説明

絶縁物の塗布装置及びその方法並びに電圧非直線抵抗体

【課題】被処理物に対し絶縁物を短時間で均一に塗布することにより作業効率を高めると共に材料歩留まりを向上させた絶縁物の塗布装置及び塗布方法並びに絶縁物の塗布装置を用いて製造することにより高品質な電圧非直線抵抗体を提供する。
【解決手段】被処理物である焼結体1を搬送する送り機構部3が設けられ、塗布処理位置7にある焼結体1に対向してスラリー噴霧部8が配置され、ここに焼結体1の長手方向に延びる噴霧口17が形成されている。また、スラリー噴霧部8には所定の圧力でスラリー21を送り出すスラリータンク19が接続されている。さらに、塗布処理位置7にある焼結体1を間に挟みスラリー噴霧部8と対向してスラリー噴霧部8近傍の空気を吸引する吸込部22が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に絶縁物のスラリーを噴霧する塗膜形成技術及び絶縁物の塗布処理を施して製造する電圧非直線抵抗体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電力系統では過電圧保護装置として電圧非直線抵抗体を用いている。電圧非直線抵抗体は、正常な電圧では略絶縁性能を示し、過電圧が印加されると比較的低抵抗となる特性を有しており、両端面に電極を有すると共に、側面に絶縁物からなる高抵抗層を設けている。
【0003】
このうち、高抵抗層はサージ吸収時に側面からのフラッシュ・オーバーを防止するためのものであって、抵抗体の信頼性を確保する上で重要な働きを担っている。高抵抗層は絶縁物のスラリーを噴霧して形成されており、エアスプレーガン等を備えたスプレー式の塗布装置が使用されている。
【0004】
すなわち、電圧非直線抵抗体の素材である焼結体を被処理物とし、その側面に高抵抗成分であるペースト状コーティングやガラスコーティングといった絶縁物のスラリーをスプレーにて吹き付けることにより塗布している。また、スラリーを焼結体の側面に塗布した後、乾燥処理及び焼付け処理を実施し、これら複数の処理を経て電圧非直線抵抗体に側面高抵抗層を形成する。
【0005】
なお、スプレーから噴射するスラリーで焼結体の側面絶縁塗布を行う場合、焼結体は通常ディスク状なので、複数個を縦方向に積み重ねて全体として円筒形状とし、その上で円筒形の中心軸を回転軸として回転させながら、円筒形側面に対し一括してスラリーを噴霧し、塗布処理の効率化を図っている。
【0006】
ところで、スプレーにより吹き付けられる絶縁物のスラリーは、無機材質を主成分としており、溶媒としては揮発油であるブチルカルビトール、エチルカルビトールや脂肪族高級アルコールであるイソプロピルアルコールやターピネオールなどが使われている。これに賦形材や結合材としてエチルセルロースやポリビニルアルコールを適量混合させてスラリーが作製されるのが一般的である。
【0007】
このように作製されたスラリーをスプレーにて噴霧する場合、スプレーの噴射口から放射状にスラリーが拡散する。このため、塗布を必要としない部分にもスラリーが付着することがある。したがって、スラリーが無駄に消費されてコストの増大を招いていた。そこで、経済性の向上を図るべく、被処理物の対象領域にのみスラリーを噴霧することが求められている。
【0008】
例えば、特許文献1記載の技術では、被処理物の手前にパターン穴を明けたボードを置き、スプレーから発射されたスラリーのうち、該パターン穴を通過したものだけが被処理物に届き、ボードに遮られて被処理物に達しなかったスラリーはチャンバーにより回収されてスラリーの供給タンクへとフィードバックするようになっている。
【0009】
このような従来の塗布技術によれば、被処理物の塗布面にだけスラリーを塗布することができ、塗布面に至らなかったスラリーが塗布を必要としない部分に付着することがなく、回収されて再利用可能である。これにより、貴重な塗布材料であるスラリーを無駄に消費することがなくなり、材料歩留まりが向上して優れた経済性を得ることができる。
【特許文献1】特許第2780037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、スラリー噴霧による絶縁物の塗布技術には、次のような課題があった。すなわち、スラリーの噴霧量を大きくすれば、作業時間は短くて済むが、塗膜厚さは不均一になる。そのため、塗膜厚さを均一化するにはスラリーの噴霧量を最適な量に調整しながら絶縁物を塗布していくことが望ましい。したがって、慎重な作業が求められることになり、作業時間が長期化する傾向にあった。
【0011】
また、スラリーの溶媒として揮発油や脂肪族高級アルコールを用いると、塗布したスラリーが自重により流れる、いわゆるボタ落ち現象が起きるおそれがある。そこで、ボタ落ち現象を防ぐために、所定の温度にて乾燥させ、油分を直ちに揮発させることが必要となっていた。この結果、乾燥工程にも時間が取られることになり、作業時間の長期化に拍車がかかっていた。
【0012】
さらに、スラリーの主成分である無機材質がPbO、ZrO、Bi、Sb等の重金属含有酸化物である場合、塗布作業の途中で酸化物の沈降が起きる。したがって、スラリーを常時撹拌しなくてはならず、たとえ塗布作業前にスラリー中のエアの脱気をしておいても、撹拌時にエアを巻きこむことになった。つまり、十分な脱気効果を長期間保持することが難しく、塗布面に多数の気孔が存在し易かった。被処理物が電圧非直線抵抗体である場合、高抵抗層に生じた気孔は放電耐量特性の低下を招くため、その発生を防ぐことが強く求められていた。
【0013】
また、上記特許文献1に記載の塗布方法では、未使用スラリーを回収することで材料歩留まりは良好となるものの、回収後のスラリーが変質することが問題となっていた。すなわち、回収したスラリーは時間が経過すると共に溶媒が蒸発していき、スラリーの粘性が高くなる。粘性の高いスラリーはスプレーからの噴霧量が減少し易く、塗布が不十分となるだけではなく、スプレー噴射口の目詰まりを引き起こして耐久性を低下させる要因となった。
【0014】
以上述べたように、従来技術においては、品質の安定したスラリーを無駄なく迅速に塗布して作業効率及び材料歩留まりを向上させること、さらには高抵抗層における気孔の発生を抑えて優れた放電耐量特性を有する電圧非直線抵抗体を製造することが課題となっていた。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために提案されたものであって、その目的は、被処理物に対し絶縁物を短時間で均一に塗布することにより作業効率を高めると共に材料歩留まりを向上させた絶縁物の塗布装置及び塗布方法並びに絶縁物の塗布装置を用いて製造することにより高品質な電圧非直線抵抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、被処理部に絶縁物のスラリーを噴霧するスラリー噴霧部を有し、前記スラリー噴霧部に対向して前記スラリーの噴霧による塗布作業を実施する塗布処理位置を設け、該塗布処理位置まで前記被処理物を搬送する搬送部を備えた絶縁物の塗布装置において、前記スラリー噴霧部に前記被処理物の長手方向に延びる噴霧口を形成し、前記スラリー噴霧部へ所定の圧力で前記スラリーを送り出すスラリー加圧部を設置し、前記塗布処理位置にある前記被処理物を間に挟み前記スラリー噴霧部と対向して、前記スラリー噴霧部近傍の空気を吸引する吸込部を設けたことを特徴とするものである。
【0017】
以上のような絶縁物の塗布装置では、被処理物に対しスラリー噴霧部からスラリーを噴霧する際、スラリー加圧部にてスラリーを加圧しつつ、被処理部の長手方向に延びる噴霧口からスラリーを噴射するので、被処理物に対し絶縁物を短時間で均一に塗布することができる。しかも、吸込部によってスラリー噴霧部近傍の空気を吸込むことで、被処理物から離れようとする空気の流れを、被処理物に近付けることができる。このため、スラリーを含有した空気が被処理物の近くを多量に流れることになり、スラリーが無駄なく被処理物に付着して、塗布作業の効率化を進めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被処理部の長手方向に延びる噴霧口を有するスラリー噴霧部と、スラリー噴霧部へスラリーを送り出すスラリー加圧部と、スプレー噴霧部近傍の空気を吸引する吸込部とを備えるといった簡単な構成により、品質の安定したスラリーを無駄なく且つ短時間で被処理部に塗布することが可能となり、作業効率及び材料歩留まりの向上を図ると同時に、この塗布装置により高抵抗層を塗布することで高抵抗層における気孔の発生を抑え、放電耐量特性に優れた電圧非直線抵抗体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(1)代表的な実施形態の構成
以下、本発明に係る代表的な実施形態について、図1〜図7を参照して具体的に説明する。図1は本実施形態に係る絶縁物の塗布装置全体の概略構成を示す平面図である。図2は図1のI−I線の断面図、図3は図1のII−II線の断面図、図4は本実施形態に係る送り機構部の斜視図、図5は本実施形態に係る噴霧口の図面であって上段が平面図、下段が側面断面図、図6は本実施形態に係る吸込部の平面図、図7は本実施形態の比較例として、吸込部を設置しない場合を示した平面図である。
【0020】
(1−1)全体構成
図1〜図3において、図中の符号1は被処理物である焼結体であって、焼結体1はディスク状の電子セラミックスからなる。また、図中の符号2は絶縁物のスラリーを噴霧して塗布する絶縁物の塗布装置である。なお、焼結体1は、塗布装置2に組み込まれた台座10上に、縦方向に複数個積み重ねられて並べられている(図2、図3参照)。
【0021】
(1−2)搬送部
塗布装置2には、装置の中央部に焼結体1の送り機構部3が設けられており、送り機構部3の両側にコンベア4、5が左右対称に配置されている。送り機構部3には、馬蹄形の保持部11aを対称に配置した腕部11が設けられている。腕部11は水平状態を保ったまま、直線的にスライド自在で、且つ回転自在に構成されている。コンベア4は塗布処理前の焼結体1を塗布装置本体2に搬入する搬入用、コンベア5は塗布処理後の焼結体1を塗布装置2から搬出する搬出用である。コンベア4、5による焼結体1の搬送方向は、図1では右方向である。
【0022】
これら送り機構部3、コンベア4、5にて焼結体1の搬送部が構成される。すなわち、コンベア4が焼結体1を基準位置6まで搬入し、送り機構部3が、基準位置6で焼結体1を受け取り、腕部11の保持部11aにて焼結体1を載せた台座10を保持しつつ、焼結体塗布処理位置7まで運ぶ。さらに、送り機構部3は、塗布処理終了後の焼結体1を塗布処理位置7から取出し位置9まで運び、コンベア5が焼結体1を取出し位置9から塗布装置2の外部へと搬出するようになっている。
【0023】
(1−3)スラリー噴霧部
塗布処理位置7にある焼結体1に対向してスラリー噴霧部8が配置されている。スラリー噴霧部8の先端部には焼結体1の長手方向に延びたスリット状の噴霧口17が形成されている(図5参照)。噴霧口17は、炭化珪素(SiC)及び窒化珪素(Si)の少なくとも一方を含むセラミックス材料から構成されている。さらに、図3に示すように、スラリー噴霧部8にはエア弁16が内蔵されている。また、スラリー噴霧部8には圧縮エア26が流れるエアーチューブ14が接続されており、このエアーチューブ14には電磁弁13が取り付けられている。
【0024】
(1−4)スラリー加圧部
図3に示すように、スラリー噴霧部8の下方にはスラリータンク19が設置されている。スラリータンク19にはスラリー21を収容するタンクであって、圧縮エア用チューブ20及びスラリー供給用チューブ15が接続されている。これらの部材はスラリー噴霧部8へ所定の圧力でスラリー21を送り出すスラリー加圧部を構成するものである。つまり、スラリータンク19内に圧縮エア用チューブ20から一定の圧縮エア26が送り込まれることで、タンク内部に所定の圧力が加えられ、スラリー供給用チューブ15によりスラリー噴霧部8に対しスラリー21を所定の圧力で送り込むようになっている。
【0025】
(1−5)回転部及び圧力センサ
ところで、塗布処理位置7には焼結体1を台座10ごと水平方向に回転させる回転部18が設置されている。また、図2及び図3に示すように、回転部18の上部には圧力センサ12が設けられている。圧力センサ12は、焼結体1を乗せた台座10が回転部18に乗ったことを検知するセンサであって、回転部18及びスラリー噴霧部8の動作を制御する制御盤(図示せず)に接続されている。
【0026】
制御盤(図示せず)は電磁弁13に電気的に接続されており、圧力センサ12から台座10の検知信号を入力すると、電磁弁13に所定の信号を送ってこれを開放させ、エアーチューブ14に圧縮エア26を流すようになっている。このとき、エア弁16が開いてスラリータンク19のスラリー供給用チューブ15からスラリー21を取り込み、噴霧口17からスラリー21を噴霧するようになっている。
【0027】
なお、所定の時間が経過すると、電磁弁13は自動的に閉じ、エア弁16も閉じて、スラリー噴霧部8によるスラリー21の噴霧が終了するようになっている。このときのスラリー21の噴霧継続時間は、図示しない制御盤により任意に制御できるようになっている。また、回転部18の回転速度や回転時間に関しても、制御盤により任意の制御が可能である。
【0028】
(1−6)吸込部
塗布処理位置7にある焼結体1を間に挟みスラリー噴霧部8と対向して、吸込部22が配置されている。すなわち、スラリー噴霧部8、塗布処理位置7にある焼結体1、吸込部22は同一直線上に配置される。吸込部22はフィルタ部23、ファン24及びダクト25から成り、ファン24を回転させることによりスラリー噴霧部8から噴射されたスラリー21含有の空気27(図6参照)を、フィルタ部23側へ吸引する部分である。なお、フィルタ部23の幅や長さは焼結体1のそれに応じた寸法に設定されている。
【0029】
(1−7)スラリー
ところで、スラリー21は次のようにして作製されている。まず、無機材質を主成分とした絶縁物としてPbO−SiO−B−ZnOから選ばれたガラスフリットを70wt%、フィラー材としてムライトを30wt%配合させる。
【0030】
また、3wt%に調整したカルボシキメチルセルロース水溶液を作製し、主成分に対し20wt%添加し、これらを混合することにより、スラリー21が作製される。その後、1〜2Pa・sになるように純水を加えて調整される。また、スラリー21中のエアを除去するために、真空脱気が施される。このようなスラリー21は、結合材及び分散材として水溶性セルロース系高分子を溶解させた水溶液を用いた点に特徴がある。
【0031】
(2)本実施形態の作業手順
続いて、以上の構成を有する塗布装置による焼結体1にスラリー21を塗布する作業を、その手順に沿って説明する。
【0032】
(2−1)搬入ステップ
まず、円柱形の電子セラミックスである焼結体1を台座10の上に縦方向に複数個積み重ねて並べ、これらを搬入用のコンベア4に乗せて、基準位置6まで運ぶ。焼結体1が基準位置6に到達すると、送り機構部3の腕11が基準位置6まで移動し、保持部11aで台座10をつかみ、水平状態を保持したまま、これを持ち上げて90度回転する。そして、送り機構部3は塗布処理位置7方向にスライド移動する(図1中では下方向)。
【0033】
(2−2)スラリー加圧ステップ
スラリータンク19では圧縮エア用チューブ20から送り込まれる圧縮エア26によって、スラリータンク19内部のスラリー21は所定の加圧状態にある。
【0034】
(2−3)塗布ステップ
台座10が塗布処理位置7に達して回転部18に乗ると、回転部18上部の圧力センサ12がこれを検知して、図示しない制御盤からの指令に基づいて回転部18は回転を始める。と同時に、制御盤は電磁弁13を開放するので圧縮エア26がエアーチューブ14を流れ、スラリー噴霧部8を満たす。これにより、スラリー噴霧部8に内蔵されたエア弁16が開く。
【0035】
したがって、所定の圧力が加えられているスラリータンク19からスラリー供給用チューブ15を介してスラリー噴霧部8にスラリー21が入り、噴霧口17から焼結体1の側面にスラリー21が噴霧される。このとき、噴霧口17は焼結体1の長手方向に延びているため、この方向に一括して均等にスラリー21が噴霧される。なお、回転部18が回転しているので、焼結体1の側面に順次スラリー21が噴霧されていく。
【0036】
(2−4)吸込ステップ
以上のような噴霧口17からのスラリー21噴霧と同時に、ファン24の回転によって焼結体1周囲のスラリー21含有の空気27をフィルタ部23側へ吸引する。つまり、吸込部22が空気27を吸込むことにより、焼結体1から離れようとする空気27は焼結体1側面に沿って流れるようになる。
【0037】
(2−5)搬出ステップ
所定時間の経過後、電磁弁13は自動的に閉じ、エア弁16も閉じて噴霧口17からのスラリー21の噴霧が終わる。スラリー噴霧部8によるスラリー21塗布が終了した後、腕部11の保持部11aは台座10を保持し水平状態を保持したまま90度回転して、送り機構部3は取出し位置9方向にスライド移動する(図1中では上方向)。
【0038】
そして、台座10が取出し位置9に達すると、送り機構部3は搬出用のコンベア5に台座10を乗せる。台座10を乗せたコンベア5は、塗布装置2から搬出する。上述の一連の動作を連続して実行することにより、塗布装置2によって、焼結体1に絶縁物のスラリー21を自動的に塗布することができる。
【0039】
(3)本実施形態の作用効果
以上のような本実施形態では、塗布処理位置7に搬送した焼結体1に対し、スラリー噴霧部8からスラリー21を噴霧するとき、スラリータンク19にて加圧しつつ、焼結体1の長手方向に延びる噴霧口17からスラリー21を送り出すことができる。通常、絶縁物のスラリー21の粘性が1から10Pa・sと大きく、一般的な方法である吸い上げ式では、コンスタントに噴霧部8に送り出すことは難しいとされる。
【0040】
そこで、本実施形態では、スラリー21加圧用のスラリータンク19を設置し、圧縮エア用チューブ20から一定の圧縮エア26を送り込むことでタンク19内部のスラリー21を加圧し、スラリー噴霧部8に対するスラリー21の供給量を安定化されている。このように本実施形態においては、スラリー21を噴霧する噴霧口17と、スラリー21を加圧するスラリータンク21を組み合わせることによって、短時間で均一に焼結体1の側面に塗布することが可能となる。
【0041】
ちなみに、噴霧口17が焼結体1の長手方向に延びておらず、スラリー噴霧部8が焼結体1の積層方向に移動することでスラリー21を塗布する場合、本実施形態の2〜4倍の時間を要することを確認している。つまり本実施形態によれば、極めて迅速で品質の高い塗布処理が可能である。
【0042】
しかも、本実施形態では、送り機構部3の腕11が保持部11aが台座10をつかみ、水平状態を保持したまま、塗布処理位置7への焼結体1の搬入及び搬出を連続して行っている。このため、焼結体1をスピーディに搬送することができ、塗布作業時間を短縮化することが可能である。
【0043】
ところで、通常電子セラミックの塗布に使われる絶縁物のスラリー21は、エポキシ系、ポリイミド系からなる有機物やガラス系、酸化金属系、セラミック系からなる無機物があるが、特に無機物を扱う場合には材料そのものが重く、高硬度の材質が使われる場合が多い。したがって、これらの無機物を長期に渡って噴霧する場合、摩耗によって噴霧口17は損傷を受け易い。そこで、本実施形態は耐摩耗性の高いSiCやSiの材質で噴霧口17を作製することにより、高硬度の無機物による摩耗を防いでおり、優れた耐久性を発揮することができる。
【0044】
さらに本実施形態では、以上のような塗布作業中、吸込部22によってスラリー噴霧部8近傍のスラリー21含有の空気27を吸込むといった作業を同時に行っているので、図6に示すように、スラリー噴霧部8のスリット17から噴射されたスラリー21を含んだ空気27において、焼結体1から離れていこうとする流れを焼結体1近くに引き戻すことができる。
【0045】
本実施形態の比較例として、吸込部22を設置しない場合のスラリー21の含有空気27の流れを図7の平面図に示す。これら図6及び図7との対比から明らかなように、本実施形態によれば、噴霧口17が噴射したスラリー21の拡散を防止して、焼結体1の周囲に多量のスラリー21を存在させることができる。
【0046】
つまり、焼結体1周囲に存在する多量のスラリー21が焼結体1に付着するので、スラリー21が無駄になることがなく、材料歩留まりが大幅に向上する。しかも、吸込部22の幅や長さは焼結体1に合わせて大きすぎることが無いように設定してあるので、吸込部22によるスラリー21の含有空気27吸込みの効果を低下させることがなく、焼結体1にスラリー21を効率よく付着させることができる。
【0047】
(4)本実施形態により製造される電圧非直線抵抗体
次に、上記塗布装置2を用いてスラリー21を焼結体1に塗布して製造した電圧非直線抵抗体について説明する。図8に電圧非直線抵抗体30の断面を示す。電圧非直線抵抗体30は円柱形であって、焼結体1の側面部に高抵抗層28を形成し、焼結体1の上下面にアルミ電極29を設けたものである。
【0048】
上述した本実施形態に係る塗布装置2を用いて、電圧非直線抵抗体30を以下のように作製する。すなわち、φ60の焼結体1側面部にスラリー21を塗布し、続いて焼付け炉で約550℃にて焼付け処理を行うことで高抵抗層28を焼結体1側面部に施す。その後、両端部を研磨してその研磨面にアルミ溶射にてアルミ電極29を施し、電圧非直線抵抗体30を作製する。
【0049】
ここで、電圧非直線抵抗体30の特性を示すために、塗布するスラリーの異なる比較例を作成する。つまり、本実施形態に係る電圧非直線抵抗体30と、その比較例における電圧非直線抵抗体は、スラリーに用いる溶媒だけを変えて製造したものであって、抵抗体としての基本構成、寸法、焼付け温度等の製造条件は同一とする。
【0050】
比較例用のスラリーは次のようにして作製される。まず、無機材質を主成分とした絶縁物としてPbO−SiO−B−ZnOから選ばれたガラスフリットを70wt%、フィラー材としてムライトを30wt%配合させる。これらの主成分までは本実施形態に係るスラリー21と比較例のスラリーとは同様であり、両者の違いは溶媒にある。
【0051】
すなわち、本実施形態に係るスラリー21は上述したように、比較例3wt%に調整したカルボシキメチルセルロース水溶液を作製し、主成分に対し20wt%添加し、これらを混合させている。これに対して、比較例におけるスラリーは溶媒としてターピネオールを45.5wt%、賦形材としてエチルセルロースを主成分に対して3.5wt%添加し、60〜80℃に温めながらエチルセルロースを溶解させながら混合させていく。
【0052】
以上のようにして得られた比較例用のスラリーは、本実施形態に係るスラリー21と同様、真空脱気を施す。ただし、スラリーには沈降性があるため、撹拌しながら一般的な塗布装置にてφ60の焼結体1の側面部に塗布を行う。続いて、本実施形態に係るスラリー21と同じく、約550℃にて焼付け炉にて焼付けを行った後、両端面を研磨し、その研磨面にアルミ電極28を施して、比較例用の電圧非直線抵抗体を得る。
【0053】
続いて、本実施形態に係る電圧非直線抵抗体30と、その比較例における電圧非直線抵抗体に関して、両者の放電耐量特性を評価するために、2.5msの方形波による放電耐量試験を行った。電流値を1000Aから始め、3回通電し合格したときは1200→1400A→1600Aと電流を上げていき、限界耐量試験の比較を行った。試験個数はそれぞれ5個試験とした。比較結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
上記表1から明らかなように、本実施形態で作製した電圧非直線抵抗体30は、比較例に比べて放電耐量特性が向上している。放電耐量特性が向上した理由として、高抵抗層28に生じた気孔が本実施形態による製造方法では比較例に比べて少なくなっていることが挙げられる。
【0056】
実際、電圧非直線抵抗体30を切断して高抵抗層28の観察を実態顕微鏡にて観察したところ、側面の気孔分布は本実施形態による電圧非直線抵抗体30の方が比較例のそれよりも少なくなっていることを確認している。本実施形態で作製した電圧非直線抵抗体30と比較例との相違点は、スラリー21における溶媒だけなので、カルボシキメチルセルロース水溶液等の水溶性セルロース系高分子を溶解させた水溶液が、気孔の減少に有効であると言える。
【0057】
(5)他の実施形態
なお、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、電圧非直線抵抗体30の焼結体1側面に塗布されるスラリー21の成分等は適宜変更可能である。具体的には、上記の実施形態では3wt%に調整したカルボシキメチルセルロース水溶液を作製し、主成分に対し20wt%添加した例を示したが、水溶性セルロース系高分子水溶液を1〜5wt%の濃度にする方がより望ましい。
【0058】
これは水溶性セルロース系高分子水溶液の濃度が5wt%を超えると、粘性が大きくなりすぎ、絶縁物の主材と混合させる時、うまく混ぜることができないためである。また、水溶性セルロース系高分子水溶液の濃度が1wt%よりも低ければ、分散性能や塗布時の成膜能力が劣り、歩留まりが低下し、生産品として製造するには適さない。
【0059】
また、絶縁物の主成分に対して水溶性セルロース系高分子水溶液を5〜40wt%添加したスラリーであることがより望ましい。これは、該水溶液を40wt%以上添加するとスラリー中の有機物量が多くなり、これらが焼付け時にガスとして分解する際に絶縁層に気孔を発生させる要因となり、かえって耐量特性が低下するおそれがある。また、前記水溶液の添加量が5wt%よりも少ない場合には、分散性能や塗布時の成膜能力が劣るため、絶縁層が形成でき難くなる。
【0060】
さらに、上記本実施形態では、水溶性セルロース系高分子の一例としてカルボキシセルロースを示したが、ヒドロキシセルロース等その他の水溶性セルロース系高分子を用いても、本実施形態と同様の効果がある。また、スラリー噴霧部8の噴霧口17の形状や角度、幅や長さの寸法、さらには噴霧時間や噴霧量等は、被処理物に合わせて適宜変更可能である。さらに、回転部18の回転速度や回転時間等も選択可能である。
【0061】
またさらに、以上述べた実施形態では、スラリー噴霧部8にスリット状の噴霧口17を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、スリット状の噴霧口17に代えて、複数個の小穴を縦方向に一列に配列するようにした構成としても良い。なお、この場合の噴霧口は、小穴の大きさやその間隔、角度等は焼結体1の側面にスラリー21が均一に塗布されるように調節されていることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の代表的な実施形態の平面図。
【図2】図1のI−I線の断面図。
【図3】図1のII−II線の断面図。
【図4】本実施形態に係る送り機構部の斜視図。
【図5】本実施形態に係る噴霧口であって、上段が平面図、下段が側面断面図。
【図6】本実施形態に係る吸込部の平面図。
【図7】本実施形態の比較例として吸込部を設置しない場合を示した平面図。
【図8】本実施形態を用いて製造した電圧非直線抵抗体の断面図。
【符号の説明】
【0063】
1…焼結体
2…塗布装置
3…送り機構部
4、5…コンベア
6…基準位置
7…塗布処理位置
8…スラリー噴霧部
9…取出し位置
10…台座
11…腕部
11a…保持部
12…圧力センサ
13…電磁弁
14…エアーチューブ
15…スラリー供給用チューブ
16…エア弁
17…噴霧口
18…回転部
19…スラリータンク
20…圧縮エア用チューブ
21…スラリー
22…吸込部
23…フィルタ部
24…ファン
25…ダクト
26…圧縮エア
27…スラリーの含有空気
28…高抵抗層
29…アルミ電極
30…電圧非直線抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理部に絶縁物のスラリーを噴霧するスラリー噴霧部を有し、前記スラリー噴霧部に対向して前記スラリーの噴霧による塗布作業を実施する塗布処理位置を設け、該塗布処理位置まで前記被処理物を搬送する搬送部を備えた絶縁物の塗布装置において、
前記スラリー噴霧部に前記被処理物の長手方向に延びる噴霧口を形成し、
前記スラリー噴霧部へ所定の圧力で前記スラリーを送り出すスラリー加圧部を設置し、
前記塗布処理位置にある前記被処理物を間に挟み前記スラリー噴霧部と対向して、前記スラリー噴霧部近傍の空気を吸引する吸込部を設けたことを特徴とする絶縁物の塗布装置。
【請求項2】
前記塗布処理位置にある前記被処理物を回転させる回転部を設けたことを特徴とする請求項1記載の絶縁物の塗布装置。
【請求項3】
炭化珪素(SiC)及び窒化珪素(Si)の少なくとも一方を含むセラミックス材によって前記噴霧口を構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁物の塗布装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁物の塗布装置を用いた絶縁物の塗布方法であって、前記被処理物を前記塗布処理位置へと送り込む搬入ステップと、前記スラリーの塗布作業終了後の前記被処理物を前記塗布処理位置から取出す搬出ステップと、前記塗布処理位置にある前記被処理物に対し前記スラリー噴霧部により前記スラリーを噴霧する塗布ステップを含んだ絶縁物の塗布方法において、
前記スラリー噴霧部へ送り込む前記スラリーを所定の圧力で加圧するスラリー加圧ステップと、
前記スラリー噴霧部近傍の空気を吸引する吸込ステップを含むことを特徴とする絶縁物の塗布方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁物の塗布装置を用いて前記スラリーを側面に塗布した電圧非直線抵抗体であって、
前記スラリーは、絶縁物の主材として無機材質を主成分とし、溶媒として水、結合材及び分散材として水溶性セルロース系高分子を溶解させた水溶液を用いたスラリーであることを特徴とする電圧非直線抵抗体。
【請求項6】
前記スラリーは、前記結合材及び分散材として水溶性セルロース系高分子を溶解させた水溶液を1〜5wt%水溶液とし、前記主成分に対して該水溶液を5〜40wt%添加したスラリーであることを特徴とする請求項5記載の電圧非直線抵抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−173607(P2008−173607A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11418(P2007−11418)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】