説明

繊維強化複合材料用樹脂組成物およびそれを用いた繊維強化複合材料

【課題】繊維方向の圧縮強度に優れた繊維強化複合材料を与えることのできる弾性率の高い樹脂組成物ならびにプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】成分(A):ベンゾオキサジン化合物および成分(B):シクロヘキセンオキサイド基を持つエポキシ樹脂またはビスフェノール型エポキシ樹脂を必須成分として含み、成分(A)と(B)の合計100質量部に対して、成分(A)の量が60〜95質量部であり、成分(B)の量が5〜40質量部である繊維強化複合材料用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用樹脂組成物および繊維強化複合材料に関する。本発明は、特に、航空機用構造材料をはじめとして、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途、その他の一般産業用途に好適な繊維強化複合材料を得るための樹脂組成物、およびプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂硬化物とからなる炭素繊維強化複合材料は、その優れた力学物性などから、航空機、自動車、産業用途に幅広く用いられている。近年、その使用実績を積むに従い、繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がってきている。かかる複合材料を構成するマトリックス樹脂には、含浸性や耐熱性に優れる熱硬化性樹脂が用いられることが多く、熱硬化性樹脂には、成形性に優れること、高温、湿潤環境(湿熱環境)にあっても高度の機械強度を発現することが必要とされる。このような熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラニン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が使用されているが、中でもエポキシ樹脂は、耐熱性、成形性に優れ、炭素繊維複合材料としたときに高度の機械強度が得られるため、幅広く使用されている。
【0003】
従来の炭素繊維強化複合材料においては、繊維方向の引張強度は良好であるが、炭素繊維は繊維状であり繊維径が極めて小さいため、繊維方向に圧縮されると繊維の座屈および/またはせん断により繊維の破壊を起こしやすく、繊維方向の圧縮強度が低いことから、圧縮強度の向上が強く望まれている。そのため、繊維の座屈および/またはせん断による繊維の破壊を抑制し圧縮強度を向上させるため、マトリックス樹脂の弾性率を向上させる試みが行われている。特許文献1には、エポキシ樹脂をマトリクッスとし圧縮系の機械特性に優れるプリプレグおよび繊維強化複合材料が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1の樹脂組成物では、いまだ繊維強化複合材料の繊維方向の圧縮強度が十分高いとは言えず、マトリックス樹脂としてさらに弾性率を向上させることが望まれている。
【0005】
一方で、特許文献2には、ベンゾオキサジン樹脂を利用したマトリックス樹脂を用いた、室温乾燥下のみならず、湿熱環境下においても高い機械強度を発現するプリプレグおよび繊維強化複合材料が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2で開示されている樹脂組成物では、180℃程度での硬化温度では硬化せず、その実施例にある通り、ルイス酸やフェノール樹脂といった硬化剤が必要であり、樹脂組成物のコストが高くなるという問題がある。更に、実施例の組成物では多量のエポキシ樹脂を含むため、ベンゾオキサジン樹脂自体が有する高い弾性率を損なうことから、室温乾燥状態で高い繊維方向の圧縮強度を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8―259713号公報
【特許文献2】特開2006−233188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、繊維方向の圧縮強度に優れた繊維強化複合材料を与えることのできる弾性率の高い樹脂組成物および強化繊維と前記樹脂組成物とからなる複合材料用プリプレグ、およびそれから得られる繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、以下の構成からなる本発明の樹脂組成物およびこの樹脂組成物と強化繊維とからなる複合材料用プリプレグ、およびそれから得られる繊維強化複合材料によって課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第一の要旨は、下記の成分(A)および(B)を必須成分として含み、成分(A)と(B)の合計100質量部に対して、成分(A)の量が60〜95質量部であり、成分(B)の量が5〜40質量部である繊維強化複合材料用樹脂組成物とその繊維強化複合材料用樹脂組成物を用いて得られるプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供することにある。
成分(A):ベンゾオキサジン化合物
成分(B):シクロヘキセンオキサイド基を持つエポキシ樹脂またはビスフェノール型エポキシ樹脂
【0011】
本発明の第二の要旨は、硬化樹脂曲げ弾性率が4.5GPaから5.5GPaである前記の繊維強化複合材料用樹脂組成物と強化繊維を用いて得られるプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性率の高い樹脂組成物が得られ、これを繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として用いることにより繊維方向の圧縮強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲内において様々な変形が可能であることを理解されたい。
【0014】
本発明に用いられる成分(A)、はベンゾオキサジン化合物である。このベンゾオキサジン化合物としては、例えば、下記の構造式3〜11で表される化合物からなる群から選ばれるものが好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。より好ましくは構造式3および構造式4で表されるベンゾオキサジン化合物であり、特に好ましくは構造式3で表されるベンゾオキサジン化合物である。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
【化8】

【0023】
【化9】

【0024】
成分(A)のベンゾオキサジン化合物は、単分子の状態にあっても良いし、数分子が重合されたオリゴマーの状態にあっても良く、また異なる構造を有する2種以上のベンゾオキサジン化合物を同時に用いても良い。
【0025】
本発明に用いられる成分(B)は、シクロヘキセンオキサイド基を持つエポキシ樹脂またはビスフェノール型エポキシ樹脂である。好ましくは、シクロヘキセンオキサイド基を持つエポキシ樹脂である。成分(B)が分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)および/または分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)であることがより好ましく、成分(B)が分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)および分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)であることがさらに好ましい。
【0026】
分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)の好ましい例としては、下記式1で表されるエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0027】
【化10】

【0028】
分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)の好ましい例としては、下記式2で表されるエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0029】
【化11】

【0030】
分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)と分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)とを用いる場合には、分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)と分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)の合計100質量部に対して分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)の量が30〜90質量部であることが好ましい。この範囲であれば、得られる樹脂組成物に高度の耐熱性と弾性率の両者を発現させることができる。
【0031】
シクロヘキセンオキサイド基を持つエポキシ樹脂としては、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート、ジエポキシリモネン、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス−(3−シクロヘキセニルメチル)修飾ε−カプロラクトン等を挙げることができる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上併用しても良い。これらの中でも、良好な耐熱性を与えることから、アリサイクリックジエポキシカルボキシレートを含むことが好ましく、良好な樹脂曲げ弾性率を与えることから、ジエポキシリモネンを含むことがより好ましい。更に好ましくはアリサイクリックジエポキシカルボキシレートとジエポキシリモネンを同時に含むものである。この中で分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)としては、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペートが挙げられ、分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)としてはジエポキシリモネン、ビニルシクロヘキセンジオキサイドが挙げられる。アリサイクリックジエポキシカルボキシレートとしては、例えば、ダイセル化学工業株式会社製のセロキサイド2021P、ハンツマン・ジャパン株式会社製のCY179などが挙げられるが、当然これらに限定されるものではない。ジエポキシリモネンとしては、例えば、ダイセル化学工業株式会社製のセロキサイド3000が挙げられるが、当然これらに限定されるものではない。
【0032】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型などを主骨格とし、両末端にグリシジルエーテル基が結合された樹脂が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂として、ジャパンエポキシレジン社製JER806、JER807、ビスフェノールA型エポキシ樹脂として、ジャパンエポキシレジン社製JER825、JER827、JER828、大日本インキ化学工業株式会社製エピクロン850Sなどが挙げられる。
【0033】
成分(A)のベンゾオキサジン化合物は、成分(B)のエポキシ樹脂と混合されてマトリックス樹脂を構成する。成分(A)のベンゾオキサジン化合物は、熱により開環反応してフェノール性水酸基を分子内に生成する。生成したフェノール性水酸基と、成分(B)エポキシ樹脂のエポキシ基が反応することにより、低吸水で、耐湿熱性に優れた硬化物を生成する。成分(A)のベンゾオキサジン化合物の開環反応を促進する化合物を必要に応じて使用しても良い。開環反応を促進する化合物としては、フェノール化合物、カルボン酸、スルホン酸等のプロトン酸、三ハロゲン化ホウ素錯体等のルイス酸、芳香族アミン、イミダゾール等のアミン化合物、トリフェニルホスフィン等を挙げることができる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上併用しても良い。
【0034】
成分(A)と成分(B)の配合量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して、成分(B)が5〜40質量部であることが好ましく、より好ましくは成分(B)が10〜30質量部である。
【0035】
複合材料用のプリプレグでは、タック性が求められることから、マトリックス樹脂は液状または半固形状であることが必要であるが、成分(B)の配合量が5質量部未満であるとタック性が不足する傾向にあり、また40質量部を超えると硬化不良となり機械特性が低下する傾向にある。
【0036】
添加剤として、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーからなる群から選ばれた1種以上の樹脂を添加することができる。この添加剤は、マトリックス樹脂組成物の靭性を向上させ、かつ、粘弾性を変化させて粘度、貯蔵弾性率およびチキソトロピー性を適正化する役割がある。添加剤として用いられる熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーまたはエラストマーは、単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、およびポリエーテルスルホンのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂の一群がより好ましく用いられ、特に好ましくは、耐熱性に優れることから、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンなどが好ましく用いられる。
【0039】
また、本発明において添加剤として用いられる熱可塑性樹脂が、熱硬化性樹脂との反応性を有する官能基を有することは、靭性向上および硬化樹脂の耐環境性維持の観点から好ましい態様である。好ましい官能基としては、カルボキシル基、アミノ基および水酸基などが挙げられる。
【0040】
本発明で用いる強化繊維には制限は無く、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維、ボロン繊維、スチール繊維などを、トウ、クロス、チョップドファイバー、マットなどの形態で使用できる。これらの強化繊維のうち、炭素繊維や黒鉛繊維は比弾性率が良好で軽量化に大きな効果が認められるので本発明には好ましい。また、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維または黒鉛繊維を用いることができるが、弾性率の高い炭素繊維を用いれば高い圧縮強度を発現できるため、引張弾性率が310GPa以上、更に好ましくは330GPa以上、より好ましくは350GPa以上の炭素繊維が好適である。
【0041】
本発明の樹脂組成物の製造方法に特段の制限はない。本発明の樹脂組成物はニーダー、プラネタリーミキサー等の一般的な撹拌加熱装置、攪拌加圧加熱装置で製造できる。
【0042】
本発明の樹脂組成物の強化繊維への含浸ならびに硬化方法に特段の制限はない。例えば、フィラメントワインディング、レジントランスファーモールディング等の一般的な含浸ならびに硬化方法が挙げられる。
【0043】
本発明のプリプレグの製造方法に特段の制限はない。例えば、ホットメルトフィルム法、ラッカー法等が挙げられる。
【0044】
本発明のプリプレグの成形方法、すなわち、本発明の繊維強化複合材料の製造方法に特段の制限はない。例えば、オートクレーブ成形法、オーブン成形法、プレス成形法、連続プレス成形法、引き抜き成形法、内圧成形法等の一般的な成形方法が適用できる。
【0045】
また、繊維強化複合材料の用途にも制限は無く、テニスラケット、ゴルフシャフトなどの汎用品に使用できるが、本発明の樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料は繊維方向の圧縮強度に優れることから、特に航空機用部品への使用に最適である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
以下の実施例および比較例においては、原材料として下記のものを用いた。
ベンゾオキサジン化合物
構造式3の構造を有するベンゾオキサジン化合物
F−a型ベンゾオキサジン:四国化成工業(株)製「F−a型ベンゾオキサジン」
構造式4の構造を有するベンゾオキサジン化合物
P−d型ベンゾオキサジン:四国化成工業(株)製「P−d型ベンゾオキサジン」
構造式5の構造を有するベンゾオキサジン化合物
B−a型ベンゾオキサジン:四国化成工業(株)製「B−a型ベンゾオキサジン」
【0048】
エポキシ樹脂
ビスフェノールF型エポキシ樹脂
JER807:ジャパンエポキシレジン(株)製「JER807」:エポキシ当量170g/eq
ビスフェノールA型エポキシ樹脂
JER828:ジャパンエポキシレジン(株)製「JER828」:エポキシ当量189g/eq
【0049】
多官能型エポキシ樹脂
JER604:ジャパンエポキシレジン(株)製「JER604」:エポキシ当量115g/eq
ELM−100:住友化学工業(株)製「ELM−100」:エポキシ当量105g/eq
【0050】
シクロヘキセンオキサイド基を有するエポキシ樹脂
セロキサイド2021P:ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド2021P」:エポキシ当量135g/eq
セロキサイド3000:ダイセル化学工業(株)製「セロキサイド3000」:エポキシ当量84g/eq
【0051】
その他の構造を有するエポキシ樹脂
NC−7300L:ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬(株)製「NC−7300L」:エポキシ当量215g/eq
GAN:ジグリシジルアニリン、日本化薬(株)製「GAN」:エポキシ当量125g/eq
Nanopox E430:ナノシリカ含有エポキシ樹脂、Nanoresin社製「Nanopox E430」:エポキシ当量275g/eq:シリカ含有量40wt%
HP7200:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC(株)製「HP7200」:エポキシ当量264g/eq
HP4032:ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC(株)製「HP4032」:エポキシ当量150g/eq
【0052】
その他の材料
硬化剤
3,3’−DDS:ジアミノジフェニルスルホン、日本合成加工(株)製「DAS」
4,4’−DDS:ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化工業(株)製「SEIKACURE−S」
【0053】
添加剤
UFP−80:溶融シリカ、電気化学工業(株)製「デンカ溶融シリカ UFP−80」
SiC:炭化珪素、(株)エネテック総研製「Fi−NITETM
PPSQ:ポリシルセスキオキサン、小西化学工業(株)製「SR−23」
熱可塑性樹脂
5003P:ポリエーテルスルホン樹脂、住友化学工業(株)製「スミカエクセル5003P」
【0054】
加熱硬化樹脂板の作製
表1に示す組成を有する樹脂組成物を2mm厚のポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス(2mm厚)の間に注入し、180℃で4時間または180℃で2時間加熱後に、200℃3時間の硬化条件で加熱硬化し、加熱硬化樹脂板を得た。
【0055】
樹脂板の曲げ弾性率の測定
得られた樹脂板を試験片(長さ60mm×幅8mm×厚み2mm)に加工し、3点曲げ冶具(圧子、サポートとも3.2mmR、サポート間距離32mm)を設置したインストロン社製万能試験機を用いて曲げ特性を測定した。荷重負荷速度を2mm/分とした。
【0056】
耐熱性の測定
得られた樹脂板を試験片(長さ55mm×幅12.5mm×厚み2mm)に加工し、TAインストルメンツ社製レオメーターARES−RDAを用いて、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で、logG’を温度に対してプロットし、logG’の平坦領域の近似直線と、G’が転移する領域の近似直線との交点から求まるガラス転移温度をG’Tgとして記録した。
【0057】
タックの評価
得られたプリプレグのタックを、指先による触感で試験し、以下の基準で評価した。
○:タック性、柔軟性ともに適度であるため扱いやすいことを示す。
△:柔軟性に欠ける、もしくはタックが弱いために扱いにくいことを示す。
×:タック性、柔軟性が非常に悪いために扱いにくいことを示す。
【0058】
樹脂担持シートの保持性の評価
簡易型ロールコーターを用いて作製したHMFを、23℃、湿度50%の環境下で、手で折り曲げた時の離型紙上でのHMFの保持性を目視で評価した。
○:柔軟性が適度であるため扱いやすいことを示す。
×:柔軟性が非常に悪いために扱いにくいことを示す。
【0059】
積層複合材の0°圧縮強度の測定
SACMA 1R−94に従い、0°圧縮強度を求めた。かかる圧縮強度を、6個の試料について測定し、その平均0°圧縮強度を求めた。
【0060】
実施例1
ベンゾオキサジン化合物とセロキサイド3000を表1の組成で秤量し、ガラスフラスコにて80℃で溶解混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を硬化させ、曲げ弾性率と耐熱性を測定した。その結果を表1に示す。
【0061】
簡易型ロールコーターを用い、離型紙片面に得られた樹脂組成物を目付78g/mで均一に塗布した樹脂担持シートを得た。得られた樹脂担持シートの保持性を評価した。その結果を表1に示す。
【0062】
得られた樹脂担持シートの樹脂塗布面上に炭素繊維A(三菱レイヨン(株)製MR50、引張強度:5400MPa、引張弾性率:290GPa)を繊維目付が145g/mになるようにドラムワインドにて巻き付けることで、炭素繊維目付145g/mで樹脂含有率35質量%の一方向プリプレグを得た。
【0063】
実施例2〜15
組成を表1に示すように変更した以外は実施例1の操作を繰り返した。結果を併せて表1に示す。
【0064】
比較例1
組成を表1に示すように変更した以外は実施例1の操作を繰り返した。結果を併せて表1に示す。
【0065】
比較例2〜7
組成を表1に示すように変更した以外は実施例1に述べた操作を繰り返して樹脂組成物を調製した。次いで、得られた樹脂組成物を上記に説明した方法で硬化させたが、得られた硬化物は非常に脆く試験片が作成できなかった。
【0066】
比較例8
JER604と5003Pを160℃で溶解させた。またJER604とJER828と3,3’−DDSを3本ロールミルで均一に分散させた。これらを80℃にて表1の組成で混合し、樹脂組成物を調製した。次いで、その後の操作を実施例1と同様に行った。結果を併せて表1に示す。
【0067】
実施例16、17、18
実施例1、11、9で得られたプリプレグを、それぞれその繊維方向を揃えて8プライ積層し、オートクレーブにて180℃で4時間、0.7MPaの圧力下に、昇温速度1.7℃/分で硬化させ、それぞれ繊維強化複合材料のパネルを得た。得られたパネルから試験片を切り出し、0°圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0068】
実施例19〜23、比較例9、10
組成を表2に示すように変更した以外は実施例16の操作を繰り返した。得られたプリプレグを、それぞれその繊維方向を揃えて8プライ積層し、オートクレーブにて180℃で2時間、0.7MPaの圧力下に、昇温速度1.7℃/分で硬化させ、それぞれ繊維強化複合材料のパネルを得た。得られたパネルから試験片を切り出し、0°圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0069】
実施例24〜27
組成をそれぞれ表2に示すように変更し、得られた樹脂担持シートの樹脂塗布面上に炭素繊維B(三菱レイヨン(株)製、引張強度:5500MPa、引張弾性率:355GPa)を繊維目付が145g/mになるようにドラムワインドにて巻き付けることで、炭素繊維目付145g/mで樹脂含有率35質量%の一方向プリプレグを得た。このプリプレグを用いたこと以外は実施例16の操作を繰り返した。結果を表2に示す。
【0070】
実施例28、比較例11
組成を表2に示すように変更した以外は実施例24の操作を繰り返した。得られたプリプレグを、それぞれその繊維方向を揃えて8プライ積層し、オートクレーブにて180℃で2時間、0.7MPaの圧力下に、昇温速度1.7℃/分で硬化させ、それぞれ繊維強化複合材料のパネルを得た。得られたパネルから試験片を切り出し、0°圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
比較例12、13
三菱レイヨン(株)製エポキシ樹脂組成物#1053Iを使用し、比較例12では繊維基材として炭素繊維Aを、比較例13では炭素繊維Bを用いた以外は実施例16の操作を繰り返した。得られたプリプレグを、それぞれその繊維方向を揃えて8プライ積層し、オートクレーブにて180℃で2時間、0.7MPaの圧力下に、昇温速度1.7℃/分で硬化させ、それぞれ繊維強化複合材料のパネルを得た。得られたパネルから試験片を切り出し、0°圧縮強度を測定した。硬化樹脂曲げ弾性率はいずれも3.2GPa、0°圧縮強度はそれぞれ1670MPa、1470MPaであった。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表1、2からわかるように、実施例1〜15でそれぞれ得られた硬化樹脂板の曲げ弾性率は高い値であり、またプリプレグのタック性も良好であった。実施例16、17〜28の繊維強化複合材料の0°圧縮強度は高い値を示した。
【0076】
一方、比較例1の樹脂組成物はプリプレグとしては不適であった。比較例2〜7の樹脂組成物は脆弱であり、繊維強化複合材料のマトリックスとしては不適であった。比較例8、9〜13からわかるように、従来の技術の範囲内の樹脂組成物はプリプレグとしては製造可能であるが、その繊維強化複合材料の0°圧縮強度は低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上詳細に説明したように、本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物は、硬化後のマトリックス自体の弾性率が高く、プリプレグとしたときに良好なタックを発現するプリプレグを与えることができる。そして、弾性率の高いマトリックスを用いることで繊維方向の圧縮強度に優れた炭素繊維複合材料を得ることが可能である。よって、本発明は産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)および(B)を必須成分として含み、成分(A)と(B)の合計100質量部に対して、成分(A)の量が60〜95質量部であり、成分(B)の量が5〜40質量部である繊維強化複合材料用樹脂組成物。
成分(A):ベンゾオキサジン化合物
成分(B):シクロヘキセンオキサイド基を持つエポキシ樹脂またはビスフェノール型エポキシ樹脂
【請求項2】
成分(B)が分子中にシクロヘキセンオキサイド基を持つエポキシ樹脂である、請求項1記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項3】
成分(B)が分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)および/または分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)である、請求項2記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項4】
成分(B)が分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)および分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)である、請求項3記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項5】
分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)と分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)の合計100質量部に対して分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)の量が30〜90質量部である、請求項4記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項6】
分子中にシクロヘキセンオキサイド基を2個持つエポキシ樹脂(B1)が下記式1で表されるエポキシ樹脂である、請求項3〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【化1】

【請求項7】
分子中にシクロヘキセンオキサイド基を1個持つエポキシ樹脂(B2)が下記式2で表されるエポキシ樹脂である、請求項3〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【化2】

【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物を強化繊維に含浸させ、硬化させて得られる繊維強化複合材料。
【請求項9】
硬化樹脂曲げ弾性率が4.5GPaから5.5GPaである請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグ。
【請求項10】
強化繊維の弾性率が350GPa以上である請求項9に記載のプリプレグ。
【請求項11】
請求項9および/または10記載のプリプレグを硬化させて得られる繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2010−13636(P2010−13636A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133475(P2009−133475)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】