説明

結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法

【課題】光学的均質性の高いフィルムを得ることが可能な結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFの製造方法は、結晶性ポリオレフィン系樹脂を溶融混練して溶融樹脂とする溶融工程と、溶融樹脂をTダイ12の吐出口12aから吐出してフィルム状に成形する成形工程と、Tダイ12の吐出口12aから溶融樹脂が吐出される際に発生するガスをブロア20によって排気する排気工程とを備える。排気工程では、ブロア20をモータ22によって駆動すると共にモータ22の回転数をインバータ24によって調整している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(液晶パネル)の構成部材である位相差フィルム用原反フィルムや偏光子保護フィルム等として用いられる結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(液晶パネル)の構成部材である位相差フィルムや偏光子保護フィルム等の光学フィルムに対しては、コントラストや視野角の向上のために、高い光学的均質性が求められている。
【0003】
ここで、位相差フィルムは、分子が同じ方向に且つ同じ程度に配向するように無配向の位相差フィルム用原反フィルムを延伸することで製造される。つまり、配向軸と配向度を制御することにより、所望の位相差が均一に発現した位相差フィルムとなるわけである。従って、延伸前の位相差フィルム用原反フィルムや通常延伸が行われない偏光子保護フィルムには、フィルムそのものにフィッシュアイやブツ、あるいはダイラインと呼ばれるスジ等の欠陥がないこと、高透明であること、厚み偏差が少ないこと、無配向であることが要求される。
【0004】
ところが、位相差フィルム用原反フィルムや偏光子保護フィルムの製造の際、Tダイ等のダイスにおける溶融樹脂の吐出口からロール等の冷却装置までの間(いわゆる、エアギャップ)に流れる風の影響によって、ダイスから吐出されたフィルム状の溶融樹脂がばたついてしまい、フィルムの厚みが不均一になってしまうことがある。
【0005】
そこで、ダイスから吐出されたフィルム状の溶融樹脂に、当該溶融樹脂が最初に密着する冷却ドラムの引き取り速度との速度差が0.2m/sec以下となるような風を吹き付ける光学用フィルムの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、ダイスから吐出されたフィルム状の溶融樹脂によって暖められた周囲の空気が上昇気流となることで生じる当該溶融樹脂のばたつきが抑制されることとなる。
【特許文献1】特開2004−233604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、溶融樹脂には揮発成分等が残留しており、溶融樹脂がダイスから吐出される際にガス(煙)が発生する。そこで、このガスによる周囲環境の悪化やフィルムの厚み精度に与える悪影響を抑制するため、通常、排気装置によってダイスの周囲の空気と共にガスを吸引し、ガスの排気を行っていた。
【0007】
しかしながら、排気装置によるダイスの周囲の空気及びガスの吸引は、ガスの排気が目的であったため、排気装置による吸引量が大きめに設定されていた。そのため、排気装置によるダイスの周囲の空気及びガスの吸引(排気装置によるガスの排気)によっても、ダイスから吐出されたフィルム状の溶融樹脂にばたつきが発生してしまっていた。そして、このばたつきに起因するフィルムの厚みの不均一性は、高い光学的均質性が求められる位相差フィルムや偏光子保護フィルム等の光学フィルムにおいては、看過できないものであった。
【0008】
そこで、本発明は、エアギャップにおける溶融樹脂のばたつきを低減することにより、光学的均質性の高いフィルムを得ることが可能な結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法は、結晶性ポリオレフィン系樹脂を溶融混練して溶融樹脂とする溶融工程と、溶融樹脂をダイスから吐出してフィルム状に成形する成形工程と、ダイスから溶融樹脂が吐出される際に発生するガスを排気手段によって排気する排気工程とを備え、排気工程では、排気手段をモータによって駆動すると共にモータの回転数をインバータによって調節する。
【0010】
本発明に係る結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法では、排気手段をモータによって駆動すると共にモータの回転数をインバータによって調節している。そのため、排気手段による吸引量、すなわち、溶融樹脂の吐出が行われるダイスの吐出口近傍での風速を、きめ細やかに調整することができることとなる。その結果、エアギャップにおけるフィルム状の溶融樹脂のばたつきを低減することができるので、光学的均質性の高いフィルムを得ることが可能となる。
【0011】
好ましくは、排気工程では、溶融樹脂の吐出が行われるダイスの吐出口近傍での風速に応じて、インバータを制御手段によって制御する。このようにすると、エアギャップにおけるフィルム状の溶融樹脂のばたつきをより低減することができる。
【0012】
より好ましくは、排気工程では、溶融樹脂の吐出が行われるダイスの吐出口の2m以内における風速が2.4m/sec以下となるように、インバータを制御手段によって制御する。このようにすると、エアギャップにおけるフィルム状の溶融樹脂のばたつきを更に低減することができる。
【0013】
好ましくは、成形工程及び排気工程を清浄度クラス1000以下の環境にて行う。このようにすると、空気中における塵埃等の異物のフィルムへの付着を十分に少なくすることができる。なお、ここでの「清浄度クラス」は、米国連邦規格(USA FED.STD)209Dにて規定される清浄度クラスをいうものとし、「清浄度クラス1000」とは、空気中に含まれる、粒径が0.5μm以上の微粒子が、1立方フィート(1ft)当たり1000個を超えない雰囲気であることを意味する。ちなみに、米国連邦規格209Dにて規定される清浄度クラス1000は、JIS B 9920「クリーンルームの空気清浄度の評価方法」にて規定される清浄度クラス6に相当する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エアギャップにおける溶融樹脂のばたつきを低減することにより、光学的均質性の高いフィルムを得ることが可能な結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
(フィルム製造システムの構成)
まず、図1を参照して、本実施形態に係るフィルム製造システム1の構成について説明する。フィルム製造システム1は、押出機10、Tダイ(ダイス)12、冷却ロール14A,14B,14C、フード16、ダンパ18、ブロア(排気手段)20、モータ22、インバータ24、制御部(制御手段)26及び風速計28を備える。
【0017】
押出機10は、投入された結晶性ポリオレフィン系樹脂を溶融混練しつつ押し出して、溶融混練した結晶性ポリオレフィン系樹脂(溶融樹脂)をTダイ12へと搬送するものである。
【0018】
Tダイ12は、押出機10と接続されており、押出機10から搬送された溶融樹脂を横方向に広げるためのマニホールド(図示せず)をその内部に有している。また、Tダイ12には、マニホールドと連通すると共にマニホールドによって横方向に広げられた溶融樹脂を吐出する吐出口12aがその下部に設けられている。そのため、Tダイ12の吐出口12aから吐出された溶融樹脂は、フィルム状に成形されることとなる。
【0019】
冷却ロール14A,14B,14Cは、Tダイ12の下方において、一列に並ぶように配列されている。冷却ロール14A,14B,14Cは、Tダイ12の吐出口12aから吐出されたフィルム状の溶融樹脂を冷却して固化させるものである。冷却ロール14A,14B,14Cによってフィルム状の溶融樹脂が固化すると、結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFとなる。なお、冷却ロール14A,14Bは、所定間隔をもって配置されており、冷却ロール14A,14Bの間隔や冷却ロール14A,14Bの回転速度、Tダイ12の吐出口12aから吐出される溶融樹脂の吐出量等によって結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFの厚みが規定される。
【0020】
フード16は、四角筒状部材と、一対の傾斜板及び一対の側板を有し、当該四角筒状部材の上部に一体的に設けられた屋根形部材とによって構成されおり、Tダイ12の側方から上方を覆うように配置されている。本実施形態において、フード16は、その下端が、Tダイ12の吐出口12aが位置する高さと同程度となるように配置されているが、フード16の下端の位置は適宜調整可能である。なお、エアギャップにおけるフィルム状の溶融樹脂のばたつきが大きくなり、製造される結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの厚みが不均一となることから、フード16を、その四角筒状部材側の開口がTダイ12の側方に向かうように配置することは、好ましくない。
【0021】
なお、Tダイ12、冷却ロール14A,14B,14C及びフード16は、清浄度クラスが1000以下とされたクリーンルームCR内に設置されていると好ましい。ここでの「清浄度クラス」は、米国連邦規格(USA FED.STD)209Dにて規定される清浄度クラスをいうものであり、「清浄度クラス1000」とは、空気中に含まれる、粒径が0.5μm以上の微粒子が、1立方フィート(1ft)当たり1000個を超えない雰囲気であることを意味する。
【0022】
ブロア20は、ダンパ18を介して、フード16と接続されている。ブロア20にはモータ22が設けられており、このモータ22によってブロア20の駆動が行われる。モータ22によってブロア20の駆動が行われることで、Tダイ12の周囲の空気(特に、Tダイ12の吐出口12a近傍の空気)が、フード16、ダンパ18及びブロア20を通って、クリーンルームCRの外に排気される。
【0023】
モータ22には、インバータ24が接続されている。インバータ24は、直流電力を交流電力に変換する際に、周波数、大きさ、位相を所望の値とした交流電力に変換することができる。つまり、インバータ24は、出力される交流電力の周波数を調節可能な周波数可変制御手段として機能する。その結果、インバータ24によってモータ22の回転数が調節されることとなる。
【0024】
制御部26は、ダンパ18及びインバータ24に接続されており、ダンパ18の開度及びインバータ24によって変換された交流電力の周波数等をそれぞれ制御する。つまり、制御部26によってインバータ24を制御することで、モータ22の回転数を所望の大きさに調節することができる。そのため、制御部26によってダンパ18の開度が制御されることで、ブロア20によるTダイ12の吐出口12a近傍の空気の吸引量(Tダイ12の吐出口12a近傍における風速)が大まかに調整され、制御部26によって間接的にモータ22の回転数が制御されることで、ブロア20によるTダイ12の吐出口12a近傍の空気の吸引量(Tダイ12の吐出口12a近傍における風速)がきめ細やかに調整されることとなる。
【0025】
風速計28は、Tダイ12の吐出口12a近傍における風速を測定するため、Tダイ12の吐出口12a近傍(本実施形態においては、Tダイ12の吐出口12aの2m以内)に配置されている。風速計28は、制御部24に接続されており、風速計28によって測定された風速のデータが制御部26に送信されるようになっている。なお、制御部26は、風速計28から送信される風速のデータに基づいて、Tダイ12の吐出口12aの2m以内における風速が2.4m/sec以下となるように、ダンパ18及びインバータ24の制御を行うようにすると好ましく、また、Tダイ12の吐出口12aの2m以内における風速が0.1m/sec以上となるようにダンパ18及びインバータ24の制御を行うようにすると好ましい。また、制御部26は、Tダイ12の吐出口12aの2m以内における風速が0.7m/sec以下となるように、ダンパ18及びインバータ24の制御を行うようにするとより好ましい。このとき、製造される結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFの厚み精度がより向上する。
【0026】
ここで、本実施形態において結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFを製造するために用いられる結晶性ポリオレフィン系樹脂は、後述するポリオレフィン系樹脂のうち、JIS K 7122に従う示差走査熱量測定おいて、−100℃〜300℃の範囲に観測される結晶の熱量が1J/gより大きい結晶融解ピーク、又は、結晶化熱量が1J/gより大きい結晶化ピークを有するポリオレフィン系樹脂であり、得られるフィルムの耐熱性がよりよいという観点から、−100℃〜300℃の範囲に観測される結晶の熱量が30J/gより大きい結晶融解ピーク、又は、結晶化熱量が30J/gより大きい結晶化ピークを有することが好ましい。なお、結晶性ポリオレフィン系樹脂は、2種類以上の異なる結晶性ポリオレフィン系樹脂のブレンドでもよいし、結晶性ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂や添加剤を適宜含有してもよい。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、環状オレフィン等のオレフィンの単独重合体又は2種類以上のオレフィンの共重合体、及び、1種類以上のオレフィンとこのオレフィンと重合可能な1種類以上の重合性モノマーとの共重合体であり、重合後、さらに変性されたものであってもよい。ポリオレフィン系樹脂は、2種類以上の異なるポリオレフィン系樹脂のブレンドでもよいし、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂や添加剤を適宜含有してもよい。リサイクル性、耐溶剤性に優れ、また、焼却してもダイオキシン等を発生しないため、環境を悪化させることがない等の理由から、光学フィルムとしてポリオレフィン系樹脂を好適に使用することができる。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、炭素原子数4〜20のα−オレフィン、環状オレフィンなどが挙げられる。
【0029】
上記の炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン、1−オクテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタダセン、1−オクタテセン、1−ノナデセンなどが挙げられる。
【0030】
上記の環状オレフィンとしては、例えば、通常ノルボルネンと呼ばれているビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンや、6−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジアルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、1−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、7−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンのような、メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が導入されたノルボンネン誘導体、またジメタノオクタヒドロナフタレンとも呼ばれているテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンや、8−アルキルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8,9−ジアルキルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンのような、ジメタノオクタヒドロナフタレンの8位及び/又は9位に炭素数3以上のアルキル基が導入されたジメタノオクタヒドロナフタレン誘導体、さらには、1分子内に1個又は複数個のハロゲンが導入されたノルボルネンの誘導体、8位及び/又は9位にハロゲンが導入されたジメタノオクタヒドロナフタレンの誘導体などが挙げられる。
【0031】
上記のオレフィンと重合可能な1種類以上の重合性モノマーとしては、例えば、芳香族ビニル化合物、ビニルシクロヘキサンのような脂環式ビニル化合物、極性ビニル化合物、ポリエン化合物などが挙げられる。
【0032】
上記の芳香族ビニル化合物としては、スチレン及びその誘導体などが挙げられ、スチレン誘導体としては、スチレンに他の置換基が結合した化合物であって、例えば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンのようなアルキルスチレンや、ヒドロキシスチレン、t−ブトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニルベンジルアセテート、o−クロロスチレン、p−クロロスチレンのような、スチレンのベンゼン環に水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、ハロゲンなどが導入された置換スチレン、また、4−ビニルビフェニル、4−ヒドロキシ−4′−ビニルビフェニルのようなビニルビフェニル系化合物、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンのようなビニルナフタレン系化合物、1−ビニルアントラセン、2−ビニルアントラセンのようなビニルアントラセン化合物、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジンのようなビニルピリジン化合物、3−ビニルカルバゾールのようなビニルカルバゾール化合物さらには、アセナフチレン化合物などが挙げられる。
【0033】
上記の極性ビニル化合物としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリルレート、エチルアクリレートなどのアクリル系化合物、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0034】
上記のポリエン化合物としては、例えば、共役ポリエン化合物、非共役ポリエン化合物等が挙げられる。共役ポリエン化合物としては、例えば、脂肪族共役ポリエン化合物および脂環式共役ポリエン化合物等が挙げられ、非共役ポリエン化合物としては、例えば、脂肪族非共役ポリエン化合物、脂環式非共役ポリエン化合物、芳香族非共役ポリエン化合物等が挙げられる。これらは、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基等の置換基によって置換されていてもよい。
【0035】
なお、ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン・α−オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体共重合体等のポリプロピレン系樹脂、エチレン・環状オレフィン共重合体、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(ブテン−1)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0036】
上記の変性されたポリオレフィン系樹脂としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、アクリル酸、メタクリル酸、テトラヒドロフタル酸、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等の変性用化合物で変性された結晶性ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0037】
(結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法)
続いて、上記のフィルム製造システム1によって結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFを製造する方法について、図1を参照しつつ説明する。
【0038】
まず、クリーンルームCR内の清浄度クラスが1000以下となるようにする。そして、ダンパ18を所定の開度とすると共にモータ22によってブロア20の駆動を開始する。このとき、ブロア20のモータ22による駆動を制御部24によって制御し、Tダイ12の吐出口12aの2m以内(における風速が0.1m/sec以上で且つ2.4m/sec以下(より好ましくは0.7m/sec以下)となるように、ブロア20による吸引量を調整する。
【0039】
この状態で、押出機10に結晶性ポリオレフィン系樹脂を投入する(溶融工程)。押出機10にて結晶性ポリオレフィン系樹脂が溶融混練されると、Tダイ12の吐出口12aからフィルム状に成形された溶融樹脂が吐出される。このフィルム状の溶融樹脂を各冷却ロール14A,14B,14Cによって冷却して固化させることで、結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFが得られることとなる(成形工程)。ここで、溶融樹脂には揮発成分等が残留しているので、フィルム状の溶融樹脂がTダイ12の吐出口12aから吐出される際にガス(煙)が発生するが、このガスは、フード16、ダンパ18及びブロア20を通って、クリーンルームCRの外に排気される(排気工程)。
【0040】
上記の方法により得られる結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFは、ポリビニルアルコールからなる偏光フィルムを保護するための保護フィルムとして使用可能である。また、結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFを原反フィルムとして延伸することにより、位相差フィルムを得ることもできる。延伸方法としては、縦延伸、横延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸が挙げられる。逐次二軸延伸の場合、縦延伸を先に行った後、横延伸を行う方法と、横延伸を先に行った後、縦延伸を行う方法のどちらの方法で行ってもよい。
【0041】
このようにして得られる位相差フィルムは、種々の偏光板や液晶層などと積層されて、携帯電話、携帯情報端末(Personal Digital Assistant:PDA)、パソコン、大型テレビ等の液晶表示装置(Liquid Crystal Display:LCD)として好ましく使用される。位相差フィルムを積層して使用する液晶表示装置としては、光学補償ベンド(Optically Compensated Bend:OCB)モード、垂直配向(Vertical Alignment:VA)モード、横電界(In-Plane Switching:IPS)モード、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor:TFT)モード、ねじれネマティック(Twisted Nematic:TN)モード、超ねじれネマティック(Super Twisted Nematic:STN)モードなど種々のモードの液晶表示装置が挙げられる。特に、VAモードの液晶表示装置に使用する場合に視野角依存性を改良するのに効果的である。液晶表示装置は一般に、2枚の基板とそれらの間に挟持される液晶層とを有する液晶セルの両側に、それぞれ偏光板が配置されており、その一方の外側(背面側)に配置されたバックライトからの光のうち、液晶セルとバックライトの間にある偏光板の透過軸に平行な直線偏光だけが液晶セルへ入射するようになっている。背面側偏光板と液晶セルとの間および/または表側偏光板と液晶セルとの間に粘着剤を介して配置することができる。また、偏光板は通常、ポリビニルアルコールからなる偏光フィルムを保護するために2枚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどの保護フィルムで接着剤を介して挟持した構成となっているが、位相差フィルムは、表側偏光板および/または背面側偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりにこれが接着剤で偏光フィルムに貼合されることで、光学補償フィルム(位相差フィルム)と保護フィルムの両方の役割を果たすことも可能である。
【0042】
以上のような本実施形態においては、ブロア20をモータ22によって駆動すると共にモータ22の回転数をインバータ24によって調整している。そのため、ブロア20による吸引量、すなわち、溶融樹脂の吐出が行われるTダイ12の吐出口12a近傍での風速が、きめ細やかに調整されるようになっている。その結果、エアギャップにおけるフィルム状の溶融樹脂のばたつきを低減することができるので、光学的均質性の高い結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFを得ることが可能となる。このような光学的均質性の高い結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFは、液晶表示装置(液晶パネル)の構成部材である位相差フィルム用原反フィルムや偏光子保護フィルム等の光学フィルムとして非常に好適である。
【0043】
また、本実施形態においては、排気工程において、溶融樹脂の吐出が行われるTダイ12の吐出口12aの2m以内における風速が2.4m/sec以下となるように、インバータ24を制御部26によって制御することで、ブロア20による吸引量を調整している。そのため、エアギャップにおけるフィルム状の溶融樹脂のばたつきをより一層低減することが可能となっている。
【0044】
また、本実施形態においては、清浄度クラスが1000以下とされたクリーンルームCR内にTダイ12、冷却ロール14A,14B,14C及びフード16が設置されているので、結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFの製造及び結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFの製造の際に発生するガスの排気が清浄度クラス1000以下の環境にて行われる。そのため、空気中における塵埃等の異物の結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFへの付着を十分に少なくすることが可能となっている。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、フード16とブロア20との間にダンパ18を設けなくてもよい。
【0046】
また、本実施形態ではダンパ18の開度を制御部26によって自動制御していたが、ダンパ18の開度を手動で制御するようにしてもよい。
【0047】
また、本実施形態では制御部26が風速計28から送信されたデータに基づいてインバータ24を自動制御していたが、結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFの製造条件において、Tダイ12の吐出口12aの2m以内における風速が2.4m/sec以下となるように手動で一度調節し、その後は特に制御を行わないようにしてもよい。このとき、風速計28は、結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムFの製造の際に常設されていなくてもよく、持ち運び可能なものを使ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本実施形態に係るフィルム製造システムの概略を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0049】
1…フィルム製造システム、12…Tダイ(ダイス)、12a…吐出口、16…フード、20…ブロア(排気手段)、22…モータ、24…インバータ、26…制御部(制御手段)、CR…クリーンルーム、F…結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリオレフィン系樹脂を溶融混練して溶融樹脂とする溶融工程と、
前記溶融樹脂をダイスから吐出してフィルム状に成形する成形工程と、
前記ダイスから溶融樹脂が吐出される際に発生するガスを排気手段によって排気する排気工程とを備え、
前記排気工程では、前記排気手段をモータによって駆動すると共に前記モータの回転数をインバータによって調節する結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記排気工程では、溶融樹脂の吐出が行われる前記ダイスの吐出口近傍での風速に応じて、前記インバータを制御手段によって制御する請求項1に記載された結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記排気工程では、溶融樹脂の吐出が行われる前記ダイスの吐出口の2m以内における風速が2.4m/sec以下となるように、前記インバータを制御手段によって制御する請求項2に記載された結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記成形工程及び前記排気工程を清浄度クラス1000以下の環境にて行う請求項1〜3のいずれか一項に記載された結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−73108(P2009−73108A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245679(P2007−245679)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】