説明

繊維強化屋根材の重ね葺き構造

【課題】外力による変形、損傷を防止でき、雨音を気にならない程度に小音化でき、かつ、夏場の室温の上昇を低減できる、繊維強化屋根材の重ね葺き構造を提供する。
【解決手段】既設の繊維強化屋根材2の上に、葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材1を重ね葺きする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の繊維強化屋根材の上へ葺き替え用の屋根材を葺いてなる、繊維強化屋根材の重ね葺き構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、既設の屋根材を取り外すことなく覆うように重ね葺きできる屋根材として、既設のスレート屋根材に対して隙間なく葺設できる重ね葺き用の金属製屋根材が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この種の金属製屋根材は、ガルバリウム鋼板、ステンレス鋼板等、種々の鋼板で製されており、既設の屋根材を隙間なく覆うように葺設できるように、その形状は既設の屋根材の上面形状に合致した形状となっている。このように、隙間なく既設の屋根材を隙間なく覆う構成であるため、凹みの防止や雨音の小音化を図ることができる。
【0004】
この種の重ね葺き用の屋根材は、スレート屋根材に限らず、種々の強化用繊維を含有して強化した繊維強化屋根材(例えば特許文献2参照)に対しても使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−139888号公報
【特許文献2】特開2009−84969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記重ね葺き用の屋根材が薄板状の金属板で製されているため、金属の高い熱伝導率により夏場の温度上昇を抑えることはできず、しかも既設の屋根材に密接して取り付けられているため、屋根の温度が室内に伝わりやすく、室温も高くなる。
【0007】
また、既設の屋根材に隙間なく取り付けることにより雨音のある程度の小音化は期待できるが、金属製であるがゆえの鳴り響くような雨音(金属音)の発生を抑えることはできない。さらにまた、既設の屋根材に隙間なく取り付けることで、重ね葺き用の屋根材の変形もある程度防止することはできるが、薄板状の金属板であるがゆえの外力による変形や損傷を確実に回避することはできない。したがって、既設の屋根材が繊維強化屋根材である場合は、金属製の屋根材を重ね葺きすることで葺き替え前よりも表面の強度が低下してしまう。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、外力による変形、損傷を防止でき、雨音を気にならない程度に小音化でき、かつ、夏場の室温の上昇を低減できる、繊維強化屋根材の重ね葺き構造を提供することにある。
【0009】
また、既設の繊維強化屋根材に対して、重ね葺き後に表面の質感が変化しないようにすることを、本発明のさらなる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の繊維強化屋根材の重ね葺き構造は、既設の繊維強化屋根材の上に、葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材を重ね葺きすることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の繊維強化屋根材の重ね葺き構造は、既設の繊維強化屋根材が、葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材と同一素材よりなることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の繊維強化屋根材の重ね葺き構造は、既設の繊維強化屋根材が、繊維強化セメント系屋根材よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の繊維強化屋根材の重ね葺き構造によれば、重ね葺きする屋根材が繊維強化樹脂系屋根材で構成されているため、屋根表面を葺き替え前と同等の強度に維持することができ、外力により変形、損傷することを防止できる。
【0014】
また、繊維強化樹脂系屋根材の素材が有する特性により、夏場の温度上昇を抑えることができ、雨音の小音化を図ることもできる。
【0015】
請求項2に記載の繊維強化屋根材の重ね葺き構造によれば、既設の繊維強化屋根材と、葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材とが同一素材で形成されているため、質感を変えることなく葺き替えすることができる。
【0016】
請求項3に記載の繊維強化屋根材の重ね葺き構造によれば、既設の繊維強化屋根材が繊維強化セメント系屋根材よりなるため、この屋根材を繊維強化樹脂系屋根材に含まれる強化用繊維と同種のものを含んで構成すれば、葺き替え前後で質感を異ならせないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の繊維強化屋根材の重ね葺き構造に用いられる繊維強化樹脂系屋根材の斜視図である。
【図2】繊維強化樹脂系屋根材の平面図である。
【図3】繊維強化樹脂系屋根材の拡大正面図である。
【図4】図1におけるA−A線拡大縦断面図である。
【図5】本発明の繊維強化屋根材の重ね葺き構造を示す縦断面図である。
【図6】(a)は図5におけるB1部の拡大縦断面図、(b)は同B2部の拡大縦断面図である。
【図7】図5におけるC−C線縦断面図である。
【図8】繊維強化樹脂系屋根材の葺き替え手順を示す縦断面図である。
【図9】(a)は繊維強化樹脂系屋根材を横方向に並べて葺き替えする状態を示す平面図、(b)は(a)におけるD部の拡大図である。
【図10】図9(a)のD部の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の繊維強化屋根材の重ね葺き構造の実施の形態について説明する。
【0019】
以下に示す繊維強化屋根材の重ね葺き構造は、既設の繊維強化屋根材の上に葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材を重ね葺きすることを特徴とするものである。
【0020】
まず、葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材および既設の繊維強化屋根材の素材について説明する。
【0021】
葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材としては、ガラス繊維、岩綿繊維等の無機質繊維や、ビニロン繊維、飽和ポリエステル繊維等の有機質繊維等の強化用繊維と、不飽和ポリエステル樹脂等の合成樹脂とよりなる成形材料を成形してなる屋根材を用いることができる。
【0022】
また、既設の繊維強化屋根材としては、重ね葺きに使用される繊維強化樹脂系屋根材と同一素材よりなる繊維強化樹脂系屋根材、類似素材よりなる繊維強化樹脂系屋根材、または、ガラス繊維、岩綿繊維等の無機質繊維や、ビニロン繊維、飽和ポリエステル繊維等の有機質繊維等の強化用繊維と、セメントを主成分とし、必要に応じて、シリカ、アルミナ等の添加剤を添加してなるセメント系材料とよりなる成形材料を成形してなる繊維強化セメント系屋根材等を使用できる。
【0023】
ついで、葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材(以下、葺き替え屋根材という)、既設の繊維強化屋根材(以下、既設屋根材という)の形状、および本発明の繊維強化屋根材の重ね葺き構造、ならびに重ね葺き手順等について、図1〜図10を参照しながら説明する。
【0024】
まず、図1〜図3を参照して、葺き替え屋根材1の形状を説明する。
本実施形態では、葺き替え屋根材1は、図1に示すように、2点鎖線で示した既設屋根材2の上面にカバー状に重ね葺きされるものであって、既設屋根材2の波形状に対応して本体部10は同一の波形状をなしており、この本体部10の前端部に垂下片11が形成され、後端部に立上片12が形成されている。
【0025】
葺き替え屋根材1の本体部10は板材を波形状に加工して形成され、本体部10の前後それぞれには、5〜10mmの折り返し加工が施されて垂下片11と立上片12とが形成されている。
【0026】
この葺き替え屋根材1は、その板厚が成形加工性や切断性を損なうものでなければ特に限定されないが、厚み0.5〜3mmのものが好適に使用できる。
【0027】
また、葺き替え屋根材1の前後方向の長さL(図1、図5参照)は、既設屋根材2の1段分に対応した長さとなっており、一方、横方向については、少なくとも山から山までの長さ(ピッチ)が既設屋根材2の寸法に合致していれば、波の数(横方向の寸法)は限定されない。本実施形態の葺き替え屋根材1には、図1に示すように4つの波が形成してある。
【0028】
なお、既設屋根材2としては1枚の瓦に対応した形状のものや、複数の瓦体を例えば1段複数列、複数段複数列等に連ねたものに対応した形状のものが挙げられるが、葺き替え屋根材1は、それらの既設屋根材2が葺かれた状態の、つまり既設屋根材2の重ね代を除く露出部分の寸法に対応して形成されていることはいうまでもない。
【0029】
また、図2に示すように、葺き替え屋根材1の本体部10の左端部が重ね部14、右端部が被重ね部13となっており、被重ね部13に、横方向(図2中右側)に隣接する葺き替え屋根材1の重ね部14を重ねて葺く構成となっている。本体部10の被重ね部13における両角部13a、13aは安全のためアール加工がなされているが、この角部13aのアール部分は隣接する葺き替え屋根材1の重ね部14によって覆い隠されるので、外観上の問題はない。
【0030】
また、重ね部14の後端部では立上片12が切り欠かれて切欠き部16が形成されているとともに、被重ね部13の前端部では垂下片11が切り欠かれて切欠き部15が形成されている。
【0031】
このような葺き替え屋根材1を用いて既設屋根材2に対し重ね葺きする手順について、図4〜図10にもとづいて説明する。
【0032】
まず、葺き替え対象の既設屋根材2の最下段の既設屋根材2(図5の例では軒瓦5に隣接する既設屋根材2)において、その既設屋根材2の上面を覆い隠すようにして葺き替え屋根材1を既設屋根材2の上面にほぼ密着した状態に載置し、葺き替え屋根材1の前端部の垂下片11を既設屋根材2の軒側端縁21に係止し、後端部の立上片12を上段(後方)側に配された既設屋根材2の軒側端縁21に当接あるいは近接させておき、この状態で固定具3(屋根材用ビス)を用いて、葺き替え屋根材1と、軒瓦5とを野地板等の屋根下地4に固着する。この作業を横方向に連設されている既設屋根材2の上にも順次行う。
【0033】
最下段の既設屋根材2に対する葺き替え屋根材1の重ね葺きが終了した後に、その上段の既設屋根材2の軒側端縁21に当接している、最下段の既設屋根材2に重ね葺きした葺き替え屋根材1の立上片12に、上段側の既設屋根材2に載置する葺き替え屋根材1の垂下片11を重ね係止した状態で、その葺き替え屋根材1を既設屋根材2の上面に載置固定する。この作業も横方向に連設されている既設屋根材2の上にも順次行う。
【0034】
このようして、上段へ1段ずつ葺き替えが必要な段まで葺き替え作業を行う。
【0035】
図9(a)、(b)および図10に示すように、葺き替え屋根材1を横方向に並べた場合には、図9(a)中左側の葺き替え屋根材1の被重ね部13に、右側の葺き替え屋根材1の重ね部14が重ねられ、被重ね部13と重ね部14との重ね部分の前端部では、左側の葺き替え屋根材1の切欠き部15に、右側の葺き替え屋根材1の垂下片11の左端部が嵌まり込んでいる。
【0036】
なお、拡大図を示していないが、被重ね部13と重ね部14との重ね部分の後端部では、左側の葺き替え屋根材1の被重ね部13における立上片12の右端部には、右側の葺き替え屋根材1の切欠き部16が重なる。つまり、隣接する葺き替え屋根材2、2の立上り片12、12同士は重ならない。
【0037】
このように、葺き替え屋根材1の重ね部14の後端部および被重ね部13の前端部に切欠き部16、15を備えているので、隣接する葺き替え屋根材1、1同士の重ね部分で立上片12同士、垂下片11同士が重なり合うことがなく、きれいに施工ができる。
【0038】
以上のように、葺き替え屋根材1で既設屋根材2を覆い隠すことにより葺き替えられた屋根は、既設屋根材1と違和感なく、外観上も見栄えがよい。
【0039】
特に、葺き替え屋根材1が繊維強化樹脂系屋根材で構成されているため、屋根表面を葺き替え前と同等の強度に維持することができ、外力により変形、損傷することを防止できる。また、繊維強化樹脂系屋根材の素材が有する特性により、夏場の温度上昇を抑えることができ、雨音の小音化を図ることもできる。さらに、繊維強化樹脂系屋根材は軽量であるため、既設屋根材2に重ね葺きしても屋根が重くならない。
【0040】
また、既設屋根材2が、葺き替え屋根材1と同一の素材で形成されていれば、既設屋根材2の質感を変化させることなく葺き替えすることができるし、熱膨張率も同じであるため、葺き替え後に両者間のずれや、ずれによるひずみが生じることもない。
【0041】
本発明において、繊維強化樹脂系屋根材(GFRP(ガラス繊維と不飽和ポリエステル樹脂を積層して形成した繊維強化プラスチック)製の屋根材)を使用した既設屋根材2に対して、葺き替え屋根材1として同一素材であるGFRP製の屋根材を重ね葺きすることが最も好ましい。
【0042】
この実施例では、
熱伝導率:0.93(KJ/(m・h・℃))のGFRPを使用しており、
これを、標準単位であるSI単位(W/(m・K))に換算すると、
0.258(W/(m・K))となり、
鉄の熱伝導率:83.5、銅の熱伝導率:403、アルミニウムの熱伝導率:236よりも格段に低いことがわかっている。
【0043】
これにより、繊維強化樹脂系屋根材を葺き替え屋根材1として用いることで、金属製の葺き替え屋根材を用いた場合よりも、夏場における室内の温度上昇が抑えられることが証明された。なお、上記FRPの熱伝導率は、乾燥木材(熱伝導率:0.15〜0.25)よりも大きく、ガラス(熱伝導率:0.55〜0.75)よりも小さい値となっている。
【0044】
また、同実施例では、
上記GFRP製の屋根材を用いた場合の室内音圧(音の大きさ)を実験により、A特性(人間の耳の感覚に合わせた補正値)で金属製屋根材の場合と比較すると、
GFRP製の屋根材:60.8 < 金属製屋根材:69.8 となっており、
室内で感じる騒音(音圧)についても、繊維強化樹脂系屋根材を葺き替え屋根材1として用いることで、金属製の葺き替え屋根材を用いた場合よりも小さいことが証明された。
【符号の説明】
【0045】
1 葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材(葺き替え屋根材)
10 本体部
11 垂下片
12 立上片
13 被重ね部
14 重ね部
15 (垂下片の)切欠き部
16 (立上片の)切欠き部
2 既設の繊維強化屋根材(既設屋根材)
21 軒側端縁
3 固定具
4 屋根下地
5 軒瓦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の繊維強化屋根材の上に、葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材を重ね葺きすることを特徴とする、繊維強化屋根材の重ね葺き構造。
【請求項2】
請求項1において、
上記既設の繊維強化屋根材は、上記葺き替え用の繊維強化樹脂系屋根材と同一素材よりなることを特徴とする、繊維強化屋根材の重ね葺き構造。
【請求項3】
請求項1において、
上記既設の繊維強化屋根材は、繊維強化セメント系屋根材よりなることを特徴とする、繊維強化屋根材の重ね葺き構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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