説明

結晶形モニタリング方法及び結晶形モニタリング装置

【課題】希釈剤あるいは賦形剤と混合された製品やプラスチック容器などに包装された製品における多形の定量定性分析を可能とする。
【解決手段】照射部3が、パルス状のテラヘルツ波を被検体1に照射し、検出部4が、被検体1を透過したテラヘルツ波を検出し、計算制御部5が、検出したテラヘルツ波から被検体1の吸収特性スペクトルを取得し、被検体1の吸収特性スペクトルを蓄積部51に格納した様々な結晶形の吸収特性スペクトルと比較することで、被検体1に含まれる結晶形を同定することができる。また、目的の結晶形に合成された原料が、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤と混合して錠剤成型された製品や、プラスチック容器などに包装された錠剤をそのまま分析することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いて結晶形をモニタリングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多形とは、ある化学物質が同一の化学組成であるにもかかわらず、複数の異なる結晶形を取る現象のことである。多形の物理的・化学的な性質は結晶形、すなわち分子の配列によって異なる。さらに、複数の化学組成からなる共結晶を形成すると、単一化合物のみから構成される結晶では得られない機能・物性の発現が可能となる。また、D体、L体の混合比によって結晶形や性質が異なることが知られている。
【0003】
医薬品においては、多形によって生体内における動態が変化するため、薬効に大きな差異を生じるなどの影響が知られている(非特許文献1,2)。そのため、医薬品の製造工程にもおいて多形を制御することが重要となる。多形の制御には、化学組成だけでなく、結晶形の把握が重要である。結晶形の解析を行う手法としては、X線回折法、熱分析法、ラマン分光法、および赤外分光法が挙げられる。
【0004】
多形は、熱力学的な最安定構造だけでなく、準安定な構造をとることにより発現するため、その結晶形が変化しやすいという特徴がある。様々な条件が付加される製造工程において、結晶形の構造変化が起こらないことが重要である。医薬品では、目的の結晶形に合成された原料が、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤と混合する工程や錠剤成型といった工程において結晶形が安定に保持されているかを確認することが品質管理においては重要となる。そのため、結晶形の合成時だけでなく、各工程における結晶形のモニタリングが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】上野高裕、外5名、「FT−ラマン分光法を用いた製剤中の主薬結晶多形及び無晶形の簡易定量法」、YAKUGAKU ZASSHI、社団法人日本薬学会、2005年、第125巻、第10号、p.807-814
【非特許文献2】加藤喜章著、「結晶多形の最新技術と応用展開−多形現象の基礎からデータベース情報まで−」、シーエムシー出版、2005年8月31日、p.181-191
【非特許文献3】K. LIEN NGUYEN, et al., "Terahertz time-domain spectroscopy and the quantitativemonitoring of mechanochemical cocrystal formation", nature materials, 2007, vol. 6, p.206-209
【非特許文献4】Andrew V. Trask, et al., "Physical stability enhancement of theophylline via cocrystallization", International Journal of Pharmaceutics, 2006, vol. 320, p.114-123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の結晶形の解析方法は、精製した試料を直接分析するものであり、原料となる医薬品と希釈剤あるいは賦形剤を用いて調製した各種医薬製剤の形状や、プラスチック容器などに包装された錠剤をそのまま分析することは、賦形剤や容器材料からの信号による妨害が大きいため、結晶形のモニタリングに適用できないという問題があった。
【0007】
FTラマン分光法については、賦形剤を用いて調製した錠剤モデル中の多形分析の報告があるものの、プラスチック容器などに包装された錠剤をそのまま分析することは、スペクトルが重なるため、やはり難しいという問題があった(非特許文献1)。
【0008】
他方、周波数0.1〜3THzの電磁波(以下、「テラヘルツ波」と称する)を用いた定量定性分析法、例えばテラヘルツ時間領域分光法は、分子や結晶構造の安定において重要となる水素結合などの分子間、分子内の弱い相互作用による振動モードの解析法として有用である(非特許文献3)。また、0.1〜3THzの電磁波は、プラスチック、紙、木、セラミクスなどの可視光を透過しない材料を透過することが特徴であり、高い透過性を活かしたセキュリティー応用(例えば、隠匿物検査、郵便物非破壊検査など)も注目されている。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、希釈剤あるいは賦形剤と混合された製品やプラスチック容器などに包装された製品における多形の定量定性分析を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明に係る結晶形モニタリング装置は、同一の化学組成であるにもかかわらず複数の異なる結晶形を取る多形を持つ化学物質を含む被検体の結晶形を同定する結晶形モニタリング方法であって、前記被検体にパルス状のテラヘルツ波を照射するステップと、前記被検体を透過したテラヘルツ波を検出するステップと、検出した前記テラヘルツ波に基づいて吸収特性スペクトルを取得するステップと、取得した前記吸収特性スペクトルを、蓄積手段に格納された結晶形の正規化した吸収特性スペクトルと比較して前記被検体に含まれる結晶形を同定するステップと、を有することを特徴とする。
【0011】
第2の本発明に係る結晶形モニタリング方法は、同一の化学組成であるにもかかわらず複数の異なる結晶形を取る多形を持つ化学物質を含む被検体の結晶形を同定する結晶形モニタリング装置であって、前記被検体にパルス状のテラヘルツ波を照射する照射手段と、前記被検体を透過したテラヘルツ波を検出する検出手段と、検出した前記テラヘルツ波に基づいて吸収特性スペクトルを取得する取得手段と、結晶形の正規化した吸収特性スペクトルを格納する蓄積手段と、取得した前記吸収特性スペクトルを、前記蓄積手段に格納された結晶形の正規化した吸収特性スペクトルと比較して前記被検体に含まれる結晶形を同定する同定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、希釈剤あるいは賦形剤と混合された製品やプラスチック容器などに包装された製品における多形の定量定性分析を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態における結晶形モニタリング装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】実施例1における被検体の吸収特性スペクトルを示す図である。
【図3】実施例2における被検体の吸収特性スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態における結晶形モニタリング装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示す結晶形モニタリング装置10は、被検体1を収容するチャンバ11を載置する載置部2、被検体1にパルス状のテラヘルツ波を照射する照射部3、被検体1を透過したテラヘルツ波を検出する検出部4、検出部4が検出したテラヘルツ波に基づいて被検体1の吸収特性スペクトルを求め、被検体1の構造の帰属を行う計算制御部5、被検体1の雰囲気の圧力を制御する圧力調整部6、および被検体1の温度を制御する温度調整部7を備える。
【0016】
被検体1は、チャンバ11内のホルダ12により、テラヘルツ波の照射方向(図1において上下方向)に照射面が垂直になるように固定される。チャンバ11は、テラヘルツ波を入射する上部、および被検体1を透過したテラヘルツ波が出射される下部に、テラヘルツ波が透過可能な光学窓11aを備える。被検体1のテラヘルツ波照射面側には、被検体1の照射面よりも小さい内径をもつアパーチャ13が設置されている。このアパーチャ13により、検出部4に到達するテラヘルツ波は被検体1を透過したものとなる。
【0017】
被検体1は、テラヘルツ波照射方向の厚みが薄すぎれば対象成分量が少なくなるため検出精度が低下し、厚すぎればテラヘルツ波が透過しにくくなる。そこで、被検体1の厚みは、0.1〜15mmであることが好ましく、0.5〜2mmであるとよりよい。被検体の厚みを上記範囲とすることで、検出精度を高めるとともにテラヘルツ波を確実に透過させることができる。また、多重反射、干渉も起こりにくくなる。
【0018】
被検体1は、テラヘルツ波照射方向に交差する面内の寸法が1〜3mmを超えることが好ましい。この寸法が小さすぎれば、アパーチャ13の内径も小さくなるため、透過するテラヘルツ波のエネルギーが弱くなり、検出精度が低くなる。
【0019】
載置部2は、ほぼ水平配置されたステージであり、チャンバ11を載置可能な大きさである。なお、載置部2を、テラヘルツ波の照射方向および照射方向に交差する面内方向に移動させる移動機構を備えてもよい。
【0020】
照射部3は、光源8とパルス発生器9を有する。光源8は、0.1〜3THzの電磁波(励起光)を励起する。光源8として、フェムト秒レーザ励起光であるパルスレーザやチタンサファイアレーザ等が挙げられる。パルス発生器9は、光源8から励起光を受け、パルス状のテラヘルツ波を発生する。パルス発生器9として、非線形光学結晶、光伝導アンテナ、半導体、量子井戸、高温伝導薄膜等が挙げられる。照射部3が出力するテラヘルツ波は、ミラー20により導入されて被検体1に照射される。被検体1を透過したテラヘルツ波は、ミラー21により検出部4に到達する。
【0021】
検出部4は、被検体1を透過したテラヘルツ波を検出する。例えば、光伝導アンテナ等である。
【0022】
計算制御部5は、検出部4が検出したテラヘルツ波をフーリエ変換により周波数領域に変換し、吸収特性スペクトルを得る。計算制御部5が備える蓄積部51には、単位厚さ、及び対象成分の単位濃度当たりに正規化した様々な結晶形の吸収特性スペクトルが蓄積されている。計算制御部5は、蓄積部51を参照し、被検体1を透過したテラヘルツ波から得られた吸収特性スペクトルから結晶形を同定する。結晶形を同定する際には、蓄積部51から測定領域中のある範囲におけるスペクトルの波形全体、または特徴的な1本から複数本の吸収バンドを読み出し、得られた吸収特性スペクトルにフィッティングさせる。あるいは、特定の固定した周波数の吸収強度を用いてもよい。
【0023】
圧力調整部6は、乾燥窒素または乾燥空気を送り込むガス圧制御弁14、真空ポンプ15、および真空ゲージ16を備える。真空ポンプ15により、経路15aを通じてチャンバ11内部の圧力を減圧することができる。また、ガス導入管14aを通じて乾燥窒素または乾燥空気を送り込むことにより、チャンバ11内部の雰囲気を所望のガスに置換することができる。圧力調整部6は、チャンバ11内部の圧力を0.1Pa〜大気圧に調整する性能を有することが好ましい。また、圧力調整部6の圧力制御の精度は±0.1〜1Paの安定性を有することが好ましい。
【0024】
温度調整部7は、液体窒素などの冷媒タンク17、ヒーター18、および温度センサ19を備える。液体窒素などの冷媒を経路17aからチャンバ11内に送り込むこと、およびチャンバ11内に導入されたヒーター18aに導通することによりチャンバ11内を冷却または加熱する。温度調整部7は、チャンバ11の温度を摂氏−200度〜100度とすることができる加熱冷却性能を有することが好ましい。また、温度調整部7の温度調整の精度は摂氏±0.1〜1.0度の安定性を有することが好ましい。
【0025】
次に、上記結晶形モニタリング装置10を用いた被検体1のモニタリング方法について説明する。
【0026】
モニタリング過程において、適時、光源8が励起光を放射し、その励起光をパルス発生器9が受けると、パルス発生器9は、パルス状のテラヘルツ波W1を発生する。テラヘルツ波W1は、ミラー20により導入されて被検体1に照射される。
【0027】
テラヘルツ波W1は、被検体1に照射されると、水素結合、ファンデルワールス結合、π電子相互作用、静電相互作用等の弱い相互作用のエネルギーと共鳴する。
【0028】
そして、被検体1を透過したテラヘルツ波W2は、ミラー21により検出部4に到達する。
【0029】
検出部4では、テラヘルツ波W2の電場強度の時間変化を検出し、計算制御部5に検出値として送信する。
【0030】
計算制御部5は、受信した検出値をフーリエ変換により周波数の関数に変換し、被検体1の吸収特性スペクトルを得る。そして、蓄積部51に格納された吸収特性スペクトルを参照し、被検体1の結晶形を同定する。上記相互作用のエネルギーの共鳴周波数や吸収強度は、被検体1に含まれる結晶についての結晶形に応じたものとなるため、この吸収特性スペクトルから結晶形を同定することができる。また、計算制御部5は、吸収強度を用いて、ある結晶形の含有量を定量する。被検体1の厚さは既知であるので、蓄積部51に格納した、単位厚さ、及び対象成分の単位濃度当たりに正規化した吸収特性スペクトルを参照し、被検体1におけるある結晶形の濃度および含有量を求めることができる。被検体1に複数種類の結晶が含まれる場合、その比率を求めることも可能である。
【0031】
また、必要に応じて圧力調整部6を用い、チャンバ11内部の圧力を10〜数100Pa程度に減圧したり、乾燥窒素または乾燥空気で置換する。一般的には、真空雰囲気もしくは乾燥窒素または乾燥空気で置換すると、水蒸気によるテラヘルツ波の吸収の影響が低減されるため、モニタリングの精度が高くなる。
【0032】
さらに、必要に応じて、温度センサ19により検出したチャンバ11内部の温度に応じて、計算制御部5により温度調整部7を駆動させ、チャンバ11内部を所定の温度に加熱または冷却する。一般的には、温度が低いほど吸収特性ピークが鋭くなるため、モニタリングの精度が高くなる。また、結晶形の転移温度に加熱すれば、結晶形の転移に伴う吸収スペクトルの変化をモニタリングすることができる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態によれば、照射部3が、パルス状のテラヘルツ波を被検体1に照射し、検出部4が、被検体1を透過したテラヘルツ波を検出し、計算制御部5が、検出したテラヘルツ波から被検体1の吸収特性スペクトルを取得し、被検体1の吸収特性スペクトルを蓄積部51に格納した様々な結晶形の吸収特性スペクトルと比較することで、被検体1に含まれる結晶形を同定することができる。
【0034】
本実施の形態によれば、目的の結晶形に合成された原料が、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤と混合して錠剤成型された製品や、プラスチック容器などに包装された錠剤をそのまま分析することができるので、各製造工程において結晶形が安定に保持されているかを確認することが可能となる。
【0035】
さらに、結晶の機械的強度が強い多形や、湿度に対する安定性が高い多形、水への溶解度が高い多形は、医薬品としての利用価値が高いが、これらの性質は水素結合などの分子間、分子内の弱い相互作用と大きな関係がある。本発明は、モニタリング対象の多形において、水素結合などの分子間、分子内の弱い相互作用を指標として、結晶の機械的強度や水への溶解度についての知見を得ることができる。
【0036】
なお、本結晶形モニタリング装置10のモニタリング対象となる結晶は、ある化学物質が同一の化学組成(光学異性体も区別して扱う)であるにもかかわらず、複数の異なる結晶形を取る多形を持つことを特徴とする。また、多形は、複数の化学組成から成る共結晶を形成してもよい。
【0037】
モニタリング対象となる共結晶の例としては、(a)カルバマゼピンおよびサッカリン、(b)カルバマゼピンおよびニコチンアミド、(c)カルバマゼピンおよびトリメシン酸、(d)セレコキシブおよびニコチンアミド、(e)オランザピンおよびニコチンアミド、(f)セレコキシブおよび18−クラウン−6、(g)イトラコナゾールおよびコハク酸、(h)イトラコナゾールおよびフマル酸、(i)イトラコナゾールおよびL−酒石酸、(j)イトラコナゾールおよびL−リンゴ酸、(k)イトラコナゾールHClおよび酒石酸、(l)モダフィニルおよびマロン酸、(m)モダフィニルおよびグレコール酸、(n)モダフィニルおよびマレイン酸、(o)トピラメートおよび18−クラウン−6、(p)5−フルオロウラシルおよび尿素、(q)ヒドロクロロチアジドおよびニコチン酸、(r)ヒドロクロロチアジドおよび18−クラウン−6、(s)ヒドロクロロチアジドおよびピペラジン、(t)アセトアミノフェンおよび4,4’−ビピリジン、(u)フェニトインおよびピリドン、(v)アスピリンおよび4,4’−ビピリジン、(w)イブプロフェンおよび4,4’−ビピリジン、(x)フルルビプロフェンおよび4,4’−ビピリジン、(y)フルルビプロフェンおよびトランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン、(z)カルバマゼピンおよびp−フタルアルデヒド、(aa)カルバマゼピンおよび2,6−ピリジンカルボン酸、(bb)カルバマゼピンおよび5−ニトロイソフタル酸、(cc)カルバマゼピンおよび1,3,5,7−アダマンタンテトラカルボン酸、(dd)カルバマゼピンおよびベンゾキノン、(ee)アセトアミノフェンおよびフェナジン、(ff)アセトアミノフェンおよびテオフィリン、(gg)アセトアミノフェンおよびコハク酸、(hh)アセトアミノフェンおよびシュウ酸、(ii)テオフィリンおよびカフェイン、(jj)テオフィリンおよびシュウ酸、(kk)テオフィリンおよびマロン酸、(ll)テオフィリンおよびマレイン酸、(mm)テオフィリンおよびグルタル酸、(nn)カフェインおよびシュウ酸、が挙げられる。
【0038】
また、単一組成からなる多形の例としては、(A)フォモチジン,A型,B型,C型、(B)バルビタール,A型,B型、(C)インドメタシン、(D)カルバマゼピン,I型,II型,III型、(E)アセトアミノフェン,I型,II型、を挙げることができる。
【0039】
被検体1の形態は、上述の結晶を精製した粉末、結晶粉末を成型した試料、結晶粉末を充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤を用いて調製した各種の形態を挙げられる。
【0040】
テラヘルツ波を用いた分析用の希釈剤としては、この分野で従来よりよく知られている各種のものを広く使用することができる。例えば、ポリエチレン粉末、酸化マグネシウム粉末などを使用できる。
【0041】
医薬製剤の各種形態には、代表的なものとして、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等があるが、本結晶形モニタリング装置10のモニタリング対象となるのは、固体の形体である錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤である。
【0042】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来よりよく知られている各種のものを広く使用することができる。その例としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カリシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。坐剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを広く使用できる。その例としては、ポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を挙げることができる。カプセル剤は常法に従い通常有効成分化合物を上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を医薬製剤中に含有させることもある。
【0043】
被検体1は、プラスチック、紙、木、セラミクスのいずれかの材料が一部に使われている容器に包装されていてもよい.
[実施例1]
次に、本発明の実施例1について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1では、図1に示す結晶形モニタリング装置10を用いて分析試験を行った。結晶形モニタリング装置10は、光源8としてTi−sapphire laserであるvitesse(100フェムト秒型、コヒレント社製)を用い、パルス発生器9として光伝導アンテナ(浜松ホトニクス社製)、検出部4として光伝導アンテナ(浜松ホトニクス社製)を備えた分光装置(先端赤外社製、THz−TDS2004)を用いて作製した。
【0045】
被検体1としては、テオフィリンおよびシュウ酸2:1共結晶、テオフィリンおよびマロン酸1:1共結晶、テオフィリンおよびマレイン酸1:1共結晶を用いた。また、参照用としてテオフィリン単結晶、シュウ酸単結晶、マロン酸単結晶、マレイン酸単結晶を用いた。
【0046】
テオフィリンおよびシュウ酸2:1共結晶の合成は、テオフィリン2.047gとシュウ酸512mgを40mlのクロロホルムと11mlのメタノールに溶解し、摂氏55度で還流した後、溶液を室温まで冷却し、生成した沈殿をろ過して行った。
【0047】
テオフィリンおよびマロン酸1:1共結晶の合成は、テオフィリン587gとマロン酸339mgを40mlのクロロホルムと2mlのメタノール中で還流した後、テオフィリンとマロン酸を挽いて作製した核とともに攪拌し、全量が15mlになるまで溶媒を蒸発させた後、生成した沈殿をろ過して行った。
【0048】
テオフィリンおよびマレイン酸1:1共結晶の合成は、テオフィリン2.02gとマレイン酸1.30gを65mlのクロロホルム:メタノール溶液6:1中で還流した後、攪拌しながら冷却し、生成した沈殿をろ過して行った。
【0049】
得られた共結晶は、従来法であるX線回折法を用いて、結晶形が非特許文献4と一致することを確認した。
【0050】
そして、上記の被検体1に、照射部3を用いてテラヘルツ波W1を照射し、被検体1を透過したテラヘルツ波W2を検出部4で検出した。被検体1は、薄すぎれば対象成分量が少なくなるため検出精度が低下し、厚すぎればテラヘルツ波が透過しにくくなるが、本実施例ではこのような検出精度の低下は起こらなかったため、被検体1の厚さは妥当であると判断できる。
【0051】
また、被検体1のテラヘルツ波照射方向に交差する面内の寸法は、10mmであるので、アパーチャ13は7mmとした。透過するテラヘルツ波のエネルギーの低下は起こらなかったため、被検体1およびアパーチャ13の大きさは妥当であると判断できる。
【0052】
図2は、上記方法により測定した被検体1の吸収特性スペクトルを示す図である。図2(1)は、テオフィリンおよびシュウ酸2:1共結晶とテオフィリン単結晶およびシュウ酸単結晶の吸収特性スペクトル、図2(2)は、テオフィリンおよびマロン酸1:1共結晶とテオフィリン単結晶およびマロン酸単結晶の吸収特性スペクトル、図2(3)は、テオフィリンおよびマレイン酸1:1共結晶とテオフィリン単結晶およびマレイン酸単結晶の吸収特性スペクトルを示す。
【0053】
図2(1)の符号211に示すように、テオフィリンおよびシュウ酸2:1共結晶は、1.5THzおよび1.8THz付近に分子間相互作用に共鳴する吸収帯が観測された。図2(2)の符号221に示すように、テオフィリンおよびマロン酸1:1共結晶は、2.5THz付近に分子間相互作用に共鳴する幅広い吸収帯が観測された。図2(3)の符号231に示すように、テオフィリンおよびマレイン酸1:1共結晶は、2.0THz付近に分子間相互作用に共鳴する幅広い吸収帯が観測された。
【0054】
参照用のテオフィリン単結晶(符号212,222,232)は1.1THzと1.8THzの2ヶ所、シュウ酸単結晶(符号213)は1.3THz、マロン酸単結晶(符号223)は1.5THz、マレイン酸単結晶(符号233)は2.0THzより高い周波数に数本、分子間相互作用に共鳴する吸収帯が観測された。
【0055】
このように、X線回折法で帰属された異なる結晶形ごとに、それぞれ固有のTHz吸収スペクトルが観測された。したがって、蓄積部51に結晶形の吸収特性スペクトルを格納し、被検体1を透過したテラヘルツ波を検出して得られる吸収特性スペクトルに基づいて、未知試料中の結晶形を解析可能である。
【0056】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0057】
結晶形モニタリング装置10は、実施例1と同様の構成を用いた。
【0058】
被検体1としては、実施例1と同様に合成したテオフィリンおよびシュウ酸2:1共結晶を導入し、参照用としてテオフィリン単結晶およびシュウ酸単結晶を用いた。それぞれの結晶粉末を厚さ1mm、直径10mmの円筒型ペレットに成型したものを第1の被検体とした。また、この結晶粉末を、濃度10%になるように、ポリエチレン粉末を希釈剤として、厚さ1mm、直径10mmの円筒型ペレットに成型したものを第2の被検体とした。第2の被検体を厚さ0.3mmの上質紙でできた封筒に包装したものを第3の被検体とした。
【0059】
上記第1から第3の被検体1に、照射部3を用いてテラヘルツ波W1を照射し、被検体1を透過したテラヘルツ波W2を検出部4で検出した。また、温度センサ19により検出したチャンバ11内の温度に応じて、計算制御部5により温度調整部7を駆動させ、チャンバ11内を室温および摂氏−196度に冷却して比較した。室温に対して摂氏−196度においては、吸収特性ピークの強度が約2倍となり、半値幅は約半分程度に鋭くなったため、冷却によりモニタリングの精度が高くなることが分かった。
【0060】
図3(1)は、第1の被検体、および参照用としてテオフィリン単結晶およびシュウ酸単結晶を摂氏−196度において測定した吸収特性スペクトルを示す。符号311に示すように、第1の被検体は、1.5THzおよび1.8THz付近に分子間相互作用に共鳴する吸収帯が観測された。参照用のテオフィリン単結晶(符号312)は1.1THzと1.8THzの2ヶ所、シュウ酸単結晶(符号313)は1.3THzに分子間相互作用に共鳴する吸収帯が観測された。
【0061】
図3(2)は、第2の被検体を摂氏−196度において測定した吸収特性スペクトルを示す。符号320に示すように、図2(1)に示す結果と同様に、1.5THzおよび1.8THz付近に分子間相互作用に共鳴すると思われる吸収帯が観測された。図2(1)に示す結果と比較すると、その吸収強度は弱くなるが、透過率が高くなったため、ノイズの少ないピーク形状が得られ、精度が高くなることが分かった。したがって、希釈剤との混合によって結晶形が変化しないこと、希釈剤によってモニタリングが妨害されないこと、および冷却により透過率が高くなったため、ノイズの少ないピーク形状が得られ、精度か高くなることが分かった。
【0062】
図3(3)は、第3の被検体を摂氏−196度において測定した吸収特性スペクトルを示す。符号330に示すように、図2(1)に示す結果と同様に、1.5THzおよび1.8THz付近に分子間相互作用に共鳴すると思われる吸収帯が観測された。図2(1)に示す結果と比較すると、紙によるわずかな吸収のため、バックグラウンドがわずかに高くなるが、ピークの検出精度はほぼ変わらないことが分かった。したがって、紙に包装することによってモニタリングが妨害されないこと、包装していない場合と比較しても検出精度はほぼ変わらないことが分かった。
【符号の説明】
【0063】
10…結晶形モニタリング装置
1…被検体
2…載置部
3…照射部
4…検出部
5…計算制御部
51…蓄積部
6…圧力調整部
7…温度調整部
8…光源
9…パルス発生器
11…チャンバ
11a…光学窓
12…ホルダ
13…アパーチャ
14…ガス圧制御弁
14a…ガス導入管
15…真空ポンプ
15a…経路
16…真空ゲージ
17…冷媒タンク
17a…経路
18…ヒーター
18a…ヒーター
19…温度センサ
20,21…ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の化学組成であるにもかかわらず複数の異なる結晶形を取る多形を持つ化学物質を含む被検体の結晶形を同定する結晶形モニタリング方法であって、
前記被検体にパルス状のテラヘルツ波を照射するステップと、
前記被検体を透過したテラヘルツ波を検出するステップと、
検出した前記テラヘルツ波に基づいて吸収特性スペクトルを取得するステップと、
取得した前記吸収特性スペクトルを、蓄積手段に格納された結晶形の正規化した吸収特性スペクトルと比較して前記被検体に含まれる結晶形を同定するステップと、
を有することを特徴とする結晶形モニタリング方法。
【請求項2】
前記同定するステップは、前記蓄積手段から読み出した前記吸収特性スペクトルの波形全体、または特徴的な1本から複数本の吸収バンドを取得した前記吸収特性スペクトルにフィッティングさせて結晶形を同定することを特徴とする請求項1記載の結晶形モニタリング方法。
【請求項3】
前記被検体は包装されていることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶形モニタリング方法。
【請求項4】
前記被検体の雰囲気の圧力を制御するステップを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の結晶形モニタリング方法。
【請求項5】
前記被検体の温度を制御するステップを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の結晶形モニタリング方法。
【請求項6】
同一の化学組成であるにもかかわらず複数の異なる結晶形を取る多形を持つ化学物質を含む被検体の結晶形を同定する結晶形モニタリング装置であって、
前記被検体にパルス状のテラヘルツ波を照射する照射手段と、
前記被検体を透過したテラヘルツ波を検出する検出手段と、
検出した前記テラヘルツ波に基づいて吸収特性スペクトルを取得する取得手段と、
結晶形の正規化した吸収特性スペクトルを格納する蓄積手段と、
取得した前記吸収特性スペクトルを、前記蓄積手段に格納された結晶形の正規化した吸収特性スペクトルと比較して前記被検体に含まれる結晶形を同定する同定手段と、
を有することを特徴とする結晶形モニタリング装置。
【請求項7】
前記同定手段は、前記蓄積手段から読み出した前記吸収特性スペクトルの波形全体、または特徴的な1本から複数本の吸収バンドを取得した前記吸収特性スペクトルにフィッティングさせて結晶形を同定することを特徴とする請求項6記載の結晶形モニタリング装置。
【請求項8】
前記被検体は包装されていることを特徴とする請求項6又は7記載の結晶形モニタリング装置。
【請求項9】
前記被検体の雰囲気の圧力を制御する圧力調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の結晶形モニタリング装置。
【請求項10】
前記被検体の温度を制御する温度調整手段を有することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の結晶形モニタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−257179(P2011−257179A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129859(P2010−129859)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】