説明

線材、導体、接続構造および線材の製造方法

【課題】高強度であって過剰な温度上昇を抑制することが可能な線材、導体、接続構造および線材の製造方法を提供する。
【解決手段】線材1は、導電体を含む芯線2と、被覆層3とを備える。被覆層3は、芯線2の外周に接触し、炭素からなるファイバー状の繊維(カーボンナノチューブ)により構成される。線材1の製造方法は、上芯線2を準備する工程と、芯線の表面上に、炭素からなるファイバー状の繊維を複数成長させる工程とを備える。このようにすれば、芯線2の表面にファイバー状の繊維を直接成長させて、当該繊維を用いて被覆層3を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線材、導体、接続構造および線材の製造方法に関し、より特定的には、導電体を含む芯線と被覆層とを供える線材、導体、接続構造および線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電体からなる芯線と当該芯線を樹脂層により被覆した線材が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1では、導電体の外周上にポリアミドイミド樹脂からなる第1の樹脂層および当該第1の樹脂層の外周を被覆する第2の樹脂層を有する線材が開示されている。
【特許文献1】特開2007−149562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、従来の線材において被覆材としては樹脂が用いられていたが、このような従来の線材においては以下のような問題があった。すなわち、線材に流れる電流の電流値が比較的大きくなる場合に、線材の温度が当該電流に起因するジュール熱などにより上昇する場合があるが、樹脂からなる被覆材は熱伝導性があまりよくないため線材からの熱の除去が不十分になり、線材における過剰な温度上昇が起きる場合があった。特に、線材の芯線を構成する導電体がアルミニウムや銅などである場合には、過剰な温度上昇により線材が溶断する場合もあった。さらに、上記のような過剰な温度上昇により、線材が熱膨張してその寸法が変化する(線材が伸びる)場合もあった。このような寸法変化は、線材と他の部材との不要な接触などを招く。そして、従来の樹脂からなる被覆材は、線材同士あるいは他の部材と線材とが接触・摺動するような場合に、その接触・摺動に起因して磨耗や破損する場合があった。
【0004】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、高強度であって過剰な温度上昇を抑制することが可能な線材、導体、接続構造および線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った線材は、導電体を含む芯線と、被覆層とを備える。被覆層は、芯線の外周に接触し、炭素からなるファイバー状の繊維により構成される。
【0006】
このようにすれば、被覆層を炭素からなるファイバー状の繊維により構成するので、従来の樹脂製の被覆層に比べて、当該被覆層の強度や熱伝導率を向上させることができる。たとえば、炭素からなるファイバー状の繊維としてカーボンナノチューブを用いる場合、当該カーボンナノチューブの引張強度は約45GPa、熱伝導率が約6000W/(m・K)と極めて高強度、高熱伝導率である。このため、カーボンナノチューブなどの炭素からなるファイバー状の繊維により構成される被覆層を備える線材は、大電流を流した場合に発生する熱を、被覆層を介して速やかに外部へ発散させることができる。したがって、線材の過剰な温度上昇を抑制することができる。また、本発明による線材の被覆層は上述のように高強度の材料により構成されるため、当該被覆層が芯線の補強材としての機能を発揮する。そのため、熱による線材の変形(たとえば熱膨張による線材の伸び)や、他の部材との接触に起因する破損などの発生を抑制することができる。
【0007】
この発明に従った導体は、上記線材と、当該線材の端部に接続された接続部材とを備える。このようにすれば、優れた強度および熱伝導性(放熱性)を有する線材を用いて導体を形成することになるので、高強度かつ放熱性に優れた導体を得ることができる。
【0008】
この発明に従った接続構造は、上記線材と、当該線材の芯線と電気的に接続された端子とを備える。線材においては、芯線の表面の一部が露出した露出部が形成されている。端子は露出部において芯線と電気的に接続されている。
【0009】
このようにすれば、芯線と端子との接続部近傍において、当該露出部以外の部分に残っている被覆層が接続部の補強材として機能するため、接続構造の強度を十分高めることができる。また、接続部近傍に位置する被覆層が接続部で発生する熱を除去するための放熱部としても機能するため、接続部における過剰な温度上昇を防止することができる。
【0010】
この発明に従った線材の製造方法は、上記線材の製造方法であって、芯線を準備する工程と、芯線の表面上に、炭素からなるファイバー状の繊維を複数成長させる工程とを備える。このようにすれば、芯線の表面にファイバー状の繊維を直接成長させて、当該繊維を用いて被覆層を形成できるので、炭素からなるファイバー状の繊維を含む溶液などを芯線表面に塗布することにより被覆層を形成する場合のように、製造工程においてファイバー状の繊維がダメージを受ける可能性を低減できる。このため、ファイバー状の繊維の優れた特性を利用した被覆層を得ることができる。
【0011】
この発明に従った線材の製造方法は、上記線材の製造方法であって、以下の工程を備える。炭素からなるファイバー状の複数の繊維により構成され、内周開口部が形成された筒状体を準備する工程を実施する。筒状体の内周開口部に芯線を配置する工程を実施する。芯線の表面に筒状体の内周開口部の内周面を接触させる工程を実施する。
【0012】
このようにすれば、芯線の表面に直接ファイバー状の繊維を成長させる場合のように、繊維を成長させるための熱処理温度まで芯線が加熱される必要が無い。このため、当該熱処理温度に耐えられないような材料であっても芯線の材料として採用することができる。このため、芯線の材料の選択の自由度を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被覆層を高強度、高熱伝導率なものとすることで、過剰な温度上昇を抑制するとともに強度の高い線材を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰返さない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明による線材の実施の形態1の断面模式図である。図2は、図1の線分II−IIにおける断面模式図である。図1および図2を参照して、本発明による線材を説明する。
【0016】
図1および図2に示すように、本発明による線材1は、導電体からなる芯線2と、この芯線2の外周面を覆うように配置されている被覆層3とならなる。この被覆層3はカーボンナノチューブ(CNT)によって構成されている。ここでカーボンナノチューブは、黒鉛(グラファイト)のシートが円筒状に閉じた構造を有するチューブ状の炭素多面体を言う。カーボンナノチューブには、黒鉛シートが円筒状に閉じた多層構造を有する多層ナノチューブと、黒鉛シートが円筒状に閉じた単層構造を有する単層ナノチューブとがある。ここで、被覆層3を構成するカーボンナノチューブは、上述した単層ナノチューブがそのほとんどを占めている。また、後述する製造方法からもわかるように、被覆層3においては、カーボンナノチューブの延在方向が芯線2の延在方向に沿った方向となっている。
【0017】
図3は、図1および図2に示した線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。図4〜図13は、図3に示した製造方法における各工程を説明するための模式図である。図3〜図13を参照して、図1および図2に示した線材の製造方法を説明する。
【0018】
図3に示したように、まず導線準備工程(S10)を実施する。この導線準備工程(S10)においては、図4に示すような導体線5を準備する。図4は、導体準備工程(S10)において準備される導体線を示す斜視模式図である。図4に示した導体線5の材料としては、アルミニウムや銅、あるいは鉄などの金属など、任意の導電体を用いることができる。また、導体線5の断面形状は、図4に示すように円形状でもよいが、他の任意の形状(たとえば四角形状、あるいは他の多角形状)であってもよい。
【0019】
次に、表面処理工程(S20)を実施する。この表面処理工程(S20)においては、図5および図6に示すように、導体線5の少なくとも側壁の表面に下地膜6を形成し、当該下地膜6の表面上にカーボンナノチューブを形成するための触媒として作用するナノ粒子12を形成する。ここで、下地膜6を構成する材料としては、たとえばアルミナ、シリカ、アルミン酸ナトリウム、ミョウバン、リン酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム化合物、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどのアパタイト系の材料を用いることが好ましい。また、ナノ粒子12を構成する材料としては、活性な金属を用いることができる。そのようなナノ粒子12を構成する金属としては、たとえばバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)などを用いることができる。
【0020】
また、ナノ粒子12の粒径をたとえば100nm以下、好ましくは1.0nm以上10nm以下、より好ましくは0.5nm以上5nm以下とする。また、下地膜6の厚みとしては、たとえば2.0nm以上100nm以下といった値を用いることができる。ここで図5は、表面処理工程(S20)によって得られた芯線2の斜視模式図である。また、図6は、図5のVI−VIにおける断面模式図である。図5および図6に示すように、表面処理工程(S20)によって、導体線5の外周面に下地膜6が形成される。そして、この下地膜6の表面にナノ粒子12が複数分散配置された状態となっている。この表面処理工程(S20)における下地膜6およびナノ粒子12の製造方法としては、任意の方法を用いることができる。
【0021】
次に、カーボンナノチューブ(CNT)成長工程(S30)を実施する。具体的には、上述した芯線2の周囲にカーボンナノチューブを形成するための原料ガスを供給しながら、芯線2を加熱する。この結果、芯線2の側壁上に配置されたナノ粒子12の表面にカーボンナノチューブ9が成長する。このようにして、図7および図8に示すような構造を得る。図7は、カーボンナノチューブ成長工程(S30)を行なうことにより芯線の表面にカーボンナノチューブが形成された状態を示す断面模式図である。図8は、図7の線分VIII−VIIIにおける断面模式図である。
【0022】
図7および図8に示すように、芯線2の表面に形成されたナノ粒子12(図6参照)のそれぞれからカーボンナノチューブ9が成長している。このカーボンナノチューブ9はいわゆる単層のカーボンナノチューブである。そして、カーボンナノチューブ9は、絶縁体的または半導体的な特性を有するカーボンナノチューブ7と、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8とを含んでいる。
【0023】
また、このカーボンナノチューブ成長工程(S30)におけるカーボンナノチューブの形成方法としては、任意の方法を用いることができるが、好ましくは、芯線2の周囲に炭素源となる原料ガス(炭素を構成元素として含むガス)と、触媒としてのナノ粒子12の表面に成長する不純物炭素を分解すると推定される不純物炭素分解物(たとえば水分)とを供給し、その状態で芯線2を加熱する、といった方法を用いることができる。加熱温度としては、たとえば600℃以上800℃以下、より好ましくは650℃以上750℃以下といった温度条件を用いることができる。また、原料ガスとしては、炭素を含有する化合物であれば任意の化合物を用いることができるが、たとえばCO、CO、あるいはメタン、エタン、プロパンおよびヘキサンなどのアルカン類、エチレン、プロピレンおよびアセチレンなどの不飽和有機化合物、ベンゼン、トルエンなどの芳香族化合物、アルコール類、エーテル類、カルボン酸類などの含酸素官能基を有する有機化合物、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子材料、または石油や石炭(石炭転換ガスを含む)などを用いることができる。
【0024】
次に、カーボンナノチューブ(CNT)処理工程(S40)を実施する。このカーボンナノチューブ処理工程(S40)においては、図7および図8に示したカーボンナノチューブが形成された芯線2を水素プラズマ処理する。具体的には、処理装置を構成するチャンバ内に、プラズマを生成するための原料ガスを供給しながら当該チャンバ内に電界および/または磁界を印加することで、原料ガスを構成する分子を電離してプラズマを生成する。そして、当該チャンバの中に図7および図8に示したカーボンナノチューブが表面に形成された芯線2を挿入する。
【0025】
このようにすれば、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8(図8参照)がプラズマによって選択的に破壊される。この結果、図9および図10に示すように、芯線2の表面には絶縁体的または半導体的な特性を有するカーボンナノチューブ7が残存し、金属的な特性を有するカーボンナノチューブが破壊された破壊部10が形成された状態になる。ここで、図9は、カーボンナノチューブ処理工程(S40)によって処理された芯線およびカーボンナノチューブの状況を示す断面模式図である。図10は、図9の線分X−Xにおける断面模式図である。この結果、カーボンナノチューブにより構成される被覆層3を絶縁層とすることができる。
【0026】
なお、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8を選択的に破壊する方法としては、他の任意の方法を用いてもよい。たとえば、高周波を図7および図8に示した芯線2に印加することにより、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8を選択的に破壊するといった方法も考えられる。
【0027】
また、カーボンナノチューブ9により構成される被覆層3に絶縁性がもとられない場合(たとえば、被覆層3の外周側に別途絶縁層を形成するような場合)には、上述したカーボンナノチューブ処理工程(S40)を実施せず、カーボンナノチューブ成長工程(S30)に続いて後述する加工工程(S50)を実施してもよい。
【0028】
次に、図3に示すように加工工程(S50)を実施する。この加工工程(S50)においては、具体的には図11に示すように芯線2の表面に対してほぼ垂直な方向に延びているカーボンナノチューブ9をローラ11によって芯線2の表面に沿った方向に倒すように、カーボンナノチューブを押圧する。このようなローラ11による加工を芯線2の外周面の全周にわたって行なうことにより、図12に示すように芯線2の外周面上には、カーボンナノチューブの延在方向が芯線2の表面に沿った方向であって芯線2の延在方向に沿っている、加工されたカーボンナノチューブ層13が形成される。ここで、図11は、加工工程(S50)を説明するための模式図である。また、図12は、図11の線分XII−XIIにおける断面模式図である。
【0029】
なお、この加工工程(S50)においては、図11に示すようなローラ11を用いてカーボンナノチューブ9を芯線2の表面に沿った方向に倒すような加工を行なっているが、ローラ11とは異なる他の形状の押圧部材を用いて加工を行なってもよい。たとえば、芯線2の直径と加工されたカーボンナノチューブ層13の厚みとを考慮した穴が形成された金型を用いて、芯線2を当該穴の内部に挿入することにより図12に示すように加工されたカーボンナノチューブ層13を形成してもよい。
【0030】
次に、図3に示すように、固形化工程(S60)を実施する。具体的には、この固形化工程(S60)においては、図13に示すように溶液16中に加工されたカーボンナノチューブ層13が形成された芯線2を浸漬する。そして、このように溶液16中から芯線2を取出し、当該芯線2の加工されたカーボンナノチューブ層13を乾燥させることにより、当該加工されたカーボンナノチューブ層13を固形化する。ここで、図13は、固形化工程(S60)において用いる浸漬工程を説明するための模式図である。図13に示すように、容器15の内部に溶液16が配置されている。溶液16としては、水やアルコールなど、任意の溶液を用いることができる。また、容器15としては、任意の形状の容器を用いることができる。
【0031】
このような固形化工程(S60)を実施することにより、加工されたカーボンナノチューブ層13が芯線2の表面により強固に密着するとともに、被覆層3(図1参照)としての加工されたカーボンナノチューブ層13の厚みも固形化工程(S60)を実施する前に比べてより薄くなる。すなわち、加工されたカーボンナノチューブ層13の密度を高めることができる。この結果、加工されたカーボンナノチューブ層13からなる被覆層の絶縁性および強度を向上させることができる。上述のような工程を実施することにより、本発明による線材1(図1参照)を得ることができる。
【0032】
図14は、図3に示したカーボンナノチューブ成長工程(S30)において用いる製造装置を示す模式図である。図14を参照して、カーボンナノチューブ成長工程において用いるカーボンナノチューブの製造装置を説明する。
【0033】
図14に示すように、製造装置20は反応容器22と、芯線2を反応容器22の内部に案内するためのローラ24、25と、カーボンナノチューブを形成するための原料ガスを反応容器22の内部に供給するガス供給部23と、反応容器22の内部を加熱するためのヒータ21とを備える。製造装置20では、筒状の反応容器22が、ほぼ垂直な方向にその中心軸が延びるように立てた状態で設置される。そして、この反応容器22の下側にローラ24が設置される。また、反応容器22の上側には、芯線2を案内するとともに芯線2の表面に形成されたカーボンナノチューブを倒して芯線2の表面に密着させるためのローラ25が設置される。
【0034】
ガス供給部23は、反応容器22の下側から反応容器22の内部へ反応ガスを供給する。ヒータ21は、反応容器22の外側であって反応容器22の側壁と対向する位置に設置されている。ヒータ21は、反応容器22の内部に位置する芯線2に沿って配置される。芯線2は、ローラ24に案内され反応容器22の内部に反応容器22の下側から挿入される。そして、芯線2は、反応容器22内部を下方から上方へと移動し、反応容器22の上側から排出される。反応容器22の上側において、表面にカーボンナノチューブ9が形成された芯線2はローラ25によって案内される。また、反応容器22の内部で芯線2の表面に形成されたカーボンナノチューブ9は、ローラ25によって押圧されることにより芯線2の表面に密着した状態になる。なお、ローラ25は図14に示すような1組のローラであってもよいが、他の構成の押圧部材を反応容器22の上方に配置してもよい。たとえば、1組のローラ25の下流側に、ローラ25が芯線2を押圧する方向と異なる方向から芯線2を押圧する別のローラを配置する、といった構成を採用してもよい。
【0035】
また、反応ガスが反応容器22の下側から供給され、また芯線2も反応容器22の下側から供給されているため、反応容器22の内部においては、下方から上方に移動している芯線2の表面において徐々にカーボンナノチューブ9が成長することになる。このため、図14に示すように、反応容器22の内部においては、芯線2の表面に形成されるカーボンナノチューブ9の長さは、反応容器22の下方から上方に向かうにつれて徐々に長くなっている。
【0036】
このようにすれば、反応容器22の下方から供給される反応ガスがカーボンナノチューブ9に衝突することにより、カーボンナノチューブ9に対して下から上向きへ向かう方向の力(浮力)を加えることができる。このため、芯線2にかかる荷重(芯線2の自重による下向きの力)を当該反応ガスによる浮力によって軽減することができる。
【0037】
図15は、本発明による線材の実施の形態1の第1の変形例を示す断面模式図である。図15を参照して、本発明による線材の実施の形態1ノ第1の変形例を説明する。
【0038】
図15に示した線材1は、基本的には図1および図2に示した線材1と同様の構造を備えるが、被覆層3の外周側を覆うように絶縁層27が形成されている点が図1におよび図2に示した線材1と異なる。図15に示した線材1の絶縁層27としては、絶縁性の材料であれば任意の材料を用いることができる。たとえば、絶縁層27として絶縁性の樹脂からなる層を形成してもよい。このようにすれば、カーボンナノチューブによる被覆層3によって線材1の強度を確保した上で、さらに絶縁層27によって線材1についての絶縁性をより向上させることができる。また、線材1の絶縁性を当該絶縁層27により確保するので、被覆層3においては必ずしも絶縁性を有する必要が無い。そのため、図3に示した線材の製造方法において、カーボンナノチューブ処理工程(S40)を省略することも可能である。この場合、被覆層3には金属的な特性を有するカーボンナノチューブが含まれることになるが、絶縁層27により線材1の絶縁性は確保されているため、製造工程を簡略化するというメリットの方が大きくなる。
【0039】
図16は、本発明による線材の実施の形態1の第2の変形例を示す断面模式図である。図16を参照して、本発明による線材の実施の形態1の第2の変形例を説明する。
【0040】
図16に示した線材1は、芯線2の外周表面にカーボンナノチューブからなる被覆層が形成されているという点では図1および図2に示した線材と同様であるが、当該被覆層の構成が異なっている。すなわち、図16に示した線材1においては、芯線2の外周面を覆うように、当該外周面に垂直方向に延びる相対的に長さの短いカーボンナノチューブ29が密集して形成されている。このカーボンナノチューブ29の長さはたとえば0.1mm以上10mm以下、より好ましくは0.3mm以上1.0mm以下である。また、芯線2の外周面におけるカーボンナノチューブ29の断面占有率は1%以上50%以下、より好ましくは5%以上20%以下である。なお、ここで断面占有率とは、芯線2の外周面の表面積に対する、カーボンナノチューブ29により覆われている部分(カーボンナノチューブ29により占有されている部分)の面積の比(単位:パーセント)である。このような構造によってもたとえばカーボンナノチューブ29を絶縁体的または半導体的な特性を有するカーボンナノチューブとすることにより、カーボンナノチューブ29を絶縁層としての機能を有する被覆層として作用させることができる。また、図16に示した線材1においては、図3に示したカーボンナノチューブの加工工程(S50)および固形化工程(S60)を少なくとも実施する必要がない。このため、線材1の製造工程を簡略化することができる。
【0041】
(実施の形態2)
図17は、本発明による線材を用いた接続構造を示す断面模式図である。図18は、図17の線分XVIII−XVIIIにおける断面模式図である。図17および図18を参照して、本発明による線材の接続構造を説明する。
【0042】
図17および図18に示した接続構造は、基本的には図1および図2に示した本発明による線材を用いた接続構造であって、芯線2の端部において被覆層3が芯線2の表面から部分的に除去され状態になっている。そして、芯線2の当該被覆層3が部分的に除去された端部においては、2つの端子31が芯線2の端部を挟むとともに押圧する状態で芯線2に接続されている。つまり、2つの端子31が芯線2を挟んで対向するように配置されるとともに、端子31が芯線2を把持するように固定されている。このように、芯線2の端部において被覆層3を除去して端子31を芯線2に接続することにiより、芯線2と端子31との電気的な接続を行なうことができる。
【0043】
図19は、本発明による線材の接続構造の変形例を示す平面模式図である。図20は、図19の線分XX−XXにおける断面模式図である。また、図21は、図19の線分XXI−XXIにおける断面模式図である。図19〜図21を参照して、本発明による線材を用いた接続構造の変形例を説明する。
【0044】
図19〜図21に示した線材の接続構造は、端子31が接続する部分において被覆層3を削除するのではなく、芯線2の一部分の表面が露出するように被覆層3を図20の左右方向に寄せた状態としている。そして、このように被覆層3を部分的に寄せることで露出した芯線2の表面の部分を、芯線2の側面において2箇所形成する。この露出した部分は、図20に示すように芯線2を挟んで対向する位置に形成されることが好ましい。そして、芯線2の露出した2つの部分に接触するように上下方向から2つの端子31を用いて芯線2を挟むように固定している。この結果、芯線2と端子31とが電気的に接続された状態になる。このような構造によっても、図17および図18に示した線材の製造構造と同様の効果を得ることができる。また、芯線2の延在方向において端子31が接続された部分では、図20に示すように端子31に隣接するように被覆層3が存在する。そのため、端子31が接続された部分の補強材として被覆層3が作用するため、端子31の接続された部分の強度を十分高い状態に維持することができる。
【0045】
(実施の形態3)
図22は、本発明による線材を用いたハーネスを示す模式図である。図22を参照して、本発明による線材を用いたハーネスを説明する。
【0046】
図22に示すように、本発明による線材を用いたハーネス34は、図1および図2に示した線材1を複数本束ね、これらの線材1の端部にコネクタ33が接続されたワイヤーハーネスである。当該コネクタ33は、図示しない他の機器の対応するコネクタや接続端子に接続可能となっている。コネクタ33の内部においては、線材1の端部が図17〜図21に示したような接続構造を介してコネクタ33内の導電体(電極)と電気的に接続された状態になっている。
【0047】
このようにすれば、本発明による線材を用いたハーネス34を実現できる。そして、本発明による線材1はカーボンナノチューブを用いた被覆層3を備えているため、その強度が従来の樹脂などからなる被覆層を用いた線材に比べて高く、またジュール熱などの熱に起因する線材1の延びも抑制することができるので、信頼性の高いコネクタを実現することができる。
【0048】
(実施の形態4)
図23は、本発明による線材の実施の形態4を示す斜視模式図である。図24は、図23の線分XXIV−XXIVにおける断面模式図である。図23および図24を参照して、本発明による線材の実施の形態4を説明する。
【0049】
図23および図24に示した線材は、基本的には、図1および図2に示した線材1と同様の構造を備えるが、被覆層3にフィン部35が形成されている点が図1および図2に示した線材1と異なる。フィン部35は、被覆層3と同様にカーボンナノチューブによって構成されている。フィン部35は、芯線2の外周側面から突出する方向に延びる平板状の形状を有している。また、フィン部35は、芯線2の延在方向に沿って伸びるように形成されている。このようにすれば、フィン部35を放熱部として利用することにより、線材の過剰な温度上昇を防止することができるので、線材の耐熱性をより向上させることができる。
【0050】
次に、図25および図26を参照して、図23および図24に示した線材の製造方法を説明する。図25および図26は、図23および図24に示した線材の製造方法を説明するための模式図である。図25および図26は図7および図12にそれぞれ対応する。
【0051】
図23および図24に示した線材の製造方法は、基本的には図3に示した線材の製造方法と同様であるが、図3における加工工程(S50)の内容が異なっている。すなわち、図3の導線準備工程(S10)からカーボンナノチューブ成長工程(S30)までを実施することにより、図25に示すように、芯線2の外周面において、当該外周面に対してほぼ垂直な方向に延びる複数のカーボンナノチューブ9が形成された試料を作製する。そして、さらにカーボンナノチューブ処理工程(S40)を実施した後、加工工程(S50)を実施する。この加工工程(S50)においては、1対のローラで芯線2を上下方向から挟むようにしてカーボンナノチューブ9を押圧することにより、図26に示すような構造を得る。なお、ここでカーボンナノチューブ処理工程(S40)を実施することなく、カコウ工程(S50)を実施してもよい。
【0052】
図26に示すようにカーボンナノチューブ9によって芯線2を含む平板状の構造を形成した後、固形化工程(S60)を実施する。具体的には、平板状に成形されたカーボンナノチューブ9の集合体に液体を含浸させ、当該液体を乾燥することによってカーボンナノチューブ9の集合体を固形化する。この結果、カーボンナノチューブからなる被覆層3およびフィン部35が形成されることにより、図23および図24に示すような線材を得ることができる。
【0053】
(実施の形態5)
図27は、本発明による線材の実施の形態5を示す断面模式図である。図27を参照して、本発明による線材の実施の形態5を説明する。
【0054】
図27に示すように、線材1は、芯線としての導体線5の外周面にカーボンナノチューブからなる被覆層3が形成されている。このような構造の線材1によっても、図1および図2に示した線材1と同様の効果を得ることができる。
【0055】
次に、図27に示した線材の製造方法を説明する。図28は、図27に示した線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。図29〜図37は、図28に示した線材の製造方法を説明するための模式図である。図28〜図37を参照して、図27に示した線材の製造方法を説明する。
【0056】
まず、図28に示すように、下地線材準備工程(S70)を実施する。この下地線材準備工程(S70)においては、図29に示すように側面全体にナノ粒子12が分散配置された下地線材37を準備する。ここで、図29は、下地線材準備工程(S70)において準備される下地線材を示す断面模式図である。
【0057】
下地線材37を構成する材料としては、導電体や絶縁体といった任意の材料を用いることができるが、カーボンナノチューブを製造する際の加熱温度に耐えることが可能な材料を用いることが好ましい。また、ナノ粒子12としては、図1および図2に示した線材の製造方法において芯線2の表面に形成されたナノ粒子と同様の材料を用いることができる。
【0058】
次に、図28に示すように、カーボンナノチューブ成長工程(S30)を実施する。具体的には、下地線材準備工程(S70)において準備された下地線材37の周囲にカーボンナノチューブを形成するための炭素を含む原料ガスを供給するとともに、当該下地線材37および原料ガスを加熱する。このようにすれば、下地線材37の側面に形成されたナノ粒子12上にそれぞれカーボンナノチューブ9が成長する。この結果、図30および図31に示すような構造を得る。図30は、図28のカーボンナノチューブ成長工程(S30)によって得られた構造を説明するための断面模式図である。図31は、図30の線分XXXI−XXXIにおける断面模式図である。
【0059】
図30および図31からもわかるように、カーボンナノチューブ成長工程(S30)により、下地線材37の外周表面にカーボンナノチューブ9が複数形成されることで、カーボンナノチューブ9による筒状体が形成される。カーボンナノチューブ9の筒状体は、下地線材37の表面に対してほぼ垂直な方向に延びる複数のカーボンナノチューブ9により構成されている。カーボンナノチューブ9の長さは、任意の長さとすることができるが、たとえば0.5mm以上10mm以下とすることができる。
【0060】
次に、図28に示すように、下地線材分離工程(S80)を実施する。具体的には、下地線材37とカーボンナノチューブ9との接合部に超音波を印加することにより、カーボンナノチューブ9からなる筒状体から下地線材37を分離する。分離された下地線材37は、図31に示す下地線材37の延在方向に沿ってカーボンナノチューブ9からなる筒状体から引抜かれる。この結果、図32および図33に示すように、カーボンナノチューブ9からなる筒状体を得ることができる。図32は、下地線材分離工程(S80)により得られるカーボンナノチューブからなる筒状体を示す断面模式図である。図33は、図32の線分XXXI−XXXIにおける断面模式図である。
【0061】
図32および図33に示すように、このカーボンナノチューブ9からなる筒状体には、その中央部に下地線材37(図31参照)が配置されていた開口部39が形成されている。図32および図33で示すように、筒状体では複数のカーボンナノチューブ9が密集して形成されていたため、下地線材を引抜いた後も図32および図33に示すような筒状体としての形態を維持している。なお、下地線材37をカーボンナノチューブ9から引抜く前に、ローラなどの押圧部材によりカーボンナノチューブ9を下地線材側へ押付けてもよい。
【0062】
次に、図28に示すように、導線挿入工程(S90)を実施する。具体的には、図34および図35に示すように、複数のカーボンナノチューブ9の集合体である筒状体の開口部39の内部に導体線5を挿入配置する。この結果、図34および図35に示すような構造を得る。ここで、図34は、導体挿入工程(S90)を実施した後の構成を示す模式図である。図35は、図34の線分XXXV−XXXVにおける断面模式図である。図34および図35に示すように、開口部39に導体線5をスムーズに挿入するため、導体線5の直径は開口部39の内径より小さくなっている。ただし、後述する加工工程(S50)などで導体線5にカーボンナノチューブ9を容易に密着させるため、導体線5の直径を下地線材37の直径の100%以上150%以下としておくことが好ましい。
【0063】
次に、図28に示すように、カーボンナノチューブ処理工程(S40)を実施する。具体的には、図3に示した製造方法におけるカーボンナノチューブ処理工程(S40)と同様に、プラズマ処理を用いて金属的な特性を有するカーボンナノチューブを選択的に除去する。
【0064】
次に、図28に示すように、加工工程(S50)を実施する。この加工工程(S50)においては、具体的には図36および図37に示すように、1組のローラ25を用いてカーボンナノチューブからなる筒状体を導体線5の側壁に密着させる。この結果、図37に示すような構造を得る。ここで、図36は、加工工程を説明するための模式図であり、図37は、図36の線分XXXVII−XXXVIIIにおける断面模式図である。図36に示すように、1組のローラ25を用いて、導体線5の外周側面の複数の方向からカーボンナノチューブからなる筒状体を押さえ付けることにより、図37に示すように加工されたカーボンナノチューブ層13を形成できる。この加工されたカーボンナノチューブ層13は、導体線5の外周側面全体にわたって導体線5に密着している。
【0065】
この後、図28に示すように、固形化工程(S60)を実施する。この固形化工程(S60)は、基本的には図3に示した線材の製造方法における固形化工程(S60)と同様である。
【0066】
以下、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。この発明に従った線材1は、図1に示すように導電体(導体線5)を含む芯線2と、被覆層3とを備える。被覆層3は、芯線2の外周に接触し、炭素からなるファイバー状の繊維(カーボンナノチューブ9)により構成される。このようにすれば、被覆層3を炭素からなるファイバー状の繊維により構成するので、従来の樹脂製の被覆層に比べて、当該被覆層の強度や熱伝導率を向上させることができる。たとえば、炭素からなるファイバー状の繊維として単層のカーボンナノチューブ9を用いる場合、当該カーボンナノチューブは極めて高強度、高熱伝導率である。このため、カーボンナノチューブ9により構成される被覆層3を備える線材1は、大電流を流した場合に発生する熱を、被覆層3を介して速やかに外部へ発散させることができる。したがって、線材1の過剰な温度上昇を抑制することができる。また、本発明による線材1の被覆層3は上述のように高強度の材料により構成されるため、当該被覆層3が芯線2または導体線5(図27参照)の補強材としての機能を発揮する。そのため、熱による線材1の変形や、他の部材との接触に起因する線材1の破損の発生などを抑制することができる。
【0067】
上記線材1において、ファイバー状の繊維(カーボンナノチューブ9)は絶縁体的または半導体的な特性を有している。この場合、カーボンナノチューブ9により構成される被覆層3を絶縁層として利用することができる。そのため、線材1の被覆層3と別に絶縁層を形成する必要が無いため、線材1の構成を簡略化できる。この結果、線材1の構成が複雑化することに起因する製造コストの上昇を抑制できる。
【0068】
上記線材1において、ファイバー状の繊維は単層のカーボンナノチューブ(Carbon nanotube:CNT)であることが好ましい。この場合、単層のカーボンナノチューブ9(CNT)は上述のような優れた強度および熱伝導性を有していることから、本発明に従った高強度で温度上昇を抑制可能な線材1を確実に実現できる。
【0069】
上記線材1において、カーボンナノチューブ9の端部には、当該カーボンナノチューブを成長させるために用いられる触媒材料(ナノ粒子12)が配置されている。この場合、図3などに示した製造方法からも分かるように、芯線2の表面にナノ粒子12を予め形成し、当該ナノ粒子12の表面に炭素からなるファイバー状の繊維としてカーボンナノチューブを成長させることができる。このようにすれば、芯線2の表面に直接カーボンナノチューブ9を(延在方向が揃った状態で)成長させることができるので、カーボンナノチューブなどの炭素からなるファイバー状の繊維を含む溶液などを芯線2表面に塗布して乾燥することにより被覆層を形成する場合のように、製造工程においてカーボンナノチューブがダメージを受ける可能性を低減できる。このため、カーボンナノチューブの優れた特性を利用した被覆層3を得ることができる。
【0070】
この発明に従った導体(ハーネス34)は、図22に示すように、上記線材1と、当該線材1の端部に接続された接続部材(コネクタ33)とを備える。このようにすれば、優れた強度および熱伝導性(放熱性)を有する線材1を用いてハーネス34を形成することになるので、高強度かつ放熱性に優れたハーネス34を得ることができる。
【0071】
この発明に従った接続構造は、図17〜図21に示すように、上記線材1と、当該線材1の芯線2と電気的に接続された端子31とを備える。線材1においては、芯線2の表面の一部が露出した露出部(図17の線材1における被覆層3が除去された部分または図19の線材1において被覆層3が部分的に側方によけられて芯線2の表面が露出した部分)が形成されている。端子31は露出部において芯線2と電気的に接続されている。
【0072】
このようにすれば、芯線2と端子31との接続部近傍において、当該露出部以外の部分に残っている被覆層3が接続部の補強材として機能するため、接続構造の強度を十分高めることができる。また、接続部近傍に位置する被覆層3が接続部で発生する熱を除去するための放熱部としても機能するため、接続部における過剰な温度上昇を防止することができる。
【0073】
この発明に従った線材の製造方法は、上記線材1の製造方法であって、図3に示すように、芯線を準備する工程(導線準備工程(S10)および表面処理工程(S20))と、芯線2の表面上に、炭素からなるファイバー状の繊維を複数成長させる工程(カーボンナノチューブ(CNT)成長工程(S30))とを備える。このようにすれば、芯線2の表面にファイバー状の繊維(カーボンナノチューブ9)を直接成長させて、当該カーボンナノチューブ9を用いて被覆層3を形成できるので、カーボンナノチューブを含む溶液などを芯線2表面に塗布することにより被覆層3を形成する場合のように、製造工程においてカーボンナノチューブがダメージを受ける可能性を低減できる。このため、カーボンナノチューブの優れた特性を利用した被覆層3を得ることができる。
【0074】
上記線材の製造方法において、芯線を準備する工程は、芯線の表面にファイバー状の繊維を成長させるための触媒材料(ナノ粒子12)を配置する工程(表面処理工程(S20))を含んでいる。カーボンナノチューブ成長工程(S30)では、ナノ粒子12上カーボンナノチューブ9を成長させてもよい。この場合、芯線2の表面に形成されたナノ粒子12を利用して、カーボンナノチューブ9を確実に形成することができる。
【0075】
上記線材の製造方法は、芯線2の表面上に複数成長したカーボンナノチューブ9のうち、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8を選択的に除去する工程(カーボンナノチューブ処理工程(S40))をさらに備えていてもよい。この場合、被覆層3を構成するカーボンナノチューブ9から、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8を除去することで、絶縁体的または半導体的な特性を有するカーボンナノチューブ7により被覆層3を構成できる。このため、被覆層3を絶縁層として利用できるので、被覆層3と別に絶縁層を形成する必要が無い。この結果、線材1の構成が複雑化することを防止できる。
【0076】
上記線材の製造方法において、カーボンナノチューブ処理工程(S40)ではプラズマを用いた処理を行なってもよい。この場合、カーボンナノチューブ9が表面に形成された芯線2をプラズマ中に配置することで、絶縁体的または半導体的な特性を有するカーボンナノチューブ7をあまり損傷することなく、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8を選択的に除去することができる。
【0077】
上記線材の製造方法において、カーボンナノチューブ処理工程(S40)では水素を含む雰囲気中で処理を行なってもよい。たとえば、水素プラズマ処理を利用して上記カーボンナノチューブ処理工程(S40)を実施してもよい。この場合も、金属的な特性を有するカーボンナノチューブ8を選択的に除去することができる。
【0078】
上記線材の製造方法は、ファイバー状の繊維を加工する工程(加工工程(S50))をさらに備えていてもよい。この場合、芯線2の表面に成長したカーボンナノチューブ9を、任意の形状や配置に加工することで、被覆層3の形状を任意に制御することができる。たとえば、ローラ11、25などの押圧部材によりカーボンナノチューブ9を押圧することで、当該カーボンナノチューブ9を芯線2の側面全体を覆うような層状に形成する、あるいは図23および図24に示すように、芯線2の表面を覆うと共に、芯線2の表面から所定の方向へと突出する1つまたは複数の(冷却フィンとして作用する)突出部(フィン部35)を形成する、といったことが可能になる。この結果、線材1の形状の自由度を大きくすることができる。
【0079】
上記線材の製造方法において、加工工程(S50)では、カーボンナノチューブ9の延在方向を芯線2の表面に沿った方向に変更してもよい。この場合、カーボンナノチューブ9を用いて形成される被覆層3において、カーボンナノチューブ9の延在方向を芯線表面に沿った方向に揃えることができる。また、加工工程(S50)では、カーボンナノチューブ9の延在方向を芯線2の延在方向に沿った方向へ変更してもよい。この場合、被覆層3においてカーボンナノチューブ9の延在方向を芯線2の延在方向に揃えることになるので、カーボンナノチューブ9の延在方向(軸方向)での強度を線材1の延在方向における被覆層3の強度に反映させることができる。
【0080】
上記線材の製造方法において、加工工程(S50)では、図26に示すように、芯線2に接続された板状体を構成するように複数のカーボンナノチューブ9を加工してもよい。この場合、板状体において芯線2に接続された部分以外の部分(つまり、芯線2の表面から突出する部分)を容易に形成することができる。このような芯線2の表面から突出する部分は、図23に示すフィン部35のように冷却フィンとして作用させることができるので、冷却効率の高い線材1を得ることができる。
【0081】
上記線材の製造方法は、複数のファイバー状の繊維を互いに固着させる工程(固形化工程(S60))をさらに備えていてもよい。この固形化工程(S60)は、ファイバー状の繊維としてのカーボンナノチューブ9に溶液を供給する工程と、溶液が供給されたカーボンナノチューブ9を乾燥する工程とを含んでいてもよい。この場合、カーボンナノチューブ9に一度溶液を供給してから乾燥させることで、被覆層3を構成するカーボンナノチューブ9を互いに固着させ、その集積度を容易に向上させることができる。
【0082】
上記線材の製造方法において、カーボンナノチューブ成長工程(S30)では、図14に示すように芯線2の延在方向が水平方向と交差する縦方向となるように芯線2を配置するとともに、芯線2を延在方向に沿って移動させながら、芯線2の周囲にファイバー状の繊維としてのカーボンナノチューブの原料ガスを供給すると同時に芯線2を加熱してもよい。この場合、長尺の芯線2の表面に、連続的にカーボンナノチューブ9を形成することができる。
【0083】
上記線材の製造方法において、芯線2が延在方向に沿って移動する移動方向は、図14に示すように縦方向の下方から上方に向かう方向であることが好ましい。この場合、芯線2の移動方向において上方に向かうほど、原料ガスと接触した状態で加熱される時間が長くなるので、縦方向に延在するように配置される芯線2の下方から上方に向かうに連れて、芯線2の表面に形成されるカーボンナノチューブ9の成長長さが徐々に長くなる。
【0084】
上記線材の製造方法において、芯線2の周囲に供給される原料ガスは、図14に示すように芯線2の周囲において縦方向の下方から上方に向かう方向に流通してもよい。この場合、原料ガスが芯線2の表面に成長したカーボンナノチューブ9に衝突することで、当該カーボンナノチューブ9および芯線2に対して上方向の応力を加えることができる。このため、熱処理される芯線2の自重による下方向の応力を打ち消す方向(上方向)の力を原料ガスの流れにより芯線2に加えることができる。したがって、芯線2が自重により破断するといった可能性を低減できる。
【0085】
上記線材の製造方法において、カーボンナノチューブ成長工程(S30)では、図14に示すように、芯線2の表面に成長するカーボンナノチューブ9の長さが、芯線2の延在方向において縦方向の下方から上方に向かうほど徐々に長くなっている。ここで、芯線2の上方ほど縦方向に配置された芯線2の自重による下方向の応力が大きくなる。そこで、上述のように原料ガスを下方から上方に向けて流通させることで、原料ガスが芯線2の表面に形成されたカーボンナノチューブ9に衝突させることができ、結果的に当該下方向の応力を打ち消す上方向の応力を芯線2に加えることができる。そして、芯線2の上方ほどカーボンナノチューブ9の長さを長くしておけば、原料ガスが衝突するカーボンナノチューブ9の面積も大きくなるので、結果的に芯線2の上方ほど原料ガスの流れに起因する上方向の応力をより強く受けることになる。このため、より効果的に芯線2の自重による下方向の応力を打ち消すことができる。
【0086】
この発明に従った線材の製造方法は、線材1の製造方法であって、図28に示すように以下の工程を備える。図29〜図33に示すように、炭素からなるファイバー状の複数の繊維により構成され、内周開口部が形成された筒状体を準備する工程(下地線材準備工程(S70)、カーボンナノチューブ成長工程(S30),下地線材分離工程(S80))を実施する。図34および図35に示すように、筒状体の内周開口部(開口部39)に芯線(導体線5)を配置する工程(導線挿入工程(S90))を実施する。図36および図37に示すように、導体線5の表面に筒状体の開口部39の内周面を接触させる工程(加工工程(S50))を実施する。
【0087】
このようにすれば、芯線としての導体線5の表面に直接カーボンナノチューブ9を成長させる場合のように、繊維を成長させるための熱処理温度まで導体線5が加熱される必要が無い。このため、当該熱処理温度に耐えられないような材料であっても芯線としての導体線5の材料として採用することができる。このため、導体線5の材料の選択の自由度を大きくすることができる。
【0088】
上記線材の製造方法において、筒状体を準備する工程は、棒状または線状の下地材(下地線材37)表面上に、炭素からなるファイバー状の繊維を複数成長させる工程(カーボンナノチューブ成長工程(S30))と、複数のカーボンナノチューブ9から下地線材37を除去する工程(下地線材分離工程(S80))とを含んでいてもよい。この場合、下地線材37表面に対してほぼ垂直方向に複数のカーボンナノチューブ9が密集して延在し、かつ、下地線材37を除去することでその中央部に開口部39が形成された筒状体を容易に得ることができる。
【0089】
上記線材の製造方法において、下地線材分離工程(S80)では、超音波を下地線材37と複数のカーボンナノチューブ9との接続部に印加することにより、複数のカーボンナノチューブ9から下地線材37を分離してもよい。この場合、複数のカーボンナノチューブ9からの下地線材37の分離を確実かつ効率的に行なうことができる。
【0090】
次に、本発明の効果を確認するため、以下のような本発明の試料である線材を作製し、様々な特性について試験を行なった。
【0091】
(実施例1)
まず、導体線として、直径が0.5mmの銅線を準備した。この銅線の表面に、アルミナ膜を形成した。このアルミナ膜の膜厚は平均10nm程度とした。次に、当該アルミナ膜の表面上に鉄(Fe)膜を形成した。Fe膜の厚みは約1nmとした。このようにして準備した芯線の周囲に、エチレンガスに水分を微量添加したガスを反応ガスとして供給した。なお、水分の添加量は約150ppmとした。そして、当該反応ガスが供給された状態で加熱温度750℃という温度条件で30分当該銅線を加熱する熱処理を行なった。この結果、芯線の表面に、長さが約10mmの単層カーボンナノチューブ(CNT)が、芯線の側面からほぼ垂直方向に延びるように密集して生成した。これらのカーボンナノチューブは互いに絡み合うように密集していた。
【0092】
次に、水素を含む反応ガスを用いて生成したプラズマ(水素プラズマ)に当該カーボンナノチューブが生成した線材を接触させることにより、カーボンナノチューブのうち金属的な性質を示すカーボンナノチューブを破壊した。この結果、芯線の表面には絶縁体もしくは半導体の性質を示すカーボンナノチューブが残存した。このプラズマ処理の条件としては、出力200W、プラズマを発生させるために水素ガスを含む反応ガスに印加した高周波の周波数が27MHzという条件を用いた。
【0093】
さらに、上述した芯線の長手方向に対し垂直方向に成長したカーボンナノチューブを、ローラで押さえ付けることことにより、当該カーボンナノチューブを芯線の側面に沿った方向に倒すような加工を行なった。このようにして、芯線の表面にカーボンナノチューブを密着させた。次に、当該芯線を水に浸した後、乾燥させた。この結果、芯線の側面上においてカーボンナノチューブ同士を強固に密着させることができた。
【0094】
このような工程を実施した結果、導体線としての銅線を含む芯線の側面はほぼ完全にカーボンナノチューブの層で覆われた状態となった。そして、このカーボンナノチューブからなる被覆層について電気抵抗値を測定したところ、この被覆層は線材の絶縁被覆材として十分機能することがわかった。つまり、絶縁被覆材として十分な機能をカーボンナノチューブからなる被覆層が有していることが示された。
【0095】
また、上述のようにして形成したカーボンナノチューブからなる被覆層を備える線材について、引張強度を測定した。また、直径が0.5mmの銅線のみについても、同様に引張強度を測定した。この結果、引張強度は本発明による線材では銅線だけの場合に比べて1.5倍以上になっていた。
【0096】
次に、線材に電流を流した場合の温度上昇について測定を行なった。具体的には、10Aの電流を流したときの銅端子と接合した端末付近の線材表面での温度上昇を確認した。なお、線材に対する電流を供給するための端子の接続方法は、線材の対向する2方向において外周側面のカーボンナノチューブからなる被覆層をずらすことにより芯線の銅線の表面を露出させた後、当該露出した部分に端子を圧着することにより行なった。この結果、上述のような条件で電流を流した場合であっても、銅端子接続部付近の線材の表面における温度上昇はカーボンナノチューブの被覆をしなかった場合と比べて約半分程度であり、十分小さかった。つまり、比較的大電流を流した場合であっても、本発明による線材の温度上昇は十分小さなものであり、線材の熱膨張も十分抑制できることがわかった。
【0097】
また、カーボンナノチューブからなる被覆層の強度を確認するため、当該被覆層の表面に金属製の刃物を当てて被覆層が剥離するかどうかの試験を行なった。具体的には、ステンレス容器と被覆層を備える線材との間で摩擦を行なうというやり方で被覆層の表面に傷もしくは被覆層の剥離などが発生するかどうかを確認した。この結果、本発明による線材においては、上記のような試験を行なってもカーボンナノチューブからなる被覆層が芯線から剥離したりせず内部の導線が剥き出しになるといったことは発生しなかった。
【0098】
(実施例2)
導体線として直径が1mmのアルミニウム線を準備した。当該アルミニウム線の表面にアルミナ膜を形成した。アルミナ膜の厚みは平均で約5nm〜20nm程度であった。そして、当該アルミナ膜表面にFe膜を厚み2nm〜5nm程度の厚さで形成した。
【0099】
このようにして準備した芯線の表面に、エチレンガスに水分を約100ppm程度微量添加した原料ガスを供給し、熱処理を行なった、熱処理の条件としては、加熱温度700℃とし、加熱時間は30分とした。この結果、芯線の表面に、芯線表面に対してほぼ垂直な方向に延びるカーボンナノチューブが絡み合うように密集して生成した。生成したカーボンナノチューブの長さは約8mm程度であった。
【0100】
次に、実施例1の場合と同様に、生成したカーボンナノチューブをアルミニウム線の延在方向(長手方向)に沿った方向に倒れるようにローラを用いて押圧した。このようにして、カーボンナノチューブを芯線としてのアルミニウム線に密着させた。そして、溶液としてのアルコール中に当該線材を浸漬した後、乾燥させた。この結果、アルミニウム線の表面にカーボンナノチューブが倒れることで形成された被覆層においては、カーボンナノチューブ同士が強固に密着するとともに、アルミニウム線の表面に対してもカーボンナノチューブが密着した状態となった。
【0101】
このようにして得られた本発明による線材と、芯線に用いた直径が1mmのアルミニウム線とについて、実施例1の場合と同様の方法により引張強度を測定した。この結果、アルミニウム線のみの場合に比べて、本発明による線材の引張強度は約1.5倍以上と高強度化していた。
【0102】
また、実施例1の場合と同様の測定方法により、線材に高電流を流した場合の温度上昇についても測定を行なった。なお、線材に対する電流を供給するための端子の接続方法は、線材の対向する2方向において外周側面のカーボンナノチューブからなる被覆層をずらすことにより芯線のアルミニウム線の表面を露出させた後、当該露出した部分に端子を圧着することにより行なった。この結果、本発明による線材においては、表面の温度上昇が十分低く抑えられた。つまり、本発明による実施例2の線材では、実施例1の場合と同様にカーボンナノチューブからなる被覆層の優れた熱伝導性によりアルミニウム線のみの場合に比べて温度上昇が低く抑えられていた。この結果、被覆層を有するアルミニウム線の端部において端子との接合点を形成するような場合に、当該接合点の強度を大電流の印加時においても高く保持できる。
【0103】
(実施例3)
実施例2において準備した芯線と同様の芯線を準備し、当該芯線の周囲にエチレンガスに水分を微量添加したガスを供給し熱処理を行なった。水分の添加量は実施例2と同様とした。熱処理の条件としては、加熱温度650℃とし、加熱時間を30分とした。その結果、芯線表面にカーボンナノチューブが形成された。当該カーボンナノチューブの長さは約6mmであった。これらのカーボンナノチューブは芯線の表面からほぼ垂直な方向に延びるようにかつ互いに絡み合うように密集して生成していた。
【0104】
そして、実施例2の場合と同様に、ローラなどを用いてアルミニウム線を含む芯線の表面にカーボンナノチューブを倒して密着させた。
【0105】
そして、この実施例3では、アルコールへの浸漬および乾燥工程を行なうことなくローラによる押圧を行なった状態で線材の引張強度を測定した。引張強度の測定方法は実施例2における測定方法と同様とした。この結果、アルミニウム線だけの場合における引張強度に比べて、本発明による線材では引張強度が約1.6倍以上となっていた。
【0106】
また、実施例2の場合と同様に大電流を印加した場合の温度上昇についても測定を行なった。温度上昇の測定条件は基本的に実施例2と同様とした。この結果、本発明による線材の方がアルミニウム線だけの場合に比べて温度上昇を抑制することができていた。なお、線材に対する電流を供給するための端子の接続方法は、実施例2の場合と同様に、線材の対向する2方向において外周側面のカーボンナノチューブからなる被覆層をずらすことにより芯線のアルミニウム線の表面を露出させた後、当該露出した部分に端子を圧着することにより行なった。
【0107】
(実施例4)
実施例3と同様の芯線を準備した後、実施例3の場合と同様にエチレンガスに水分を微量添加したガス中で熱処理を行なった。用いたガスの組成や水分の添加量は実施例3の場合と同様とした。また、熱処理の条件は実施例3における熱処理の条件と同じである。この結果、芯線表面にカーボンナノチューブが生成した。当該カーボンナノチューブの長さは約10mmであり、また芯線の表面に対して垂直方向に延びるように形成されていた。また、カーボンナノチューブは互いに絡み合うように密集して生成していた。
【0108】
次に、カーボンナノチューブが形成された芯線の外周面の対向する2方向から2つのローラでカーボンナノチューブを押圧することにより、密集して生成したカーボンナノチューブを板状に変形した。そして、板状に変形したカーボンナノチューブを有する線材をエタノールに浸漬し、乾燥させた。この結果、板状に変形したカーボンナノチューブは互いに強固に固着し、芯線の外周部から外側に延在するフィン部を備える被覆層がカーボンナノチューブにより構成された。
【0109】
このようにして形成されたフィン部を備える線材について、大電流を印加した場合の温度上昇について測定を行なった。測定方法は実施例3の場合と同様である。この結果、アルミニウム線だけの場合と比べて本発明による線材では温度上昇が抑制されていることが確かめられた。なお、線材に電流を印加するためのリードの端子と線材との接続部においては、端子と接合する部分のカーボンナノチューブ被覆層のみを剥がし、内部のアルミニウム線の表面を露出させて当該露出した部分に端子を接合することにより行なった。
【0110】
(実施例5)
導体線として直径が1mmのアルミニウム合金線を準備した。このアルミニウム合金線の組成は具体的にはアルミニウム97%、銅3%というものを用いた。当該アルミニウム合金線の表面に、陽極酸化処理を行なうことによりアルミナ膜を形成した。アルミナ膜の厚みは平均100nmとした。そして、アルミナ膜表面に鉄からなるナノ粒子を形成した。ナノ粒子の平均粒径は1nm程度である。そして、このようなナノ粒子が表面に形成されたアルミニウム合金線を、重力方向に沿った方向(縦方向)に延びる管状熱処理炉内に挿入した。熱処理炉内においては、アルミニウム合金線は下方から上方に移動するように挿入された。そして、熱処理炉内にアルゴンガスとエチレンガスとの混合ガスに水分を微量添加したガスを原料ガスとして下方から上方に流入し、熱処理を行なった。なお、原料ガスの組成は、具体的には水分を100ppm混入させたエチレンガスを用いた。熱処理の条件としては、加熱温度を750℃とし、加熱時間を30分とした。その結果、アルミニウム合金線の表面にカーボンナノチューブが密集して生成した。カーボンナノチューブの長さは約6mmである。これらのカーボンナノチューブはアルミニウム合金線の表面に対してほぼ垂直方向に延びるとともに、互いに絡み合うように密集して生成していた。また、原料ガスを下方から上方に向けて流すことにより、アルミニウム合金線の表面に生成したカーボンナノチューブに当該ガスが当たることで浮力が発生し、この浮力によって線材がある程度支えられることになっていた。このため、熱処理炉中において線材が自重で延びる割合を抑制することができた。
【0111】
次に、形成されたカーボンナノチューブを、アルミ合金線の延在方向に沿った方向にローラで押さえ付ける加工を行なった。この結果、カーボンナノチューブは倒されアルミニウム合金線の表面に密着していた。その後、当該線材をエタノールに浸漬した後、エタノールを乾燥させることにより、カーボンナノチューブ同士が固着した被覆層を形成した。
【0112】
このようにして得られた線材について、実施例4の場合と同様に大電流を印加した場合の温度上昇について測定を行なった。測定方法は実施例3における測定方法と同様とした。この結果、アルミニウム合金線のみの場合に比べて、温度上昇が本発明による線材においては抑制されていることがわかった。また、線材端部でのリード線の端子との接合点の強度も高く維持できていた。なお、当該端子と線材のアルミニウム合金線との接続部の構成は上述した実施例3における構成と同様とした。このような構成とすれば、端子と線材との接合点が側方よりカーボンナノチューブからなる被覆層によって保護されることになる。この結果、当該接続部の強度をカーボンナノチューブからなる被覆層によって補強することができるので、接続における断線などを有効に防止することができる。
【0113】
(実施例6)
まず、下地線材として直径が1.5mmのアルミナからなる棒を準備した。当該棒の側面に、鉄とコバルトとを積層した。積層した膜厚は平均で1nm程度とした。このようにして、アルミナからなる棒の側面全体にナノ粒子(触媒)を形成した。そして、反応ガスとして、エチレンガスに微量の水素を混ぜたガスを当該アルミナからなる棒の表面に供給し熱処理を行なった。反応ガスの組成は実施例3における反応ガスと同様とした。また、熱処理の条件としては、加熱温度を750℃とし、加熱時間を30分程度とした。この結果、アルミナからなる棒の側面全体に単層カーボンナノチューブを生成させることができた。当該カーボンナノチューブの長さは約10mm程度であった。
【0114】
その後、超音波振動をアルミナからなる棒に印加し、形成されたカーボンナノチューブとアルミナからなる棒との接続を解消しながら、アルミナ棒を引抜くことにより、当該アルミナ棒が配置された部分に開口部が形成された、カーボンナノチューブからなる筒状の集合体(筒状体)を得た。そして、このカーボンナノチューブからなる集合体の開口部にアルミニウム線を挿入した。そして、ローラによってカーボンナノチューブをアルミニウム線の側面に沿った方向に倒すように押圧することにより、アルミ線にカーボンナノチューブを密着させた。さらに、アルミニウム線をアルコールに浸漬した後、乾燥させることによって、アルミニウム線の表面におけるカーボンナノチューブを互いに固着させた。このようにして、被覆層を形成した。
【0115】
このようにして得た線材においても、上述した実施例1と同様に引張強度や電流印加時の温度上昇を測定した結果、アルミニウム線のみの場合に比べて十分高い引張強度や温度上昇の抑制を確認することができた。
【0116】
なお、スリーブ状のカーボンナノチューブ集合体(筒状体)は、上記アルミニウム線の替わりに、樹脂被覆した銅線やステンレス線、プラスチック線等の様々な線材やハーネスに対しても適応させる事が可能である。
【0117】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
この発明は、被覆層を有する線材について適用され、特に高い強度や温度上昇の抑制が必要な線材に有利に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明による線材の実施の形態1の断面模式図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける断面模式図である。
【図3】図1および図2に示した線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】導体準備工程(S10)において準備される導体線を示す斜視模式図である。
【図5】表面処理工程(S20)によって得られた芯線2の斜視模式図である。
【図6】図5のVI−VIにおける断面模式図である。
【図7】カーボンナノチューブ成長工程(S30)を行なうことにより芯線の表面にカーボンナノチューブが形成された状態を示す断面模式図である。
【図8】図7の線分VIII−VIIIにおける断面模式図である。
【図9】カーボンナノチューブ処理工程(S40)によって処理された芯線およびカーボンナノチューブの状況を示す断面模式図である。
【図10】図9の線分X−Xにおける断面模式図である。
【図11】加工工程(S50)を説明するための模式図である。
【図12】図11の線分XII−XIIにおける断面模式図である。
【図13】固形化工程(S60)において用いる浸漬工程を説明するための模式図である。
【図14】図3に示したカーボンナノチューブ成長工程(S30)において用いる製造装置を示す模式図である。
【図15】本発明による線材の実施の形態1の第1の変形例を示す断面模式図である。
【図16】本発明による線材の実施の形態1の第2の変形例を示す断面模式図である。
【図17】本発明による線材を用いた接続構造を示す断面模式図である。
【図18】図17の線分XVIII−XVIIIにおける断面模式図である。
【図19】本発明による線材の接続構造の変形例を示す平面模式図である。
【図20】図19の線分XX−XXにおける断面模式図である。
【図21】図19の線分XXI−XXIにおける断面模式図である。
【図22】本発明による線材を用いたハーネスを示す模式図である。
【図23】本発明による線材の実施の形態4を示す斜視模式図である。
【図24】図23の線分XXIV−XXIVにおける断面模式図である。
【図25】図23および図24に示した線材の製造方法を説明するための模式図である。
【図26】図23および図24に示した線材の製造方法を説明するための模式図である。
【図27】本発明による線材の実施の形態5を示す断面模式図である。
【図28】図27に示した線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図29】図29は、下地線材準備工程(S70)において準備される下地線材を示す断面模式図である。
【図30】図28のカーボンナノチューブ成長工程(S30)によって得られた構造を説明するための断面模式図である。
【図31】図30の線分XXXI−XXXIにおける断面模式図である。
【図32】下地線材分離工程(S80)により得られるカーボンナノチューブからなる筒状体を示す断面模式図である。
【図33】図32の線分XXXI−XXXIにおける断面模式図である。
【図34】導体挿入工程(S90)を実施した後の構成を示す模式図である。
【図35】図34の線分XXXV−XXXVにおける断面模式図である。
【図36】加工工程を説明するための模式図である。
【図37】図36の線分XXXVII−XXXVIIIにおける断面模式図である。
【符号の説明】
【0120】
1 線材、2 芯線、3 被覆層、5 導体線、6 下地膜、7〜9,29 カーボンナノチューブ、10 破壊部、11,24,25 ローラ、12 ナノ粒子、13 加工されたカーボンナノチューブ層、15 容器、16 溶液、20 製造装置、21 ヒータ、22 反応容器、23 ガス供給部、27 絶縁層、31 端子、33 コネクタ、34 ハーネス、35 フィン部、37 下地線材、39 開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体を含む芯線と、
前記芯線の外周に接触し、炭素からなるファイバー状の繊維により構成される被覆層とを備える、線材。
【請求項2】
前記ファイバー状の繊維は絶縁体的または半導体的な特性を有する、請求項1に記載の線材。
【請求項3】
前記ファイバー状の繊維が単層のカーボンナノチューブである、請求項1または2に記載の線材。
【請求項4】
前記ファイバー状の繊維の端部には、前記繊維を成長させるために用いられる触媒材料が配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の線材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の線材と、
前記線材の端部に接続された接続部材とを備える、導体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の線材と、
前記線材の芯線と電気的に接続された端子とを備え、
前記線材においては、前記芯線の表面の一部が露出した露出部が形成され、
前記端子は前記露出部において前記芯線と電気的に接続されている、接続構造。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の線材の製造方法であって、
前記芯線を準備する工程と、
前記芯線の表面上に、前記炭素からなるファイバー状の繊維を複数成長させる工程とを備える、線材の製造方法。
【請求項8】
前記芯線を準備する工程は、前記芯線の表面に前記ファイバー状の繊維を成長させるための触媒材料を配置する工程を含み、
前記ファイバー状の繊維を複数成長させる工程では、前記触媒材料上に前記ファイバー状の繊維を成長させる、請求項7に記載の線材の製造方法。
【請求項9】
前記芯線の表面上に複数成長した前記ファイバー状の繊維のうち、金属的な特性を有する繊維を選択的に除去する工程をさらに備える、請求項7または8に記載の線材の製造方法。
【請求項10】
前記金属的な特性を有する繊維を選択的に除去する工程ではプラズマを用いた処理を行なう、請求項9に記載の線材の製造方法。
【請求項11】
前記金属的な特性を有する繊維を選択的に除去する工程では水素を含む雰囲気中で処理を行なう、請求項9に記載の線材の製造方法。
【請求項12】
前記ファイバー状の繊維を加工する工程をさらに備える、請求項7〜11のいずれか1項に記載の線材の製造方法。
【請求項13】
前記ファイバー状の繊維を加工する工程では、前記繊維の延在方向を前記芯線の表面に沿った方向に変更する、請求項12に記載の線材の製造方法。
【請求項14】
前記ファイバー状の繊維を加工する工程では、前記芯線に接続された板状体を構成するように前記複数の繊維を加工する、請求項12に記載の線材の製造方法。
【請求項15】
前記複数のファイバー状の繊維を互いに固着させる工程をさらに備える、請求項7〜14のいずれか1項に記載の線材の製造方法。
【請求項16】
前記ファイバー状の繊維を複数成長させる工程では、前記芯線の延在方向が水平方向と交差する縦方向となるように前記芯線を配置するとともに、前記芯線を前記延在方向に沿って移動させながら、前記芯線の周囲に前記ファイバー状の繊維の原料ガスを供給すると同時に前記芯線を加熱する、請求項7〜15のいずれか1項に記載の線材の製造方法。
【請求項17】
前記芯線が前記延在方向に沿って移動する移動方向は、前記縦方向の下方から上方に向かう方向である、請求項16に記載の線材の製造方法。
【請求項18】
前記芯線の周囲に供給される原料ガスは、前記芯線の周囲において前記縦方向の下方から上方に向かう方向に流通する、請求項16または17に記載の線材の製造方法。
【請求項19】
前記ファイバー状の繊維を複数成長させる工程では、前記芯線の表面に成長する前記ファイバー状の繊維の長さが、前記芯線の延在方向において前記縦方向の下方から上方に向かうほど徐々に長くなっている、請求項16〜18に記載の線材の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の線材の製造方法であって、
前記炭素からなるファイバー状の複数の繊維により構成され、内周開口部が形成された筒状体を準備する工程と、
前記筒状体の前記内周開口部に芯線を配置する工程と、
前記芯線の表面に前記筒状体の前記内周開口部の内周面を接触させる工程とを備える、線材の製造方法。
【請求項21】
前記筒状体を準備する工程は、
棒状または線状の下地材表面上に、前記炭素からなるファイバー状の繊維を複数成長させる工程と、
前記複数の繊維から前記下地材を除去する工程とを含む、請求項20に記載の線材の製造方法。
【請求項22】
前記下地材を除去する工程では、超音波を前記下地材と前記複数の繊維との接続部に印加することにより、前記複数の繊維から前記下地材を分離する、請求項21に記載の線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2009−21038(P2009−21038A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181011(P2007−181011)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】