説明

総ころ軸受及びこれに用いるころ脱落防止具

【課題】外輪から内輪及びころを分離した状態で、内輪からころが脱落するのを防止する。
【解決手段】総ころ軸受10の内輪11に取り付けられるころ脱落防止具19は、外輪12からころ13及び内輪11を分離した状態で内輪11からのころ13の脱落を防止するストッパ21を有する。ストッパ21は、各ころ13間に挿入された状態で各ころ13の姿勢を支持する複数の支持部23を備える。また、支持部23は、内輪11の大つば部16側でころ13間に挿入され、小つば部15と協働して各ころ13を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば風力発電機の主軸支持用として使用される総ころ軸受及びこれに用いるころ脱落防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電機では、主軸の支持用として単列の円すいころ軸受が使用される場合がある。この主軸支持用の円すいころ軸受は、通常、外径が1m以上あり、非常に大型であるため、円すいころ軸受を組み立てたり分解したりする作業は、図5(a)に示すように、内輪11の小つば部15側を下にした状態で円すいころ軸受1を横向きにし(軸心を上下方向に向け)、内輪11および円すいころ13を上下に昇降させることによって行われる。
【0003】
円すいころ13を保持するための保持器を備えた円すいころ軸受の場合、この保持器にクレーンを連結し、保持器とともに円すいころ13及び内輪11を吊り上げることが可能である。しかし、円すいころ軸受1が保持器を備えていない総ころ式である場合、図5(a)に示すように、内輪11にアイボルト40等を取り付けてクレーンを連結し、内輪11を直接吊り上げなければならない。ところが、内輪11を直接吊り上げると、図5(b)に示すように内輪11から円すいころ13が脱落してしまうという問題がある。
【0004】
なお、下記特許文献1には、風力発電機の主軸支持用として用いられる転がり軸受の運搬や組立に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−46465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外輪から内輪及びころを分離した状態で、内輪からころが脱落するのを防止することができる総ころ軸受及びこれに用いるころ脱落防止具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の総ころ軸受は、外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動可能に配置された総ころ式の複数のころと、前記内輪に取り付けられ、前記外輪から前記ころ及び前記内輪を分離した状態で前記内輪からのころの脱落を防止するストッパを備えたころ脱落防止具と、を有していることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の総ころ軸受用のころ脱落防止具は、総ころ軸受の内輪に取り付けられ、前記総ころ軸受の外輪から内輪及びころを分離した状態で、前記内輪からのころの脱落を防止するストッパを備えていることを特徴とする。
以上の各発明によれば、総ころ軸受の組立や分解を行う場合に、外輪から内輪及びころが分離した状態となってもストッパによって内輪からのころの脱落を防止することができる。
【0008】
前記ストッパは、前記内輪と同軸心の環状に形成することができ、さらに、各ころ間に挿入されることによって各ころの姿勢を支持する複数の支持部を周方向に間隔をあけて備えることができる。総ころ軸受の隣接するころ間には隙間が形成されるので、この隙間に支持部を挿入することによってころを支持し、内輪からの脱落を防止することができる。
【0009】
さらに、前記支持部は、前記内輪軌道面の軸方向の一端部側で各ころ間に挿入され、同軸方向の他端部に形成された内輪のつば部と協働して各ころを支持するように構成することができる。この場合、支持部をころの軸方向全体に亘る範囲に挿入する必要はなく、軸方向の一端部側に挿入すれば足りるので、支持部をコンパクトに構成することができる。
【0010】
前記ストッパは、前記内輪と同軸心の環状のベース面に対して軸方向に移動可能に嵌合され、前記支持部は、前記ストッパを軸方向に移動させることによって、各ころ間に対して挿脱可能に構成されることが好ましい。この構成によれば、ベース面にストッパを嵌合し、このベース面に対してストッパを軸方向に移動させるだけで、各ころ間に支持部を挿入したり、各ころ間から支持部を離脱させたりすることができる。
【0011】
さらに、前記ころ脱落防止具は、前記支持部が各ころ間に挿入される位置と、各ころ間から離脱する位置とで前記ストッパを位置決めする位置決め手段を備えていることが好ましい。これにより、支持部を各ころ間に対する挿入位置と離脱位置とに切り換えて位置決めすることができる。
【0012】
前記位置決め手段は、前記ベース面に対する前記ストッパの嵌合面から出没可能に前記ストッパに設けられかつ当該嵌合面から突出する方向へ付勢された係合部材と、前記ベース面に形成され、前記支持部が各ころ間に挿入されたときに前記係合部材が係合する第1凹部と、前記ベース面に形成され、前記支持部が各ころ間から離脱したときに前記係合部材が係合する第2凹部と、を備えることができる。このような構成によって、ストッパを容易に軸方向に移動させることができ、かつ、容易に所定の位置に位置決めすることができる。
【0013】
また、この場合には、第1,第2凹部を、前記ベース面に周方向に沿って形成された環状の溝として構成することができる。この場合、ころ間の位置に応じて支持部を周方向に移動させたとしても、係合部材を第1,第2凹部に係合させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ころ脱落防止具によって、外輪から内輪及びころを分離した状態で内輪からころが脱落するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る総ころ軸受10の断面図である。この総ころ軸受10は、主として風力発電機の主軸支持用に使用され、内輪11と、外輪12と、円すいころ13とを有する。内輪11の外周面には内輪軌道面14が形成され、この内輪軌道面14の一方(小径側)の軸方向端部には小つば部15が形成され、大径側の軸方向端部には大つば部16が形成されている。外輪12の内周面には外輪軌道面17が形成されている。内輪軌道面14と外輪軌道面17との間には複数の円すいころ13が転動可能に設けられている。この総ころ軸受10には、円すいころ13を保持するための保持器は設けられていない。
【0016】
前記総ころ軸受10には、外輪12から円すいころ13及び内輪11を分離したときに(図5(b)参照)、内輪11からの円すいころ13の脱落を防止するためのころ脱落防止具19が設けられている。ころ脱落防止具19は、図2に示すように、内輪11の大つば部16側の外周面に装着された環状のベース部材20と、このベース部材20の外周面(ベース面)20aに設けられた環状のストッパ21とを備えている。ベース部材20は、ボルト等によって着脱可能に、又は、溶接等によって着脱不能に内輪11に固定されている。
【0017】
ストッパ21は、ベース部材20の外周面20aに嵌合される環状の嵌合部22と、この嵌合部22から軸方向に突出する複数の支持部23とを備えている。嵌合部22はベース部材20の外周面に軸方向摺動可能に嵌合されている。支持部23は、複数の円すいころ13のP.C.Dよりも外周側(円すいころ13の中心線Oよりも径方向外側)に配置され、嵌合部22の円すいころ13側の側面から円すいころ13へ向けて、外輪軌道面17に接触しないように軸方向へ突出している。
【0018】
図3は図1のA−A矢視断面図、図4は図1のB矢視図である。支持部23は、円すいころ13と同じ数だけ設けられ、各円すいころ13の間(隙間S)に対応するように周方向に間隔をあけて配置されている。また、支持部23は、円すいころ13間に形成される略三角形状の隙間Sに適合した形状、具体的には断面三角形状(三角柱形状)に形成されている。
【0019】
支持部23は、ベース部材20上で嵌合部22を軸方向に摺動させることによって、各円すいころ13間に挿入される位置(図2に実線で示す;以下「挿入位置」という)と、各円すいころ13間から離脱する位置(図2に2点鎖線で示す;以下「離脱位置」という)との間で移動可能とされている。
【0020】
各円すいころ13間に挿入された支持部23は、円すいころ13の外周面に当接する。そして、支持部23は、外輪12から内輪11を取り外す際に(図5(b)参照)、小つば部15(図1参照)とともに円すいころ13を支持し、円すいころ13が内輪11から径方向外側へ脱落するのを防止する。
【0021】
図2に示すように、ころ脱落防止具19は、支持部23が挿入位置にある状態と離脱位置にある状態とでストッパ21を位置決めする位置決め手段25を備えている。この位置決め手段25は、所謂ボールディテント機構であり、嵌合部22の内周面から径方向外方へ向けて形成された有底の保持穴26と、この保持穴26に挿入された付勢部材としての圧縮コイルバネ27と、保持穴26内に挿入された係合部材としてのボール28と、ベース部材20の外周面に形成され、ボール28が嵌り込んで係合する凹部30,31とを備えている。ボール28は、嵌合部22の内周面に対して出没可能であり、圧縮コイルバネ27によって当該内周面から突出する方向に付勢されている。
圧縮コイルバネ27とボール28とが挿入された保持穴26は、周方向に間隔をあけて複数形成されている。各保持穴26は、互いに軸方向に関して同位置に配置されている。
【0022】
凹部30,31は、支持部23を挿入位置に配置したときにボール28が嵌り込む挿入側凹部(第1凹部)30と、離脱位置に配置したときにボール28が嵌り込む離脱側凹部(第2凹部)31とからなる。この挿入側凹部30及び離脱側凹部31は、ベース部材20の周方向に沿って延びる環状の溝とされている。
したがって、嵌合部22を軸方向に摺動させ、支持部23を挿入位置又は離脱位置に配置すると、ボール28が挿入側凹部30又は離脱側凹部31に嵌り込み、支持部23が各位置に位置決めされる。なお、嵌合部22の摺動を容易にするため、圧縮コイルバネ27とボール28とが挿入された保持穴26は、周方向3箇所以上に形成するのが好ましい。
【0023】
以上の構成において、総ころ軸受10を組み立てる場合や分解する場合には、支持部23を挿入位置へ移動して円すいころ13の間に挿入する。これによって、各円すいころ13は、小つば部15と支持部23とによって支持され、内輪11からの脱落が防止される。また、総ころ軸受10を組み立てた後に主軸の支持のために使用する場合は、支持部23を離脱位置へ移動する。これによって、支持部23が内輪11の回転(円すいころ13の回転)の障害になることはない。
支持部23は、小つば部15と協働して円すいころ13を支持しているので、支持部23を、円すいころ13の軸方向全体に亘るように長く形成する必要はなく、支持部23をコンパクトに短く形成することができる。
【0024】
円すいころ13と内輪11との周方向の相対位置は回転によって変化し得るが、本実施の形態では、挿入側凹部30及び離脱側凹部31が周方向に沿って延びる環状の溝とされているので、離脱位置において支持部23の軸方向の位置を位置決めした状態で、円すいころ13間の位置に合わせて支持部23を周方向に回転させることができ、その後、支持部23を挿入位置へ移動することによって、ボール28を挿入側凹部30に確実に嵌め込むことができる。なお、挿入側凹部30及び離脱側凹部31は、溝状ではなく球面状に形成されていてもよい。この場合、内輪11を回転させることによって、円すいころ13間の位置に支持部23を合わせることが可能である。
【0025】
離脱側凹部31が環状の溝とされている場合、この離脱側凹部31の溝底は、複数の保持穴26の周方向位置(間隔)と同じ位置(間隔)において部分的に深く形成することが好ましい。この場合、保持穴26に挿入されたボール28が溝底の深い部分に嵌め込まれることによって、ストッパ21がベース部材20に対して周方向に位置決めされる。そのため、内輪11が回転したときに、ストッパ21が慣性により内輪11に対して相対回転してしまうことを抑制することができる。特に、この場合には、ストッパ21をベース部材20に対して周方向に移動させた際に、全てのボール28が溝底の深い部分に嵌め込まれるようにするため、複数の保持穴26の周方向間隔を一定にすることが望ましい。
【0026】
ストッパ21が慣性により内輪11に対して相対回転しないよう、ストッパ21をベース部材20に固定してもよい。ストッパ21を固定するための手段としては、例えば、ストッパ21とベース部材20との接触面に窪み部を形成し、この窪み部に楔部材(キー部材)を挿入する方法がある。また、ストッパ21を固定するための他の手段として、ベース部材20に雌ねじを形成するとともにストッパ21に貫通孔を形成し、貫通孔から挿入したボルトを雌ねじに螺合する方法等がある。これらの方法の場合、離脱側凹部31にボール28を嵌合させることで、ストッパ21の窪み部とベース部材20の窪み部との位置合わせや、雌ねじと貫通孔との位置合わせを容易に行うことができる。
【0027】
本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に含まれる範囲で適宜設計変更可能である。例えば、ころ脱落防止具19のベース部材20やストッパ21は、複数のセグメントを周方向に連結することによって環状に形成されたものであってもよい。
ころ脱落防止具19のベース部材20は、内輪11と一体に形成されていてもよい。また、ベース部材20を省略することも可能である。この場合、ストッパ21を直接内輪11の外周面(この場合、当該外周面がベース面となる)に軸方向に摺動可能に嵌合し、当該外周面に挿入側凹部30及び離脱側凹部31を形成すればよい。また、圧縮コイルバネ27とボール28とが挿入された保持穴26は、ストッパ21に対して1箇所又は2箇所に形成してもよい。
【0028】
ころ脱落防止具19は、総ころ軸受10の組立時や分解時のみ内輪11に取り付けて使用し、総ころ軸受10の使用時は内輪11から取り外すようにしても良い。これにより、ころ脱落防止具19を別の総ころ軸受10にも使用することができる。また、この場合、支持部23を挿入位置と離脱位置とで位置決めする位置決め手段25を不要としてもよく、支持部23が円すいころ13間に挿入されるようにころ脱落防止具19を内輪11に取り付ければよい。
【0029】
ころ脱落防止具19は、内輪11の大つば部16側の外周面に限らず、小つば部15側の外周面に設けることもできる。この場合、ストッパ21の支持部23と大つば部16とによって円すいころ13を支持可能となる。
ストッパ21の支持部23の形状は、円すいころ13間に挿入可能でかつ円すいころ13を支持可能な形状であれば、断面三角形状に限らず、断面円形状、断面四角形状等であってもよい。
本発明は、円すいころ軸受に限らず、円筒ころ軸受にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る総ころ軸受の断面図である。
【図2】図1の総ころ軸受における要部の拡大断面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のB矢視図である。
【図5】従来技術に係る総ころ軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 総ころ軸受
11 内輪
12 外輪
13 円すいころ
14 内輪軌道面
15 小つば部
16 大つば部
17 外輪軌道面
19 脱落防止具
20 ベース部材
21 ストッパ
23 支持部
25 位置決め手段
28 ボール
30 挿入側凹部(第1凹部)
31 離脱側凹部(第2凹部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪軌道面を有する外輪と、
内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動可能に配置された総ころ式の複数のころと、
前記内輪に取り付けられ、前記外輪から前記ころ及び前記内輪を分離した状態で前記内輪からの前記ころの脱落を防止するストッパを備えたころ脱落防止具と、を有していることを特徴とする総ころ軸受。
【請求項2】
前記ストッパは、前記内輪と同一の軸心を有する環状に形成されており、各ころ間に挿入されることによって各ころの姿勢を支持する複数の支持部を周方向に間隔をあけて備えている請求項1に記載の総ころ軸受。
【請求項3】
前記支持部が、前記内輪軌道面の軸方向の一端部側で各ころ間に挿入され、前記内輪軌道面の同軸方向の他端部に形成された前記内輪のつば部と協働して各ころを支持するように構成されている請求項2記載の総ころ軸受。
【請求項4】
前記ストッパが、前記内輪と同一の軸心を有する環状のベース面に対して軸方向に移動可能に嵌合されており、
前記支持部が、前記ストッパを軸方向に移動させることによって、各ころ間に対して挿脱可能に構成されている請求項2又は3に記載の総ころ軸受。
【請求項5】
前記ころ脱落防止具は、前記支持部が各ころ間に挿入される位置と、各ころ間から離脱する位置とで前記ストッパを位置決めする位置決め手段を備えている請求項4に記載の総ころ軸受。
【請求項6】
前記位置決め手段が、前記ベース面に対する前記ストッパの嵌合面に対して出没可能に前記ストッパに設けられかつ当該嵌合面から突出する方向へ付勢された係合部材と、前記ベース面に形成され、前記支持部が各ころ間に挿入されたときに前記係合部材が係合する第1凹部と、前記ベース面に形成され、前記支持部が各ころ間から離脱したときに前記係合部材が係合する第2凹部と、を備えている請求項5に記載の総ころ軸受。
【請求項7】
前記第1,第2凹部が、前記ベース面に周方向に形成された溝である請求項6に記載の総ころ軸受。
【請求項8】
総ころ軸受の内輪に取り付けられ、前記総ころ軸受の外輪から内輪及びころを分離した状態で、前記内輪からのころの脱落を防止するストッパを備えていることを特徴とする総ころ軸受用のころ脱落防止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−185925(P2009−185925A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27373(P2008−27373)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】