説明

網膜剥離を治療するための組成物およびその製造方法

【課題】網膜剥離の治療に使用するための組成物を提供すること
【解決手段】本発明は、オイルと、このオイルの伸び粘性を高めることができる添加剤とを含む、網膜剥離の治療に使用するための組成物に関する。本発明はこの組成物を製造するための方法およびその製造部品のキットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜剥離の治療に使用するための組成物に関し、特にこの組成物は、オイルと、このオイルの伸び粘性を高めることができる添加物とを含む。
【0002】
網膜剥離とは、網膜の色素上皮から神経感覚網膜が分離することである。網膜剥離を治療しないと、その結果として永久的に視力が失われ、失明する。網膜剥離は網膜上のガラス体の収縮によって生じ、この収縮は眼の運動、例えばガラス体と網膜との間の相対運動によって動的に生じたり、または網膜の表面での膜の萎縮に起因して静的に生じたりする。網膜剥離は、近視、偽水晶体振動、外傷および糖尿病に関連しており、眼病を有する者において失明することになる一般的な経路となることが多い。
【0003】
網膜剥離が網膜の損傷(パーフォレーション、孔または裂傷とも称される)に関連する場合、流体がガラス体の空洞から網膜下の空間に到達する。このような形態の網膜剥離は、破裂性網膜剥離と称される。網膜の損傷部を閉じる有効な手段は2つしかない。まず第1の手段は、(米国特許第6,547,714号に記載されているように)強膜をつなぐために眼の外側を外植する方法である。第2の手段は、眼内タンポナーデを使用することである。眼内タンポナーデとは、網膜の損傷部を塞ぐためにガラス体の空洞に注入される薬剤のことであり、これらは水と混合せず、水と界面を形成する流体である。この流体は、ガス状の流体、例えば空気、六弗化イオウ(SF)またはペルフルオロプロパン(C)とすることができ、これらガスは希釈されていない状態で小容量だけ使用するか、または空気と混合して使用され、全体がガラス体の空洞を満たす。これら液体として、ペルフルオロカーボン液、半弗素化アルカンまたはアルケン、およびシリコーンオイルを含む。これらのうちで、シリコーンオイルだけが数週間以上、眼の内部で耐えることができる。他の液体のいずれかを長期間使用すると、炎症反応または組織的な変化によって実証されるような、網膜に対する毒性が生じる。
【0004】
これら治療方法は、成功し得るものであるが、何回もの治療を必要とすることが多く、常に網膜自身に対し、身体的な損傷を生じさせる恐れがある。更に、これら治療に関連する他の危険性、例えば感染、出血、眼の内部が高圧になったり、白内障が発生する可能性があるという危険があり、これら治療方法は2回目の手術を必要とすることが多い。
【0005】
網膜剥離はガラス体空間内に気泡を注入し、眼の壁に対して網膜の裂孔部を圧迫するのを助ける気体網膜復位方法によっても治療できる。この方法は、必要であればレーザー技術および凍結外科手術と組み合わせて使用することもできる。かかる手術に好ましいガスは、一般的にはペルフルオロプロパン(C)または六フッ化イオウ(SF)のいずれかであり、これらは無菌空気と混合されると、長時間にわたって眼の内部に残留する性質を有する。ロシア特許第RU2,235,527号公報は、この技術と組み合わせても使用できる多数の他のガスを開示している。このガスは、最終的に眼自体の自然の流体と置換されるが、最近では弗素をベースとする組成物の毒性に関心が持たれている。
【0006】
別の治療方法として、眼からガラス状ゲルのすべてまたは一部を摘出し、これをタンポナーデ剤、例えばペルフルオロカーボン液、シリコーンオイルまたは(上記と同様なガス状組成物を使用する)ガスに置換し、時間をかけて眼が自らの体液で満すことができるようにするガラス体切除術に関連する方法がある。この技術では、眼の壁内を小さく切開し、小さい切断装置によってガラス状ゲルを摘出する。ガラス状ゲルを摘出する際に、連続的な注入により、圧力を維持するのに塩溶液を使用する。次にこの溶液を注入空気と交換し、その後、空気とガスの混合物を注入する。この方法とは異なり、タンポナーデ剤としてペルフルオロカーボン液、半弗素化アルカンまたはアルケン、およびより一般的にはシリコーンオイルを注入する。このタンポナーデ剤は、界面張力および浮力により、網膜裂孔部を塞ぐ混和性流体である。従って、このタンポナーデ材料は、網膜裂孔部を閉じるようになっており、脈絡膜の下にある網膜がはがれないようにしている。
【0007】
何年もの間、タンポナーデ剤として1,000mPasのシリコーンオイルが臨床で使用されてきたが、しばらくすると、眼の内部でこのオイルは乳化する性質がある。この乳化は数多くの特殊な問題を生じさせる。第1に、乳化した粒が炎症反応など生物的な副作用を活性化させる。第2に、眼を流体で塞ぐことにより、水分などの流出が減少し、眼内圧が上昇したり、緑内障が生じ得る。第3に、眼の内部の流体の不透明化により視力が低下し、最後に乳化現象が網膜をタンポナーデできなくする。乳化の恐れを低減するために、多数の臨床医によって5,000mPasシリコーンオイルが好ましいとされている。
【0008】
このような乳化する傾向は、低分子量のシリコーンオイルの分子が存在することによって高まる。環状のシロキサンのような不純物もシリコーンを分散させる傾向に寄与し得る。シリコーンオイルの全体の分子量が低くなればなるほど、粘性がより低くなりシリコーンを分散させるのに、剪断力も小さくて済む。分散傾向を低減するこれまでの試みとして、いわゆる高純度のシリコーンオイルを製造し、低分子量の成分を除くことに傾注する試みがある。単一分子量のシリコーンオイルを求めたメーカーもあれば、他のメーカーは、医療製品の粘性および純度を高めることによって、この問題を解決しようとしたメーカーもある。多くの外科医の間では5,000mPasのオイルが望ましいとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このオイルの剪断粘性が高いと、タンポナーデ剤を眼に注入することが大幅に困難になり、その後、眼からこのオイルを除くことがより困難となる。高粘性のオイルは、小さい切開部を通して驚くほど高い圧力で眼に注入できるが、前記と同様にオイルを除去することができなくなる。吸引ポンプによって発生できる最大吸引力は、1気圧であり、この吸引の結果、流量は、極めて小さくなるので、シリコーンオイルの抽出には長時間かかることになる。このことにより、より大きい穴の器具とカニューレを使用するという妥協を図らなければならず、次にこのような器具の使用によって、眼を大きく切開しなければならない。かかる大きな切開は手術上好ましくない。このような大きな切開により眼が弱体化し、同時に損傷、例えば硝子体嵌頓または入口側付近に裂孔が生じる可能性が増す。オイルを一旦除去すると、平衡塩類溶液が拡大した切開部を通して、比較的妨害されることなく流出し得る。いずれの場合においても、最小限量の侵襲的手術で切開部を小さくすることが望ましい。
【0010】
本発明の目的は、従来の手術に関連した1つ以上の問題を解決し、特に網膜剥離の治療で効果的に使用できるタンポナーデ剤を提供することにある。更に本発明の目的は、乳化に対して抵抗力があり、すなわち実質的に乳化の発生を防止できるタンポナーデ剤を提供することにある。また、本発明の目的は、剪断粘性が比較的小さいユーザーフレンドリーな流体タンポナーデ剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、オイルと、このオイルの伸び粘性を高めることができる添加剤とを備えた、網膜剥離の治療に使用するための組成物が提供される。従って、この組成物は眼の後方部分内のガラス状のゲルの一部またはすべてと置換するのに使用でき、乳化物を形成する性質を有しないオイルを提供するものである。従って、(シリコーンオイルから誘導されるような)オイルに、現在臨床で一般的に使用されている粘性よりも低いか、または同様な粘性を有する添加物を添加できる。この結果得られる溶液は、(例えば5000mPasのシリコーンオイルと比較したとき)比較的低い剪断粘性を有し伸び粘性が大きいことに起因し、乳化に対して大きい抵抗力を有する。
【0012】
溶液の性質が単離アイソレートされた個々のポリマーのコイル部によって決定されるような高分子量の線状ポリマーの希釈溶液を検討すれば、伸び粘性を理解できよう。低い伸び率の溶液では、ポリマー鎖は粗い球状の構造となっており、伸び粘性は低い。しかしながら、より高い伸び率では、ポリマー鎖は巻き戻された状態にあり、伸び方向に直線状に細長く、加えられる伸び方向の流れに対する抵抗力を示す。臨界的な伸び流れ率では、ポリマー鎖は伸びた長いストリングとなるように巻き戻された状態となる。このことは、コイル−伸び遷移状態として知られており、この結果、加えられる伸びに対する抵抗力も大きく増加するので、伸び粘性が剪断流における効果的な粘性よりも大きくなることが多い。
【0013】
乳化のプロセスは、1つの液体のフィラメントから別の液体への引っ張りを生じさせる外力を受けた状態での、オイルと水の境界部の剪断の振動によるものと考えられる。その後、これらフィラメントは伸び時に細くなりスナップ運動し、その結果、衛星液滴が形成される。これら衛星状液滴は、存在する適当な乳化安定剤を受けて連続的な相となる。オイル相の伸び粘性を大きくすることにより、フィラメントの破壊が防止されるので、このような伸び粘性の増加は衛星状液滴の形成を阻害する。
【0014】
オイルは低粘性オイルおよび現在網膜剥離の治療手術に使用されているオイルとすることができる。このオイルは5000mPas未満の粘性を有することができ、このオイルの粘性は、3,000mPasまでであることが好ましく、オイルは2000mPasまでの粘性を有することがより好ましく、オイルは1000mPasの粘性を有することが最も好ましい。
【0015】
本発明に従って使用されるオイルは、網膜剥離の治療中に現在使用されているオイルとすることができる。当業者には、このオイルなる用語は、まだ開発すべきであるオイルを含むことが明らかである。このオイルはシリコーンオイル、ペルフルオロカーボンオイルまたは半弗素化アルカンオイルのうちの1つ以上から選択されたものであることが好ましい。このオイルは、デンシロン(Densiron)(登録商標)としてFluoron GmbH(ドイツ)から市販されているオイルのような、商業的に入手可能なペルフルオロカーボンオイルも含むことができる。
【0016】
添加剤は、高分子量を有し、オイルに可溶性があり/混和性があることが好ましい。この添加剤は、シリコーンオイル、ペルフルオロカーボンオイルまたは半弗素化アルカンオイルまたはそれらの混合物との可溶性/混和性があることがより好ましい。オイルの伸び粘性を高めるのに多数の添加剤が適すことは明らかとなろう。オイルの光学的特性を損なわない添加剤が最も望ましい。更に、高分子量の添加剤は、シリコーンタンポナーデオイルと混和性があるか、またはこのオイルに溶解できるものであることが好ましい。
【0017】
添加剤の分子量は、45,000より大きくてよく、添加剤の分子量は、49,000より大きいことが好ましく、添加剤の分子量は、45,000〜1,500,000の範囲となることが好ましい。
【0018】
添加剤はポリマーでもよく、グリースまたはオイル、例えばシリコーンオイルであることが好ましい。その他のオイル、例えば改質オイルも使用できる。更に、適当であるか、または必要である場合に、オイルに補助溶媒を加えてもよい。
【0019】
添加剤としてオイルを使用する場合、かかるオイルは、少なくとも5,000mPasの粘度を有することが好ましく、オイルの粘度は、10,000〜25,000,000mPasの範囲であり、30,000〜20,000,000mPasの範囲がより好ましく、50,000〜5,000,000mPasの範囲であることが更により好ましい。
【0020】
この添加剤は、必要であれば2つ以上の化合物の混合物とすることができる。例えば添加剤は10,000mPasの粘度を有するシリコーンオイルと、2,500,000の粘度を有するシリコーンオイルのような2つの高粘度シリコーンオイルの混合物とすることができる。
【0021】
当業者には、オイルの量に対する添加剤の量は、少なくとも添加剤およびオイルの分子量および/または粘性ではない多数の要素に応じて決まることが明らかとなろう。例えば少量の高分子量の添加剤は、より多い量の低分子量の添加剤と同じ、シリコーンオイルの伸び粘性の増加を生じさせ得る。組成物における添加剤の量は、添加剤がオイルの剪断粘性に悪影響を与えないよう、比較的少ないことが好ましい。できるだけ小さい切開部を通して眼に本組成物を挿入できるようにするには、オイルの剪断粘性を制御することが重要である。添加剤は、組成物のうちの0.05〜20%w/wの範囲の量存在することが好ましく、添加剤は0.05〜10%w/wの範囲の量存在することがより好ましく、添加剤は0.1〜5%w/wの範囲の量存在することが更により好ましい。
【0022】
本発明の別の特徴によれば、オイルとこのオイルの伸び粘性を高めることができる添加剤とを混合することを含む、網膜剥離の治療に使用するための組成物を製造する方法が提供される。この方法は、これまで上記したような組成物を製造するのに使用できる。
【0023】
本発明の更に別の特徴によれば、オイルとこのオイルの伸び粘性を高めることができる添加剤とを混合することを含む、網膜剥離の治療に使用するための組成物を製造するための部品のキットが提供される。この部品キットは、これまで上記したような組成物を製造するのに使用できる。
【0024】
この部品キットは、使用前に混合物を形成するよう、オイルと添加剤とを接触させる手段を更に含むことができる。したがって、このキットは使用前に組成物を調製できるよう、混合容器(または同様なもの)のような装置を提供できる。このキットは混合前にオイルと添加剤の所定量を測定する手段も更に含むことができ、このキットは使用前にいわゆる伸び粘性を有する組成物を個人が調製できるようにする。かかるキットは低粘性のシリコーンオイルを組み合わせて多数の異なる添加剤を使用できるようにもする。
【0025】
本発明の更に別の特徴によれば、低粘性のシリコーンオイルと、この低粘性シリコーンオイルの伸び粘性を高めることができる高粘性のシリコーンオイルとの混合物を含む、網膜剥離の治療に使用するための組成物も提供される。
【0026】
この低粘性のシリコーンオイルの粘度は、5,000mPas未満であることが好ましく、高粘性のシリコーンオイルの粘度は、5,000〜25,000,000の範囲であることが好ましく、ここで、高粘性のシリコーンオイルは組成物のうちの0.05〜20%w/wの範囲の量存在する。
【0027】
以下、次の実施例だけを参照し、例示により本発明についてより詳細に説明する。
【0028】
実施例1
シリコーンオイル内の乳化剤の生体外での形成を評価するための適当な方法を決定する実験を行った。次にこの方法を使って、より低い分子量のシリコーンオイルに、より高い分子量のシリコーンオイルを添加する効果を評価するための基礎研究の証明を行った。
【0029】
シリコーンオイルでの乳化のプロセスをシミュレートするために、乳化剤としてBASF社製のプルロニック(Pluronic)68(4%溶液)、すなわち酸化エチレンと酸化プロピレンのブロックコーポリマーを用いて、異なる粘性のオイルを処理した。同時に、これらオイルを3時間、(560rpmで)振とうした。乳化挙動を分析し、下記の表1にその結果を記載する。
【表1】

【0030】
表1の結果は、低剪断粘性(それぞれ3および1000mPasの)シリコーンオイルを用いると、その結果、(眼の内部で受ける剪断力をシミュレートするようになっている)撹拌後、乳化が生じることを明らかに示している。しかしながら、これよりも高い剪断粘性(5000〜100000mPas)のシリコーンオイルを用いた結果、撹拌後も乳化が生じなかった。従って、上記のように明らかとなった方法は、従来技術でも同様な結果が得られることが分かっているので、人の眼の内部で生じる条件をシミュレートするのに適す(ガラス状ゲルを交換するには、Siol 5000が望ましい)。
【0031】
次に、Siol 1,000のオイルに、より高い粘性のシリコーンオイルを添加することにより、異なる剪断粘性のシリコーンオイルの混合物の乳化を評価するための実験を行った。下記の表2は実験で得られた結果を示す。
【表2】

【0032】
表2の結果は、3000mPas以上の粘性を有するシリコーンオイルの混合物は、乳化を防止することを明らかに示している。
【0033】
比較的低い剪断粘性を維持しながら、低分子量のシリコーンオイルの伸び粘性を高めるために、少量の高分子量のシリコーンオイル(HMWS)を使用することを評価するための別の実験を行った。下記の表3にこの実験の結果を示す。
【表3】

【0034】
これら実験の結果は、3000mPasより高い剪断粘性を有するシリコーンオイルでは大幅な乳化はないことを示した。更に、2000mPasより低い粘性を有するシリコーンオイルでかなりの乳化が見られたが、少量の高分子量のシリコーンオイル(Siol100000)を添加した後、1030および1300mPasの粘性を有するシリコーンオイルでは、ほとんど乳化は見られなかった。
【0035】
実施例2
次に1000mPasのシリコンオイルと高分子量の添加物の混合物に基づく組成物の剪断粘性および伸び粘性を評価し、この組成物が乳化を呈するかどうかを判断するための実験を行った。乳化剤としてプルロニック(Pluronic)F68またはタンパク質乳化剤を使用した。乳化剤の代わりに比較剤として精製水も使用した。
【0036】
次のように、シリコーンオイル1000と高分子量のシリコーン添加剤の配合剤を調製した。ポリスチレン容器(ビビーステリリン社製)にシリコーンオイルを加え、その後、添加剤を加えた。周辺温度にて、72時間、ローラーミキサー(スチュアートサイエンティフィック社製、モデルSRT2)を使ってこの混合物を撹拌し、次にオーバーヘッド撹拌器を使って24時間(780,000MWの分子量シリコーン添加剤を含む配合剤の場合は48時間)、強く混合した。
【0037】
次に、5mlの底部が丸い、首の長いクィックフィットフラスコ内でサンプルを調製した。フラスコに0.8gの水または乳化剤(プルロニックF68またはタンパク質溶液)を添加し、その後、(フラスコの頂部の、約0.5cm以内までフラスコを満たすのに充分な量の)約7gのオイルと添加剤の配合剤を添加した。(気泡を抜くために)周辺温度にて24時間、フラスコを放置し、次に(例えば液体と空気の境界部が生じないよう)フラスコを液体で満たして、専用のガラスストッパーを用いてフラスコを注意深くシールした。
【0038】
すべての実験において、フルオロン社(ドイツ)製のシリコーンオイル1000を使用した。使用した高分子量シリコーン添加剤は次のとおりであった。フルオロケム社(英国)製のMW116,500−PS047.5;フルオロケム社製のMW308,00−PS049.5;フルオロケム社製のMW423,000−PS050;NEWI社(北ウェールズ)社製のMW780,000シリコーン−Putty。
【0039】
並列に実施した実験において、別個の乳化剤としてP−4417リン酸塩バッファ化塩水(シグマ社製造)のプルロニックF68(BASF社製)の4%溶液または凍結乾燥されたボビンアルブミンタンパク質(シグマ社製)の0.5%w/w溶液を使用した。乳化剤の代わりに比較剤として同様な実験で精製水を使用した。
【0040】
Heidoflph Multi REAXミキサーを使用してサンプルを混合した。まず最初に1時間の間、250rpmでサンプルを混合し、次にその直後、視覚的に評価し、更に周辺温度で1時間放置した後に視覚的に評価した。液滴の安定性を検査するために、液滴の形成/乳化を呈するサンプルを周辺温度で24時間放置した。混合速度を500、1000、1500および2000rpmに増しながら、この試験方法を繰り返した。液滴の形成/乳化が観察された最初の撹拌速度における結果を下記に示す。特定の速度で混合した速度のサンプルの状態も、下記の表に示す。
【0041】
TAインスツルメンツ社の高度レオメータAR500を使って25℃で剪断粘性を測定し、Haake社Caber 1 伸張レオメータを使って25℃で伸び粘性を測定した。
【0042】
乳化剤の代わりに水を用いて行った実験の結果を下記の表4に示す。
【表4】

【0043】
乳化剤としてプルロニックF68を用いて行った実験結果を下記の表5に示す。
【表5】

【0044】
乳化剤としてタンパク質乳化剤を用いて行った実験結果を下記の表6に示す。
【表6】

【0045】
高分子量のシリコーン添加剤を添加すると、液滴形成/乳化に対する、シリコーンオイル1000の抵抗力がかなり増すことは明らかである。
【0046】
これら実験は、高分子量の添加剤を使用すると、比較的低い粘性(1000mPas)を有するシリコーンオイルの伸び粘性を高めることができることを示している。添加剤は試験管内におけるシリコーンオイルの乳化を防止する。(シリコーンオイルのような)低粘性のオイルと、このオイルの伸び粘性を高める添加剤との混合物を使用すると、生体内における同様な機能も達成でき、この混合物は網膜剥離の治療に適すものとなる可能性が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルと、このオイルの伸び粘度を高めることができる添加剤とを含む、網膜剥離の治療に使用するための組成物。
【請求項2】
前記オイルは、低粘性オイルである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記オイルは、5,000mPas未満の粘度を有する、請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
前記オイルは、3,000mPasまでの粘度を有する、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記オイルは、シリコーンオイル、ペルフルオロカーボンオイルまたは半弗素化アルカンオイルのうちの1つ以上から選択されたものである、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記添加物は、高分子量を有する、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記添加物は、45,000よりも大きい分子量を有する、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記添加物は、オイル可溶性/混和性である、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記添加物は、ポリマーである、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記添加物は、オイルである、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記添加物は、シリコーンオイルである、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記添加物は、少なくとも5,000mPasの粘度を有する高粘性オイルである、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記添加物は、10,000〜25,000,000mPasの範囲内の粘度を有する高粘性オイルである、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記添加物は、30,000〜20,000,000mPasの範囲内の粘度を有する高粘性オイルである、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
前記添加物は、組成物のうちの0.05〜20%w/wの範囲内の量だけ存在する、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記添加物は、組成物のうちの0.1〜5%w/wの範囲内の量だけ存在する、前の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
オイルとこのオイルの伸び粘性を高めることができる添加剤とを混合するステップを含む、網膜剥離の治療に使用するための組成物を製造する方法。
【請求項18】
請求項1〜16のうちのいずれかに記載の組成物を製造するために使用する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
オイルとこのオイルの伸び粘性を高めることができる添加剤とを混合することを含む、網膜剥離の治療に使用するための組成物を製造するための部品のキット。
【請求項20】
請求項1〜16のいずれかに記載の組成物を製造するために使用する、請求項19記載の部品のキット。
【請求項21】
シリコーンオイルと添加物とを共に接触させ、使用前の混合物を形成する手段を更に含む、請求項19または20記載の部品のキット。
【請求項22】
混合前に前記低粘性シリコーンオイルと前記添加物の所定の量を測定する手段を更に含む、請求項21記載の部品のキット。

【公表番号】特表2008−540607(P2008−540607A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511711(P2008−511711)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062432
【国際公開番号】WO2006/122973
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507369512)ザ ユニバーシティ オブ リバプール (1)
【Fターム(参考)】