説明

結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の無水及び水和物形態

本発明は、d=20.48Å及びd=4.34Åに特徴的なピークを示す無水形態、並びにd=9.8Å及びd=4.6Åに特徴的なピークを示す水和物形態におけるリポキシンA類似体の結晶性の酸を目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポキシンA4類似体の固体の結晶性の酸、炎症により特徴付けられる病状の治療におけるこれらの使用、及び類似体の結晶性の酸を含んでなる医薬組成物、並びにこれらの調製のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロイコトリエン、プロスタグランジン、及びトロンボキサンと併用されるリポキシンは、エイコサノイドと総称される生物的に活性な酸素化された脂肪酸群を構成する。エイコサノイドは、酵素のアラキドン酸カスケードを経由して膜リン脂質から全てデノボ合成される。1984年のこれらの最初の発見以来、エイコサノイドの構造的に特有のクラスであるリポキシンが、治療上潜在力を有するかもしれないことを示唆する強力な抗炎症性特性を有する、ということが明らかとなっている(Serhan, C. N., Prostaglandins (1997), Vol. 53, pp. 107-137; O'Meara, Y.M. 等, Kidney Int. (Suppl.) (1997), Vol. 58, pp. S56-S61; Brady, H. R. 等, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens. (1996), Vol. 5, pp. 20-27; 並びにSerhan, C. N., Biochem. Biophys. Acta. (1994), Vol. 1212, pp. 1-25)。他の炎症性物質、例えば血小板活性化因子、fMLP(formyl-Met-Leu-Phe)ペプチド、免疫複合体、及びTNFα等に加え、ロイコトリエンの炎症促進性機能に拮抗するリポキシンの能力は特に興味深い。従って、リポキシンは、多形核好中球(PMN)の走化性、同型の集合、接着、内皮及び上皮細胞にわたる遊走性、辺縁趨向/漏出並びに組織浸潤を抑制する強力な抗好中球剤である(Lee, T. H., 等, Clin. Sci. (1989), Vol. 77, pp. 195-203; Fiore, S., 等, Biochemistry (1995), Vol. 34, pp. 16678-16686; Papyianni, A., 等, J. Immunol. (1996), Vol. 56, pp. 2264-2272; Hedqvist, P., 等, Acta. Physiol. Scand. (1989), Vol. 137, pp. 157-572; Papyianni, A., 等, Kidney Intl. (1995), Vol. 47, pp. 1295-1302)。さらに、リポキシンは、内皮のP−セレクチンのPMNに対する発現及び接着(Papyianni, A., 等, J. Immunol. (1996), Vol. 56, pp. 2264-2272)、気管支及び血管の平滑筋収縮、メサンギウム細胞収縮及び接着性(Dahlen, S. E., 等, Adv. Exp. Med. Biol. (1988), Vo.. 229, pp. 107-130; Christie, P.E., 等., Am. Rev. Respir. Dis. (1992), Vol. 145, pp. 1281-1284; Badr, K.F., 等, Proc. Natl. Acad. Sci. (1989), Vol. 86, pp. 3438-3442; 及びBrady, H. R., 等, Am. J. Physiol. (1990), Vol. 259, pp. F809-F815)並びに好酸球の走化性及び脱顆粒(Soyombo, O., 等., Allergy (1994), Vol. 49, pp. 230-234)を下方制御することができる。
【0003】
リポキシン、特にリポキシンA4のこの特有の抗炎症性特性は、炎症性または自己免疫性疾患並びに肺及び気道炎症の治療に関し、治療としてのこれらの潜在力の利用が注目されている。顕著な炎症性浸潤を示すこのような疾患及び炎症は、特に注目されるものであり、これらには炎症性腸疾患、例えばクローン病、皮膚疾患(乾癬等)、関節リウマチ、及び呼吸器疾患(ぜんそく等)等が含まれるが、これに限定されない。
他の内因性のエイコサノイドと同様に、天然に存在するリポキシンは、迅速に代謝され不活化される不安定生成物である(Serhan, CN. , Prostaglandins (1997), Vol. 53, pp. 107-137)。これは、リポキシンの研究分野、特にリポキシンの抗炎症特性のインビボ(in vivo)での薬理学的評価に関する発展を制限してきた。リポキシンA4の活性部位を有するが、より長い組織半減期を有する化合物を対象とする複数の米国特許が発行されている。例えば米国特許番号5,441,951及び5,648,512を参照されたい。これらの化合物はリポキシンA4受容体結合活性及び強力なインビトロ(in vitro)及びインビボ(in vivo)での天然のリポキシンの抗炎症性特性を保持する(Takano, T., 等, J. Clin. lnvest.(1998), Vol. 101 , pp. 819-826; Scalia, R, 等, Proc. Natl. Acad. Sci. (1997), Vol. 94, pp. 9967-9972; Takano, T., 等, J. Exp. Med. (1997), Vol. 185, pp. 1693-1704; Maddox, J. F., 等, J. Biol. Chem. (1997), Vol. 272, pp. 6972-6978; Serhan, CN. , 等, Biochemistry (1995), Vol. 34, pp. 14609-14615)。
【0004】
本発明の注目のリポキシンA4類似体は、米国特許第6,831,186号及び米国特許出願公開第2004/0162433号に開示される。
固体の医薬物質は、非結晶性よりも結晶性である方が特に有利なことが、当業者に認識される。典型的には、溶液からの結晶化による結晶性固体の形成の間に、結晶性生成物の精製が達成される。結晶性固体の形態は、非常に良好に特徴付けることができ、非結晶相と比較して通常高い安定性を示す。結晶性固体を薬剤物質または製剤の原料として使用することにより、薬剤物質または製剤の特徴の変化を含む非結晶相の潜在的再結晶化が回避される。従って、米国特許第6,831,186号及び米国特許出願公開第2004/0162433号に開示されるリポキシンA4類似体の安定的な結晶性固体形態の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、哺乳類、特にヒトにおける、炎症、例えば炎症性または自己免疫性疾患及び肺または気道炎症等により特徴付けられる病状を治療することにおける、強力で、選択的及び代謝的/化学的に安定なリポキシンA4類似体の結晶性の酸及びその使用を目的とする。
従って、一態様では、本発明は、式(II):
【化1】

[式中、
1は、−O−、−S(O)t−(ここでtは、0, 1 または2である)、或いは直鎖または分岐のアルキレン鎖であり;そして
2は、(アルキル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル及びハロアルコキシから選択される1または複数の置換基によって任意に置換された)アリール或いは(アルキル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル及びハロアルコキシから選択される1または複数の置換基によって任意に置換された)アラルキルである]
のリポキシンA4類似体の結晶性の遊離酸であって、式(II)の化合物が、単一立体異性体または立体異性体の任意の混合物である遊離酸を目的とする。
本発明は、式(II)の遊離酸の結晶性の全形態を含む。
【0006】
他の態様では、本発明は、式(II)の酸の結晶形態の製造法を目的とし、当該方法は、i)アルカリ性水酸化物を適当な溶媒中で、適当な溶媒中の式(II)の酸のエステルと共に混合すること;ii)得られる混合物のpHをpH3〜4まで調整すること;iii)結晶が形成し始めた後、さらに混合物のpHをpH1〜3に調整すること;iv)得られる結晶を得られる懸濁液から単離すること;並びにv)結晶性の酸を提供するために単離された結晶を乾燥すること、を含んでなる。
さらなる態様では、本発明は、上記の式(II)の結晶性の酸の治療上有効量、及び医薬として許容される賦形剤または賦形剤の混合物を含んでなる医薬組成物を目的とする。
【0007】
他の態様では、本発明は、炎症により特徴付けられる病状、例えば炎症性または自己免疫性疾患或いは肺または気道炎症性疾患等を有する哺乳類の治療を目的とする医薬の製造のための、上記の式(II)の結晶性の酸の使用を目的とする。
他の態様では、本発明は、哺乳類、例えばヒトで炎症により特徴付けられる病状を治療する方法を目的とし、当該方法は、必要とする哺乳類に上記の式(II)の結晶性の酸の治療上有効量を投与することを含んでなる。病状は、例えば、炎症性または自己免疫性疾患或いは肺または気道の炎症性疾患であってよい。
【0008】
本発明の詳細な説明
米国特許、米国特許出願公開及び学術論文を含む、本明細書で記載する参考文献は全て、本明細書に参照により全て組込まれる。
【0009】
A.定義付け
本明細書で用いられる単数形「1つの(a)」「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈で特に明示しない限り、複数の対象を含む。例えば、「1つの(a)化合物」は、1または複数のこれらの化合物を指し、一方「その(the)酵素」は、特定の酵素、並びに他のファミリーメンバー及び当業者に周知のこの等価物を含む。
本明細書で用いられる全てのパーセンテージは、他に表示のない限り体積で示す。
さらに、明細書及び添付の請求項で使用される以下の用語は、明記しない限り、次に示す意味を有する:
【0010】
「アルキル」は、炭素及び水素原子のみから成る直鎖または分岐の炭化水素鎖の基を指し、不飽和を含まず、1〜8個の炭素原子を有し、これらは単結合によって他の分子へ結合されるものであり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、1−メチルエチル(イソプロピル)、n−ブチル、n−ペンチル、1,1−ジメチルエチル(f−ブチル)等が挙げられる。
「アルキレン鎖」は、直鎖または分岐の、炭素及び水素のみから成る二価の炭化水素鎖を指し、不飽和を含まず1〜8個の炭素原子を有するものであり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、n−ブチレン等が挙げられる。
【0011】
「アルコキシ」は、Raが上記のアルキル基である式−ORaの基を指す。
「アリール」は、フェニルまたはナフチル基を指す。他に記載しない限り、アリール基は、アルキル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキルまたはハロアルコキシから成る群から選択される1または複数の置換基によって任意に置換されてよい。他に記載しない限り、特に明細書において、このような置換がアリール基の任意の炭素で生じ得ると理解される。
「アラルキル」は、Raが上記のアルキル基であり、そしてRbが上記のアリール基である式−Rabの基を指し、例えばベンジル等である。アリール基は、上記のように任意に置換されてよい。
【0012】
「ハロ」は、ブロモ、クロロ、ヨードまたはフルオロを指す。
「ハロアルキル」は、上記のアルキル基を指し、上記の1または複数のハロ基によって置換されたものであり、例えばトリフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリクロロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、1−フルオロメチル−2−フルオロエチル(1,3−ジフルオロイソプロピル)、3−ブロモ−2−フルオロプロピル、1−ブロモメチル−2−ブロモエチル(1,3−ジブロモイソプロピル)等が挙げられる。
【0013】
「ハロアルコキシ」は、Rcが上記のハロアルキル基である式−ORcの基を指し、例えば、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリクロロメトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ、1−フルオロメチル−2−フルオロエトキシ、3−ブロモ−2−フルオロプロポキシ、1−ブロモメチル−2−ブロモエトキシ等が挙げられる。
【0014】
本明細書で用いられる「クラスレート」は、包接複合体として気体、液体または化合物を固定する物質を指し、そしてこれは固体形態で扱うことができ、含有される成分(または「ゲスト」分子)を溶媒作用によってまたは溶解によって続いて放出することができる。用語「クラスレート」は、本明細書で語句「包接分子」または語句「包接複合体」と互換的に使用される。本発明で使用されるクラスレートは、シクロデキストリンから調製される。シクロデキストリンは、様々な分子を有するクラスレート(すなわち、包接化合物)を形成する能力を有しているとして周知である。例えば、J.L.Atwood,J.E.D.Davies,及びD.D.MacNicolによって編集された包接化合物を参照されたい(London, Orlando, Academic Press, 1984; Goldberg, I., 「The Significance of Molecular Type, Shape and Complementarity in Clathrate Inclusion」, Topics in Current Chemistry (1988), Vol. 149, pp. 2- 44; Weber, E. 等, 「Functional Group Assisted Clathrate Formation - Scissor-Like and Roof- Shaped Host Molecules」, Topics in Current Chemistry (1988), Vol. 149, pp. 45-135; and MacNicol, D. D. 等, 「Clathrates and Molecular Inclusion Phenomena」, Chemical Society Reviews (1978), Vol. 7, No. 1, pp. 65-87)。シクロデキストリンクラスレートへの変換は、特定の化合物の安定性及び溶解性を増加することが知られ、従って医薬品としてのこの使用を促進する。例えば、Saenger, W.の「研究及び産業におけるシクロデキストリン包接化合物」(Angew. Chem. Int. Ed. Engl. (1980), Vol. 19, pp. 344-362);米国特許第4,886,788号(Schering AG);米国特許第6,355,627号(Takasago);米国特許第6,288,119号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,110,969号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,235,780号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,262,293号(Ono Pharmaceuticals);米国特許第6,225,347号(Ono Pharmaceuticals);及び米国特許第4,935,446号(Ono Pharmaceutical)を参照されたい。
【0015】
「シクロデキストリン」は、α(1−4)結合によって共に結合される少なくとも6つのグルコピラノースユニットから成る環状オリゴ糖を指す。オリゴ糖環は、円環(torus)の狭末端上に位置するグルコース残基の第1のヒドロキシル基と共に円環を形成する。第2のグルコピラノースヒドロキシル基は、広末端上に位置する。シクロデキストリンは、それらの空洞中に疎水性分子を結合することによって、水溶液中に前記分子と共に包接複合体を形成することが示されている。このような複合体の形成は、蒸発による損失、酸素、可視及び紫外線による攻撃、並びに分子内及び分子間の反応から「ゲスト」分子を保護する。このような複合体はまた、複合体が暖湿環境に遭遇するまで揮発性物質を「固定」する作用を有し、この遭遇時に複合体は溶解または解離し、ゲスト分子及びシクロデキストリンとなる。本発明の目的のために、6−グルコース単位含有のシクロデキストリンは、α−シクロデキストリンとして特定される一方、7及び8つのグルコース残基を有するシクロデキストリンは、各々β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンとして呼ばれる。シクロデキストリンの命名の他の最も一般的なものは、これらの化合物のシクロアミロースとの命名である。
【0016】
本明細書で用いられる、「市販される」化合物は、Acros Organics(Pittsburgh PA)、Aldrich Chemical(Milwaukee Wl, including Sigma Chemical and Fluka)、Apin Chemicals Ltd.(Milton Park UK)、Avocado Research(Lancashire U.K.)、BDH Inc.(Toronto, Canada)、Bionet(Cornwall, U.K.)、Chemservice Inc.(West Chester PA)、Crescent Chemical Co.(Hauppauge NY)、Eastman Organic Chemicals, Eastman Kodak Company(Rochester NY)、Fisher Scientific Co.(Pittsburgh PA)、Fisons Chemicals(Leicestershire UK)、Frontier Scientific(Logan UT)、ICN Biomedicals, Inc.(Costa Mesa CA)、Key Organics(Cornwall U.K.)、Lancaster Synthesis(Windham NH)、Maybridge Chemical Co. Ltd.(Cornwall U.K.)、Parish Chemical Co.(Orem UT)、Pfaltz & Bauer, Inc.(Waterbury CN)、Polyorganix(Houston TX)、Pierce Chemical Co.(Rockford IL)、Riedel de Haen AG(Hannover, Germany)、Spectrum Quality Product, Inc.(New Brunswick, NJ)、TCI America(Portland OR)、Trans World Chemicals, Inc.(Rockville MD)、及びWako Chemicals USA, Inc.(Richmond VA)等の標準的な薬品供給企業及び他の商業的供給源から購入することができるが、これらに限定されない。
【0017】
「哺乳類」には、ヒト及びネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ等の家畜が含まれる。
本明細書で用いられる「当業者に周知の方法」は、様々な参考図書及びテータベースを介して確認することができる。本発明の化合物の調製で有用な反応物の合成を詳述する、或いは当該調製を記載する記事への参照を提供する適当な参考図書及び論文には、例えば「Synthetic Organic Chemistry」, John Wiley&Sons,Inc.,New York;S.R.Sandler等,「Organic Functional Group Preparations」2nd Ed.,Academic Press,New York,1983;H.O.House,「Modern Synthetic Reactions」,2nd Ed.,W.A.Benjamin,Inc.Menlo Park,Calif.1972;T.L.Gilchrist,「Heterocyclic Chemistry」,2nd Ed.,John Wiley&Sons,New York,1992;J.March,「Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms and Structure」,4th Ed.,Wiley−Interscience,New York,1992、等が含まれる。特定及び類似の反応物はまた、米国化学会のChemical Abstract Serviceによって提供され知られる化学物質の索引を介して確認することができ、この索引は大抵の公共及び大学の図書館で、並びにオンラインのデータベース(米国化学会, Washington, D. C, さらに詳しくは、www.acs.org へコンタクトを取られたい)を介して利用可能である。周知であるがカタログで市販されない化学物質は、カスタムの化学物質合成企業によって準備することができ、実際多くの標準薬品供給企業(例えば、上記のリストに記載の企業)はカスタムの合成サービスを提供する。
【0018】
「任意の」または「任意には」或いは「かもしれない(may be)」は、続いて記載される現象または環境が生じるまたは生じないこと、並びに説明には当該現象または環境が生じる場合及び生じない場合が含まれることを意味する。例えば、「任意に置換されたアリール」は、アリール基が置換されるまたはされないこと、並びに説明には置換アリール基及び非置換のアリール基いずれも含まれることを意味する。
【0019】
「多形体」は、本発明の酸の多形体形態を指す。固体は、非結晶または結晶形態のどちらでも存在する。結晶形態の場合には、分子は体系的に三次元格子サイトに位置する。化合物が溶液またはスラリーから結晶化する場合は、異なる空間的格子配置、「多形性」と呼ばれる特性、「多形体」と個々に呼ばれる異なる結晶形態、で結晶化する。一定の物質の異なる多形性形態は、1または複数の物理的特性、例えば溶解性及び分解性、真密度、結晶形、圧密挙動、流動特性、及び/又は固体安定性等に関して互いに異なってよい。2つの(またはそれ以上の複数の)多形性形態で存在する化学物質の場合には、不安定形態は一般的に、十分な時間の後に一定の温度で熱力学的に安定な形態に変換する。この変換は急速でない場合は、熱力学的に不安定な形態は、「準安定な」形態と呼ばれる。しかしながら、準安定な形態は、通常の保存状態下で十分な化学的及び物理的安定性を示すことができ、商業形態で使用することができる。この場合、準安定な形態は、安定性が低いにも関わらず、安定形態の特性、例えば改良された溶解性または良好な経口バイオアベイラビリティによって、望ましい特性を示すことができる。
【0020】
「溶媒和化合物」は、1または複数の溶媒分子を有するまたは溶媒の定比量を有しない本発明の化合物の1または複数の分子を含んでなる集合体を指す。溶媒は、水であってよく、この場合溶媒和化合物は水和物と呼ばれる。或いは、溶媒は有機溶媒であってよい。従って、式(II)のリポキシンA4類似体の酸は、一水和物、二水和物、半水和物、セスキ水和物、三水和物、四水和物、定比の水分含有量を有しない無水和物等、並びに対応する溶媒和形態を含む水和物として存在してよい。式(II)の酸は、実際に溶媒和化合物であってよく、一方他の場合には塩は、単に外来性の水を保持する、または数種類の外来性の溶媒を加えた水の混合物であってよい。さらに、式(II)の酸は結晶性の無水形態で存在してよい。
例えば、多形体及び溶媒和化合物、これらの特質決定及び特性、並びに薬剤物質及び製剤の関連性の考察に関するByrn,S等の「Solid Chemistry of Drugs」,SSCI(1999);並びに塩、その調製及び特性の考察に関するStahl,P及びWermuth,Cの「Handbook of Pharmaceutical Salts」,Wiley(2002)を参照されたい。
【0021】
本明細書で用いられる、合成ステップを実施するための「適当な条件」は、この中で明確に提供される、或いは合成有機化学で使用される方法を対象とする出版物に言及することにより理解することができる。本発明の化合物の調製で有用な反応物の合成を詳述する、上記の参考書籍及び論文もまた、本発明の合成ステップを実施するための適当な条件を提供するであろう。
「適当な溶媒」は、反応成分及び反応条件に適合する任意の溶媒を指す。当該用語には、1つの溶媒または溶媒の混合物が含まれ、そしてこれらには有機溶媒及び水が含まれるがこれに限定されない。適当な溶媒は、当業者に周知であるまたは有機合成化学で使用される方法を対象とする出版物を参照することにより理解することができる。
【0022】
「治療上有効量」は、本発明の酸を必要とする哺乳類、特にヒトに投与される場合、以下に定義するように炎症により特徴付けられる病状に関する効果的な治療のために十分な当該酸の量を指す。「治療上有効量」を構成する本発明の酸の量は、塩、その溶媒和形態、治療される病状及びその重症度、治療を受ける哺乳類の年齢等に応じて変動するが、当業者によって通常決定することができる。
【0023】
本明細書で用いられる「治療すること」または「治療」には、哺乳類、好適にはヒトにおける炎症により特徴付けられる病状、例えば炎症性または自己免疫性疾患或いは肺または気道の炎症性疾患の治療を包含し、
(i)特に、疾患を罹っているとまだ診断されたことがない哺乳類がこの疾患に罹患する場合に、哺乳類で生じる疾患または炎症形態を予防すること;
(ii)疾患または炎症を抑制すること、すなわち、その進行を抑止すること;或いは
(iii)疾患または炎症を軽減すること、すなわち、疾患または炎症の退行を生じること、が含まれる。
【0024】
式(II)の酸は、1または複数の不斉中心含んでよく、従って、絶対立体化学の観点から、(R)−または(S)−、或いは(D)−または(L)−として光学異性体、ジアステレオマー、及び他の定義することができる立体異性形態を生じてよい。本発明は、このような可能性のある異性体、並びにこのラセミ体及び光学的に純粋な形態全てを含むことを意味する。光学活性の(+)及び(−)、(R)−及び(S)−、或いは(D)−及び(L)−異性体は、キラルシントンまたはキラル試薬を使用して調製することができ、或いは従来技術、例えばキラルカラムを使用したHPLCを使用して分解することができる。本明細書に記載する化合物がオレフィンの二重結合または幾何学的不斉の他の中心を含む場合、及び他に特定しない限り、化合物がE及びZいずれの幾何異性体も含むことを意図するものである。同様に、全ての互変異性形態もまた含むことを意図する。
【0025】
「立体異性体」は、同一の結合により結合される同一の原子で構成されるが、異なる三次元構造を有する化合物を指し、これらは互換的でない。本発明は様々な立体異性体及びこれらの混合物を意図し、そして分子が互いに重ね合わすことができない鏡像である2つの立体異性体を指す「光学異性体」を含む。
本明細書で用いられる命名は、I.U.P.A.C.命名法の変形態様である。例えば、R1が−O−でありR2が4−フルオロフェニルである式(II)の酸、すなわち、以下の式:
【化2】

を有する酸は、本明細書では、2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸と命名する。
【0026】
B.本発明の結晶性の酸
式(II)の化合物は、米国特許第6,831,186号及び米国特許出願公開第2004/0162433号に詳細に記載され、これらの関連する開示はここに参照により全て組込まれている。
しかしながら、驚くことに初期の現象の間、式(II)の酸の結晶形態の合成は確認し難いことが発見された。上記の2つの出版物に記載の手順に従っては、結晶形態は確実には得られなかった。
医薬酸の結晶の固体形態が医薬品の安定性を劇的に増加することができることは、周知の事実である。結晶形態が非結晶形態より安定であることもまた知られる。
【0027】
従って、式(II):
【化3】

[式中、
1が、−O−、−S(O)t−(ここでtが、0、1または2である)、或いは直鎖または分岐のアルキレン鎖であり;そして
2は、(アルキル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル及びハロアルコキシから選択される1または複数の置換基によって任意に置換された)アリールまたは(アルキル、アルコキシ、ハロ、ハロアルキル及びハロアルコキシから選択される1または複数の置換基によって任意に置換された)アラルキルである]
の化合物であって、当該式(II)の化合物は単一立体異性体または立体異性体の任意の混合物である化合物の、適当で安定した固体の結晶形態を調製するための合成ルートを発見することを目的に、検討を実施した。
【0028】
一実施形態では、本発明は、式中、R1が−O−であり、R2がフルオロ、クロロ及びヨードから選択される1または複数の置換基によって任意に置換されたフェニルである、式(II)の結晶性の酸を目的とする。他の実施形態では、本発明の化合物は、式中、R1が−O−であり、R2が4−フルオロフェニルである、式(II)の結晶性の酸である。さらなる実施形態では、化合物は以下のものから成る群から選択される:
2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸;
2−((2R,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸;
2−((2S,3S,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸;
2−((2R,3S,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸;
2−((2S,3R,4E,6E,10E,12R)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸;
2−((2R,3R,4E,6E,10E,12R)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸;
2−((2S,3S,4E,6E,10E,12R)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸;及び
2−((2R,3S,4E,6E,10E,12R)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸。
さらに他の実施形態では、本発明は、結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸:
【化4】

を目的とする。
【0029】
C.結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の調製
2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の結晶形態を調製する方法はまた、式(II)の他の化合物の結晶性の酸の調製に使用することができる。一般的に、結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸を調製する方法は、以下の式(III):
【化5】

[式中、Rがアルキルまたはアリールである]
を有するエステルの、塩基での処理、続いて、得られる混合物の酸を使用した処理での酸性化によるけん化に基づく。
【0030】
得られる混合物は懸濁液を形成し、その後任意に冷却する。結晶は、懸濁液から単離され、そして結晶性の酸の目的の水和物形態を得るために乾燥した。
特定の実施形態では、式(III)のエステルを適当な溶媒、例えばメタノール、エタノールまたはテトラヒドロフラン(THF)等に溶解する。続いて、アルカリ性の水酸化物の塩基、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等を、適当な溶媒、例えばメタノール、エタノールまたは水、或いはこれらの溶媒の混合物中で溶解する。アルカリ性水酸化物の溶液をエステルの溶液に添加する、または反対に添加を行う。必要ならば、酸性化による生成物の適当な結晶化を生じるのに十分な量の水をさらに添加する。
単離され乾燥した懸濁を形成するために、適当な酸、例えば、塩酸(HCI)で、得られる混合物を酸性化する。単離された結晶の乾燥手順は、調製された結晶性の酸の「水和物形態」を決定する。
【0031】
D.2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の固体形態
本発明に従って調製される、2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸は、多形体Iと呼ばれる結晶性の無水形態、及び結晶性の水和物形態、並びに非結晶性の相として存在する。
【0032】
【表1】

【0033】
結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−S−イニルオキシ)酢酸の無水形態(多形体 I)は、d=20.48Å及びd=4.34Åに特徴的なピークを示し、一方、2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の結晶性の酸の水和物形態は、d=9.8Å及びd=4.6Åに特徴的なピークを示す(参照、図2及び3)。
【0034】
XRPDのデータ収集を、ゲルマニウム−モノクロ化CuKα1照射(λ=1.5406Å)を使用した自動化されたSTOE粉末回折計で送信モードで実施した。銅陽極を有するX線チューブを40kV及び30mAで操作した。ウェルプレートを使用する場合、3°2Θ35°〜2°2Θ35°(ステップ幅0.5°)または7°2Θ35°(ステップ幅0.5°)で0.08°の角度分解能を有する小さな線形位置感度検出器を使用して2Θスキャンを実行した。測定中の湿度の影響を回避するために、サンプルを両面粘着テープで結合した2つのポリアセテートフィルムの間または2つのアルミニウムホイルの間に入れた。STOE WinXpowソフトウェアパッケージを使用して、データ収集及び評価を実施した。当業者は、使用された測定条件に依存する測定誤差を有してX線回折パターンが得られること、を理解するであろう。特に、使用した原料の結晶の性質及び測定条件に従って、X線回折パターン中の強度が変動することは、一般的に知られる。さらに、相対強度もまた実験条件に従って変化し、従って、強度の正確な次数は考慮すべきでない、と理解される。さらに、所定温度での通常のX線回折パターンの回折角シータの測定誤差は、一般的に約±0.1であり、このような測定誤差度は上記の回折角に関係するものである、と留意すべきである。従って、用語「約」は、X線粉末回折パターンに関して本明細書で用いる場合、本発明の結晶形態は、ここに開示する添付図で示されるX線回折パターンに完全に一致するX線回折パターンを提供する結晶形態に限定されない、ことを意味する。添付図に開示されるものに実質的に全く一致するX線回折パターンを提供する任意の結晶形態は、本発明の範囲に含まれる。X線回折パターンが完全に同一ではないにもかかわらず、化合物の多形形態が同一であるか否かを見定める能力は、当業者の範囲内である。
【0035】
E.結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の吸湿性
遊離酸の多形体Iは、60%以上の相対湿度で水和物へと転換される。これは吸湿性があり、80%の相対湿度で約8%の水分を吸収し、これは物質の二水和物に相当する。水和反応は可逆的である。40%以下の相対湿度で、多形体Iへの転換が観察される。吸収等温線を図1に示す。
【0036】
吸湿性検討に関するデータ収集を自動水吸収分析装置で実施した。約10mgの結晶性の酸の検討した固体形態を所定の及び一定の相対湿度で窒素の連続するフローに供した。掃引ガス速度を200cm3/分に設定した。基本アッセイのために、2つの全サイクル(吸湿/脱離)を25℃で測定した。表層水を除去するために、測定を0%の相対湿度で開始した。一旦一定の質量に到達したら、次の湿度が自動的にセットされた。ここに記載する第一段階の開始のための基準の下、0%〜90%の相対湿度まで10%ずつ、水吸湿/脱離を検討した。さらに、約98%相対湿度での吸収を検討した。DVSWinソフトウェアを使用してデータを得た。
【0037】
F.2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の相対的化学安定性
相対湿度及び温度に応じた酸の多形体Iの安定領域の検討に加え、相対的化学安定性を測定した。
相違する保存状態での4週間に渡る2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の多形体Iの相対的化学安定性を、以下の表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
I.本発明の結晶性の酸の有用性
式(II)の結晶性の酸は、天然のリポキシンA4のものと同様の生物活性を有するが、化学分解性及び代謝分解性の改良された抵抗性を有する。従って、式(II)の結晶性の酸は、哺乳類、例えば、ヒト等における炎症性または自己免疫性疾患の治療に有用である。特に、式(II)の結晶性の酸は、炎症性、免疫性または自己免疫性疾患の発病に寄与する好中球、好酸球、Tリンパ球、NK細胞または他の免疫細胞によってもたらされる急性または慢性の炎症或いは炎症性または自己免疫性反応を抑制することに有用である。式(II)の結晶性の酸はまた、炎症性応答または免疫性応答、例えばがん等における混乱に関係するものが含まれるがこれに限定されない、増殖性疾患の治療において有用である。式(II)の結晶性の酸はまた、がんの発病における血管新生反応の抑制剤として有用である。
【0040】
従って、式(II)の結晶性の酸は、哺乳類、特にヒトにおける次の炎症性または自己免疫性疾患を治療するために使用することができる:アナフィラキシー反応、アレルギー反応、アレルギー接触性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、化学的及び非特異的刺激物接触性皮膚炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、クローン病に関連する瘻孔、回腸嚢炎、敗血症性または内毒素性ショック、出血性ショック、ショック様症候群、がん免疫療法によって誘発される毛細血管漏出症候群、急性の呼吸器窮迫症候群、外傷性ショック、免疫−及び病原体−誘発肺炎、免疫複合体−介在肺傷害及び慢性閉塞性肺疾患、(潰瘍性大腸炎、クローン病及び手術後心的外傷を含む)炎症性腸疾患、胃腸の潰瘍、(急性の心筋虚血及び梗塞、急性腎不全、虚血性腸疾患並びに急性出血性または虚血性卒中を含む)虚血再灌流障害に関連する疾患、免疫複合体介在糸球体腎炎、(インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、変形性関節症及び全身性エリテマトーデスを含む)自己免疫疾患、急性及び慢性の臓器移植拒絶反応、移植性動脈硬化症及び線維症、(高血圧、アテローム性動脈硬化症、動脈瘤、重度の脚の虚血症、抹消動脈閉塞性疾患及びレーノー症候群を含む)心臓血管疾患、(糖尿病性腎症、神経障害及び網膜症を含む)糖尿病の合併症、(黄斑変性及び緑内障を含む)眼疾患、(脳卒中の遅延型神経変性、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳炎及びHIV認知症を含む)神経変性疾患、関節痛を含む炎症性及び神経因性疼痛、歯肉炎を含む歯周病、耳感染、片頭痛、良性前立腺過形成、白血病及びリンパ腫、前立腺がん、乳がん、肺がん、悪性黒色腫、腎がん、頭頸部腫瘍並びに結腸直腸がんを含むがこれに限定されないがん。
【0041】
式(II)の結晶性の酸はまた、固形腫瘍の治療で使用される上皮増殖因子(EGF)または上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼの抑制剤によって誘発される毛嚢炎を治療することにおいて有用である。臨床試験から、このような治療の主要な用量規定副作用として毛嚢炎(顔、胸及び上背上の重度のにきび様皮疹によって顕在化される毛嚢の炎症)が明らかとなっている。このような毛嚢炎は、好中球の浸潤に関連するものであり、活性化した好中球によって分泌される生成物が炎症の原因であると示唆される。
式(II)の結晶性の酸は好中球−または好酸球−介在の炎症を抑制し、従ってこのような毛嚢炎の治療において有用であり、その結果治療を受けるがん患者の生活の質を改善し、またEGF抑制剤またはEGFRキナーゼ抑制剤の用量の増加或いは治療の継続期間の延長をすることができ、目的の抑制剤の有効性が改善されることとなる。
【0042】
式(II)の結晶性の酸はまた、ぜんそく、慢性気管支炎、細気管支炎、(器質化肺炎等を含む)閉塞性細気管支炎、(鼻炎及び副鼻腔炎を含む)気道のアレルギー性炎症、好酸球性肉芽腫、肺炎、肺線維症、結合組織病の肺の症状、急性または慢性の肺損傷、慢性の閉塞性の肺疾患、成人の呼吸器窮迫症候群、及び好酸球の浸潤を特徴とする他の非感染性の肺の炎症性疾患等が含まれるが、これに限定されない、肺及び呼吸器の炎症の治療において有用である。例えば、式(II)の結晶性の酸は、肺または組織の好酸球介在の炎症;肺の好中球介在の炎症;肺のリンパ球介在の炎症;インターロイキン−5、インターロイキン−13及びエオタキシンを含むサイトカイン及びケモカイン産生;プロスタグランジンE2及びシステイニルロイコトリエンを含む脂質メディエーター産生;気道過敏症;並びに気道及び血管の炎症の抑制で有用である。
【0043】
J.式(II)の結晶性の酸の試験
炎症の顕著な特徴は、接着及び、内皮を介した好中球、好酸球及び他の炎症性細胞の遊走である。同様のプロセスは、肺、消化管及び他の器官で生じる、極性上皮細胞を介した細胞の遊走について観察される。これらのプロセスの細胞培養モデルは入手することができ、そしてリポキシンA4及び安定的なリポキシン水和物形態類似体がヒト腸上皮細胞株T84を含むヒト内皮細胞及び上皮細胞を介したヒト好中球の遊走を抑制することを示すために使用されている。従って、式(II)の結晶性の酸を、Colgan,S.P.等のJ.Clin.Invest.(1993),Vol.92,No.1,pp.75−82;及びSerhan,C.N.等のBiochemistry(1995),Vol.34,No.44,pp.14609−14615に記載されるものと同様のアッセイを実施することにより、ヒト内皮細胞及び上皮細胞を介したヒト好中球及び好酸球の遊走を抑制するその能力について、当業者は試験することができる。
【0044】
空気嚢モデル及び/並びにマウスザイモサン誘発の腹膜炎モデルは、炎症性応答の治療において、インビボ(in vivo)で式(II)の結晶性の酸の有効性を評価するために使用することができる。これらは炎症性細胞の局所部位への浸潤を特徴とする炎症の急性実験モデルである。例えば、Ajuebor,M.N.等のImmunology(1998),Vol.95,pp.625−630;Gronert,K.等のAm.J.Pathol.(2001),Vol.158,pp.3−9;Pouliot,M.等のBiochemistry(2000),Vol.39.pp.4761−4768;Clish,C.B.等のProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1999),Vol.96,pp.8247−8252;及びHachicha,M.等のJ.Exp.Med.(1999),Vol.189,pp.1923−30、に記載されるインビボ(in vivo)でのアッセイを参照されたい。
【0045】
動物モデル(例えば、インビボ(in vivo)でのアッセイ)はまた、ぜんそく並びに肺及び気道の関連疾患の治療における式(II)の結晶性の酸の有効性を確認するために利用することができる。例えば、De Sanctis,GT.等のJournal of Clinical Investigation(1999),Vol.103,pp.507−515;及びCampbell,E.M.等のJ.Immunol.(1998),Vol.161,No.12,pp.7047−7053、に記載されるアッセイを参照されたい。
また、米国特許第6,831,186号及び米国特許出願公開第2004/0162433号に記載のアッセイを採用した請求される使用方法において、式(II)の結晶性の酸はその有効性に関して試験することができ、これらの関連する開示はこの中で全体において全て組み込まれている。
【0046】
K.式(II)の結晶性の酸の投与
単一の立体異性体若しくは立体異性体の任意の混合物、またはこれらのシクロデキストリンクラスレートとして、或いは溶媒和化合物または多形体として、式(II)の結晶性の酸の投与は、その物質単独でまたは適当な医薬組成物の形で、任意の許容された投与モードまたは同様の有用性を提供するための薬剤を介して、実施することができる。従って、固体、半固体、凍結乾燥粉末、または液体投与形態、例えば錠剤、坐薬、丸薬、ソフトカプセル剤及びハードゼラチンカプセル剤、粉末、液剤、懸濁剤、エアロゾル、パッチ等の形態で、好適には正確な用量のシンプルな投与に適当な単位投与形態で、例えば経口、鼻腔内、非経口、肺、局所的、経皮、又は直腸内に投与することができる。組成物には、本発明の結晶性の酸をその/ある活性薬剤及び通常の医薬的担体或いは賦形剤として含んでよく、さらに当業者に周知の他の医薬上の薬剤、医薬品、担体、アジュバント等を含んでよい。
【0047】
このような剤形の実際の調製方法は周知である、或いは当業者に明らかとなるであろう;例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.(Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 1990)を参照されたい。投与される組成物はいずれにせよ本発明の教示に従って、炎症を特徴とする病状の治療のために式(II)の結晶性の酸の治療上有効量を含むであろう。
一般的に、目的とする投与方法に従って、医薬として許容される組成物は、式(II)の結晶性の酸を約0.1〜約99.9重量%、そして適当な医薬的賦形剤を約99.9〜約0.1重量%含有することができる。
【0048】
一実施形態では、好適な投与ルートは、治療される病状の重症度に従って調整することができる便利な1日投与量レジメンを使用した経口によるものである。このような経口投与に関して、1または複数の通常使用される医薬として許容される賦形剤(複数)の取り込みによって、式(II)の結晶性の酸を含有する医薬として許容される組成物は形成される。このような組成物は、液剤、懸濁剤、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤等の形をとる。
好適には、このような組成物は、カプセル、カウプレットまたは錠剤の形態をとることができ、従って一般的に希釈剤、崩壊剤、潤滑剤、及び結合剤を含有することもできる。
【0049】
式(II)の結晶性の酸はまた、体内で徐々に溶解する担体、例えばこの容量において通常使用される担体に並べられた活性成分を含んでなる坐薬中に処方することができる。
液状の医薬的に投与可能な組成物は例えば、本発明の酸及び担体中の任意の医薬として許容されるアジュバント、例えば水、生理食塩水、水性のブドウ糖、グリセロール、エタノール等の溶解、分散等によって調製することができ、その結果液剤または懸濁剤が形成される。
必要に応じて、本発明の医薬組成物はまた、少量の補助物質、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、抗酸化剤等を含有してよい。
【0050】
式(II)の結晶性の酸は、使用される特定の化合物の活性;式(II)の結晶性の酸の代謝安定性及び作用の長さ;年齢、体重、全体的な健康状態、性別、及び患者の食事;投与の方法及び時間;排出速度;薬剤の併用;治療される特定の病状(複数)の重症度;並びに治療を受けているホスト、を含む様々なファクターに従って変化する治療上有効な量で投与する。
【実施例】
【0051】
以下の実施例はさらに、結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の調製を記載する。式(II)の他のリポキシンA4類似体の結晶性の酸はまた、ここに記載される一般的な手順に従って同様に調製することができ、実施例1〜4に例示する。
【0052】
実施例1:結晶の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の無水形態の調製
tert−ブチル2−{[(4E,6E,10E)−(2S,3R,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イン−1−イル]オキシ}アセテートをトルエン/メタノール混合物に溶解し、続いて溶出剤としてのヘキサン及びtert−ブチルメチルエーテルの混合物を使用しながらシリカゲルのプラグを通して濾過する。分画を回収し、続いて真空内で濃縮する。
3.3gの濾過したtert−ブチル2−{[(4E,6E,10E)−(2S,3R,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イン−1−イル]オキシ}アセテートを10mlのメタノールに溶解する。
【0053】
0.89mlの25%(w/w)の水性水酸化ナトリウム溶液を添加する。室温で1時間後、さらに0.27ml(w/w)の水性の水酸化ナトリウム溶液を添加した。
完全な変換の後、100mlの水を添加する。得られる溶液のpHを3.7mlの2N塩酸でpH4まで調整し、すると生成物が結晶化し始める。さらなる1.6mlの2N塩酸をpH2.5まで徐々に添加する。懸濁液を室温で1時間攪拌する。反応フラスコを氷/水冷却槽中に置き、さらに1時間攪拌する。さらなる1mlの塩酸を添加する。懸濁液を濾過し、そして得られる結晶を水で洗浄し、真空乾燥キャビネットでキャリアガスとして窒素を使用しながら30℃/200mbarで乾燥する。
2.3gの淡褐色の結晶が単離される。
【0054】
実施例2:結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の水和物形態の調製
無水結晶性の遊離酸(15 mg)を0.1mLの熱いアセトニトリル中に溶解した。室温で溶媒を徐々に蒸発させ溶液を濃縮した。
【0055】
実施例3:結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の水和物形態の調製
無水の結晶性の遊離酸(15 mg)を約100℃で0.1mLの水に溶解した。得られた溶液の溶媒を室温で徐々に蒸発させ濃縮した。
【0056】
実施例4:結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸の水和物形態の調製
8ミリグラムの遊離酸の多形体Iを25℃、90%の相対湿度で保存した。
【0057】
本発明は特定の実施形態に関して記載されているが、真の趣旨及び本発明の範囲を離れることなく様々な変更が可能であり等価物を置換することができ、さらに、本発明の目的、趣旨及び範囲へ、特定の状況、物質、物質の組成、方法、方法のステップ(複数)を適合させるために、多くの変更が可能である、ということは当業者に理解されるに違いない。このような変更は全て、本明細書に添付する請求項の趣旨内であることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
d=20.48Å及びd=4.34Åに特徴的なピークを示す、無水形態における、結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸。
【化1】

【請求項2】
d=9.8Å及びd=4.6Åに特徴的なピークを示す、水和物形態における、結晶性の2−((2S,3R,4E,6E,10E,12S)−13−(4−フルオロフェノキシ)−2,3,12−トリヒドロキシトリデカ−4,6,10−トリエン−8−イニルオキシ)酢酸。
【化2】

【請求項3】
1または複数の医薬として許容される賦形剤及び請求項1または2に記載の結晶性の酸の治療上有効量を含んでなる、医薬組成物。
【請求項4】
炎症により特徴付けられる病状を有する哺乳類の治療を目的とする医薬の製造のための、請求項1または2に記載の結晶性の酸の、使用。
【請求項5】
前記哺乳類がヒトである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記病状が炎症性疾患または自己免疫性疾患である、請求項4または5に記載の使用。
【請求項7】
前記炎症性疾患または自己免疫性疾患が、アナフィラキシー反応、アレルギー反応、アレルギー接触性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、化学的及び非特異的刺激物接触性皮膚炎、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、クローン病に関連する瘻孔、回腸嚢炎、敗血症性または内毒素性ショック、出血性ショック、ショック様症候群、がんの免疫療法によって誘発される毛細血管漏出症候群、急性の呼吸器窮迫症候群、外傷性ショック、免疫−及び病原体−誘発肺炎、免疫複合体介在の肺障害、慢性閉塞性肺疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病及び手術後心的外傷を含む炎症性腸疾患、胃腸の潰瘍、急性の心筋虚血及び梗塞、急性腎不全、虚血性腸疾患並びに急性出血性または虚血性卒中を含む虚血再灌流障害に関連する疾患、免疫複合体介在の糸球体腎炎、インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、変形性関節症及び全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、急性及び慢性の臓器移植拒絶反応、移植性動脈硬化症及び線維症、高血圧、アテローム性動脈硬化症、動脈瘤、重度の脚の虚血症、抹消動脈閉塞性疾患及びレーノー症候群を含む心臓血管疾患、糖尿病性腎症、神経障害及び網膜症を含む糖尿病の合併症、黄斑変性及び緑内障を含む眼疾患、脳卒中の遅延型神経変性、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳炎及びHIV認知症を含む神経変性疾患、関節痛を含む炎症性及び神経因性疼痛、歯肉炎を含む歯周病、耳感染、片頭痛、良性前立腺過形成、白血病及びリンパ腫、前立腺がん、乳がん、肺がん、悪性黒色腫、腎がん、頭頸部腫瘍並びに結腸直腸がんを含むがこれに限定されないがん、から成る群から選択される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記炎症性疾患または自己免疫性疾患が、クローン病、回腸嚢炎、潰瘍性大腸炎及び胃腸の潰瘍から成る群から選択される炎症性腸疾患である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記炎症性疾患または自己免疫性疾患が、クローン病である、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記病状が、肺または気道の炎症性疾患である、請求項4または5に記載の使用。
【請求項11】
前記肺または気道の炎症性疾患が、ぜんそく、慢性気管支炎、細気管支炎、器質化肺炎を伴う細気管支炎を含む閉塞性細気管支炎、鼻炎及び副鼻腔炎を含む気道のアレルギー性炎症、好酸球性肉芽腫、肺炎、肺線維症、結合組織病の肺の症状、急性または慢性の肺損傷、慢性の閉塞性の肺疾患、成人の呼吸器窮迫症候群、及び好酸球の浸潤を特徴とする他の非感染性の肺の炎症性疾患、から成る群から選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
哺乳類における炎症により特徴付けられる病状を治療する方法であって、
当該方法が、請求項1または2に記載の結晶性の酸の治療上有効量をこれを必要とする哺乳類へ投与することを含んでなる、方法。

【公表番号】特表2011−520929(P2011−520929A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509858(P2011−509858)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004100
【国際公開番号】WO2009/140984
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】