説明

絶縁電線および絶縁電線の製造方法

【課題】 被覆層の表面の架橋阻害をなくすことができ、かつ電線同士の表面融着を防ぐことができる絶縁電線を提供し、さらに絶縁電線の製造装置から不活性ガス供給部を不要にできる絶縁電線の製造方法を提供する。
【解決手段】 絶縁電線10は、導体11の周りに絶縁材料からなる第1被覆層12を形成し、第1被覆層12の周りに絶縁材料からなる第2被覆層14を形成して、電子線照射した後、第2被覆層14を除去して形成されたものである。また、絶縁電線10は、第2被覆層14を構成する絶縁材料の熱変形温度を、第1被覆層12を構成する被覆層材料の熱変形温度より低くしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線及び絶縁電線の製造方法に関し、特に、電気自動車をはじめとする車両配線等、耐熱性が要求される環境下での使用に適した絶縁電線及び絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線は、導体を中央に配置し、この導体の周囲に樹脂等の被覆層を形成したものが一般的である。用途によっては、導体を被覆する被覆層のさらに周囲に、編組あるいは横巻きした外部導体(シールド層とも呼ばれる)を設けた絶縁電線も用いられる。
【0003】
近年、自動車の自動制御技術や電気自動車技術等の進歩に伴い、車両の電気配線用の高い耐熱性を有する絶縁電線の需要が高まってきている。絶縁電線に高い耐熱性を付与することで、電線の許容電流値を大きくすることができるとともに、中心導体を小さくし被覆層を薄くすることができるため電線自体を細径化することができる。その結果、自動車等の内部機器のコンパクト化及び軽量化を図ることができる。
絶縁電線の耐熱性を向上させる手段として、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂で被覆層を形成し、この被覆層に電子線照射することで、被覆層内部の樹脂を架橋させる技術が知られている。
【0004】
特許文献1は、塗膜形成部及び放射線照射部に加えて不活性ガス供給部を備えた装置を用いて、基材上に設けられた塗膜に電子線照射を行う方法を開示している。この方法は、不活性ガス供給部から、塗膜形成部及び放射線照射部に不活性ガスを供給して、塗膜形成部による塗膜の形成と、放射線照射部による塗膜の架橋、硬化処理を不活性雰囲気で実施するものである。
【特許文献1】特開2000−343022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、大気雰囲気中で電子線照射を行うと、空気中の酸素が被覆層の架橋阻害の要因になることが知られている。被覆層の架橋が阻害されると、被覆層の表層に未架橋部分が残り、高温環境下に絶縁電線を密集させておくと、絶縁電線同士の表面が融着してしまうことがある。
【0006】
特許文献1は、この被覆層の架橋阻害の対策として、塗膜形成及び電子線照射を不活性ガス雰囲気下で行っているが、この方法でも装置の劣化等に伴って酸素が入り込むことがあり、架橋阻害が起こる虞がある。
また、電子線の照射装置は他の紫外線照射装置等と比べて設備が大型であり、上記特許文献1のように塗膜形成部及び電子線照射部両方に不活性ガス供給部を設けようとすると、装置全体がさらに大型になり、高価なものになってしまう。
【0007】
本発明の目的は、高温環境下に置かれても電線同士の表面融着が発生しない絶縁電線、及びこのような絶縁電線を安価に提供できる絶縁電線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る絶縁電線は、導体に絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去したことを特徴としている。
【0009】
上記構成の絶縁電線によれば、第1被覆層の上に第2被覆層を形成して、電子線照射した後、第2被覆層を除去することにより、第1被覆層を大気、すなわち酸素から隔離した状態で電子線照射することができ、第1被覆層の架橋阻害をなくして、高温環境下における絶縁電線の表面融着を改善することができる。
【0010】
また、本発明に係る絶縁電線は、中心導体に絶縁層を形成し、前記絶縁層の周りに外部導体を配し、前記外部導体の周りに絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去したことを特徴としている。
上記構成の絶縁電線によれば、外部導体(シールド層)を有する場合も、第1被覆層の架橋阻害をなくして、高温環境下における絶縁電線の表面融着を改善することができる。
【0011】
本発明に係る絶縁電線は、前記第2被覆層が絶縁材料からなることが好ましい。
第2被覆層を絶縁材料で形成することにより、第2被覆層を押出成形等で形成し、形成した第2被覆層を破断により除去することができるので、第2被覆層の形成及び除去を容易に行うことができる。
【0012】
本発明に係る絶縁電線は、第2被覆層の絶縁材料の熱変形温度は、第1被覆層の絶縁材料の熱変形温度より低いことが好ましい。
第1被覆層及び第2被覆層を構成する絶縁材料の熱変形温度を上記のように設定することにより、第2被覆層を成形する際に第1被覆層が溶融しないので、第2被覆層を容易に除去することができる。
【0013】
本発明に係る絶縁電線は、前記第2被覆層の厚みが1mm以下であることが好ましい。
第2被覆層の厚みを薄くすることで、第1被覆層から第2被覆層を容易に除去することができる。
【0014】
本発明に係る絶縁電線は、第2被覆層の表面に、長手方向に沿って溝が設けられていることが好ましい。
長手方向に沿って設けられた溝によって、第2被覆層を容易に破断することが可能になり、第1被覆層から第2被覆層を容易に除去することができる。
【0015】
本発明に係る絶縁電線は、電子線照射後の第1被覆層と第2被覆層との密着力は、電子線照射後の第1被覆層とその下層との密着力より小さいことが好ましい。
密着力を上記のように設定することによって、第2被覆層のみを容易に除去できる。さらに、第2被覆層を除去する際に、第1被覆層とその下層の密着性を低下させる虞がなく、絶縁電線の加工性、誘電率への影響を回避できる。
【0016】
本発明に係る絶縁電線は、第1被覆層を構成する絶縁材料は、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
ポリエステル樹脂は耐熱性に優れるため、このポリエステル樹脂を第1被覆層の絶縁材料として用いると、絶縁電線の高耐熱性を確保する上で有利である。
【0017】
本発明に係る絶縁電線は、2本の絶縁電線を150℃の雰囲気中で、0.7kgfで1時間押し付けて、絶縁電線を引き離すときの力が、500gf以下であることが好ましい。
このような構成とすることで、高温時における絶縁電線同士の表面融着を抑制でき、絶縁電線同士を引き離した際に、絶縁部分の破損や引き剥がし跡等の外観異常が発生しない。
【0018】
本発明に係る絶縁電線は、導体に絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した絶縁電線であって、
前記第2被覆層の厚みが1mm以下であり、電子線照射後の第1被覆層と第2被覆層との密着力は、電子線照射後の第1被覆層とその下層との密着力より小さいことを特徴としている。
【0019】
第1被覆層の上に第2被覆層を形成して電子線照射するので、第1被覆層を大気、すなわち酸素から隔離した状態で電子線照射することができ、第1被覆層の架橋阻害の発生を防止できる。また、第2被覆層の厚みが1mm以下であり、電子線照射後の第1被覆層と第2被覆層との密着力は、電子線照射後の第1被覆層とその下層との密着力より小さいので、第2被覆層を容易に除去できる。よって、上記絶縁電線によれば、第2被覆層を除去することにより、高温環境下における絶縁電線の表面融着を改善された絶縁電線が得られる中間製品を得ることができる。
【0020】
本発明に係る絶縁電線は、中心導体に絶縁層を形成し、前記絶縁層の周りに外部導体を配し、前記外部導体の周りに絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した絶縁電線であって、
前記第2被覆層の厚みが1mm以下であり、電子線照射後の第1被覆層と第2被覆層との密着力は、電子線照射後の第1被覆層とその下層との密着力より小さいことを特徴としている。
上記絶縁電線によれば、第2被覆層を除去することにより、高温環境下における絶縁電線の表面融着を改善された絶縁電線が得られる中間製品を得ることができる。
【0021】
本発明に係る絶縁電線は、電子線照射を大気中で行うことが好ましい。
このような構成とすることで、電子線照射を行うエリアに不活性ガスを供給するための装置等を特別に設けることが不要になるので、絶縁電線を製造する装置が高価・大型にならずに済む。
【0022】
また、前述した目的を達成するために、本発明の絶縁電線の製造方法は、導体に絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去することを特徴としている。
【0023】
本発明に係る絶縁電線の製造方法によれば、第1被覆層の上に第2被覆層を形成し、電子線照射した後、第2被覆層を除去することで、第1被覆層を大気、すなわち酸素から隔離した状態で電子線照射することでき、第1被覆層の架橋阻害をなくして、高温環境下においても表面融着の発生しない絶縁電線を製造することができる。
また、このような絶縁電線の製造方法を用いることにより、絶縁電線を大気雰囲気下でも製造可能となり、電子線照射を行うエリアに不活性ガスを供給するための装置等が不要となるので、絶縁電線の製造装置が、特別に高価・大型になることはなく、絶縁電線を安価に製造できる。
【0024】
また、本発明に係る製造方法は、中心導体に絶縁層を形成し、前記絶縁層の周りに外部導体を配し、前記外部導体の周りに絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去することを特徴としている。
上記構成の製造方法によれば、外部導体(シールド層)を有する絶縁電線を製造する場合も、高温環境下においても表面融着の発生しない絶縁電線を安価に製造することができる。
【0025】
本発明に係る絶縁電線の製造方法は、第1被覆層の外周面に密着させて第2被覆層を形成することが好ましい。
このように製造することにより、電子線照射時に第1被覆層を酸素から確実に隔離することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の絶縁電線及び絶縁電線の製造方法によれば、第1被覆層の周りに第2被覆層を形成し、電子線照射した後、第2被覆層を除去するので、絶縁電線の表面融着を改善することができる。また、大気雰囲気下での製造が可能になり、特別に装置が高価・大型になることがなく、絶縁電線を安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る絶縁電線の第1実施形態を示す斜視図である。なお、この図では、ケーブルの構成を明確に示すために、ケーブルを構成する各部材を段階的に露呈させた状態を示している。
図2(A)〜(D)は、第1実施形態の絶縁電線を製造するための製造装置の一実施形態を示す概略図、図4(A)〜(C)は第1実施形態の絶縁電線の製造工程を説明する図である。
【0028】
図1(B)に示す第1実施形態に係る絶縁電線10は、導体11が中央に配置され、この導体11の周囲に絶縁材料からなる第1被覆層12が形成されている。
導体11は、導電性金属のユニット線材13を1本または複数本用いて構成されるものである。第1実施形態では、このユニット線材13を19本用いて、1本のユニット線材13の周囲に6本のユニット線材13が撚りあわせ、更にその周囲を12本のユニット線材13で撚られたものが用いられている。ユニット線材13は、図1(A)に示すように、例えば直径0.18mmの軟銅線13aを42本束ねたものであり、その直径は約1.35mmである。
【0029】
第1被覆層12は、例えば厚さ1.1mmで構成され、絶縁電線の外径は8.9mmである。
第1被覆層12を構成する絶縁材料としては、押出成形可能な樹脂を用いることが好ましく、ポリエステル樹脂、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)やEEA(エチレンエチルアクリレート)等のポリオレフィン樹脂を用いることがより好ましく、ポリエステル樹脂を用いることがさらに好ましい。第1被覆層12に耐熱性に優れたポリエステル樹脂を用いることで、絶縁電線10の高耐熱性を確保する上で有利である。
また、第1被覆層12は、電子線による照射が施されており、第1被覆層12中の絶縁材料は架橋され、網目状の三次元構造を形成していると考えられる。このため、絶縁電線10は、化学安定性及び力学的強度に優れ、高い耐熱性を有する。
【0030】
絶縁電線10は、2本の絶縁電線10を150℃の雰囲気中で、0.7kgfで1時間押し付けて、絶縁電線10を引き離すときの力が、500gf以下である。絶縁電線10を引き離すときの力が500gf以下と小さいので、高温時における絶縁電線同士の表面融着を抑制でき、絶縁電線同士を引き離した際に、絶縁部分の破損や引き剥がし跡等の外観異常の発生を防止できる。このような特性を有する絶縁電線10は、下記に述べる本実施形態に係る製造方法により製造することができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る絶縁電線10を好適に製造するための製造装置20について、図2(A)〜(D)に基づいて説明する。図2(A)〜(D)に示すように、製造装置20は、第1被覆装置21(図2(A))と、第2被覆装置22(図2(B))と、電子線照射装置56(図2(C))と、被剥装置23(図2(D))と、を備えている。
【0032】
第1被覆装置21は、導体11の周りを第1被覆層12で被覆した第1素材29を製造する装置である。
図2(A)に示すように、第1被覆装置21は、導体11を繰り出す第1巻出し部26と、第1被覆層12を押出成形する第1押出し機27と、第1押出し機27で形成した第1被覆層12を冷却する第1冷却装置28と、第1素材29を巻き取る第1巻取り部32と、を備えている。
【0033】
第2被覆装置22は、第1被覆装置21で製造した第1素材29をさらに第2被覆層14で被覆して、電子線を照射した第2素材37を製造する装置である。
図2(B)に示すように、第2被覆装置22は、第1素材29を繰り出す第2巻出し部34と、第2被覆層14を押出成形する第2押出し機35と、第2押出し機35で形成した第2被覆層14を冷却する第2冷却装置38と、第2素材37を巻き取る第2巻取り部42と、を備えている。
【0034】
電子線照射装置56は、第2被覆装置22で製造した第2素材37に電子線を照射する装置である。
図2(C)に示すように、電子線照射装置56は、第2素材37を繰り出す第3巻出し部43と、第2素材37に電子線を照射する電子線照射部36と、電子線照射した第2素材37を巻き取る第3巻取り部49と、を備えている。
【0035】
電子線照射部36には、真空中で電圧をかけて電子を加速させ、加速した電子を空気中などの常圧雰囲気中に取り出し、放射する電子線照射装置(図示せず)を備えている。第1被覆層12及び第2被覆層14に電子線を照射することにより、第1被覆層12及び第2被覆層14を構成する絶縁材料が架橋して、網目状の三次元構造を形成することができる。
【0036】
被剥装置23は、第2被覆装置22で製造した第2素材37から第2被覆層14を除去する装置である。
図2(D)に示すように、被剥装置23は、第2素材37を繰り出す第4巻出し部44と、第2素材37から第2被覆層14を除去する被剥部45と、絶縁電線10を巻き取る第4巻取り部47と、を備えている。
【0037】
ここで、被剥部45の概略図を図3に示す。図3に示すように、被剥部45は、一対の割ダイス54からなり、この一対の割ダイス54の中央には、貫通孔54Aが形成されている。また、一対の割ダイス54には、一対の刃55が設けられ、それぞれの刃55の刃先55Aが貫通孔54A内部に突出するように配置されている。
この貫通孔54Aに第2素材37(図2(D))を貫通させることで、第2被覆層14の表面に刃先55Aで切り線を入れ、第2被覆層14を上下に破断して剥離することができる。
【0038】
一方、被剥装置23(図2(D))は、第5巻取り部52を備えている。第5巻取り部52は、除去した第2被覆層14を案内する一対の送りローラ48と、第2被覆層14を巻き取る第2被覆層巻取りロール51とを備えている。
【0039】
次に、絶縁電線の製造装置20を用いて絶縁電線10を製造する方法を図2(A)〜(D)及び図4(A)〜(C)に基づいて説明する。
まず、所定の径に伸線された複数の軟銅線を撚り合わせて、導体11を形成し、巻出しロール25(図2(A))に巻き取る。
この導体11の周りに、図2(A)に示す第1被覆装置21を用いて、例えばポリエステル樹脂からなる第1被覆層12を押出被覆する。具体的には、導体11が巻き取られた巻出しロール25を第1巻出し部26にセットし、巻出しロール25を矢印A方向に回転させて導体11を繰り出す。繰り出された導体11を第1押出し機27に通すことによって、導体11の周りに第1被覆層12を押出被覆する。
【0040】
そして、第1被覆層12を第1冷却装置28で冷却し、第1素材29を第1巻取り/巻出しロール31に巻き取る。
このようにして製造された第1素材29は、図4(A)に示すように、導体11が第1被覆層12で被覆されたものである。この状態では、第1被覆層12は、冷却及び乾燥されたのみであり、樹脂は架橋化されていない。
【0041】
次に、図2(B)に示す第2被覆装置22を用いて、第1被覆層12の上に第2被覆層14を押出被覆する。
具体的には、第1素材29が巻き取られた第1巻取り/巻出しロール31を、第2巻出し部34にセットし、第1巻取り/巻出しロール31を矢印A方向に回転して1素材29を繰り出す。繰り出された第1素材29を第2押出し機35に通すことによって、第2被覆層14を押出被覆する。
【0042】
そして、第2被覆層を第2冷却装置38で冷却し、第2素材37を第2巻取り/巻出しロール41に巻き取る。
この第2素材37を図2(C)に示す電子線照射装置56を用いて電子線を照射する。具体的には、第2素材37が巻き取られた第2巻取り/巻出しロール41を、第3巻出し部43にセットし、第2巻取り/巻出しロール41を矢印A方向に回転して第2素材37を繰り出し、電子線照射部36まで搬送する。電子線照射部36において第2素材37に電子線照射し、これらの被覆層全体を架橋させ、硬化させる。そして、電子線照射した第2素材37を第3巻取り/巻出しロール57に巻き取る。
【0043】
このように製造された第2素材37は、図4(B)に示すように、第1被覆層12の外周面12Aに密着させた状態で第2被覆層14が形成されている。従って、第1被覆層12は大気、すなわち酸素から隔離した状態で電子線照射され、架橋されている。この第2素材37は、後述するように第2被覆層14を除去することで、高温環境下における絶縁電線の表面融着を改善された絶縁電線を容易に得ることのできる中間製品として使用することができる。
【0044】
ここで、第2被覆層14は0.2mm以上の厚みにすることが望ましい。第2被覆層14の厚みを0.2mm以上とすることにより、酸素を完全に遮断した状態で第1被覆層12を電子線照射できるとともに、第2被覆層14を形成する際に偏肉しても第1被覆層12が表面に露出することを防止できるので、酸素による架橋阻害を確実に抑制することができる。
また、第2被覆層14の厚みは1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。第2被覆層14の厚みを1mm以下とすることにより、後述する第2被覆層14の除去工程において、第1被覆層12から第2被覆層14を容易に除去できる。
【0045】
第2被覆層14は絶縁材料から形成されることが望ましい。第2被覆層14が例えば樹脂等の絶縁材料から形成されることで、第2被覆層を押出成形等の安価で容易な手段で形成することが可能となり、また、後述する第2被覆層の除去の際にも、破断等の手段により除去することができる
第2被覆層14を構成する絶縁材料としては、ポリエチレン樹脂、PVC樹脂、EVA樹脂、アイオノマー等を用いることができる。
【0046】
また、第2被覆層14を構成する絶縁材料の熱変形温度は、第1被覆層12を構成する絶縁材料の熱変形温度より低いことが好ましい。
このように第2被覆層14の熱変形温度を第1被覆層12の熱変変形温度より低くすることにより、第1被覆層12の周りに第2被覆層14を押出被覆する際に、第1被覆層12が溶融しないので、第1被覆層12と第2被覆層14との密着性を小さくすることができ、第2被覆層14の除去を容易にできる。
【0047】
さらに、電子線照射後の第1被覆層12と第2被覆層14との密着力は、電子線照射後の第1被覆層12とその下層である導体11との密着力より小さく設定されていることが好ましい。
第1被覆層12と第2被覆層14との密着力を、導体11と第1被覆層12との密着力より小さく設定することにより、第1被覆層12から第2被覆層14を除去する際に、導体11と第1被覆層12との密着性を低下させる虞がないので、絶縁電線10の誘電率の低下を防止できる。また、絶縁電線10を敷設する際や更に加工する際に第1被覆層12が導体11から脱離することがなく、絶縁電線10の作業性及び加工性に影響を与える虞がない。
なお、第1被覆層12と第2被覆層14との密着力、及び導体11と第1被覆層12との密着力は、第1被覆層12及び第2被覆層14を構成する材料の種類、添加剤等によって適宜調整できる。
【0048】
最後に、図2(D)に示す被剥装置23を用いて、第2被覆層14を除去する。
具体的には、第2素材37が巻き取られた第3巻取り/巻出しロール57を、第4巻出し部44にセットし、第3巻取り/巻出しロール57を矢印A方向に回転して第2素材37を繰り出す。繰り出された第2素材37を被剥部45まで搬送し、被剥部45において貫通孔54A(図3)を通過させることによって第2被覆層14を剥離し、除去する。
【0049】
第2被覆層14を除去することで、図4(C)に示す絶縁電線10が得られ、最後に絶縁電線10を製品巻取りロール46に巻き取る。
一方、剥離した第2被覆層14を、まとめて第2被覆層巻取りロール51に巻き取る。これにより、絶縁電線10を製造する工程が完了する。
【0050】
以上に説明したように、第1実施形態の絶縁電線10によれば、第1被覆層12の上に第2被覆層14を押出被覆し、電子線照射した後、第2被覆層14を除去することにより、第1被覆層12を大気、すなわち酸素から隔離した状態で電子線照射することができる。従って、絶縁電線10は、第1被覆層12の架橋阻害が発生せず、高温環境下に置いた場合にも絶縁電線同士の表面融着が発生しないため、良好な品質を維持することができる。
【0051】
さらに、上記第1実施形態に係る製造方法によれば、第1被覆層12を第2被覆層14で覆うため、第1被覆層12を大気、すなわち酸素から隔離することが可能になるので、不活性ガスを供給するための特別な装置を不要となる。よって、絶縁電線10の製造装置20が、特別に高価・大型にならずに済む。
【0052】
上記第1実施形態に係る絶縁電線10の製造工程では、第1被覆層12の形成と第2被覆層14の形成とを別々の製造ラインで行った形態を示したが、本発明は必ずしもこれに限定されずともよく、第2被覆装置22を第1被覆装置21の下流に配置して、第1被覆層12と第2被覆層14とを同一の製造ラインで形成することも可能である。
【0053】
また、本発明に係る絶縁電線の製造方法は、第1被覆層12と第2被覆層14の形成を別々の押出機で行わず、1つの押出し機を用いて行っても良い。すなわち、2層の樹脂層を同時に押出被覆できる押出機を用いて、第1被覆層12及び第2被覆層14を同時に押出被覆することによって形成してもよい。このように第1被覆層12及び第2被覆層14を同時に形成すると、第1被覆層12及び第2被覆層14を別工程で形成しないため、生産性の向上を図るとともに、低コスト化を図ることができる。
【0054】
本発明に係る絶縁電線においては、図4(B)に示す第2素材37の第2被覆層14の表面に、長手方向に沿って溝を設けることも可能である。例えば、図5(A)及び(B)に示すように、第2被覆層14の表面14Aに、長手方向に沿って、180°の間隔で一対の溝61を設けることができる。
このように第2被覆層14の表面に長手方向に沿って溝61を設けることで、図3に示す刃55を使用しなくても、第2被覆層14を溝61から破断して容易に分割することが可能になり、第2被覆層14を容易に除去できる。
【0055】
次に、本発明の絶縁電線に係る第2実施形態について、図6に基づいて説明する。なお、第2実施形態において第1実施形態と同一部材については同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
図6に示す第2実施形態に係る絶縁電線70は、中心導体74が中央に配置され、この中心導体74の周囲に絶縁層71が形成されている。絶縁層71の周囲には、外部導体72が設けられ、外部導体72の周囲に第1被覆層12が形成されている。
中心導体74は、導電性金属のユニット線材13を例えば7本用いて、1本のユニット線材13の周囲に6本のユニット線材13を撚りあわせたものである。
【0057】
絶縁層71には、例えば、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の樹脂が用いられ、好適には電子線架橋耐熱プラスチックを使用できる。
外部導体72は、導電性金属の細径線材(例えば軟銅線)を複数本用いて編組あるいは横巻きされて、絶縁層71の周囲を覆うように形成されている。本実施形態の外部導体72は、軟銅線が編組されたものである。
【0058】
第2実施形態の絶縁電線70は、第1実施形態と同様に、第1被覆層12の上に密着した状態で第2被覆層14を押出被覆して、電子線照射した後、第2被覆層14を剥離することによって製造される。
このように製造することにより、第2実施形態に係る絶縁電線70においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
第2実施形態においても、電子線照射後の第1被覆層12と第2被覆層14との密着力は、電子線照射後の第1被覆層12とその下層である外部導体72との密着力より小さいことが好ましい。このように密着力を設定することで、第2被覆層14のみを容易に除去することができ、第2被覆層14を除去する際の第1被覆層12と外部導体74との密着性の低下による、加工性、誘電率への影響を回避できる。
【0060】
また、第1実施形態の第2素材37と同様に、絶縁電線70の製造過程において、第1被覆層12の周りに第2被覆層14を備えた絶縁電線(図示せず)が形成される。この絶縁電線についても、第2被覆層14を除去することで、高温環境下における絶縁電線の表面融着を改善された絶縁電線を容易に得ることのできる中間製品として使用することができる。
【0061】
その他、前述した実施形態において例示した導体11,中心導体74,第1被覆層12,第2被覆層14,溝61,絶縁電線の製造装置20等の材質,形状,寸法,形態,数,配置個所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【実施例】
【0062】
上述の第1実施形態に係る絶縁電線10を実施例1、第2実施形態に係る絶縁電線70を実施例2とした。また、従来技術で説明した不活性ガスの雰囲気下で製造した絶縁電線を比較例として、実施例と比較例の評価を行った。
評価方法は、まず、サンプルの絶縁電線同士を一定荷重(0.7kgf)で接触させ、150℃の環境下の恒温槽に1時間放置した。恒温槽から取り出して空冷した後、引張試験機にて絶縁電線同士を引き離し、このときの引き剥がし力を測定した。また、絶縁電線表面の引き剥がし跡の有無を観察した。その結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
絶縁電線10,70は、第1被覆層12から第2被覆層14を引き離した際に、第1被覆層12の表面には引き剥がし跡が全く見られなかった。
すなわち、第1,第2実施形態の絶縁電線10,70によれば、第1被覆層12を酸素から隔離した状態で電子線照射を行うことで、絶縁電線12同士の表面融着を防止できたことがわかる。
なお、絶縁電線10の第1被覆層12から第2被覆層14を引き離すときの引き剥がし力は、10gfであった。絶縁電線70については、25gfであった。
【0065】
一方、比較例の絶縁電線は、第1被覆層から第2被覆層を引き離した際、第1被覆層の表面に、白っぽいスジ状の引き剥がし跡が見られた。
なお、比較例の場合、第1被覆層から第2被覆層を引き離すときの引き剥がし力は、550gfであった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る絶縁電線の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】(A)〜(D)は第1実施形態の絶縁電線の製造装置を示す概略図である。
【図3】図2(D)に示す被剥部45の概略図である。
【図4】(A)〜(C)は第1実施形態の絶縁電線の製造行程を説明する図である。
【図5】(A)は本発明に係る絶縁電線の第2実施形態を示す断面図、(B)は本発明に係る絶縁電線の第2実施形態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る絶縁電線の第3実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
10,70 絶縁電線
11,74 導体
12 第1被覆層
14 第2被覆層
37 第2素材(絶縁電線)
61 溝
71 絶縁層
72 外部導体
74 中心導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
中心導体に絶縁層を形成し、前記絶縁層の周りに外部導体を配し、前記外部導体の周りに絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
前記第2被覆層が絶縁材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記第2被覆層の絶縁材料の熱変形温度は、前記第1被覆層の絶縁材料の熱変形温度より低いことを特徴とする請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記第2被覆層の厚みが1mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記第2被覆層の表面に、長手方向に沿って溝が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
電子線照射後の第1被覆層と第2被覆層との密着力は、電子線照射後の第1被覆層とその下層との密着力より小さいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記第1被覆層を構成する絶縁材料は、ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
2本の絶縁電線を150℃の雰囲気中で、0.7kgfで1時間押し付け、前記絶縁電線同士を引き離すときの力が、500gf以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項10】
導体に絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した絶縁電線であって、
前記第2被覆層の厚みが1mm以下であり、電子線照射後の第1被覆層と第2被覆層との密着力は、電子線照射後の第1被覆層とその下層との密着力より小さいことを特徴とする絶縁電線。
【請求項11】
中心導体に絶縁層を形成し、前記絶縁層の周りに外部導体を配し、前記外部導体の周りに絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した絶縁電線であって、
前記第2被覆層の厚みが1mm以下であり、電子線照射後の第1被覆層と第2被覆層との密着力は、電子線照射後の第1被覆層とその下層との密着力より小さいことを特徴とする絶縁電線。
【請求項12】
前記電子線照射を大気中で行うことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項13】
導体に絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項14】
中心導体に絶縁層を形成し、前記絶縁層の周りに外部導体を配し、前記外部導体の周りに絶縁材料からなる第1被覆層を形成し、前記第1被覆層の周りに第2被覆層を形成して、電子線照射した後、前記第2被覆層を除去することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項15】
前記第1被覆層の外周面に密着させて前記第2被覆層を形成することを特徴とする請求項13または14に記載の絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−19147(P2006−19147A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196079(P2004−196079)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】