説明

緑地の彩度補正システム

【課題】地理画像上の緑地領域を、鮮やかに補正することが簡単にできる彩度補正システムを提供する。
【解決手段】処理装置10には、地理画像データ21を補正することができる補正用プログラム40が組み込まれている。プログラム40は、植生指数を計算する植生指数計算部100と、彩度を補正する彩度補正部200とを含む。記憶装置20には、予め、地理画像データ21と、彩度補正関数データ23と、が記憶されている。地理画像データ21は、例えば人工衛星や航空機などの高度飛翔体から地表を撮影して得られた地表画像が使用され、色空間データ(例えば、RGB色空間データ)と近赤外線データ(IRデータ)とからなる。リモートセンシングの多バンドから求められる植生の有無・多少・活性度を示す指標である植生指数データ22は、プログラム40が地理画像データを処理することにより生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理における彩度補正技術に関する。より詳細には、上空から撮影した衛星画像や航空写真等を利用して緑地の色を鮮やかにするように補正する緑地の彩度補正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地図の作成・更新における広大な領域の探査や土地の被覆分類などに、衛星画像や航空写真が利用されているが、近年では、エンドユーザーに近い分野でも応用されてきている。例えば、不動産の分野では、物件を探している顧客が物件周辺の環境をイメージしやすいように、物件周辺の衛星画像を顧客に閲覧させるサービスも行われている。このようなサービスにより、顧客は遠く離れた土地であっても物件周辺の環境をイメージしやすくなり、物件を探すための良い手がかりを得ることができる。
【0003】
このような顧客に見せるための衛星画像は、画像全体の輝度や彩度を補正した画像であるため、ある程度見やすい画像となっているのが好ましい。しかしながら、緑地部分に関しては、人間の記憶色に比べて色あせて見えることが多く、顧客の購買意欲を削ぐこともある。
【0004】
緑地部分の彩度を補正する場合に、例えば、緑地を含む画像全体に対して彩度補正を施す方法、或いは、緑地部分の領域を選択し、選択された領域に対して彩度補正を施すなどの方法が用いられている。彩度補正を行うためには、取り込まれた画像データをもとに、彩度補正係数を決定してこの彩度補正係数を入力画像データの彩度成分に乗算するなどして彩度強調する手法が知られている。
【0005】
【非特許文献1】金子正美,外5名「湿原植生分類のためのリモートセンシング手法の研究」
【非特許文献2】平林雅英, 「C言語による最新プログラム辞典 第2巻」, 株式会社技術評論者, 1992年11月27日, p.104−110。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
画像全体に対して上記のような処理を行った場合には、緑地の領域は鮮やかになるものの、処理前の段階で既に十分な鮮やかさを有している領域に関しては、鮮やかになり過ぎ、かえって不自然な画像となってしまうことも多い。
【0007】
また、緑地部分の領域を選択し、その領域に対してのみ彩度補正を行う方法もあるが、このような方法をとった場合は、緑地部分の鮮やかさは改善され、処理前の段階で既に十分な鮮やかさをもつ領域は元のままの彩度となり、過度に鮮やかになることがない。しかしながら、緑地部分の領域と、他の領域との境界が不連続となり不自然な画像となってしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、緑地部分の領域の彩度を補正しつつ、他の領域に関しては自然になるような画像処理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、緑地らしさを表す指標(植生指数)を用いて、画像中の各画素の植生指数を判定し、植生指数に応じて彩度の強調度合いを変えて補正する。
【0010】
これにより、緑地部分の領域は鮮やかに補正することができ、また既に十分な鮮やかさを持つ緑地以外の領域に対しては彩度の補正を行わないため不自然な鮮やかさになることがない。
【0011】
さらに、前述したように、緑地領域のみを選択してその領域に対してのみ彩度補正を行った場合は、領域の境界が不連続になり不自然な画像となるが、本発明では、画素単位で彩度の強調度合いを決定するため、不自然な境界が発生することがない。
【0012】
本発明では、画像中の緑地領域を識別するために必要な植生指数を計算する植生指数計算処理と、植生指数の強さに応じた彩度の増分を計算する彩度補正処理と、を具備する。これにより、画像中の緑地部分を簡単に、鮮やかで美しく補正することができる。
【0013】
すなわち、本発明の一観点によれば、画像データにより形成されるデジタル画像における植生指数を計算する植生指数計算ステップと、彩度を色相及び輝度と独立した変数として処理可能なデータ形式に変換する色空間変換ステップと、前記植生指数の強さによる彩度の変化分の関数である彩度補正関数と、該彩度補正関数の比例定数である彩度補正強度と、をパラメータとして緑地の彩度補正を行なう彩度補正ステップと、前記色空間変換ステップにおいて前記画像データから得られた色相及び輝度と、前記彩度補正ステップにおいて得られた変換後の彩度と、を合成する逆色変換ステップと、をコンピュータに実行させる緑地の彩度補正プログラムが提供される。
【0014】
前記彩度補正関数として、植生指数が植生における範囲外における彩度の変化分を抑えた関数を用いることが好ましい。また、前記逆色変換ステップまでの処理を行ない、画像の再補正を行なう必要がある場合に、前記彩度補正ステップに戻るようにして、逆変換処理前の彩度を用いて彩度補正を行ない、次いで、逆色補正を行なうことも可能である。これにより、適切な補正ができるまで再帰的に処理を継続することができる。
【0015】
前記植生指数計算ステップにおいて画素毎に植生指数を計算し、前記彩度補正ステップにおいて、画素毎の植生指数に応じて画素毎の彩度を計算することも可能である。さらに、前記彩度計算ステップにおいて、植生指数の大きさに応じた彩度を変換する際の変換パターンを複数持つようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明による画像補正システムを利用すると、衛星画像や航空写真などにおける緑地部分だけを鮮やかに補正し、また、補正した領域と補正していない領域との境界が不自然になることなく美しく補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る画像処理技術について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態による画像処理装置の一構成例を示す機能ブロック図であり、例えば、建物配置情報を作成可能な装置の一例を示す図である。本実施の形態による画像処理装置は、例えばパーソナルコンピュータ又はワークステーションなどにより実現される処理装置10と、メインメモリとして使用されるRAM(ランダムアクセスメモリ)及び磁気ディスク記憶装置のような補助記憶装置とを含む記憶装置20と、ユーザインターフェイスを形成する入出力装置30と、を備えている。入出力装置30は、キーボード及びマウス等のポインティングデバイスを含む入力装置31と、CRTディスプレイ装置などの表示装置32と、プリンタ33などの出力装置と、を備える。
【0018】
入力装置31は、後述する各種パラメータを入力する場合などに用いられる。表示装置32又はプリンタ33は、入力画像や処理後の画像の画面表示又は印刷に使われる。記憶装置20内にデータが記憶されるときに、RAMと補助記憶装置とのいずれにデータを記憶するかに関しては、あらかじめ各データ毎に決めておくのが好ましい。
【0019】
処理装置10には、地理画像データ21を補正することができる補正用プログラム40が組み込まれている。プログラム40は、植生指数を計算する植生指数計算部100と、彩度を補正する彩度補正部200とを含む。記憶装置20には、予め、地理画像データ21と、彩度補正関数データ23と、が記憶されている。
【0020】
地理画像データ21は、例えば人工衛星や航空機などの高度飛翔体から地表を撮影して得られた地表画像(以降、「地表画像」と呼ぶことがある。)が使用され、色空間データ(例えば、RGB色空間データ)と近赤外線データ(IRデータ)とからなる。植生指数データ22は、プログラム40が地理画像データを処理することにより生成される。植生指数は、リモートセンシングの多バンドから求められる植生の有無・多少・活性度を示す指標である(たとえば非特許文献1を参照。)。
【0021】
非特許文献1に示されるように、代表的な植生指数には、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)があり、このNDVIは、以下の式で求めることができる。
【0022】
NDVI=(IR−R)/(IR+R)
ここで、IRは近赤外線バンドの反射率、Rは可視の赤バンドの反射率である。IRは0.7〜1.1μm程度、Rは0.5〜0.7μm程度の波長領域の反射率である。用いられる地表画像により波長帯が異なることがあるが、IRは植物の葉の細胞構造による反射率の高い近赤外域に対応しており、Rは葉に含まれるクロロフィルによる0.64〜0.67μm付近の強い吸収帯(可視光の赤)に対応している。換言すれば、IRとRとは、レッドエッジを挟んだ2つのバンドである。このため、画素に対応する地表上で植物の葉が多いほど、IRがRに比べて大きくなりNDVIの値は高くなる。
【0023】
彩度補正関数データ23は、プログラム40が地理画像データ21を処理する際に参照するデータであり、例えば植生指数に応じた変換後の彩度を決定する関数(彩度補正関数)として表すことができる。本実施の形態では、彩度補正関数が複数種類登録されており、ユーザの要求により適した彩度補正関数を選択することができる。補正後画像データ24は、プログラム40が植生指数データ22と彩度補正関数データ23とを用いて、地理画像データ21を処理した際に形成される色空間データ(例えばRGB色空間データ)である。
【0024】
次に、本実施の形態による画像補正処理について図面を参照しながら詳細に説明を行なう。図2及び図3(a)から(d)までは、本実施の形態による処理の流れを示すフローチャート図である。処理は、植生指数計算処理S101を実行することにより開始される。適宜、図1を参照しながら説明を行なう。植生指数計算処理S101では、地理画像データ21のR成分とIR成分から植生指数データ22を計算する(ステップS101-1)。求めた値を、植生指数データ22として記憶装置20に格納する(ステップS101-2)。
【0025】
尚、本実施の形態では、植生指数として前述のNDVIを使用する例を示したが、植生指数にはNDVI以外にも種類があり、他の種類の植生指数を使用してもよい。
【0026】
次に、上記地理画像データ21に対して色空間変換処理を行う(S102)。色空間変換処理S102では、地理画像データ21の色空間(例えばRGB色空間)を例えばHLS色空間変換し、彩度を色相や輝度とは独立して処理できる状態にする(ステップS102-1)(たとえば非特許文献2を参照)。尚、本実施の形態の一例では、変換後の色空間をHLS色空間に変換する例を示したが、彩度を色相や輝度と独立して扱える色空間であれば他の色空間に変換しても良い。
【0027】
次に、プログラム40は、彩度補正処理を実行する(S103)。彩度補正処理S103では、各種パラメータの入力と彩度補正とを行い、ユーザにとって最適な彩度の画像を作成する。ステップS103-1において、まずパラメータの入力を行う。次にパラメータに基づいて彩度補正を行う。彩度の補正は次式で行う(ステップS103-2)。
【0028】
S´=S+ΔS
但し、S´は変換後の彩度、Sは変換前の彩度、ΔSは彩度の増分である。
【0029】
上記入力パラメータとしては、彩度補正関数IDと彩度補正強度とがある。彩度補正関数は、植生指数の強さによる彩度の増分ΔSの変換関数である。記憶装置20には、予め、複数の彩度補正関数が登録されており、それぞれにIDがふられている。ユーザは登録された彩度補正関数の中から任意の彩度補正関数を選択し、対応する彩度補正関数IDを入力することができる。また、彩度補正強度は彩度補正関数の比例定数であり、彩度補正の強さを決定する。
【0030】
図4(a)は、彩度補正関数の一例を示す図である。図4(a)において、横軸はNDVI値であり、縦軸は彩度の増分ΔSである。図4(a)において、実線は彩度補正強度t=1の場合の関数による曲線であり、破線は、それぞれt=1.2及びt=0.7の場合の関数による曲線である。
【0031】
一般に、植生はNDVI値が0〜0.2以上であるため、−1≦NDVI≦0の領域では、ΔSは0にする。この工夫により、住宅や道路などの植生ではない領域の彩度の強調を抑制し、不自然な画像となることを防ぐことができる。NDVI≧0では、ΔSはなめらかに増加する。ΔSに関する最適な増加率はユーザの要求(主観など)によっても異なるため、彩度補正関数と彩度補正強度とで調整する。図4(b)は、図4(a)とは別種類の彩度補正関数の一例を示す図である。図4(b)に示す彩度補正関数は、−1≦NDVI≦0では、ΔSは0であり、NDVI≧0ではΔSをなめらかに増加させ、NDVIが一定以上の範囲を超えるとΔSが一定になる関数である。このような関数を適用すると、NDVIが高い植生領域の緑地の彩度を一定の増加率で上げることになるため、NDVIが高い植生領域の彩度が過度に強調されることを防止することができるという利点がある。適宜、その他の彩度補正関数を登録しておくことで、ユーザの要求に合った補正を迅速に行なうことが可能である。
【0032】
次に、プログラム40は、逆色変換処理を実行する(S104)。逆色変換処理ステップS104-1では、色空間処理(S102)において地理画像データ21を分解して得られた色相H及び輝度Lと、彩度補正処理(S103)で得られた変換後の彩度S´と、を合成する。
【0033】
以上のように、本実施の形態による画像補正システムでは、画像緑地領域を含む地表画像に対して補正を行うことで、緑地領域の彩度は適度に補正され(上がり)、色あせた緑地であっても鮮やかな色に変換することができる。また、住宅や道路のように彩度を補正する必要がない領域に関しては元の彩度を保持することができるため、これらの領域に関しては不自然に鮮やかになることを防止できる。尚、植生指数の強さに応じた彩度補正を画素単位で行うことにより画像に不自然な境界が生じることを防止できる。
【0034】
尚、図2において、ステップS104までの処理を行ない、画像を表示させた場合に、ユーザが再補正を行なう必要があると思った場合には、ステップS103に戻るようにしても良い。これにより、逆変換処理前の彩度を用いて彩度補正を行ない、次いで、逆色補正を行なうことができるため、適切な補正ができるまで再帰的に処理を継続することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、画像処理システム及びプログラムとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態による画像補正システムの一構成例を示す機能ブロック図である。
【図2】本実施の形態による画像補正処理の流れを示すフローチャート図である。
【図3】図3(a)から(d)までは、図2の各ステップの詳細を示す図である。
【図4】図4(a)は彩度補正関数と彩度強調度とを示す図である。図4(b)は図4(a)とは別の種類の彩度補正関数と彩度強調度とを示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10…処理装置、20…記憶装置、21…地理画像データ、23…彩度補正関数データ、30…入出力装置、31…入力装置、32…表示装置、33…プリンタ(出力装置)、40…補正用プログラム、100…植生指数計算部、200…彩度補正部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データにより形成されるデジタル画像における植生指数を計算する植生指数計算ステップと、
彩度を色相及び輝度と独立した変数として処理可能なデータ形式に変換する色空間変換ステップと、
前記植生指数の強さによる彩度の変化分の関数である彩度補正関数と、該彩度補正関数の比例定数である彩度補正強度と、をパラメータとして緑地の彩度補正を行なう彩度補正ステップと、
前記色空間変換ステップにおいて前記画像データから得られた色相及び輝度と、前記彩度補正ステップにおいて得られた変換後の彩度と、を合成する逆色変換ステップと
をコンピュータに実行させる緑地の彩度補正プログラム。
【請求項2】
前記彩度補正関数として、植生指数が植生における範囲外における彩度の変化分を抑えた関数を用いることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記逆色変換ステップまでの処理を行ない、画像を再補正を行なう必要がある場合に、前記彩度補正ステップに戻るようにして、逆変換処理前の彩度を用いて彩度補正を行ない、次いで、逆色補正を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−183710(P2007−183710A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159(P2006−159)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】