説明

縦型電解めっき装置およびこれを用いためっき被膜付きプラスチックフィルムの製造方法

【課題】めっき槽の中でのウェブの遊動対策としてウェブの下側を把持する手段を有する、ウェブを幅方向に懸架して搬送する縦型めっき装置において、下側把持部がめっき槽から出る度に可動堰を開閉することによる液流の乱れによって生じるめっき膜の不均一さを防止する装置の提供。
【解決手段】めっき槽の中だけで回転するウェブの下側支持回転体23を設ける。これによりめっき槽の下側で大きく開閉する部分がなくなり、めっき液の液流の乱れがなくなって均一なめっき膜を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型電解めっき装置に関し、特に長尺ウェブの縦型電解めっき装置およびめっき被膜付きプラスチックフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、電子部品および半導体パッケージ等で利用される様になってきたフレキシブル回路用基板として、ポリイミドフィルムあるいはポリエステルフィルムのウェブと銅箔とを合わせた形態の配線基板が注目されている。この基板には、ウェブに接着剤を介して銅箔を貼り合わせた、通称”3層型”と呼ばれるものと、ウェブに接着剤を介さないで金属被膜をめっき等で形成する、通称”2層型”と呼ばれるフレキシブル回路用基板がある。これらのうち、後者の2層型の方が、回路の配線ピッチの微細化の進行に伴ってより注目されている。
【0003】
2層型フレキシブル回路用基板は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法あるいは各種イオンプレーティング法などのPVD法、金属を含む薬品を気化し蒸着させるいわゆるCVD法等で、まずウェブ表面に各種金属を蒸着した後に、または無電解めっき法で各種金属をめっきした後に、例えば特許文献1のようなウェブの連続電解めっき装置を用いて電解銅めっきする製造方法が一般的に用いられている。
【0004】
ところで近年、電子回路の高密度化に伴って回路パターンのファインピッチ化が進んできている。ファインピッチ化が進むと配線幅や線間幅が狭くなるため、基板に許容される欠点のサイズは小さく、数は少なくなってくる。すなわち極めて高品位の基板材料が求められてきている。
【0005】
特許文献1は、めっき対象ウェブの全幅に接触する給電ロールによって給電と搬送を行うタイプのめっき装置である。この装置を用いた場合、給電ロールとの接触により、微小なキズなどの欠点が極めて発生しやすい。
【0006】
これらの問題の解消を狙って、ウェブ上端部のみを給電電極にて把持し、給電しながら搬送するタイプのめっき装置も提案されているが、この方法では全幅に接触する給電ロールが不要であるためキズの抑制には有効であるものの、特にめっき対象ウェブが柔軟なプラスチックフィルムである場合などはめっき槽内で液流によってウェブが揺れ、槽壁等の構造物に接触してキズが発生したり、極間距離が変動することによる膜厚ムラなどの不具合を生じる。これを防ぐためにガイドを配しためっき装置が特許文献2に開示されているが、ガイドが接触する部分には接触に起因する微小キズや、めっき液中の異物等を巻き込んで生じるキズや打痕などの欠点の発生のおそれがある。
【0007】
特許文献3にはウェブの上下両端部をクリップでクランプして搬送するめっき装置が開示されており、この方法を用いればウェブの揺れやガイドとの接触によるキズ等の欠点は解消される。
【0008】
【特許文献1】特開2006−307338号公報
【特許文献2】特開2007−211294号公報
【特許文献3】特開2007−138279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウェブのめっきされた面を傷つけずに巻き取るには特許文献3のようにウェブの上下端部を固定して搬送させる方法は好ましい。しかし、特許文献3のようにウェブの下側端部をクランプするとクランパ自身がめっき槽に出入りしなければならない。
【0010】
縦型のめっき槽では、下側端部を把持しているクランパがめっき槽に出入りするためにはめっき槽の下側に可動堰を設けなければならない。つまり、クランパがめっき槽に出入りするたびに可動堰が開き、めっき液が大量に流出する。
【0011】
そのため、流出しためっき液を補充するための大容量の循環ポンプが必要になるという課題が生じる。また、めっき液の大量の流出はめっき槽内のめっき液の液流が乱れ、形成するめっき層に不均一箇所を発生させるという課題があった。
【0012】
また、ウェブをクランパで把持するとその時点でウェブにかかるテンションがカットされてしまい、ウェブにしわが発生しやすいという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために想到されたものである。すなわち、
本発明の好ましい形態によれば、
長尺ウェブの幅方向を略鉛直方向に向けて搬送しながら前記長尺ウェブ表面に電解めっき被膜を形成させるために用いられる縦型電解めっき装置であって、
前記該長尺ウェブ表面に接触する給電電極と、
前記該長尺ウェブ上端部を把持する上部把持手段と、
前記該長尺ウェブ下端部を把持する下部支持回転体と、
前記ウェブを搬送するウェブ搬送手段と、
めっき槽と、
前記めっき槽内に設置された陽極とを有する縦型電解めっき装置を提供する。
【0014】
また、そのような縦型電解めっき装置を用いて電解めっき加工を行うことを特徴とするめっき被膜付きプラスチックフィルムの製造方法を提供する。
【0015】
なお、本発明において「ウェブ」とは、紙、不織布、プラスチックフィルム等で少なくともそれらの片面に導電性薄膜を有するもの、あるいは、金属箔等のようなものであって、幅に対して厚さが充分薄く、長さが充分長いものをいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明の縦型めっき装置によれば、ウェブの下端部を表裏からニップする少なくとも一対の回転体を有するので、下端部を把持したままウェブをめっき槽内で搬送させることができ、なお且つ回転体がめっき槽に出入りすることがないので、めっき液が大量に流出することがないという効果を得ることができる。すなわち、大容量の循環ポンプが不要であり、めっき液の液流が乱れることがないので安定した品質のめっき層を得ることができる。
【0017】
また、本発明の縦型めっき装置の好ましい形態によれば、ウェブをニップする回転体の駆動系がウェブの搬送系の駆動系とは独立しているため、めっき槽内でウェブにテンションをかけ続けることができる。すなわち、ウェブにしわが発生しにくいという効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施形態の例をプラスチックフィルムの電解銅めっき装置に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本実施形態のプラスチックフィルムの電解銅めっき装置(以後、「めっき装置」とも言う。)10の概念図である。めっき装置10は、前処理部13、めっき部17、後処理部15、フィルム搬送部16を含む。また、巻き出し装置18と巻取り装置19を含んでいても良い。
【0020】
巻き出し装置18は、プラスチックフィルム111の片面または両面に導電性薄膜112をあらかじめ付与した導電性薄膜付きプラスチックフィルム11(以後単に「プラスチックフィルム11」又は「ウェブ11」とも呼ぶ。)が巻かれた原反ロール12から導電性薄膜付きプラスチックフィルム11を巻き出してめっき部17に供給する。図1では原反ロール12の軸を巻き出し装置18としたが、ここに駆動用モータがあったり、原反ロール12の次段に巻き出し用のニップロールを配置した構成としてもよい。
【0021】
巻取り装置19は、前処理、めっき処理、後処理が施されたプラスチックフィルム11を巻き取る。
【0022】
プラスチックフィルム111には、ポリエチレン、ナイロン、ポリイミドなどの樹脂材料が好適に用いられ、特にフレキシブル回路基板用途としては、後工程での半田付け時の耐熱性の観点からポリイミドフィルムが好適に用いられる。導電性薄膜112としては、銅、ニッケル、クロム等の導電性の良い金属やそれらの合金が好適に用いられ、スパッタ法やCVD法、蒸着法などのドライコーティング法や無電解めっき法などの手法で成膜されるのが一般的である。
【0023】
巻き出し装置18から巻き出されたプラスチックフィルム11は、めっき装置10に供給される。めっき装置10は、供給されたプラスチックフィルム11を搬送するフィルム搬送部16と、めっき前のフィルムの洗浄などを行う前処理部13と、めっきが終わったフィルムを洗浄したり乾燥させたりする後処理部15と、プラスチックフィルム11に電解めっき膜を成膜するめっき部17とからなる。
【0024】
フィルム搬送部16はプラスチックフィルム11に張力を付与したり搬送速度を決定したりする部分で、駆動ローラにフィルムを大きく抱きつかせるように構成されたものや、駆動ロールとニップローラとの間にフィルムを挟みこんで搬送するように構成されたものや、フィルム両端部をペンチのようなもので把持してこれを駆動させて搬送するように構成されたものが好適に用いられる。図1では、駆動装置50で駆動される駆動ローラ56とニップローラ57の間にウェブ11を挟みこんで搬送する例を示した。
【0025】
このようなフィルム搬送部16はめっき装置に1箇所あれば良いが、めっき中のフィルム張力制御を高い精度で行うために、めっき装置10の入り口と出口にそれぞれ1箇所ずつ設けるのが好ましい。またフィルムへのスリキズなどの品質欠点を抑制するために、最低限フィルム上側端部のみ、好ましくはフィルム上下両端部のみをニップするニップローラで搬送させるように構成するのがより好ましい。この場合、フィルム端部からフィルム全幅の0.1〜10%までの幅で接触させるのが好ましく、出来る限り接触幅を小さくするのがより好ましい。
【0026】
図2は図1のめっき部17を横(図1の符号100方向)から見た概念図である。めっき部17にはめっき液21と陽極141とが収容されためっき槽14を有する。陰極22と電気的に接続されたプラスチックフィルム11は、めっき液21に浸漬させられた状態で搬送され、通電することにより電解めっき処理を施される。
【0027】
陽極141には、純銅や銅合金を用いた溶解性陽極や、チタンやイリジウムなどの導電性が良くかつ耐食性の高い材料やそれらの材料へ白金などの貴金属めっきを施して構成された不溶解性陽極が好適に用いられる。不溶解性陽極は、銅イオン生成時にアノードスラッジ等の不純物がほとんど発生しないため、めっき膜の品質を飛躍的に向上させることが出来るため、特に好ましい。
【0028】
めっき液21を攪拌するため、めっき槽14内のめっき液21を循環させるのが好ましい。これには、めっき液21を別に設けた図示しない貯槽からめっき槽14へポンプアップし、溢れた液を貯槽に戻す循環系が好適に用いられる。このときポンプアップした液をプラスチックフィルム11に直接当たるように噴射すればより好ましい。プラスチックフィルム11表面の液循環が極めて良くなり、厚い電気二重層や銅イオン不足といっためっきの析出を抑制する要因が排除でき、高速めっきが可能となるからである。
【0029】
めっき槽14内においてプラスチックフィルム11は液流による揺れが生じやすい状況となっている。液流によってプラスチックフィルム11が揺れてしまうと、槽内構造物等に接触してキズ等の品質欠点を生じたり、陽極141との極間距離が変化することに伴って膜厚分布にムラを生じたりする。そのためプラスチックフィルム11を支えることが必要となる。
【0030】
そこで本実施形態においてはプラスチックフィルム11上端部を上部把持手段で把持すると共に、プラスチックフィルム11の下端部を下側支持回転体によって把持する構造としている。上部把持手段24の好適な具体例はクリップであり、また下側支持回転体23の好適な具体例はニップローラである。
【0031】
プラスチックフィルム11の上下両端部をクリップで把持する方法もあるが、この方法では液圧の高いめっき槽14下側にクリップを通すための大きな開口部(例えば可動堰)を必要とするため、めっき液21の漏出量が極めて大きくなる。これはめっき液21の循環量が大きくなりすぎるため循環系の容量をアップさせる必要があったり、めっき槽14出入り口の液流が乱れたりするなど、めっき膜生成にとっては好ましくない。この課題を解消するため、本実施形態では特にめっき槽14下側で槽内外に出入りする必要のないニップローラ等の下側支持回転体23で支持するようにしたのである。
【0032】
従って、ニップローラでなくても、槽内もしくは槽内および槽外でのみ循環するクリップで下側を把持する方法や、同じく槽内もしくは槽内および槽外でのみ回転するベルトで下側を把持する構造を用いても良い。
【0033】
図3は下側支持回転体23をニップローラで構成した場合の例を示す。図3はめっき槽14を上から見た図である。ここで上からとは図1の符号101の方向からを意味する。また図3においては上部把持手段24は省略した。めっき槽14にはプラスチックフィルム11が図面左から右方向へ搬送されている。ニップローラ204および203はそのプラスチックフィルムを挟み込む。このようにニップローラがプラスチックフィルムを狭持するためプラスチックフィルム11はめっき槽14内で遊動することなく搬送されながらめっき処理が施される。
【0034】
また、ニップローラはめっき槽14内だけで回転するため、プラスチックフィルム11の搬送に伴って、めっき槽14の下側に可動堰などの開口部を設ける必要がない。すなわち、めっき液が周期的に大量に流出することがない。なお、陽極141は、導電性膜112と面する側に配置してあるが、この位置に限定されるものではない。
【0035】
図4には、めっき槽内のみで回転するベルトでフィルムの下側を把持する場合を示す。ベルト205の内側にはローラ201a乃至201cが三角形の位置に配置されている。同様にベルト206の内側にはローラ202a乃至202cが三角形の位置に配置されている。そしてベルト205および206でプラスチックフィルム11を表と裏から狭持する。この場合も図3同様、プラスチックフィルム11の搬送に伴って、めっき槽14の下側を開く必要がない。
【0036】
いずれの方法でも、プラスチックフィルム11の下側支持回転体23には駆動系を設けず、プラスチックフィルム11に従動回転させるように構成することで、駆動系の精密制御の必要性がなくなり、また駆動のための付帯設備が不要となるので装置コストが削減でき好ましい。
【0037】
しかし下側支持回転体23のメカロスが大きい場合には、専用の駆動系を設けて積極駆動してもよい。この場合、プラスチックフィルム11の搬送速度に下側支持回転体23の速度を同期させるように制御することにより、搬送シワの発生が防止できるのでより好ましい。
【0038】
同期制御の方法としては、実際のプラスチックフィルム搬送速度をモニタリングして、これにあわせるように下側支持回転体23の回転速度を制御する方法や、回転トルクを一定に制御して速度はプラスチックフィルム11にならうように制御する方法が好適に用いられる。
【0039】
下側支持回転体23のメカロス分程度の回転トルクを与えるようにトルク制御してプラスチックフィルム11の搬送速度にならわせる方法を採用することにより、プラスチックフィルム11の搬送への影響を極小化できるのでより好ましい。
【0040】
図1を再度参照して、図1のめっき部17Bにはフィルム搬送部16の駆動装置50からの同期信号Sbsyが下側支持回転体23の駆動装置52に送られている状態を示す。駆動装置52は、フィルム搬送部16の同期信号に従って下側支持回転体を回転させる。
【0041】
駆動装置52は1つのめっき槽内の下側支持回転体の全てに備え付けられていても良いし、一部でもよい。例えば図4の回転ベルトの場合であれば、201cと202cのロールに駆動装置52が備えてあれば好適にプラスチックフィルムを保持搬送させることができる。なお、めっき部17Aは下側支持回転体に駆動装置が設置されていない場合を示している。
【0042】
また下側支持回転体23がプラスチックフィルム導電面112と接触する部分を導体とし、めっき用電源と電気的に接続することで下側支持回転体23からの給電が可能なように構成することでプラスチックフィルム11の幅方向の電位分布がより均一化され、膜厚分布の均一化を図ることができるため好ましい。
【0043】
なお、この場合は下側支持回転体23周辺をしっかり電界遮蔽できるように、図示しない遮蔽板等を設置すれば、めっき金属が導体部へ析出するのを抑制できるので好ましい。まためっき金属の導体部への析出を完全に防ぐのは困難なため、下側支持回転体23に析出した金属の厚みが厚くなるにつれて徐々に離間方向に移動できるような構成として、下側支持回転体23を定期的に交換するか、析出金属を剥離するための定期的にメンテナンスするのが好ましい。
【0044】
図5に下側支持回転体23が移動できる構成の一例を示す。めっき槽14にはめっき液21が充填されており、陽極141が設置されている。下側支持回転体23には給電ローラ214とニップローラ203で構成される。給電ローラはめっき電源60の陰極と陰極端子61を介して接続されており、また陽極141はめっき電源60の陽極と陽極端子62を介して接続されている。
【0045】
ニップローラはウェブ11の厚み方向に可動できるように例えば溝構造でめっき槽の底に設置されている。そしてめっき槽との壁との間にばね231が配設されていて、常にニップローラ203を給電ローラ214に押し付ける。
【0046】
このようにニップローラ203が給電ローラ214に移動可能に押し付けられることで、給電ローラ214の表面に金属が析出してもウェブ11を所定圧力で把持することができる。
【0047】
なお、上部把持手段24は下側支持体23と同じ構造を有していても良く、図5に一例を示した。下側支持回転体と同様に給電ロール224とニップロール203からなり、ニップロール203は、ばね231で給電ロールに移動可能に押し付けられる。また、給電ロールは陰極端子63を介してめっき電源60の陰極に接続される。
【0048】
図1を再度参照して、下側支持回転体23を電極とする場合は、めっき電極60の陰極に下側回転体23を給電端子61を介して接続する。めっき電極60の陽極側は陽極電極141へ給電端子62を介して接続させる。
【0049】
また下側支持回転体23の回転中心軸は、プラスチックフィルム11の搬送方向に対して90度の向きに設定するのが好適である。プラスチックフィルム11にシワが発生したりしてプラスチックフィルム11の幅方向に若干の張力を付与したい場合は、下側支持回転体23の回転中心軸をプラスチックフィルム11の搬送方向に対して、フィルム搬送方向を0度として45度以上90度未満の角度に設定するのがより好ましい。
【0050】
図10に好適な角度の概念図を示す。下側回転体の回転軸230は、フィルム11の搬送方向120から45度以上90度未満の角度に設定する。
【0051】
また下側支持回転体23のプラスチックフィルム11への接触幅は、フィルム端部から5〜10%までの幅で接触させるのが好ましく、出来る限り接触幅を小さくするのがより好ましい。
【0052】
次に上部把持手段について説明する。上部把持手段24としては、クリップが好適に用いられるほか、前記に説明した下側支持回転体23と同様のローラ(図5で示した例)やベルト構造を用いることも出来る。いずれの上部把持手段24の構造であっても、プラスチックフィルム11への接触幅は、フィルム端部から5〜10%までの幅で接触させるのが好ましく、出来る限り接触幅を小さくするのがより好ましい。
【0053】
いずれの上部把持手段24においても、専用の駆動系を設けず、プラスチックフィルム11に従動させるように構成することで、駆動系の精密制御の必要性がなくなり、また駆動のための付帯設備が不要となるので装置コストが削減でき好ましい。
【0054】
図6にその構造の一例を示す。図6(a)を参照して、上部把持手段24はブラケット29を介して車輪28に固定されている。車輪28はレール27上を移動可能に設置してある。図6(b)を参照して、このレールはめっき槽14の外側に環状に配設されてある。上部把持手段24はこのレール上に隙間なく配置される。
【0055】
この上部把持手段24はめっき槽14の直前30でクリップが閉じてフィルム11を把持する。図6(a)はフィルム11を把持した状態を示す。上部把持手段24自体は駆動系を持たないが、把持したフィルムに従って移動する。この移動によってレール上で前にいる上部把持手段24を押し出すことになり、全体の上部把持手段が移動する。
【0056】
なお、フィルムに従って移動する上部把持手段24が、レール上で前にいる上部把持手段24を押し出す構成となっていれば良いので、上部把持手段24をレール上に隙間無く配置せずとも、例えば上部把持手段24から前方にロッドを伸ばしてこのロッドが前方の上部把持手段24を押し出すように構成することもできる。
【0057】
しかし上部把持手段24のメカロスが大きい場合には、専用の独立した駆動系を設けて積極駆動してもよい。この場合、プラスチックフィルム11の搬送速度に上部把持手段24の速度を同期させるように制御することにより、搬送シワの発生が防止できるのでより好ましい。
【0058】
図1を再度参照して図1のめっき部17Bにはフィルム搬送部16の駆動装置50からの同期信号Susyが上部把持手段24の駆動装置51に送られている状態を示す。駆動装置51は、フィルム搬送部16の同期信号に従って上部把持手段24を移動させる。上部把持手段を駆動させるシステムは上部把持手段駆動システムと呼んでもよい。
【0059】
上部把持手段駆動システムは、把持したフィルムをフィルム搬送部16と全く同じ速度で搬送してもよいし、フィルムを把持した後にフィルムを開放するまでは駆動解除してもよい。フィルムを把持している間、上部把持手段駆動システムの駆動を解除してもよいのは、本実施形態のメッキ装置ではプラスチックフィルムはフィルム搬送部16によってテンションがかけられているのでフィルムを把持した上部把持手段をフィルムで引っ張ることもできるからである。なお、上部把持手段駆動システムを有する場合であって、上部把持手段がフィルムを把持していない場合は、上部把持手段をフィルム搬送部16とは全く関係なく独立に駆動してもよい。
【0060】
同期制御の方法としては、実際のプラスチックフィルム搬送速度をモニタリングして、これにあわせるように上部把持手段24の速度を制御する方法や、回転トルクを一定に制御して速度はプラスチックフィルム11にならうように制御する方法が好適に用いられる。上部把持手段24のメカロス分程度の回転トルクを与えるようにトルク制御してプラスチックフィルム11の搬送速度にならわせる方法を採用することにより、プラスチックフィルム11の搬送への影響を極小化できるのでより好ましい。
【0061】
上部把持手段24は給電電極を兼ねていても良い。上部把持手段24のプラスチックフィルム導電面112に接触する部分に給電電極を設けることにより、上部把持手段24による把持力がそのまま電極表面とフィルム導電面との接触圧となり、しっかり密着させることができるので好ましい。
【0062】
このような上部把持手段24の具体例を図7に示す。図7(a)を参照して、クリップ状の上部把持手段24は、受け側部材311と可動部材312と、これら2つの部材を可動可能に連結するヒンジピン313を含む。また、プラスチックフィルム11の導電性薄膜112側には給電電極314が配設されていてもよい。
【0063】
クリップ状の上部把持手段24は、受け側部材311と可動部材312によってプラスチックフィルム11を把持する。この上部把持手段24は、図1の回転ベルト26に複数個とりつけられ、プラスチックフィルム11を把持したまま、めっき槽14内を移動する。めっき槽14から出た後は図7(b)のように可動部材を開き、プラスチックフィルム11を開放する。
【0064】
給電電極を可動部材に配設した場合は、上部把持手段24全体が陰極となりめっき液からの金属析出の対象となる。従って給電電極314以外の部分は絶縁体でカバーするなどの処理をするのが好適である。具体的には、上部把持手段24の給電電極314以外は樹脂などの絶縁体を塗布し、表面に絶縁膜を形成するなどである。
【0065】
この上部把持手段24は、めっき装置側に設置された環状軌道上に複数個配設されてよい。また、環状軌道はめっき装置に複数個設置されていてもよい。なお1つの環状軌道上に配設された複数個の上部把持手段を上部把持手段群と呼んでもよい。
【0066】
図7の例では、可動部材に給電電極を配設した状態を示したが、上部把持手段24と給電電極とを別々に設けても良い。この場合の給電電極としては、ニップローラを給電電極とした構造や、給電電極を設けたクリップで把持する構造や、エンドレスベルト状の給電電極をプラスチックフィルム導電面112に密着させる構造や、板状電極をプラスチックフィルム導電面112に摺動接触させる構造を好適に用いることが出来る。
【0067】
いずれの給電電極構造においても、給電電極のプラスチックフィルム導電面112との接触幅は、フィルム端部から0.1〜10%までの幅で接触させるのが好ましく、0.3〜2%幅で接触させるのが接触抵抗低減の観点からより好ましく、0.3〜2%幅で接触させるのが接触抵抗低減と接触キズ防止の観点から特に好ましい。
【0068】
給電電極はめっき液21と直接接触しないように配置するのが好ましい。給電電極もめっきされてしまうからである。給電電極がプラスチックフィルム11と一緒にめっき液21に浸漬される場合は、給電電極のフィルム導電面112との接触面を除いて樹脂やゴムなどの絶縁体で被覆するのが好ましい。
【0069】
給電電極が、プラスチックフィルム11と一緒にめっき液21に浸漬されない場合は、給電電極をめっき槽14の外側に配置するのが好ましい。さらに好ましくはめっき槽14内で局所的に液面を下げてフィルム導電面112を露出させ、そこに接触するように構成するのが良い。
【0070】
給電電極は、めっき用電源と電気的に接続されている必要がある。給電電極が回転体である場合、例えばスリップリングのような回転自在な電気コネクタを介して通電するのが好適である。
【0071】
給電電極がプラスチックフィルムと一緒に移動する構造の場合、給電電極と電気的に接続され、かつ給電電極と一緒に移動する受電端子を設け、その受電端子を介して通電する方法が好適に用いられる。
【0072】
図8には具体例を示す。めっき槽14にはめっき液21が満たされ、陽極141が配設されている。プラスチックフィルム11は上部把持手段24によって上端部を保持され、下側支持回転体23によって下端部を保持され、めっき槽14内を搬送される。ここで給電電極314は、上部把持手段24の可動部材313に配設され、プラスチックフィルム11の導電性薄膜112に接触する。
【0073】
この給電電極314はケーブル404を介して受電端子402に接続される。受電端子402は上部把持手段24の移動ルートに沿って配設された陰極バー401と常に接触し給電電極に給電する。
【0074】
装置側に固定され、めっき用電源と電気的に接続された陰極バー401上に受電端子が接触し、摺動しながら通電する方法は、装置構成が簡素化できるので好ましい。この場合、陰極バー401はめっき槽の直上以外の部分に配設することにより、摺動による摩耗粉等の塵埃をめっき槽内に持ち込むことが少ないのでより好ましい。
【0075】
さらに好ましくは、装置側に固定され、スリップリングのような回転自在な電気コネクタを介してめっき用電源と接続され、その場で回転する陰極回転体を配設し、受電端子が陰極回転体に転がり接触しながら通電するように構成することにより、摩耗粉が発生することなく通電できる。この場合の陰極回転体としては、ローラ状のものやエンドレスベルト状のものを好適に用いることが出来る。
【0076】
図9に具体例を示す。陽極141が配設され、めっき液21で満たされためっき槽14中をプラスチックフィルム11が搬送される点は図8と同じである。上部把持手段24の可動部材312に配設された給電電極314は、装置側に固定された陰極回転体411と転がり接触しながら通電を受ける。陰極回転体は装置側のめっき用電源とロータリーコネクタ413で接続され、ベアリング412によって回転可能に設置される。上部把持手段24は図示しない保持手段によってめっき槽14の上方を移動する。
【0077】
以上説明したようなめっき装置は、柔軟なウェブであるプラスチックフィルムの電解めっきに用いるのが好ましく、特に厳しい表面品位を要求されるフレキシブル回路基板用途の銅つきフィルムの製造に用いるのが特に好ましい。
【0078】
プラスチックフィルム11の搬送と、上部把持手段24あるいは下側支持回転体23の駆動とを分離し、それぞれ専用の駆動制御を行うのが好ましい。金属めっき膜付きフィルムはその構造上、内部応力を持ちやすい。これは金属膜自体の内部応力もさることながら、めっきされる際のフィルム張力が残留することも大きな原因の一つである。
【0079】
内部応力があると、めっき膜をパターン加工した際に応力緩和が生じるため基板にひずみが生じるが、これを一定値以下に収めるのが好ましい。そこで内部応力を制御する必要性が生じ、そのためにはプラスチックフィルムにかける張力を高精度にコントロールしたいのである。
【0080】
ここでプラスチックフィルム11の搬送と上部把持手段24あるいは下側支持回転体23の駆動とが同一の制御下にあった場合、フィルム張力だけを変更したいときにほかの搬送系にまでその影響が及んでしまうため最適化が極めて困難になる。
【0081】
一方でそれぞれの制御が独立していれば、それぞれに最適な制御が可能となり、最適化は極めて容易になるのである。複数のめっき槽14を有するめっき装置17の場合、各々のめっき槽1個につき1系統の上部把持手段24あるいは下側支持回転体23の駆動系を備えることにより、より高精度の最適制御が可能となるため、より好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、縦型電解銅めっき装置に好適に利用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】プラスチックフィルムの電解銅めっき装置の概念図である。
【図2】図1のめっき槽14を横から見た概念図である。
【図3】めっき槽を上から見た図である。
【図4】めっき槽を上から見た図である。
【図5】ニップ厚が変る下側支持回転体の一例を示す図である。
【図6】駆動手段を持たない上部把持手段の具体例を示す図である。
【図7】上部把持手段の一例を示す図である。
【図8】上部把持手段に給電する具体例を示す図である。
【図9】上部把持手段に給電する具体例を示す図である。
【図10】下側支持回転体の回転軸とウェブとの間の好ましい角度を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
11 導電性薄膜つきプラスチックフィルム
111 プラスチックフィルム
112 導電性薄膜
12 原反ロール
13 前処理部
14 めっき槽
141 陽極
15 後処理部
16 フィルム搬送部
17 めっき装置
18 巻き出し装置
19 巻き取り装置
21 めっき液
22 陰極
23 下側支持回転体
24 上部把持手段
26 回転ベルト
311 受け側部材
312 可動部材
313 ヒンジピン
314 給電電極




【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺ウェブの幅方向を略鉛直方向に向けて搬送しながら前記長尺ウェブ表面に電解めっき被膜を形成させるために用いられる縦型電解めっき装置であって、
前記該長尺ウェブ表面に接触する給電電極と、
前記該長尺ウェブ上端部を把持する上部把持手段と、
前記該長尺ウェブ下端部を把持する下部支持回転体と、
前記ウェブを搬送するウェブ搬送手段と、
めっき槽と、
前記めっき槽内に設置された陽極とを有する縦型電解めっき装置。
【請求項2】
前記上部把持手段を駆動する上部把持手段駆動システムをさらに有し、
前記上部把持手段駆動システムと
前記長尺ウェブを搬送するウェブ搬送手段の駆動とが互いに独立している請求項1に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項3】
前記上部把持手段の搬送速度は、前記ウェブ搬送手段によって決定される前記長尺ウェブの搬送速度と同期する請求項2に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項4】
1つの環状軌道上に複数の前記上部把持手段を配設した上部把持手段群を複数有し、それぞれ独立した前記駆動システムを有してなることを特徴とする請求項3に記載の縦型電解めっき装置。
【請求項5】
前記上部把持手段が前記長尺ウェブを把持している間は、前記上部把持手段駆動システムによらず前記長尺ウェブに従動して搬送されるように構成されたことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の縦型電解めっき装置。
【請求項6】
前記上部把持手段は、固有の駆動システムを備えず、前記長尺ウェブに従動して搬送されるものであることを特徴とする請求項1に記載の縦型電解めっき装置。
【請求項7】
前記ウェブ搬送手段は、
少なくとも前記長尺ウェブ上端部をニップする少なくとも一対のニップローラーと、
前記ニップローラーの少なくとも片側を駆動するための駆動源とを含む請求項1〜6のいずれかの請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項8】
前記給電電極がめっき液と接触するめっき液接液部のうち、前記長尺ウェブ表面と接触する面以外は、表面に絶縁体を有する請求項1乃至7のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項9】
前記上部把持手段は、前記給電電極を含み、
前記給電電極を含む部材を開閉することにより前記長尺ウェブ上端を表裏から挟んで把持する機構を有し、
前記上部把持手段の開閉は前記めっき槽の外で行われるよう構成されたものである請求項1乃至8のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項10】
前記給電電極は、前記長尺ウェブの上端部または/および下端部をニップするニップローラであって、該ニップローラのうち前記長尺ウェブのめっき形成面と接するローラに給電する給電端子を有する請求項1乃至9のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項11】
前記給電電極への通電は、給電電極と電気的に接続された受電端子を前記めっき槽の直上から外れた位置に配設された陰極バーに接触させることにより行い、前記上部把持手段の移動に伴って前記受電端子が前記陰極バーと摺動するように構成されたことを特徴とする請求項9に記載の縦型電解めっき装置。
【請求項12】
前記給電電極への通電は、給電電極と電気的に接続された受電端子に転がり接触するように配設された陰極回転体により行う請求項1乃至9のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項13】
前記下側支持回転体は、前記めっき槽の内部に設けられ、前記長尺ウェブの下端部をニップするように配設された少なくとも一対の回転体である請求項1乃至12のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項14】
前記下側支持回転体は、固有の駆動システムを備えず、前記長尺ウェブに従動回転するものである請求項13に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項15】
前記下側支持回転体は前記長尺ウェブの搬送速度に同期して回転させる下側支持回転体駆動系を有することを特徴とする請求項13に記載の縦型電解めっき装置。
【請求項16】
前記下側支持回転体の回転中心軸と前記長尺ウェブの搬送方向とが前記長尺ウェブとの平行平面内でなす角度を45°〜90°の範囲内である請求項13乃至15のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項17】
前記下側支持回転体に給電する給電端子を有する請求項1乃至16のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれか1の請求項に記載された縦型電解めっき装置を用いて電解めっき加工を行うことを特徴とするめっき被膜付きプラスチックフィルムの製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−242838(P2009−242838A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88895(P2008−88895)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】