説明

線維芽細胞成長因子21の突然変異タンパク質

本発明は、改善された薬剤的特質をもつヒト線維芽細胞成長因子21の新規突然変異タンパク質に関する。タンパク質およびそれぞれのコードする核酸種が、開示される。また、本発明は、上記核酸配列の増殖および上記突然変異タンパク質の産生のためのベクターおよび宿主細胞を具体化する。また、2型糖尿病、肥満症、代謝症候群の治療のための、並びに非常に重篤な患者の死亡率および罹患率を減少させる際の方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された薬剤的特質を有する線維芽細胞成長因子21の新たな突然変異タンパク質の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞成長因子は、発生中の、および成人の組織(Baird et al.,Cancer Cells,3:239−243, 1991)において広範に発現される大きなポリペプチドであり、血管形成、有糸分裂誘発、パターン形成、細胞分化、代謝調節、および組織傷害の修復を含む複数の生理機能において重要な役割を果たす(McKeehan et al.,Prog. Nucleic Acid Res.Mol.Biol.59:135−176,1998)。発表された文献によれば、FGFファミリーは、現在、FGF−1〜FGF−23の少なくとも23メンバーからなる(Reuss et al.,Cell Tissue Res.313:139−157(2003)。
【0003】
線維芽細胞成長因子21(FGF−21)は、肝臓に優先して発現されることが報告されており(Nishimura et al.,Biochimica et Biophysica Acta、1492:203−206,(2000);WO01/36640;およびWO01/18172)、虚血性血管疾患、創傷治癒、並びに肺、気管支、または肺胞細胞機能の喪失および多くのその他の障害に関連した疾患の治療として記載されている。より最近では、FGF−21は、インスリンの有無においてマウス3T3−L1脂肪細胞のグルコース摂取を刺激すること、およびob/obおよびdB/dBマウスにおける摂食並びに空腹時血糖、トリグリセリド、およびグルカゴンレベルを減少することが示され、したがって、8週齢のZDFラットを用量依存滴様式で糖尿病および肥満症を治療するための療法として、FGF−21の使用についての基礎を提供する(WO0/011213)。加えて、FGF−21は、非常に重篤な患者の死亡率および罹患率を減少させるのに有効なことが示された(WO03/059270)。
【0004】
FGF−21などのタンパク質医薬の開発における有意な挑戦は、これらの物理的および化学的不安定性に対処することである。タンパク質の組成上の多様性および特徴は、折りたたみ、高次構造上の安定性、およびアンフォールディング/変性などの具体的挙動を定義する。このような特徴により、水性タンパク質溶液を利用して薬剤的処方条件を開発するときには、タンパク質を安定化するように処理されなければならない(Wang,W.,Int.J.of Pharmaceutics,18,(1999))。
【0005】
特に、薬剤的タンパク質開発、フェノール、m−クレゾール、メチルパラベン、レゾルシノール、およびベンジルアルコールなどの抗菌性保存剤は、無菌の多目的製剤であることが企図される非経口的製剤において必要とされる。残念なことに、これらの化合物は、タンパク質産物の安定性に悪影響を与えることが多く、特に会合および凝集をトリガーしてしまう(Maa et al.,Int.J.of Pharmaceutics 140:155−168(1996);Lam et al.,Pharm.Res.14(6):725−729(1997))。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FGF−21は、多目的の、無菌の製剤として利用される可能性が高い。しかし、保存剤(すなわち、m−クレゾール)が、これらの条件下でその安定性に対して有害な影響を有することが決定された。明らかであるが、治療的タンパク質FGF−21のための安定な水性タンパク質製剤を開発する必要がある。本発明は、製剤条件下で野生型FGF−21よりも安定なFGF−21の突然変異タンパク質の本発明によって、物理的不安定性に関する有意なハードルを克服する。従って、本発明のFGF−21の突然変異タンパク質は、2型糖尿病、肥満症、代謝症候群の治療のために、並びに非常に重篤な患者の死亡率および罹患率を減少させるのに有用である安定な薬理学的タンパク質製剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の局面において、本発明は、以下の1つまたは複数に対する、荷電した、および/または極性であるが、無電荷のアミノ酸の置換を含む、ヒト線維芽細胞成長因子21の突然変異タンパク質、またはこれらの生物活性ペプチド:グリシン42、グルタミン54、アルギニン77、アラニン81、ロイシン86、フェニルアラニン88、リジン122、ヒスチジン125、アルギニン126、プロリン130、アルギニン131、ロイシン139、アラニン145、ロイシン146、イソロイシン152、アラニン154、グルタミン156、グリシン161、セリン163、グリシン170、またはセリン172(式中、アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)を提供する。
【0008】
本発明の第2の局面は、以下の2つ以上に対するシステインの置換を含むヒト線維芽細胞成長因子21の突然変異タンパク質、またはこれらの生物活性ペプチド:アルギニン19、チロシン20、ロイシン21、チロシン22、スレオニン23、アスパラギン酸24、アスパラギン酸25、アラニン26、グルタミン27、グルタミン28、アラニン31、ロイシン33、イソロイシン35、ロイシン37、バリン41、グリシン42、グリシン43、グルタミン酸50、グルタミン54、ロイシン58、バリン62、ロイシン66、グリシン67、リジン69、アルギニン72、フェニルアラニン73、グルタミン76、アルギニン77、アスパラギン酸79、グリシン80、アラニン81、ロイシン82、グリシン84、セリン85、プロリン90、アラニン92、セリン94、フェニルアラニン95、ロイシン100、アスパラギン酸102、チロシン104、チロシン107、セリン109、グルタミン酸110、プロリン115、ヒスチジン117、ロイシン118、プロリン119、アスパラギン121、リジン122、セリン123、プロリン124、ヒスチジン125、アルギニン126、アスパラギン酸127、アラニン129、プロリン130、グリシン132、アラニン134、アルギニン135、ロイシン137、プロリン138、またはロイシン139(式中、アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)を提供する。
【0009】
本発明の第3の局面は、本発明の第1の態様に示したアミノ酸位置のいずれかにおける荷電した、および/または極性であるが、無電荷のアミノ酸の置換を、本発明の第2の態様に示した2つ以上のアミノ酸位置におけるシステインの置換と組み合わせて含む、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質またはこれらの生物活性ペプチド(式中、アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)を提供する。
【0010】
その他の態様は、第1の、第2の、および第3の態様の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド、上記ポリヌクレオチドを含むベクター、および上記ベクターを有する宿主細胞を導く。もう一つの態様は、ポリペプチドを産生するための、上記ポリペプチドを産生することができる細胞を産生するための、および上記ポリペプチドをコードするベクターを含むDNAを産生するための方法を導く。
【0011】
さらにもう一つの態様は、肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数を示す患者を治療するための方法であって、このような治療の必要がある患者に対して、第1の、第2の、または第3の態様のヒトFGF−21突然変異タンパク質またはこれらの薬剤的組成物の治療上有効な量を投与することを含む方法を導く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において開示され、請求したような本発明の目的のために、以下の用語は、下記のとおりに定義される。
【0013】
FGF−21は、27アミノ酸リーダー配列を含む208アミノ酸のポリペプチドである。ヒトFGF−21は、マウスFGF−21と〜79%アミノ酸同一性を、およびラットFGF−21と〜80%アミノ酸同一性を有する。ヒトFGF−21は、本発明の突然変異タンパク質のための好ましいポリペプチド鋳型であるが、当然のことながら当業者であれば、代わりの哺乳類FGF−21のポリペプチド配列に基づいて突然変異タンパク質を容易に作製することができることが認識されるであろう。
【0014】
本発明の突然変異タンパク質のアミノ酸位置は、以下(配列番号:1):
【数1】

に示すように成熟ヒト181アミノ酸FGF−21のポリペプチドから決定される。
【0015】
成熟ヒト181アミノ酸FGF−21のポリペプチドをコードする対応するDNA配列は、(配列番号:2):
【数2】

である。
【0016】
タンパク質の分野の当業者であれば、大腸菌(E.coli)での発現のために、メチオニンまたはメチオニン−アルギニン配列を成熟配列(配列番号:1)のN末端に導入することができることを認識し、本発明の状況の範囲内において考慮されるであろう。
【0017】
アミノ酸は、3文字コードを使用して確定され、またあるいは、標準的な1文字コードを使用して示すことができる。突然変異は、元のアミノ酸のための3文字コード、続いてアミノ酸番号、続いて置換アミノ酸のための3文字コードによって示される。それぞれの突然変異タンパク質の数値指定は、成熟野生型ヒトFGF−21の181アミノ酸配列に基づく。たとえば、負に荷電したアミノ酸、グルタミン酸(Glu)での位置139のロイシン(すなわち、Leu139)に対する置換は、Leu139GluまたはL139Eのように示される。同様に、負に荷電したアミノ酸、グルタミン酸(Glu)での位置152のイソロイシンおよび位置163のセリンに対する二重置換(Ile152、Ser163)は、Ile152Glu/Ser163Glu、I152E/S163E、またはI152E−S163Eのように示される。
【0018】
ヒトFGF−21の突然変異タンパク質は、野生型成熟タンパク質の少なくとも1つのアミノ酸が、別のアミノ酸によって置換されたヒトFGF−21からなるものとして定義される。一般的に言って、突然変異タンパク質は、野生型タンパク質のいくらか修飾された構造的または機能的特質を有する。たとえば、突然変異タンパク質は、濃縮溶液中での物理安定度(たとえば、あまり疎水性でないもので媒介された凝集)を増強または改善し、その一方で、有利な生理活性プロフィールを維持する可能性がある。突然変異タンパク質は、薬剤的防腐剤(たとえば、m−クレゾール、フェノール、ベンジルアルコール)との適合性が増大されることがあり、したがって、貯蔵の間にタンパク質の物理化学的特質および生物活性を維持する保存される製剤の調製が可能になる。従って、薬剤的安定性が増強された突然変異タンパク質は、野生型FGF−21と比較したときに、生理学的および保存される製剤条件下で、濃縮溶液中での物理安定度が改善される一方で、生物学的能力を維持している。本明細書に使用されるこれらの用語は、限定を意味するものではなく、所与の突然変異タンパク質が野生型タンパク質の1つまたは複数の修飾された特質を有することは全く可能である。
【0019】
「生物活性ペプチド」は、突然変異タンパク質の修飾された特質および生物学的能力を維持する本発明の突然変異タンパク質のペプチドとして定義される。
【0020】
「治療上有効な量」は、治療の利益を患者に与えるために必要な活性薬剤の最小量である。たとえば、2型糖尿病、肥満症、もしくは代謝的症候群を示すか、罹患しているか、または罹患する傾向がある患者に、または患者が罹患することを予防するために「治療上有効な量」は、病理学的徴候、疾患進行、前述の障害に関連した生理学的症状、もしくは前述の障害に屈しないような耐性の改善を誘導し、寛解し、またはさもなければ生じさせるような量である。本発明の目的に関して、「被検者」または「患者」は、好ましくはヒトであるが、また動物、より具体的には、コンパニオンアニマル(たとえば、イヌ、ネコなど)、家畜(たとえば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、および実験動物(たとえば、ラット、マウス、モルモットなど))であることができる。
【0021】
「2型糖尿病」は、インスリンの利用能にもかかわらず、過剰なグルコース産生によって特徴づけられ、不適当なグルコースクリアランスの結果として、循環グルコースレベルが、過度に高いままである。
【0022】
「グルコース不耐性」は、グルコースに対する例外的感受性として定義することができる。
【0023】
「高血糖」は、血液中の過剰な糖(グルコース)として定義される。
【0024】
「低血糖症」(低血糖とも呼ばれる)は、あなたの血糖値が、あなたの体の活性のために十分なエネルギーを提供するには低すぎるほど低下するときに生じる。
【0025】
「高インスリン血症」は、正常よりも高い血液中のインスリンのレベルとして定義される。
【0026】
「インスリン耐性」は、正常な量のインスリンにより、亜正常の生物学的な反応を生じる状態として定義される。
【0027】
「肥満症」は、ヒト被験者に関して、所与の集団に対する理想体重よりも20パーセント以上越えた体重として定義することができる(R.H.Williams,Textbook of Endocrinology,1974,p.904−916)。
【0028】
「代謝症候群」は、以下の徴候うちの少なくとも3つのクラスターとして定義することができる。腹部脂肪−大部分の男性においてウエスト40インチ以上、高血糖−絶食後に1デシリットルあたり少なくとも110ミリグラム(mg/dl)、高トリグリセリド−血流中に少なくとも150mg/dL、低HDL−40mg/dl未満、および130/85以上の血圧。
【0029】
本発明によって包含される非常に重篤な患者は、一般に不安定な異化亢進状態を経験する。この不安定な代謝状態は、基質代謝の変化によるものであり、これにより、いくつかの栄養素の相対的な欠損を生じる可能性がある。一般に、脂肪および筋肉の両方において酸化が増大される。
【0030】
さらに、非常に重篤な患者は、好ましくは全身性炎症反応症候群または呼吸困難を経験する患者である。罹患率の減少は、非常に重篤な患者が、さらなる疾病、症状、もしくは徴候を発症するという可能性を減少させるか、またはさらなる疾病、症状、もしくは徴候の重症度を減少させることを意味する。たとえば、罹患率の減少は、多臓器不全と関連する菌血症または敗血症または合併症の発病率の減少に対応し得る。
【0031】
本明細書に使用される「全身性炎症反応症候群(SIRS)」は、多数の臨床条件と関連する炎症性プロセスを記載し、以下の臨床症状のうちの1つ以上を含むが、これらに限定されるわけではない。(1)38℃より高いか、または36℃未満の体温、(2)1分あたり90の拍動よりも高い心拍数、(3)1分あたり20の呼吸よりも高い呼吸数によって明示される頻呼吸症または32mm Hg未満のPaCOによって示される過換気、および(4)12,000/cu mmよりも高いカウントか、4,000/cu mm未満のカウントか、または10%以上の未成熟の好中球の存在などの白血球数の変化。これらの生理的変化は、化学療法、好中球減少の誘導、および白血球減少症などの、このような異常のその他の公知の原因の非存在下においてベースラインからの急性的変化を表すはずである。
【0032】
本明細書に使用される「敗血症」は、感染により生じるSIRSとして定義される。SIRSの非伝染性病原性の原因は、膵炎、虚血、複数の外傷、および組織傷害、すなわち圧壊傷害または重篤なやけど、出血性ショック、免疫を媒介した器官傷害、並びに腫瘍壊死因子およびその他のサイトカインなどの炎症性プロセスの推定上のメディエーターの外因的投与を含んでもよい。
【0033】
感染性ショックおよび多臓器機能障害は、ICU状況における罹患率および死亡率の主要な誘因である。敗血症は、サイトカインネットワーク、白血球、および補体カスケードを含む多くの宿主防御機構、並びに内皮を含む凝固/線維素溶解系の活性と関連し、およびこれらによって媒介される。播種性血管内血液凝固(DIC)およびその他の程度の種々の器官の微小血管系内の線維素沈着と関連した消費性凝固障害は、敗血症/感染性ショックの徴候である。標的器官に対する宿主防御反応における下流の効果は、多臓器機能障害(MODS)の発症における重要なメディエーターであり、敗血症、重篤な敗血症、およびショックによって併発した敗血症である患者の予後不良に寄与する。
【0034】
本明細書に使用される「呼吸困難」は、患者がいくつかのタイプの肺機能障害のために呼吸困難である症状を意味する。これらの患者は、様々の程度の低酸素血症を示すことが多く、補充酸素での治療に不応性であっても、または不応性でなくてもよい。
【0035】
呼吸困難は、直接の肺傷害により肺機能が障害された患者に生じてもよく、または全身性プロセスの状況において間接的な肺傷害などにより生じてもよい。加えて、複数の素因が存在すると、実質的に障害のリスクを増大し、慢性アルコール乱用、慢性肺疾患、および低血清pHなどの二次因子の存在も同様である。
【0036】
いくつかの直接の肺傷害の原因には、肺炎、胃内容物の吸引、肺挫傷、脂肪の塞栓、溺水寸前、吸入傷害、高い高度、および肺移植または肺動脈塞栓摘出術後の再灌流肺水腫を含む。いくつかの間接的肺傷害の原因には、敗血症、ショックおよび多量の輸液での重篤な外傷、人工心肺、薬剤過剰投与、急性膵炎、および血液製剤の輸血を含む。
【0037】
呼吸困難を生じさせる肺障害の1つの分類は、肺性心として公知の症候群と関連する。これらの障害は、肺性高血圧と呼ばれる肺循環内の圧力の上昇を生じる慢性低酸素血症と関連する。引き続いて起こる肺性高血圧は、右心室の作業負荷を増大し、したがって、その拡大または肥大に至る。肺性心は、一般に右室圧の持続的増大によって定義される右心不全および右心への静脈還流量が減少される臨床的証拠を示す。
【0038】
また、肺気腫および慢性気管支炎を含む「慢性閉塞性肺疾患」(COPD)も、呼吸困難を生じさせ、気流の妨害によって特徴づけられる。COPDは、4番目の主な死因であり、毎年100,000人以上の生命を奪う。
【0039】
「急性呼吸不全症候群」(ARDS)は、一般に進行性であり、種々の段階によって特徴づけられる。本症候群は、一般に本症状の危険因子をもつ患者において呼吸不全が迅速に発症することによって明らかにされる。補充酸素での治療に不応性である動脈の低酸素血症が特長である。これらは、肺ゾーンに依存的に生じている肺胞の充填、硬化、および無気肺であってもよいが、依存のない領域が、実質的に炎症を有していてもよい。本症候群は、線維化性肺胞隔炎、肺胞死腔が増大されること、および肺コンプライアンスのさらなる減少を伴った持続的低酸素血症に進行する可能性もある。肺毛細管床に対する損傷により生じる肺性高血圧を発症するかもしれない。
【0040】
本発明の第1の好ましい局面は、置換が以下の少なくとも1つにおける荷電した、および/または極性であるが、無電荷のアミノ酸のいずれかを意味する、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質またはこれらの生物活性ペプチドを含む。グリシン42、グルタミン54、アルギニン77、アラニン81、ロイシン86、フェニルアラニン88、リジン122、ヒスチジン125、アルギニン126、プロリン130、アルギニン131、ロイシン139、アラニン145、ロイシン146、イソロイシン152、アラニン154、グルタミン156、グリシン161、セリン163、グリシン170、またはセリン172(式中、アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)。荷電したアミノ酸は、正または負に荷電したアミノ酸と定義される。正に荷電したアミノ酸は、ヒスチジン(histadine)、リジン、アルギニン、およびこれらの天然には存在しない類似体(たとえば、γアミノ酪酸、オルニチン、その他)を含むと定義される。負に荷電したアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびこれらの天然には存在しない類似体(たとえば、アミノアジピン酸)含むものと定義される。極性であるが、無電荷のアミノ酸は、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、およびこれらの天然には存在しない類似体を含むものと定義される。第1の態様で最も好ましい突然変異タンパク質は、Gln54Glu、Leu139Glu、Ala145Glu、Leu146Glu、Ile152Glu、Gln156Glu、Ser163Glu、およびIle152Glu−Ser163Gluである。
【0041】
本発明の第2の態様は、以下の2つ以上のためにシステインの置換を含むヒトFGF−21の突然変異タンパク質またはこれらの生物活性ペプチドを提供する。アルギニン19、チロシン20、ロイシン21、チロシン22、スレオニン23、アスパラギン酸24、アスパラギン酸25、アラニン26、グルタミン27、グルタミン28、アラニン31、ロイシン33、イソロイシン35、ロイシン37、バリン41、グリシン42、グリシン43、グルタミン酸50、グルタミン54、ロイシン58、バリン62、ロイシン66、グリシン67、リジン69、アルギニン72、フェニルアラニン73、グルタミン76、アルギニン77、アスパラギン酸79、グリシン80、アラニン81、ロイシン82、グリシン84、セリン85、プロリン90、アラニン92、セリン94、フェニルアラニン95、ロイシン100、アスパラギン酸102、チロシン104、チロシン107、セリン109、グルタミン酸110、プロリン115、ヒスチジン117、ロイシン118、プロリン119、アスパラギン121、リジン122、セリン123、プロリン124、ヒスチジン125、アルギニン126、アスパラギン酸127、アラニン129、プロリン130、グリシン132、アラニン134、アルギニン135、ロイシン137、プロリン138、またはロイシン139(式中、アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)。
【0042】
また、当業者であれば、天然のシステイン、システイン75、およびシステイン93も、改善された特質を与える可能性のある新規ジスルフィド結合を導入する座位として利用することができることを認識するであろう。セリン85またはフェニルアラニン73におけるシステイン置換の導入を、それぞれシステイン93またはシステイン75のいずれかの同時変化と組み合わせることが、具体的に想定され、この場合、後者の部位は、他の任意のアミノ酸でも置換される。
【0043】
システイン残基によって提供される天然に存在するジスルフィド結合は、一般にタンパク質の熱力学的安定性を増大する。融解温度の増大において測定される熱力学的安定性の増大の良好な例は、酵素T4リゾチーム(Matsumura, et al.,PNAS 86:6562−6566(1989))およびバーンアーゼ(barnase)(Johnson et al.,J.Mol.Biol.268:198−208(1997))の複数のジスルフィド結合の変異体である。本発明のある局面は、ジスルフィド結合によってFGF−21の118〜134のアミノ酸ループの柔軟性を拘束すると、おそらくタンパク質の疎水性コアに対する保存剤のアクセスを制限することよって、保存剤の存在下におけるFGF−21の物理安定度を増強することを前提とする。
【0044】
ジスルフィド結合が操作されたFGF−21の突然変異タンパク質は、Cys75〜Cys93に天然に存在するものに加えて、以下のとおりである。Gln76Cys−Ser109Cys、Cys75−Ser85Cys、Cys75−Ala92Cys、Phe73Cys−Cys93、Ser123Cys−His125−Cys、Asp102Cys−Tyr104Cys、Asp127Cys−Gly132Cys、Ser94Cys−Glu110Cys、Pro115Cys−His117Cys、Asn121Cys−Asp127Cys、Leu100Cys−Asp102Cys、Phe95Cys−Tyr107Cys、Arg19Cys−Pro138Cys、Tyr20Cys−Leu139Cys、Tyr22Cys−Leu137Cys、Arg77Cys−Asp79Cys、Pro90Cys−Ala92Cys、Glu50Cys−Lys69Cys、Thr23Cys−Asp25Cys、Ala31Cys−Gly43Cys、Gln28Cys−Gly43Cys、Thr23Cys−Gln28Cys、Val41Cys−Leu82Cys、Leu58Cys−Val62Cys、Gln54Cys−Leu66Cys、Ile35Cys−Gly67Cys、Gly67Cys−Arg72Cys、Ile35Cys−Gly84Cys、Arg72Cys−Gly84Cys、またはArg77Cys−Ala81Cys(式中、アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)。ジスルフィド結合が操作された好ましい突然変異タンパク質は、Tyr22Cys−Leu139Cys、Asp24Cys−Arg135Cys、Leu118Cys−Gly132Cys、His117Cys−Pro130Cys、His117Cys−Ala129Cys、Leu82Cys−Pro119Cys、Gly80Cys−Ala129Cys、Gly43Cys−Pro124Cys、Gly42Cys−Arg126Cys、Gly42Cys−Pro124Cys、Gln28Cys−Pro124Cys、Gln27Cys−Ser123Cys、Ala26Cys−Lys122Cys、またはAsp25Cys−Lys122Cysである。ジスルフィド結合が操作された最も好ましい突然変異タンパク質は、Leu118Cys−Ala134Cys、Leu21Cys−Leu33Cys、Ala26Cys−Lys122Cys、Leu21Cys−Leu33Cys/Leu118Cys−Ala134Cysである。
【0045】
本発明の第3の局面は、本発明の第1の態様に示したアミノ酸位置のいずれかにおける荷電した、および/または極性であるが、無電荷のアミノ酸の置換を、本発明の第2の態様に示す2つ以上におけるシステインの置換と組み合わせて含む、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質またはこれらの生物活性ペプチドを提供する。
【0046】
タンパク質医薬の開発における有意なチャレンジは、タンパク質の物理的および化学的不安定性に対処ことであることは当技術分野において周知である。これは、タンパク質製剤が、有利な生理活性プロフィールを維持すると共に、安定な、濃縮された、および保存された溶液を必要とする多目的の注射用の製剤であることが企図されるときに、さらに明白である。野生型FGF−21の詳細な生物物理学的な特性付けにより、濃縮されたタンパク質溶液(>5mg/ml)が、高温または低pHなどのストレス条件に曝露されたときに、会合および凝集の促進(すなわち、乏しい物理安定度および生物薬剤特質)を生じることが確立された。また、薬剤的防腐剤(たとえば、m−クレゾール)に対するFGF−21の濃縮されたタンパク質溶液の曝露は、物理安定度に対してネガティブな影響を有した。
【0047】
従って、本発明のある態様は、濃縮溶液の物理的安定度を増強し、その一方で、生理学的および保存された製剤条件下で、化学的安定性および生物学的能力を維持することである。所与のタンパク質において、濃度、温度、およびイオン強度は、物理安定度に対してかなりの影響を有するので、会合および凝集は、疎水的相互作用によって生じる可能性があると考えられる。ほとんどの場合、保存されていない、表面に曝露されていると推定されるアミノ酸残基が標的とされた。これらの残基の局部的な環境を解析して、構造的に重要であるとは考えられなかったものを突然変異誘発のために選択した。特異的な変化を惹起するための1つの方法は、グルタミン酸残基を導入することによって、さらにタンパク質のpIを減少させることである(「グルタミン酸スキャン」)。荷電された置換物の導入により、電荷−電荷相反を経た疎水性媒介凝集を阻害し、潜在的に保存剤適合性を改善することが仮定される。加えて、当業者であれば、十分な程度の突然変異誘発により、負電荷を同時に減少し、またはすることなく正電荷を導入することによって、pIを塩基性pH範囲に移して、したがって電荷−電荷相反させることができることを認識するであろう。
【0048】
本発明の本態様は、生理学的および保存された製剤条件下での物理的および化学的安定性に関するが、野生型FGF−21と比較して、突然変異タンパク質の生物学的能力を維持することも、同様に考慮の重要な因子である。従って、本発明の突然変異タンパク質の生物学的能力は、インビトロでの3T3−L1細胞アッセイ法(実施例4)において測定される、突然変異タンパク質がグルコース摂取に影響を及ぼす能力、および/またはob/obマウス・アッセイ法(実施例5)においてインビボで測定される、血漿グルコースレベルの低下、並びに血漿トリグリセリドによって定義される。
【0049】
本発明に従って投与されるFGF−21の突然変異タンパク質は、当技術分野において公知の任意の手段によって作製され、および/または単離されてもよい。突然変異タンパク質を産生するための最も好ましい方法は、組換えDNA技法を介するものであり、当業者に周知である。このような方法は、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons,Inc.)に記載されており、これは参照として本明細書に組み入れられる。
【0050】
加えて、好ましい態様は、本明細書に記載されている突然変異タンパク質に由来する生物活性ペプチドを含む。このようなペプチドは、記載されている置換のうちの少なくとも1つを含み、かつ突然変異タンパク質は生物活性を有する。ペプチドは、当業者に公知のいずれの、および全ての手段によって産生してもよく、これらの例は、酵素消化、化学合成、または組換えDNA技法を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0051】
一定の線維芽細胞成長因子のペプチド断片が生物学的に活性であることは、当技術分野において確立されている。たとえば、Baird et al.,Proc.Natl.Acad.Sci(USA)85:2324−2328(1988)、およびJ.Cell.Phys.Suppl.5:101−106(1987)を参照されたい。従って、突然変異タンパク質の断片またはペプチドの選択は、当技術分野において公知の基準に基づく。たとえば、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)は、神経ペプチド、内分泌ペプチド、およびサイトカインの不活性化に関与するセリン型プロテアーゼであることが公知である(Damme et al.Chem.Immunol.72:42−56,(1999))。FGF−21のN末端は、潜在的にDPP−IVに対する基質であり得る2つのジペプチドを含み、N末端で4アミノ酸が切断された断片を生じる。予想外に、野生型FGF−21のこの断片は、生物活性を保持することが証明されており(表1)、したがって、N末端にて4アミノ酸までが切断された本発明の突然変異タンパク質も、本発明の態様である。
【0052】
また、本発明は、上記突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドを包含し、これらは、RNAの形態でも、またはDNAの形態であってもよく、DNAは、cDNA、ゲノムDNA、および合成DNAを含む。DNAは、二本鎖でも、または一本鎖であってもよい。本発明の突然変異タンパク質をコードするコード配列は、遺伝暗号の重複性または縮重の結果として異なっていてもよい。
【0053】
本発明の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、以下を含んでもよい。突然変異タンパク質のコード配列だけ、突然変異タンパク質のコード配列と機能的ポリペプチドなどのさらなるコード配列、またはリーダー配列もしくは分泌配列もしくはプロタンパク質配列、突然変異タンパク質のコード配列と突然変異タンパク質のコード配列のイントロンまたは非コード配列5’および/または3’などの非コード配列。したがって、「突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド」という用語は、突然変異タンパク質のコード配列だけでなく、さらなるコード配列および/または非コード配列を含むポリヌクレオチドも含んでもよいポリヌクレオチドを包含する。
【0054】
本発明は、さらに、示した置換を含むポリペプチドの断片、類似体、および誘導体をコードする記載されたポリヌクレオチドの変異体にも関する。ポリヌクレオチドの変異体は、上記のとおりのヒトFGF−21の配列、天然には存在しない変異体、または切断された変異体の天然に存在する対立遺伝子変異体であってもよい。従って、本発明は、また、上記した突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びにこのようなポリヌクレオチドの変異体を含み、これらの変異体は、開示された突然変異タンパク質の断片、誘導体、または類似体をコードする。このようなヌクレオチド変異体は、第1または第2の態様の示されたアミノ酸置換のうちの少なくとも1つが存在する限り、欠失体、置換変異体、切断変異体、および付加または挿入変異体を含む。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドは、配列が発現制御配列に作動可能に連結された(すなわち、機能を保証するように配置された)後、宿主に発現される。これらの発現ベクターは、典型的には、エピソームとして、または宿主染色体のDNAの必須部分のいずれかとして、宿主生物において複製可能である。一般に、発現ベクターは、所望のDNA配列で形質転換されたこれらの細胞の検出ができるように、選択マーカー、たとえばテトラサイクリン、ネオマイシン、およびジヒドロ葉酸還元酵素を含む。FGF−21突然変異タンパク質は、哺乳動物細胞、昆虫、酵母、細菌、またはその他の細胞において、適切なプロモーターの制御下で発現することができる。また、本発明のDNA構築物に由来するRNAを使用してこのようなタンパク質を産生するために、無細胞翻訳系を使用することができる。
【0056】
大腸菌(E.coli)は、特に本発明のポリヌクレオチドをクローニングするために有用な原核生物宿主である。使用のために適したその他の微生物の宿主は、枯草菌(Bacillus subtilus)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、並びにセラチア属(Serratia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、連鎖球菌属(Streptococcus)、およびブドウ球菌(Staphylococcus)の種々の種を含むが、その他を選択物として使用してもよい。また、これらの原核生物の宿主において、典型的には宿主細胞(たとえば、複製開始点)と適合する発現制御配列を含む発現ベクターを作製することができる。加えて、ラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系、β−ラクタマーゼプロモーター系、またはファージラムダもしくはT7由来プロモーター系などの任意の多くの周知のプロモーターであってもよい。プロモーターは、典型的には、任意にオペレーター配列と共に発現を制御し、転写および翻訳を開始および完了するためのリボソーム結合部位配列等を有する。
【0057】
タンパク質の発現の分野の当業者であれば、大腸菌での発現ために、メチオニンまたはメチオニン−アルギニン配列を成熟配列(配列番号:1)のN末端に導入することができることを認識し、本発明の状況の範囲内において想定されるであろう。従って、他に断らない限り、大腸菌に発現される本発明の突然変異タンパク質は、N末端に導入されたメチオニン配列を有する。
【0058】
また、酵母または真菌などのその他の微生物を発現のために使用してもよい。ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、およびピチア・アングスタ(Pichia angusta)は、好ましい酵母宿主の例であり、3−ホスホグリセリン酸キナーゼまたはその他の糖分解酵素、複製起点、終結配列などを含む、望まれるプロモーターなどの発現制御配列を有する適切なベクターである。クロカビ(Aspergillus niger)、トリコデルマ・レッセイ(Trichoderma reesei)、およびシゾフィリウム・コミューヌ(Schizophyllum commune)は、真菌宿主の例であるが、選択物としてその他を使用してもよい。
【0059】
また、本発明のポリペプチドを発現し、産生するために、哺乳類組織細胞培養を使用してもよい。無処置の突然変異タンパク質を分泌することができる多くの適切な宿主株化細胞が、当技術分野において開発されており(CHO株化細胞、種々のCOS株化細胞、NS0細胞、シリアハムスター卵巣株化細胞、HeLa細胞、またはヒト胚腎臓株化細胞(すなわちHEK293、HEK293EBNA)を含む)、真核細胞が実際には好ましい。
【0060】
これらの細胞のための発現ベクターは、複製開始点、プロモーター、エンハンサーなどの発現制御配列、並びにリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネータ配列などの必要なプロセシング情報部位を含むことができる。好ましい発現制御配列は、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウィルス、サイトメガロウイルス、ラウス肉腫ウイルス等に由来するプロモーターである。好ましいポリアデニル化部位は、SV40およびウシ成長ホルモンに由来する配列を含む。
【0061】
関心対象のポリヌクレオチド配列(たとえば、FGF−21の突然変異タンパク質および発現制御配列)を含むベクターを、周知の方法によって宿主細胞に移すことができ、これは細胞の宿主のタイプに応じて変化する。たとえば、塩化カルシウムトランスフェクション法は、原核細胞に対して一般に利用されるが、一方で、その他の細胞の宿主のためにリン酸カルシウム処置法または電気穿孔法を使用してもよい。
【0062】
種々のタンパク質精製法を使用してもよく、このような方法は、当技術分野において公知であり、たとえばDeutscher,Methods in Enzymology 182:83−9(1990)およびScopes,Protein Purification:Principles and Practice,Springer−Verlag,NY(1982)に記載されている。選択される精製工程は、たとえばFGF−21の突然変異タンパク質に使用される生産プロセスの性質に依存する。
【0063】
FGF−21突然変異タンパク質を含む組成物は、患者の臨床症状、FGF−21突然変異タンパク質組成物のデリバリー部位、投与方法、投与スケジューリング、および開業医に公知のその他の因子を考慮して、優れた医療と一致した様式で処方され、および投薬されるべきである。したがって、本明細書における目的のためのFGF−21突然変異タンパク質の「治療上有効な量」は、このような考慮によって決定される。
【0064】
FGF−21突然変異タンパク質および本発明の薬剤的組成物は、2型糖尿病、肥満症、代謝的症候群、または非常に重篤な患者を治療するための、一般に企図される目的を達成するいずれの手段によって投与してもよい。本明細書に使用される「非経口的」という用語は、経静脈、筋肉内、腹腔内、ステム内、皮下、並びに関節内の注射および注入を含む投与様式をいう。投与される用量は、レシピエントの年齢、健康、および重量に、もしあれば、並列治療の種類、治療の頻度、および要求される効果の性質に依存する。本発明の範囲内の組成物は、FGF−21突然変異タンパク質が、2型糖尿病、肥満症、または代謝的症候群を治療するための所望の医学的効果を達成するために有効な量で存在する全ての組成物を含む。個々の必要は、患者間で変化し得るが、本成分の全ての有効な量の最適範囲の決定は、通常の技術の臨床家の能力の範囲内である。
【0065】
本発明のFGF−21の突然変異タンパク質は、薬剤的に有用な組成物を調製するために、公知の方法に従って処方することができる。所望の製剤は、任意の薬剤的に許容される担体、防腐剤、賦形剤、または安定剤と共に、適切な希釈剤または高純度の水溶液で再構成された安定な凍結乾燥された産物であるものである[Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition(1980)]。本発明の突然変異タンパク質は、薬剤的に許容される緩衝液、および許容される安定性を提供するように調整されたpH、および投与のために許容されるpHと組み合わせてもよい。
【0066】
非経口投与のためには、一つの態様において、FGF−21突然変異タンパク質を、一般にこれらの1つまたは複数を、所望の程度の純度で、単位用量注射剤形態(溶液、懸濁液、またはエマルジョン)において、薬剤的に許容される担体、すなわち使用される用量および濃度でレシピエントに対して非毒性であり、かつ製剤のその他の成分と適合性であるものと共に混合することによって処方される。好ましくは、1つまたは複数の薬剤的に許容される抗菌性薬剤を添加してもよい。フェノール、m−クレゾール、およびベンジルアルコールは、好ましい薬剤的に許容される抗菌性薬剤である。
【0067】
任意に、イオン強度または張力を調整するために、1つまたは複数の薬剤的に許容される塩を添加してもよい。製剤の等張性を調整するために、1つまたは複数賦形剤をさらに添加してもよい。グリセリン、塩化ナトリウム、およびマンニトールは、等張性を調整する賦形剤の例である。
【0068】
当業者であれば、優れた医療および個々の患者の臨床症状によって定めて、FGF−21突然変異タンパク質を含む治療的な組成物のための薬剤的に有効な用量および投与処方計画を容易に最適化することができるであろう。本発明のFGF−21突然変異タンパク質のための典型的な用量範囲は、成人に対して約0.01mg/日〜約1000mg/日の範囲である。好ましくは、用量は、約0.1mg/日〜約100mg/日、より好ましくは、約1.0mg/日〜約10mg/日の範囲である。最も好ましくは、用量は、約1−5mg/日である。投与されるFGF−21突然変異タンパク質の適切な用量は、血糖値を低下させ、より迅速、かつより効率的なグルコース利用によってエネルギー消費を増大させると考えられ、したがって、2型糖尿病、肥満症、および代謝的症候群を治療するために有用である。
【0069】
加えて、高血糖およびインスリン耐性は、栄養補助が与えられる非常に重篤な患者において一般的であるので、一部のICUでは、与えた非常に重篤な患者における過剰な高血糖を治療するためにインスリンを投与する。実際に、最近の研究では、外科集中治療室の非常に重篤な患者の死亡率および罹患率が、彼らが糖尿病病歴を有するかどうかにかかわらず減少される1デシリットルあたり110mg未満のレベルに血糖を維持するために、外因性インスリンの使用を実証する(Van den Berghe, et al.N Engl J Med.,345(19):1359,(2001))。従って、本発明のFGF−21の突然変異タンパク質は、唯一、代謝的に不安定な非常に重篤な患者の代謝安定性を回復するのを補助するために適している。FGF−21の突然変異タンパク質は、これらがグルコース摂取を刺激し、かつインスリン感受性を増強するが、低血糖を誘導しないという点で独特である。
【0070】
本発明のもう一つの局面において、2型糖尿病、肥満症、代謝的症候群、または非常に重篤な患者の治療のために医薬として使用するための、FGF−21の突然変異タンパク質が想定される。
【0071】
今回詳細に本発明を記載したものは、以下の実施例を参照することでより明確に理解され、これらは、説明のみの目的で本明細書に含まれ、本発明を限定することは企図されない。
【0072】
本明細書で言及した特許および刊行物の全てが、明白に参照として組み入れられる。
【0073】
実施例1
大腸菌におけるFGF−21突然変異タンパク質の発現および精製
本実施例における細菌発現のためには、細菌発現ベクターpET30aが使用される(Novagen,Inc.,Madison、Wisconsin)。pET30aは、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子をコードし、多くの独特の制限エンドヌクレアーゼ切断部位と共に、細菌複製開始点(「ori」)、強力なT7ファージ−IPTG誘導性プロモーター、リボソーム結合部位(「RBS」)、および適切なMCSを含む。精製目的のために都合よくは、ベクターは、N末端のペプチド融合のためのHisおよびSタグ、並びにC末端のHisタグ融合をコードすることができる。しかし、本発明の目的を達成するためには、FGF−21変異体をコードするcDNAが、それぞれ制限部位NdeIとBamHIとの間に挿入されており、生じる構築物は、記載したタグのいずれも利用しない。
【0074】
リーダー配列を欠いているが、メチオニン残基で置換されたFGF−21突然変異タンパク質をコードする核酸配列は、オープンリーディングフレームの5’および3’末端にアニールするPCRオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、cDNAクローンから増幅される。制限酵素NdeIおよびBamHIのための認識部位を含むさらなるヌクレオチドが、それぞれ5’および3’配列に付加されている。
【0075】
クローニングのためには、5’フォワードおよび3’リバースPCRプライマーは、当技術分野において公知の方法に従って、FGF−21突然変異タンパク質をコードする核酸の一部のコード配列に対応するか、または相補的なヌクレオチドを有する。当技術分野の当業者であれば、プライマーが始まるポリヌクレオチド配列の位置を変更することができることを認識するであろう。
【0076】
増幅された核酸断片およびベクターpET30aをNdeIおよびBamHI制限酵素で消化し、次いで精製した消化されたDNA断片を共に結合させる。制限されたpET30aベクターへのFGF−21突然変異タンパク質をコードするDNAの挿入により、その付随する終止コドンをインフレームの開始ATGコドンと共に含むFGF−21突然変異タンパク質ポリペプチドコード領域をIPTG−誘導性プロモーターの下流に配置する。付随する終止コドン(TAG)は、挿入位置の下流の6ヒスチジンコドンの翻訳を防げる。
【0077】
ライゲーション混合物を、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons,Inc.)に記載されているものなどの標準的方法を使用して形質転換受容性大腸菌細胞に形質転換する。
【0078】
形質転換反応をLB/カナマイシンプレートにまき、一晩の後、増殖形質転換体をプラスミド調製のために拾うか、またはPCRによるスクリーニングのためにインサイチューで溶解する。所望のFGF−21変異体挿入物を含む陽性の組換えプラスミドを、切断解析、続くDNA配列解析によって同定する。その後、これらのプラスミドを、発現株を形質転換して、タンパク質を産生するために使用する。
【0079】
大腸菌株BL21(DE3)、BL21(DE3)STAR、またはBL21(DE3)RPをFGF−21突然変異タンパク質を発現させるために使用する。FGF−21突然変異タンパク質を発現するために適した多くのうちのわずか一部であるこれらの株は、それぞれNovagen,Inc.,Invitrogen、およびStratagenから市販されている。形質転換体は、これらがカナマイシンの存在下においてLBプレート上で成長する能力によって同定される。
【0080】
所望の構築物を含むクローンを、カナマイシン(30μg/ml)を補ったLB培地中での液体培養において一晩(o/n)培養する。o/n培養を使用して、大規模培養に約1:25〜1:250の希釈で播種する。細胞を600nmにて0.6(「OD600」)の光学濃度に培養する。次いで、イソプロピル−b−D−チオ・ガラクトピラノシド(「IPTG」)を1mMの終濃度に添加して、lacIリプレッサーを不活性化することによってlacレプレッサー感受性のプロモーターからの転写を誘導する。その後、細胞を3〜12時間さらにインキュベートする。次いで、細胞を遠心分離によって収集し、ペレットを50mMトリス緩衝液pH8.0で洗浄して、精製まで−20℃に貯蔵する。FGF−21突然変異タンパク質は、大腸菌の不溶性画分、すなわち封入体(または顆粒)に発現される。発現レベルは、変異体間で変化する可能性があり、典型的には、野生型(WT)FGF−21のタンパク質について観察されたレベルは、50mg/Lである。その後の精製プロセスは、顆粒剤の可溶化および変異体の再折りたたみ、続いて4回のクロマトグラフィー工程で開始する。
【0081】
大腸菌からFGF−21突然変異タンパク質を精製するために、顆粒を50mMトリス、pH9.0、7M尿素、および1mM DTTに、pH11.0にpHランプを介して、室温にて攪拌しながら1時間溶解する。次いで、上記したのと同じ緩衝液を使用してQ−セファロースカラムにタンパク質を捕獲し、0〜400mM NaClの直線濃度勾配で溶出した。次いで、全てのジスルフィド結合を還元させるために、Q−セファロースプールをRTにて2時間、10mM DTTで処置する。次いで、緩衝液濃度が以下のとおりであるために、プールを10倍希釈する。約250〜500μl/mlのタンパク質濃度で、50mMトリス、pH9.0、7M尿素、10mMシステイン1mM DTT。遊離のジスルフィド形態のタンパク質を得るために、還元条件下においてRTでさらに2時間インキュベーション後、次いで正確なジスルフィド結合を形成することができるように、プールを20mMグリシン、pH9.0に約48時間透析する。
【0082】
逆相HPLCクロマトグラフィーを、Vydac C18カラムおよび移動相として0.1%TFA/0〜50%CHCNでの最初の精製工程として使用する。このカラムは、FGF−21またはFGF−21突然変異タンパク質を濃縮し、混入する内毒素を除去するために使用される。
【0083】
以下の精製工程は、1×PBS緩衝液(pH7.4)中で行われるSuperdex35/600カラムでのサイズ排除クロマトグラフィーである。この工程では、FGF−21突然変異タンパク質は、〜95%純粋である。最終工程では、50mMトリス、pH8.0でのMonoQクロマトグラフィーおよび0〜300mM NaClの直線濃度勾配での溶出を含み、これにより、通常>97%純粋なタンパク質を得る。
【0084】
上記した4回のカラム工程精製スキームを全てのFGF−21突然変異タンパク質のために使用し、安定な標品を産生した。
【0085】
実施例2
HEK293EBNA細胞におけるFGF−21突然変異タンパク質の発現および精製
あるいは、FGF−21突然変異タンパク質は、HEK293EBNA細胞(EdgeBiosystems,Gaiethersburg,MD)などの、哺乳類細胞発現系において産生することができる。FGF−21突然変異タンパク質は、市販のpEAK10の制限部位の修飾を示す専売の発現ベクターに、MCS内のNheIとXbaIとの間にサブクローニングする。組織培地における所望の産物の分泌を増強するために、成熟FGF−21をコードするcDNA配列をIgκリーダー配列とフレームに融合させる。発現は、強力なウイルスCMVプロモーターによって駆動される。HEK293EBNA細胞には、Fugene(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)などの標準的なトランスフェクション試薬および組換えプラスミドの適切な量を使用して、単層または懸濁培養としてのいずれかとして、十分な細胞密度にて一過性にトランスフェクトする。細胞を無血清培地において、37℃および5%のCOにてインキュベートし、5日間毎日、収集を行う。典型的には、HEK239EBNA懸濁培養中の発現レベルは、〜30mg/Lである。哺乳動物細胞におけるヒトFGF−21の発現により、HPIPの天然のN末端配列、すなわちN末端のメチオニン残基なしを得る。DPP−IV(ブタの腎臓、SIGMA St Louis)での、HEK239EBNA細胞からのFGF−21の酵素処置により、4アミノ酸までのN末端の切断を生じることが発見された。マウス3T3−L1脂肪細胞アッセイ法(実施例4を参照されたい)においてアッセイしたときに、この切断されたFGF−21の変異体は、野生型FGF−21のものに相当するレベルでグルコース摂取を刺激する(表1)。
【0086】
実施例3
酵母におけるFGF−21突然変異タンパク質の発現および精製
FGF−21突然変異タンパク質の産生のためのさらにもう一つの発現系は、ピチア・パストリス、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、またはサッカロマイセス・セレビジエなどの酵母である。ピチア・パストリスにおける産生のためには、市販の系(Invitrogen,Carlsbad,CA)により、組換えタンパク質の高レベル発現を駆動するための強力なAOX1(アルコールオキシダーゼ)プロモーターをもつベクターを使用する。あるいは、GAP遺伝子(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)由来プロモーターを使用するベクターも、高レベルの構成的発現のために利用できる。多コピーのピチア発現ベクターにより、ゲノムに組み込まれた関心対象の遺伝子の複数のコピーをもつ株を得ることができる。組換えピチア株における関心対象の遺伝子のコピーの数を増大することにより、タンパク質発現レベルを増大することができる。さらにもう一つの酵母発現系は、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)である。発現ベクターは、GAL1遺伝子由来のプロモーターおよびエンハンサー配列を含む。GAL1プロモーターは、ガラクトースで誘導する際のその強力な転写活性のため、最も広く使用されている酵母プロモーターのうちの1つである。
【0087】
解析特性付け(質量スペクトル解析)では、ピチア・パストリスにおいて発現されるFGF−21が切断されていることを示す(N末端の4アミノ酸除去[HisProIlePro]まで、以下de−HPIPと命名する)。マウス3T3−L1脂肪細胞アッセイ法(実施例4を参照されたい)においてアッセイしたときに、この切断されたFGF−21の変異体は、野生型FGF−21と同じレベルでグルコース摂取を刺激する(表1)。
【0088】
実施例4
マウス3T3−L1脂肪細胞におけるグルコース摂取
3T3−L1細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、Rockville、MD)から入手される。細胞をダルベッコ修飾イーグル培地中に10%の鉄を補充したウシ胎児血清を含む増殖培地(GM)中で培養する。標準的な脂肪細胞分化については、細胞が周密状態に達した2日後に(0日という)、細胞を10%のウシ胎児血清、10μg/mlインスリン、1μMデキサメサゾン、および0.5μMイソブチルメチルキサンチンを含む分化培地(DM)に48時間曝露する。次いで、細胞を10%のウシ胎児血清、および10μg/mlインスリンを含む分化後培地中で維持する。
【0089】
グルコース輸送アッセイ法−0.1mM 2−デオキシ−D−[14C]グルコースの蓄積によってアッセイされるヘキソース摂取は、以下のとおりに測定される。12ウェル・プレート内の3T3−L1脂肪細胞を、37℃に温め、かつ0.2%のBSAを含むKRP緩衝液(136mM NaCl、4.7mM KCl、10mM NaPO、0.9mM CaCl、0.9mM MgSO、pH7.4)で2回洗浄して、0.2%のBSAを含むリーボビッツL−15培地中で大気中において37℃で2時間インキュベートして、0.2%のBSA緩衝液を含むKRPで再び2回洗浄し、KRP、0.2%のBSA緩衝液中で、ワートマニンの非存在下(MeSOのみ)または存在下において大気中で37℃にて30分間インキュベートする。次いで、インスリンを100nMの終濃度に15分間添加し、2−デオキシ−D−[14C]グルコースの摂取を最後の4分間測定する。非特異的摂取(10μMサイトカラシンBの存在下において測定した)を全ての値から減算する。タンパク質濃度は、Pierceビシンコニン酸アッセイ法で決定する。摂取は、それぞれの実験について3回または4回、ルーチン的に測定する。
【0090】
インビトロでの能力は、野生型FGF−21のインビトロでの活性に対して規準化し、これを1.0に指定して、陽性対照として使用する。本発明のFGF−21の突然変異タンパク質のインビトロでの能力を表1の野生型FGF−21と比較する。表1に示したように、本発明の突然変異タンパク質は、野生型FGF−21と比較して種々の程度で生物学的能力を維持した。
【表1】

【0091】
実施例5
Ob/obマウスモデル
媒体およびインスリン対照群と比較して、FGF−21で処置後の血漿グルコースレベルおよびトリグリセリドレベルを監視するために、雄ob/obマウスを使用する肥満症モデルにおける研究を行った。雄ob/obマウス(7週間目)の試験群には、媒体(0.9%のNaCl)単独、またはFGF−21突然変異タンパク質(0.125mg/kg)(0.1mL、毎日一回)を皮下に7日間注射した。7日目の最後の化合物注射の1時間後に、血液を尾部クリップ出血によって収集し、標準的プロトコルを使用して血漿グルコースレベルを測定した。媒体対照と比較して、FGF−21突然変異タンパク質が、より血漿グルコースレベルを低下する能力を表2に示してある。表2のデータは、本発明の突然変異タンパク質が、媒体対照と比較して血漿グルコースレベルを低下させたことを示す。媒体対照と比較して、FGF−21突然変異タンパク質が、トリグリセリドレベルを低下にする能力は、表3に示してある。
【表2】

【表3】

【0092】
実施例6
FGF−21突然変異タンパク質の薬剤的安定性
本発明のFGF−21突然変異タンパク質の安定性を、シミュレートされた生理学的および製剤条件下で解析した。生理学的条件をシミュレートするために、突然変異タンパク質を、10mg/ml(pH7.4)の標的タンパク質濃度における室温(RT)でのPBS中の安定性について解析した。PBS中での突然変異タンパク質の溶解度/物理安定度は、サイズ排除および/または逆相クロマトグラフィーによって測定される調製後のタンパク質の回収により、RTにおいて>90%の回収を生じる場合に満足なものであるとみなす。表4および5に示した本発明の突然変異タンパク質は、この基準を満たす。
【0093】
本発明の突然変異タンパク質の製剤は、保存された多目的製剤である可能性が高いことが予期され、したがって一般的保存剤との適合性を解析した。製剤適合性について試験するために、保存剤、m−クレゾール(3mg/mLの終濃度、通常、中性のpH条件下での保存剤有効性についての欧州薬局方B基準を満たすのに十分な濃度)を、室温において、PBS(pH7.4)中に約10mg/mlで突然変異タンパク質を含む溶液に添加した。最初に、RTにて逆相およびサイズ排除クロマトグラフィーの後に、主なクロマトグラフピークにおけるタンパク質回収を決定することによって、保存剤の存在下における物理安定度をアクセスした。さらにまた、37℃でのDLS(動的光散乱)によって測定される凝集の範囲は、野生型FGF−21と比較して、2時間後のm−クレゾールの存在下における粒子の平均直径として示してある。より大きな平均直径は、タンパク質会合および/または凝集が増大された程度に対応する。野生型FGF−21と比較した本発明の第1および第2の態様の突然変異タンパク質の保存剤適合性(粒子の平均直径の関数として)を表4に示してある。全ての突然変異タンパク質は、大腸菌において発現された。
【0094】
PBS中で安定で、かつ保存剤適合性の本発明の突然変異タンパク質は、野生型FGF−21と比較して、増強されたか、または改善された薬剤的特質を有することを示す。表4に示したとおり、野生型FGF−21と比較して増強された薬剤的特質を有する本発明の好ましい突然変異タンパク質は、L139E、A145E、L146E、I152E、Q156E、[I152E、S163E]、S163E、Q54E、[L21C−L33C、L118C−A134C]、L21C−L33C、A26C−K122C、およびL118C−A134Cである。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト線維芽細胞成長因子21(FGF−21)の突然変異タンパク質またはこれらの生物活性ペプチドであって、以下の1つまたは複数のアミノ酸:グリシン42、グルタミン54、アルギニン77、アラニン81、ロイシン86、フェニルアラニン88、リジン122、ヒスチジン125、アルギニン126、プロリン130、アルギニン131、ロイシン139、アラニン145、ロイシン146、イソロイシン152、アラニン154、グルタミン156、グリシン161、セリン163、グリシン170、またはセリン172(式中、アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)の、荷電した、および/または極性であるが、無電荷のアミノ酸での置換を含む、突然変異タンパク質。
【請求項2】
負に荷電したアミノ酸が、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびこれらの天然には存在しない類似体からなる群より選択される、請求項1記載の突然変異タンパク質。
【請求項3】
極性であるが、無電荷のアミノ酸が、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、およびこれらの天然には存在しない類似体からなる群より選択される、請求項1記載の突然変異タンパク質。
【請求項4】
前記突然変異タンパク質が、Leu139Glu、Ala145Glu、Leu146Glu、Ile152Glu、Gln156Glu、Ser163Glu、Ile152Glu、Ser163Glu、およびGln54Gluからなる群より選択される、請求項1記載の突然変異タンパク質。
【請求項5】
前記突然変異タンパク質が、N末端で最大4アミノ酸が切断されている、請求項4記載の突然変異タンパク質。
【請求項6】
請求項1記載の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドがDNAである、請求項6記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
前記宿主細胞が酵母細胞である、請求項9記載の宿主細胞。
【請求項11】
以下の工程を含むポリペプチドを産生するための方法:
(a)請求項10記載の宿主細胞から前記ポリペプチドを発現する工程、および、
(b)前記ポリペプチドを単離する工程。
【請求項12】
請求項1記載のFGF−21突然変異タンパク質の治療上有効な量と、薬剤的に許容される担体とを含む薬剤的組成物であって、前記組成物は、肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数を示す患者を治療するために有用である薬剤的組成物。
【請求項13】
肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数を示す患者を治療するための、患者に請求項1記載のFGF−21突然変異タンパク質の治療上有効な量を投与することを含む方法。
【請求項14】
前記患者が2型糖尿病を示す、請求項13記載の方法。
【請求項15】
アルギニン19、チロシン20、ロイシン21、チロシン22、スレオニン23、アスパラギン酸24、アスパラギン酸25、アラニン26、グルタミン27、グルタミン28、アラニン31、ロイシン33、イソロイシン35、ロイシン37、バリン41、グリシン42、グリシン43、グルタミン酸50、グルタミン54、ロイシン58、バリン62、ロイシン66、グリシン67、リジン69、アルギニン72、フェニルアラニン73、グルタミン76、アルギニン77、アスパラギン酸79、グリシン80、アラニン81、ロイシン82、グリシン84、セリン85、プロリン90、アラニン92、セリン94、フェニルアラニン95、ロイシン100、アスパラギン酸102、チロシン104、チロシン107、セリン109、グルタミン酸110、プロリン115、ヒスチジン117、ロイシン118、プロリン119、アスパラギン121、リジン122、セリン123、プロリン124、ヒスチジン125、アルギニン126、アスパラギン酸127、アラニン129、プロリン130、グリシン132、アラニン134、アルギニン135、ロイシン137、プロリン138、またはロイシン139(アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)の2つ以上のアミノ酸のシステインでの置換を含む、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質またはこれらの生物活性ペプチド。
【請求項16】
前記突然変異タンパク質が、Leu21Cys−Leu33Cys/Leu118Cys−Ala134Cys、Leu21Cys/Leu33Cys、Leu118Cys/Ala134Cys、またはAla26Cys/Lys122Cysからなる群より選択される、請求項15記載の突然変異タンパク質。
【請求項17】
前記突然変異タンパク質が、N末端で最大4アミノ酸が切断されている、請求項16記載の突然変異タンパク質。
【請求項18】
前記突然変異タンパク質が、des−HPIP−Leu118Cys/Ala134Cysである、請求項17記載の突然変異タンパク質。
【請求項19】
請求項15記載の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項20】
前記ポリヌクレオチドがDNAである、請求項19記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
請求項20記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項22】
請求項21記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項23】
前記宿主細胞が酵母細胞である、請求項22記載の宿主細胞。
【請求項24】
以下の工程を含むポリペプチドを産生するための方法:
(a)請求項23の宿主細胞から前記ポリペプチドを発現する工程、および、
(b)前記ポリペプチドを単離する工程。
【請求項25】
請求項15記載のFGF−21突然変異タンパク質の治療上有効な量と、薬剤的に許容される担体とを含む薬剤的組成物であって、前記組成物は、肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数を示す患者を治療するために有用である薬剤的組成物。
【請求項26】
肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数を示す患者を治療するための、患者に請求項15記載のFGF−21突然変異タンパク質の治療上有効な量を投与する工程を含む方法。
【請求項27】
前記患者が2型糖尿病を示す、請求項26記載の方法。
【請求項28】
グリシン42、グルタミン54、アルギニン77、アラニン81、ロイシン86、フェニルアラニン88、リジン122、ヒスチジン125、アルギニン126、プロリン130、アルギニン131、ロイシン139、アラニン145、ロイシン146、イソロイシン152、アラニン154、グルタミン156、グリシン161、セリン163、グリシン170、またはセリン172(アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)のうちのアミノ酸1以上の、荷電および/または極性であるが無荷電のアミノ酸での置換を、
アルギニン19、チロシン20、ロイシン21、チロシン22、スレオニン23、アスパラギン酸24、アスパラギン酸25、アラニン26、グルタミン27、グルタミン28、アラニン31、ロイシン33、イソロイシン35、ロイシン37、バリン41、グリシン42、グリシン43、グルタミン酸50、グルタミン54、ロイシン58、バリン62、ロイシン66、グリシン67、リジン69、アルギニン72、フェニルアラニン73、グルタミン76、アルギニン77、アスパラギン酸79、グリシン80、アラニン81、ロイシン82、グリシン84、セリン85、プロリン90、アラニン92、セリン94、フェニルアラニン95、ロイシン100、アスパラギン酸102、チロシン104、チロシン107、セリン109、グルタミン酸110、プロリン115、ヒスチジン117、ロイシン118、プロリン119、アスパラギン121、リジン122、セリン123、プロリン124、ヒスチジン125、アルギニン126、アスパラギン酸127、アラニン129、プロリン130、グリシン132、アラニン134、アルギニン135、ロイシン137、プロリン138、またはロイシン139におけるアミノ酸2以上の、システインでの置換と組み合わせて含む(アミノ酸の番号付けは、配列番号:1に基づく)、
ヒトFGF−21の突然変異タンパク質またはこれらの生物活性ペプチド。
【請求項29】
請求項28記載の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項30】
前記ポリヌクレオチドがDNAである、請求項29記載のポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項30記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項32】
請求項31記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項33】
前記宿主細胞が酵母細胞である、請求項32記載の宿主細胞。
【請求項34】
以下の工程を含むポリペプチドを産生するための方法:
(a)請求項33の宿主細胞から前記ポリペプチドを発現する工程、および、
(b)前記ポリペプチドを単離する工程。
【請求項35】
請求項28記載のFGF−21突然変異タンパク質の治療上有効な量と、薬剤的に許容される担体とを含む薬剤的組成物であって、前記組成物は、肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数を示す患者を治療するために有用である組成物。
【請求項36】
患者に請求項28記載のFGF−21突然変異タンパク質の治療上有効な量を投与することを含む、肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数を示す患者を治療するための方法。
【請求項37】
前記患者が2型糖尿病を示す、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記突然変異タンパク質が、N末端で最大4アミノ酸が切断されている、請求項28記載の突然変異タンパク質。
【請求項39】
肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数の治療のための医薬の製造のための、請求項1記載のFGF−21突然変異タンパク質の使用。
【請求項40】
肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数の治療のための医薬の製造のための、請求項15記載のFGF−21突然変異タンパク質の使用。
【請求項41】
肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、または代謝症候群からなる群からの徴候の1つまたは複数の治療のための医薬の製造のための、請求項28記載のFGF−21突然変異タンパク質の使用。

【公表番号】特表2007−535306(P2007−535306A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543822(P2006−543822)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/037200
【国際公開番号】WO2005/061712
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】