説明

縦型多重モードSAW共振子

【課題】圧電体SAW共振子分野において、1個のSAW共振素子で複数の周波数が提供できる多重モードSAW共振子を実現する。
【解決手段】アルミで形成された電極指116をそれぞれ有するゲイトIDT103と主IDT102および副IDT104と、アルミ電極導体119を有する反射器101,105とを備えるSAW共振素子120を有しており、電極指は、膜厚比H/λが0.05以上0.06以下の範囲、電極指1本の有する反射係数rが約0.06であり、主IDTおよび副IDTの電極指の対数が40以上60以下、ゲイトIDTの電極指の対数が20±2、反射器のアルミ電極導体の本数が70以上80以下であり、且つ主IDTおよび副IDTの電極指周期長PTに対して、ゲイトIDTの電極指周期長PGの比をPG/PT=1.01程度に設定し、主IDTと副IDTの極性をSW回路にて切り換えて、複数の発振周波数を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶を用いたSAW共振子に関し、1個のSAW共振素子で複数の発振周波数を有する縦型多重モードSAW共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電気を有する水晶STカット基板(水晶基板の一例)を用いたSAW共振素子で構成されるSAW共振子は、その周波数温度特性が零温度係数をもち精度が良く、且つ所望の周波数を直接発振させることが可能であるために、各種無線系のSAW発振器に使用されている。また、このSAW共振子は、ジッタが無く位相ノイズに優れた信号が高信頼性、且つ低コストに容易に得られるという長所がある。
これらの理由から近年、一例として乗用車のドアの自動開閉にはSAW共振子を用いた微弱無線機(キーレスエントリー装置)が多数使用されるようになっている。この微弱無線機には周波数が可変できるSAW発振器を構成したFSK変調器が使われている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−252016号公報
【特許文献2】特開2006−41692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の従来技術のSAW共振子を使用したFSK変調器は、FSK変調するための2つの周波数の発生手段として、伸張コイルと切換電圧発生回路と可変容量ダイオード等の素子を使用することが必要である(例えば、特許文献1参照)。このためこれら部品によりコストアップとなり、さらには、各素子の特性のバラツキが重なって周波数調整の際に歩留まりが低下するなどの不具合を生じることがあった。また近年、SAW共振子が使用される装置の小形化要請が強まりFSK変調器の小形化、あるいは電波事情の輻輳に対して発振周波数精度の向上による通信品質の改善も必要になって来た。
【0005】
本発明はかかる課題を解決するもので、その目的とするところは、外付け素子である伸張コイル、可変容量ダイオード等を用いない、小型、且つ低コストなFSK変調器が実現可能な、SH波(特許文献2参照)を用いた縦型多重モードSAW共振子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の縦型多重モードSAW共振子は、水晶結晶の基本軸において、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、光軸であるZ軸回りに反時計方向に0±1°の範囲であり、電気軸であるX軸回りに反時計方向に29.2°以上40.7°以下の範囲であり、新たに生成されたZ'軸回りに、前記X軸を起点として反時計方向に90±2°の範囲である方向を弾性表面波の位相伝搬方位とするSH波を使用する水晶基板と、前記水晶基板上に形成され、アルミ(Al)で形成された電極指をそれぞれ有するゲイトIDTと該ゲイトIDTを挟む両側の内の一方側に設けられた主IDTおよび他方側に設けられた副IDTと、アルミ(Al)で形成されたアルミ電極導体を有し、前記主IDTおよび前記副IDTの外側に1対で形成された反射器とを有するSAW共振素子と、前記主IDTと前記副IDTの極性を切り換えるスイッチ回路と、を有する縦型多重モードSAW共振子であって、前記SAW共振素子は、前記電極指の厚さHが、前記SAW共振素子のSH弾性表面波の波長λと比較した膜厚比H/λが0.05以上0.06以下の範囲内、且つ前記電極指1つの有する反射係数rが0.06±0.02、且つ、前記主IDTおよび前記副IDTの前記電極指の対数(正負極性で1対とする)が、40対以上60対以下、前記ゲイトIDTの対数が20±4対、および前記反射器のアルミ電極導体の本数が70本以上80本以下、且つ、前記主IDTおよび前記副IDTの前記電極指周期長PTに対して、前記ゲイトIDTの前記電極指周期長PGの比をPG/PT=1.01±0.002の範囲内で形成されており、前記主IDTと前記副IDTとの極性を前記スイッチ回路により同符号に接続して、縦対称S0モードである第1の振動状態で第1の発振周波数FS0を励振させ、前記主IDTと前記副IDTの極性を前記スイッチ回路により逆符号に接続して、縦斜対称A0モードである第2の振動状態を励振して前記第1の発振周波数FS0と僅かに異なる第2の発振周波数FA0を発生させ、前記副IDTの極性を前記スイッチ回路にて開放状態として、縦対称S0モードと縦斜対称A0モードとが合成された縦SA0モードである第3の振動状態で、前記第1の発振周波数FS0と前記第2の発振周波数FA0の中間周波数である第3の発振周波数FSA0を発生させていることを特徴とする。
【0007】
本発明の縦型多重モードSAW共振子によれば、前述の方位のSH波を使用した結果、従来のSTカットを使用した場合と比較して、周波数−温度特性が約半分となることから2倍の精度が実現できる。
さらに、反射係数rが2倍大きなSH波を使用した結果、2個のSAW共振子を並列使用して2つのモードを発生している先願技術に対して、1個のSAW共振素子内に形成したゲイトIDTの効果とあわせて、IDTの総対数を少なくしても所望の2つの振動状態を発生させることが可能であるため、IDTの総対数(M)が100対から140対程度とすることができST基板程度に素子の小形化が可能である。
また、主IDTおよび副IDTの電極指周期長PTに対して、ゲイトIDTの電極指周期長PGの比であるPG/PTを1より大幅に大きく設定することにより、従来の縦型では不可能であった2つの発生周波数差が100ppm程度に接近した多周波数を発生できる。これによって、FSK変調器用途のSAW共振素子を提供できる。
さらにまた、水晶基板を用いたSAW共振素子で本願の構成をとることにより、より高度に基板表面に集積化された弾性波素子の周波数精度を数ppm以内に維持して複数集積可能とするものである。これは著しく小型化は可能ながら寸法加工精度の制約がある、MEMS(micro-electromechanical system)素子では実現できない周波数精度である。
【0008】
また、前記SAW共振素子と、トランジスタあるいはC−MOSにより形成された1個または2個の前記スイッチ回路を内蔵したIC素子と、少なくとも前記SAW共振素子および前記IC素子が収納された収納容器とを有していることが望ましい。
【0009】
このようにすれば、1個の収納容器内にSAW共振素子とスイッチ回路を内蔵しているため、周波数シフトの要因となるスイッチ回路に寄生する浮遊容量を含んでSAW共振子の単体の周波数調整が可能となる。これにより、発振回路とSAW共振子間の対応性を大幅に改善できる。また、1個の収納容器内にSAW共振素子とスイッチ回路を内蔵しているため、全体で1個の素子として扱え、周波数検査において著しく作業性が向上できる。従来から多重モードのフィルタ素子は存在するが、これらにおいては、周波数精度は100ppm程度のばらつきを有する。本発明の端子構成をとり各モードを独立に励振すれば、それらの周波数精度を数ppm範囲内に調整できるという効果が得られる。
【0010】
また、前記副IDTには、前記電極指の1対に対応して1対の浮き電極指が形成されていることが望ましい。
【0011】
このようにすれば、縦対称S0モードと縦斜対称A0モードと縦SA0モードの各モードの等価抵抗値を略均等にすることができ、いずれのモードの発振条件を良好に保つことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の縦型多重モードSAW共振子の実施形態について、図1と図2によって具体的素子の実施例を説明した後、図3には本発明で使用される圧電基板の具体的な方位を図示し、さらに図4から図9の特性図を用いてその動作状態を詳細に解説する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明に係る縦型多重モードSAW共振子の一実施例を示したもので、SAW共振子の電極パーンの配置を示す平面図である。図1に示すように、縦型多重モードSAW共振子122は、水晶基板100の上面115に縦型多重モードSAW共振素子120(以下、「SAW共振素子」という)が形成されている。
【0014】
水晶基板100は、後述する所定角度で切り出された略平板状の基板である。水晶基板100の上面115には反射器101,105、主IDT102、副IDT104、ゲイトIDT103、主IDT102への正負極性の入力端子106(一対)、副IDTへの正負極性の入力端子107(一対)が形成されている。なお、主IDT102は主すだれ状電極、副IDT104は副すだれ状電極、ゲイトIDT103はゲイトすだれ状電極ともいう。
【0015】
主IDT102、副IDT104、およびゲイトIDT103は、IDTの正負極性からなる電極指116群への給電導体部114(バスバーともいう)と接続されている。給電導体部114は、いずれもアルミニウム等の金属で形成されている。また、副IDT104には、給電導体部114など他の電極と接続されていない浮き電極109が設けられている。反射器101,105は、並列状態に設けられたアルミ電極導体119が接続電極によって接続されて形成されている。説明した反射器101,105、主IDT102、ゲイトIDT103、副IDT104の全体で1個のSAW共振素子120を構成している。
次に、各部位について詳細に説明する。
【0016】
先ず、図3を用いて水晶基板100について説明する。図3は、水晶基板100が有する方位角を示す図である。図3に示すように、水晶基板100は、面内回転SHカット水晶板でありSH型表面波(基板の主面に平行な成分を有する表面集中型すべり波)で動作するものである。
【0017】
水晶基板100は、水晶結晶の基本軸において、電気軸であるX軸と機械軸であるY軸の2軸が作る面を主面とするZ板をX軸回りに反時計方向にθ°(特に、零温度係数が得られるθ=29.2°から40.7°が好ましい)回転した基板である。そして、この水晶基板100は、主面の垂線であるZ'軸回りにX軸を起点として面内の回転角Ψが90±2°である方位をSH型弾性表面波の位相伝播方位軸としたものである。SAWデバイスでよく使用されるオイラー角表示(φ,θ,ψ)では、φが0±1°範囲であり、θが29.2°以上40.7°以下の範囲であり、ψが90±2°の範囲である。
【0018】
次に、SAW共振素子120の電極構成について図1に戻り説明する。鏡面研磨された水晶基板100の主表面である上面115に、SH型弾性表面波の位相伝搬方向軸に直交して、例えば金属アルミニウム(Al)からなる多数の平行導体の電極指116(図1では、副IDT104に代表して付番している)を周期的に配置した少なくとも1個のIDT(すだれ状電極とも呼ぶ)が形成されている。本例では、主IDT102、ゲイトIDT103、および副IDT104が形成されている。その両側に1対の反射器101,105を形成して1個のSAW共振子122が形成されている。
【0019】
SAW共振素子120のそれぞれのIDTを構成する電極指116の電極の膜厚Hは、SH弾性表面波の波長λと比較した膜厚比H/λが0.05以上0.06以下の範囲であり、電極1本の有する反射係数rが約0.06±0.02に設定されている。さらに、主IDT102および副IDT104の電極指116の対数(正負極性で1対とする)が40対以上60対以下、ゲイトIDT103の電極指116の対数が15対以上25対以下、反射器101,105のアルミ電極導体119の本数が70本以上80本以下であれば十分な特性が得られる。さらに限定すれば、主IDT102および副IDT104の電極指116の対数が60対、ゲイトIDT103の電極指116の対数が20±2対、反射器101,105のアルミ電極導体119の本数が80本であれば最良な特性が得られる。
【0020】
SAW共振素子120は、表面波にて動作して3つの定常振動を形作るが、これらの振動は1個のSAW共振素子120内において相互に弾性的に結合するように設計することが必要である。この状態を効果的に形成するために、ゲイトIDT103が必要である。前述のSHカットの場合においては、このゲイトIDT103の電極指周期長P(x)を、主IDT102と副IDT104が有する電極指周期長PTのいずれに対しても、著しく大きく設定することにより振動の変位状態を制御して、縦対称S0モードと縦斜対称A0モードを効果的に発生させることができる。ちなみに、図1には記載しないが前記の電極指周期長P(x)とは各IDTを構成する電極指116の電極幅(ライン)と電極指導体間の距離(スペース)と通常定義されるものである。主IDT102および副IDT104においては、電極指周期長をPT(111,112)とし、ゲイトIDT103においては電極指周期長をPG(113)と表示した。本例においては、前記寸法比PG/PT=1.01±0.002範囲内に設定することが最適であるが、PG/PT=1.005以上1.04以下の範囲でも素子の構成は可能である。図1に示す階段状の線108はSAW共振素子120の縦方向(すなわち、弾性表面波の位相伝搬方向)に関して、電極指116の電極指周期長P(x)を図示したものである。
【0021】
次に、本例のSAW共振素子120が有する振動状態を図6の概念図を用いて詳細に説明する。縦対称S0モードとは、主電極領域604の振動振幅の包絡線変位U(X)が副IDT領域606の振動振幅の包絡線変位U(X)と同位相の状態601である。また、前記縦斜対称A0モードとは、主電極領域604の振動振幅の包絡線変位U(X)が副IDT領域の振動振幅の包絡線変位U(X)と逆位相の状態602のことである。ただし、図6の603と607は反射器領域であり、605はゲイトIDTである。
【0022】
次に、図2に本例に係る第2の構成を示し説明する。図2に示す各部位は、縦型多重モードSAW共振素子(以下、「SAW共振素子」という)200、SAW共振素子200に接続する1対の端子201,202、スイッチ回路素子204,205(以下、「SW回路素子」という)にモード切換信号を入力するモード切換信号端子203、およびSAW共振素子200とSW回路素子204,205を収納するセラミックスあるいは金属等からなる収納容器220である。なお、収納容器220は、樹脂モールド材等で構成されていてもよい。SAW共振素子200は、図1に示す主IDT102の領域に対応する部位2011と副IDT104の領域に対応する部位2012の構成からなり、2端子対構成をとる。また、SW回路素子204,205は、それぞれが図2に示す端子1と端子2と端子3との接続状態を有している。この接続状態による前記モード切換信号のL(Low)、H(High)およびM(Midle)の電位状態により、各々の励振状態となる。即ち、状態1(端子1との接続状態)により縦対称SOモードが励振され、状態2(端子2との接続状態)により縦斜対称A0モードが励振され、状態3(端子3との接続状態)で縦SA0モードが励振される。詳述すると、縦対称S0モードを選択する場合には、図1に示す主IDT102と副IDT104の電極指116の極性を同一符号(+)とし、縦斜対称A0モードの選択の場合には、主IDT102と副IDT104の電極指116の極性を逆符号(+/−)の関係に設定する。
【0023】
なお、SW回路素子204,205はバイポーラあるいはMOSトランジスタからなる能動素子で形成されてもよく、さらに収納容器220に形成された配線パターン(図示せず)の接続部位から構成されていてもかまわない。この場合には配線パターンをレーザ加工などにより切断することにより励振のモードの選択が可能となる。
【0024】
次に、本例の縦型多重モードSAW共振子が実現する動作特性について図4に沿って詳細に説明する。図4は一体のIDT(対数M=160対)からなる従来の1ポート型SAW共振子が有するアドミタンス特性を示す。同図縦軸は20log10(Y(f))(dB)、且つ単位はシーメンスにて表示し、横軸は周波数変化率df/f、単位は10-6のppmにより表示した場合である。図中403で示すピークFS0が縦対称S0モード(基本波)であり、図中401で示す共振ピークFS1が縦1次対称S1モードである。両者の周波数差は約3000ppm存在している。ただし、縦斜対称A0モード(周波数FA0)は観測されないが、図示のS0とS1との中間点402近辺に存在する。ここで、縦対称S0モードと縦1次対称S1モードとの周波数差は約1500ppmとなり、従来の構成方法で2つの発振周波数FS0とFA0の周波数差を100ppm以上200ppm以下とするためには、IDTの総対数Mを相当大きくとることが必要であった。縦型の2ポートSAW共振子においても同様な状況である。
【0025】
次に、図5(A)は本実施例の縦型多重モードSAW共振子のアドミタンス特性Y(f)である。同図の縦軸は、20log10(Y(f))(dB)、且つ単位はシーメンスにて表示し、横軸は、周波数変化率df/f、単位は10-6のppmにより表示している。図中の曲線501Aが縦対称縦対称S0モードであり、曲線502Aが縦斜対称A0モードである。両者の共振周波数FS0とFA0との差(FS0−FA0)/FS0は、100ppm以上200ppm以下と近接させることが可能である。また、図中の曲線503Aの共振曲線で表される縦SA0モード(仮称)は、前記縦対称S0モードと縦斜対称A0モードの合成モードである。
【0026】
また、図5(B)は、各モードに対応する位相特性である。図中の曲線501Bが縦対称S0モード、曲線502Bが縦斜対称A0モード、曲線503Bが縦SA0モードの曲線である。また、試作で得られた各モードの等価定数は、縦対称S0モードがR1=17Ω、Q=16000、縦斜対称A0モードがR1=15Ω、Q=16000、縦SA0モードがR1=20Ω、Q=10700であった。各モードの等価定数値を等しくするために、前述の図1に示すの浮き電極109を副IDT104領域に1対配置した。浮き電極109を用いなければ、縦対称S0モードがR1=11Ω、Q=12000、縦斜対称A0モードがR1=11Ω、Q=12000、縦SA0モードがR1=27Ω、Q=8000である。ただし、電極指116の交差幅は35波長とした。
【0027】
次に、共振周波数FS0と共振周波数FA0との差が100ppm〜200ppmと極めて接近しているため、実際に発生している振動変位状態がどのようなものかを検証する目的で変位計算を行った結果を図7に示した。図7(A)は、縦対称S0モードの状態を示し、図7(B)は、縦斜対称A0モードの状態を示している。図7は、横軸702A,702Bに縦型多重モードSAW共振素子のX軸方向(図1参照)をとり、振動変位の包絡線振幅を縦方向にU(X)(704Aと704B)とし、斜め上方に素子の動作周波数(矢印703Aと矢印703B)をとって描いたものである。極めて近接したFS0とFA0の周波数関係にありながら、はっきりと縦対象S0モード(701A)と縦斜対称A0モード(701B)が独立分離して動作していることがわかる。両者間に結合現象が認められない。このことは、前記縦対称S0モードと縦斜対称A0モードの共振周波数精度の作りこみを保障するものである。
【0028】
次に、図1の電極指周期長寸法PTとPGとの比PTGを横軸として、縦型多重モードSAW共振子の共振周波数FS0とFA0およびFSA0との関係を縦軸としてみたものを図8および図9に示す。一例として、図8(A)は、ゲイトIDT103の対数MG(以下、「MG」という)が20対の場合であり、図8(B)は、MGが18対の場合である。図8に示す801Aと801BがS0モードの特性であり、802Aと802BがSA0モード、803Aと803BがA0モードの特性である。さらに、図9にS0モードとSA0モード間の周波数差特性を示した。図9において、曲線901は、MGが18対の場合であり、曲線902は、MGが20対の場合であり、曲線903は、MGが22対の場合である。このMGの値を一旦設定すれば、周波数差はMGには依存せず、前記PTGのみに依存すると考えてよい。同図から前記PTG=1.01±0.001に設定すれば、S0とSA0間の周波数差は100ppm±5%に収めることが可能である。実際の電極パターン加工においては、縮小投影露光を用いれば、露光マスク寸法比がそのまま、電極パターン寸法比として転写されると考えられるため、100ppmのモード間の周波数差精度はさらに良く実現可能である。
【0029】
以上説明したように、本実施例の縦型多重モードSAW共振子はSAWデバイス技術とIC技術を融合してFSK変調器の部品点数を減らすことが可能であり、今後FSK変調器を利用したセンサーシステム分野におおいに貢献できると思われる。また、本発明の前記素子に関して、1個を例にとりに説明したが、複数個を1チップ上に形成しても本発明の趣旨が損なわれないことを付け加える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の縦型多重モードSAW共振子の電極パターンの実施例を示す平面図。
【図2】本発明の縦型多重モードSAW共振子に係る実施例を示す概略図。
【図3】本発明の水晶基板が有する方位角図。
【図4】従来のSAW共振子のアドミタンス特性図。
【図5】本発明に係る実施例の縦型多重モードSAW共振子のアドミタンス特性図。
【図6】本発明に係る実施例の縦型多重モードSAW共振子が有する変位状態の概念図。
【図7】本発明に係る実施例の縦型多重モードSAW共振子が示す周波数−変位特性図。
【図8】本発明に係る実施例の縦型多重モードSAW共振子の示す周波数特性図。
【図9】本発明に係る実施例の縦型多重モードSAW共振子が示す他の周波数特性図。
【符号の説明】
【0031】
100…水晶基板、101,105…反射器、102…主IDT、103…ゲイトIDT、104…副IDT、106,107…入力端子、109…浮き電極、111,112…電極指周期長PT、113…電極指周期長PG、114…給電導体部、115…上面、116…電極指、119…アルミ電極導体、120…SAW共振素子、122…縦型多重モードSAW共振子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶結晶の基本軸において、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、光軸であるZ軸回りに反時計方向に0±1°の範囲であり、電気軸であるX軸回りに反時計方向に29.2°以上40.7°以下の範囲であり、新たに生成されたZ'軸回りに、前記X軸を起点として反時計方向に90±2°の範囲である方向を弾性表面波の位相伝搬方位とするSH波を使用する水晶基板と、
前記水晶基板上に形成され、アルミ(Al)で形成された電極指をそれぞれ有するゲイトIDTと該ゲイトIDTを挟む両側の内の一方側に設けられた主IDTおよび他方側に設けられた副IDTと、アルミ(Al)で形成されたアルミ電極導体を有し、前記主IDTおよび前記副IDTの外側に1対で形成された反射器とを有するSAW共振素子と、
前記主IDTと前記副IDTの極性を切り換えるスイッチ回路と、を有する縦型多重モードSAW共振子であって、
前記SAW共振素子は、前記電極指の厚さHが、前記SAW共振素子のSH弾性表面波の波長λと比較した膜厚比H/λが0.05以上0.06以下の範囲内、且つ前記電極指1つの有する反射係数rが0.06±0.02、且つ、前記主IDTおよび前記副IDTの前記電極指の対数(正負極性で1対とする)が、40対以上60対以下、前記ゲイトIDTの対数が20±4対、および前記反射器のアルミ電極導体の本数が70本以上80本以下、且つ、前記主IDTおよび前記副IDTの前記電極指周期長PTに対して、前記ゲイトIDTの前記電極指周期長PGの比をPG/PT=1.01±0.002の範囲内で形成されており、
前記主IDTと前記副IDTとの極性を前記スイッチ回路により同符号に接続して、縦対称S0モードである第1の振動状態で第1の発振周波数FS0を励振させ、
前記主IDTと前記副IDTの極性を前記スイッチ回路により逆符号に接続して、縦斜対称A0モードである第2の振動状態を励振して前記第1の発振周波数FS0と僅かに異なる第2の発振周波数FA0を発生させ、
前記副IDTの極性を前記スイッチ回路にて開放状態として、縦対称S0モードと縦斜対称A0モードとが合成された縦SA0モードである第3の振動状態で、前記第1の発振周波数FS0と前記第2の発振周波数FA0の中間周波数である第3の発振周波数FSA0を発生させていることを特徴とする縦型多重モードSAW共振子。
【請求項2】
前記SAW共振素子と、
トランジスタあるいはC−MOSにより形成された1個または2個の前記スイッチ回路を内蔵したIC素子と、
少なくとも前記SAW共振素子および前記IC素子が収納された収納容器とを有していることを特徴とする請求項1に記載の縦型多重モードSAW共振子。
【請求項3】
前記副IDTには、前記電極指の1対に対応して1対の浮き電極指が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の縦型多重モードSAW共振子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−141299(P2008−141299A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323118(P2006−323118)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】