説明

絶対位置測定装置

【課題】スパイラルキー溝方式の絶対位置測定装置において、キーおよびキー溝間のがたつきを低減することができ、測定精度を向上させることができる絶対位置測定装置を提供すること。
【解決手段】スピンドル3には、外周にリード角の異なる第1のキー溝32と第2のキー溝33とが形成され、位相信号発信手段4は、スピンドル3が挿通された板状のステータ40と、スピンドル3を中心に回転可能に支持されて第1のキー溝32に係合する第1のキー51を有する筒状の第1のロータ50と、第1のロータ50の外側でスピンドル3を中心に回転可能に支持されて第2のキー溝33に係合する第2のキー61を有する筒状の第2のロータ60と、第1のロータ50および第2のロータ60を相反する回転方向に与圧する与圧手段としてのコイルばね70とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶対位置測定装置に関する。例えば、マイクロメータヘッド、マイクロメータ、ホールテスト等において、スピンドルの位置をアブソリュート型で測定する絶対位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長さ、大きさまたは角度等を測定する小型測定器、例えば、マイクロメータやマイクロメータヘッドにおいては、固定部材に対する可動部材の相対移動量に関する情報を検出することによって、被測定対象の測定が行われる。この相対移動量を検出する構成として、例えば、特許文献1に開示される構成が知られている。
【0003】
図6は、特許文献1に開示される従来の絶対位置測定装置を示す図である。
この絶対位置測定装置は、マイクロメータヘッド101であり、貫通孔102を有する本体103と、貫通孔102に螺合され、回転しながら軸方向に移動するスピンドル104と、スピンドル104の回転に応じて異なる周期の位相信号を出力する位相信号発信手段105とを備える。
【0004】
位相信号発信手段105は、1枚のステータ106と、このステータ106に対向しながらスピンドル104の軸周りを回転する2つのロータ107,108とを有し、二組のロータリエンコーダが構成されている。第1のロータ107は、スピンドル104に形成された2本のキー溝のうち、直線状の第1のキー溝109に係合するキー110を有し、スピンドル104の回転に応じて回転する。また、第2のロータ108は、スパイラル状の第2のキー溝111に係合するキー112を有し、第1のロータ107とは異なる速度で回転する。そして、各ロータ107,108の回転に応じた異なる周期の位相信号が出力される。
図7に、スピンドル104の回転数と二組のロータリエンコーダの位相信号との関係を示す。図に示すように、スピンドル104の移動範囲内で第1のロータ107から100周期の位相変化が得られるとき、第2のロータ108からは99周期の位相変化が得られるようになっている。このように位相信号の位相差(図中のθ1とθ2の差)がスピンドル104の移動範囲内において常に異なることを利用して、その位相差に一対一対応するスピンドルの回転数Nからスピンドル104の軸方向の絶対位置が算出されるようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−207307号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スピンドルの回転をキーおよびキー溝によってロータに伝達する方式のマイクロメータでは、キーおよびキー溝間に円滑な摺動のための隙間(バックラッシュ)が設けられるため、この隙間分だけキーおよびキー溝間のがたつきが発生してしまう。このがたつきが、スピンドルに対するロータの回転方向の位置決め精度を低下させ、マイクロメータの測定精度に影響を与えるという問題がある。
特に、特許文献1に記載のスパイラルキー溝を含む2本のキー溝109,111を有する方式のマイクロメータヘッド101では、二つのロータ107,108にそれぞれがたつきが発生するため、各ロータ107,108の位置決め精度の低下が強め合う方向にがたつきが発生する場合には、位相差が過大となってしまう。すると、過大となった位相差に対応するスピンドルの回転数が、本来の回転数Nを飛び越したN+1として誤検出されてしまう、いわゆるABS飛びが生じる可能性もある。
【0007】
本発明の目的は、スパイラルキー溝方式の絶対位置測定装置において、キーおよびキー溝間のがたつきを低減することができ、測定精度を向上させることができる絶対位置測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の絶対位置測定装置は、本体と、この本体に螺合されているとともに軸周りに回転しながら軸方向に移動自在に設けられるスピンドルと、前記スピンドルの回転量に応じて異なる周期で変化する二つの位相信号を発信する位相信号発信手段と、前記二つの位相信号に基づいて前記スピンドルの軸方向の絶対位置を演算処理する演算処理手段と、を備え、前記スピンドルには、外周にリード角の異なる第1のキー溝と第2のキー溝とが形成され、前記位相信号発信手段は、前記スピンドルが挿通された状態で前記本体に固定される板状のステータと、前記スピンドルを中心に回転可能に支持されて前記第1のキー溝に係合する第1のキーを有する筒状の第1のロータと、前記第1のロータの外側で前記スピンドルを中心に回転可能に支持されて前記第2のキー溝に係合する第2のキーを有する筒状の第2のロータと、前記ステータの内周側部分に対向する前記第1のロータと、前記ステータの外周側部分に対向する前記第2のロータとを相反する回転方向に与圧する与圧手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、与圧手段としては、第1のロータをスピンドルに対して一方の回転方向に与圧できるとともに、第2のロータをスピンドルに対して第1のロータとは反対の回転方向に与圧できるものであればよい。
この構成において、第1のロータの第1のキーがスピンドルの第1のキー溝に係合しているので、スピンドルの回転によって、第1のロータが回転する。すると、第1のロータとステータとの間で、スピンドルの回転量に応じて第1の周期で変化する位相信号が発信される。また、第2のロータについても、第2のキーと第2のキー溝との係合により、スピンドルの回転が伝達され、第2のロータとステータとの間で、スピンドルの回転量に応じて第2の周期で変化する位相信号が発信される。この際、第1のキー溝と第2のキー溝とでリード角が異なるので、第1のロータおよび第2のロータの各回転速度に差が生じ、位相信号発信手段から異なる周期で変化する二つの位相信号が発信される。これらの位相信号に基づいてスピンドルの軸方向の絶対位置が算出される。
【0010】
この構成によれば、第1のロータと、第2のロータとをそれぞれ相反する回転方向に与圧する与圧手段が設けられているので、二つのロータの各キーがそれぞれ反対の回転方向に絶えず押し付けられて、第1のキーおよび第2のキーの遊び(バックラッシュ)による第1のロータおよび第2のロータのがたつきを極めて小さくすることができる。従って、測定精度の悪化およびABS飛びの防止が望める。
【0011】
本発明の絶対位置測定装置では、前記与圧手段は、弾性部材であり、前記第1のロータおよび前記第2のロータよりも反ステータ側において前記スピンドルの周方向に沿って配置されるとともに、予め弾性変形した状態で周方向の一端部が、前記第1のロータに接続され、他端部が、前記第2のロータに接続されていることが好ましい。
【0012】
ここで、スピンドルの周方向に沿って配置可能な弾性部材からなる与圧手段としては、ねじりばね(コイルばねまたはトーションバー)やぜんまいばねが好適である。
この構成によれば、第1のロータおよび第2のロータの相対回転移動に応じて、付与手段がさらに弾性変形し、弾性部材の反発力により、その一端部が第1のロータを与圧し、他端部が第2のロータを第1のロータとは反対方向に与圧する。このようにして、各ロータのがたつきを一つの弾性部材で同時に抑えることができ、部品点数が削減されるので、与圧手段の構成をコンパクトにできる。
【0013】
また、与圧手段がスピンドルの周方向に沿って配置されているので、与圧手段としてコイルばねやぜんまいばね等の弾性部材を使用する場合に、スピンドルの軸の形状に合わせてこれらの弾性部材を容易に形成することができるとともに、スピンドルの軸周りの空間にコンパクトに収めることができる。
従来の2重筒構造のロータにおいて、与圧手段を両ロータのステータ側に配置したり、両ロータ間の隙間に配置したりすると、各ロータの形状を大きく変更する必要が生じる。これに対して、本発明の与圧手段は、第1のロータおよび第2のロータの反ステータ側に配置されるので、2重筒構造のロータの形状を維持して位相信号の特性を確保しつつ、両ロータに与圧を加えることができる。
【0014】
本発明の絶対位置測定装置では、前記第1のキー溝および前記第2のキー溝のいずれか一方は、直線状に形成され、前記第1のキー溝および前記第2のキー溝のいずれか他方は、前記スピンドルを略一周する螺旋状に形成され、前記第2のロータは、前記第1のロータよりも反ステータ側に延設される円筒状の延設部を有するとともに、この延設部の内径が前記スピンドルの外径に略等しく設定され、前記延設部には、前記スピンドルの軸方向に貫通する貫通孔が形成され、前記貫通孔が前記スピンドルの軸周りを略一周するC字状に形成され、前記第1のロータは、反ステータ側に突出されかつ前記貫通孔に挿通される突起部を有するとともに、前記突起部には前記延設部から突出した部分に前記与圧手段の一端部が接続されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、一方のキー溝がスピンドルの外周を略一周する螺旋状に形成されていれば、他方のキー溝が直線状に形成されても、両ロータの位相差を略一回転(約360度)分確保することができ、両方のキー溝を螺旋状に形成するのと比べて溝部の加工が容易となる。
また、第2のロータに延設部が形成され、この延設部によって第2のロータがスピンドルの軸回りに回転するので、第2のロータが第1のロータの外側を回転する場合と比べて、回転時の第2のロータの軸に直交する方向のずれを生じにくくすることができる。
【0016】
ここで、両ロータの位相差を略一回転分確保するためには、与圧手段の両端がスピンドルの外周方向に略一周分だけ相対移動できるように構成する必要がある。その際、第1のロータの突起部も、第2のロータの延設部に対して略一回転分だけ相対移動できるようにする必要がある。本発明によれば、延設部の貫通孔がスピンドルの軸周りにC字状に形成されているので、突起部が貫通孔に沿って移動できる。従って、突起部を設けても、両ロータを円滑に相対移動させることができる。また、突起部に与圧手段の一端部が接続されているので、第2のロータが延設部を有していても、第2のロータよりも反ステータ側に配置される与圧手段によって第1のロータを与圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の絶対位置測定装置に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、絶対位置測定装置の一実施形態としてのマイクロメータヘッド1の構成を示す断面図である。
【0018】
<全体構成の説明>
マイクロメータヘッド1は、本体2と、本体2に対して螺合され回転によって軸方向に移動自在に設けられたスピンドル3と、スピンドル3の回転量に応じて異なる周期で変化する二つの位相信号を発信する位相信号発信手段4と、これらの位相信号に基づいてスピンドル3の軸方向の絶対位置を演算処理する演算処理手段5と、演算されたスピンドル3の絶対位置を表示する表示手段6とを備える。
【0019】
本体2は、貫通孔21を有する円筒状で、貫通孔21の内周にはスピンドル3と螺合する雌ねじ22が設けられる。本体2の前端側(図中の左側)の外周は、2点鎖線で示す外側フレーム7によって覆われている。
【0020】
スピンドル3は、本体2の貫通孔21に挿通され、両端が本体から突出する状態に配設されている。スピンドル3の後端側の外周には本体2の雌ねじ22に螺合する送りねじ31が設けられ、回転操作により軸方向に移動可能である。スピンドル3の後端には、本体2の外部からスピンドル3を回転操作するつまみ部8が設けられる。
【0021】
スピンドル3の中央部の外周には、リード角が異なる2本のキー溝32,33が設けられており、第1のキー溝32はスピンドル3の軸と平行に設けられ、第2のキー溝33はスピンドル3に対して螺旋状に設けられている。第1のキー溝32と第2のキー溝33との始点および終点の位置はスピンドル3の軸方向において略一致しており、第2のキー溝33は、スピンドル3を略一周するスパイラルキー溝である。
【0022】
<位相信号発信手段の構成の説明>
図2および図3は、位相信号発信手段4の構成を示す斜視図および分解斜視図である。
位相信号発信手段4は、本体2よりも前端側のスピンドル3の外周に配設され、外側フレーム7(図1)に覆われている。位相信号発信手段4は、スピンドル3が挿通された状態で本体2の前端側に固定された円板状のステータ40と、第1のキー溝32に係合する第1のキー51を有しスピンドル3を中心にして回転可能に設けられた円筒状の第1のロータ50と、第2のキー溝33に係合する第2のキー61を有し第1のロータ50の外側でスピンドル3を中心にして回転可能に設けられた円筒状の第2のロータ60と、これらのロータ50,60を相反する回転方向に与圧する与圧手段としてのコイルばね70とを備える。
【0023】
二つのロータ50,60はともに、ステータ40に対して同じ側(本実施形態ではスピンドル3の前端側)に配設され、第1のロータ50がステータ40の内周側部分41に対向し、第2のロータ60がステータ40の外周側部分42に対向した状態に配設されている。すなわち、両ロータ50,60はスピンドル3を中心とする2重構造を形成しており、第1のロータ50は、スピンドル3のすぐ外側に配設され、第2のロータ60は、第1のロータ50の外側に配設されている。このようなロータ50,60とステータ40とにより2組の磁気式のロータリエンコーダが構成されている。
【0024】
第1のロータ50は、ステータ40に対向する第1のロータ板52(図3)と、ステータ40と対向した状態で第1のロータ板52を回転可能に保持する第1の回転円筒53と、第1のキー溝32に係合する第1のキー51とを備える。
第1のロータ板52は、スピンドル3が挿通される孔(不図示)を有する小円板である。第1の回転円筒53は、スピンドル3に外嵌する円筒状であり、第1のロータ板52の背面に接続され第1のロータ板52を回転可能に支持する。第1の回転円筒53には、軸に直交する方向で貫通形成された第1のキー孔531(図1)が設けられ、第1のキー孔531には第1のキー51が螺合されている。
第1の回転円筒53には、スピンドル3の前端側(反ステータ側)に突出された棒状の第1の突起部54(本発明の突起部)が形成され、この第1の突起部54にはコイルばね7の一端部71が接続されている。
【0025】
第2のロータ60は、第1のロータ50と同様に、ステータ40に対向する第2のロータ板62と、ステータ40と対向した状態で第2のロータ板62を回転可能に保持する第2の回転円筒63と、第2のキー溝33に係合する第2のキー61とを備える。
【0026】
第2のロータ板62は、第1のロータ板52を内側に遊嵌する程度の内孔(不図示)を有する環状板であり、第1のロータ板52の外側に配置されている。
第2の回転円筒63は、第2のロータ板62の背面に接続され、内側に第1の回転円筒53を遊嵌する孔631(図1)を有する円筒状で、第1の回転円筒53の外側に配置されている。第2の回転円筒63の外周には、周方向に長さを有する第1の長孔632が形成されている。この第1の長孔632は、内部に遊嵌された第1の回転円筒53の第1のキー51の位置調整をするためのものである。
【0027】
また、第2の回転円筒63には、第1の回転円筒53よりも前端側に円筒状の延設部64が一体形成されている。この延設部64の内径は、スピンドル3の外径に略等しく設定され、スピンドル3が直接挿通されている。延設部64には、さらに前端側に円筒状の張出部65が形成され、この張出部65の外周にはコイルばね70が軸回りに回転自在に配設されている。
【0028】
延設部64には、スピンドル3の軸方向に貫通する貫通孔641が形成されている。この貫通孔641により、延設部64の前端側の面から第1の回転円筒53が遊嵌される孔631までが連通する。また、貫通孔641は、スピンドル3の軸周りを略一周するC字状の長孔として形成されている。このような貫通孔641には、第1のロータ50の突起部54が挿通され、C字状の長孔に沿って移動できるようになっている。
また、延設部64には、スピンドル3の前端側に突出された棒状の第2の突起部66が形成され、この第2の突起部66にはコイルばね70の他端部72が接続されている。
延設部64の外周には、第2のキー孔642が軸に直交する方向から貫通形成され、この第2のキー孔642に第2のキー61が螺合されている。なお、第2のキー孔642は、C字状の長孔である貫通孔641以外の部分に形成されている。
【0029】
コイルばね70は、第2のロータ60よりも前端側において張出部65の外周をスピンドル3の周方向に沿って複数回巻かれた状態で配置されている。コイルばね70は、予め弾性変形した状態で、その一端部71が、第1のロータ50の第1の突起部54に係止され、他端部72が、第2のロータ60の第2の突起部66に係止されている。
本実施形態では、与圧手段としてコイルばね70を使用するが、コイルばね70以外の与圧手段として、例えば、ねじりばねの一つであるトーションバーやぜんまいばねを使用してもよい。すなわち、与圧手段としては、スピンドル3の周方向に沿って配置可能な弾性部材であればよい。
【0030】
<マイクロメータヘッドの動作についての説明>
図1にて、つまみ部8によってスピンドル3を回転操作すると、本体2の雌ねじ22とスピンドル3の送りねじ31との螺合によってスピンドル3が軸方向に移動する。
また、図2および図3にて、スピンドル3が回転すると、第1のロータ50の第1のキー51がスピンドル3の第1のキー溝32に係合しているので、スピンドル3の回転によって、第1のロータ50が回転する。すると、第1のロータ50とステータ40との間で、スピンドル3の回転量に応じて第1の周期で変化する位相信号が発信される。
同様に、第2のロータ60についても、第2のキー61と第2のキー溝33との係合により、スピンドル3の回転が伝達される。このとき、第2の回転円筒63は延設部64によってスピンドル3を軸受けしているので、第2の回転円筒63はスピンドル3を基準にして回転する。すると、第2のロータ60とステータ40との間で、スピンドル3の回転量に応じて第2の周期で変化する位相信号が発信される。
【0031】
この際、直線状の第1のキー溝32と螺旋状の第2のキー溝33とは、互いにリード角が異なるので、スピンドル3が一回転するに当たって第1の回転円筒53と第2の回転円筒63とでは互いに異なる回転量(回転位相)で回転される。スピンドル3の回転によって第1および第2の回転円筒53,63が回転されると、第1の回転円筒53とともに第1のロータ板52が回転され、第2の回転円筒63とともに第2のロータ板62が回転される。このようにして、第1のロータ板52および第2のロータ板62の各回転位相に差が生じ、各ロータ板52,62とステータ40との相対的な位置関係より、異なる周期で変化する二つの位相信号が発信される。
【0032】
ここで、第1の回転円筒53と第2の回転円筒63とは、コイルばね70を介して連結され、互いに相反する回転方向にそれぞれ与圧された状態となっている。すなわち、コイルばね70によって、第1のロータ50はスピンドル3に対して一方の回転方向に与圧され、第2のロータ60はスピンドル3に対して第1のロータ50とは反対の回転方向に与圧されている。
【0033】
図4は、スピンドル3の断面を示す図であり、各キー溝32,33に対する各キー51,61の位置関係を概念的に示す。
各キー溝32,33に対して各キー51,61が係合しながら円滑に摺動するためには所定の遊び(バックラッシュ)を設ける必要があるが、図4に示すように、この遊びによって各キー51,61がスピンドル3の軸周りに自由に移動してしまい、スピンドル3の回転中に遊びによる各キー51,61のがたつきが生じてしまうという問題があった。
これに対して、本実施形態では、コイルばね70の与圧によって、図4の矢印で示す向きに各キー51,61が絶えず付勢されるので、各キー51,61と各キー溝32,33との遊びによるがたつきを生じにくくしている。
【0034】
図5は、位相信号発生手段4を前端側から見た図であり、この図に基づいてコイルばね70の作用を具体的に説明する。
コイルばね70は、コイル径が拡大する方向にばねの両端71,72を広げた状態で、その一端部71が第1の突起部54に接続され、他端部72が第2の突起部66に接続されている。これによって、第1のロータ50と第2のロータ60とは互いにコイルばね70の径が収縮する方向に回転する与圧される(図中の矢印の方向に与圧される)。
このような状態で、2つの回転円筒53,63が異なる回転位相で回転すると、コイルばね70の一端部71が接続される第1の突起部54は、C字状の長孔である貫通孔641に沿って移動するが、この際、第1の突起部54がどの位置に移動しても、コイルばね70が絶えず2つの回転円筒53,63を同じ回転方向に与圧するようにコイルばね70を設定しておけばよい。
なお、本実施形態では、コイルばね70の径が収縮する向きに弾性力が作用するようにコイルばね70を取り付けた場合を説明するが、反対にコイルばね70の径が拡大する向きに弾性力が作用するようにコイルばね70を取り付けてもよい。
【0035】
このように、第1のロータ板52の回転位相と第2のロータ板62の回転位相とに基づいてスピンドル3の回転数および回転角が演算処理手段5(図1)にて求められ、スピンドル3の回転数にスピンドル3一回転あたりの進退ピッチを乗算してスピンドル3の軸方向の絶対位置が算出される。そして、スピンドル3の絶対位置は表示手段6に表示される。
以上のような動作によりスピンドル3の軸方向の絶対位置を算出することができる。
【0036】
<実施形態の効果>
本実施形態によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)第1のロータ50と、第2のロータ60とをそれぞれ相反する回転方向に与圧するコイルばね70が設けられているので、二つのロータ50,60の各キー51,61がそれぞれ反対の回転方向に絶えず押し付けられて、各キー51,61の遊び(バックラッシュ)による第1のロータ50および第2のロータ60のがたつきを極めて小さくすることができる。従って、測定精度の悪化およびABS飛びの防止が望める。
【0037】
(2)第1のロータ50および第2のロータ60の相対回転移動に応じて、コイルばね70がさらに弾性変形し、その反発力により、その一端部71が第1のロータ50を与圧し、他端部72が第2のロータ60を第1のロータ50とは反対方向に与圧する。このようにして、各ロータ50,60のがたつきを一つのコイルばね70で同時に抑えることができ、部品点数が削減されるので、与圧手段の構成をコンパクトにできる。
【0038】
(3)コイルばね70がスピンドル3の周方向に沿って複数回巻かれた状態で配置されているだけなので、与圧手段を容易に形成することができるとともに、スピンドル3の軸周りの空間にコンパクトに収めることができる。
【0039】
(4)図6に示す従来の2重筒構造のロータにおいて、コイルばねを両ロータのステータ側に配置したり、両ロータ間の隙間に配置したりすると、各ロータの形状を大きく変更する必要が生じる。これに対して、本発明の与圧手段であれば、コイルばね70が第1のロータ50および第2のロータの反ステータ40側に配置されるので、2重筒構造のロータ50,60の形状を維持して位相信号の特性を確保しつつ、両ロータ50,60に与圧を加えることができる。
【0040】
(5)第2のキー溝33がスピンドル3の外周を略一周する螺旋状に形成されていれば、第1のキー溝32が直線状に形成されても、両ロータ50,60の位相差を略一回転(約360度)分確保することができ、両方のキー溝32,33を螺旋状に形成するのと比べて溝部の加工が容易となる。
【0041】
(6)第2のロータ60に延設部64が形成され、この延設部64によって第2のロータ60がスピンドル3の軸回りに回転するので、第2のロータ60が第1のロータ50の外側を回転する場合と比べて、回転時の第2のロータ60の軸に直交する方向のずれを生じにくくすることができる。
【0042】
(7)両ロータ50,60の位相差を略一回転分確保するためには、コイルばね70の両端がスピンドル3の外周方向に略一周分だけ相対移動できるとともに、第1のロータ50の突起部54が第2のロータ60の延設部64に対して略一回転分だけ相対移動できるように構成しなければならないが、延設部64の貫通孔641がスピンドル3の軸周りにC字状に形成されているので、突起部54が貫通孔641に沿って移動できる。従って、突起部54を設けても両ロータ50,60が円滑に相対移動できる。本実施形態では、この突起部54にコイルばね70の一端部71が接続されているので、第2のロータ60が延設部64を有していても、第2のロータ60よりも反ステータ側に配置されるコイルばね70によって第1のロータ50を与圧することができるようになっている。
【0043】
<本発明の変形例>
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、位相信号発信手段においてステータ40でロータ50,60の回転位相を検出する構成として磁気式のロータリエンコーダを用いる場合を例にして説明したが、ステータでロータの回転位相を検出する構成としては、静電容量式エンコーダや光学式エンコーダなどでもよく、その構成は特に限定されない。
【0044】
本発明の絶対位置測定装置としては、マイクロメータヘッド1に限らず内側測定用あるいは外側測定用マイクロメータでもよいのはもちろんであり、さらに、回転によって進退するスピンドル3の絶対位置を検出する測定装置であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、マイクロメータヘッド、マイクロメータ等の小型測定器に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の絶対位置測定装置の一実施形態に係るマイクロメータヘッドを示す断面図。
【図2】前記マイクロメータヘッドの位相信号発信手段を示す斜視図。
【図3】前記マイクロメータヘッドの位相信号発信手段を示す分解斜視図。
【図4】前記マイクロメータヘッドにおけるキーに対する与圧の方向を説明する図。
【図5】前記位相信号発生手段を前端側から見た図。
【図6】従来の絶対位置測定装置を示す断面図。
【図7】従来の絶対位置測定装置において二つの位相信号とスピンドルの位置との関係を示す図。
【符号の説明】
【0047】
1…マイクロメータヘッド(絶対位置測定装置)
2…本体
3…スピンドル
4…位相信号発信手段
5…演算処理手段
32…第1のキー溝
33…第2のキー溝
40 ステータ
50 第1のロータ
51 第1のキー
54 第1の突起部(突起部)
60 第2のロータ
61 第2のキー
64 延設部
70…コイルばね(与圧手段)
71…一端部
72…他端部
641…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、この本体に螺合されているとともに軸周りに回転しながら軸方向に移動自在に設けられるスピンドルと、前記スピンドルの回転量に応じて異なる周期で変化する二つの位相信号を発信する位相信号発信手段と、前記二つの位相信号に基づいて前記スピンドルの軸方向の絶対位置を演算処理する演算処理手段と、を備え、
前記スピンドルには、外周にリード角の異なる第1のキー溝と第2のキー溝とが形成され、
前記位相信号発信手段は、
前記スピンドルが挿通された状態で前記本体に固定される板状のステータと、
前記スピンドルを中心に回転可能に支持されて前記第1のキー溝に係合する第1のキーを有する筒状の第1のロータと、
前記第1のロータの外側で前記スピンドルを中心に回転可能に支持されて前記第2のキー溝に係合する第2のキーを有する筒状の第2のロータと、
前記ステータの内周側部分に対向する前記第1のロータと、前記ステータの外周側部分に対向する前記第2のロータとを相反する回転方向に与圧する与圧手段と、を有する
ことを特徴とする絶対位置測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の絶対位置測定装置において、
前記与圧手段は、弾性部材であり、前記第1のロータおよび前記第2のロータよりも反ステータ側において前記スピンドルの周方向に沿って配置されるとともに、予め弾性変形した状態で周方向の一端部が、前記第1のロータに接続され、他端部が、前記第2のロータに接続されていることを特徴とする絶対位置測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の絶対位置測定装置において、
前記第1のキー溝および前記第2のキー溝のいずれか一方は、直線状に形成され、
前記第1のキー溝および前記第2のキー溝のいずれか他方は、前記スピンドルを略一周する螺旋状に形成され、
前記第2のロータは、前記第1のロータよりも反ステータ側に延設される円筒状の延設部を有するとともに、この延設部の内径が前記スピンドルの外径に略等しく設定され、
前記延設部には、前記スピンドルの軸方向に貫通する貫通孔が形成され、前記貫通孔が前記スピンドルの軸周りを略一周するC字状に形成され、
前記第1のロータは、反ステータ側に突出されかつ前記貫通孔に挿通される突起部を有するとともに、
前記突起部には前記延設部から突出した部分に前記与圧手段の一端部が接続されている
ことを特徴とする絶対位置測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−186313(P2009−186313A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26224(P2008−26224)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】