説明

総形フライス工具およびその刃部の製造方法

【課題】 刃部全体を超硬ソリッドとし総形フライス工具において、製造時の研削加工の負荷と刃部の折損の危険性を減らした総形フライス工具を提供する。
【解決手段】 刃部1の全体が超硬合金製からなり、刃部1は接続部2を介してシャンク部3に着脱可能に接続した総形フライス工具であって、刃部1の第一逃げ面9に続く第二逃げ面7が、グリーン成形体の加工肌とした総形フライス工具である。総形フライス工具の刃部の製造方法は、グリーン成形体を製造した後に刃溝相当部分を残した状態で、第一逃げ面より縮径した第二逃げ面を形成した後に、このグリーン成形体を焼結して得た焼結体に、少なくとも最小径凹状部において刃溝10と第一逃げ面9を研削加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃部の全体が超硬合金からなり、刃部の切刃のくびれが大きい超硬合金製の刃部を、接続部を介してシャンク部に着脱可能に接続した新規な総形フライス工具、およびこの超硬合金製からなる総形フライス工具の刃部の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削工具においてその刃部の切刃の軸心方向に対する径が大きく異なり、くびれが大きい総形フライス工具として、クリスマスカッタ及びダブテールカッタが代表的なものである。クリスマスカッタは、タービン翼を回転軸(ロータ)に取り付けるクリスマスツリー状の接続用溝を加工する工具である。この工具はクリスマスツリー状の接続用溝の形状に対応して、くびれた刃部を有する。すなわち、刃部の外周切れ刃の刃先径は、クリスマスツリー状の溝幅の変化に対応して増減してくびれ、工具先端ほど小径となっている。
【0003】
くびれた形状の刃部を有するクリスマスカッタは、工具の製造上においても、切削加工に使用する際においても、最もくびれの大きい工具の先端近傍で折損するという危険を抱えている。このような理由により、通常のクリスマスカッタは、刃部が高速度工具鋼で製作されているのが主流である。
クリスマスカッタの寿命を延ばすためには、刃部を超硬合金製とするのが望ましい。しかし、刃部の全体が超硬合金からなる、いわゆる超硬合金ソリッドで製造することは、工具の製造自体が困難であること、製造時において工具の加工時間が長くなること、および使用時においては超硬合金の大きな重量の問題から機械の加工負荷が大きくなるという理由から、ほとんど普及していない。
そのために、現在、刃部を超硬合金製としたクリスマスカッタは、超硬合金製スローアウェイチップ(以下、超硬インサート刃ともいう。)を搭載したものに限られている。特許文献1には上記の超硬合金製スローアウェイチップを搭載したクリスマスカッタが記載されている。
【0004】
特許文献2には、刃部とシャンク部が同一の材質である高速度工具鋼で製造したクリスマスカッタが開示されている。特許文献2の図1(a)から明らかなように、刃部とシャンク部との間には、接続部に相当する部材はない。今日まで、刃部が超硬ソリッド製で、シャンクを鋼製として、両者を着脱可能に接続したクリスマスカッタは存在していない。この理由は、工具全体の製造コストや、刃付けの困難性といった製造面から、最適な超硬ソリッドの刃部が準備できなかったからであると推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−254812号公報
【特許文献2】特開2008−279547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、タービンの製造者は、回転軸(ロータ)とタービン翼を接続するための総形溝加工の加工時間の短縮を強く要望している。背景技術で記載した、従来の高速度工具鋼製のクリスマスカッタや超硬インサート刃を使用したクリスマスカッタでは、次のような課題がある。高速度工具鋼製のクリスマスカッタは寿命が短く、テーブル送りも遅く加工改善には限界があるので、加工時間短縮を希望するニーズには対応できない。
これに対して、超硬合金製スローアウェイインサートチップを使用したクリスマスカッタでは、前記インサートチップの脱着のためにねじなどで拘束してクランプする必要があるが、前記ねじなどで拘束する拘束部のスペースの制限から、工具刃部の刃数が1枚から2枚程度に限定され、刃数を減らす必要のない高速度工具鋼製と比較しても送り速度は向上しない。このため、工具費用の増大の割には、切削性能は結果的に高速度工具鋼製の工具と変わらないことになってしまう。
【0007】
従来は、刃部を超硬ソリッドで製造しようとしても、第一逃げ面に続くヒール上がりの研削加工が避けて通れないという未解決の課題があった。超硬合金製工具の研削加工は、高速度工具鋼を初めとする鋼材と比較して、研削負荷が甚大である。従って、従来は刃部の超硬ソリッド化が困難であった。
【0008】
また、従来の製造手段として、刃部用の超硬ソリッドを製造し、刃部の刃径が小さい部分の第一逃げ面を研削加工で所定寸法に形成することが考えられるが、靱性の低い超硬合金製素材であるために刃部の折損や刃欠けの事故が発生し、工業生産上実現が困難であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、刃部の全体が超硬合金からなり、前記刃部のくびれが大きい超硬合金製の刃部を、接続部を介してシャンク部に着脱可能に接続した新規で高性能な総形フライス工具、およびこの総形フライス工具の超硬合金製刃部の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の総形フライス工具は、刃部の全体が超硬合金からなる新規な高性能の超硬ソリッドタイプの工具である。従来のいわゆるくびれた形状のクリスマスカッタやタブテールカッタ等の場合、刃部の全体を超硬合金製にすると、刃部の刃数は従来の高速度工具鋼製の刃部と同様に確保できるものの、刃部の折損の危険性が工具製造上でも使用上でも増大する。特に、刃部の外周刃の刃径が、刃部の長手方向に小径や大径で繰り返されて、最小径部の折損の危険性が大きな問題となっていた。本発明はこの問題を抜本的に解決するものである。
【0011】
さらに、本発明は、従来の製造工程では必須であったヒール上がりの研削加工を不要とした。従って、本発明は、第一逃げ面の研削加工後に完成する刃部の形状としても特徴がある。
なお、上記した「従来の製造工程では必須であったヒール上がりの研削加工」における「ヒール上がり」とは、第一逃げ面を加工する時の砥石の円弧の形状がそのまま第一逃げ面の端(ヒール)に残る部分をいう。すなわち、従来の第一逃げ面加工後の工程においては、ヒール上がりを除去する加工は必然的に必要な工程であった。しかし、焼結体の研削加工は、工数とコストの点で負担の大きいものであり、できるだけ焼結体の研削工程を省略する本発明のメリットは大きいものである。
【0012】
ヒール上がりを作らないために、本発明では、刃部の第一逃げ面に続く第二逃げ面を、グリーン成形体の時点で前記第一逃げ面より縮径するように加工する。
本発明では第二逃げ面部分を超硬合金製のグリーン成形体の時点で削り取り、形状的には第一逃げ面より小さな径になるように縮径しておくのである。この結果、本発明の総形フライス工具の刃部は、刃部の完成段階として、第二逃げ面は研削砥石が当たることがないので、グリーン成形体を加工した肌が残っているのが特徴である。言い換えれば、本発明での総形フライス工具の刃部は、刃部の第二逃げ面を研削加工する必要がないので、超硬合金製の第二逃げ面の研削工数を大幅に削減できることになる。
【0013】
超硬合金製のグリーン成形体は、強度的には脆弱であり、容易に破損してしまう危険がある。その上に、本発明では第二逃げ面の加工を予めグリーン成形体で行うことを特徴としているので、グリーン成形体はできるだけ剛性があることが必要である。
そこで本発明では、超硬合金製のグリーン成形体の取り扱いを容易にして、グリーン成形体であっても、第二逃げ面の加工等で特に刃部の最小径凹状部の剛性を確保するために刃溝相当部分を焼結後の溝切り加工工程まで残しておくことに特徴がある。
刃溝相当部分は、焼結後の溝切り加工工程で初めて除去するのである。このことは、脆弱なグリーン成形体であり、特にクリスマスカッタの刃部の最小径凹状部では、第二逃げ面と刃溝を加工してしまうとグリーン成形体の剛性が低くなり折損してしまう恐れがある。よって、加工負荷の小さい第二逃げ面の加工を先に行い、刃溝の研削加工の負荷はそれなりに大きいが焼結後の剛性には問題がないため刃溝の研削加工は焼結後に行うようにした。
【0014】
上記課題を解決した本発明の総形フライス工具は、刃径の最大径凸状部と最小径凹状部の比が1.5倍以上のものを、刃部のみを取り替えることができるように、シャンク部とは切り離して刃部を製造し、接続部を介して刃部の全体が超硬合金製の刃部と鋼製のシャンク部を繋いで工具として使用する形状とすることが望ましい。
【0015】
「刃径の最大径凸状部と最小径凹状部の比が1.5倍以上からなる刃部」とは、刃部の製造時や使用時の折損の可能性から制限される条件により決定される刃部をいう。最大径凸状部と最小径凹状部の比が1.5倍より小さくなるような刃部を有する工具は、折損の危険性が減るので問題は小さくなるが、逆に刃部を超硬合金製にするメリットもさほど大きくない。
本発明では切削時の送り速度を倍増できるように、刃部の全体が超硬合金製であり、最大径凸状部と最小径凹状部の比が1.5倍以上からなる折損の確率の高い刃部としても、前記刃部をシャンク部とを着脱可能にすることによって、折損しても全体の工具を廃却するというデメリットをなくし、工具の素材費を削減することができるようにしている。
【0016】
シャンク部は、モールステーパのものやねじ仕様、あるいは、オイルホール付きなどの複雑な加工を必要とするものがある。シャンク部を含んだ工具全体を超硬合金製とすることは、前記複雑な加工には適さない。このため、複雑なシャンク部の仕様に対応するため、シャンク部を比較的硬度の低い鋼製にし、刃部の全体が超硬合金からなる刃部を着脱可能としたものである。
【0017】
本発明者は、上記の課題をより合理的に解決するために、超硬合金からなる刃部の形成方法を、超硬のグリーン成形体の加工工程から焼結後の焼結体の刃付けまでを全体として見直し、各製造工程での最適な製造方法及び超硬合金製の刃部として最適な形状を検討した。なお、本発明でいう「グリーン成形体」とは、この「グリーン成形体」を予備焼結(予備焼結を「仮焼」という場合がある)した成形体を含み、以下ではこの概念でグリーン成形体として記載する。なお、グリーン成形体を予備焼結した方が、予備焼結していないグリーン成形体よりも強度的に強くなるので予備焼結を行うことが望ましい。ここでいう「予備焼結」とは、粉末材料を混錬時に使用したワックス剤の脱ワックスや焼結前の材料の強度をもたせるために行う予備的な焼結処理の工程であって、約800℃〜1000℃の温度で予備焼結を行なう。
【0018】
上記した課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、刃部の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であって、
前記刃部は、第一逃げ面および第二逃げ面を備えるとともに、第二逃げ面はグリーン成形体の加工肌が焼結された肌からなることを特徴としている。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、刃部の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であって、
前記刃部は、第一逃げ面および第二逃げ面を備えるとともに、前記第二逃げ面は前記第一逃げ面と比べて縮径され、かつ前記第二逃げ面はグリーン成形体の加工肌が焼結された肌からなることを特徴としている。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、刃部の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であって、
前記刃部は、第一逃げ面および第二逃げ面を備えるとともに、前記第二逃げ面はグリーン成形体の加工肌が焼結された肌からなり、
前記刃部は、接続部を介して鋼製のシャンク部に接続されていることを特徴としている。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の刃部の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であって、
前記刃部の刃径が最大となる凸状部と最小となる凹状部との比が1.5倍以上とされていることを特徴としている。
【0022】
さらに、請求項5に記載の発明は、総形フライス工具の刃部の製造方法であって、前記製造方法は、
前記刃部の全体を、超硬合金からなる総形フライス工具形状からなるグリーン成形体を製造するグリーン成形体製造工程と、
前記グリーン成形体に形成された前記刃部の第一逃げ面および第二逃げ面について、切削加工または研削加工により、刃溝相当部分の一部または全部を残し、前記第一逃げ面より縮径した前記第二逃げ面を形成する第二逃げ面形成工程と、
前記第二逃げ面を形成した前記グリーン成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体に、少なくとも前記刃部の最小径となる凹状部に、研削加工により刃溝の形成と前記第一逃げ面の加工を行う仕上げ加工工程と、
を有することを特徴としている。
【0023】
なお、前記したように、予備焼結をしていないグリーン成形体に切削加工や研削加工を行うと、グリーン成形体に剛性上の問題が生じるので、グリーン成形体は予備焼結をして強度を少しでも上げておくことが望ましい。
【0024】
本発明においては、刃部が脆弱なグリーン成形体の状態であるときに、このグリーン成形体に形成されている第二逃げ面の加工を切削加工または研削加工により確実に実行して、ヒール上がりの加工を皆無にするという、いわば逆転の発想で、総形フライス工具の刃部の製造方法とそれによる新しい形状の超硬合金製の刃部を備えた超硬ソリッドタイプの実用性のある総形フライス工具を初めて開発したものである。
【0025】
本発明の総形フライス工具は、刃部の全体が超硬合金製の刃部の第一逃げ面に続く第二逃げ面が、グリーン成形体の加工肌が焼結されて残存した肌からなり、この刃部は接続部を介して鋼製のシャンク部に接続した構成にしている。このような構成にすると、刃径の最大径凸状部と最小径凹状部の比を問わず刃部を超硬ソリッドにしたメリットを確実な効果として得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、刃部の全体が超硬合金製であり、切刃の数も高速度工具鋼製と同様の刃数が確保できるので、切削速度が上がる分、テーブル送り速度を上げることができる。具体的に例示すると本発明の総形フライス工具では、高速度工具鋼製と比較して2倍乃至3倍のテーブル送り速度が達成できる。総形フライス工具の寿命も3倍乃至5倍に延長できる
また、第二逃げ面を縮径しているので、切削中に発生する逃げ面の擦れや切削油が逃げ面側にまで回ることにより、冷却性や潤滑性などが向上するばかりではなく、再研磨による外径の減径時に再び発生するヒール上がりも抑制でき、再研磨毎のヒール上がりの除去作業が不要となり、研磨コストも大幅に低減できる。
【0027】
本発明の総形フライス工具の刃部の製造面での効果として、本発明の総形フライス工具においては、刃部には研削加工を必要としない第二逃げ面を設けているので、従来必要であった第一逃げ面の面積が大幅に減少し、刃部の加工時間が従来の研削加工工程と比べて約半減する。
さらに、本発明の総形フライス工具においては、従来必要であった、ヒール上がりを除去するための研削加工が不要となり、この点でも研削加工時間が大幅に短縮できる。
【0028】
本発明の総形フライス工具の刃部の形状の最適化とその製造方法の確立により、総形フライス工具の工具径によらず、実用的な刃部の全体を超硬合金製とした総形フライス工具の量産が可能になった。
特に、本発明の総形フライス工具は、刃部とシャンク部を接続部で繋げる分割型にすることで、刃部とシャンク部の個々の損傷に対応でき、またニーズに応じたシャンク部の加工も容易になる。また、分割型にすることにより、超硬ソリッド刃部としても工具費の上昇を抑え、かつ工具性能の大幅な向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例を示す総形フライス工具の正面図である。
【図2】図1に示す総形フライス工具の軸方向の断面図である。
【図3】図1に示す総形フライス工具において、グリーン成形体の状態におけるA−A部に相当する断面図である。
【図4】図1に示す総形フライス工具のA−A矢視断面図である。
【図5】図1のA−A矢視断面図に相当する従来の工具において、そのヒール上がりを示した図である。
【図6】本発明の総形フライス工具の刃部の製造方法において、その製造工程の一例を示した図である。
【図7】本発明の総形フライス工具において、第二逃げ面の加工前であるグリーン成形体の状態を示す正面図である。
【図8】本発明の総形フライス工具において、第二逃げ面加工後のグリーン成形体の状態を示す正面図である。
【図9】本発明の総形フライス工具において、刃部に加工を施した後の完成状態を示す正面図である。
【図10】本発明の総形フライス工具において、刃部への刃溝加工前の第一逃げ面及び第二逃げ面を図1に示す矢印B方向から見た図である。
【図11】本発明の総形フライス工具において、刃部への刃溝加工後の第一逃げ面及び第二逃げ面を図1に示す矢印B方向から見た図である。
【図12】本発明の他の実施例を示す総形フライス工具の正面図である。
【図13】実施例2に使用した総形フライス工具の製造工程を示す図であって、(a)は本発明例2、(b)は従来例2の製造工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
本発明の総形フライス工具の最も基本的な構成を図1、図2に基づいて説明する。図1(図2)に示す総形フライス工具は、刃部1に形成している刃径が最大となる凸状部(以下、「最大径凸状部」)5と、刃径が最小となる凹状部(以下、「最小径凹状部」という)4の径(刃径)の比が1.5倍以上からなり、刃部1の全体が超硬合金からなっている。さらに、刃部1は接続部2を介してシャンク部3に着脱可能に接続した構成になっている。図2では、接続部2の代表例として、つばを介して接続した例を示している。シャンク部3は、モールステーパのものやねじ仕様、オイルホール付きなどの複雑な仕様を必要とするものがあり、シャンク部3を含んだ工具全体を超硬合金で製造することは、硬度が高く加工工具の寿命が短いなど大変困難であった。このため、複雑なシャンク部3の仕様に対応するため、シャンク部3を比較的硬度の低い鋼製にし、刃部の全体が超硬合金製の刃部1を着脱可能としたものである。
【0031】
本発明に係る総形フライス工具において、刃径の最大径凸状部5と最小径凹状部4の径の比は、1.5倍〜15倍の範囲に設定することが好ましい。1.5倍未満の場合は、刃部1に刃溝を加工するときに、刃部1とシャンク部3とを接続した状態で刃溝加工を行うため、この刃溝加工用の砥石がシャンク部3に干渉し、シャンク部3に傷が入り折損する。また、15倍を超える場合は、刃部1とシャンク部3とを接続した方式では切削加工時の切削条件が過大となるため、接続部2の剛性が不足して接続部3が折損する恐れがある。さらに望ましい範囲としては、刃部1と接続部2の切削トルクと接続部の剛性バランスが良い、3倍〜9倍の範囲がより好ましく、4〜7倍とするのがさらに好ましい。
【0032】
図3は図1に示す総形フライス工具において、グリーン成形体の状態におけるA−A部に相当する断面図を示し、図4は同じく図1に示す総形フライス工具について完成品におけるA−A矢視断面図である。図3と図4を比較してわかるように、第二逃げ面7がグリーン成形体の形状と完成品の形状とで同一である。なお、図3において、6は完成品における第一逃げ面9に相当する部分(第一逃げ面相当部分)、8は同じく完成品における刃溝10に相当する部分(刃溝相当部分)になる。
【0033】
図5に従来の第一逃げ面の加工において発生するヒール上がり11の状態を示す。図4の第一逃げ面9の加工時に使用する砥石が次の刃に当たることを回避するために、次の刃に当たる直前で砥石を停止させなければならない。このため、第一逃げ面9を加工する時の砥石の円弧の形状がそのまま第一逃げ面9の端(ヒール)に残る。従って、従来の第一逃げ面9の加工ではヒール上がり11を除去する加工を必然的に必要としていた。
【0034】
本発明の総形フライス工具は、刃部1の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であり、この総形フライス工具の刃部1の第一逃げ面9に続く第二逃げ面7がグリーン成形体の加工肌であることを特徴としている。
超硬合金製のグリーン成形体は、強度的には脆弱であり、容易に破損してしまう危険がある。その上に、本発明では刃部1の第二逃げ面7の加工を、予め刃部1がグリーン成形体のときに行うことを特徴としているので、グリーン成形体はできるだけ剛性があることが必要である。
【0035】
そこで本発明では、超硬合金製のグリーン成形体の取り扱いを容易にして、グリーン成形体であっても、第二逃げ面7の加工等で特に最小径凹状部4の剛性を確保するために、刃溝に相当する部分(刃溝相当部分)8の一部または全部を、このグリーン成形体の焼結後の溝切り加工工程まで残しておき、刃溝相当部分8は焼結後の溝切り加工(刃溝加工)工程で初めて除去するのである。この刃溝加工の状況を図3と図4に示している。図3に示す刃溝相当部分8(点線で囲んだ部分)は、焼結後において図4に示すように刃溝加工で除去され刃溝10が形成される。
【0036】
これに対して、刃溝10の研削加工をグリーン成形体の状態で行うと、グリーン成形体は脆弱なため、特にクリスマスカッタの最小径凹状部4では、第二逃げ面7と刃溝10とをグリーン成形体の状態で加工してしまうとグリーン成形体の剛性は低いため折損してしまう恐れがある。よって、本発明においては、刃部1の成形体について、加工負荷の小さい第二逃げ面7の加工をグリーン成形体の状態で行い、刃溝10の研削加工の負荷はそれなりに大きいが焼結後の成形体の剛性には問題がないため、刃溝10の研削加工は焼結後の加工としたことにより完成させたものである。
【0037】
また、本発明の総形フライス工具は、刃部1の第一逃げ面9に続く第二逃げ面7が、前記第一逃げ面9と比べて縮径されており、かつ前記第二逃げ面7はグリーン成形体の加工肌が焼結されて残存していることを特徴とする。図4からわかるように、第二逃げ面7は第一逃げ面9より直径が小さくなるように縮径して形成されている。このことにより、焼結体の研削加工は、工数とコストの点で負担が大きくなるので、できるだけ焼結体の研削工程を省略した方がメリットを生じる。
【0038】
本発明の総形フライス工具では、好ましくは、第二逃げ面7の部分を超硬合金製のグリーン成形体の時点で削り取り、形状的には第一逃げ面9より小さな径になるように縮径しておくのである。この結果、本発明の総形フライス工具の刃部は、刃部1の完成段階として、第二逃げ面7は研削砥石が当たることがないので、第二逃げ面7にはグリーン成形体を加工した加工肌が焼結された状態として製造後の製品の刃部に残っている。
【0039】
次に、本発明の総形フライス工具の刃部の製造方法について説明する。図6は、本発明の総形フライス工具の刃部の製造方法についてその製造工程を示す図である。図6に示すように、刃部の製造方法は、主として、グリーン成形体の製造から始まり第二逃げ面の加工、予備焼結、焼結(焼結温度は約1300℃〜1500℃)、及びその後のセンター研磨加工、インロー研磨加工、ねじ研磨加工、シャンク部と接続した後の円筒研磨加工、および刃溝加工、第一逃げ面加工を含む製造工程からなる。図6に示すように、グリーン成形体は、第二逃げ面の加工時の強度を確保するために予備焼結(図6に示す「仮焼」の工程)することが望ましい。本発明でいうグリーン成形体とは、先に定義したように仮焼により予備焼結した成形体を含む概念である。
【0040】
図6に示すセンター研磨加工は、刃部先端側凸センター15(図8参照)を凸状の円錐形に、また接続部側凹センター穴16(図8参照)を凹状の円錐形に研磨加工を行い、後の研磨加工の基準となるものである。
インロー研磨加工は、シャンク部と刃部を接続する際の基準となるインロー17(図8および図9参照)の円筒研削を行うもので、設定外径に対し、加工公差を0mm〜0.010mm程度に加工する。
ネジ研磨加工では、シャンク部と刃部を接続する手段である、締め付け用ネジ18(図9参照)を加工する。シャンク部と刃部を接続する際に、シャンク部と刃部のそれぞれに締め付けるためのスパナ掛けが必要となる。このスパナ掛けの加工は、焼結前でも後でも良いが、精度面では焼結の後に行うのが推奨される。
次にシャンク部と刃部を接続し一体化させ、外周円筒部14(図9参照)の研磨加工を行う。この外周円筒部14は、工具製作や使用の際などにクリスマスカッタの外周の振れを確認する目的で研磨加工を行う。
【0041】
グリーン成形体の製造工程で製造した図7に示すグリーン成形体は、第二逃げ面加工工程において刃溝相当部分8の一部または全部を残しておいて、第二逃げ面7が切削加工または研削加工により加工されて、図8に示す状態となり、焼結工程で焼結される。そして、焼結後、図10に示す刃溝加工前の状態のものが、刃溝10の加工、第一逃げ面9の加工後には図11に示す形状となり、その後の工程を得て図9に示す刃部1の加工が完了した完成品となる。このとき、図11に示す第一逃げ面9を加工すると、第一逃げ面9と第二逃げ面7とは段差7aを介して続いた状態になる。なお、図7、図8に示す12は、完成品において刃部1になる刃部相当部分であり、13は完成品において外周円筒部14になる外周円筒相当部分である。
【0042】
本発明に係る総形フライス工具の他の実施形態として、図12に示すようなダブテールカッタがある。
図12において、1は本発明に係る刃部であり、4はその最小径凹状部、5はその最大径凸状部である。2は接続部であり、3はシャンク部である。また、9は第一逃げ面、7は第二逃げ面である。このダブテールカッタは本発明の特長を具備し、極めて実用性に富むものである。
【0043】
続いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
本発明例として刃部が超硬ソリッドからなる総形フライス工具と,従来例として刃部が高速度工具鋼製からなる総形フライス工具を製作して切削加工を実施し、その性能比較を行った。
【0045】
この性能比較を行うために製作した総形フライス工具(クリスマスカッタ)の仕様は下記の通りである。なお、以下の本発明例と従来例の番号は両者を含めた通し番号で記載する。
本発明例および従来例として、形状としては同一の図1に示すような3つの凸状部を有する荒加工用クリスマスカッタ(以降、「カッタ」と記載する)について、その刃部が超硬合金製及び高速度工具鋼製でそれぞれ製作した。本発明例である超硬合金製の刃部は、後述する実施例2にも述べる本発明の製造方法で製造した。
【0046】
また、これら製作した本発明例および従来例のカッタは、カッタ先端よりカッタの第1凸状部の最大刃径が18mm、カッタの第2凸状部の最大刃径が26mm、カッタの第3凸状部の最大刃径が35mm、カッタの最大径凸状部の刃径が36mm、カッタの第1凹状部の最大刃径が8mm、カッタの第2凹状部の最大刃径が16mm、カッタの第3凹状部の最大刃径が23mm、軸方向の切刃の長さを約56mmとし、刃径の最大径凸状部と最小径凹状部の比が4.4倍、刃数が3枚、切刃には波状刃型としたラフィングタイプのものを製作した。なお、本発明例1のクリスマスカッタの接続部2は、図2に示すようにインローとねじから構成されシャンク部3に接続されているものとした。
【0047】
上記の本発明例と従来例のいずれにおいても、切削加工を行う被削材はSUS420(Crを約13質量%含むステンレス鋼)とした。切削条件は、本発明例1は、回転数が730回/min、送り速度は27mm/minとした。従来例1の切削条件は、回転数が250回/min、送り速度は10mm/minとした。
切削試験では水溶性切削液を使用した。なお、切削加工後の性能比較の評価として、切削長さがいずれの条件でも2000mmの時点で試験を中止し、カッタの最大径凸状部の第一逃げ面の摩耗幅を測定した。表1は、この摩耗幅の測定結果と上記した切削条件を示している。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より、本発明例1は、従来例1と比較してテーブル送り速度を2.7倍に上げたにもかかわらず、最大径凸状部の第一逃げ面の摩耗幅が0.04mmと小さく、チッピングなどの異常も見られず安定した加工であった。一方、従来例1のものは、最大径凸状部の第一逃げ面の摩耗幅が0.13mmと大きくなっており、本発明例1と比較して寿命が約1/3であった。
【0050】
(実施例2)
カッタの刃部の製造方法に係る加工工程の違いにより、この刃部の研削加工に要した時間の比較を行った。
実施例2に用いた本発明例2のカッタの製造工程の工程順は図13(a)に示すように、グリーン成形体の製造、予備焼結(仮焼)、第二逃げ面加工、焼結、センター研磨加工、インロー研磨加工、ねじ研磨加工、シャンク部と接続、円筒研磨加工、刃溝加工および第一逃げ面加工を経て完成品に至るものとした。従来例2のカッタの製造工程の工程順は図13(b)に示すように、グリーン成形体の製造、予備焼結(仮焼)、焼結、センター研磨加工、インロー研磨加工、ねじ研磨加工、シャンク部と接続、円筒研磨加工、刃溝加工、第一逃げ面加工およびヒール上がり除去加工を経て完成品に至るものとした。上記の製造工程を経て得られた完成品である本発明例2および従来例2のカッタは、実施例1と同一の寸法および刃数などの仕様とした。
【0051】
実施例2による研削加工時間の比較結果は、次の通りであった。本発明例2では、予備焼結後の工程である第二逃げ面加工の時間が50分、刃溝加工後に行う第一逃げ面加工の時間が270分を要した。これに対し、従来例2では、刃溝加工後に実施した第一逃げ面加工の時間が600分、ヒール上がり除去加工の時間が110分を要した。その他の工程の所要時間は同じであったので、本発明例2の工程の方が従来例2の工程よりも加工時間が390分短縮された。
以上のことから、本発明を実施することにより大幅な加工時間の短縮が可能となり、実用性が非常に高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、総型フライス工具が例えばクリスマスカッタであれば、超硬合金ソリッドクリスマスカッタの量産を工具の折損の不安なく安定して行うことができ、本発明の新規な刃部の形状によって、合理的なコストで刃部や全体の工具を製造することができる。
また、例えば、本発明をクリスマスカッタに適用すれば、最近需要の大きい発電用プラントや航空機産業に用いられるタービンロータの溝加工において、従来の高速度工具鋼の工具や超硬スローアウェイチップの工具と比較して、大幅に効率良く行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 刃部
2 接続部
3 シャンク部
4 最小径凹状部
5 最大径凸状部
6 第一逃げ面相当部分
7 第二逃げ面
8 刃溝相当部分
9 第一逃げ面
10 刃溝
11 ヒール上がり
12 刃部相当部分
13 外周円筒相当部分
14 外周円筒部
15 刃部先端側凸センター
16 接続部側凹センター穴
17 インロー
18 締め付け用ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃部の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であって、
前記刃部は、第一逃げ面および第二逃げ面を備えるとともに、前記第二逃げ面はグリーン成形体の加工肌が焼結された肌からなることを特徴とする総形フライス工具。
【請求項2】
刃部の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であって、
前記刃部は、第一逃げ面および第二逃げ面を備えるとともに、前記第二逃げ面は前記第一逃げ面と比べて縮径され、かつ前記第二逃げ面はグリーン成形体の加工肌が焼結された肌からなることを特徴とする総形フライス工具。
【請求項3】
刃部の全体が超硬合金からなる総形フライス工具であって、
前記刃部は、第一逃げ面および第二逃げ面を備えるとともに、前記第二逃げ面はグリーン成形体の加工肌が焼結された肌からなり、
前記刃部は、接続部を介して鋼製のシャンク部に接続されていることを特徴とする総形フライス工具。
【請求項4】
前記刃部の刃径が最大となる凸状部と最小となる凹状部との比が1.5倍以上とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の総形フライス工具。
【請求項5】
総形フライス工具の刃部の製造方法であって、前記製造方法は、
前記刃部の全体を、超硬合金からなる総形フライス工具形状からなるグリーン成形体を製造するグリーン成形体製造工程と、
前記グリーン成形体に形成された前記刃部の第一逃げ面および第二逃げ面について、切削加工または研削加工により、刃溝相当部分の一部または全部を残し、前記第一逃げ面より縮径した前記第二逃げ面を形成する第二逃げ面形成工程と、
前記第二逃げ面を形成した前記グリーン成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体に、少なくとも前記刃部の最小径となる凹状部に、研削加工により刃溝の形成と前記第一逃げ面の加工を行う仕上げ加工工程と、
を有することを特徴とする総形フライス工具の刃部の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−188513(P2010−188513A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273103(P2009−273103)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】