説明

縁無印刷用のインク組成物及びインクジェットプリンタ

【課題】インクジェットプリンタによる縁無印刷において、捕捉部材での優れた堆積防止効果を長期的に維持することがインク組成物、及びそのインク組成物と捕捉部材とを備えるインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】インク組成物は、一般式(1):


(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基である)
で表されるビューレット化合物と銅イオンとの金属錯体を含む。インクジェットプリンタは、前記インク組成物と捕捉部材とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縁無印刷用のインク組成物及びインクジェットプリンタに関する。本発明によれば、インクジェット記録方式による縁無印刷において、記録媒体以外の領域に吐出させるインク滴を捕捉する捕捉部材の状態を長期間にわたって良好な状態に維持することができる。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式においても、銀塩写真と同様の縁無印刷が行われている。縁無印刷では、記録媒体の縁端部に非画像領域(余白)を全く残さずに、全表面を画像領域とする必要がある。そこで、記録媒体の表面から縁端部の外側にまで、プリンタヘッドからインク滴を連続的に吐出させることにより、記録媒体の縁端部にまで適正な画像を形成させることができる。このように、従来から行われている縁無印刷の原理を、以下、添付図面に沿って説明する。
【0003】
最初に、縁無印刷の原理を模式的に図1及び図2に示す。図1は、インクジェット記録方式による縁無印刷の工程を模式的に示す要部拡大斜視図であり、図1(A)は、記録媒体前縁部を印刷している状態を示し、図1(B)は記録媒体側縁部を印刷している状態を示し、図1(C)は記録媒体後縁部を印刷している状態を示す。図2は、図1(A)の状態の模式的要部側面図である。
【0004】
図1及び図2に示すように、インクジェット記録装置10は、主走査方向(すなわち、記録用紙11の幅方向;図1の矢印Bの方向)に延びるガイド軸12に沿って往復移動するキャリッジ14に搭載された記録ヘッド13と、この記録ヘッド13の下方に対向して配置されたプラテン(図示せず)を有しており、記録用紙11は、前記記録ヘッド13と前記プラテンとの間を、紙送り手段(図示せず)によって副走査方向(図1及び図2の矢印Aの方向)に搬送される。
【0005】
記録用紙11の前縁部11aが記録ヘッド13の下方まで搬送されると、図1(A)及び図2に示すように、前縁部11aの印字が開始される。すなわち、記録ヘッド13は、ガイド軸12に沿って主走査方向(矢印B方向)に往復移動しながら、記録用紙11の方向に向けてインク滴19を吐出させることにより印刷が開始される。このとき、記録用紙11の前縁部11aに余白を残さずに印刷を実行するために、記録用紙11の前縁部11aの外側にもインク滴19を吐出させる。記録用紙11の外側に吐出されたインク滴19は、プラテンに設けた捕捉部材30に直接に付着し、更に捕捉部材30の内部に浸透して、インク液捕捉領域31を形成する。
【0006】
記録用紙11の前縁部11aの印刷が終了すると、記録用紙11が副走査方向(矢印A方向)に搬送され、記録用紙11の中央部の印刷が行われる。中央部の印刷においては、記録用紙11の両側の側縁部11bに余白を残さずに印刷を実行するために、図1(B)に示すように、記録用紙11の側縁部11bの外側にもインク滴19を吐出させ、このように外側に吐出されたインク滴19は、プラテンに設けた捕捉部材30に直接に付着して捕捉される。更に、記録用紙11の中央部の印刷が終了すると、記録用紙11が副走査方向(矢印A方向)に搬送され、記録用紙11の後縁部11cの印刷が行われる。後縁部11cの印刷においても、記録用紙11の後縁部11cに余白を残さずに印刷を実行するために、図1(C)に示すように、記録用紙11の後縁部11cの外側にもインク滴19を吐出させ、そのインク滴19は、プラテンに設けた捕捉部材30に直接に付着して捕捉される。
【0007】
図1及び図2に示すように、縁無印刷を実施するには、記録用紙11の外側にもインク滴19を吐出させる。従って、記録用紙11の外側に吐出されたインク滴19が記録用紙11の裏面などを汚すことを防止する目的で、プラテンに捕捉部材を設ける必要がある。このような捕捉部材をプラテンに設けた代表的なインクジェット記録装置を図3〜図5に示す。
図3は、代表的なインクジェット記録装置10Aの斜視図であり、そのケースカバー1を開放して、特に印刷機構部を示す。印刷機構部には、インクカートリッジ2,3や記録ヘッド4Aを搭載したキャリッジ4と、その移動経路に対向する位置にプラテン5が配置されており、更にそのプラテン5を挟む位置に、記録用紙の排出方向の上流側に第1の紙押えローラ6が配置され、下流側に第2の紙押えローラ7が配置されている。図4は、図3に示すインクジェット記録装置10の印刷機構部の部分平面図であり、図5は、図3に示すインクジェット記録装置10の印刷機構部の部分断面図である。
【0008】
特に、図4及び図5に示すように、プラテン5の一部に、プラテン開口部5a,5b,5cを設け、プラテン5の下方部には捕捉部材20を配置する。プラテン開口部5aは、記録用紙Pの前縁部印刷の際に、プラテン5の表面にインク滴を付着させたり、インクミストを発生させたりせずに、捕捉部材20に直接捕捉させるための窓であり、プラテン開口部5b及びプラテン開口部5cは、それぞれ、記録用紙Pの側縁部印刷及び後縁部印刷の際に用いる窓である。すなわち、記録ヘッド4Aから吐出されたインク滴の内、記録用紙Pの外側に吐出されたインク滴の全ては、プラテン開口部5a,5b,5cを通過して、捕捉部材20に直接捕捉される。なお、記録用紙Pの裏面は、プラテン5の表面と接触しながら搬送され、その際に記録用紙Pの裏面が、捕捉部材20の上面と接触することのない高さに捕捉部材20を配置する必要がある。
【0009】
捕捉部材20は、図5に示すように、支持部材8に担持されており、更に、その支持部材8には支持部材開口部8aが設けられており、この支持部材の下方には廃インクタンク9が設けられているので、捕捉部材20に一時的に捕捉されたインク液は、支持部材開口部8aから徐々に、廃インクタンク9に導かれ、廃インクタンク9に通常設けられている吸収保持材に吸収されて保持される。
なお、本明細書において、プリンタに関して「下方」又は「上方」は、プリンタによって印刷が行われている状態での重力方向に関する下方又は上方を意味する。
【0010】
最近は印刷物の保存性の向上を主な目的として、顔料インクが採用されている。前記のような捕捉部材は、通常、多孔質材料(例えば、ウレタンフォーム又は焼結多孔性プラスチック)から形成されているので、特に顔料インクの場合には、溶剤成分のみが内部に浸透し、顔料粒子が多孔質捕捉部材の表面に残留して、堆積する傾向がある。顔料粒子の堆積が、多孔質捕捉部材の表面上で次第に成長してプラテン開口部の上方に突出すると、記録用紙の裏面に顔料粒子が付着したり、更に、その記録用紙の裏面からプラテン表面に転写されて、別の記録用紙の裏面まで汚したりすることになる。
【0011】
このような顔料粒子の堆積を防止する技術は、主に水系インクを中心に、既に、提案されており、例えば、前記の捕捉部材に有機溶剤を含浸させる技術が知られている(特許文献1)。また、顔料インクの色種に対応して選択した有機溶剤を含浸させる技術も知られている(特許文献2)。
【0012】
【特許文献1】特開2003−191545号公報
【特許文献2】特開2004−174978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、インクジェットプリンタによる縁無印刷において、堆積防止効果を有する化合物(すなわち、含浸剤)を捕捉部材に単に含浸させておくだけでは、顔料粒子の堆積防止効果が徐々に低下していく。これは、捕捉部材にインク液滴が次々に吐出され、捕捉部材の内部に浸透していくので、インク液の浸透と共に含浸剤も捕捉部材から徐々に洗い流され、担持量が減少していくからである。
こうした含浸剤の流出を防止して、捕捉部材における堆積防止効果を長期的に維持するには、インク組成物中に含浸剤を含ませておく必要がある。この場合、インク組成物中に含有させる含浸剤は、インク組成物のインク適性に対して悪影響を与えてはならない。
例えば、尿素は優れた堆積防止効果を有するので、捕捉部材に予め担持させる含浸剤として使用することができるが、尿素をインク組成物に添加すると、分解してしまうのでインクの保存安定性の点で問題があった。
また、尿素誘導体の一種であるビューレットは、優れた堆積防止効果を有すると共に、インク組成物に添加しても分解しないので、インクの保存安定性を損なうことが無い点でも優れている。しかしながら、インクへの溶解度がせいぜい2%であるため、用途や効果が限定されることがある。
本発明者は、前記のような欠点を示さないインクジェットプリンタによる縁無印刷に関して鋭意研究した結果、特定のビューレット化合物を金属錯体の形態で添加すると、捕捉部材において優れた堆積防止効果を有すると共に、インク組成物に添加してもインクの保存安定性に悪影響を与えることがなく、しかもインクへの溶解度が飛躍的に向上することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明は、一般式(1):
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基である)
で表されるビューレット化合物と銅イオンとの金属錯体を含むことを特徴とする、インクジェット記録方法による縁無印刷用のインク組成物に関する。
本発明の好ましい態様によれば、前記ビューレット化合物が、R及びRがそれぞれ水素原子である前記一般式(1)で表されるビューレット化合物である。
本発明の別の好ましい態様によれば、水系顔料インク組成物である。
【0015】
また、本発明は、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出されるインク滴のうち、記録媒体以外の領域に吐出されるインク滴を直接に捕捉する捕捉部材と、
前記インク組成物と
を備えることを特徴とする、インクジェットプリンタにも関する。
本発明によるインクジェットプリンタの好ましい態様においては、前記捕捉部材が、プラスチック粒子を焼結成形して製造した多孔性プラスチック、プラスチック製の発泡体シート若しくは有孔体シート、又は繊維質材料のシートである。
本発明によるインクジェットプリンタの別の好ましい態様においては、前記プラスチッ
ク粒子が、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンスルファイド樹脂、フッ素系樹脂、又は架橋ポリオレフィン系樹脂の粒子、あるいはそれらの粒子の混合物である。
本発明によるインクジェットプリンタの更に別の好ましい態様においては、前記捕捉部材が、前記一般式(1)で表されるビューレット化合物を含浸して含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インクジェットプリンタによる縁無印刷において、優れた堆積防止効果を有するビューレット化合物がインク組成物から次々に捕捉部材に補充されるので、堆積防止効果が長期的に維持されると共に、インク組成物のインク適性に対して悪影響を与えることがない。更に、インクへの溶解度が高いため、用途や効果が限定されることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明によるインクジェット記録方法用インク組成物は、前記一般式(1)で表されるビューレット化合物と銅イオンとの錯体を含む。本明細書において炭素原子数1〜4のアルキル基は、直鎖状又は分岐状のアルキル基を含み、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、又はt−ブチル基を挙げることができる。
【0018】
前記一般式(1)で表される前記ビューレット化合物は、例えば、R及びRがそれぞれ水素原子である化合物(ビューレット)、あるいは、R及びRのいずれか一方が水素原子であり、R及びRの他方が炭素原子数1〜4のアルキル基である化合物などを挙げることができる。
【0019】
本発明のインク組成物においては、前記ビューレット化合物と銅イオンから錯体を形成させ、得られた錯体をインク組成物に添加するのが好ましい。
【0020】
本発明によるインクジェット記録方法用インク組成物は、前記一般式(1)で表されるビューレット化合物と銅イオンとの金属錯体を、インク組成物の全重量に対して、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜5重量%の量で含むことができる。前記金属錯体の含有量を2重量%以上とすることで、捕捉部材における堆積防止作用を有効に維持させることができ、5重量%以下とすることで、インクの保存安定性に悪影響を与えないことができる。
【0021】
前記一般式(1)で表されるビューレット化合物と銅イオンとの金属錯体は、インク組成物に含有させるだけでなく、予め捕捉部材に含浸させておくことが好ましい。これは、捕捉部材における初期の堆積防止効果を補償するためである。従って、予め捕捉部材に含浸させておく金属錯体としては、インク組成物に含有させる金属錯体とは異なる金属錯体を用いることもできる。あるいは、前記金属錯体とは全く別異の化合物(含浸剤)、例えば、前記一般式(1)で表されるビューレット化合物を用いることもできる。
【0022】
本発明のインク組成物は、インクジェット記録方法による縁無印刷用の水系又は非水系であることができるが、水系であることが好ましい。また、着色剤としても、染料又は顔料のいずれも用いることができるが、堆積が発生しやすい顔料インク組成物に関して好適に利用することができる。
【0023】
本発明のインク組成物は、前記一般式(1)で表されるビューレット化合物と銅イオンとの金属錯体を含有していること以外は、従来公知のインクジェット記録方法用インク組
成物を構成する成分を含有していることができる。
【0024】
本発明のインク組成物は、インクジェット記録方法による縁無印刷において、捕捉部材に直接に吐出させることのあるインク組成物として使用する。本明細書において「捕捉部材」とは、インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出されるインク滴のうち、記録媒体以外の領域に吐出されるインク滴を直接に着弾させて捕捉する部材として使用されるものであり、従来から同様の目的で、インクジェット記録用プリンタにおいて「インク吸収材」などと称されて使用されている。また、「記録媒体以外の領域」とは、記録媒体表面以外にインク滴を吐出する任意の領域であり、代表的には、縁無印刷の際の記録媒体周縁に隣接する外側領域であり、更には、プリンタヘッドのクリーニング処理の際の吐出領域を含む。前記のクリーニング処理は、記録媒体が搬送されない所定のホームポジションにおいて、プリンタヘッドにインク組成物を強制的に通過・吐出させてプリンタヘッドの吐出不良を回避する目的で実施する処理である。このホームポジションにも前記の捕捉部材を設けることができる。
【0025】
本発明で用いる捕捉部材は、従来の同種の捕捉部材と同様に、インクヘッドから吐出されたインク滴を直接に着弾させて受け入れ、完全に捕捉する必要がある。例えば、縁無印刷の際に、記録媒体の外側領域に吐出されるインク滴が完全に捕捉されずに記録媒体の周縁部でミスト化された状態で浮遊すると、記録画像や記録媒体を汚染し、更にはプラテン表面の記録媒体接触面を汚染することがある。また、捕捉部材にインク液が捕捉されている状態で、プリンタ設置場所の変更などの際にプリンタが90°程度回転させられることがあっても、インク液を漏出させない程度の保持能を有することが好ましい。更に、捕捉部材は、捕捉したインク液を、順次、廃インクタンクに移動させ、次のインク滴を捕捉するための受容能を維持する必要がある。
【0026】
本発明で用いる捕捉部材は、前記の機能を有する任意の材料から調製することができ、従来から、捕捉部材として用いられている多孔質材料からなることが好ましく、特に好ましくは、個々の気孔が連通している連続多孔質材料からなることがより好ましい。
多孔質材料としては、例えば、プラスチック製の発泡体シート又は有孔体シート、あるいは繊維質材料(例えば、ウエブ、網状体、織物、編物、又は不織布)のシートを用いることができる。プラスチック製発泡体としては、例えば、ポリウレタンフォーム、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、フッ素樹脂多孔質体などを挙げることができる。
【0027】
本発明で用いる捕捉部材は、単層構造であることも、2層以上の多層構造であることもできる。2層からなる場合は、インク受容層とインク拡散層とからなることが好ましい。前記インク受容層は、プリンタヘッドから吐出されたインク滴を直接に着弾させて、捕捉する層であり、前記インク拡散層は、インク受容層に捕捉されたインク液を保持しつつ、廃インクタンクに移動させる層である。インク受容層とインク拡散層は少なくともその一部を接触させ、インク拡散層にインク受容層よりインク吸収性の高い材料を用いることがより好ましい。また、これらのインク受容層及びインク拡散層が、それぞれ、2層以上の多層構造を有することもできる。
【0028】
前記インク受容層と前記インク拡散層との組合せとしては、例えば、撥水性を有する高分子化合物製(例えば、フッ素樹脂製)の網状シートと、親水性高分子化合物製の多孔質シートやフェルト材との組合せ、あるいはポリウレタンフォームシートとPVAスポンジシートとの組合せを挙げることができる。
【0029】
本発明で用いる捕捉部材は、プラスチック粒子を焼結成形して製造した多孔性プラスチックであることもできる。前記のプラスチック粒子としては、熱可塑性プラスチック粒子を用いることができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、超高分子量ポリエチレ
ン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレンやポリプロピレン)、ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル樹脂)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリアリレート)、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンスルファイド樹脂、フッ素系樹脂、又は架橋ポリオレフィン系樹脂の粒子、あるいはそれらの粒子混合物を用いることができる。
【0030】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフルオロアクリルアクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、又はヘキサフルオロプロピレンなどを挙げることができる。
【0031】
架橋ポリオレフィン系樹脂材料とは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、若しくは高密度ポリエチレンなどのポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂に、γ線やX線などの電離性放射線を照射して架橋させるか、あるいは、架橋剤として塩化アルミニウム又はフッ化窒素などの無機化合物や、t−ブチル−クミル−パーオキサイド、ジクミル−パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、又はアセチレンパーオキサイドなどの有機過酸化物を用いて化学的に架橋させたものである。
【0032】
前記プラスチック粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、例えば、1,000μm以下であることが好ましい。また、メルトフローレイト(MFR)も、特に限定されるものではないが、例えば、0.01以下の材料を使用すると、均一な孔径を有する焼結多孔性プラスチックを得ることができる点で好適である。
【0033】
本発明で用いる多孔質プラスチックは、前記熱可塑性プラスチック粒子を、静的成形法や動的成形法によって焼結成形することによって製造することができる。
【0034】
前記の静的成形法は、いわゆる型内焼結法であって、例えば、成形型の間隙部に形成されるキャビテイ内に熱可塑性プラスチック粒子を充填した後、成形型と共に、加熱する方法である。
【0035】
前記の動的成形法としては、(1)先端部に成形型を有し、温度調整が可能なシリンダ内に往復運動をするピストン(プランジャー)を内蔵したラム式押出機を用いて行うラム押出法、(2)先端部に成形型を有し、温度調整が可能なシリンダ内にスクリュウを内蔵した射出成形機を用いて行う射出成形法、(3)先端部に成形型を有し、温度調整が可能なシリンダ内にスクリュウを内蔵した押出成形機を用いて行う押出成形法、(4)雌型とその内径部に挿人される雄型よりなる成形型を用い、雌型の内部に形成されるキャビテイ内に原料を充填した後、成形型を加熱する圧縮成形機を用いて行う圧縮成形法、(5)先端部に上下方一対の移動式ベルトあるいは下方の移動式ベルトで構成される成形型を有する温度調整が可能なシリンダでこの成形型内に原料を押出しする連続式プレス機を用いて行う連続式プレス法などである。
【0036】
これら静的成形法や動的成形法などの方法の内から、本発明で用いる多孔質プラスチックの最終的な形状や物性などの要求に応じて、適切な方法を適宜選択することができる。
【0037】
こうして得られた焼結多孔性プラスチックの成形体(成形板)は、外観上は通常のプラスチックの成形体(成形板)のように見えるが、実際には、多方向に相互に連結した無数の孔を有している。また、前記の焼結多孔性プラスチックの成形体は、市販されており、種々の孔径を有する成形体(成形板)を容易に入手することができる〔例えば、ポアレックス・ポーラスプラスチック(Porex technologies社);フィルダス(三菱樹脂社)〕。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
<実施例1>
(1)分散樹脂Aの合成
攪拌機、温度計、還流管及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、スチレン25g、n−ドデシルメタクリレート30g、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート20g、ブチルメタクリレート16g、及びメタクリル酸9.5gをメチルエチルケトン100gに溶解して、窒素ガス置換を行った。
滴下ロートにも同様のモノマー混合物/メチルエチルケトン溶液を入れ、更に2,2’−アゾビス(2,4−イソメチルバレロニトリル)0.2gを加えて窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、65℃に加温して滴下ロートの溶液を3時間かけて加えながら重合反応を行った。得られた共重合体溶液を減圧乾燥とメチルエチルケトン溶解及び濾過を繰り返して精製した後、樹脂の固形分が50重量%になるようにメチルエチルケトンを加えて希釈した。酸価が約70KOHmg/gであり、平均分子量が50,000である分散樹脂Aの樹脂溶液を得た。
【0040】
(2)分散液Aの調製
顔料として有機顔料のC.I.ピグメントレッド122(200g)を用い、これと前項(1)で調製した樹脂溶液A(100g)とを混合・攪拌してスラリーを作製した。このスラリーに10重量%水酸化カリウム水溶液38gを加え、超高圧ホモジナイザーにて分散を行った。
続いてこの分散液を、攪拌下の純水400gに徐々に加え、更に減圧下で60℃にてメチルエチルケトンの全部と水の一部とを除去して、更に顔料濃度が15重量%になるように超純水を加え、分散液Aを得た。
【0041】
(3)ビューレット−銅錯体の調製
塩化第二銅(5g)をpH6.5のイオン交換水(35g)に溶解させる。続いて、ビューレット(7.6g)を添加攪拌した後、水酸化ナトリウムとイオン交換水を徐々に滴下しながら攪拌することによりpH9のビューレット−銅錯体水溶液(50g「有効成分20%」)を得た。
【0042】
(4)インク組成物Aの調製
前項(2)で調製した分散液A(60g)、前項(3)で調製したビューレット−銅錯体水溶液(25g)、アセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール104(0.2g)及びサーフィノール465(1g)(前記サーフィノールは2種共に商品名;Air Products and Chemicals.Inc.社製)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(2g)、1,2−ヘキサンジオール(2g)、トリエタノールアミン(1g)、グリセリン(12g)、2−ピロリドン(2g)、更に超純水を加えて全量を100gとして2時間攪拌した後、孔径約1.2μmのメンブランフィルタ(商品名;日本ミリポア・リミテッド製)にて濾過して水性インク組成物Aを調製した。
【0043】
<比較例1>
インク組成物Bを調製した。
具体的には、実施例1(2)で調製した分散液A(60g)、ビューレット(5g)、アセチレングリコール系界面活性剤であるサーフィノール104(0.2g)及びサーフィノール465(1g)(前記サーフィノールは2種共に商品名;Air Produc
ts and Chemicals.Inc.社製)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(2g)、1,2−ヘキサンジオール(2g)、トリエタノールアミン(1g)、グリセリン(12g)、2−ピロリドン(2g)、更に超純水を加えて全量を100gとして2時間攪拌した後、孔径約1.2μmのメンブランフィルタ(商品名;日本ミリポア・リミテッド製)にて濾過して水性インク組成物Bを調製した。3日後、溶解しきれなかったビューレット(約3.5g)がメンブランフィルタ上に濾別された。各評価はそのまま実施した。
【0044】
<比較例2>
インク組成物Cを調製した。
具体的には、実施例1(2)で調製した分散液A(60g)、尿素(5g)、アセチレングリコール系界面活性剤であるオルフィンE1010(1g)(商品名;日信化学工業株式会社製)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(2g)、1,2−ヘキサンジオール(2g)、トリエタノールアミン(1g)、トリエチレングリコール(12g)、2−ピロリドン(2g)、更に超純水を加えて全量を100gとして2時間攪拌した後、孔径約1.2μmのメンブランフィルタ(商品名;日本ミリポア・リミテッド製)にて濾過して水性インク組成物Cを調製した。
【0045】
[物性評価]
(1)保存安定性
実施例1、並びに比較例1及び2で調製した水性インク組成物を70℃で10日間放置して、インク調製直後の粘度と放置後の粘度とを比較した。判定基準は以下のとおりである。結果を表1に示す。
判定
A:変動幅が±5%未満
B:変動幅が±5%以上、±10%未満
C:変動幅が±10%以上
【0046】
(2)発泡ポリウレタン上での堆積評価
実施例1、並びに比較例1及び2で調製した水性インク組成物をインクジェットプリンタ(PX−V630;セイコーエプソン社)にセットし、縁無し印字の連続印字を実施して、プラテン部の捕捉部材へのインク堆積状況を評価した。捕捉部材としては、発泡ポリウレタン製捕捉部材を用いた。
評価は40℃及び相対湿度15%の環境下において、インクジェット印刷用葉書用紙に縁無印刷を連続して実施し、裏面汚れが発生するまでの印刷回数(枚数)を調べた。なお、裏面汚れの発生は、印刷後の葉書用紙を目視によって判断した。その結果を表1に示す。
判定
A:500枚以上印字しても裏面汚れが発生しない。
B:200枚以上500枚未満で裏面汚れが発生しない。
但し、500枚を超えた枚数を印字すると裏面汚れが発生する。
C:200枚未満の印字で裏面汚れが発生する。
【0047】
(3)多孔質プラスチック上での堆積評価
プラテン部の捕捉部材を多孔質プラスチック製捕捉部材に変更して、前項(2)と同様に堆積状況を評価した。
多孔質プラスチックは、以下の方法で調製した。すなわち、平均粒子径が150μmでメルトフローレイト(MFR)が0.01以下である高分子ポリエチレンを、層の厚み比率が最終フィルタ全体の厚みの70%になるように、断面積が長方形の成形金型の間隙部に充填し、160〜220℃の温度で30分間加熱し、多孔質プラスチックの捕捉部材を
得た。
実施例1、並びに比較例1及び2で調製した水性インク組成物をインクジェットプリンタ(PX−V630;セイコーエプソン社)にセットし、縁無し印字の連続印字を実施して、プラテン部の捕捉部材へのインク堆積状況を評価した。なお、プラテン部の捕捉部材として前記の多孔質プラスチックを使用した。
評価は40℃及び相対湿度15%の環境下において、インクジェット印刷用葉書用紙に縁無印刷を連続して実施し、裏面汚れが発生するまでの印刷回数(枚数)を調べた。なお、裏面汚れの発生は、印刷後の葉書用紙を目視によって判断した。その結果を表1に示す。
判定
A:500枚以上印字しても裏面汚れが発生しない。
B:200枚以上500枚未満で裏面汚れが発生しない。
但し、500枚を超えた枚数を印字すると裏面汚れが発生する。
C:200枚未満の印字で裏面汚れが発生する。
【0048】
(4)結果
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によるインク組成物によれば、優れた堆積防止効果を有するビューレット化合物を金属錯体の形でインク組成物に含有させることができ、しかもインク組成物から次々に捕捉部材に補充することができるので、インクジェットプリンタによる縁無印刷において、優れた堆積防止効果を長期的に維持することができる。特に、顔料インク組成物を用いるインクジェットプリンタによる縁無印刷において、効果的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】インクジェット記録方式による縁無印刷の工程を模式的に示す要部拡大斜視図である。
【図2】図1(A)の状態の模式的要部側面図である。
【図3】代表的なインクジェット記録装置の斜視図である。
【図4】図3に示すインクジェット記録装置の印刷機構部の部分平面図である。
【図5】図3に示すインクジェット記録装置の印刷機構部の部分断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・ケースカバー;2,3・・・インクカートリッジ;4・・・キャリッジ;
4A・・・記録ヘッド;5・・・プラテン;5a,5b,5c・・・プラテン開口部;
6・・・第1の紙押えローラ;7・・・第2の紙押えローラ;
8・・・支持部材;8a・・・支持部材開口部
9・・・廃インクタンク;10,10A・・・インクジェット記録装置;
11・・・記録用紙;11a・・・記録用紙の前縁部;11b・・・記録用紙の側縁部;11c・・・記録用紙の後縁部;12・・・ガイド軸;13・・・記録ヘッド;
14・・・キャリッジ;19・・・インク滴;20・・・捕捉部材;
30・・・捕捉部材;31・・・インク液捕捉領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基である)
で表されるビューレット化合物と銅イオンとの金属錯体を含むことを特徴とする、インクジェット記録方法による縁無印刷用のインク組成物。
【請求項2】
前記ビューレット化合物が、R及びRがそれぞれ水素原子である前記一般式(1)で表されるビューレット化合物である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
水系顔料インク組成物である、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
インクジェット記録用プリンタヘッドから吐出されるインク滴のうち、記録媒体以外の領域に吐出されるインク滴を直接に捕捉する捕捉部材と、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物と
を備えることを特徴とする、インクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記捕捉部材が、プラスチック粒子を焼結成形して製造した多孔性プラスチック、プラスチック製の発泡体シート若しくは有孔体シート、又は繊維質材料のシートである、請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記プラスチック粒子が、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンスルファイド樹脂、フッ素系樹脂、又は架橋ポリオレフィン系樹脂の粒子、あるいはそれらの粒子の混合物である、請求項5に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記捕捉部材が、前記一般式(1)で表されるビューレット化合物を含浸して含む、請求項4〜6のいずれか一項に記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−101043(P2008−101043A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282269(P2006−282269)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】