説明

組立構造体及び固定具の取り付け方法

【課題】コイルばね部の一端部に該コイルばね部よりも大径の穴用止め輪部を具備した固定具を容易にそして歩留まりよく装着することが可能な組立構造体及び固定具の取り付け方法を提供する。
【解決手段】流路1に嵌め込まれる整流体4と、流路1の整流体4装着位置を規定する部位に設けられたリング状の溝1bと、整流体4の固定具10を備え、固定具10は、軸方向に弾性変形するコイルばね部11と、コイルばね部11よりも大径で且つ径方向に弾性変形可能に形成されてリング状の溝1bに嵌合する穴用止め輪部12を具備し、流路1の内壁面には、溝1bの手前で且つ整流体4から少なくともコイルばね部11の自然長さ分の距離をおいた部位で穴用止め輪部12が離脱可能に嵌合するリング状の仮止め溝1cを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に弾性変形するコイルばね部及びこのコイルばね部の一端に位置する大径の穴用止め輪部を具備した固定具を用いて、筐体の筒部に嵌め込まれる内挿部品を押さえ込んで固定して成る組立構造体及び固定具の取り付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した組立構造体としてのガス等の流体流量を計測する流量計において、概略的には、例えば、筒状の流路を形成したブロック体(筐体)の内壁面に流量センサを取り付けると共に、上記流路の流量センサの上流側に整流体を組み付けた構造を有しており、上記整流体は、流路を流れるガスを整流して、その流れの乱れを防止する役割を担っている。
この種の流量計は、ガスの供給流路(ガス配管)に介挿されて用いられるものであり、通常、上記ブロック体における流路の上流側および下流側の開口端内壁面には、継ぎ手用のねじが形成されている。
【0003】
また、筒状の上記流路の内壁面には、整流体の装着位置を規定する段差(ストッパ)及び上記整流体を固定するリング状の溝が形成されている。
上記したブロック体の流路に対する整流体の組み付けは、円柱状の整流体を流路の一端側から段差に当接する位置まで挿入した後、その上からコイルばね部及びこのコイルばね部よりも若干大径の穴用止め輪部を有する固定具を挿入し、該固定具の穴用止め輪部を上記リング状の溝に嵌め込むことによって行われ、整流体は、固定具のコイルばね部の弾性力で上記流路の内部に固定される。
【0004】
この際、固定具として、例えば、籠型のスプリング(所謂ハイブリッドスプリング(商標))が適用される。この籠型のスプリングは、板厚方向に波状に変化する板体を板厚方向に複数ターンに亘って螺旋状に巻いて成っているので、スプリングに圧縮方向の力が作用するとスプリングは径方向に縮み、これとは逆に、スプリングに引張り方向の力が作用するとスプリングは径方向に拡がるという特有の性質を持っている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【特許文献1】特開2006-105233号公報
【特許文献2】特開2006-105234号公報
【特許文献3】特開2004-225880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した籠型のスプリングを固定具として採用した場合において、流路への挿入は、コイルばね部よりも若干大径の穴用止め輪部を取り付け用冶具によって径方向に縮めて流路の径と略等しくして行う。
この状態において、籠型のスプリングの性質上、穴用止め輪部には径方向に拡がる向きの反力が生じており、本来であれば、流路の径よりも若干大径で且つ穴用止め輪部よりも若干小径に設計されているリング状の溝に穴用止め輪部が到達した時点で、取り付け用冶具による穴用止め輪部の拘束を解けば、上記反力によって穴用止め輪部を径方向に拡張させて嵌合させることができる。
【0006】
ところが、穴用止め輪部とリング状の溝とを確実に嵌合させるために、一旦、穴用止め輪部をリング状の溝よりも奥まで到達させ、その後、取り付け用冶具を徐々に引き抜くようにしているのが現状である。
そして、上記取り付け用冶具を徐々に引き抜く場合には、性質上軸方向にも縮んでいた固定具がその反力で軸方向に伸びて、穴用止め輪部がリング状の溝の位置に戻った段階において、取り付け用冶具の先端に当接している固定具の穴用止め輪部には径方向に拡がろうとする力が作用しているものの、取り付け用冶具の先端及び穴用止め輪部間には、相反する軸方向の力が作用して押圧し合っていることから、これで生じる穴用止め輪部を径方向へ縮める方向の摩擦力によって、穴用止め輪部の径方向への拡がり動作が阻害されることとなる。
【0007】
つまり、取り付け用冶具の引き抜きによって穴用止め輪部がリング状の溝の位置に戻ったとしても、このリング状の溝に穴用止め輪部が嵌め込まれない場合がないとは言えず、この事態を視認し得ない取り付け作業者によりそのまま取り付け用冶具が引き抜かれると、これにより露出する継ぎ手用のねじまで穴用止め輪部が移動してしまい、この継ぎ手用のねじに嵌め込まれるといった事態が生じかねない。
【0008】
この状態では、固定具の穴用止め輪部の径を押し縮めて継ぎ手用のねじから離脱させることは非常に困難であり、その結果、歩留まりが悪化してしまうという問題があった。
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、内挿部品を筒部に安定して組み付け得る固定具、すなわち、軸方向に弾性変形するコイルばね部及びこのコイルばね部の一端に位置する大径の穴用止め輪部を具備した固定具を容易にそして歩留まりよく装着することが可能な組立構造体及び固定具の取り付け方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するべく本発明の請求項1に係る組立構造体は、筒部を有する筐体と、前記筒部に嵌め込まれる内挿部品と、前記筒部の内壁面における前記内挿部品の装着位置を規定する部位に設けられたリング状の溝と、前記筒部内に挿入されて前記内挿部品を押さえ込んだ状態で前記溝に装着される固定具を備え、前記固定具は、軸方向に弾性変形するコイルばね部と、このコイルばね部よりも大径で且つ径方向に弾性変形可能に形成されて該コイルばね部の一端に連続して位置して前記筐体の筒部の内壁面におけるリング状の溝に嵌合する穴用止め輪部を具備し、前記筐体の筒部の内壁面には、前記固定具を前記筐体の筒部に挿入して前記内挿部品を押さえ込む段階において前記溝の手前で且つ前記内挿部品から少なくとも前記コイルばね部の自然長さ分の距離をおいた部位で前記穴用止め輪部が離脱可能に嵌合する仮止め溝を設けた構成としたことを特徴としており、このような構成の組立構造体を前述した課題を解決するための手段としている。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る組立構造体は、前記固定具のコイルばね部と穴用止め輪部とが一体を成している構成としており、この際、本発明の請求項3に係る組立構造体として、前記コイルばね部は、板厚方向に波状に変化する板体を前記板厚方向に複数ターンに亘って螺旋状に巻回して成る籠型のスプリングからなり、前記穴用止め輪部は、前記スプリングの一端に連なって該スプリングと同軸に螺旋状に巻回された少なくとも1ターンの前記板厚方向に平坦な板状体からなる構成とすることが好ましい。
【0011】
ここで、上記固定具のコイルばね部と穴用止め輪部とは、必ずしも一体を成している必要はなく、本発明の請求項4に係る組立構造体のように、前記固定具のコイルばね部と穴用止め輪部とが互いに別体を成している構成としてもよい。この際、例えば、コイルばね部としてコイルばねを用い、穴用止め輪部として平ワッシャを用いることができる。
さらに、本発明の請求項5に係る組立構造体において、前記筐体は、流体の通流孔を前記筒部として具備して前記通流孔を流れる流体の量を計測する流量計であって、前記通流孔に装着される前記内挿部品は、前記流体の整流体である構成としている。
【0012】
さらにまた、本発明の請求項5に係る組立構造体において、前記筐体の筒部の内壁面には、継ぎ手用ねじが形成してある構成としている。
一方、本発明の請求項7に係る固定具の取り付け方法は、上記組立構造体の固定具を前記筐体の筒部に取り付けるに際して、軸体を有する治具の前記軸体の先端部に前記固定具を保持させ、次いで、前記筐体の筒部に前記治具の軸体を挿入してその先端部に保持した固定具を前記筒部内に挿入し、続いて、前記治具の軸体を押し込んで前記固定具の穴用止め輪部を前記筐体の筒部の内壁面に設けた仮止め溝に嵌合させた後、前記治具に替えてこの治具とは別の仕上げ治具を前記筐体の筒部に挿入して前記固定具の穴用止め輪部を前記仮止め溝から離脱させると共に、この仮止め溝から離脱した前記固定具の穴用止め輪部を前記筐体の筒部の内壁面に設けたリング状の溝に嵌め込んで、前記固定具を前記筐体の筒部に取り付ける構成としている。
【0013】
本発明に係る組立構造体及び固定具の取り付け方法において、固定具を筐体の筒部に取り付ける場合には、まず、取り付け用冶具によって固定具の穴用止め輪部を径方向に縮めた状態で筒部に挿入し、筒部内の溝の手前に位置する仮止め溝の部位で取り付け用冶具による拘束を解除して、固定具の穴用止め輪部を仮止め溝に嵌合させる。
この嵌合に際して、固定具のコイルばね部は内挿部品に接触せずに自然長さを保っているので、すなわち、コイルばね部には軸方向の弾性力が作用していないので、取り付け用冶具と固定具の穴用止め輪部との間には、この穴用止め輪部の径方向への拡がり動作を阻害する摩擦力は生じないこととなり、その結果、固定具の穴用止め輪部は、仮止め溝にスムーズに嵌合することとなる。
【0014】
加えて、この状態で取り付け用冶具を引き抜いたとしても、固定具の穴用止め輪部はすでに仮止め溝に嵌合しているので、例えば、筐体の筒部に継ぎ手用ねじが形成されていたとしても、このねじに固定具が絡まることは生じ得ないこととなる。
次いで、固定具の穴用止め輪部を仮止め溝に嵌合させた状態で、仕上げ治具などの他の治具で固定具をより奥に押し込めば、固定具の穴用止め輪部が仮止め溝から離脱するのに続いて、筐体の筒部の内壁面に設けたリング状の溝に円滑に嵌め込まれることとなる。
【0015】
このとき、リング状の溝に対する穴用止め輪部の嵌合不良が生じてリング状の溝から外れたとしても、固定具の穴用止め輪部は仮止め溝に引っかかって止まることから、上記継ぎ手用ねじに固定具が絡まることが回避されることとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る組立構造体及び固定具の取り付け方法では、上記した構成としているので、内挿部品を筒部に安定して組み付け得る固定具、すなわち、軸方向に弾性変形するコイルばね部及びこのコイルばね部の一端に位置する大径の穴用止め輪部を具備した固定具を容易且つ確実に取り付けることが可能であり、加えて、固定具が筒部に取り外し困難に絡まるのを回避することができ、その分だけ歩留まりの向上をも実現することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0017】
一方、このような固定具を用いて筐体の筒部に内挿部品を組み込んだ組立構造体では、固定具の取り付け空間を小さくし得る分だけ、コンパクト化を実現できるうえ、筐体の筒部への固定具の装着が容易になる分だけ、組み付け作業コストの低減をも実現することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1〜図5は、本発明の一実施形態に係る組立構造体及び固定具の取り付け方法を示しており、この実施形態では、本発明に係る組立構造体が、筒部に内挿部品としての整流体を装着した流量計である場合を例に挙げて説明する。
図1は、この実施形態において用いる固定具10の概略的な形状を示す斜視図であり、図2(a),(b)は、上記固定具10の構造を示す平面図及び側面図である。
【0019】
この固定具10は、ばね鋼等の弾性体を軸方向に数ターンに亘って巻回したコイルばね部11と、このコイルばね部11の一端に該コイルばね部11と一体に連接された穴用止め輪部12とを備えている。
上記コイルばね部11は、板厚方向に波状に変化する所定幅の板体をその板厚方向に複数ターンに亘って螺旋状に巻回して成る軸方向(板厚方向)に弾性変形する籠型のスプリング(所謂ハイブリッドスプリング(商標))としている。
【0020】
一方、穴用止め輪部12は、平坦な板体をその板面方向に略1ターンに亘って巻回して成る径方向に弾性的に縮径可能なもの(所謂Cリング)としていて、この穴用止め輪部12は、コイルばね部11よりも若干大径のCリングとしてある。
この実施形態において、上記固定具10は、板厚0.2mm、板幅0.8mmのばね鋼(例えば燐青銅やステンレス鋼)を、外径11mm、コイル長3.3mmのコイルばね部(籠型スプリング)11として5ターンに亘って巻回し、穴用止め輪部12を外径11.9mmの略1ターンの平坦なCリングとしており、コイルばね部11は、例えば、1ターン当たり3.5回の波(ウェーブ)を形成するように加工されている。
【0021】
このような固定具10を備えた組立構造体としての流量計は、ガスの供給流路(ガス配管)に介挿されて用いられるものであり、図3に示すように、筒状の流路1を形成したブロック体(筐体)2の内壁面に流量センサ3を取り付けると共に、この流量センサ3の上流側に円柱状の整流体4を組み付けて成っていて、ブロック体2における流路1の上流側および下流側の開口端内壁面には、継ぎ手用ねじ5a,5bが形成されている。
【0022】
また、筒状の流路1の内壁面には、整流体4の装着位置を規定する段差(ストッパ)1a及び整流体4を固定するためのリング状の溝1bが形成してあり、この場合、ブロック体2の流路1の内壁面には、上記リング状の溝1bの手前(図3上側)で且つ整流体4から少なくとも固定具10のコイルばね部11の自然長さ分の距離をおいた部位に位置して、固定具10の穴用止め輪部12と離脱可能に嵌合する仮止め溝1cが設けてある。
【0023】
上記した固定具10を用いれば、例えば、図3(a)に示すように、円柱状の整流体4を流路1の一端側からこの流路1に設けた段差1aに当接する位置まで挿入した後、その上から固定具10を挿入して該固定具10の穴用止め輪部12を前記流路1の内壁に設けたリング状の溝1bに嵌め込むだけで、固定具10が一体に備えたコイルばね部11で、図3(b)に示すように、上記流路1の内部に整流体4を安定に固定することができる。
【0024】
特に固定具10の穴用止め輪部12をコイルばね部11よりも若干大径に形成しているので、上記穴用止め輪部12の周縁部を流路1の内壁に設けたリング状の溝1aに嵌め込むだけで、コイルばね部11を流路1内に偏りなく同軸に位置付けることができる。
したがって、コイルばね部11が流路1の内壁面に接触してその軸方向の弾性力が妨げられる等の不具合を招来することがない。また、コイルばね部11が籠型のスプリングからなっているので、整流体4の周縁部をその全周に亘って均一な力で安定に押圧することができる。
【0025】
また、固定具10が、コイルばね部11と穴用止め輪部12とを一体に備えているので、例えば、上記コイルばね部11の端部を支持し、上記コイルばね部11側から該固定具10を流路1内に挿入するだけで、予め流路1内に挿入した整流体4をそのままその奥部に向けて押圧することができる。したがって、固定具10の取り扱いが容易なうえ、その装着固定作業の容易化を図ることができる。
【0026】
さらに、固定具10が、コイルばね部11と穴用止め輪部12とを一体に備えていて、各部が持つ機能を統合した構造を成しているので、その分だけ、流路1内に整流体4を組み込むための部品点数を少なくすることができ、上述した組み付け作業の容易化と相俟って、その製作コストを低減することが可能となる等の二次的な効果も奏せられる。
次に、上述した固定具10を用いた流路1内への整流体4の組み込み作業について説明する。この組み込み作業は、例えば、図4(a)に示すような組付治具20を用いて行われる。この組付治具20は、弾性的に縮径可能な棒状を成し、その先端部に固定具10の穴用止め輪部12に内側から係合して該固定具10を装着可能な係止部21を有する軸体22を備えていると共に、先端部に固定具10を装着した上記軸体22を挿通可能な貫通孔31を有し、この貫通孔31に挿入された軸体22をその挿入長に応じて縮径させる筒体30を備えている。
【0027】
上記軸体22は、その先端部から大径の把持部をなす基部23に向けて軸方向に切り込まれた長尺のスリット24を有し、上記先端部を径方向に圧縮することにより上記スリット24の間隙を狭めることで縮径する。
一方、筒体30は、前述した流路1の開口端部に装着されるもので、特にこの例において、流路1の継ぎ手用ねじ5aの内面に沿って嵌め込まれる肉薄の円筒状ガイド32を備えている。そして、前記軸体22が挿入される貫通孔31は、その一端部側から上記円筒状ガイド32を形成した他端部側に向けて徐々に縮径する内壁面31aを有しており、この内壁面32は、例えば1°程度の傾斜面からなり、貫通孔31内への前記軸体22の押し込み量に応じて該軸体22の先端部を径方向に押圧することで、軸体22を先端部を徐々に縮径させる役割を担っている。
【0028】
この場合、軸体22の先端部に設けられた係止部21は、図4(a)において部分的に拡大して示すように、固定具10の穴用止め輪部12の内側に入り込む小径部25と、この小径部25の根元部から外側に張り出して穴用止め輪部12の上面に当接する段差部26と、小径部25の先端部から外側に張り出して固定具10の穴用止め輪部12の下面側とコイルばね部11の上端部との間に入り込む張出部27とを備えている。
【0029】
上記段差部26の外径は、前述した穴用止め輪部12を最大限に縮径させたときの径よりも若干小さく設定され、且つその幅は、穴用止め輪部12の板幅程度に設定されている。また、小径部25の長さは、上記穴用止め輪部12の板厚よりも若干長く設定されている。そして、張出部27の外径は、前述したコイルばね部11の内径よりも若干大きく設定されている。
【0030】
このような組付治具20を用いた固定具10の流路1内への装着、すなわち、整流体4の組み付けは、まず、整流体4を流路1内の段差1aに当接する位置まで挿入し、これに続いて、流路1の開口端部に筒体30の円筒状ガイド32を挿入して該筒体30を流路1に装着する。
次に、軸体20の先端部に固定具10を装着する。この軸体20への固定具10の装着は、軸体20を把持してその先端部を若干縮径させた状態で上記先端部に形成した張出部27を固定具10における穴用止め輪部12の内側に挿入し、上記軸体20の把持を解除することでその先端部を弾性復帰させて張出部27を固定具10の穴用止め輪部12とコイルばね部11との間の隙間に潜り込ませる。これにより、固定具10の穴用止め輪部12が軸体20の先端部の段差部26と張出部27との間に挟み込まれて、小径部25の外側に嵌め込まれるので、これによって軸体20の先端部に装着されることになる。
【0031】
この後、図4(b)に示すように、固定具10を装着した軸体20をその先端部側から筒体30の貫通孔31に挿入して固定具10を流路1内に導く。
この際、貫通孔31内への軸体20の押し込みに伴って、軸体20の先端部は筒体30の内壁面31aにより押圧されて徐々に縮径し、これと同時に、固定具10の穴用止め輪部12も筒体30の内壁面31aにより押圧されて縮径する。したがって、固定具10は軸体20の先端部から外れることなく、図5(a)に示すように、筒体30の奥部まで、つまり、肉薄の円筒状ガイド32の先端部まで押し込まれることになる。
【0032】
そして、図5(b)に示すように、軸体20のさらなる押し込みに伴って固定具10のコイルばね部11及び穴用止め輪部12が円筒状ガイド32の先端部から抜け出ると、穴用止め輪部12は、円筒状ガイド32による径方向への押圧は解除されるものの、未だ流路1の内壁面によりその拡径が規制されており、したがって、穴用止め輪部12は軸体20の先端部に装着された状態に保たれる。
【0033】
この後、軸体20をさらに押し込むと、図5(c)に示すように、流路1内のリング状の溝1bの手前に位置する仮止め溝1bの部位で、穴用止め輪部12の径方向への拘束が解除されて弾性復帰するので、固定具10の穴用止め輪部12が仮止め溝1cに嵌合することとなる。
この穴用止め輪部12の嵌合に際して、固定具10のコイルばね部11は先に挿入した整流体4に接触せずに自然長さを保っているので、すなわち、コイルばね部11には軸方向の弾性力が作用していないので、固定具10の穴用止め輪部12には、この穴用止め輪部12の径方向への拡がり動作を阻害する摩擦力は生じないこととなり、その結果、固定具10の穴用止め輪部12は、仮止め溝1cにスムーズに嵌合することとなる。
【0034】
次いで、固定具10の穴用止め輪部12を仮止め溝1cに嵌合させた状態で、図5(d)に示すように、上記組付治具20とは異なる仕上げ治具40で固定具10をより奥に押し込めば、固定具10の穴用止め輪部12が仮止め溝1cから離脱するのに続いて、流路1の内壁面に設けたリング状の溝1bの位置まで導かれ、流路1の内壁面による径方向の押圧が解除されて弾性復帰して、リング状の溝1bに円滑に嵌り込んで拡径する。
【0035】
そして穴用止め輪部12の上記溝1bへの嵌合により流路1内に固定具10が固定され、これに伴って固定具10のコイルばね部11によって整流体4がその軸方向に押圧された状態で流路1内に固定されることになる。
なお、上記組付治具20の交換に際して、この組付治具20を流路1から引き抜いたときには、固定具10の穴用止め輪部12はすでに仮止め溝1cに嵌合しているので、ブロック体2の継ぎ手用ねじ5aに固定具10が絡まることは生じ得ないこととなる。
【0036】
また、リング状の溝1bに対する穴用止め輪部12の嵌合不良が生じてリング状の溝1bから外れたとしても、固定具10の穴用止め輪部12は仮止め溝1cに引っかかって止まることから、上記継ぎ手用ねじ5aに固定具10が絡まることは回避されることとなる。
この後、この状態から仕上げ治具40を流路1から引き抜けば、固定具10の穴用止め輪部12は既に溝1bに嵌り込んで拡径しているので、固定具10を流路1内に残した状態で仕上げ治具40だけが引き抜かれることになり、これにより、固定具10の組み付け作業を終了する。
【0037】
上記したように、この実施形態では、整流体4を流路1に安定して組み付け得る固定具10、すなわち、軸方向に弾性変形するコイルばね部11及びこのコイルばね部11の一端に位置する大径の穴用止め輪部12を具備した固定具10を流路1に容易且つ確実に取り付け得るうえ、固定具10が流路1内に取り外し困難に絡まるのを阻止し得ることとなり、その分だけ歩留まりの大幅な向上が図られることとなる。
【0038】
また、この実施形態では、固定具10のコイルばね部11を複数ターンに亘る籠型スプリングとし、さらに、穴用止め輪部12を少なくとも1ターンの板状体としているので、コイルばね部11の弾性力を十分に確保しながらその軸方向の全長を短くすることができ、ひいてはブロック体2の流路1への取り付けに要するスペース(取り付け空間)を小さくすることができる。
【0039】
一方、このような固定具10を用いて流路1に整流体4を組み込んだ流量計では、固定具10の取り付け空間を小さくし得る分だけ、コンパクト化を実現できるうえ、ブロック体2の流路1への固定具10の装着が容易になる分だけ、組み付け作業コストの低減をも実現することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。ここではコイルばね部11として籠型スプリングを備えたものを例示したが、線状体または平板体を軸方向に巻回したコイルスプリングであってもよい。また、穴用止め輪部12については二重リング構造のものであってもよい。さらに、固定具10の大きさ(径および長さ)や、コイルばね部11のばね力等については、その固定対象物の仕様に応じて設定すればよいものであい。さらにまた、ここでは流路1内に整流体4を組み付けた流量計を例に説明したが、本発明は筒状体の内部に内挿部品を正確に組み付ける必要のある種々の組立構造体に幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】筒部に装着される固定具の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す固定具の平面図(a)及び側面図(b)である。
【図3】本発明の一実施形態に係る組立構造体の流路を形成した筐体内への固定具を用いた内挿部品(整流体)の装着構造を示す断面図(a),(b)である。
【図4】本発明の一実施形態に係る組立構造体への固定具の取み付けに用いる治具の概略構造を示す断面図(a)及びこの取り付け治具を用いた筒体内への固定具の装着形態を示す断面図(b)である。
【図5】図4に示す取り付け治具による流路内への固定具の装着要領説明図(a)〜(d)である。
【符号の説明】
【0041】
1 流路(筒部)
1b 溝
1c 仮止め溝
2 ブロック体(筐体)
4 整流体(内挿部品)
5a,5b 継ぎ手用ねじ
10 固定具
11 コイルばね部
12 穴用止め輪部
20 取り付け治具
40 仕上げ治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部を有する筐体と、
前記筒部に嵌め込まれる内挿部品と、
前記筒部の内壁面における前記内挿部品の装着位置を規定する部位に設けられたリング状の溝と、
前記筒部内に挿入されて前記内挿部品を押さえ込んだ状態で前記溝に装着される固定具を備え、
前記固定具は、軸方向に弾性変形するコイルばね部と、このコイルばね部よりも大径で且つ径方向に弾性変形可能に形成されて該コイルばね部の一端に連続して位置して前記筐体の筒部の内壁面におけるリング状の溝に嵌合する穴用止め輪部を具備し、
前記筐体の筒部の内壁面には、前記固定具を前記筐体の筒部に挿入して前記内挿部品を押さえ込む段階において前記溝の手前で且つ前記内挿部品から少なくとも前記コイルばね部の自然長さ分の距離をおいた部位で前記穴用止め輪部が離脱可能に嵌合するリング状の仮止め溝を設けた
ことを特徴とする組立構造体。
【請求項2】
前記固定具のコイルばね部と穴用止め輪部とが一体を成している請求項1に記載の組立構造体。
【請求項3】
前記コイルばね部は、板厚方向に波状に変化する板体を前記板厚方向に複数ターンに亘って螺旋状に巻回して成る籠型のスプリングからなり、
前記穴用止め輪部は、前記スプリングの一端に連なって該スプリングと同軸に螺旋状に巻回された少なくとも1ターンの前記板厚方向に平坦な板状体からなる請求項2に記載の組立構造体。
【請求項4】
前記固定具のコイルばね部と穴用止め輪部とが互いに別体を成している請求項1に記載の組立構造体。
【請求項5】
前記筐体は、流体の通流孔を前記筒部として具備して前記通流孔を流れる流体の量を計測する流量計であって、前記通流孔に装着される前記内挿部品は、前記流体の整流体である請求項1〜4のいずれか一つの項に記載の組立構造体。
【請求項6】
前記筐体の筒部の内壁面には、継ぎ手用ねじが形成してある請求項1〜5のいずれか一つの項に記載の組立構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組立構造体の固定具を前記筐体の筒部に取り付けるに際して、
軸体を有する治具の前記軸体の先端部に前記固定具を保持させ、
次いで、前記筐体の筒部に前記治具の軸体を挿入してその先端部に保持した固定具を前記筒部内に挿入し、続いて、前記治具の軸体を押し込んで前記固定具の穴用止め輪部を前記筐体の筒部の内壁面に設けた仮止め溝に嵌合させた後、
前記治具に替えてこの治具とは別の仕上げ治具を前記筐体の筒部に挿入して前記固定具の穴用止め輪部を前記仮止め溝から離脱させると共に、この仮止め溝から離脱した前記固定具の穴用止め輪部を前記筐体の筒部の内壁面に設けたリング状の溝に嵌め込んで、前記固定具を前記筐体の筒部に取り付けることを特徴とする固定具の取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−85258(P2009−85258A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253092(P2007−253092)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】