説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ

【課題】親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れ、かつ耐薬品性を有する結晶性ポリマー微孔性膜、及びその製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、結晶性ポリマーを有する微孔性膜の表面に、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む被覆膜を有することを特徴とする。前記酢酸ビニルオリゴマーは、酢酸ビニルモノマーを重合させたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い結晶性ポリマー微孔性膜及び該結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られており、濾過用フィルタ等に広く利用されている(非特許文献1)。このような微孔性膜としては、例えばセルロースエステルを原料として製造されるもの(特許文献1〜7参照)、脂肪族ポリアミドを原料として製造されるもの(特許文献8〜14参照)、ポリフルオロカーボンを原料として製造されるもの(特許文献15〜18参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(特許文献19参照)、などが挙げられる。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーによる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を原料とした結晶性微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
しかし、結晶性ポリマー微孔性膜に対する親水性処理の方法としては、十分な方法が提案されていないという問題がある。
【0003】
例えば、微孔性膜の親水性処理の方法として、微孔性膜上に表面活性剤として酢酸ビニルを沈着させ、該表面活性剤を微孔性膜に化学的に固定させる方法が提案されている(特許文献20参照)。
しかしながら、該提案は、前記微孔性膜を再充電式電池の電解液中に配される電池隔離板として使用するものであり、この提案によると濾過等を目的とした結晶性ポリマー微孔性膜に対して前記表面活性剤を化学的に固定させることができないという問題がある。
また、結晶性ポリマー微孔性膜の親水化処理方法としては、非対称孔構造の結晶性ポリマー微孔性膜に対し、紫外線レーザー及びArFレーザーを照射して親水化処理する方法、並びに金属ナトリウム−ナフタレン錯体による化学エッチングして親水化処理する方法が知られているが(特許文献21参照)、非対称孔構造の結晶性ポリマー微孔性膜においては、加熱面、非加熱面、及びその内部のすべての部分で、結晶性ポリマーの結晶化度が異なることから、これらの親水化処理方法では、膜全体に対する一律の親水化ができず、親水化処理を行おうとすると、結晶化度に応じた条件ごとに何回かに分けて親水化処理を行う必要があり、効率が悪いものであった。また、作製された親水化処理膜の親水性も十分ではなく、濾過流量、濾過寿命とも不十分であった。また、紫外線レーザー及びArFレーザーを照射して親水化処理する方法においては、紫外線レーザー及びArFレーザーの照射により、膜を傷つけることがあり、膜強度を劣化させるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第3,133,132号明細書
【特許文献3】米国特許第2,944,017号明細書
【特許文献4】特公昭43−15698号公報
【特許文献5】特公昭45−3313号公報
【特許文献6】特公昭48−39586号公報
【特許文献7】特公昭48−40050号公報
【特許文献8】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献9】米国特許第3,408,315号明細書
【特許文献10】米国特許第4,340,479号明細書
【特許文献11】米国特許第4,340,480号明細書
【特許文献12】米国特許第4,450,126号明細書
【特許文献13】独国特許発明第3,138,525号明細書
【特許文献14】特開昭58−37842号公報
【特許文献15】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献16】米国特許第4,340,482号明細書
【特許文献17】特開昭55−99934号公報
【特許文献18】特開昭58−91732号公報
【特許文献19】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献20】特開平5−74437号公報
【特許文献21】特開2009−119412号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アール・ケスティング(R.Kesting)著「シンセティック・ポリマー・メンブラン(Synthetic Polymer Membrane)」マグロウヒル社(McGrawHill社)発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量及び耐薬品性に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性ポリマーを有する微孔性膜の表面に、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む被覆膜を有することを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
<2> 酢酸ビニルオリゴマーが、酢酸ビニルモノマーを重合させたものである前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<3> 酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかが、鹸化されてヒドロキシル基を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<4> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルのいずれかから選択される前記<1>から<3>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<5> 微孔性膜が、第1の面における平均孔径が第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<6> 微孔性膜が、結晶性ポリマーを含むフィルムの一の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を付与した半焼成フィルムを延伸した膜である前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<7> 第2の面を加熱面とする前記<6>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<8> 結晶性ポリマーを有する微孔性膜の表面に、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む被覆膜を形成する被覆膜形成工程を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<9> 被覆膜形成工程が、被覆膜形成工程が、酢酸ビニルモノマーを微孔性膜に被覆後、少なくとも前記酢酸ビニルモノマーの全部又は一部を重合させること、及び前記酢酸ビニルモノマーの全部又は一部を架橋させることのいずれかを含む前記<8>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 被覆膜形成工程が、重合乃至架橋後の被覆膜に対して、鹸化処理を行うことを含む前記<8>及び<9>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<11> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルのいずれかから選択される前記<8>から<10>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<12> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることを特徴とする濾過用フィルタである。
<13> プリーツ状に加工成形される前記<12>に記載の濾過用フィルタである。
<14> 第1の面をフィルタの濾過面とする前記<12>から<13>のいずれかに記載の濾過用フィルタである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量及び耐薬品性に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図2】図2は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図3】図3は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(結晶性ポリマー微孔性膜)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、微孔性膜の表面に被覆膜を有する。
【0011】
<微孔性膜>
前記微孔性膜は、結晶性ポリマーを有する微孔性膜としてなる。
なお、本明細書において、「結晶性ポリマー」とは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーを意味し、このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、始めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0012】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルから選択されるポリマーが好ましい。
これらの中でも、耐薬品性と取扱い性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
【0013】
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、結晶性コントロールの点から、HDPEが特に好ましい。
【0014】
前記結晶性ポリマーのガラス転移温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40℃〜400℃が好ましく、50℃〜350℃がより好ましい。
また、前記結晶性ポリマーの質量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜100,000,000が好ましい。
また、前記結晶性ポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
【0015】
前記微孔性膜としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第1の面と第2の面とにおける孔の平均孔径が同じである対称孔膜、及び第1の面と第2の面とにおける孔の平均孔径が異なる非対称孔膜が挙げられるが、長寿命化及び高流量化の観点から非対称孔膜が好ましい。
【0016】
前記対称膜としては、特に制限はないが、目的に応じて適宜選択することができ、市販のものを用いることができる。
【0017】
前記非対称孔膜としては、特に制限はないが、前記第1の面における平均孔径が前記第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有することが好ましい。
また、前記非対称孔膜としては、特に制限はないが、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを延伸した後、該延伸後のフィルムを親水化処理することが好ましい。
この場合、前記第1の面における平均孔径よりも平均孔径が小さい側の前記第2の面を加熱面とすることが好ましい。孔部は一方の面から他方の面への連続孔(両端が開口している)となっている。
以下においては、平均孔径が大きい側の第1の面を「非加熱面」とし、平均孔径が小さい側の第2の面を「加熱面」として説明する。これは本発明の説明をわかりやすくするために便宜的につけた呼称に過ぎない。したがって、未焼成の結晶性ポリマーフィルムのいずれの面を加熱して半焼成後に「加熱面」にしても構わない。
【0018】
前記非対称孔膜としては、特に制限はないが、非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きいことが好ましい。
また、前記非対称膜としては、特に制限はないが、膜厚みを「10」とし、表面から深さ方向「1」の厚み部分における平均孔径をP1とし、「9」の厚み部分における平均孔径をP2としたとき、P1/P2が2〜10,000が好ましく、3〜100がより好ましい。
また、前記非対称膜は、非加熱面と加熱面との平均孔径の比(非加熱面/加熱面比)が5倍〜30倍が好ましく、10倍〜25倍がより好ましく、15倍〜20倍が更に好ましい。
【0019】
ここで、前記平均孔径は、例えば走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径が求められる。
【0020】
前記非対称孔膜としては、上記特徴に加えて更に非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化している態様(第1の態様)と、上記の特徴に加えて更に単層構造である態様(第2の態様)の両方が含まれる。該付加的な特徴を加えることによって、濾過寿命を更に効果的に改善することができる。
【0021】
第1の態様でいう「非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化している」とは、横軸に非加熱面からの厚み方向の距離d(表面からの深さに相当)をとり、縦軸に平均孔径Dをとったときに、グラフが1本の連続線で描かれることを意味する。非加熱面(d=0)から加熱面(d=膜厚)に至るまでのグラフは傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであってもよいし、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものであってもよいし、傾きが負の領域と正の領域(dD/dt>0)が混在するものであってもよい。好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであるか、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものである。更に好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである。
【0022】
傾きが負の領域の中には、少なくとも膜の非加熱面が含まれることが好ましい。傾きが負の領域(dD/dt<0)においては、傾きが常に一定であっても異なっていてもよい。例えば、前記非対称膜は、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである場合、膜の非加熱面におけるdD/dtよりも膜の加熱面におけるdD/dtが大きい態様をとることができる。また、前記非対称膜の非加熱面から加熱面に向かうにしたがって徐々にdD/dtが大きくなる態様(絶対値が小さくなる態様)をとることができる。
【0023】
第2の態様でいう「単層構造」からは、2以上の層を貼り合わせたり積層したりすることにより形成される複層構造は除外される。即ち、第2の態様でいう「単層構造」とは、複層構造に存在する層と層の間の境界を有しない構造を意味する。第2の態様では、膜中に、非加熱面の平均孔径よりも小さくかつ加熱面の平均孔径よりも大きな平均孔径を有する面が存在することが好ましい。
【0024】
前記非対称膜としては、第1の態様の特徴と第2の態様の特徴を両方とも兼ね備えているものが最も好ましい。即ち、前記非対称膜の非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きくて、非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化しており、かつ、単層構造であるものが好ましい。このような非対称孔膜であれば、非加熱面側から濾過を行ったときに一段と効率よく微粒子を捕捉することができ、濾過寿命も大きく改善することができるとともに、容易かつ安価に製造することもできる。
【0025】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましく、10μm〜80μmが特に好ましい。
【0026】
<被覆膜>
前記被覆膜は、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む層としてなる。
【0027】
前記被覆膜の形成方法としては、特に制限はなく、前記酢酸ビニルモノマーを前記微孔性膜に被覆させた後、前記酢酸ビニルモノマーの全部又は一部を重合させる方法が挙げられる。
前記酢酸ビニルモノマーを前記微孔性膜に被覆させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸ビニルモノマーを含む組成液に前記微孔性膜を浸漬する方法、酢酸ビニルモノマーを含む組成液を前記微孔性膜に塗布する方法等が挙げられる。
前記酢酸ビニルモノマーを含む組成液における酢酸ビニルモノマーの濃度としては、特に制限はないが、0.1質量%〜30質量%が好ましく、0.2質量%〜25質量%がより好ましく、0.3質量%〜20質量%が特に好ましい。
0.1質量%未満であると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜全体を親水化することができないおそれがあり、30質量%を超えると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜の孔部を塞いでしまい、透過流量を低下させるおそれがある。
【0028】
前記酢酸ビニルモノマーを含む組成液に含まれる組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、他のビニル系化合物、溶媒、重合開始剤、架橋剤、等が挙げられる。
前記他のビニル系化合物としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アリルグリシジルエーテル、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ジアリルアミン、N,N−ジメチルジアリルアミン、アリルアミン、ビニルベンジルアミンなどが挙げられる。
【0029】
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール・エタノール・イソプロパノール・エチレングリコールなどのアルコール類、アセトン・メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン・ジオキサン・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0030】
また、前記重合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、光重合、熱重合のいずれでもよい。
前記光重合の場合、光照射して重合させるが、照射する光としては、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線が好ましい。照射エネルギーとしては、0.1J/cm以上が好ましく、0.5J/cm以上がより好ましい。重合する際、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1,000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。
【0031】
前記光重合に用いられる重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZTなど)等が挙げられる。
また、前記熱重合に用いられる重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、三新化学社から市販されているSIシリーズ(例えばSI−100など)等が挙げられる。
【0032】
前記重合開始剤の添加量としては、特に制限はないが、前記酢酸ビニルモノマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部が好ましく、0.5質量部〜15質量部がより好ましく、1.0質量部〜10質量部が特に好ましい。
0.1質量部未満であると、重合反応が遅くなることがあり、20質量部を超えると、膜強度が脆くなることがある。
【0033】
前記酢酸ビニルモノマーの重合をオリゴマーレベルとする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記重合開始剤の添加量を前記の添加量で添加することが挙げられるが、連鎖移動剤を添加することがより好ましい。
前記連鎖移動剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チオール系化合物(例えばドデカンチオール)等が挙げれられる。
前記連鎖移動剤の添加量としては、重合条件ごとに異なり一概には言えないが、前記重合開始剤の100質量部に対して、5質量部〜20質量が好ましい。
【0034】
前記酢酸ビニルモノマーの重合体としては、前記酢酸ビニルオリゴマーを含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記酢酸ビニルオリゴマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記酢酸ビニルモノマーの2量体〜100量体が好ましい。
100量体を超えると、微孔性膜の孔部内に効率よく入り込めず、親水性に劣ることがある。
【0035】
前記酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも一部が鹸化され、ヒドロキシル基を有することが好ましい。
前記鹸化における鹸化度としては、特に制限はないが、30〜100が好ましく、50〜100がより好ましい。
30未満だと、親水性が不十分になるおそれがある。
前記鹸化の方法としては、特に制限はなく、公知の鹸化方法を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等に前記結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬する方法などが挙げられる。
【0036】
前記酢酸ビニルモノマー及び前記酢酸ビニルオリゴマーは、前記微孔性膜の表面と網目状に入り組んだ複合膜として固定される。このような固定の方法としては、特に制限はないが、以下の方法が挙げられる。
前記酢酸ビニルオリゴマー(酢酸ビニルモノマー重合体)を前記微孔性膜に被覆し、固定する場合、前記微孔性膜と、前記酢酸ビニルオリゴマーとの相互網目構造(相互にからみ合わせる構造)をつくる必要がある。その場合、前記微孔性膜表面で前記酢酸ビニルモノマーを付着及び重合すれば、前記微孔性膜の網目と、前記酢酸ビニルオリゴマーの網目が相互に入り組んだ複合膜ができ、前記酢酸ビニルオリゴマーが固定される。このようにして、物理吸着では実現できなかった、固定化が可能となる。
また、前記酢酸ビニルモノマーを前記微孔性膜に付着させる方法としては、前記重合法に代えて、架橋剤により前記微孔性膜表面に前記酢酸ビニルモノマーを架橋させて固定させることができる。
前記重合及び架橋としては、単独の処理として行うこともできるが、どちらも並行して行ってもよい。
前記固定により、前記結晶性ポリマー微孔性膜の親水性、濾過寿命、及び透過流量を向上させ、耐薬品性、耐酸性、及び耐アルカリ性を付与することができる。
【0037】
前記微孔性膜に前記付着ないし固定された前記酢酸ビニルモノマー及び前記酢酸ビニルオリゴマーの状態を測定する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
例えば、前記結晶性ポリマー微孔性膜に対して、メタノール、水、DMF等の溶媒で抽出し、その抽出物の成分をNMR、IR等を用いて測定及び解析したときに、前記酢酸ビニルモノマー及び前記酢酸ビニルオリゴマーが確認できるようであれば、付着ないし固定が十分でないことが推定できる。
また、抽出した後の結晶性ポリマー微孔性膜の親水性を評価することで、抽出されたかどうかの簡易的な確認をすることができる。
また、前記溶媒に抽出することができない場合でも、前記結晶性ポリマー微孔性膜を膜ごと細かく切り刻み、KBrとまぶした状態でIRで測定及び解析を行うこと、及び超臨界メタノールを用いて、ポリマーを分解しつつ、そのコンポーネントをMASS、NMR、IR等で測定・解析することで確認することができる。
【0038】
前記酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーとしては、特に制限はないが、前記重合の後、架橋剤により前記微孔性膜と架橋されることが好ましい。このような架橋により、前記結晶性ポリマー微孔性膜の耐久性が向上する。
【0039】
前記架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、紫外線架橋型化合物、脱離基含有化合物、カルボン酸化合物、ウレア化合物などが挙げられるが、中でもエポキシ化合物が好ましい。前記エポキシ化合物を用いると、エーテル結合を含む架橋により、前記結晶性ポリマー微孔性膜に対して、耐酸性、耐アルカリ性を付与することができる。
【0040】
前記エポキシ化合物としては、特に制限はなく、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのモノグリシジルエーテル及びポリグリシジルエーテル、グリセロール誘導体、ペンタエリスリトール誘導体、ソルビトール誘導体、イソシアヌレート誘導体のエポキシ化合物が挙げられる。
前記エポキシ化合物の市販品としては、TCI社製のエチレングリコールジグリシジルエーテル及びトリグリシジルエーテルイソシアヌレート、エピオールE400(日油製)、デナコールEX313、デナコールEX411、デナコールEX614B(以上、ナガセケムテックス社製)が挙げられる。
【0041】
前記イソシアネート化合物としては、特に制限はなく、例えば、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪環イソシアネート等が挙げられる。
【0042】
前記紫外線架橋型化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル基含有化合物、アクリレート基含有化合物、メタクリレート基含有化合物などが挙げられ、具体的には、パラビニルフェノール、メチルアクリレート、アクリル酸、メチルメタクリレート、メタクリル酸等が挙げられる。
また、前記脱離基含有化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラエチレングリコールジトシラート、クロロトリアジン誘導体などが挙げられる。
【0043】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における架橋状態は、メタノール、水、DMF等の溶媒で抽出し、その抽出物の成分をNMR、IR等を用いて測定及び解析することで確認することができる。
また、架橋時に生成される結合をIR、NMR等で測定及び解析することで確認することができる。
【0044】
前記酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む被覆膜の好ましい被覆量は、前記微孔性膜の表面積によって変動し、該微孔性膜の表面積は、該微孔性膜の気孔率と相関関係を有する。
前記微孔性膜の気孔率としては、特に制限はないが、耐久性の観点から50%〜95%が好ましく、60%〜90%がより好ましい。
なお、前記気孔率は、前記被覆膜中の気孔の含有率を示す。
【0045】
また、前記気孔率の数値範囲にあるときに、前記被覆膜の被覆量(被覆膜の質量)としては、下記式(1)を満たすことが好ましい
(C/5)−11.5≦D≦(C/5)−9.5 (1)
ただし、前記式(1)中、Cは、微孔性膜の気孔率(%)を示し、Dは、被覆膜の質量/結晶性ポリマーの質量×100(%)を示す。
【0046】
(結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、結晶性ポリマーを有する微孔性膜の表面に、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーを含む被覆膜を形成する被覆膜形成工程を含む。
前記微孔性膜としては、特に制限はなく、第1の面と第2の面とにおける孔の平均孔径が同じである対称孔膜、及び第1の面と第2の面とにおける孔の平均孔径が異なる非対称孔膜が挙げられるが、長寿命化及び高流量化の観点から非対称孔膜が好ましい。
前記対称孔膜としては、公知の方法により作製されたもの、市販品のものを用いることができる。
前記非対称孔膜の作製方法としては、特に制限はないが、以下の結晶性ポリマーフィルム作製工程、半焼成フィルム形成工程、延伸工程により作製されることが好ましい。
【0047】
<結晶性ポリマーフィルム作製工程>
結晶性ポリマーからなる未焼成の結晶性フィルムを製造する際に用いる結晶性ポリマー原料の種類としては、特に制限はなく、上述した結晶性ポリマーを好ましく用いることができる。これらの中でも、ポリエチレン又はその水素原子がフッ素原子に置換された結晶性ポリマーが使用され、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
原料として使用する結晶性ポリマーとしては、数平均分子量500〜50,000,000のものが好ましく、1,000〜10,000,000のものがより好ましい。
また、前記原料として使用する結晶性ポリマーとしては、ポリエチレンが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンは、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、好ましくは乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用する。
原料として使用するポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量としては、250万〜1000万が好ましく、300万〜800万がより好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン原料としては、特に制限はなく、市場で販売されているポリテトラフルオロエチレン原料を適宜選択して使用してもよい。例えば、ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF104U」などが好適に挙げられる。
【0048】
前記ポリテトラフルオロエチレン原料を押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延することによりフィルムを調製するのが好ましい。
前記押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的にはソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。前記押出助剤としては、市場で販売されているエッソ石油株式会社製「アイソパー」などの炭化水素油を用いても構わない。
前記前記押出助剤の添加量としては、結晶性ポリマー100質量部に対して、20質量部〜30質量部が好ましい。
【0049】
ペースト押出しは、通常50℃〜80℃にて行うことが好ましい。押出し形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は、次いで圧延することによりフィルム状にされる。前記圧延としては、例えばカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度としては、通常50℃〜70℃に設定することができる。
その後、フィルムを加熱することにより前記押出助剤を除去して結晶性ポリマー未焼成フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度は用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜定めることができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。例えばテトラフルオロエチレンを用いる場合には、150℃〜280℃が好ましく、200℃〜255℃がより好ましい。前記加熱としては、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。
このようにして製造される結晶性ポリマー未焼成フィルムの厚みとしては、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の工程で延伸を行う場合には、延伸による厚みの減少も考慮して調整することが必要である。
なお、結晶性ポリマー未焼成フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0050】
<半焼成フィルム形成工程>
前記半焼成フィルム形成工程は、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する工程である。
ここで、前記半焼成とは、結晶性ポリマーをその焼成体の融点以上であり、かつ、その未焼成体の融点+15℃以下の温度で加熱処理することを意味する。また、結晶性ポリマーの未焼成体とは、焼成の加熱処理をしていないものを意味する。また、結晶性ポリマーの融点とは、結晶性ポリマー未焼成体を示差走査熱量計により測定した際に現れる吸熱カーブのピークの温度を意味する。
前記焼成体の融点及び未焼成体の融点としては、特に制限はなく、前記結晶性ポリマーの種類や平均分子量等により変化するが、50℃〜450℃が好ましく、80℃〜400℃がより好ましい。
このような温度は、以下のように考えることができる。例えば、結晶性ポリマーがポリテトラフルオロエチレンである場合には、焼成体の融点が約324℃で未焼成体の融点が約345℃である。従って、半焼成体にするには、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの場合、327℃〜360℃が好ましく、335℃〜350℃がより好ましく、例えば345℃の温度に加熱する。半焼成体は、融点約324℃のものと融点約345℃のものが混在している状態である。
【0051】
前記半焼成は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面(加熱面)を加熱して行う。これにより、厚み方向に非対称に加熱温度を制御することができ、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を容易に製造することができる。
この場合、前記第1の面における平均孔径よりも平均孔径が小さい側の前記第2の面を加熱面とすることが好ましい。
また、結晶性ポリマーからなるフィルムの厚み方向の温度勾配としては、非加熱面と加熱面の温度差は30℃以上が好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0052】
前記加熱方法としては、熱風を吹き付ける方法、熱媒に接触させる方法、加熱した材料に接触させる方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波等電磁波による加熱など種々の方法が使用できる。
また、前記加熱方法としては、特に制限はされないが、フィルムの表面に加熱物を接触させる方法、赤外線照射が特に好ましい。
前記加熱物としては、加熱ロールを選択することが特に好ましい。加熱ロールであれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。
前記加熱ロールの温度としては、上記の半焼成体にする際の温度に設定することができる。加熱ロールにフィルムを接触させる時間としては、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、通常30秒間〜120秒間であり、45秒間〜90秒間が好ましく、60秒間〜80秒間がより好ましい。
【0053】
前記赤外線照射としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記赤外線の一般的な定義は「実用赤外線」(人間と歴史社、1992年発行)を参考にすることができる。前記赤外線とは、波長が0.74μm〜1,000μmの電磁波を意味し、そのうち波長が0.74μm〜3μmの範囲を近赤外線とし、波長が3μm〜1,000μmの範囲を遠赤外線とする。
前記半焼成フィルムは、非加熱面と加熱面との間で温度差がある方が好ましいため、表層の加熱に有利な遠赤外線が好ましく使用される。
前記赤外線の装置の種類としては、目的の波長の赤外線が照射できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に、近赤外線は電球(ハロゲンランプ)、遠赤外線はセラミック、石英、金属酸化面などの発熱体を用いることができる。
また、前記赤外線の照射であれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。また非接触であるため、クリーン、かつ毛羽立ちのような欠陥が生じることがない。
前記赤外線照射の加熱によるフィルム表面温度としては、赤外線照射装置の出力、赤外線照射装置とフィルム表面の距離、照射時間(搬送速度)、雰囲気温度で制御でき、前記半焼成体にする際の温度に設定することができるが、327℃〜380℃が好ましく、335℃〜360℃がより好ましい。前記表面温度が、327℃未満であると、結晶状態が変化せず、孔径制御ができなくなることがあり、380℃を超えると、フィルム全体が溶融することにより過度に形状が変形したり、ポリマーの熱分解が生じることがある。
前記赤外線の照射時間としては、特に制限はなく、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、30秒間〜120秒間が好ましく、45秒間〜90秒間がより好ましく、60秒間〜80秒間が特に好ましい。
【0054】
前記半焼成フィルム形成工程における加熱としては、特に制限はなく、連続的に行ってもよく、又は何度かに分割して間欠的に行ってもよい。
連続的にフィルムの加熱面を加熱する場合には、フィルムの加熱面と非加熱面とで温度勾配を保持するため、加熱面の加熱と同時に非加熱面を冷却することが好ましい。
前記非加熱面を冷却する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば冷風を吹き付ける方法、冷媒に接触させる方法、冷却した材料に接触させる方法、放冷による冷却等の種々の方法が使用できるが、フィルムの非加熱面に冷却物を接触させることにより行うことが好ましい。
前記冷却物としては、特に制限はないが、冷却ロールを選択することが好ましい。前記冷却ロールであれば、加熱面の加熱と同様に、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。前記冷却ロールの温度としては、上記の半焼成体にする際の温度と差を生じさせるように設定することができる。前記冷却ロールにフィルムを接触させる時間としては、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、加熱工程と同時進行で行うことを前提とすると、通常30秒間〜120秒間であり、好ましくは45秒間〜90秒間であり、より好ましくは60秒間〜80秒間である。
【0055】
前記加熱ロール及び冷却ロールの表面材質としては、一般に耐久性に優れるステンレス鋼とすることができ、特にSUS316を挙げることができる。
前記半焼成フィルム形成工程では、フィルムの非加熱面を加熱及び冷却ロールに接触させることが好ましいが、該加熱及び冷却ロールよりも低い温度に設定されたローラーをフィルムの加熱面に接触させても構わない。例えば、常温に維持されたローラーをフィルム加熱面から圧接させて、フィルムを加熱ロールにフィットさせるようにしてもよい。また、加熱ロールに接触させる前又は後において、フィルムの加熱面をガイドロールに接触させても構わない。
また、前記半焼成フィルム形成工程を間欠的に行う場合にも、フィルムの加熱面を間欠的に加熱及び非加熱面を冷却して、非加熱面の温度上昇を抑制することが好ましい。
【0056】
<延伸工程>
前記延伸工程は、前記半焼成フィルムを延伸する工程である。
前記延伸としては、前記半焼成フィルムの長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。この際、長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率としては、特に制限はないが、4倍〜100倍が好ましく、8倍〜90倍がより好ましく、10倍〜80倍が更に好ましい。長手方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率としては、特に制限はないが、10倍〜100倍が好ましく、12倍〜90倍がより好ましく、15倍〜70倍が更により好ましく、20倍〜40倍が特に好ましい。幅方向の延伸温度としては、特に制限はないが、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
面積延伸倍率としては、特に制限はないが、50倍〜300倍が好ましく、75倍〜280倍がより好ましく、100倍〜260倍が特に好ましい。
前記延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度にフィルムを予備加熱しておいてもよい。
【0057】
なお、前記延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。該熱固定の温度としては、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマー焼成体の融点未満で行うことが好ましい。
【0058】
<被覆膜形成工程>
前記被覆膜形成工程は、前記微孔性膜の表面に、前記酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む被覆膜を形成する工程である。
前記被覆膜形成工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記半焼成フィルム(結晶性ポリマーの微孔性膜)を前記酢酸ビニルモノマーを含む組成液に浸漬する方法、前記半焼成フィルム(結晶性ポリマーの微孔性膜)に対して前記酢酸ビニルモノマーを含む組成液を塗布する方法等が挙げられる。
前記被覆膜形成工程を含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法によれば、紫外線レーザー及びArFレーザーの照射処理及び化学エッチング処理といった処理を行うことなく親水化処理することができ、効率的に親水性の前記結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができ、かつ、親水性、濾過流量、濾過寿命及び耐薬品性に優れた前記結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができる。
【0059】
前記酢酸ビニルモノマーを含む組成液に用いられる前記酢酸ビニルモノマーの溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、メタノール・エタノール・イソプロパノール・エチレングリコールなどのアルコール類、アセトン・メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン・ジオキサン・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0060】
前記被覆膜形成工程としては、特に制限はないが、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記微孔性膜を前記酢酸ビニルモノマーで被覆後、前記酢酸ビニルモノマーの全部又は一部を重合させることを含むことが好ましい。
前記重合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、光重合、熱重合のいずれでもよい。
前記重合の具体的な方法としては、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜において説明した事項を適用することができる。
【0061】
前記酢酸ビニルモノマーを含む組成液には、前記重合において用いられる前記重合開始剤が添加されることが好ましい。
前記重合開始剤の添加量としては、特に制限はないが、前記酢酸ビニルモノマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部が好ましく、0.5質量部〜15質量部がより好ましく、1.0質量部〜10質量部が特に好ましい。
0.1質量部未満であると、重合反応が遅くなることがあり、20質量部を超えると、膜強度が脆くなることがある。
【0062】
また、前記浸漬乃至塗布後のフィルムに対して、アニール処理を行うことが好ましい。
前記アニール処理における温度としては、特に制限はなく、40℃〜180℃が好ましく、45℃〜170℃がより好ましく、50℃〜160℃が特に好ましい。
40℃未満であると、溶剤がすべて蒸発しない・熱重合が進まないなどのおそれがあり、180℃を超えると、前記酢酸ビニルモノマー等が分解するおそれがある。
【0063】
前記被覆膜形成工程としては、前記重合後の被覆膜に対して、架橋処理を行うことを含むことが好ましい。
前記架橋処理としては、特に制限はないが、前記アニール処理に際し、予め含架橋剤組成液中に前記被覆膜重合後の微孔性膜を浸漬する方法、予め前記被覆膜重合後の微孔性膜に対して前記含架橋剤組成液を塗布する方法等が挙げられる。
なお、前記架橋処理としては、鹸化処理後に行ってもよい。
【0064】
前記被覆膜形成工程としては、更に、前記重合後の被覆膜に対して、鹸化処理を行うことを含むことが好ましい。
前記鹸化の方法としては、特に制限はなく、公知の鹸化方法を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等に前記結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬する方法などが挙げられる。
【0065】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、様々な用途に用いることができるが、特に、以下に説明する濾過用フィルタとして好適に用いることができる。
【0066】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることを特徴とする。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を濾過用フィルタとして用いるときは、平均孔径が大きい第1の面(非加熱面)を濾過面(インレット)側として濾過を行う。即ち、ポアサイズの大きな表面側をフィルタの濾過面に使用する。このように、平均孔径が大きい第1の面(非加熱面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができる。
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0067】
本発明の濾過用フィルタは、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った時に、少なくとも5ml/cm・min以上の濾過が可能なものとすることができる。
本発明の濾過用フィルタの形状としては、ろ過膜をひだ折りするプリーツ型、ろ過膜をのり巻き状にするスパイラル型、円板状のろ過膜を積層させるフレーム・アンド・プレート型、ろ過膜を管状にするチューブ型などがある。これらの中でも、カートリッジあたりのフィルタのろ過に使用する有効表面積を増大させることができる点から、プリーツ状に加工成形されていることが特に好ましい。
また、劣化したろ過膜を取り換える際にフィルターエレメントのみを取り換えるエレメント交換式フィルターカートリッジと、フィルターエレメントをろ過ハウジングと一体に加工しハウジングごと使い捨てのタイプにしたカプセル式のフィルターカートリッジとに分類される。
【0068】
ここで、図1はエレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜103は2枚の膜サポート102、104によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコアー105の廻りに巻き付けられている。その外側には外周カバー101があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート106a、106bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット107を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアーの集液口から集められ、流体出口108から排出される。
【0069】
カプセル式のプリーツフィルターカートリッジを図2及び図3に示す。
図2はカプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造を示す展開図である。精密ろ過膜2は2枚のサポート1、3によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア7の廻りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー6があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート4、下部エンドプレート5により、精密ろ過膜がシールされている。
図3は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す。フィルターエレメント10はハウジングベースとハウジングカバーよりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリング8を介してハウジングベース中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズルからハウジング内に入り、フィルターメディア9を通過し、フィルターエレメントコア7の集液口から集められ、液出口ノズル14から排出される。ハウジングベースとハウジングカバーは通常溶着部17で液密に熱融着される。
【0070】
図2は、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールをOリングを介して行う事例を示しているが、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。又はウジングベースとハウジングカバーとのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。図1〜図3は精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図に限定されるわけではない。
【0071】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0072】
本発明の濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる。特に、本発明の濾過用フィルタは耐熱性及び耐薬品性に優れているため、従来の濾過用フィルタでは対応できなかった高温濾過や反応性薬品の濾過にも効果的に用いられる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
−半焼成フィルムの作製−
数平均分子量が620万のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「ポリフロン・ファインパウダーF104U」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパー」)27質量部を加え、丸棒状にペースト押出しを行った。これを、70℃に加熱したカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けして、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み100μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
得られたポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムの一の面(加熱面)を345℃に加熱したロール(表面材質:SUS316)で1分間加熱して、半焼成フィルムを作製した。
【0075】
得られた半焼成フィルムを270℃にて長手方向に12.5倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、270℃で幅方向に30倍に延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた延伸フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で260倍であった。
【0076】
−親水化−
蒸留により精製した酢酸ビニルモノマー5質量%、及び重合開始剤としてのα,α’−アゾビスイソブチロニトリル(純正化学社製)0.1質量%のメタノール溶液に、上記延伸フィルムを浸漬し、引き上げた該微孔性膜に対して、大気下で60℃2時間アニール処理を行った。その後、メタノールにて30分間浸漬及び洗浄行い、乾燥させた後、水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬させ、鹸化処理を行うことで、実施例1における結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0077】
<実施例2>
実施例1において、半焼成フィルムに代えて、ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜(ジャパンゴアテックス製:対称孔膜)を用い、該ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜に対して
親水化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2における結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0078】
<実施例3>
実施例1における親水化処理において、鹸化処理を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3における結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0079】
<実施例4>
実施例1における親水化処理において、下記のように親水化処理を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4における結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0080】
−親水化−
蒸留により精製した酢酸ビニルモノマー5質量%、及び重合開始剤としてのα,α’−アゾビスイソブチロニトリル(純正化学社製)0.1質量%のメタノール溶液に、上記延伸フィルムを浸漬し、引き上げた該微孔性膜に対して、大気下で60℃2時間アニール処理を行った。その後、メタノールにて30分間浸漬及び洗浄行い、乾燥させた後、水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬させ、鹸化処理を行い、続いて、架橋剤としてのエチレングリコールジグリシジルエーテル2.0wt%/KOH0.20%水溶液に、浸漬させ、大気下で、150℃で10分間アニール処理を行った。その後、沸騰水に30分間浸漬・洗浄行い、乾燥させることで、実施例4における結晶性ポリマー微孔性膜を作製した。
【0081】
(比較例1)
−結晶性ポリマー微孔性膜の作製−
実施例1において、親水化処理を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1における結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0082】
(比較例2)
実施例1における親水化処理に代えて以下のように親水化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2における結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
即ち、比較例2における親水化処理は、濃度1.0質量%のPVA(クラレ社製RS2117、分子量;74,800)水溶液中に、予めエタノールに含浸させた延伸フィルムを浸漬し、引き上げた該微孔性膜を、大気下で、150℃10分間アニール処理を行った。その後、沸騰水に30分間浸漬及び洗浄行い、乾燥させることにより行った。
【0083】
(比較例3)
濃度1.0質量%のPVA(クラレ社製RS2117)水溶液中に、予めエタノールに含浸させたポリテトラフルオロエチレン微孔性膜(ジャパンゴアテックス製:対称孔膜)を浸漬し、引き上げた該微孔性膜を、大気下で、150℃10分間アニール処理を行った。その後、沸騰水に30分間浸漬及び洗浄行い、乾燥させることで、比較例3における結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0084】
<被覆膜形成材料の分子構造測定>
実施例1〜4における、親水化処理された結晶性ポリマー微孔性膜の表面被覆膜を形成する材料について、以下のように分子構造の測定を行った。
即ち、膜ごと細かく切り刻み、KBrとまぶした状態でIRで測定及び解析を行うことにより、酢酸ビニル成分及びビニルアルコール成分を検出した。
また、熱分解ガスクロマトグラフィーによる測定においても、酢酸ビニルモノマー、酢酸ビニルオリゴマー由来の成分を含む酢酸ビニル成分及びビニルアルコール成分を検出した。
【0085】
<親水性の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜3における各結晶性ポリマー微孔性膜について、親水性を評価した。
親水性の評価は、特許第3075421号公報に記載の評価方法を参考に行った。具体的には、以下の通りである。
即ち、初期親水性は、高さ5cmのところから水滴をサンプル表面に落し、水滴が吸収されるかどうかを観察し、下記判断基準に基づいて親水性の評価を行った。結果を下記表1に示す。
A:自然に吸収
B:加圧してのみ吸収あるいは、吸収されないが接触角は減少
C:吸収されない。即ち、水を撥ねる。
なお、前記C評価は、多孔性フッ素樹脂材料(ポリテトラフルオロエチレン)に特有であり、親水性が付与されていない状態を示す。
【0086】
<濾過テスト>
実施例1〜4及び比較例1〜3における各結晶性ポリマー微孔性膜について、下記の濾過テストを行った。
即ち、ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ1.5μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧10kPaとして、濾過し、目詰まりが生ずるまでの透過量を測定することで濾過テストを行った。結果を下記表1に示す。
【0087】
【表1】

なお、上記表1中、「測定不能」で示される評価は、水溶液を濾過できないことを示す。
【0088】
上記表1の結果から、実施例1〜4における結晶性ポリマー微孔性膜は、親水性を有し、比較例1における結晶性ポリマー微孔性膜は、親水性が全くないことが分かる。また、濾過テストに関し、比較例1における結晶性ポリマー微孔性膜は、親水性がなく、測定不能であった。
これに対し、実施例1〜4における結晶性ポリマー微孔性膜は、イソプロパノールによるプレ親水化処理が不要で、かつ、100mL/cm以上まで濾過が可能であった。
比較例2及び3における結晶性ポリマー微孔性膜は、実施例1における結晶性ポリマー微孔性膜より親水性及び濾過流量に劣っていた。このような理由としては、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む条件とする実施例1〜4においては、ポリビニルアルコールを含む条件とする比較例2及び3に対して、親水性材料としての酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーが微孔性膜の孔部内に効果的に入り込めるため、結晶性ポリマー微孔性膜全体がより優れて親水化できたものと考えられる。
【0089】
<耐水性の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜3における結晶性ポリマー微孔性膜に対し、200mLの水を100kPaの圧力条件下で通す過程を5回繰り返した。乾燥は、1回通すごとに行った。
耐水性の評価は、以上の過程を経た実施例1及び比較例1における各結晶性ポリマー微孔性膜に対し、前記親水性の評価における判断基準(A〜C)に基づき評価することで行った。結果を下記表2に示す。
【0090】
<耐酸性の評価>
耐酸性の評価は、実施例1〜4及び比較例1〜3における結晶性ポリマー微孔性膜を、1N塩酸水溶液に80℃の温度条件下で5時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜C)に基づき評価することで行った。結果を下記表2に示す。
【0091】
<耐アルカリ性の評価>
耐酸性の評価は、実施例1〜4及び比較例1〜3における結晶性ポリマー微孔性膜を、1N水酸化ナトリウム水溶液に80℃の温度条件下で5時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜C)に基づき評価することで行った。結果を下記表2に示す。
【0092】
<泡透過性>
結晶性ポリマー微孔性膜に泡が、蓄積してしまうと、その泡により、目詰まりがおこり、濾過寿命が下がる。即ち、親水性を向上させる場合、泡よりも水との親和性が高く、泡を吸着している状態よりも水で濡れている状態の方がエネルギー的に有利となり、泡透過能が上がる方が濾過寿命を延ばすことができる。
そのため、実施例1〜4における結晶性ポリマー微孔性膜の泡透過性の測定を行った。具体的には、水中に存在させたマイクロバブルを流したときに、目詰まりがおこり濾過寿命が低下するか否かの測定を行った。
この測定において、実施例1〜4における結晶性ポリマー微孔性膜は、濾過寿命の変化が見受けられなかったことから、泡透過能が向上したものと推察される。
【0093】
【表2】

なお、上記表2中、「−」で示される評価は、親水性に乏しいため、評価できなかったことを示す。
【0094】
上記表2の結果に関し、実施例1〜4における結晶性ポリマー微孔性膜は、耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性のいずれにおいても優れた結果を示した。これに対して、比較例1における結晶性ポリマー微孔性膜は、親水性に乏しいため、耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性の評価を行うことができなかった。また、比較例2、3における結晶性ポリマー微孔性膜は、実施例1における結晶性ポリマー微孔性膜に対し、耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性のいずれにおいても劣る結果を示した。
【0095】
(実施例5)
−フィルターカートリッジ化(濾過フィルタ)−
ポリプロピレン不織布2枚の間に、実施例1における結晶性ポリマー微孔性膜を挟み、ひだ幅10.5mmにプリーツし、その138山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着した。円筒の両端2mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着してエレメント交換式のフィルターカートリッジに仕上げ、実施例5における濾過フィルタを製造した。
実施例5におけるフィルターカートリッジ(濾過フィルタ)は、内蔵する結晶性ポリマー微孔性膜が親水性であるため、水系の処理において煩雑なプレ親水化処理が不要である。また、結晶性ポリマーを用いているため耐溶剤性に優れる。更に孔部が非対称構造を有するため、大流量かつ目詰まりを起こしにくく長寿命であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、長期間にわたって効率よく微粒子を捕捉することができ、耐薬品性にも優れているため、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過などに幅広く用いることができ、特に液晶デバイス及び半導体デバイスにおける洗浄プロセスに用いられる濾過フィルタとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
1 一次側サポート
2 精密ろ過膜
3 二次側サポート
4 上部エンドプレート
5 下部エンドプレート
6 フィルターエレメントカバー
7 フィルターエレメントコア
8 Oリング
9 フィルターメディア
10 フィルターエレメント
11 ハウジングカバー
12 ハウジングベース
13 液入口ノズル
14 液出口ノズル
15 エアーベント
16 ドレン
17 溶着部
101 外周カバー
102 膜サポート
103 精密ろ過膜
104 膜サポート
105 コアー
106a、106b エンドプレート
107 ガスケット
108 液体出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリマーを有する微孔性膜の表面に、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む被覆膜を有することを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項2】
酢酸ビニルオリゴマーが、酢酸ビニルモノマーを重合させたものである請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項3】
酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかが、鹸化されてヒドロキシル基を有する請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項4】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルのいずれかから選択される請求項1から3のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項5】
微孔性膜が、第1の面における平均孔径が第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する請求項1から4のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項6】
微孔性膜が、結晶性ポリマーを含むフィルムの一の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を付与した半焼成フィルムを延伸した膜である請求項1から5のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項7】
第2の面を加熱面とする請求項6に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項8】
結晶性ポリマーを有する微孔性膜の表面に、酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーのいずれかを含む被覆膜を形成する被覆膜形成工程を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項9】
被覆膜形成工程が、酢酸ビニルモノマーを微孔性膜に被覆後、少なくとも前記酢酸ビニルモノマーの全部又は一部を重合させること、及び前記酢酸ビニルモノマーの全部又は一部を架橋させることのいずれかを含む請求項8に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項10】
被覆膜形成工程が、重合乃至架橋後の被覆膜に対して、鹸化処理を行うことを含む請求項9に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項11】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルのいずれかから選択される請求項8から10のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることを特徴とする濾過用フィルタ。
【請求項13】
プリーツ状に加工成形される請求項12に記載の濾過用フィルタ。
【請求項14】
第1の面をフィルタの濾過面とする請求項12から13のいずれかに記載の濾過用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−102346(P2011−102346A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257171(P2009−257171)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】