説明

繊維強化複合材料およびその製造方法

【課題】マトリックス材料中でのセルロース繊維の分散性を向上させ、成形性、物理物性の向上、並びに透明複合材料においては透明性を改善する繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】マトリックス材料(B)中にセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料であって、上記セルロース繊維(A)は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されている繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、水系でのグラフト重合によってグラフト修飾されたセルロース繊維を用いた繊維強化複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維強化複合材料として、ガラス繊維を用いたガラス繊維強化複合材料が広く知られており、最近では、透明性等の向上を目的として、このガラス繊維に代えてセルロース繊維を用いるセルロース繊維強化複合材料が提案されている。セルロース繊維強化複合材料としては、例えば、平均繊維径が4〜200nmのセルロース繊維とマトリックス材料とを含有し、50μm厚換算における波長400〜700nmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料(特許文献1参照)や、セルロース繊維の水酸基を、酸,アルコール,ハロゲン化試薬,酸無水物,およびイソシアネートよりなる群から選ばれる1種または2種以上よりなる化学修飾剤と反応させることにより、セルロース繊維とマトリックス材料との親和性を高めることによって、透明性等を一層高める繊維強化複合材料(特許文献2参照)等が、開示されている。
【特許文献1】特開2005−606080号公報
【特許文献2】特開2007−51266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1,2のような従来のセルロース繊維強化複合材料においては、用いられるセルロース繊維が、水分除去のためのろ過,プレス,乾燥等により、全てシート状のセルロース繊維集合体となっている。このため、従来のセルロース繊維強化複合材料の作製においては、上記シート状のセルロース繊維集合体を、液状のマトリックス材料に含浸させて複合材料を得るため、板状成形物しか得ることができなかった。
【0004】
また、パルプ等を高圧ホモジナイザーで機械的剪断力を加え、平均繊維径0.1〜10μmのミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース(以下、「MFC」と略す)を、さらにグラインダー処理等することにより、平均繊維径がサブミクロン以下の含水ナノMFCが得られるが、上記シート状のセルロース繊維集合体が、この含水ナノMFCである場合には、セルロース成分に対して、数倍から数百倍の重量の水分をナノMFCが吸着するため、非常にろ過性等の水分除去性が悪く、生産性が低いという問題もあった。
【0005】
さらには、厚膜のシート状セルロース繊維集合体を得ることは、そのろ過やプレス等の水分除去性が非常に悪くなることから難しく、さらに、厚膜なシートが得られたとしても、マトリックス材料である液状物を、シート内部全体に浸透させることも難しくなるため、薄膜シート化物を積層することでしか、セルロース繊維強化複合材料の厚みを調整することができなかった。
【0006】
また、上記特許文献2には、セルロース繊維集合体とマトリックス材料との親和性を向上させる目的で、セルロース繊維集合体の水酸基に、化学修飾を行うことが開示されている。しかしながら、この化学修飾を行うためには、一般に、含水セルロース繊維集合体からの水分の除去が必須となり、特に、含水ナノMFCのような、平均繊維径がサブミクロン以下のセルロース繊維集合体からの水分の除去は、上記したように非常に効率が悪く、水分を溶媒置換する等の工程が必要となるため、生産性が悪くなってしまうという問題もある。
【0007】
また、含水ナノMFCのような、平均繊維径がサブミクロン以下のセルロース繊維集合体においては、乾燥工程を経ると、セルロース表面水酸基同士の水素結合形成により、セルロース繊維同士が凝集するため、セルロース繊維集合体を再分散させることが困難となり、マトリックス材料として熱可塑性樹脂を用い、溶融混練するといった応用ができず、その用途が制限されるという問題もあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、マトリックス材料中でのセルロース繊維の分散性を向上させ、成形性、物理物性の向上、並びに透明複合材料においては透明性を改善する繊維強化複合材料およびその製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、マトリックス材料(B)中にセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料であって、上記セルロース繊維(A)は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されている繊維強化複合材料を第1の要旨とする。
【0010】
また、本発明は、上記繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)を液状のマトリックス材料に含浸または混合する工程とを備えた繊維強化複合材料の製造方法を第2の要旨とする。
【0011】
さらに、本発明は、上記繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)をマトリックス材料と溶融混練する工程とを備えた繊維強化複合材料の製造方法を第3の要旨とする。
【0012】
すなわち、本発明者らは、成形性、物理物性および透明複合材料においては透明性に優れた繊維強化複合材料を求めて、鋭意検討を行った。その過程で、セルロース繊維に重合性成分をグラフト重合して透明性等を向上させることを考えたが、このグラフト重合を行うためには、一般に、含水セルロース繊維からの水分の除去が必要となる。この水分除去処理によって、生産性が低下するとともに、繊維強化複合材料の成形性が著しく低下するため、セルロース繊維から水分を除去せずにグラフト重合することを着想し、さらに研究を重ねた。その結果、グラフト重合を水系で行うことによって、セルロース繊維表面に重合性成分をグラフト修飾させると、マトリックス材料中でのセルロース繊維の分散性が向上し、成形性、物理物性および透明複合材料においては透明性に優れた繊維強化複合材料が得られることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、マトリックス材料(B)中にセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料であって、上記セルロース繊維(A)は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されている繊維強化複合材料である。このように、セルロース繊維は重合性成分でグラフト修飾されているため、セルロース繊維とマトリックス材料の親和性が高まり、得られる繊維強化複合材料の物理物性や透明性を高めることができる。さらに、このグラフト修飾は、セルロース繊維から水分を除去することなく、水系でグラフト重合を行うことによりなされるため、グラフト修飾物が障害物となって、セルロース繊維表面の水酸基に起因する、水素結合等によるセルロース繊維同士の凝集を抑制できる。よって、マトリックス材料中でのセルロース繊維の分散性を向上させることができ、これに伴い、得られる繊維強化複合材料の成形性、物理物性をさらに向上させ、透明複合材料においては透明性が改善され向上する。
【0014】
特に、水分除去性が悪く、セルロース繊維同士が凝集しやすい、平均繊維径がサブミクロン以下である含水ナノMFCにおいては、その水分を除去することなく、グラフト修飾するため、工程が簡便となり生産性が向上し、また、セルロース繊維同士の凝集を一層抑制するため、その有用性をより一層発揮するようになる。
【0015】
上記セルロース繊維(A)の平均繊維径が、4〜200nmであると、透明性に一層優れるようになる。
【0016】
上記マトリックス材料(B)の主成分が、熱可塑性樹脂であると、成形性に一層優れるようになる。
【0017】
そして、本発明の繊維強化複合材料は、上記セルロース繊維(A)を液状のマトリックス材料に含浸または混合して製造するため、分散性、生産性により優れるようになる。
【0018】
また、本発明の繊維強化複合材料は、上記セルロース繊維(A)をマトリックス材料と溶融混練して製造するため、分散性、成形性により一層優れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに、本発明の繊維強化複合材料およびその製造方法の実施の形態について詳しく説明する。
【0020】
本発明の繊維強化複合材料は、マトリックス材料(B)中にグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料である。そこで、グラフト修飾されたセルロース繊維(A)の説明の前提として、まず、グラフト修飾されていないセルロース繊維について説明する。
【0021】
[セルロース繊維]
本発明に係るセルロース繊維は、特に限定されるものではないが、植物細胞壁の基本骨格成分であるセルロースのミクロフィブリルまたはこれの構成繊維をいう。繊維同士が独立した単繊維であっても、繊維同士が絡み合った単繊維の集合体であってもよいが、単繊維の集合体の場合には、単繊維が引き揃えられることなく、かつ相互間にマトリックス材料が入り込むように充分に離隔している方がよい。
【0022】
本発明に係るセルロース繊維の製法としては、脱リグニン処理した植物細胞壁に叩解・粉砕等の処理を加えた後、得られたセルロースを高圧ホモジナイザー処理や湿式グラインダー処理すること等があげられ、これによりセルロースが微細化され、本発明に係るセルロース繊維が得られる。また、原料としてパルプを用いてもよい。
【0023】
より具体的には、植物細胞壁から取り出したセルロースやパルプ等を高圧ホモジナイザー処理して、平均繊維径0.1〜10μm程度にミクロフィブリル化したMFCを得たり、また、このMFCを、0.1〜3重量%程度の水懸濁液にして、さらにグラインダーや超高圧ホモジナイザー等で繰り返し磨砕ないし融砕処理して、平均繊維径10〜100nm程度のナノオーダーのMFC(ナノMFC)を得たりすることができる。
【0024】
本発明において、セルロース繊維とは、上記した植物細胞壁等から得られるセルロース繊維やパルプが産業的な利用の観点から好ましいが、バクテリアが産生するバクテリアセルロース、海草やホヤの被嚢を叩解・粉砕等の処理を施して得られるセルロース繊維を用いてもよい。
【0025】
ここで、バクテリアセルロースとは、バクテリアから産生されたセルロースであって、バクテリアに連なっているセルロースを含む産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去して得られるものである。
【0026】
具体的には、これらに限定されるものではないが、アセトバクターアセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクターサブスピーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)等のアセトバクター(Acetobacter)族等の酢酸菌を、1種類または2種類以上を混合して培養することにより、バクテリアからセルロースが産生される。得られた産生物は、バクテリアと、バクテリアに連なっている産生物のセルロース繊維(バクテリアセルロース)とを含むものであるため、この産生物を培地から取り出し、洗浄、アルカリ処理等してバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースを得ることができる。
【0027】
このようにして得られる含水バクテリアセルロースは、含水率95〜99.9%、繊維含有率0.1〜5体積%であり、平均繊維径が50nm程度の単繊維の三次元交差構造の繊維集合体に水が含浸された状態のものである。
【0028】
そして、上記得られたバクテリアセルロースを、ミキサー等により小さく解離させ、グラインダー等によりフィブリル化することがより好ましい。
【0029】
なお、これらのセルロース繊維は、1種類で使用してもよいし、起原の異なるもの、あるいは異なる処理を施したものを2種類以上混合して用いてもよい。
【0030】
また、上記セルロース繊維の結晶化度は、高強度と低熱膨張を得るために、40%以上のものが好ましい。
【0031】
本発明に係るセルロース繊維の平均繊維径としては、特に制限されるものではないが、4〜200nmであることが好ましく、より好ましくは4〜100nm、さらに好ましくは4〜80nmである。平均繊維径が上記上限値を超えると、可視光波長領域に近づくために、マトリックス材料との界面での屈折が生じやすくなり透明性が低下する傾向がみられるからである。また、平均繊維径4nm未満のセルロース繊維は、その製造が困難であり、バクテリアが産出するバクテリアセルロースの単繊維径は4nmであることから、本発明で用いるセルロース繊維の平均繊維径の下限は4nmとする。
【0032】
ここで、本発明に係るセルロース繊維の平均繊維径とは、原則として、単繊維の平均径をいうが、複数本の単繊維が束状に集合して1本の糸状を形成している場合には、この集合した1本の糸状の径の平均値を平均繊維径として定義する。
【0033】
そして、本発明に係るセルロース繊維は、好適には、その平均繊維径が4〜200nmの範囲であれば、セルロース繊維中に4〜200nmの範囲外の繊維径のものが含まれていても良いが、その量は20重量%以下が好ましく、より好ましくは全ての繊維の繊維径が200nm以下、特に好ましくは100nm以下、とりわけ60nm以下が好ましい。
【0034】
また、セルロース繊維の繊維長は、繊維強化複合材料の強度を高めるため、繊維のアスペクト比が高いほうが好ましく、平均の長さで100nm以上が好ましい。そして、セルロース繊維中には100nm未満のものが含まれていても良いが、その割合は20重量%以下が好ましい。
【0035】
[グラフト修飾されたセルロース繊維(A成分)]
本発明に係るグラフト修飾されたセルロース繊維(A)は、水系でのグラフト重合によって、上記得られたセルロース繊維の表面に、重合性成分がグラフト修飾することにより得られる。
【0036】
上記重合性成分としては、セルロース繊維と重合しうるものであれば、モノマー、オリゴマー、ポリマー等のいずれでもよいが、分子中に不飽和結合を含有するものが好ましい。より好ましくは、不飽和結合含有モノマーである。不飽和結合含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸類およびそのエステル化物、ビニルエステル類、アクリロニトリル類、アクリルアミド類、ハロゲン化ビニル類、スチレン類、マレイン酸やフマル酸等の重合性不飽和二塩基酸、アリルアミン、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド等のアリルアミン類、(ジ)アリルエステル類、ビニルエーテル類、ビニルピロリドン類等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0037】
上記重合性成分としては、特に、マトリックス材料(B)として用いる有機高分子化合物と同一種のものを用いると、屈折率や親和性が良好となるため好ましい。
【0038】
さらに、重合性成分として、例えば、メタクリル酸グリシジルを用いると、グラフト重合によりエポキシ基等の反応性官能基を導入することも可能であり、この場合、この官能基を用いてマトリックス材料(B)と共有結合を形成することにより、セルロース繊維とマトリックスの界面接着性を一層改善し、さらなる高物性を発現することが期待される。
【0039】
つぎに、水系でのグラフト重合の方法としては、例えば、放射線を照射し水系でラジカル重合させる方法や、重合開始剤を用い水系で重合させる方法等があげられるが、放射線を用いる場合には、その照射設備に多額の設備投資を必要とすること等から、重合開始剤を用いるほうが好ましい。
【0040】
上記重合開始剤としては、特に限定するものではないが、第二セリウム塩等のレドックス開始剤、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化水素等があげられるが、特に、第二セリウム塩等のレドックス開始剤が好ましい。
【0041】
水系でグラフト重合できれば配合順は問わないが、セルロース繊維を加えた水系成分中に、上記重合開始剤と、重合性成分を配合することにより、グラフト重合することができる。また、重合の際、脱気、窒素置換していることが好ましい。
【0042】
本発明において、水系でのグラフト重合とは、水または水を主体とするアルコール等の水系成分中でのグラフト重合をいい、好ましくは水中でのグラフト重合をいう。また、この水系成分に、水と重合開始剤や不飽和結合含有モノマーに両親媒性の溶剤を配合してもよい。繊維径がサブミクロン以下であるセルロース繊維においては、乾燥過程でその表面に水酸基同士による強力な水素結合を形成するため、乾燥工程を経ることなく水系でグラフト重合することが特に有用である。
【0043】
なお、ミクロフィブリル化処理とグラフト修飾の順番は、上記のようにミクロフィブリル化処理してグラフト修飾しても、パルプ等をグラフト修飾した後に磨砕処理等することによりミクロフィブリル化してもいずれであっても構わない。
【0044】
本発明に係るグラフト修飾されたセルロース繊維(A)のグラフト率は、5〜1000%が好ましく、5〜300%がより好ましい。
【0045】
つぎに、本発明で用いられるマトリックス材料(B)について説明する。
【0046】
[マトリックス材料(B成分)]
本発明の繊維強化複合材料に係るマトリックス材料(B)は、本発明の繊維強化複合材料の母材となる材料であり、本発明の要旨を超えない範囲であれば、特に制限されるものではないが、特に有機高分子化合物が好ましい。
【0047】
上記有機高分子化合物としては、天然高分子化合物や合成高分子化合物があげられる。天然高分子化合物としては、例えば、セロハンやトリアセチルセルロース等の再生セルロース系高分子化合物があげられる。また、合成高分子化合物としては、例えば、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂等があげられる。
【0048】
上記ビニル系樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0049】
上記重縮合系樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂等があげられる。
【0050】
さらには、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン等もあげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0051】
上記重付加系樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂等があげられる。
【0052】
上記付加縮合系樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0053】
上記開環重合系樹脂としては、例えば、ポリアルキレンオキサイド、ポリアセタール、エポキシ樹脂等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0054】
本発明において、このようなマトリックス材料(B)のうち、特に非晶質でガラス転移温度の高い合成高分子化合物が、透明性に優れた高耐久性の繊維強化複合材料を得る上で好ましく、非晶質の割合としては結晶化度で10%以下、特に5%以下が好ましい。また、ガラス転移温度は110℃以上のものが好ましい。
【0055】
より好ましくは、マトリックス材料(B)とセルロース繊維に修飾しているグラフト物は同一のものが好ましい。さらに、マトリックス材料(B)として熱可塑性樹脂を用いると、溶融混練による機械的な分散が可能となり、より均一に分散させることが可能となり、また、押出し成形や射出成形といった応用も可能となることから、より好ましい。
【0056】
[繊維強化複合材料の製造]
上述のようにして得られたグラフト修飾されたセルロース繊維(A)から、本発明のセルロース繊維強化複合材料を製造する方法としては、大別して、(I)グラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、液状のマトリックス材料に含浸または混合する方法、(II)マトリックス材料と併せて溶融混練する方法の2通りがあげられる。
【0057】
まず、上記(I)グラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、液状のマトリックス材料に含浸または混合する方法としては、具体的には、下記に示す、「1.懸濁または乳化による複合方法」、「2.含浸による複合方法」等があげられる。
【0058】
「1.懸濁または乳化による複合方法」
水系でグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、マトリックス形成材料であるモノマー類と懸濁または乳化重合し、水分を除去することにより、複合材料が得られる。また、例えば、水溶性高分子化合物等の、水に親和性のある高分子化合物をマトリックス材料として用い、マトリックス材料自体を、グラフト修飾されたセルロース繊維(A)と混合して複合することも可能である。
【0059】
「2.含浸による複合方法」
水系でグラフト修飾されたセルロース繊維(A)をろ過等により水分を除去し、ホットプレス等により乾燥させた後、マトリックス材料を形成し得るモノマー等に含浸させ硬化させることも可能である。なお、この場合であっても、水系でのグラフト重合により修飾されたグラフト物が障害となりセルロース繊維同士の凝集が抑えられる。また、グラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、マトリックス材料となる高分子材料等を溶媒等に溶解させたものに、含浸させ溶媒を除去することにより作製することも可能である。
【0060】
この液状のマトリックス材料としては、例えば、流動状のマトリックス材料、流動状のマトリックス材料の原料、マトリックス材料を流動させた流動化物、マトリックス材料の原料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の溶液、およびマトリックス材料の原料の溶液からなる群から選ばれた少なくとも1つがあげられる。そして、その含浸工程の一部または全部は、減圧条件下または加圧条件下で行うことが好ましい。
【0061】
さらに、上記製造方法1,2以外にも、下記に示す「3.グラフト物をマトリックスとする複合方法」も用いられる。
【0062】
「3.グラフト物をマトリックスとする複合方法」
グラフト修飾されたセルロース繊維(A)のグラフト物を、直接マトリックスとして用いることも可能である。例えば、水系でのグラフト重合により、熱可塑性樹脂をグラフト修飾したセルロース繊維をろ過し、乾燥させたシート化物をヒートプレスすることにより成形することも可能である。また、セルロース繊維にグラフト修飾している高分子材料が溶解し得る溶媒等を用いてグラフト物を溶解させ、溶媒を除去することにより成形することも可能である。
【0063】
一方、上記(II)マトリックス材料と併せて溶融混練する方法としては、下記に示す「4.溶融混練による複合方法」があげられる。
【0064】
「4.溶融混練による複合方法」
熱可塑性樹脂をマトリックス材料として用いる場合は、前記したグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を、ろ過や乾燥により水分除去した後、マトリックス材料と共に二軸混練機等を用いて加熱溶融混練させることにより複合化することも可能である。
【0065】
また、熱可塑性樹脂をマトリックス材料として用いる場合においては、上記「1.懸濁または乳化による複合方法」や、「2.含浸による複合方法」、「3.グラフト物をマトリックスとする複合方法」等で作製した複合物も加熱溶融させることで溶融混練させることが可能となる。
【0066】
上記のようにして本発明の繊維強化複合材料が得られ、得られた繊維強化複合材料は、物理物性の向上や、透明複合材料においては、透明性が向上するようになる。
【0067】
本発明の繊維強化複合材料における、セルロース含有率としては、1〜90重量%であることが好ましく、より好ましくは5重量%以上、70重量%以下である。このセルロース含有率におけるセルロースとは、グラフト部分を除くセルロース繊維をいう。
【0068】
本発明の繊維強化複合材料の、セルロース含有率が10〜70重量%である場合において、50μm厚の繊維強化複合材料の波長500nmにおける可視光透過率(JIS K 7361−1に準じる)が、67〜90%であることが好ましい。
【実施例】
【0069】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0070】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備または製造した。
【0071】
〔セルロースa:パルプ〕
針葉樹溶解パルプ。
【0072】
〔セルロースb:ナノMFC〕
(製造例1)
針葉樹溶解パルプ(セルロースa)を水に充分分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製する。この水懸濁液を、グラインダー(増幸産業社製:スーパーマスコロイダーMKZA10−15)に通すことによって、ナノMFCを製造する。具体的には、ほぼ接触させた状態で回転(回転数:1800rpm)するディスク間を、中央から外に向かって通過させ、その操作を20回行うことにより、ナノMFC(平均繊維径50nm)を製造する。
【0073】
〔セルロースc:バクテリアセルロース繊維(BC)〕
(製造例2)
まず、凍結乾燥状態の酢酸菌の菌株に、培養液を加え、25〜30℃の温度条件下において、1週間の静置培養を行う。つぎに、培養液表面に生じたバクテリアセルロースのうち、厚さが比較的厚いバクテリアセルロースを選択し、それを新しい培養液に加える。そして、その培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃の温度条件下で、1〜4週間の静置培養を行い、バクテリアセルロースを産出させる。
【0074】
なお、上記培養液としては、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%を混合し、塩酸によりpH5.0に調製した水溶液を用いた。
【0075】
ついで、上記産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、2重量%のアルカリ水溶液で2時間煮沸した後、バクテリアセルロースを取り出して充分に水洗することにより、アルカリ溶液およびバクテリアを溶解除去する。
【0076】
このようにして得られたバクテリアセルロースを、家庭用ミキサーで小さく解離し、バクテリアセルロース水懸濁液(固形分約1重量%)を調製する。この水懸濁液を、製造例1の方法にしたがってフィブリル化し、バクテリアセルロース繊維(BC、平均繊維径は約50nm)を製造した。
【0077】
〔グラフト修飾されたセルロース繊維:グラフト修飾パルプMFC(A成分)〕
(製造例3)
前記針葉樹溶解パルプ(セルロースa)10gを、2Lの四つ口フラスコに入れ、蒸留水990gを加えた。脱気、窒素置換した後、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるメタクリル酸メチル(MMA)1gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させた。冷却後、ろ過して、水洗およびメタノール洗浄を行い乾燥させた。また、得られたグラフト修飾パルプを、製造例1の方法にしたがってフィブリル化し、グラフト修飾パルプMFC(平均繊維径は約50nm)を製造した。
【0078】
(製造例4〜6)
また、重合性成分や、重合性成分/セルロースaの配合割合等を変えて、様々なグラフト修飾パルプMFC(A成分)を得るため、下記表1に示す重合性成分、および重合性成分/セルロース繊維a(重量比)の配合割合で、上記製造例3の方法にしたがって、製造例4〜6のグラフト修飾パルプMFCを製造した。
【0079】
上記製造例3〜6の方法により得られたグラフト修飾パルプMFC(A成分)の重量増加率、変換率、グラフト率を、下記の式(1)〜(3)の計算により求め、下記表1に併せて示す。
【0080】
(1)重量増加率(%)=グラフト後全重量/セルロース重量×100
(2)変換率(%)=グラフト後全重量/モノマー添加量×100
(3)グラフト率(%)=(グラフト後全重量−セルロース重量)/セルロース重量×100
【0081】
【表1】

【0082】
〔グラフト修飾されたセルロース繊維:グラフト修飾ナノMFC〕
(製造例7:A成分)
製造例1で得られたナノMFC(セルロースb)を水に分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製する。この調製された水懸濁液1000gを、2Lの四つ口セパラブルフラスコに入れ、脱気、窒素置換を行い、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるメタクリル酸メチル(MMA)1gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させた。冷却後、ろ過と水洗、およびメタノール洗浄を行い、60℃の温度下で、10時間減圧乾燥して、グラフト修飾ナノMFCを得た。
【0083】
(製造例8〜12:A成分)
また、重合性成分や、重合性成分/セルロースbの配合割合等を変えて、様々なグラフト修飾ナノMFC(A成分)を得るため、下記の表2に示す重合性成分、および重合性成分/セルロースb(重量比)の配合割合で、上記製造例7の方法にしたがって、製造例8〜12のグラフト修飾ナノMFCを製造した。
【0084】
(製造例13:比較例用)
製造例1で得られたナノMFC(セルロースb)を、ろ過してシート化し、0.1MPaで1分間室温にてコールドプレスして水を除去した後、120℃、2MPaで4分間ホットプレスし、乾燥ナノMFCシートを得た。得られた乾燥MFCシートを、反応液〔無水酢酸:ピリジン=1:2(体積比)〕の入ったシャーレに浸し、デシケータ内1kPaの減圧下、30分間室温で、反応液をナノMFCシート内部にまで含浸させた。その後、常圧に戻し、窒素雰囲気下で、11日間、暗所に静置し(室温)、化学修飾を行ない、比較例用の化学修飾ナノMFCを得た。
【0085】
上記製造例7〜13の方法により得られたグラフト修飾ナノMFC(A成分)の重量増加率、変換率、グラフト率を、前記式(1)〜(3)の計算により求め、下記の表2に併せて示す。
【0086】
【表2】

【0087】
〔グラフト修飾されたセルロース繊維:グラフト修飾BC(A成分)〕
(製造例14)
製造例2で得られたBC(セルロースc)を水に分散させ、固形分1重量%の水懸濁液を調製する。この調製された水懸濁液1000gを、2Lの四つ口セパラブルフラスコに入れ、脱気、窒素置換を行い、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.3gと、重合性成分であるメタクリル酸メチル(MMA)1gを加え、30℃の温度下で、4時間反応させた。冷却後、ろ過と水洗、およびメタノール洗浄を行い、60℃の温度下で、10時間減圧乾燥して、グラフト修飾BCを得た(重量増加率109%、変換率99%、グラフト率9%)。
【0088】
なお、繊維強化複合材料に用いられるセルロース繊維について、水分除去性が悪いと、水分除去のための煩雑な工程が必要となるため、生産性が低くなる。そこで、前記したセルロース繊維のうち、製造例1で得られたナノMFC、および製造例7〜10のグラフト修飾ナノMFCを用いて、下記の試験方法にしたがって、ろ過性の測定および評価をした。これらの結果を、下記の表3に示す。
【0089】
〈含水セルロース繊維のろ過性〉
セルロース繊維を、セルロース固形分換算で1g取り、水分99gを加えて、セルロース固形分1重量%水懸濁液となるように調製した。そして、得られた懸濁液を、ろ紙(JIS P 3801の1種)を敷いたロートを用いて自然ろ過し、30分後のろ液の重量(ろ水量)を測定してろ過性を評価した。
【0090】
【表3】

【0091】
上記表3の結果から、製造例1のグラフト修飾されていないナノMFCについては、ろ水量が非常に少なく、水分除去性に劣ることが分かる。これに対し、製造例7〜10のグラフト修飾されたナノMFCについては、ろ水量も多く、水分除去性に優れることが分かる。したがって、このようなグラフト修飾されたセルロース繊維を用いた繊維強化複合材料は、生産過程において、水分除去のための煩雑な工程を必要としないため、生産性に優れることが分かる。
【0092】
〔マトリックス材料a(B成分、溶媒キャスト法用)〕
・ポリメタクリル酸メチル(PMMA)。
【0093】
〔マトリックス材料b(B成分、モノマー含浸法用)〕
・2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(重合開始剤)。
・ポリメタクリル酸メチル(PMMA)。
・メタクリル酸メチル(MMA)。
【0094】
〔マトリックス材料c(B成分、懸濁重合用)〕
・2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(重合開始剤)。
・スチレンモノマー。
【0095】
上記の材料を用いて、溶媒キャスト法、モノマー含浸法、懸濁重合の3つの方法により、繊維強化複合材料を作製した。
【0096】
1.溶媒キャスト法により複合化した繊維強化複合材料
〔実施例1〕
製造例3で得られたMMAによるグラフト修飾パルプMFCを、セルロース換算で1g取り、メチルエチルケトン(MEK)10gを加えて混合し、そこにMEKに溶解させた5重量%ポリメタクリル酸メチル(PMMA、マトリックス材料a)178gを加えて均一になるまで撹拌した。得られた溶液をステンレス製の型に流し込み、30〜40℃で24時間乾燥後、80℃で2時間乾燥させて繊維強化複合材料を作製した。
【0097】
〔実施例2〜9、比較例1〜5〕
後記の表4に示す各セルロース繊維およびマトリックス材料aを、同表に示すセルロース含有率で配合し、実施例1と同様の方法で、実施例2〜9および比較例1〜5の繊維強化複合材料を作製した。なお、ここでのセルロース含有率とは、グラフト部分を除いたセルロース繊維の、繊維強化複合材料全体に対する含有率(重量%)を意味する。
【0098】
このようにして得られた実施例1〜9および比較例1〜5の各繊維強化複合材料を用い、下記の試験方法にしたがって、各種物性の測定および評価をした。これらの結果を、後記の表4に併せて示す。
【0099】
〈曲げ試験〉
曲げ試験は、JIS K 7203に規定された方法にしたがって測定した。
【0100】
〈引張試験〉
引張試験は、JIS K 7113に規定された方法にしたがって測定した。
【0101】
〈光透過率〉
透明複合材料の光透過率は、JIS K 7361−1にしたがって測定した。
【0102】
【表4】

【0103】
上記表4の結果から、実施例1〜9において、曲げ強度、曲げ弾性、引張強度および光透過率の全てにおいてバランスの取れた良好な結果が得られた。これに対し、比較例2〜4においては、セルロース含有率が同じ実施例に比べて、全ての特性に劣る結果となり、セルロース含有率が高くなるほど、実施例品の優位性が明らかとなった。また、比較例5は、非水系での化学修飾により得られたセルロース繊維を用いたものであるが、この比較例5においても、セルロース含有率が同じ実施例に比べて、曲げ強度および光透過率に劣る結果となるとともに特性のバランスの点からも劣る結果となった。なお、比較例1は、セルロース繊維を含有しないブランク樹脂であるため、光透過率に優れるものの、他の物性に劣る結果となった。
【0104】
2.モノマー含浸法により複合化した繊維強化複合材料
〔実施例10〕
製造例3で得られたMMAグラフト修飾ナノMFCに、蒸留水を加えて、セルロース換算で0.2重量%水分散体になるように調製し、ろ過によりシート状に成形した後、50℃で24時間乾燥させた。そして、得られた乾燥シート化物を、重合開始剤0.1重量%を加えたPMMA/MMA溶液(マトリックス材料b)に浸して、PMMA/MMA溶液を充分にシート化物に含浸させた。ついで、180℃で3時間加熱し硬化させて、PMMAをマトリックスとする繊維強化複合材料を作製した。なお、上記熱硬化型の重合開始剤を、紫外線硬化型の重合開始剤に代えて用い、紫外線照射により樹脂を硬化させた場合も、熱硬化した場合とほぼ同様の繊維強化複合材料が得られた。
【0105】
〔実施例11〜18、比較例6〜10〕
下記の表5に示す各セルロース繊維およびマトリックス材料bを、同表に示すセルロース含有率で配合し、実施例10と同様の方法で、実施例11〜18および比較例6〜10の繊維強化複合材料を作製した。
【0106】
このようにして得られた実施例10〜18および比較例6〜10の各繊維強化複合材料を用い、前記した曲げ試験等の試験方法にしたがって、各種物性の測定および評価をした。これらの結果を、下記の表5に併せて示す。
【0107】
【表5】

【0108】
上記表5の結果から、実施例10〜18において、曲げ強度、曲げ弾性、引張強度および光透過率の全てにおいてバランスの取れた良好な結果が得られた。これに対し、比較例7〜9においては、セルロース含有率が同じ実施例に比べて、全ての特性に劣る結果となり、セルロース含有率が高くなるほど、実施例品の優位性が明らかとなった。また、比較例10は、非水系での化学修飾により得られたセルロース繊維を用いたものであるが、この比較例10においても、セルロース含有率が同じ実施例に比べて、曲げ強度,曲げ弾性および光透過率に劣る結果となるとともに特性のバランスの点からも劣る結果となった。なお、比較例6は、セルロース繊維を含有しないブランク樹脂であるため、光透過率に優れるものの、他の物性に劣る結果となった。
【0109】
3.懸濁重合により複合化した繊維強化複合材料
〔実施例19〕
製造例5で得られたスチレングラフト修飾ナノMFCに、蒸留水を加え、セルロース換算で1重量%水懸濁液になるように調製した。この水懸濁液を脱気、窒素置換後、80℃で加熱撹拌しながら、後記の表6に示した組成比になるように、開始剤を溶解させたスチレンモノマー(マトリックス材料c)を60分間かけて滴下して重合させた。冷却後、ろ過により生成物を分離し、50℃で10時間乾燥させた。得られた乾燥物を200℃で5分間溶融混練し、200℃,50MPaで5分間熱プレスして成形、硬化させて繊維強化複合材料を作製した。
【0110】
〔実施例20〜22、比較例11,12〕
下記の表6に示す各セルロース繊維およびマトリックス材料cを、同表に示すセルロース含有率で配合し、実施例19と同様の方法で、実施例20〜22および比較例11,12の繊維強化複合材料を作製した。
【0111】
このようにして得られた実施例19〜22および比較例11,12の各繊維強化複合材料を用い、前記した試験方法にしたがって、各種物性の測定および評価をした。これらの結果を、下記の表6に併せて示す。
【0112】
【表6】

【0113】
上記表6の結果から、実施例19〜22において、曲げ強度、曲げ弾性、引張強度および光透過率の全てにおいてバランスの取れた良好な結果が得られた。これに対し、比較例12においては、セルロース含有率が同じ実施例に比べて、全ての特性に劣る結果となった。なお、比較例11は、修飾セルロース繊維を含有しないブランク樹脂であるため、光透過率に優れるものの、他の物性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の活用例として、携帯電話や家電製品の筐体材料や有機EL透明基盤、ガラス繊維代替材料等があげられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス材料(B)中にセルロース繊維(A)を含有する繊維強化複合材料であって、上記セルロース繊維(A)は、その表面が、水系における重合性成分のグラフト重合により、グラフト修飾されていることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項2】
上記セルロース繊維(A)の平均繊維径が、4〜200nmである請求項1に記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
上記マトリックス材料(B)の主成分が、熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
セルロース含有率が繊維強化複合材料全体の10〜70重量%である場合において、50μm厚の繊維強化複合材料の波長500nmにおける可視光透過率(JIS K 7361−1に準じる)が、67〜90%に設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)を液状のマトリックス材料に含浸または混合する工程とを備えたことを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維強化複合材料を製造する方法であって、セルロース繊維に重合性成分を水系でグラフト重合させることによりグラフト修飾されたセルロース繊維(A)を得る工程と、上記セルロース繊維(A)をマトリックス材料と溶融混練する工程とを備えたことを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−67817(P2009−67817A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234422(P2007−234422)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】