説明

給油潤滑装置及び給油潤滑装置を備えたミシン

【課題】油が過剰に提供されることがないミシンの給油潤滑装置及びミシンを提供する。
【解決手段】針棒43及び軸受部57で潤滑油が消費されると、その消費された分量の潤滑油は、第二油芯54の毛細管現象により、第二油溜53から給油パット55へ供給される。また、第二油溜53でも針棒43及び軸受部56に潤滑油を給油する。そして、第二油溜53に染みこんでいる潤滑油が不足して来た場合には、その不足分の潤滑油は第一油芯5の毛細管現象により、油タンク10(第一油溜)から第二油溜53へ供給される。従って、第二油溜53の潤滑油が不足した場合にのみ油タンク10(第一油溜)から第一油芯5を介して給油されるので、第二油溜53に潤滑油が過剰になることがない。従って、第二油溜53からの潤滑油漏れも防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの針棒に油を給油する給油潤滑装置及び給油潤滑装置を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンの針棒や針棒抱きは、摺動運動を行うために、潤滑油やグリスによる潤滑が必要である。そのために、例えば、紐状の油芯の一端をオイルパン部やベッドに固定されているオイルタンク等の油だまり部に浸し、毛細管現象を利用して針棒近傍に潤滑油を持ってくるものや(以下、「第一の方法」という。)、摺動部にグリスを保持して潤滑を行うものや(以下、「第二の方法」という。)、これら第一の方法と第二の方法とを組み合わせたものが知られている。しかしながら、第一の方法では、潤滑油が供給され過ぎてアーム外に油漏れを起こし、縫製対象の生地を汚す虞がある。そこで、溜まった油をポンプなどにより油溜部へ戻す還流装置が必要になる。また、第二の方法では、高性能グリスと摺動部金属表面の特殊処理が必要になり高価となる。
【0003】
第一の方法で、還流ポンプ無しでも潤滑油が供給過剰になりにくい方法としては、例えば、特許文献1に記載のミシンが提案されている。このミシンでは、アームの針棒近傍内に油吸収部材を置き、アームの針棒近傍部分で潤滑油の循環サイクルを作ることで、潤滑油を過剰にせず、アーム外への潤滑油の漏れを防ぐようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−190182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のミシンでは、有る程度潤滑油が循環するが、一端が油溜部に接した油芯の他端部が循環サイクルの上部で針棒に接触しているため、ここでの毛細管現象により過剰に油が供給される虞れがあるという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、油が過剰に提供されることがないミシンの給油潤滑装置及びミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るミシンの給油潤滑装置は、ミシンの内部に設けられ潤滑油を溜める第一油溜と、針棒を摺動可能に支持するアームの先端側底面に設けられ潤滑油を溜める第二油溜と、前記第一油溜と前記第二油溜との間に張り渡され、前記第一油溜から前記第二油溜に潤滑油を供給する第一油芯と、前記第二油溜から前記針棒の上部の軸受部に潤滑油を供給する第二油芯とを備えたことを特徴とする。
【0008】
このミシンの給油潤滑装置では、針棒の上部の軸受部の潤滑油が消費されると、第二油溜から第二油芯の毛細管現象により潤滑油が供給される。第二油溜の潤滑油が不足すると第一油溜から第一油芯の毛細管現象により潤滑油が供給される。従って、ポンプが不要で、シンプルな構成で油漏れの発生しない給油潤滑装置を実現できる。
【0009】
また、上記ミシンの給油潤滑装置では、前記第二油溜には、潤滑油を吸収する油吸収部材を設け、当該油吸収部材の一部を前記針棒の下部の軸受部に接触させるようにしても良い。このミシンの給油潤滑装置では、前記第二油溜には、潤滑油を吸収する油吸収部材が設けられているので、針棒や針棒抱きの運動で飛び散った潤滑油は、アームの壁面を垂れて第二油溜の油吸収部材に回収され漏れ出すことを防止できる。また、第二油溜から針棒の下部の軸受部に潤滑油を供給することができる。
【0010】
本発明の第二態様のミシンにおいは、上記の給油潤滑装置を備えても良い。このミシンにおいては、ポンプが不要で、シンプルな構成で油漏れの発生しないミシンを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ミシン2の正面図である。
【図2】ミシン2内部の駆動機構を示す斜視図である。
【図3】ミシンの給油潤滑装置示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下の説明では、図1の表面側、背面側、上側、下側、左側、右側を、夫々ミシン2の前側、後側、右側、左側、上側、及び下側とする。
【0013】
図1〜図3を参照して、ミシン2について説明する。図1に示すように、ミシン2は、水平方向に延設されたベッド部21と、当該ベッド部21の後端側に垂直に立設された脚柱部22と、当該脚柱部22の上端部からベッド部21と平行にミシン2の前端部方向に延設されたアーム部23とを備えている。また、図2に示すように、ベッド部21の下側には、油タンク10、下回転軸36、軸受部50、及び全回転釜(図示外)等を備えている。油タンク10は、潤滑用の油を収容する。油タンク10は、脚柱部22の下方に設けられている。
【0014】
脚柱部22は、ベッド部21の右側から上方に立設してある。アーム部23は、脚柱部22の上部から左方に延びる。アーム部23は、ベッド部21と対向する。図1に示すように、アーム部23の左端部は、押さえ足48及び縫針42を下方に備えている。アーム部23の左端部内には、図示外の押さえ棒、バネ、糸調子駆動機構、及び、押さえ足駆動機構等を内部に備えている。
【0015】
次に、図2を参照し、ミシン2の駆動機構について説明する。ミシン2は、上回転軸31、連結回転軸33、及び下回転軸36を備えている。上回転軸31は、アーム部23(図1参照)内を左右方向に延びている。連結回転軸33は、脚柱部22(図1参照)内を上下方向に延びている。下回転軸36は、ベッド部21(図1参照)内を左右方向に延びている。
【0016】
上回転軸31は、右端に図示しないミシンモータ備えている。上回転軸31は、ミシンモータの駆動によって回転する。上回転軸31は、その左右方向略中央部分において軸受部47に支持されている。軸受部47は円筒形である。軸受部47は、前側に設けた穴から潤滑用の油を取り込むことができる。油を供給する第二供給路82は、この穴に接続している。
【0017】
上回転軸31は、軸受部47の右側に、傘状の歯車32を備えている。上回転軸31の左端には、針棒上下動機構41が設けてある。針棒上下動機構41は、アーム部23(図1参照)内を上下方向に延びる針棒43を支持している。針棒43は、下端に縫針42を備えている。針棒上下動機構41は、前記ミシンモータによる上回転軸31の回転によって駆動する。針棒上下動機構41の駆動によって、針棒43は上下動する。
【0018】
連結回転軸33は、上端に傘状の歯車34を備えている。歯車34は、歯車32と噛み合っている。連結回転軸33は、上回転軸31の回転によって回転する。連結回転軸33は、下端に傘状の歯車35を備えている。連結回転軸33は、ミシンモータによって回転する上回転軸31の回転駆動力を後述する下回転軸36に伝達する。
【0019】
下回転軸36は、右端に傘状の歯車37を備えている。歯車37は、歯車35と噛み合っている。下回転軸36は、連結回転軸33の回転に伴い回転する。下回転軸36は、左端に全回転釜(図示外)を備えている。全回転釜は、下回転軸36の回転によって駆動する。全回転釜は、縫針42の上下動と同期して回転する。下回転軸36のうち全回転釜の右側に設けた軸受部(図示外)は、下回転軸36を受けている。軸受部は、プランジャーポンプ(図示外)を内部に備えている。前記プランジャーポンプは、油タンク10に収容した油を、第一供給路を介して吸い込む。前記プランジャーポンプは、吸い込んだ潤滑油を第二供給路82に送り出す。
【0020】
歯車35及び歯車37の下方に、箱形の油タンク10が設けてある。油タンク10は、半透明の樹脂で箱形状に形成され、脚柱部22の下方のベッド部21に固定してある。箱形の油タンク10は、ミシン2の各駆動機構に供給する潤滑油を収容する。油タンク10上面の油受部11は、第二供給路82及び軸受部47を介して歯車32に供給した潤滑油が垂れ落ちた場合、垂れ落ちた潤滑油を受けることができる。潤滑油を供給した歯車32が歯車34と共に回転すると、潤滑油が霧状となって周囲に放出する。放出した霧状の潤滑油は、脚柱部22内に飛散する。油受部11は、脚柱部22内に飛散した霧状の潤滑油が下方に落ちた場合、落ちた潤滑油を受けることができる。尚、油タンク10が第一油溜の一例である。
【0021】
次に、図3を参照して、ミシン2の針棒43の給油潤滑装置4について説明する。給油潤滑装置4は、油タンク10(第一油溜)と油タンク10から潤滑油を第二油溜53まで供給する第一油芯5と、第二油溜53から針棒43の上部の軸受部57へ潤滑油を供給する第二油芯54と、第一油芯5を保持する保持部材51と、第一油芯5を案内する内部中空の円筒の案内部材52から構成されている。
【0022】
第一油芯5は、図2及び図3に示すように、一端部を油タンク10内の潤滑油に浸けて、アーム部23(図1参照)内を油タンク10から針棒上下動機構41の固定部に固定された保持部材51まで通り、保持部材51により保持されている。また、保持部材51を通り抜けた第一油芯5は、針棒43と平行に下方に案内部材52により案内されて他端部が、第二油溜53に接続されている。
【0023】
第二油溜53は、図1に示すアーム部23の左側の下端部に設けられた顎部24内の底部の上面に設けられており、潤滑油を吸収して溜めるフェルト等から構成されている。 第二油溜53には、針棒43が貫通しており、第二油溜53を構成するフェルトと針棒43が接触して針棒43及び軸受部56に潤滑油が給油されるようになっている。
【0024】
また、第二油溜53と第一油芯5との接続部と反対側の第二油溜53の端部には、第二油芯54の一端部が接続され、第二油芯54の他端部は、針棒43と平行に上方に延設され、軸受部57に設けられたフェルトから構成された給油パット55に接続されている。軸受部57では、この給油パット55から給油されるようになっている。尚、第一油芯5及び第二油芯54は、繊維を撚り合わせた紐に構成されており、潤滑油を毛細管現象で運ぶようになっている。
【0025】
次に、図3を参照して、上記構成の給油潤滑装置4の動作を説明する。針棒43及び軸受部57で潤滑油が消費されると、その消費された分量の潤滑油は、第二油芯54の毛細管現象により、第二油溜53から給油パット55へ供給される。また、第二油溜53でも針棒43及び軸受部56に潤滑油を給油する。そして、第二油溜53に染みこんでいる潤滑油が不足して来た場合には、その不足分の潤滑油は第一油芯5の毛細管現象により、油タンク10(第一油溜)から第二油溜53へ供給される。従って、第二油溜53の潤滑油が不足した場合にのみ油タンク10(第一油溜)から第一油芯5を介して給油されるので、第二油溜53に潤滑油が過剰になることがない。従って、第二油溜53からの潤滑油漏れも防止できる。尚、第二油溜53は、アーム部23内に飛び散ってアーム部23の内壁を垂れた潤滑油を吸収することができる。
【0026】
尚、本発明は、上記実施形態に限らず、各種の変形が可能である。例えば、第二油溜53は必ずしもフェルトに限られず、潤滑油を吸収保持できるものであれば、各種の部材を用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
2 ミシン
4 給油潤滑装置
5 第一油芯
10 油タンク
11 油受部
21 ベッド部
22 脚柱部
23 アーム部
24 顎部
43 針棒
51 保持部材
52 案内部材
53 第二油溜
54 第二油芯
55 給油パット
56 軸受部
57 軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの内部に設けられ潤滑油を溜める第一油溜と、
針棒を摺動可能に支持するアームの先端側底面に設けられ潤滑油を溜める第二油溜と、
前記第一油溜と前記第二油溜との間に張り渡され、前記第一油溜から前記第二油溜に潤滑油を供給する第一油芯と、
前記第二油溜から前記針棒の上部の軸受部に潤滑油を供給する第二油芯と
を備えたことを特徴とするミシンの給油潤滑装置。
【請求項2】
前記第二油溜には、潤滑油を吸収する油吸収部材を設け、
当該油吸収部材の一部を前記針棒の下部の軸受部に接触させることを特徴とする請求項1に記載のミシンの給油潤滑装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の給油潤滑装置を備えたミシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−205857(P2012−205857A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75969(P2011−75969)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】