説明

綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体およびその製造方法

【課題】 高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成されるマンガン酸化物ナノ構造体を提供すること。
【解決手段】 高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体とする。このようなマンガン酸化物ナノ構造体は、レーザーアブレーション法において雰囲気ガスとして、ヘリウムガスと酸素の混合ガスを用い、酸素の割合が質量流量比で1.0〜10%とすることにより得られる。なお、マンガンの他、鉄、コバルト、ニッケルのような、酸素に対して安定な状態となる価数が複数存在する遷移金属にも適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い結晶性を有する最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細構造を有する材料は、金属、合金および化合物等の複合材料を急速に凝固することにより得られ、数ミクロンレベルの粒子サイズを有しているものがほとんどである。しかしながら、近年、材料サイズをミクロンレベルからナノメートルレベルに小さくする研究が活発化している。こうしたナノ粒子を中心としたナノ構造体の特徴は、粒子境界(表面)に存在する原子の割合が高いことであり、例えば5nmのナノ粒子で40%に達する。ナノ構造体は同一の化学組成を有するミクロンレベルの材料と比較した場合、化学的および物理的特性が大きく異なり、優れた特性を示すことが多い。
【0003】
ここで、遷移金属酸化物としてマンガン酸化物(MnOx)を例に挙げると、現在ナノ構造体として入手することは困難であり、通常、市販用に合成された遷移金属酸化物の粒子サイズはミクロンレベルである。ミクロンレベルの遷移金属酸化物の酸素還元触媒としての特性を調べた例としては、例えば文献1に示されているように、マンガン酸化物の酸化状態(価数)の異なる材料では触媒活性が異なり、三価のマンガン化合物であるMn2O3およびMnOOHの酸素還元触媒活性が価数の異なるMn3O4並びにMn5O8と比較して高いことが分かっており、さらに、酸素還元電位は−0.3V付近と−1.0V付近に観測されている。
【0004】
一方、遷移金属ナノ構造体の作製方法としては、二酸化マンガン(MnO2)を例に挙げると、過マンガン酸カリウム(KMnO4)水溶液を硫酸マンガン(MnSO4)の溶解した硫酸水溶液に噴霧し、合成反応を生じさせ、析出後、加熱処理する例がある(特許文献1参照)。
【0005】
さらに、遷移金属酸化物を応用した酸素還元電極を例に挙げると、ミクロンレベルの粉末体である四酸化三マンガンと二酸化マンガンの混合体を酸素還元電極として使用した空気亜鉛電池の例がある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特表2000−505040号公報(第42頁、第2図)
【特許文献2】特開平10−302808号公報(第8頁、第2図)
【特許文献3】特開2000−144387号公報(段落番号0015)
【特許文献4】特開2003−306319号公報
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society, 149 (4) A504-A507 (2002).
【非特許文献2】レーザー研究 Volume28, Number 6, 2000年6月 348頁−353頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノ構造を有する大表面積材料は、活性部位が仲介する化学反応が重要な役割を果たす触媒的な用途において特に有益であり、触媒反応においては周囲環境(気体、液体等)との接触面積が大きいほどよく、触媒材料をナノ構造体化することには明確な利点がある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体およびその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係わる遷移金属酸化物ナノ構造体は、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体としたものである。
【0009】
また、本発明は、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有し、主たる成分として一酸化遷移金属、四酸化三遷移金属、三酸化二遷移金属、二酸化遷移金属のいずれかからなる遷移金属酸化物ナノ構造体である。
【0010】
また、本発明は、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であって、遷移金属酸化物からなるターゲット材及び、遷移金属酸化物ナノ構造体を堆積する基板を反応室内に配置する工程と、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより前記ターゲット材近傍に形成される高温高圧領域のサイズを制御するために、前記反応室に導入する雰囲気ガスの圧力及び、前記ターゲット材と前記基板との間の距離を調整する工程と、前記反応室に前記圧力で前記雰囲気ガスを導入しながら、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより励起し、脱離した前記ターゲット材に含まれる物質を前記雰囲気ガス中で凝縮・成長させて、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を前記基板上に堆積する工程と、を具備することを特徴とする遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法である。
【0011】
さらに、本発明は、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であって、遷移金属酸化物からなるターゲット材を二価から四価のいずれかの価数である遷移金属の酸化物焼結体としたターゲット材及び、遷移金属酸化物ナノ構造体を堆積する基板を反応室内に配置する工程と、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより前記ターゲット材近傍に形成される高温高圧領域のサイズを制御するために、前記反応室に導入するヘリウムガスと酸素の混合ガスであり、酸素の割合が質量流量比で1.0〜10%である雰囲気ガスの圧力を圧力667Paのヘリウムガスと等質量を有する圧力に保持する工程及び、前記ターゲット材と前記基板との間の距離を調整する工程と、前記反応室に前記圧力で前記雰囲気ガスを導入しながら、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより励起し、脱離した前記ターゲット材に含まれる物質を前記雰囲気ガス中で凝縮・成長させて、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を前記基板上に堆積する工程と、を具備することを特徴とする遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法である
これにより、本発明は優れた酸素還元等の触媒能を有する遷移金属酸化物ナノ構造体ならびにその作製方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体とすることで、多大な比表面積を有し優れた触媒活性を呈する遷移金属酸化物ナノ構造体を提供することができ、さらには優れた触媒活性を有する綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法を提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の請求項1に記載の発明は、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体であり、微小な一次粒子および二次構造である綿花状構造により、多大な比表面積を有し、反応物質との接触面積を非常に大きくすることができる。
【0014】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、主たる成分が一酸化遷移金属、四酸化三遷移金属、三酸化二遷移金属、二酸化遷移金属のいずれかからなる遷移金属酸化物ナノ構造体である。
【0015】
本発明の請求項3に記載の発明は、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であって、遷移金属酸化物からなるターゲット材及び、遷移金属酸化物ナノ構造体を堆積する基板を反応室内に配置する工程と、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより前記ターゲット材近傍に形成される高温高圧領域のサイズを制御するために、前記反応室に導入する雰囲気ガスの圧力及び、前記ターゲット材と前記基板との間の距離を調整する工程と、前記反応室に前記圧力で前記雰囲気ガスを導入しながら、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより励起し、脱離した前記ターゲット材に含まれる物質を前記雰囲気ガス中で凝縮・成長させて、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を前記基板上に堆積する工程と、を具備する遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であり、この方法によれば、ビーム光照射によりターゲット材から射出した物質(主に原子・イオン・クラスター)と雰囲気ガスとの相互作用(衝突、散乱、閉じ込め効果)の最適化により遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の価数およびナノメートルサイズの構造制御が可能となり、優れた触媒活性を呈する綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を容易に作製しうる。
【0016】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記遷移金属酸化物からなるターゲット材を二価から四価のいずれかの価数である遷移金属の酸化物焼結体とした遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であり、ターゲット材として遷移金属と比べて比較的安全な酸化物を用いることで、綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の遷移金属価数を容易に二価から四価まで変化することができる。
【0017】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記雰囲気ガスが、ヘリウムガスと酸素の混合ガスであり、酸素の割合が質量流量比で1.0〜10%である遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であり、雰囲気ガス中の酸素の割合を変化させることにより、綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体からなる堆積物の密度および高さを制御することができる。
【0018】
本発明の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記雰囲気ガスが圧力667Paのヘリウムガスと等質量を有する圧力である遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であり、ビーム光照射によりターゲット材から射出した物質と雰囲気ガスとの物理的な相互作用をガス種によらず同等の状態とすることにより、綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体からなる堆積物に含まれるターゲットから射出された遷移金属および酸素の量を雰囲気ガス種によらず等量とすることができる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
以下の実施の形態では、遷移金属としてMnを例に挙げて説明するが、鉄、コバルト、ニッケルなどに代表される遷移金属のように、複数の酸化状態を取り得る金属、すなわち、酸素に対して安定な状態となる価数が複数存在する金属に適用可能である。但し、インジウムなどに代表される非遷移金属のように、基本的に酸素に対して安定な状態となる価数が1つしか存在しない金属には、本発明を適用することができない。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態においては、遷移金属酸化物の一例としてマンガン酸化物(MnOx)からなるナノ構造体及び、その作製方法ついて説明する。
【0022】
図1は本実施の形態におけるマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。マンガン酸化物ナノ構造体は図1の上面図のように一次粒子が凝集し、1μm程度の綿花状の二次構造を形成していることが分かる。図1の断面図から二次構造は高さ約4μmの綿花状の構造を有していることが分かかる。さらに図2の透過電子顕微鏡写真から一次粒子は結晶格子が明瞭に確認できる結晶性の非常に高い数〜10nm程度の粒子であることが分かる。
【0023】
続いて、図1に示した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法を説明する。
【0024】
本実施の形態では、ガス雰囲気中におけるレーザアブレーションを用いて基板上にマンガン酸化物を堆積させる。なお、レーザアブレーション法とは、高いエネルギー密度(パルスエネルギー:1.0J/cm2程度又はそれ以上)のレーザ光をターゲット材に照射し、被照射ターゲット材表面を溶融・脱離させる方法である。
【0025】
この方法の特徴は、非熱平衡性及び無質量性プロセスであることにある。非熱平衡性における具体的効果としては、空間的・時間的選択励起が可能であることが挙げられる。特に、空間的選択励起性を有することから、従来の熱プロセスやプラズマプロセスにおいては反応槽のかなり広い領域あるいは全体が熱やイオンに晒されるのに対し、必要な物質源のみを励起することができるので、不純物混入が抑制されたクリーンなプロセスとなる。また、無質量性とは、同じ非熱平衡性のイオンプロセスに比較して、格段な低ダメージ性であることを意味する。レーザアブレーションにおける脱離物質は、主にイオン及び中性粒子である原子・分子・クラスター(数個から数十個程度の原子から構成される)であり、その運動エネルギーは、イオンで数十eV、中性粒子の場合は数eVのレベルに達する。これは、加熱蒸発原子よりはるかに高エネルギーであるが、イオンビームよりはるかに低エネルギーの領域である。
【0026】
このようにクリーンでダメージの少ないレーザアブレーションプロセスは、不純物の混入・組成・結晶性等が制御されたナノ構造体の作製に適している。なお、レーザアブレーション法を用いてナノ構造体作製を行うためには、ターゲット材料が、光源であるレーザ光の波長域で吸収があることが望ましい。
【0027】
図3は、本発明のマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法に使用するナノ構造体作製装置を示す図である。ここでは、一酸化マンガン焼結体ターゲットを用いて、Heと酸素(O2)の混合ガスを雰囲気ガスとしてレーザアブレーションを行うことにより、図1に示したような綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を作製する場合について説明する。
【0028】
図3において、参照符号301はターゲットが配置される金属製の反応室を示す。反応室301の底部には、反応室301内を排気して反応室301内を超高真空にする超真空排気系302が設けられている。反応室301には、反応室301へ雰囲気ガスを供給するガス導入ライン304が取り付けられている。このガス導入ライン304には、反応室301へ供給する雰囲気ガスの流量を制御するマスフローコントローラ303a、303bが取り付けられている。また、反応室301の底部には、反応室301内の雰囲気ガスを差動排気するガス排気系305が設けられている。
【0029】
反応室301内には、ターゲット307を保持するターゲットホルダー306が配置されている。このターゲットホルダー306には、回転シャフトが取り付けられており、この回転シャフトが図示しない回転制御部の制御で回転することにより、ターゲット307が回転する(8回転/分)ようになっている。このターゲット307の表面に対向するようにして堆積基板309が配置されている。この堆積基板309には、レーザ光の照射により励起されたターゲット307から脱離・射出された物質が堆積される。ここでは、ターゲットとして、一酸化マンガン(MnO)多結晶焼結体ターゲット(純度99.9%)を用いる。
【0030】
本実施の形態においては、ターゲット307と堆積基板309とがon−axisな状態となっている。これは後述する実施の形態2、3においても同様である。ここで、「on−axis」と「off−axis」とを、図10を参照しながら説明する。図10(a)は「on−axis」状態であり、図10(b)が「off−axis」状態である。図10(a)に示されるように、「on−axis」状態では、ターゲット307と堆積基板309とが平行な状態である。換言すれば、「on−axis」状態では、ターゲット307の法線307a(すなわち、平板状のターゲット307の表面に垂直な線)と、堆積基板309の法線309a(平板状の堆積基板309の表面に垂直な線)とが平行になる。一方、図9(b)に示されるように、「off−axis」状態では、ターゲット307と堆積基板309とが平行な状態にはなっていない。換言すれば、「off−axis」状態では、ターゲット307の法線307a(すなわち、平板状のターゲット307の表面に垂直な線)と、堆積基板309の法線309a(平板状の堆積基板309の表面に垂直な線)とが平行にならない。
【0031】
反応室301の外側には、ターゲット307にエネルギービームとしてのレーザ光を照射するパルスレーザ光源308が配置されている。反応室301の上部には、レーザ光を反応室301内に導入するレーザ導入窓310が取り付けられている。パルスレーザ光源308から出射したレーザ光の光路上には、レーザ光源308から近い順にスリット311,レンズ312,及び反射鏡313が配置されており、パルスレーザ光源308から出射したレーザ光がスリット311により整形され、レンズ312で集光され、反射鏡313で反射されて、レーザ導入窓310を通って反応室301内に設置されたターゲット307に照射されるようになっている。
【0032】
上記構成を有するナノ構造体作製装置における動作について説明する。反応室301の内部を、ターボ分子ポンプを主体とする超高真空排気系302により到達真空1.0×10-6Pa程度まで排気した後、マスフローコントローラ303aおよび303bを経由して、ガス導入ライン304より、HeガスおよびO2ガスの導入を行う。なお、質量流量としてHeガスは495sccm、O2ガスは5.0sccmで導入した。ここで、スクロールポンプもしくはヘリカル溝ポンプを主体としたガス排気系305の動作と連動することにより、反応室101内の雰囲気希ガス圧力を、13.33〜1333Pa程度の範囲の一圧力値に設定する。
【0033】
この状態で、自転機構を有するターゲットホルダー306に配置された、純度:99.9%のMnO多結晶焼結体ターゲット307の表面に対して、パルスレーザ光源308からレーザ光を照射する。ここでは、アルゴン弗素(ArF)エキシマレーザ(波長:193nm、パルス幅:12ns、パルスエネルギー:50mJ、エネルギー密度:1J/cm2、繰返し周波数:10Hz)を用いた。このとき、MnOターゲット307表面では、レーザアブレーション現象が発生し、Mn,O,MnO等のイオンあるいは中性粒子(原子、分子、クラスター)が脱離し、当初はイオンで50eV、中性粒子で5eVのオーダーの運動エネルギーを有し、主にターゲット法線方向に分子、クラスターレベルの大きさを維持して、射出して行く。そして、脱離物質は、雰囲気希ガス原子と衝突することにより、飛行方向が乱雑になるとともに、運動エネルギーが雰囲気に散逸され、約35mm離れて対向した堆積基板309上にナノ構造体として堆積される。なお、基板、ターゲット温度とも積極的な制御は行っていない。
【0034】
ここでは雰囲気ガスとして、O2ガスとHeガスを用いているが、Heに代えてAr,Kr,Xe,N2等の他の不活性ガスを用いてもよいし、O2ガスの代わりにO3,N2O,NO2等の他の酸化性ガスを用いてもよい。この場合、気体密度がHeとO2の混合ガスの場合と同等になるように圧力を設定すればよい。
【0035】
上記の方法により雰囲気ガスであるHeとO2の混合ガスの圧力をHeガス667Paと同質量である623Paとして1000秒間堆積したマンガン酸化物について、微細構造の評価を行った。
【0036】
堆積されたマンガン酸化物は図1、図2に示したような、最小構成単位が数〜10nmの高い結晶性を有する一次粒子が高さ約4μmの綿花状構造に凝集したナノ構造体を形成していることが分かった。
【0037】
以上述べてきたように、本実施の形態のマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法により、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を作製することができる。
【0038】
なお、ターゲット材料は一酸化マンガン多結晶焼結体に限定されるわけではなく、三酸化二マンガン、四酸化三マンガン等の価数の異なるものを用いても良いし、単結晶ターゲットを用いても構わない。
【0039】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、マンガン酸化物(MnOx)からなるナノ構造体及び、その作製方法ついて説明する。
【0040】
図4は本実施の形態におけるマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。マンガン酸化物ナノ構造体は図4の上面図のように一次粒子が凝集し、1μm程度の綿花状の二次構造を形成していることが分かる。図4の断面図から二次構造は高さ約4.7μmの綿花状の構造を有していることが分かかる。さらに図5の透過電子顕微鏡写真から一次粒子は結晶格子が明瞭に確認できる結晶性の非常に高い数〜10nm程度の粒子であることが分かる。
【0041】
続いて、図4に示した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法を説明する。
【0042】
本実施の形態では、ガス雰囲気中におけるレーザアブレーションを用いて基板上にマンガン酸化物を堆積させる。なお、レーザアブレーション法とは、高いエネルギー密度(パルスエネルギー:1.0J/cm2程度又はそれ以上)のレーザ光をターゲット材に照射し、被照射ターゲット材表面を溶融・脱離させる方法である。
【0043】
この方法の特徴は、非熱平衡性及び無質量性プロセスであることにある。非熱平衡性における具体的効果としては、空間的・時間的選択励起が可能であることが挙げられる。特に、空間的選択励起性を有することから、従来の熱プロセスやプラズマプロセスにおいては反応槽のかなり広い領域あるいは全体が熱やイオンに晒されるのに対し、必要な物質源のみを励起することができるので、不純物混入が抑制されたクリーンなプロセスとなる。また、無質量性とは、同じ非熱平衡性のイオンプロセスに比較して、格段な低ダメージ性であることを意味する。レーザアブレーションにおける脱離物質は、主にイオン及び中性粒子である原子・分子・クラスター(数個から数十個程度の原子から構成される)であり、その運動エネルギーは、イオンで数十eV、中性粒子の場合は数eVのレベルに達する。これは、加熱蒸発原子よりはるかに高エネルギーであるが、イオンビームよりはるかに低エネルギーの領域である。
【0044】
このようにクリーンでダメージの少ないレーザアブレーションプロセスは、不純物の混入・組成・結晶性等が制御されたナノ構造体の作製に適している。なお、レーザアブレーション法を用いてナノ構造体作製を行うためには、ターゲット材料が、光源であるレーザ光の波長域で吸収があることが望ましい。
【0045】
図3は、本発明のマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法に使用するナノ構造体作製装置を示す図である。ここでは、一酸化マンガン焼結体ターゲットを用いて、Heと酸素(O2)の混合ガスを雰囲気ガスとしてレーザアブレーションを行うことにより、図1に示したような綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を作製する場合について説明する。
【0046】
図3において、参照符号301はターゲットが配置される金属製の反応室を示す。反応室301の底部には、反応室301内を排気して反応室301内を超高真空にする超真空排気系302が設けられている。反応室301には、反応室301へ雰囲気ガスを供給するガス導入ライン304が取り付けられている。このガス導入ライン304には、反応室301へ供給する雰囲気ガスの流量を制御するマスフローコントローラ303a、303bが取り付けられている。また、反応室301の底部には、反応室301内の雰囲気ガスを差動排気するガス排気系305が設けられている。
【0047】
反応室301内には、ターゲット307を保持するターゲットホルダー306が配置されている。このターゲットホルダー306には、回転シャフトが取り付けられており、この回転シャフトが図示しない回転制御部の制御で回転することにより、ターゲット307が回転する(8回転/分)ようになっている。このターゲット307の表面に対向するようにして堆積基板309が配置されている。この堆積基板309には、レーザ光の照射により励起されたターゲット307から脱離・射出された物質が堆積される。ここでは、ターゲットとして、四酸化三マンガン(Mn34)多結晶焼結体ターゲット(純度99.9%)を用いる。
【0048】
反応室301の外側には、ターゲット307にエネルギービームとしてのレーザ光を照射するパルスレーザ光源308が配置されている。反応室301の上部には、レーザ光を反応室301内に導入するレーザ導入窓310が取り付けられている。パルスレーザ光源308から出射したレーザ光の光路上には、レーザ光源308から近い順にスリット311,レンズ312,及び反射鏡313が配置されており、パルスレーザ光源308から出射したレーザ光がスリット311により整形され、レンズ312で集光され、反射鏡313で反射されて、レーザ導入窓310を通って反応室301内に設置されたターゲット307に照射されるようになっている。
【0049】
上記構成を有するナノ構造体作製装置における動作について説明する。反応室301の内部を、ターボ分子ポンプを主体とする超高真空排気系302により到達真空1.0×10-6Pa程度まで排気した後、マスフローコントローラ303aおよび303bを経由して、ガス導入ライン304より、HeガスおよびO2ガスの導入を行う。なお、質量流量としてHeガスは450sccm、O2ガスは50sccmで導入した。ここで、スクロールポンプもしくはヘリカル溝ポンプを主体としたガス排気系305の動作と連動することにより、反応室101内の雰囲気希ガス圧力を、13.33〜1333Pa程度の範囲の一圧力値に設定する。
【0050】
この状態で、自転機構を有するターゲットホルダー306に配置された、純度:99.9%のMn34多結晶焼結体ターゲット307の表面に対して、パルスレーザ光源308からレーザ光を照射する。ここでは、アルゴン弗素(ArF)エキシマレーザ(波長:193nm、パルス幅:12ns、パルスエネルギー:50mJ、エネルギー密度:1J/cm2、繰返し周波数:10Hz)を用いた。このとき、MnOターゲット307表面では、レーザアブレーション現象が発生し、Mn,O,MnOx(x=1,4/3,1.5,2)等のイオンあるいは中性粒子(原子、分子、クラスター)が脱離し、当初はイオンで50eV、中性粒子で5eVのオーダーの運動エネルギーを有し、主にターゲット法線方向に分子、クラスターレベルの大きさを維持して、射出して行く。そして、脱離物質は、雰囲気希ガス原子と衝突することにより、飛行方向が乱雑になるとともに、運動エネルギーが雰囲気に散逸され、約35mm離れて対向した堆積基板309上にナノ構造体として堆積される。なお、基板、ターゲット温度とも積極的な制御は行っていない。
【0051】
ここでは雰囲気ガスとして、O2ガスとHeガスを用いているが、Heに代えてAr,Kr,Xe,N2等の他の不活性ガスを用いてもよいし、O2ガスの代わりにO3,N2O,NO2等の他の酸化性ガスを用いてもよい。この場合、気体密度がHeとO2の混合ガスの場合と同等になるように圧力を設定すればよい。
【0052】
上記の方法により雰囲気ガスであるHeとO2の混合ガスの圧力をHeガス667Paと同質量である392Paとして1000秒間堆積したマンガン酸化物について、微細構造の評価を行った。
【0053】
堆積されたマンガン酸化物は図4、図5に示したような、最小構成単位が数〜10nmの高い結晶性を有する一次粒子が高さ約4.7μmの綿花状構造に凝集したナノ構造体を形成していることが分かった。
【0054】
以上述べてきたように、本実施の形態のマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法により、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を作製することができる。
【0055】
なお、ターゲット材料は四酸化三マンガン多結晶焼結体に限定されるわけではなく、一酸化マンガン、三酸化二マンガン等の価数の異なるものを用いても良いし、単結晶ターゲットを用いても構わない。
【0056】
(比較例1)
綿花状構造以外のナノ構造体の作製
図6は本比較例におけるマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。マンガン酸化物ナノ構造体は図6の上面図のように一次粒子が凝集し、数百nm程度の二次粒子を形成していることが分かる。図6の断面図から二次構造は高さ約650nmの柱状構造を有していることが分かかる。
【0057】
続いて、図6に示した柱状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法を説明する。
【0058】
希ガス(Ar,He等)雰囲気中におけるレーザアブレーションを用いて基板上にマンガン酸化物を堆積させる。なお、レーザアブレーション法とは、高いエネルギー密度(パルスエネルギー:1.0J/cm2程度又はそれ以上)のレーザ光をターゲット材に照射し、被照射ターゲット材表面を溶融・脱離させる方法である。
【0059】
図3は、マンガン酸化物ナノ構造体の作製に使用するナノ構造体作製装置を示す図である。ここでは、一酸化マンガン焼結体ターゲットを用いて、Heガスを雰囲気ガスとしてレーザアブレーションを行うことにより、図6に示したような柱状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を作製する場合について説明する。
【0060】
図3において、参照符号301はターゲットが配置される金属製の反応室を示す。反応室301の底部には、反応室301内を排気して反応室301内を超高真空にする超真空排気系302が設けられている。反応室301には、反応室301へ雰囲気ガスを供給するガス導入ライン304が取り付けられている。このガス導入ライン304には、反応室301へ供給する雰囲気ガスの流量を制御するマスフローコントローラ303a、303bが取り付けられている。また、反応室301の底部には、反応室301内の雰囲気ガスを差動排気するガス排気系305が設けられている。
【0061】
反応室301内には、ターゲット307を保持するターゲットホルダー306が配置されている。このターゲットホルダー306には、回転シャフトが取り付けられており、この回転シャフトが図示しない回転制御部の制御で回転することにより、ターゲット307が回転する(8回転/分)ようになっている。このターゲット307の表面に対向するようにして堆積基板309が配置されている。この堆積基板309には、レーザ光の照射により励起されたターゲット307から脱離・射出された物質が堆積される。ここでは、ターゲットとして、一酸化マンガン(MnO)多結晶焼結体ターゲット(純度99.9%)を用いる。
【0062】
反応室301の外側には、ターゲット307にエネルギービームとしてのレーザ光を照射するパルスレーザ光源308が配置されている。反応室301の上部には、レーザ光を反応室301内に導入するレーザ導入窓310が取り付けられている。パルスレーザ光源308から出射したレーザ光の光路上には、レーザ光源308から近い順にスリット311,レンズ312,及び反射鏡313が配置されており、パルスレーザ光源308から出射したレーザ光がスリット311により整形され、レンズ312で集光され、反射鏡313で反射されて、レーザ導入窓310を通って反応室301内に設置されたターゲット307に照射されるようになっている。
【0063】
上記構成を有するナノ構造体作製装置における動作について説明する。反応室301の内部を、ターボ分子ポンプを主体とする超高真空排気系302により到達真空1.0×10-6Pa程度まで排気した後、マスフローコントローラ303aを経由して、ガス導入ライン304より、Heガスの導入を行う。ここで、スクロールポンプもしくはヘリカル溝ポンプを主体としたガス排気系305の動作と連動することにより、反応室101内の雰囲気希ガス圧力を、13.33〜1333Pa程度の範囲の一圧力値に設定する。
【0064】
この状態で、自転機構を有するターゲットホルダー306に配置された、純度:99.9%のMnO多結晶焼結体ターゲット307の表面に対して、パルスレーザ光源308からレーザ光を照射する。ここでは、アルゴン弗素(ArF)エキシマレーザ(波長:193nm、パルス幅:12ns、パルスエネルギー:50mJ、エネルギー密度:1J/cm2、繰返し周波数:10Hz)を用いた。このとき、MnOターゲット307表面では、レーザアブレーション現象が発生し、Mn,O,MnO等のイオンあるいは中性粒子(原子、分子、クラスター)が脱離し、当初はイオンで50eV、中性粒子で5eVのオーダーの運動エネルギーを有し、主にターゲット法線方向に分子、クラスターレベルの大きさを維持して、射出して行く。そして、脱離物質は、雰囲気希ガス原子と衝突することにより、飛行方向が乱雑になるとともに、運動エネルギーが雰囲気に散逸され、約35mm離れて対向した堆積基板309上にナノ構造体として堆積される。なお、基板、ターゲット温度とも積極的な制御は行っていない。
【0065】
上記の方法により雰囲気ガスであるHeガスの圧力を667Paとして堆積したマンガン酸化物について、微細構造の評価を行った。
【0066】
堆積されたマンガン酸化物は図6に示したような、一次粒子が高さ約650nmの柱状構造に凝集したナノ構造体を形成していることが分かった。
【0067】
(比較例2)
ターゲット307と堆積基板309との関係をoff−axis状態(図10(b)参照)にしたこと以外は、実施の形態1と全く同様にマンガン酸化物ナノ構造体を得ようとしたが、堆積基板309には、マンガン酸化物からなる単なる薄膜が形成され、目的とした綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を得ることはできなかった。
【0068】
(比較例3)
雰囲気ガスの導入量をHeガスは400sccm、O2ガスは100sccmとし、雰囲気ガスの圧力をHeガス667Paと同質量である148Paとした以外は、実施の形態1と全く同様にマンガン酸化物ナノ構造体を得ようと試みたが、堆積基板309には、図12に示すように表面にナノメートルレベルの凹凸が存在する薄膜状の堆積物が形成され、目的とした綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を得ることはできなかった。
【0069】
(実施例1)
以下、本発明を、実施例によって具体的に説明する。
【0070】
実施の形態1で説明したマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法により作製した、図1に示したような、高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を触媒材料として用いて、試験電極を作製した。
【0071】
試験電極の作製は、まず、実施の形態1で説明した方法で図7に模式的に示したようにφ3mmのグラッシーカーボン上にφ2mmの開口を有するマスクを介して綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を厚さ約4μmで直接堆積(坦持)した。試験電極の触媒坦持部は図8に示したように、鏡面研磨されたφ3mmのグラッシーカーボンを周囲に6mmのオネジを切ったPEEK材に圧入した構造である。次に、綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を直接坦持した触媒坦持部を図8に示したような電極本体にねじ込むことで電気的な接触とパッキン材による撥水を行う。試験電極からの電流の取り出しは電極本体のφ1.6mmの真鍮棒を介して行う。
【0072】
上記の方法で作製した試験電極を用いて、三極セルによるサイクリックボルタンメトリー法により酸素還元触媒能の評価を行った。評価は、試験電極を作用極とし0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に酸素を飽和溶存させ、酸素雰囲気下で行った。ここで、対極には白金線を、参照極には銀/塩化銀電極を用いた。
【0073】
図9にサイクリックボルタモグラムを示す。図9中に破線で示したマンガン酸化物ナノ構造体を坦持していないグラッシーカーボンのみの比較電極と比較すると、実線で示した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を坦持した試験電極では電流量が最大値で約3.5倍に増加した。なお、比較例1および比較例2に示した堆積物を試験電極に用いた場合はグラッシーカーボンのみの場合とほぼ同等の結果を示した。
【0074】
上記の結果は、触媒としてのマンガン酸化物を本発明による高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガンナノ構造体としたために、約4μmという非常に薄い触媒層にもかかわらず、高い酸素還元触媒能を発現したものと考えられる。
【0075】
(実施例2)
以下、本発明を、実施例によって具体的に説明する。
【0076】
実施の形態1で説明したマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法により作製した、図4に示したような、高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を触媒材料として用いて、試験電極を作製した。
【0077】
試験電極の作製は、まず、実施の形態1で説明した方法で図7に模式的に示したようにφ3mmのグラッシーカーボン上にφ2mmの開口を有するマスクを介して綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を厚さ約4.7μmで直接堆積(坦持)した。試験電極の触媒坦持部は図8に示したように、鏡面研磨されたφ3mmのグラッシーカーボンを周囲に6mmのオネジを切ったPEEK材に圧入した構造である。次に、綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を直接坦持した触媒坦持部を図8に示したような電極本体にねじ込むことで電気的な接触とパッキン材による撥水を行う。試験電極からの電流の取り出しは電極本体のφ1.6mmの真鍮棒を介して行う。
【0078】
上記の方法で作製した試験電極を用いて、三極セルによるサイクリックボルタンメトリー法により酸素還元触媒能の評価を行った。評価は、試験電極を作用極とし0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液中に酸素を飽和溶存させ、酸素雰囲気下で行った。ここで、対極には白金線を、参照極には銀/塩化銀電極を用いた。
【0079】
図11にサイクリックボルタモグラムを示す。図11中に破線で示したマンガン酸化物ナノ構造体を坦持していないグラッシーカーボンのみの比較電極と比較すると、実線で示した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を坦持した試験電極では電流量が最大値で約3.3倍に増加した。なお、比較例1および比較例2に示した堆積物を試験電極に用いた場合はグラッシーカーボンのみの場合とほぼ同等の結果を示した。
【0080】
上記の結果は、触媒としてのマンガン酸化物を本発明による高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガンナノ構造体としたために、約4.7μmという非常に薄い触媒層にもかかわらず、高い酸素還元触媒能を発現したものと考えられる。
【0081】
以上のとおり、本発明にかかる綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体によれば、マンガン酸化物ナノ構造体を坦持していないグラッシーカーボンのみの比較電極と比較して、電流量を最大値で3倍以上に増加させることができる。なお、考えられるこの最大値の上限は10倍以下である。また、本発明にかかる綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の厚みが5μm以下と非常に薄くても、上記のような効果を得ることができる。なお、考えられるこの厚みの上限は100μm以下である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかる綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体は、優れた触媒活性を有し、空気亜鉛電池や燃料電池等の酸素極に用いられる触媒材料として有用である。また高価な白金触媒材料に代わる安価な還元触媒等の用途にも応用できる。さらに、多大な比表面積を有することから過酸化水素の接触分解触媒としての応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態1における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真
【図2】本発明の実施の形態1における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の透過電子顕微鏡写真
【図3】本発明の実施の形態における、マンガン酸化物ナノ構造体の作製方法に使用するナノ構造体作製装置を示す構成図
【図4】本発明の実施の形態2における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真
【図5】本発明の実施の形態2における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集した綿花状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の透過電子顕微鏡写真
【図6】本発明の比較例における、柱状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真
【図7】本発明の実施例における、マンガン酸化物ナノ構造体を坦持する手法の模式図
【図8】本発明の実施例における、試験電極の構造図
【図9】本発明の実施例1における、サイクリックボルタモグラムを示すグラフ
【図10】(a)on−axis状態を示す図(b)off−axis状態を示す図
【図11】本発明の実施例2における、サイクリックボルタモグラムを示すグラフ
【図12】比較例3の薄膜状の堆積物の走査電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0084】
301 反応室
302 超高真空排気系
303a、303b マスフローコントローラ
304 ガス導入ライン
305 ガス排気系
306 ターゲットホルダ
307 ターゲット
308 パルスレーザ光源
309 堆積基板
310 レーザ導入窓
311 スリット
312 レンズ
313 反射鏡
314 プルーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体。
【請求項2】
主たる成分として一酸化マンガン、四酸化三マンガン、三酸化二マンガン、二酸化マンガンのいずれかからなる請求項1に記載の遷移金属酸化物ナノ構造体。
【請求項3】
高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法であって、遷移金属酸化物からなるターゲット材及び、遷移金属酸化物ナノ構造体を堆積する基板を反応室内に配置する工程と、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより前記ターゲット材近傍に形成される高温高圧領域のサイズを制御するために、前記反応室に導入する雰囲気ガスの圧力及び、前記ターゲット材と前記基板との間の距離を調整する工程と、前記反応室に前記圧力で前記雰囲気ガスを導入しながら、前記ターゲット材にビーム光を照射することにより励起し、脱離した前記ターゲット材に含まれる物質を前記雰囲気ガス中で凝縮・成長させて、高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される綿花状構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を前記基板上に堆積する工程と、を具備することを特徴とする遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法。
【請求項4】
前記遷移金属酸化物からなるターゲット材を二価から四価のいずれかの価数である遷移金属の酸化物焼結体とした請求項3記載の遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法。
【請求項5】
前記雰囲気ガスが、ヘリウムガスと酸素の混合ガスであり、酸素の割合が質量流量比で1.0〜10%である請求項4記載の遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法。
【請求項6】
前記雰囲気ガスが圧力667Paのヘリウムガスと等質量を有する圧力である請求項5記載の遷移金属酸化物ナノ構造体の作製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−1751(P2006−1751A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176814(P2004−176814)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】