説明

緑内障の治療および予防用の医薬組成物

提供されているのは、(a)治療上有効な量の式1で表わされる化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤、或いはそれらの任意の組合せを含有する、緑内障の治療および予防用の医薬組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑内障の治療および予防用の医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は、(a)活性成分としての治療上有効な量のナフトキノンベースの化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはそれらの任意の組合せを含有する緑内障の治療および予防用に優れた効果をもつ医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼の外部表面は、眼球の後方にある網膜上に入射光を集光するためのレンズとして役立ち、網膜は光を受容し視神経を通って脳にさまざまな視覚的情報を伝達する。緑内障は、眼から脳への情報の伝達を担当する視神経の損傷に起因する視覚障害を伴う病状である。
【0003】
緑内障は、情報の伝達が完全に失われるという結果をもたらす視神経の傷害または損傷に起因して起こる疾病であり、従って視神経を損なう可能性のあるさまざまな要因が緑内障の発症に寄与し得る。緑内障の発症機序、発症原因および症候は上述の通り広範に多様であることから、緑内障は単一の疾病として並びに多重疾病としてみなされる。
【0004】
緑内障の共通の症候としては例えば、眼圧(IOP)上昇、緑内障性視神経乳頭陥凹および後続する異常な視野欠損が含まれ得る。緑内障に起因する眼の構造および機能の損傷の結果、失明する可能性がある。更に、眼内に存在する房水の量により左右される内部圧即ち眼圧が緑内障に起因して異常に高い場合、眼は硬くなり、これが網膜神経繊維および視神経の機能不全を導く可能性がある。これは、視神経の死を結果としてもたらす場合があり、ひとたび死んだ視神経は、その他の眼疾患とは異なり、蘇生不可能であり、従って視野狭窄そして最終的には永久的失明をひき起こす。
【0005】
緑内障は、先天性(発育異常)緑内障、原因がはっきりしない原発緑内障そして眼外傷または薬剤副作用によりひき起こされる続発性緑内障という3つのタイプに大きく分類され得る。緑内障というのは一般には、原発緑内障を意味する。
【0006】
先天性緑内障患者は、前房隅角の奇形をもって生まれ、水性流出物の閉塞がこのタイプの緑内障をひき起こす。原発緑内障は、更に、房水が眼から流れ出す前房隅角の遮断に応じて、異なる症候の発現を伴う2つのタイプ、即ち開放隅角緑内障および閉塞隅角緑内障に細分される。
【0007】
開放隅角緑内障は、前房隅角が開放しているにもかかわらず房水が流れる時に通る小柱網の抵抗の増加に起因する水性流出系の機能不良の結果として発生する眼圧上昇を伴う1タイプの緑内障である。閉鎖隅角緑内障は、前房隅角の閉塞に起因する水性流出物の遮断の結果としてもたらされる眼圧上昇という臨床症候を伴って起こる。急性閉鎖隅角緑内障は、前房隅角の突発的な遮断を伴う発作である。この場合、眼圧は急速に上昇して、眼の激痛、頭痛、催吐および弱視をひき起こす。
【0008】
続発性緑内障は、眼外傷、炎症、腫瘍、長年の白内障および糖尿病などのさまざまな病原因子によってひき起こされる可能性がある。続発性緑内障は同様に、その他の疾病の治療のためのステロイド薬剤の長期使用の結果である場合もある。ステロイドの適用は眼圧上昇を導き、従って緑内障をひき起こす可能性がある。
【0009】
緑内障の治療には、薬剤でIOPを制御できない場合に、レーザー治療、外科療法が実施されるが、一次治療としては薬剤療法が用いられる。
【0010】
緑内障の薬剤療法において従来使用されている薬剤としては、交感神経刺激剤(例えばエピネフリン、アプラクロニジンなど)、交感神経遮断薬(例えばチモロール、ベフノロール、カルテオロール、ニプラジロール、ベタキソロール、レボブノロール、メチプラノロールなど)、副交感神経アゴニスト(例えばピロカルピンなど)、炭酸脱水酵素阻害薬(例えばアセタゾラミドなど)、プロスタグランジン(例えばイソプロピルウノプロストン、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロストなど)、等々がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,969,163号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】V.ナイール(Nair)ら、Tetrahedron Lett.、第42号(2001年)、4549〜4551頁
【非特許文献2】A.C.バイリー(Baillie)ら、(J.Chem.Soc.(C)1968年、48〜52頁)
【非特許文献3】J.K.スナイダー(Snyder)ら、(Tetrahedron Letters、第28号(1987年)、3427〜3430頁)
【非特許文献4】「Remington’s Pharmaceutical Sciences」 Mack Publishing Co.、Easton、PA、第18版、1990年
【非特許文献5】J.Org.Chem.、第55号(1990年)4995〜5008頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これらの治療薬の大部分が点眼薬であり、眼圧降下効果をほとんど示さず、眼内に薬剤を滴下した際に眼の灼熱感および薬剤を常習的に投与した場合の眼の変色などのさまざまな薬剤副作用を示すことが報告されている。従って、副作用を削減することのできる安全な抗緑内障医薬品としての活性作用物質を開発するための緊急のニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的で、本発明の発明者らは、一部のナフトキノン化合物が緑内障に対する優れた予防的および治療的効果を示すことができるということを発見した。
【0015】
一方、従来のナフトキノンベースの化合物を活性成分として含有するいくつかの医薬組成物が当該技術分野において公知である。これらのナフトキノンベースの化合物のうち、β−ラパコンは、南米原産のラパチョの木(Tabebuia avellanedae)から誘導され、ズンニオンおよびα−ズンニオンも同じく南米原産のストレプトカルプス−ズンニ(Streptocarpus dunnii)の葉から誘導される。これらの天然に発生する三環系ナフトキノン誘導体は長い間、抗癌医薬としてのみならず、南米の代表的な風土病として公知のシャーガス病の治療のための医薬として使用されてきており、強力な効能を示すものとしても知られていた。特にこれらのナフトキノン誘導体の抗癌医薬としての薬理作用は、それらが西欧諸国に知られるようになって以来、大いに注目されてきた。特許文献1の中で開示されている通り、三環系ナフトキノン誘導体を利用する数多くの抗癌剤が現在、数多くの研究グループにより開発されている。
【0016】
関連する分野において実施されたさまざまな研究にも関わらず、これらのナフトキノンベースの化合物が緑内障の治療または予防に対する薬理学的に有益な効果を示すことを実証する報告書は、全く存在しない。
【0017】
以上で記述した通りの課題を解決するためのさまざまな広範かつ集約的な研究および実験の結果として、本発明の発明者らは、緑内障の治療または予防のために、或る種のナフトキノンベースの化合物を使用することができるということを新たに実証し、これらの化合物が、体の標的部位内に吸収可能となるように調合された場合に、所望の薬理効果を及ぼすことができることを発見した。本発明は、この発見事実に基づいて企図されたものである。
【0018】
本発明の一態様によると、上述のおよびその他の目的は、(a)式1
【化1】

により表わされる治療上有効な量の化合物またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはそれらの任意の組合せを含む緑内障の治療および予防のための医薬組成物において、
− RおよびRは各々独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシル、またはC−C低級アルキルまたはアルコキシであるか、或いはRおよびRは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
− R、R、R、R、RおよびRは各々独立して水素、ヒドロキシ、C−C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、或いはR〜Rのうちの2つは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
− Xは、C(R)(R’)、N(R’’)(式中、R、R’およびR’’は各々独立して水素またはC−C低級アルキルである)、OおよびSからなる群から選択され、好ましくはOまたはS、そしてより好ましくはOであり;かつ
− nが0である場合、nに隣接する炭素原子が直接結合を介して環状構造を形成することを条件として、nは0または1である、
医薬組成物を提供することによって達成可能である。
【0019】
本発明の発明者らが行なった実験によると、緑内障を誘発させたラットは酸化的ストレスを受けやすいことが観察された。かかる酸化的ストレスは、それが毒性反応性酸素種の産生を増加させる一方で緑内障をひき起こす視神経の損傷または負傷を加速し、網膜神経節細胞(RGC)および視神経を形成するRGC軸索の変性をひき起こすという点を考慮した場合、緑内障の開始に関与するものであると考えられる。
【0020】
上述の事実に基づいて広範かつ集約的な研究および実験を反復的に行なった結果、本発明の発明者は、上述のナフトキンベースの化合物が緑内障の治療および予防に対して優れた効果を示すということを確認した。これは、本発明のナフトキンベースの化合物が反応性酸素種により誘発される酸化的損傷を削減してRGCおよびRGC軸索の変性を防止するということに起因すると考えられる。
【0021】
本明細書で使用される通り、「薬学的に許容される塩」という用語は、投与される生体に対し有意な刺激をひき起こさず化合物の生物活性および特性を無効にしない化合物の調合物を意味する。薬学的に許容される塩の例としては、無機酸類例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸およびヨウ化水素酸;有機炭酸類例えば酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸;またはスルホン酸類例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸などの、薬学的に許容されるアニオンを含有する非毒性酸付加塩を形成することのできる酸と化合物の酸付加塩類が含まれていてよい。具体的には、薬学的に許容されるカルボン酸塩類には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩、アルギニン、リジンおよびグアニジンなどのアミノ酸との塩、ジシクロヘキシルアミン、N−メチル−D−グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリンおよびトリエチルアミンなどの有機塩基との塩が含まれる。本発明に係る式1または2の化合物は、当該技術分野において周知の従来の方法により、その塩へと転換されてよい。
【0022】
本明細書で使用される「プロドラッグ」という用語は、生体内で親薬剤へと転換される作用物質を意味する。プロドラッグは多くの場合、一部の状況下で親薬剤よりも投与が容易であり得ることから有用である。例えばプロドラッグは、親薬剤とは違って経口投与により生物学的に利用可能であり得る。プロドラッグは同様に、医薬組成物中において親薬剤に比べて改善された溶解度を有するかもしれない。限定的な意味のないプロドラッグの一例は、水溶性が移動度にとって不利である細胞膜を横断した輸送を容易にするべくエステル(プロドラッグ)として投与されるものの、その後水溶性が有益である細胞の内部にひとたび入ると活性実体であるカルボン酸へと代謝的に加水分解される本発明の化合物であると思われる。プロドラッグの更なる例は、ペプチドが代謝されて活性部分を顕示する酸性基に結合した短ペプチド(ポリアミノ酸)であると考えられる。
【0023】
かかるプロドラッグの例としては、本発明に係る医薬化合物は、以下の式1a
【化2】

により表わされ、式中、
− R、R、R、R、R、R、R、R、Xおよびnは、式1中で定義されている通りであり;
− RおよびR10が各々独立して−SONaであるかまたは以下の式A
【化3】

により表わされる置換基またはその塩であり;式中、
− R11およびR12は各々独立して水素または置換また未置換のC−C20直鎖アルキルまたはC−C20分岐アルキルであり、
− R13は、
i)水素;
ii)置換または未置換C−C20直鎖アルキルまたはC−C20分岐アルキル;
iii)置換または未置換アミン;
iv)置換または未置換C−C10シクロアルキルまたはC−C10ヘテロシクロアルキル;
v)置換または未置換C−C10アリールまたはC−C10ヘテロアリール;
vi)−(CRR’−NR’’CO)−R14(式中、R、R’およびR’’は各々独立して水素または置換または未置換C−C20直鎖アルキルまたはC−C20分岐アルキルであり、R14は水素、置換または未置換アミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、lは1〜5から選択される);
vii)置換または未置換カルボキシル;
viii)−OSONa
という置換基からなる群から選択され;
− kが0である場合、R11およびR12は不在であり、R13はカルボニル基に直接結合されることを条件として、kは0〜20から選択される、
プロドラッグを活性材料として含むことができる。
【0024】
本明細書で使用される「溶媒和物」という用語は、非共有分子間力によってそれに結合された化学量論量または非化学量論量の溶媒を更に含む本発明の化合物またはその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性、非毒性でかつ/またはヒトへの投与が許容されるものである。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。
【0025】
本明細書で使用される「異性体」という用語は、同じ化学式または分子式を有するものの光学的にまたは立体的に異なる本発明の化合物またはその塩を意味する。別段の規定のないかぎり、「式1または式2の化合物」は、化合物自体およびその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒和物および異性体を包含するものとして意図されている。
【0026】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、脂肪族炭化水素基を意味する。アルキル部分は、「飽和アルキル」基であってよく、このことは即ちそれがいかなるアルケンまたはアルキン部分も含んでいないことを意味している。或いは、アルキル部分は同様に、「不飽和アルキル」部分であってよく、このことは即ちそれが少なくとも1つのアルケンまたはアルキン部分を含むことを意味している。「アルケン」部分という用語は、少なくとも2つの炭素原子が少なくとも1つの炭素−炭素2重結合を形成する基を意味し、「アルキン」部分は、少なくとも2つの炭素原子が少なくとも1つの炭素−炭素3重結合を形成する基を意味する。アルキル部分は、それが置換されているかまたは未置換であるかに関わらず、分岐、直鎖または環状であってよい。
【0027】
本明細書で使用される「ヘテロシクロアルキル」という用語は、1つ以上の環状炭素原子が酸素、窒素または硫黄で置換され、例えばフラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジンおよびトリアジンを含む(ただしこれらに限定されない)炭素環式基を意味する。
【0028】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、共役パイ(π)電子系を有する少なくとも1つの環を有し、かつ炭素環アリール(例えばフェニル)および複素環アリール(例えばピリジン)基の両方を含む芳香族置換基を意味する。この用語には、単環または縮合環多環式(隣接する炭素原子対を共有する環)が含まれる。
【0029】
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つの複素環を含む芳香族基を意味する。
【0030】
アリールまたはヘテロアリールの例としては、フェニル、フラン、ピラン、ピリジル、ピリミジル、およびトリアジルが含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明に係る式1または式2中のR、R、R、R、R、R、RおよびRは、任意に置換されてよい。置換される場合、1つまたは複数の置換基は、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂肪環、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、O−カルボキシ、イソシアナト、チオシアナト、イソチオシアナト、ニトロ、シリル、トリハロメタンスルホニルおよび1および2置換アミノを含むアミノ、およびそれらの保護された誘導体の中から個別におよび独立して選択される1つ以上の基である。
【0032】
式1の化合物のうち、好ましいのは、以下の式3および5の化合物である。
【0033】
式3の化合物は、nが0であり隣接する炭素原子がその間の直接結合を介して環状構造(フラン環)を形成する化合物であり、以下「フラン化合物」または「フラノ−o−ナフトキノン誘導体」と呼ばれることが多い。
【化4】

【0034】
式4の化合物は、nが1である化合物であり、以下「ピラン化合物」または「ピラノ−o−ナフトキノン」と呼ばれることが多い。
【化5】

【0035】
式1においては、RおよびRの各々は、特に好ましくは水素である。
【0036】
式3のフラン化合物のうち、特に好ましいのは、式3aの化合物(式中、R、RおよびRは水素である)または式3bの化合物(式中、R、RおよびRは水素である)である。
【化6】

【化7】

【0037】
更に、式4のピラン化合物のなかで特に好ましいのは、式4aの化合物であり、式中、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれに水素である。
【化8】

【0038】
本明細書で使用される「医薬組成物」という用語は、希釈剤または担体などのその他の化学的構成要素と式1または式2の化合物の混合物を意味する。医薬組成物は、生体に対する化合物の投与を容易にする。化合物を投与するさまざまな技術が当該技術分野において公知であり、経口、注射、エアロゾル、非経口そして局所的投与を含むが、これらに限定されるわけではない。塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの酸と問題の化合物を反応させることによっても、医薬組成物を得ることができる。
【0039】
「治療上有効な量」という用語は、化合物を投与した時点で治療を必要とする疾病の症候の1つ以上を幾分か緩和または削減するため、または予防を必要とする疾病の臨床的マーカーまたは症候の開始を遅延させるために有効である活性成分の量を意味する。従って、治療上有効な量とは、(i)疾病の進行速度を逆転させる;(ii)疾病の更なる進行を幾分か阻害する;および/または(iii)疾病に関連する1つ以上の症候を幾分か緩和する(または好ましくは除去する)効果を示す活性成分の量を意味する。治療上有効な量は、治療を必要とする疾病について公知の生体内および試験管内モデル系の中で関係する化合物を実験することによって経験的に決定されてよい。
【0040】
本発明に係る医薬組成物においては、以下で例示する通り活性材料である式1または式2の化合物は、当該技術分野で公知の従来の方法によっておよび/または有機化学合成分野における一般的な技術および実践方法に基づくさまざまなプロセスによって調製可能である。以下で記述される調製プロセスは一例にすぎず、その他のプロセスも同様に利用可能である。従って、本発明の範囲は、以下のプロセスに限定されない。
【0041】
調製方法1:酸触媒環化による活性材料の合成
比較的単純な化学的構造をもつ三環式ナフトキノン(ピラノ−o−ナフトキノンおよびフラノ−o−ナフトキノン)誘導体は、一般に触媒として硫酸を用いる環化を介して比較的高い収量で合成される。このプロセスに基づいて、式1のさまざまな化合物を合成することができる。
【0042】
更に具体的には、上述の合成プロセスは以下の通りに要約できる。
【化9】

【0043】
即ち、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを塩基の存在下でさまざまなアリル型臭化物またはその等価物と反応させた場合、C−アルキル化生成物およびO−アルキル化生成物が同時に得られる。同様に、反応条件のみに応じて2つの誘導体のうちのいずれかを合成することも可能である。O−アルキル化誘導体が、トルエンまたはキシレンなどの溶媒を用いてO−アルキル化誘導体を還流させることによりクライゼン転位を通して別のタイプのC−アルキル化誘導体へと転換されることから、さまざまなタイプの3置換−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン誘導体を得ることが可能である。こうして得られたさまざまなタイプのC−アルキル化誘導体を、触媒として硫酸を用いる環化に付してもよく、こうして、これらの誘導体は、式1の化合物のうちのピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0044】
調製方法2:3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンを用いたディールス−アルダー反応
非特許文献1で教示されているように、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンとホルムアルデヒドを合わせて加熱した場合に生成される3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンをさまざまなオレフィン化合物とのディールス−アルダー反応に付すことによって、さまざまなピラノ−o−ナフトキノン誘導体を比較的容易に合成できるということが報告されている。この方法は、硫酸を触媒として用いる環化の誘発と比較した場合に、さまざまな形態のピラノ−o−ナフト−キノン誘導体を比較的簡単な要領で合成できるという点で有利である。
【化10】

【0045】
調製方法3:ラジカル反応によるハロアルキル化および環化
クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成において使用されるものと同じ方法を、フラノ−o−ナフトキノン誘導体の合成のために適切に利用することが可能である。即ち、非特許文献2により教示されている通り、3−ハロプロパン酸または4−ハロブタン酸誘導体から誘導される2−ハロエチルまたは3−ハロエチルラジカル化学種を2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンと反応させて3−(2−ハロエチルまたは3−ハロプロピル)−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを合成することができ、次にこれを適切な酸性触媒条件下で環化に付してさまざまなピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【化11】

【0046】
調製方法4:ディールス−アルダー反応による4,5−ベンゾフランジオンの環化
クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成において使用される別の方法は、非特許文献3によって教示されている方法であってよい。この方法によると、フラノ−o−ナフトキノン誘導体は、4,5−ベンゾフランジオン誘導体とさまざまなジエン誘導体の間のディールス−アルダー反応を介した付加環化によって合成可能である。
【化12】

【0047】
更に、上述の調製方法に基き、該当する合成方法を用いて、置換基の種類に応じたさまざまな誘導体を合成してよい。このように合成された誘導体および方法の具体例は、下表1に例示されている。具体的な調製方法は、以下の実施例の中で記述される。
【0048】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【0049】
本発明の医薬組成物は、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、研和、乳化、封入、捕捉または凍結乾燥プロセスを用いて、それ自体既知の要領で製造されてよい。
【0050】
従って、本発明に係る用途のための医薬組成物は、付加的には、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤またはその任意の組合せで構成されていてよい。それは、薬学的に使用可能である調製物への活性化合物の加工を容易にする賦形剤および助剤を含む1つ以上の薬学的に許容される担体を用いて、従来の要領で調合されてよい。医薬組成物は、生体に対する化合物の投与を容易にする。
【0051】
「担体」という用語は、細胞または組織内への化合物の取込みを容易にする化合物を意味する。例えばジメチルスルホキシド(DMSO)は、数多くの有機化合物の生体の細胞または組織内への摂取を容易にすることから、一般的に利用される担体である。
【0052】
「希釈剤」という用語は、問題の化合物を溶解させかつ化合物の生物学的に活性な形態を安定化させる、水中に希釈された化合物を定義している。緩衝溶液中に溶解した塩が、当該技術分野において希釈剤として利用されている。一般的に使用されている緩衝溶液はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であり、それがヒトの体液のイオン強度条件を再現しているからである。緩衝塩は低濃度で溶液のpHを制御できることから、緩衝希釈剤が化合物の生物活性を修飾することは稀である。
【0053】
本明細書中で記述されている化合物は、それ自体ヒトの患者に対して、または組合せ療法の場合のように化合物をその他の活性成分または適切な担体または1つまたは複数の賦形剤と混合している医薬組成物の形で投与されてよい。適切な調合は、選択される投与経路によって左右される。化合物の調合および投与のための技術は、非特許文献4に見出すことができる。
【0054】
体内に活性成分を投与するための医薬調合物に関するさまざまな技術が当該技術分野において公知であり、それには経口、注射、エアロゾル、非経口および局所投与が含まれるが、これらに限定されない。必要な場合には、これらは同様に、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの酸と問題の化合物を反応させることによって得ることもできる。
【0055】
当該技術分野において公知の従来の方法によって医薬調合を実施してもよく、好ましくは、医薬調合物は、経口、外部、経皮、経粘膜および注射用調合物であってよく、特に好ましいのは、経口調合物である。
【0056】
本発明に係る医薬化合物は、腸標的調合物の形に調製される経口医薬組成物である。これに関して、腸標的調合物は、腸内のみでの生体吸収に限定されず、治療的効果をもつ医薬組成物の大部分が腸内で吸収され、残りの部分が小腸と大腸とを除く器官の中で吸収されてもよい場合も含まれる。
【0057】
周知の経口医薬組成物は、数多くの活性成分が経口投与時に分解されることから、活性成分の減成を受ける。一方、本発明に係る医薬組成物は、活性成分の腸標的調合物を介して活性成分の生体吸収および生物学的利用能を増強することができる。
【0058】
腸標的調合物は、さまざまな方法を通して消化管の数多くの生理学的パラメータを利用することにより設計されてよい。本発明の1つの好ましい実施形態においては、腸標的調合物は、(1)pH感受性ポリマーに基づいた調合方法、(2)腸特異的細菌酵素により分解可能である生分解性ポリマーに基づく調合方法、(3)腸特異的細菌酵素により分解可能な生分解性マトリクスに基づく調合方法、または(4)所与の遅延時間の後の薬剤の放出を可能にする調合方法、およびそれらの任意の組合せによって調製されてよい。
【0059】
具体的には、pH感受性ポリマーを用いた腸標的調合物(1)は、消化管のpH変化に基づく薬剤送出系である。胃のpHは1〜3の範囲内にあり、一方小腸および大腸のpHは、胃に対比して、7以上の値を有する。この事実に基づいて、医薬組成物が消化管のpH変動による影響を受けることなく低い方の腸部分に確実に到達できるようにするためにpH感受性ポリマーを使用してよい。pH感受性ポリマーの例としては、メタクリル酸−アクリル酸エチルコポリマー(Eudragit: Rohm Pharma GmbHの登録商標)が含まれてよい。
【0060】
好ましくは、pH感受性ポリマーをコーティングプロセスによって添加してよい。例えば、ポリマーの添加は、溶媒中にポリマーを混合して水性コーティング懸濁液を形成させること、結果として得られたコーティング懸濁液を噴霧してフィルムコーティングを形成させること、そしてフィルムコーティングを乾燥させることによって実施されてよい。
【0061】
腸特異的細菌酵素により分解可能な生分解性ポリマーを用いた腸標的調合物(2)は、腸内細菌によって産生され得る特異的酵素の減成能力の利用に基づいている。具体的酵素の例としては、アゾ還元酵素、細菌加水分解酵素、グルコシダーゼ、エステラーゼ、ポリサッカリダーゼなどが含まれてよい。
【0062】
標的としてアゾ還元酵素を用いて腸標的調合物を設計することが所望される場合には、生分解性ポリマーはアゾ芳香族連結を含むポリマー、例えばスチレンおよびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のコポリマーであってよい。ポリマーが活性成分を含む調合物に添加される場合には、活性成分は、例えばバクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)およびユウバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)などの腸内細菌が特異的に分泌するアゾ還元酵素の作用を介してポリマーのアゾ基の還元により腸内に解放されてよい。
【0063】
グルコシダーゼ、エステラーゼまたはポリサッカリダーゼを標的として用いて腸標的調合物を設計することが所望される場合には、生分解性ポリマーは天然に発生する多糖類、またはその置換誘導体であり得る。例えば、生分解性ポリマーは、デキストランエステル、ペクチン、アミロース、エチルセルロースおよびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。ポリマーが活性成分に添加される場合、活性成分は、例えばビフィジス菌(Bifidobacteria)およびバクテロイデス種(Bacteroides spp.)などの腸内細菌が特異的に分泌する各酵素の作用を介してポリマーの加水分解によって腸内に解放されてよい。これらのポリマーは天然の材料であり、生体内毒性の危険性が低いという利点を有する。
【0064】
腸特異的細菌酵素によって分解可能である生分解性マトリクスを用いた腸標的調合物(3)は、生分解性ポリマーが互いに架橋され、活性成分または活性成分含有調合物に添加される1つの形態であってよい。生分解性ポリマーの例としては、硫酸コンドロイチン、グアーガム、キトサン、ペクチンなどの天然に発生するポリマーが含まれてよい。薬剤放出度は、マトリクス構成ポリマーの架橋度に応じて変動し得る。
【0065】
天然に発生するポリマーに加えて、生分解性マトリクスは、N置換アクリルアミドに基づく合成ヒドロゲルであってよい。例えば、マトリクスとして、アクリル酸によるN−tert−ブチルアクリルアミドの架橋または2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび4−メタクリロイルオキシアゾベンゼンの共重合により合成されたヒドロゲルが使用されてよい。架橋は例えば、上述の通りのアゾ連結であってよく、調合物は、架橋密度が維持されて腸の薬剤送出のための最適な条件を提供し、薬剤が腸に送出された時点で腸粘膜と相互作用するように連結が分解されている1つの形態であってよい。
【0066】
更に、遅延時間後の薬剤の経時的放出を伴う腸標的調合物(4)は、pH変化とは無関係に予め定められた時間の後に活性成分を放出できるようになっている機序を用いる薬剤送出系である。活性薬剤の腸内放出を達成するためには、調合物は胃内のpH環境に対する耐性を有していなくてはならず、腸内への活性成分の放出に先立つ体から腸までの薬剤の送出にかかる時間に対応する5〜6時間は沈黙期になくてはならない。時間特異的遅延放出型調合物は、ポリウレタンでのポリエチレン酸化物の共重合により調製されたヒドロゲルの添加によって調製されてよい。
【0067】
具体的には、遅延放出型調合物は、不溶性ポリマーに薬剤を適用した後上述の組成を有するヒドロゲルを添加した時点で、調合物が水を吸収し次に胃および小腸の上部消化管内部にとどまっている間に膨張し、その後、下部消化管である小腸の下方部分まで移動し、薬剤を解放し、薬剤の遅延時間がヒドロゲルの長さに応じて決定される立体配置を有していてよい。
【0068】
ポリマーの別の例としては、エチルセルロース(EC)を遅延放出型投薬調合物中に使用してもよい。ECは不溶性ポリマーであり、ぜん動運動に起因する腸の内部圧力の変化または水の浸透に起因する膨張媒質の膨張に応答して薬剤送出時間を遅延させるための一要因として役立つかもしれない。遅延時間は、ECの厚みにより制御されてよい。付加的な例として、ポリマーの厚み制御による所与の時限後の薬剤放出を可能にする遅延剤として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を使用してもよく、これは5〜10時間の遅延時間を有し得る。
【0069】
一方、注射用としては、本発明の作用物質を水溶液中、好ましくは生理学的に相容性ある緩衝液例えばハンクス溶液、リンガー溶液または生理食塩水などの中で調合してもよい。経粘膜投与のためには、通過対象の障壁に適した浸透剤が調合物中で用いられる。かかる浸透剤は一般に当該技術分野において公知である。
【0070】
化合物は、注射例えばボーラス注入法または連続輸液による非経口投与向けに調合されてよい。注射用の調合物は、単位剤形、例えば防腐剤が添加されたアンプルまたは複数回用量の容器の中に入った体裁をとっていてよい。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンといった形態をとってよく、懸濁剤、安定化剤または分散剤などの調合用作用物質を含有していてよい。
【0071】
或いは、活性成分は、使用の前に例えば無菌で発熱物質を含まない水などの適切なビヒクルを用いて構成するための粉末状であってもよい。
【0072】
本発明において使用するのに適した医薬組成物には、その意図された目的を達成するのに有効な量で活性成分が含有されている組成物が含まれる。より具体的には、治療上有効な量とは、疾病の症候を予防、緩和または改善するかまたは治療対象を延命するのに有効な化合物の量を意味する。治療上有効な量の決定は、特に本明細書中で提供されている詳細な開示に照らして、当業者の能力範囲内に充分入るものである。
【0073】
本発明の医薬組成物が単位剤形に調合される場合、活性成分としての式1または式2の化合物は、好ましくは約0.1〜1,000mgの単位用量で含有される。投与される式1または式2の化合物の量は、治療中の患者の体重および年令、疾病の特徴的性質および重症度に応じて主治医が決定する。
【0074】
本発明の別の態様によると、緑内障の治療および予防のための医薬品の調製における式1の化合物の使用が提供されている。「治療」という用語は、式1の化合物またはそれを含む組成物が疾病の症候を示す対象に対し投与された場合に、疾病の進行を停止させるかまたは遅延させることを意味する。「予防」という用語は、式1の化合物またはそれを含む組成物が、疾病の症候を全く示さないものの疾病の症候を発生させる高い危険性を有する対象に対して投与された場合に、疾病の症候を停止させるかまたは遅延させることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】蛍光顕微鏡(倍率400)下においてC57BL/6マウスの組織中で測定された染色網膜神経節細胞の密度を示すグラフである。
【図2】光学顕微鏡(倍率1000)下において視神経組織切片スライド内で測定された染色軸索の密度を示すグラフである。
【図3】ペアフィード法に従って動物を2週間飼育した後に測定された実験対象マウスの体重変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0076】
ここで本発明について、以下の実施例を参考にしながらより詳細に記述する。これらの実施例は、本発明を例示することのみを目的として提供され、本発明の範囲および精神を限定するものとしてみなされるべきものではない。
【0077】
実施例1:β−ラパコンの合成(化合物1)
120mlのDMSO中に2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン17.4g(0.10M)を溶解させ、それに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。ここで、反応は水素を発生させることから注意深く行なわなければならない。反応溶液を撹拌し、更なる水素生成が全くないことを確認した後、更にもう30分間撹拌した。その後、15.9g(0.10M)の臭化プレニル(1−ブロモ−3−メチル−2−ブテン)と3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃まで加熱し、その後この温度で12時間勢いよく撹拌した。反応溶液を10℃未満に冷却し、76gの氷をまず添加し、その後250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加して、結果として得た溶液を1超の酸性pHに維持した。反応混合物に200mlのEtOAcを添加し、その後この混合物を勢いよく撹拌してEtOAc中に溶解しなかった白色固体を生成させた。これらの固体を濾過し、EtOAc層を分離した。水性層を100mlのEtOAcで再度抽出し、以前に抽出した有機層と組合せた。有機層を150mlの5%のNaHCOで洗浄し、濃縮した。結果としての濃縮物を200mlのCHCl中で溶解させ、勢いよく振盪し、70mlの2NのNaOH水溶液を添加することで2つの層を分離した。更にCHCl層を、2NのNaOH水溶液(70ml×2)の処理により2回分離した。このように分離した水溶液を共に組合せ、2超の酸性pHに調整して固体を形成させた。結果として得た固体を濾過し、分離してラパコルを得た。このようにして得たラパコルを75%のEtOHから再結晶化させた。結果として得たラパコルを80mlの硫酸と混合し、混合物を10分間室温で勢いよく撹拌し、それに200gの氷を添加して反応を完了させた。反応材料に60mlのCHClを添加し、これを次に勢いよく振盪した。その後CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。30mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層をMgSO上で乾燥させ、濃縮して、不純物を含むβ−ラパコンを提供した。このようにして得たβ−ラパコンをイソプロパノールから再結晶化させ、それにより8.37gの純粋β−ラパコンを得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.05(1H,dd,J=1,8Hz)、7.82(1H,dd,J=1,8Hz)、7.64(1H,dt,J=1,8Hz)、7.50(1H,dt,J=1,8Hz)、2.57(2H,t,J=6.5Hz)、1.86(2H,t,J=6.5Hz)1.47(6H,s)
【0078】
実施例2:ズンニオンの合成(化合物2)
実施例1中のラパコルを得るプロセスにおいて、EtOAc中に溶解させずに分離した固体は、C−アリル化産物であるラパコルと異なりO−アルキル化産物である2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンである。分離した2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンをまず最初にEtOAcからもう一度再結晶化した。3.65g(0.015M)のこのように精製した固体をトルエン中に溶解させ、トルエンを5時間還流させてクライゼン転位を誘発させた。トルエンを減圧下での蒸留によって濃縮し、その後更なる精製なく15mlの硫酸と混合した。結果として得た混合物を10分間室温で勢いよく撹拌し、それに100gの氷を加えて反応を完了させた。反応材料に50mlのCHClを添加し、この材料を勢いよく振盪した。その後CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。20mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層をMgSO上で乾燥させ、濃縮し、シリカゲル上でのクロマトグラフィにより精製して、2.32gの純粋なズンニオンを得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.05(1H,d,J=8Hz)、7.64(2H,d,J=8Hz)、7.56(1H,m)、4.67(1H,q,J=7Hz)、1.47(3H,d,J=7Hz)、1.45(3H,s)1.27(3H,s)
【0079】
実施例3:α−ズンニオンの合成(化合物3)
実施例2中で精製した2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノン4.8g(0.020M)をキシレン中に溶解させ、キシレンを15時間還流して、実施例2に比べて著しく高い温度条件下でそして長時間の反応条件下でクライゼン転位を誘発した。この反応プロセスによって、環化まで進行したα−ズンニオンが、クライゼン転位を受け2つのメチル基のうちの1つがシフトしたラパコル誘導体と共に得られた。減圧下での蒸留によりキシレンを濃縮し、シリカゲル上でのクロマトグラフィにより精製して1.65gの純粋α−ズンニオンを得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.06(1H,d,J=8Hz)、7.64(2H,m)、7.57(1H,m)、3.21(1H,q,J=7Hz)、1.53(3H,s)1.51(3H,s)1.28(3H,d,J=7Hz)
【0080】
実施例4:化合物4の合成
120mlのDMSO中に2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン17.4g(0.10M)を溶解させ、それに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。ここで、反応は水素を発生させることから注意深く行なわなければならない。反応溶液を撹拌し、更なる水素生成が全くないことを確認した後、更にもう30分間撹拌した。その後、14.8g(0.11M)の臭化メタリル(1−ブロモ−2−メチルプロペン)と3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃まで加熱し、その後この温度で12時間勢いよく撹拌した。反応溶液を10℃未満に冷却し、80gの氷をまず添加し、その後250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加して、結果として得た溶液を1超の酸性pHに維持した。反応混合物に200mlのCHClを添加し、その後この混合物を勢いよく振盪し2つの層を分離した。水層を、70mlのCHClの添加によって再度抽出し、先に抽出した有機層と組合せた。2つの材料が新たに形成されることをTLCにより確認し、これらをその後、何ら特別な分離プロセスも無く使用した。減圧下での蒸留により有機層を濃縮し、キシレン中で再度溶解し、その後8時間還流させた。このプロセスにおいて、TLC上の2つの材料を1つに組合せて比較的純粋なラパコル誘導体を得た。こうして得たラパコル誘導体を80mlの硫酸と混合し、10分間室温で勢いよく撹拌し、それに200gの氷を添加して反応を完了させた。反応材料に80mlのCHClを添加し、これを次に勢いよく振盪した。その後、CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。水層を50mlのCHClを用いて再度抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層をMgSO上で乾燥させ、濃縮して、不純物を含むβ−ラパコン誘導体(化合物4)を得た。このようにして得たβ−ラパコン誘導体をイソプロパノールから再結晶化させ、それにより12.21gの純粋な化合物4を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.08(1H,d,J=8Hz)、7.64(2H,m)、7.57(1H,m)2.95(2H,s)1.61(6H,s)
【0081】
実施例5:化合物5の合成
臭化アリルが臭化メタリルの代りに用いられたという点を除いて、実施例4と同じ要領で化合物5を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.07(1H,d,J=7Hz)、7.65(2H,m)、7.58(1H,m)、5.27(1H,m)、3.29(1H,dd,J=10,15Hz)、2.75(1H,dd,J=7,15Hz)、1.59(3H,d,J=6Hz)
【0082】
実施例6:化合物6の合成
20mlのエーテル中に5.08g(40mM)の3−クロロプロピオニルクロリドを溶解させ、−78℃まで冷却した。この温度で勢いよく撹拌しながら、結果として得た溶液に対して1.95g(25mM)の過酸化ナトリウム(Na)を徐々に添加し、その後30分間更に勢いよく撹拌した。反応溶液を0℃まで加熱し、7gの氷をそれに添加し、その後更にもう10分間撹拌した。有機層を分離し、0℃で10mlの冷水を用いて再度洗浄し、次に0℃でNaHCO水溶液を用いて洗浄した。有機層を分離し、MgSO上で乾燥させ、0℃未満で減圧下での蒸留により濃縮して3−クロロプロピオン過酸を調製した。
【0083】
20mlの酢酸中に1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを溶解させ、予め調製した3−クロロプロピオン過酸を室温でそれに徐々に添加した。反応混合物を2時間撹拌しながら還流し、次に減圧下で蒸留して酢酸を除去した。結果として得た濃縮物を20mlのCHCl中に溶解させ、20mlの5%NaHCOで洗浄した。20mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層をMgSO上で乾燥させ、濃縮して、2−(2−クロロエチル)−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンとの混和物の形で化合物6を得た。結果として得た混合物をシリカゲル上でクロマトグラフィにより精製して0.172gの純粋なラパコン誘導体(化合物6)を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.07(1H,d,J=7.6Hz)、7.56〜7.68(3H,m)、4.89(2H,t,J=9.2Hz)、3.17(2H,t,J=9.2Hz)
【0084】
実施例7:化合物7の合成
120mlのDMSO中に2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン17.4g(0.10M)を溶解させ、それに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。ここで、反応は水素を発生させることから注意深く行なわなければならない。反応溶液を撹拌し、更なる水素生成が全くないことを確認した後、更にもう30分間撹拌した。その後、19.7g(0.10M)の臭化シンナミル(3−フェニレフリンニルアリルブロミド)と3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃まで加熱し、その後この温度で12時間勢いよく撹拌した。反応溶液を10℃未満に冷却し、80gの氷をまず添加し、その後250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加して、結果として得た溶液を1超の酸性pHに維持した。200mlのCHClを添加して反応混合物を溶解させ、その後この混合物を勢いよく振盪して2つの層を分離させた。水層を廃棄し、CHCl層を2NのNaOH溶液(100mL×2)で処理して水層を2回分離した。この時点で、2NのNaOH水溶液を用いた抽出後の残りのCHCl層を、再び実施例8で使用した。このように分離した水溶液を組合せ、濃HClを用いて2超の酸性pHに調整して固体を形成させた。結果として得た固体を濾過し、分離してラパコル誘導体を得た。こうして得たラパコル誘導体を75%のEtOHから再結晶化させた。結果として得たラパコル誘導体を50mlの硫酸と混合し、混合物を10分間室温で勢いよく撹拌し、それに150gの氷を添加して反応を完了させた。反応材料に60mlのCHClを添加し、これを次に勢いよく振盪した。その後CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。30mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層を濃縮して、シリカゲル上のクロマトグラフィにより精製して2.31gの純粋な化合物7を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.09(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.83(1H,d,J=7.6Hz)、7.64(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.52(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.41(5H,m)、5.27(1H,dd,J=2.5,6.0Hz)、2.77(1H,m)2.61(1H,m)、2.34(1H,m)、2.08(1H,m)、0.87(1H,m)
【0085】
実施例8:化合物8の合成
実施例7中の2NのNaOH水溶液を用いた抽出後の残留CHCl層を、減圧下での蒸留により濃縮した。結果として得た濃縮物を30mlのキシレン中に溶解させ、その後10時間還流してクライゼン転位を誘発した。キシレンを減圧下での蒸留により濃縮し、その後、更なる精製なく15mlの硫酸と混合した。結果として得た混合物を10分間室温で勢いよく撹拌し、100gの氷をこれに添加して反応を完了させた。反応材料に50mlのCHClを添加し、これを勢いよく振盪した。その後、CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。20mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層をMgSO上で乾燥させ、濃縮し、シリカゲル上のクロマトグラフィにより精製して1.26gの純粋な化合物8を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.12(1H,dd,J=0.8,8.0Hz)、7.74(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.70(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.62(1H,dt,J=1.6,7.6Hz)、7.27(3H,m)、7.10(2H,td,J=1.2,6.4Hz)、5.38(1H,qd,J=6.4,9.2Hz)、4.61(1H,d,J=9.2Hz)、1.17(3H,d,J=6.4Hz)
【0086】
実施例9:化合物9の合成
3.4g(22mM)の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エンおよび1.26g(15mM)の2−メチル−3−ブチン−2−オールを10mlのアセトニトリル中に溶解し、結果として得た溶液を0℃まで冷却した。3.2g(15mM)のトリフルオロ酢酸無水物を反応溶液に対し撹拌しながら徐々に添加し、これを次に0℃で撹拌し続けた。別のフラスコ内で10mlのアセトニトリル中に1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンおよび135mg(1.0mM)の塩化銅(CuCl)を溶解させ、撹拌した。先に精製した溶液を反応溶液に徐々に添加し、それを次に20時間還流させた。反応溶液を減圧下での蒸留により濃縮し、次にシリカゲル上のクロマトグラフィにより精製して純粋な化合物9を0.22g得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.11(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.73(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.69(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.60(1H,dt,J=1.6,7.6Hz)、4.95(1H,d,J=3.2Hz)、4.52(1H,d,J=3.2Hz)、1.56(6H,s)
【0087】
実施例10:化合物10
0.12gの化合物9を5mlのMeOH中に溶解させ、10mgの5%Pd/cをこれに添加し、その後3時間室温で勢いよく撹拌した。反応溶液をシリカゲルを通して濾過して5%のPd/cを除去し、減圧下での蒸留により濃縮して化合物10を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.05(1H,td,J=1.2,7.6Hz)、7.64(2H,m)、7.54(1H,m)、3.48(3H,s)、1.64(3H,s)、1.42(3H,s)、1.29(3H,s)
【0088】
実施例11:化合物11の合成
50mlの四塩化炭素中に1.21g(50mM)のβ−ラパコン(化合物1)および1.14g(50mM)のDDQ(2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン)を溶解させ、72時間還流した。反応溶液を、減圧下で蒸留により濃縮し、その後シリカゲル上でのクロマトグラフィにより精製して、1.18gの純粋な化合物11を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.08(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.85(1H,dd,J=0.8,7.6Hz)、7.68(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.55(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、6.63(1H,d,J=10.0Hz)、5.56(1H,d,J=10.0Hz)、1.57(6H,s)
【0089】
実施例12:化合物12の合成
1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、3.4g(50mM)の2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、3.0g(100mM)のパラホルムアルデヒドおよび20mlの1,4−ジオキサンを圧力容器内に入れ、これを48時間100℃で撹拌しながら加熱した。反応容器を室温まで冷却し、その中味を濾過した。濾液を減圧下での蒸留により濃縮し、その後シリカゲル上でのクロマトグラフィにより精製して238mgの化合物12をβ−ラパコンの2−ビニル誘導体として得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.07(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.88(1H,dd,J=0.8,7.6Hz)、7.66(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.52(1H,dt,J=0.8,7.6Hz)、5.87(1H,dd,J=10.8,17.2Hz)、5.18(1H,d,J=10.8Hz)、5.17(1H,17.2Hz)、2.62(1H,m)、2.38(1H,m)、2.17(3H,s)、2.00(1H,m)、1.84(1H,m)
【0090】
実施例13:化合物13の合成
20mlの1,4−ジオキサン中に1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、4.8g(50mM)の2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンおよび3.0g(100mM)のパラホルムアルデヒドを溶解させ、結果として得た混合物を10時間勢いよく撹拌しながら還流させた。反応容器を室温まで冷却し、その中味を濾過して固体からパラホルムアルデヒドを除去した。濾液を減圧下での蒸留により濃縮し、その後シリカゲル上でのクロマトグラフィにより精製して、β−ラパコン誘導体として、化合物13を428mg得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.06(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.83(1H,dd,J=0.8,7.6Hz)、7.65(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.50(1H,dt,J=0.8,7.6Hz)、5.22(1H,bs)、2.61(1H,m)、2.48(1H,m)、2.04(1H,m)、1.80(3H,d,J=1.0Hz)、1.75(1H,m)、1.72(1H,d,J=1.0Hz)、1.64(3H,s)
【0091】
実施例14:化合物14の合成
50mlの1,4−ジオキサン中に5.3g(30mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、20.4g(150mM)の2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエンおよび9.0g(300mM)のパラホルムアルデヒドを溶解させ、結果として得た混合物を10時間勢いよく撹拌しながら還流させた。反応容器を室温まで冷却し、その中味を濾過して固体からパラホルムアルデヒドを除去した。濾液を減圧下での蒸留により濃縮し、その後シリカゲル上でのクロマトグラフィにより精製して、β−ラパコン誘導体として、化合物14を1.18g得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.07(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.87(1H,dd,J=0.8,7.6Hz)、7.66(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.51(1H,dt,J=0.8,7.6Hz)、6.37(1H,dd,J=11.2,15.2Hz)、5.80(1H,broad d,J=11.2Hz)、5.59(1H,d,J=15.2Hz)、2.67(1H,dd,J=4.8,17.2Hz)、2.10(1H,dd,J=6.0,17.2Hz)、1.97(1H,m)、1.75(3H,bs)、1.64(3H,bs)、1.63(3H,s)、1.08(3H,d,J=6.8Hz)
【0092】
実施例15:化合物15の合成
50mlの1,4−ジオキサン中に5.3g(30mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、20.4g(50mM)のテルピネンおよび9.0g(300mM)のパラホルムアルデヒドを溶解させ、結果として得た混合物を10時間勢いよく撹拌しながら還流させた。反応容器を室温まで冷却し、その中味を濾過して固体からパラホルムアルデヒドを除去した。濾液を減圧下での蒸留により濃縮し、その後シリカゲル上でのクロマトグラフィにより精製して、4環式o−キノン誘導体として、化合物15を1.12g得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.06(1H,d,J=7.6Hz)、7.85(1H,d,J=7.6Hz)、7.65(1H,t,J=7.6Hz)、7.51(1H,t,J=7.6Hz)、5.48(1H,broad s)、4.60(1H,broad s)、2.45(1H,d,J=16.8Hz)、2.21(1H,m)、2.20(1H,d,J=16.8Hz)、2.09(1H,m)、1.77(1H,m)、1.57(1H,m)、1.07(3H,s)、1.03(3H,d,J=0.8Hz)、1.01(3H,d,J=0.8Hz)、0.96(1H,m)
【0093】
実施例16:化合物16および17の合成
120mlのDMSO中に2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン17.4g(0.10M)を溶解させ、それに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。ここで、反応は水素を発生させることから注意深く行なわなければならない。反応溶液を撹拌し、更なる水素生成が全くないことを確認した後、更にもう30分間撹拌した。その後、16.3g(0.12M)の臭化クロチルと3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃まで加熱し、その後この温度で12時間勢いよく撹拌した。反応溶液を10℃未満に冷却し、80gの氷をまず添加し、その後250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加して、結果として得た溶液を1超の酸性pHに維持した。200mlのCHClを添加して反応混合物を溶解させ、その後この混合物を勢いよく振盪して2つの層を分離させた。水層を廃棄し、CHCl層を2NのNaOH溶液(100mL×2)で処理して水層を2回分離した。この時点で、2NのNaOH水溶液を用いた抽出後の残りのCHCl層を、再び実施例17で使用した。このように分離した水溶液を組合せ、濃HClを用いて2超の酸性pHに調整して固体を形成させた。結果として得た固体を濾過し、分離してラパコル誘導体を得た。こうして得たラパコル誘導体を75%のEtOHから再結晶化させた。結果として得たラパコル誘導体を50mlの硫酸と混合し、混合物を10分間室温で勢いよく撹拌し、続いてそれに150gの氷を添加して反応を完了させた。反応材料に60mlのCHClを添加し、これを次に勢いよく振盪した。その後CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。30mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層を濃縮して、シリカゲル上のクロマトグラフィにより精製して、それぞれ1.78gおよび0.43gの純粋な化合物16および17を得た。
化合物16のH−NMR(CDCl,δ):δ8.07(1H,dd,J=0.8,6.8Hz)、7.64(2H,broad d,J=3.6Hz)、7.57(1H,m)、5.17(1H,qd,J=6.0,8.8Hz)、3.53(1H,qd,J=6.8,8.8Hz)、1.54(3H,d,6.8Hz)、1.23(3H,d,6.8Hz)
化合物17のH−NMR(CDCl,δ):δ8.06(1H,d,J=0.8,7.2Hz)、7.65(2H,broad d,J=3.6Hz)、7.57(1H,m)、4.71(1H,quintet,J=6.4Hz)、3.16(1H,quintet,J=6.4Hz)、1.54(3H,d,6.4Hz)、1.38(3H,d,6.4Hz)
【0094】
実施例17:化合物18および19の合成
実施例16中の2NのNaOH水溶液を用いた抽出後の残留CHCl層を、減圧下での蒸留により濃縮した。結果として得た濃縮物を30mlのキシレン中に溶解させ、その後10時間還流してクライゼン転位を誘発した。キシレンを減圧下での蒸留により濃縮し、その後、更なる精製なく15mlの硫酸と混合した。結果として得た混合物を10分間室温で勢いよく撹拌し、100gの氷をこれに添加して反応を完了させた。反応材料に50mlのCHClを添加し、これを勢いよく振盪した。その後、CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。20mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層をMgSO上で乾燥させ、濃縮し、シリカゲル上のクロマトグラフィにより精製して、それぞれ0.62gおよび0.43gの純粋な化合物18および19を得た。
化合物18のH−NMR(CDCl,δ):8.06(1H,dd,J=0.8,7.2Hz)、7.81(1H,dd,J=0.8,7.6Hz)、7.65(1H,dt,J=0.8,7.6Hz)、7.51(1H,dt,J=0.8,7.2Hz)、4.40(1H,m)、2.71(1H,m)、2.46(1H,m)、2.11(1H,m)、1.71(1H,m)、1.54(3H,d,6.4Hz)、1.52(1H,m)
化合物19のH−NMR(CDCl,δ):8.08(1H,d,J=0.8,7.2Hz)、7.66(2H,broad d,J=4.0Hz)、7.58(1H,m)、5.08(1H,m)、3.23(1H,dd,J=9.6,15.2Hz)、2.80(1H,dd,J=7.2,15.2Hz)、1.92(1H,m)、1.82(1H,m)、1.09(3H,t,7.6Hz)
【0095】
実施例18:化合物20の合成
120mlのDMSO中に2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン17.4g(0.10M)を溶解させ、それに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。ここで、反応は水素を発生させることから注意深く行なわなければならない。反応溶液を撹拌し、更なる水素生成が全くないことを確認した後、更に30分間撹拌した。その後、21.8g(0.10M)の臭化ゲラニルと3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃まで加熱し、その後この温度で12時間勢いよく撹拌した。反応溶液を10℃未満に冷却し、80gの氷をまず添加し、その後250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加して、結果として得た溶液を1超の酸性pHに維持した。200mlのCHClを添加して反応混合物を溶解させ、その後この混合物を勢いよく振盪して2つの層を分離させた。水層を廃棄し、CHCl層を2NのNaOH溶液(100mL×2)で処理して水層を2回分離した。このように分離した水溶液を組合せ、濃HClを用いて2超の酸性pHに調整して固体を形成させた。結果として得た固体を濾過し、分離して2−ゲラニル−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを得た。こうして得た生成物を更なる精製無く50mlの硫酸と混合し、混合物を10分間室温で勢いよく撹拌し、続いて150gの氷を添加して反応を完了させた。反応材料に60mlのCHClを添加し、これを次に勢いよく振盪した。その後CHCl層を分離し、5%のNaHCOで洗浄した。30mlのCHClを用いて再度水層を抽出し、5%のNaHCOで洗浄し、先に抽出した有機層と組合せた。有機層を濃縮して、シリカゲル上のクロマトグラフィにより精製して3.62gの純粋な化合物20を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.05(1H,d,J=7.6Hz)、7.77(1H,d,J=7.6Hz)、7.63(1H,t,J=7.6Hz)、7.49(1H,t,J=7.6Hz)、2.71(1H,dd,J=6.0,17.2Hz)、2.19(1H,dd,J=12.8,17.2Hz)、2.13(1H,m)、1.73(2H,m)、1.63(1H,dd,J=6.0,12.8Hz)、1.59(1H,m)、1.57(1H,m)、1.52(1H,m)、1.33(3H,s)、1.04(3H,s)、0.93(3H,s)
【0096】
実施例19:化合物21の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンの代わりに6−クロロ−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物21を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.02(1H,d,J=8Hz)、7.77(1H,d,J=2Hz)、7.50(1H,dd,J=2,8Hz)、2.60(2H,t,J=7Hz)、1.87(2H,t,J=7Hz)1.53(6H,s)
【0097】
実施例20:化合物22の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンの代わりに2−ヒドロキシ−6−メチル−1,4−ナフトキノンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物22を得た。
H−NMR(CDCl,δ):7.98(1H,d,J=8Hz)、7.61(1H,d,J=2Hz)、7.31(1H,dd,J=2,8Hz)、2.58(2H,t,J=7Hz)、1.84(2H,t,J=7Hz)1.48(6H,s)
【0098】
実施例21:化合物23の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンの代わりに6,7−ジメトキシ−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物23を得た。
H−NMR(CDCl,δ):7.56(1H,s)、7.25(1H,s)、3.98(6H,s)、2.53(2H,t,J=7Hz)、1.83(2H,t,J=7Hz)1.48(6H,s)
【0099】
実施例22:化合物24の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンの代わりに1−ブロモ−3−メチル−2−ペンテンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物24を得た。
H−NMR(CDCl,δ):7.30〜8.15(4H,m)、2.55(2H,t,J=7Hz)、1.83(2H,t,J=7Hz)、1.80(2H,q,7Hz)1.40(3H,s)、1.03(3H,t,J=7Hz)
【0100】
実施例23:化合物25の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンの代わりに1−ブロモ−3−エチル−2−ペンテンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物25を得た。
H−NMR(CDCl,δ):7.30〜8.15(4H,m)、2.53(2H,t,J=7Hz)、1.83(2H,t,J=7Hz)、1.80(4H,q,7Hz)0.97(6H,t,J=7Hz)
【0101】
実施例24:化合物26の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンの代わりに1−ブロモ−3−フェニレフリネニル−2−ブテンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物26を得た。
H−NMR(CDCl,δ):7.15〜8.15(9H,m)、1.90〜2.75(4H,m)、1.77(3H,s)
【0102】
実施例25:化合物27の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンの代わりに2−ブロモ−3−エチリデンシクロヘキサンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物27を得た。
H−NMR(CDCl,δ):7.30〜8.25(4H,m)、2.59(2H,t,J=7Hz)、1.35〜2.15(12H,m)
【0103】
実施例26:化合物28の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンの代わりに2−ブロモ−エチリデンシクロペンタンを使用したという点を除いて、実施例1と同じ要領で化合物28を得た。
H−NMR(CDCl,δ):7.28〜8.20(4H,m)、2.59(2H,t,J=7Hz)、1.40〜2.20(10H,m)
【0104】
実施例27:化合物29の合成
実施例5で合成した化合物5を8.58g(20mM)、1000mlの四塩化炭素中に溶解させ、続いて11.4g(50mM)の2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンを添加し、結果として得た混合物を96時間還流した。反応溶液を減圧下の蒸留により濃縮し、結果として得た赤色固体を次にイソプロパノールから再結晶化して7.18gの純粋な化合物29を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.05(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.66(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.62(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、7.42(1H,dt,J=1.2,7.6Hz)、6.45(1H,q,J=1.2Hz)、2.43(3H,d,J=1.2Hz)
【0105】
実施例28:化合物30の合成
非特許文献5中で教示された通りの合成方法と同じように、p−ベンゾキノンおよび1−(N−モルホリン)プロペンを用いて、4,5−ジヒドロ−3−メチルベンゾ[1,2−b]フラン−4,5−ジオン{ベンゾフラン−4,5−ジオン}を合成した。1.5g(9.3mM)のこのように調製されたベンゾフラン−4,5−ジオンおよび3.15g(28.2mM)の1−アセトキシ−1,3−ブタジエンを200mlのベンゼン中に溶解させ、結果としての混合物を12時間還流させた。反応溶液を室温まで冷却し、減圧下での蒸留により濃縮した。これに続いて、シリカゲル上でのクロマトグラフィに付し、1.13gの純粋化合物30を得た。
H−NMR(CDCl,δ):8.05(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.68(1H,dd,J=1.2,7.6Hz)、7.64(1H,td,J=1.2,7.6Hz)、7.43(1H,td,J=1.2,7.6Hz)、7.26(1H,q,J=1.2Hz)、2.28(3H,d,J=1.2Hz)
【0106】
実施例29:化合物31および32の合成
1.5g(9.3mM)の4,5−ジヒドロ−3−メチルベンゾ[1,2−b]フラン−4,5−ジオン{ベンゾフラン−4,5−ジオン}および45g(0.6M)の2−メチル−1,3−ブタジエンを、200mlのベンゼン中に溶解させ、結果として得た混合物を5時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、減圧下での蒸留により完全に濃縮した。このようにして得られた濃縮物を150mlの四塩化炭素中に再び溶解させ、続いて2.3g(10mM)の2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンを添加し、結果として得た混合物を15時間更に還流させた。反応溶液を冷却し、減圧下での蒸留により濃縮した。結果としての濃縮物をシリカゲル上のクロマトグラフィにより精製して、それぞれ0.13gおよび0.11gの純粋な化合物31および32を得た。
化合物31のH−NMR(CDCl,δ):7.86(1H,s)、7.57(1H,d,J=8.1Hz)、7.42(1H,d,J=8.1Hz)、7.21(1H,q,J=1.2Hz)、2.40(3H,s)、2.28(1H,d,J=1.2Hz)
化合物32のH−NMR(CDCl,δ):δ7.96(1H,d,J=8.0Hz)、7.48(1H,s)、7.23(2H,m)、2.46(3H,s)、2.28(1H,d,J=1.2Hz)
【0107】
方法と材料
1.実験対象の選択と割当て
実験動物を以下の3つのグループに分けた:
グループ1:無処置の正常なグループ(n=6)、
グループ2:緑内障モデルとしての通常食給餌対照グループ(n=7)、および
グループ3:緑内障モデルとしての、活性成分として実験例1の化合物1を含む医薬組成物50mg/kgを含有するげっ歯類用食の給餌を受けた実験グループ(n=7)。
【0108】
2.緑内障実験モデル−経瞳孔温熱療法(TTT)レーザー処置による視神経傷害モデルの確立
8週齢のC57BL/6マウスを、ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(5mg/kg)との混合物の腹腔内注射を用いて麻酔し、散瞳薬を適用して眼の瞳孔を拡張させた。その後、スポットサイズ200μm、出力50mW、持続時間30秒の経瞳孔温熱療法(TTT)を、片眼の視神経円板全体にわたって適用した。レーザーの照準光は、視神経円板の中心に焦点を合わせ、粘弾性材料を点滴注入し、カバーグラスを置き、肉眼で拡張した瞳孔を通して視神経円板を確認しながらレーザービームを照射した。こうして確立した視神経傷害モデルを以下、TTTレーザーモデルと呼ぶ。
【0109】
3.ペアフィード
実験動物の体重変化を確認する目的で、類似の体重を有するマウスを実験グループおよび対照グループから選択し一組にした。TTTレーザーモデルのレーザー処置の一日後、ペアフィード方法に従ってマウスに2週間給餌した。実験グループの給餌より24時間後に、対照グループの給餌を開始した。対照グループには、前日に実験グループに与えた実験例1の化合物1と同量の通常食(固形食;5053、Labdiet)を与えた。
【0110】
4.統計的分析
網膜神経節細胞および軸索の生存性を各グループについて分析し、2つのグループの間の差異(例えば実験対対照群)を、P<0.05である場合に統計学的に有意であるものと判定した。
【0111】
実験例1:網膜神経節細胞(RGC)の生存性
a)網膜神経節細胞の標識
TTTレーザーモデルのレーザー照射後13日目に、先のTTTレーザー処置の場合と同じ要領で動物を麻酔し、続いて視神経を露出させ、MVRブレードを用いて視神経鞘を切開した。露出させた視神経組織を切断し、DTMR(デキストラン・テトラジメチル・ローダミン)結晶を視神経の近接切断表面に適用して、軸索内輸送によりRGCに標識した。
【0112】
b)網膜神経節細胞についての生存性検定
標識から24時間後に、動物を安楽死させ、眼を摘出し、中性ホルマリンで2時間定着させた。その後、角膜および水晶体を角膜縁から除去し、網膜を脈絡膜から分離した。網膜を切開し、スライド上に平らに取付けた。4つの半径方向の切込みを視神経円板のまわりに入れ、続いて水性包埋剤を付加した。蛍光顕微鏡(倍率400)下で、視神経円板の縁部からおよそ0.5mm、1mmおよび1.5mmのところで各網膜の4象眼内の12の領域内で蛍光標識された網膜神経節細胞を計数した。計数は、3人の観測者により覆面方式で行なわれ、平均をとった。得られた結果を図1に示す。
【0113】
図1を参照すると、TTT対照グループ(グループ2)即ちレーザー照射を受け通常食の給餌を受けたTTTレーザーモデルの動物モデルが、正常な密度の網膜神経節細胞を有する動物グループ(グループ1)の2/1レベルに対応する網膜神経節細胞密度の著しい減少を示したということがわかる。しかしながら、本発明に係る医薬組成物(実験例1に化合物1)が投与された動物グループ(グループ3)は、TTT対照グループ(グループ2)よりも1.7倍以上高い網膜神経節細胞密度の有意な増加を示して、細胞損傷が遅延されたことそして損傷を受けた細胞が正常な条件に戻されたことを確認した。
【0114】
これらの結果から、本発明に係る医薬組成物は、情報伝達の遮断を結果としてもたらす網膜神経節細胞(RGC)の緑内障損傷に起因して発生する緑内障のための新規の治療薬として使用可能であるということがわかる。
【0115】
実験例2:軸索生存性
a)組織切片の調製および光学顕微鏡検査
TTTレーザーモデルのレーザー照射から14日目に、1グループにつき3匹の動物を、ケタミンとキシラジンとの混合物で麻酔し、眼を摘出し、中性ホルマリン中で定着させた。脱水およびパラフィン処理プロセスに従って調製された組織切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色して、個々の動物グループ間で網膜組織の損傷度および網膜厚みを比較した。網膜横断面および視神経横断面を特殊な染色に付して視神経繊維の損傷度および軸索生存性を動物グループ間で比較した。
【0116】
b)ボディアン染色および軸索生存性検定
網膜横断面および視神経横断面を48時間銀溶液で処理し、還元剤を用いて発色を実施し、その後調色および定着を行なった。その後、視神経繊維の損傷度を光学顕微鏡下で検査した。軸索生存性を評価する目的で、視神経組織切片スライドの中心から各網膜の4象眼内で10μmの間隔の20個の領域内において、光学顕微鏡(倍率1000)で、染色された軸索を計数した。計数は覆面方式で3人の観測者により行なわれ、平均をとった。得られた結果を、図2に示す。
【0117】
図2を参照すると、TTT対照グループ(グループ2)が、TTTレーザー照射に起因して軸索密度の有意な減少即ち正常グループ(グループ1)の2/1レベルを示し、一方、本発明に係る医薬組成物(実験例1の化合物1)が投与された動物グループ(グループ3)が、TTT対照グループ(グループ2)に比べて1.5倍以上高い軸索密度の有意な増大を示したということを確認できる。
【0118】
従って、本発明に係る医薬組成物は、網膜神経繊維の軸索の進行性消失の結果として発生する一群の疾病である緑内障の治療および予防のために有効に使用可能である。
【0119】
実験例3:マウスの体重に対する本発明の組成物の効果
本発明に係る医薬組成物(実験例1の化合物1)を与えた実験動物グループ内のマウスの体重に対して医薬組成物の投与が効果を有するか否かを確認するために、マウスに対し、TTTレーザーモデルのレーザー処置の後、ペアフィード方法に従って2週間給餌を行なった。個々の動物グループにおける体重の測定結果が図3に示されている。
【0120】
図3を参照すると、本発明に係る医薬組成物の投与は、緑内障に対する有意な予防的および治療的効果を示しながら正常グループに類似した給餌対体重増加プロフィールを示して正常なグループに類似した飼食摂取挙動および代謝活性を維持した。これらの結果から、本発明に係る医薬組成物は、代謝低下などの顕著な不利な効果をひき起こすとは考えられず、緑内障の治療および予防のための医薬組成物として有効であるものとして期待される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
以上のことから明らかであるように、本発明に係る医薬組成物は、網膜神経節細胞(RGC)および視神経を形成するRGC軸索の変性を妨げ、損傷を受けたRGCおよび軸索の回復を容易にして緑内障の治療および予防に対し優れた効果を有する。
【0122】
本発明の好ましい実施形態を例示目的で開示したが、当業者であれば、添付のクレーム中で開示されている通りの本発明の範囲および精神から逸脱することなくさまざまな修正、付加および置換が可能であるということを認識するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)治療上有効な量の、下記式1:
【化1】

(式中、
およびRは、各々独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシルまたはC−C低級アルキルまたはアルコキシであるか、或いはRおよびRは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
、R、R、R、RおよびRは、各々独立して水素、ヒドロキシ、C−C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、或いはR〜Rのうちの2つは統合して、飽和されていても部分的または完全に不飽和であってもよい環状構造を形成してもよく;
Xは、C(R)(R’)、N(R’’)(式中、R、R’およびR’’は、各々独立して水素またはC−C低級アルキルである)、OおよびSからなる群から選択され;
nが0である場合、nに隣接する炭素原子が直接結合を介して環状構造を形成することを条件として、nは0または1である)
により表わされる化合物を含む緑内障の治療および予防のための医薬組成物。
【請求項2】
XがOであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
プロドラッグが、下記式1a:
【化2】

(式中、
、R、R、R、R、R、R、R、Xおよびnは、式1中で定義されている通りであり;
およびR10は、各々独立して、−SO−Naであるか、または下記式A:
【化3】

(式中、
11およびR12は、各々独立して水素または置換また未置換のC−C20直鎖アルキルまたはC−C20分岐アルキルであり、
13は、下記置換基i)〜viii):
i)水素
ii)置換または未置換C−C20直鎖アルキルまたはC−C20分岐アルキル
iii)置換または未置換アミン
iv)置換または未置換C−C10シクロアルキルまたはC−C10ヘテロシクロアルキル
v)置換または未置換C−C10アリールまたはC−C10ヘテロアリール
vi)−(CRR’−NR’’CO)−R14(式中、R、R’およびR’’は、各々独立して水素または置換または未置換C−C20直鎖アルキルまたはC−C20分岐アルキルであり、R14は、水素、置換または未置換アミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択され、lは1〜5から選択される)
vii)置換または未置換カルボキシル
viii)−OSO−Na
からなる群から選択され;
kが0である場合、R11およびR12は不在であり、R13はカルボニル基に直接結合されることを条件として、kは0〜20から選択される)
により表わされる置換基またはその塩である)
により表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
式1の化合物が、下記式3および4:
【化4】

【化5】

(式中、R、R、R、R、R、R、RおよびRが式1に定義されている通りである)
の化合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
およびRが、各々水素であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
式3の化合物が、下記式3aの化合物(式中、R、RおよびRは各々水素である)または下記式3bの化合物(式中、R、RおよびRは各々水素である)であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【化6】

【化7】

【請求項7】
式4の化合物が、下記式4a:
【化8】

(式中、R、R、R、R、RおよびRがそれぞれに水素である)
の化合物であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
式1の化合物が、非晶構造内に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記非晶構造が、活性成分としての式1の化合物を調合する際、またはこの化合物を含有する医薬組成物を微粒子の形態に調合する際に得られることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記微粒子の形態への調合が、製粉、噴霧乾燥、沈殿方法、均質化および超臨界微粉化からなる群から選択される粒子微粉化方法を用いることにより実施されることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
腸標的調合物に調製されていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
腸標的調合が、pH感受性ポリマーの添加によって実施されることを特徴とする請求項15に記載の組成物。
【請求項13】
腸標的調合が、腸特異的細菌酵素によって分解可能である生分解性のポリマーの添加によって実施されることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
腸標的調合が、腸特異的細菌酵素により分解可能である生分解性マトリクスの添加によって実施されることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
腸標的調合が、遅延時間の後の薬剤の経時的放出を用いた構成(「時間特異的遅延放出型調合物」)によって実施されることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の式1の化合物を使用して、緑内障の治療および/または予防用の医薬品を調製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−507831(P2011−507831A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539297(P2010−539297)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007507
【国際公開番号】WO2009/082124
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(509010436)マゼンス インコーポレイテッド (11)
【出願人】(507287319)ケーティー アンド ジー コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】