説明

緑茶の花の香りを再現した香料組成物

本発明は、緑茶の花の香りを再現した香料組成物に関し、より詳細には、SPME法または溶媒抽出法により分析された緑茶の花の香りの主成分に人工合成物質であるトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンまたはライラックアルコールを含有することによって、緑茶の花の固有香りを再現しながら、優れた嗜好性を有する香料組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑茶の花の香りを再現した香料組成物に関し、より詳細には、SPME法または溶剤抽出法により分析された緑茶の花の香りの主成分に人工合成物質であるトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンまたはライラックアルコールを含有することによって、緑茶の花の固有香りを再現しながら、優れた嗜好性を有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
茶木は、韓国の南部地方で栽培される常緑潅木であって、葉は、皮材質からなり、長い楕円形状を有し、端部に細い鋸歯があり、長さが略4〜10cm、幅が略2〜3cmである。花は、2〜2.5cm程度の白色の花であり、1〜3輪が葉のわきに付いて下方に垂れ、10月中旬から12月まで咲いて、固有の香りを持っている。
【0003】
特に、緑茶木(Camellia sinensis var. sineniscv. Shuixian and Maoxie)の葉は、昔から韓国、中国、日本国などで重要な嗜好飲料として広く利用されてきている。緑茶の品質は、茶葉の香気成分によって異なるので、緑茶の葉の香気成分に関する研究は、既に多く調査されて知られている。
【0004】
これに対し、緑茶の花(Camellia sinensis var. sineniscv. Shuixian and Maoxie)は、その効用価値が知られていないし、緑茶の葉の生産に役に立たないので、大部分廃棄することが現況である。しかし、緑茶の花は、特有の新鮮な香りを有していて、香料植物としての価値が注目される。
【0005】
このような優れた緑茶の花の香りを再現するための方法は様々なものがある。例えば、通常的な方法として、緑茶の花の香気成分を花精油(Absolute)の形態に作る溶媒抽出法と、香気成分を精油(Essential oil)に作る水蒸気蒸溜法が挙げられる。また、最近、試料の前処理無く、迅速で且つ簡便に香気成分を捕集、分析するヘッドスペース(Head Space)法と、SPME(Solid Phase Micro Extraction;SUPELCO international, Vol. 13, No. 4, p.9-10)法が開発された。
【非特許文献1】Solid Phase Micro Extraction;SUPELCO international, Vol. 13, No. 4, p.9-10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[技術的課題]
したがって、本発明者らは、生きている天然物の香り物質を分析するのに効果的なSPME法または溶媒抽出法を利用して、緑茶の花の香りを再現しようとした。その結果、アセトフェノン(Acetophenon)、フェニルエチルアルコール(Phenylethyl alcohol)などが緑茶の花の香りの主成分であることを知見し、これらを利用して緑茶の花の香りを再現しようとした。しかし、本発明者らが官能検査を行った結果、これらの成分だけでは緑茶の花の香りを再現することができないことを知見した。
【0007】
これより、本発明者らは、緑茶の花の香りを再現するために研究を重ねた結果、上記緑茶の花の香気の主成分に、香り改善香料として人工合成物質であるトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエン(E-4,8-dimethyl-1,3,7-nonatriene)またはライラックアルコール(Lilac alcohol)を有効成分として含有することによって、緑茶の花の固有香りを再現することができ、優れた嗜好性を有する香料組成物を知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明の目的は、緑茶の花の固有香りを再現することができ、優秀な嗜好性を有する香料組成物及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、上記香料組成物を構成成分として含有する化粧料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[技術的解決方法]
上記した目的を達成するために、本発明は、SPME法または溶媒抽出法で緑茶の花の香り成分を分析し、各々の香り成分に対する官能評価を通じて緑茶の花の香りの主成分を選別した後、前記香りの主成分に香り改善香料を含有させることを特徴とする緑茶の花の香りを再現した香料組成物の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、SPME法または溶媒抽出法により分析された緑茶の花の香りの主成分に人工合成物質であるトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンまたはライラックアルコールを含有する香料組成物を特徴とする。
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明では、緑茶の花の香り成分に対する分析方法としてSPME法または溶媒抽出法を使用する。SPME法は、特別な前処理なしにファイバー(Fiber)に吸着された香気成分がGC−MSの注入口で脱着され、速くカラムの内部に注入されて分析時間が大きく短縮され、生きている状態の緑茶の花の香気成分を分析するのに有利である。また、溶媒抽出法は、少量含有されているが香りに大きく影響を及ぼす香気成分を捜し出すために、緑茶の花を溶媒に沈積した後、香気成分を取り出す方法であって、SPME法に比べて時間は多くかかるが、緑茶の花の香気の発現に寄与する様々な成分を捜し出すのに有利である。
【0013】
SPME法により分析された緑茶の花の香りの主成分として、アセトフェノン(Acetophenon)、アルファ−フェニルエチルアルコール(α-Phenylethyl alcohol)、ベータ−フェニルエチルアルコール(β-Phenylethyl alcohol)及びリナロール(Linalool)が挙げられ、副次的な成分として、2−ペンタノン(2-Pentanone)、2−ペンタノール(2-Pentanol)、ベンジルアルコール(Benzyl alcohol)、シス−3−ヘキセニルアセテート(Z-3-hexenyl acetate)、ゲラニオール(Geraniol)、1−ペンテン−3−オール(1-Penten-3-ol)、アセトイン(Acetoin)、シス−3−ヘキセノール(Z-3-Hexenol)、リナロールオキサイド(Linalool oxide)、シス−4−ヘキセニルブチレート(Z-4-Hexenyl butyrate)及びリモネン(Limonene)が分析される。
【0014】
また、溶媒抽出法により分析された緑茶の花の香りの主成分として、アセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールが挙げられ、副次的な成分として、リナロール、ゲラニオール、リナロールオキサイド、メチルサリチレート(Methyl salicylate)、インドール(Indole)、バニリン(Vanillin)が分析される。
【0015】
上記のように分析された各々の香り成分を、調香師で構成された専門評価団により緑茶の花各々の香り成分に対する官能評価を行い、香りを分析する。分析された香りのうち緑茶の花の香りとの類似性及び香りの嗜好性が優秀な緑茶の花の香りの主成分を選別した後、前記香りの主成分に香り改善香料を含有させ、緑茶の花の香りを再現する香料組成物を製造する。
【0016】
本発明では、緑茶の花の香りの分析方法としてSPME法を使用した場合、主成分として、アセトフェノン、アルファ−フェニルエチルアルコール、ベータ−フェニルエチルアルコール及びリナロールと、副次的な成分として、2−ペンタノン、2−ペンタノール、ベンジルアルコール、シス−3−ヘキセニルアセテート、ゲラニオール、1−ペンテン−3−オール、アセトイン、シス−3−ヘキセノール、リナロールオキサイド、シス−4−ヘキセニルブチレート及びリモネンよりなる緑茶の花の香気成分に、人工合成物質として強いフローラルネロリ香気を有するトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンを有効成分として含有することによって、緑茶の花の固有香りを再現することができ、優秀な嗜好性を示す香料組成物を提供する。
【0017】
上記香料組成物は、組成物100重量%に対してアセトフェノンを44.00〜51.00重量%、アルファ−フェニルエチルアルコールを8.20〜13.00重量%、ベータ−フェニルエチルアルコールを3.50〜6.20重量%、リナロールを1.05〜3.50重量%の範囲で含有し、人工合成物質としてトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンを1〜10重量%の範囲で含有することが好ましい。
【0018】
その他副次的な成分である2−ペンタノンを6.00〜9.97重量%、2−ペンタノールを4.20〜7.23重量%、ベンジルアルコールを2.75〜4.95重量%、シス−3−ヘキセニルアセテートを2.00〜3.75重量%、ゲラニオールを1.76〜3.57重量%、1−ペンテン−3−オールを2.36〜2.40重量%、アセトインを1.21〜2.83重量%、シス−3−ヘキセノールを0.64〜1.05重量%、リナロールオキサイドを0.23〜0.78重量%、シス−4−ヘキセニルブチレートを0.02〜0.10重量%、リモネンを0.01〜0.07重量%の範囲で含有することができる。
【0019】
緑茶の花の香りを再現するための主要成分であるアセトフェノン、アルファ−フェニルエチルアルコール、ベータ−フェニルエチルアルコール、リナロール及び人工合成物質であるトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンは、上記範囲を脱した範囲で使用する場合、緑茶の花との香り類似性が低くなり、香りの嗜好性も低くなるので、好ましくない。その他の成分は、上記範囲内で使用することが好ましいが、緑茶の花の香りに大きく影響を及ぼさないので、緑茶の花の香りを再現するのに影響を及ぼさない限り、上記範囲を脱する量でも含有されることができる。
【0020】
本発明では、緑茶の花の香りの分析方法として溶媒抽出法を使用した場合、主成分として、アセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールと、副次的な成分として、リナロール、ゲラニオール、リナロールオキサイド、メチルサリチレート、インドール、バニリンよりなる緑茶の花の香り成分に、人工合成物質として、ライラックアルコールを有効成分として含有することによって、緑茶の花の固有香りを再現することができ、優秀な嗜好性を示す香料組成物を提供する。
【0021】
上記香料組成物は、組成物100重量%に対してアセトフェノンを26.0〜35.0重量%、アルファ−メチルベンジルアルコールを20.0〜27.0重量%、2−フェニルエチルアルコールを8.5〜11.0重量%の範囲で含有し、人工合成物質として、ライラックアルコールを0.1〜7.4重量%の範囲で含有することが好ましい。
【0022】
その他副次的な成分であるリナロールを3.0〜4.0重量%、ゲラニオールを1.5〜2.5重量%、リナロールオキサイドを2.0〜3.0重量%、メチルサリチレートを0.1〜1.0重量%、インドールを0.01〜0.1重量%、バニリンを0.01〜0.1重量の範囲で含有することができる。
【0023】
緑茶の花の香りを再現するための主要成分であるアセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール及び人工合成物質であるライラックアルコールは、上記範囲を脱した範囲で使用する場合、緑茶の花との香り類似性が低くなり、香りの嗜好性も低くなるので、好ましくない。しかし、その他の成分は、上記範囲内で使用することが好ましいが、緑茶の花の香りに大きく影響を及ぼさないので、緑茶の花の香りを再現するのに影響を及ぼさない限り、上記範囲を脱する量でも含有されることができる。
【0024】
また、上記範囲で混合された本発明に係る組成物は、化粧料の全体重量に対して0.1〜25.0重量%を含有して配合されることができ、例えばローション、クリーム、エマルジョンなどのような化粧品だけでなく、香水、軟膏、可溶化剤、懸濁液、ゲル、スプレイ、パップ剤、硬膏剤、パッチ剤またはムルパスなどの外用基剤に剤型化されることができる。これらの各剤型の配合量は、当業界において通常の技術によって、目的する効果を達成するために適宜選択して配合することができるが、これらに限定されず、当業界において公知されたいずれの基剤にも配合されることができる。
【0025】
本発明では、SPME法または溶媒抽出法により分析された緑茶の花の香り成分に基づいて香料組成物を組成し、これについて緑茶の花の香りとの類似性及び香りの嗜好性を嗅覚官能検査を通じて行った。官能検査は、専門調香師及び一般人によって実施され、緑茶の花の香りとの類似性及び香りの嗜好性は、アンケート調査を通じて評価された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[発明の実施のための形態]
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれらの例に限定されるわけではない。
【実施例1】
【0027】
[実施例1.SPME法を利用した緑茶の花の香り再現香料組成物]
[1−1.SPME法を利用した緑茶の花の香り分析]
官能評価上、緑茶の花の香りは、露がすべて消えた後に強く発散されるので、香気が強いカナヤミドリ品種の緑茶の花を一輪選択して午前10時から5時間の間に85μmのポリアクリレートでコーティングされたファイバー(Polyacrylate Fiber)を利用して香気成分を捕集した。捕集場所は、済州島西広里に位置する太平洋西広茶園であり、捕集時の温度は、18℃であり、風はなかった。
【0028】
香り成分を捕集した後、ファイバー(Fiber)を密封し、これをGC−MSの注入口に移して差した後、2分間脱着させ、GC−MS分析を行った。GC−MS分析条件は、次の通りである。
【0029】
[分析条件]
分析機器:HP 5890 II GC
検出器:HP 5972 MSD
カラム:DB-1(60mX0.25mmX0.25um)
運搬気体:He
注入温度:250℃
検出温度:280℃
オーブン温度:70℃〜220℃(3℃/min)
イオン電圧:70eV
脱着時間:2min
【0030】
その結果、SPME法により分析された緑茶の花の香気成分は、下記表1の通りである。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、緑茶の花は、アセトフェノン、2−ペンタノン、アルファ−フェニルエチルアルコール、ベータ−フェニルエチルアルコール及び2−ペンタノールなどを主要な香気成分にしており、これらの主要成分は、全体の84.4重量%を占める。
【0033】
[1−2.分析結果で組成された香料と天然緑茶の花の香りとの比較官能評価]
上記分析された結果に基づいて新たに組成した下記表2の組成を有する香料組成物(サンプルB)を作り、この香料と天然緑茶の花との香り類似性を、官能評価を通じて検証した。
【0034】
【表2】

【0035】
官能評価は、20〜45才の一般男女20名を対象にし、緑茶の花が満開した植木鉢のサンプルAと、SPME法で再現した香料組成物のサンプルBの香りを各々嗅ぐようにし、下記表3のアンケート紙に応答するようにすることで、サンプルAとサンプルBとの香り類似性(質問1)及び香りの嗜好性(質問2)を調査した。その結果を表4に示した。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
上記表4から明らかなように、香料組成物のサンプルBは、天然緑茶の花の香りと多くの差異があり、嗜好性も低いことが分かる。
【0039】
[1−3.専門評価団による香り分析と緑茶の花との香り比較]
上記SPME法により分析された成分で組成した香料組成物は、緑茶の花と香り類似性がなかった。これより、調香師で構成された専門評価団は、緑茶の花各々の香り成分に対して官能評価を行った。その結果、緑茶の花の香り成分のうち、ネロリ(Neroli)香りを作るアセトフェノンと、ローズ(Rose)香りを作るアルファ及びベータ−フェニルエチルアルコールと、ハーブフローラル(Herbal Floral)香りを作るリナロールの4つの成分が緑茶の花の固有香りを作る主要成分であることを確認した。特に2つの種類のフェニルエチルアルコールの含量を他の種類の花と比較した時、緑茶の花には、アルファ−フェニルエチルアルコールの含量がベータ−フェニルエチルアルコールの含量より相対的に多量含有されており、アルファ−フェニルエチルアルコールによって陰々ながらも拡散性や持続性が良い緑茶の香りを発現させることを確認した。
【0040】
一方、SPME分析結果において、アセトフェノン、アルファ−フェニルエチルアルコール、ベータ−フェニルエチルアルコール、リナロールとともに主成分として分類された2−ペンタノン、2−ペンタノールは、緑茶の花の香りの発現に別に影響を与えないことを官能評価を通じて確認した。
【0041】
[1−4.4つの主成分の含量変化による新しい香料組成物の製造]
上記1−3から、緑茶の花の独創的香りの主成分がアセトフェノン、アルファ及びベータ−フェニルエチルアルコール、リナロールであることを確認することができた。したがって、本発明者らは、これらの4つの成分を含有し、緑茶の花の香りをそのまま示しながら、嗜好性が良い香料を製造するために、下記#1−1〜#1−8の新しい香料組成物を作った。香料組成物#1−1〜#1−8は、これらの4つの成分の割合を一定に維持しながら、表5の組成において4つの香料の全体含量を60〜95重量%で変化させて製造した。
【0042】
【表5】

【0043】
[1−5.新しい香料組成物の官能評価]
新たに配合された8つの香料組成物に対して、緑茶の花の香りとの類似性及び嗜好性を、上記表3と同一の方法で官能評価によって実施した。一方、2つの香料組成物に対する比較官能評価を実施した後、5分間の休み時間を与えて嗅感覚麻痺現象がないようにした。新しい香料組成物と緑茶の花との香り類似性及び嗜好性に関する官能評価結果は、下記表6に示した。
【0044】
【表6】

【0045】
上記表6から明らかなように、主要な4つの成分の全体含量が65重量%を占めるサンプル#1−2が、8個の香料組成物のうち最も優れた類似性と嗜好性を有するものと見られたが、類似性及び嗜好性がいずれも期待に達しないことが分かった。
【0046】
[1−6.専門評価団の分析による香り改善香料製造]
上記表6において緑茶の花の香りと最も類似なものとして明らかにされたサンプル#1−2の香料の類似性及び嗜好性を改善するために、サンプル#1−2と同様に、アセトフェノン、アルファ−フェニルエチルアルコール、ベータ−フェニルエチルアルコール、リナロールの全体含量を65%含有し、これに強いフローラルネロリ香気を有するトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエン(E-4,8-dimethyl-1,3,7-nonatriene)を使用して新しい香料組成物を製造した。トランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンの含量は、1%、3%、5%、8%、10%、13%、15%の濃度で添加した。これらの香料組成物の組成は、下記表8に示された通りである。
【0047】
【表7】

【0048】
[1−7.香料組成物の官能評価]
上記で#1−イ、#1−ロ、#1−ハ、#1−ニ、#1−ホ、#1−ヘ、#1−トの香料組成物に対して緑茶の花との香り類似性及び香りの嗜好性を上記表3と同一の方法により、官能評価を実施した。2つの香料組成物に対する比較官能評価を実施した後、5分間の休み時間を与えて、嗅感覚麻痺現象がないようにした。新しい香料組成物と緑茶の花との香り類似性及び香り嗜好性に対する結果は、下記表8に示された通りである。
【0049】
【表8】

【0050】
上記表8から明らかなように、アセトフェノン、アルファ−フェニルエチルアルコール、ベータ−フェニルエチルアルコール、リナロールの緑茶の花の主要香気成分に、トランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンを1重量%〜10重量%含有する時、緑茶の花の香りを再現することができ、優れた嗜好性を示すことを確認することができた(平均3.5以上)。
【0051】
一方、トランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンを10重量%超過して含有すれば、トランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンを含有しない香料組成物より香りの類似性及び嗜好性が低くなることが分かった。
【実施例2】
【0052】
[実施例2.溶媒抽出法を利用した緑茶の花の香り再現香料組成物]
[2−1.溶剤抽出法を利用した緑茶の花の香り分析]
緑茶の花の香気成分を抽出するために、済州島西広茶園に咲いている緑茶の花720gを取って1リットルの三角フラスコ3個に分けた後、花が完全に浸るようにエチルエーテル(Ethyl Ether、純度99.0%、Fisher Scientific)1.5リットルを注いで4時間15分間沈積させた。沈積物をアドバンテック2番濾過紙(Advantec No.2、直径185mm)で濾過した後、花は捨てて、抽出物は無水硫酸ナトリウム(Na2SO4、Sodium Sulfate、純度99.7%、Sigma Aldrich)100gを使用して水気を除去し、さらにアドバンテック2番濾過紙を利用して濾過した。その後、38℃の水湯煎で溶剤であるエチルエーテルを揮発させ、さらに減圧水蒸気蒸溜を実施し、13.2mgの香気濃縮物を得た。この香気濃縮物を、分析のために汚染されないガラス瓶に入れて蓋を閉じた後、密封し、冷蔵庫に保管した。
【0053】
かくして得られた香気濃縮物をGC注入口に注入し、GC−MS分析を行った。GC−MS分析条件は、次の通りである。
【0054】
[分析条件]
分析機器:HP 6890 II GC
検出器:HP 5973 MSD
カラム:PEG-20M(60mX0.25mmX0.25um)
運搬気体:He
注入温度:250℃
検出温度:280℃
オーブン温度:70℃〜220℃(3℃/min)
イオン電圧:70eV
注入量:1μL
スプリット比(Split Ratio): 1:40
【0055】
その結果、溶剤抽出法により分析された緑茶の花の香り成分は、下記表9に示された通りである。
【0056】
【表9】

【0057】
表9から明らかなように、緑茶の花は、アセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールなどを主要な香気成分としており、これらの主要成分は、全体の64.85%を占める。
【0058】
[2−2.分析結果で組成された香料と天然緑茶の花の香りとの比較官能評価]
上記分析された結果に基づいて新たに組成した下記表10の組成を有する香料組成物(サンプルC)を作り、この香料と天然緑茶の花の香り類似性を、官能評価を通じて検証した。
【0059】
【表10】

【0060】
官能評価は、20〜45才の一般男女20名を対象にし、緑茶の花が満開した植木鉢のサンプルAと、溶媒抽出法で再現した香料組成物のサンプルCの香りを各々嗅ぐようにし、上記表3のアンケート紙に応答するようにすることで、サンプルAとサンプルCとの香り類似性(質問1)及び香りの嗜好性(質問2)を調査した。その結果を表11に示した。
【0061】
【表11】

【0062】
上記表11から明らかなように、香料組成物のサンプルCは、嗜好度の側面から天然緑茶の花の香りとある程度類似しているが、満足するに値する水準ではなかった。
【0063】
[2−3.専門評価団による香り分析と緑茶の花との香り比較]
上記から明らかなように、溶媒抽出法により分析された成分で組成した香料組成物は、緑茶の花と香り類似性が低かった。これより、調香師で構成された専門評価団は、緑茶の花各々の香り成分に対して官能評価を行った。その結果、緑茶の花の香り成分のうち、オレンジ花(Orange flower)香りを漂うアセトフェノンと、梔子花(Gardenia)香りを漂うアルファ−メチルベンジルアルコール、ローズ(Rose)香りを漂う2−フェニルエチルアルコールの3つの成分が緑茶の花の固有香りを作る主要成分であることを確認した。
【0064】
一方、溶媒抽出分析結果において、アセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールとともに主成分として分類されたリナロール、ゲラニオール、リナロールオキサイド、メチルサリチレート、インドールを、バニリンなどの香気成分は、緑茶の花の香りの発現に別に影響を与えないことを官能評価を通じて確認した。
【0065】
[2−4.3つの主成分の含量変化による新しい香料組成物の製造]
上記2−3から緑茶の花の独創的香りの主成分がアセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールであることを確認することができた。したがって、本発明者らは、これらの3つの成分を含有することによって、緑茶の花の香りをそのまま示しながら嗜好性が良い香料を製造するために、下記#2−1〜#2−6の新しい香料組成物を作った。香料組成物#2−1〜#2−6は、これらの3つの成分の割合を一定に維持しながら、下記表12の組成で3つの香料の全体含量を50〜75%で変化させて製造した。
【0066】
【表12】

【0067】
[2−5.新しい香料組成物の官能評価]
新たに配合された6つの香料のうち、上記2−2で評価した香料と類似の含量を有する#4番香料を除いた残りの5つの香料組成物に対して、緑茶の花の香りとの類似性及び嗜好性を、上記表3と同一の方法で官能評価によって実施した。一方、2つの香料組成物に対する比較官能評価を実施した後、5分間の休み時間を与えて嗅感覚麻痺現象がないようにした。新しい香料組成物と緑茶の花との香り類似性及び嗜好性に関する官能評価結果は、下記表13に示した。
【0068】
【表13】

【0069】
上記表13から明らかなように、主要な3つの成分の全体含量が70%を占めるサンプル#5が、6つの香料組成物のうち最も優れた類似性と嗜好性を有するものとして見られたが、類似性及び嗜好性がいずれも期待に達しないことが分かった。
【0070】
[2−6.専門評価団の分析による香り改善香料製造]
上記表13において、緑茶の花の香りと最も類似なものとして明らかにされたサンプル#5の香料の類似性及び嗜好性を改善するために、サンプル#5と同様に、アセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールの全体含量を70%含有し、これに気高い花香りを漂うライラックアルコール(Lilac alcohol)を使用して新しい香料組成物を製造した。ライラックアルコールの含量は、0.1%、0.5%、1.0%、2.5%、5.0%、7.5%、10%の濃度で添加した。これらの香料組成物の組成は、下記表14に示された通りである。
【0071】
【表14】

【0072】
[2−7.香料組成物の官能評価]
上記で#1−イ、#1−ロ、#1−ハ、#1−ニ、#1−ホ、#1−ヘ、#1−トの香料組成物に対して緑茶の花との香り類似性及び香りの嗜好性を上記表3と同一の方法により、官能評価を実施した。2つの香料組成物に対する比較官能評価を実施した後、5分間の休み時間を与えて、嗅感覚麻痺現象がないようにした。新しい香料組成物と緑茶の花との香り類似性及び香り嗜好性に対する結果は、下記表15に示した通りである。
【0073】
【表15】

【0074】
上記表15から明らかなように、アセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールの主要香気成分に、ライラックアルコールを0.1%〜5.0%含有する場合、緑茶の花の香りを再現することができ、優れた嗜好性を示すことを確認することができた。
【0075】
一方、ライラックアルコールを5.0%超過すれば、ライラックアルコールが含有されない香料組成物より香りの類似性及び嗜好性が低くなることが分かる。
【0076】
[製造例]
上記のように、緑茶の花の香りと類似性を有する香料組成物を配合して、下記表16の香水を製造した。
【0077】
【表16】

【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明に係る香料組成物は、SPME法または溶媒抽出法により分析されたアセトフェノン、フェニルエチルアルコールなどの緑茶の花の香りの主要成分にトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンまたはライラックアルコールを含有することによって、緑茶の花の固有香りを再現することができ、香りの嗜好性をも改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑茶の花の香り成分を分析する段階と、
前記分析された各々の香り成分のうち緑茶の花の香りとの類似性及び香りの嗜好性が優秀な緑茶の花の香りの主成分を選別する段階と、
前記香りの主成分に香り改善香料を含有させる段階と、
からなることを特徴とする緑茶の花の香りを再現する香料組成物の製造方法。
【請求項2】
緑茶の花の香りの分析方法としてSPME法を使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
緑茶の花の香りの分析方法として溶媒抽出法を使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法により製造されることを特徴とする緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項5】
請求項1または3に記載の方法により製造されることを特徴とする緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項6】
有効成分としてアセトフェノン、アルファ−フェニルエチルアルコール、ベータ−フェニルエチルアルコール、リナロール及びトランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエンを含有することを特徴とする請求項4に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項7】
前記組成物は、付加成分として2−ペンタノン、2−ペンタノール、ベンジルアルコール、シス−3−ヘキセニルアセテイト、ゲラニオール、1−ペンテン−3−オール、アセトイン、シス−3−ヘキセノール、リナロールオキサイド、シス−4−ヘキセニルブチレート及びリモネンをさらに含有することを特徴とする請求項6に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項8】
前記各成分は、組成物の全体重量に対してアセトフェノン44.00〜51.00重量%、アルファ−フェニルエチルアルコール8.20〜13.00重量%、ベータ−フェニルエチルアルコール3.50〜6.20重量%、リナロール1.05〜3.50重量%、トランス−4,8−ジメチル−1,3,7−ノナトリエン1〜10重量%を含有することを特徴とする請求項6に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項9】
前記各成分は、2−ペンタノン6.00〜9.97重量%、2−ペンタノール4.20〜7.23重量%、ベンジルアルコール2.75〜4.95重量%、シス−3−ヘキセニルアセテイト2.00〜3.75重量%、ゲラニオール1.76〜3.57重量%、1−ペンテン−3−オール2.36〜2.40重量%、アセトイン1.21〜2.83重量%、シス−3−ヘキセノール0.64〜1.05重量%、リナロールオキサイド0.23〜0.78重量%、シス−4−ヘキセニルブチレート0.02〜0.10重量%及びリモネン0.01〜0.07重量%をさらに含有することを特徴とする請求項7に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項10】
有効成分としてアセトフェノン、アルファ−メチルベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール及びライラックアルコールを含有することを特徴とする請求項5に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項11】
前記組成物は、付加成分としてリナロール、ゲラニオール、リナロールオキサイド、メチルサリチレート、インドールを及びバニリンをさらに含有することを特徴とする請求項10に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項12】
前記各成分は、組成物の全体重量に対してアセトフェノン26.0〜35.0重量%、アルファ−メチルベンジルアルコール20.0〜27.0重量%、2−フェニルエチルアルコール8.5〜11.0重量%、及びライラックアルコール0.1〜7.4重量%を含有することを特徴とする請求項10に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項13】
前記各成分は、リナロール3.0〜4.0重量%、ゲラニオール1.5〜2.5重量%、リナロールオキサイド2.0〜3.0重量%、メチルサリチレート0.1〜1.0重量%、インドール0.01〜0.1重量%、バニリン0.01〜0.1重量%をさらに含有することを特徴とする請求項11に記載の緑茶の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項14】
請求項4乃至14のいずれかに記載の前記香料組成物を組成物の全体重量に対して0.1〜25.0重量%含有することを特徴とする化粧料組成物。

【公表番号】特表2009−516016(P2009−516016A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539919(P2008−539919)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004532
【国際公開番号】WO2007/055493
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(503327691)株式會社アモーレパシフィック (73)
【住所又は居所原語表記】181, Hankang−ro 2−ka, Yongsan−ku, Seoul 140−777 Republic of Korea
【Fターム(参考)】