説明

統合されたデータ伝送手段を備えたレーダ装置

本発明は、たとえば自動車で使用するための、1つ以上の個々のレーダからなるレーダ装置に関する。前記個々のレーダの少なくとも1が、同時に操作され得る、感知要素及びデータ通信要素の両方を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信用にデータを伝送すること、及び周囲の感知用にデータを感知することの両方が可能なデータシステムと、これを操作する方法と、このシステムが装備された車両とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来と同様、最新車両においても、運転者には、車両の直近又は近接した周囲の状況に関する情報が、主に視覚的に提供される。たとえば、速度制限などの局所的な情報及び局所的に適応される交通規則が、道路標識又は看板により運転者に伝わり、たとえば前方車両の、切迫した制動行動も、前方車両の制動灯が点灯したことによって認識される(この情報は、2進法(オン/オフ)である)。前方の交通渋滞の最後又はいくつかの他の危険な場所が、直接又は周囲の車両のハザードランプによって認識される。同様に、周囲の場所についての情報も、視覚的に、たとえば看板又は表示板によって伝わる。
【0003】
この結果、現代の交通状況においては、車両の運転者は、眼から入ってくる多くの印象を受け、この処理が、多くの場合、車両の運転者にとってしばしば過負荷となり、これが重大な結果を引き起こしかねない。したがって、これを緩和するために、電子データにより視覚情報を補足することが望ましく、この場合、車両から車両へと伝送され得る、車両の直近の周囲からの情報を使用することが好ましい。この場合、データは、生成され、消費され、及び必要とされる所で伝送される。このようなサービスを実施するためには、そのノードが個々の車両を表す、いわゆる特別ネットワークを構築することが必要となる。このための1つの可能な手順に、WLANより知られているIEEE802.11標準を使用することがある。しかし、このためには、必要なハードウェア及びソフトウェア構成部品を車両に装備し、これらの標準を自動車の特性に適合させる必要がある。特別ネットワークを実施する、さらに可能な方法が、車両内の既存の構成部品を活用することである。快適及び安全機能用の多機能センサシステムとしての近距離レーダの使用が、現在、車両製造業者及び車両供給業者の両方により、ますます調査されるようになってきている。したがって、車両内のレーダ装置を周囲感知システム及びデータ伝送システムとして併用することが、前述の要件の1つの可能な解決方法となる。たとえば、本明細書の優先日後に公開された独国特許出願10158719号明細書には、通信用に、感知モード又はデータ伝送モードのいずれかでそれぞれ個々に操作され得る、複数の個々のレーダを備えた、自動車用近距離レーダが記述されている。しかし、この装置では、一定の時間に、データを伝送するために又は周囲を感知するために、1つのレーダしか使用できない。したがって、前述の文献に記述されている装置は、1つのレーダがデータ伝送モードで操作される時は、周囲を感知するのに利用できないという欠点を有する。したがって、通信又は感知機能は、それぞれ一時的に利用不可能となる。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、組み合わせられたレーダ/データ伝送システムの利用可能性を向上する装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本目的は、請求項1及び7〜10の特徴を有する、レーダ装置及びその構成部品及び車両と、請求項11の特徴を有する方法とによって達成される。従属請求項は、本発明の好ましい実施形態及び発展形態を提示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の第1の好ましい実施形態において、本発明によるレーダ装置は、複数の個々のレーダからなり、この少なくとも1つが、レーダ送信機又はレーダ受信機の感知モードと同時に、通信用にデータを確実に伝送するのに適している。この場合、特に約24GHz又は約76GHzで使用されるレーダスペクトルの領域から、そうでない場合は、たとえばWLANシステムに使用される周波数範囲からの搬送周波数が、データの伝送用に使用されることが不可欠である。したがって、本発明においては、個々の送信用に、それぞれ異なる周波数範囲を選択することにより、同時送信間の相互干渉を回避するという従来の慣行とは、意図的に異なるものとなっている。この場合、1つのレーダを感知/通信データ伝送システムとして同時に使用することは、いくつかの利点を有する。
【0007】
データの感知及び伝送の両方が、同じ周波数範囲内で行われるので、たとえば、アンテナ、増幅段、又はフィルタなどの、同じハードウェア構成部品が、送信及び受信用に使用され得る。したがって、ハードウェアアーキテクチャを適切に選択すると、これに対応する信号処理及び調整ソフトウェアを用いて、1つのレーダでデータの感知及び伝送という所望の二機能が利用できるようになる。これにより、ソフトウェアを修正し、ハードウェアをわずかに適合させるだけで、自動車での近距離感知用として、将来使用されるレーダ装置に、追加のデータ伝送機能を実装できるようになる。さらに、データを同時に感知し伝送できることにより、交互で使用することによる遅延時間もなく、使用される1つのレーダを確実に効率的に使用できるようになる。その上、車両の全周囲に個々のレーダを分散することにより、レーダのアンテナの物理的性質に基づいて、選択した方向にデータを選択的に伝送することができる。たとえば、切迫した又は開始した制動行動に関する情報を提供する送信は、逆方向においてのみ適切である。
【0008】
この結果、先行技術より知られている、交互に動作する装置と比較して、本発明によるレーダ装置は、車両の安全により多く寄与する。
【0009】
パルス式レーダに前述の機能を実装することが、特に効果的であることが実証されている。パルス式レーダは、たとえば約24GHzの周波数で操作される。パルスモードにより、レーダの送受信スペクトルは、たとえば250MHzの帯域幅を示すが、解像度を向上させるために、比較的高い帯域幅も考えられる。代表的な送受信スペクトルの1つの定性表現が、図1に示されている。図1から明らかとなるように、使用されるパルス式レーダの送受信スペクトル1の包絡線は、たとえば、中心周波数を中心とするガウスプロファイルを有し、立下り端を有する。時間領域内での周期的な信号により、示されている、周波数領域内の準離散的な櫛形プロファイルが生じる。この場合、通信のためのデータの伝送用に設けられた周波数範囲2が、感知信号の送受信スペクトルの領域内で検出される。
【0010】
基本的に、周波数範囲2は、レーダの送受信スペクトルの任意の点で検出され得る。感知信号によるデータの伝送の乱れを最小限に抑えるために、感知信号と同調するノッチフィルタを用いて感知信号のスペクトル成分が検出される、周波数範囲2内の周波数成分を減衰することが効果的であることが実証されている。
【0011】
示されているスペクトルの周辺領域は、周波数範囲2の特に好ましい選択部分であることを表している。周波数範囲2のこの選択部分により、データの伝送とレーダ信号との間の相互干渉が十分に制限される。レーダの領域内に存在するパルス式レーダのエネルギ密度は、非常に小さいので、相互干渉が著しい影響を及ぼすことはなく、したがって、適宜、ノッチフィルタの使用を省くこともできる。この結果、データを感知するため及び伝送するために、レーダ受信機/送信機、及び本発明による装置のさらなる構成部品を確実に同時に使用することが特に簡単となる。特に、このことによりまた、この装置のデータ伝送部を即受信可能モードに永続的に設定することができ、レーダの感知モードによる干渉が、データの伝送に著しい悪影響を及ぼすことはない。逆に、前述の周辺領域内で感知用に使用されるレーダ受信機の感度が非常に低いので、感知信号が通信信号により受ける干渉は、小さいか又は無視し得る程度である。
【0012】
勿論、本発明による1つのレーダの両方の代替形態を、互いに無関係に操作することもできる。即ち、純粋にデータ伝送モードで又は純粋に感知モードで使用することも可能である。
【0013】
本発明によるレーダ装置による、データの伝送用の1つの特に好適な周波数範囲は、図1に示されているように、使用されるレーダの送受信スペクトルの、上下10%、特に5%の領域である。この範囲内の特に低い、感知信号のスペクトルエネルギ密度により、感知動作とデータ伝送動作との間の相互干渉が、特に小さくなる。
【0014】
データの伝送用に使用される周波数範囲を個々の周波数帯域に分割することが、特に効果的であることが実証されている。この場合、図2に示されているように、たとえば、緊急データ、ログデータ、又は通信データ用の周波数帯域3、4、5を設けることができる。本明細書においては、周波数帯域は、未使用の周波数範囲で分離しつつ、互いに隣接するように、又は互いに重なるようにも選択され得る。
【0015】
たとえば割り当てられた周波数帯域3を有する緊急チャネルは、通常、場所、時間、又は他の事故データ情報を用いて、緊急命令を伝送するために使用される。緊急データの送信は、たとえば、エアバッグ又はシートベルトプリテンショナの起動などの、特定の事象によって起動され得る。ログデータは、データの伝送を組織化するために使用される。ログデータは、たとえば、周波数帯域4を使用し、とりわけ、通信当事者間のチャネルアクセス動作の調整に関するデータを含む。この場合、ログデータは、特にいわゆる隠れ端末問題を解決するために使用され得る。隠れ端末問題は、2つの伝送端末が、互いから非常に離れているので、直接相手に到達できず、したがってチャネルアクセスを調整することができないが、2つの送信機の信号同士は、第3の端末でデータを共に重ね合わせている場合に発生する。この結果、第3の端末での受信が禁止される。結果として、たとえばこのチャネルの伝送パワーの好適な閉ループ制御により、この問題を回避することができる。
【0016】
(たとえば周波数帯域5内の)通信データは、たとえば、音声データ又はビデオデータ、又はインターネットからウェブページを伝送するためのHTMLフォーマットのASCIIテキストであり、車両から車両への音声通信を実施することも考えられる。
【0017】
緊急データの伝送用に必要な伝送速度は、ほんの数kbitであるので、緊急チャネルを変調する方法として、振幅変調が可能である。通信データを伝送するためには、高いデータ伝送速度、したがって帯域幅が、通常必要である。通信チャネルは、通常、約1Mbitのデータ転送速度をとる。関連するデータ伝送に適した変調方法は、特に、いろいろな変形形態を有するPSK変調方法であり、さらに特に、たとえばFSKなどのディジタル形の変調も可能であり、また同じことが、ログチャネルにも当てはまる。
【0018】
本発明による装置の1つの好ましい変形形態は、これをもっぱら通信データの伝送用のレーダ信号受信機として考えることにあり、この受信機は、本発明によるレーダ装置のレーダ信号内で通信データ信号を受信し、これを復調手段に送るが、本明細書においては、たとえば、このような装置を、供給されたデータ及び情報を活用できる、受動的なネットワークユーザのための改装部品として設けることも考えられる。
【0019】
逆に、広帯域信号の伝送スペクトルの周辺領域内で、感知用広帯域信号及び通信データ信号を同時に送信するレーダ送信機を実装することも好ましく、このための可能な適用形態は、たとえば視界が乏しい場所での固定情報システムとして、又はたとえばホテル宿泊設備、レストランなどの、直近の周囲で利用可能な商業的サービスに関する情報サービスとして使用することである。
【0020】
本発明による装置によって提供される追加のデータ伝送機能により、様々な車両の、本発明による個々のレーダ装置からなる協調レーダ装置を実装することが可能となる。この場合、車両の個々の装置から取得された周囲データは、平行して又は組み合わせて評価する手段に送られ、この結果、この装置の範囲がこのような方法で増加する。たとえば、車両の車載レーダ装置の範囲からかなり離れた障害物に関する情報が、他の車両の伝送によって利用可能となる。この結果、近距離レーダの代表的な20mの範囲からかなり離れた領域内の交通状況に関する知識を取得することができる。たとえば、このような変形形態により、たとえば地面の隆起した所のかげ又は合流箇所で、運転者自身のレーダ装置ではカバーできない領域内の対象物に関する情報を、車両の運転者に提供できるようになり、この結果、車両の安全が向上する。
【0021】
前述のシステムは、製造中に車両に統合されることが好ましく、これにより、恐らく発生する、表示又はオペレータ制御要素に関係する要件を早い時点で斟酌でき、また本発明による装置を装備した車両は、高い安全及び快適標準に合致することとなる。
【0022】
パルスモードで動作し、かつ感知信号の送受信スペクトルの端部領域がデータの伝送用に設けられた周波数範囲のために使用されるレーダ装置により、通信データを感知するとともに伝送する、本発明による方法は、全体的に交通安全を著しく向上させる。したがって、さらに、個々の道路ユーザの間の、情報の提供及び通信の可能性をさらに容易に拡大することができる。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】代表的な送受信スペクトルの1つの定性表現を示す。
【図2】データの伝送用に使用される周波数範囲を個々の周波数帯域に分割した例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の個々のレーダからなる、自動車用の、レーダ装置であり、該レーダの少なくとも1つが、データを感知する手段及びデータを伝送する手段の両方を備えたレーダ装置であって、前記データを感知する手段及び前記データを伝送する手段が、通信のために同時に操作され得ることを特徴とする、レーダ装置。
【請求項2】
データの伝送用に設けられた周波数範囲の、予め定義された送受信スペクトルを有するパルス式レーダであり、感知信号のスペクトル成分がデータの伝送用に設けられた前記周波数範囲内に存在する、周波数範囲を選択的に減衰するのに適したノッチフィルタが設けられることを特徴とする、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
データの伝送用に設けられた周波数範囲がある周辺領域内に予め定義された送受信スペクトルを有する、パルス式レーダであることを特徴とする、請求項1あるいは2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記周辺領域が、前記送受信スペクトルの上下10%又はそれ以下を含むことを特徴とする、請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
いろいろなデータ種別からのデータ、特に緊急データ、ログデータ、又は通信データの伝送用の個々の周波数帯域が、データの伝送用に設けられた前記周波数範囲内に設けられることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
特に、振幅変調が、緊急データの伝送用に提供され、特に、PSK形の変調が、通信データ及びログデータの伝送用に提供されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーダ装置のレーダ信号内の通信データ信号を受信し、該通信データ信号を復調手段に送るのに適したレーダ信号受信機。
【請求項8】
広帯域信号の送受信スペクトルの周辺領域内で、感知用広帯域信号及び通信データ信号を同時に送信するのに適したレーダ送信機。
【請求項9】
それぞれの周囲を感知し、同時に互いにデータを交換する、請求項1〜6に記載の複数のレーダ装置を備えた協調レーダ装置。
【請求項10】
レーダ装置を備えた車両であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーダ装置を備える、又は請求項7に記載のレーダ信号受信機を備える、又は請求項8に記載のレーダ送信機を備えることを特徴とする、車両。
【請求項11】
1つ以上の個々のレーダを備えたレーダ装置により、データを感知し伝送する方法であって、前記データの感知及び伝送が、パルスモードの前記個々のレーダの少なくとも1つにより同時に行われ、感知信号の送受信スペクトルの周辺領域が、データの伝送用に設けられた周波数範囲のために使用されることを特徴とする方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の個々のレーダからなる、自動車用の、レーダ装置であり、該レーダの少なくとも1つが、データを感知する手段及びデータを伝送する手段の両方を備えたレーダ装置であって、前記データを感知する手段及び前記データを伝送する手段が、通信のために同時に操作され得るレーダ装置において、データの伝送用に設けられた周波数範囲が周辺領域内に予め定義された送受信スペクトルを有するパルス式レーダであることを特徴とする、レーダ装置
【請求項2】
知信号のスペクトル成分がデータの伝送用に設けられた前記周波数範囲内に存在する、前記周波数範囲を選択的に減衰するのに適したノッチフィルタが設けられることを特徴とする、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記周辺領域が、前記送受信スペクトルの上下10%又はそれ以下を含むことを特徴とする、請求項1あるいは2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
いろいろなデータ種別からのデータ、特に緊急データ、ログデータ、又は通信データの伝送用の個々の周波数帯域が、データの伝送用に設けられた前記周波数範囲内に設けられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
特に、振幅変調が、緊急データの伝送用に提供され、特に、PSK形の変調が、通信データ及びログデータの伝送用に提供されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーダ装置のレーダ信号内の通信データ信号を受信し、該通信データ信号を復調手段に送るのに適したレーダ信号受信機。
【請求項7】
広帯域信号の送受信スペクトルの周辺領域内で、感知用広帯域信号及び通信データ信号を同時に送信するのに適したレーダ送信機。
【請求項8】
それぞれの周囲を感知し、同時に互いにデータを交換する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複数のレーダ装置を備えた協調レーダ装置。
【請求項9】
レーダ装置を備えた車両であって、請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーダ装置を備える、又は請求項6に記載のレーダ信号受信機を備える、又は請求項7に記載のレーダ送信機を備えることを特徴とする、車両。
【請求項10】
1つ以上の個々のレーダを備えたレーダ装置により、データを感知し伝送する方法であって、前記データの感知及び伝送が、パルスモードの前記個々のレーダの少なくとも1つにより同時に行われ、感知信号の送受信スペクトルの周辺領域が、データの伝送用に設けられた前記周波数範囲のために使用されることを特徴とする方法。


【図1】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−509192(P2006−509192A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556226(P2004−556226)
【出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013446
【国際公開番号】WO2004/051306
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(598051819)ダイムラークライスラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【Fターム(参考)】