説明

絶縁電線被覆材

【課題】引張強度、耐熱性、低い誘電率、難燃性等にバランスよく優れ、かつ所望の伸び率を実現でき、しかも低コストで製造できる絶縁電線被覆材を提供する。
【解決手段】(A)下式(1)


(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
で示される構造単位を有するポリフェニレンエーテルと(B)エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム、および/またはエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴムを含有して成る絶縁電線被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器の小型化、薄肉化が 急速に進み、それに伴い、電気・電子機器内に使用される絶縁電線も導体の小径化、被覆材層の薄肉化が要求されている。このように被覆材層が薄肉化するとその層の温度が上昇するために、絶縁電線被覆材には耐熱性が要求される。さらに、導体内を流れる信号も高周波数となっているため、特に被覆材の誘電率が高い場合には絶縁電線からの漏れ電流が増加するという問題があり、被覆材には誘電率の低いものが求められる。また、絶縁電線被覆材には難燃性、成形加工性も要求される。
【0003】
そして、これらの要求を満たすべく、ポリフェニレンエーテルを含む絶縁電線被覆材が種々提案されている。その例として、ポリフェニレンエーテルに、スチレン系ブロック共重合体と難燃剤としての水和金属酸化物とを加えた組成物、ポリフェニレンエーテルにポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂と、難燃剤として有機リン酸エステル化合物および1,3,5−トリアジン誘導体とを加えた材料がそれぞれ絶縁電線被覆材として有用であることが知られている(特許文献1、2参照)。
また、特許文献3には、ポリフェニレンエーテルとポリフェニレンエーテルと反応性を有する官能基をもった共重合体が絶縁電線被覆材に有用であると記載されている。
特許文献4には、ポリオレフィン、ポリフェニレンエーテルおよびα―オレフィンと芳香族モノビニリデン化合物との擬似ランダムコポリマーからなる電線・ケーブル被覆材が記載されている。
特許文献5には、ポリフェニレンエーテル、オレフィン系エラストマー、スチレン・ブタジエンブロック共重合体などからなるワイヤ・ケーブル被覆材が記載されている。
特許文献6には、ポリフェニレンエーテル、ポリアリーレンスルフィイド、
エポキシ官能性のオレフィン系エラストマーおよびエラストマー性のブロック共重合体
からなる組成物が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平3−7755号公報
【特許文献2】特開平11−185532号公報
【特許文献3】特開2005−268082号公報
【特許文献4】特開平11−189685号公報
【特許文献5】特開2004−161929号公報
【特許文献6】特開平9−3279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし絶縁電線被覆材として、上記各文献記載の材料は、ポリフェニレンエーテルを用いてそれ以外の化合物成分を組合せているが、耐熱性、低い誘電率、難燃性、引張り特性、価格等のいずれかにつき未だ課題を残していた。特に、絶縁電線被覆材として耐熱性を維持して、かつ引張強度と伸び率を実現するという点でまだ満足できるものではなかった。
【0006】
本発明の目的は、引張強度、耐熱性、低い誘電率、難燃性等にバランスよく優れ、かつ所望の伸び率を実現でき、しかも低コストで製造できる絶縁電線被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリフェニレンエーテルと、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムおよび/またはエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴムとを特定の割合で配合してなる樹脂組成物が、耐熱性、低い誘電率、難燃性、引張り特性(引張強度と伸び率)等のバランスをとって、用途に合わせた所望の物性を示すものの調製を可能にし、しかも低コストであるので、上記の目的を満足する絶縁電線被覆材用として好適であることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(A)下式(1)
【0009】
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
で示される構造単位を有するポリフェニレンエーテルと(B)エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムおよび/またはエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴムからなる組成物が絶縁電線被覆材に適合するものであることを見出し、
本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁電線被覆材は、耐熱性、低い誘電率、難燃性、引張り特性(引張強度、伸び率)等のバランスが優れ、しかも低コストで提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の絶縁電線被覆材の(A)成分であるポリフェニレンエーテルは、前記式(1)の構造単位を有する重合体であり、式(1)の構造単位を2種以上有していてもよい。
【0012】
ここで、RおよびRは、それぞれ独立に水素又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素基を表す。
全炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等の全炭素数1〜20のアルキル基;フェニル基、4ーメチルフェニル基、1ーナフチル基、2ーナフチル基等の全炭素数6〜20のアリール基;ベンジル基、2ーフェニルエチル基、1ーフェニルエチル基等の全炭素数7〜20のアラルキル基;等が挙げられる。該炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、t−ブチルオキシ基等のアルコキシ基、3−ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基等が挙げられる。置換基を有する炭化水素基の具体例としては、例えば、トリフルオロメチル基、2−t−ブチルオキシエチル基、3−ジフェニルアミノプロピル基等が挙げられる。なお全炭素数には、置換基の炭素数は含まない。
【0013】
なかでも、R、Rは、水素、メチル基などであることが好ましく、とりわけ水素であることが好ましい。
【0014】
(A)成分のポリフェニレンエーテルは前記式(1)の構造単位を有する単独重合体であっても、前記式(1)以外に、(1)に対応するフェノール化合物以外のフェノール化合物である単量体から誘導される構造単位を有する共重合体であってもよい。このようなフェノール化合物としては、例えば、多価ヒドロキシ芳香族化合物(例えばビスフェノール−A,テトラブロモビスフェノール−A,レゾルシン、ハイドロキノン、ノボラック樹脂)が挙げられる。 かかる共重合体においては、式(1)の構造単位を80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。
【0015】
また本発明における(A)成分の固有粘度[η](25℃、クロロホルム溶液)は、0.30〜0.65の範囲が好ましく、0.35〜0.50がさらに好ましい。
[η]が0.30未満では、組成物の耐熱性が低下する傾向にあり、また、[η]が0.65を超えると組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0016】
(A)成分のポリフェニレンエーテルは、例えば、下記式(2)
【0017】
【化2】

(式中、RおよびRは前記と同じ意味を表す。)
で示されるフェノール化合物を酸化重合させて製造することができる。
【0018】
上記式(2)のフェノール化合物のみを原料として用いると、上記単独重合体を製造することができ、さらに、前記式(2)以外に、(2)以外のフェノール化合物を用いることにより、上記共重合体を製造することができる。
【0019】
酸化重合は、上記のようなフェノール化合物を酸化カップリング触媒を用い、酸化剤として例えば、酸素または酸素含有ガスを用いて行うことができる。酸化カップリング触媒は、特に限定されるものではなく、重合能を有するいかなる触媒でも使用しうる。例えば、その代表的なものとしては、塩化第一銅を含む触媒や二価のマンガン塩類を含む触媒が挙げられる(特開昭60−229923号公報)。
この(A)のポリフェニレンエーテルの製造は、特開昭60−229923号公報などを参照して行うことができる。
【0020】
本発明の絶縁電線被覆材を構成する樹脂組成物は、上記のような(A)成分のポリフェニレンエーテルの他の(B)成分は、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム、
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴムである。なかでもエチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムが好ましい。ここでいうα−オレフィンとしては、たとえばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどがあげられ、なかでもプロピレンが好ましい。エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムにおけるエチレン/α−オレフィンの比率(質量比)は、通常90/10〜10/90、好ましくは70/30〜20/80、より好ましくは60/40〜20/80である。
エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴムにおける非共役ジエンとしては、たとえば1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンなどがあげられる。
【0021】
(B)成分の共重合体ゴムは、100℃のムーニー粘度(ML1+4100℃)が10〜100のものが好ましく、更に好ましくは20〜70である。該ムーニー粘度が低すぎると樹脂組成物の機械的強度に劣ることがあり、一方該ムーニー粘度が過大であると樹脂組成物の成形加工性が損なわれることがある。
ここでいうムーニー粘度は、JIS K6300に準じて100℃ラージローターを用いて測定した値をいう。
エチレン及びα−オレフィン共重合体ゴムの製造方法は特開平4−216803号公報、特開2004−137387号公報などに記載れているように、公知のものであり、バナジウム化合物及び有機アルミニウム化合物からなるいわゆるチーグラー触媒を用いて、製造される。
このチーグラー触媒に用いられるバナジウム化合物は、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムの重合に不可欠の触媒成分である。通常、バナジウム化合物は不活性炭化水素溶媒に溶解して用いられ、四塩化バナジウム、四臭化バナジウム等のハロゲン化バナジウム化合物、オキシ三塩化バナジウム等のオキシハロゲン化バナジウム等がよく用いられる。
エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムは特開平2005−268082号公報などに記載されている、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の成分に使用されたエチレン−エポキシ共重合体などと比較すると安価なものである。
本発明の絶縁電線被覆材は(A)成分と(B)成分とを溶融混練して製造される。
この際用いられる原料の成分(B)の共重合体ゴムはペレット形状のものが好ましい。ペレット形状でないゴムは、例えばベール状のゴムは、あらかじめ細断してから押し出し機に供給しなければならず、好ましくない。
【0022】
本発明の絶縁電線被覆材を構成する樹脂組成物における、(A)成分と(B)成分との比は、(A)成分99〜1質量%、(B)成分が1〜99質量%であり、好ましくは、(A)成分98〜5質量%、(B)成分2〜95質量%である。(A)成分が99質量%を越すと該樹脂組成物の成形加工性が低下する。(A)成分が少なすぎると耐熱性などが著しく低下する傾向にある。
本発明の絶縁電線被覆材は、耐熱性、低誘電率が要求される分野には該樹脂組成物の(A)成分が連続相であり(B)成分を該連続相中の分散相とすることが好ましい。その場合には、組成物の製造方法にもよるが、(A)成分が99〜40重量%、(B)成分が1〜60重量%が好ましく、(A)成分が98〜45質量%、(B)成分が2〜55質量%がより好ましい。
(B)成分を分散相とするときは、その分散した(B)成分の粒径(長径)を好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下とする。この樹脂組成物については酸化ルテニウム染色法を適用して得られる該樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真から連続相、分散相を識別することができる。本発明において分散相(B)はミクロンオーダー(長径が約20μm以下のオーダーが一般的であるが20μmを越えるサイズのものを含んでいてもよい。)で分散する。
本発明における耐熱性、低誘電率が要求される分野での絶縁電線被覆材を構成する樹脂組成物の好ましい形態は、樹脂組成物の絶縁電線被覆材、または、押し出し機から押し出されて得られる樹脂ストランドにおける分散相である成分(B)の長径/短径の数平均値が>3が好ましく、5以上がより好ましい。成分(B)の長径/短径の数平均値が小さすぎると絶縁電線被覆材の伸び率が低下する場合がある。ここで、分散相の長径/短径の数平均値は上記透過型電子顕微鏡写真などから求めることができる。この分散相(分散物)は、楕円形、略円形、長楕円形(棹状と見えるものも含む)の他、不定形をとりうる。
【0023】
本発明において、(B)成分の個々のサイズ(長径でいう)、形状等は(A)成分と(B)成分の組成比などによって決まる。
【0024】
本発明の絶縁電線被覆材は、必要に応じて難燃剤を含有していてもよい。
難燃剤としては通常用いられている難燃剤を使用することができるが、例えば、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、窒素化グアニジン、ホウ酸亜鉛、五酸化アンチモン、
水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムの如き無機系難燃剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェートの如きリン酸エステル系難燃剤;トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェートの如き含ハロゲンリン酸エステル系難燃剤;ポリリン酸塩系難燃剤;赤リン系難燃剤、テトラブロモビスフェノール、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、テトラブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、エチレンビステトラブロモフタルイミドの如き臭素系難燃剤;塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン、クロレンド酸、テトラクロロ無水フタル酸の如き塩素系難燃剤;シアヌール酸メラミン、硫酸メラミン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、メラミンシアヌレートの如き窒素系難燃剤;シリコーン系難燃剤などを挙げることができる。
金属、ハロゲンを含有しない、スルファミン酸グアニジン、シアヌール酸メラミン、硫酸メラミンリン酸、リン酸グアニジン、メラミンシアヌレートなどの窒素系難燃剤、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムの如き無機系難燃剤などが燃焼時に有毒ガスが発生しない点で好ましく用いられる。なかでもシアヌール酸メラミン、硫酸メラミン、スルファミン酸グアニジン、メラミンシアヌレートなどがさらに好ましい。
この場合、または難燃材を使用しない場合、燃焼時に有毒ガスが発生しないことから絶縁電線の廃棄処理が容易になる。
【0025】
かかる難燃剤は単独、もしくは2種類以上使用することができる難燃剤の量は特に限定されるものではないが、(A)成分と(B)成分の混練時に両者の合計100重量部に対し、好ましくは0.1〜80重量部、より好ましくは0.1〜50重量部添加される。
本発明における絶縁電線被覆材には、さらに必要に応じて(D)成分として、ポリオレフィンを加えることができる。ここでいうポリオレフィンとしては、炭素数2〜20個からなるオレフィン、ジオレフィン等の単独重合体又は共重合体を使用できる。オレフィン、ジオレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ヘキサデセン−1、エイコセン−1、4−メチルペンテン−1、5−メチル−2−ペンテン−1等が例示される。かかるポリオレフィンの具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン/ヘキセン−1共重合体、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/ブテン−1共重合体などを挙げることができる。なかでも低密度ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。低密度ポリエチレンがさらに好ましい。
本発明においては、(D)成分のポリオレフィンは、(A)成分と(B)成分,および(C)成分の総和100重量部に対し、0.1〜40重量部加えることができる。
ポリオレフィンはエチレン−α−オレフィン系共重合体ゴムやエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴムより安価であり、絶縁電線被覆材にポリオレフィンを適用することで、絶縁電線被覆材としては、より安価で溶融時の樹脂の流動性が向上したものを見込める。
【0026】
本発明の絶縁電線被覆材は、また、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、無機または有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂などの離型改良剤などの各種の添加剤を含有していてもよい。
【0027】
本発明の絶縁電線被覆材を製造する方法としては周知の方法を用いることができるが、好ましいのは、溶融状態で各成分を混練(溶融混練)する方法である。 溶融混練により本発明の絶縁電線被覆材を得るには、一般に使用されている一軸または二軸の押出機、各種のニーダー等の混練装置を用いることができる。なかでも二軸の押出機が好ましい。
溶融混練に際しては、混練装置のシリンダー設定温度は、200〜340℃の範囲が好ましく、230〜320℃の範囲がさらに好ましい。
【0028】
溶融混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合した後、混練装置に供給してもよいし、各成分を混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法も用いることができる。
【0029】
本発明の絶縁電線は、導体に上記本発明の絶縁電線被覆材を被覆してなる。
【0030】
ここに、導体としては、銅、軟銅、ニッケルめっき軟銅、すずめっき軟銅、銀、アルミニウム、金、鉄、タングステン、モリブデン、クロムなど、周知の導体を使用することができる。導体は単線状、撚り線状でも使用できる。
【0031】
本発明においては、導体をポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリメチルメタクリレートのような汎用樹脂で薄くコートした上に本発明の絶縁電線被覆材を被覆することもできる。かかる汎用樹脂の中では、ポリエチレン、ポリプロピレンとともに、ポリエチレン、ポリプロピレンの架橋体などが好ましく用いられる。
また、本発明の絶縁電線被覆材の層のさらに外側に、樹脂からなる外層を被覆することができる。かかる外層の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンの如きポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネートの如き汎用エンジニアリングプラスチック、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドの如きスーパーエンジニアリングプラスチックなどのなかから目的に応じて選ぶことができる。
【0032】
本発明の絶縁電線の構造は特に限定されるものではなく、通常の絶縁電線に適用可能である。本発明においては、絶縁電線の導体、被覆材のいずれも、その厚み、径などは特に限定するものではなく、目的に応じてその厚み、径を変えることができる。電線中の導体は、単心であっても多心であってもよい。
本発明の絶縁電線の形状としては、例えば、電線・ケーブル、フラットケーブル、光ファイバーケーブル、ワイヤーハーネス、計測ケーブル、電子ワイヤー、などが挙げられる。
【0033】
本発明の絶縁電線を製造する方法は特に限定するものではなく、通常の方法で製造することができる。
例えば、本発明の絶縁電線被覆材の溶融体を押出し機から押し出して、該被覆材のシートをあらかじめ作成しておき、次に導体表面にかかるシートを巻きつけて被覆材層を形成することもできるが、好ましいのは、電線押し出し被覆装置を使用し、押出し機から前記溶融体を導体上に押出し被覆し材被覆層を形成する方法である。
【0034】
本発明の絶縁電線は、さらに熱処理することにより、耐熱性が向上する。かかる熱処理条件は特に限定するものではないが、被覆に用いた、被覆剤のガラス転移温度をTgとしたとき、[Tg−40]℃以上、[Tg+50℃]℃未満で行うことが好ましい。
【0035】
また、本発明の絶縁電線被覆材は、光ファイバー心線の被覆材としても有用である。光ファイバー心線の被覆材層は、本発明の絶縁被覆材の単層であっても、該被覆材を構成成分とする多層であっても良い。多層の場合、内側の被覆材層に本発明の絶縁被覆材を適用し、外側の被覆材層には、本発明の絶縁被覆材本を適用してもよいし、ポリオレフィン、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどの絶縁材料を適用してもよい。さらに、これら樹脂の発泡体や架橋体も外層に適用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0037】
(1)物性測定
(i)熱的性質(ガラス転移温度,Tg)
樹脂試験片を、短冊状に切り出し、JIS K−7191に準拠して、(株)リガク製ねTMAL/TMA8310SC型を使用し、窒素雰囲気下で、昇温速度5℃/min,荷重5kgf,測定温度範囲23〜250℃で測定を行った。
【0038】
(ii)引っ張り強度、伸び率
島津製作所(株)製オートグラフA−10TD型を使用して、JIS K−7161に準拠して、室温で、引っ張り速度5mm/minで引っ張り試験を行い、試料破断時の引っ張り強度、および伸び率を測定した。求めた。
【0039】
(iii)誘電率、誘電正接
安藤電気(株)製誘電体損自動測定装置を使用し、試験雰囲気23℃、50%RHで、 ASTM D150に準じて測定を行った。
【0040】
(iv)難燃性試験
樹脂試験片を127×13×3mmの短冊状に切り出した後、試料状態 23℃、50%RHで48時間調節し、垂直燃焼予備試験(UL94V)を行った。
難燃性のランクはV−0が最も難燃性に優れ、V−1がこれに次ぎ、HBが難燃性に最も劣ることを意味する。
【0041】
(2)絶縁電線被覆材
(A)成分
(A)成分として、三菱ガス化学(株)製、ポリフェニレンエーテル(商品名:PX−100F)([η]=0.4)を使用した。
(B)成分
(B)成分として、住友化学(株)製のペレット形状のエチレン−プロピレン共重合体ゴム、(商品名:エスプレンV0141)(エチレン/プロピレン=67/27 重量比、ML1+4(100℃)=52)を使用した。
(C)成分
(C)成分としては、日産化学(株)製、メラミンシアヌレート(商品名:MC6000)を使用した。
(D)成分
(D)成分としては住友化学(株)製低密度ポリエチレン(商品名:L718)(MFR=8g/min,密度=0.919g/cm)を使用した。
その他の成分
略称E−1:住友化学(株)製 ボンドファーストE(商品名)(エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12重量比、MFR(190℃)=3g/10min)
【0042】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。
【0043】
実施例1
上記(A)成分を、120℃で8時間乾燥した後、(A)成分/(B)成分=90/10(重量比)の割合で良く混合したのち、テクノベル(株)製二軸押出し機、TZW−15−30MG(スクリュー径 15mm,L/D=30)を使用し、シリンダー設定温度、シリンダー設定温度290℃、スクリュー回転数200rpmで、ベントで脱気しながら溶融混練を行なった。この際の樹脂押し出し量630g/hで、押し出し機から出た樹脂のストランドを冷却しながら巻き取った。ストランドは非常に平滑であり、その直径は約0.9mmであった。このようにして得られた組成物を以後aa−1と略称することがある。
aa−1のストランドの引っ張り試験を行ったところ、引張り強度530kg/cm伸び率240%であった。
aa−1のストランドの樹脂の流れ方向に平行な透過型電子顕微鏡像が得られるように、aa−1のストランドを酸化ルテニウムで染色後、ミクロトームを用いてその超薄切片を作成したのち透過型電子顕微鏡観察に供した。(その電子顕微鏡写真を図1に示した。写真中スケールバーは1μmを現す)染色されていない部分が(A)成分であり、幾分黒く染色され、長径が約3μm〜7μm程の細長い長楕円状に分散しているのが(B)成分である。これにより、(A)成分が連続相であり、(B)成分が分散相(平均粒径(長径)3.2μm)であることがわかった。
本図における成分(B)の透過型電子顕微鏡写真1視野での長径/短径の数平均値は>3であった。
【0044】
aa−1のストランドを、ペレタイザーでペレット化した後、プレス成形機を使用して、プレス設定温度270℃、余熱2分間,加圧20Kg/cmで2分間でプレス成形を行い、厚さ0.6mmのプレスシートを得た。該プレスシートの、周波数1KHzでの誘電率は2.6,誘電正接は0.0003であった。また、難燃性試験の結果はV−1であった。また、該プレスシートのTgは165℃であった。
【0045】
実施例2
上記(A)成分を、120℃で8時間乾燥した後、(A)成分/(B)成分/(C)成分=90/10/10(重量比)の割合で良く混合したのち、テクノベル(株)製二軸押出し機、TZW−15−30MG(スクリュー径 15mm,L/D=30)を使用し、シリンダー設定温度、シリンダー設定温度290℃、スクリュー回転数200rpmで、ベントで脱気しながら溶融混練を行なった。この際の樹脂押し出し量590g/hで、押し出し機から出た樹脂のストランドを冷却しながら巻き取った。ストランドは非常に平滑であり、その直径は約0.8mmであった。このようにして得られた組成物を以後aa−2と略称することがある。
aa−2のストランドの引っ張り試験を行ったところ、引張り強度430kg/cm伸び率150%であった。
aa−2のストランドに関し、実施例1と同様に透過型電子顕微鏡観察を行ったところ(A)成分が連続相、(B)成分が分散相(平均粒径(長径)4.1μm)であり、成分(B)の長径/短径の数平均値は>3であった。
aa−2を、ペレタイザーでペレット化した後、プレス成形機を使用して、プレス設定温度275℃、余熱2分間,加圧20Kg/cmで2分間でプレス成形を行い、厚さ0.6mmのプレスシートを得た。該プレスシートの、周波数1KHzでの誘電率は2.6,誘電正接は0.0004であった。また、難燃性試験の結果はV−0であった。また、該プレスシートのTgは166℃であった。
【0046】
実施例3
上記(A)成分を、120℃で8時間乾燥した後、(A)成分/(B)成分/(D)成分=90/7/3(重量比)の割合で良く混合したのち、テクノベル(株)製二軸押出し機、TZW−15−30MG(スクリュー径 15mm,L/D=30)を使用し、シリンダー設定温度、シリンダー設定温度290℃、スクリュー回転数200rpmで、ベントで脱気しながら溶融混練を行なった。この際の樹脂押し出し量1100g/hで、押し出し機から出た樹脂のストランドを冷却しながら巻き取った。ストランドの直径は約0.9mmであった。このようにして得られた組成物を以後aa−3と略称することがある。
aa−3のストランドの引っ張り試験を行ったところ、引張り強度570kg/cm伸び率180%であった。
aa−3のストランドに関し、実施例1と同様に透過型電子顕微鏡観察を行ったところ(A)成分が連続相、(B)成分が分散相(平均粒径(長径)2.6μm)であり、
成分(B)の長径/短径の数平均値は>3であった。
また、実施例1と同様にして作製したプレスシートの難燃性はV−1であった。
【0047】
比較例1
実施例2における成分(B)の代わりにE−1を用いた他は実施例2と同様にして混練を行い、直径0.9mmのストランドを得た。
得られたストランドの引張り強度は430 Kg/cm、伸び率は43%であった。
透過型電子顕微鏡観察における分散相E−1の長径/短径の数平均値は<3であった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1の透過型電子顕微鏡写真である。写真においては、(A)成分が連続相であり、樹脂の流れ方向に長楕円状に配列しているのが(B)成分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下式(1)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を有することもある全炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
で示される構造単位を有するポリフェニレンエーテルと(B)エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム、および/またはエチレン−α−オレフィン−非共役ジエン共重合体ゴムを含有して成る絶縁電線被覆材。
【請求項2】
(B)が、エチレン−プロピレン共重合体ゴムである請求項1記載の絶縁電線被覆材。
【請求項3】
共重合体ゴムが、100℃のムーニー粘度(ML1+4100℃)が10〜100で
あることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の絶縁電線被覆材。
【請求項4】
(A)成分が連続相を形成し、その中に(B)成分がミクロンオーダーで分散している請求項1記載の絶縁電線被覆材。
【請求項5】
さらに難燃剤(C)を配合して成る請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁電線被覆材。
【請求項6】
難燃剤(C)が窒素系難燃剤である請求項5記載の絶縁電線被覆材。
【請求項7】
さらにポリオレフィン(D)を配合して成る請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁電線被覆材。
【請求項8】
ポリオレフィンがポリエチレンである、請求項7に記載の絶縁電線被覆材。
【請求項9】
導体を請求項1〜8のいずれかに記載の絶縁電線被覆材で被覆してなることを特徴とする絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2008−198399(P2008−198399A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29801(P2007−29801)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】