説明

絶縁導体及びその製造方法

【課題】精度良く絶縁導体の非電着部分を形成する方法を提供する。
【解決手段】金属細線110表面の非電着部をウレタン系電着材料にてコーティングしてマスキングするマスキング工程と、前記マスキング工程にてマスキングされた前記非電着部以外の外面に電着被膜層130を形成する電着被膜形成工程と、前記マスキングされた前記非電着部から前記ウレタン系電着材料を剥離除去するマスキング剥離工程と、を有する。非電着部をマスキングしたウレタン系電着材料の膜厚は、1μm以上2μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着被膜にて被覆された絶縁導体、及び、その絶縁導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導体の絶縁被覆方法としては、充分な絶縁破壊電圧値を有し且つ全長にわたって層厚が均一な絶縁被覆層を得ることができるため、電着被膜が用いられており、例えば回路基板の電気的特性の良否の検査に用いられるプローブピンの非接触部分には絶縁材料が電着被膜により付着される。
【0003】
プローブピンは、その先端部について回路基板の電極に接触させるため被膜が不要であり、被膜不要部分については、予め電着被膜を行わないか、又は電着被膜を設けてからそれを剥離除去する方法がある。
【0004】
電着被膜を設けてから剥離除去する方法としては、特許文献1に記載されているように、例えば刃物付き機械で剥離する機械的剥離や、例えばエキシマレーザーや炭酸ガスレーザーを照射して剥離するレーザー剥離がある。
【0005】
しかし、プローブピンは、例えば線径が数百μm以下、全長が数十mmの微細構造であるため、電着被膜の剥離除去で機械的剥離やレーザー剥離を行うと、機械的剥離やレーザー剥離による衝撃により、プローブピンの先端が変形してしまう場合がある。
【0006】
一方、予め電着被膜を行わない方法としては、プローブピンの先端部側を把持して電着すれば、先端部が被膜されておらず、それ以外の部分が被膜されているプローブピンを形成することも可能である。しかし、プローブピンの先端部側が寸法的に把持に必要な長さを有していない場合は、この先端部側を把持して電着する方法を採用することは困難である。
【0007】
また、特許文献2に記載されているように、非電着部分にマスキングシール等によるマスキングを行ってから電着を行う方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−317412号公報
【特許文献2】特開2002−367858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、プローブピンは微細構造であるため、マスキングシールを先端部等の非電着部分に精度良く貼り付けることが困難であり、そのため適切に非電着部分を形成することが難しい。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、精度良く非電着部分を形成することができる絶縁導体の製造方法、及び、その方法により形成された絶縁導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る絶縁導体の製造方法は、導体表面の非電着部をウレタン系電着材料にてコーティングしてマスキングするマスキング工程と、前記マスキング工程にてマスキングされた前記非電着部以外の外面に電着被膜層を形成する電着被膜形成工程と、前記マスキングされた前記非電着部から前記ウレタン系電着材料を剥離除去するマスキング剥離工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、前記ウレタン系電着材料は、カチオン性ウレタンエマルジョンであることが好ましい。
【0013】
また、前記電着被膜形成工程における電着被膜層の樹脂成分は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂の少なくともいずれか1種類を含むことが好ましい。
【0014】
また、前記マスキング工程において、前記非電着部をマスキングしたウレタン系電着材料の膜厚は、1μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記マスキング工程において、前記非電着部をマスキングしたウレタン系電着材料を180℃以上220℃以下で焼付けすることが好ましい。
【0016】
また、前記マスキング剥離工程における前記ウレタン系電着材料の剥離除去は、溶剤によることが好ましい。
【0017】
また、前記ウレタン系電着材料に、補強剤を含有させることが好ましい。
【0018】
また、前記ウレタン系電着材料に、着色料を含有させることが好ましい。
【0019】
次に、本発明の第2の観点に係る絶縁導体は、電着被膜層が形成される電着部と、電着被膜層のない非電着部とを表面に有してなり、前記非電着部は、該非電着部にコーティングされたウレタン系電着材料が、電着部に対する電着被膜層が形成された後に剥離除去されて形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、前記電着被膜層の樹脂成分は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂の少なくともいずれか1種類を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、絶縁導体の非電着部分を精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係るプローブピンを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0024】
本実施形態に係る絶縁導体につき、プローブピンを一具体例として下記に説明をする。
【0025】
図1に示されるように、プローブピン100は、例えば、導体としての金属細線110と、図外の検体の電極と接触するためのプローブピン先端部120と、金属細線110の胴部に被膜された電着被膜層130と、プローブ治具(図示せず)と接続するための治具接続先端部140と、を有して構成される。
【0026】
プローブピン先端部120は、金属細線110の先端部である非電着部をウレタン系電着材料にてマスキングし、マスキングされた金属細線110の非電着部以外の外面に電着被膜を付着させた後に、マスキングされた非電着部からウレタン系電着材料を剥離することにより形成されている。また、治具接続先端部140も、プローブピン先端部120と同様に形成されている。
【0027】
ウレタン系電着材料は、特に限定されるものではないが、例えばカチオン性ウレタンエマルジョンが好適に使用される。
【0028】
カチオン性ウレタンエマルジョンとは、水中に、正に荷電したポリウレタン粒子が分散されて形成されたものである。カチオン性ウレタンエマルジョンとしては、例えば、第三級アミノ基を有するウレタンプレポリマーと、中和剤(酸)又は四級化剤とを水中で反応させて得られるウレタンエマルジョンを用いることが可能である。
【0029】
前記ウレタンプレポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物(a)、活性水素を2個以上有する化合物(b)、イソシアネート基と反応性を有する基と、第三級アミノ基とを有する化合物(c)とを共重合させて生成するウレタンプレポリマーを用いることが可能である。
【0030】
前記ポリイソシアネート化合物(a)は、特に限定されるものではないが、例えば2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート等のTDI;ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート等のMDI;トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ノルボルナン骨格を有するジイソシアネート(NBDI)、及び、これらのイソシアヌレート体等の変成品が挙げられる。
【0031】
前記活性水素を2個以上有する化合物(b)は、活性水素を2個以上有する化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリオール化合物、アミン化合物、アルカノールアミン等を使用することが可能である。このポリオール化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール;ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィン系ポリオール;3−メチルペンタンジオールアジペート等のアジペート系ポリオール;ラクトン系ポリオール;ヒマシ油等のポリエステル系ポリオールを使用することが可能である。
【0032】
前記化合物(c)は、イソシアネート基と反応性を有する基と、第三級アミノ基とを有する化合物である。ここで、イソシアネート基と反応性を有する基は、特に限定されるものではないが、例えば、アミノ基(−NH)、ヒドロキシ基、イミノ基(−NH−)、メルカプト基等である。
【0033】
前記化合物(c)は、特に限定されるものではないが、例えば、N−エチル−N,N−ジエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N−イソブチル−N,N−ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等を使用することができる。
【0034】
前記中和剤は、ルイス酸であれば特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜リン酸等の無機酸、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸等を使用することが可能である。
【0035】
前記四級化剤は、ウレタンプレポリマーの第三級アミノ基を四級化し得る化合物であり、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロロヒドリン等のエポキシ化合物;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類;パラトルエンスルホン酸メチル等のスルホン酸アルキル類;メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド等のハロゲン化アルキル類等を使用することが可能である。
【0036】
カチオン性ウレタンエマルジョンの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、前記ウレタンプレポリマー及び前記中和剤又は前記四級化剤を攪拌混合する方法等が用いられる。ただし、後述するように、マスキングされた非電着部からウレタン系電着材料を剥離除去する際に、剥離除去させ易くするために架橋剤は使用しないことが好ましい。
【0037】
ウレタン系電着材料にはカーボンブラック等の補強材を含有させることができる。補強材は例えば5〜10重量%含有させることができ、これによりマスキングウレタン系電着材料の剥離が容易となる。
【0038】
カーボンブラックは、例えば、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)、MAF(Medium Abrasion Furnace Black)、SAF(Super Abrasion Furnace Black)、SRF(Semi-ReinforcingFurnace Black)、GPF(General Purpose FurnaceBlack)、FT(Fine Thermal Furnace Black)、MT(Medium Thermal Furnace Black)、HAF(HighAbrasion Furnace Black)、FEF(Fast Extruding FurnaceBlack)等を使用することができる。
【0039】
他の補強材としては、例えば、テキサリウム(ホワイトカーボン)、炭酸カルシウム(白艶華)、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アルミナ、タルク、酸化チタン、クレー、酸化カルシウム、酸化亜鉛(亜鉛華)等が用いられる。
【0040】
また、ウレタン系電着材料には、着色料を含有させることができ、これによりマスキングウレタン系電着材料の剥離の際に、視認性が良くなるので剥離工程が容易になる。着色料は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン、亜鉛華、鉛白、鉛丹、亜酸化銅、黄色酸化鉄、鉄黒、カドミウムイエロー、モリブデンレッド、銀朱、黄鉛、酸化クロム、紺青、ベンガラ等の無機顔料;チオインジゴレッド、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド、キノフタロイエロー、縮合アゾイエロー、群青等の有機顔料等の着色料を使用することができる。
【0041】
プローブピン先端部120は、例えばストレート状に尖頭加工された形状(直径が徐々に減少するテーパー形状)であるが、この形状に限定されることはなく、検査対象に応じて任意に加工することができ、例えば、尖頭加工された先端部の途中から先が、検査すべき集積回路ウエハ上の電極パッドに当接するようカギ形に曲折された形状を採用することも可能である。
【0042】
金属細線110の金属素材は、特に限定されるものではないが、高い導電性と高い弾性率を有する金属線が用いられる。一般に、該金属線として、材質が硬くて弾力性のあるベリリウム銅等の銅合金、タングステン、レニウムタングステン、鋼等が使用される。
【0043】
金属細線110は、ピッチの寸法に応じて、例えば20〜500μmの外径を有しており、長さ方向の真直度及び外径の真円度が高く、かつ長手方向での外径の均一性が高いことが好ましい。もっともこの形状に限定されるものではなく、プローブピン100は、断面形状が真円以外の異形断面形状を有するものであってもよい。真円以外の異形断面形状とは、例えば長丸(トラック形状)、楕円形、矩形等であり、他にも種々の形状を採択できる。そして、その異形断面形状を有するプローブピンは、プローブピン全長にわたって異形断面を有するものであってもよいし、部分的に異形断面を有するものであってもよい。部分的に異形断面を有するプローブピンとしては、例えばピン胴部が真円断面で先端部が異形断面のプローブピンがある。
【0044】
金属細線110の胴部に形成された電着被膜層130の樹脂成分は、特に限定されるものではなく、絶縁導体の用途に応じて好適な樹脂を選択することができ、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリエステルイミド樹脂等の水溶性塗料を用いることができる。絶縁導体に耐熱性が必要な場合、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂が好ましい。
【0045】
上記の水溶性塗料における樹脂成分の水に対する濃度は、特に限定されるものではなく、樹脂成分の種類や所望する加工特性等により、好適な濃度を選択する必要があるが、0.1重量%〜30重量%程度が好適である。例えばポリイミド樹脂を水分散してなる水溶性塗料の場合の樹脂成分の濃度は、0.1重量%〜20重量%であるのが好ましく、0.5重量%〜10重量%であるのがより好ましい。樹脂成分の濃度が0.1重量%未満であると、得られた絶縁被覆層のピンホール数が増加してしまい絶縁不良となってしまう傾向にあるため好ましくない。また樹脂成分の濃度が20重量%を超えると、均一な絶縁被覆層の形成が困難となる傾向にあるため好ましくない。
【0046】
上記の水溶性塗料には、電荷付与剤を添加しても良い。電荷付与剤としては、特には限定されず、従来公知のアニオン性またはカチオン性を付与する電荷付与剤を用いることができる。アニオン性を付与する電荷付与剤を使用した場合、導体が銀、銅、銅合金、メッキ品等は、電着工程で溶出する可能性があるため、いずれの金属種も溶出しないカチオン性を付与する電荷付与剤が好適である。カチオン性を付与する電荷付与剤としては、例えばアクリル酸またはメタクリル酸共重合体のアミノ誘導体やアクリル酸またはメタクリル酸共重合体のヒドロキシ誘導体を含有する電荷付与剤が挙げられる。例えばアクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリル酸N−ターシャリブチルアミノエチル、メタクリル酸モルホリノエチルが例示される。上記アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシ誘導体は、硬化剤(例えばブロック化イソシアネート)との架橋と、素材との密着性を付与するものであり、例えば2−ヒドロキシメチル、メタクリル酸2−ヒドロキシメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、2−アクリロイルオキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレートが例示される。
【0047】
水溶性塗料中の電荷付与剤の配合量は、特に限定されるものではないが、ポリイミド樹脂の場合、樹脂100重量部に対し、10重量部〜30重量部の電荷付与剤が配合されているのが好ましく、15重量部〜20重量部の電荷付与剤が配合されているのがより好ましい。電荷付与剤の配合量がポリイミド樹脂100重量部に対し10重量部未満であると、電着が充分に行われない傾向にあるため好ましくない。また電荷付与剤の配合量が30重量部を超えると、得られた絶縁被覆層の絶縁破壊電圧値が小さくなる傾向にあるため好ましくない。
【0048】
電着被膜層130の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば1.5μm〜50μm、好ましくは3μm〜30μmの均一な厚さの絶縁性に優れた薄膜である。
【0049】
次に、上述の実施形態に係るプローブピン100の製造方法を説明する。
【0050】
本実施形態に係るプローブピン100の製造方法は、金属細線110の非電着部(プローブピン先端部120や治具接続先端部140となる部分)をウレタン系電着材料にてマスキングするマスキング工程と、マスキング工程にてマスキングされた金属細線110の非電着部以外の外面に電着被膜を付着させる電着被膜付着工程と、マスキングされた非電着部からウレタン系電着材料を剥離するマスキング剥離工程と、を有する。
【0051】
マスキング工程では、ウレタン系電着材料の電着工程と、ウレタン系電着材料の乾燥・焼付け工程と、を有する。
【0052】
ウレタン系電着材料の電着工程では、例えば、ウレタン系電着材料で満たされた電着バス中に金属細線110の非電着部を浸漬させた状態で電圧を印加して、金属細線110の非電着部をウレタン系電着材料にて被覆する。
【0053】
印加する電圧は、特に限定されるものではないが、直流電圧で0.4V〜120Vであり、好ましくは直流電圧で4V〜80Vである。電着時間としては、通常、0.5秒〜100秒であり、好ましくは1秒〜30秒である。電着の際の温度としては、5℃〜40℃であるのが好ましく、10℃〜35℃であるのがより好ましい。
【0054】
ウレタン系電着材料の乾燥・焼付け工程では、上述したウレタン系電着材料の電着工程で金属細線110上に被覆したウレタン系電着材料を、例えば従来公知の乾燥装置及び焼付け炉等を用いて、乾燥し、焼付けを行う。乾燥の条件は、例えば、60℃〜100℃の温度で3分間〜20分間行うのが好ましく、80℃〜100℃の温度で5分間〜20分間行うのがより好ましい。
【0055】
焼付けの温度条件は、例えば、160℃〜240℃であり、好ましくは180℃以上220℃以下であり、更に好ましくは200℃である。焼付けの温度が160℃よりも小さいと、マスキングとしてのウレタン系電着材料がいわゆる生焼け状態となり、続いて行われる電着被膜付着工程にて、マスキングした非電着部に通電する可能性があるからである。一方、焼付けの温度が240℃よりも大きいと、金属細線110にウレタン系電着材料が強固に付着することにより、後に行われるマスキング剥離工程にて、ウレタン系電着材料を剥離しにくくなる可能性があるからである。また焼き付け時間は、例えば、8秒〜20秒であり、好ましくは10秒〜14秒間行うのが好ましい。焼付けの時間が少ないと電着被膜付着工程にて、マスキングした非電着部に通電する可能性があるからであり、一方、焼付けの時間が多いとマスキング剥離工程にて、ウレタン系電着材料を剥離しにくくなる可能性があるからである。
【0056】
マスキング工程において、非電着部をマスキングしたウレタン系電着材料の膜厚は、例えば1μm〜2μmであり、好ましくは1.2μm〜1.8μmである。ウレタン系電着材料の膜厚が1μmよりも薄いと、続いて行われる電着被膜付着工程にて、マスキングした非電着部に通電する可能性があるからである。一方、ウレタン系電着材料の膜厚が2μmよりも厚いと、後に行われるマスキング剥離工程にて、ウレタン系電着材料を剥離しにくくなる可能性があるからである。本実施形態では、電着により非電着部をマスキングするため、膜厚を均一に制御できるのみならず、非電着部に対して寸法精度良くマスキングを行うことができる。
【0057】
次に、電着被膜付着工程では、電着被膜材料の電着工程と、電着被膜材料の乾燥・焼付け工程と、を有する。
【0058】
電着被膜材料の電着工程では、例えば水溶性塗料で満たされた電着バス中に、非電着部がマスキングされた金属細線110を通過させる等して金属細線110を水溶性塗料中に浸漬させた状態で電圧を印加する。これにより、金属細線110に電着被膜材料が被覆される。しかし、マスキングされた非電着部はウレタン系電着材料にて被覆されているため通電しないので、マスキングされた非電着部には電着被膜材料は被覆されない。
【0059】
印加する電圧は、特に限定されるものではないが、直流電圧で0.5V〜200Vであり、好ましくは直流電圧で5V〜100Vである。電着時間としては、通常、0.5秒〜180秒であり、好ましくは1秒〜60秒である。電着の際の温度としては、5℃〜40℃であるのが好ましく、10℃〜35℃であるのがより好ましい。
【0060】
電着被膜材料の乾燥・焼付け工程では、上記電着被膜材料の電着工程で金属細線110上に塗装した水溶性塗料を、例えば従来公知の乾燥装置及び焼付け炉等を用いて、乾燥し、焼付けて、絶縁被覆層を形成する。乾燥の条件は、水溶性塗料の樹脂成分の種類にかかわらず、60℃〜100℃の温度で3分間〜20分間行うのが好ましく、80℃〜100℃の温度で5分間〜20分間行うのがより好ましい。
【0061】
また焼付けの温度条件は、水溶性塗料の樹脂成分の硬化温度に依存するため、使用する樹脂成分の種類に適した温度条件を選択する必要があり、100℃〜400℃程度が好適である。また焼き付け時間は10秒〜20分間行うのが好ましい。
【0062】
次に、マスキング剥離工程では、マスキングされた非電着部からウレタン系電着材料を剥離する。
【0063】
ウレタン系電着材料の剥離は、ウレタン系電着材料を適切に剥離できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、溶剤による浸漬又は拭き取り、加熱溶融、刃物付き機械で剥離する機械的剥離、エキシマレーザーや炭酸ガスレーザーを照射して剥離するレーザー剥離等によりウレタン系電着材料を剥離することができる。
【0064】
中でもウレタン系電着材料を剥離した後の剥離滓が発生しにくいため、特に溶剤による浸漬又は拭き取りが好ましい。ウレタン系電着材料を剥離させることができる溶剤としては、特に限定されるものではないが、例えばアセトン、トルエン、MEK、キシレン、ブチルアセテート、エチルアセテート、ブトキシメチルアセテート、MIBK、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルエトキシプロピオネート、酢酸nーアミル、サクサンiーアミル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン等を使用することができる。
【0065】
また、加熱溶融にてウレタン系電着材料を剥離する場合は、溶融温度は例えば140℃〜160℃であり、好ましくは150℃である。
【0066】
このようにして、マスキングされた非電着部からウレタン系電着材料を剥離することにより、本実施形態に係るプローブピン100を製造することができる。
【0067】
なお、上述の実施形態では絶縁導体の一例としてプローブピンを用いたが、本発明の範囲はこのような実施形態に限定されるものではなく、プローブピン以外の電子部品等についても適用される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
高密度実装の半導体素子や電子部品として使用できる。
【符号の説明】
【0069】
100:プローブピン
110:金属細線(導体)
120:プローブピン先端部
130:電着被膜層
140:治具接続先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体表面の非電着部をウレタン系電着材料にてコーティングしてマスキングするマスキング工程と、
前記マスキング工程にてマスキングされた前記非電着部以外の外面に電着被膜層を形成する電着被膜形成工程と、
前記マスキングされた非電着部から前記ウレタン系電着材料を剥離除去するマスキング剥離工程と、
を有することを特徴とする絶縁導体の製造方法。
【請求項2】
前記ウレタン系電着材料は、カチオン性ウレタンエマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項3】
前記電着被膜形成工程における電着被膜層の樹脂成分は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂の少なくともいずれか1種類を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項4】
前記マスキング工程において、前記非電着部をマスキングしたウレタン系電着材料の膜厚は、1μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項5】
前記マスキング工程において、前記非電着部をマスキングしたウレタン系電着材料を180℃以上220℃以下で焼付けすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項6】
前記マスキング剥離工程における前記ウレタン系電着材料の剥離除去は、溶剤によることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項7】
前記ウレタン系電着材料に、補強剤を含有させることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項8】
前記ウレタン系電着材料に、着色料を含有させることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の絶縁導体の製造方法。
【請求項9】
電着被膜層が形成される電着部と、電着被膜層のない非電着部とを表面に有してなり、
前記非電着部は、該非電着部にコーティングされたウレタン系電着材料が、電着部に対する電着被膜層が形成された後に剥離除去されて形成されている絶縁導体。
【請求項10】
前記電着被膜層の樹脂成分は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂の少なくともいずれか1種類を含むことを特徴とする請求項9に記載の絶縁導体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−129118(P2012−129118A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280891(P2010−280891)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】