説明

線材矯正装置および太陽電池の組立て装置

【課題】線材の耐力を増加させず、小さな設備で、線材の長手方向の反りおよび幅方向曲がりなどの変形を矯正することを可能とする。
【解決手段】コイル状に巻き取られた線材を引き出す線材引出し手段と、前記線材の引き出し方向に沿って設けられるとともに、前記線材の厚さ方向に互い違いに設けられる複数の矯正ロールと、前記矯正ロールに設けられる線材の幅と略同じ溝幅を有する凹溝20であって、前記引き出される線材の厚さ方向に曲げを加えるとともに、幅方向の変形を規制する凹溝とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線材矯正装置及び太陽電池の組立て装置に係り、特に反りや蛇行などの変形のある線材を真っ直ぐに矯正するための線材矯正装置、及びこの線材矯正装置を用いて太陽電池セル同士をリード線を介して接続する太陽電池の組立て装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幅と厚さの比(幅/厚さ)が大きい板材のような線材は、ボビンなどに巻かれた状態で保管、搬送されるのが一般的である。例えば太陽電池で発電された電力を集電する導体として使われるはんだめっき平角線も上述した線材に含まれ、ボビンなどに巻かれて供給される。このような線材の主な製造方法としては次の2通りの工法が用いられている。一つは上下に刃が対となって配置されているスリッタによって、幅広の板材から裁断する工法である。もう一つは丸線を圧延して製造する工法である。
【0003】
ここで、スリッタによる裁断工法によって得られた線材においては線材両側面を裁断する際の不均一に起因して、また圧延製造工法によって得られた線材においては線材幅方向の圧延条件の不均一に起因して、ともに図10(a)に示すように、線材80の線材幅方向に湾曲や蛇行などの変形81が形成されてしまう。また、線材には、ボビンへの巻き付けに伴う巻き癖が付いてしまい、図10(b)に示すように、線材80の長手方向に反り(湾曲)91が生じてしまう。太陽電池セルの組立てに用いるリード線もボビンから巻き出した後には反りが残留してしまう。反りが残留したまま太陽電池セルの組み立てを実施すると、搬送時に引っかかり、リード線に湾曲、蛇行、あるいは反りといった変形を生じさせてしまう問題がある。
【0004】
よって、これらの湾曲、蛇行、及び反りといった変形を矯正するための線材矯正装置が、従来、種々提案されている。
例えば、図11に示すように、固定治具82で線材80の一端をクランプし、移動治具83によって線材80の他端を引っ張ってテンションを負荷し、線材に伸びを与えるストレッチャ式装置がある。また、図12に示すように、線材80の上下に、線材の引き出し方向に沿って千鳥状にロールレベラ(矯正ロール)としての水平ロール101を複数個配置してなるローラレベラ式装置がある。同種の矯正装置として、図示しないが、水平ロールの前後にテンションを負荷するためのブライドルロールをそれぞれ配置してなるテンションレベラ式装置もある。さらに、図13に示すような線材80の引き出し方向に沿って上下に千鳥状に複数個配置される複数の水平ロール101と、線材の幅方向両側に設けられる複数の垂直ロール102とを備えて、線材の長手方向形状のみならず幅方向形状を矯正する改善ローラレベラ式装置がある。
【0005】
上記のような線材矯正装置により矯正された線材を、例えば、シリコン製の太陽電池セル同士を接続するリード線として用いる場合には、太陽電池セルに対してはんだ接続されるものである。この場合の線材は導電性を考慮して銅をベースにしたものを用いるのが一般的である。しかし、シリコンと銅をベースにした線材との熱膨張係数は大きく異なるため、はんだ接続後の太陽電池セルには熱応力による反りが発生する。そのためこれを防止する目的で、線材の材料としては耐力を低減させたものが用いられている。線材の軟質性を確保して太陽電池セルの反りを小さくするためである。
【0006】
上述した線材矯正装置を有する設備の一つに太陽電池の組立て装置がある。太陽電池の組立て装置の中では、線材の反りなどの変形を除去する装置として、図11に示したストレッチャ構造の方式が一般的に採用されてきた。これは矯正ロールを使わないため、比較
的簡単な構造でリード線の反り、幅方向の湾曲などの変形を矯正できるからである。
【0007】
しかし、ストレッチャ方式では、テンションを負荷して材料を引き伸ばし、それによって内部の残留応力分布を減らして残留応力を均一化し、線材の形状を平坦化させるようにしている。このため、耐力を低減させた線材を用いても、線材に伸びが与えられ、線材材料が加工硬化を引き起こすために耐力が増加してしまうという欠点があった。これにより、太陽電池セルにはんだ接続した際に、太陽電池セルが反ってしまうという問題があった。
【0008】
そこで、ストレッチャ方式に代わる方法として図12に示したローラレベラ式が考えられる。ローラレベラ式は複数の水平ロール101が上下に配置された中に、線材を通過させる方式であるので、ボビンへの巻き癖など線材長手方向の湾曲の矯正には効果がある。また、この方式であれば、線材の厚さ方向の一部分のみを塑性変形させ、応力分布をバランスさせることで形状矯正できる。このように加工硬化を抑えながら形状矯正の効果を得ることができるので、太陽電池セルの反りを少なくすることができる。しかし、水平ロール101のみで矯正しているので、幅方向の変形である蛇行を矯正することは困難である。
【0009】
そのため、これに対応するものとして、図13に示したように水平ロール101に加えて垂直ロール102を配置し、それによって線材長手方向の変形のみならず、幅方向の変形も矯正することが可能な改善ローラレベラ式装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これによれば、線材長手方向の反りを矯正するときに、使用する線材の幅制約を受けないメリットがある。なお、この方式では、図示するように、垂直ロール102にガイド103が設けられているが、これは幅矯正をする際に線材80が垂直ロール102からの側方力を受けて、横転するのを防止するためである。
【0010】
また、図14に示すように、改善ローラレベラ式装置において、さらに一歩進めて、垂直ロール102に線材幅方向に押圧機構105を設け、線材80の幅方向サイズが変わっても、そのサイズに垂直ロール102を合わせることも行われている。
【特許文献1】特開2007−44734
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術では、線材の耐力の増加を防止することは可能となるものの、調整すべき矯正ロールの数が多くなり、設備が大型化すると共に、作業性が悪くなるという問題があった。また、押圧機構を設けるものでは、設備が大型化すると共に、調整によっては線材を変形させてしまうという問題があった。これらの問題は厚さに対して幅が大きい板材以外の線材にも共通する。
【0012】
本発明の目的は、線材の耐力を増加させず、小さな設備で、線材の長手方向の反りおよび幅方向曲がりなどの変形を矯正することが可能な線材矯正装置を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、上述した線材矯正装置を用いて太陽電池用のリード線の形状を有効に矯正することが可能な太陽電池の組立て装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様によれば、コイル状に巻き取られた線材を引き出す線材引出し手段と、前記線材の引き出し方向に沿って設けられるとともに、前記線材の厚さ方向に互い違いに設けられる複数の矯正ロールと、前記矯正ロールに設けられる線材の幅と略同じ溝幅を有する凹溝であって、前記引き出される線材の厚さ方向に曲げを加えるとともに、幅方向の変形を規制する凹溝と、を備えた線材矯正装置が提供される。
【0014】
前記凹溝は、前記線材の幅/厚さの比が1〜60である前記線材に対応した溝幅と深さを有するものとすることができる。また、前記凹溝の溝側面と、該凹溝の設けられていない前記矯正ロールの表面とが交わる前記凹溝開口の角部に、丸みまたは面取りを施すことが好ましい。また、前記凹溝開口の角部の丸みを0.05mm〜2mmとするのが好ましい。また、前記溝開口の角部の面取り寸法を0.05mm〜2mmとするが好ましい。
【0015】
前記凹溝を設けた溝付きの矯正ロールは、両端面に凸状の係止部または凹状の被係止部がそれぞれ設けられ、側面が前記リング状の凹溝の底面を構成する円柱状のロール本体と、前記ロール本体の両端面にそれぞれ突合して前記凹溝の側面を形成するリング平面を有し、該リング平面に前記ロール本体の係止部または被係止部が係止される、凹状の被係止部または凸状の係止部を有する一対のリング状のガイドリングと、から構成し、前記ロール本体の係止部または被係止部に、前記ガイドリングの被係止部または係止部を取り外し可能に係止するようにすることができる。
【0016】
前記矯正ロールの前記線材の引き出し方向の上流側に、前記線材にテンションを負荷するテンション負荷手段を設けることが好ましい。また、前記矯正ロールの前記線材の引き出し方向の上流側に、その自重により前記線材にテンションを負荷する移動自在なローラを設けることが好ましい。
【0017】
隣接する太陽電池セル同士をリード線を介して電気的に接続する太陽電池の組立て装置であって、前記リード線の矯正装置として上述した線材矯正装置を備える太陽電池の組立て装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の線材矯正装置によれば、線材の耐力を増加させず、小さな設備で、線材の長手方向の反りおよび幅方向曲がりなどの変形を矯正することができる。
また、本発明の太陽電池の組立て装置によれば、本発明の線材矯正装置を用いているので、太陽電池用のリード線の形状を有効に矯正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に、本発明の好適な一実施の形態に係る線材矯正装置の概略図を示す。図1(a)は平面図、図1(b)は側面図を示している。
【0021】
図1(a)、(b)に示すように、本実施の形態に係る線材矯正装置10は、コイル状に巻き取られた線材、例えば偏平線材11を水平方向(図1(a)、図1(b)中では左右方向)に引き出す線材引出し手段(図示せず)を備える。ここで言う偏平線材11とは、幅と厚さの比(幅/厚さ)が1以上の線材のことであり、厚さに対して幅が広い板材や断面ほぼ正方形状の線材も含まれる。また、、線材引出し手段は、例えばモータ、このモータにより軸回転するスクリューロッド、スクリューロッドの回転とともに進退する線材用クランプなどから構成することができる(線材引出し手段の詳細については、例えば特開2003−298096を参照)。
【0022】
また、線材矯正装置10は、水平方向に引き出される偏平線材11の厚さ方向となる上下に設けられ、偏平線材11の引き出し方向に沿って互い違い状、例えば千鳥状に配置される矯正ロールとしての水平ロール12を複数個備える。これらの水平ロール12は回転自在とされる。
水平ロール12の側面全周には、線材長手方向及び線材幅方向の変形の矯正するための
リング状の凹溝20が形成されている。凹溝20は、ロール両端側より内側の中間部に設けられる。凹溝20は、例えば、円柱状ロール(円筒ロールも含む)からの一体削り出し構造とすることができる。このようにして水平ロール12は溝付き水平ロールとされる。
【0023】
凹溝20の溝形状は、溝底面は偏平線材が線接触するようフラットとし、溝側面が溝底面に対して垂直な断面矩形状とするのが好ましい。この矩形状の凹溝20の溝幅は、偏平線材11の幅と略同じとする。また、凹溝20の深さは偏平線材11の厚さよりも浅くするのがよい。凹溝20の深さを偏平線材11の厚さよりも浅くすると、水平ロール12間の隣接配置距離を可能な範囲で接近できるからである。なお、凹溝20の深さが浅すぎると、凹溝20外側の水平ロール12上に乗り上げてしまうので好ましくない。したがって、凹溝20の深さは、上下に配置される水平ロール12の凹溝20の底面により、線材厚さ方向両側から偏平線材11に付与される押圧力が最適となるような深さとするのがよい。
【0024】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0025】
ボビンなどにコイル状に巻き取られた偏平線材11を線材引出し手段により水平方向に引き出して、互い違い状に配置された複数の水平ロール12間の凹溝20内を通過させる。すると、偏平線材11は複数本の水平ロール12の凹溝20の底面からの押圧力によって、偏平線材11の厚さ方向に引き返し曲げが加えられ、線材長手方向の湾曲(反り)が矯正される。このとき、水平ロール6の凹溝20の両側面からの押圧力によって、偏平線材11の線材幅方向の変形も規制され、それによって蛇行や湾曲などの幅方向の変形が同時に矯正される。
【0026】
このように、偏平線材11は、各水平ロール12に設けた凹溝20によって垂直方向および水平方向の動きが抑制、制限された状態で、複数の水平ロール12を通される。その結果、線材長手方向の変形である長手方向の反りだけでなく、線材幅方向の変形である蛇行なども矯正することができ、平坦性が向上し巻き癖などが解消された真っ直ぐな線材が得られる。
【0027】
また、本実施の形態に係る線材矯正装置10における溝付き水平ロール12は、従来の線材矯正装置における改善ローラレベラ式装置(図13参照)と比べて、垂直ロールを省略して設備を小型化することができ、作業性も良好になる。したがって、この線材矯正装置10を既存、既設の設備に対して容易に組み込むことができる。
【0028】
また、従来のストレッチャ式だと偏平線材に引張力を作用させて永久ひずみが残留するように塑性変形させるので、線材の耐力が増加してしまっていたが、本実施の形態だと押圧力による矯正であり、塑性変形させないので、偏平線材の耐力の増加を抑えることができる。
【0029】
ここで、偏平線材が太陽電池用リード線である場合には、その0.2%耐力値は、主に「9OMPa以下」のものが対象とされる。90MPaよりも大きい場合には、従来方式の線材矯正装置によってもある程度対応可能となるからである。
【0030】
なお、水平ロール12のロールの直径は、偏平線材11の厚さに応じて適宜変更されるものであるが、偏平線材11の厚さの50〜500倍、好ましくは100〜300倍、より好ましくは150〜250倍とされる。ロール径が小さすぎると、変形を矯正させる効果が強すぎて、新たな変形が生じるおそれがある。一方、ロール径が大きすぎると、変形を矯正させる効果が不足するので、残留変形量が大きくなってしまう。
【0031】
図2に水平ロール12に設けた凹溝20の実施の形態を示す。水平ロール12は偏平線材11が触れるエッジの部分(A部)に丸み加工R(図2(c))、もしくは面取り加工C(図2(d))を施したものとなっている。ここでエッジの部分(A部)は、凹溝20の溝側面と、凹溝20の設けられていない水平ロール12の表面とが交わる凹溝開口の角部である。また、凹溝20の設けられていない水平ロール12の表面は、水平ロール12の両端に設けられ、凹溝20が設けられるロール内側よりも径の大きなガイドリング21で構成される。
上記丸み加工R寸法、もしくは面取り加工C寸法は、共に0.05mmm〜2.0mmの範囲にあることが望ましい。0.05mmよりも小さいと偏平線材11の幅方向側面を削ってしまうことになり、逆に2.0mmよりも大きいと偏平線材11がロールの凹溝20の上のガイドリング21に乗り上げてしまい、形状矯正ができないからである。
【0032】
ところで、凹溝20を上述したように円柱状ロールからの一体削り出し構造とすると、凹溝の幅を変更できない。凹溝の幅を変更できないと、偏平線材11の幅方向の寸法が規制されるので、偏平線材11の幅方向サイズの変更に容易に追従させることができない。そこで、幅方向サイズが複数種類以上あっても、偏平線材11の幅方向サイズに容易に追従できることが好ましい。
【0033】
図3はそのような偏平線材11の幅方向サイズに容易に追従できる本実施の形態の変形例を示す。図3(a)に示す水平ロール12の両端に設けられるガイドリング21が取り外し可能であり、水平ロール12の加工部の長さWを変更できる構造となっているものである。
【0034】
すなわち、図3(b)、(c)に示すように、溝付きの水平ロール12は、ロール本体22と、1対のガイドリング21とから構成されるはめ込み構造となっている。
ロール本体22、22aは円柱状であって、両端面に凸状の係止部24、24aを有し、側面23、23aの全周がリング状の凹溝20の底面を構成する。凸状の係止部24、24aは、例えば凹溝20の底面を構成するロール本体22、22aの径よりも小径のロール軸とされる。
ガイドリング21はリング状であって、ロール本体22、22aの両端面にそれぞれ突合して凹溝20の側面を形成するリング平面を有し、このリング平面にロール本体22の係止部24、24aが係止される凹状の被係止部25を有する。凹状の被係止部25は例えば前記ロール軸が嵌入される係止穴とされる。
ロール本体22の係止部24、24aにガイドリング21の被係止部25を係止することにより、図3(a)に示す溝付き水平ロール12が組立てられる。ロール本体22、22aはガイドリング21に対して取り外し可能とされる。
【0035】
水平ロール12が、このような組立て自在な溝付きロールであると、図3(b)、(c)のように長さの異なるロール本体22、22a(W1<W2)を複数種類用意しておくことにより、水平ロール12の長さを容易に変更できる。
したがって、水平ロール12がこのような構造であれば、線材幅方向の寸法が異なる偏平線材11を矯正する際にも、異なる線材幅に簡単に対応することができ、従来の押圧機構を設けるものと比べて、線材の幅方向に無理な力を加えないために、偏平線材の両端を変形させることが無い。
【0036】
また、偏平線材11の幅方向端部が接触するエッジの部分(B部)については、一体削り出し構造の場合、通常の機械加工では必ず丸みRが残ってしまうため(図3(d))、丸みRが偏平線材を変形させてしまう可能性があった。ここでエッジの部分(B部)は、凹溝20の底面と、凹溝20の側面とが交わる凹溝底部の角部である。しかし、本実施の形態の組合わせ構造では、ガイドリング21のリング平面をロール本体22、22aの端
面に突き当てる構造となるので、B部に丸みRが残らないため、偏平線材を変形させることがない(図3(e))。
【0037】
図4に線材矯正装置10の変形例を示す。この変形例は、水平ロール12の偏平線材11の引き出し方向の上流側に、偏平線材11にテンションを負荷するテンション負荷手段30を設けたものである。このテンション負荷手段30は、上下動自在なロール、例えばテンション付与用のロール31と、ガイドロール32とを備えており、そのテンション付与用のロール31の自重によって偏平線材11にテンションが負荷される。このテンションの負荷によって、偏平線材11を安定して引き出すことができ、線材幅方向及び線材長手方向の変形を矯正する際にばらつきが生じるおそれがなく、より真っ直ぐな偏平線材11を得ることができる。
本装置を用いて偏平線材11の形状矯正を行ったところ、線材の長手方向の反り、および幅変形である蛇行が共に矯正され、より平坦性を向上させることができた。
【0038】
なお、上述した実施の形態では、いずれも矯正ロールを水平ロールとしたが、垂直ロールとしても良い。この場合、ボビンからは垂直方向に線材を引き出すようにする。
【0039】
図5に本実施の形態に係る線材矯正装置10を組み込んだ太陽電池の組立て装置40の概略平面図を示す。
【0040】
太陽電池の組立て装置40は、偏平線材(リード線)11を把持する前部クランプ装置41と後部クランプ装置42とを備える。前部クランプ装置41は後部クランプ装置42に対して往復移動可能に設けられる。前部クランプ装置41および後部クランプ装置42間に位置して切断装置43が設けられる。そして、ボビン44にロール状に巻きとられた偏平線材11が、前部クランプ装置41に把持されて所定長、ボビン44から引き出される。偏平線材11が引き出される際、ボビン44と後部クランプ装置42との間に設けた線材矯正装置10により、偏平線材11を直線状に矯正する。矯正された偏平線材11は切断装置43により設定長さに切断される。切断されたリード線11aは、吸着装置45に吸着され、搬送装置46上を設定位置に搬送された太陽電池セル50の接着位置に供給されてはんだ接続される。これにより隣接する太陽電池セル同士がリード線11aを介して電気的に接続される(太陽電池の組立て装置40の詳細については、例えば特開2003−298096を参照)。
【0041】
上述したように本実施の形態に係る線材矯正装置10を太陽電池の組立て装置40に組み込むことで、図6に示すように、隣接する太陽電池セル50同士を真直に矯正したリード線11aで、所定の位置に高精度に接続することができる。また、従来のストレッチャ式だと偏平線材に引張力を作用させて永久ひずみが残留するように塑性変形させるのでリード線11aの耐力が増加する。これに対して本実施の形態だと銅をベースにしたリード線11aの耐力の増加を抑えることができるので、シリコン製の太陽電池セル50の反りを有効に低減できる。
【0042】
よって、線材矯正装置10を組み込んだ太陽電池の組立て装置40によれば、隣接する太陽電池セル50同士をリード線11aを介して精度よく、かつ、確実に接続することができ、電気的信頼性の高い太陽電池モジュールを歩留まりよく製造することができる。
【0043】
また、太陽電池用の組立て装置内に組込む実施の形態の線材矯正装置は小さいため、太陽電池用の組立て装置を小型化することが可能となる。
【0044】
本発明の好ましい形態を付記する。
【0045】
本実施の一形態によれば、コイル状に巻き取られた線材を引き出す線材引出し手段と、前記線材の引き出し方向に沿って設けられるとともに、前記線材の厚さ方向に互い違いに設けられる複数の矯正ロールと、前記矯正ロールに設けられる線材の幅と略同じ溝幅を有する凹溝であって、前記引き出される線材の厚さ方向に曲げを加えるとともに幅方向の変形を規制する凹溝と、を備えた線材矯正装置を提供できる。
複数の矯正ロールの間の凹溝を線材が引き出されると、凹溝の底面により線材に線材厚さ方向両側から押圧力が付与される。また、凹溝の両側面により前記線材の幅方向両側から押圧力が付与される。したがって、矯正ローラに凹溝を設けるだけの簡単な構造で、線材長手方向及び線材幅方向の反りや蛇行などの変形を有効に矯正できる。
【0046】
前記凹溝は、前記線材の幅/厚さの比が1〜60である前記線材に対応した溝幅と深さを有するものとすることができる。
線材の幅/厚さの比は1〜60であると、線材長手方向の反り及び線材幅方向の反りをより有効に矯正できるので好ましい。この比が60よりも大きい断面を有する横長の線材であると、矯正ロールによる線材幅方向の変形の矯正が困難となってしまう。一方、この比が1よりも小さい断面を有する縦長の線材であると、矯正ロールによる線材幅方向の変形の矯正が効きすぎるため、適正な条件設定が困難となってしまう。線材の幅/厚さの比は好ましくは2〜40、より好ましくは5〜20とされる。
【0047】
前記凹溝の溝側面と、該凹溝の設けられていない前記矯正ロールの表面とが交わる前記凹溝開口の角部に、丸みまたは面取りを施すことが好ましい。
凹溝開口の角部に丸みまたは面取りを施すと、線材の幅方向側面が削られたり、線材が凹溝外の矯正ロール(ガイドリング)上に乗り上げてしまったりするという不具合を軽減でき、より有効に線材の形状を矯正することができる。
【0048】
前記凹部を設けた溝付きの矯正ロールは、両端面に凸状の係止部または凹状の被係止部がそれぞれ設けられ、側面が前記リング状の凹溝の底面を構成する円柱状のロール本体と、前記ロール本体の両端面にそれぞれ突合して前記凹溝の側面を形成するリング平面を有し、該リング平面に前記ロール本体の係止部または被係止部が係止される、凹状の被係止部または凸状の係止部を有する一対のリング状のガイドリングと、から構成し、前記ロール本体の係止部または被係止部に、前記ガイドリングの被係止部または係止部を取り外し可能に係止するようにすることができる。
ロール本体に対してガイドリングが取り外し可能であり、ロール本体の長さ、すなわち凹溝幅を変更できる構造となっているので、ロール本体を、線材の幅方向サイズに合せたロール本体に交換することにより、線材矯正装置を種々の線材幅に自在に対応させることができる。
【0049】
前記矯正ロールの前記線材の引き出し方向の上流側に、前記線材にテンションを負荷するテンション負荷手段を設けることが好ましい。
このテンションの負荷によって、線材を安定して引き出すことができ、線材幅方向及び線材長手方向の変形を矯正する際にばらつきが生じるおそれがなく、より変形のない線材を得ることができる。
【0050】
前記矯正ロールの前記線材の引き出し方向の上流側に、その自重により前記線材にテンションを負荷する移動自在なローラを設けることが好ましい。
このテンションの負荷によって、線材を安定して引き出すことができ、線材幅方向及び線材長手方向の変形を矯正する際にばらつきが生じるおそれがなく、より変形のない線材を得ることができる。
【0051】
また、隣接する太陽電池セル同士をリード線を介して電気的に接続する太陽電池の組立
て装置であって、前記リード線の矯正装置として上述した線材矯正装置を備える太陽電池の組立て装置を提供することができる。
隣接する太陽電池セル同士を変形のないリード線を介して精度よく、かつ、確実に接続することができ、電気的信頼性の高い太陽電池モジュールを歩留まりよく製造することができる。
【0052】
また、本実施の形態の線材矯正装置は、太陽電池の組立て装置の他に、予めコイル形状に巻き付けた各種の線材を別のコイル形状に巻き直す線材の巻き直し装置に組込むことも可能である。
【実施例】
【0053】
[実施例1、2、比較例1]
実施例1、2、比較例1ともに、ボビンに巻き取られた厚さ0.2mm、幅2mmの共通の偏平線材を準備した。
実施例1、2は、図1に示した線材矯正装置10を用いて偏平線材を矯正したものである。ボビンに巻き取られた偏平線材を引き出すと共に、線材矯正装置10にそれぞれ供給し、偏平線材に対して複数の溝付き水平ロールで矯正加工を施した。偏平線材に用いる線材矯正装置の各ロール径は80mm(実施例1)、30mm(実施例2)とした。これに対して比較例1は、従来のストレッチャ方式で2%伸びを与えて引張り矯正したものである。
矯正前と矯正後における偏平線材の変形量を比較した。ここで言う変形量は、偏平線材の長さ150mm当たりの変形量である。また、矯正前と矯正後における0.2%耐力を比較した。更に、矯正後のリード線を接着した太陽電池セルの反りを比較した。評価に用いたセルは200μmの厚さを持つもので、リード線を太陽電池セルに接着するための、はんだにはSn−Ag−Cu系の鉛フリーはんだを用いている。これらの比較結果を図7に示す。
【0054】
図7に示すように、実施例1、2の各偏平線材における矯正後の線材長手方向の変形量(反り量)はそれぞれ1mm、0.8mmであり、矯正前の約1/70〜1/87になった。また、実施例1、2の各偏平線材における矯正後の線材幅方向の変形量(蛇行量)はそれぞれ0.5mm、0.4mmであり、矯正前の約1/2〜1/25になった。また、実施例1、2の各偏平線材における矯正後の0.2%耐力はそれぞれ53MPa、55MPaであり、矯正前の6%増、10%増になった。また、矯正後のリード線を接着した太陽電池セルの反りはそれぞれ4.5mm、5mmであった。
【0055】
これに対して比較例1の偏平線材における矯正後の線材長手方向の変形量(反り量)は1mmであり、矯正前の約1/70になった。また、比較例1の偏平線材における矯正後の線材幅方向の変形量(蛇行量)は0.5mmであり、矯正前の約1/2になった。また、比較例1の偏平線材における矯正後の0.2%耐力は75MPaであり、矯正前の50%増になった。また、矯正後の偏平線材(リード)を接着したセルの反りは7mmであった。
【0056】
以上より、本実施の形態の線材矯正装置を用いて偏平線材の矯正を行うことで、偏平線材の耐力を増加させずに、ほぼ真直な線材が得られることが確認できた。また、本実施の形態の太陽電池の組立て装置を用いて太陽電池セルにリード線を接着することで、反りの少ない太陽電池セルが得られることが確認できた。
【0057】
[実施例3、4、比較例2〜4]
図2(d)に示したA部のロールエッジ加工寸法(面取り寸法)が異なる5種類の水平ロールを準備した。各ロールエッジ加工寸法は、0.05mm(実施例3)、2.0mm
(実施例4)、0.02mm(比較例2)、2.5mm(比較例3)、3.0mm(比較例4)とした。これらの水平ロールを図1に示した線材矯正装置10に組み込んだ。
【0058】
実施例3、4、比較例2〜4ともに、ボビンに巻き取られた厚さ0.2mm、幅2mmの共通の偏平線材を準備した。ボビンに巻き取られた偏平線材を引き出すと共に、図1に示した線材矯正装置10にそれぞれ供給し、偏平線材に対して溝付き水平ロール式で矯正加工を施した。そのときのロールエッジ加工寸法の違いによる偏平線材の線材側面削れ、およびガイドリングへの乗り上げを比較した。比較結果を図8に示す。
【0059】
図8において、線材側面削れ「△」は、線材の側面の削れが発見された場合、線材側面削れ「○」は、線材の側面の削れが発見されなかった場合を意味する。また、ガイドリングへの乗り上げ「○」は乗り上げが一切なかった場合を意味し、ガイドリングへの乗り上げ「×」は線材の幅方向中央部まで乗り上げがあった場合を意味し、ガイドリングへの乗り上げ「△」は、線材の幅方向中央部まで乗り上げが若干発見されたが、線材が自力で適正な軌道に戻ったものを意味する。
【0060】
図8に示すように、実施例3、4の面取り寸法0.05mm〜2.0mmの水平ロールを用いた場合では線材の側面の削れが発見されず、またガイドリングへの乗り上げは一切なかった。
【0061】
これに対して、比較例2の水平ロールを用いた場合ではガイドリングへの乗り上げは一切なかったものの、線材の側面の削れが発見された。また、比較例3では線材の側面削れは発見されなかったものの、線材の幅方向中央部まで乗り上げが若干発見されたが、偏平線材が自力で適正な軌道に戻った。また、比較例4では線材の側面削れは発見されなかったものの、線材の幅方向中央部まで乗り上げがあった。
【0062】
以上より、本実施の形態の線材矯正装置を用いて偏平線材の矯正を行うことで、線材側面削れがない線材が得られ、また、ロール加工部への乗り上げがないことが確認できた。
【0063】
[実施例5、比較例5]
2種類の水平ロールを準備した。水平ロールははめ込み構造(実施例5)、一体削り出し構造(比較例5)とした。これらの水平ロールを図1に示した線材矯正装置10に組み込んだ。
【0064】
実施例5、比較例5ともに、ボビンに巻き取られた厚さ0.2mm、幅2mmの共通の偏平線材を準備した。ボビンに巻き取られた偏平線材を引き出すと共に、図1に示した線材矯正装置10にそれぞれ供給し、偏平線材に対して溝付き水平ロール式で矯正加工を施した。そのときの水平ロール構造の違いによる線材側面変形を比較した。比較結果を図9に示す。
【0065】
図9において、線材側面変形「△」は、線材を幅方向に見た場合に中央部から側面部までの高低差が0.2mm以上であったものを意味し、線材側面変形「○」はほぼ変形がみられなかったものを意味する。
【0066】
図9に示すように、実施例5の構造の水平ロールを用いた場合では線材側面変形はほぼ変形がみられなかった。これに対して、比較例5の構造の水平ロールを用いた場合では線材を幅方向に見た場合に中央部から側面までの高低差が0.2mm以上であった。
【0067】
以上より、本実施の形態の構造の水平ロールを用いて偏平線材の矯正を行うことで、線材側面変形がない線材が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施の形態における線材矯正装置の概略図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】図1に示す溝付きロール構造の説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はA部拡大図、(d)はA部拡大図である。
【図3】図2の変形例を示す溝付きロール構造の説明図であり、(a)は平面図、(b)は分解平面図、(c)は分解平面図、(d)はB部拡大図、(e)はB部拡大図である。
【図4】図1の変形例を示す線材矯正装置の側面図である。
【図5】本本実施の形態における太陽電池の組立て装置の概略構成を示す平面図である。
【図6】本実施の形態における太陽電池セルへの接続用リード線の接続状態を示す斜視図である。
【図7】実施例と比較例における線材の形状矯正の比較結果を示す図である。
【図8】実施例と比較例における溝付きロールのエッジ加工寸法における線材側面削れ、ガイドリングへの乗り上げの有無の比較結果を示す図である。
【図9】実施例と比較例における溝付きロールの構造における線材側面変形の有無の比較結果を示す図である。
【図10】線材の変形を説明する図であって、(a)は線材幅方向の変形を有する線材の斜視図、(b)は線材長手方向の変形を有する線材の斜視図である。
【図11】従来例の線材矯正装置の一つであるストレッチャの側面図である。
【図12】従来例の線材矯正装置の一つであるローラレベラの側面図である。
【図13】従来例の垂直ロールを配したローラレベラを説明する図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図14】図13の変形例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0069】
11 偏平線材
10 線材矯正装置
12 水平ロール(矯正ロール)
20 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状に巻き取られた線材を引き出す線材引出し手段と、
前記線材の引き出し方向に沿って設けられるとともに、前記線材の厚さ方向に互い違いに設けられる複数の矯正ロールと、
前記矯正ロールに設けられる線材の幅と略同じ溝幅を有する凹溝であって、前記引き出される線材の厚さ方向に曲げを加えるとともに、幅方向の変形を規制する凹溝と、
を備えた線材矯正装置。
【請求項2】
前記凹溝は、前記線材の幅/厚さの比が1〜60である前記線材に対応した溝幅と深さを有する請求項1記載の線材矯正装置。
【請求項3】
前記凹溝の溝側面と、該凹溝の設けられていない前記矯正ロールの表面とが交わる前記凹溝開口の角部に丸みまたは面取りを施した請求項1または2記載の線材矯正装置。
【請求項4】
前記凹溝開口の角部の丸みが0.05mm〜2mmであることを特徴とする請求項3に記載の線材矯正装置。
【請求項5】
前記溝開口の角部の面取り寸法が0.05mm〜2mmであることを特徴とする請求項3に記載の線材矯正装置。
【請求項6】
前記凹溝を設けられる矯正ロールが、
両端面に凸状の係止部または凹状の被係止部を有し、側面が前記リング状の凹溝の底面を構成する円柱状のロール本体と、
前記ロール本体の両端面にそれぞれ突合して前記凹溝の側面を形成するリング平面を有し、該リング平面に前記ロール本体の係止部または被係止部が係止される、凹状の被係止部または凸状の係止部を有する一対のリング状のガイドリングと、
から構成され、
前記ロール本体の係止部または被係止部に、前記ガイドリングの被係止部または係止部を取り外し可能に係止してなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の線材矯正装置。
【請求項7】
前記矯正ロールの前記線材の引き出し方向の上流側に、前記線材にテンションを負荷するテンション負荷手段を設けた請求項1ないし6のいずれかに記載の線材矯正装置。
【請求項8】
前記矯正ロールの前記線材の引き出し方向の上流側に、その自重により前記線材にテンションを負荷する移動自在なローラを有する請求項1ないし6のいずれかに記載の線材矯正装置。
【請求項9】
隣接する太陽電池セル同士をリード線を介して電気的に接続する太陽電池の組立て装置であって、前記リード線の矯正装置として請求項1から8のいずれかに記載の線材矯正装置を備えたことを特徴とする太陽電池の組立て装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−284560(P2008−284560A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129528(P2007−129528)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】