説明

経皮吸収シート及びその製造方法

【課題】シート部への薬剤の拡散を効果的に防止できるので薬剤をニードル部(針状凸部)だけに選択的に含有させることができる。
【解決手段】シート部12の表面に、薬剤が含有されたニードル部14が形成されたポリマー製の経皮吸収シート10において、ニードル部14に含有される薬剤の濃度が、ニードル部14の先端から根元に向かって段階的に減少して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を含む針状凸部がシート部上に形成された経皮吸収シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロニードルやマイクロピラーなどの高アスペクト比の針状凸部が表面に形成された高アスペクト比構造シートは、機能性膜として様々な分野で応用されている。例えば、高アスペクト比構造シートに機能性物質を添加すれば、高アスペクト比構造の特性を生かした様々な機能が発現する。
【0003】
特に、医療技術分野では、機能性物質としての薬剤が添加された高アスペクト比構造シートを用いることで、患者の皮膚表面又は皮膚角質層を介して、薬剤を患者に効率的に投与する経皮吸収システムが注目を集めている。この経皮吸収システム用の高アスペクト比構造シートは、一般に、経皮吸収シートと称される。
【0004】
経皮吸収シートの製造方法としては、例えば特許文献1や特許文献2がある。特許文献1は、薬剤を含有する溶融状態の糖類材料を用いて射出成形により作製したマイクロニードルを基材上に固定することで、経皮吸収シートを製造する方法を開示している。また、特許文献2は、薬剤を含有する液状材料を基材上で延伸してニードル形状に加工することで、経皮吸収シートを製造する方法を開示している。
【0005】
特許文献1及び2の方法では、マイクロニードルが基材の別体(別材料)として形成されるので、液状材料だけに薬剤を添加することで、マイクロニードルへの選択的な薬剤添加が可能になる。これにより、薬剤投与に直接関与するマイクロニードルだけに薬剤が添加されることになり、薬剤の添加量を最小限にすることができるとされている。
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、薬剤を含有する糖類材料をいったん加熱溶融する必要があるので、材料に添加可能な薬剤は、加熱により効能が劣化しないものに限られる。さらに、特許文献1には、マイクロニードルと基材とを接着する方法が記載されておらず、マイクロニードルが基材上にしっかりと固定された経皮吸収シートを作製することは難しい。
【0007】
また、特許文献2の方法では、液状材料を延伸する際に、マイクロニードル先端部が曲がってしまう場合があり、射出成形等の他の方法と比べて、マイクロニードルを高精度に成形することが難しい。
【0008】
ところで、薬剤の効能劣化を防止するためには、特許文献1のように、樹脂材料に高熱が付与される射出成形等よりも低温成形が可能なキャスト成形が適している。特に、先端まで欠陥のない高いスペクト比構造を形成するには、構造を反転させたモールドにキャスト材料を付与して針状凹部内に充填し、これを乾燥してから剥離するキャストインプリント方式が適している。これらの方式は例えば特許文献3及び4に記載されている。
【0009】
図11は従来のキャスト成形法により経皮吸収シートが製造される様子を示す図である。この方法では、針状凹部312を有するモールド310に、薬剤を含むポリマー溶液320を充填した状態で(図11(a)参照)、ポリマー溶液320を乾燥固化して(図11(b)参照)、モールド310から剥離することで、ニードル部324がシート部326上に配列した経皮吸収シート330が製造される(図11(c)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【特許文献2】特開2006−346008号公報
【特許文献3】特開2008−6178号公報
【特許文献4】特開2009−82207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記したキャスト成形による経皮吸収シートの製造方法では、患者体内に挿入され、薬剤投与に直接関与するニードル部324だけでなく、薬剤投与にあまり寄与しないシート部326にも高価な薬剤が添加されてしまうことになり、経皮吸収シート330の製造コストがかさんでしまう。この対策として、ニードル部324とシート部326との二層構造にしてニードル部324のみに薬剤を含有させることも考えられる。
【0012】
しかし、経皮吸収シートの製造過程、特に乾燥工程において、ニードル部324に含有された薬剤がシート部326に拡散してしまう。また、ニードル部324が乾燥工程において収縮し、収縮した隙間に薬剤を含有していないシート部326の材料が入り込む現象も発生する。したがって、ニードル部324に含有させる薬剤量が実質的に少なくなってしまうという弊害がある。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、シート部への薬剤の拡散を効果的に防止して薬剤をニードル部(針状凸部)だけに選択的に含有させると共に、ニードル部に含有させる薬剤含有量を増加させることができることにより、機能性の向上を図ることができる経皮吸収シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記に示された課題は、下記の各発明によって解決することができる。即ち、本発明の経皮吸収シートは、シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートの製造方法において、前記針状凸部に含有される薬剤の濃度が、前記針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少して成ることを特徴とする。
【0015】
本発明の経皮吸収シートのように、薬剤の濃度が針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少させることで、針状凸部に均等に薬剤が含有される場合に比べて、シート部への薬剤の拡散を効果的に防止できる。したがって、針状凸部に含有させる薬剤量を増加しても、シート部へ拡散してしまう危険が少なくなる。
【0016】
また、本発明の経皮吸収シートは、薬剤の濃度が針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少していることによる副次的な効果として、薬剤が皮膚内に浸透する継続時間を長くすることができる。
【0017】
本発明においては、薬剤の濃度が、針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少し、針状凸部の根元位置(針状凸部とシート部との境界位置)における薬剤濃度がゼロであることが特に好ましい。
【0018】
また、本発明においては、前記針状凸部の硬さが、前記針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少していることが好ましい。これにより、経皮吸収シートの針状凸部を皮膚内に刺し易くなると共に、刺した後でシート部を除去する場合にも、針状凸部の根元から折れ易くなり、シート除去時に針状凸部が皮膚から抜け落ちることがない。
【0019】
更に、本発明の経皮吸収シートは、シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートの製造方法において、前記薬剤を含有すると共に前記針状凸部の先端部を形成する第1親水性ポリマー層と、前記薬剤を含有しないと共に前記針状凸部の根元部を形成する第2の親水性ポリマー層との間に、疎水性ポリマー層が設けられていることを特徴とする。
【0020】
本発明の経皮吸収シートによれば、薬剤を含有すると共に針状凸部の先端部を形成する第1親水性ポリマー層と、薬剤を含有しないと共に針状凸部の根元部を形成する第2の親水性ポリマー層との間に、疎水性ポリマー層が設けられている。これにより、針状凸部の先端側の第1ポリマー層の薬剤が根元側の第2ポリマー層に拡散するのを疎水性ポリマー層が遮るので、針状凸部に含有される薬剤がシート部に拡散するのを効果的に防止できる。したがって、第1ポリマー層に含有させる薬剤の含有量を多くしても、シート部に拡散することはない。
【0021】
また、前記疎水性ポリマー層を境として、前記第1親水性ポリマー層が前記第2の親水性ポリマー層よりも硬いことが好ましい。これにより、経皮吸収シートの針状凸部を皮膚内に刺し易くなると共に、刺した後でシート部を除去する場合にも、針状凸部の根元から折れ易くなり、シート除去時に針状凸部が皮膚から抜け落ちることがない。
【0022】
また、本発明の経皮吸収シートの製造方法は、シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートの製造方法において、前記薬剤を含有すると共にゲル化性を有する第1ポリマー溶液を、針状凹部が形成されたモールドに充填した後にゲル化もしくは凝固して、前記針状凹部内に含水ゲルもしくは固体状態の第1ポリマー層を形成する第1ポリマー層形成工程と、前記モールドに形成された前記第1ポリマー層上に、前記薬剤を含有しない第2ポリマー溶液を充填して液体状態の第2ポリマー層を形成する第2ポリマー層形成工程と、前記モールドに形成された第1及び第2のポリマー層を乾燥固化させると共に、乾燥条件を制御して、前記含水ゲルもしくは固体状態の第1ポリマー層に含有される薬剤が前記液体状態の第2ポリマー層に移行する移行量を調整する乾燥工程と、前記乾燥後に、前記第1及び第2のポリマー層で構成され、前記針状凹部の反転形状である針状凸部が表面に形成されたポリマーシートを前記モールドから剥離する剥離工程と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
ここで、ゲル化とは、ポリマー溶液中の水分を保持したまま含水ゲル状態になることを言い、乾燥固化とは、ポリマー溶液中の水分を揮発させることで固化することを言う。なお、ゲル化方法としては、ゲル化性ポリマーを冷却してゲル化する方法、あるいは徐々にゲル化が進む徐進性のゲル化促進剤を添加して、ポリマー溶液が針状凹部に充填された後でゲル化するようにしてもよい。
【0024】
また、第1ポリマーが十分にゲル化しない物質の場合、ポリマーを融点以下に冷却して(凝)固体化することも可能である。
【0025】
本発明において溶液とは、溶媒として100%水である場合以外に、水溶性で揮発性の高い(乾燥工程で除去可能なこと)有機溶媒を含んでいてもよい。
【0026】
更に、本発明の製造方法によれば、薬剤を含む含水ゲル状態の第1ポリマー層をモールドの針状凹部に形成し、その上に、薬剤を含まない第2ポリマー溶液を充填して液体状態の第2ポリマー層を形成する。そして、第1及び第2ポリマー層を乾燥することで、含水ゲル状態の第1ポリマー層に含有される薬剤が液体状態の第2ポリマー層にゆっくりと拡散する。これにより、乾燥が終了して乾燥固化するまでに薬剤が針状凸部の根元まで拡散が到達するように乾燥条件を制御すれば、針状凸部の先端から根元に向かって連続的に薬剤濃度が減少した針状凸部を形成することができる。
【0027】
第1ポリマーから第2ポリマー層への薬剤の移行は、乾燥中に生じることが多いため、本発明のように、第1ポリマー層を含水ゲル状態にすることで、針状凸部の先端から根元に向かって連続的に薬剤濃度が減少した針状凸部を形成することができる。また、針状凸部中の薬剤濃度が連続的に減少して形成されることで、針状凸部の先端層のみに薬剤を含有させる場合に比べて、薬剤が皮膚内に浸透する継続時間を長くすることができるという新たな機能も付与できる。
【0028】
これにより、薬剤を針状凸部だけに選択的に含有させることができると共に、針状凸部に含有させる薬剤含有量を増加させることができるので、機能性の向上を図ることができる。ゲル化性ポリマーとしては、ゼラチンを好適に使用することができ、凝固性ポリマーとしてはプルランを好適に使用することができる。
【0029】
また、本発明の経皮吸収シートの製造方法は、前記第1ポリマー層形成工程において、完成状態での前記経皮吸収シートにおける前記針状凸部の所望の薬剤濃度よりも、高い薬剤濃度を有する固形分を含んだ前記第1ポリマー溶液を使用することを特徴としている。これにより、完成状態において所望の薬剤濃度を有する針状凸部を形成することができる。
【0030】
本発明の製造方法において、前記第1ポリマー溶液を、針状凹部が形成されたモールドに充填してゲル化もしくは凝固して、前記針状凹部外の部分を除去した後乾燥する工程を、複数回に分けて行った後、第2ポリマー層を形成することが好ましい。これにより、針状凹部内の薬剤濃度を上げることができる。
【0031】
また、本発明の経皮吸収シートの製造方法は、シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートの製造方法において、前記薬剤を含有する第1ポリマー溶液を、針状凹部が形成されたモールドに充填して、前記針状凹部内に前記薬剤を含む親水性の第1ポリマー層を形成する第1ポリマー層形成工程と、前記モールドに形成された第1ポリマー層上に、疎水性のポリマー溶液を充填して疎水性ポリマー層を形成する疎水性ポリマー層形成工程と、前記疎水性ポリマー層を乾燥固化する第1乾燥工程と、前記モールドに形成された第1乾燥後の疎水性ポリマー層上に、薬剤を含有しない第2ポリマー溶液を充填して、親水性の第2ポリマー層を形成する第2ポリマー層形成工程と、前記モールドに形成された第1のポリマー層と第2のポリマー層を乾燥固化させる第2の乾燥工程と、前記第2の乾燥後に、前記第1、疎水性、及び第2のポリマー層で構成され、前記針状凹部の反転形状である針状凸部が表面に形成されたポリマーシートを前記モールドから剥離する剥離工程と、を備えたことを特徴とする。
【0032】
本発明の製造方法によれば、薬剤を含有する親水性の第1ポリマー層と、薬剤を含有しない第2ポリマー層との間に疎水性ポリマー層が介在されるので、第1ポリマー層と第2ポリマー層との間での物質移動が疎水性ポリマー層で遮られる。これにより、第1ポリマー層の薬剤が第2ポリマー層に拡散することはないので、薬剤がシート部に拡散することを効果的に防止できる。これにより、薬剤を針状凸部だけに選択的に含有させることができると共に、針状凸部に含有させる薬剤含有量を増加させることができるので、機能性の向上を図ることができる。
【0033】
本発明の製造方法では、前記第1ポリマー層のうち、前記モールドの前記針状凹部からはみ出した部分を除去する除去工程を含むことが好ましい。
【0034】
これにより、第1ポリマー層のうち針状凹部からはみ出した部分、即ち経皮吸収シートのシート部分が除去されるので、シート部分に薬剤が含有されないようにできる。この場合、第1ポリマー層はゲル状もしくは(凝)固体になっているので、第1ポリマー層の除去量を正確且つ容易に除去することができる。また、除去された第1ポリマー層中の薬剤を抽出することにより、薬剤を再利用することも可能である。
【0035】
本発明の製造方法では、前記第1ポリマー溶液の固形成分材料は、前記第2溶液の固形成分材料よりも硬い材料であることが好ましい。
【0036】
これにより、経皮吸収シートの針状凸部を皮膚内に刺し易くなると共に、刺した後でシート部を除去する場合にも、針状凸部の根元から折れ易くなり、シート除去時に針状凸部が皮膚から抜け落ちることがない。
【0037】
本発明の製造方法では、前記第1ポリマー溶液のポリマー濃度は、前記第2ポリマー溶液のポリマー濃度よりも高いことが好ましい。これにより、針状凸部の高さ方向に占める第1ポリマー層の比率を第2ポリマー層の比率よりも大きくすることができるので、針状凸部に含有させる薬剤濃度を高くすることができる。
【0038】
本発明の製造方法では、前記モールドの材料は、シリコン樹脂を含むことが好ましい。ここでシリコン樹脂を含むとはシリコン樹脂100%の場合も含む。
【0039】
モールドとして剥離性に優れたシリコン樹脂を用いることで、ポリマーシートをモールドから容易に剥離することが可能になる。また、シリコン樹脂は通気性があるので、乾燥工程においてモールドに形成された第1ポリマー層や第2ポリマー層の水分が抜け易くなる。特に、第1ポリマー層と第2ポリマー層との間に疎水性ポリマー層が設けられる経皮吸収シートの場合、モールドに通気性がないと疎水性ポリマー層の下側に位置する第2ポリマー層は水分が抜け難くなる。しかし、本発明ではシリコン樹脂を含むモールドを用いるので、疎水性ポリマー層の下側に位置する第2ポリマー層は水分を確実に抜くことができる。
【0040】
本発明の製造方法では、前記第2ポリマー層形成工程と前記乾燥工程との間に、ポリマー層に含有される気泡を除く脱泡工程を設けたことが好ましい。
【0041】
脱泡工程を設けてポリマー層に含有される気泡を除いてから乾燥するようにしたので、乾燥後の針状凸部の内部に気泡が残留することがない。これにより、針状凸部の強度を強くすることができる。
【0042】
本発明の製造方法では、前記第1ポリマー溶液を、針状凹部が形成されたモールドに充填してゲル化もしくは凝固させ、乾燥させる工程を、複数回に分けて行った後、第2ポリマー層を形成することが好ましい。
【0043】
第1ポリマー層を形成する際、モールドの凹部内に充填した第1ポリマー溶液中の水
分が乾燥によって消失するため、その上に更に薬剤入りのポリマー溶液を充填して乾燥することを繰り返すことで、凹部内の薬剤濃度を上げることができる。
【0044】
本発明の製造方法では、前記針状凹部の直径が50μm以上300μm以下であり、前記針状凹部の深さが200μm以上2000μm以下であることが好ましい。
【0045】
このような微細な針状凹部の反転型である微細な針状凸部を形成する場合に、本発明は特に有効である。
【0046】
また、本発明の経皮吸収シートは、請求項5〜15の何れか1項に記載の経皮吸収シートの製造方法により製造される。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、シート部への薬剤の拡散を効果的に防止できるので薬剤を針状凸部だけに選択的に含有させることができると共に、針状凸部に含有させる薬剤含有量を増加させることができるので、機能性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態に係る経皮吸収シートを示す断面図
【図2】第1実施の形態に係る経皮吸収シートの製造方法を示す図
【図3】本発明の第2の実施形態に係る経皮吸収シートを示す断面図
【図4】第2の実施の形態に係る経皮吸収シートの製造方法を示す図
【図5】ゲル性ポリマーの乾燥収縮を説明する説明図
【図6】加圧充填装置の一例を示す説明図
【図7】複数のモールドユニットを含む大面積モールドを示す図である。
【図8】第1ポリマー溶液の付与量を多くした場合の図
【図9】第1ポリマー溶液の濡れ広がりを制限する枠を用いて第1ポリマー層を形成する様子を示す図
【図10】テーパー形状の開口部を有する針状凹部が形成されたモールドを示す断面図
【図11】従来のキャスト成形法により経皮吸収シートが製造される様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、添付図面に従って本発明の経皮吸収シート及びその製造方法の好ましいお実施形態について説明する。以下において、「 〜 」を用いて表された数値範囲は、その範囲の上限、下限共に含むものである。
【0050】
[第1実施の形態]
図1は、本発明における第1実施の形態の経皮吸収シートの構造例を示す断面図である。同図に示すように、経皮吸収シート10は、ニードル部14の先端部分を形成する第1ポリマー層16と、ニードル部14の根元部分とシート部分とを形成する第2ポリマー層18とが積層された構造を有すると共に、ニードル部14(針状凸部)に含有される薬剤の濃度が、ニードル部14の先端から根元に向かって連続的に減少して構成される。ここで、連続的に減少とは、必ずしも濃度が直線的に減少することに限定されるものではなく、様々な曲線で近似されるような濃度減少を含むものである。
【0051】
図1では、第1ポリマー層16と第2ポリマー層18の境界を符号Bで示すと共に、ニードル部14における薬剤の濃度変化をドットの濃淡で表現しており、ドットの濃い部分の薬剤濃度が高いことを示す。
【0052】
このように、薬剤の濃度が、ニードル部14の先端から根元に向かって連続的に減少している経皮吸収シート10は、その製造過程及び製造後においてシート部12への薬剤の拡散を効果的に防止できる。
【0053】
また、ニードル部14の先端から根元に向かって硬さが減少するように構成することが好ましい。これにより、経皮吸収シートの針状凸部を皮膚内に刺し易くなると共に、刺した後でシート部を除去する場合にも、針状凸部の根元から折れ易くなり、シート除去時に針状凸部が皮膚から抜け落ちることがない。このように先端から根元に向かって硬さが減少するように構成する方法としては、例えば先端部の第1ポリマー層のポリマー材料に硬いもの(一般的に分子量の小さいもの)を使用し、根元部やシートの第2ポリマー層のポリマー材料に柔らかいもの(一般的に分子量の大きいもの)を使用する方法がある。
【0054】
したがって、このような構成の経皮吸収シート10が患者皮膚に貼り付けられると、患者体内に挿入されたニードル部14が溶解して、薬剤が患者体内に放出される。このときに、ニードル部14に薬剤が選択的に含有されているので、薬剤を患者の治療に無駄なく有効利用することができる。また、ニードル部14に含有される薬剤の濃度が、先端から根元に向かって連続的に減少するので、ニードル部14の先端部分の第1ポリマー層16のみに薬剤を含有させる場合に比べて、薬剤が皮膚内に浸透する継続時間を長くすることができる。
【0055】
シート部12の膜厚tは、患者皮膚の形状に合わせて柔軟に変形可能なフレキシブルな経皮吸収シート10を形成する観点から、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0056】
ニードル部14の形状は、例えば、円柱や角柱などの柱形状や、円錐または角錐などの錐形状や、柱形状と錐形状とを組み合わせた形状(「錐柱形状」と呼ぶ。)や、これらに準ずる形状であってもよい。図1には、錐形状の先端部と、柱形状の根元部とを有する錐柱形状のニードル部14を例示している。
【0057】
ニードル部14は、患者に与える痛みを軽減する観点から、先端が鋭く尖った高アスペクト比の構造体であることが好ましい。例えば、ニードル部14の直径Dは50〜300μmであることが好ましく、ニードル部14の先端の曲率半径は10μm以下であることが好ましい。また、ニードル部14の高さHは200〜2000μmであることが好ましい。更には、ニードル部14のアスペクト比は、1以上であることが好ましく、2以上であることがさらに好ましい。ここで、ニードル部14の高さはシート部12の表面からの突起長さHを意味し、ニードル部14のアスペクト比Aは、ニードル部14の高さ(突起長さ)Hと直径Dを用いて、A=H/Dにより定義される。
【0058】
次に、上述の構成を有する第1実施の形態の経皮吸収シート10の製造方法について説明する。
【0059】
図2は、第1実施の形態の経皮吸収シートの製造方法の一例を示す図である。なお、図2において、薬剤をドットで示すと共に、ドット濃度の濃い部分が薬剤濃度の高いことを示す。したがって、ドットのない部分は薬剤を含有していないことを意味する。
【0060】
まず、図2(a)に示すように、針状凹部22を有するモールド20上に、薬剤を含有すると共にゲル化性を有する第1ポリマー溶液30を付与する。第1ポリマー溶液30の固形成分の材料としては、ポリマー自体がゲル性能を有するゲル性ポリマー、あるいはゲル化促進剤を含有するポリマーを使用することができる。ゲル化促進剤としては、第1ポリマー溶液30が針状凹部22に充填された後でゲル化が進む徐進性のものが好ましい。ゲル化促進剤を使用する他にも、物質の融点以下に冷却し、凝固させることも可能である。
【0061】
また、第1ポリマー溶液30のポリマー材料は、生体内で分解されやすい材料(生分解性材料)であるとともに、生体適合性を有する材料(生体適合材料)であることが好ましい。このような条件を満たすポリマー材料としては、例えば、グルコース、マルトース、プルランなどの糖類、ゼラチンなどのタンパク質、ポリ乳酸、乳酸、グリコール酸共重合体、アガロース、ペクチン、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、デンプン、セルロース、ヒアルロン酸などを好適に使用することができる。これらの中でもゼラチン系の素材は、多くの基材(経皮吸収シートの裏面に貼付される医療用テープの材料)と密着性をもち、ゲル化する材料としても強固なゲル強度を持つため、後述するモールド(型)からの剥離工程において、基材と密着させることができ、型から基材を用いて経皮吸収シートを剥離することができるので、好適に使用可能である。
【0062】
また、第1ポリマー溶液30のポリマー材料は、第2ポリマー溶液32のポリマー材料よりも硬いものを使用することが好ましい。このようなポリマー材料としては、例えば、ゼラチンの場合は、低分子のゼラチンが硬く、高分子のゼラチンが柔らかい。よって、低分子のゼラチンを第1ポリマー溶液の材料に使用し、高分子のゼラチンを第2ポリマー溶液の材料に使用することができる。これにより、ニードル部の先端の方が根元よりも硬くなるので、経皮吸収シートの針状凸部を皮膚内に刺し易くなると共に、刺した後でシート部を除去する場合にも、針状凸部の根元から折れ易くなり、シート除去時に針状凸部が皮膚から抜け落ちることがない。
【0063】
また、第1ポリマー溶液30中の固形成分の濃度は、成形性を損なわずに短時間で水分を揮発させる観点から、10〜50重量%であることが好ましく、10〜30重量%であることがより好ましい。なお、第1ポリマー溶液30の溶媒は、100%水であることに限定されず、水と相溶性があり、後記する乾燥工程で揮発する揮発性の有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、エタノール等のアルコールを混在している場合、あるいは前記有機溶媒100%のものも含む。以下、第2ポリマー溶液32についても同様である。
【0064】
ポリマー材料の溶解液(第1ポリマー溶液、第2ポリマー溶液のことを示す。また、ポリマー溶解液とも称する。)の粘度は、5Pa・s以下であることが好ましく、2Pa・sであることが、より好ましい。ポリマー材料の溶解液の粘度をこの範囲にすることにより、型の凹部に容易に溶解液を注入することができる。
【0065】
ポリマー溶解液の調製方法としては、水溶性の高分子(ゼラチンなど)を用いる場合は、水溶性粉体を水に溶解し、溶解後に薬品を添加することで製造することができる。水に溶解しにくい場合、加温して溶解しても良い。温度は、ポリマー材料の種類により適宜選択可能であるが、約50℃の温度で加温することが好ましい。また、熱で溶融する高分子(マルトースなど)を用いる場合は、原料と薬品を熱して溶融することで、製造することができる。加熱温度としては、原料が溶融する温度で行うことが好ましく、具体的には、約150℃である。
【0066】
第1ポリマー溶解液層には、薬剤を含有させるが、この時のポリマーに対する薬剤含有率は、最終的な経皮吸収シートのニードル部における薬剤含有率よりも高くすることが好ましい。ニードル部の薬剤含有率を上げるには、第1ポリマー溶液30の薬剤濃度はなるべく高い方が望ましいが、高すぎると、薬剤の物性が顕著に表れるためにニードルが脆くなって成形不良が発生したり、第2ポリマー層形成後の充填、乾燥中に第2ポリマー層への薬剤拡散量が増大したりして、非効率になる。
【0067】
例えば、ニードル部に薬剤としてのエバンスブルー色素を10%含有させたゼラチン製経皮吸収シートを作製する場合、第1ポリマー溶液30の薬剤(エバンスブルー色素)含有率を固形分の50%にすることが望ましい。これにより、第1ポリマー溶解液の乾燥収縮によって減少したニードル部の体積が薬剤レスの第2ポリマーから補填されて、二層構造製法特有のニードル内薬剤の減少を補うことができる。第1ポリマー溶液30の適切な薬剤含有率は、ニードル材料、薬剤、固形分濃度によって異なるため、それぞれの組み合わせによって調整することが好ましい。
【0068】
また、第1ポリマー溶液30は、薬剤及び固形成分以外にも種々の添加剤を含んでいてもよい。例えば、患者体内に薬剤をより効率的に吸収させる観点から、薬剤と併せてアジュバンドを第1ポリマー溶液30に添加してもよい。
【0069】
また、本実施の形態で使用するモールド20は、図1で説明したニードル部14の針状凸部とは反転形状の構造を有する。即ち、図1のように、モールド20の針状凹部22は、平坦面26に比べてくぼんだ領域であり、針状凹部22の形状は、所望の形状のニードル部が得られるように決定されることが好ましい。例えば、先端が鋭く尖った高アスペクト比のニードル部を形成する観点から、針状凹部22の幅(直径)を50〜300μmにして、最深部24の曲率半径を10μm以下にすることが好ましい。また、針状凹部22の深さは、200〜2000μmであることが好ましい。
【0070】
次に、モールド20に付与された第1ポリマー溶液30を針状凹部22内に充填した後、第1ポリマー溶液30を冷却してゲル化する。ここで、ゲル化とは、第1ポリマー溶液30中の水分を保持したまま含水ゲル状態になることを言う。ゲル化方法としては、ゲル化性ポリマーを冷却する方法、あるいはゲル化促進剤を添加する方法のいずれでもよい。これにより、図2(b)に示すように、含水ゲル状態の第1ポリマー層16が形成される。この場合、第1ポリマー層16が針状凹部22からはみ出していたり、次の第2ポリマー溶液32を充填させるための空間を針状凹部22に形成したい場合には、シリコーン製等の頭部が微細なスパチュラを、針状凹部22の開口端と第1ポリマー層との間に差し込んで第1ポリマー層16の過剰分を除去するとよい。この場合、第1ポリマー層16がゲル化していることにより、液体状態に比べて除去作業が容易であると共に、例えば針状凹部22の内部まで第1ポリマー層16を除去したいときにも正確に除去できる。
【0071】
第1ポリマー溶液30を針状凹部22に充填する方法として、第1ポリマー溶液30をモールド20上に付与した後に第1ポリマー溶液30を加圧充填する方法や、第1ポリマー溶液30を減圧下でモールド20上に付与した後に大気圧に戻す方法などが挙げられる。第1ポリマー溶液30は、減圧下で沸騰して、ポリマーシート34(図2(d)参照)の内部に気泡が混入してしまうこともあるため、加圧充填による前者の方法が好ましい。第1ポリマー溶液30を針状凹部22に加圧充填する方法については、後で詳細に説明する。
【0072】
次に、図2(c)に示すように、第1ポリマー層16が形成されたモールド20上に、薬剤を含まない第2ポリマー溶液32を付与して、第2ポリマー層18を形成する。第2ポリマー溶液32の固形成分の材料は、基本的には第1ポリマー層16を形成する材料と同様であるが、第1ポリマー層16と第2ポリマー層18との間の界面強度が高いポリマーシート34が得られるように、第1ポリマー溶液30の固形成分の材料との相性を考慮して適宜選択されることが好ましい。また、第1ポリマー溶液30の固形成分の材料は、第2ポリマー溶液32の固形成分の材料よりも、強度的に強いことが好ましい。ニードル部14が皮膚に挿入される際に、第1ポリマー層16は折れにくいことが必要であり、第2ポリマー層18は挿入後にシート部12を除去する場合に、折れ易いことが好ましい。
【0073】
次に、モールド20に形成された含水ゲル状態もしくは(凝)固体の第1ポリマー層16と液体状態の第2ポリマー層18とを乾燥固化させる。ここで、乾燥固化とは、ゲル化とは異なり、ポリマー層中の水分を揮発させて硬化することを言い、例えば自然乾燥方法に加えて、加熱、送風、減圧などにより、水分を強制的に揮発させる方法が挙げられる。なお、第1ポリマー層16と第2ポリマー層18との間の界面強度を改善する目的で、乾燥固化に先立って、第1ポリマー層16が形成されたモールド20に第2ポリマー溶液32を加圧充填してもよい。
【0074】
この乾燥固化の過程において、大気側に面している第2ポリマー層18の水分が速く揮発するので、図2(d)に示すように、含水ゲル状態もしくは(凝)固体の第1ポリマー層16中の水分が第2ポリマー層18側に移行する。この移行に伴って、第1ポリマー層16に含有される薬剤が第2ポリマー層18にゆっくりと拡散する。
【0075】
したがって、第1及び第2ポリマー層16、18が乾燥固化するまでに、薬剤の拡散がニードル部14の根元近くまで到達するように乾燥速度を制御すれば、ニードル部14の先端から根元に向かって連続的に薬剤濃度が減少したポリマーシート34を形成することができる。薬剤の拡散速度と乾燥速度との関係は、予備実験等により予め求めることができる。
【0076】
次に、形成されたポリマーシート34をモールド20から剥離することで、図2(e)に示す経皮吸収シート10が得られる。なお、本実施の形態では、モールド20から剥離する前のものをポリマーシート34と呼び、剥離後のものを経皮吸収シート10と呼んでいるが、実質的には同じものである。
【0077】
図2(f)は、上記の如く製造された経皮吸収シート10のニードル部14における薬剤の濃度分布を示したものであり、ニードル部14の先端から根元に向かって連続的に薬剤濃度が減少している。
【0078】
ポリマーシート34の剥離の態様として、例えば、片面に接着層を有するシートをポリマーシート34の裏面に付着させて当該シートごと剥離する方法や、ポリマーシート34の裏面に吸盤を吸着させて剥離する方法などが挙げられる。
【0079】
上記説明した経皮吸収シートの製造方法において、モールド20の材質は特に限定されないが、ポリマーシートの剥離時の損傷を防止する観点から、シリコーン樹脂等の剥離性が良好な樹脂を用いることができる。また、第1ポリマー溶液30及び第2ポリマー溶液32のモールド20への付与方法として、バー塗布、スピン塗布、スプレー塗布などの塗布方式や、ディスペンサを用いて滴下する方法が挙げられる。
【0080】
第1ポリマー溶液30の付与量は、薬剤がニードル部14の所望領域に添加された経皮吸収シートが得られるように、第1ポリマー溶液30の固形成分の濃度を考慮して、適宜調節される。ニードル部14のみに薬剤が添加された経皮吸収シート10を製造する観点から、第1ポリマー溶液30の付与量を、針状凹部22の全空隙体積(針状凹部22の各空隙体積の合計値)以下に設定することが好ましい。
【0081】
また、第2ポリマー溶液32の付与量は、所望の厚さを有する経皮吸収シートが得られるように、第2ポリマー溶液32の固形成分の濃度を考慮して、適宜調節されることが好ましい。
【0082】
本明細書において、「薬剤」とは、人体に対して何らかの有利な作用を及ぼす効能がある物質を総称するものであり、例えば、インシュリン、ニトログリセリン、ワクチン、抗生物質、喘息薬、鎮痛剤・医療用麻薬、局所麻酔剤、抗アナフェラキシー薬、皮膚疾患用薬、睡眠導入薬、ビタミン剤、禁煙補助剤、美容薬等を指す。
【0083】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明における第2の実施の形態の経皮吸収シート100の構造例を示す断面図である。なお、第2の実施の形態の経皮吸収シート100も寸法等は図1と同様であるので説明は省略する。
【0084】
図3に示すように、経皮吸収シート100は、薬剤を含有すると共にニードル部114の先端部分を形成する親水性の第1ポリマー層116と、薬剤を含有しないと共にニードル部14の根元部分とシート部12部を形成する親水性の第2ポリマー層118との間に、疎水性ポリマー層117が設けられて構成される。これにより、薬剤を含有する親水性の第1ポリマー層116と、薬剤を含有しない親水性の第2ポリマー層118との間に疎水性ポリマー層117が介在されるので、第1ポリマー層116と第2ポリマー層118との間での物質移動が疎水性ポリマー層117で遮られる。したがって、第1ポリマー層116の薬剤が第2ポリマー層118に拡散することはないので、薬剤がシート部12に拡散することを効果的に防止できる。
【0085】
このような構成の経皮吸収シート100が患者皮膚に貼り付けられると、患者体内に挿入されたニードル部14が溶解して、薬剤が患者体内に放出される。このときに、ニードル部114に薬剤が選択的に含有され、シート部112に拡散されることはないので、薬剤を患者の治療に無駄なく有効利用することができる。
【0086】
図4は、第2の実施の形態の経皮吸収シート100の製造方法の一例を示す図である。
【0087】
まず、図4(a)に示すように、針状凹部122を有するモールド120上に、薬剤を含有する第1ポリマー溶液130を付与する。そして、付与した第1ポリマー溶液130を、針状凹部122内に充填する。これにより、図4(b)に示すように、針状凹部22内に、親水性の第1ポリマー層116を形成する。なお、符号126は図2の26に相当し、符号124は図2の24に相当する。
【0088】
第1ポリマー溶液130の固形分の材料は水に溶解する親水性のポリマー材料であればどのようなものでもよい。また、生体内で分解されやすい材料(生分解性材料)であるとともに、生体適合性を有する材料(生体適合材料)であることが好ましい。このような条件を満足するポリマー材料としては、例えば、ゼラチン、プルラン、アガロース、ペクチン、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、アルギン酸、でんぷん、セルロース、ヒアルロン酸などのゲル性ポリマーを好適に使用することができる。
【0089】
第1ポリマー溶液130を針状凹部122に充填する方法として、第1実施の形態と同様に、加圧充填法等を好適に使用できる。
【0090】
次に、図4(c)に示すように、第1ポリマー層116が形成されたモールド120上に、疎水性ポリマー溶液131を付与する。疎水性ポリマー溶液としては、例えばエチルセルロースをエタノールに溶解した溶液を使用することができる。
【0091】
疎水性ポリマーは特に限定するものではないが、第1ポリマー、第2ポリマーが不溶の溶媒で溶解可能なものであり、さらに生体適合性材料であることが好ましい。
【0092】
そして、モールド120に付与した疎水性ポリマー溶液131を、針状凹部122内に加圧充填法等により充填し、第1ポリマー層116の上に疎水性ポリマー層117を形成する。
【0093】
次に、モールド120内に形成された第1ポリマー層116及び疎水性ポリマー層117を乾燥固化乾燥する(第1乾燥工程)。乾燥固化する方法は、自然乾燥方法に加えて、加熱、送風、減圧などにより、水分を強制的に揮発させる方法が挙げられる。
【0094】
これにより、図4(d)に示すように、針状凹部22内に、親水性の第1ポリマー層116と乾燥固化された疎水性ポリマー層とを形成する。
【0095】
次に、図4(e)に示すように、親水性の第1ポリマー層116と乾燥固化された疎水性ポリマー層117とが形成されたモールド20上に、第2ポリマー溶液132を付与し加圧充填等により針状凹部122内に充填する。これにより、第1ポリマー層116及び疎水性ポリマー層117の上に第2ポリマー層118が形成される。第2ポリマー溶液132の固形分の材料の種類は基本的には第1ポリマー溶液130と同様である。
【0096】
次に、図4(f)に示すように、第1ポリマー層116及び乾燥固化された疎水性ポリマー層117の上に形成された第2ポリマー層118を、第1ポリマー層116と共に乾燥固化させる(第2乾燥工程)。乾燥固化する方法は上記したと同様である。なお、疎水性ポリマー層117と第2ポリマー層118との間の界面強度を改善する目的で、乾燥固化に先立って、第2ポリマー溶液132を加圧充填してもよい。
【0097】
次に、第1実施の形態で説明したと同様の方法で、形成されたポリマーシート134をモールド120から剥離することで、図4(g)に示す経皮吸収シート100が得られる。
【0098】
図4(h)は、上記の如く製造された経皮吸収シート100のニードル部114における積層構造を示したものであり、薬剤を含有した第1ポリマー溶液130としてゲル化性ポリマーを使用したものである。ゲル化性ポリマーは、乾燥固化時に収縮する特性があるので、ニードル部114を複数の積層構造に形成しても、薬剤を含有する第1ポリマー層116をニードル部114の外表面近傍に形成することができる。
【0099】
即ち、第1ポリマー溶液130の固形分の材料としてゲル化性ポリマーを用いる場合には、ゲル化性ポリマーの特性により、乾燥固化時に乾燥収縮する。その結果、図5に示すように、凹形状のポリマー層が、針状凹部122の内壁面122aに沿って形成される。この凹形状の第1ポリマー層116の上に、疎水性ポリマー層117や第2ポリマー層118を積層することで、図4(h)に示すような、主として外表面14aの近傍に薬剤が含有されたニードル部14を形成することができる。これにより、患者体内への薬剤投与時間を短縮することができる。
【0100】
図6はポリマー溶液を針状凹部22(122)に充填する加圧充填装置50を示す図である。
【0101】
図6に示す加圧充填装置50は、流入口58及び排出口60を備える耐圧容器52と、耐圧容器52の内部に設けられた台座54と、耐圧容器52に加圧流体を送り込むコンプレッサー56とを含む。この加圧充填装置50を以下の手順で動作させることで、ポリマー溶液を針状凹部22に充填することができる。ポリマー溶液を注型したモールド20が台座54に載置された状態で、コンプレッサー56により、流入口58を介して耐圧容器52に加圧流体を送り込む。加圧流体は、気体又は液体を用いることができる。加圧流体として使用可能な気体には、空気を挙げることができるが、ポリマー溶液への加圧流体の溶解を防止する観点から、ポリマー溶液に対する溶解率が低い気体を選択することが好ましい。ポリマー溶液の揮発による粘度上昇を防止する観点から、ポリマー溶液の溶媒と同種の液体を耐圧容器52の内部に予め溜めておき、耐圧容器52の内部が当該液体の蒸気で飽和した状態にすることが好ましい。上記の手順に従って、加圧充填装置50を動作させることにより、ポリマー溶液が針状凹部22に迅速に充填される。
【0102】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【0103】
例えば、第1ポリマー溶液30(130)と第2ポリマー溶液32(132)との固形成分の材料は、上記した種類の中から自由に選択することができるが、両者の材料が同じでも、異なっていてもよい。同一材料にすることで、例えば第1実施の形態では、第1ポリマー層16と第2ポリマー層18との界面剥離を防止することができる。
【0104】
また、上述の実施形態では、一個のモールド20(120)を用いて経皮吸収シートを製造する例について説明したが、複数のモールドユニットを含む大面積モールドを用いて経皮吸収シートを製造してもよい。
【0105】
図7は、複数のモールドユニットを含む大面積モールド200を示す図である。図7に示す大面積モールド200は、針状凹部222を有する複数のモールドユニット224が、接着剤層226を介して基板228上に固定された構成を有する。大面積モールド200を用いて経皮吸収シートを製造すれば、生産効率が大幅に向上する。
【0106】
また、上述の実施形態では、針状凹部22(122)の全空隙体積以下の量の第1ポリマー溶液30(130)をモールド20(120)に付与する例について説明したが、この付与条件の下では、第1ポリマー溶液30(130)の乾燥固化時に体積収縮が起こる結果、ニードル部14の体積のうち、第1ポリマー層16が占める割合が小さくなってしまう場合がある。そこで、ニードル部14(114)を構成する第1ポリマー層16(116)の割合を適切な範囲内に収めるために、針状凹部22(122)の全空隙体積より多い量の第1ポリマー溶液30(130)をモールド20(120)に付与して、後から過剰量を除去するようにしてもよい。
【0107】
図8は、例えば第1実施の形態において、第1ポリマー溶液30の付与量が針状凹部22の全空隙体積より多い場合に形成される第1ポリマー層16の様子を示す図である。針状凹部22の全空隙体積より多い量の第1ポリマー溶液30をモールド20に付与することで、図8に示すように、針状凹部22の大半に含水ゲル状態の第1ポリマー層16を形成することができる。
【0108】
しかしながら、第1ポリマー溶液30のモールド20への付与量が一定値を超えると、図8に示すように、薬剤を含む第1ポリマー層16の一部(第1ポリマー層16a)が、モールド20の針状凹部22からはみ出して形成される。針状凹部22からはみ出して形成された第1ポリマー層の過剰分16aは、経皮吸収シートの品質に何ら影響するものではないが、ニードル部14に薬剤をより選択的に添加する観点から、第2ポリマー溶液32を付与する前に除去されることが好ましい。この場合、第1ポリマー層16は含水ゲル状態をしているので、過剰分16aをスパチュラ等で除去する際に、精密に除去することができる。なお、除去された第1ポリマー層16aに含まれる薬剤を抽出することにより、薬剤を再利用することも可能である。
【0109】
また、図8に示す針状凹部22からはみ出して形成される第1ポリマー層16aを少なくするために、モールド20上での第1ポリマー溶液30の濡れ広がりを制限する枠を使用してもよい。
【0110】
図9は、第1ポリマー溶液30の濡れ広がりを制限する制限枠40を用いて第1ポリマー層16を形成する様子を示す図である。図9(a)に示すように、針状凹部22が形成された領域を囲む制限枠40がモールド20上に配置された状態で、第1ポリマー溶液30が滴下される。この後、第1ポリマー溶液30を針状凹部22に充填してゲル化する際に、第1ポリマー溶液30のモールド20上での濡れ広がりが制限枠40により制限されるので、図9(b)に示すように、針状凹部22の内部だけに第1ポリマー層16を形成可能である。
【0111】
あるいは、図8に示す針状凹部22からはみ出して形成される第1ポリマー層16aを少なくするために、図9に示す制限枠40を使用する方法に代えて又はこれと組み合わせて、針状凹部22の開口部をテーパー形状にしてもよい。
【0112】
図10は、テーパー形状の開口部を有する針状凹部が形成されたモールドを示す断面図である。同図に示すように、モールド20の針状凹部22の開口部22bをテーパー形状にすることで、第1ポリマー溶液30が針状凹部22の内部に滑り落ちて溜まることから、針状凹部22の内部だけに第1ポリマー層16を形成可能である。また、図10に示すモールド20を用いれば、根元部分の断面積が大きいニードル部14が形成されるので、ニードル部14の根元部分の強度を改善することができる。
【0113】
[評価]
次に、第1実施形態の経皮吸収シートにおいて、固形分量全体に占める薬剤量を変化させることによる、成形性、ニードル部薬剤含有量の評価を行った。評価は、固形分量全体に占める薬剤量を変化させた実施例1〜3、比較例1〜3のサンプルを作製することにより行った。
【0114】
<モールドの作製>
まず、モールドの作製を行った。直径100μmの針金状金属の先端250μmの部分を、先端曲率半径5μmの円錐形状に切削加工した。そして、40mm×40mmの平滑な銅板の中央部に穴を開けて、当該穴から、先端加工を施した針金状金属の先端が500μm突出するように、ピッチ1000μmにて5本×5本を配列させて固定することにより、原版を作製した。この原版を用いて、シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、信越シリコーン型取り用RTVゴム)の転写品を作製し、厚さが5mmであって、サイズが40mm×40mmのモールドを得た。モールドの中央部には、5個×5個の円錐柱状の針状凹部が形成された。
【0115】
<第1ポリマー溶液及び第2ポリマー溶液の調製>
ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製、新田ゼラチン732)を40℃の温水に攪拌溶解し、ゼラチン濃度が20質量%の溶液を調製し、これを40℃で保温した。このポリマー溶液の粘度は300mPa・sであった。
【0116】
そして、このポリマー溶液を2分割し、一方のポリマー溶液に薬剤としてエバンスブルー色素を添加して、ポリマー溶液中の全固形分濃度が20質量%、全固形分中のエバンスブルー色素濃度XがX質量%になるように調製し、これを第1ポリマー溶液とした。また、他方のなにも添加しないポリマー溶液を第2ポリマー溶液とした。これにより、薬剤含有率がX質量%(全固形分中のエバンスブルー色素濃度)になる第1ポリマー溶液ができた。ここで第1ポリマー溶液は、実施例1〜3、比較例1〜3において、全固形分中のエバンスブルー色素の濃度Xが、以下のようになるように調製した。
実施例1:50質量%
実施例2:30質量%
実施例3:70質量%
比較例1:10質量%
比較例2:50質量%
比較例3:10質量%
<第1ポリマー溶液の注型>
(実施例1〜3、比較例3)
実施例1〜3、比較例3においては、第1ポリマー溶液をモールドに以下のようにして注入した。まず、サイズが40mm×40mm、厚さが3mmのシリコーンシート(信越ファインテック株式会社製、シンエツシリコシートBAグレード)の中央部分に、30mm×30mmの開口部を設けた。モールドの円錐柱状孔パターン部がシリコーンシートの開口部から露出するように位置合わせした状態で、シリコーンシートをモールドに積層・接着した。この後、ディスペンサを用いて、シリコーンシートが接着されたモールド(シリコーンシートの開口部)に、第1ポリマー溶液を0.2ml滴下した。
【0117】
(比較例1、2)
比較例1、2においては、第1ポリマー溶液をモールドに以下のようにして注入した。まず、サイズが40mm×40mm、厚さが3mmのシリコーンシート(信越ファインテック株式会社製、シンエツシリコシートBAグレード)の中央部分に、30mm×30mmの開口部を設けた。モールドの円錐柱状孔パターン部がシリコーンシートの開口部から露出するように位置合わせした状態で、シリコーンシートをモールドに積層・接着した。この後、ディスペンサを用いて、シリコーンシートが接着されたモールド(シリコーンシートの開口部)に、第1ポリマー溶液を1ml滴下した。
【0118】
<ポリマー溶液の加圧充填>
(実施例1〜3、比較例3)
実施例1〜3、比較例3においては、第1ポリマー溶液の加圧充填を以下のようにして行った。まず、第1ポリマー溶液の溶媒である水の揮発を防止するため、図6に示した耐圧容器内の底部に、高さ40mmまで温水を溜めた。加熱ジャケットにより耐圧容器の内部を40℃まで加熱した後、コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入した。耐圧容器内の圧力を0.5MPaで、5分間保持することで、モールドの凹部に第1ポリマー溶液を充填した。
【0119】
(比較例1、2)
比較例1、2においては、第1ポリマー溶液の加圧充填を、耐圧容器内の保持を10分間にした以外は、実施例1〜3、比較例3と同様に行った。
【0120】
<第1ポリマー層の形成>
(実施例1〜3、比較例3)
実施例1〜3、比較例3においては、以下のようにして第1ポリマー層のゲル化を行った。40℃に加熱された耐圧容器からモールドを取り出して20℃に保持した恒温槽に15分間入れることにより、モールドに充填された第1ポリマー層を冷却した。これにより、第1ポリマー層を含水ゲル状態にゲル化させた。次に、モールドを恒温槽から取り出して、ゲル化した第1ポリマー層と針状凹部との間にシリコン製のスパチュラを差し込んで、第1ポリマー層の針状凹部からはみ出した部分を除去した。除去部は回収した。
【0121】
(比較例1、2)
比較例1、2においては、この工程は実施しなかった。
【0122】
<第2ポリマー層の形成>
(実施例1〜3、比較例3)
実施例1〜3、比較例3において、以下のようにして第2ポリマー層のモールドへの注入、充填を行った。まず、第1ポリマー層が形成されたモールド上に、第2ポリマー溶液1mlを静かに滴下した後、上記加圧充填装置を使用して第2ポリマー溶液をモールドに充填した。
【0123】
(比較例1、2)
比較例1、2においては、この工程は実施しなかった。
【0124】
<乾燥>
(実施例1〜3、比較例3)
次に、実施例1〜3、比較例3においては、モールドをオーブンに投入して、50℃、8時間の乾燥処理を行った。この乾燥処理により第1及び第2ポリマー溶液が乾燥固化して、第1ポリマー層上に第2ポリマー層が積層した構成を有するポリマーシートが形成された。
【0125】
(比較例1、2)
比較例1、2においては、モールドをオーブンに投入して、50℃、8時間の乾燥処理を行った。この乾燥処理により第1ポリマー溶液が乾燥固化して、第1ポリマー溶液が乾燥固化した層のみのポリマーシートが形成された。
【0126】
<ポリマーシートの剥離>
(実施例1〜3、比較例1〜3)
実施例1〜3、比較例1〜3において、モールドに積層・接着したシリコーンシートを取り外した後、ポリマーシートの裏面に粘着テープを貼りつけて、当該粘着テープごとモールドから剥離して、経皮吸収シートを得た。以上説明した手順により、実施例1〜3、比較例3においては、ニードル部に選択的に薬剤が添加された経皮吸収シートを作製することができた。
【0127】
<経皮吸収シートの薬剤分布状態>
得られた経皮吸収シート(実施例1〜3)のニードル部14は、図2(f)に示したように、ニードル部14の先端から根元に向かって色素が薄くなっており、第2ポリマー層のうちの針状凹部からはみ出したシート部には色素がなかった。
【0128】
<成形性、ニードル部薬剤含有量の評価>
このようにして作製した実施例1〜3、比較例1〜3のサンプルについて、以下のように評価を行った。
【0129】
(1)成形性評価
成形性評価は、形成したニードルの個数を顕微鏡を用いて数えることにより行い、以下のように分類した。
◎:ニードル25本全ての成形ができた。
○:ニードル25本中20〜24本成形できた。
×:ニードル25本中成形できたのが19本以下。
【0130】
(2)ニードル部薬剤含有量測定
シートからニードル部のみを回収して水に溶解させ、その液の濃度を分光光度計(SHIMADZU UV2400PC)により測定した。測定したこの濃度を用いて、比較例1(比較例1は、ポリマー溶液1のみから構成されているので、ニードル部、シート部どちらも同じ濃度である。)のサンプルの薬剤含有量を100%とした場合の、他のサンプルのニードル部薬剤含有量を%で表した。
【0131】
(3)ニードル部薬剤量計算値算出
ニードル部を高さ480μm、直径80μm(高さ、直径とも実測値)の円錐柱とし、ポリマー材料、薬剤の比重をそれぞれ1として、比較例1のニードル部の薬剤量を計算した。その結果、比較例1のニードル部の薬剤量は、0.004mgとなった。(2)で測定した濃度に基づいて、他のサンプルの薬剤含有量を算出した。
【0132】
(4)評価結果
上記評価の結果を以下の表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
表1において、層構造の欄には、成分濃度の異なる2種類の第1ポリマー溶液、第2ポリマー溶液を用いてサンプルを作製したものを2層とし、1種類のポリマー溶液のみでサンプルを作製してものを1層と表示した。
【0135】
表1より、1層構造の比較例1のニードル部薬剤含有量0.040mgと同じ薬剤量(薬剤濃度と考えても良い)を含む2層構造のニードル部を作製するには、使用するポリマー溶液1は、その薬剤濃度が、比較例1の10%の5倍の50%(実施例1)のポリマー溶液1を使用すれば良いことが分かる。これにより、第1ポリマー溶液が乾燥収縮によって減少したニードル部の体積が、薬剤レスの第2ポリマー溶液から補填されることにより、所望の薬剤量(薬剤濃度と考えても良い。)のニードル部を作製できる。このように、完成品における所望の薬剤濃度(固形分中の薬剤濃度)よりも高い薬剤濃度(固形分中の薬剤濃度)の第1ポリマー溶液を用いてニードル部を製造することにより、所望の薬剤濃度のニードル部を有する経皮吸収シートを作製することが可能になる。
【0136】
また、所望の薬剤濃度の約1倍〜約1.2倍の薬剤濃度のニードル部を作製するには、ニードル部に使用するポリマー溶液1の全固形分中の薬剤濃度が、所望の濃度の5倍〜7倍のものを使用すれば良いことが分かった。
【0137】
[第2実施形態の経皮吸収シートの作製]
次に、上述の第2の実施形態に係る方法により、以下に示すように経皮吸収シートを作製した。
【0138】
<モールドの作製>
第1実施の形態と同様であり、説明は省略する。
【0139】
<第1、第2のポリマー溶液及び疎水性ポリマー溶液の調製>
ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製、新田ゼラチン732)を40℃の温水に攪拌溶解し、ゼラチン濃度が20質量%の溶液を調製し、これを40℃で保温した。このポリマー溶液の粘度は300mPa・sであった。
【0140】
そして、このポリマー溶液を2分割し、一方のポリマー溶液にエバンスブルー色素を固形分に対して2質量%の濃度になるように添加し、これを第1ポリマー溶液とした。また、他方のなにも添加しないポリマー溶液を第2ポリマー溶液とした。
【0141】
また、エチルセルロース(日進化成(株)「エトセル」)の5質量%エタノール溶液を調製し、これを疎水性ポリマー溶液とした。
【0142】
そして、ディスペンサを用いて、第1実施の形態と同様にシリコーンシートが接着されたモールド(シリコーンシートの開口部)に、第1ポリマー溶液を0.2ml滴下した。
【0143】
<第1ポリマー溶液の加圧充填>
第1ポリマー溶液の溶媒である水の揮発を防止するため、図6に示した耐圧容器内の底部に、高さ40mmまで温水を溜めた。加熱ジャケットにより耐圧容器の内部を40℃まで加熱した後、コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入した。耐圧容器内の圧力を0.5MPaで、5分間保持することで、モールドの凹部に第1ポリマー溶液を充填した。
【0144】
<第1ポリマー層の形成>
40℃に加熱された耐圧容器からモールドを取り出して20℃に保持した恒温槽に15分間入れることにより、モールドに充填された第1ポリマー層を冷却した。これにより、第1ポリマー層を含水ゲル状態にゲル化させた。次に、モールドを恒温槽から取り出して、ゲル化した第1ポリマー層と針状凹部との間にシリコン製のスパチュラを差し込んで、第1ポリマー層の針状凹部からはみ出した部分を除去した。
【0145】
<疎水性ポリマー層の形成>
次に、第1ポリマー層が形成されたモールド上に、疎水性ポリマー溶液を0.2mlを静かに滴下した後、上記した加圧充填装置で疎水性ポリマー溶液をモールドに充填した。
【0146】

<第1乾燥>
次に、モールドをオーブンに投入して、50℃、10分の乾燥処理を行った。これにより、モールドには第1ポリマー層と乾燥固化した疎水性ポリマー層との2層構造が形成された。
【0147】
<第2ポリマー層の形成>
第1ポリマー層及び疎水性ポリマー層が形成されたモールド上に、第2ポリマー溶液を1mlを静かに滴下した後、上記した加圧充填装置で第2ポリマー溶液をモールドに充填した。
【0148】
<第2の乾燥>
次に、モールドをオーブンに投入して、50℃、8時間の乾燥処理を行った。乾燥処理により第1ポリマー溶液及び第2ポリマー溶液が乾燥固化して、第1ポリマー層及び疎水性ポリマー層上に第2ポリマー層が積層した3層構造のポリマーシートが形成された。
【0149】
<ポリマーシートの剥離>
モールドに積層・接着したシリコーンシートを取り外した後、ポリマーシートの裏面に粘着テープを貼りつけて、当該粘着テープごとモールドから剥離して、経皮吸収シートを得た。以上説明した手順により、ニードル部に選択的に薬剤が添加された経皮吸収シートを作製することができた。
【0150】
<経皮吸収シートの薬剤分布状態>
得られた経皮吸収シートのニードル部14は、図4(h)に示したように、ニードル部の先端部分を形成する第1ポリマー層のみに色素が含有されており、ニードル部の根元部及びシート部を形成する第2ポリマー層には色素がなかった。
【0151】
[第3実施形態の経皮吸収シートの作製]
第3実施形態として、以下に示すように経皮吸収シートを作製した。
【0152】
<モールドの作製>
第1実施の形態と同様であり、説明は省略する。
【0153】
<第1、第2のポリマー溶液及び疎水性ポリマー溶液の調製>
プルラン(株式会社林原製)を40℃の温水に攪拌溶解し、プルラン濃度が15質量%の溶液を調製し、これを40℃で保温した。このポリマー溶液の粘度は300mPa・sであった。
【0154】
そして、このポリマー溶液を2分割し、一方のポリマー溶液にエバンスブルー色素を固形分に対して2質量%の濃度になるように添加し、これを第1ポリマー溶液とした。また、他方のなにも添加しないポリマー溶液を第2ポリマー溶液とした。
【0155】
そして、ディスペンサを用いて、第1実施の形態と同様にシリコーンシートが接着されたモールド(シリコーンシートの開口部)に、第1ポリマー溶液を0.2ml滴下した。
【0156】
<第1ポリマー溶液の加圧充填>
第1ポリマー溶液の溶媒である水の揮発を防止するため、図6に示した耐圧容器内の底部に、高さ40mmまで温水を溜めた。加熱ジャケットにより耐圧容器の内部を40℃まで加熱した後、コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入した。耐圧容器内の圧力を0.5MPaで、5分間保持することで、モールドの凹部に第1ポリマー溶液を充填した。
【0157】
<第1ポリマー層の形成>
40℃に加熱された耐圧容器からモールドを取り出して−30℃に保持した恒温槽に15分間入れることにより、モールドに充填された第1ポリマー層を冷却した。これにより、第1ポリマー層を凝固させた。次に、モールドを恒温槽から取り出して、凝固した第1ポリマー層と針状凹部との間にシリコン製のスパチュラを差し込んで、第1ポリマー層の針状凹部からはみ出した部分を除去した。
【0158】
<第2ポリマー層の形成>
第1ポリマー層が形成されたモールド上に、第2ポリマー溶液を1mlを静かに滴下した後、上記した加圧充填装置で第2ポリマー溶液をモールドに充填した。
【0159】
<乾燥>
次に、モールドをオーブンに投入して、50℃、8時間の乾燥処理を行った。乾燥処理により第1及び第2ポリマー溶液が乾燥固化して、第1ポリマー層上に第2ポリマー層が積層した構成を有するポリマーシートが形成された。
【0160】
<ポリマーシートの剥離>
モールドに積層・接着したシリコーンシートを取り外した後、ポリマーシートの裏面に粘着テープを貼りつけて、当該粘着テープごとモールドから剥離して、経皮吸収シートを得た。以上説明した手順により、ニードル部に選択的に薬剤が添加された経皮吸収シートを作製することができた。
【0161】
<経皮吸収シートの薬剤分布状態>
得られた経皮吸収シートのニードル部14は、図2(f)に示したように、ニードル部14の先端から根元に向かって色素が薄くなっており、第2ポリマー層のうちの針状凹部からはみ出したシート部には色素がなかった。
【符号の説明】
【0162】
10…経皮吸収シート、12…シート部、14…ニードル部、16…第1ポリマー層、18…第2ポリマー層、20…モールド、22…針状凹部、24…最深部、26…平坦部、30、130…第1ポリマー溶液、32、132…第2ポリマー溶液、34…ポリマーシート、40…制限枠、50…加圧充填装置、52…耐圧容器、54…台座、56…コンプレッサー、58…流入口、60…排出口、100…大面積モールド、110…モールドユニット、112…針状凹部、114…接着剤層、116…基板、117…疎水性ポリマー層、131…疎水性ポリマー溶液、210…モールド、212…針状凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートにおいて、
前記針状凸部に含有される薬剤の濃度が、前記針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少して成ることを特徴とする経皮吸収シート。
【請求項2】
前記針状凸部の硬さが、前記針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少していることを特徴とする請求項1に記載の経皮吸収シート。
【請求項3】
シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートにおいて、
前記薬剤を含有すると共に前記針状凸部の先端部を形成する第1親水性ポリマー層と、前記薬剤を含有しないと共に前記針状凸部の根元部を形成する第2の親水性ポリマー層との間に、疎水性ポリマー層が設けられていることを特徴とする経皮吸収シート。
【請求項4】
前記疎水性ポリマー層を境として、前記第1親水性ポリマー層が前記第2の親水性ポリマー層よりも硬いことを特徴とする請求項3に記載の経皮吸収シート。
【請求項5】
シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートの製造方法において、
前記薬剤を含有すると共にゲル化性を有する第1ポリマー溶液を、針状凹部が形成されたモールドに充填した後にゲル化もしくは凝固して、前記針状凹部内に含水ゲルもしくは固体状態の第1ポリマー層を形成する第1ポリマー層形成工程と、
前記モールドに形成された前記第1ポリマー層上に、前記薬剤を含有しない第2ポリマー溶液を充填して液体状態の第2ポリマー層を形成する第2ポリマー層形成工程と、
前記モールドに形成された第1及び第2のポリマー層を乾燥固化させると共に、乾燥条件を制御して、前記含水ゲルもしくは固体状態の第1ポリマー層に含有される薬剤が前記液体状態の第2ポリマー層に移行する移行量を調整する乾燥工程と、
前記乾燥後に、前記第1及び第2のポリマー層で構成され、前記針状凹部の反転形状である針状凸部が表面に形成されたポリマーシートを前記モールドから剥離する剥離工程と、を備えたことを特徴とする経皮吸収シートの製造方法。
【請求項6】
前記第1ポリマー層形成工程において、
完成状態での前記経皮吸収シートにおける前記針状凸部の所望の薬剤濃度よりも、高い薬剤濃度を有する固形分を含んだ前記第1ポリマー溶液を使用することを特徴とする請求項5に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項7】
前記ゲル化性を有する第1ポリマー溶液は、ゼラチンを固形成分の材料として含むことを特徴とする請求項5または6に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項8】
前記凝固させる第1ポリマー溶液は、プルランを固形成分の材料として含むことを特徴とする請求項5または6に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項9】
前記第1ポリマー溶液を、針状凹部が形成されたモールドに充填してゲル化もしくは凝固して、前記針状凹部外の部分を除去した後乾燥する工程を、複数回に分けて行った後、第2ポリマー層を形成することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項10】
シート部の表面に、薬剤が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートの製造方法において、
前記薬剤を含有する第1ポリマー溶液を、針状凹部が形成されたモールドに充填して、前記針状凹部内に前記薬剤を含む親水性の第1ポリマー層を形成する第1ポリマー層形成工程と、
前記モールドに形成された第1ポリマー層上に、疎水性のポリマー溶液を充填して疎水
性ポリマー層を形成する疎水性ポリマー層形成工程と、
前記疎水性ポリマー層を乾燥固化する第1乾燥工程と、
前記モールドに形成された第1乾燥後の疎水性ポリマー層上に、薬剤を含有しない第2ポリマー溶液を充填して、親水性の第2ポリマー層を形成する第2ポリマー層形成工程と、
前記モールドに形成された第1のポリマー層と第2のポリマー層を乾燥固化させる第2の乾燥工程と、
前記第2の乾燥後に、前記第1、疎水性、及び第2のポリマー層で構成され、前記針状凹部の反転形状である針状凸部が表面に形成されたポリマーシートを前記モールドから剥離する剥離工程と、を備えたことを特徴とする経皮吸収シートの製造方法。
【請求項11】
前記第1ポリマー層のうち、前記モールドの前記針状凹部からはみ出した部分を除去する除去工程を含むことを特徴とする請求項5〜10の何れか1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項12】
前記第1ポリマー溶液の固形成分の材料は、前記第2ポリマー溶液の固形成分の材料よりも硬い材料であることを特徴とする請求項5〜11の何れか1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項13】
前記第1ポリマー溶液のポリマー濃度は、前記第2ポリマー溶液のポリマー濃度よりも高いことを特徴とする請求項5〜12の何れか1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項14】
前記モールドの材料は、シリコーン樹脂を含むことを特徴とする請求項5〜13の何れか1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項15】
前記第2ポリマー層形成工程と前記乾燥工程との間に、ポリマー層に含有される気泡を除く脱泡工程を設けたことを特徴とする請求項5〜14の何れか1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項16】
前記針状凹部の直径が50μm以上300μm以下であり、前記針状凹部の深さが200μm以上2000μm以下であることを特徴とする請求項5〜15の何れか1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項17】
請求項5〜16の何れか1に記載の経皮吸収シートの製造方法により製造される経皮吸収シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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