説明

繊維強化樹脂製歯車の製造方法

【課題】成形時間や機械加工時間の短縮によって、良好な生産性が確保できると共に、全ての歯部に均等、最適配置、かつ高繊維体積率で連続繊維を配向させることによって、歯部の強度、耐摩耗性、及び品質安定性に優れる繊維強化樹脂製歯車の製造方法を提供する。
【解決手段】連続繊維3に熱可塑性樹脂4を含浸させた帯状のプリプレグ9を、プリプレグ9の帯状に長く延びる方向の切断面の形状が直線歯形8となるように成形して帯状半成形品13を得る。その後、帯状半成形品13を、帯状半成形品13の歯部8a同士が複数回重なるように丸めて筒状半成形品14を得る。その後、筒状半成形品14の外面の凹凸形状と、射出成形型15の内面の凹凸形状とが噛み合うように、筒状半成形品14を射出成形型15の型内空間に挿入する。その後、筒状半成形品14よりも内側の型内空間に、短繊維強化熱可塑性樹脂からなる二次材料16を溶融状態で加圧充填することによって、筒状半成形品14を射出成形型15の内面に押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂からなる歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属製の歯車に代わって樹脂製の歯車が普及してきている。この樹脂製の歯車は、駆動時に発生する騒音を低減でき、さらに軽量化が図れるため利用価値の高いものとなっている。単に樹脂を歯車として成形するだけでは、歯車同士が大きな動力を伝達する際に歯部が欠けてしまうという問題があり、この問題を解決するために、歯部の強度と耐摩耗性に優れた繊維強化樹脂製の歯車が各種実用化されている。
【0003】
歯部の強度と耐摩耗性に優れた繊維強化樹脂製歯車の製造方法として、例えば、繊維を歯部の歯先方向に揃うように配向させることが可能な特許文献1に記載の製造方法がある。また、繊維の配向を歯部の形状に沿わせて、かつ歯部の繊維体積率を高めることが可能な特許文献2に記載の製造方法がある。
【0004】
特許文献1に記載されている従来の繊維強化樹脂製歯車の製造方法は、まず、長繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを、長繊維の配列方向が各層間で角度を有するように偏位させつつ積層し、疑似等方性の積層板を得る。そして、この積層板を加熱して熱可塑性樹脂を溶融した後に加圧して積層板を一体化する。この一体化した積層板を歯車の形状に打ち抜くことによって厚みの薄い歯車を直接得るか、または、この厚みの薄い歯車をさらに積層して加熱圧縮成形することにより任意の厚みの歯車を製造するものである。
【0005】
このように製造された繊維強化樹脂製歯車においては、長繊維を歯車の軸直角方向に等方に配列することによって、全ての歯部を、歯部の歯先方向に配向した長繊維によって均等に強化することができる。
【0006】
特許文献2に記載されている従来の繊維強化樹脂製歯車の製造方法を説明する断面図を図4に示す。図4(a)は圧縮成形型内に繊維強化樹脂を充填した状態、図4(b)は歯車内の長繊維の配向状態を示している。
【0007】
この製造方法においては、まず、図4(a)に示すように、歯車を成形する形状に型内空間が形成された圧縮成形型50の内面に、熱硬化性の長繊維強化樹脂60を環状に装填する。続いて、圧縮成形型50内の長繊維強化樹脂60よりも内側の型内空間に熱硬化性の短繊維強化樹脂70を充填する。その後、圧縮成形型50を加熱して、長繊維強化樹脂60及び短繊維強化樹脂70を溶融状態とし、圧縮成形型50を圧縮成形型50の軸線周りに回転させつつ、圧縮成形型50の軸方向から加圧する。
【0008】
このように圧縮成形型50を回転させながら圧縮成形を行うことによって、回転時の遠心力により、長繊維強化樹脂60内の長繊維60aが、圧縮成形型50の歯部成形用凹部50aの形状に沿って押し出される。
【0009】
これにより、図4(b)に示すように、長繊維60aが繊維強化樹脂製歯車80の歯部80aの形状に沿って配向され、かつ長繊維60aが歯部80aの表面付近に集積するため、歯部80aの表面付近の繊維体積率を確保することができる。したがって、この製造方法で製造された繊維強化樹脂製歯車80は、高い強度及び耐摩耗性を有する歯部80aを備えるものとなる。なお、繊維強化樹脂製歯車80の全体的な強度の向上は短繊維強化樹脂70内の短繊維70aによって図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−114863号公報
【特許文献2】特開昭64−9726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来の繊維強化樹脂製歯車の製造方法においては、シート状のプリプレグの積層及び一体化後に、この一体化した積層板を歯車の形状に打ち抜くと共に、必要に応じて、打ち抜き後の積層板をさらに積層して加熱圧縮成形するという多くの工程が必要となる。このため、成形時間や機械加工時間が長く、生産性が悪いという問題がある。
【0012】
特許文献2に記載されている従来の繊維強化樹脂製歯車の製造方法においては、熱硬化性樹脂の硬化反応に時間を要するため、生産性が悪いという問題がある。また、圧縮成形型50を回転させる遠心力によって、長繊維60aを歯部成形用凹部50aの形状に沿って押し出す構成であるために、長繊維60aの伸び量のばらつきにより、全ての歯部80aの長繊維60aの配向と繊維体積率を均等に揃えることが難しい。すなわち、歯部80aの強度と耐摩耗性に関する品質を一定に保つことが難しい。
【0013】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、成形時間や機械加工時間の短縮によって、良好な生産性が確保できると共に、全ての歯部に均等、最適配置、かつ高繊維体積率で連続繊維を配向させることによって、歯部の強度、耐摩耗性、及び品質安定性に優れる繊維強化樹脂製歯車の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0015】
(1)本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法は、成形品の円弧歯形と略相似形状で、かつ該円弧歯形よりも小径の第2円弧歯形を展開して直線歯形を設定する直線歯形設定工程と、連続繊維に樹脂を含浸させた帯状のプリプレグを、該プリプレグの帯状に長く延びる方向の切断面の形状が前記直線歯形となるように成形して帯状半成形品を得る帯状半成形品成形工程と、前記帯状半成形品を、該帯状半成形品の外面が前記第2円弧歯形と略同一形状となると共に、該帯状半成形品の歯部同士が複数回重なるように丸めて筒状半成形品を得る筒状半成形品成形工程と、前記筒状半成形品の歯部を、前記円弧歯形の内面を有する射出成形型の歯部成形用凹部に沿わせて、該筒状半成形品を該射出成形型の型内空間に挿入する筒状半成形品型内挿入工程と、前記筒状半成形品型内挿入工程の後工程として、前記射出成形型内の前記筒状半成形品よりも内側の型内空間に、短繊維強化樹脂からなる二次材料を加圧充填して硬化させることにより成形品を得る二次材料型内充填工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
周知のとおり、帯状のプリプレグを、プリプレグの帯状に長く延びる方向の切断面の形状が直線歯形となるように帯状半成形品として成形するには、例えばロール機等の成形機を用いて、効率良く連続的に成形することができる。
【0017】
また、帯状半成形品の歯部同士が複数回重なるように丸めることによって筒状半成形品が成形されているため、帯状半成形品の歯部の重ね回数を多くすることによって、筒状半成形品の歯部の繊維体積率を高くすることができる。
【0018】
また、筒状半成形品の外面の凹凸形状と、射出成形型の内面の凹凸形状とが噛み合うように、筒状半成形品を射出成形型の型内空間に挿入することによって、射出成形型の内面に対して、筒状半成形品がずれることがなく、筒状半成形品を正確な位置に配置することができる。
【0019】
また、二次材料型内充填工程において、筒状半成形品の内側に二次材料を加圧充填するため、筒状半成形品の歯部が射出成形型の内面に押し付けられる。このため、成形品である繊維強化樹脂製歯車の歯部の表面付近には連続繊維が集積し、歯部の表面付近の繊維体積率を高くすることができる。
【0020】
したがって、以上のような本発明の構成によると、成形時間や機械加工時間の短縮によって、良好な生産性が確保できると共に、全ての歯部に均等、最適配置、かつ高繊維体積率で連続繊維を配向させることによって、歯部の強度、耐摩耗性、及び品質安定性に優れる繊維強化樹脂製歯車を製造することができる。
【0021】
(2)本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法において、好ましくは、前記プリプレグが、前記連続繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた帯状のプリプレグであり、前記二次材料が、短繊維強化熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0022】
このような構成によれば、成形品である繊維強化樹脂製歯車は、熱可塑性樹脂、連続繊維、及び短繊維の3種の材料により形成される。熱可塑性樹脂は、加熱により軟化して温度が下がれば硬化することから、熱硬化性樹脂の硬化反応とは異なり、硬化に時間を要しない。したがって、繊維強化樹脂製歯車を熱可塑性樹脂よりなる歯車とすることによって、高い生産性を確保することができる。
【0023】
(3)本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法において、好ましくは、前記プリプレグが、前記連続繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた帯状のプリプレグであり、前記二次材料が、未硬化の短繊維強化熱硬化性樹脂であることを特徴とする。
【0024】
このような構成によれば、成形品である繊維強化樹脂製歯車は、熱硬化性樹脂、連続繊維、及び短繊維の3種の材料により形成される。熱硬化性樹脂は、硬化反応に時間を要するため、高い生産性を確保することが困難となる反面、熱可塑性樹脂に比べて高い強度を有し機械的性質に優れる。したがって、繊維強化樹脂製歯車を熱硬化性樹脂よりなる歯車とすることによって、この繊維強化樹脂製歯車をより高負荷がかかる部分の歯車として適用することが可能となる。
【0025】
(4)本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法において、好ましくは、前記筒状半成形品型内挿入工程及び前記二次材料型内充填工程の間の中間工程として、前記射出成形型内に挿入された前記筒状半成形品を、該筒状半成形品の内側から外側に向かって加圧して、該筒状半成形品の歯部を該射出成形型の前記内面に押し付ける筒状半成形品型内押付工程を備えることを特徴とする。
【0026】
前述のとおり、二次材料型内充填工程において、筒状半成形品の歯部が射出成形型の内面に押し付けられる。しかし、筒状半成形品の歯部が射出成形型の内面に充分に押し付けられる前に、二次材料が筒状半成形品の外面と射出成形型の内面との間に形成される隙間に漏れ出して充填されると、成形品である繊維強化樹脂製歯車の歯部の表面付近に連続繊維を充分に集積させることができなくなる。
【0027】
二次材料型内充填工程に先立って、筒状半成形品型内押付工程を実施することによって、筒状半成形品の歯部が射出成形型の内面に充分に押し付けられる。これにより、より確実に歯部の表面付近の繊維体積率を高くすることができる。
【0028】
(5)本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法において、好ましくは、前記筒状半成形品型内挿入工程及び前記二次材料型内充填工程の間の中間工程として、前記熱可塑性樹脂が軟化する温度まで前記射出成形型を加熱すると共に、該射出成形型内に挿入された前記筒状半成形品を、該筒状半成形品の内側から外側に向かって加圧して、該筒状半成形品の歯部を該射出成形型の前記内面に押し付ける筒状半成形品型内押付工程を備えることを特徴とする。
【0029】
このような構成によれば、熱可塑性樹脂からなる筒状半成形品が、加熱により軟化した状態で射出成形型の内面に押し付けられる。したがって、筒状半成形品が軟化して変形しやすい状態であることにより、筒状半成形品を、射出成形型の内面の複雑な凹凸形状に変形追随させて、射出成形型の内面に充分に押し付けることができる。
【0030】
ここで、射出成形型内に挿入された筒状半成形品を加熱する温度は、熱可塑性樹脂が溶融状態となる融点以上の温度とすることができる。しかし、加熱する温度は、これに限らず、筒状半成形品が容易に変形できる程度に軟化する温度であれば、融点以下の温度であってもよい。
【0031】
(6)本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法において、好ましくは、前記筒状半成形品型内押付工程において、前記射出成形型内の前記筒状半成形品よりも内側の型内空間に伸縮性袋を配置すると共に、該伸縮性袋に内圧を加えて該伸縮性袋を膨らませることによって、該筒状半成形品を、該筒状半成形品の内側から外側に向かって加圧することを特徴とする。
【0032】
単に射出成形型内の筒状半成形品よりも内側の型内空間に内圧をかけただけでは、この内圧が筒状半成形品の外面と射出成形型の内面との間に形成される隙間に漏れると、筒状半成形品を射出成形型の内面に押し付けることが不可能となる。射出成形型内の型内空間に配置した伸縮性袋内に気体や液体等の流体を注入して膨らませば、伸縮性袋の内圧が伸縮性袋から漏れ出すことがないため、筒状半成形品を射出成形型の内面に充分に押し付けることが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、成形時間や機械加工時間の短縮によって、良好な生産性が確保できると共に、全ての歯部に均等、最適配置、かつ高繊維体積率で連続繊維を配向させることによって、歯部の強度、耐摩耗性、及び品質安定性に優れる繊維強化樹脂製歯車の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態における製造方法によって製造された繊維強化樹脂製歯車の斜視図を示している。
【図2】本発明の一実施形態における繊維強化樹脂製歯車の製造方法を説明する作業工程図を示している。
【図3】本発明の一実施形態における筒状半成形品型内押付工程を説明する説明図を示している。
【図4】従来の繊維強化樹脂製歯車の製造方法を説明する断面図であって、(a)は圧縮成形型内に繊維強化樹脂を充填した状態、(b)は歯車内の長繊維の配向状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法の一実施形態について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0036】
(1)繊維強化樹脂製歯車1の構造
本実施形態の製造方法によって製造された繊維強化樹脂製歯車1の構造を説明する斜視図を図1に示す。なお、図1においては、繊維強化樹脂製歯車1表面の熱可塑性樹脂4を一部剥ぎ取って、内部の連続繊維3が露出した状態を示している。
【0037】
成形品である繊維強化樹脂製歯車1の軸直角方向の断面形状は、多数の歯部2aを有する円弧歯形2である。繊維強化樹脂製歯車1の表面付近には、円弧歯形2の形状に沿って、一方向に互いに並行に配列した多数本の連続繊維3が配向しており、多数本の連続繊維3は熱可塑性樹脂4によって固着されている。また、多数本の連続繊維3で囲まれた内部には、短繊維5によって補強された熱可塑性樹脂6が充填されている。
【0038】
なお、各連続繊維3は繊維強化樹脂製歯車1の軸直角方向の面と平行するように配列されている。連続繊維3を繊維強化樹脂製歯車1の軸直角方向に配列し、かつ円弧歯形2の形状に沿って繊維強化樹脂製歯車1の表面付近に配向することは、歯部2aの強度及び耐摩耗性を確保する上での最も効果的な繊維の配置となっている。また、繊維強化樹脂製歯車1の全体的な強度の向上は短繊維5によって図られている。
【0039】
(2)繊維強化樹脂製歯車1の製造方法
上述した繊維強化樹脂製歯車1を製造する本実施形態の製造方法は次のとおりである。図2に示すとおり、本実施形態の製造方法は、(a)直線歯形設定、(b)プリプレグ準備、(c)予備加熱、(d)歯形成形、(e)帯状半成形品完成、(f)筒状半成形品成形、(g)筒状半成形品型内挿入・押付、(h)二次材料型内充填、(i)脱型・成形品完成の作業工程を備えている。
【0040】
ここで、上記(a)が本発明における直線歯形設定工程、上記(b)〜(e)が本発明における帯状半成形品成形工程、上記(f)が本発明における筒状半成形品成形工程、上記(g)が本発明における筒状半成形品型内挿入工程及び筒状半成形品型内押付工程、上記(h)が本発明における二次材料型内充填工程に相当する。
【0041】
(a)の直線歯形設定においては、まず、成形品である繊維強化樹脂製歯車1の円弧歯形2と略相似形状で、かつ円弧歯形2よりも小径の第2円弧歯形7を設定する。ここで、第2円弧歯形7の詳細な形状や寸法については、後述するプリプレグ9の厚さを勘案した上で適宜設定する。具体的には、第2円弧歯形7の寸法は、円弧歯形2を少なくともプリプレグ9の厚さ分だけ円弧歯形2の内側にオフセットした形状よりも小さい寸法とする必要がある。次に、設定した第2円弧歯形7を第2円弧歯形7上の一点で切断すると共に、第2円弧歯形7の歯部7aの形状を維持しつつ直線状に展開して歯部8aを有する直線歯形8を設定する。
【0042】
(b)のプリプレグ準備においては、一方向に互いに並行に配列した多数本の連続繊維3に熱可塑性樹脂4を含浸させた帯状のプリプレグ9を準備する。ここで、連続繊維3としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維などの高強度、高弾性率繊維を単独又は組み合わせて用いることができる。これらの繊維の中で繊維強化樹脂製歯車1の強度の強化効率及び寸法安定性、耐蝕性、摺動性、帯電防止性、軽量化などの機能を付与する面からは炭素繊維が最も好ましい。
【0043】
また、熱可塑性樹脂4としては、要求される繊維強化樹脂製歯車1の機能から選定されるが、一般的にはナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイドやそれらのポリマーアロイが、特に強度、耐熱性が要求される場合は、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォンなどが用いられる。
【0044】
(c)の予備加熱、(d)の歯形成形により、準備した帯状のプリプレグ9を、プリプレグ9の帯状に長く延びる方向の切断面の形状が上述した直線歯形8となるように加熱ロールプレス成形する。加熱ロールプレス成形を行うための成形機10は、加熱器11と、ロール機12とを備えている。ロール機12は上歯車12aと下歯車12bとからなり、上歯車12aの形状は第2円弧歯形7である。また、下歯車12bの形状は上歯車12aと噛み合う円弧歯形である。
【0045】
プレプリグ9を帯状半成形品13に成形する方法は次のとおりである。まず、プリプレグ9の両面を加熱器11で加熱してプレプリグ9の熱可塑性樹脂4を軟化する。次に、プリプレグ9の端部をロール機12の上歯車12aと下歯車12bとの間に挿入して挟み込み、上歯車12aを反時計回りに下歯車12bを時計回りに回転させながら、プレプリグ9をロール機12のプレプリグ9を挿入した側と反対の側に送り出す。これにより、(e)の帯状半成形品完成で示すように、帯状に長く延びる方向の切断面の形状が直線歯形8となるように成形された帯状半成形品13が完成する。
【0046】
(f)の筒状半成形品成形においては、帯状半成形品13の丸めと積層を行う。帯状半成形品13を、帯状半成形品13の外面が第2円弧歯形7と略同一形状となるように丸めて筒状とする。この際、帯状半成形品13の歯部8a同士が複数回重なるように丸めることにより積層して、筒状となった筒状半成形品14の歯部7aの繊維体積率を高める。なお、図2においては、帯状半成形品13の歯部8a同士が少なくとも2回重なるように帯状半成形品13を丸めている。
【0047】
(g)の筒状半成形品型内挿入・押付においては、筒状半成形品14を、円弧歯形2の内面を有する射出成形型15の型内空間に挿入する。この際、筒状半成形品14の歯部7aを、射出成形型15の歯部成形用凹部15aに沿わせつつ、射出成形型15の型内空間に挿入する。次に、射出成形型15内に挿入された筒状半成形品14を、筒状半成形品14の内側から外側に向かって加圧して、筒状半成形品14の歯部7aを射出成形型15の内面に押し付ける。
【0048】
筒状半成形品14を射出成形型15の内面に押し付けている状況は図3に示すとおりである。まず、射出成形型15内の筒状半成形品14よりも内側の型内空間に伸縮性袋17(例えば、シリコンブラダー)を配置する。続いて、伸縮性袋17内に気体や液体等の流体を注入することにより伸縮性袋17の内圧pを増加させて、伸縮性袋17を膨らませる。これにより、筒状半成形品14は、筒状半成形品14の内側から外側に向かって加圧されて、筒状半成形品14の歯部7aが射出成形型15の内面に押し付けられる。
【0049】
筒状半成形品14を射出成形型15の内面に押し付ける際には、射出成形型15の型内温度が筒状半成形品14に含まれている熱可塑性樹脂4の融点以上の温度となるように図示しない加熱器により射出成形型15を加熱する。これにより、筒状半成形品14が加熱により軟化して変形しやすい状態となる。
【0050】
(h)の二次材料型内充填においては、熱可塑性樹脂6に短繊維5を混合した二次材料16に熱を加えて溶融状態とし、この溶融状態の二次材料16を射出成形型15内の筒状半成形品14よりも内側の型内空間に充填する。ここで、短繊維5としては、上述した連続繊維3と同様の材料を用いることができる。また、熱可塑性樹脂6としては、上述したプレプリグ9の熱可塑性樹脂4と同様の材料を用いることができる。
【0051】
接合一体化の観点からは熱可塑性樹脂4と熱可塑性樹脂6とは同一の材料であることが望ましい。熱可塑性樹脂4と熱可塑性樹脂6とを同一の材料とすることによって、溶融状態の二次材料16の熱によって、筒状半成形品14の熱可塑性樹脂4も溶融状態となり、熱可塑性樹脂4と熱可塑性樹脂6とが接合一体化される。
【0052】
なお、図に示すとおり射出成形型15の型内空間には断面形状が円形の内型が配置されており、この内型によって繊維強化樹脂製歯車1に円形の貫通孔が形成される。この貫通孔は、繊維強化樹脂製歯車1に軸を挿入するための貫通孔となる。
【0053】
(i)の脱型・成形品完成においては、熱可塑性樹脂4と熱可塑性樹脂6の温度が低下して硬化した後に、射出成形型15の脱型を行い、繊維強化樹脂製歯車1を完成する。
【0054】
(3)繊維強化樹脂製歯車1の製造方法による効果
本実施形態の繊維強化樹脂製歯車1の製造方法による効果は次のとおりである。成形品である繊維強化樹脂製歯車1は、同一材料の熱可塑性樹脂4及び6、連続繊維3、及び短繊維5の3種の材料により形成される。熱可塑性樹脂は、加熱により軟化して温度が下がれば硬化することから、熱硬化性樹脂の硬化反応とは異なり、硬化に時間を要しない。したがって、繊維強化樹脂製歯車1を熱可塑性樹脂よりなる歯車とすることによって、高い生産性を確保することができる。
【0055】
また、帯状のプリプレグ9を、プリプレグ9の帯状に長く延びる方向の切断面の形状が直線歯形8となる帯状半成形品13として成形するのに、加熱ロールプレス成形を用いるため、効率良く連続的にプリプレグ9を成形することができる。
【0056】
また、帯状半成形品13の歯部8a同士が複数回重なるように丸めることによって筒状半成形品14が成形されているため、筒状半成形品14の歯部7aの繊維体積率が高い。
【0057】
また、帯状半成形品13を筒状に丸めて形状を整えた後に、筒状となった筒状半成形品14を射出成形型15の型内空間に挿入するため、帯状半成形品13を筒状に丸めずに、帯状半成形品13の歯部8aの一つずつを射出成形型15の歯部成形用凹部15aの一つずつに噛み合わせながら、帯状半成形品13を射出成形型15の型内空間に巻き付ける場合よりも、作業効率が良好となる。
【0058】
また、筒状半成形品14を射出成形型15の内面に沿って挿入する際には、筒状半成形品14の歯部7aを、射出成形型15の歯部成形用凹部15aに沿わせつつ、射出成形型15の型内空間に挿入するため、射出成形型15の内面に対して、筒状半成形品14がずれることがなく、筒状半成形品14を正確な位置に配置することができる。
【0059】
また、伸縮性袋17を膨らますことによって、筒状半成形品14を射出成形型15の内面に押し付けるため、伸縮性袋17の内圧pが伸縮性袋17から漏れ出すことがなく、筒状半成形品14を射出成形型15の内面に充分に押し付けることが可能である。このため、成形品である繊維強化樹脂製歯車1の歯部2aの表面付近には連続繊維3が集積し、歯部2aの表面付近の繊維体積率を高くすることができる。
【0060】
また、筒状半成形品14が、加熱により軟化した状態で射出成形型15の内面に押し付けられる。したがって、筒状半成形品14が軟化して変形しやすい状態であることにより、筒状半成形品14を、射出成形型15の内面の複雑な凹凸形状に変形追随させて、射出成形型15の内面に充分に押し付けることができる。
【0061】
したがって、以上のような本実施形態の構成によると、成形時間や機械加工時間の短縮によって、良好な生産性が確保できると共に、全ての歯部に均等、最適配置、かつ高繊維体積率で連続繊維を配向させることによって、歯部の強度、耐摩耗性、及び品質安定性に優れる繊維強化樹脂製歯車を製造することができる。
【0062】
(4)その他の実施形態
なお、本発明の繊維強化樹脂製歯車の製造方法は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0063】
例えば、本実施形態においては、一方向に互いに並行に配列した多数本の連続繊維3に熱可塑性樹脂4を含浸させた帯状のプリプレグ9を用いているが、多数本の連続繊維3が、多数本の補助糸により編み込まれている織布に熱可塑性樹脂4を含浸させた帯状のプリプレグを用いることもできる。
【0064】
また、本実施形態においては、帯状のプリプレグ9を帯状半成形品13として成形する成形方法として加熱ロールプレス成形を用いたが、成形方法はこれに限らず、プレス成形、スタンピング成形、真空成形、圧空成形などの様々な成形方法を用いることができる。
【0065】
また、本実施形態においては、繊維強化樹脂製歯車1の断面形状を真円の円弧歯形2としたが、繊維強化樹脂製歯車1の断面形状を楕円の円弧歯形とすることもできる。
【0066】
また、本実施形態においては、射出成形型15内に挿入された筒状半成形品14を、筒状半成形品14に含まれている熱可塑性樹脂4の融点以上の温度となるように加熱したが、加熱する温度は、これに限らず、筒状半成形品14が容易に変形できる程度に軟化する温度であれば、融点以下の温度であってもよい。
【0067】
また、本実施形態においては、繊維強化樹脂製歯車1を形成する樹脂を熱可塑性樹脂としたが、熱硬化性樹脂により繊維強化樹脂製歯車を形成してもよい。繊維強化樹脂製歯車を熱硬化性樹脂よりなる歯車とする場合、例えば、以下のとおり歯車を製造することができる。
【0068】
形状保持可能な程度の可塑性を有する未硬化の熱硬化性樹脂からなるプリプレグに、熱を加えずに直線歯形8を成形して帯状半成形品とする。そして、この帯状半成形品を本実施形態と同様に丸めて筒状半成形品とする。
【0069】
この筒状半成形品を、射出成形型15内に挿入した後、筒状半成形品の内側に配置した伸縮性袋17を膨らませて、筒状半成形品を射出成形型15の内面に押し付ける。この際、筒状半成形品の加熱は行わない。
【0070】
その後、筒状半成形品の内側に、未硬化の短繊維強化熱硬化性樹脂を二次材料として加圧充填する。その後、射出成形型15に熱硬化性樹脂の硬化温度以上の熱を加えて、熱硬化性樹脂を硬化させる。
【0071】
また、これとは別の加熱方法として、筒状半成形品の内側に、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の熱が加えられた未硬化の短繊維強化熱硬化性樹脂を二次材料として加圧充填することもできる。この場合、射出成形型15内の筒状半成形品は、二次材料の熱を受けて熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度まで加熱される。
【0072】
熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂に比べて高い強度を有し機械的性質に優れる。したがって、繊維強化樹脂製歯車を熱硬化性樹脂よりなる歯車とすることによって、この繊維強化樹脂製歯車をより高負荷がかかる部分の歯車として適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1 … 繊維強化樹脂製歯車(成形品)2 … 円弧歯形
2a … 歯部 3 … 連続繊維
4 … 熱可塑性樹脂 5 … 短繊維
6 … 熱可塑性樹脂 7 … 第2円弧歯形
7a … 歯部 8 … 直線歯形
8a … 歯部 9 … プリプレグ
13 … 帯状半成形品 14 … 筒状半成形品
15 … 射出成形型 15a … 歯部成形用凹部
16 … 二次材料 17 … 伸縮性袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の円弧歯形と略相似形状で、かつ該円弧歯形よりも小径の第2円弧歯形を展開して直線歯形を設定する直線歯形設定工程と、
連続繊維に樹脂を含浸させた帯状のプリプレグを、該プリプレグの帯状に長く延びる方向の切断面の形状が前記直線歯形となるように成形して帯状半成形品を得る帯状半成形品成形工程と、
前記帯状半成形品を、該帯状半成形品の外面が前記第2円弧歯形と略同一形状となると共に、該帯状半成形品の歯部同士が複数回重なるように丸めて筒状半成形品を得る筒状半成形品成形工程と、
前記筒状半成形品の歯部を、前記円弧歯形の内面を有する射出成形型の歯部成形用凹部に沿わせて、該筒状半成形品を該射出成形型の型内空間に挿入する筒状半成形品型内挿入工程と、
前記筒状半成形品型内挿入工程の後工程として、前記射出成形型内の前記筒状半成形品よりも内側の型内空間に、短繊維強化樹脂からなる二次材料を加圧充填して硬化させることにより成形品を得る二次材料型内充填工程と、
を備えることを特徴とする繊維強化樹脂製歯車の製造方法。
【請求項2】
前記プリプレグが、前記連続繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた帯状のプリプレグであり、前記二次材料が、短繊維強化熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂製歯車の製造方法。
【請求項3】
前記プリプレグが、前記連続繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた帯状のプリプレグであり、前記二次材料が、未硬化の短繊維強化熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂製歯車の製造方法。
【請求項4】
前記筒状半成形品型内挿入工程及び前記二次材料型内充填工程の間の中間工程として、前記射出成形型内に挿入された前記筒状半成形品を、該筒状半成形品の内側から外側に向かって加圧して、該筒状半成形品の歯部を該射出成形型の前記内面に押し付ける筒状半成形品型内押付工程を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の繊維強化樹脂製歯車の製造方法。
【請求項5】
前記筒状半成形品型内挿入工程及び前記二次材料型内充填工程の間の中間工程として、前記熱可塑性樹脂が軟化する温度まで前記射出成形型を加熱すると共に、該射出成形型内に挿入された前記筒状半成形品を、該筒状半成形品の内側から外側に向かって加圧して、該筒状半成形品の歯部を該射出成形型の前記内面に押し付ける筒状半成形品型内押付工程を備えることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化樹脂製歯車の製造方法。
【請求項6】
前記筒状半成形品型内押付工程において、前記射出成形型内の前記筒状半成形品よりも内側の型内空間に伸縮性袋を配置すると共に、該伸縮性袋に内圧を加えて該伸縮性袋を膨らませることによって、該筒状半成形品を、該筒状半成形品の内側から外側に向かって加圧することを特徴とする請求項4又は5に記載の繊維強化樹脂製歯車の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−25466(P2011−25466A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172035(P2009−172035)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】