説明

組電池

【課題】正極の抵抗低減と電池の耐久性確保との両立が図れるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池1は、オリビン構造を有する正極活物質を含む正極10と、負極活物質を含む負極11と、正極10と負極11の間に介在する媒体である非水電解質と、正極10と負極11の間に配されるセパレータ12と、正極10、負極11、非水電解質、及びセパレータ12を内部に含む外装ケース13と、を備えている。セパレータ12は、乾燥処理が施されている。正極10は、正極10の重量に対して750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれる水分量を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のリチウムイオン二次電池は、電池の耐久性を向上し、低温条件下における限界放電電流を大きくするために、その作製工程において、セパレータを乾燥するための加熱処理が行われる。具体的に加熱処理においては、非水電解液が含浸される以前の捲回型電極体における正極板及び負極板は、セパレータを介して、いわゆるコンデンサを構成している状態であるため、正極板及び負極板に高周波またはマイクロ波を印加するとセパレータを介した当該コンデンサの誘電率、誘導損失により、セパレータ部分のみが加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−208924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、乾燥処理されたセパレータにより、電解液であるリチウムイオンの移動が妨げられないため、分極が起こり難くなり、充放電の繰り返しによる電池容量変化特性が良好になり得る。しかしながら、特許文献1の技術は、繰り返し充放電に耐え得る耐久性確保を奏するものの、正極そのものの抵抗低減が得られるわけではなく、電池の放電特性向上の効果が十分ではない。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、正極の抵抗低減と電池の耐久性確保との両立が図れるリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の発明は、オリビン構造を有する正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、正極と負極の間に介在する媒体である非水電解質と、正極と負極の間に配されるセパレータと、正極、負極、非水電解質、及びセパレータを内部に含む外装ケースと、を備え、
セパレータは、乾燥処理が施されるとともに、正極は、当該正極の重量に対して750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれる含有水分率であることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、乾燥処理されたセパレータに用いることにより、電池の耐久性を向上できる。さらに正極の含有水分率が750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれることにより、セパレータ表面近傍での水と正極活物質の反応において、乾燥度合いが強いと抵抗が大きくなる傾向があることを回避して、水分量を少なすぎず適正量に保つことができるため、正極自体の抵抗を低減することができる。したがって、正極自体の抵抗低減と電池の耐久性確保との両立が図れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0008】
請求項2の発明によると、請求項1に記載の正極活物質は、鉄を含む鉄オリビン化合物であることが好ましい。この発明によれば、請求項1の発明が奏する効果がより顕著になる。
【0009】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法に係る発明は、セパレータを乾燥処理する乾燥処理工程と、
オリビン構造を有する正極活物質を含む正極の含水量を調節する調整工程と、
調整工程を経た正極と負極活物質を含む負極と正極及び負極間に介在するセパレータとを外装ケースの内部に組み立てる組立工程と、
外装ケースの内部に非水電解質を注入する注入工程と、
注入した非水電解質を含浸させる含浸工程と、
外装ケースを封止する封止工程と、を有し、
調整工程では、組立工程前の正極を120℃環境下で少なくとも6時間、真空乾燥し、さらに露点−20℃から露点+3℃の範囲に含まれる温度環境下で1時間以上48時間未満、曝すことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、上記の乾燥工程により、乾燥処理されたセパレータを提供することができるため、電池の耐久性を向上できる。さらに、上記の調整工程により、正極の含有水分率を750ppm以上1200ppm以下の範囲に設定することができるため、正極自体の抵抗を低減することができる。したがって、正極自体の抵抗低減と電池の耐久性確保との両立が図れるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す断面図である。
【図2】リチウムイオン二次電池の製造工程を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合わせることも可能である。
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係るリチウムイオン二次電池1を適用する第1実施形態について説明する。リチウムイオン二次電池1は、例えば、電動機のみによって走行する電気自動車(EV)、電動機と内燃機関とを併用して走行駆動力とするプラグインハイブリッド自動車(PHV)等に搭載される車両用蓄電池、あるいは住宅における蓄電池用の定置用蓄電池として用いることができる。
【0014】
図1は、リチウムイオン二次電池1の断面図である。リチウムイオン二次電池1は、オリビン構造を有する正極活物質を含む正極10と、負極活物質を含む負極11と、正極10と負極11の間に介在する媒体である非水電解質と、正極10と負極11の間に介在して、これらが電気的に短絡しないように配されるセパレータ12と、正極10、負極11、非水電解質、及びセパレータ12を内部に含む外装ケース13と、を備えている。
【0015】
(正極10)
リチウムイオン二次電池1に含まれる正極10の活物質としては、オリビン構造を有する活物質を用いることが望ましい。オリビン構造を有する活物質としては、鉄を含む鉄オリビン、マンガンを含むマンガンオリビン、ニッケルを含みニッケルオリビン等を用いることができる。特に正極10の活物質としてFe、Mn、Ni、Coから選択された少なくとも1種の金属元素を含むことが望ましい。正極10は、正極10の重量に対して750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれる割合の水分量を含有するように作製されている。正極10の含有水分率は、具体的には、正極活物質、アルミニウム箔、及びバインダを合わせた合剤の重量に対する水分量の割合である。この水分量は、例えばカールフィッシャー測定法によって測定するものとする。カールフィッシャー測定法は、滴定セルにヨウ化物イオン・二酸化硫黄・アルコールを主成分とする電解液がメタノールの存在下で水と特異的に反応することを利用して、物質中の水分を定量する方法である。
【0016】
また、正極10の活物質には、オリビン構造を有する化合物であるオリビン型リチウム化合物、例えばリン酸化合物の一つであるリチウム金属リン酸塩を用いてもよい。リチウム金属リン酸塩は、例えば、LiMPOで表される化合物とする。Mには、Mn,Fe,Co,Niから選択された少なくとも2種以上の金属元素を用いることができる。
【0017】
その他に有することができる要素としては導電材、結着材、集電体等が挙げられる。正極活物質は、導電材、結着材等と混合した状態で集電体の表面に層状に形成された活物質層を形成することができる。例えば、正極活物質と結着材と導電材等とを水、Nメチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶媒中で混合した後、集電体上に塗布して形成することができる。
【0018】
導電材は、活物質から生成される電子の授受を行う材料であり、導電性を有するものであればよい。例えば炭素材料や導電性高分子材料が挙げられる。炭素材料としてはケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、非晶質炭素等を採用できる。また、導電性高分子材料としてはポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセンを採用できる。
【0019】
結着材は活物質等の構成要素を結合させて電極を形作る材料である。種々の高分子材料を採用することができ、化学的・物理的安定性が高いものが望ましい。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、ポリアクリル酸(PAA)バインダ、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)バインダ等が挙げられる。また、導電材として導電性高分子材料を採用すると、導電材の作用に加え結着材の作用を発現させることができる。集電体としてはアルミニウム等の金属から形成される金属箔等を採用することができる。
【0020】
図1に示すように、正極10は、正極集電体10bの両面に活物質を含む正極層10a,10cが担持された構造を有する。正極10は、ラミネートシートで形成される外装ケース13内に、例えば1枚設けられている。正極10は負極11とともに積層されて、電極積層体を構成している。正極集電体10bは、この集電体と同じ材料からなる端子接続部100dに接続されている。端子接続部10dは、同じ材料からなる正極端子部14に接続されている。正極端子部14は、電極積層体を被覆する外装ケース13の外部にその先端が所定長さ寸法突出して配されている。
【0021】
(負極11)
負極11の構成は特に限定されないが、例えば負極活物質として黒鉛を用いることができる。負極活物質の種類によっては結着材や集電体等を用いる場合もある。結着材は正極10にて説明したものと同様のものが採用できる。集電体としては銅等の金属から形成される金属箔等を採用することができる。
【0022】
負極11の活物質としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる化合物を単独または組み合わせて用いることができる。リチウムイオンを吸蔵及び放出できる化合物の一例としてはリチウム等の金属材料、ケイ素、スズ、銅等を含有する合金系材料、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、コークス等の炭素系材料、チタン酸化物等がある。また、これらの活物質は単独で用いるだけでなく、これらを複数種類混合して用いることもできる。
【0023】
例えば、負極活物質としてリチウム金属箔を用いる場合、銅等の金属からなる集電体の表面にリチウム箔を圧着することで形成できる。また負極活物質として合金材料、炭素材料を用いる場合は、負極活物質と結着材等とを水、NMP等の溶媒中で混合した後、銅等の金属からなる集電体上に塗布して形成することができる。
【0024】
図1に示すように、負極11は、負極集電体11bの両面に活物質を含む負極層11a,11cが担持された構造を有する。負極11は、ラミネートシートで形成される外装ケース13内に、例えば2枚設けられている。各負極11は正極10とともに積層されて、電極積層体を構成している。したがって、負極集電体11bは、負極11の積層方向に2個積層して配置されている。各負極集電体11bは、この集電体と同じ材料からなる端子接続部11dに接続されている。2本の端子接続部11dは、同じ材料からなる1個の負極端子部15に接続されている。負極端子部15は、電極積層体を被覆する外装ケース13の外部にその先端が所定長さ寸法突出して配されている。
【0025】
(非水電解質)
非水電解質は正極10及び負極11間のイオン等の荷電担体の輸送を行う液状、ゲル状の媒体であり、正極10と負極11の間に介在して電極積層体及びセパレータ12を十分に濡らしている。非水電解質は、特に限定しないが、リチウムイオン二次電池1が使用される雰囲気下で物理的、化学的、電気的に安定なものが望ましい。
【0026】
例えば、非水電解質としては、LiBF,LiPF,LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO)の中から選ばれた1種以上を支持電解質とし、これを有機溶媒に溶解させた電解液が好ましい。有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等及びこれらの混合物を採用できる。中でもカーボネート系溶媒を含む電解液は、高温での安定性が高い点で好ましい。また、非水電解質に対する添加剤としては、例えばビニレンビニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、またはプロパンスルトン、リチウムビスオキサレートボレートを含むことが好ましい。
【0027】
(セパレータ12)
正極10と負極11との間には電気的な絶縁作用とイオン伝導作用とを両立する部材であるセパレータ12が介装されている。非水電解質が液状である場合にはセパレータ12は、液状の電解質を保持する役割をも果たす。セパレータ12としては、セルロースを主成分とする紙製のセパレータ、多孔質合成樹脂膜、例えばポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)やガラス繊維からなる多孔質膜、不織布を採用できる。さらに、セパレータ12には、他の各部材と組み立て電池を構成する前に、所定の乾燥処理が施される。また、セパレータ12は、正極10及び負極11の間の絶縁を担保する目的で、正極10及び負極11よりもさらに大型の形態となっている。
【0028】
図1に示す例では、セパレータ12は、樹脂層12aにセラミックスを塗布したセラミックス層12bを有する。樹脂層12aは、例えば、ポリエチレンにより形成された多孔性膜を用いることができる。セラミックス層12bは、この多孔性膜にセラミックスの微粒子を塗布することで作製することができる。セラミックスは、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアを用いることができる。セラミックス層12bは、正極10に面するように配置されている。すなわち、セラミックス層12bは、正極10の正極層10aや正極層10cに対向している。
【0029】
(電極体構造)
電極体としては、本実施形態に記載した積層体構造の他、捲回体構造等用途に応じた構造を選択することが可能である。
【0030】
(外装ケース13)
外装ケース13は、外観が平板状体であり、例えば、二つ折りにされたラミネートシートの端部同士を熱融着することにより当該端部同士を封止して、密閉された内部空間を形成している。このような形態で形成された内部空間には、電極積層体、非水電解質、端子接続部10d,11d、正極端子部14の一部、及び負極端子部15の一部が内蔵されている。熱融着は、熱融着されるラミネートシートの端部同士を合わせて加圧した状態で、繰り返しの充放電によって電池特性が低下しない所望の気密性能が得られるように、適正な所定温度かつ所定時間、加熱することにより実施する。なお、外装ケースとしては、ラミネートシートに限らず、例えば金属缶を用いても良好な特性が得られる。金属缶の形状としては例えば円筒型、角型を採用することができる。
【0031】
(試験例の評価)
以下に、本発明を適用する複数の試験例及び比較例に係るリチウムイオン二次電池(表1参照)に関して、正極の含有水分量、60℃保存試験残存容量、5C放電容量、低温充放電効率について評価した結果(表2参照)を説明する。
【表1】

【0032】
表1の試験例1〜8、比較例1〜4の各電池は、表1に記載した正極、負極、セパレータを備えるように作製した評価対象のリチウムイオン二次電池である。各例の正極を乾燥処理後、暴露する低ドライ環境は、露点−20℃から露点+5℃に含まれる温度環境下のことである。露点−20℃とは、雰囲気中の水蒸気が凝結する温度よりも20℃低い温度のことであり、露点+5℃とは、当該凝結する温度よりも5℃高い温度のことである。表1のセパレータの欄に記載する吸水度は、フレム法によって測定することができる。フレム法は、試験片の下端を垂直に水の中に浸漬させ、毛細管現象によって10分間に水が上昇した高さを測定する方法である。
【表2】

【0033】
各試験例及び比較例の評価結果について、表2を参照して以下に説明する。正極の含有水分率は、正極の重量に対する、正極に含まれる水分量の割合であり、上記したようにカールフィッシャー測定法により測定した。なお、各例に対応する試料サンプルを120℃、30分間、加熱したときに測定した。測定には、1.5cm×5cmの大きさに切断したサンプルを用いた。
【0034】
60℃保存試験残存容量(%)は、満充電の状態で60℃で1ヶ月保存した後、満充電に対する電池の残存容量の割合を測定したものである。5C放電容量(%)は、25℃環境下で、0.3Cの放電レート時の放電容量に対する5Cの放電レート時の放電容量の割合を測定したものである。低温充放電効率については、−5℃環境下で2時間放置後、SOC0%の状態から満充電状態まで充電して充電量を測定し、その後、放電を行い、放電量を測定する。そして、測定した充電量に対する測定した放電量の割合を低温充放電効率とした。
【0035】
表1に示した測定結果によると、60℃保存試験残存容量については比較例1及び2で望ましい結果が得られなかったが、その他の例は良好な結果が得られた。また、5C放電容量については比較例3及び4で望ましい結果が得られなかったが、その他の例は良好な結果が得られた。低温充放電効率については比較例3及び4で望ましい結果が得られなかったが、その他の例は良好な結果が得られた。
【0036】
また、試験例1〜8については、すべて、正極の含有水分率が750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれている。比較例3及び4は正極の含有水分率が当該範囲に含まれておらず、乾燥度合いが強い正極材料となっている。一方、比較例1及び2は、正極の含有水分率が当該範囲に含まれているが、それぞれ1170ppm、1100ppmと含水率が高いため、特性低下が起こっている。この特性低下は、表1に示すように、比較例1及び2のセパレータは乾燥処理が施されていないため、セパレータが正極に含まれる余分な水分量を吸入する能力を有していないからである。さらに、試験例4、6、及び7等がそれぞれ1120ppm、1180ppm、1190ppmと高い含水率であるにもかかわらず、上記の優れた特性を有するのは、真空乾燥処理されたセパレータによって余分な水分を吸収することができるからである。
【0037】
以上の評価結果によれば、発明者らは、正極10が正極10の重量に対して750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれる割合の水分率であるとともに、セパレータに乾燥処理が施されていることが、本発明に係るリチウムイオン二次電池1が満たすべき要件であることを確認できた。
【0038】
次に、リチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。図2は、リチウムイオン二次電池1の製造工程の一例を示す流れ図である。リチウムイオン二次電池1の製造方法は、セパレータ12の乾燥処理工程(ステップ10)と、正極10の含水量調整工程(ステップ20)と、電池の各部を組み立てる組立工程(ステップ30)と、電解液の注入工程(ステップ40)と、電解液の含浸工程(ステップ50)と、封止工程(ステップ60)とを備える。なお、ステップ10の工程とステップ20の工程は、同時に実施してもよいし、その順序が逆であってもよい。
【0039】
セパレータ12の乾燥処理工程は、オリビン構造を有する正極活物質を含む正極の含水量を調節する工程であり、セパレータ12を電池の部品として組み付ける前に行う前工程である。セパレータ12の乾燥処理工程では、主成分がセルロースである紙製セパレータの場合は、120℃〜140℃の環境下で6時間以上真空乾燥を実施し、セパレータ12の主成分が樹脂である場合は、60℃〜80℃の環境下で6時間以上真空乾燥を実施するものとする。
【0040】
正極10の含水量調整工程は、正極10の含有水分率を所定の範囲に設定するための工程であり、正極活物質を含む正極材を120℃環境下で少なくとも6時間、真空乾燥し、さらに露点−20℃から露点+3℃の範囲に含まれる温度環境下で1時間以上48時間未満、曝す工程である。この工程を経た正極10は、正極材の重量に対する含有水分率が750ppm〜1200ppの範囲に含まれる値に設定され得る。
【0041】
電池の各部を組み立てる組立工程では、外装ケース13を構成するラミネートフィルムまたは金属缶の内部に、所定数の正極10、所定数の負極11、所定数のセパレータ12等の構成部品を組み立てた組立品を設置する。この工程では、当該組立品を外装ケース13の内部に配置するようにしてもよいし、当該組立品を取り囲むように外装ケース13を形成するようにしてもよい。
【0042】
電解液の注入工程では、組立工程後の外装ケース13の内部に、外装ケース13に設けられた開口部から非水電解液を注入する。含浸工程は、注入した非水電解質を減圧処理等によって含浸させる工程である。封止工程は、注入工程や含浸工程で使用された開口部を閉じるために、熱融着等により栓をしたり、金属製の蓋を固定したりして内部を密閉する工程である。
【0043】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1がもたらす作用効果について説明する。リチウムイオン二次電池1は、オリビン構造を有する正極活物質を含む正極10と、負極活物質を含む負極11と、正極10と負極11の間に介在する媒体である非水電解質と、正極10と負極11の間に配されるセパレータ12と、正極10、負極11、非水電解質、及びセパレータ12を内部に含む外装ケース13と、を備えている。セパレータ12は、乾燥処理が施されている。正極10は、正極10の重量に対して750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれる含有水分率である。
【0044】
このリチウムイオン二次電池1によれば、乾燥処理されたセパレータ12を用いることにより、電池の耐久性を向上できる。さらに、セパレータ12を乾燥させておくと、正極10とセパレータ12の間に正極からの水分をトラップさせておくことができ、セパレータ12によって当該水分を吸収することができるため、正極10の水分量を高く設定することが可能になり、乾燥による抵抗増大を抑制できる。
【0045】
一方、乾燥度合いが強いと抵抗が大きくなる傾向があるが、リチウムイオン二次電池1は、さらに正極10の含有水分率が750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれることにより、セパレータ12の表面近傍での水と正極活物質の反応において、水分量を少なすぎない適正量に保つことができる。このため、乾燥によってもたらされる抵抗増大を回避して、正極自体の抵抗を低減することができる。
【0046】
これらの作用効果によれば、正極自体の抵抗低減と電池の耐久性確保との両立が図れるリチウムイオン二次電池1を提供できる。なお、上記含有水分率の正極10が抵抗低減に寄与する理由は、表面近傍の結晶性を低下させ、Liの挿入性を容易すること、または少量のHFとの反応により正極表面が親Li性の表面へと変質する可能性があると想定することができる。
【0047】
また、正極10に含まれる正極活物質は、鉄を含む鉄オリビン化合物であることが好ましい。これによれば、前述の正極自体の抵抗低減と電池の耐久性確保が得られる効果をより顕著なものにできる。
【0048】
また、リチウムイオン二次電池1は、負極11及び正極10間に介在するセパレータ12を備える。セパレータ12は、樹脂層12aにセラミックスを塗布したセラミックス層12bを有する。セラミックス層12bは、正極10に面している。この構成によれば、リチウムイオン二次電池1が高電圧状態になった場合に、セラミックス層12bが正極10に対向して設けられていることにより、極間短絡を抑制することに寄与する。
【0049】
リチウムイオン二次電池1の製造方法は、セパレータ12を乾燥処理する乾燥処理工程と、オリビン構造を有する正極活物質を含む正極10の含水量を調節する調整工程と、調整工程を経た正極10と負極活物質を含む負極11と正極10及び負極11間に介在するセパレータ12とを外装ケース13の内部に組み立てる組立工程と、外装ケース13の内部に非水電解質を注入する注入工程と、注入した非水電解質を含浸させる含浸工程と、外装ケース13を封止する封止工程と、を備える。調整工程では、組立工程前の正極10を120℃環境下で少なくとも6時間、真空乾燥し、さらに露点−20℃から露点+3℃の範囲に含まれる温度環境下で1時間以上48時間未満、曝すことを特徴とする。
【0050】
この製造方法によれば、上記の乾燥工程により、乾燥処理されたセパレータ12を提供することができるため、電池の耐久性を向上できる。乾燥したセパレータ12により、上記のように、正極10からの水分を吸収することができるため、正極10の水分量を高く設定することが可能になり、乾燥による抵抗増大を抑制できる。さらに、調整工程により、正極10の含有水分率を750ppm以上1200ppm以下の範囲の適正な状態に設定することができる。これにより、乾燥によってもたらされる抵抗増大を回避して、正極自体の抵抗を低減することができる。したがって、正極自体の抵抗低減と電池の耐久性確保との両立が図れるリチウムイオン二次電池1の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…リチウムイオン二次電池
10…正極
11…負極
12…セパレータ
13…外装ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン構造を有する正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極の間に介在する媒体である非水電解質と、前記正極と前記負極の間に配されるセパレータと、前記正極、前記負極、前記非水電解質、及び前記セパレータを内部に含む外装ケースと、を備え、
前記セパレータは、乾燥処理が施されるとともに、前記正極は、当該正極の重量に対して750ppm以上1200ppm以下の範囲に含まれる含有水分率であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質は、鉄を含む鉄オリビン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
セパレータを乾燥処理する乾燥処理工程と、
オリビン構造を有する正極活物質を含む正極の含水量を調節する調整工程と、
前記調整工程を経た正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極及び前記負極間に介在する前記セパレータとを外装ケースの内部に組み立てる組立工程と、
前記外装ケースの内部に非水電解質を注入する注入工程と、
前記注入した非水電解質を含浸させる含浸工程と、
前記外装ケースを封止する封止工程と、を有し、
前記調整工程では、前記組立工程前の正極を120℃環境下で少なくとも6時間、真空乾燥し、さらに露点−20℃から露点+3℃の範囲に含まれる温度環境下で1時間以上48時間未満、曝すことを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−26149(P2013−26149A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162365(P2011−162365)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】