説明

絶縁組成物及びそれを含有する絶縁シート

【課題】成形時の取り扱いが比較的容易で且つ銅等の金属との密着性が高く、高い熱伝導率を有する絶縁組成物を提供すること。
【解決手段】液晶性ポリマーと熱硬化性樹脂との混合物であり、液晶性ポリマーからなる液晶性ポリマー相と熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂相とが相分離し、液晶性ポリマー相が連続相を形成している絶縁組成物である。液晶性ポリマーは、安息香酸フェニル、ビフェニル、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン等の液晶骨格を含むことが好ましく、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性で且つ優れた熱伝導性を有する絶縁組成物及びそれを含有する絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化・小型化・軽量化に伴い、電子部品の高密度化が進んでいる。これにより電子部品内での発熱量が著しく増大しており、部品の信頼性・寿命低下の一因となっている。このように電子機器における熱問題は極めて重要な課題であり、その対策に用いられる放熱材料には更なる熱伝導性向上が求められている。放熱材料のうち、特に電気絶縁性が求められる分野で用いられる樹脂材料の熱伝導性向上策としては、熱伝導性の高い無機セラミックス等のフィラーを添加する手法が一般的である。これらの方法では添加量の制限から十分な熱伝導性を得ることが難しく、樹脂自体の熱伝導性の向上が求められている。このような観点から、樹脂材料で高い熱伝導率を達成するという課題は極めて重要なことであり、単一系有機絶縁組成物で高熱伝導率を達成する方法として、メソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂等を重合することにより、熱伝導性を向上させた絶縁組成物が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。この絶縁組成物は熱伝導性充填剤を配合しなくても0.4W/(m・K)以上の高い熱伝導率が得られることが特徴である。
【0003】
【特許文献1】特開平11−323162号公報
【特許文献2】国際公開第2002/094905号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されているメソゲン基のような液晶骨格を有する液晶性ポリマーは、一般的に硬く、融点が高いために、成形時の取り扱いが難しい上に、銅等の金属との密着性が十分に得られないという問題がある。
従って、本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、成形時の取り扱いが比較的容易で且つ銅等の金属との密着性が高く、高い熱伝導率を有する絶縁組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る絶縁組成物は、液晶性ポリマーと熱硬化性樹脂との混合物であり、液晶性ポリマーからなる液晶性ポリマー相と熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂相とが相分離し、液晶性ポリマー相が連続相を形成しているものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成形時の取り扱いが比較的容易で且つ銅等の金属との密着性が高く、組成物内の液晶構造の規則性を連続的に保持できるために、電気絶縁性を有し、高い熱伝導率を有する絶縁組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る絶縁組成物は、液晶性ポリマーと熱硬化性樹脂との混合物であって、液晶性ポリマーからなる液晶性ポリマー相と熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂相とが相分離し、液晶性ポリマー相が連続相を形成しているものである。言い換えれば、実施の形態1に係る絶縁組成物は、液晶性ポリマーが三次元的に連続した相に、熱硬化性樹脂が相分離した状態で存在しているものである。
【0008】
実施の形態1に用いられる熱硬化性樹脂としては、加熱すると三次元の網目状を形成するものであれば特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ゴム等を挙げることができる。熱硬化性樹脂は、上記したものを単独で使用してもよいし、複数種のものの混合物として使用してもよいし、或いはアロイのような複合材料として使用してもよい。上記した熱硬化性樹脂の中でも、絶縁性、接着性、加工性及び耐熱性が優れているという点で、エポキシ樹脂が好ましい。
【0009】
エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルーアミノフェノール系エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0010】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸等の脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド等の有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、及びその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0011】
実施の形態1に用いられる液晶性ポリマーは、その主鎖内或いは側鎖内に液晶骨格を含むものであり、液晶骨格としてはメソゲン基等の液晶性を示す官能基を指す。液晶骨格の具体例としては、安息香酸フェニル、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、ジアゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン及びこれらの誘導体が挙げられる。液晶性ポリマーの中でも、熱伝導性をより向上させる点で、安息香酸フェニル、ビフェニル、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの液晶骨格を含むものが好ましい。これらの液晶骨格は、液晶性ポリマーの主鎖内或いは側鎖内に1種だけ含まれていてもよいし、複数種が含まれていても構わない。なお、これら環状単位の末端は、例えば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。例えば、ポリイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、全芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0012】
上述した液晶性ポリマーの中でも、下記式(1)〜(6):
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1〜R8は、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、メチル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基であり、nは10〜2,000の整数を表す)で示される重合体が好ましい。
【0016】
実施の形態1に係る絶縁組成物は、液晶性ポリマーの連続相中に、熱硬化性樹脂が相分離した状態で存在する形態を有しており、硬化後もこの形態を維持するものである。液晶性ポリマーが連続相を形成する形態としては、熱硬化性樹脂が分散相を形成し、液晶性ポリマーが連続相を形成する形態、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーとがともに連続相を形成する形態等が挙げられる。絶縁組成物としては、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーとがともに連続相を形成する相構造が好ましい。また、液晶性ポリマーの連続相は、熱硬化性樹脂の硬化過程(絶縁組成物の成形過程)で形成されてもよい。
【0017】
液晶性ポリマー連続相が形成された絶縁組成物の製造方法としては、例えば、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーとが非相溶である場合には、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーとを加熱溶融して機械的に混合する方法、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーをともに溶解する溶剤に溶解させ機械的に混合した後、必要に応じて溶剤を除去する方法等を挙げることができる。熱硬化性樹脂及び液晶性ポリマーを溶解する溶剤としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキベンゼン等の芳香族炭化水素類、その他、アセトン、酢酸エチル、tert−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレンブリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ブチロニトリル、二硫化炭素、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が挙げられる。溶剤の使用量は、通常、溶剤で溶解させた熱硬化性樹脂及び液晶性ポリマーの合計量が3質量%〜50質量%となる量である。
【0018】
また、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーとが相溶である場合には、製造条件を変えることによって絶縁組成物の硬化物中に液晶性ポリマーの連続相を形成する。その製造条件は、用いる熱硬化性樹脂や液晶性ポリマーの組み合わせによって大きく変動し、また、同じ組み合わせであってもその配合量、硬化速度(成形温度や触媒量)等によっても変動するので、これら条件を考慮して適宜選定することができる。例えば、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーとが下限臨界共溶温度(LCST)型相図を示すときは、より高温で成形することによって絶縁組成物の硬化物中に液晶性ポリマーの連続相を形成することができる。また、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーが上限臨界共溶温度(UCST)型相図を示すときは、より低温で成形することによって絶縁組成物の硬化物中に液晶性ポリマーの連続相を形成することができる。また、熱硬化性樹脂と液晶性ポリマーとがLCST型及びUCST型相図を示すときは、成形温度を適宜選定することによって絶縁組成物の硬化物中に液晶性ポリマーの連続相を形成することができる。
【0019】
図1及び図2は、実施の形態1に係る絶縁組成物の硬化物の相形態を示す模式図である。図1は、熱硬化性樹脂1が分散相を形成し液晶性ポリマー2が連続相を形成した相形態であり、図2は、熱硬化性樹脂1と液晶性ポリマー2とがともに連続相を形成した相形態である。
【0020】
絶縁組成物中の液晶性ポリマーの含有量は、液晶性ポリマーの連続相を形成させ易いという点で、熱硬化性樹脂及び液晶性ポリマーの合計量に対して15質量%〜75質量%とすることが好ましく、成形時の取り扱い性をより向上させる点で、20質量%〜60質量%とすることが更に好ましい。
【0021】
このような液晶性ポリマーは、ある温度範囲において、メソゲン基が規則的に配列する液晶状態となる性質を有している。液晶状態の種類としては、ネマティック相、スメクティック相、コレステリック相等が挙げられる。これらの中でも、絶縁組成物における液晶性ポリマーの液晶状態としては、液晶骨格が一定方向に配向したスメクティック相及びネマティック相が好ましい。スメクティック相とは、液晶分子の長軸方向が一定の方向に向かって並んでおり、さらに液晶分子が層状に配置されている液晶状態を指す。また、ネマティック相とは、液晶分子の重心位置に秩序は無いが、その長軸方向が一定の方向に向かって並んでいる液晶状態を指す。このような液晶構造の規則性が高いほど熱伝導性が高くなる。
【0022】
このように、実施の形態1によれば、液晶性ポリマーからなる液晶性ポリマー相と熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂相とが相分離した状態で、液晶性ポリマーの連続相を形成したので、熱硬化性樹脂の成形性を保ちつつ、熱伝導率を大きく高めた高熱伝導性の絶縁組成物とするができる。
【0023】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る絶縁組成物は、実施の形態1の絶縁組成物における液晶性ポリマーが、液晶骨格を側鎖内に含むビニルモノマーから重合された重合体であることに特徴がある。
このようなビニルモノマーは、実施の形態1で挙げた液晶骨格を側鎖内に含むものである。液晶骨格は、ビニルモノマーの側鎖内に1種だけ含まれていてもよいし、複数種が含まれていても構わない。
実施の形態2に用いられるビニルモノマーから重合された重合体の主鎖を構成するモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジ(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせても構わない。これらのモノマーの中でも、得られる重合体の熱伝導性の点で、(メタ)アクリル系モノマー及び芳香族ビニル系モノマーが好ましい。
【0024】
また、実施の形態2に用いられる液晶骨格を側鎖内に含むビニルモノマーから重合された重合体は、その液晶骨格が、アルキル基、アルキルエーテル基、アルコシキ基、アルキルエステル基、シロキサン結合等を介して結合していてもよい。構造単位の繰り返し数は、液晶骨格の化学構造により適宜決定されるが、アルキル基の繰り返し単位は0〜20、好ましくは2〜12、アルキルエーテル基の繰り返し単位は0〜10、好ましくは1〜3である。
【0025】
実施の形態2に用いられる液晶骨格を側鎖内に含むビニルモノマーから重合された重合体は、側鎖の末端に熱硬化性樹脂と反応し得る反応性基、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、シクロヘキセン基、メタクリロイル基、シンナモイル基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物基等を有してもよい。
【0026】
上述した重合体の中でも、下記式(7)〜(14):
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、メチル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、シクロヘキセン環、メタクリロイル基、シンナモイル基、イソシアナート基又はジカルボン酸無水物基であり、mは10〜2,000の整数を表し、x及びyはそれぞれ2〜12の整数を表す。)で示される重合体が好ましい。
【0031】
上述した液晶骨格を側鎖内に含むビニルモノマーから重合された重合体は、分子量分布の値、即ち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が小さいという特徴も有する。分子量分布の値は、好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、更により好ましくは1.8以下であり、特に好ましくは1.6以下であり、特別に好ましくは1.4以下であり、最も好ましくは1.3以下である。本発明におけるGPC測定は、通常、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行う。数平均分子量等は、ポリスチレン換算で求めることができる。
【0032】
このようなビニルモノマーから重合された重合体は、ある温度範囲において、メソゲン基が規則的に配列する液晶状態となる性質を有している。ビニルモノマーから重合された重合体の液晶状態としては、側鎖の長軸が一定方向に配向したスメクティック相及びネマティック相が特に好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0033】
このように、実施の形態2によれば、液晶性ポリマーとして、液晶骨格を側鎖内に含むビニルモノマーから重合された重合体を用いたので、側鎖基間のパッキング性が良くなり、液晶構造の規則性がより高くなり、熱伝導率が極めて高い絶縁組成物とすることができる。
【0034】
実施の形態3.
本実施の形態3に係る絶縁組成物は、実施の形態1の絶縁組成物における液晶性ポリマーが、二種以上の重合体ブロックから構成されるブロック共重合体であることに特徴がある。
実施の形態3に用いられる重合体ブロックの主鎖を構成するモノマーとしては、実施の形態2で挙げたモノマーが挙げられる。それらのモノマーの中でも、得られるブロック共重合体の熱伝導性の点で、(メタ)アクリル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー及び共役ジエン系モノマーが好ましい。より具体的には、重合体ブロックの主鎖は、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0035】
また、重合体ブロックの主鎖に結合する側鎖内には、実施の形態1で挙げた液晶骨格が含まれることが好ましい。これらの液晶骨格は、側鎖内に1種だけ含まれていてもよいし、複数種が含まれていても構わない。これらの液晶骨格の中でも、成形性及び熱伝導性の点で、安息香酸フェニル、ビフェニル、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの液晶骨格が好ましい。この液晶骨格は、アルキル基、アルキルエーテル基、アルコシキ基、アルキルエステル基、シロキサン結合等を介して結合してもよい。構造単位の繰り返し数は、液晶骨格の化学構造により適宜決定されるが、アルキル基の繰り返し単位は0〜20、好ましくは2〜12、アルキルエーテル基の繰り返し単位は0〜10、好ましくは1〜3である。
【0036】
実施の形態3に用いられるブロック共重合体は、側鎖の末端に熱硬化性樹脂と反応し得る反応性基、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、シクロヘキセン基、メタクリロイル基、シンナモイル基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物基等を有してもよい。
【0037】
上述したブロック共重合体の中でも、下記式(15)〜(23):
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
(式中、bはブロック共重合体の意を示し、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、メチル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、シクロヘキセン環、メタクリロイル基、シンナモイル基、イソシアナート基又はジカルボン酸無水物基であり、m及びnはそれぞれ10〜2,000の整数を表し、x及びyはそれぞれ2〜12の整数を表す。)で示されるブロック共重合体が好ましい。
【0042】
上述したブロック共重合体は、分子量分布の値、即ち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が小さいという特徴も有する。分子量分布の値は、好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、より好ましくは1.8以下であり、特に好ましくは1.6以下であり、特別に好ましくは1.4以下であり、最も好ましくは1.3以下である。本発明におけるGPC測定は、通常、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行う。数平均分子量等は、ポリスチレン換算で求めることができる。
【0043】
このようなブロック共重合体は、ある温度範囲において、メソゲン基が規則的に配列する液晶状態となる性質を有している。液晶状態の種類としては、ネマティック相、スメクティック相、コレステリック相等が挙げられる。これらの中でも、絶縁組成物におけるブロック共重合体の液晶状態としては、側鎖の長軸が一定方向に配向したスメクティック相及びネマティック相が特に好ましいが、これらに限定されるものではない。スメクティック相とは、液晶分子の長軸方向が一定の方向に向かって並んでおり、さらに液晶分子が層状に配置されている液晶状態を指す。また、ネマティック相とは、液晶分子の重心位置に秩序は無いが、その長軸方向が一定の方向に向かって並んでいる液晶状態を指す。このような液晶構造の規則性が高いほど熱伝導性が高くなる。
【0044】
実施の形態3に用いられるブロック共重合体は、これを構成する重合体ブロックに対応する(メタ)アクリル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー及び共役ジエン系モノマーを公知の方法でブロック共重合することにより製造することができる。
【0045】
より具体的には、ブロック共重合体は、上述したモノマーを用いてリビングラジカル重合あるいはリビングアニオン重合により製造される。一般にラジカル重合は、重合速度が速く、ラジカル同士のカップリング反応等による停止反応が起こりやすいため制御が難しい。しかしリビングラジカル重合では、停止反応が起こり難く、分子量分布の狭い(質量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとした時のMw/Mnが1.1〜1.5程度)重合体が得られる。また、重合体の分子量はモノマーと開始剤の仕込み比によって自由にコントロールでき、更に第1のモノマーが消費された後に第2のモノマーを重合系に添加することでブロック共重合体を合成することができる。なお、リビング重合は狭義においては、末端が常に活性を持ちつづけて分子鎖が生長していく重合のことをいうが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にありながら生長していく擬リビング重合も含まれる。本発明における定義も後者である。
【0046】
リビングラジカル重合は近年様々なグループで積極的に研究がなされており、例えば、コバルトポルフィリン錯体を用いるもの、ニトロキシフリーラジカル等のようなラジカルキャッピング剤を用いるもの、有機ハロゲン化合物等を開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする「原子移動ラジカル重合」等が知られている。本発明のリビングラジカル重合は、上記方法のうちどれを使用するかは特に制限はないが、ニトロキシフリーラジカル等のようなラジカルキャッピング剤を用いる方法が絶縁性の点で好ましい。
【0047】
ラジカルキャッピング剤を用いるリビングラジカル重合法は、ラジカル発生剤とラジカルキャッピング剤を併用して重合する。ラジカル発生剤とラジカルキャッピング剤との反応生成物が重合開始剤となって付加重合性モノマーの重合が進行すると考えられる。両者の併用割合は特に限定されないが、ラジカル発生剤1モルに対してラジカルキャッピング剤を0.1〜10モル用いるのが好ましく、特に好ましくはラジカル発生剤1モルに対してラジカルキャッピング剤を1〜1.5モル、更に好ましくはラジカル発生剤1モルに対してラジカルキャッピング剤を1.1〜1.4モル用いるのが好適である。
【0048】
ラジカル発生剤としては、種々の化合物を用いることができるが、好ましくは、重合温度条件下で、ラジカルを発生しうるパーオキサイドが挙げられる。また、パーオキサイドの代わりに、ラジカル発生性アゾ化合物等もラジカル発生剤として用いることができる。ラジカル発生性アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0049】
実施の形態4.
本発明の実施の形態4に係る絶縁シートは、上記実施の形態1〜3の絶縁組成物と、熱伝導性充填剤とを含有するものである。
【0050】
実施の形態4に用いられる熱伝導性充填剤としては、特に限定されないが、例えば、ニッケル、すず、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、コバルト、インジウムやこれらの合金等の金属粒子、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、酸化インジウムすず(ITO)、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の金属酸化物粒子、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物粒子、炭化珪素、黒鉛、ダイヤモンド、非晶カーボン、カーボンブラック、炭素繊維等の炭素化合物粒子、石英、石英ガラス等のシリカ化合物粉類等が挙げられる。これらの中でも、絶縁性の点で、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド、石英、石英ガラス等が好ましい。
【0051】
熱伝導性充填剤の平均粒径は、0.1μm〜150μmであることが好ましく、3μm〜90μmであることが更に好ましい。熱伝導性充填剤の平均粒径が0.1μmより小さいと2次凝集のために熱伝導性充填剤の分散が困難になる場合があり、一方、150μmより大きくなると薄膜状のシート状に成形したときに表面荒れが発生しやすくなる。絶縁組成物(液晶性ポリマー及び熱硬化性樹脂の混合物)と熱伝導性充填剤との配合割合は、絶縁シート全体に対して、熱伝導性充填剤が、20体積%〜80体積%であることが好ましく、30体積%〜70体積%であることが更に好ましい。上記範囲内であれば、絶縁シート製造時の作業性が優れると共に、絶縁シートの熱伝導性をより向上させることができる。熱伝導性充填剤が20体積%未満であると、所望の熱伝導性を有する絶縁シートが得られないことがあり、一方、80体積%を超えると、絶縁シート製造時に、熱伝導性充填剤を絶縁組成物中に分散させることが困難となって、作業性や成形性に支障を生じることがある。
【0052】
また、熱伝導性充填剤と絶縁組成物との濡れ性の改善や、熱伝導性充填剤と絶縁組成物との界面の補強、熱伝導性充填剤の分散性の向上を目的として、熱伝導性充填剤にカップリング剤処理を施してもよい。このようなカップリング剤としては、例えば、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
カップリング剤の使用量は、熱硬化性樹脂やカップリング剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、一般的に、100質量部の熱硬化性樹脂に対して0.01質量部〜1質量部である。
【0054】
実施の形態4に係る絶縁シートは、熱伝導性充填剤が配合された絶縁組成物を配向基材上に塗工し、製膜することによって製造することができる。配向基材上への塗工は、特に制限されるものではなく、溶融法、溶液法のいずれを採用してもよいが、溶液法が好適である。溶液の塗工方法は、特に限定されるものではなく、バーコーター、マルチコーター、スピナー、ロールコーター等の適宜な塗工機にて行うことができるが、製膜された絶縁シート表面の品質の点で、キャスト法が好適である。
【0055】
溶液塗工において、熱伝導性充填剤が配合された絶縁組成物を溶剤等に溶解して塗工してもよい。溶剤としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキベンゼン等の芳香族炭化水素類、その他、アセトン、酢酸エチル、tert−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレンブリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ブチロニトリル、二硫化炭素、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が好ましい。溶剤の使用量は、通常、溶剤で溶解させた熱硬化性樹脂及び液晶性ポリマーの合計量が3質量%〜50質量%となる量である。
【0056】
絶縁シートの厚みは、20μm〜800μmであることが好ましく、30μm〜300μm以下であることが更に好ましい。絶縁シートの厚みが20μmより薄いと、部材間に挟着されたとき、挟着面の凹凸に対する追従性が不十分で、界面熱抵抗が上昇する恐れがあり、800μmを超えると、熱の伝達距離が長くなるため、熱抵抗が上昇する恐れがある。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
ここで得られた目的生成物の確認は、以下の方法により行った。
(1)ポリマーの基本単位の構造の確認
得られたポリマーを構成する基本単位の構造については、赤外線分光分析及びNMR分析のスペクトル解析をすることにより行った。
(2)分子量の測定
得られたポリマーをテトラハイドロフラン(THF)に溶解後、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を算出した。
(3)硬化物の高次構造の確認
得られる硬化物の高次構造については、偏光顕微鏡観察、及びX線回折、走査型電子顕微鏡観察、透過型電子顕微鏡観察の結果を解析することにより行った。
(4)成形性の評価
成形性については、得られた硬化物を目視観察し、下記基準に従って評価した。
○:ボイドがほとんど混入していない硬化物が得られた。
△:ボイドの混入が比較的少ない硬化物が得られた。
×:ボイドが多数混入した硬化物が得られた。
【0058】
[実施例1]
ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとを重合して、下記式(24)の液晶性ポリマーを得た。
【0059】
【化9】

【0060】
具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとの重合は、ビフェニル型エポキシ樹脂のエポキシ基とジアセトキシビフェニルのアセトキシ基が1対1で反応するものとして化学当量を配合し、硬化触媒にベンジルジメチルアミン(BDMA)を用いて180℃で1時間重合して液晶性ポリマーを得た。このポリマーをテトラハイドロフランに溶解させ、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析した結果、数平均分子量は約40,000であった。
この液晶性ポリマー55.7gを100℃に加温したビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコート828」(ジャパンエポキシレジン(株)社製)100gに加え均一に混合した。更にこの樹脂混合物を150℃に加熱し、ジメチルジフェニルメタン硬化剤(DDM)30gを加え、テフロン(登録商標)コーティングしたガラス板に挟み、150℃にて4時間+180℃にて4時間硬化して硬化物を作製した。液晶性ポリマーの配合量は、全質量に対して30質量%になるようにした。
この硬化物の偏光顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、エポキシ樹脂と液晶性ポリマーに基づく連続相構造が形成され、液晶性ポリマーが配向していることを確認した。
【0061】
[実施例2]
実施例1で得られた液晶性ポリマーの配合量が50質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、硬化物を作製した。
実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、液晶性ポリマーの液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0062】
[実施例3]
ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとを重合して、下記式(25)の液晶性ポリマーを得た。
【0063】
【化10】

【0064】
具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとの重合は、ビフェニル型エポキシ樹脂のエポキシ基に対するジアセトキシビフェニルのアセトキシ基が0.5となる組成比で配合し、硬化触媒にベンジルジメチルアミン(BDMA)を用いて180℃で4時間重合して液晶性ポリマーを得た。このポリマーをテトラハイドロフランに溶解させ、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析した結果、数平均分子量は約30,000であった。
この液晶性ポリマーを実施例1と同様に液晶性ポリマーの配合量が30質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、硬化物を作製した。
実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、液晶性ポリマーの液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0065】
[実施例4]
下記式(26)に示すビニルモノマーを用いてポリマーを得た。
【0066】
【化11】

【0067】
具体的には、式(26)で示されるビニルモノマー0.3g、2,2,5−トリメチル−3−(1−フェニルエトキシ)−4−フェニル−3−アザヘキサン3mg、無水酢酸2mgをジクロロベンゼン0.7mLに溶解させた後、凍結脱気を3回繰り返し、窒素下100℃にて36時間重合を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール30mlに投入し、再沈殿を行った。得られたポリマーをメチレンクロライド1mlに再溶解させ、メタノール30mlに投入することにより十分洗浄した。次に減圧下室温で24時間乾燥させることにより、繰り返し単位数60からなる目的とするポリマーを得た。
【0068】
得られたポリマーの赤外分光分析及び1H−NMR、13C−NMRによるスペクトル測定を行うことにより、式(26)で示されるモノマーのユニットを基本単位とするビニル重合体であることを確認した。このポリマーをテトラハイドロフランに溶解させ、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析した結果、数平均分子量は30,000であり、分子量分布は1.09であった。
このポリマーをメチルエチルケトン(MEK)溶剤に溶解し、25質量%の溶液を調製した。溶剤除去後のポリマーの配合量が30質量%になるように、この25質量%の溶液100gにエポキシ樹脂44.9gを加え均一に混合した。その後、減圧下で樹脂混合ワニスを徐々に昇温させて溶剤を除去した。溶剤を除去した樹脂混合物を150℃に加熱し、ジメチルジフェニルメタン硬化剤(DDM)13.5gを加え均一に混合する。この樹脂混合物を150℃にて4時間+180℃にて4時間硬化し、硬化物を得た。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、ビニル重合体の液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0069】
[実施例5]
式(26)で示されるビニルモノマーの代わりに、下記式(27)で示されるビニルモノマーを用いた以外は、実施例4と同様に重合を行い、ポリマーを得た。
【0070】
【化12】

【0071】
実施例4と同様に、得られたポリマーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、溶剤除去後のポリマーの配合量が30質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え均一に混合した。その後、減圧下で樹脂混合ワニスを徐々に昇温させて溶剤を除去した。樹脂混合物に更にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、エポキシ樹脂の硬化プロセスでビニル重合体の末端のビニル基の重合も行ない、ビニル重合体の架橋も行った。硬化物構造の確認をしたところ、ビニル重合体の液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0072】
[実施例6]
下記式(28)で示されるエステル型スチレンモノマーと、下記式(29)で示されるアクリレート誘導体モノマーとを用いてポリマー(ブロック共重合体)を得た。
【0073】
【化13】

【0074】
具体的には、式(29)で示されるモノマー0.3g、2,2,5−トリメチル−3−(1−フェニルエトキシ)−4−フェニル−3−アザヘキサン3mg、2,2,5−トリメチル−4−フェニル−3−アザヘキサン−3−ニトロキシド0.15mgをジクロロベンゼン0.7mlに溶解させた後、凍結脱気を3回繰り返し、窒素下100℃にて36時間重合を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール30mlに投入し、再沈殿を行った。得られたポリマーをメチレンクロライド1mlに再溶解させ、メタノール30mlに投入することにより十分洗浄した。次に減圧下室温で24時間乾燥させることによりマクロイニシエーター0.2gを得た。続いてマクロイニシエーター0.1gを、式(28)で示されるモノマー0.3g、無水酢酸2mgと共にジクロロベンゼン1mLに溶解させ、凍結脱気を3回繰り返すことにより酸素を除去した後、窒素下100℃にて36時間重合を行った後、マクロイニシエーターと同様の精製を行うことにより、式(29)で示されるモノマーを基本単位とするユニットの繰り返し単位数が60、式(28)で示されるモノマーを基本単位とするユニットの繰り返し単位数が60からなる目的とするブロック共重合体を得た。
【0075】
このポリマーの赤外分光分析及び1H−NMR、13C−NMRによるスペクトル測定を行うことにより、式(29)で示されるモノマーのユニットと式(28)で示されるモノマーのユニットとを基本単位とするブロック共重合体であることを確認した。このポリマーをテトラハイドロフランに溶解させ、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析した結果、数平均分子量は60,000であり、分子量分布は1.10であった。
【0076】
実施例4と同様に、得られたポリマーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、その後、溶剤除去後のポリマーの配合量が30質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、硬化物を作製した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、ブロック共重合体の液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0077】
[実施例7]
式(28)及び(29)で示されるモノマーの代わりに、下記式(30)で示されるエステル型スチレンモノマーと、下記式(31)で示されるエステル型アクリレートモノマーとを用いた以外は、実施例6と同様に重合を行い、ポリマー(ブロック共重合体)を得た。
【0078】
【化14】

【0079】
実施例4と同様に、得られたポリマーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、その後、溶剤除去後のポリマーの配合量が30質量%になるように、エポキシ樹脂、硬化剤を加え、硬化物を作製した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、ブロック共重合体の液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0080】
[実施例8]
下記式(32)で示されるモノマーと、下記式(33)で示されるモノマーとを用いてポリマー(ブロック共重合体)を得た。
【0081】
【化15】

【0082】
式(32)で示されるモノマー0.3g、2,2,5−トリメチル−3−(1−フェニルエトキシ)−4−フェニル−3−アザヘキサン3mg、無水酢酸2mgをジクロロベンゼン0.7mLに溶解させた後、凍結脱気を3回繰り返し、窒素下100℃にて36時間重合を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール30mlに投入し、再沈殿を行った。得られたポリマーをメチレンクロライド1mlに再溶解させ、メタノール30mlに投入することにより十分洗浄した。次に減圧下室温で24時間乾燥させることによりマクロイニシエーター0.2gを得た。続いてマクロイニシエーター0.1gを、式(33)で示されるモノマー0.3g、無水酢酸2mgと共にジクロロベンゼン1mLに溶解させ、凍結脱気を3回繰り返すことにより酸素を除去した後、窒素下100℃にて36時間重合を行った後、マクロイニシエーターと同様の精製を行うことにより、式(32)で示されるモノマーを基本単位とするユニットの繰り返し単位数が50、式(33)で示されるモノマーを基本単位とするユニットの繰り返し単位数が50からなる目的とするブロック共重合体を得た。
【0083】
このポリマーの赤外分光分析及び1H−NMR、13C−NMRによるスペクトル測定を行うことにより、式(32)で示されるモノマーのユニットと式(33)で示されるモノマーのユニットを基本単位とするブロック共重合体あることを確認した。このポリマーをテトラハイドロフランに溶解させ、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析した結果、数平均分子量は50,000であり、分子量分布は1.12であった。
実施例4と同様に、得られたポリマーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、その後、溶剤除去後のポリマーの配合量が30質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、硬化物を作製した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、ブロック共重合体の液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0084】
[実施例9]
実施例7で得られたポリマーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、溶剤除去後のポリマーの配合量が30質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、溶剤を除去した。樹脂混合物に更にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、エポキシ樹脂の硬化プロセスでブロック共重合体の末端のビニル基の重合も行ない、ブロック共重合体の架橋も行った。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、ブロック共重合体の液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0085】
[実施例10]
実施例1で得られた液晶性ポリマーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、25質量%の溶液を調製した。溶剤除去後の液晶性ポリマーの配合量が30質量%になるように、25質量%溶液100gにビスフェノールA型エポキシ樹脂44.9g、ジメチルジフェニルメタン硬化剤(DDM)13.5gを加え均一に混合した。熱伝導性充填剤としての窒化ホウ素粒子(電気化学工業社製、グレードSGP平均粒径18μm)の含有量が50容量%となるように157.6g混合した後、さらメチルエチルケトン(MEK)166gを加えた塗工溶液をマルチコーターでPETフィルムに塗工乾燥し、厚み100μmの熱伝導シートを得た。
【0086】
[比較例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100gを150℃に加熱し、ジメチルジフェニルメタン硬化剤(DDM)30gを加え均一混合した。その後、150℃にて4時間+180℃にて4時間硬化して硬化物を作製した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、液晶性に基づく配向構造は形成されていないことを確認した。
【0087】
[比較例2]
実施例5で得られたポリマーを180℃に加熱して硬化物を作製したが、得られた硬化物中には多数のボイドが混入した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、液晶性に基づく配向構造は形成されていないことを確認した。
【0088】
[比較例3]
実施例1で得られたポリマーの配合量が5質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、硬化物を作製した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認したところ、液晶性ポリマーがエポキシ樹脂に均一に相溶した均一硬化物を形成していた。そのため液晶性に基づく配向構造が形成されていないことを確認した。
【0089】
[比較例4]
実施例1で得られたポリマーの配合量が10質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、硬化物を作製した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認したところ、液晶性ポリマーの分散相がエポキシ樹脂マトリクス中に分散した海島構造を形成していた。液晶性ポリマーの分散相中において液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。
【0090】
[比較例5]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100g、ジメチルジフェニルメタン硬化剤(DDM)30gを加え均一に混合した。熱伝導性充填剤としての窒化ホウ素粒子(電気化学工業社製、グレードSGP平均粒径18μm)の含有量が50容量%となるように249g、更にメチルエチルケトン(MEK)376gを加えた塗工溶液をマルチコーターでPETフィルムに塗工乾燥し、厚み100μmの熱伝導シートを得た。
【0091】
実施例1〜10及び比較例1〜5において得られた硬化物及びシートについて、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(株式会社理学電機製LF/TCM−FA8510B)によって、各硬化物及びシートの厚み方向における熱拡散率及び比熱を測定し、さらに水中置換法により各硬化物及びシートの密度を測定した。得られた各測定値より各硬化物及びシートの厚さ方向における熱伝導率を算出した(熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度)。結果を表1及び2に示した。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
比較例3及び4の結果から明らかなように、液晶性ポリマーを添加しても硬化物中で液晶性ポリマーが連続相を形成しないと熱伝搬は熱硬化性樹脂相で失われ、硬化物として高い熱伝導は得られない。
実施例1及び2の結果から明らかなように、連続相を形成する液晶性ポリマーの配合量が増すと硬化物の熱伝導性は向上する。実施例1と実施例3との比較から分かるように、エポキシ樹脂中で連続相を形成している液晶性ポリマーとエポキシ樹脂マトリクスが化学結合すると硬化物の熱伝導は増加する。
また、実施例7と実施例9との比較から分かるように、エポキシ樹脂中で連続相を形成している液晶性ポリマーが架橋構造を形成すると硬化物の熱伝導は更に向上する。これは、架橋することにより液晶性ポリマーの高次配向が増すためと考えられる。
比較例2の結果から明らかなように、ビニル重合体単独であると液晶骨格の配向は起こりにくい。しかし、エポキシ樹脂中で相分離構造を形成するとエポキシ樹脂とビニル重合体の相界面を境にビニル重合体の液晶骨格の配向が進み、液晶性に基づく高い配向構造を示す硬化物を得ることができ、硬化物の熱伝導率は向上する。
実施例10と比較例5との比較から分かるように、エポキシ樹脂中に液晶性ポリマーが連続相を形成した硬化物に熱伝導性充填剤が導入されると絶縁シートの熱伝導性を大きく向上できることがわかる。
以上のことから、本発明の実施例の絶縁組成物は、硬化物の成形性が比較的容易で、且つ該絶縁組成物内の液晶構造の配向性を高めたことにより、極めて高い熱伝導率を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】絶縁組成物の硬化物中で液晶性ポリマーが連続相を形成し、熱硬化性樹脂が分散相を形成した形態を示す模式図である。
【図2】絶縁組成物の硬化物中で液晶性ポリマーが連続相を形成し、熱硬化性樹脂も連続相を形成した形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0096】
1 熱硬化性樹脂、2 液晶性ポリマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリマーと熱硬化性樹脂との混合物であり、前記液晶性ポリマーからなる液晶性ポリマー相と前記熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂相とが相分離し、前記液晶性ポリマー相が連続相を形成していることを特徴とする絶縁組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁組成物。
【請求項3】
前記液晶性ポリマーが、安息香酸フェニル、ビフェニル、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの液晶骨格を含むことを特徴とする請求項1に記載の絶縁組成物。
【請求項4】
前記液晶性ポリマーが、安息香酸フェニル、ビフェニル、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの液晶骨格を側鎖内に含むビニルモノマーから重合された重合体であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁組成物。
【請求項5】
前記液晶骨格を側鎖内に含むビニルモノマーから重合された重合体が、アルキル基、アルキルエーテル基、アルコキシ基及びアルキルエステル基からなる群から選択される少なくとも1つを側鎖内に含むことを特徴とする請求項4に記載の絶縁組成物。
【請求項6】
前記液晶性ポリマーが、二種以上の重合体ブロックから構成されるブロック共重合体であって、前記重合体ブロックの主鎖は、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリブタジエン、ポリイソプレン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであり、前記重合体ブロックの側鎖は、その一端が前記主鎖と結合され且つ安息香酸フェニル、ビフェニル、スチルベン、ジアゾベンゼン、ベンジリデンアニリン及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの液晶骨格を含むことを特徴とする請求項1に記載の絶縁組成物。
【請求項7】
前記重合体ブロックの側鎖は、アルキル基、アルキルエーテル基、アルコキシ基及びアルキルエステル基からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6に記載の絶縁組成物。
【請求項8】
前記液晶性ポリマーが、前記熱硬化性樹脂と反応し得る反応性基を側鎖の末端に有することを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載の絶縁組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の絶縁組成物と、熱伝導性充填剤とを含有することを特徴とする絶縁シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−18679(P2010−18679A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179258(P2008−179258)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】