説明

経皮薬物送達装置

裏当て層、薬物含有接着層(副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬の均一分散物が含まれる無官能性の中性ポリアクリレートを含む。)および放出ライナーを含む、マトリックスシステムの形態をした、毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒を予備処置および処置するための経皮薬物送達装置が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒の予備処置および処置のための経皮薬物送達装置ならびにこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学兵器、特に、毒性の強い有機リン酸エステル化合物である、ソマン、サリン、タブンおよびVXガスなどの神経ガスがもたらす脅威は、近年、新たな重大性を帯びてきた。
【0003】
現行の医療対策は、部分的には、暴露前の副交感神経作用(コリン作用)化合物による処置に基づいている。例えば、英国で現在使用されている神経ガス予備処置セット(NAPS)は、暴露前の臭化ピリドスチグミンの経口投与、ならびに暴露後のアトロピン、プラリドキシムメシレートおよびアビザフォン(avizafone)の筋肉内注射に依存している。
【0004】
神経ガス予備処置セットは、特に使用に便利なものでなく、また神経ガスに暴露したときの無能力化を必ずしも予防するものでもないため、暴露後の処置を、多くは、他人にやってもらわなければならない。したがって、毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒に対して、より完全な防御性がある新しい予備処置の開発に大きな興味が注がれてきた。
【0005】
神経ガス中毒を予備処置するためのフィゾスチグミンの有効性は公知であるが、この半減期が短いこと、ならびに悪心、嘔吐および認知機能の低下などの副作用があることから、この使用は限定されてきた。
【0006】
いくつかの動物試験において、フィゾスチグミンおよびスコポラミンまたはトリヘキシフェニジルなどの副交感神経遮断(抗コリン作用)化合物の亜急性および急性の注射が、フィゾスチグミンのみの注射に比べて、神経ガス中毒に対して、防御性が高いことが分かった(Anderson,D.R.ら、Drug Chem.Toxicol.1991、14(182)、1−19頁およびLim,D.K.ら、Pharmacol.Biochem.Behav.、1989、31、633−639頁)。
【0007】
他の動物試験において、モルモットにおけるソマンへの暴露に対して、フィゾスチグミンおよびスコポラミンまたはトリヘキシフェニジルの亜急性および急性の注射が、フィゾスチグミンの亜急性の注射に比べて、防御性があり、フィゾスチグミンによる副作用が減少していることが分かった(von Bredow,J.ら、Fundam.Appl.Toxicol.、1991、17、782−789頁およびLim,D.K.等、同、1991、16、482−489頁)。
【0008】
有機リン酸エステルの中毒を処置する長時間作用性の経皮システム(Levy,D.ら、Proc.3rd Int.Symp.Protection Against Chemical Warfare Agents、ウーメオ、スウェーデン、1989年6月11−16日、追補)は、フィゾスチグミンパッチ(またはパッド)およびスコポラミンパッチ(Scopoderm(登録商標))からなる。この「ツーパッチ」システムは、モルモットおよびブタにおいて、1.5LD50のソマンへの暴露に対して防御性があることを示している。
【0009】
該経皮システムは、ブタにおいて、フィゾスチグミンおよびスコポラミンがそれぞれ1.0ng ml−1および0.1ng ml−1を超える血漿濃度レベルにおいて、2.5LD50のソマンに対して防御を示すことが報告されている(Levy,Aら、Proc.4thInt.Symp.Protection Against Chemical Warfare Agents、ストックホルム、スウェーデン、1992年6月8−12日)。
【0010】
フィゾスチグミンパッチのみの反復貼付を伴った、アルツハイマー病患者における人体試験で、皮膚の炎症以外の有害な副作用なしに、ブタにおいて防御性がある安定な血漿濃度レベルを実現できることが示された。
【0011】
該経皮治療システムは、ブタではフィゾスチグミンが1ng/ml超の血漿濃度レベルにおいて防御性があること、またヒトではフィゾスチグミンが0.3±0.1ng/mlの血漿濃度レベルにおいて悪心、嘔吐および統計学的に有意な挙動変化がないことが示された、「ツーパッチ」システムの試験に基づいて、ヒトにおいて副作用なしに防御性があると主張されている。
【0012】
EP0732924A1もまた、ヒトにおける毒性の強い有機リン酸エステル化合物による中毒を予防および/または処置するための経皮治療システムに関する。EP0732924A1は、「ツーパッチ」システム、ならびにフィゾスチグミンおよびスコポラミンのそれぞれに対して別々の接着マトリックスを含有する単一パッチからなる「ツーインワン」パッチシステムを開示している。
【0013】
しかしながら、これらの先行技術の経皮治療システムは、使用に不便で、また長時間持続する防御、特に軍事要員などの防御には適していない。
【0014】
「ツーパッチ」システムのスコポラミンパッチ(Scopoderm(登録商標))は、耳の後ろに着けなければならないが、他の必要な防御器具がこの接着を妨げるおそれがある。
【0015】
さらに、「ツーインワンパッチ」の皮膚接触面積は非常に大きいので、他の必要な防御器具によって妨害されずに、良好な接着および着用特性のために適当な人体部分に配置することができない。
【0016】
良好な接着は、経皮薬物送達システムの安全で効果的な働きのために認知された必須条件である(Wokovich,A.M.等、Eur.J.Pharmaceut.Biopharmaceut.、2006、64、1−8頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0732924号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Anderson,D.R.ら、Drug Chem.Toxicol.1991、14(182)、1−19頁
【非特許文献2】Lim,D.K.ら、Pharmacol.Biochem.Behav.、1989、31、633−639頁
【非特許文献3】von Bredow,J.ら、Fundam.Appl.Toxicol.、1991、17、782−789頁
【非特許文献4】Lim,D.K.等、Fundam.Appl.Toxicol.、1991、16、482−489頁
【非特許文献5】Levy,D.ら、Proc.3rd Int.Symp.Protection Against Chemical Warfare Agents、ウーメオ、スウェーデン、1989年6月11−16日、追補
【非特許文献6】Levy,Aら、Proc.4thInt.Symp.Protection Against Chemical Warfare Agents、ストックホルム、スウェーデン、1992年6月8−12日
【非特許文献7】Wokovich,A.M.等、Eur.J.Pharmaceut.Biopharmaceut.、2006、64、1−8頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、一般に、より小さいサイズおよび/またはより良好な接着力の経皮薬物送達装置を提供することによって、この状況を改善することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記改善が、フィゾスチグミンおよびスコポラミンの両方が、無官能性の中性ポリアクリレートを含む単一の接着マトリックス中に一緒になって提供される、経皮薬物送達装置によって得られることを意外にも見出した。
【0021】
それゆえ、一態様において、本発明は、毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒を予備処置および処置するための経皮薬物送達装置を、裏当て層、薬物含有接着層(副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬の均一分散物をこのなかに有する無官能性の中性ポリアクリレートを含む。)および放出ライナーを含む、マトリックスシステムの形態で提供する。
【0022】
当業者であれば、裏当て層および放出ライナーが薬物含有接着層の成分に浸透しない材料を含むこと、また放出ライナーの材料によって放出ライナーが装置から容易に除去できることを理解されよう。
【0023】
本明細書において使用する場合、副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬の均一分散物をこのなかに有する薬物含有接着層とは、副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬をこのなかに溶解して有する薬物含有接着層、または副交感神経興奮薬および/または副交感神経遮断薬の一部もしくは全部を結晶形態で含む薬物含有接着層のことを指す。
【0024】
本明細書において使用する場合、無官能性の中性ポリアクリレートとは、ポリマーまたはコポリマーが、ポリマーもしくはコポリマーの架橋結合または副交感神経興奮薬もしくは副交感神経遮断薬との相互作用をもたらすことができる、任意の官能基を実質的に含まない、アクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーのことを指す。
【0025】
これらの言及では、特に、カルボン酸、アミノおよびヒドロキシ官能基を実質的に含まないポリアクリレートを指していることが理解されよう。
【0026】
好ましい実施形態において、無官能性の中性ポリアクリレートは、市販されているDurotak(登録商標)4098などの、2−エチルヘキシルアクリレートおよび酢酸ビニルのコポリマーを含む。
【0027】
他の適当な無官能性の中性ポリアクリレートは、市販されているアクリレートポリマーのDurotak(登録商標)9088およびDurotak(登録商標)9301、ならびにアクリレートコポリマーのDurotak(登録商標)901Aを含む。
【0028】
該装置は、両方の活性剤(actives)が一緒に供給される単一のマトリックスを含んでよいが、また両方の活性剤が一緒に複数のマトリックスに供給される実施形態も可能である。
【0029】
適当な副交感神経興奮薬は、間接型コリンエストラーゼ阻害薬、特に、フィゾスチグミン、ヘプチルフィゾスチグミン、ネオスチグミン、リバスチグミン、ピリドスチグミンおよびデマルカリウム(demarcarium)などのカルバメートならびにそれらの生理学的に許容される塩を含む。
【0030】
他の適当な間接型コリンエストラーゼ阻害薬としては、光学的に純粋な形態またはラセミ形態のドネペジル、エドロホニウム、ガランタミン、テトラヒドロアクリジン、ヴェルナクリジン(velnacridine)、タウリンおよびそれらの生理学的に許容される塩が挙げられる。
【0031】
副交感神経遮断薬は、好ましくは、光学的に純粋な形態またはラセミ形態のトロパンアルカロイドまたはこの生理学的に許容される塩を含む。しかし、トリヘキシルフェニジル、ビペリデン、プロフェナミン、デキセチミド、エタナウチンおよびオルフェナドリンなどの他の副交感神経遮断薬を使用してもよい。適当なトロパンアルカロイドとしてはアトロピン、ベンゾトロピン、トロパテピンおよびスコポラミンが挙げられる。
【0032】
薬物含有接着層の面積重量ならびに副交感神経興奮薬と副交感神経遮断薬の重量%比は、有機リン酸エステルによる中毒に対して防御性があり、活性剤の一方または他方による副作用がない、長時間持続性の(12から72時間の間)血漿濃度レベルの副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬を送達するように、活性剤の処置指数に従って選択することができる(それぞれ8:1から12:1の間の比)。
【0033】
一実施形態において、薬物含有接着層の面積重量は100g/m以上である。面積重量は、例えば、100から500g/mの間でよく、特に100から350g/mの間でもよい。この実施形態において、副交感神経興奮薬対副交感神経遮断薬の重量%比は、30から50:1または35から45:1、例えば40:1でよい。
【0034】
好ましい実施形態において、薬物含有接着層は浸透増強剤を含む。
【0035】
適当な浸透増強剤は、オクチルフェノール、オクチルフェニルエーテル、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、特にPEG400、脂肪酸、特に、オレイン酸、リノール酸およびアジピン酸などのCからC22の直鎖状脂肪酸ならびに脂肪酸エステル、特に、イソプロピルミリステート、メチルラウレート、グリセリンモノオレエートおよびプロピレングリコールモノオレエートからなる群から選択してよい。
【0036】
浸透増強剤は粘着剤でもあると有利である。粘着剤でもある適当な浸透増強剤はオレイン酸である。
【0037】
薬物含有接着層における浸透増強剤の重量%は、一般的に、防御性血漿濃度レベルの各薬物を、薬物のいずれかによる副作用なしに送達するのに役立つように選択することができる。
【0038】
浸透増強剤の重量%は、例えば、薬物含有接着層の2.5%から15%でよく、特に、5%から10%でよい。
【0039】
副交感神経興奮薬がフィゾスチグミンである好ましい一実施形態において、副交感神経遮断薬はスコポラミンであり、浸透増強剤はオレイン酸であり、薬物含有接着層の面積重量は300g/mであり、フィゾスチグミン対スコポラミン対オレイン酸の面積重量%比は、それぞれ約40:1:40である。
【0040】
装置が皮膚にしっかりと接着することを確実にするため、装置が、薬物含有接着層と円周で境界をなす追加の接着層を含むことがさらに好ましい。
【0041】
追加の接着層が薬物含有接着層と比べて流動性が少なくまたコールドフローがないと有利である。
【0042】
追加の接着層は、欧州特許第1062926B1号に記載のように含めてよく、特に、高い粘着性の酸性ポリアクリレートの接着層および裏当て層のラミネートを含む上面テープによって得てもよい。
【0043】
本明細書において使用される、「酸性ポリアクリレート」という表現は、ポリマーまたはコポリマーが8から30重量%の間のカルボン酸官能基を含む、アクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーを指す。
【0044】
一実施形態において、酸性ポリアクリレート接着剤はまた、アクリル酸のエステルおよび酢酸ビニルのコポリマー、例えば、Durotak(登録商標)2051である。
【0045】
上面テープがもたらされる実施形態において、上面テープの裏当て層が装置用の裏当て層を形成し、薬物含有接着層用の間に入る裏当て層が必要となることが理解される。
【0046】
もちろん、間に入る裏当て層は、薬物含有接着層の成分に浸透しない材料を含むが薬物含有接着層に円周の境界をつけない。
【0047】
いずれの場合においても、追加の接着層は、面積重量が50g/m以下でよく、特に20g/mから40g/mの間でよい。追加の接着層が上面テープによってもたらされる、好ましい一実施形態において、この接着層の面積重量は25g/mである。
【0048】
上面テープの面積のサイズは、装置の皮膚への全体の接着力を高めるように選択してよく、皮膚接触幅は1mmから10mmの間としてよい。
【0049】
一実施形態において、薬物含有接着層の皮膚接触面積は21cmであり、追加の接着層の皮膚接触幅は4mmまたは7mmである。
【0050】
放出ライナーは、従来の特大タイプでよく、上面テープを含む実施形態において、薬剤含有層および追加の接着層の両方に接触していることが理解されよう。放出ライナーはポリエステルまたはポリエチレンテレフタレートのライナーでよく、特に、50μmのPrime−liner(商標)PET1−sなどの透明のポリエチレンテレフタレートのライナーでよい。
【0051】
上面テープを含む好ましい一実施形態において、放出ライナーは、追加の接着層の一部を覆う、放出ライナー上の領域に折り目が付けられ、それによって引離しタグを設けている。引離しタグは、コールドフロー、および薬物含有接着層との接触による、または接触した後の人または表面の汚れの可能性を減少させる。
【0052】
該裏当て層および間に入る裏当て層は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデンまたはポリウレタン材料のシートまたはライナーを1枚を含んでよい。
【0053】
しかしながら、装置における薬物安定性は、光を入れるおそれがある装置用の裏当てホイルを避けることによって、大いに改善されることが分かった。それゆえ、裏当てホイルは実質的に光を透さないことが好ましい。
【0054】
したがって、一実施形態において、裏当て層は、着色ポリエチレンおよびScotchpak(商標)1109という名称で知られているものなどのアルミニウム蒸着ポリエステルからなるラミネートを含む。
【0055】
該装置は、裏当てホイル用のカバーシートを含んでよく、密封パウチ(Climacraft)などの適当な防御用包装を備えてもよい。カバーシートは、横へのコールドフローの結果、該装置がこの包装に張り付かないようにするものであり、透明のポリエチレンテレフタレートのシートを含むのが好ましい。
【0056】
本発明の経皮薬物送達装置は、先行技術の経皮システムよりもはるかに使用に都合がよい。これは、無官能性の中性ポリアクリレートが、単一のマトリックス中で、しかもカルボン酸またはアルコール官能基を含むポリアクリレートと比べて、高い平均流束の持続期間にわたる副交感神経興奮薬において両活性剤を担持することができるからである。
【0057】
本発明は、毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒に対して防御性があり、いずれの薬物による副作用もない血漿濃度レベルの副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬を送達する(最大72時間まで)、先行技術の「ツーインワン」パッチよりはるかに小さいサイズ(39cm以下)の単一パッチを提供する。
【0058】
パッチサイズが小さいほど良好な接着を可能にする。これは、このパッチが、接着を改善しおよび/または他の防御器具による妨害を最小限にする人体部位に、より容易に配置できるためである。
【0059】
無官能性の中性ポリアクリレート接着剤は、先行技術の「ツーインワン」パッチに比べて、コールドフローの可能性がより少ない装置も提供する。
【0060】
本発明による装置は、サリン、サルム(sarum)、タブンおよびVXガスなどの化学兵器による中毒ならびにブロムフェンビンフォス、クロルフェンビンフォス、クロトキシフォス、ジクロルボス、フォスピレート、ナフタロホス(naftalofos)、ホスファミドンおよびテトラクロルビンフォスなどの有機リン殺虫剤による中毒の予防に適している。
【0061】
本発明による装置は、同じように、すなわちAChEの阻害により中枢神経系に作用する、有機リン酸エステル以外の化学物質による中毒の予備処置および処置にも適している。
【0062】
第2の態様において、本発明は、i)第1の放出ライナーおよび第2の放出ライナーを、無官能性の中性ポリアクリレート接着剤、副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬を含む溶液により被覆するステップ、ii)被覆した放出ライナーを50℃から120℃の間の温度で乾燥させてそれぞれ薬物含有接着層を有する第1のラミネートおよび第2のラミネートを得るステップ、iii)第1のラミネートの薬物含有接着層に裏当て層を付けて、これから放出ライナーを除去することによって第3のラミネートを得るステップ、およびiv)第2のラミネートの薬物含有接着層を第3のラミネートの薬物含有接着層と融合させるステップを含む、毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒を予備処置および処置するための経皮薬物送達装置を製造する方法を提供する。
【0063】
該薬物含有接着剤溶液は、例えば、副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬のエタノール溶液を、酢酸エチル中の無官能性の中性ポリアクリレートの溶液に、場合によって浸透増強剤との溶液に、混ぜながら添加する準備ステップによって得ることができる。
【0064】
もちろん、他の溶媒および温度も適し得るが、該溶液の各成分量は、被覆するステップi)および最終の薬物含有接着層の所望の面積重量を考慮した適当な構成比に選択されることになる。
【0065】
一実施形態において、被覆するステップi)は、第1および第2の放出ライナーを薬物含有接着溶液により2つ以上のレーンで、例えば、3または4レーンにおいて被覆する。もちろん、各ライナーのレーンは、融合させるステップiv)の目的のために相互に関連させて適当に位置決めする必要がある。
【0066】
好ましい一実施形態において、該方法は、ステップii)によって得たラミネートの乾燥させた接着層がそれぞれ50g/m超の薬物含有接着剤の面積重量を有し、副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬をそれぞれ40:1の重量%比で含有する場合には、第1および第2の放出ライナーを3つのレーンによりそれぞれ被覆することとしている。
【0067】
該方法は、融合させるステップから得た5層ラミネートを、本発明による1つまたは複数の装置を得るためにv)切断するさらなるステップも含む。
【0068】
切断するステップv)は、特に、各装置が、特大放出ライナーまたは裏当て層を含むとしてもよいが、特大放出ライナーは切断した放出ライナーを取り替えることによって得るのが好ましい。
【0069】
前述のように、装置は上面テープも含んでよい。したがって、該方法は、vi)第3の放出ライナーに酸性ポリアクリレート接着剤の層を設け、これによって第4のラミネートを得るステップ、vii)裏当て層をこの接着層に付けるステップ、viii)これから放出ライナーを除去して、これによって上面テープを得るステップ、およびix)上面テープが薬物含有接着層と円周で境界をなすようにステップiv)からのラミネートから切断されたラミネートの裏当て層に該上面テープを接着させるステップというさらなる各ステップを含んでよい。
【0070】
この場合、切断するステップv)は、1つまたは複数のラミネートの周りに上面テープが円周に接着するように、5層のラミネートから余分の裏当て層を切断することとしてもよく、また、該方法は、1つまたは複数の完成装置を提供する別の切断のステップx)を含んでよい。
【0071】
該方法の他の実施形態は、本発明の第1の態様について前述した説明により明らかである。
【0072】
特に、該方法は、ステップii)によって得たラミネートの1つまたは複数の乾燥させた層がそれぞれ150g/m超の薬物含有接着剤の面積重量および副交感神経興奮薬対副交感神経遮断薬対浸透増強剤の重量%比がそれぞれ40:1:40を有する場合には、フィゾスチグミンを副交感神経興奮薬として、スコポラミンを副交感神経遮断薬として、オレイン酸を浸透増強剤として使用してよく、第1および第2の放出ライナーに1つまたは複数の薬物含有接着層が与えられることとしてもよいことは明らかである。
【0073】
第3の態様において、本発明は、使用時の装置の全体を覆うのに適した、適当な保護包装および非接着性の包帯、例えば圧縮包帯に入れられた、本発明の第1の態様による少なくとも1つの経皮薬物送達装置を含む部品キットを提供する。
【0074】
次に、本発明を、以下に示す図および実施例を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の好ましい実施形態による経皮送達装置の断面図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態による経皮送達装置を製造する方法を例示したスキームを示す図である。
【図3】本発明の別の好ましい実施形態による経皮装置の皮膚接触側の図である。
【図4】a)フィゾスチグミンの血漿濃度レベルを示すグラフであり、b)スコポラミンの血漿濃度レベルを示すグラフであり、c)図3の装置の時間関数としての血漿中AChEの阻害レベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0076】
ここで図1を参照すると、本発明の好ましい実施形態による経皮薬物送達装置は、全体として10で示される長方形パッチを含む。
【0077】
該パッチは、溶解させたフィゾスチグミン、スコポラミンおよびオレイン酸を含有する、Durotak(登録商標)4098接着剤の単一のマトリックス11(斜線、左から右、下方)を含む。
【0078】
接着マトリックス11の皮膚接触面は、除去可能な放出ライナー13に接触しており、この反対側の面は、閉塞性の裏当て層12と接触している。
【0079】
該装置は、マトリックスの皮膚接触面と反対側の面において、接着層16が裏当て層12および放出ライナー13に接触するようにマトリックス11を覆って円周の境界をつける、Durotak(登録商標)2051接着剤の接着層16(斜線、上方、左から右)を備えた裏当てホイル15を含むラミネートの形態をした上面テープ14を含む。
【0080】
次に図2を参照すると、図1のパッチの製造は、フィゾスチグミンおよびスコポラミンのエタノール溶液を、Durotak(登録商標)4098およびオレイン酸の溶液に混ぜながら添加するステップを含む。
【0081】
得られた溶液は、等量の対応する3つのレーンで別々の2つの連続的な解放シート13上に広げる。解放シートをオーブントレインに移して、レーンを50℃、75℃、110℃および120℃の温度で乾燥させる。
【0082】
得られたラミネートを室温まで冷却させた後、裏当てライナー12を1つのラミネートの薬物含有接着マトリックスに接着させ、この解放シート13は後で除去する(図2の右側)。
【0083】
解放シート13のないラミネートを圧入して裏当てライナー12のないラミネートと接触させ、いくつかの離散したマトリックス11を裏当てライナー12と解放シート13との間に挟み込み、融合されたラミネートを得る。
【0084】
該融合されたラミネートはダイカッターに移し、これで連続的な放出ライナー13を含むいくつかの離散したラミネートを得るために各マトリックス11から余分の裏当てライナーを切り去る。
【0085】
一方、上面テープは、Durotak(登録商標)2051を放出ライナー13上に広げて、被覆した放出ライナーを一連のオーブンに移して50℃、75℃、110℃および120℃の一連の温度で乾燥させることによって調製する(図2の左側)。室温まで冷却した後、裏当てホイル15を接着層16に付ける。
【0086】
こうして得られた上面テープは、各マトリックス11に円周の境界をつける追加の接着層16をもたらし放出ライナー13に接触するように圧入して連続的な放出ライナー13を含むラミネートに接触させる。
【0087】
こうして得られたラミネートはダイカッターに移し、特大放出ライナー13を持ついくつかの装置を切断する。
【0088】
次に図3を参照すると、本発明の別の好ましい実施形態による経皮薬物送達装置は、図1に関して説明したパッチとほぼ同様の組成の、全体として10で示される楕円形パッチを含む。
【0089】
ただし、該楕円形パッチは、装置の操作から出るコールドフローおよび汚れの可能性を減らす引離しタグ17を提供するために、追加の接着層16の一部を覆っている領域に折り目が入っている、透明の放出ライナー13を含む。
【実施例1】
【0090】
皮膚接触面積34cm(または39cm)の楕円形パッチは、面積重量300g/mの単一のマトリックスおよび面積重量25g/mの上面テープを含有し、以下の組成を有している。
【0091】
【表1】

【0092】
同様の面積重量および薬物組成(15重量%のフィゾスチグミン、0.2重量%のスコポラミンおよび10重量%のオレイン酸)の単一のマトリックスを含有する、パッチから出るフィゾスチグミンの平均流束の試験は、インビトロの(マウス)皮膚浸透モデルにおけるいくつかの異なるポリアクリレート接着剤に関して行われた(Durrheim,H.ら、J.Pharm.Soc.、1980、69(7)、781−786頁)。
【0093】
該モデルでは、ヒドロキシ官能基を含有する中性ポリアクリレートについて、官能基(エステル以外)を含まない中性ポリアクリレートに比べて、高い流束が得られることが示されている(表1)。このことは、ヒドロキシ官能基を含有する中性ポリアクリレートが防御性血漿濃度レベルのフィゾスチグミンを送達するのに最も適していることを示唆している。
【0094】
【表2】

【0095】
しかしながら、同一のパッチを使用した人体試験は、ヒトにおける無官能性の中性ポリアクリレートのフィゾスチグミンの血漿濃度レベルが、ヒドロキシ官能性を持つ中性ポリアクリレートに比べて、はるかに高いという意外な結果(表2)を示している。
【0096】
【表3】

【0097】
図4は、実施例1のパッチにより送達されたフィゾスチグミン(a)およびスコポラミン(b)の血漿濃度レベル(72時間毎の反復貼付)を示している。これから分かるように、フィゾスチグミンの高い血漿濃度レベルが、速やかに得られ、約24時間にわたり維持されている。この後、濃度レベルは最も高かった値の半分近くにまで下がり、72時間の残りの時間において徐々に低下している。血漿中AChE阻害剤(c)のパーセントは同様の経過をたどるものの、72時間の全体にわたり防御性があるレベルで維持されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏当て層、薬物含有接着層、前記薬物含有接着層は、副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬の均一分散物が含まれる無官能性の中性ポリアクリレートを含み、および放出ライナーを含む、マトリックスシステムの形態をした、ヒトにおける毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒を予備処置および処置するための経皮薬物送達装置。
【請求項2】
薬物含有接着層が100g/mを超える面積重量を有し、副交感神経興奮薬対副交感神経遮断薬の重量%比が約40:1である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
無官能性の中性ポリアクリレートが2−エチルヘキシルアクリレートおよび酢酸ビニルのコポリマーである、請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
薬物含有接着層が浸透増強剤を含む、請求項1から3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
薬物含有接着層と円周で境界をなす追加の接着層を含み、薬物含有接着層と比べて流動性が少なく、またコールドフローがない、請求項1から4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
薬物含有接着層が約21cmの面積サイズを有し、前記追加の接着層が約14cmの面積および7mmの皮膚接触幅を有する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記追加の接着層が約25g/mの面積重量の上面テープによってもたらされる、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記追加の接着層が酸性ポリアクリレートを含む、請求項5から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
放出ライナーが追加の接着層の一部に重なる領域に折り目が入れられ、これによって引離しタグが設けられる、請求項5から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
裏当て層が光を透さない、請求項1から9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
副交感神経興奮薬がフィゾスチグミンまたはこの生理学的に許容される塩である、請求項1から10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
副交感神経遮断薬がスコポラミンまたはこの生理学的に許容される塩である、請求項1から11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
浸透増強剤が脂肪酸、例えばオレイン酸である、請求項1から12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
i)第1の放出ライナーおよび第2の放出ライナーを、無官能性の中性ポリアクリレート接着剤および副交感神経興奮薬および副交感神経遮断薬を含む溶液により被覆するステップ、ii)被覆した放出ライナーを50℃から120℃の間の温度で乾燥させてそれぞれ薬物含有接着層を有する第1のラミネートおよび第2のラミネートを得るステップ、iii)第1のラミネートの薬物含有接着層に裏当て層を付けて、これから放出ライナーを除去することによって第3のラミネートを得るステップ、およびiv)第2のラミネートの薬物含有接着層を第3のラミネートの薬物含有接着層と融合させるステップを含む、毒性の強い有機リン酸エステルによる中毒を予備処置および処置するための経皮薬物送達装置を製造する方法。
【請求項15】
vi)第3の放出ライナーに酸性ポリアクリレート接着剤の層を設けて、これによって第4のラミネートを得るステップ、vii)裏当て層を前記接着層に付けるステップ、viii)放出ライナーを除去してこれによって上面テープを得るステップ、およびix)上面テープが薬物含有接着層と円周で境界をなすようにステップiv)からのラミネートを切断することによって得たラミネートに上面テープを接着させるステップというさらなる各ステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
副交感神経興奮薬がフィゾスチグミンまたはこの生理学的に許容される塩である、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
副交感神経遮断薬がスコポラミンまたはこの生理学的に許容される塩である、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
浸透増強剤がオレイン酸である、請求項14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
使用時の該装置の全体を覆うのに適した、適当な保護包装および非接着性の包帯、例えば圧縮包帯の中に、請求項1から13のいずれか一項に記載の少なくとも1つの経皮薬物送達装置を含む部品キット。
【請求項20】
添付の図面に関して実質的に以上に説明し、また図面において示した、経皮薬物送達装置またはこれを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−522019(P2011−522019A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512195(P2011−512195)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001382
【国際公開番号】WO2009/147387
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(390040604)イギリス国 (58)
【氏名又は名称原語表記】THE SECRETARY OF STATE FOR DEFENCE IN HER BRITANNIC MAJESTY’S GOVERNMENT OF THE UNETED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND
【Fターム(参考)】