説明

結像光学素子の製造方法及びそれにより製造された結像光学素子を用いた光走査装置

【課題】 副走査断面内において複数の光束を偏向面に対し斜め方向から入射させて複数の被走査面を走査する走査光学系に用いられる結像光学素子を金型を用いて射出成形で精度良く製造すること。
【解決手段】 複数の光束を偏向手段に副走査方向において斜め方向から入射させ、複数の光束を各光束毎に対応した被走査面に導光する光学的に同一位置に配置され、かつ光学性能が同一の結像光学素子は、副走査方向において光線通過状態が異なるように構成されており、該光学性能が同一の結像光学素子は、光線通過状態が異なる複数の位置において各々光学性能を測定する光学性能測定工程と、結像光学素子の光学機能面の設計値からのズレ量より光学機能面の補正形状を算出する補正形状算出工程と、光学機能面の補正形状を元に成形用の金型の鏡面駒の形状を補正加工する補正加工工程で補正加工された鏡面駒で成形を行う成形工程とを用いて製造されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結像光学素子の製造方法及びそれにより製造された結像光学素子を用いた光走査装置に関し、特にレーザービームプリンターやデジタル複写機やマルチファンクションプリンタ等のカラー画像形成装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりレーザービームプリンター(LBP)等の画像形成装置に用いられる光走査装置においては画像信号に応じて光源手段から光変調され出射した光束を、例えば回転多面鏡(ポリゴンミラー)より成る光偏向器により周期的に偏向させている。そして偏向した光束を、fθ特性を有する結像光学系によって感光性の記録媒体(感光ドラム)面上にスポット状に集束させ、その面上を光走査して画像記録を行っている。
【0003】
この様な光走査装置に用いられる結像光学系を構成する結像光学素子は製造が容易なプラスチックレンズが用いられることが多い。プラスチックレンズは射出成形により、容易に製造することができるという特徴がある。光走査装置では、感光体ドラム面上に集光する光束の像面湾曲を良好にし、かつ感光体ドラム面上の走査線湾曲の低減およびfθ特性を良好にするためプラスチックレンズの光学機能面の形状を非球面形状で設計することが多い。このとき射出成形によれば、光学ガラスを用いる場合に比べて所望の非球面形状を容易に製造することができる。
【0004】
射出成形によりプラスチックからなるレンズを成形する場合、プラスチックの成形収縮により完成したレンズの表面形状が変化するということが一般に知られている。例えば、プラスチックを素材としてレンズを成形する場合を考えると、完成したレンズは金型の鏡面駒で形成されるキャビティの寸法よりも小さくなっている。また光学機能面の形状も同様に鏡面駒の表面形状に対し、成形収縮により変形する。このような誤差が設計許容範囲内にない場合、このようなレンズを用いると光学性能が低下してくる。成形収縮によって生じる光学的な性能変化としては、主走査方向及び副走査方向の焦点ズレや結像位置ズレ(照射位置ズレ)が挙げられる。特に被走査面側に配置される結像光学素子は一般的に肉厚が薄く且つ主走査方向に長いため、金型内の温度分布ムラの影響を多く受け、結像光学素子に反りが発生してくる。結像光学素子の反りに関しては、金型内で温度分布を均一にするような対策をすることである程度の改善が見込まれるが、金型の構造上完全にレンズの反りを無くす事は困難である。しかしながら、成形時に生じる金型からの変位が安定し、成形日時や環境によって大きく変動しないのであれば、この誤差をあらかじめ金型形状で補正することにより、成形品形状を設計許容範囲内にいれることができる。
【0005】
従来より、成形時の収縮や変形分等を盛り込んで鏡面駒を作成する方法が知られている(特許文献1、2)。特許文献1の光学素子の成形方法では、一度成形してレンズの光学機能面の形状誤差を測定し、樹脂の不均一な収縮の影響による形状誤差を相殺するように金型の鏡面駒を修正する方法を開示している。また、特許文献2の光学素子の製造方法では、光学特性の測定結果から像面湾曲を相殺するように一部の光学機能面の形状を補正する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−060857号公報
【特許文献2】特開2002−248666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
画像形成装置としてのカラー画像形成装置においては装置全体のコンパクト化を目的に回転多面鏡(偏向手段)を複数ビームで共用した光走査装置が用いられている。この光走査装置では、偏向手段を挟んで両側に走査光学系を配置している。そして1つの走査光学系では偏向手段の一つの偏向面に対し副走査方向において斜め上下方向から2つの光束を入射させている。そして偏向手段の一方の側の走査光学系で2つの被走査面を走査し、他方の側の走査光学系においても同様に2つの被走査面を走査している。
【0008】
このような光走査装置に用いられる走査光学系は、被走査面毎にfθ特性を有する結像光学系を設けている。一般に結像光学系は複数の結像光学素子より成っている。結像光学系を構成する複数の結像光学系のうち、偏向手段側の結像光学素子は2つの結像光学系で共有し、被走査面側の結像光学素子は結像光学系毎に用いられている。2つの結像光学系では副走査方向斜めから光束を結像光学素子に入射させているため、各結像光学系毎に結像光学素子の使用している場所(光束が入射する位置)(光線通過状態)が副走査方向で異なっている。
【0009】
特許文献1、2に開示されている光学素子の製造方法では、金型を用いて光学素子を製造するとき、光学的に同一位置に配置される光学素子であっても光学素子に入射する光束の入射位置が異なることを想定して製造していない。即ち、光学素子に入射する光束の入射位置による樹脂の収縮の影響による形状誤差を考慮していない。このため、副走査断面内において斜入射で複数の光束を入射させて複数の被走査面を同時に走査する走査光学系に用いられる結像光学素子に対しては、光学機能面の形状誤差を相殺する金型を得ることが困難である。
【0010】
本発明は、副走査断面内において複数の光束を偏向面に対し斜め方向から入射させて複数の被走査面を走査する走査光学系に用いられる結像光学素子を金型を用いて射出成形で精度良く製造することができる結像光学素子の製造方法の提供を目的とする。この他、この製造方法で製造された結像光学素子を用いた光走査装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の結像光学素子の製造方法は、複数の光源手段と、該複数の光源手段から出射した複数の光束を偏向手段の同一偏向面に副走査方向において斜め方向から入射させる入射光学系と、該偏向手段の同一偏向面で偏向された複数の光束を各光束毎に対応した被走査面に導光する複数の結像光学系を含み、前記複数の結像光学系のうち光学的に同一位置に配置され、かつ光学性能が同一の結像光学素子は、各被走査面に対応した光束毎に副走査方向において光線通過状態が異なるように構成されている光走査装置に用いられる前記光学性能が同一の結像光学系の製造方法において、該光学性能が同一の結像光学素子は、光線通過状態が異なる複数の位置において各々光学性能を測定する光学性能測定工程と、該光学性能測定工程で測定された複数の測定データを用いて該結像光学素子の光学機能面の設計値からのズレ量より該結像光学素子の光学機能面の補正形状を算出する補正形状算出工程と、該補正形状算出工程で得られた光学機能面の補正形状を元に該成形用の金型の該結像光学素子の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する補正加工工程と、該補正加工工程で補正加工された鏡面駒で成形を行う成形工程とを用いて製造されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、副走査断面内において複数の光束を偏向面に対し斜方向から入射させて複数の被走査面を走査する走査光学系に用いられる結像光学素子を金型を用いて射出成形で精度良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1における光走査装置の副走査断面図
【図2】本発明の実施例1における光走査装置の主走査断面図
【図3】本発明の実施例1における入射光学系の副走査断面図
【図4】本発明の実施例1における結像光学素子の製造フローの説明図
【図5】(A)、(B)結像光学素子の光学機能面の主走査方向における形状誤差を示す図
【図6】結像光学素子の光学性能を評価する光学性能評価工具の概略を示す図
【図7】被走査面上における光束のスポット径のデフォーカス特性を示す図
【図8】光学性能評価工具で評価した結像光学素子の深度中心位置と設計値を比較する説明図
【図9】(A)〜(D)光学性能評価工具の配置
【図10】(A)、(B)本発明の実施例1における結像光学素子の第2の補正前の像面湾曲量を示す図
【図11】本発明の実施例1における結像光学素子の第2の補正前のfθ特性を示す図
【図12】本発明の実施例1における結像光学素子の第2の補正前の走査線曲がりを示す図
【図13】(A)、(B)本発明の実施例1における結像光学素子の第2の補正後(中心値)の像面湾曲量を示す図
【図14】(A)、(B)本発明の実施例1における結像光学素子の第2の補正後(平均値)の像面湾曲量を示す図
【図15】(A)、(B)本発明の実施例1の比較例における結像光学素子の第2の補正後(9A配置)の像面湾曲量を示す図
【図16】本発明の実施例1における結像光学素子の第2の補正後(中心値)のfθ特性を示す図
【図17】本発明の実施例1における要因切り分けして補正を行った後の走査線曲がりの図
【図18】本発明の比較例における要因切り分けせずに補正を行った後の走査線曲がりの図
【図19】本発明の実施例2における鏡面駒の補正前の走査線曲がりを示す図
【図20】本発明の実施例2における結像光学素子6A以外の要因を切り分けして補正を行った後の走査線曲がりの図
【図21】本発明の実施例2の比較例における全ての要因を切り分けして補正を行った後の走査線曲がりの図
【図22】本発明におけるカラー画像形成装置を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る光走査装置では、複数の光源手段1A、1Bから出射した複数の光束を入射光学系2A、4A(2B、4B)で偏向手段5の同一偏向面5aに副走査方向において斜め方向から入射させている。偏向手段5の同一偏向面5aで偏向された複数の光束Ra、Rbを複数の結像光学系(6A、7A)(6A、7B)で各光束毎に対応した被走査面8A、8Bに導光している。複数の結像光学系のうち光学的に同一位置に配置された結像光学素子7Aと7Bには副走査方向において光線通過状態が異なっている。
【0015】
ここで複数の結像光学系は走査光学系SRの一部を構成している。そして走査光学系SRとを用いて複数の被走査面8A、8Bを走査する。ここで本発明の結像光学素子の製造方法では、このような光走査装置において使用される結像光学素子を成形用の金型を用いて射出成形にて製造するとき次のような工程を用いている。光学性能が同一の結像光学素子の製造方法では、光線通過状態が異なる複数の位置において各々光学性能を測定する光学性能測定工程を用いている。更に、光学性能測定工程で測定された複数の測定データを用いて結像光学素子の光学機能面の設計値からのズレ量より補正形状を算出する補正形状算出工程を用いている。更に補正形状算出工程で得られた光学機能面の補正形状を元に成形用の金型の結像光学素子の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する補正加工工程と、補正加工工程で補正加工された鏡面駒で成形を行う成形工程とを用いている。
【0016】
本発明に係る光走査装置で用いている走査光学系SRのうち1つの結像光学系には、複数の結像光学素子6A、7Aの間にゼロ又は偶数枚の折り返しミラーが配置されている。また他の1つの結像光学系には複数の結像光学素子6A、7Bの間に奇数枚の折り返しミラーM1が配置されている。本発明に係る光走査装置では偏向手段5を挟んで2つの走査光学系SL、SRを配置している。光学性能測定工程では、複数の結像光学素子の中で主走査方向に最も長い結像光学素子は全ての光線通過状態で光学性能が測定される。また複数の結像光学素子が配置される光路上の位置によって異なる光線通過状態の全ての組み合わせにおいて光学性能を評価する。そして光学性能測定工程では複数の結像光学素子の光学性能を被走査面相当位置の複数の像高で測定し、補正形状算出工程では測定された複数の測定データの各像高毎の平均値又は中心値を用いて金型の鏡面駒の補正形状を算出している。また、補正形状算出工程では測定された複数の像高での測定データを用いて金型の鏡面駒の各光線が通過する位置に相当する位置での補正形状を異ならせている。
【0017】
光学性能測定工程において、結像光学素子に関する複数の光線通過状態で測定された複数の測定データは被走査面上における主走査方向又は副走査方向の少なくとも一方の焦点ズレ量である。又は複数の測定データは被走査面上における主走査方向若しくは副走査方向の照射位置ズレ量である。本発明の結像光学素子の光学性能評価方法では、結像光学素子を複数の光線通過状態において光学性能を測定評価している。このとき結像光学素子は、光走査装置への取り付け部位と同じ部位を用いて光学性能評価装置に取り付けられている。
【0018】
[実施例1]
図1は本発明の製造方法で作製された結像光学素子(走査結像光学素子)を有する光走査装置の副走査断面図である。図2は図1の光走査装置の内、偏向手段5を挟んで左側と右側のステーションにおける走査光学系SL、SRの光路を展開した主走査断面図である。図3は図1の本光走査装置に用いられる入射光学系2、4の副走査断面図である。ここで、主走査方向(Y方向)とは偏向手段5の回転軸及び走査光学系SR、SLの光軸(X方向)に垂直な方向(偏向手段で光束が偏向(偏向走査)される方向)である。副走査方向(Z方向)とは偏向手段5の回転軸と平行な方向である。また、主走査断面とは走査光学系SR、SLの光軸と主走査方向とを含む平面である。副走査断面とは走査光学系SR、SLの光軸を含み主走査断面に垂直な断面である。
【0019】
本実施例に係る光走査装置は図1に示すように左側と右側に2つのステーションを有している。2つのステーションは光偏向器5に対し左右対称な構成であるため、本実施例では片側のステーションを中心に説明する。左側と右側の各ステーションにおいて同じ部材には同符号で「´」を付して区別している。
【0020】
図2及び図3において、1A、1B(1´A、1´B)は光源手段(例えば、半導体レーザー1)である。半導体レーザー1の発光部から出射した発散光束はコリメータレンズ2A、2B(2´A、2´B)(以下「コリメータレンズ2」と称する)により略平行光束に変換される。変換された略平行光束は副走査方向のみにパワーを有するシリンドリカルレンズ4A、4B(4´A、4´B)(以下「シリンドリカルレンズ4」と称する)により、ポリゴンミラー5の偏向面5a近傍に主走査方向に長手の線像として結像される。また、3A、3B(3´A、3´B)は開口絞り3であり、被走査面8(8A、8B、8C、8D)上で所望のスポット径が得られるように光束幅を制限している。ここでコリメータレンズ2とシリンドリカルレンズ4は入射光学系の一部を構成している。
【0021】
5は偏向手段としての光偏向器であり、例えば回転多面鏡(ポリゴンミラー)より成り、モータ等の駆動手段(不図示)により図中矢印A方向に一定速度で回転している。6A、7A、7B(6´A、7´A、7´B)はfθ特性を有する結像光学素子(走査結像光学素子)であり、光偏向器5により偏向された複数の光束を各光束毎に対応した感光ドラム面(被走査面)8(8A、8B、8C、8D)上にスポット状に結像させている。結像光学素子6A、7Aで1つの結像光学系を構成している。同様に結像光学素子6A、7Bで1つの結像光学系を構成している。2つの結像光学系で1つの走査光学系SRを構成している。
【0022】
光偏向器5を矢印A方向に回転させることによって、該感光ドラム面8A、8B、8C、8Dを矢印B方向に光走査し走査線を形成し画像記録を行っている。走査光学系SR、SLは副走査断面内において、光偏向器5の偏向面5a又はその近傍と感光ドラム面8A〜8D又はその近傍との間を共役関係にすることにより、偏向面5aの倒れ補正を行っている。結像光学素子6A、6´Aは同じレンズであるが光走査装置内に配置されている場所が異なるために別の記号を用いている。
【0023】
結像光学素子6A(6´A)は、2つの被走査面8A、8B(8C、8D)に向かう光束で共用されている。また、結像光学素子7A、7B、7´A、7´Bは同一のレンズであるが、光走査装置内に配置されている場所が異なるため別の記号をつけて区別している。結像光学素子7A、7B(7´A、7´B)は光学的に同一位置に配置されている。そして、配置場所において、結像光学素子上の副走査方向における光線の通過位置や、後述する取り付け座面などが異なっている。また、光線Raは光源1Aより出射し、光偏向器5の回転軸に垂直な平面P0に対し角度γaの斜入射角を持って偏向面5aに入射している。同様に光線Rbは光源1Bより出射し、平面P0に対し角度γb(|γa|=|γb|)の斜入射角を持って偏向面5aに入射している。夫々の光線Ra、Rbが偏向面5aの近傍C0にて副走査方向において交差するように各部材を構成している。これは光源1´A、1´Bから出射する光線も同様である。
【0024】
図1の各結像光学素子の脇に描いた斜線部は筐体の一部を示しており、結像光学素子の取り付け基準座面の内、斜線部側の座面で筐体と当接するように構成している。
【0025】
本実施例において、結像光学素子6A、7A、7B(6´A、7´A、7´B)(以下「結像光学素子6、7」と略す)は射出成形によって製造されたプラスチックレンズである。
【0026】
本実施例における結像光学素子6、7は図9(A)〜図9(D)に示すように光走査装置に配置される配置と同じ光線通過状態で光線が通過する複数の位置において光学性能が評価される。そしてそれに基づいて結像光学素子6、7は図4に示すような工程(フロー)を用いて製造される。以下に各製造工程について簡単に述べてゆく。
【0027】
光学設計ソフト等で作成した設計値に基づいて、結像光学素子(レンズ)の光学機能面の形状を作成する成形型の鏡面駒形状をまず決定する。鏡面駒はステンレス工具鋼で概略の形状を形成し、光学機能面をNi等の切削加工性のよい金属でメッキすることで後述する補正加工をしやすくしている。
【0028】
上記作成したメッキ部分を任意の形状に削ることで初期に成形するための鏡面駒が完成する。任意の形状については設計値の形状、もしくは使用する硝材が成形によって収縮する比率が分かっていれば、設計値に対して収縮比率分をかけることで、成形収縮によって発生する設計値からの誤差が少なくなる。結果として、鏡面駒の修正するためにメッキの削る量が少なくなるため望ましい。
【0029】
次に作製した鏡面駒を用いて成形を行う(イニシャル成形工程)。成形機の加圧容量やレンズの大きさ、一回の成形サイクルで得られるレンズ個数(取り個数)などで金型の構造が異なっている。したがって全てのレンズが同じ成形条件で「安定した成形」が得られるとは限らない。ここでいう「安定した成形」とは、(イ)光学機能面に局所的な歪み(ヒケ)が発生しない、(ロ)材料の複屈折によるスポット肥大が発生しない、ことを意味している。更に、(ハ)取り個数すべてのキャビティで光学機能面の形状がほぼ同一、(ニ)異なる日時に成形しても光学機能面の形状がほとんど変わらない等ということを意味している。
【0030】
上記の「安定した成形」を得るために、成形時にレンズにかける圧力(保圧)、成形の1サイクルの時間(成形タクトタイム)、金型の内部温度(型温度)といった成形条件を全てのレンズにおいて調整を行っている。
【0031】
上記述べたような成形条件の調整により、1回目の成形品(イニシャル成形品)が得られる。このイニシャル成形品について、レンズの中心部の肉厚、基準面から光学機能面の面頂点までの距離、および光学機能面の形状等を測定することで、レンズ形状を評価してゆく(形状測定工程)。光学機能面の測定についてはフォーム・タリサーフ(テイラー・ホブソン社製)などの測定器を用いて細ピッチでの形状評価を行っている。評価結果の一例を図5(A)、図5(B)に示す。図5(A)は、主走査方向に関して設計形状に対する実際の光学機能面の形状の誤差を示しており、0から遠ざかるほど形状誤差が大きいことを示している(主走査形状誤差)。また図5(B)は測定した主走査方向における光学機能面の形状に対して特定の範囲(例えば10mm幅)で2次関数フィッティングを行い、得られた関数の2階微分値から部分曲率を求めている。そして設計値の部分曲率に対するニュートン本数誤差を算出したものである(主走査ニュートン誤差)。
【0032】
また、図示はしないが、光学機能面を主走査方向に対して所定の分割数で区切り、各分割位置において光学機能面の母線(光学機能面頂点を通る線)法線方向における副走査断面形状を測定し、設計値からのニュートン本数誤差を求める(副走査ニュートン誤差)。上記で得られた主走査形状誤差、主走査ニュートン誤差および副走査ニュートン誤差を修正するような鏡面駒の形状を算出するために、誤差量を関数でフィッティングする必要がある。本実施例における、レンズの光学機能面の形状は以下の表現式により表されている。各レンズ面と光軸との交点を原点とし、光軸方向をx軸、主走査断面内において光軸と直交する軸をy軸、副走査断面内において光軸と直交する軸をz軸とする。このとき、主走査方向と対応する母線方向が、
【0033】
【数1】

【0034】
(但し、Rは曲率半径、k、A、A、A、A10は非球面係数)
で表わされる。また、副走査方向(光軸を含み主走査方向に対して直交する方向)と対応する子線方向が、
【0035】
【数2】

【0036】
ここで c=c+B+B+B+B
(但し、cは光軸上の子線曲率、B、B、B、Bは係数)
で表わされる。尚、光軸外の子線曲率cは各々の位置における母線の法線を含み主走査面と垂直な面内に定義されている。
【0037】
このような設計値に対して、主走査方向における形状誤差をフィッティングするために以下に示す関数を用いる。但し、E、E、E、E、E10、E12・・・は非球面係数である。
【0038】
Δx=E+E+E+E+E1010+E1212+E1414+E1616・・・(式3)
次に副走査方向断面におけるニュートン本数誤差をフィッティングするために以下に示す関数を用いる。但し、cΔは光軸上の子線曲率誤差、F、F、F、F、F10は係数である。
【0039】
【数3】

【0040】
ここで、c´=cΔ+F+F+F+F+F1010
上記のように、イニシャル成形品の光学機能面の形状誤差データを(式3)および(式4)を使って最小自乗近似することで全ての光学機能面について関数近似できた。この関数をもとの鏡面駒の形状関数に付加してやれば、次に成形した走査レンズの全ての光学機能面の形状は設計値形状に近づくことになる(第1の補正工程)。
【0041】
このとき、鏡面駒の主走査方向の長さに対する、成形したレンズにおける光学機能面の主走査方向の長さの比率がわかっていれば、(式3)および(式4)のYの係数に関する部分にこの比率をYの次数に応じてかけてやる。これで、成形したレンズの光学機能面の形状より設計値に近づけることができるので望ましい。そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工する。このとき、光学機能面の修正をすると共に、レンズ中心部の肉厚や基準面に対する光学機能面の頂点位置を修正するために、金型に対する鏡面駒の相対位置を調整している。
【0042】
次に、再加工された鏡面駒で成形したレンズ(成形レンズ)について、光学機能面の形状測定およびレンズ中心部の肉厚や基準面に対する光学機能面の頂点位置を測定し、設計値に対する形状誤差が許容範囲に入っているかどうかを確認する(光学評価)。
【0043】
ただし、ここまでの工程は、レンズの外形の副走査方向の中心位置における形状誤差を評価したものであって、実際に光線が通過している部位での形状評価ではない。そのような理由もあり、形状測定と並行して、このレンズを用いて光学性能を評価する(焦点ずれ量測定工程)。光学性能の評価のために、図6に示すような評価工具(光学性能評価装置)を製作する。この評価工具は、光走査装置の構成と同じ光学配置になるように、平板上に半導体レーザー1、コリメータレンズ2、シリンドリカルレンズ4、ポリゴンミラー(光偏向器)5、および結像光学素子6A,7Aを配置している。そして、結像光学素子6A,7Aを交換できるようにすることで全てのレンズの光学性能を評価することができる。観測系については、半導体レーザー1の発光点から感光体ドラム面8までの距離と同じになる位置に対物レンズ12及びCCDカメラ13を配置する。
【0044】
この観測系(対物レンズ12とCCDカメラ13)は図6に示すX方向(レール14の矢印方向)、Y方向(レール15の矢印方向)、およびZ方向に動く。そして、各位置での主走査方向および副走査方向のスポット径(PSF、LSF)やピーク光量を計測している。具体的には、観測系を測定したい像高(主走査方向の像高)に移動させ、次にポリゴンミラー5の角度を結像光学素子6A、7Aのfθ係数から算出した角度にあわせ、半導体レーザー1を発光させてスポットがCCDカメラ13の観測域に入るようにする。
【0045】
次に、観測系をX方向に等ピッチに移動させるとともに、スポットの重心位置が常にCCD13の中心にくるように観測系をY方向およびZ方向に移動させる。このときの観測系の位置とスポット径をパソコン上に出力させることで、図7に示すような特定像高におけるスポット径のデフォーカス特性(焦点位置ズレ量)を観測することができる。そして、このデフォーカス特性から主走査方向(もしくは副走査方向)のスポット径の上限規格を横切るX座標値A点およびB点を算出する。そしてA点とB点の平均を深度中心(ピント位置)(焦点位置ズレ量)として、図8に示すように数点の評価像高におけるピント位置を求める。図8の実線は実際に結像光学素子6A、7Aを測定したときのピント位置であり、点線は設計値によるピント位置を示す。この実測と設計値との差(ズレ量)が結像光学素子6A、7Aの内部起因(GIなど)や形状評価位置と光線通過位置の差、形状評価誤差などと予測される量である。また、設計の像面位置における主走査方向および副走査方向の照射位置を観測系の位置情報から出力することで、fθ特性や走査線湾曲量を評価することができる。
【0046】
本実施例では図1に示した通り、偏向手段5により偏向され異なる被走査面8A、8B、8C、8Dに向かう複数の光束が結像光学素子6A、7A、7B(6´A、7´A、7´B)の副走査方向の異なる位置を通過するように構成されている。そのため、結像光学素子の内部の屈折率分布や、結像光学素子の副走査方向の反りの影響などが各被走査面に向かう光線毎に異なっている。よって、従来のように一つの光線通過状態のみでの光学評価では、全ての被走査面において満足できる金型の補正加工を行うことができなかった。
【0047】
そこで、本実施例では、図9(A)〜図9(D)に示したように、4種類(4パターン)の光学性能の評価工具を作製し、図1に示す各被走査面8A〜8Dに至る全て(4パターン)の光線通過状態で評価した結果を用いて、鏡面駒の修正を行うようにしている。
【0048】
図9(A)は、図1における被走査面8Aに向かう光線Raが通過する状況を再現した評価工具である。一般的に結像光学素子には、筐体への取り付け基準座面が設けられている。被走査面8Aに向かう光線Raの場合は、結像光学素子6A及び7Aは共にZ1座面で筐体に当接するように構成されている。評価工具においても製品と同じ取り付け状態にすることで、Z座面からレンズ光軸までの距離のズレなどの影響も含め評価することが出来るようになっている。
【0049】
同様に、図9(B)は、評価工具中に2枚の折り返しミラーJM1、JM2を配置する事で、図1における被走査面8Bに向かう光線Rbが通過する状況を再現している。また、図9(C)は、図1における被走査面8Cに向かう光線R´bが通過する状況を再現している。図9(D)は、図1における被走査面8Dに向かう光線R´aが通過する状況を再現している。
【0050】
結像光学素子6Aと7Aの間にある折り返しミラーの数はゼロ枚、結像光学素子6Aと7Bの間にある折り返しミラーの数は1枚(奇数)で、折り返しミラーの数の偶奇が異なっている。もし結像光学素子6Aと7Bの間の折り返しミラーの数が2枚(偶数)であったとしたら、光線Rbは結像光学素子7BのZ1座面側を通過する事になる。これは折り返しミラーが無いとした場合の被走査面8Aに至る光線通過状態と同じである。折り返しミラーの数の偶奇が揃っていて、偏向器5を挟んで対象に配置されている場合の光線通過状態は2パターンであるが、偶奇が異なっている場合は、光線通過状態が以下の表に示すように4パターンと多くなる。
【0051】
以下の表1は、各光線が通過するレンズの位置と評価工具の関係をまとめたものである。
【0052】
【表1】

【0053】
図10(A)は図9(A)〜図9(D)の光線通過状態で測定したときの主走査方向の深度中心を像高毎にプロットしたもの(主走査像面湾曲)(照射位置ズレ量)である。図10(B)は同様に副走査方向の深度中心を像高毎にプロットしたもの(副走査像面湾曲)である。図11は被走査面上における主走査方向の実測の結像位置とy=fθで決まる理想の像高との差(fθ特性)(照射位置ズレ量)をプロットしたものである。図12は被走査面上における副走査方向の結像位置を像高毎にプロットしたもの(走査線湾曲)である。図12の縦軸のプラス方向は図9の+Z方向に対応している。これらのグラフに示したように、全く同じレンズを測定したにもかかわらず光線通過状態毎に主走査像面湾曲、副走査像面湾曲にバラツキが確認される。これは、先に述べた様なレンズ内部の屈折率分布や異なる光線通過位置での面形状誤差、レンズ座面誤差などが原因と考えられる。
【0054】
図12の走査線曲がり(走査線湾曲)に関して、曲がりの向きを含めてバラツキが大きいのはレンズ自体が評価工具に対して上下逆さに取り付いている(図9(A)と図9(D)を比較)事もある。しかしながら、走査線曲がりの発生原因毎に曲がりの方向が評価工具間で異なることが大きい。
【0055】
表2は走査線曲がりを発生させる主な原因とそれが発生した時の各評価工具上で発生する走査線曲がりの向きの符号の関係をまとめたものである。例えば、副走査像面湾曲が発生し評価工具図9(A)で+方向の走査線曲がり(軸外に向かうに従い+方向に結像位置が変化)の場合、図9(D)においても、+方向の走査線曲がりが発生する。一方、図9(B)、図9(C)の評価工具で測定すると−方向の走査線曲がりとなって現れる。また、結像光学素子7A、7Bが副走査方向の反りにより+方向に走査線が曲がった場合、図9(D)ではレンズが上下反転しているので、−方向の曲がりとなる。以下同様に表を埋めると表2のような関係となる。
【0056】
【表2】

【0057】
ここまでは、図9(A)〜図9(D)の評価工具を用いて測定した主走査像面湾曲、副走査像面湾曲、fθ特性、走査線曲がりの実測値の説明である。
【0058】
次に、評価工具で得られた実測値を用いてそれぞれの光学性能を補正した結果について説明を行う。図13(A)は図10(A)で測定された主走査像面湾曲の各像高における中心値を設計値(ほぼゼロ)に戻すように鏡面駒の形状を補正した結果である。図13(B)は同様に副走査像面湾曲の中心値で補正した結果である。同様に図14(A)、図14(B)は主走査像面湾曲及び副走査像面湾曲の平均値で補正を行った結果である。
【0059】
図13、図14では全ての像高でゼロに補正されている光線通過状態は、図9(A)〜図9(D)で一つも無いが、ゼロからのズレ量は小さくバランスされている。一方、これまで行ってきたレンズ面の一つの光線通過状態での測定データを基に補正を行ったものが図15(A)、図15(B)である。図15(A)は図9(A)の光線通過状態での測定結果をゼロに補正した結果であり、−153mm像高の図9(B)の光線通過状態や、+153mm像高の図9(C)の光線通過状態で補正残差が大きく存在していることが分かる。また図15(B)では、同様に図9(A)の光線通過状態ではゼロに補正できているが、図9(B)〜図9(D)の光線通過状態を平均すると−像高から+像高に向かうに従い−方向の像面傾きが残存していることが分かる。図16は図11で測定したfθ特性について、各光線通過状態の中心値で補正を行った結果である。これにより、実画像上問題ないレベルにまで鏡面駒の補正が行えていることがわかる。
【0060】
以上説明したようにカラー画像形成装置に用いられる光走査装置は、同じレンズをいろいろな光線通過状態の位置で使用されるため、ある一つの光線通過状態が良いというよりも、全ての光線通過状態でバランスさせた鏡面駒の補正の方が望ましい。よって、これまで行われていたようなある一つの光線通過状態の位置で得られた測定データを用いた評価では不十分であることが分かる。
【0061】
次にカラー画像形成装置に用いられる光走査装置の光学性能の中でも最も重要な光学性能の内の一つである走査線曲がりについての鏡面駒の補正について説明する。図12のグラフを補足ために、各像高で走査線曲がりをプロットした数値を表3にまとめている。
【0062】
【表3】

【0063】
ここで、表2で説明した各要因と符号の関係を元に、実測値の要因切り分けを行っていく(図4の要因切り分け)。副走査像面湾曲の起因の走査線曲がりをdZs(y)、結像光学素子6A、6´Aの反り起因の走査線曲がりをdZ1(y)、結像光学素子7A(7´B)、7´A(7´B)の反り起因の走査線曲がりをdZ2(y)とする。また各評価工具9A〜9Dでの実測値をdZA(y)、dZB(y)、dZC(y)、dZD(y)とすると、
dZs=(dZA+dZB)/2
dZ1=(dZA+dZD)/2
dZ2=(dZA+dZC)/2
となる。この関係式を元に要因切り分けすると、表4のように走査線曲がりを成分分解することが出来る。
【0064】
【表4】

【0065】
表4を基に各成分毎に鏡面駒の修正を行う。dZs関しては、先に述べたように副走査像面湾曲自体を補正することで走査線曲がりも補正される。dZ1、dZ2に関してはレンズの反りを無くすように各レンズの母線を曲げるか、副走査方向のチルト角をレンズの長手方向(主走査方向)に変化させるような面で補正することが出来る。
【0066】
〔母線曲げの形状式〕
Z=G+GY+G+G+G+・・・ ・・・(式5)
〔副走査方向面チルトの形状式〕
X=(H+HY+H+H+H+・・・)Z ・・・(式6)
このような補正を行った結果は図17、表5である。
【0067】
【表5】

【0068】
完全にゼロにならないのは、副走査像面湾曲を補正するときに図9(A)〜図9(D)の平均値を使ったため、各光線通過状態と平均値とのズレに起因する分が残存しているためである。但し、最大値と最小値の差が4.3μmと600dpi(42.3μm)1画素の約1/10に補正することが出来ている。
【0069】
一方、図9(A)で示した評価工具で評価し、それを曲がりの発生原因の中でも主要因である結像光学素子7A、7B、7´A、7´Bのものであると仮定し鏡面駒の補正を行った結果が、図18、表6である。
【0070】
【表6】

【0071】
図9(A)の光線通過状態で走査線曲がりを補正したにも関わらず、要因分解していないため、副走査像面湾曲が補正され、走査線曲がりが発生する結果となっている。また、他の状態においても走査線曲がりが残存しており、約1/2画素の走査線曲がりとなっている。カラー画像形成装置では、走査線の重なりズレ(色ズレ)により、色付きや色味の変化が顕著となるため、走査線曲がりを可能な限り小さく補正することが非常に重要である。
【0072】
以上のように走査線曲がりの要因分解、像面湾曲の補正ターゲットを複数の光線通過状態で測定した中心値又は平均値を用いて補正することが非常に重要であることが理解できる。また、筐体に実際に取り付ける状態と同じ状態で評価工具に取り付けることで(筐体と当接する座面と同じ座面を使用することで)、結像光学素子の座面の誤差要因も含めた光学性能の評価及び鏡面駒の補正をすることができる。
【0073】
上記のようにして決めた補正量を元に、新たに再設計を行った光学機能面の形状関数と設計値の形状関数の差分を(式3)、(式4)、(式5)、(式6)を用いて算出する(図4の補正目標算出)。この関数を鏡面駒に付加することで補正後成形した結像光学素子による光学特性が設計値に近づくことができる(図4の第2の補正工程)。このとき、鏡面駒の主走査方向の長さに対する、成形したレンズにおける光学機能面の主走査方向の長さの比率がわかっていれば、(式3)、(式4)、(式5)、(式6)のYの係数に関する部分にこの比率をYの次数に応じてかけてやる。これにより、成形した結像光学素子の光学性能をより設計値に近づけることができるので望ましい。
【0074】
そして、新たに求めた関数をもとに鏡面駒を再加工をする。そして再度成形した(図4の再成形)結像光学素子の光学性能を図9(A)〜図9(D)の評価工具を用いて計測し(光学評価)、設計値とのピント誤差、fθ特性及び走査線曲がりなどの光学特性が許容範囲内かどうか判定する。判定の結果、許容範囲内であれば(OK)補正を終了させる(図4の本成形)。逆に許容範囲外であった場合(NG)は、再度光学特性を測定し、その結果を用いて特定面の光学機能面形状を再設計し鏡面駒の補正形状を見直す工程を各光学特性が許容範囲内になるまで繰り返す。
【0075】
本実施例ではレンズの収縮を異方的に考えたが、形状によっては等方的に考えたほうが良い場合もある。また、使用する樹脂の収縮率が小さければ、鏡面駒の形状を決定する際に収縮の影響を考える必要はない。また、本実施例では主走査像面湾曲の補正及び副走査像面湾曲の補正に関して、4つの測定値の中心値又は平均値の少なくとも一方を用いて一つの補正形状で補正を行った。これに限らず4つ測定値を用い4つ別々の補正形状で行ってもかまわない。その場合は、結像光学素子6A及び7Aなどレンズの副走査方向の位置において、主走査方向の曲率及び副走査方向の曲率を独立した加工形状で鏡面駒を加工すればよい。このようにする事で、4つのパターンの光線通過状態での光学性能のバラツキが更に抑えることが原理的に可能となる。
【0076】
また、本実施例のように第1の補正は形状評価、第2の補正は光学評価と分けずに、形状評価と光学評価を同時に行って、その結果を用い鏡面駒の加工を行っても何ら構わない。また、本実施例に示したように形状測定データだけから鏡面駒の補正を行った後(図4の第1の補正)、4つのパターンの光線通過状態で光学性能を評価し規格内であれば、その後の鏡面駒の補正を行う必要はない。
【0077】
重要なことは、これまで1つのパターンの光線通過状態でしか光学性能保証されていなかった結像光学素子を実際の光走査装置に使用される4つのパターンの光線通過状態で光学性能の保証を行っている点である。これにより、これまで評価していなかったステーションを含め4ステーション全ての不良率の低減を容易にすることができる。
【0078】
更に本実施例では光走査装置で用いられる各ステーションにおいて、同一レンズに入射する光線の副走査方向の位置が異なるように構成された光走査装置に適用されるばかりではない。一つの光走査装置内の同じ位置に配置される外形形状の異なるレンズにも同様に適用される。例えば、図1に示すように結像光学素子7Aに対し結像光学素子7BではZ1座面側には光線が通過しないため、Z1側の外形形状をカットし副走査方向の高さを抑えたレンズとしても良い。同様に、結像光学素子7´Aに対し結像光学素子7´BはZ2座面側には光線が通過しないため、Z2側の外形形状をカットしても良い。このように光線が通過する必要最小限の高さのレンズとしたとき、結像光学素子7Aと7´Aではレンズ面の形状は同じ非球面式から定義されるが、それぞれは異なるレンズ形状となる。このようなタイプの結像光学素子からなる光走査装置においても、光走査装置と同じ光線通過状態且つ同じレンズの取り付け状態で評価することが全てのステーションで光学性能を良好に保証する上で重要となる。
【0079】
[実施例2]
図19は本発明の実施例2における鏡面駒を補正する前の走査線曲がりを表したグラフであり、各プロットした点の数値データが表7である。
【0080】
【表7】

【0081】
本実施例は結像光学素子6Aの副走査方向の屈折力(パワー)φs1が結像光学素子7Aの副走査方向の屈折力φs2よりも小さい場合についてのものである。例えば、φs1がφs2の20%以下のような場合を想定している。
【0082】
|φs1|<0.2×|φs2|
本実施例のように偏向器に近い結像光学素子6Aの副走査方向の屈折力が小さい場合、結像光学素子の副走査方向への反りにより発生する走査線曲がりの敏感度が低い。このため、結像光学素子6Aにある程度の反りが発生したとしても、被走査面上での走査線曲がりは実質無視してよいものとなる。一方、最も被走査面に近い結像光学素子7Aは一般的に偏向器に近い結像光学素子6Aよりも肉厚も薄く、且つ主走査方向の長さも長いため、副走査方向に反りやすい傾向がある。更に、副走査方向の結像倍率を下げる事で副走査結像倍率の一様性を確保しやすくする事とピッチムラやその他の光学性能の敏感度が下がる。このため、一般的に結像光学素子7Aには結像光学素子6Aよりも強い屈折力が与えられる。その結果として、結像光学素子7Aが副走査方向に反ると走査線曲がりが大きくなる弊害が生じてしまう。ここでは、結像光学素子6Aの副走査方向の反りで発生する走査線曲がりは1μmと設定した。このように結像光学素子6Aの走査線曲がりの敏感度が低い場合は、全てのパターンでの光線通過状態で走査線曲がりを測定する必要はなく、評価装置(光線通過状態)を削減することが可能である。
【0083】
実施例1でも述べたが、副走査像面湾曲による走査線曲がりの成分は図9(A)と図9(B)で測定されたデータから求まり、結像光学素子7Aによる走査線曲がりの成分は図9(A)と図9(C)で測定されたデータから求めることができる。よって、図9(D)の光線通過状態での測定を省くことができる。図20及び表8は図9(D)の光線通過状態での測定は行わず、副走査像面湾曲成分と結像光学素子7Aの反りで発生する成分のみを補正した場合である。
【0084】
【表8】

【0085】
また、図21及び表9は上記結果と比較するために、実施例1と同様に全ての要因毎に補正を行った結果である。
【0086】
【表9】

【0087】
表8及び表9より、副走査方向の結像位置の最大値と最小値の差に関し、走査レンズ6Aの成分を省いたものは4.85μmであり、全ての要因について補正したものは4.32μmであることが分かる。よって、補正方法の違いによる差は1μm以下と微小量であることが分かる。このように、偏向器に近く主走査方向のレンズの長さが短い結像光学素子6Aの副走査方向の屈折力が十分小さい時には、測定を省いても実質問題となるレベルの補正残差とはならないことが分かる。よって、走査線曲がりの敏感度が高い最も主走査方向に長い結像光学素子について、実際に光走査装置で使用される全てのパターンでの光線通過状態で光学性能を評価すればよい。
【0088】
以上のように各実施例によれば、射出成形により製造された結像光学素子の光学性能を複数の光線通過状態で測定評価し、その複数の測定データの平均値又は中心値を元に補正形状を算出し、鏡面駒の補正加工を行っている。これによって光走査装置の実使用状態の全てで焦点ズレや結像位置ズレといった光学性能を保証し、高精度なプラスチック材より成るレンズを得ることができる。また、複数の測定データを元に、各結像光学素子毎に光学性能を悪化させる要因に分解し、各要因毎に各結像光学素子での光学機能面の補正形状を算出し、鏡面駒の補正加工を行う。これにより光走査装置の実使用状態の全てで特に副走査方向の結像位置ズレといった光学性能を保証することができる。
【0089】
[カラー画像形成装置]
図22は、本発明のカラー画像形成装置の実施例の副走査方向の要部断面図である。同図において、符号100はカラー画像形成装置を示す。このカラー画像形成装置100には、パーソナルコンピュータ等の外部機器102からコードデータ(色信号)Dcが入力する。このコードデータDcは、カラー画像形成装置100内のプリンタコントローラ101によって、Yi(イエロー)、Mi(マゼンタ)、Ci(シアン)、Bki(ブラック)の各色画像データに変換される。そして実施例1〜2に示した構成を有する光走査装置11に入力される。そして、この光走査装置11からは、画像データYi、Mi、Ci、Bkiに応じて変調された光ビームが出射され、この光ビームによって感光体ドラム21〜24の感光面を主走査方向に走査する。
【0090】
静電潜像担持体(感光体)たる感光体ドラム21〜24は、モータ(不図示)によって反時計廻り(R方向)に回転させられる。そして、この回転に伴って、感光ドラム21〜24の感光面は光ビームに対して、主走査方向と直交する副走査方向に移動する。感光体ドラム21〜24の上方には、感光体ドラム21〜24の表面を一様に帯電せしめる帯電ローラ(不図示)が表面に当接するように設けられている。そして、帯電ローラによって帯電された感光体ドラム21〜24の表面に、光走査装置11によって走査される光ビームが照射されるようになっている。
【0091】
先に説明したように、光ビームは、画像データYi、Mi、Ci、Bkiに基づいて変調されており、この光ビームを照射することによって感光体ドラム21〜24の表面に静電潜像を形成せしめる。この静電潜像は、上記光ビームの照射位置よりもさらに感光ドラム21〜24の回転方向の下流側で感光体ドラム21〜24に当接するように配設された現像器31〜34によって可視のトナー像として現像される。現像器31〜34によって現像されたトナー像は、感光ドラム21〜24の上方で、感光体ドラム21〜24に対向するように配設された中間転写ベルト103上で、一旦4色のトナー像が転写されカラー画像(カラートナー像)として形成される。そして、中間転写ベルト103上に形成されたカラートナー画像は転写ローラ(転写部)104によって被転写材たる用紙108上に転写される。用紙108は用紙カセット107内に収納されている。
【0092】
未定着トナー像を転写された用紙108はさらに定着器へと搬送される。定着器は内部に定着ヒータ(図示せず)を有する定着ローラ105とこの定着ローラ105に圧接するように配設された加圧ローラ106とで構成されている。転写部104から搬送されてきた用紙108を定着ローラ105と加圧ローラ106の圧接部にて加圧しながら加熱することにより用紙108上の未定着トナー像を定着せしめる。そして、定着された用紙108はカラー画像形成装置100の外に排出させられる。109はレジストレーションセンサであり、中間転写ベルト103上に形成された、Y、M、C、Bkのレジストレーションマークを読取る事で、各色の色ずれ量を検知する。その検出結果を光走査装置11にフィードバックすることで、色ずれのない高品位なカラー画像を形成することを可能にしている。
【0093】
図22においては図示していないが、プリントコントローラ101は、先に説明したデータの変換だけでなく、カラー画像形成装置100内の各部や、光走査装置11内のポリゴンモータなどの制御も行う。
【符号の説明】
【0094】
1.光源手段(半導体レーザー・半導体レーザーアレイ)
2.集光レンズ(コリメーターレンズ)開口絞り 3.開口絞り
4.シリンドリカルレンズ 5.偏向手段(ポリゴンミラー)
6.走査結像光学素子(fθレンズ) 7.走査結像光学素子(fθレンズ)
8.被走査面(感光体ドラム) 8.被走査面(感光体ドラム)
12.対物レンズ 13.CCDカメラ 17.BDレンズ
18.BDミラー 19.BDセンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光源手段と、該複数の光源手段から出射した複数の光束を偏向手段の同一偏向面に副走査方向において斜め方向から入射させる入射光学系と、該偏向手段の同一偏向面で偏向された複数の光束を各光束毎に対応した被走査面に導光する複数の結像光学系を含み、前記複数の結像光学系のうち光学的に同一位置に配置され、かつ光学性能が同一の結像光学素子は、各被走査面に対応した光束毎に副走査方向において光線通過状態が異なるように構成されている光走査装置に用いられる前記光学性能が同一の結像光学系の製造方法において、
該光学性能が同一の結像光学素子は、光線通過状態が異なる複数の位置において各々光学性能を測定する光学性能測定工程と、該光学性能測定工程で測定された複数の測定データを用いて該結像光学素子の光学機能面の設計値からのズレ量より該結像光学素子の光学機能面の補正形状を算出する補正形状算出工程と、
該補正形状算出工程で得られた光学機能面の補正形状を元に該成形用の金型の該結像光学素子の光学機能面に対応する鏡面駒の形状を補正加工する補正加工工程と、該補正加工工程で補正加工された鏡面駒で成形を行う成形工程とを用いて製造されることを特徴とする結像光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記複数の結像光学系は、各々複数の結像光学素子を有しており、該複数の結像光学素子の中で主走査方向に最も長い結像光学素子は前記光学性能測定工程で全ての光線通過状態で光学性能が測定されることを特徴とする請求項1に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記光学性能測定工程では、前記結像光学素子が配置される光路上の位置によって異なる光線通過状態の全ての組み合わせにおいて光学性能を評価することを特徴とする請求項1又は2に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記走査光学系のうち1つの結像光学系には、複数の結像光学素子の間にゼロ又は偶数枚の折り返しミラーが配置されており、他の1つの結像光学系には複数の結像光学素子の間に奇数枚の折り返しミラーが配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記光学性能測定工程では前記結像光学素子の光学性能を被走査面相当位置の複数の像高で測定し、前記補正形状算出工程では測定された複数の測定データの各像高毎の平均値又は中心値を用いて前記金型の鏡面駒の補正形状を算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記光学性能測定工程では、前記結像光学素子の光学性能を被走査面相当位置の複数の像高で測定し、前記補正形状算出工程では測定された複数の像高での測定データを用いて前記金型の鏡面駒の各光線が通過する位置に相当する位置での補正形状を異ならせたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記光学性能測定工程において、前記結像光学素子に関する複数の光線通過状態で測定された複数の測定データは被走査面上における主走査方向又は副走査方向の少なくとも一方の焦点ズレ量であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記光学性能測定工程において、前記結像光学素子に関して複数の光線通過状態で測定された複数の測定データは被走査面上における主走査方向の照射位置ズレ量であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記光学性能測定工程において、前記結像光学素子に関し、複数の光線通過状態で測定された複数の測定データを元に、前記補正形状算出工程では各結像光学素子毎に光学性能に相当する要因を分解し、各要因毎に各結像光学素子の補正形状を算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の結像光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記光学性能測定工程において、前記結像光学素子に関し、複数の光線通過状態で測定された複数の測定データは副走査方向の照射位置ズレ量であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の走査結像光学素子の製造方法。
【請求項11】
複数の光源手段と、該複数の光源手段から出射した複数の光束を偏向手段の同一偏向面に副走査方向において斜め方向から入射させる入射光学系と、該偏向手段の同一偏向面で偏向された複数の光束を各光束毎に対応した被走査面に導光する複数の結像光学系を含み、前記複数の結像光学系のうち光学的に同一位置に配置され、かつ光学性能が同一の結像光学素子は、各被走査面に対応した光束毎に副走査方向において光線通過状態が異なるように構成されている光走査装置に用いられる前記光学性能が同一の結像光学系の光学性能評価方法において、
該結像光学素子を複数の光線通過状態において光学性能を測定評価することを特徴とする光学性能評価方法。
【請求項12】
前記結像光学素子は、前記光走査装置への取り付け部位と同じ部位を用いて光学性能評価装置に取り付けられていることを特徴とする請求項11に記載の光学性能評価方法。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載した結像光学素子の製造方法によって製造された結像光学素子を有することを特徴とする走査光学系。
【請求項14】
請求項13に記載の走査光学系を有することを特徴とする光走査装置。
【請求項15】
請求項14に記載の光走査装置と、外部機器から入力した色信号を異なった色の画像データに変換して光走査装置に入力せしめるプリンタコントローラを備えたことを特徴とするカラー画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2012−3055(P2012−3055A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138258(P2010−138258)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】