単独(−−−)、コントロールA/Mアデノウイルス(−×−×−)、またはA/M/N/53(−△−△)(どちらのウイルスも2×109pfu/注射)のいずれかの腫瘍周辺への注射は、週2回、計8回投与された。実施例IIに記載のように腫瘍の大きさは、週2回測定され、そして腫瘍容積は概算された。A)腫瘍の大きさは、各ウイルスごとにH69細胞の接種後時間(日)に対してプロットされる。エラーバーは、5匹の動物の各群に関する腫瘍大きさの平均+/−SEMを表す。矢印は、ウイルス注射日を示す。B)マウスは、生存についてモニターされ、そして緩衝液単独(−−−−)、コントロールA/M(・・・ ・・・ ・・・)、またはA/M/N/53(−)ウイルスで処理したH69細胞の接種後時間に対する1群ごとのマウスの生存割合をプロットしている。
【図11A】図11Aから11Cは、組換えプラスミド構築物の地図を示す。プラスミドは、以下に詳説したように構築された。構築物の太線は目的の遺伝子を示し、太字は、矢印で示した次のプラスミドを形成するために一緒に連結されるべきフラグメントを作るのに用いた制限酵素部位を示す。図11Aでは、プラスミドpACNTKの構築を示す。まず、pMLBKTK(ATCC第39369号)からのHSV−TK遺伝子をクローニングベクターのポリリンカーにサブクローニングし、続いてpACNベクターへのクローニングに望ましい末端を有するTK遺伝子を単離した。pACNベクターは、組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス配列を含有する(図12参照)。図11Bでは、プラスミドpAANTKの構築を示す。まず、α−フェトプロテインエンハンサー(AFP−E)およびプロモーター(AFP−P)領域をコードするPCR増幅フラグメントを、いくつかの工程を経て最終プラスミドにサブクローニングした。ここでは、AFPエンハンサーおよびプロモーターは、HSV−TK遺伝子に続く組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス2型配列の上流にある。図11Cでは、プラスミドpAANCATの構築を示す。まず、市販のプラスミドからクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を単離し、そしてpAANプラスミド(上記参照)にサブクローニングし、最終プラスミドpAANCATを作成する。ここでは、AFPエンハンサー/プロモーターは、アデノウイルス配列を背景とした、CAT遺伝子の転写を指向する。
【図11B】図11Aから11Cは、組換えプラスミド構築物の地図を示す。プラスミドは、以下に詳説したように構築された。構築物の太線は目的の遺伝子を示し、太字は、矢印で示した次のプラスミドを形成するために一緒に連結されるべきフラグメントを作るのに用いた制限酵素部位を示す。図11Aでは、プラスミドpACNTKの構築を示す。まず、pMLBKTK(ATCC第39369号)からのHSV−TK遺伝子をクローニングベクターのポリリンカーにサブクローニングし、続いてpACNベクターへのクローニングに望ましい末端を有するTK遺伝子を単離した。pACNベクターは、組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス配列を含有する(図12参照)。図11Bでは、プラスミドpAANTKの構築を示す。まず、α−フェトプロテインエンハンサー(AFP−E)およびプロモーター(AFP−P)領域をコードするPCR増幅フラグメントを、いくつかの工程を経て最終プラスミドにサブクローニングした。ここでは、AFPエンハンサーおよびプロモーターは、HSV−TK遺伝子に続く組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス2型配列の上流にある。図11Cでは、プラスミドpAANCATの構築を示す。まず、市販のプラスミドからクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を単離し、そしてpAANプラスミド(上記参照)にサブクローニングし、最終プラスミドpAANCATを作成する。ここでは、AFPエンハンサー/プロモーターは、アデノウイルス配列を背景とした、CAT遺伝子の転写を指向する。
【図11C】図11Aから11Cは、組換えプラスミド構築物の地図を示す。プラスミドは、以下に詳説したように構築された。構築物の太線は目的の遺伝子を示し、太字は、矢印で示した次のプラスミドを形成するために一緒に連結されるべきフラグメントを作るのに用いた制限酵素部位を示す。図11Aでは、プラスミドpACNTKの構築を示す。まず、pMLBKTK(ATCC第39369号)からのHSV−TK遺伝子をクローニングベクターのポリリンカーにサブクローニングし、続いてpACNベクターへのクローニングに望ましい末端を有するTK遺伝子を単離した。pACNベクターは、組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス配列を含有する(図12参照)。図11Bでは、プラスミドpAANTKの構築を示す。まず、α−フェトプロテインエンハンサー(AFP−E)およびプロモーター(AFP−P)領域をコードするPCR増幅フラグメントを、いくつかの工程を経て最終プラスミドにサブクローニングした。ここでは、AFPエンハンサーおよびプロモーターは、HSV−TK遺伝子に続く組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス2型配列の上流にある。図11Cでは、プラスミドpAANCATの構築を示す。まず、市販のプラスミドからクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を単離し、そしてpAANプラスミド(上記参照)にサブクローニングし、最終プラスミドpAANCATを作成する。ここでは、AFPエンハンサー/プロモーターは、アデノウイルス配列を背景とした、CAT遺伝子の転写を指向する。
【図12】図12は、組換えアデノウイルスACNTK、AANTK、およびAANCATの概略地図である。図11に記載したプラスミドから組換えアデノウイルスを構築するために、各プラスミドpACNTK、pAANTK、およびpAANCATの4部(20μg)は、EcoRIで線状化され、そして、 E3領域に欠失を含むCla 1消化の組換えアデノウイルス(rACβ−gal)の大きなフラグメント1部(5 μg)とともに同時トランスフェクトされた。生じたウイルスでは、Ad5ヌクレオチド360〜4021は、示したようにHSV−1TK遺伝子またはCAT遺伝子の発現を駆動するCMVプロモーターおよびトリパータイトリーダーcDNA(TPL)、またはα−フェトプロテインエンハンサーおよびプロモーター(AFP)のいずれかで置換される。生じた組換えアデノウイルスは、それぞれACNTK、AANTK、およびAANCATと称される。
【図13】図13は、組換えアデノウイルスベクター中のCAT発現のプロモーター特異性を示す。2×106の指定の細胞株は、示したようにMOI=30または100の組換えアデノウイルスAANCATで感染され、または左は非感染(UN)とした。HepG2細胞およびHepG3細胞は、α−フェトプロテインを発現するが、他の細胞株は発現しない。3日後、細胞を回収し、抽出容量を総タンパク質濃度が等しくなるように調整し、そしてCAT活性を以下の方法のセクションに記載したように測定した。同数の非感染細胞は、バックグラウンドCAT活性の個々のコントロールとして供した。一方、14C標識クロラムフェニコール(14C−のみ)およびCAT活性を発現する安定な細胞株(B21)抽出物は、それぞれネガティブコントロールおよびポジティブコントロールとして供された。アセチルCoAの転換率が示され、CAT発現がα−フェトプロテインを発現するこれらの細胞に限定されることを証明している。
【図14】図14は、肝細胞ガン細胞株に対するTK/GCV処理効果、およびプロモーター特異性の効果を示す。Hep−G2(AFPポジティブ)およびHLF(AFPネガティブ)細胞株は、ACNTK[−△−]、AANTK[−▲−]、またはコントロールACN[−□−]ウイルスを感染多重度30で一晩感染され、そして次に示した濃度の単一用量のガンシクロビル(ganciclovir)で処理された。細胞増殖は、回収の約18時間前に3H−チミジンを細胞に添加することにより評価された。細胞核酸への3H−チミジンの取り込みは、感染72時間後に測定され(TopCount、Packard)、そして未処理コントロールの百分率(平均+/−S.D.)として表した。結果により、CMV駆動構築物は、非選択的用量依存性の増殖阻害であるが、AFP駆動TKは、Hep−G2を選択的に阻害することを示す。
【図15】図15は、HCCに対するACNTKおよびガンシクロビルの細胞性障害を示す。HLF細胞は、30のMOIでACNTK[−●−]、またはコントロールウイルスACN[−□−]のいずれかで感染され、そして示した用量のガンシクロビルで処理した。ガンシクロビル処理72時間後、細胞上清中に放出されたラクテートデヒドロゲナーゼ(LDG)量は比色分析により測定され、そして2つのウイルス処理群についてガンシクロビル濃度に対する(平均+/−SEM)をプロットした。
【図16】図16Aおよび16Bは、ヌードマウスの定着した肝細胞ガン(HCC)腫瘍に対するACNTKおよびガンシクロビルの効果を示す。1×107のHep3B細胞は、メスヌードマウスの側腹に皮下注射され、27日間成長させた。次いで、マウスは、2日ごと計3回(矢印で示した)、ACNTK[−●−]またはコントロールACN[−□−]のいずれかのウイルス(100μl容量中1×109iu)の腫瘍内および腫瘍周辺部への注射を受けた。ガンシクロビル注射(100mg/kg腹腔内)は、最初のウイルス投与後24時間で開始し、合計10日間継続した。図16Aでは、各ウイルスの感染後の日数に対する腫瘍の大きさがプロットされる(平均+/−SEM)。図16Bでは、各ウイルス処理動物群の体重が感染後の日数に対する平均+/−SEMとしてプロットされる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
野生型アデノウイルスの混入頻度を減少させるために、組換え率を減少させるウイルスまたは細胞株のいずれかを改良することが望ましい。例えば、C群ウイルスに低い相同性を有する群由来のアデノウイルスは、293細胞中のAd5配列と組換える傾向がほとんどな
い組換えウイルスを設計するために使用され得る。しかし、ウイルスと細胞の配列の間の組換えを減少させるもう1つのより容易な手段は、組換えウイルスの欠失のサイズを増加することであり、その結果、それと293細胞中のAd5遺伝子との間の共有している配列の
範囲が減少する。
【0018】
アデノウイルスゲノムの5'末端から3.5kbを越えて広がる欠失は、アデノウイルスタン
パク質IXの遺伝子に影響し、そしてアデノウイルスベクターとして望ましいとは考えられない(下記参照)。
【0019】
アデノウイルスのタンパク質IX遺伝子は、ウイルスキャプシドの大部分を構成するヘキソン9量体(group−of−nine hexons)を安定化するアデノウイルスの外側のキャプシドの少数構成物をコードする(Stewart(1993))。アデノウイルス欠失変異体の研究に基づいて、タンパク質IXは最初アデノウイルスの非必須構成物と考えられたが、その非存在は、野生型のウイルスで観察されるよりも大きな熱不安定性と関係していた(ColbyおよびShenk(1981))。さらに最近では、タンパク質IXは、完全長のウイルスDNAのキャプシドへのパッ
ケージングに必須であること、およびタンパク質IXの非存在下では、野生型よりも少なくとも1kbは小さいゲノムしか組換えウイルスとして増殖され得ないことが発見された(Ghosh−Choudhuryら(1987))。このパッケージングを限定すれば、アデノウイルスベクターの設計における故意のタンパク質IXの欠失は考えられない。
【0020】
本出願では、参考文献を、本発明に包含される基本的技術を行うための定義、方法、および手段を含有する分子生物学の標準的な教科書で作成した。例えば、Sambrookら(1989)およびそこに引用されている種々の参考文献を参照のこと。この参考文献および引用した刊行物は、この明細書の参考文献として明確に援用される。
【0021】
当該分野で公知のこととは反対に、本発明は、診断および遺伝子治療のような治療的適用で使用するウイルス調製物中に野生型アデノウイルスの混入の危険性を減少させる手段として、タンパク質IX遺伝子の欠失を有する組換えアデノウイルスの使用を請求している。本明細書で使用した「組換え」という用語は、遺伝子工学の結果形成された子孫を意味することを意図する。これらの欠失は、さらに従来のE1欠失ウイルスに存在する500〜700塩基対のDNA配列を除去し得る(pIX遺伝子部分より小さくて、あまり望ましくない欠失が可能であり、そしてこの明細書の範囲内に包含され得る)、そして293細胞に組み込まれるAd5配列での組換えに利用し得る。任意のC群ウイルス(血清型1、2、5、および6)に基づく組換えアデノウイルスは、本発明に包含される。アデノウイルス2型主要後期プロモーターによるヒトp53cDNAを発現する組換えウイルスに基づくハイブリッドAd2/Ad5も本発明に包含される。この構築物は、図1に示すように組み立てられた。生じたウイルスは、約ヌレオチド357から4020に広がるアデノウイルス配列の5’欠失を有し、そして任意の望ましい遺伝子の転写終了に使用されるために完全なE1b遺伝子およびタンパク質IX遺伝子に共有されるポリアデニル化部位を残して、E1a遺伝子およびE1b遺伝子ならびにタンパク質IXコード配列全体を除去する。別の実施態様は、図4に示される。あるいは、隣接したタンパク質IVa2遺伝子に影響することなく、欠失をさらに30から40塩基対に広げ得るが、この場合、組換えウイルスに挿入された遺伝子の転写を終了するために、外因性のポリアデニル化シグナルが供給される。この欠失で構築された最初のウイルスは、野生型ウイルスの混入の証拠が無い293細胞内で容易に増殖され、そして欠失部位に挿入された転写単位から強いp53発現を指向する。
【0022】
上記のタンパク質IX欠失を有する組換えウイルスの挿入能力は、約2.6kbである。これは、p53cDNAを含む多くの遺伝子について十分である。挿入能力は、アデノウイルス骨格に別の欠失(例えば、初期領域3または4内の欠失(概説参照:GrahamおよびPrevec(1991))を導入することにより増大され得る。例えば、初期領域3内の非必須配列1.9kbの欠失を含むアデノウイルス骨格の使用。このさらなる欠失によって、ベクターの挿入能力は、約4.5kbまで増大され、これは網膜芽腫腫瘍抑制遺伝子を含む多くのさらに大きなcDNAに対して十分大きい。
【0023】
アデノウイルスタンパク質IX DNAの部分欠失または全欠失、および外来タンパク質またはその機能的フラグメントもしくはその変異体をコードする遺伝子を有することにより特徴付けられる組換えアデノウイルス発現ベクターは、本発明により提供される。これらのベクターは、診断用および治療用のポリペプチドおよびタンパク質の安全な組換え体生産のために、さらに重要なのは、遺伝子治療での遺伝子導入のために有用である。従って、例えば、本発明のアデノウイルスベクターは、細胞周期の調節に効果的なタンパク質(例えば、p53、Rb、またはミトシン)、または細胞死の誘導に効果的なタンパク質(例えば、条件的自殺遺伝子チミジンキナーゼ)の発現のための外来遺伝子を含有し得る。(後者は、効果的にするために、チミジンキナーゼ代謝産物と同時に使用するべきである。)任意の発現カセットは本発明のベクター内に使用され得る。「発現カセット」は、転写プロモーター/エンハンサー(例えば、CMVプロモーターエンハンサーなど)、外来遺伝子、および以下に定義したいくつかの実施態様におけるポリアデニル化シグナルを有するDNA分子を意味する。本明細書で使用した「外来遺伝子」という用語は、野生型アデノウイルスに発見される相対DNA分子のようには、正確な方向および位置に存在しないDNA分子を意味することを意図する。外来遺伝子は、4.5キロベースまでのDNA分子である。「発現ベクター」は、適切な宿主細胞で増殖したとき、挿入したDNA配列の発現を生じる、すなわち、このDNAによってコードされるタンパク質またはポリペプチドの宿主系での合成を生じるベクターを意味する。組換えアデノウイルス発現ベクターは、アデノウイルスタンパク質IXをコードする遺伝子部分を含有し得、生物的に活性なタンパク質IXまたはそのフラグメントは生産されない。このベクターの例は、図1または図4の制限酵素地図を有する発現ベクターである。
【0024】
誘導性プロモーターはまた、本発明のアデノウイルスベクターで使用され得る。これらのプロモーターは、追加の分子が存在するときにのみ転写を開始する。誘導性プロモーターの例は、β−インターフェロン遺伝子、熱ショック遺伝子、メタロチオニン遺伝子、またはステロイドホルモン応答遺伝子から得られるプロモーターを包含する。組織特異的発現は、遺伝子発現の分野でよく特徴付けられてきた。そして、これらの組織特異的プロモーターおよび誘導性プロモーターは、当該分野で周知である。これらの遺伝子は、標的細胞に外来遺伝子を導入した後、外来遺伝子の発現を調節するために使用される。
【0025】
本発明によって、上記のように、1つの実施態様において、5'ウイルス末端の3500 bpから約4000 bpに広がるタンパク質IX遺伝子配列のより少ない範囲の欠失を有する組換えアデノウイルス発現ベクターも提供される。別の実施態様として、組換えアデノウイルス発現ベクターは、さらにアデノウイルス初期領域3、および/または初期領域4の非必須DNA配列の欠失、および/またはアデノウイルスE1aおよびE1bで表されるDNA配列の欠失を有し得る。この実施態様では、外来遺伝子は4.5キロベースまでの大きさのDNA分子である。
【0026】
さらなる実施態様は、 E1aおよびE1bの欠失の3'に位置する最大40ヌクレオチドまでの欠失、およびpIX、および外来遺伝子の発現を調節するために、外来遺伝子に対して適切な位置の組換えベクター内に挿入されたポリアデニル化シグナルをコードする外来DNA分子を持つ。
【0027】
本発明の目的として、組換えアデノウイルス発現ベクターは野生型群アデノウイルス血清型1、2、5、または6から由来し得る。
【0028】
一つの実施態様において、組換えアデノウイルス発現ベクターは、機能的な腫瘍抑制タンパク質、または生物的に活性なそのフラグメントをコードする外来遺伝子を有する。本明細書で使用した「機能的」という用語は、腫瘍抑制遺伝子に関係する場合、腫瘍細胞としての挙動から細胞を効果的に阻害する腫瘍抑制タンパク質をコードする腫瘍抑制遺伝子を意味する。機能的遺伝子は、例えば、正常な遺伝子の野生型、および効果的な腫瘍抑制タンパク質をコードする能力を維持する正常な遺伝子の改変物、および他の抗腫瘍遺伝子(例えば、条件自殺タンパク質またはトキシン)を包含し得る。
【0029】
同様に、本明細書で使用される「非機能的」という用語は、「不活性化された」と同意語である。非機能的または欠損遺伝子は、例えば、点変異、欠失、メチル化、および当業者に既知の他の事象を包含する、種々の事象によって引き起こされ得る。
【0030】
本明細書で使用される遺伝子の「活性フラグメント」という用語は、腫瘍抑制活性を有するタンパク質をコードする能力を維持する小さな遺伝子部分を包含している。以下でさらに十分に記載するp56RBは、機能的な腫瘍抑制遺伝子の活性フラグメントの一例である
。腫瘍抑制遺伝子の改変(例えば、付加、欠失、または置換)もまた、非改変遺伝子の機能的活性が維持される限りは、活性フラグメントの意味内にあることが意図される。
【0031】
腫瘍抑制遺伝子の別の例は、網膜芽腫(RB)である。完全なRB cDNAヌクレオチド配列、および得られるRBタンパク質(p110RBと表す)の推定アミノ酸配列は、Leeら(1987)および図3に示される。図2に示すアミノ酸配列をコードするDNA分子、または図3に示すDNA配列を有するDNA分子も、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質を発現するのに有用である。p56RBと呼ばれるp110RBの短縮型も有用である。p56RBの配列については、Huangら(1991)参照。別の腫瘍抑制遺伝子は、本発明のベクターに使用され得る。例示の目的のみでは、これらは、p16タンパク質(Kambら(1994))、p21タンパク質、ウィルムス腫瘍WT1タンパク質、ミトシン、h−NUC、または結腸ガンDCCタンパク質であり得る。ミトシンは、1993年10月22日
に出願されたX.ZhuおよびW−HLeeの米国特許出願第08/141,239号、および1994年10月24日に出願された同発明者らによる続きの一部継続出願の代理人整理番号P−CJ1191に記載されており、これらは両方とも本明細書中に参考として援用されている。同様に、h−NUCは、参考として援用されている1993年12月20日に出願されたW−HLeeおよびP−LChen、米国特許出願第08/170,586号に記載されている。
【0032】
当業者に既知のように、「タンパク質」という用語は、ペプチド結合で特定の配列に結合したアミノ酸の直線状重合体を意味する。本明細書で使用した「アミノ酸」という用語は、別に特別に指定しない限り、アミノ酸のDまたはLの立体異性体のいずれもを言及している。本発明の範囲内には、等価のタンパク質または等価のポリペプチド(例えば、精製した野生型腫瘍抑制タンパク質の生物活性を有する)もまた包含される。「等価のタンパク質」および「等価のポリペプチド」は、天然に存在するタンパク質またはポリペプチドの直鎖状配列からはずれているが、その生物活性を変化させないアミノ酸置換を有する化合物を言及している。これらの等価物は、1以上のアミノ酸が関連アミノ酸(例えば、同じ電荷のアミノ酸、あるいは側鎖または官能基の置換または修飾)で置換されることにより、天然の配列と異なり得る。
【0033】
機能的腫瘍抑制タンパク質の定義には、それが存在することにより、宿主細胞の腫瘍形成、悪性、または過度増殖表現型を減少させる任意のタンパク質もまた、包含される。この定義内の腫瘍抑制タンパク質の例には、p110RB、p56RB、ミトシン、h−NUC、およびp53が包含されるが、それらに限定されない。「腫瘍形成」は、腫瘍形成能または腫瘍形成を引き起こし得る能力を有することを意味すると意図され、新生物形成性成長と同義語である。「悪性」は、転移し、そして宿主生物の生命を危険にさらす能力を有する腫瘍性細胞を記載することを意図する。「過度増殖表現型」は、その細胞型の正常な成長限度を超えた細胞成長および細胞分裂を記載することが意図される。「新生物形成性」はまた、内因性機能的腫瘍抑制タンパク質を欠く細胞、あるいは細胞が機能的腫瘍抑制タンパク質をコードする内因性核酸を発現させることができないことを包含することが意図される。
【0034】
本発明のベクターの例は、p53タンパク質をコードする外来遺伝子、または本発明で提供されるその活性フラグメントを有する組換えアデノウイルス発現ベクターである。p53遺伝子のコード配列を、以下の表Iに記載する。
【0035】
【表1A】
【0036】
本明細書に記載の発現ベクターのいずれもが、診断または治療のための組成物として有用である。ベクターは、遺伝子治療に有用であり得る多数の腫瘍抑制遺伝子のスクリーニングのために使用され得る。例えば、新生物形成性であると推測される細胞サンプルが、被験体および哺乳類から取り出されし得る。次に、細胞は、適切な条件下で、いくつかの機能的腫瘍抑制遺伝子のうちの1つをコードする外来遺伝子をその中に挿入した本発明の有効量の組換えベクターと接触され得る。この遺伝子の導入によって悪性の表現型を逆転させるかどうかは、軟寒天でのコロニー形成またはヌードマウスでの腫瘍形成により測定され得る。悪性の表現型が逆転した場合、その外来遺伝子は、被験体または哺乳類の好結果の遺伝子治療のためのポジティブな候補であり得ると決定される。製薬上使用される場合、これらは1以上の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせられ得る。薬学的に受容可能なキャリアは、当該分野で周知であり、そして、水溶液(例えば、生理的緩衝食塩水)、または他の溶媒または媒体(vehicle)(例えば、グリコール、グリセロール、植物油(例えば、オリーブ油)、または注射可能な有機エステル)を包含する。薬学的に受容可能なキャリアは、本発明の組成物を、インビトロの細胞またはインビボの被験体へ投与するために使用され得る。
【0037】
薬学的に受容可能なキャリアは、例えば、組成物を安定化させる、または薬剤の吸収を増加あるいは減少させるように作用する生理的に受容可能な化合物を含有し得る。生理的に受容可能な化合物は、例えば、炭水化物(例えば、グルコース、シュクロース、またはデキストラン)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸またはグルタチオン)、キレート剤、低分子量タンパク質、または他の安定剤あるいは賦形剤を包含し得る。他の生理的に受容可能な化合物は、湿潤剤、乳化剤、分散剤、または微生物の生育または活動を防止するのに特に有効な防腐剤を包含する。様々な防腐剤が周知であり、例えばフェノールおよびアスコルビン酸を包含する。当業者には、薬学的に受容可能なキャリア(生理的に受容可能な化合物を包含する)の選択が、例えば、ポリペプチドの投与経路および特定のポリペプチドの特定の物理化学的特性に依存することが理解される。例えば、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンのような生理的に受容可能な化合物は、被験体に投与される薬学的組成物の吸収速度を遅くする遅延剤として特に有用である。キャリア、安定剤、またはアジュバンドのさらなる例は、本明細書中で参考として援用されているMartin、Remington'sPharm.Sci.、第15版(Mack Publ.Co.、Easton、1975)中に見出され得る。薬学的組成物は、所望であれば、リポソーム、ミクロスフェア、または他のポリマーマトリックス中に取り込まれ得る(Gregoriadis、LiposomeTechnology、Vol.1(CRC Press、Boca Raton、Florida1984)、これは、本明細書中に参考として援用されている) 。例えば、リポソームは、リン脂質または他の脂質からなるが、これは非毒性の、生理的に受容可能な、代謝性キャリアであり、製造および投与が比較的簡単である。
【0038】
本明細書で使用される「薬学的組成物」という用語は、1以上の上記の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせた、本明細書中に記載される物質の任意の組成物を言及している。次に、組成物は治療的または予防的に投与され得る。これらは、有効量で、宿主細胞とインビボ、エクスビボ、またはインビトロで接触され得る。宿主細胞を接触させるインビトロおよびエクスビボの手段は、以下で提供される。インビボで実行されたとき、本発明のベクターを含む医薬の投与方法は、当該分野で周知であり、そして経口投与、腫瘍内投与、静脈投与、筋肉内投与、または腹腔内投与を包含するが、それらに限定されない。投与は、継続的あるいは断続的に行われ得、そして治療される被験体および状態(例えば、他の治療用組成物と共に用いられる場合)によって異なり得る(Landmannら(1992);Aulitzkyら(1991);Lantzら(1990);Supersaxoら(1988);Demetriら(1989);およびLeMaistreら(1991))。
【0039】
さらに、本発明により、上記の組換えアデノウイルス発現ベクターが挿入された形質転換原核宿主細胞または形質転換真核宿主細胞(例えば、動物細胞または哺乳類細胞)が提供される。適切な原核細胞は、E.coli細胞のような細菌細胞を包含するが、それに限定されない。レトロウイルスベクターで宿主細胞を形質転換する方法は、当該分野で公知であり(Sambrookら(1989)参照)、そしてトランスフェクション、エレクトロポレーション、およびマイクロインジェクションを包含するが、それらに限定されない。
【0040】
本出願を通して使用される動物という用語は、哺乳類と同義語であることが意図され、ウシ、ブタ、ネコ、サル、イヌ、ウマ、ネズミ、ラット、またはヒトを包含するが、それに限定されない。別の宿主細胞は、任意の新生物または腫瘍細胞を包含するが、それらに限定されない。このような細胞としては、例えば、骨肉腫、卵巣腫、乳ガン、黒色腫、肝ガン、肺ガン、大脳ガン、結腸直腸ガン、造血細胞、前立腺ガン、頚腫、網膜芽腫、食道腫、膀胱ガン、神経芽腫、または腎臓ガンが挙げられる。
【0041】
さらには、 E1aおよびE1bまたはE1a、E1bおよびpIXを発現し得る任意の真核細胞株が、このベクターの宿主として適切である。1つの実施態様では、適切な真核宿主細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション、12301ParklawnDrive、Rockville、Maryland,U.S.A.20231で入手可能な293細胞株である。
【0042】
本明細書中に記載される形質転換宿主細胞のいずれもが、診断または治療用組成物として有用である。製薬上使用される場合、それらは、種々の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせられ得る。適切な薬学的に受容可能なキャリアは、当業者に周知であり、例えば、上記である。次に、組成物は、以下により詳細に記載するように、有効量で治療的または予防的に投与され得る。
【0043】
宿主細胞を形質転換する方法もまた、本発明により提供される。この方法は、適切な条件下での、宿主細胞(すなわち、原核宿主細胞または原核宿主細胞)と本明細書中に記載される発現ベクターとの接触を提供する。この方法により形質転換された宿主細胞もまた、本発明の範囲内に請求されている。この接触は、当該分野で周知の方法(Sambrookら(1989))を使用して、そして有効量の発現ベクターを使用して、インビトロ、インビボ、またはエクスビボで行われ得る。本発明では、挿入外来遺伝子の転写および翻訳に好都合な適切な条件下で形質転換宿主細胞を生育させることにより、組換えタンパク質またはポリペプチドの生産方法もまた提供され得る。種々の宿主細胞(例えば、哺乳類、酵母、昆虫、または細菌細胞)での組換え発現方法は広く知られており、Sambrookら(前記)に記載の方法を包含する。次に、翻訳された外来遺伝子は、従来の手段(例えば、カラム精製または抗タンパク質抗体を使用する精製)で単離され得る。単離したタンパク質またはポリペプチドはまた、本発明の範囲内にあることが意図される。本明細書中で使用される精製または単離は、天然状態または宿主細胞環境で通常タンパク質またはポリペプチドに会合している天然のタンパク質または核酸を実質的に含まないことを意味する。
【0044】
本発明によって、本発明の発現ベクターまたは形質転換宿主細胞がその中に挿入された非ヒト動物もまた提供される。これらの「トランスジェニック」動物は、当業者に周知の方法によって作製される(例えば、米国特許第5,175,384号に記載、またはCulverら(1991)記載の従来のエクスビボ治療法)。
【0045】
以下に詳述するように、上記のような腫瘍抑制因子野生型p53を発現する組換えアデノウイルスは、効果的にDNA合成を阻害し得、そして臨床上の標的を包含する、広範囲のヒト腫瘍細胞型の生育を抑制し得る。さらに、組換えアデノウイルスは、腫瘍への直接注入またはガン細胞のエクスビボの前処理に依存せずに、インビボで定着した腫瘍において、p53のような腫瘍抑制遺伝子を発現し得る。発現したp53は、機能的であり、そしてインビボで効果的に腫瘍成長を抑制し、そしてヒト肺ガンのモデルのヌードマウスの生存時間を有意に増加させる。
【0046】
それゆえ、本発明のベクターは遺伝子治療に特に適切である。よって、これらのベクターを利用する遺伝子治療方法は、本発明の範囲内である。ベクターは、精製され、そして次に有効量が被験体にインビボまたはエクスビボで投与される。遺伝子治療の方法は、当該分野では周知である(例えば、Larrick、J.W.およびBurck,K.L.(1991)ならびにKreigler、M.(1990))。「被験体」は、任意の動物、哺乳類、ラット、ネズミ、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、またはヒト患者を意味する。外来遺伝子が、腫瘍抑制遺伝子または他の抗腫瘍タンパク質をコードするとき、ベクターは被験体内の過剰増殖細胞を処置または減少させるため、被験体内の腫瘍増殖を阻害するため、または特定の関連病状を改善させるために有用である。病的過剰増殖細胞は、以下の疾患状態で特徴付けられる。甲状腺過形成(グレーヴズ病)、乾癬、良性前立腺肥大、リー−フラウメニ症候群(乳ガン、肉腫、および他の新生物形成を包含する)、膀胱ガン、結腸ガン、肺ガン、種々の白血病およびリンパ腫。非病的過剰増殖細胞の例は、例えば、授乳期の発達途中の哺乳類の管上皮細胞において見られ、および創傷修復に関係した細胞においても見られる。病的過剰増殖細胞は、特徴的に、接触阻害の喪失、および選択的に接着する能力の低下(このことは、細胞表面の性質の変化および細胞間情報交換のさらなる故障を暗示する)を示す。これらの変化は、分裂刺激およびタンパク質分解酵素を分泌する能力を包含する。
【0047】
さらに本発明は、(自己の末梢血液または骨髄のいずれに由来しても)本発明のベクターを使用する細胞調製物への野生型腫瘍抑制遺伝子の導入により、骨髄再構成の間に、造血前駆体に混入している病的哺乳類過剰増殖細胞の適切なサンプルを涸渇させる方法に関する。本明細書中で使用される「適切なサンプル」は、患者から得られる不均一な細胞調製物(例えば、表現型が正常な細胞と病的な細胞との両方を含む細胞の混合集団)として定義される。「投与」は、細胞または被験体に、静脈内に、腫瘍に直接注入することにより、腫瘍内注入により、腹腔内投与により、肺への噴霧投与により、または局所的に導入することを包含するが、それらに限定されない。このような投与は、上記の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせられ得る。
【0048】
「減少した腫瘍形成」の用語は、腫瘍形成の低い細胞あるいは非腫瘍形成の細胞に転換した腫瘍細胞を意味することが意図される。減少した腫瘍形成を有する細胞は、インビボで腫瘍を形成しないか、あるいはインビボの腫瘍成長が現れる前に数週間から数カ月の長期の誘導期を有し、かつ/または3次元の腫瘍容積が完全に不活性化されたあるいは非機能的な腫瘍抑制遺伝子を有する腫瘍と比較してゆっくり増大する。
【0049】
本明細書で使用される「有効量」の用語は、細胞増殖制御にポジティブな結果の得られる、ベクターまたは抗ガンタンパク質の量を意味することが意図される。例えば、1用量は約108から約1013の感染単位を含有する。代表的な処置過程は、毎日1回そのような用量を5日にわたって続ける。有効量は、患者とその容態、および当業者に周知の他の要因により、治療される病状または状態において異なる。有効量は、当業者によって容易に決定される。
【0050】
病状を改善する能力を有する遺伝子産物をコードする外来遺伝子を含有する上記ベクターの有効量を、適切な条件下で被験体に投与することにより、被験体の過剰増殖細胞または遺伝的欠損で特徴付けられる病状を改善する方法もまた、本発明の範囲内である。本明細書中で使用される「遺伝的欠損」は、遺伝要因から生じる任意の疾患または異常(例えば、鎌形赤血球貧血またはテイ−サックス病)を意味する。
【0051】
本発明はまた、腫瘍抑制遺伝子以外の抗腫瘍遺伝子を含有するアデノウイルス発現ベクターの有効量を腫瘍塊に導入することにより、被験体の腫瘍細胞の増殖を減少させる方法を提供する。例えば、抗腫瘍遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)をコードし得る。次に被験体は、治療剤(これは、抗腫瘍遺伝子の存在下で、細胞に対して毒性である)を有効量投与される。チミジンキナーゼの特定の場合、治療剤はチミジンキナーゼ代謝産物(例えば、ガンシクロビル(GCV)、6−メトキシプリンアラビノヌクレオシド(araM)、またはそれらの機能的等価物)である。チミジンキナーゼ遺伝子およびチミジンキナーゼ代謝産物のどちらも、宿主細胞に対して毒性であるには同時に使用されなければならない。しかし、その存在下では、GCVはリン酸化されて有効なDNA合成阻害剤になるが、一方araMは、細胞障害性の同化産物araATPに変換される。他の抗腫瘍遺伝子もまた同様に、対応する治療剤と組み合わせて用いられ得、腫瘍細胞の増殖を減少させ得る。このような他の遺伝子および治療剤の併用は、当業者に既知である。別の例は、酵素シトシンデアミナーゼを発現する本発明のベクターである。このようなベクターは、薬剤5−フルオロウラシル(AustinおよびHuber、1993)の投与とともに、または最近記載されたE.coliDeo Δ 遺伝子を6−メチルプリン−2'−デオスリボヌクレオシド(6−methyl−purine−2'−deosribonucleoside)(Sorscherら、1994)と併用して加えるとともに、使用される。
【0052】
既述の腫瘍抑制遺伝子の使用と同様に、単独または適切な治療剤との併用での他の抗腫瘍遺伝子の使用は、腫瘍および悪性に特有の非制御の細胞成長または細胞増殖のための処置を提供する。従って、本発明は、患者における非制御性細胞成長を停止させ、それにより患者に存在する疾患または悪液質の症状を改善する治療を提供する。この処置の効果は、患者の生存期間の延長、腫瘍容積または荷重の減少、腫瘍細胞のアポトーシス、または循環腫瘍細胞の数の減少を包含するが、それに限定されない。この治療法の有益な効果を定量化する手段は、当業者に周知である。
【0053】
本発明は、アデノウイルスタンパク質IX DNAの部分欠失または全欠失、および外来タンパク質をコードする外来遺伝子を有する(ここで外来タンパク質は自殺遺伝子であるかまたはその機能的等価物である)ことで特徴付けられる組換えアデノウイルス発現ベクターを提供する。上記の抗ガン遺伝子TKは、自殺遺伝子の例である。なぜなら、その遺伝子産物が発現すると、細胞に致死的であるか、または致死的になり得る。TKでは、致死性はGCVの存在により誘導される。TK遺伝子は、当業者に周知の方法により、単純ヘルペスウイ
ルスから得られる。E.coliHB101中のプラスミドpMLBKTK (ATCC #39369由来)は、本発明
に使用する単純ヘルペスウイルス(HSV−1)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子の供給源である
。しかし、多数の他の供給源もさらに存在する。
【0054】
TK遺伝子は、アデノウイルス発現ベクターを適切な薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせることにより、腫瘍塊に導入され得る。導入は、例えば腫瘍塊への組換えアデノウイルスの直接注入で成し遂げられ得る。肝細胞ガン(HCC)のようなガンの特定の場合では、肝動脈への直接注射が送達のために使用され得る。なぜなら、ほとんどのHCCは、それらの循環をこの動脈から得ているからである。腫瘍増殖を制御するためには、腫瘍容積の減少を得るために、患者をTK代謝産物(例えば、ガンシクロビル)で処置することにより細胞死を誘導する。TK代謝産物は、例えば、全身的に、腫瘍への局所接種により、またはHCCの特定の場合は肝動脈への注射によって投与され得る。TK代謝産物は、好ましくは少なくとも1日1回投与されるが、必要に応じて増減され得る。TK代謝産物は、TK含有ベクターの投与と同時またはそれに続いて投与され得る。当業者は、治療に有効な用量および期間を認識しているかあるいは決定し得る。
【0055】
腫瘍抑制遺伝子を腫瘍特異的に送達する方法は、動物の標的組織を本発明の組換えアデノウイルス発現ベクターの有効量と接触させることにより成し遂げられる。遺伝子は、機能的腫瘍抑制遺伝子または自殺遺伝子のような抗腫瘍剤をコードすることが意図される。「接触している」は、腫瘍内注入のようなベクターの有効な転移に関する任意の送達方法を包含することが意図される。
【0056】
疾患の処置または治療法のための医薬を調製する本発明のアデノウイルスベクターの使用が、本発明によりさらに提供される。
【実施例】
【0057】
以下の実施例は、説明であることが意図され、本発明の範囲を限定しない。
【0058】
実施例I
プラスミドpAd/MLP/p53/E1b−を、これらの操作の出発物質として用いた。このプラスミドは、pBR322誘導体pML2(pBR322の1140から2490塩基対を欠失した)に基づいており、そしてアデノウイルス5型配列の357から3327塩基対の欠失を除く、1塩基対から5788塩基対に広がるアデノウイルス5型配列を含有する。Ad5357/3327欠失部位では、アデノウイルス2型後期プロモーター、アデノウイルス2型トリパータイトリーダーcDNA、およびヒトp53cDNAからなる転写単位を挿入した。それは、Ad5E1aおよびE1b遺伝子を欠失しているが、Ad5タンパク質IX遺伝子は含有している代表的なE1置換ベクターである(アデノウイルスベクターについての概説は、GrahamおよびPrevec(1992)を参照)。Ad2DNAは、GibcoBPLから得た。制限エンドヌクレアーゼおよびT4DNAリガーゼは、NewEngland Biolabsから得た。E.coli DH5αコンピテントセルはGibcoBPLから購入し、293細胞はアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から得た。prep−A遺伝子DNA精製樹脂は、BioRadから得た。LB肉汁細菌成長培地は、Difcoから得た。QiagenDNA精製カラムは、Qiagen,Incから得た。Ad5dl327は、R.J.Schneider、NYUから得た。MBS DNAトランスフェクションキットは、Stratageneから購入した。
【0059】
1 μgのpAd/MLP/p53/E1b−は、各20ユニットの制限酵素Ec1136IIおよびNgoMIで製造業者の勧めに従って消化した。5 μgのAd2DNAは、各20ユニットの制限エンドヌクレアーゼDra IおよびNgoMIで製造業者の勧めに従って消化した。制限消化物は、0.8%アガロースゲルの別々のレーンにのせ、そして100ボルトで2時間電気泳動した。Pad/MLP/p53/E1b−サンプル由来の4268bpの制限フラグメントおよびAd2サンプル由来の6437bpの制限フラグメントを、製造業者の使用説明書に従ってprep−A遺伝子DNA抽出樹脂を使用して、ゲルから単離した。制限断片は、混合してから製造業者の使用説明書に従って合計容量50μlで、16℃で16時間、T4DNAリガーゼで処理した。ライゲーションに続いて、反応物5μlを、製造業者の手順に従ってE.coliDH5αのアンピシリン耐性への形質転換に使用した。この手順によって得た6つの細菌コロニーを用いて、LB成長培地の2 ml培養物に別々に接種し、振盪しながら37℃で一晩インキュベートした。DNAは、各細菌培養物から標準的手順(Sambrookら(1989))を用いて調製した。3627、3167、2466、および1445塩基対のXhoI制限断片を含む、正確な組換え体をスクリーニングするために、各単離物のプラスミドDNAの4分の1を、20ユニットの制限ヌクレアーゼXhoIで消化した。6つの内5つのスクリーンした単離物は、正確なプラスミドを含有していた。次にプラスミドDNAの大量分離のために、これらの内1つを1リットルのLB培地培養物の接種に使用した。一晩のインキュベーションに続いて、製造業者の勧めに従ってQiagenDNA精製カラムを使用して、1リットル培養物から、プラスミドDNAを単離した。得られたプラスミドをPad/MLP/p53/PIX−と名付けた。このプラスミドサンプルを、AmericanTypeCulture Collection、12301 Parklawn Drive、Rockville、Maryland、U.S.A.、12301に1993年10月22日に寄託した。寄託は、特許手続きのための微生物の国際寄託に関するプダペスト条約のもとで行った。寄託物はATCC受託番号75576を与えられた。
【0060】
組換えアデノウイルスを構築するために、10μgのPad/MLP/p53/PIX−を、40ユニットの制限エンドヌクレアーゼEcoRIで処理し、プラスミドを線状化した。アデノウイルス5型dl327DNA(Thimmappaya(1982))を、制限エンドヌクレアーゼClaIで消化し、そして大きなフラグメント(約33キロ塩基対)をショ糖密度勾配遠心分離によって精製した。10μgのEcoRI処理Pad/MLP/p53/E1b−と2.5μgのClaI処理Ad5dl327とを混合し、それを用いて製造業者によって勧められたようにMBS哺乳類トランスフェクションキットを使用して、約106の293細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後8日で、293細胞を1から3に分けて新鮮培地に入れ、そしてこの2日後、アデノウイルス誘導による細胞変性効果がトランスフェクト細胞で明らかになった。感染13日後、DNAを標準的な手順(GrahamおよびPrevec(1991))を使用して感染細胞から調製し、制限エンドヌクレアーゼXhoIで制限消化して解析した。ウイルスの指示するp53の発現は、ウイルス溶解物でのSaoS2骨肉腫細胞感染、および1801(NovocastaLab.Ltd.、U.K.)と名付けられた抗p53モノクローナル抗体での免疫ブロットの後に証明された。
【0061】
実施例II
材料および方法
細胞株
組換えアデノウイルスは、10%を限度としてウシ血清(Hyclone)を補充したDME培地で維持したヒト初期(embyonal)腎臓細胞株293(ATCCCRL1573)で成長および増殖させた。Saos−2細胞は、15%のウシ胎児血清を補充したKaighn's培地で維持した。HeLaおよびHep 3B細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したDME培地で維持した。他の全ての細胞株は、10%ウシ胎児血清を補充したKaighn's培地で成長させた。Saos−2細胞は、Dr.EricStanbridgeより贈呈された。他の全ての細胞株は、ATCCから得た。
【0062】
組換えアデノウイルスの構築
Ad5/p53ウイルスを構築するため、p53(表I)の完全長cDNAを含有する1.4kbのHindIII−SmaIフラグメントをpGEM1−p53−B−T(Dr.WenHwaLeeより贈呈された)から単離し、標準的なクローニング手順(Sambrookら(1989)を用いて、発現ベクターpSP72(Promega)のマルチクローニングサイトに挿入した。p53挿入物を、XhoI−BglII消化およびゲル電気泳動に続いてこのベクターから回収した。次に、p53コード配列をpNL3CまたはpMNL3CMVアデノウイルス遺伝子転換ベクター(Dr.RobertSchneiderより贈呈された)に挿入した。このベクターは、PML2をバックグラウンドとしてAd55’逆末端反復、およびウイルスのパッケージングシグナル、およびAd2主要後期プロモーター(MLP)またはヒトサイトメガロウイルス初期遺伝子プロモーター(CMV)のいずれかの上流のE1aエンハンサー、それに続くトリパータイトリーダーCDNAおよびAd5配列3325〜5525bpを含有する。これらの新しい構築物は、Ad5のE1領域(360〜3325bp)を、Ad2 MLP(A/M/53)またはヒトCMVプロモーター(A/C/53)(どちらもトリパータイトリーダーCDNAに続く)によって操作されるp53で置換した(図4参照)。p53挿入片は、残存する下流のE1bポリアデニル化部位を使用する。さらにMLPおよびCMVが操作するp53組換え体(A/M/N/53、A/C/N/53)を作成した。これは、タンパク質IX(PIX)コード領域の除去のために、さらに705ヌクレオチドのAd5配列の欠失を持っていた。コントロールとして、p53挿入物を持たない親のPNL3Cプラスミドから組換えアデノウイルスを作成した(A/M)。第2のコントロールは、CMVプロモーターの制御下のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子をコードする組換えアデノウイルスよりなっていた(A/C/β−gal)。プラスミドは、NruIまたはEcoRIのいずれかで線状化し、Cla I消化Ad 5d1309変異体またはd1327変異体(JonesおよびShenk(1979))の大きなフラグメントを用いて、Ca/PO4トランスフェクションキット(Stratagene)を使用して同時トランスフェクトした。ウイルスプラークを単離し、そして組換え体を、制限消化解析およびp53CDNA配列下流のトリパータイトリーダーCDNA配列に対する組換え体特異的プライマーを使用したPCRにより同定した。組換えウイルスを限界希釈によりさらに精製し、そしてウイルス粒子を精製し、標準的な方法(GrahamおよびvanderErb(1973); GrahamおよびPrevec(1991))によって力価測定した。
p53タンパク質検出
Saos−2またはHep3B細胞(5×105)は、ウイルス/細胞のプラーク形成ユニットの感染多重度(MOI)の増加している24時間の間、指示した組換えアデノウイルスで感染させた。次に細胞を一度PBSで洗浄し、溶解緩衝液(50mMTris−HCl Ph 7.5、250 mM NaCl、0.1% NP40、50mM NaF、5mM EDTA 、10 μg/mlアプロチニン(aprotinin)、10μg/mlロイペプチン(leupeptin)、および1mM PMSF)中で回収した。細胞タンパク質(約30μg)を、10%SDS−PAGEにより分離し、そしてニトロセルロースへ転写した。メンブレンはα−p53抗体PAb1801(Novocastro)でインキュベートし、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼと結合させたヒツジ抗マウスIgGとインキュベートした。p53タンパク質は、KodakXAR−5フィルムで化学ルミネセンス(ECLキット、Amersham)により可視化した。
【0063】
DNA合成速度の測定
細胞(5×103/ウェル)を、96ウェルタイタープレート(Costar)にプレートし、一晩付着させた(37℃、7%CO2)。次に細胞を、示したように0.3〜100のMOI範囲の精製した組換えアデノウイルス粒子で24時間感染させた。培地は感染後24時間で交換し、そして合計72時間までインキュベートを続けた。3H−チミジン(Amersham、1μCi/ウェル)を回収18時間前に添加した。細胞は、ガラスファイバーフィルターで回収し、そして取り込み放射活性のレベルをβ−シンチレーションカウンターで測定した。3H−チミジンの取り込みは、培地コントロールの平均%(+/−SD)として表し、MOIに対してプロットした。
【0064】
ヌードマウスでの腫瘍形成
T225フラスコにプレートした約2.4×108のSaos−2細胞を、MOI3または30でA/M/N/53またはA/M精製ウイルスのいずれかを含有する懸濁緩衝液(PBS中1%ショ糖)で処理した。一晩感染後、細胞を、BALB/c無胸腺ヌードマウスの左右側腹に皮下注射した(1群あたり4マウス)。片側の側腹にはA/M/N/53処理細胞を注射し、一方反対側の側腹にはA/M処理細胞を注射し、それぞれのマウスをそれ自身のコントロールとした。緩衝液で処理した細胞を両側腹に注射した動物を、別のコントロールとした。次に、腫瘍の大きさ(長さ、幅、および高さ)および体重を週2回8週間にわたって測定した。腫瘍体積は、測定した腫瘍の大きさの平均の2分の1に等しい半径の球形とみなして各動物に関して評価した。
【0065】
腫瘍内RNA解析
BALB/c無胸腺ヌードマウス(約5週齢)は、1×107のH69小細胞肺ガン(SCLC)細胞を右側腹に皮下注射された。腫瘍は、それらが約25〜50mm3になるまで発達させた。マウスに、A/C/53またはA/C/β−gal組換えアデノウイルス(2×109のプラーク形成ユニット(pfu))のいずれかを、腫瘍塊の下の皮下空間に腫瘍周辺部注射した。腫瘍を、アデノウイルス処理後2日および7日で動物から摘出し、そしてPBSでリンスした。腫瘍サンプルを、ホモジナイズし、全RNAをTriReagentキット(MolecularResearchCenter、Inc.)を使用して単離した。ポリA RNAをPolyATract mRNA IsolationSystem(Promega)を使用して単離し、そして約10ngのサンプルを組換えp53 MRNA発現を決定するRT−PCR(Wangら(1989))に使用した。プライマーは、アデノウイルストリパータイトリーダーCDNAとp53CDNA下流との間の配列を増幅するように設計し、内因性p53ではなく組換え体でのみ増幅されることを確実にした。
【0066】
ヌードマウス内に定着した腫瘍のp53遺伝子治療
200 μl容量中の約1×107のH69(SCLC)腫瘍細胞を、雌のBALB/c無胸腺ヌードマウスに皮下注射した。腫瘍を2週間発達させ、この時点で動物を腫瘍の大きさによって無作為抽出した(N=5/群)。A/M/N/53またはコントロールA/Mアデノウイルス(2×109pfu/注射)または緩衝液のみ(PBS中1%ショ糖)のいずれかの腫瘍周辺部注射を、1群あたり週2回計8用量投与した。腫瘍の大きさおよび体重は、週2回7週間測定し、腫瘍容積を上記のように評価した。次に、動物はマウス生存に対する処理効果を引き続き観察された。
【0067】
結果
組換えp−53アデノウイルスの構築
p53アデノウイルスを、アデノウイルス5型のE1aおよびE1b領域を、Ad2MLPプロモーター(A/M/53) またはCMV(A/C/53)プロモーターのいずれかの制御下のp53cDNAで置き換えることにより構築した(図4中に図示する)。このE1置換は、組換えアデノウイルスの複製する能力を激しく損ない、Ad5 E1遺伝子産物をトランスに供給する293細胞へのそれらの伝達を制限する(Grahamら、(1977))。p53組換えアデノウイルスを制限消化およびPCR分析の両方により同定した後、組換えアデノウイルス(A/M/53)の1つからのp53cDNA配列全体を配列決定して、変異がないことを確認した。これに続いて、p53組換え体の精製した調製物を用いてHeLa細胞を感染し、表現型的に野生型のアデノウイルスの存在についてアッセイした。HeLa細胞(E1欠失アデノウイルスの複製に許容ではない)を、1〜4×109感染単位の組換えアデノウイルスを用いて感染させて、3週間培養し、細胞変成効果(CPE)の出現について観察した。このアッセイを用いて、組換えアデノウイルスの複製または野生型の混入は検出されなかった。これらは野生型アデノウイルスで感染させたコントロール細胞において、約109中1の感受性のレベルで観察されたCPEにより容易に明らかとなる。
【0068】
組換えアデノウイルスからのp53タンパク質発現
p53組換えアデノウイルスがp53タンパク質を発現するかどうかを測定するために、内因性p53タンパク質を発現しない腫瘍細胞を感染させた。ヒト腫瘍細胞株であるSaos−2(骨肉腫)およびHep3B(肝細胞ガン)を、p53組換えアデノウイルスA/M/53またはA/C/53を用いて、0.1〜200pfu/細胞の範囲のMOIで24時間感染させた。感染細胞から調製したライゼートのウエスタン分析は、両方の細胞タイプにおける用量依存的なp53タンパク質発現を示した(図5)。両方の細胞株は、A/M/53を用いた感染の後よりもA/C/53を用いた感染の後の方が、より高いレベルのp53タンパク質を発現した(図3)。非感染細胞において、p53タンパク質は検出されなかった。内因性野生型p53のレベルは通常非常に低く、細胞抽出物のウエスタン分析ではほとんど検出されない(Bartekら、(1991))。しかし、野生型p53タンパク質レベルが、A/M/53またはA/C/53のいずれかを用いた低MOIでの感染の後に容易に検出されることは明白であり(図5)、このことは低用量の組換えアデノウイルスでも、潜在的に有効なレベルのp53を生成し得ることを示唆する。
【0069】
p53依存性形態変化
p53陰性骨髄腫細胞株であるSaos−2への野生型p53の再導入は、この通常は紡錘型の細胞の、肥大化および平坦化を生じさせる(Chenら、(1990))。準集密(subconfluent)Saos−2細胞(1×105細胞/10cmプレート)をA/C/53ウイルスまたはコントロールのA/Mウイルスのいずれかを用いて50のMOIで感染させ、感染していないコントロールプレートが集密(confluent)になるまで37℃で72時間インキュベートした。この時点で、予想された形態変化はA/C/53処理プレートにおいて明らかであったが(図6、パネルC)、感染していないプレート(図6、パネルA)あるいはコントロールのウイルス感染細胞プレートでは明らかではなかった(図6、パネルB)。この効果は細胞密度の作用ではなかった。なぜなら、最初に低密度で播種したコントロールプレートが、その集密がA/C/53処理プレートの集密に近づいた72時間目で、正常な形態を維持していたからである。以前の結果は、50のMOIでのSaos−2細胞におけるp53タンパク質の高レベルの発現を示しており(図5A)、これらの結果は、これらの組換えアデノウイルスにより発現されたp53タンパク質が、生物学的に活性であるという証拠を提供した。
【0070】
細胞DNA合成のp53阻害
p53組換えアデノウイルスの活性をさらに試験するために、ヒト腫瘍細胞の増殖を阻害するそれらの能力を、3H−チミジンの取り込みを測定してアッセイした。内因性野生型p53を発現しない細胞への野生型p53の導入が、細胞をG1/S移行で停止させ得ることが既に示されており、これは標識チミジンの、新たに合成されたDNAへの取り込みの阻害につながる(Bakerら、(1990);Mercerら、(1990);Dillerら、(1990))。種々のp53欠損腫瘍細胞株を、A/M/N/53、A/C/N/53、または非p53発現コントロール組換えアデノウイルス(A/M)のいずれかを用いて感染させた。A/M/N/53およびA/C/N/53組換え体の両方による、強い、用量依存的なDNA合成の阻害が、試験した9つの異なる腫瘍細胞株中7つにおいて観察された(図7)。両方の構築物は、細胞が変異p53を発現するかp53タンパク質を発現できないかにかかわらず、これらのヒト腫瘍細胞におけるDNA合成を阻害し得た。このアッセイにおいて、A/C/N/53構築物が一貫してA/M/N/53よりも強力であることも見出された。Saos−2(骨髄腫)細胞およびMDA−MB468(乳ガン)細胞において、ほとんど100%のDNA合成阻害が、A/C/N/53構築物を用いて、少なくとも10のMOIで達成された。コントロールアデノウイルスによる阻害が10〜30%のみである用量でいずれのp53組換えアデノウイルスを用いても、DNA合成の50〜100%の阻害が観察された。対照的に、HEPG2細胞(内因性野生型p53を発現する肝ガン細胞株、Bressacら、(1990))またはK562(p53が無効である(null))白血病細胞株において、いずれの構築物を用いても、コントロールウイルスに比較して有意なp53特異的効果は観察されなかった。
【0071】
ヌードマウスにおける腫瘍形成性
p53組換えアデノウイルスについてのより厳密な機能の試験において、腫瘍細胞をエクスビボで感染させ、次にその細胞をヌードマウスに注射して、組換え体が腫瘍成長をインビボで抑制する能力を評価した。A/M/N/53ウイルスまたはコントロールA/Mウイルスを用いて3または30のMOIで感染させたSaos−2細胞を、ヌードマウスの反対側の側腹に注射した。そして腫瘍サイズを8週間にわたって週に2回測定した。30のMOIでは、いずれの動物においても、p53処置側腹における腫瘍の成長は見られなかった。一方コントロール処置腫瘍は成長し続けた(図8)。コントロールウイルスで処置した腫瘍の進行性肥大は、緩衝液処置コントロール動物において観察された肥大に類似していた。p53処置マウスの4匹中2匹の腫瘍が6週間後にいくらかの成長を示し始めたが、3のMOIでのコントロールアデノウイルスとp53組換え体との間には腫瘍成長に明確な差がある。従って、A/M/N/53組換えアデノウイルスは、インビボ環境においてp53特異的腫瘍抑制を仲介し得る。
【0072】
Ad/p53のインビボ発現
ガン細胞のエクスビボ処理およびそれに続く動物への注射は、腫瘍抑制の重要な試験を提供したが、より臨床的に意味のある実験は、注射したp53組換えアデノウイルスがインビボで定着した腫瘍(establishedtumor)において、感染してp53を発現し得るかを確認することである。これに対処するために、H69(SCLC、p53null)細胞をヌードマウスに皮下注射し、腫瘍を32日間発達させた。この時点で、A/C/53またはA/C/β−galアデノウイルスのいずれかの2×109pfuの一回注入を、腫瘍の周辺の腫瘍周辺空間(peritumoralspace)に注射した。次いで、腫瘍をアデノウイルス注射後2日目または7日目のいずれかで切除し、そして各々の腫瘍からポリARNAを単離した。次に、組換えp53特異的プライマーを用いて、p53処理腫瘍中のp53MRNAを検出するためにRT−PCRを用いた(図9、レーン1、2、4、5)。β−gal処置動物から切除した腫瘍からは、p53シグナルは明白ではなかった(図9、レーン3および6)。アクチンプライマーを用いた増幅をRT−PCR反応のコントロールとし(図9、レーン7〜9)、一方組換えp53配列を含むプラスミドを組換えp53特異的バンドのポジティブコントロールとした(図9、レーン10)。この実験は、p53組換えアデノウイルスが、腫瘍周辺空間への一回注入の後、定着した腫瘍内でのp53mRNAの発現を特異的に生じさせることを示す。この実験はまた、p53組換えアデノウイルスを用いた感染の後、少なくとも1週間のインビボでのウイルスの持続を示す。
【0073】
インビボでの有効性
定着した腫瘍の遺伝子治療の可能性に対処するために、腫瘍を有するヌードマウスモデルを用いた。H69細胞をマウスの右側腹の皮下空間に注射し、腫瘍を2週間成長させた。次にマウスは、緩衝液または組換えウイルスの腫瘍周辺注射を、週に2回全部で8用量受けた。緩衝液またはコントロールA/Mウイルスを用いて処置されたマウスにおいて、腫瘍は処置を通じて迅速に成長し続けたが、A/M/N/53ウイルスを用いて処置した腫瘍は、大幅に減少した速度で成長した(図10A).注射の停止後、コントロール処置腫瘍は、成長し続けたが、一方p53処置腫瘍はいかなる外因性p53の追加の供給もなしに少なくとも1週間成長をほとんどまたは全く示さなかった(図10A)。緩衝液のみを用いて処置したコントロール動物は、いずれのウイルスで処置した群に比較しても腫瘍成長を加速させたが、体重における有意な差は、処置期間中3つの群の間では見出されなかった。いくつかの動物における腫瘍潰瘍形成が、42日目以降の腫瘍サイズの測定の適切性を制限した。しかし、生存時間を測定するために動物を継続してモニターすることにより、p53処置動物についての生存有利性が示された(図10B)。最後のコントロールアデノウイルス処置動物は83日目に死亡したが、一方緩衝液単独処置コントロールはすべて56日目までに死亡した。対照的に、A/M/N/53を用いて処置した5匹すべての動物は、生存し続けた(細胞接種後130日目)(図10B)。まとめると、このデータは、定着したp53欠損腫瘍を有する動物における腫瘍成長および生存時間の両方に対するp53特異的効果を確証した。
【0074】
p53を発現するアデノウイルスベクター
高レベルの野生型p53タンパク質を用量依存的様式で発現し得る組換えヒトアデノウイルスベクターを構築した。各々のベクターはE1aおよびE1b領域における欠失を含んでおり、これはベクターをウイルス複製欠損にする(ChallbergおよびKelly(1979);Horowitz、(1991))。さらに重要なことは、これらの欠失がE1bの19および55 kdタンパク質を含むことである。19kdタンパク質は、アポトーシスの阻害に関与することが報告されており(Whiteら、(1992);Raoら、(1992))、一方55kdタンパク質は野生型p53タンパク質に結合し得る(Sarnowら、(1982);Heuvelら、(1990))。これらのアデノウイルス配列を欠失することにより、p53機能の潜在的インヒビターを、p53への直接的な結合またはp53介在性アポトーシスの潜在的阻害から取り除いた。残りの3'E1b配列(すべてのタンパク質IXコード配列を含む)をさらに欠失したさらなる構築物を作製した。この欠失がアデノウイルスのパッケージングサイズ収容能力を野生型ウイルスより約3kb減少させることが報告されているが(Ghosh−Choudhuryら、(1987))、これらの構築物はE3領域においても欠失されているので、A/M/N/53およびA/C/N/53構築物は十分にこのサイズ範囲内である。pIX領域を欠失することにより、293細胞内に含まれる配列に相同なアデノウイルス配列は約300塩基対に減少され、これは複製能力のある野生型のアデノウイルスを組換えを通して再生する機会を減少させる。pIXコード配列を欠く構築物はpIXを有する構築物と同等の有効性を有するようである。
【0075】
インビトロでのp53/アデノウイルスの有効性
感染された細胞におけるp53タンパク質の発現についての強い用量依存性に一致して、腫瘍細胞増殖のp53特異的阻害が示された。細胞分裂は、野生型p53タンパク質発現を欠くことが知られている広範囲の腫瘍細胞タイプにおいて、阻害され、阻害はDNA合成の阻害によって示された。BacchettiおよびGraham(1993)は最近、類似の実験において、p53組換えアデノウイルスによる卵巣ガン細胞株SKOV−3におけるDNA合成のp53特異的阻害を報告した。卵巣ガンに加えて、さらなるヒト腫瘍細胞株(臨床的に重要なヒトガンの代表であり変異p53タンパク質を過剰発現する株を含む)が、本発明のp53組換え体により増殖阻害され得ることが示された。これらの腫瘍タイプにおけるDNA合成を阻害することにおいてA/C/N/53組換え体が90〜100%有効であるMOIでは、コントロールアデノウイルス介在性の抑制は20%以下である。
【0076】
Feinsteinら、(1992)は白血病K562細胞について、野生型p53の再導入が分化を誘導しS+G2に対するG1の細胞の比率を増加し得ると報告したが、この株においてはp53特異的な効果は見出されなかった。HorvathおよびWeber(1988)は、ヒト末梢血リンパ球はアデノウイルス感染に対して高度に非許容であると報告している。別の実験では、組換え体は組換えA/C/β−galアデノウイルスで顕著に非応答性K562細胞に感染したが、一方他の株(コントロールのHepG2株および強いp53効果を示す株を含む)は、容易に感染可能であった。従って、有効性の変動の少なくとも一部分は、感染の変動によるが、他の要素もさらに関与し得る。
【0077】
図8中のA/M/N/53ウイルスで観察された結果は、完全な抑制がインビボ環境において可能であることを示す。4匹中2匹のより低いMOIで処置した動物における腫瘍成長の再開は、最初この用量においてp53組換え体で感染されなかったわずかの割合の細胞から生じたようである。しかし、より高い用量においてA/M/N/53について見られた完全な抑制は、腫瘍成長の回復する能力が克服され得ることを示す。
【0078】
p53/アデノウイルスのインビボ有効性
本明細書中および他のグループにより(Chenら、(1990); Takahashiら、(1992))示される研究は、野生型p53の発現を欠くヒト腫瘍細胞がp53を用いてエクスビボで処置され、処置された細胞が動物モデルに移入される場合、腫瘍成長の抑制を生じ得ることを示している。本出願人らは、腫瘍成長の抑制および生存時間の増加の両方を生じる、インビボで定着した腫瘍の腫瘍抑制遺伝子治療の最初の証拠を示す。本出願人らの系において、腫瘍細胞への送達は、腫瘍塊への直接注射によらなかった。むしろ、p53組換えアデノウイルスは腫瘍周辺空間に注射され、そしてp53mRNA発現が腫瘍内に検出された。組換え体により発現されたp53は、機能性であり、コントロールである非p53発現アデノウイルス処置腫瘍に比較して、腫瘍成長を強く抑制した。しかし、p53ウイルス処置群およびコントロールウイルス処置群の両方が、緩衝液処置コントロールに比較して腫瘍抑制を示した。腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン−γ、インターロイキン(IL)−2、IL−4、またはIL−7の局所発現が、ヌードマウスにおいてT細胞非依存性の一過性腫瘍抑制を導き得ることが示されている(Hochら、(1992))。単球のアデノウイルスビリオンへの被曝はまた、IFN−α/βの弱いインデューサーである(GoodingおよびWold(1990)で概説される)。それゆえ、ヌードマウスにおけるなんらかの腫瘍抑制が、コントロールアデノウイルスにおいてさえも観察されても、驚異ではない。このウイルス介在性の腫瘍抑制は、前述したエクスビボコントロールウイルス処置Saos−2腫瘍細胞においては、観察されなかった。p53特異的インビボ腫瘍抑制は、図10中で、動物を継続してモニターすることによって劇的に示された。p53処置マウスの生存時間は顕著に増加した。アデノウイルスコントロール処置動物5匹中0匹に比較して、5匹の動物中5匹が細胞接種後130日以上生存した。生存する動物はなお成長する腫瘍を呈し、これは最初にp53組換えアデノウイルスで感染されなかった細胞を反映し得る。より高いかまたはより頻繁な投与スケジュールがこれに対処し得る。さらに、プロモーター遮断(Palmerら、(1991))またはさらなる変異が、これらの細胞にp53組換えアデノウイルス処置に対する耐性を与え得る。例えば、最近記載されたWAF1遺伝子(野生型p53により誘導される遺伝子であり、続いて細胞周期のS期への進行を阻害する(El−Deiryら、(1993);Hunter(1993)))における変異が、p53耐性腫瘍を生じさせ得る。
【0079】
実施例III
この実施例では、本明細書に記載の遺伝子治療方法における、自殺遺伝子の使用およびこのような遺伝子の組織特異的発現を示す。肝細胞ガンを標的として選択した。なぜならこれはヒトを冒す最も一般的な悪性腫瘍の1つであり、世界中で1年間に概算で1,250,000の死亡を引き起こすからである。このガンの発生は東南アジアおよびアフリカにおいて非常に高く、ここで肝細胞ガンは、B型およびC型肝炎感染ならびにアフラトキシンへの被曝に関連している。外科手術が、HCCを治癒するための可能性提供する現在唯一の治療であるが、患者の20%未満が切除の候補と考えられている(RavoetC.ら、1993)。しかし、肝細胞ガン以外の腫瘍は同じく本明細書に記載のその増殖を減少させる方法に適用され得る。
【0080】
細胞株
HLF細胞株以外のすべての細胞株を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)12301Parklawn Drive, RockvilleMarylandから得た。ATCC受託番号を括弧内に記す。ヒト胎児腎細胞株293(CRL 1573)を用いて本明細書に記載の組換えアデノウイルスを生成し増殖させた。細胞を10%の定義され補充された(defined,supplemented)仔ウシ血清(Hyclone)を含むDME培地中で維持した。肝細胞ガン細胞株Hep3B(HB 8064)、Hep G2(HB8065)、およびHLFを10%ウシ胎児血清を添加したDME/F12培地中で維持し、乳ガン細胞株MDA−MB468(HTB132)およびBT−549(HTB122)も同様にした。Chang肝臓細胞(CCL13)を、10%ウシ胎児血清を添加したMEM培地中で増殖させた。HLF細胞株を日本のKyushuUniversitySchool of MedicineのDrs. T. MorsakiおよびH. Kitsukiから得た。
【0081】
組換えウイルス構築
本明細書中でACNTKおよびAANTKと名付け、タンパク質IX機能を欠く2つのアデノウイルス発現ベクター(図11に示した)は、腫瘍細胞内でTK自殺遺伝子の発現を生じさせ得る。AANCATと名付けた第3のアデノウイルス発現ベクターを、アデノウイルスベクターを用いて、特異的な細胞タイプに対して遺伝子発現を特異的に標的する可能性をさらに示すために構築した。これらのアデノウイルス構築物を、図11および12に示すようにして組立て、そしてこれらは腫瘍抑制遺伝子の発現について既に記載した構築物の誘導体である。
【0082】
外来遺伝子の発現のために、ヒトサイトメガロウイルス即時(immediate early)プロモーター/エンハンサー(CMV)(Boshart, M.ら、1985)またはヒトα−フェトプロテイン(AFP)エンハンサー/プロモーター(Watanabe,K.ら、1987; Nakabayashi, H.ら、1989)のいずれかを利用する発現カセットを挿入して、TK遺伝子またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)の転写を生じさせた。CMVエンハンサープロモーターは、広範囲の細胞タイプにおいて強い遺伝子発現を生じさせ得るが、一方AFPエンハンサー/プロモーター構築物は、発現を肝細胞ガン細胞(HCC)に限定する。この肝細胞ガン細胞は、HCC患者集団の約70〜80%においてAFPを発現する。CMVプロモーター/エンハンサーを利用する構築物において、アデノウイルス2型トリパータイト(tripartite)リーダー配列も挿入してTK転写物の翻訳を増強した(Berkner,K.L.およびSharp、1985)。E1欠失に加えて、両方のアデノウイルスベクターをさらにウイルスE3領域内の1.9キロベース(kb)のDNAについて欠失した。E3領域内の欠失されたDNAは、ウイルス増殖には必須ではなく、その欠失は、等しい量(1.9kb)の外来DNAのための組換えウイルスの挿入収容能力を増加させる(GrahamおよびPrevec、1991)。
【0083】
AFPプロモーター/エンハンサーの特異性を示すために、ウイルスAANCATをまた構築し、ここでマーカー遺伝子であるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)はAFPエンハンサー/プロモーターの制御下にある。ACNTKウイルス構築物において、Ad2トリパータイトリーダー配列を、CMVプロモーター/エンハンサーとTK遺伝子との間に設置した。トリパータイトリーダーは、結合される遺伝子の翻訳を増強することが報告されている。E1置換は、組換えウイルスの複製する能力を損ない、それらの増殖をAd5E1遺伝子産物をトランスに供給する293細胞に制限する(Grahamら、1977)。
【0084】
アデノウイルスベクターACNTK: E. coli HB101内のプラスミドpMLBKTK(ATCC #39369より)を単純ヘルペスウイルス(HSV−1)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子の供給源として用いた。TKを、標準的なクローニング技術を用いて(Sambrookら、1989)、制限酵素BglIIおよびPvuIIを用いた消化により1.7 kb遺伝子フラグメントとしてこのプラスミドから切り出し、プラスミドpSP72(Promega)の適合するBamHI、EcoRV制限部位にサブクローン化した。次に、TK挿入物を、XbaIおよびBgl IIを用いた消化によりこのベクターから1.7 kbフラグメントとして単離し、XbaI、Bam HI消化したプラスミドpACN(Willsら、1994)にクローン化した。20μgのpACNTKと名付けられたこのプラスミドをEcoRIを用いて線状化し、293細胞(ATCCCRL 1573)に、5μgのCla I消化したACBGL(Willsら、1994、前出)とともに、CaPO4トランスフェクションキット(Stratagene,SanDiego, California)を用い同時トランスフェクトした。ウイルスプラークを単離し、組換え体(ACNTKと名付けた)を、単離したDNAのXhoIおよびBsiWIを用いた制限消化分析により同定した。陽性の組換え体を、限界希釈によりさらに精製し、標準的な方法により拡大して力価測定した(GrahamおよびPrevec、1991)。
【0085】
アデノウイルスベクターAANTK: α−フェトタンパク質プロモーター(AFP−P)およびエンハンサー(AFP−E)を、ヒトゲノムDNA(Clontech)から、末端に制限部位を含むプライマーを用いたPCR増幅を用いてクローン化した。210bpのAFP−Eを単離するために用いたプライマーは、NheI制限部位を5'プライマーに、Xba I、Xho I、Kpn Iリンカーを3'プライマーに含んだ。5'プライマー配列は、5'−CGCGCT AGC TCTGCC CCA AAG AGC T−3であった。5'プライマー配列は、5'−CGC GGT ACC CTC GAG TCT AGATAT TGC CAGTGG TGG AAG−3'であった。1763 bpのAFEフラグメントを単離するために用いたプライマーは、Not I制限部位を5'プライマーに、XbaI部位を3'プライマーに含んだ。5'プライマー配列は、5'−CGTGCG GCC GCT GGA GGA CTT TGA GGA TGT CTG TC−3'であった。3'プライマー配列は、5'−CGCTCT AGA GAGACC AGT TAG GAA GTT TTC GCA−3'であった。PCR増幅のために、DNAを97℃で7分間変性し、続いて5サイクルの増幅(97℃で1分間、53℃で1分間、72℃で2分間)、および最後の72℃で10分間の伸長を行った。増幅したAFEをNotIおよびXbaIを用いて消化し、Not I、Xho I、Xba I、Hind III、Kpn I、Bam HI、Nco I、Sma I、およびBgl II部位を含むポリリンカーにより分離されるアデノウイルス5型配列1〜350および3330から5790を含むプラスミドベクター(pA/ITR/B)のNotI、XbaI部位に挿入した。増幅したAFP−EをNhe IおよびKpn Iを用いて消化し、Xba IおよびKpn Iを用いて消化してあったAFP−Eを含む上記の構築物に挿入した。次に、この新たな構築物を、さらにXbaIおよびNgoMIを用いて消化してアデノウイルス配列3330〜5780を除去し、これを次にアデノウイルス2型のヌクレオチド4021〜10457を含むプラスミドpACNのXbaI、NgoMI制限フラグメントで置き換えて、α−フェトプロテインのエンハンサーおよびプロモーターの両方を含むプラスミドpAANを構築した。次に、この構築物をEcoRIおよびXbaIを用いて消化して、Ad5逆方向末端反復(inverted terminal repeat)、AFP−E、およびAFP−Pを含む2.3 kbフラグメントを単離し、続いてこれをEcoRI、XbaI消化した上記のpACNTKの8.55 kbに結合して、TK遺伝子が、アデノウイルスのバックグラウンドでα−フェトプロテインのエンハンサーおよびプロモーターにより駆動されるpAANTKを生じさせた。次に、このプラスミドをEcoRIを用いて線状化して、ClaI消化したALBGLの大きいフラグメントとともに上記のように同時トランスフェクトし、組換え体(AANTKと名付けた)を上記のように単離し精製した。
【0086】
アデノウイルスベクターAANCAT: クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を、pCAT−Basicベクター(PromegaCorporation)から、XbaI、Bam HI消化により単離した。この1.64 kbフラグメントをXba I、Bam HI消化したpAAN(上記)内に結合してpAANCATを作製した。次いでこのプラスミドをEcoRIを用いて線状化し、Cla I消化したrA/C/β−galの大きいフラグメントとともに同時トランスフェクトして、AANCATを作製した。
【0087】
レポーター遺伝子発現: βガラクトシダーゼ発現:
細胞を24−ウェル組織培養プレート(Costar)中に1×105細胞/ウェルでプレートし、一晩壁着させた(37℃、7%CO2)。ACBGLの一晩の感染を、30の感染多重度(MOI)で実施した。24時間後、細胞を3.7%ホルムアルデヒド;PBSを用いて固定し、1mg/mlXgal試薬(USB)用いて染色した。データを、各々のMOIでの陽性に染色された細胞の百分率を概算することにより記録した(+、++、+++)[+=1〜33%、++=33〜67%、および+++=>67%]。
【0088】
レポーター遺伝子発現: CAT発現:
2×106の細胞(HepG2、Hep 3B、HLF、Chang、およびMDA−MB468)を、3点平行で10 cmプレートに播種して一晩インキュベートした(37℃、7%CO2)。次に、各々のプレートをMOI=30または100のいずれかでAANCATを用いて感染するかまたは感染せず、3日間インキュベートした。次に、細胞をトリプシン処理し、PBSを用いて洗浄し、100μlの0.25MTris pH7.8中に再懸濁した。サンプルを3回凍結融解し、そして上清を新たなチューブに移して、60℃で10分間インキュベートした。次にサンプルを4℃で5分間スピンし、上清をBradfordアッセイ(Bio−RadProteinAssay Kit)を用いてタンパク質濃度についてアッセイした。サンプルを、0.25 M Tris、25μlの4mMアセチルCoA、および1μlの14C−クロラムフェニコールを用いて等しいタンパク質濃度に、最終容量75μlに調整して、一晩37℃でインキュベートした。500μlのエチルアセテートを各々のサンプルに添加してボルテックスすることにより混合し、次に5分間室温で遠心分離した。次に、上層を新たなチューブに移し、減圧下での遠心分離によりエチルアセテートを蒸発させた。次に、反応産物を25μlのエチルアセテートに溶解して、薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートにスポットし、プレートをあらかじめ平衡化したTLCチャンバー中に置いた(95%クロロホルム、5%メタノール)。次に溶媒をプレートの上部まで移動させ、次にプレートを乾燥させX線フィルムに感光させた。
【0089】
細胞増殖: 3H−チミジン取り込み
細胞を、96−ウェルマイクロタイタープレート(Costar)中に5×103細胞/ウェルでプレートし、一晩インキュベートした(37℃、7%CO2)。細胞を、DMEM;15% FBS; 1%グルタミンで順次希釈したACN、ACNTK、またはAATKウイルスを用いて、30の感染多重で、一晩の間トランスフェクトした。この時点で細胞に、3点平行で、0.001と100mM(マイクロモラー)との間の対数間隔でガンシクロビル(Cytovene)を投与した。1μCi3H−チミジ
ン(Amersham)を各々のウェルに、回収の12〜18時間前に添加した。感染後72時間で、細胞をガラス繊維フィルター上に回収し、そして取り込まれた3H−チミジンを、液体シンチレーション(TopCount,Packard)を用いて計数した。結果を未処理コントロール増殖のパーセントとしてプロットし、培地コントロールに対する増殖における50パーセント減少のための有効用量(ED50±SD)として表にした。ED50値を、理論式を用量応答データにあてはめることにより概算した。
【0090】
細胞障害性:LDH放出
細胞(HLF、ヒトHCC)をプレートし、ACNまたはACNTKを用いて感染して、上記のように増殖アッセイのためにガンシクロビルで処理した。ガンシクロビル投与72時間後に、細胞をスピンして、上清を除去した。ラクテートデヒドロゲナーゼのレベルを比色的に測定した(Promega、Cytotox96(登録商標))。平均(+/−S.D.)LDH放出をM.O.I.に対してプロットした。
【0091】
インビボ治療
ヒト肝細胞ガン細胞(Hep 3B)を、10匹の雌の無胸腺nu/nuマウス(Simonsen Laboratories, Gilroy, CA)に、皮下注射した。各々の動物は、約1×107細胞を左側腹に受けた。マウスを腫瘍サイズにより無作為抽出する前に、腫瘍を27日間成長させた。マウスを、ACNTKまたはコントロールウイルスACN(100μl中1×109iu)の腫瘍内注射または腫瘍周辺注射で、1日おきに総数3用量を処置した。アデノウイルスの最初の投与の後24時間から、マウスにガンシクロビル(Cytovene100mg/kg)を、毎日全部で10日間腹腔内投与した。マウスを、腫瘍サイズおよび体重について週に2回モニターした。腫瘍の測定は3次元で、ノギスを用いて行い、体積は式4/3πr3を用いて計算した。ここでrは平均腫瘍寸法の1/2である。
【0092】
結果
組換えアデノウイルスを用いて、3つのHCC細胞株(HLF、Hep3B、およびHep−G2)を感染した。1つのヒト肝臓細胞株(Chang)および2つの乳ガン細胞株を、コントロールとして用いた(MDAMB468およびBT549)。AFPプロモーター/エンハンサーの特異性を示すために、ウイルスAANCATを構築した。このウイルスを用いて、HCC腫瘍マーカーであるα−フェトプロテイン(AFP)を発現する(Hep3B、HepG2)または発現しない(HLE、Chang、MDAMB468)いずれかの細胞を感染した。図13に示すように、AANCATは、AFPを発現し得るHCC細胞においてのみCATマーカー遺伝子の発現を生じさせた(図13)。
【0093】
HCCの治療のためのACNTKおよびAANTKの有効性を、3H−チミジン取り込みアッセイを用いて評価して、細胞増殖に対するHSV−TK発現およびガンシクロビル処理の併用の効果を測定した。細胞株を、ACNTKまたはAANTKまたはコントロールウイルスACN(Willsら、1994前出)(HSV−TKの発現を生じさせない)のいずれかを用いて感染し、次に増加する濃度のガンシクロビルを用いて処理した。この処理の効果を、ガンシクロビルの増加する濃度の作用として評価し、そして取り込まれる3H−チミジンを50%阻害するために要求されるガンシクロビルの濃度を測定した(ED50)。さらに、各々の細胞株のアデノウイルス介在性遺伝子トランスファーおよび発現を、マーカー遺伝子であるβ−ガラクトシダーゼの発現を生じさせるコントロールウイルスを用いて測定した。以下の図14および表1に示すデータは、ACNTKウイルス/ガンシクロビル併用処理が、ガンシクロビルと併用したコントロールアデノウイルスであるACNに比較して、試験したすべての細胞株における細胞増殖を阻害し得たことを示す。対照的に、AANTKウイルスベクターは、α−フェトプロテインを発現することが示されているHCC細胞株においてのみ有効であった。さらに、AANTK/GCV併用は、細胞を高密度でプレートした場合に、より有効であった。
【0094】
【表1】
【0095】
Hep3B腫瘍を有するヌードマウス(N=5/群)を、腫瘍内および腫瘍周辺に、等用量のACNTKまたはACNコントロールを用いて処置した。組換えアデノウイルスの最初の投与の24時間後に、ガンシクロビルの毎日の処置を、すべてのマウスにおいて開始した。各々の動物の腫瘍寸法をノギスで週に2回測定し、平均腫瘍サイズを図16にプロットした。58日目の平均腫瘍サイズは、ACNTK処置動物においてより小さかったが、差は統計的有意に達しなかった(p<0.09、片側t検定)。これらのデータは、ACNTKのインビボでの腫瘍成長に対する特異的な効果を支持する。群の間で、平均体重における有意な差は検出されなかった。
【0096】
本発明は、上記の実施態様を参考にして記載されているが、種々の改変が、本発明の趣旨から逸脱することなく行われ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は以下の請求の範囲によってのみ制限される。
【0097】
【数1−1】
【0098】
【数1−2】
【0099】
【数1−3】
【0100】
【数1−4】
【0101】
【数1−5】
【0102】
【数1−6】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本出願は、1994年5月19日に出願された米国特許出願第08/233,777号の一部継続出願であり、これは1993年10月25日に出願された米国特許出願第08/142,669号の一部継続出願である。その内容は本明細書に参考として援用されている。
【0002】
本出願は、全体を通して請求項の直前の括弧内および引用文献の記載の引例によって種々の刊行物を参照している。ここでは、これらの刊行物の開示は、本明細に参照することにより、本発明特許の当該分野の状態をより完全に記載するために、援用されている。
【0003】
遺伝子治療に有効な組換えアデノウイルスの生産は、これらの組換えウイルスが欠失しているウイルスのE1領域の遺伝子産物をトランスで供給し得る細胞株の使用を必要とす
る。現在では、唯一の有効な入手可能な細胞株は、1977年にGrahamらによって最初に記載された293細胞株である。293細胞は、アデノウイルス5型ゲノム(Aiello(1979)およびSpector(1983))の左側の約12%(4.3kb)を含む。
【0004】
現在遺伝子治療の適用が試みられているアデノウイルスベクターは、代表的には、ウイルスゲノムの5'末端の約400塩基対から5'末端の約3.3 kbに広がるAd2またはAd5DNAを欠失し、合計2.9kbのE1を欠失している。それゆえ、組換えウイルスのDNA配列と細胞株内のAd5DNAとの間には、約1kbの相同な限定領域が存在する。この相同性は、ウイルス性と細胞性のアデノウイルス配列間での可能な組換え領域を定義している。このような組換えは、表現型的には、293細胞由来のAd5E1領域を有する野生型ウイルスを生じる。この組換え事象は、おそらく組換えウイルスの調製物中に野生型アデノウイルスを頻繁に検出する原因であり、そしてAd2を基礎とした組換えウイルスAd2/CFTR−1への野生型の混入の原因として、直接示された(Richら(1993))。
【0005】
C群アデノウイルス亜群内での高度な配列相同性のために、このような組換えは、ベクターがC群アデノウイルス(1、2、5、6型)のいずれかを基礎としている場合、おそらく生じる。
【0006】
組換えアデノウイルスの小規模な生産では、野生型ウイルスの混入の発生は、混入が見つかったこれらのウイルス調製物を捨てるというスクリーニングプロセスによって管理され得る。ウイルス生産の規模が遺伝子治療の予期される需要に見合うように拡大すると、1つのロットに野生型ウイルスが混入している可能性はまた、非混入組換え調製物の供給の困難性と同様に生じ得る。
【0007】
今年初めてガンと診断された百万以上の事例があり、そしてその半数がガンに関連して死んでいる(American Cancer Society、1993)。ヒトのガンに関係した最も一般的な遺伝
変化はp53変異である(Hollsteinら、(1991);Bartekら、(1991);Levine(1993))。p53欠
失腫瘍を治療する遺伝子治療の目的は、例えば、細胞増殖の制御を回復させるために、正常で機能的な野生型p53遺伝子のコピーを回復させることである。p53が、細胞周期進行に中心的な役割を果たし、成長を停止することにより、修復またはアポトーシスがDNA損傷
に応答して起こり得る。最近、野生型p53は、放射線照射またはいくつかの化学治療剤で
の治療により誘導されるアポトーシスの必須成分であると同定された(Loweら(1993)AおよびB)。ヒト腫瘍のp53変異の高い罹患率のために、化学療法および放射線照射治療に難治
性になった腫瘍が、部分的には野生型p53を欠損することはあり得る。機能的なp53をこれらの腫瘍に再供給することにより、腫瘍が、放射線照射および化学療法で誘導されるDNA損傷に正常に関係したアポトーシスし得ることは理論にあっている。
【0008】
好結果のヒト腫瘍抑制遺伝子治療の臨界点の1つは、ガン細胞の有意な割合に影響する能力である。レトロウイルスベクターの使用は、種々の腫瘍モデルでこの目的のために広く探索されてきた。例えば、悪性肝腫瘍の治療のために、レトロウイルスベクターが用いられたが、これらのベクターではインビボでの遺伝子治療に必要な高レベルの遺伝子導入が得られなかったために、ほとんど成功しなかった(Huber、B.E.ら、1991;CarusoM.ら
、1993)。
【0009】
ウイルス生産のより適切な供給源を得るために、研究者は、固形腫瘍にレトロウイルス充填細胞株を直接注入することにより、低レベルの遺伝子導入に関する問題を克服しようと試みた(CarusoM.ら、1993;Ezzidine、Z.D.ら、1991;Culver、K.W.ら、1992)。しか
し、これらの方法は、ヒト患者に使用するには不十分である。なぜなら、この方法は困難であり、そして患者の充填細胞株に対して炎症反応を誘導するからである。レトロウイルスベクターの他の不利益は、レトロウイルスベクターが効率的に組み込まれて、目的の組換え遺伝子が発現するためには、分裂細胞を必要とすることである(Huber,B.E.1991)。必須宿主遺伝子への安定な組み込みによって、発病性病状の発達または遺伝を導き得る。
【0010】
組換えアデノウイルスは、レトロウイルスまたは他の遺伝子の送達法より明確な有利性がある(論評はSiegfried(1993)参照)。アデノウイルスは今までヒトに腫瘍を誘導したことを示されたことがなく、そして安全な生ワクチンとして使用されてきた(Straus(1984))。複製欠損組換えアデノウイルスは、複製に必要なE1領域を標的遺伝子に置換することにより生産され得る。アデノウイルスは、感染の正常な結果としてヒトゲノムに組み込まず、それによりレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで起き得
る挿入変異の危険性を大幅に減少し得る。染色体外DNAが、正常細胞の連続的な分裂で徐
々に失われるため、この安定な組み込みの欠損はまた、別の安全性をもたらす、すなわち形トランスフェクトされた遺伝子の効果は一時的である。安定的で高力価の組換えアデノウイルスは、レトロウイルスやAAVで得られないレベルで生産され得るので、大きな患者
人口を治療するために十分量の物質が生産され得る。さらに、アデノウイルスベクターは、広範囲の組織および腫瘍細胞型へのインビボの遺伝子導入に大変効率的であり得る。例えば、他の人々は、アデノウイルス媒介遺伝子送達は、膀胱線維症(Rosenfeldら、(1992);Richら、(1993))、およびα1−抗トリプシン欠損症(Lemarchandら(1992))のような疾患の遺伝子治療に強い可能性を持つことを示した。現在、遺伝子送達の別の代替法(例えば、カチオン化リポソーム/DNA複合体)が探索されているが、アデノウイルス媒介遺伝子送達ほど効果的なものはまだない。
【0011】
p53欠損腫瘍を治療すると同様に、他の腫瘍のための遺伝子治療の目標は、細胞増殖の
制御を回復することである。p53の場合、機能的な遺伝子の導入は、治療剤に誘導される
アポトーシス細胞死を可能にする細胞周期の制御を回復する。同様に、遺伝子治療は、腫瘍細胞の細胞周期進行を制御し、そして/または細胞死を誘導するために、単独または治療剤と併用して使用し得る他の腫瘍抑制遺伝子に対しても同等に適用し得る。さらに、細胞周期調節タンパク質をコードしないが、自殺遺伝子のように細胞死を直接誘導する遺伝子、または細胞に直接細胞障害性である遺伝子が、腫瘍細胞の細胞周期進行を直接排除するための遺伝子治療プロトコルに使用され得る。
【0012】
遺伝子が、細胞周期進行の制御を回復するために使用されるにもかかわらず、このアプローチの原理および実際の適用性は同一である。すなわち、高い効率の遺伝子導入を得、治療量の組換え産物を発現する。従って、患者に最小限の危険性で、高い効率の遺伝子導入を可能にするために、どのベクターを使用するかという選択は、遺伝子治療処置の成功レベルに重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、安全で、かつ効果的な遺伝子治療処置を提供するために高レベルの遺伝子導入効率およびタンパク質発現を供給するベクターおよび方法の必要性がある。本発明は、この必要性を満たし、そのうえ関連の有利性を供給する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(項目1) 組換えアデノウイルス発現ベクターを包含する薬学的組成物であって、該組換えアデノウイルス発現ベクターが、さらに部分的または全体的に欠失したタンパク質IX
DNAおよび外来タンパク質をコードする遺伝子を包含する薬学的組成物。
(項目2) 前記タンパク質IX 遺伝子配列の欠失が5'ウイルス末端の約3500bpから5'ウイルス末端の約4000bpに広がる項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3) アデノウイルスの初期領域3および/または初期領域4の非必須DNA配列の
欠失をさらに包含する、項目2に記載の薬学的組成物。
(項目4) アデノウイルスE1aおよびE1bと称されるDNA配列の欠失をさらに包含する、
項目2に記載の薬学的組成物。
(項目5) 初期領域3および/または初期領域4、ならびにアデノウイルスE1aおよびE1bと称されるDNA配列の欠失をさらに包含する、項目2に記載の薬学的組成物。
(項目6) E1aおよびE1bの3'位置の40までのヌクレオチドの欠失、タンパク質IXの欠失、およびポリアデニル化シグナルをコードする外来DNA分子を包含する、項目4または5に記載の薬学的組成物。
(項目7) 前記アデノウイルスが血清型1、2、5、または6から選択されるC群アデノウイルスである、項目1から6に記載の薬学的組成物。
(項目8) 前記遺伝子が2) 6キロベースまでのDNA分子である、項目1に記載の薬学
的組成物。
(項目9) 前記遺伝子が4) 5キロベースまでのDNA分子である、項目6に記載の薬学
的組成物。
(項目10) 前記遺伝子が外来性機能タンパク質または生物学的に活性なそのフラグメントをコードする、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目11) 前記遺伝子が外来性機能腫瘍抑制タンパク質または生物学的に活性なそのフラグメントをコードする、項目10に記載の薬学的組成物。
(項目12) 前記遺伝子が自殺タンパク質または機能的にそれと等価のタンパク質をコードする、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目13) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および外来タンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびに遺伝子治療のための1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目14) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および外来性機能タンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびに過剰増殖哺乳類細胞を形質転換するための1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目15) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および外来性機能タンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびにガンを治療するための1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目16) 前記遺伝子にコードされる前記外来性機能タンパク質が腫瘍抑制タンパク質であり、そして前記ガンが内因性野生型腫瘍抑制タンパク質の不足に関する、項目15に記載の使用。
(項目17) 前記腫瘍が非小細胞肺ガン、小細胞肺ガン、肝ガン、黒色腫、網膜芽腫、乳ガン、結腸直腸ガン、白血病、リンパ腫、脳腫瘍、頚ガン、肉腫、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、網内細胞組織の腫瘍、ウィルムス腫瘍、星状細胞腫、膠芽腫、神経芽腫、卵巣腫瘍、骨肉腫、および腎ガンである、項目16に記載の使用。
(項目18) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および自殺タンパク質または機能的にそれと等価のタンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、ならびに動物体内の腫瘍の増殖を阻害する1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目19) 部分的または全体的に欠失したタンパク質IX DNA、および自殺タンパク質または機能的にそれと等価のタンパク質をコードする遺伝子を包含する組換えアデノウイルス発現ベクター、有効量のチミジンキナーゼ代謝産物またはその機能的等価物、ならびに被験体内の腫瘍細胞の増殖を阻害する1以上の薬学的に受容可能なキャリアの使用。
(項目20) チミジンキナーゼ代謝産物がガンシクロビル、または6−メトキシプリンアラビノヌクレオチド、またはその機能的等価物である、項目19に記載の使用。
(項目21) 腫瘍細胞が肝細胞ガンである、項目19に記載の使用。
(項目22) 腫瘍細胞の増殖を減少させるキットであって、項目12の薬学的組成物の成分、チミジンキナーゼ代謝産物またはその機能的等価物、薬学的キャリア、および該キットを用いる肝細胞ガンの治療用の使用説明書を包含する、キット。
【0015】
発明の要旨
本発明は、部分的または全体的に欠失したアデノウイルスのタンパク質IX DNA、および外来タンパク質またはその機能的フラグメントまたは変異体をコードする遺伝子を有することで特徴付けられる組換えアデノウイルス発現ベクターを提供する。形質転換した宿主細胞、および組換えタンパク質の生産方法、および遺伝子治療はまた、本発明の範囲内に包含されている。従って、例えば、本発明のアデノウイルスベクターは、細胞周期の調節に効果的なタンパク質(例えば、p53、Rb、またはミトシン(mitosin))または細胞死の誘導に効果的なタンパク質(例えば、条件的自殺遺伝子チミジンキナーゼ)の発現のための外来遺伝子を含有し得る。(後者は、効果的にするために、チミジンキナーゼ代謝産物とともに使用しなければならない。)
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】図1は、本発明の組換えアデノウイルスベクターを示す。この構築物は、図1に示したように組み立てられた。生じたウイルスは、ヌクレオチド356から4020に広がるアデノウイルス塩基配列の5'欠失を有し、そして所望の遺伝子の転写を終えるのに用いるE1bおよびpIX遺伝子に共有されるポリアデニル化部位を完全に残して、E1aおよびE1b遺伝子ならびに完全なタンパク質IXコーディング配列を削除する。
【図1B】図1は、本発明の組換えアデノウイルスベクターを示す。この構築物は、図1に示したように組み立てられた。生じたウイルスは、ヌクレオチド356から4020に広がるアデノウイルス塩基配列の5'欠失を有し、そして所望の遺伝子の転写を終えるのに用いるE1bおよびpIX遺伝子に共有されるポリアデニル化部位を完全に残して、E1aおよびE1b遺伝子ならびに完全なタンパク質IXコーディング配列を削除する。
【図2A】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図2B】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図2C】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図2D】図2は、p110RBのアミノ酸配列を示す。
【図3A】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図3B】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図3C】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図3D】図3は、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【図4】図4は、本発明の範囲内の組換えp53/アデノウイルス構築物を模式的に示す。p53組換え体は、Ad5に基づき、そして、Ad2MLP(A/M/53)またはヒトCMV(A/C/53)プロモーターに続くAd2トリパータイトリーダーcDNAにより駆動される全長1.4kbのp53cDNAで置換したヌクレオチド360〜3325のE1領域を持っていた。コントロールウイルスA/Mは、A/M/53ウイルスと同一のAd5の欠失を有するが、1.4kbのp53cDNA挿入物を欠く。残存E1b配列(705ヌクレオチド)は、タンパク質IX欠失構築物A/M/N/53およびA/C/N/53を作製するために欠失された。これらの構築物はまた、アデノウイルス5型領域E3内に1.9kbのXbaI欠失を有する。
【図5】図5Aおよび5Bは、A/M/53およびA/C/53に感染した腫瘍細胞内でのp53タンパク質の発現を示す。図5A)Saos−2(骨肉腫)細胞は、A/M/53またはA/C/53のいずれかの精製されたウイルスで記載の感染多重度(MOI)で感染され、そして24時間後に回収された。p53抗体pAb1801は、等量の総タンパク質濃度を流したサンプルのイムノブロット染色に使用された。等量のタンパク質濃度のSW480細胞(これは、変異p53タンパク質を過剰発現する)の抽出物は、p53のサイズマーカーとして使用された。A/C/53の見出しの下の「0」は、未処理Saos−2溶解物を含む偽感染を示す。図5B)Hep3B(肝細胞ガン)細胞は、A/M/53またはA/C/53のウイルスで記載のMOIで感染され、そしてパートA)と同様に解析した。矢印は、p53タンパク質の位置を示す。
【図6】図6Aから6Cは、p53依存性Saos−2の形態変化を示す。密集以下のSaosー2細胞(1×105細胞/10cmプレート)は、非感染(A)、MOI=50のコントロールA/Mウイルスで感染(B)、またはMOI=50のA/C/53ウイルスで感染(C)された。細胞は、感染後72時間で撮影された。
【図7−1】図7は、A/M/N/53およびA/C/N/53によるヒト腫瘍細胞株でのp53依存性DNA合成阻害を示す。9つの異なる腫瘍細胞株は、コントロールアデノウイルスA/M(−×−×−)、またはp53を発現するA/M/N/53(−△−△−)、またはA/C/N/53(−○−○−)ウイルスのいずれかで、記載のようにMOIを増加しながら感染された。腫瘍の型およびp53の状態は、それぞれの細胞株について記された(wt=野生型、null=タンパク質発現なし、mut=発現した変異タンパク質)。DNA合成は、以下の実施例IIに記載したように感染72時間後に測定された。結果は、各量での3回の測定値からなり(平均+/−SD)、そしてMOIに対する培地コントロールの%としてプロットする。*H69細胞は、A/MおよびA/M/N/53のウイルスのみで試験された。
【図7−2】図7−2は、図7−1のつづきである。
【図7−3】図7−3は、図7−2のつづきである。
【図8】図8は、ヌードマウス中のp53感染Saos−2細胞の腫瘍形成を示す。 Saosー2細胞は、コントロールA/Mウイルス、またはp53組換えA/M/N/53のいずれかでMOI=30で感染された。処理細胞は、ヌードマウスの側腹に皮下注射され、そして腫瘍の大きさが(実施例IIに記載したように)週2回で8週間測定された。結果は、コントロールA/M(−×−×−)およびA/M/N/53(−△−△−)で処理した両方の細胞について、腫瘍細胞移植後の日数に対する腫瘍細胞の大きさをプロットする。エラーバーは、各時点での4匹の動物の各群に関する腫瘍大きさの平均+/−SEMを表す。
【図9】図9は、定着した腫瘍のrAd/p53 RNAの発現である。H69(SCLC)細胞は、ヌードマウスに皮下注射され、そして約25〜50mm3の大きさとなるまで、32日間腫瘍を発達させた。マウスは、無作為化し、そして腫瘍周辺に2×109pfuのコントロールA/C/β−galウイルス、またはA/C/53ウイルスのいずれかを注射した。腫瘍は、注射後2日目および7日目に摘出され、そして各腫瘍サンプルからpolyARNAを調製した。RT−PCRは、等量のRNA濃縮物および組換えp53メッセージに特異的なプライマーを用いて行われた。PCR増幅は、Omnigenthermalcycler(Hybaid)で、94℃1分、55℃1.5分、72℃2分で30サイクル、および最終伸長期間は72℃10分であった。使用したPCRプライマーは、5'側のトリパータイトリーダーcDNA(5'−CGCCACCGAGGGACCTGAGCGAGTC−3')、および3'側のp53プライマー(5'−TTCTGGGAAGGGACAGAAGA−3')であった。レーン1、2、4、および5は、示したように2日または7日で摘出したp53処理サンプルである。レーン3および6は、β−gal処理腫瘍由来である。レーン7、8、および9は、それぞれレーン4、5、および6の複製物であり、等量流していることを証明するためにアクチンプライマーを用いて増幅した。レーン10は、トリパータイト/p53含有プラスミドを用いたポジティブコントロールである。
【図10】図10Aおよび10Bは、インビボでのA/M/N/53の腫瘍抑制および生存期間の増加を示す。H69(SCLC)腫瘍細胞は、ヌードマウスに皮下注射され、2週間生育させた。緩衝液単独(−−−)、コントロールA/Mアデノウイルス(−×−×−)、またはA/M/N/53(−△−△)(どちらのウイルスも2×109pfu/注射)のいずれかの腫瘍周辺への注射は、週2回、計8回投与された。実施例IIに記載のように腫瘍の大きさは、週2回測定され、そして腫瘍容積は概算された。A)腫瘍の大きさは、各ウイルスごとにH69細胞の接種後時間(日)に対してプロットされる。エラーバーは、5匹の動物の各群に関する腫瘍大きさの平均+/−SEMを表す。矢印は、ウイルス注射日を示す。B)マウスは、生存についてモニターされ、そして緩衝液単独(−−−−)、コントロールA/M(・・・ ・・・ ・・・)、またはA/M/N/53(−)ウイルスで処理したH69細胞の接種後時間に対する1群ごとのマウスの生存割合をプロットしている。
【図11A】図11Aから11Cは、組換えプラスミド構築物の地図を示す。プラスミドは、以下に詳説したように構築された。構築物の太線は目的の遺伝子を示し、太字は、矢印で示した次のプラスミドを形成するために一緒に連結されるべきフラグメントを作るのに用いた制限酵素部位を示す。図11Aでは、プラスミドpACNTKの構築を示す。まず、pMLBKTK(ATCC第39369号)からのHSV−TK遺伝子をクローニングベクターのポリリンカーにサブクローニングし、続いてpACNベクターへのクローニングに望ましい末端を有するTK遺伝子を単離した。pACNベクターは、組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス配列を含有する(図12参照)。図11Bでは、プラスミドpAANTKの構築を示す。まず、α−フェトプロテインエンハンサー(AFP−E)およびプロモーター(AFP−P)領域をコードするPCR増幅フラグメントを、いくつかの工程を経て最終プラスミドにサブクローニングした。ここでは、AFPエンハンサーおよびプロモーターは、HSV−TK遺伝子に続く組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス2型配列の上流にある。図11Cでは、プラスミドpAANCATの構築を示す。まず、市販のプラスミドからクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を単離し、そしてpAANプラスミド(上記参照)にサブクローニングし、最終プラスミドpAANCATを作成する。ここでは、AFPエンハンサー/プロモーターは、アデノウイルス配列を背景とした、CAT遺伝子の転写を指向する。
【図11B】図11Aから11Cは、組換えプラスミド構築物の地図を示す。プラスミドは、以下に詳説したように構築された。構築物の太線は目的の遺伝子を示し、太字は、矢印で示した次のプラスミドを形成するために一緒に連結されるべきフラグメントを作るのに用いた制限酵素部位を示す。図11Aでは、プラスミドpACNTKの構築を示す。まず、pMLBKTK(ATCC第39369号)からのHSV−TK遺伝子をクローニングベクターのポリリンカーにサブクローニングし、続いてpACNベクターへのクローニングに望ましい末端を有するTK遺伝子を単離した。pACNベクターは、組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス配列を含有する(図12参照)。図11Bでは、プラスミドpAANTKの構築を示す。まず、α−フェトプロテインエンハンサー(AFP−E)およびプロモーター(AFP−P)領域をコードするPCR増幅フラグメントを、いくつかの工程を経て最終プラスミドにサブクローニングした。ここでは、AFPエンハンサーおよびプロモーターは、HSV−TK遺伝子に続く組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス2型配列の上流にある。図11Cでは、プラスミドpAANCATの構築を示す。まず、市販のプラスミドからクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を単離し、そしてpAANプラスミド(上記参照)にサブクローニングし、最終プラスミドpAANCATを作成する。ここでは、AFPエンハンサー/プロモーターは、アデノウイルス配列を背景とした、CAT遺伝子の転写を指向する。
【図11C】図11Aから11Cは、組換えプラスミド構築物の地図を示す。プラスミドは、以下に詳説したように構築された。構築物の太線は目的の遺伝子を示し、太字は、矢印で示した次のプラスミドを形成するために一緒に連結されるべきフラグメントを作るのに用いた制限酵素部位を示す。図11Aでは、プラスミドpACNTKの構築を示す。まず、pMLBKTK(ATCC第39369号)からのHSV−TK遺伝子をクローニングベクターのポリリンカーにサブクローニングし、続いてpACNベクターへのクローニングに望ましい末端を有するTK遺伝子を単離した。pACNベクターは、組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス配列を含有する(図12参照)。図11Bでは、プラスミドpAANTKの構築を示す。まず、α−フェトプロテインエンハンサー(AFP−E)およびプロモーター(AFP−P)領域をコードするPCR増幅フラグメントを、いくつかの工程を経て最終プラスミドにサブクローニングした。ここでは、AFPエンハンサーおよびプロモーターは、HSV−TK遺伝子に続く組換えアデノウイルスを形成し得るインビボの組換えに必要なアデノウイルス2型配列の上流にある。図11Cでは、プラスミドpAANCATの構築を示す。まず、市販のプラスミドからクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を単離し、そしてpAANプラスミド(上記参照)にサブクローニングし、最終プラスミドpAANCATを作成する。ここでは、AFPエンハンサー/プロモーターは、アデノウイルス配列を背景とした、CAT遺伝子の転写を指向する。
【図12】図12は、組換えアデノウイルスACNTK、AANTK、およびAANCATの概略地図である。図11に記載したプラスミドから組換えアデノウイルスを構築するために、各プラスミドpACNTK、pAANTK、およびpAANCATの4部(20μg)は、EcoRIで線状化され、そして、 E3領域に欠失を含むCla 1消化の組換えアデノウイルス(rACβ−gal)の大きなフラグメント1部(5 μg)とともに同時トランスフェクトされた。生じたウイルスでは、Ad5ヌクレオチド360〜4021は、示したようにHSV−1TK遺伝子またはCAT遺伝子の発現を駆動するCMVプロモーターおよびトリパータイトリーダーcDNA(TPL)、またはα−フェトプロテインエンハンサーおよびプロモーター(AFP)のいずれかで置換される。生じた組換えアデノウイルスは、それぞれACNTK、AANTK、およびAANCATと称される。
【図13】図13は、組換えアデノウイルスベクター中のCAT発現のプロモーター特異性を示す。2×106の指定の細胞株は、示したようにMOI=30または100の組換えアデノウイルスAANCATで感染され、または左は非感染(UN)とした。HepG2細胞およびHepG3細胞は、α−フェトプロテインを発現するが、他の細胞株は発現しない。3日後、細胞を回収し、抽出容量を総タンパク質濃度が等しくなるように調整し、そしてCAT活性を以下の方法のセクションに記載したように測定した。同数の非感染細胞は、バックグラウンドCAT活性の個々のコントロールとして供した。一方、14C標識クロラムフェニコール(14C−のみ)およびCAT活性を発現する安定な細胞株(B21)抽出物は、それぞれネガティブコントロールおよびポジティブコントロールとして供された。アセチルCoAの転換率が示され、CAT発現がα−フェトプロテインを発現するこれらの細胞に限定されることを証明している。
【図14】図14は、肝細胞ガン細胞株に対するTK/GCV処理効果、およびプロモーター特異性の効果を示す。Hep−G2(AFPポジティブ)およびHLF(AFPネガティブ)細胞株は、ACNTK[−△−]、AANTK[−▲−]、またはコントロールACN[−□−]ウイルスを感染多重度30で一晩感染され、そして次に示した濃度の単一用量のガンシクロビル(ganciclovir)で処理された。細胞増殖は、回収の約18時間前に3H−チミジンを細胞に添加することにより評価された。細胞核酸への3H−チミジンの取り込みは、感染72時間後に測定され(TopCount、Packard)、そして未処理コントロールの百分率(平均+/−S.D.)として表した。結果により、CMV駆動構築物は、非選択的用量依存性の増殖阻害であるが、AFP駆動TKは、Hep−G2を選択的に阻害することを示す。
【図15】図15は、HCCに対するACNTKおよびガンシクロビルの細胞性障害を示す。HLF細胞は、30のMOIでACNTK[−●−]、またはコントロールウイルスACN[−□−]のいずれかで感染され、そして示した用量のガンシクロビルで処理した。ガンシクロビル処理72時間後、細胞上清中に放出されたラクテートデヒドロゲナーゼ(LDG)量は比色分析により測定され、そして2つのウイルス処理群についてガンシクロビル濃度に対する(平均+/−SEM)をプロットした。
【図16】図16Aおよび16Bは、ヌードマウスの定着した肝細胞ガン(HCC)腫瘍に対するACNTKおよびガンシクロビルの効果を示す。1×107のHep3B細胞は、メスヌードマウスの側腹に皮下注射され、27日間成長させた。次いで、マウスは、2日ごと計3回(矢印で示した)、ACNTK[−●−]またはコントロールACN[−□−]のいずれかのウイルス(100μl容量中1×109iu)の腫瘍内および腫瘍周辺部への注射を受けた。ガンシクロビル注射(100mg/kg腹腔内)は、最初のウイルス投与後24時間で開始し、合計10日間継続した。図16Aでは、各ウイルスの感染後の日数に対する腫瘍の大きさがプロットされる(平均+/−SEM)。図16Bでは、各ウイルス処理動物群の体重が感染後の日数に対する平均+/−SEMとしてプロットされる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
野生型アデノウイルスの混入頻度を減少させるために、組換え率を減少させるウイルスまたは細胞株のいずれかを改良することが望ましい。例えば、C群ウイルスに低い相同性を有する群由来のアデノウイルスは、293細胞中のAd5配列と組換える傾向がほとんどな
い組換えウイルスを設計するために使用され得る。しかし、ウイルスと細胞の配列の間の組換えを減少させるもう1つのより容易な手段は、組換えウイルスの欠失のサイズを増加することであり、その結果、それと293細胞中のAd5遺伝子との間の共有している配列の
範囲が減少する。
【0018】
アデノウイルスゲノムの5'末端から3.5kbを越えて広がる欠失は、アデノウイルスタン
パク質IXの遺伝子に影響し、そしてアデノウイルスベクターとして望ましいとは考えられない(下記参照)。
【0019】
アデノウイルスのタンパク質IX遺伝子は、ウイルスキャプシドの大部分を構成するヘキソン9量体(group−of−nine hexons)を安定化するアデノウイルスの外側のキャプシドの少数構成物をコードする(Stewart(1993))。アデノウイルス欠失変異体の研究に基づいて、タンパク質IXは最初アデノウイルスの非必須構成物と考えられたが、その非存在は、野生型のウイルスで観察されるよりも大きな熱不安定性と関係していた(ColbyおよびShenk(1981))。さらに最近では、タンパク質IXは、完全長のウイルスDNAのキャプシドへのパッ
ケージングに必須であること、およびタンパク質IXの非存在下では、野生型よりも少なくとも1kbは小さいゲノムしか組換えウイルスとして増殖され得ないことが発見された(Ghosh−Choudhuryら(1987))。このパッケージングを限定すれば、アデノウイルスベクターの設計における故意のタンパク質IXの欠失は考えられない。
【0020】
本出願では、参考文献を、本発明に包含される基本的技術を行うための定義、方法、および手段を含有する分子生物学の標準的な教科書で作成した。例えば、Sambrookら(1989)およびそこに引用されている種々の参考文献を参照のこと。この参考文献および引用した刊行物は、この明細書の参考文献として明確に援用される。
【0021】
当該分野で公知のこととは反対に、本発明は、診断および遺伝子治療のような治療的適用で使用するウイルス調製物中に野生型アデノウイルスの混入の危険性を減少させる手段として、タンパク質IX遺伝子の欠失を有する組換えアデノウイルスの使用を請求している。本明細書で使用した「組換え」という用語は、遺伝子工学の結果形成された子孫を意味することを意図する。これらの欠失は、さらに従来のE1欠失ウイルスに存在する500〜700塩基対のDNA配列を除去し得る(pIX遺伝子部分より小さくて、あまり望ましくない欠失が可能であり、そしてこの明細書の範囲内に包含され得る)、そして293細胞に組み込まれるAd5配列での組換えに利用し得る。任意のC群ウイルス(血清型1、2、5、および6)に基づく組換えアデノウイルスは、本発明に包含される。アデノウイルス2型主要後期プロモーターによるヒトp53cDNAを発現する組換えウイルスに基づくハイブリッドAd2/Ad5も本発明に包含される。この構築物は、図1に示すように組み立てられた。生じたウイルスは、約ヌレオチド357から4020に広がるアデノウイルス配列の5’欠失を有し、そして任意の望ましい遺伝子の転写終了に使用されるために完全なE1b遺伝子およびタンパク質IX遺伝子に共有されるポリアデニル化部位を残して、E1a遺伝子およびE1b遺伝子ならびにタンパク質IXコード配列全体を除去する。別の実施態様は、図4に示される。あるいは、隣接したタンパク質IVa2遺伝子に影響することなく、欠失をさらに30から40塩基対に広げ得るが、この場合、組換えウイルスに挿入された遺伝子の転写を終了するために、外因性のポリアデニル化シグナルが供給される。この欠失で構築された最初のウイルスは、野生型ウイルスの混入の証拠が無い293細胞内で容易に増殖され、そして欠失部位に挿入された転写単位から強いp53発現を指向する。
【0022】
上記のタンパク質IX欠失を有する組換えウイルスの挿入能力は、約2.6kbである。これは、p53cDNAを含む多くの遺伝子について十分である。挿入能力は、アデノウイルス骨格に別の欠失(例えば、初期領域3または4内の欠失(概説参照:GrahamおよびPrevec(1991))を導入することにより増大され得る。例えば、初期領域3内の非必須配列1.9kbの欠失を含むアデノウイルス骨格の使用。このさらなる欠失によって、ベクターの挿入能力は、約4.5kbまで増大され、これは網膜芽腫腫瘍抑制遺伝子を含む多くのさらに大きなcDNAに対して十分大きい。
【0023】
アデノウイルスタンパク質IX DNAの部分欠失または全欠失、および外来タンパク質またはその機能的フラグメントもしくはその変異体をコードする遺伝子を有することにより特徴付けられる組換えアデノウイルス発現ベクターは、本発明により提供される。これらのベクターは、診断用および治療用のポリペプチドおよびタンパク質の安全な組換え体生産のために、さらに重要なのは、遺伝子治療での遺伝子導入のために有用である。従って、例えば、本発明のアデノウイルスベクターは、細胞周期の調節に効果的なタンパク質(例えば、p53、Rb、またはミトシン)、または細胞死の誘導に効果的なタンパク質(例えば、条件的自殺遺伝子チミジンキナーゼ)の発現のための外来遺伝子を含有し得る。(後者は、効果的にするために、チミジンキナーゼ代謝産物と同時に使用するべきである。)任意の発現カセットは本発明のベクター内に使用され得る。「発現カセット」は、転写プロモーター/エンハンサー(例えば、CMVプロモーターエンハンサーなど)、外来遺伝子、および以下に定義したいくつかの実施態様におけるポリアデニル化シグナルを有するDNA分子を意味する。本明細書で使用した「外来遺伝子」という用語は、野生型アデノウイルスに発見される相対DNA分子のようには、正確な方向および位置に存在しないDNA分子を意味することを意図する。外来遺伝子は、4.5キロベースまでのDNA分子である。「発現ベクター」は、適切な宿主細胞で増殖したとき、挿入したDNA配列の発現を生じる、すなわち、このDNAによってコードされるタンパク質またはポリペプチドの宿主系での合成を生じるベクターを意味する。組換えアデノウイルス発現ベクターは、アデノウイルスタンパク質IXをコードする遺伝子部分を含有し得、生物的に活性なタンパク質IXまたはそのフラグメントは生産されない。このベクターの例は、図1または図4の制限酵素地図を有する発現ベクターである。
【0024】
誘導性プロモーターはまた、本発明のアデノウイルスベクターで使用され得る。これらのプロモーターは、追加の分子が存在するときにのみ転写を開始する。誘導性プロモーターの例は、β−インターフェロン遺伝子、熱ショック遺伝子、メタロチオニン遺伝子、またはステロイドホルモン応答遺伝子から得られるプロモーターを包含する。組織特異的発現は、遺伝子発現の分野でよく特徴付けられてきた。そして、これらの組織特異的プロモーターおよび誘導性プロモーターは、当該分野で周知である。これらの遺伝子は、標的細胞に外来遺伝子を導入した後、外来遺伝子の発現を調節するために使用される。
【0025】
本発明によって、上記のように、1つの実施態様において、5'ウイルス末端の3500 bpから約4000 bpに広がるタンパク質IX遺伝子配列のより少ない範囲の欠失を有する組換えアデノウイルス発現ベクターも提供される。別の実施態様として、組換えアデノウイルス発現ベクターは、さらにアデノウイルス初期領域3、および/または初期領域4の非必須DNA配列の欠失、および/またはアデノウイルスE1aおよびE1bで表されるDNA配列の欠失を有し得る。この実施態様では、外来遺伝子は4.5キロベースまでの大きさのDNA分子である。
【0026】
さらなる実施態様は、 E1aおよびE1bの欠失の3'に位置する最大40ヌクレオチドまでの欠失、およびpIX、および外来遺伝子の発現を調節するために、外来遺伝子に対して適切な位置の組換えベクター内に挿入されたポリアデニル化シグナルをコードする外来DNA分子を持つ。
【0027】
本発明の目的として、組換えアデノウイルス発現ベクターは野生型群アデノウイルス血清型1、2、5、または6から由来し得る。
【0028】
一つの実施態様において、組換えアデノウイルス発現ベクターは、機能的な腫瘍抑制タンパク質、または生物的に活性なそのフラグメントをコードする外来遺伝子を有する。本明細書で使用した「機能的」という用語は、腫瘍抑制遺伝子に関係する場合、腫瘍細胞としての挙動から細胞を効果的に阻害する腫瘍抑制タンパク質をコードする腫瘍抑制遺伝子を意味する。機能的遺伝子は、例えば、正常な遺伝子の野生型、および効果的な腫瘍抑制タンパク質をコードする能力を維持する正常な遺伝子の改変物、および他の抗腫瘍遺伝子(例えば、条件自殺タンパク質またはトキシン)を包含し得る。
【0029】
同様に、本明細書で使用される「非機能的」という用語は、「不活性化された」と同意語である。非機能的または欠損遺伝子は、例えば、点変異、欠失、メチル化、および当業者に既知の他の事象を包含する、種々の事象によって引き起こされ得る。
【0030】
本明細書で使用される遺伝子の「活性フラグメント」という用語は、腫瘍抑制活性を有するタンパク質をコードする能力を維持する小さな遺伝子部分を包含している。以下でさらに十分に記載するp56RBは、機能的な腫瘍抑制遺伝子の活性フラグメントの一例である
。腫瘍抑制遺伝子の改変(例えば、付加、欠失、または置換)もまた、非改変遺伝子の機能的活性が維持される限りは、活性フラグメントの意味内にあることが意図される。
【0031】
腫瘍抑制遺伝子の別の例は、網膜芽腫(RB)である。完全なRB cDNAヌクレオチド配列、および得られるRBタンパク質(p110RBと表す)の推定アミノ酸配列は、Leeら(1987)および図3に示される。図2に示すアミノ酸配列をコードするDNA分子、または図3に示すDNA配列を有するDNA分子も、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質を発現するのに有用である。p56RBと呼ばれるp110RBの短縮型も有用である。p56RBの配列については、Huangら(1991)参照。別の腫瘍抑制遺伝子は、本発明のベクターに使用され得る。例示の目的のみでは、これらは、p16タンパク質(Kambら(1994))、p21タンパク質、ウィルムス腫瘍WT1タンパク質、ミトシン、h−NUC、または結腸ガンDCCタンパク質であり得る。ミトシンは、1993年10月22日
に出願されたX.ZhuおよびW−HLeeの米国特許出願第08/141,239号、および1994年10月24日に出願された同発明者らによる続きの一部継続出願の代理人整理番号P−CJ1191に記載されており、これらは両方とも本明細書中に参考として援用されている。同様に、h−NUCは、参考として援用されている1993年12月20日に出願されたW−HLeeおよびP−LChen、米国特許出願第08/170,586号に記載されている。
【0032】
当業者に既知のように、「タンパク質」という用語は、ペプチド結合で特定の配列に結合したアミノ酸の直線状重合体を意味する。本明細書で使用した「アミノ酸」という用語は、別に特別に指定しない限り、アミノ酸のDまたはLの立体異性体のいずれもを言及している。本発明の範囲内には、等価のタンパク質または等価のポリペプチド(例えば、精製した野生型腫瘍抑制タンパク質の生物活性を有する)もまた包含される。「等価のタンパク質」および「等価のポリペプチド」は、天然に存在するタンパク質またはポリペプチドの直鎖状配列からはずれているが、その生物活性を変化させないアミノ酸置換を有する化合物を言及している。これらの等価物は、1以上のアミノ酸が関連アミノ酸(例えば、同じ電荷のアミノ酸、あるいは側鎖または官能基の置換または修飾)で置換されることにより、天然の配列と異なり得る。
【0033】
機能的腫瘍抑制タンパク質の定義には、それが存在することにより、宿主細胞の腫瘍形成、悪性、または過度増殖表現型を減少させる任意のタンパク質もまた、包含される。この定義内の腫瘍抑制タンパク質の例には、p110RB、p56RB、ミトシン、h−NUC、およびp53が包含されるが、それらに限定されない。「腫瘍形成」は、腫瘍形成能または腫瘍形成を引き起こし得る能力を有することを意味すると意図され、新生物形成性成長と同義語である。「悪性」は、転移し、そして宿主生物の生命を危険にさらす能力を有する腫瘍性細胞を記載することを意図する。「過度増殖表現型」は、その細胞型の正常な成長限度を超えた細胞成長および細胞分裂を記載することが意図される。「新生物形成性」はまた、内因性機能的腫瘍抑制タンパク質を欠く細胞、あるいは細胞が機能的腫瘍抑制タンパク質をコードする内因性核酸を発現させることができないことを包含することが意図される。
【0034】
本発明のベクターの例は、p53タンパク質をコードする外来遺伝子、または本発明で提供されるその活性フラグメントを有する組換えアデノウイルス発現ベクターである。p53遺伝子のコード配列を、以下の表Iに記載する。
【0035】
【表1A】
【0036】
本明細書に記載の発現ベクターのいずれもが、診断または治療のための組成物として有用である。ベクターは、遺伝子治療に有用であり得る多数の腫瘍抑制遺伝子のスクリーニングのために使用され得る。例えば、新生物形成性であると推測される細胞サンプルが、被験体および哺乳類から取り出されし得る。次に、細胞は、適切な条件下で、いくつかの機能的腫瘍抑制遺伝子のうちの1つをコードする外来遺伝子をその中に挿入した本発明の有効量の組換えベクターと接触され得る。この遺伝子の導入によって悪性の表現型を逆転させるかどうかは、軟寒天でのコロニー形成またはヌードマウスでの腫瘍形成により測定され得る。悪性の表現型が逆転した場合、その外来遺伝子は、被験体または哺乳類の好結果の遺伝子治療のためのポジティブな候補であり得ると決定される。製薬上使用される場合、これらは1以上の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせられ得る。薬学的に受容可能なキャリアは、当該分野で周知であり、そして、水溶液(例えば、生理的緩衝食塩水)、または他の溶媒または媒体(vehicle)(例えば、グリコール、グリセロール、植物油(例えば、オリーブ油)、または注射可能な有機エステル)を包含する。薬学的に受容可能なキャリアは、本発明の組成物を、インビトロの細胞またはインビボの被験体へ投与するために使用され得る。
【0037】
薬学的に受容可能なキャリアは、例えば、組成物を安定化させる、または薬剤の吸収を増加あるいは減少させるように作用する生理的に受容可能な化合物を含有し得る。生理的に受容可能な化合物は、例えば、炭水化物(例えば、グルコース、シュクロース、またはデキストラン)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸またはグルタチオン)、キレート剤、低分子量タンパク質、または他の安定剤あるいは賦形剤を包含し得る。他の生理的に受容可能な化合物は、湿潤剤、乳化剤、分散剤、または微生物の生育または活動を防止するのに特に有効な防腐剤を包含する。様々な防腐剤が周知であり、例えばフェノールおよびアスコルビン酸を包含する。当業者には、薬学的に受容可能なキャリア(生理的に受容可能な化合物を包含する)の選択が、例えば、ポリペプチドの投与経路および特定のポリペプチドの特定の物理化学的特性に依存することが理解される。例えば、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンのような生理的に受容可能な化合物は、被験体に投与される薬学的組成物の吸収速度を遅くする遅延剤として特に有用である。キャリア、安定剤、またはアジュバンドのさらなる例は、本明細書中で参考として援用されているMartin、Remington'sPharm.Sci.、第15版(Mack Publ.Co.、Easton、1975)中に見出され得る。薬学的組成物は、所望であれば、リポソーム、ミクロスフェア、または他のポリマーマトリックス中に取り込まれ得る(Gregoriadis、LiposomeTechnology、Vol.1(CRC Press、Boca Raton、Florida1984)、これは、本明細書中に参考として援用されている) 。例えば、リポソームは、リン脂質または他の脂質からなるが、これは非毒性の、生理的に受容可能な、代謝性キャリアであり、製造および投与が比較的簡単である。
【0038】
本明細書で使用される「薬学的組成物」という用語は、1以上の上記の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせた、本明細書中に記載される物質の任意の組成物を言及している。次に、組成物は治療的または予防的に投与され得る。これらは、有効量で、宿主細胞とインビボ、エクスビボ、またはインビトロで接触され得る。宿主細胞を接触させるインビトロおよびエクスビボの手段は、以下で提供される。インビボで実行されたとき、本発明のベクターを含む医薬の投与方法は、当該分野で周知であり、そして経口投与、腫瘍内投与、静脈投与、筋肉内投与、または腹腔内投与を包含するが、それらに限定されない。投与は、継続的あるいは断続的に行われ得、そして治療される被験体および状態(例えば、他の治療用組成物と共に用いられる場合)によって異なり得る(Landmannら(1992);Aulitzkyら(1991);Lantzら(1990);Supersaxoら(1988);Demetriら(1989);およびLeMaistreら(1991))。
【0039】
さらに、本発明により、上記の組換えアデノウイルス発現ベクターが挿入された形質転換原核宿主細胞または形質転換真核宿主細胞(例えば、動物細胞または哺乳類細胞)が提供される。適切な原核細胞は、E.coli細胞のような細菌細胞を包含するが、それに限定されない。レトロウイルスベクターで宿主細胞を形質転換する方法は、当該分野で公知であり(Sambrookら(1989)参照)、そしてトランスフェクション、エレクトロポレーション、およびマイクロインジェクションを包含するが、それらに限定されない。
【0040】
本出願を通して使用される動物という用語は、哺乳類と同義語であることが意図され、ウシ、ブタ、ネコ、サル、イヌ、ウマ、ネズミ、ラット、またはヒトを包含するが、それに限定されない。別の宿主細胞は、任意の新生物または腫瘍細胞を包含するが、それらに限定されない。このような細胞としては、例えば、骨肉腫、卵巣腫、乳ガン、黒色腫、肝ガン、肺ガン、大脳ガン、結腸直腸ガン、造血細胞、前立腺ガン、頚腫、網膜芽腫、食道腫、膀胱ガン、神経芽腫、または腎臓ガンが挙げられる。
【0041】
さらには、 E1aおよびE1bまたはE1a、E1bおよびpIXを発現し得る任意の真核細胞株が、このベクターの宿主として適切である。1つの実施態様では、適切な真核宿主細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション、12301ParklawnDrive、Rockville、Maryland,U.S.A.20231で入手可能な293細胞株である。
【0042】
本明細書中に記載される形質転換宿主細胞のいずれもが、診断または治療用組成物として有用である。製薬上使用される場合、それらは、種々の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせられ得る。適切な薬学的に受容可能なキャリアは、当業者に周知であり、例えば、上記である。次に、組成物は、以下により詳細に記載するように、有効量で治療的または予防的に投与され得る。
【0043】
宿主細胞を形質転換する方法もまた、本発明により提供される。この方法は、適切な条件下での、宿主細胞(すなわち、原核宿主細胞または原核宿主細胞)と本明細書中に記載される発現ベクターとの接触を提供する。この方法により形質転換された宿主細胞もまた、本発明の範囲内に請求されている。この接触は、当該分野で周知の方法(Sambrookら(1989))を使用して、そして有効量の発現ベクターを使用して、インビトロ、インビボ、またはエクスビボで行われ得る。本発明では、挿入外来遺伝子の転写および翻訳に好都合な適切な条件下で形質転換宿主細胞を生育させることにより、組換えタンパク質またはポリペプチドの生産方法もまた提供され得る。種々の宿主細胞(例えば、哺乳類、酵母、昆虫、または細菌細胞)での組換え発現方法は広く知られており、Sambrookら(前記)に記載の方法を包含する。次に、翻訳された外来遺伝子は、従来の手段(例えば、カラム精製または抗タンパク質抗体を使用する精製)で単離され得る。単離したタンパク質またはポリペプチドはまた、本発明の範囲内にあることが意図される。本明細書中で使用される精製または単離は、天然状態または宿主細胞環境で通常タンパク質またはポリペプチドに会合している天然のタンパク質または核酸を実質的に含まないことを意味する。
【0044】
本発明によって、本発明の発現ベクターまたは形質転換宿主細胞がその中に挿入された非ヒト動物もまた提供される。これらの「トランスジェニック」動物は、当業者に周知の方法によって作製される(例えば、米国特許第5,175,384号に記載、またはCulverら(1991)記載の従来のエクスビボ治療法)。
【0045】
以下に詳述するように、上記のような腫瘍抑制因子野生型p53を発現する組換えアデノウイルスは、効果的にDNA合成を阻害し得、そして臨床上の標的を包含する、広範囲のヒト腫瘍細胞型の生育を抑制し得る。さらに、組換えアデノウイルスは、腫瘍への直接注入またはガン細胞のエクスビボの前処理に依存せずに、インビボで定着した腫瘍において、p53のような腫瘍抑制遺伝子を発現し得る。発現したp53は、機能的であり、そしてインビボで効果的に腫瘍成長を抑制し、そしてヒト肺ガンのモデルのヌードマウスの生存時間を有意に増加させる。
【0046】
それゆえ、本発明のベクターは遺伝子治療に特に適切である。よって、これらのベクターを利用する遺伝子治療方法は、本発明の範囲内である。ベクターは、精製され、そして次に有効量が被験体にインビボまたはエクスビボで投与される。遺伝子治療の方法は、当該分野では周知である(例えば、Larrick、J.W.およびBurck,K.L.(1991)ならびにKreigler、M.(1990))。「被験体」は、任意の動物、哺乳類、ラット、ネズミ、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、またはヒト患者を意味する。外来遺伝子が、腫瘍抑制遺伝子または他の抗腫瘍タンパク質をコードするとき、ベクターは被験体内の過剰増殖細胞を処置または減少させるため、被験体内の腫瘍増殖を阻害するため、または特定の関連病状を改善させるために有用である。病的過剰増殖細胞は、以下の疾患状態で特徴付けられる。甲状腺過形成(グレーヴズ病)、乾癬、良性前立腺肥大、リー−フラウメニ症候群(乳ガン、肉腫、および他の新生物形成を包含する)、膀胱ガン、結腸ガン、肺ガン、種々の白血病およびリンパ腫。非病的過剰増殖細胞の例は、例えば、授乳期の発達途中の哺乳類の管上皮細胞において見られ、および創傷修復に関係した細胞においても見られる。病的過剰増殖細胞は、特徴的に、接触阻害の喪失、および選択的に接着する能力の低下(このことは、細胞表面の性質の変化および細胞間情報交換のさらなる故障を暗示する)を示す。これらの変化は、分裂刺激およびタンパク質分解酵素を分泌する能力を包含する。
【0047】
さらに本発明は、(自己の末梢血液または骨髄のいずれに由来しても)本発明のベクターを使用する細胞調製物への野生型腫瘍抑制遺伝子の導入により、骨髄再構成の間に、造血前駆体に混入している病的哺乳類過剰増殖細胞の適切なサンプルを涸渇させる方法に関する。本明細書中で使用される「適切なサンプル」は、患者から得られる不均一な細胞調製物(例えば、表現型が正常な細胞と病的な細胞との両方を含む細胞の混合集団)として定義される。「投与」は、細胞または被験体に、静脈内に、腫瘍に直接注入することにより、腫瘍内注入により、腹腔内投与により、肺への噴霧投与により、または局所的に導入することを包含するが、それらに限定されない。このような投与は、上記の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせられ得る。
【0048】
「減少した腫瘍形成」の用語は、腫瘍形成の低い細胞あるいは非腫瘍形成の細胞に転換した腫瘍細胞を意味することが意図される。減少した腫瘍形成を有する細胞は、インビボで腫瘍を形成しないか、あるいはインビボの腫瘍成長が現れる前に数週間から数カ月の長期の誘導期を有し、かつ/または3次元の腫瘍容積が完全に不活性化されたあるいは非機能的な腫瘍抑制遺伝子を有する腫瘍と比較してゆっくり増大する。
【0049】
本明細書で使用される「有効量」の用語は、細胞増殖制御にポジティブな結果の得られる、ベクターまたは抗ガンタンパク質の量を意味することが意図される。例えば、1用量は約108から約1013の感染単位を含有する。代表的な処置過程は、毎日1回そのような用量を5日にわたって続ける。有効量は、患者とその容態、および当業者に周知の他の要因により、治療される病状または状態において異なる。有効量は、当業者によって容易に決定される。
【0050】
病状を改善する能力を有する遺伝子産物をコードする外来遺伝子を含有する上記ベクターの有効量を、適切な条件下で被験体に投与することにより、被験体の過剰増殖細胞または遺伝的欠損で特徴付けられる病状を改善する方法もまた、本発明の範囲内である。本明細書中で使用される「遺伝的欠損」は、遺伝要因から生じる任意の疾患または異常(例えば、鎌形赤血球貧血またはテイ−サックス病)を意味する。
【0051】
本発明はまた、腫瘍抑制遺伝子以外の抗腫瘍遺伝子を含有するアデノウイルス発現ベクターの有効量を腫瘍塊に導入することにより、被験体の腫瘍細胞の増殖を減少させる方法を提供する。例えば、抗腫瘍遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)をコードし得る。次に被験体は、治療剤(これは、抗腫瘍遺伝子の存在下で、細胞に対して毒性である)を有効量投与される。チミジンキナーゼの特定の場合、治療剤はチミジンキナーゼ代謝産物(例えば、ガンシクロビル(GCV)、6−メトキシプリンアラビノヌクレオシド(araM)、またはそれらの機能的等価物)である。チミジンキナーゼ遺伝子およびチミジンキナーゼ代謝産物のどちらも、宿主細胞に対して毒性であるには同時に使用されなければならない。しかし、その存在下では、GCVはリン酸化されて有効なDNA合成阻害剤になるが、一方araMは、細胞障害性の同化産物araATPに変換される。他の抗腫瘍遺伝子もまた同様に、対応する治療剤と組み合わせて用いられ得、腫瘍細胞の増殖を減少させ得る。このような他の遺伝子および治療剤の併用は、当業者に既知である。別の例は、酵素シトシンデアミナーゼを発現する本発明のベクターである。このようなベクターは、薬剤5−フルオロウラシル(AustinおよびHuber、1993)の投与とともに、または最近記載されたE.coliDeo Δ 遺伝子を6−メチルプリン−2'−デオスリボヌクレオシド(6−methyl−purine−2'−deosribonucleoside)(Sorscherら、1994)と併用して加えるとともに、使用される。
【0052】
既述の腫瘍抑制遺伝子の使用と同様に、単独または適切な治療剤との併用での他の抗腫瘍遺伝子の使用は、腫瘍および悪性に特有の非制御の細胞成長または細胞増殖のための処置を提供する。従って、本発明は、患者における非制御性細胞成長を停止させ、それにより患者に存在する疾患または悪液質の症状を改善する治療を提供する。この処置の効果は、患者の生存期間の延長、腫瘍容積または荷重の減少、腫瘍細胞のアポトーシス、または循環腫瘍細胞の数の減少を包含するが、それに限定されない。この治療法の有益な効果を定量化する手段は、当業者に周知である。
【0053】
本発明は、アデノウイルスタンパク質IX DNAの部分欠失または全欠失、および外来タンパク質をコードする外来遺伝子を有する(ここで外来タンパク質は自殺遺伝子であるかまたはその機能的等価物である)ことで特徴付けられる組換えアデノウイルス発現ベクターを提供する。上記の抗ガン遺伝子TKは、自殺遺伝子の例である。なぜなら、その遺伝子産物が発現すると、細胞に致死的であるか、または致死的になり得る。TKでは、致死性はGCVの存在により誘導される。TK遺伝子は、当業者に周知の方法により、単純ヘルペスウイ
ルスから得られる。E.coliHB101中のプラスミドpMLBKTK (ATCC #39369由来)は、本発明
に使用する単純ヘルペスウイルス(HSV−1)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子の供給源である
。しかし、多数の他の供給源もさらに存在する。
【0054】
TK遺伝子は、アデノウイルス発現ベクターを適切な薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせることにより、腫瘍塊に導入され得る。導入は、例えば腫瘍塊への組換えアデノウイルスの直接注入で成し遂げられ得る。肝細胞ガン(HCC)のようなガンの特定の場合では、肝動脈への直接注射が送達のために使用され得る。なぜなら、ほとんどのHCCは、それらの循環をこの動脈から得ているからである。腫瘍増殖を制御するためには、腫瘍容積の減少を得るために、患者をTK代謝産物(例えば、ガンシクロビル)で処置することにより細胞死を誘導する。TK代謝産物は、例えば、全身的に、腫瘍への局所接種により、またはHCCの特定の場合は肝動脈への注射によって投与され得る。TK代謝産物は、好ましくは少なくとも1日1回投与されるが、必要に応じて増減され得る。TK代謝産物は、TK含有ベクターの投与と同時またはそれに続いて投与され得る。当業者は、治療に有効な用量および期間を認識しているかあるいは決定し得る。
【0055】
腫瘍抑制遺伝子を腫瘍特異的に送達する方法は、動物の標的組織を本発明の組換えアデノウイルス発現ベクターの有効量と接触させることにより成し遂げられる。遺伝子は、機能的腫瘍抑制遺伝子または自殺遺伝子のような抗腫瘍剤をコードすることが意図される。「接触している」は、腫瘍内注入のようなベクターの有効な転移に関する任意の送達方法を包含することが意図される。
【0056】
疾患の処置または治療法のための医薬を調製する本発明のアデノウイルスベクターの使用が、本発明によりさらに提供される。
【実施例】
【0057】
以下の実施例は、説明であることが意図され、本発明の範囲を限定しない。
【0058】
実施例I
プラスミドpAd/MLP/p53/E1b−を、これらの操作の出発物質として用いた。このプラスミドは、pBR322誘導体pML2(pBR322の1140から2490塩基対を欠失した)に基づいており、そしてアデノウイルス5型配列の357から3327塩基対の欠失を除く、1塩基対から5788塩基対に広がるアデノウイルス5型配列を含有する。Ad5357/3327欠失部位では、アデノウイルス2型後期プロモーター、アデノウイルス2型トリパータイトリーダーcDNA、およびヒトp53cDNAからなる転写単位を挿入した。それは、Ad5E1aおよびE1b遺伝子を欠失しているが、Ad5タンパク質IX遺伝子は含有している代表的なE1置換ベクターである(アデノウイルスベクターについての概説は、GrahamおよびPrevec(1992)を参照)。Ad2DNAは、GibcoBPLから得た。制限エンドヌクレアーゼおよびT4DNAリガーゼは、NewEngland Biolabsから得た。E.coli DH5αコンピテントセルはGibcoBPLから購入し、293細胞はアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から得た。prep−A遺伝子DNA精製樹脂は、BioRadから得た。LB肉汁細菌成長培地は、Difcoから得た。QiagenDNA精製カラムは、Qiagen,Incから得た。Ad5dl327は、R.J.Schneider、NYUから得た。MBS DNAトランスフェクションキットは、Stratageneから購入した。
【0059】
1 μgのpAd/MLP/p53/E1b−は、各20ユニットの制限酵素Ec1136IIおよびNgoMIで製造業者の勧めに従って消化した。5 μgのAd2DNAは、各20ユニットの制限エンドヌクレアーゼDra IおよびNgoMIで製造業者の勧めに従って消化した。制限消化物は、0.8%アガロースゲルの別々のレーンにのせ、そして100ボルトで2時間電気泳動した。Pad/MLP/p53/E1b−サンプル由来の4268bpの制限フラグメントおよびAd2サンプル由来の6437bpの制限フラグメントを、製造業者の使用説明書に従ってprep−A遺伝子DNA抽出樹脂を使用して、ゲルから単離した。制限断片は、混合してから製造業者の使用説明書に従って合計容量50μlで、16℃で16時間、T4DNAリガーゼで処理した。ライゲーションに続いて、反応物5μlを、製造業者の手順に従ってE.coliDH5αのアンピシリン耐性への形質転換に使用した。この手順によって得た6つの細菌コロニーを用いて、LB成長培地の2 ml培養物に別々に接種し、振盪しながら37℃で一晩インキュベートした。DNAは、各細菌培養物から標準的手順(Sambrookら(1989))を用いて調製した。3627、3167、2466、および1445塩基対のXhoI制限断片を含む、正確な組換え体をスクリーニングするために、各単離物のプラスミドDNAの4分の1を、20ユニットの制限ヌクレアーゼXhoIで消化した。6つの内5つのスクリーンした単離物は、正確なプラスミドを含有していた。次にプラスミドDNAの大量分離のために、これらの内1つを1リットルのLB培地培養物の接種に使用した。一晩のインキュベーションに続いて、製造業者の勧めに従ってQiagenDNA精製カラムを使用して、1リットル培養物から、プラスミドDNAを単離した。得られたプラスミドをPad/MLP/p53/PIX−と名付けた。このプラスミドサンプルを、AmericanTypeCulture Collection、12301 Parklawn Drive、Rockville、Maryland、U.S.A.、12301に1993年10月22日に寄託した。寄託は、特許手続きのための微生物の国際寄託に関するプダペスト条約のもとで行った。寄託物はATCC受託番号75576を与えられた。
【0060】
組換えアデノウイルスを構築するために、10μgのPad/MLP/p53/PIX−を、40ユニットの制限エンドヌクレアーゼEcoRIで処理し、プラスミドを線状化した。アデノウイルス5型dl327DNA(Thimmappaya(1982))を、制限エンドヌクレアーゼClaIで消化し、そして大きなフラグメント(約33キロ塩基対)をショ糖密度勾配遠心分離によって精製した。10μgのEcoRI処理Pad/MLP/p53/E1b−と2.5μgのClaI処理Ad5dl327とを混合し、それを用いて製造業者によって勧められたようにMBS哺乳類トランスフェクションキットを使用して、約106の293細胞をトランスフェクトした。トランスフェクション後8日で、293細胞を1から3に分けて新鮮培地に入れ、そしてこの2日後、アデノウイルス誘導による細胞変性効果がトランスフェクト細胞で明らかになった。感染13日後、DNAを標準的な手順(GrahamおよびPrevec(1991))を使用して感染細胞から調製し、制限エンドヌクレアーゼXhoIで制限消化して解析した。ウイルスの指示するp53の発現は、ウイルス溶解物でのSaoS2骨肉腫細胞感染、および1801(NovocastaLab.Ltd.、U.K.)と名付けられた抗p53モノクローナル抗体での免疫ブロットの後に証明された。
【0061】
実施例II
材料および方法
細胞株
組換えアデノウイルスは、10%を限度としてウシ血清(Hyclone)を補充したDME培地で維持したヒト初期(embyonal)腎臓細胞株293(ATCCCRL1573)で成長および増殖させた。Saos−2細胞は、15%のウシ胎児血清を補充したKaighn's培地で維持した。HeLaおよびHep 3B細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したDME培地で維持した。他の全ての細胞株は、10%ウシ胎児血清を補充したKaighn's培地で成長させた。Saos−2細胞は、Dr.EricStanbridgeより贈呈された。他の全ての細胞株は、ATCCから得た。
【0062】
組換えアデノウイルスの構築
Ad5/p53ウイルスを構築するため、p53(表I)の完全長cDNAを含有する1.4kbのHindIII−SmaIフラグメントをpGEM1−p53−B−T(Dr.WenHwaLeeより贈呈された)から単離し、標準的なクローニング手順(Sambrookら(1989)を用いて、発現ベクターpSP72(Promega)のマルチクローニングサイトに挿入した。p53挿入物を、XhoI−BglII消化およびゲル電気泳動に続いてこのベクターから回収した。次に、p53コード配列をpNL3CまたはpMNL3CMVアデノウイルス遺伝子転換ベクター(Dr.RobertSchneiderより贈呈された)に挿入した。このベクターは、PML2をバックグラウンドとしてAd55’逆末端反復、およびウイルスのパッケージングシグナル、およびAd2主要後期プロモーター(MLP)またはヒトサイトメガロウイルス初期遺伝子プロモーター(CMV)のいずれかの上流のE1aエンハンサー、それに続くトリパータイトリーダーCDNAおよびAd5配列3325〜5525bpを含有する。これらの新しい構築物は、Ad5のE1領域(360〜3325bp)を、Ad2 MLP(A/M/53)またはヒトCMVプロモーター(A/C/53)(どちらもトリパータイトリーダーCDNAに続く)によって操作されるp53で置換した(図4参照)。p53挿入片は、残存する下流のE1bポリアデニル化部位を使用する。さらにMLPおよびCMVが操作するp53組換え体(A/M/N/53、A/C/N/53)を作成した。これは、タンパク質IX(PIX)コード領域の除去のために、さらに705ヌクレオチドのAd5配列の欠失を持っていた。コントロールとして、p53挿入物を持たない親のPNL3Cプラスミドから組換えアデノウイルスを作成した(A/M)。第2のコントロールは、CMVプロモーターの制御下のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子をコードする組換えアデノウイルスよりなっていた(A/C/β−gal)。プラスミドは、NruIまたはEcoRIのいずれかで線状化し、Cla I消化Ad 5d1309変異体またはd1327変異体(JonesおよびShenk(1979))の大きなフラグメントを用いて、Ca/PO4トランスフェクションキット(Stratagene)を使用して同時トランスフェクトした。ウイルスプラークを単離し、そして組換え体を、制限消化解析およびp53CDNA配列下流のトリパータイトリーダーCDNA配列に対する組換え体特異的プライマーを使用したPCRにより同定した。組換えウイルスを限界希釈によりさらに精製し、そしてウイルス粒子を精製し、標準的な方法(GrahamおよびvanderErb(1973); GrahamおよびPrevec(1991))によって力価測定した。
p53タンパク質検出
Saos−2またはHep3B細胞(5×105)は、ウイルス/細胞のプラーク形成ユニットの感染多重度(MOI)の増加している24時間の間、指示した組換えアデノウイルスで感染させた。次に細胞を一度PBSで洗浄し、溶解緩衝液(50mMTris−HCl Ph 7.5、250 mM NaCl、0.1% NP40、50mM NaF、5mM EDTA 、10 μg/mlアプロチニン(aprotinin)、10μg/mlロイペプチン(leupeptin)、および1mM PMSF)中で回収した。細胞タンパク質(約30μg)を、10%SDS−PAGEにより分離し、そしてニトロセルロースへ転写した。メンブレンはα−p53抗体PAb1801(Novocastro)でインキュベートし、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼと結合させたヒツジ抗マウスIgGとインキュベートした。p53タンパク質は、KodakXAR−5フィルムで化学ルミネセンス(ECLキット、Amersham)により可視化した。
【0063】
DNA合成速度の測定
細胞(5×103/ウェル)を、96ウェルタイタープレート(Costar)にプレートし、一晩付着させた(37℃、7%CO2)。次に細胞を、示したように0.3〜100のMOI範囲の精製した組換えアデノウイルス粒子で24時間感染させた。培地は感染後24時間で交換し、そして合計72時間までインキュベートを続けた。3H−チミジン(Amersham、1μCi/ウェル)を回収18時間前に添加した。細胞は、ガラスファイバーフィルターで回収し、そして取り込み放射活性のレベルをβ−シンチレーションカウンターで測定した。3H−チミジンの取り込みは、培地コントロールの平均%(+/−SD)として表し、MOIに対してプロットした。
【0064】
ヌードマウスでの腫瘍形成
T225フラスコにプレートした約2.4×108のSaos−2細胞を、MOI3または30でA/M/N/53またはA/M精製ウイルスのいずれかを含有する懸濁緩衝液(PBS中1%ショ糖)で処理した。一晩感染後、細胞を、BALB/c無胸腺ヌードマウスの左右側腹に皮下注射した(1群あたり4マウス)。片側の側腹にはA/M/N/53処理細胞を注射し、一方反対側の側腹にはA/M処理細胞を注射し、それぞれのマウスをそれ自身のコントロールとした。緩衝液で処理した細胞を両側腹に注射した動物を、別のコントロールとした。次に、腫瘍の大きさ(長さ、幅、および高さ)および体重を週2回8週間にわたって測定した。腫瘍体積は、測定した腫瘍の大きさの平均の2分の1に等しい半径の球形とみなして各動物に関して評価した。
【0065】
腫瘍内RNA解析
BALB/c無胸腺ヌードマウス(約5週齢)は、1×107のH69小細胞肺ガン(SCLC)細胞を右側腹に皮下注射された。腫瘍は、それらが約25〜50mm3になるまで発達させた。マウスに、A/C/53またはA/C/β−gal組換えアデノウイルス(2×109のプラーク形成ユニット(pfu))のいずれかを、腫瘍塊の下の皮下空間に腫瘍周辺部注射した。腫瘍を、アデノウイルス処理後2日および7日で動物から摘出し、そしてPBSでリンスした。腫瘍サンプルを、ホモジナイズし、全RNAをTriReagentキット(MolecularResearchCenter、Inc.)を使用して単離した。ポリA RNAをPolyATract mRNA IsolationSystem(Promega)を使用して単離し、そして約10ngのサンプルを組換えp53 MRNA発現を決定するRT−PCR(Wangら(1989))に使用した。プライマーは、アデノウイルストリパータイトリーダーCDNAとp53CDNA下流との間の配列を増幅するように設計し、内因性p53ではなく組換え体でのみ増幅されることを確実にした。
【0066】
ヌードマウス内に定着した腫瘍のp53遺伝子治療
200 μl容量中の約1×107のH69(SCLC)腫瘍細胞を、雌のBALB/c無胸腺ヌードマウスに皮下注射した。腫瘍を2週間発達させ、この時点で動物を腫瘍の大きさによって無作為抽出した(N=5/群)。A/M/N/53またはコントロールA/Mアデノウイルス(2×109pfu/注射)または緩衝液のみ(PBS中1%ショ糖)のいずれかの腫瘍周辺部注射を、1群あたり週2回計8用量投与した。腫瘍の大きさおよび体重は、週2回7週間測定し、腫瘍容積を上記のように評価した。次に、動物はマウス生存に対する処理効果を引き続き観察された。
【0067】
結果
組換えp−53アデノウイルスの構築
p53アデノウイルスを、アデノウイルス5型のE1aおよびE1b領域を、Ad2MLPプロモーター(A/M/53) またはCMV(A/C/53)プロモーターのいずれかの制御下のp53cDNAで置き換えることにより構築した(図4中に図示する)。このE1置換は、組換えアデノウイルスの複製する能力を激しく損ない、Ad5 E1遺伝子産物をトランスに供給する293細胞へのそれらの伝達を制限する(Grahamら、(1977))。p53組換えアデノウイルスを制限消化およびPCR分析の両方により同定した後、組換えアデノウイルス(A/M/53)の1つからのp53cDNA配列全体を配列決定して、変異がないことを確認した。これに続いて、p53組換え体の精製した調製物を用いてHeLa細胞を感染し、表現型的に野生型のアデノウイルスの存在についてアッセイした。HeLa細胞(E1欠失アデノウイルスの複製に許容ではない)を、1〜4×109感染単位の組換えアデノウイルスを用いて感染させて、3週間培養し、細胞変成効果(CPE)の出現について観察した。このアッセイを用いて、組換えアデノウイルスの複製または野生型の混入は検出されなかった。これらは野生型アデノウイルスで感染させたコントロール細胞において、約109中1の感受性のレベルで観察されたCPEにより容易に明らかとなる。
【0068】
組換えアデノウイルスからのp53タンパク質発現
p53組換えアデノウイルスがp53タンパク質を発現するかどうかを測定するために、内因性p53タンパク質を発現しない腫瘍細胞を感染させた。ヒト腫瘍細胞株であるSaos−2(骨肉腫)およびHep3B(肝細胞ガン)を、p53組換えアデノウイルスA/M/53またはA/C/53を用いて、0.1〜200pfu/細胞の範囲のMOIで24時間感染させた。感染細胞から調製したライゼートのウエスタン分析は、両方の細胞タイプにおける用量依存的なp53タンパク質発現を示した(図5)。両方の細胞株は、A/M/53を用いた感染の後よりもA/C/53を用いた感染の後の方が、より高いレベルのp53タンパク質を発現した(図3)。非感染細胞において、p53タンパク質は検出されなかった。内因性野生型p53のレベルは通常非常に低く、細胞抽出物のウエスタン分析ではほとんど検出されない(Bartekら、(1991))。しかし、野生型p53タンパク質レベルが、A/M/53またはA/C/53のいずれかを用いた低MOIでの感染の後に容易に検出されることは明白であり(図5)、このことは低用量の組換えアデノウイルスでも、潜在的に有効なレベルのp53を生成し得ることを示唆する。
【0069】
p53依存性形態変化
p53陰性骨髄腫細胞株であるSaos−2への野生型p53の再導入は、この通常は紡錘型の細胞の、肥大化および平坦化を生じさせる(Chenら、(1990))。準集密(subconfluent)Saos−2細胞(1×105細胞/10cmプレート)をA/C/53ウイルスまたはコントロールのA/Mウイルスのいずれかを用いて50のMOIで感染させ、感染していないコントロールプレートが集密(confluent)になるまで37℃で72時間インキュベートした。この時点で、予想された形態変化はA/C/53処理プレートにおいて明らかであったが(図6、パネルC)、感染していないプレート(図6、パネルA)あるいはコントロールのウイルス感染細胞プレートでは明らかではなかった(図6、パネルB)。この効果は細胞密度の作用ではなかった。なぜなら、最初に低密度で播種したコントロールプレートが、その集密がA/C/53処理プレートの集密に近づいた72時間目で、正常な形態を維持していたからである。以前の結果は、50のMOIでのSaos−2細胞におけるp53タンパク質の高レベルの発現を示しており(図5A)、これらの結果は、これらの組換えアデノウイルスにより発現されたp53タンパク質が、生物学的に活性であるという証拠を提供した。
【0070】
細胞DNA合成のp53阻害
p53組換えアデノウイルスの活性をさらに試験するために、ヒト腫瘍細胞の増殖を阻害するそれらの能力を、3H−チミジンの取り込みを測定してアッセイした。内因性野生型p53を発現しない細胞への野生型p53の導入が、細胞をG1/S移行で停止させ得ることが既に示されており、これは標識チミジンの、新たに合成されたDNAへの取り込みの阻害につながる(Bakerら、(1990);Mercerら、(1990);Dillerら、(1990))。種々のp53欠損腫瘍細胞株を、A/M/N/53、A/C/N/53、または非p53発現コントロール組換えアデノウイルス(A/M)のいずれかを用いて感染させた。A/M/N/53およびA/C/N/53組換え体の両方による、強い、用量依存的なDNA合成の阻害が、試験した9つの異なる腫瘍細胞株中7つにおいて観察された(図7)。両方の構築物は、細胞が変異p53を発現するかp53タンパク質を発現できないかにかかわらず、これらのヒト腫瘍細胞におけるDNA合成を阻害し得た。このアッセイにおいて、A/C/N/53構築物が一貫してA/M/N/53よりも強力であることも見出された。Saos−2(骨髄腫)細胞およびMDA−MB468(乳ガン)細胞において、ほとんど100%のDNA合成阻害が、A/C/N/53構築物を用いて、少なくとも10のMOIで達成された。コントロールアデノウイルスによる阻害が10〜30%のみである用量でいずれのp53組換えアデノウイルスを用いても、DNA合成の50〜100%の阻害が観察された。対照的に、HEPG2細胞(内因性野生型p53を発現する肝ガン細胞株、Bressacら、(1990))またはK562(p53が無効である(null))白血病細胞株において、いずれの構築物を用いても、コントロールウイルスに比較して有意なp53特異的効果は観察されなかった。
【0071】
ヌードマウスにおける腫瘍形成性
p53組換えアデノウイルスについてのより厳密な機能の試験において、腫瘍細胞をエクスビボで感染させ、次にその細胞をヌードマウスに注射して、組換え体が腫瘍成長をインビボで抑制する能力を評価した。A/M/N/53ウイルスまたはコントロールA/Mウイルスを用いて3または30のMOIで感染させたSaos−2細胞を、ヌードマウスの反対側の側腹に注射した。そして腫瘍サイズを8週間にわたって週に2回測定した。30のMOIでは、いずれの動物においても、p53処置側腹における腫瘍の成長は見られなかった。一方コントロール処置腫瘍は成長し続けた(図8)。コントロールウイルスで処置した腫瘍の進行性肥大は、緩衝液処置コントロール動物において観察された肥大に類似していた。p53処置マウスの4匹中2匹の腫瘍が6週間後にいくらかの成長を示し始めたが、3のMOIでのコントロールアデノウイルスとp53組換え体との間には腫瘍成長に明確な差がある。従って、A/M/N/53組換えアデノウイルスは、インビボ環境においてp53特異的腫瘍抑制を仲介し得る。
【0072】
Ad/p53のインビボ発現
ガン細胞のエクスビボ処理およびそれに続く動物への注射は、腫瘍抑制の重要な試験を提供したが、より臨床的に意味のある実験は、注射したp53組換えアデノウイルスがインビボで定着した腫瘍(establishedtumor)において、感染してp53を発現し得るかを確認することである。これに対処するために、H69(SCLC、p53null)細胞をヌードマウスに皮下注射し、腫瘍を32日間発達させた。この時点で、A/C/53またはA/C/β−galアデノウイルスのいずれかの2×109pfuの一回注入を、腫瘍の周辺の腫瘍周辺空間(peritumoralspace)に注射した。次いで、腫瘍をアデノウイルス注射後2日目または7日目のいずれかで切除し、そして各々の腫瘍からポリARNAを単離した。次に、組換えp53特異的プライマーを用いて、p53処理腫瘍中のp53MRNAを検出するためにRT−PCRを用いた(図9、レーン1、2、4、5)。β−gal処置動物から切除した腫瘍からは、p53シグナルは明白ではなかった(図9、レーン3および6)。アクチンプライマーを用いた増幅をRT−PCR反応のコントロールとし(図9、レーン7〜9)、一方組換えp53配列を含むプラスミドを組換えp53特異的バンドのポジティブコントロールとした(図9、レーン10)。この実験は、p53組換えアデノウイルスが、腫瘍周辺空間への一回注入の後、定着した腫瘍内でのp53mRNAの発現を特異的に生じさせることを示す。この実験はまた、p53組換えアデノウイルスを用いた感染の後、少なくとも1週間のインビボでのウイルスの持続を示す。
【0073】
インビボでの有効性
定着した腫瘍の遺伝子治療の可能性に対処するために、腫瘍を有するヌードマウスモデルを用いた。H69細胞をマウスの右側腹の皮下空間に注射し、腫瘍を2週間成長させた。次にマウスは、緩衝液または組換えウイルスの腫瘍周辺注射を、週に2回全部で8用量受けた。緩衝液またはコントロールA/Mウイルスを用いて処置されたマウスにおいて、腫瘍は処置を通じて迅速に成長し続けたが、A/M/N/53ウイルスを用いて処置した腫瘍は、大幅に減少した速度で成長した(図10A).注射の停止後、コントロール処置腫瘍は、成長し続けたが、一方p53処置腫瘍はいかなる外因性p53の追加の供給もなしに少なくとも1週間成長をほとんどまたは全く示さなかった(図10A)。緩衝液のみを用いて処置したコントロール動物は、いずれのウイルスで処置した群に比較しても腫瘍成長を加速させたが、体重における有意な差は、処置期間中3つの群の間では見出されなかった。いくつかの動物における腫瘍潰瘍形成が、42日目以降の腫瘍サイズの測定の適切性を制限した。しかし、生存時間を測定するために動物を継続してモニターすることにより、p53処置動物についての生存有利性が示された(図10B)。最後のコントロールアデノウイルス処置動物は83日目に死亡したが、一方緩衝液単独処置コントロールはすべて56日目までに死亡した。対照的に、A/M/N/53を用いて処置した5匹すべての動物は、生存し続けた(細胞接種後130日目)(図10B)。まとめると、このデータは、定着したp53欠損腫瘍を有する動物における腫瘍成長および生存時間の両方に対するp53特異的効果を確証した。
【0074】
p53を発現するアデノウイルスベクター
高レベルの野生型p53タンパク質を用量依存的様式で発現し得る組換えヒトアデノウイルスベクターを構築した。各々のベクターはE1aおよびE1b領域における欠失を含んでおり、これはベクターをウイルス複製欠損にする(ChallbergおよびKelly(1979);Horowitz、(1991))。さらに重要なことは、これらの欠失がE1bの19および55 kdタンパク質を含むことである。19kdタンパク質は、アポトーシスの阻害に関与することが報告されており(Whiteら、(1992);Raoら、(1992))、一方55kdタンパク質は野生型p53タンパク質に結合し得る(Sarnowら、(1982);Heuvelら、(1990))。これらのアデノウイルス配列を欠失することにより、p53機能の潜在的インヒビターを、p53への直接的な結合またはp53介在性アポトーシスの潜在的阻害から取り除いた。残りの3'E1b配列(すべてのタンパク質IXコード配列を含む)をさらに欠失したさらなる構築物を作製した。この欠失がアデノウイルスのパッケージングサイズ収容能力を野生型ウイルスより約3kb減少させることが報告されているが(Ghosh−Choudhuryら、(1987))、これらの構築物はE3領域においても欠失されているので、A/M/N/53およびA/C/N/53構築物は十分にこのサイズ範囲内である。pIX領域を欠失することにより、293細胞内に含まれる配列に相同なアデノウイルス配列は約300塩基対に減少され、これは複製能力のある野生型のアデノウイルスを組換えを通して再生する機会を減少させる。pIXコード配列を欠く構築物はpIXを有する構築物と同等の有効性を有するようである。
【0075】
インビトロでのp53/アデノウイルスの有効性
感染された細胞におけるp53タンパク質の発現についての強い用量依存性に一致して、腫瘍細胞増殖のp53特異的阻害が示された。細胞分裂は、野生型p53タンパク質発現を欠くことが知られている広範囲の腫瘍細胞タイプにおいて、阻害され、阻害はDNA合成の阻害によって示された。BacchettiおよびGraham(1993)は最近、類似の実験において、p53組換えアデノウイルスによる卵巣ガン細胞株SKOV−3におけるDNA合成のp53特異的阻害を報告した。卵巣ガンに加えて、さらなるヒト腫瘍細胞株(臨床的に重要なヒトガンの代表であり変異p53タンパク質を過剰発現する株を含む)が、本発明のp53組換え体により増殖阻害され得ることが示された。これらの腫瘍タイプにおけるDNA合成を阻害することにおいてA/C/N/53組換え体が90〜100%有効であるMOIでは、コントロールアデノウイルス介在性の抑制は20%以下である。
【0076】
Feinsteinら、(1992)は白血病K562細胞について、野生型p53の再導入が分化を誘導しS+G2に対するG1の細胞の比率を増加し得ると報告したが、この株においてはp53特異的な効果は見出されなかった。HorvathおよびWeber(1988)は、ヒト末梢血リンパ球はアデノウイルス感染に対して高度に非許容であると報告している。別の実験では、組換え体は組換えA/C/β−galアデノウイルスで顕著に非応答性K562細胞に感染したが、一方他の株(コントロールのHepG2株および強いp53効果を示す株を含む)は、容易に感染可能であった。従って、有効性の変動の少なくとも一部分は、感染の変動によるが、他の要素もさらに関与し得る。
【0077】
図8中のA/M/N/53ウイルスで観察された結果は、完全な抑制がインビボ環境において可能であることを示す。4匹中2匹のより低いMOIで処置した動物における腫瘍成長の再開は、最初この用量においてp53組換え体で感染されなかったわずかの割合の細胞から生じたようである。しかし、より高い用量においてA/M/N/53について見られた完全な抑制は、腫瘍成長の回復する能力が克服され得ることを示す。
【0078】
p53/アデノウイルスのインビボ有効性
本明細書中および他のグループにより(Chenら、(1990); Takahashiら、(1992))示される研究は、野生型p53の発現を欠くヒト腫瘍細胞がp53を用いてエクスビボで処置され、処置された細胞が動物モデルに移入される場合、腫瘍成長の抑制を生じ得ることを示している。本出願人らは、腫瘍成長の抑制および生存時間の増加の両方を生じる、インビボで定着した腫瘍の腫瘍抑制遺伝子治療の最初の証拠を示す。本出願人らの系において、腫瘍細胞への送達は、腫瘍塊への直接注射によらなかった。むしろ、p53組換えアデノウイルスは腫瘍周辺空間に注射され、そしてp53mRNA発現が腫瘍内に検出された。組換え体により発現されたp53は、機能性であり、コントロールである非p53発現アデノウイルス処置腫瘍に比較して、腫瘍成長を強く抑制した。しかし、p53ウイルス処置群およびコントロールウイルス処置群の両方が、緩衝液処置コントロールに比較して腫瘍抑制を示した。腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン−γ、インターロイキン(IL)−2、IL−4、またはIL−7の局所発現が、ヌードマウスにおいてT細胞非依存性の一過性腫瘍抑制を導き得ることが示されている(Hochら、(1992))。単球のアデノウイルスビリオンへの被曝はまた、IFN−α/βの弱いインデューサーである(GoodingおよびWold(1990)で概説される)。それゆえ、ヌードマウスにおけるなんらかの腫瘍抑制が、コントロールアデノウイルスにおいてさえも観察されても、驚異ではない。このウイルス介在性の腫瘍抑制は、前述したエクスビボコントロールウイルス処置Saos−2腫瘍細胞においては、観察されなかった。p53特異的インビボ腫瘍抑制は、図10中で、動物を継続してモニターすることによって劇的に示された。p53処置マウスの生存時間は顕著に増加した。アデノウイルスコントロール処置動物5匹中0匹に比較して、5匹の動物中5匹が細胞接種後130日以上生存した。生存する動物はなお成長する腫瘍を呈し、これは最初にp53組換えアデノウイルスで感染されなかった細胞を反映し得る。より高いかまたはより頻繁な投与スケジュールがこれに対処し得る。さらに、プロモーター遮断(Palmerら、(1991))またはさらなる変異が、これらの細胞にp53組換えアデノウイルス処置に対する耐性を与え得る。例えば、最近記載されたWAF1遺伝子(野生型p53により誘導される遺伝子であり、続いて細胞周期のS期への進行を阻害する(El−Deiryら、(1993);Hunter(1993)))における変異が、p53耐性腫瘍を生じさせ得る。
【0079】
実施例III
この実施例では、本明細書に記載の遺伝子治療方法における、自殺遺伝子の使用およびこのような遺伝子の組織特異的発現を示す。肝細胞ガンを標的として選択した。なぜならこれはヒトを冒す最も一般的な悪性腫瘍の1つであり、世界中で1年間に概算で1,250,000の死亡を引き起こすからである。このガンの発生は東南アジアおよびアフリカにおいて非常に高く、ここで肝細胞ガンは、B型およびC型肝炎感染ならびにアフラトキシンへの被曝に関連している。外科手術が、HCCを治癒するための可能性提供する現在唯一の治療であるが、患者の20%未満が切除の候補と考えられている(RavoetC.ら、1993)。しかし、肝細胞ガン以外の腫瘍は同じく本明細書に記載のその増殖を減少させる方法に適用され得る。
【0080】
細胞株
HLF細胞株以外のすべての細胞株を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)12301Parklawn Drive, RockvilleMarylandから得た。ATCC受託番号を括弧内に記す。ヒト胎児腎細胞株293(CRL 1573)を用いて本明細書に記載の組換えアデノウイルスを生成し増殖させた。細胞を10%の定義され補充された(defined,supplemented)仔ウシ血清(Hyclone)を含むDME培地中で維持した。肝細胞ガン細胞株Hep3B(HB 8064)、Hep G2(HB8065)、およびHLFを10%ウシ胎児血清を添加したDME/F12培地中で維持し、乳ガン細胞株MDA−MB468(HTB132)およびBT−549(HTB122)も同様にした。Chang肝臓細胞(CCL13)を、10%ウシ胎児血清を添加したMEM培地中で増殖させた。HLF細胞株を日本のKyushuUniversitySchool of MedicineのDrs. T. MorsakiおよびH. Kitsukiから得た。
【0081】
組換えウイルス構築
本明細書中でACNTKおよびAANTKと名付け、タンパク質IX機能を欠く2つのアデノウイルス発現ベクター(図11に示した)は、腫瘍細胞内でTK自殺遺伝子の発現を生じさせ得る。AANCATと名付けた第3のアデノウイルス発現ベクターを、アデノウイルスベクターを用いて、特異的な細胞タイプに対して遺伝子発現を特異的に標的する可能性をさらに示すために構築した。これらのアデノウイルス構築物を、図11および12に示すようにして組立て、そしてこれらは腫瘍抑制遺伝子の発現について既に記載した構築物の誘導体である。
【0082】
外来遺伝子の発現のために、ヒトサイトメガロウイルス即時(immediate early)プロモーター/エンハンサー(CMV)(Boshart, M.ら、1985)またはヒトα−フェトプロテイン(AFP)エンハンサー/プロモーター(Watanabe,K.ら、1987; Nakabayashi, H.ら、1989)のいずれかを利用する発現カセットを挿入して、TK遺伝子またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)の転写を生じさせた。CMVエンハンサープロモーターは、広範囲の細胞タイプにおいて強い遺伝子発現を生じさせ得るが、一方AFPエンハンサー/プロモーター構築物は、発現を肝細胞ガン細胞(HCC)に限定する。この肝細胞ガン細胞は、HCC患者集団の約70〜80%においてAFPを発現する。CMVプロモーター/エンハンサーを利用する構築物において、アデノウイルス2型トリパータイト(tripartite)リーダー配列も挿入してTK転写物の翻訳を増強した(Berkner,K.L.およびSharp、1985)。E1欠失に加えて、両方のアデノウイルスベクターをさらにウイルスE3領域内の1.9キロベース(kb)のDNAについて欠失した。E3領域内の欠失されたDNAは、ウイルス増殖には必須ではなく、その欠失は、等しい量(1.9kb)の外来DNAのための組換えウイルスの挿入収容能力を増加させる(GrahamおよびPrevec、1991)。
【0083】
AFPプロモーター/エンハンサーの特異性を示すために、ウイルスAANCATをまた構築し、ここでマーカー遺伝子であるクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)はAFPエンハンサー/プロモーターの制御下にある。ACNTKウイルス構築物において、Ad2トリパータイトリーダー配列を、CMVプロモーター/エンハンサーとTK遺伝子との間に設置した。トリパータイトリーダーは、結合される遺伝子の翻訳を増強することが報告されている。E1置換は、組換えウイルスの複製する能力を損ない、それらの増殖をAd5E1遺伝子産物をトランスに供給する293細胞に制限する(Grahamら、1977)。
【0084】
アデノウイルスベクターACNTK: E. coli HB101内のプラスミドpMLBKTK(ATCC #39369より)を単純ヘルペスウイルス(HSV−1)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子の供給源として用いた。TKを、標準的なクローニング技術を用いて(Sambrookら、1989)、制限酵素BglIIおよびPvuIIを用いた消化により1.7 kb遺伝子フラグメントとしてこのプラスミドから切り出し、プラスミドpSP72(Promega)の適合するBamHI、EcoRV制限部位にサブクローン化した。次に、TK挿入物を、XbaIおよびBgl IIを用いた消化によりこのベクターから1.7 kbフラグメントとして単離し、XbaI、Bam HI消化したプラスミドpACN(Willsら、1994)にクローン化した。20μgのpACNTKと名付けられたこのプラスミドをEcoRIを用いて線状化し、293細胞(ATCCCRL 1573)に、5μgのCla I消化したACBGL(Willsら、1994、前出)とともに、CaPO4トランスフェクションキット(Stratagene,SanDiego, California)を用い同時トランスフェクトした。ウイルスプラークを単離し、組換え体(ACNTKと名付けた)を、単離したDNAのXhoIおよびBsiWIを用いた制限消化分析により同定した。陽性の組換え体を、限界希釈によりさらに精製し、標準的な方法により拡大して力価測定した(GrahamおよびPrevec、1991)。
【0085】
アデノウイルスベクターAANTK: α−フェトタンパク質プロモーター(AFP−P)およびエンハンサー(AFP−E)を、ヒトゲノムDNA(Clontech)から、末端に制限部位を含むプライマーを用いたPCR増幅を用いてクローン化した。210bpのAFP−Eを単離するために用いたプライマーは、NheI制限部位を5'プライマーに、Xba I、Xho I、Kpn Iリンカーを3'プライマーに含んだ。5'プライマー配列は、5'−CGCGCT AGC TCTGCC CCA AAG AGC T−3であった。5'プライマー配列は、5'−CGC GGT ACC CTC GAG TCT AGATAT TGC CAGTGG TGG AAG−3'であった。1763 bpのAFEフラグメントを単離するために用いたプライマーは、Not I制限部位を5'プライマーに、XbaI部位を3'プライマーに含んだ。5'プライマー配列は、5'−CGTGCG GCC GCT GGA GGA CTT TGA GGA TGT CTG TC−3'であった。3'プライマー配列は、5'−CGCTCT AGA GAGACC AGT TAG GAA GTT TTC GCA−3'であった。PCR増幅のために、DNAを97℃で7分間変性し、続いて5サイクルの増幅(97℃で1分間、53℃で1分間、72℃で2分間)、および最後の72℃で10分間の伸長を行った。増幅したAFEをNotIおよびXbaIを用いて消化し、Not I、Xho I、Xba I、Hind III、Kpn I、Bam HI、Nco I、Sma I、およびBgl II部位を含むポリリンカーにより分離されるアデノウイルス5型配列1〜350および3330から5790を含むプラスミドベクター(pA/ITR/B)のNotI、XbaI部位に挿入した。増幅したAFP−EをNhe IおよびKpn Iを用いて消化し、Xba IおよびKpn Iを用いて消化してあったAFP−Eを含む上記の構築物に挿入した。次に、この新たな構築物を、さらにXbaIおよびNgoMIを用いて消化してアデノウイルス配列3330〜5780を除去し、これを次にアデノウイルス2型のヌクレオチド4021〜10457を含むプラスミドpACNのXbaI、NgoMI制限フラグメントで置き換えて、α−フェトプロテインのエンハンサーおよびプロモーターの両方を含むプラスミドpAANを構築した。次に、この構築物をEcoRIおよびXbaIを用いて消化して、Ad5逆方向末端反復(inverted terminal repeat)、AFP−E、およびAFP−Pを含む2.3 kbフラグメントを単離し、続いてこれをEcoRI、XbaI消化した上記のpACNTKの8.55 kbに結合して、TK遺伝子が、アデノウイルスのバックグラウンドでα−フェトプロテインのエンハンサーおよびプロモーターにより駆動されるpAANTKを生じさせた。次に、このプラスミドをEcoRIを用いて線状化して、ClaI消化したALBGLの大きいフラグメントとともに上記のように同時トランスフェクトし、組換え体(AANTKと名付けた)を上記のように単離し精製した。
【0086】
アデノウイルスベクターAANCAT: クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を、pCAT−Basicベクター(PromegaCorporation)から、XbaI、Bam HI消化により単離した。この1.64 kbフラグメントをXba I、Bam HI消化したpAAN(上記)内に結合してpAANCATを作製した。次いでこのプラスミドをEcoRIを用いて線状化し、Cla I消化したrA/C/β−galの大きいフラグメントとともに同時トランスフェクトして、AANCATを作製した。
【0087】
レポーター遺伝子発現: βガラクトシダーゼ発現:
細胞を24−ウェル組織培養プレート(Costar)中に1×105細胞/ウェルでプレートし、一晩壁着させた(37℃、7%CO2)。ACBGLの一晩の感染を、30の感染多重度(MOI)で実施した。24時間後、細胞を3.7%ホルムアルデヒド;PBSを用いて固定し、1mg/mlXgal試薬(USB)用いて染色した。データを、各々のMOIでの陽性に染色された細胞の百分率を概算することにより記録した(+、++、+++)[+=1〜33%、++=33〜67%、および+++=>67%]。
【0088】
レポーター遺伝子発現: CAT発現:
2×106の細胞(HepG2、Hep 3B、HLF、Chang、およびMDA−MB468)を、3点平行で10 cmプレートに播種して一晩インキュベートした(37℃、7%CO2)。次に、各々のプレートをMOI=30または100のいずれかでAANCATを用いて感染するかまたは感染せず、3日間インキュベートした。次に、細胞をトリプシン処理し、PBSを用いて洗浄し、100μlの0.25MTris pH7.8中に再懸濁した。サンプルを3回凍結融解し、そして上清を新たなチューブに移して、60℃で10分間インキュベートした。次にサンプルを4℃で5分間スピンし、上清をBradfordアッセイ(Bio−RadProteinAssay Kit)を用いてタンパク質濃度についてアッセイした。サンプルを、0.25 M Tris、25μlの4mMアセチルCoA、および1μlの14C−クロラムフェニコールを用いて等しいタンパク質濃度に、最終容量75μlに調整して、一晩37℃でインキュベートした。500μlのエチルアセテートを各々のサンプルに添加してボルテックスすることにより混合し、次に5分間室温で遠心分離した。次に、上層を新たなチューブに移し、減圧下での遠心分離によりエチルアセテートを蒸発させた。次に、反応産物を25μlのエチルアセテートに溶解して、薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートにスポットし、プレートをあらかじめ平衡化したTLCチャンバー中に置いた(95%クロロホルム、5%メタノール)。次に溶媒をプレートの上部まで移動させ、次にプレートを乾燥させX線フィルムに感光させた。
【0089】
細胞増殖: 3H−チミジン取り込み
細胞を、96−ウェルマイクロタイタープレート(Costar)中に5×103細胞/ウェルでプレートし、一晩インキュベートした(37℃、7%CO2)。細胞を、DMEM;15% FBS; 1%グルタミンで順次希釈したACN、ACNTK、またはAATKウイルスを用いて、30の感染多重で、一晩の間トランスフェクトした。この時点で細胞に、3点平行で、0.001と100mM(マイクロモラー)との間の対数間隔でガンシクロビル(Cytovene)を投与した。1μCi3H−チミジ
ン(Amersham)を各々のウェルに、回収の12〜18時間前に添加した。感染後72時間で、細胞をガラス繊維フィルター上に回収し、そして取り込まれた3H−チミジンを、液体シンチレーション(TopCount,Packard)を用いて計数した。結果を未処理コントロール増殖のパーセントとしてプロットし、培地コントロールに対する増殖における50パーセント減少のための有効用量(ED50±SD)として表にした。ED50値を、理論式を用量応答データにあてはめることにより概算した。
【0090】
細胞障害性:LDH放出
細胞(HLF、ヒトHCC)をプレートし、ACNまたはACNTKを用いて感染して、上記のように増殖アッセイのためにガンシクロビルで処理した。ガンシクロビル投与72時間後に、細胞をスピンして、上清を除去した。ラクテートデヒドロゲナーゼのレベルを比色的に測定した(Promega、Cytotox96(登録商標))。平均(+/−S.D.)LDH放出をM.O.I.に対してプロットした。
【0091】
インビボ治療
ヒト肝細胞ガン細胞(Hep 3B)を、10匹の雌の無胸腺nu/nuマウス(Simonsen Laboratories, Gilroy, CA)に、皮下注射した。各々の動物は、約1×107細胞を左側腹に受けた。マウスを腫瘍サイズにより無作為抽出する前に、腫瘍を27日間成長させた。マウスを、ACNTKまたはコントロールウイルスACN(100μl中1×109iu)の腫瘍内注射または腫瘍周辺注射で、1日おきに総数3用量を処置した。アデノウイルスの最初の投与の後24時間から、マウスにガンシクロビル(Cytovene100mg/kg)を、毎日全部で10日間腹腔内投与した。マウスを、腫瘍サイズおよび体重について週に2回モニターした。腫瘍の測定は3次元で、ノギスを用いて行い、体積は式4/3πr3を用いて計算した。ここでrは平均腫瘍寸法の1/2である。
【0092】
結果
組換えアデノウイルスを用いて、3つのHCC細胞株(HLF、Hep3B、およびHep−G2)を感染した。1つのヒト肝臓細胞株(Chang)および2つの乳ガン細胞株を、コントロールとして用いた(MDAMB468およびBT549)。AFPプロモーター/エンハンサーの特異性を示すために、ウイルスAANCATを構築した。このウイルスを用いて、HCC腫瘍マーカーであるα−フェトプロテイン(AFP)を発現する(Hep3B、HepG2)または発現しない(HLE、Chang、MDAMB468)いずれかの細胞を感染した。図13に示すように、AANCATは、AFPを発現し得るHCC細胞においてのみCATマーカー遺伝子の発現を生じさせた(図13)。
【0093】
HCCの治療のためのACNTKおよびAANTKの有効性を、3H−チミジン取り込みアッセイを用いて評価して、細胞増殖に対するHSV−TK発現およびガンシクロビル処理の併用の効果を測定した。細胞株を、ACNTKまたはAANTKまたはコントロールウイルスACN(Willsら、1994前出)(HSV−TKの発現を生じさせない)のいずれかを用いて感染し、次に増加する濃度のガンシクロビルを用いて処理した。この処理の効果を、ガンシクロビルの増加する濃度の作用として評価し、そして取り込まれる3H−チミジンを50%阻害するために要求されるガンシクロビルの濃度を測定した(ED50)。さらに、各々の細胞株のアデノウイルス介在性遺伝子トランスファーおよび発現を、マーカー遺伝子であるβ−ガラクトシダーゼの発現を生じさせるコントロールウイルスを用いて測定した。以下の図14および表1に示すデータは、ACNTKウイルス/ガンシクロビル併用処理が、ガンシクロビルと併用したコントロールアデノウイルスであるACNに比較して、試験したすべての細胞株における細胞増殖を阻害し得たことを示す。対照的に、AANTKウイルスベクターは、α−フェトプロテインを発現することが示されているHCC細胞株においてのみ有効であった。さらに、AANTK/GCV併用は、細胞を高密度でプレートした場合に、より有効であった。
【0094】
【表1】
【0095】
Hep3B腫瘍を有するヌードマウス(N=5/群)を、腫瘍内および腫瘍周辺に、等用量のACNTKまたはACNコントロールを用いて処置した。組換えアデノウイルスの最初の投与の24時間後に、ガンシクロビルの毎日の処置を、すべてのマウスにおいて開始した。各々の動物の腫瘍寸法をノギスで週に2回測定し、平均腫瘍サイズを図16にプロットした。58日目の平均腫瘍サイズは、ACNTK処置動物においてより小さかったが、差は統計的有意に達しなかった(p<0.09、片側t検定)。これらのデータは、ACNTKのインビボでの腫瘍成長に対する特異的な効果を支持する。群の間で、平均体重における有意な差は検出されなかった。
【0096】
本発明は、上記の実施態様を参考にして記載されているが、種々の改変が、本発明の趣旨から逸脱することなく行われ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は以下の請求の範囲によってのみ制限される。
【0097】
【数1−1】
【0098】
【数1−2】
【0099】
【数1−3】
【0100】
【数1−4】
【0101】
【数1−5】
【0102】
【数1−6】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−256370(P2009−256370A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177086(P2009−177086)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【分割の表示】特願2005−181332(P2005−181332)の分割
【原出願日】平成6年10月25日(1994.10.25)
【出願人】(399025284)カンジ,インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【分割の表示】特願2005−181332(P2005−181332)の分割
【原出願日】平成6年10月25日(1994.10.25)
【出願人】(399025284)カンジ,インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
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