説明

絶縁体インク樹脂組成物、レジストパターン及びレジストパターン形成方法

【課題】保存安定性、耐イオンマイグレーション、薄膜での視認性、及び絶縁信頼性に優れるレジストパターンを簡便な印刷法により形成することのできる絶縁体インク樹脂組成物と、この絶縁体インク樹脂組成物を用いたレジストパターン及びその形成方法を提供する。
【解決手段】3価クロム及びアミン塩を含む金属錯塩染料、絶縁樹脂及び硬化剤を含んでなる絶縁体インク樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁体インク樹脂組成物、それを用いて形成したレジストパターン有する多層配線基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線形成の方法としては、エッチング法、アディティブ法が知られている。
近年、低エネルギー、低コスト、高スループット、オンデマンド生産等の優位点から、印刷法による配線形成が有望視されている。具体的には、金属元素を含むインク・ペーストを用い印刷法によりパターン形成した後、印刷された配線パターンに金属導電性を付与することにより実現される。また、絶縁性樹脂を含むインク・ペーストを用い印刷法によりパターン形成した後、硬化処理によりレジストパターンを形成することができる。
【0003】
従来、印刷法による配線パターンの形成には、フレーク状の銀あるいは銅を熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のバインダに有機溶剤、硬化剤、触媒等と共に混合した導電性ペーストが用いられてきた。この導電性ペーストの使用方法は、対象物にディスペンサやスクリーン印刷により塗布し、常温で乾燥するか、あるいは150℃程度に加熱してバインダ樹脂を硬化し、導電性被膜とすることで行われていた。
【0004】
更に、印刷法により低抵抗で微細な配線パターンを形成する手法として、金属ナノ粒子を用いた配線パターン形成方法が検討されており、金あるいは銀ナノ粒子を用いる方法が検討されてきた。具体的には、直径が100nm以下の金あるいは銀ナノ粒子を含む分散液を、印刷法によりきわめて微細な回路パターンとして基板上に塗布し、その後、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより焼結体型配線層が得られる。
【0005】
ところが、高精細な薄膜パターンを印刷法にて形成する場合、金属ナノ粒子を含む分散液がほぼ無色透明に近いため、所望の場所及び形状に印刷し、レジストを形成できているか否かを確認する際の視認性が悪く、目視による判断が極めて困難であった。
そこで、露光によるライン形成の精細度を向上させるため、特許文献1では、緑色系のソルダーレジストパターンインクにおいて青色系着色剤及び黄色系着色剤の少なくとも一方に染料を含有し、塗布膜の露光解像性と緑の色調性が優れることが記されている。そして、青色系の染料として銅フタロシアニン系の染料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−124613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、銅フタロシアニン系の絶縁体インクを用いた場合には、銅に起因するイオンマイグレーションの問題があった。
また、従来のソルダーレジストパターンインクは銅フタロシアニン系が主流であったため、硬化反応が進みやすく、保存安定性に乏しかった。
更に、染料を着色剤として用いる場合、顔料と比較して、着色性不足や退色性、絶縁体インクへの溶解性及び染料そのものが絶縁信頼性を劣化させることが問題となっていた。
しかも元来、導電性を有する金属錯体を絶縁性インクに用いることは好ましいことではなく、鮮やかな緑の色調に優れる銅フタロシアニン系を除き、金属錯体染料が絶縁性インクに用いられることはなかった。
特に、高精細な薄膜(膜厚50μm以下、特に25μm以下)のパターンを印刷法にて形成する場合、銅フタロシアニン系の着色剤を用いない場合は、所望の場所及び形状にライン&スペース100μm程度の精度でレジストパターンを印刷し、得られたレジストパターンを精度よく形成できているか否かを確認する際の視認性が悪い場合が多く、目視による判断で所望のレジストパターンが形成されているか否かを確認するのは困難であることが多かった。
【0008】
本発明は、保存安定性、耐イオンマイグレーション、薄膜での視認性、及び絶縁信頼性に優れるレジストパターンを簡便な印刷法により形成することのできる絶縁体インク樹脂組成物と、この絶縁体インク樹脂組成物を用いたレジストパターン及びその形成方法を提供するものである。
本発明の絶縁体インク樹脂組成物は、インクジェット法を用いて、薄膜のレジストパターンを形成するのに好適である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、保存安定性及び絶縁信頼性に優れる絶縁体インク樹脂組成物について鋭意検討し、絶縁体インク樹脂組成物が3価クロム及びアミン塩を含有する金属錯塩染料を含むことで耐イオンマイグレーション性、保存安定性及び絶縁信頼性のバランスを取ることができることを見出した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
(1)3価クロム及びアミン塩を含む金属錯塩染料、絶縁樹脂及び硬化剤を含んでなる絶縁体インク樹脂組成物。
【0011】
(2)3価クロムの含有率が、絶縁体インク樹脂組成物の固形分の総量に対して50〜2000ppmである前記(1)に記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【0012】
(3)2価銅の含有率が、絶縁インク樹脂組成物の固形分の総量に対して150ppm以下である前記(1)又は(2)に記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【0013】
(4)金属錯塩染料がモノアゾ系金属錯塩染料又はアゾ化合物系金属錯塩染料である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【0014】
(5)金属錯塩染料の色調が赤、橙のいずれかである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【0015】
(6)絶縁体インク樹脂組成物の粘度が0.1〜50mPa・s以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【0016】
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の絶縁体インク樹脂組成物を用いて得られるレジストパターン。
【0017】
(8)1以上のランド及び前記1以上のランドに接続されている引き出し配線を有する配線基板に、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の絶縁体インク樹脂組成物を用いて前記1以上のランドが露出するようにしてレジストパターンを形成する工程を含むことを特徴とする、レジストパターンの形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、保存安定性、耐イオンマイグレーション性、薄膜での視認性、及び絶縁信頼性に優れるレジストパターンを簡便な印刷法により形成することが可能となる。
また、前記の方法等によりレジストパターンと配線層を各々1層以上、交互に形成し、配線層同士を部分的に電気的に接続した回路層を形成することができる。更に、この回路層の最表面にレジストパターンを形成することで、密着性に優れた回路層の保護層やはんだボール等の接続用導電材料間や回路層との短絡を防ぐレジストパターン層として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の絶縁体インク樹脂組成物を用いてレジストパターンを形成する前の配線基板を例示する平面図である。
【図2】(A)は、本発明の絶縁体インク樹脂組成物を用いてレジストパターンを形成した配線基板の上面図であり、(B)は、(A)のA−B線に沿った断面図である。
【図3】配線が2層の場合における、本発明の絶縁体インク樹脂組成物を用いてレジストパターンを形成し、はんだボール実装をした配線基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0021】
<絶縁体インク樹脂組成物>
本発明の絶縁体インク樹脂組成物は、3価クロム及びアミン塩を含む金属錯塩染料、絶縁樹脂及び硬化剤を含んでなることを特徴としている。
以下に、本発明の絶縁体インク樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0022】
[金属錯塩染料]
本発明において、金属錯塩染料は、カラーインデックスにソルベントカラーとして分類されているもので、3価クロム及びアミン塩を含む。3価クロムを含むことで、レジストパターンの優れた絶縁信頼性を得ることができ、アミン塩を含有することで、水溶性有機溶媒への可溶性を向上し、均質な絶縁体インク樹脂組成物及びレジストパターンを得ることができる。このような金属錯塩染料としては、例えば、日本化薬株式会社のカヤセットKシリーズ、オリエント化学工業株式会社のバリファストカラーシリーズ、保土谷化学工業株式会社のアイゼンスピロンシリーズやSOTシリーズ等が挙げられる。
また、レジストパターンのさらに優れた絶縁信頼性を得る観点から、配位金属原子が鉄、クロム、コバルトのうちの何れかであるモノアゾ系金属錯塩染料又はアゾ化合物系金属錯塩染料が好ましい。また、これらの金属錯塩染料のうち何種類かを併用することができる。尚、金属錯塩染料の色調としては、特に限定しないが、例えば、青、緑、赤、橙等が挙げられ、視認性向上の点から、赤、橙が好ましい。
【0023】
さらに、本発明で使用される金属錯塩染料としては、例えば、保土谷化学工業株式会社製のSpilon Red BEH special、Spilon Black BH special、Spilon Orange 2RH special等が挙げられる。
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、Spilon Blue 2BNH、Spilon Green 3GNH special、Spilon Black GMH special(C.I.Solvent Black43)、Spilon Yellow C−2GH、Spilon Yellow C−GNH、Spilon Red C−GH、Spilon Red C−BH、Spilon Blue BPNH、S.B.N.Blue 701、Spilon Blue C−RH、Spilon Violet C−RH、S.P.T. Orange−6、S.P.T. Blue−111、Aizen Spilon Yellow C−2GH、Aizen Spilon Yellow C−GNH、Aizen Spilon SBN Yellow 530、Aizen Spilon SPT orange−6、Aizen Spilon Red C−BH、Aizen Spilon SPT Red 533、Aizen RhodamineB Base等を用いることができる。
【0024】
また、カラーインデックスにソルベントカラーとして分類されている染料として、例えば、C.I. Acid Black 52、C.I. Solvent Black 22、C.I. Solvent Black 27、 C.I. Solvent Black 29、C.I. Solvent Black 34 、C.I. Solvent Black 35、C.I. Solvent Yellow 16、C.I. Solvent Yellow 19、C.I. Solvent Yellow 25、C.I. Solvent Yellow 32、C.I. Solvent Yellow 79、C.I. Solvent Yellow 81、C.I. Solvent Yellow 82、C.I. Solvent Orange 45、C.I. Solvent Orange 54、C.I. Solvent Orange 56、C.I. Solvent Orange 62、C.I. Solvent Orange 99、C.I. Solvent Brown 42、C.I. Solvent Brown 48、C.I. Solvent Red 8、C.I. Solvent Red 18、C.I. Solvent Red 24、C.I. Solvent Red 27、C.I. Solvent Red 109、C.I. Solvent Red 118、C.I. Solvent Red 119、C.I. Solvent Red 122、C.I. Solvent Red 127、C.I. Solvent Red 160、C.I. Solvent Blue 5、C.I. Solvent Blue 35、C.I. Solvent Blue 36、Solvent Blue 70等を本発明の効果を阻害しない範囲内で用いることができる。
【0025】
金属錯塩染料に含まれるアミン塩の含有率は、絶縁体インク樹脂組成物の固形分の総量に対して15ppm以上であることが好ましい。例えば、アミン塩の含有率は、アミン態窒素含有率として、ケルダール法(染料の構造に含まれるアゾ化合物の窒素は除外できる。)で測定可能である。尚、上限値は特に限定しないが、3000ppm以下が好ましく、これを超えると保存安定性が悪くなるおそれがある。
【0026】
金属錯塩染料に含まれる金属元素は、価数が3価のクロム、2価のコバルト、2価及び3価の鉄の中から何種類かを任意に併用することができ、含有率が、絶縁体インク樹脂組成物の固形分の総量に対して50〜2000ppmであることが好ましく、250〜1000ppmであることがより好ましく、500〜750ppmであることが特に好ましい。3価クロムの含有率が50ppm未満であると絶縁信頼性が悪化し、2000ppmを超えると視認性が悪くなる。
【0027】
金属錯塩染料に含まれる金属元素である2価銅は、絶縁体インク樹脂組成物の固形分の総量に対して150ppm以下であると好ましい。レジストパターンを微細なパターンの配線層の下地や保護層に用いて、配線層を電気的な短絡から守る観点から、50ppm以下であると、より好ましい。長時間の絶縁信頼性の観点からは、0ppmであると、更に好ましいが、所望の色調を得る目的のため、少量含んでいてもよい。
【0028】
[絶縁樹脂]
絶縁樹脂は、特に制限はないが、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂とは、熱により架橋反応を起こしうる反応性化合物をいう。このような化合物としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、レゾルシノールホルムアルデヒド樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ケトン樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、ポリイソシアネート樹脂、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌラートを含有する樹脂、トリアリルトリメリタートを含有する樹脂、シクロペンタジエンから合成された熱硬化性樹脂、芳香族ジシアナミドの三量化による熱硬化性樹脂等が挙げられる。中でも、高温において優れた接着力を持たせることができる点で、エポキシ樹脂、シアネート樹脂及びビスマレイミド樹脂が好ましく、取り扱い性及びポリイミドとの相溶性の点からエポキシ樹脂が特に好ましい。これら熱硬化性樹脂は単独で用いるか又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、又はフェノール、クレゾール、アルキルフェノール、カテコール、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のフェノール類とホルムアルデヒドやサリチルアルデヒド等のアルデヒド類の縮合物のグリシジルエーテル化物、その他、二官能フェノール類のグリシジルエーテル化物、二官能アルコールのグリシジルエーテル化物、ポリフェノール類のグリシジルエーテル化物、及びそれらの水素添加物、ハロゲン化物等があるが、耐熱性や接続信頼性の観点からフェノール類とアルデヒド類の縮合物のグリシジルエーテル化物が好ましい。これらのエポキシ樹脂の分子量はどのようなものでもよく、また何種類かを併用することもできる。
【0030】
エポキシ樹脂の重量平均分子量は、硬化処理に対する架橋点を密にし、良好な機械特性、耐熱性及び環境信頼性を得られることから、200以上、50000以下が好ましい。例えばインクジェット等の無版印刷法に適用可能な絶縁体インク樹脂組成物として用いる場合には、インクジェットのノズル吐出性を安定的に確保するために200以上、35000以下がより好ましく、絶縁インクの粘度上昇を抑え、安定的に使用するために、200以上、20000以下が更に好ましい。
【0031】
[硬化剤]
硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、ジシアンジアミド等のアミン類、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等の酸無水物、イミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリン等のイミダゾール類、及びイミノ基がアクリロニトリル、フェニレンジイソシアネート、トルイジンイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート、メラミンアクリレートなどでマスクされたイミダゾール類、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ポリビニルフェノール等のフェノール類、及びフェノール、クレゾール、アルキルフェノール、カテコール、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のフェノール類とホルムアルデヒドやサリチルアルデヒド等のアルデヒド類との縮合物及びこれらのハロゲン化物等がある。また、これらの化合物のうち何種類かを併用することができる。
【0032】
上述した硬化剤の中では、フェノール性水酸基を有するフェノール化合物とアルデヒド化合物との縮合物が、耐熱性や接続信頼性の観点から好ましい。係る縮合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール,ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ナフタレンジオール類、ビフェノール類等のフェノール化合物とアルデヒド化合物との縮合物であり、フェノールノボラック樹脂、レゾール樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂及びこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体又は窒素含有基置換体等の縮合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いるか又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記エポキシ樹脂と上記フェノール化合物とアルデヒド化合物との縮合物を組合せて使用する場合、両者の配合量は、硬化性の観点から、エポキシ当量と水酸基当量の当量比(エポキシ当量/水酸基当量)で、0.70/0.30〜0.30/0.70とするのが好ましく、耐溶剤性及び機械特性の観点から、0.65/0.35〜0.35/0.65とするのがより好ましく、接続信頼性の観点から、0.60/0.40〜0.40/0.60とするのが更に好ましく、耐熱性の観点から、0.55/0.45〜0.45/0.55とするのが特に好ましい。両者の配合量が上記当量比の範囲外であると、硬化性が不十分となる傾向がある。
【0034】
[硬化促進剤]
また、上記エポキシ樹脂と上記フェノール化合物とアルデヒド化合物との縮合物を組合せて使用する場合、硬化時の反応速度調整のため硬化促進剤を含有させることができる。硬化性や保存安定性の観点から、イミダゾール類やジアミン類がより好ましい。例としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノ−1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノ−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加体、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、3,3’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、エポキシ樹脂とイミダゾール類の付加体等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を併用してもよい。また、これらをマイクロカプセル化して潜在性を高めたものを用いてもよい。これらは、常温(25℃)で固形であり、作業性に優れる。
【0035】
硬化促進剤の量は、絶縁樹脂100質量部に対し0.0001〜1質量部であることが好ましく、0.001〜0.5質量部であることがより好ましく、0.01〜0.2質量部であることが更に好ましい。1質量部を超えると保存安定性の点で問題があり、0.0001質量部未満では硬化の十分な促進が得られない。
以上は、硬化系として熱硬化系を選択した場合の材料及びその材料を用いた硬化方法について述べたものだが、本発明はこれに限定されるものではなく、光硬化系にも用いることができ、公知の光硬化系材料を用いることができる。
【0036】
[溶媒]
絶縁体インク樹脂組成物には必要に応じ溶媒を含ませることができる。溶媒は、25℃における蒸気圧が、1.34×10Pa未満の溶媒が好ましい。このような溶媒であれば、溶媒の揮発によるインク粘度の上昇を抑えることができる。例えば25℃の蒸気圧が、1.34×10Pa以上の溶媒のみであると、溶媒の揮発によるインク粘度の上昇が著しく、例えばインクジェット印刷法では、インクジェットヘッドのノズルから液滴を吐出することが困難になり、更にインクジェットヘッドの目詰まりが生じやすくなる傾向にある。
【0037】
尚、蒸気圧が、1.34×10Pa未満の溶媒と、蒸気圧が、1.34×10Pa以上の溶媒とを併せて用いてもよいが、その場合、蒸気圧が、1.34×10Pa以上の溶媒の配合割合を、溶媒全量の質量基準で、60質量%以下とすることが好ましく、溶媒の揮発によるインク粘度の上昇抑制の観点から、50質量%以下とすることがより好ましく、インクジェットヘッドのノズルからの液滴吐出性の観点から、40質量%以下とすることが更に好ましい。尚、溶媒としては、蒸気圧が所望の範囲で、かつ絶縁性の樹脂を分散又は溶解するものであれば種々のものを用いることができる。
【0038】
25℃における蒸気圧が、1.34×10Pa未満の溶媒としては、硬化性樹脂を溶解できるものであればよく、具体的には、スルホラン、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、アニソール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジアセトンアルコール、1,3−ブチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラデカン、乳酸メチル、乳酸エチル、アセトフェノン、リモネン等が挙げられる。
また、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa以上の溶媒として具体的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で使用するか又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
溶媒の含有割合については、特に制限されない。通常、絶縁体インク樹脂組成物に対して、10〜99質量%とすることが好ましく、例えば、インクジェット印刷法に適用する場合は、30〜99質量%とすることがより好ましい。
【0040】
絶縁体インク樹脂組成物の粘度は、適用する印刷法によって適正な範囲が異なる。
【0041】
インクジェット印刷法に適用する場合は、絶縁体インク樹脂組成物の粘度は、25℃で0.1〜50mPa・sであることが好ましく、1〜30mPa・sであることがより好ましく、5〜20mPa・sであることが特に好ましい。絶縁体インク樹脂組成物の粘度が0.1mPa・s以上であれば、インク流れがなくパターン形成の位置ズレを抑制することができ、50mPa・s以下であれば、インクジェット印刷時の不吐出ノズルの発生やノズルの目詰まりの発生を防止することができる。また、液滴を小径化でき、絶縁体インクの着弾径を一層小さくすることで微細なパターン形成がしやすくなる。
【0042】
一方、スクリーン印刷法に適用する場合は、絶縁体インク樹脂組成物の粘度は、25℃で、せん断速度100s−1の条件において、0.01Pa・s(=10mPa・s)〜500Pa・sであることが好ましく、0.1〜300Pa・sであることがより好ましく、0.5〜100Pa・sであることが特に好ましい。絶縁体インク樹脂組成物の粘度が500Pa・s以下であれば、印刷時のインクの版抜け性を良好に保ち、連続的に印刷操作するときに、版の目詰まりの発生を一層確実に防止することができる。また、微細なパターン形成への対応のため、印刷後のインクの異常な濡れ広がりを防止する観点から、絶縁体インク樹脂組成物の粘度が0.01Pa・s以上であることが好ましい。
【0043】
ディスペンサによる印刷法に適用する場合は、絶縁体インク樹脂組成物の粘度は、25℃で、20mPa・s〜3000Pa・sであることが好ましい。粘度が20mPa・s未満では液ダレが発生しやすく、3000Pa・sを超えると液滴を小径化し微細なパターンを形成するのが困難となる。また、ジェット方式のディスペンサを用いる場合は、30mPa・s〜500Pa・sであることがより好ましく、50mPa・s〜300Pa・sであることがさらに好ましい。
絶縁体インク樹脂組成物の25℃における粘度は、E型粘度計(コーン角度1度、回転数5rpm)を用いて測定する。
【0044】
絶縁体インク樹脂組成物の表面張力についても、適用する印刷法によって適正な範囲が異なる。
【0045】
インクジェット印刷法に適用する場合は、絶縁体インク樹脂組成物の25℃における表面張力は20mN/m以上であることが好ましく、表面調整剤によって、表面張力を調整することができる。絶縁体インク樹脂組成物の表面張力が20mN/m未満の場合、絶縁体インク樹脂組成物の液滴が基材上に着弾後に濡れ広がり、平坦な厚膜を形成できない傾向がある。絶縁体インク樹脂組成物の表面張力は、20〜80mN/mの範囲であることがより好ましい。これは、絶縁体インク樹脂組成物の表面張力が80mN/mを超える場合、インクジェットノズル詰まりが発生し易くなる傾向があるためである。平坦な膜の形成性及び安定したインクジェット吐出性の観点から、20〜40mN/mであるとより好ましい。
【0046】
一方、スクリーン印刷法に適用する場合は、絶縁体インク樹脂組成物の25℃における表面張力は10mN/m以上であることが好ましく、表面調整剤によって、表面張力を調整することができる。絶縁体インク樹脂組成物の表面張力が10mN/m未満の場合、絶縁体インク樹脂組成物が基材上で濡れ広がり、平坦な厚膜を形成できない傾向がある。絶縁体インク樹脂組成物の表面張力は、10〜80mN/mの範囲であることがより好ましい。これは、絶縁体インク樹脂組成物の表面張力が80mN/mを超える場合、基材上ではじきを生じ易くなる傾向があるためである。平坦な膜の形成性及び安定した微細パターン形成の観点から、20〜60mN/mであるとより好ましい。
【0047】
絶縁体インク樹脂組成物に添加する表面調整剤としては、例えばシリコーン系、ビニル系、アクリル系及びフッ素系から1種を単独で使用するか又は2種以上を組み合わせて使用することができる。例えば、市販されているこのような表面調整剤としては、BYK−051、BYK−054、BYK−057、BYK−A 506、BYK−A 520、BYK−A 530、BYK−A 535、BYK−A 555、BYK−300、BYK−302、BYK−306、BYK−310、BYK−315、BYK−320、BYK−322、BYK−323、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−340、BYK−344、BYK−370、BYK−375、BYK−377、BYK−350、BYK−352、BYK−354、BYK−355、BYK−358N、BYK−361N、BYK−392、BYK−UV3500、BYK−UV3510、BYK−3570、BYK−Silclean3700(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名)、LF−1922、LF−1927、LF−1930N、LF−1931、LF−1933、LF−1934、LF−1958、P−410EF、P−420、P−425、PD−7、OX−880EF、OX−881、OX−883、OX−883HF、OX−70、OX−77EF、OX−60、OX−710、OX−720、OX−720EF、OX−750HF、LAP−10、LAP−20、LAP−30、1970、230、LF−1980、LF−1982、LF−1983、LF−1984、LF−1985、LHP−90、LHP−91、LHP−95、LHP−96、1711、1751N、1761、LS−001、LS−050(以上、楠本化成株式会社製、商品名)、SD5591、SH200−100CS、SH7PA、11ADDITIVE、SH28PA、SH−29PA,SH−30PA、ST80PA、ST83PA、ST86PA、ST90PA、ST97PA、ST105PA(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名)、ポリフローNo.3、ポリフローNo.7、ポリフローNo.50E,ポリフローNo.50EHF、ポリフローNo.54N、ポリフローNo.55、ポリフローNo.64、ポリフローNo.75、ポリフローNo.77、ポリフローNo.85、ポリフローNo.85HF、ポリフローNo.S、ポリフローNo.90、ポリフローNo.90D−50、ポリフローNo.95、ポリフローNo.300、ポリフローNo.460、ポリフローWS、ポリフローWS−30、ポリフローWS−314(以上、共栄社化学株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0048】
絶縁体インク樹脂組成物には、上記の他にも、シランカップリング剤やチキソ性付与剤等の添加剤を適宜添加することができる。また、モノマー、オリゴマー等を必要に応じて溶媒に溶解させて用いることもできる。
【0049】
<レジストパターン及びその形成方法>
本発明のレジストパターンは、上述の本発明の絶縁体インク樹脂組成物を用いて得られるレジストパターンである。
ここで、レジストパターンは、例えば、配線基板における導体の絶縁・保護に用いられる。つまり、配線基板は、基板、絶縁層、導体接続用部分である導体層及びランドから構成されるが、ランドには、はんだボール接続、導体リード線のはんだ接続、導体配線接続等による導体配線を形成することで導体接続機能を発現し、それ以外の領域は本発明のレジストパターンによって絶縁・保護することができる。
【0050】
また、本発明のレジストパターンの形成方法は、1以上のランド及び前記1以上のランドに接続されている引き出し配線を有する配線基板に、上述の本発明の絶縁体インク樹脂組成物を用いて前記1以上のランドが露出するようにしてレジストパターンを形成する工程を含むことを特徴としている。
【0051】
配線基板にレジストパターンを形成するには、例えば、図1に示すレジストパターン形成前の配線基板を出発材料とすることができる。図1に示す配線基板は、基板1の表面に12個のランド2が形成され、各ランド2は引き出し配線3が接続されている。そして、このような配線基板に、ランド2が露出するようにしてレジストパターンを形成すると、図2に示すようになる。図2は、図1に示した配線基板にレジストパターンを形成した様子を示す、(A)上面図、(B)(A)図のA−B線に沿った断面図である。なお、図2(A)において、レジストパターンは各ランド2の周縁部内側にまで形成されているため、各ランド2の周縁部は破線で示している。
【0052】
レジストパターンの形成は、上述の本発明の絶縁体インク樹脂組成物を印刷法により配線基板上に塗工して行うことが好ましい。塗工後は、必要に応じて溶媒を除去(例えば熱処理及び/または真空脱気)し、塗工した絶縁体インク樹脂組成物を硬化(例えば、熱処理や紫外線照射など)してレジストパターンとすることができる。
【0053】
絶縁体インク樹脂組成物の印刷法としては、インクジェット印刷、スーパーインクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、ジェットプリンティング法、ディスペンサ、ジェットディスペンサ、ニードルディスペンサ、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、グラビアコータ、凸版印刷、凹版印刷、グラビア印刷、ソフトリソグラフ、ディップペンリソグラフ、スプレーコータ、スピンコータ、ディップコータ、電着塗装等を用いることができ、中でも、インクジェット印刷、スーパーインクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、オフセット印刷、ジェットプリンティング法、ディスペンサ、ニードルディスペンサ、カンマコータ、スリットコータ、ダイコータ、及びグラビアコータからなる群より選択されるいずれか1種が好ましい。中でもインクジェット印刷法又はディスペンサ法は、特別な版を使用せずに所望の位置に所望の量のインクを印刷でき、材料利用効率やパターン設計変更への対応の容易さ等の特徴を有し、より好ましい。
【0054】
インクジェット印刷法としては、例えば、ピエゾ素子の振動によって液体を吐出するピエゾ方式や、急激な加熱による液体の膨張を利用して液体を吐出させるサーマル方式等、一般に報告されている吐出方法を使用できる。中でも、ピエゾ方式は、インクに熱がかからないなどの点から好ましい。このようなインクジェット印刷法を実施するためには、例えば、通常のインクジェット装置を用いることができる。インクを吐出するヘッドのノズル径は所望の液滴サイズによって最適なものを選択することができる。
【0055】
スクリーン印刷法は、先ず、基体の表面を所望のパターンの開口部を有するマスクで覆い、マスクの開口部に絶縁体インク樹脂組成物を充填し、次いで、スキージを加圧させながらマスク上を移動させ、開口部に充填した絶縁体インク樹脂組成物を印刷対象面に接触させ、その後、マスクを取り外すことにより、所望のパターンを形成することができる。マスクの材質は、所望のパターンによって、金属やナイロンメッシュ等から最適なものを選択することができ、マスクのメッシュサイズも、適宜、選択することができる。
【0056】
絶縁体インク樹脂組成物を基板に塗工した後に溶媒を除去する方法としては、基板を加熱したり、熱風を吹き付けたりする加熱処理方法を採用することができる。このような加熱処理は、例えば、加熱温度60〜200℃、加熱時間0.1秒〜2.0時間で行うことができる。尚、樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、溶媒の除去後又は溶媒除去と同時に樹脂を硬化させることができる。また、例えば紫外線硬化型樹脂の場合は、溶媒除去後紫外線を照射することで、樹脂を硬化することができる。
また、絶縁体インク樹脂組成物を基板に塗布した後に溶媒を除去する方法として、減圧環境下又は真空環境下にすることで処理する方法を採用することもできる。更に、このような減圧又は真空乾燥処理と加熱処理を組合せて溶媒を除去することもできる。
【0057】
本発明の絶縁体インク樹脂組成物からなるレジストパターンは、基板上に印刷法により配線層を形成する場合の絶縁性下地層として、及び/又は、配線層を形成した後に、この配線層を電気的及び物理的に遮蔽する保護層としても好適である。
【0058】
本発明の絶縁体インク樹脂組成物を用いるレジストパターンは、他の回路基板と組み合わせることで半導体パッケージ用回路基板のソルダレジストパターンとして好適に用いることができる。図3に示す実装基板はその一態様である。以下に図3に示す態様について説明する。
まず、図3(A)に示す基板1の上に絶縁層11を塗布・硬化させ、レジストパターンを用いたエッチングで導体層用の穴を開け、導体層31及びランド21としてめっき層を埋め込む(図3(B))。なお、用途に応じ、絶縁層11や導体層31についてもインクジェット法で形成することが可能である。
続いて、図3(C)に示すように、本発明の絶縁体インク樹脂組成物を用い、ランド21が露出するようにレジストパターン40を形成する。
最後に、図3(D)に示すように、レジストパターン40とランド21とから構成されるランド領域6に、はんだボール7を載せた後にはんだリフロー温度で加熱して別の基板10と接合し、実装基板が得られる。
【0059】
図3のレジストパターン5は必要不可欠なものではないが、例えば半導体チップを配線基板凹部に埋め込む形状を構成するための壁として用いることができる。レジストパターン5で構成される壁より低い位置にレジストパターン40を形成する場合には、スクリーン印刷法は適さず、インクジェット法が好適となるため、本発明の絶縁体インク樹脂組成物がスクリーン印刷法とインクジェット法の両方に適用可能であるという利点がある。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1〜6、比較例1]
(絶縁体インク樹脂組成物の調製)
実施例1〜6、比較例1毎に、絶縁体インク樹脂組成物を調製した。
【0062】
(絶縁体インク樹脂組成物1の調製)
染料(商品名「Aizen Spilon Red BEH special」、保土谷化学工業株式会社製)1.9gと、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(商品名「N−865」、大日本インキ化学工業株式会社製)24.2gと、硬化剤であるビスフェノールAノボラック樹脂(商品名「VH−4170」、大日本インキ化学工業株式会社製)13.3gと、硬化促進剤である2−エチル−4−メチルイミダゾール(東京応化工業株式会社製)0.02gと、シリコーン系表面調整剤(商品名「BYK307」、BYK Chemie社製)0.05gとを、溶媒であるγ‐ブチロラクトン(25℃における蒸気圧:3.4×102Pa)14.2gに溶解させて絶縁体インク樹脂組成物1を得た。
【0063】
(絶縁体インク樹脂組成物1の希釈)
絶縁体インク樹脂組成物1を用いてインクジェット法で印刷するためには、絶縁体インク樹脂組成物の粘度を50mPa・s(=0.05Pa・s)以下にする必要がある。そこで、希釈溶媒であるγ−ブチロラクトン105.7gに上記で作製した絶縁体インク樹脂組成物1を53.6g溶解させて、粘度が10mPa・sのインクジェット印刷用の希釈絶縁体インク1を得た。
【0064】
(絶縁体インク樹脂組成物の粘度測定)
絶縁体インク樹脂組成物の粘度は、粘度範囲に応じて異なる測定法を用いる。低せん断速度領域(0.1s−1以下のせん断速度条件)で300mPa・s(=0.3Pa・s)以上の粘度を測定する際には、粘度・粘弾性測定装置としてレオメーターMCR301(Anton Paar社製)を用い、冶具にコーンプレートCP50−1(Anton Paar社製)を用い、25℃、コーン角度1度、回転速度5rpm、せん断速度100s−1の条件で得られた値を測定値とした。
上記測定法において上記低せん断速度領域で300mPa・s未満の粘度を測定する際には、音叉型振動式粘度計SV−10(エーアンドディー社製)を用い、25℃の条件で得られた値を測定値とした。
【0065】
(絶縁体インク樹脂組成物2〜7の調製と希釈)
絶縁体インク樹脂組成物1と同様の手法で、絶縁体インク樹脂組成物2〜7を調製し、インクジェット印刷用の希釈インクを調製した。これらの絶縁体インク樹脂組成物の配合は、表1に纏めた通りである。
尚、表1中の配合の単位は質量部である。また、使用した染料(金属錯塩染料)は、すべて、保土谷化学工業株式会社のアイゼンスピロンシリーズである。
【0066】
(金属元素の測定方法)
絶縁体インク樹脂組成物を180℃、30分熱処理により硬化させ、厚さ5μmの硬化物を得た。この硬化物を1cm角ほどの大きさに切ったものを測定用冶具の上に両面テープで貼りつけ、更にその表面を白金蒸着し測定用サンプルとした。この測定用サンプル法を用いて、SEM観察によるEDX(エネルギー分散型X線)分析を行い、得られたクロムと銅の元素量測定値から、絶縁樹脂及び硬化剤の総量に対する3価クロム含有率、2価銅の含有率をそれぞれ算出した。
【0067】
(アミン態窒素の算出方法)
アミン態窒素は金属(クロム)錯体染料に含まれるアミン塩に関するものであり、当該アミン態窒素の含有率をケルダール法により測定した。
【0068】
(保存安定性の評価方法)
実施例1〜6、比較例1の絶縁体インク樹脂組成物をそれぞれ常温(25℃)で30日保存し、前述した測定方法を用い粘度を測定した。
【0069】
(印刷性の評価方法)
印刷性の評価に際しては、インクジェット法で印刷し作製したものと、スクリーン印刷法に相当するものとしてバーコータ法で印刷し作製したものを用いて、実施例1〜6、比較例1のそれぞれについて得られたフィルムの印刷性を評価した。
インクジェット法で作製する際においては、口径50μmのヘッドを搭載したピエゾ方式のインクジェット装置を用いて、ポリイミドフィルム(商品名「ユーピレックス25SX」、宇部興産株式会社製)上に、絶縁体インクを80pL吐出した。インクを吐出した後、180℃に熱したホットプレート上に速やかに移して30分間乾燥・硬化させ、膜厚5μmのフィルムを得た。
一方、バーコータ法で作製する際においては、絶縁体インク3mLをポリイミドフィルム(商品名「ユーピレックス25SX」、宇部興産株式会社製)上にスポイトで塗布し、LodNo.3(ウェット膜厚に相当するバーコータのギャップ6.9μm)のバーコータにて塗工し、180℃、30分の熱処理により硬化させ、膜厚5μmのフィルムを得た。
得られたフィルムに縦すじやムラが見られないものを○、縦すじ又はムラが見られるものを×と判定した。
【0070】
(視認性の評価方法)
膜厚5μm、10μmのバーコータ法塗工フィルムをそれぞれ用いて、視認性評価用フィルムを作成した。膜厚5μmのフィルムについては上記印刷性の評価方法における膜厚5μmのフィルムを転用し、膜厚10μmのフィルムを作製する際には、Lod No.5(ウェット膜厚に相当するバーコータのギャップ11.4μm)のバーコータを使用し印刷性評価用フィルムと同様の方法でフィルムを作製した。上記作製した膜厚5μm、10μmの評価用フィルムについて、天井に市販の蛍光灯を約2m間隔に配置した条件下で、評価用フィルムを机上に置き、約30cm離れた目視により、レジストパターンの存在する部分が、はっきり視認できるかどうかを観察した。膜厚5μmのもので視認性が良好な場合を○、膜厚5μmでは視認性が不良で膜厚10μmでは視認性が良好な場合を△、膜厚5μm、10μmの両方とも視認性が不良な場合を×と判定した。
なお、インクジェット法についても、膜厚5μm、10μmのフィルムを用いて評価したが、バーコータ法作製フィルムでの評価結果とを比較したが、実施例1〜6、比較例1のいずれも差は生じなかった。
【0071】
(耐クラック性の評価方法)
耐クラック性については、厚い膜でないと評価が難しいため、膜厚20μmのバーコータ法塗工フィルムを用いて、視認性評価用フィルムを作製した。膜厚20μmのフィルムを作製する際には、Lod No.10(ウェット膜厚に相当するバーコータのギャップ22.9μm)のバーコータを使用し印刷性評価用フィルムと同様の方法でフィルムを作製した。
上記作製した膜厚20μmの評価用フィルムを240℃のホットプレート上で30秒間加熱し、加熱後に得られたレジストパターンの状態を目視で観察し、ひび割れやポリイミドフィルムからの剥離がないものを○、ひび割れがあるものを△、さらにポリイミドフィルムからの剥離があるものを×として、耐クラック性を評価した。
【0072】
(絶縁信頼性評価用サンプル作製)
絶縁信頼性評価用サンプルとしては、IPC−SM−840B規格に準じた櫛歯型テスト用電極を用いた。具体的には、配線板用銅箔付き基板材料(商品名「MCL−E−679FG(s) t0.1 VLP12μm」、日立化成工業株式会社製)の銅箔部分に、配線幅25μm、スペース95μm、銅箔の膜厚が9μmの20本の櫛歯型の電極を作製した。櫛歯型の電極は、陽極と陰極がそれぞれ35μmの隙間を空けて互い違いに対向させて並ぶように配置した。このように対向させた電極の櫛歯部分に、バーコータにて絶縁体インクを塗布し、180℃、30分の熱処理により硬化させ、膜厚7μmのレジストパターン付き櫛歯銅配線とした。
【0073】
(絶縁信頼性の評価方法)
平山製作所製不飽和型プレッシャークッカHAST装置PC−422R8Dを使用して、JIS c 60068−2−66に則り、HAST試験を実施した。試験条件を温度130℃、相対湿度85%、陽極−陰極間の印加電圧を直流5V、試験時間を96時間とし、電圧の印加及び試験中の絶縁抵抗値の測定には、IMV社製マイグレーションテスタMIG−8600Bを使用した。試験中の絶縁抵抗値が常に10Ω以上で、試験後のレジストパターン付き櫛歯銅配線に、エレクトロケミカルマグレーションに由来するデンドライトの発生や、櫛歯銅配線の黒ずみ、櫛歯銅配線の配線幅が試験前よりも太くなる現象がなければ○、それ以外を×と評価した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示す通り、実施例1〜6の絶縁体インクは金属錯塩染料に含まれる元素が2価銅である比較例1とは異なり保存安定性に優れていた。また、実施例1〜6の絶縁体インクを用いて得られたレジストパターンは視認性に優れ、比較例1とは異なり、絶縁信頼性及び耐クラック性に優れていた。
また、実施例1〜6の絶縁体インクは、比較例1とは異なりインクジェット用に希釈しても特性に問題を生じることなくそのまま使用することができた。
また、実施例1〜6の絶縁体インクは、ライン&スペース100μmの解像度を有することも確認した。
また、実施例1〜6の絶縁体インクは、ナノオーダーの銅粒子を含んだペーストを用いて形成した配線パターンを有する基板に適用した場合でも、耐マイグレーション性に優れることを確認した。
【符号の説明】
【0076】
1 10 基板
2 21 ランド
3 引き出し配線
4 31 導体層
5 40 レジストパターン
6 ランド領域
7 はんだボール
8 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロム及びアミン塩を含む金属錯塩染料、絶縁樹脂及び硬化剤を含んでなる絶縁体インク樹脂組成物。
【請求項2】
3価クロムの含有率が、絶縁体インク樹脂組成物の固形分の総量に対して50〜2000ppmである請求項1に記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【請求項3】
2価銅の含有率が、絶縁インク樹脂組成物の固形分の総量に対して150ppm以下である請求項1又は2に記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【請求項4】
金属錯塩染料がモノアゾ系金属錯塩染料又はアゾ化合物系金属錯塩染料である請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【請求項5】
金属錯塩染料の色調が赤、橙のいずれかである請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【請求項6】
絶縁体インク樹脂組成物の粘度が0.1〜50mPa・s以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁体インク樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁体インク樹脂組成物を用いて得られるレジストパターン。
【請求項8】
1以上のランド及び前記1以上のランドに接続されている引き出し配線を有する配線基板に、請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁体インク樹脂組成物を用いて前記1以上のランドが露出するようにしてレジストパターンを形成する工程を含むことを特徴とする、レジストパターンの形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−117055(P2012−117055A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244780(P2011−244780)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】