説明

緩衝装置

【課題】ストローク不足を招かない緩衝装置を提供することであ。
【解決手段】本発明における課題解決手段は、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画する隔壁部材2と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3a,3bと、圧力室R3を形成するハウジング14と、ハウジング14内に移動自在に挿入されて圧力室R3を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9とを備えた緩衝装置Dにおいて、ばね要素10が、伸側圧力室7内に収容されてフリーピストン9を附勢する第一ウェーブワッシャ22と、圧側圧力室8内に収容されてフリーピストン9を附勢する第二ウェーブワッシャ23とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の緩衝装置にあっては、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内をピストンロッド側の伸側室とピストン側の圧側室に区画するピストンと、ピストンに設けられた伸側室と圧側室を連通する第一流路と、ピストンロッドの先端から側部に開通して伸側室と圧側室を連通する第二流路と、第二流路の途中に接続される圧力室を備えてピストンロッドの先端に取付けられたハウジングと、圧力室内に摺動自在に挿入され圧力室を伸側圧力室と圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、伸側圧力室と圧側圧力室とに収容されてフリーピストンを附勢する一対のコイルばねとを備えて構成されている。
【0003】
このように構成された緩衝装置は、圧力室がフリーピストンによって伸側圧力室と圧側圧力室とに区画されており、第二流路を介しては伸側室と圧側室とが直接的に連通されてはいないが、フリーピストンが移動すると伸側圧力室と圧側圧力室の容積比が変化し、フリーピストンの移動量に応じて圧力室内の液体が伸側室と圧側室へ出入りするため、見掛け上、伸側室と圧側室とが第二流路を介して連通されているが如くに振舞う。
【0004】
そのため、この緩衝装置では、低周波数の振動の入力に対しては大きな減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては小さな減衰力を発生することができ、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を確実に発生可能であるとともに、車両が路面の凹凸を通過するような入力振動周波数が高い場面においては低い減衰力を確実に発生させて、車両における乗り心地を向上させることができる(たとえば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−215459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記緩衝装置では、フリーピストンを一対のコイルばねで附勢していて、コイルばねの全長が長いので、ハウジングの全長もコイルばねを収容するため長くなる。
【0007】
この緩衝装置では、上記ハウジングをピストンロッドの先端に設ける都合上、ハウジングの全長がなくなると、その分、緩衝装置のストロークが犠牲になる。そして、緩衝装置の全長が規制されるので、車両によっては、ハウジングが長いとストローク不足を招くことになり、結果、緩衝装置を車両へ搭載することを断念せざるを得ない場合がある。
【0008】
そこで、本発明は上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、ストローク不足を招かない緩衝装置を提供することであ。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、シリンダと、当該シリンダ内に摺動自在に挿入され当該シリンダ内を伸側室と圧側室に区画する隔壁部材と、上記伸側室と圧側室とを連通する通路と、内部に圧力室を形成するハウジングと、上記ハウジング内に移動自在に挿入されて当該圧力室を伸側流路を介して伸側室に連通される伸側圧力室と圧側流路を介して圧側室に連通される圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、当該フリーピストンの上記ハウジングに対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素とを備えた緩衝装置において、ばね要素が、上記伸側圧力室内に収容されて上記フリーピストンを上記圧側圧力室を圧縮する方向へ附勢する第一ウェーブワッシャと、上記圧側圧力室内に収容されて上記フリーピストンを上記伸側圧力室を圧縮する方向へ附勢する第二ウェーブワッシャとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の緩衝装置によれば、フリーピストンを附勢するばね要素を第一ウェーブワッシャおよび第二ウェーブワッシャとしたので、コイルばねを用いるよりもフリーピストンのストローク長を確保しつつも軸方向長さを短くすることができ、その分、ハウジングの長さをコンパクトにすることができる。この結果、本発明の緩衝装置によれば、緩衝装置のストロークを確保しやすくなり、緩衝装置のストローク不足を招かずに車両へ搭載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。
【図2】一実施の形態における緩衝装置の振動周波数に対する減衰特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝装置Dは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画する隔壁部材としてのピストン2と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3a,3bと、内部に圧力室R3を形成するハウジング14と、ハウジング14内に移動自在に挿入されて圧力室R3を伸側流路5を介して伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側流路6を介して圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、フリーピストン9のハウジング14に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素10とを備えて構成され、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するものである。なお、伸側室R1とは、車体と車軸が離間して緩衝装置Dが伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、車体と車軸が接近して緩衝装置Dが収縮作動する際に圧縮される室のことである。
【0013】
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室R3内には作動油等の液体が充満され、また、シリンダ1内の図中下方には、シリンダ1の内周に摺接して下室R2と気体室Gとを区画する摺動隔壁12が設けられている。
【0014】
なお、上記した伸側室R1、圧側室R2および圧力室R3内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
【0015】
以下、各部について詳細に説明する。ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4の一端に連結され、ピストンロッド4は、シリンダ1の図中上端部から外方へ突出されている。なお、ピストンロッド4とシリンダ1との間は図示しないシールでシリンダ1内が液密状態とされている。図示したところでは、緩衝装置Dがいわゆる片ロッド型に設定されているため、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド4の体積は、気体室G内の気体の体積が膨張あるいは収縮し摺動隔壁12が図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。このように緩衝装置Dは、単筒型に設定されているが、摺動隔壁12および気体室Gの設置に変えて、シリンダ1の外周や外部にリザーバを設けて当該リザーバによって上記ピストンロッド4の体積補償を行ってもよい。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0016】
ピストンロッド4は、その図1中下端側に小径部4aが形成されるとともに、小径部4aの先端側には螺子部4bが形成されている。そして、ピストンロッド4には、小径部4aの先端から開口しピストンロッド4の側部に抜ける伸側流路5が形成されている。なお、図示したところでは、この伸側流路5の途中には、抵抗となる弁を設けていないが、絞り等の弁を設けるようにしてもよい。
【0017】
ピストン2は、環状に形成されるとともに、その内周側にピストンロッド4の小径部4aが挿入されている。また、このピストン2には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3a,3bが設けられ、通路3aの図1中上端はピストン2の図1中上方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV1にて閉塞され、他方の通路3bの図1中下端もピストン2の図1中下方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV2によって閉塞されている。
【0018】
この積層リーフバルブV1,V2は、共に環状に形成され、内周側にはピストンロッド4の小径部4aが挿入され、積層リーフバルブV1の撓み量を規制する環状のバルブストッパ11とともにピストン2に積層されている。
【0019】
そして、積層リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮作動時に圧側室R2と伸側室R1の差圧によって撓んで開弁し通路3aを開放して圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝装置Dの伸長作動時には通路3aを閉塞するようになっており、他方の積層リーフバルブV2は、積層リーフバルブV1とは反対に緩衝装置Dの伸長作動時に通路3bを開放し、収縮作動時には通路3bを閉塞する。すなわち、積層リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮作動時における圧側減衰力を発生する減衰力発生要素であり、他方の積層リーフバルブV2は、緩衝装置Dの伸長作動時における伸側減衰力を発生する減衰力発生要素である。また、積層リーフバルブV1,V2で通路3a,3bを閉じた状態にあっても、図示はしない周知のオリフィスによって伸側室R1と圧側室R2とが連通されるようになっており、オリフィスは、たとえば、積層リーフバルブV1,V2の外周に切欠を設けたり、積層リーフバルブV1,V2が着座する弁座に凹部を設けたりするなどして形成される。なお、減衰力発生要素としては、上記した積層リーフバルブV1,V2の他にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもできるのは当然である。
【0020】
そして、ピストンロッド4の螺子部4bには、順に上記したバルブストッパ11、積層リーフバルブV1、ピストン2および積層リーフバルブV2が組み付けられ、この積層リーフバルブV2の下方から、圧力室R3を形成するハウジング14が螺着される。このハウジング14によって、ピストン2、積層リーフバルブV1,V2およびバルブストッパ11がピストンロッド4に固定される。このように、ハウジング14は、内部に圧力室R3を形成するだけでなく、ピストン2をピストンロッド4に固定する役割をも果たしている。
【0021】
ハウジング14は、ピストンロッド4の螺子部4bに螺合される鍔16付のナット部15と、ナット部15における鍔16の外周に開口部が加締められて一体化される有底筒状の筒部17とを備えて構成されている。そして、ナット部15および筒部17で圧側室R2内に圧力室R3を画成している。なお、ナット部15と筒部17との一体化に際し、上記加締め加工以外にも溶接等の他の方法を採用することも可能である。
【0022】
そして、上記のように形成される圧力室R3内には、フリーピストン9が摺動自在に挿入されて、圧力室R3は、図1中上方側の伸側圧力室7と下方側の圧側圧力室8に区画されている。
【0023】
また、ナット部15は、上述のように側方に鍔16を備え、その内周には筒状の螺子部18が形成され、この螺子部18をピストンロッド4の螺子部4bに螺着することによって、ハウジング14をピストンロッド4の小径部4aに固定することが可能なようになっている。なお、筒部17の外周の断面形状を真円以外の形状、たとえば、一部を切欠いた形状や、六角形等の形状としておくことで、当該外周に係合する工具を用いてハウジング14をピストンロッド4に螺着する作業を容易とすることができる。
【0024】
筒部17は、有底筒状であって、底部には、圧側流路6の一部を構成する固定オリフィス19が設けられ、筒部17の側部には圧側室R2をハウジング14内へ連通する二つの可変オリフィス20,21が設けられている。
【0025】
他方、フリーピストン9は、有底筒状とされており、底部9aを図1中下方へ向けて筒部9bの外周を筒部17の内周に摺接させてハウジング14内に挿入されている。フリーピストン9は、上記のようにハウジング14内に摺動自在に挿入されると圧力室R3内を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画する。なお、フリーピストン9の底部9aを図1中下方へ向けてハウジング14内に収容することで、フリーピストン9のナット部15における螺子部18への干渉を避けることができる。さらに、フリーピストン9は、この実施の形態の場合、筒部9bの外周に環状溝9cと、フリーピストン9の底部9aから環状溝9cへ通じる孔9dを備えている。
【0026】
また、このフリーピストン9に、フリーピストン9のハウジング14に対する変位量に応じてその変位を抑制する附勢力を作用させるばね要素10が設けられており、このばね要素10は、伸側圧力室7内であってナット部15の鍔16とフリーピストン9の筒部9bの図1中上端との間、および、圧側圧力室8内であって筒部17の底部とフリーピストン9の底部9aとの間に、それぞれ、介装した第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23とで構成されている。
【0027】
第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23は、共に、環状であって周方向に波形が現れるよう湾曲されており、軸方向へ押圧して圧縮すると圧縮変位に応じて、当該圧縮力に抗する附勢力を発揮するようになっている。第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23は、コイルばねと異なり、最圧縮時には平らになるので最圧縮時の軸方向長さは板厚と等しくなるので、非圧縮時の軸方向長さのほとんどがフリーピストン9のストローク長さに寄与する。したがって、フリーピストン9のストローク長さが同じに設定しても、第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23を利用する方がコイルばねを利用するよりも軸方向長さを非常に短くすることができる。
【0028】
そして、第一ウェーブワッシャ22は、圧縮された状態で伸側圧力室7に収容されて、フリーピストン9を圧側圧力室8を圧縮する方向へ附勢している。他方の第二ウェーブワッシャ23は、圧縮された状態で圧側圧力室8に収容されて、フリーピストン9を伸側圧力室7を圧縮する方向へ附勢している。したがって、フリーピストン9は、第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23以外からの圧力や附勢力が作用しない状態では、ハウジング14内で第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23の附勢力が釣り合った位置を中立位置として、当該中立位置に位置決めされる。
【0029】
そして、フリーピストン9が上記中立位置にあるときには、必ず環状溝9cが上記可変オリフィス20,21に対向して圧側圧力室8と圧側室R2を連通するとともに、フリーピストン9がストロークエンドまで変位する、すなわち、第一ウェーブワッシャ22と第二ウェーブワッシャ23のいずれかを最圧縮するまで変位すると、可変オリフィス20,21がフリーピストン9の外周で完全にラップされて閉塞されるようになっている。すなわち、圧側流路6は、環状溝9c、可変オリフィス20,21、孔9dおよび固定オリフィス19で構成されている。なお、可変オリフィス20,21を二つ設けているが、その数は任意である。
【0030】
つまり、この具体的な緩衝装置Dの場合、フリーピストン9の中立位置からの変位量が所定の変位量となるときに、可変オリフィス20,21の開口全てが環状溝9cに対向する状況からフリーピストン9の外周に対向し始める状況に移行して徐々に可変オリフィス20,21の流路面積が減少し始め、圧側流路6における流路抵抗が徐々に増加する。そして、この実施の形態では、フリーピストン9の変位量の増加に伴って徐々に可変オリフィス20,21の流路面積が減少し、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、可変オリフィス20,21が完全にフリーピストン9の外周で閉塞されて、圧側流路6における流路抵抗が最大となり圧側圧力室8が固定オリフィス19のみによって圧側室R2に連通されるようになっている。なお、フリーピストン9の底部9aの図1中下端外周には、円弧状の複数の突起9eが孔9dの開口部を避けるようにして設けられており、第二ウェーブワッシャ23が最圧縮されて平板状となっても、孔9dを閉塞しないようになっている。また、このように、突起9eを設けることによって、第二ウェーブワッシャ23が最圧縮されて平板状となっても、フリーピストン9との接触面積を低減でき、表面吸着力を低減させることができる。上記突起は、フリーピストン9に設ける代わりに第二ウェーブワッシャ23に設けるようにしてもよい。さらに、このような突起は、フリーピストン9の筒部9bの図1中上端にも設けて第一ウェーブワッシャ22との表面吸着力を低減してもよく、当該突起を第一ウェーブワッシャ22に設けるようにしてもよい。
【0031】
緩衝装置Dは、以上のように構成されるが、続いて緩衝装置Dの作動について説明する。
【0032】
(A)フリーピストン9における中立位置からの変位量が可変オリフィス20,21を閉塞し始めない範囲内にある場合の緩衝装置Dにおける動作。
【0033】
この場合、フリーピストン9は、圧側流路6の抵抗を変化させることなく変位することが可能である。そして、緩衝装置Dへ入力される振動周波数が低い場合と高い場合で、ピストン速度が同じであるという条件下で考えると、まず、入力周波数が低い場合、入力される振動の振幅が大きくなり、フリーピストン9の振幅も、可変オリフィス20,21を閉塞し始めない範囲内で大きくなる。
【0034】
フリーピストン9の振幅が上記の範囲で大きくなると、フリーピストン9が第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23から受ける附勢力が大きくなり、緩衝装置Dが伸長する場合、圧側圧力室8内の圧力は、伸側圧力室7内の圧力よりも第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23の附勢力分だけ小さくなり、逆に、緩衝装置Dが収縮する場合には、伸側圧力室8内の圧力は、圧側圧力室7内の圧力よりも第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23の附勢力分だけ小さくなる。
【0035】
このように、緩衝装置Dが低周波振動を呈すると伸側圧力室7と圧側圧力室8に第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23の附勢力に見合った差圧が生じるので、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧が小さくなり、伸側流路5、圧側流路6、伸側圧力室7および圧側圧力室8でなる見掛け上の流路を通過する流量は小さい。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、通路3a,3bの流量は大きくなるので、緩衝装置Dが発生する減衰力が大きいまま維持される。
【0036】
逆に、緩衝装置Dへの入力周波数が高い場合、入力される振動の振幅が小さくなり、フリーピストン9の振幅はより小さくなる。フリーピストン9の振幅が小さくなると、フリーピストン9が第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23から受ける附勢力が小さくなり、緩衝装置Dが伸長行程にあっても収縮行程にあっても、伸側圧力室7内の圧力と圧側圧力室8内の圧力とが略等しくなる。すると、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧は大きくなるので、伸側流路5および圧側流路6を通過する流量も多くなる。
【0037】
緩衝装置Dへ入力される振動の周波数が低い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は小さく、入力周波数が高い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は大きくなり、入力速度が同じであれば、伸側室R1から圧側室R2或いは圧側室R2から伸側室R1へ流れる流量は、入力周波数によらず等しくならなければならないため、通路3a,3bの積層リーフバルブV1,V2を通過する流量は、入力周波数が低い場合には多くなって減衰力が高く、反対に、入力周波数が高い場合には少なくなって減衰力は低くなる。したがって、緩衝装置Dの減衰特性は、図2に示すように、推移することになる。
【0038】
したがって、この緩衝装置D1にあっては、減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができ、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することで車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生させて車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
【0039】
(B)フリーピストン9の中立位置からの変位量が圧側流路6の流路抵抗を増加させる範囲内となる場合の緩衝装置Dにおける動作
可変オリフィス20,21は、緩衝装置Dが伸長しても収縮しても、フリーピストン9が中立位置から変位して、その変位量に応じて、徐々に流路面積を小さくし、フリーピストン9が上下のいずれかストロークエンドに到達すると完全に閉塞されて流路面積を固定オリフィス19の流路面積と同じくして最小とする状況となる。
【0040】
つまり、フリーピストン9が可変オリフィス20,21を閉塞し始めた後は変位量に応じて圧側流路6の流路抵抗を徐々に大きくし、フリーピストン9がストロークエンドに到達すると流路抵抗が最大となる。
【0041】
ここで、フリーピストン9がストロークエンドまで変位するのは、伸側圧力室7もしくは圧側圧力室8への液体の流出入量が多い場合であり、具体的には、緩衝装置Dの伸縮の振幅が大きい場合である。
【0042】
緩衝装置Dに入力される振動周波数が比較的高い場合、緩衝装置Dは、フリーピストン9が可変オリフィス20,21を閉塞し始める位置へ変位するまでは、比較的低い減衰力を発生しているが、フリーピストン9が可変オリフィス20,21を閉塞し始める位置を越えて変位するようになると、徐々に圧側流路6の流路抵抗が徐々に大きくなっていくので、フリーピストン9のそれ以上のストロークエンド側への移動速度が減少されて、見掛け上の流路を介しての液体の移動量も減少し、その分通路3a,3bを通過する液体量が増加することになり、緩衝装置Dの発生減衰力は徐々に大きくなっていく。
【0043】
そして、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、それ以上、見掛け上の流路を介しての液体の移動はなくなり、緩衝装置D1の伸縮方向を転ずるまでは液体は通路3a,3bのみを通過することになり、緩衝装置Dは、最大の減衰係数で減衰力を発生することになる。
【0044】
すなわち、フリーピストン9がストロークエンドまで変位してしまうような高周波数で大振幅の振動が緩衝装置Dに対し入力されても、フリーピストン9の中立位置からの変位量が任意の変位量を超えるとフリーピストン29がストロークエンドに達するまでに緩衝装置Dは徐々に発生減衰力を大きくするので、低い減衰力から急激に高い減衰力に変化することが無くなる。つまり、フリーピストン9がストロークエンドに達して圧力室R3内を介して伸側室R1と圧側室R2の液体の交流ができなくなるときに急激に減衰力の大きさが変化してしまうことがなくなり、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。さらに、フリーピストン9が圧力室R3における両端側のストロークエンドまで到る際に、徐々に発生減衰力を大きくするので、減衰力の急激な変化を抑制する機能は、緩衝装置Dの伸圧の両行程で発揮される。
【0045】
したがって、この緩衝装置Dにあっては、高周波数で振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずにすみ、車両における乗り心地を向上することができ、特に、急激な減衰力変化によって車体が振動しボンネットが共振して異音が発生してしまう事態も防止でき、この点でも車両における乗り心地を向上することができる。
【0046】
そして、本発明の緩衝装置Dによれば、フリーピストン9を附勢するばね要素10を第一ウェーブワッシャ22および第二ウェーブワッシャ23としたので、コイルばねを用いるよりもフリーピストン9のストローク長を確保しつつも軸方向長さを短くすることができ、その分、ハウジング14の図1中上下方向となる軸方向の長さをコンパクトにすることができる。この結果、本発明の緩衝装置Dによれば、緩衝装置Dのストロークを確保しやすくなり、緩衝装置Dのストローク不足を招かずに車両へ搭載することができる。
【0047】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の緩衝装置は、車両の制振用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 シリンダ
2 隔壁部材としてのピストン
3a,3b 通路
5 伸側流路
6 圧側流路
7 伸側圧力室
8 圧側圧力室
9 フリーピストン
10 ばね要素
14 ハウジング
22 第一ウェーブワッシャ
23 第二ウェーブワッシャ
D 緩衝装置
R1 伸側室
R2 圧側室
R3 圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、当該シリンダ内に摺動自在に挿入され当該シリンダ内を伸側室と圧側室に区画する隔壁部材と、上記伸側室と圧側室とを連通する通路と、内部に圧力室を形成するハウジングと、上記ハウジング内に移動自在に挿入されて当該圧力室を伸側流路を介して伸側室に連通される伸側圧力室と圧側流路を介して圧側室に連通される圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、当該フリーピストンの上記ハウジングに対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素とを備えた緩衝装置において、ばね要素が、上記伸側圧力室内に収容されて上記フリーピストンを上記圧側圧力室を圧縮する方向へ附勢する第一ウェーブワッシャと、上記圧側圧力室内に収容されて上記フリーピストンを上記伸側圧力室を圧縮する方向へ附勢する第二ウェーブワッシャとを備えたことを特徴とする緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197820(P2012−197820A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60921(P2011−60921)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】