説明

結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板及び製造方法

【課題】熱安定性が高く、柔軟性に優れた結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を提供する。
【解決手段】粘土膜基材上に積層した層状化合物から剥離されたナノシート層からなる、600℃までの耐熱性、難燃性、柔軟性を有する結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板であって、上記粘土膜基材が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含み、粘土が、水分散性あるいは有機溶剤分散性であり、添加物が、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドであり、上記ナノシート層が、層状化合物から剥離されたものであり、ナノシートが、粘土膜基材上に塗布法により積層された構造を有する、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【効果】上記結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板は、電子デバイス、発光デバイスなどとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、耐熱性、難燃性及び柔軟性を有する結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板とその製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、例えば、無機ならびに有機EL、フラットパネルディスプレイなどの電子デバイス用のフレキシブル基板材の技術分野においては、従来、耐熱性、難燃性及び柔軟性を有する材料を得ることは困難であることから、その開発が強く要請されていたことを踏まえて開発されたものであって、熱安定性が高く、しかも柔軟性に優れ、電子デバイス、発光デバイスなどとして有用な結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
近年の電子デバイスの軽量化、薄膜化、フレキシブル化への要求から、ガラスと同等の耐熱性、透明性、線膨張係数などを有する柔軟な基板材料が強く望まれている。特に、電子デバイスの柔軟性及び軽量化の実現のために、基板を極力薄くすることが望まれており、また、耐熱性、耐薬品性及び寸法安定性などが求められている。
【0004】
一般に、電子デバイス用の構成素子として、金属、セラミックスなどの結晶性薄膜が多岐にわたり用いられているが、そのほとんどが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法あるいはCVD法などの各種の成膜方法により作製されている。
【0005】
これらの電子デバイス用の結晶性薄膜は、その作製時に、高温度下での成膜やアニールといった結晶成長が必要となる。すなわち、結晶性薄膜を、その上に作製しようとする基板材料は、これらの高温条件下に耐え得る高耐熱性を有することが求められている。
【0006】
フレキシブル基板としては、現在のところ、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミドなどの樹脂で形成された基板や、特殊なガラスエポキシ基板が用いられている。ところが、これらのプラスチック基板は、加熱により構造が変化して、機械的特性や電気的特性が変わるという問題が生じ、また、樹脂を用いているため、耐熱性、難燃性に劣るという問題がある。
【0007】
また、プラスチック基板は、ガラスなどの無機材料基板に比べて、熱膨張係数が大きいために、成膜する結晶性薄膜に、クラックが生じたり、基板から剥離したりする、といった不具合が生じる。更に、プラスチック基板は、おおよそ150℃以上に加熱すると、基板自体の有機物が分解して、変質ならびに劣化を起こす。
【0008】
一方、粘土膜は、優れた柔軟性を有し、大部分が無機物で構成されているために、高い耐熱性、難燃性を有することが期待される。また、合成粘土を原料に用いれば、透明な粘土膜とすることも可能である。粘土膜を製造するには、例えば、無機層状化合物と、少量の水可溶性の高分子を、水あるいは水を主成分とする液に分散させ、均一な分散液を得た後、この分散液を、表面が平坦で、撥水性の支持体に塗布し、無機層状化合物粒子を沈積させる。
【0009】
次に、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで分離し、膜状に成形した後、これを必要に応じ、乾燥・加熱・冷却するなどの方法により、支持体から剥離することにより、無機層状化合物粒子が配向し、柔軟性に優れ、耐熱性も高い、無機層状化合物膜が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
ところで、結晶成長用基板については、その表面上に、気相成長法又は液相成長法により、結晶をエピタキシャル成長させるためには、成長させようとする結晶と、基板表面の格子定数とが、ほぼ等しい必要がある。結晶成長用基板として、結晶面をそろえた単結晶を基板として用いることも可能であるが、著しく高価であり、基板素材としても、汎用性に乏しい。
【0011】
基板自体の材質ならびに結晶性と関係なく、基板表面の格子定数を制御する方法として、基板表面に、無機のナノシートを吸着させ、結晶成長のためのシード層とする方法がある。しかし、シード層として機能させるためには、基板表面に対して、高配向かつ緻密に、ナノシートを積層させる必要がある。
【0012】
非特許文献1には、CaNb10からなるナノシートのLB膜(Langmuir−Blodgett膜)が、ガラス基板上に得られることが示されている。また、非特許文献2には、CaNb10からなるナノシートのLB膜を、シード層とすることによって、ガラス基板上に、SrTiOの結晶性薄膜が得られることが示されている。
【0013】
また、非特許文献3及び4には、チタニアとカチオン性界面活性剤からなるナノシートのLB膜が、固体基板上に得られることが示されている。また、非特許文献5には、ディップコート法によって作製したCaNb10からなるナノシート層を、シード層として、ガラス基板上にLaNiOとPb(Zn,Ti)Oの結晶性薄膜を得ることが示されている。
【0014】
また、特許文献2には、CaNb10からなるナノシートのLB膜を、シード層とすることによって、ガラス基板上に、SrTiOの結晶性薄膜を得ることが示されている。
【0015】
しかしながら、以下において、ナノシートをシード層とする結晶成長用基板に焦点を絞り、従来技術の問題点について述べると、特許文献2ならびに非特許文献1〜4において、CaNb10からなるナノシートをLB膜として固体基板表面上へ移行させる手法は、LB法の原理上、非常に煩雑かつ繊細で時間を要する工程を必要とする上、大面積化が非常に困難であり、工業的には現実的な手法ではない。
【0016】
また、非特許文献5で用いているディップコート法においても、大面積化が困難であり、工業的には、現実的な手法ではない。また、LB法ならびにディップコート法は、基板を水中に浸漬することとなるため、水溶解性があったり、水の吸収によって寸法が変化するような基板には、不適である。
【0017】
また、特許文献2ならびに非特許文献1〜5のLB法ならびにディップコート法では、単一操作では、ナノシート単層膜が形成されるため、基板上のナノシートの欠損が、上部に形成する結晶性薄膜の結晶性を悪化させる。更に、ナノシート欠損の原因となる有機汚れを取り除くために、基板を高度に洗浄しておく必要もある。上記方法でも、複数回操作を繰り返せば、操作回数分のナノシート多層膜を形成することは可能であるが、これも、工業的に、現実的な手法ではないことはいうまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2005−313604号公報
【特許文献2】特願2009−062216号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Langmuir,Vol.21,6590(2005)
【非特許文献2】Adv.Mater.,Vol.20,231(2008)
【非特許文献3】Langmuir,Vol.17,2564(2001)
【非特許文献4】Langmuir,Vol.22,3870(2006)
【非特許文献5】J.Sol−Gel Sci.Techn.,Vol.42,381(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の問題点を解決することができる結晶成長用基板を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、ナノシートをシード層として粘土膜基板の基材上に積層させることによって所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記従来技術の種々の問題点に鑑みて、ナノシートをシード層として粘土膜基板の基材上に積層させ、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するための本発明は、以下のような技術的手段から構成される。
(1)ナノシート層が粘土膜基材上に積層された、600℃までの耐熱性、難燃性及び柔軟性を有する、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板であって、
ナノシート層が、層状化合物から剥離されたものであり、単層または多積層であり、層状化合物が、層状金属酸化物ナノシートからなり、粘土膜基材が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含み、添加物が、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドである、ことを特徴とする結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
(2)粘土膜基板の粘土含有量が、少なくとも70重量%である、前記(1)に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
(3)層状化合物が、層状ペロブスカイトナノシートからなる、前記(1)に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
(4)層状ペロブスカイトナノシートが、CaNb10、CaTa10、LaNb、又はLaTi10から構成される、前記(2)に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
(5)粘土が、マイカ、サポナイト、モンモリロナイト、スティーブンサイト、バーミキュライト、バイデライト、又はヘクトライトである、前記(1)に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
(6)粘土が、水分散性あるいは有機溶剤分散性である、前記(1)に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
(7)ナノシートが、粘土膜基材上に塗布法で積層された、前記(1)に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
(8)前記(1)から(7)のいずれかに記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を含むことを特徴とする電子デバイス。
(9)前記(1)から(7)のいずれかに記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を含むことを特徴とする発光デバイス。
(10)粘土膜基板上に、ナノシート層を積層することにより、600℃までの耐熱性、難燃性及び柔軟性を有する結晶成長用ナノシートつき粘土基板を製造する方法であって、
層状金属酸化物ナノシートを、粘土膜基板上に、スピンコート又はキャストすることにより積層させる工程を有し、ナノシート層が、層状化合物から剥離されたものであり、単層又は多積層であり、粘土膜基材が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含み、添加物が、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドであり、粘土膜基板の粘土含有量が、少なくとも70重量%である、ことを特徴とする結晶成長ナノシートつき粘土基板の製造方法。
【0022】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板であって、粘土膜基材上に、ナノシート層を積層したことを特徴とするものである。本発明において、上記ナノシート層は、層状化合物から剥離されたものであり、単層又は多積層であること、この層状化合物は、層状金属酸化物ナノシートからなること、を好ましい実施の態様としている。
【0023】
本発明において、上記粘土膜基材は、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含むこと、粘土は、マイカ、サポナイト、モンモリロナイト、スティーブンサイト、バミューキュライト、バイデライト、又はヘクトライトからなること、を好ましい実施の態様としている。
【0024】
また、本発明においては、上記粘土としては、水分散性、あるいは有機溶剤分散性である粘土が挙げられ、また、上記添加物としては、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドが挙げられ、粘土膜基板の粘土含有量としては、70重量%以上であることが好適である。
【0025】
本発明において、粘土膜基板上に、ナノシートを積層する方法としては、塗布液をスピンコート又はキャストする塗布法が用いられる。
【0026】
次に、本発明の粘土基板を構成する粘土膜の製造方法について説明すると、粘土としては、合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を使用することができ、これを、蒸留水に加え、プラスチック製などの密封容器に、撹拌子とともに収容し、激しく振とうし、均一な分散液を得る。この分散液に、添加物として、市販のポリアクリル酸ナトリウム塩などを加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリアクリル酸ナトリウム塩などを含む均一な分散液を得る。
【0027】
続いて、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行ない、次いで、この粘土ペーストを、表面が平坦なポリプロピレン製などのトレイに塗布する。塗布には、例えば、ステンレス製地ベラを使用し、スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型する。
【0028】
このトレイを、強制送風式オーブン中において、所定の温度条件下で、乾燥することにより、例えば、厚さ約10μm程度の、均一な粘土添加物複合粘土膜を得る。生成した粘土膜を、トレイから剥離して、自立した、柔軟性に優れた膜を得る。
【0029】
次に、結晶成長用ナノシートの形成について説明すると、本発明の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を作製するために、例えば、CaNb10、CaTa10、LaNb、又はLaTi10、一般的には、An−13n+1(Aは、Ca、Srなどを含む2価のアルカリ土類金属イオンからなる群から少なくとも1種選択され、Bは、Nb、Taなどを含む4価の金属イオンからなる群から少なくとも1種選択され、n=2〜5)などからなるナノシートのコロイド懸濁液と、水溶性高分子の混合液を、スピンコート法などで塗布することによって、粘土膜基板上にナノシート多層膜を作製する。
【0030】
これにより、単層膜では、その上部に成長させる薄膜の結晶性を乱す要因となるナノシート層の欠損を防ぐことができる。また、スピンコート法で塗布することによって、水に弱い粘土膜基材に対しても、シード層の形成を行えるようになる。
【0031】
ナノシートの上記コロイド懸濁液の調製方法は、層状ペロブスカイト化合物をプロトン交換し、次に、カチオン性界面活性剤を作用させることによって、ナノシートを剥離させ、均一に分散させてコロイド懸濁液とするものである。これに、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を混合させることによって、塗布に好適な粘度に調整するとともに、粘土膜表面への濡れ性を向上させ、均一なナノシート層の作製が可能となる。
【0032】
粘土膜基材上に、ナノシート層を作製する際には、まず、固相反応法により作製した層状ペロブスカイト化合物であるKCaNb10の結晶に、硝酸を作用させることによって、プロトン交換を行う。次に、テトラブチルアンモニウム臭素塩を作用させることによって、CaNb10ナノシートを剥離させ、均一に分散したナノシート懸濁液を得る。
【0033】
次に、この懸濁液に、水溶性高分子であるポリビニルアルコールなどを加えて、塗布液とし、粘土膜基板上へ、この塗布液をスピンコート又はキャストすることで、均一に塗布し、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板とする。これを、結晶成長用基板として機能させるためには、概ね400℃以上の仮焼により、水溶性高分子を除去する必要がある。しかし、結晶成長に、それ以上の温度での処理を行う場合は、そのまま使用しても構わない。
【0034】
次に、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板への蛍光体薄膜の作製について説明すると、粘土膜基板上に、シード層を形成した後、ゾルゲル法で、ペロブスカイト型(Sr0.4Ca0.60.998Pr0.002TiO蛍光体薄膜を成長させる。ゾルゲル法では、酢酸などを溶剤とした金属アルコキシドからなるゾルを、基板上に塗布した後、加熱することで、加水分解・重縮合反応により、流動性を失ったゲルとし、このゲルを、更に加熱して、薄膜として、酸化物を堆積させる。
【0035】
蛍光体薄膜の作製においては、上記結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を用いる。ゾル液は、例えば、化学量論組成の(Sr0.4Ca0.60.998Pr0.002TiOとなるように調製した金属アルコキシド酢酸溶液を用い、これを、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上にスピンコートし、乾燥させた後、大気中にて、焼成して、蛍光体薄膜を作製する。
【0036】
なお、粘土膜基板上に塗布した、例えば、CaNb10、CaTa10、LaNb、又はLaTi10、一般的には、An−13n+1(Aは、Ca、Srなどを含む2価のアルカリ土類金属イオンからなる群から少なくとも1種選択され、Bは、Nb、Taなどを含む4価の金属イオンからなる群から少なくとも1種選択され、n=2〜5)などのナノシートと、水溶性高分子からなる複合膜のうち、水溶性高分子は、酸化されて、分解・蒸散するため、後に残るナノシートが、直接ゾルゲル液に触れることになり、シード層として、機能するようになる。
【0037】
例えば、CaNb10ナノシート結晶の場合、その格子定数は、0.386nmである。ペロブスカイト酸化物の多くの材料は、この近傍の格子定数を持ち、その格子整合性が良いため、結晶性の良い酸化物配向薄膜の成長が期待される。
【0038】
スピンコート法によって、シード層を塗布した結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上部に、ソルゲル法で作製した、蛍光体薄膜を成長させた構造について、X線観測すると、c軸配向した蛍光体薄膜が成長していることが分かる。この一軸配向性により、蛍光体薄膜の結晶性が向上していることが示される。
【0039】
結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上部に、ソルゲル法で作製した蛍光体薄膜に、波長254nmのランプで、紫外線を照射すると、赤色蛍光を示す波長610nm付近の急峻なピークが確認される。ナノシートを用いた場合、目視で、蛍光が確認できる。
【0040】
一方、粘土膜基板上に、直接成膜した試料では、顕著な蛍光は得られず、蛍光強度は、低品位な結晶では弱く、高品位な結晶では、高いことが明らかである。これによって、ナノシートを、結晶成長用シード層として、その上部に、高結晶性が必要な蛍光体薄膜を成長させることで、高輝度な蛍光素子が、粘土膜基板上に、低コストで得られることが期待される。
【0041】
本発明では、粘土膜基材上に、スピンコート法などの塗布法で、ナノシートを、大面積で、均一に積層させ、これによって、板状結晶が一軸配向した集合体からなるシード層を得る。この板状結晶の構成要素のうち、結晶性薄膜作製時に、シード層として機能する部分は、無機層状化合物を剥離して得られるものである。本発明では、その剥離を、1層毎に行うことによって、厚さを完全に揃えることが重要であり、厚さXnmは、0.3<X<5の範囲にあることが望ましく、この上に、気相成長又は液相成長によって、結晶性の優れた結晶性薄膜を得ることが重要である。
【発明の効果】
【0042】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)結晶成長用ナノシートを基板上に得るために、従来のLB法ならびにディップコート法のような煩雑な手法ではなく、スピンコート法などの簡便な塗布法で、ナノシートを均一に積層させることによって、粘土膜基板上に、シード層を形成することができる。
(2)塗布法によるシード層の形成は、スピンコート法のほか、キャスト法ならびに凸版、凹版、平版、孔版などの各種版式による印刷でも可能であり、電子デバイスに必要なパターニングも可能である。
(3)本手法は、特に、粘土膜のような水に弱い基板上へのシード層形成に好適であり、工業的にも、大面積化や大量生産が容易に可能である。
(4)熱安定性が高く、不燃で、しかも優れた柔軟性を有し、高品位な結晶を、その上に成長させることができる新規な結晶成長用基板を提供することができる。
(5)耐熱性、柔軟性に優れた粘土膜基板からなる、高結晶性が必要な無機エレクトロルミネッセンス素子、誘電体素子、圧電体素子などの電子デバイスやフォトルミネッセンスなどの発光デバイスの提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板の概略構成を示す図である。
【図2】結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板のX線観測の結果を示す図である。
【図3】シード層の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図4】結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上部に作製した蛍光体薄膜のX線観測の結果を示す図である。
【図5】結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上部に作製した蛍光体薄膜に波長254nmの紫外線を照射した時の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
(1)粘土膜の製造
粘土として、0.8グラムの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、撹拌子とともに、収納し、25℃で、2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、市販のポリアクリル酸ナトリウム塩を0.2g加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリアクリル酸ナトリウム塩を含む均一な分散液を得た。
【0046】
続いて、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行なった。次に、この粘土ペーストを、表面が平坦なポリプロピレン製トレイに塗布した。この粘土ペーストの塗布には、ステンレス製地ベラを用いた。この場合、スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。このトレイを、強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で、1時間乾燥することにより、厚さ約10μmの、均一な粘土添加物複合粘土膜を得た。生成した粘土膜を、トレイから剥離して、自立した、柔軟性に優れた膜を得た。
【0047】
(2)結晶成長用ナノシートの形成
本発明の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板の、より具体的な作製法では、CaNb10からなるナノシートのコロイド懸濁液と、水溶性高分子のポリビニルアルコールとの混合液を、スピンコート法で塗布することによって、粘土膜基板上に、ナノシート多層膜を作製した。
【0048】
これにより、単層膜では、その上部に成長させる薄膜の結晶性を乱す要因となるナノシート層の欠損を防ぐことができた。また、スピンコート法で塗布することによって、水に弱い粘土膜基材に対しても、シード層の形成を行えるようになった。
【0049】
ナノシートのコロイド懸濁液に、ポリビニルアルコールの水溶性高分子を混合させることによって、塗布に好適な粘度に調整するとともに、粘土膜表面への濡れ性を向上させ、均一なナノシート層を作製することが可能となった。
【0050】
結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板の作製を行うために、以下の方法によって、粘土膜基材上に、ナノシート層を作製した。まず、固相反応法により作製した層状ペロブスカイト化合物であるKCaNb10の結晶に、硝酸を作用させることによって、プロトン交換を行い、次に、テトラブチルアンモニウム臭素塩を作用させることによって、CaNb10ナノシートを剥離させ、均一に分散したナノシート懸濁液を、2g/Lの濃度で得た。
【0051】
次に、この懸濁液に、水溶性高分子であるポリビニルアルコールを2重量%加えて、塗布液とし、粘土膜基板上へ、この塗布液をスピンコート又はキャストすることで均一に塗布して、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板とした。これを、結晶成長用基板として機能させるためには、概ね400℃以上の仮焼により、水溶性高分子を除去する必要があるが、結晶成長に、それ以上の温度での処理を行う場合は、そのまま使用しても構わない。
【0052】
図1は、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板の概略構成を示す図である。これは、同図に示すように、粘土膜基材1上に、結晶成長用シード層として、CaNb10ナノシートと水溶性高分子からなる複合膜2を塗布することによって、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を得たものである。
【0053】
図2は、キャスト法によって、シード層を塗布した結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板のX線観測の結果を示す図である。測定は、CuKα線を使用して、2θを3度から70度までスキャンして行った。
【0054】
同図に示すように、ナノシートの(001)面の回折ピークが検出され、c軸配向したナノシートが、粘土膜基板上に積層していることが明らかであり、この一軸配向性により、上部に成長させる薄膜の結晶性を向上させることができた。
【0055】
図3は、シード層の走査型電子顕微鏡像を示す図である。同図に示すように、100 nm程度の不定形状のナノシートが、粘土膜基板上に、一様に被覆されていることが分かる。ナノシート層は、c軸配向した単結晶のシート状の形状であり、面内にab軸を有している。
【実施例2】
【0056】
(1)結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板への蛍光体薄膜の作製
粘土膜基板上に、シード層を形成した後、ゾルゲル法で、ペロブスカイト型である(Sr0.4Ca0.60.998Pr0.002TiOの蛍光体薄膜を成長させた。ゾルゲル法は、酢酸などを溶剤とした金属アルコキシドからなるゾルを、基板上に塗布した後、加熱することで、加水分解・重縮合反応により、流動性を失ったゲルとし、このゲルを、更に加熱して、薄膜として、酸化物を堆積させる手法である。
【0057】
蛍光体薄膜の作製においては、実施例1で得た結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を用いた。ゾル液は、化学量論組成の(Sr0.4Ca0.60.998Pr0.002TiOとなるように調製した金属アルコキシド酢酸溶液を用い、これを、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上に、3000rpmで、30秒スピンコートし、120℃で、10分間乾燥させた後、大気中にて、500℃で、1時間焼成して、蛍光体薄膜を作製した。
【0058】
なお、粘土膜基板上に塗布したCaNb10ナノシートと、水溶性高分子からなる複合膜のうち、水溶性高分子は、酸化されて、分解・蒸散するため、後に残るCaNb10ナノシートが、直接ゾルゲル液に触れることになり、シード層として、機能するようになる。
【0059】
CaNb10ナノシート結晶の格子定数は、0.386nmである。ペロブスカイト酸化物の多くの材料は、この近傍の格子定数を持ち、その格子整合性が良いため、結晶性の良い酸化物配向薄膜の成長が期待される。
【0060】
図4は、スピンコート法によって、シード層を塗布した結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上部に、ソルゲル法で作製した、蛍光体薄膜を成長させた構造のX線観測を示す図である。同図に示すように、c軸配向した蛍光体薄膜が成長していることが明らかであり、この一軸配向性により、蛍光体薄膜の結晶性が向上していることが示されている。
【0061】
図5は、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板上部に、ソルゲル法で作製した蛍光体薄膜に、波長254nmのランプで、紫外線を照射した時の結果を示す図である。同図に示すように、赤色蛍光を示す波長610nm付近の急峻なピークが確認された。ナノシートを用いた場合、目視で、蛍光が確認できる。
【0062】
一方、粘土膜基板上に、直接成膜した試料では、顕著な蛍光は得られず、蛍光強度は、低品位な結晶では弱く、高品位な結晶では、高いことが明らかになった。これによって、ナノシートを、結晶成長用シード層として、その上部に、高結晶性が必要な蛍光体薄膜を成長させることで、高輝度な蛍光素子が、粘土膜基板上に、低コストで得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上詳述したように、本発明は、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板に係るものであり、本発明により、熱安定性が高く、不燃で、しかも優れた柔軟性を有し、塗布法といった簡便な方法で作製でき、高品位な結晶をその上に成長させることができる新規な結晶成長用基板を提供することができる。本発明は、上述の新技術・新素材を利用することで、耐熱性、柔軟性に優れた粘土膜基板からなる、高結晶性が必要な無機エレクトロルミネッセンス素子、誘電体素子、圧電体素子などの電子デバイスや、フォトルミネッセンスなどの発光デバイスの提供を可能とするものとして有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 粘土膜
2 ナノシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノシート層が粘土膜基材上に積層された、600℃までの耐熱性、難燃性及び柔軟性を有する、結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板であって、
ナノシート層が、層状化合物から剥離されたものであり、単層または多積層であり、層状化合物が、層状金属酸化物ナノシートからなり、粘土膜基材が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含み、添加物が、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドである、ことを特徴とする結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【請求項2】
粘土膜基板の粘土含有量が、少なくとも70重量%である、請求項1に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【請求項3】
層状化合物が、層状ペロブスカイトナノシートからなる、請求項1に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【請求項4】
層状ペロブスカイトナノシートが、CaNb10、CaTa10、LaNb、又はLaTi10から構成される、請求項2に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【請求項5】
粘土が、マイカ、サポナイト、モンモリロナイト、スティーブンサイト、バーミキュライト、バイデライト、又はヘクトライトである、請求項1に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【請求項6】
粘土が、水分散性あるいは有機溶剤分散性である、請求項1に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【請求項7】
ナノシートが、粘土膜基材上に塗布法で積層された、請求項1に記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を含むことを特徴とする電子デバイス。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の結晶成長用ナノシートつき粘土膜基板を含むことを特徴とする発光デバイス。
【請求項10】
粘土膜基板上に、ナノシート層を積層することにより、600℃までの耐熱性、難燃性及び柔軟性を有する結晶成長用ナノシートつき粘土基板を製造する方法であって、
層状金属酸化物ナノシートを、粘土膜基板上に、スピンコート又はキャストすることにより積層させる工程を有し、ナノシート層が、層状化合物から剥離されたものであり、単層又は多積層であり、粘土膜基材が、粘土のみを含む、あるいは粘土及び添加物を含み、添加物が、ポリアクリル酸ナトリウム、エポキシ樹脂、ポリイミド、又はポリアミドであり、粘土膜基板の粘土含有量が、少なくとも70重量%である、ことを特徴とする結晶成長ナノシートつき粘土基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−35581(P2012−35581A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179862(P2010−179862)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】